湯けむりオヤジ浪漫


 

 

〜 上 〜


「シノさーん。すんませんが、お湯加減、見てみてもらえますか? 女湯、男湯、どっちも仕上がって来たとは思いますんで。」

「ありがとう。ゴローさんの腕前は信頼してますけれど、女将の仕事ですので、一応、確認させて頂きますね。」

 年の割には血色の良い、塚本五郎さん(今年64だったと思います)に、私は丁寧にお答えしました。当旅館の要である温泉のお湯加減を調整する職人、「湯守」さん。五郎さんに、もしものことがあったら、この地で80年続く老舗旅館、『望春閣』は屋台骨から揺らいでしまいます。

「今日もええ具合の湯加減ですよ。女将さんもゆっくり浸かったら、もっと美人になりますわ。」

 歯が何本か抜けた口を開けて笑いながら、ゴローさんが私のお尻を着物の上からポンっと叩きます。・・・この調子ですから、まだしばらくのうちは、ゴローさんも元気でいてくれそうです。

「まぁっ・・・。ゴローさんったら。わたくしはまだしも、若い娘たちに悪戯してはいけませんよ。今の子たちは純真なんですから。」

「シノさんだって十分若いがな・・・。まだ28だったかね? ・・それじゃ、お願いしますね。」

 もう・・・ゴローさん、あっさりとわたくしの年を言って・・・。呑気なゴローさんは離れに引っ込んで、警備員の寺脇さんと将棋の続きに戻っていきます。私は着物の袖をシワにならないように捲って手を出すと、女湯の確認から始めました。

『弁天洞温泉、望春閣』は美人の湯と謳われる源泉かけ流しの温泉が自慢です。男湯にも女湯にも、内湯と露天風呂、寝湯、うたせ湯に洞窟湯が用意されています。泉質は弱アルカリ性の炭酸水素塩泉に、硫黄分と鉄分や粘土質が入り混じっています。この辺りは地形が複雑で、異なる地層が圧縮されて隆起した火山が寄せ集まっているせいで、泉質はとても精妙で珍しいものになっているそうです。

 お湯の温度調整は五郎さん手作りの竹の筒が4本、裏山の源泉から引っ張ってあります。70℃の源泉を短い距離で引きこんでいる竹筒と、長い距離、わざと遠回りさせてお湯を20℃くらいまで冷ましながら引っ張ってくる竹筒。この筒を合流させるポイントをずらすことで、旅館のお風呂に入るお湯の温度を微妙に調整しています。

「あぁ・・・いい温度ね。・・・スキーから帰って来られたお客様も、これなら温まって頂けるわ。」

 こんこんと湧き出るお湯は、手を入れると少し熱いけれど、ゆっくりとお風呂に馴染んでいきます。吹き出し口から出て空気に触れたばかりの時は透明に近いのですが、硫黄分が分離してお湯はゆっくりと白濁していきます。そして温度が少し下がると鉄分と粘土層の成分が反応して、お湯は淡い桃色に。『弁天洞』という女神様のイメージ、そして『美人の湯』という看板にぴったりの、女性的で優美な乳白ピンクのお湯が、贅沢なかけ流しでお客様をお迎えする。疲れを癒して、心身を温めて、お客様を元気にしてさしあげる。右手をお湯に入れているだけで、私はつい、陶然とした心持ちになってしまいます・・・。

 ウッカリしていて失礼致しました。私の紹介がまだでございましたね。当旅館、弁天洞温泉・望春閣の十四代目女将を務めております、小野坂詩乃と申します。本名は「うたの」ですが、この旅館の親しい方々は、みな、「シノ」と呼んで私を盛り立ててくれております。皆様もお引き立てのほど、どうぞよろしくお願い致します。


。。。



「女将さーん。・・・シノさん。・・・やっぱり、唯香、今日は難しそうです。」

 受付で台帳に書き込みながら、今日のお客様のチェックイン予定時刻を確認していた私に、仲居リーダーの千佳ちゃんが伝えに来てくれます。唯香ちゃんの様子がよほど悪いのか、千佳ちゃんも深刻そうな表情です。目も潤ませています。

「そう・・・。昨日は大学生の団体様の後で建設会社の社員旅行もお相手してもらったのよね。千佳ちゃんも大変だったでしょ。ごめんなさいね。」

「私は大丈夫なんですが。・・・リーダーなのに私、唯香が無理しているのに気が付けませんでした。ゴメンなさい。」

「大丈夫よ。唯香ちゃんはまだ入って一年ですものね。・・・今日はゆっくり休んでもらってちょうだい。従業員用の内風呂でしっかり骨休めしてくれれば、体の中も外もすっかり良くなると思うわ。」

「はい・・・。唯香に伝えてきます。・・・では、まだお部屋の支度がありますので。」

 良い姿勢でお辞儀をして、音を立てずに歩いていく千佳ちゃん。まだ若いのに、責任感の強い、頼りになる仲居リーダーです。だけど・・・、私の顔色は、一人になると曇ってしまいます。今日は団体様が大勢入る予定になっていて、大広間での合同宴会となる予定でした。お客様の男女比率から言っても、お給仕や色々なお世話をする、若い女性の仲居さんが少ないのは致命的です。

「美津子ちゃんと恵梨ちゃん、愛奈ちゃんのお休み中に、聖良ちゃんは生理休暇、唯香ちゃんが疲労でお休みね・・・。どう考えても、女性陣が足りないわ・・・。奥の手しか、ないのかしら・・・。」

 私は困って思案をしている時は、いつも人差し指と中指を揃えて頬に当てる癖があるそうです。気がついたら今もそうしていました。決心して目を閉じた私は、両手を合わせて、温泉の神様にお許しを願いました。


。。。



「綺麗なお部屋だねーっ。ヒカルっ。偉いっ。よくぞこの旅館見つけた。」

「ホームページがあんまり立派じゃなかったから、ちょっと不安だったんだけど、この部屋で3人泊まって合計9千円って凄いバーゲンじゃない?」

「うんっ。ヒカル、でかしたっ。褒美にお茶請けをやろう。」

「って、ここのお店のサービスじゃん。巴はお茶入れてよ。」

「景色もいいよー。冬の雪山。空気も美味しー。」

「わかったから、紗季は早く窓閉めてっ。こっちでお茶請け食べなさいっ。」

 ガラガラと窓が閉まる音。OL3人旅は自分たちへのご褒美として温泉旅行を選んだといった様子です。気兼のない会話からも、仲の良さが伺えます。もしかしたら毎年、この3人で旅行をしているのかもしれませんね。

「さっきのさー。仲居さん、スタイルも良くて顔も可愛かったね・・・。」

「うん・・・。やっぱ、美人の湯とか言ってて、働いてる人が肌とかボロボロだったら、ちょっとヤじゃん。表に出る人は、キレイどころが選ばれてんのかもよ。」

「やっぱり巴もそう思う? だってさぁ・・・。」

『女将さんが超美人だったー。』

 3人の声がピッタリ揃います。襖のこちら側で様子をコソコソ伺っていたわたくしは、赤くなった頬を両手で隠してしまいました。

「薄紅色の着物がすっごく似合ってて、黒髪がキラキラしちゃってさぁ。お肌の色も白くて、私、見とれちゃった。」

「和風美人だよね。唇とかちょっとポテッとしてて、なんか・・・。ちょっとエロかったよね。」

「そうそうそうそうっ。結構若い感じだったけど、女将なんだ。あれもビジュアルで選ばれてるのかな?」

「もしからしたらさ、先代の旅館社長だったオジイチャンの愛人か何かで、そっから、のしあがって・・・、とか・・・。」


 若いOLさんのお喋りはいつまでたっても途切れる様子がありません。それに話がどうにも不穏な方向に進んでいるような気がしまして、私は辛抱出来なくなって咳払いを致しました。

「コホン・・・。失礼いたします。女将でございます。」

 賑やかな客室内がシーンと静まり返ります。私はニコやかに、何も聞いておりませんという表情を作ってから襖の前に両膝を付き、両手で襖を開きました。

「お疲れのところ、仲居に続いてお邪魔いたします。入れ代わり立ち代わり、申し訳ございません。」

「あ・・・はぁ・・・。」

 少し気まずそうなお客様方に、笑顔を崩さずに話しかけます。

「差し出がましいかもしれませんが、早い時間にお着きになったお客様に、ご案内をと思いまして。当旅館では、通常のチェックインタイムより前にお越しの女性のお客様には、美容と健康に最も効果的な入浴方法をご説明させていて頂いております。もしよろしければ、せわしないですがそのまま温泉にお越し頂いて、女将のわたくしから直接、地元の美容入浴法をご案内させて頂きますが、如何でしょうか?」

 充分にへりくだりつつ、精一杯の自信を持ってお薦めします。お客様は温泉旅行に来るにあたって、選択肢を突き付けられて悩みに来るのではなくて、心地よく流れに身を任せに来られていると思うのです。だからお客様にお任せするだけではなく、失礼のない範囲で、きちんとお薦めをさせて頂きます。

「は、はぁ・・・。」

「女将さんから直接、美の秘訣を教えてもらえるなんて・・・ラッキーじゃない?」

「じゃ、お願いします。」

 先ほどの、気まずい空気も手伝ってか、お客様たちは気押されるように、わたくしの申し出を受け入れてくれます。3人のOLさんたち。お互いに顔を見合わせている様子も、とても可愛らしい、若くて綺麗なお客様たちです。


。。。



「わぁー、とっても豪華。内風呂も檜ですか? 木の香りがとってもいいですねぇー。」

 リーダー格はヒカル様のようです。頭も良さそうな美形のお姉さん。

「露天風呂も大きぃー。打たせ湯もあるんですね。」

 巴様はクールビューティー。背も高くてモデルさんみたいです。

「白っぽいピンクッ。ネットで見た通りだっ。私、ホンモノの白い温泉入るの、初めてなんです。これまでツムラの入浴剤でしか、見たことない。」

 ムードメーカーは紗季様でしょうか? 少し幼い感じの、可愛らしい女の子。お目々のクリットした、アイドルみたいに華のある、愛嬌たっぷりのカワイ子ちゃんです。

「当旅館の自慢は、この先の洞窟風呂です。洞穴の中に一番良質なお湯がたっぷりです。まだ他のお客様が入っていない、新鮮なお湯に浸かって、体の芯からリラックス頂けますよ。」

 わたくしが皆様を先導して、洞窟風呂へ案内します。後ろを振り向かなくても、お客様がたの視線がバスタオルに包まれた、私の体の線をなぞっていることが感覚でわかります。恥ずかしいけれど、温泉宿の女将が裸のお仕事を嫌がっているわけにはいきません。女性のお客様の前なんだから、堂々とタオル一つを身に纏って、皆様をご案内致します。

「こちらです。暗いから気をつけてくださいね。」

「うわぁ〜。面白―い。」

「なんだか、神秘的な場所ですね。音の反響が凄い。」

「ヤッホー・・・・。ほんとだ、凄い響いてる。」

 若い女性のお客様たちがはしゃいでくれている。女将を務めていて、くすぐったくも誇らしい瞬間です。

「皆様、少し硫黄の匂いが籠っているかもしれませんが、今こちらで、地元の薬草で作ったお香を焚きますから、すぐに気にならなくなりますよ。お湯の中の鉄分が持つ保温効果で、皆様の体を芯から温めてくれます。弱アルカリ性のお湯はお肌にとっても優しいんです。皆様の身も心も、すぐにトロトロと溶き解してくれますよ。」

 暗い洞窟湯の中で4人の女が、肩まで浸かって温まります。私も仕事とは言え、気持ちよくって蕩けてしまいそうです。暗くてお客様たちの表情はよく見えませんが、心からリラックスして頂いていることが、気配からもわかります。

「これから、ヌルいお燗をつけた、地酒をみんなで回し飲み致しましょう。お酒が苦手な方も、一口だけでも良いので飲んでください。体を内と外から温めることで、日頃のストレスを全てお湯に溶かすことが出来るんです。これが代謝を促進して、皆様のお肌をさらに若返らせます。大丈夫、女性にも飲みやすい、甘口でフルーティな地酒です。」

 私が桶に入れてきた、お酒を大きな杯に注いで、一口飲みます。一人一口ずつ、回して飲みます。わたくしのところに杯が戻ってきたので、もう一度注いで、もう1週。こうして何周か回すと、皆様、ウットリと夢見心地です。

「キャンドルをつけますね。この洞窟風呂に最適の瞑想法があるんです。イメージトレーニングと言いましょうか・・・。皆様、今は独身だと思うのですが、何歳くらいで結婚されたいという、理想の結婚年齢はあるんですか?」

「うぅん・・・。28かな?」

「私は・・・32くらいまで、いいかな・・。」

「27。・・・去年は26って言ってて、一昨年は25って言ってたけど、今は、27でーす。」

「紗季は、いっつも自分の年に3年足してるだけじゃん・・・。」

「うふふ。皆様、お綺麗ですから、お相手には困らないでしょうね・・・。では、だいたい皆様の願望の間を取ると、30としましょうか。・・・先ほどから、洞窟風呂の天井の水滴が、等間隔で下に落ちて、ピチャーンと、音を立ていますよね。硬質な岩で洞窟が出来ていますから、高い音が良く反響しますでしょ。これを聞くたびに、30から1つずつ、数を逆に数えていきましょう。その時に思い浮かべるのは、皆様の理想の結婚相手との式の後、初夜のことです。・・・恥ずかしがらないでいいですよ。女性として愛される瞬間を明確に思い浮かべることで、ホルモンの分泌を促して、美貌に磨きがかかるんです。当旅館の仲居には、みんな実践させています。みんな、温泉街では評判のキレイどころ揃いと呼ばれているんですよ。さぁ、温かいお湯の中で、リラックスして、素敵でロマンティックな初夜のことだけを思い浮かべて、30・・・。はい、29・・・・。気持ちよーく、お湯に漂いましょう・・・。28・・・・。」

 すぐに岩の背もたれに体を預けて力を抜いていったのは、可愛い紗季様。・・・ヒカル様もじきにお湯の流れに身を預けてユーラユーラと揺蕩うようになりました。一番時間がかかったのは、巴様。16までわたくしが数えたところで、頭をガクッと落とします。

「ほーら、どんどん気持ちよくなって、深―いところへ心が沈んでいく。これはとても心地の良い流れです。貴方たちはゆーったーりとした心地よさの中に、どんどん入り込んでいく。最高のリラックス状態です。わたくしの言葉に身を任せてください。何も考えないで良いのですよ。とても気持ちいい。すべて身を任せましょう。目を閉じて、幸せな旦那様の愛撫を、お湯からも感じ取ることが出来ます。」

 39度のお湯の退行的なほどの優しくのぼせる効果。硬質な岩石に反響する、水滴の単調な音。口当たりの良く、胃腸に染み渡る熱燗のお酒。硫黄分を含む湯けむりとお香が狭い洞窟で炊かれることによる、酸素のわずかな薄まり。軽い酸欠状態と酩酊、そして視界の制限が、強力なトランス状態を生む。わたくしどもの師匠が、そう教えてくれました。ここでは、わたくしのような素人の言葉も、凄腕の催眠術師のものとなるような効果を生んで、お客様がたを恍惚の催眠状態へと誘っていくのです。

「9・・・。もう何も考えられません。すべて私の言葉に委ねましょう。・・・8・・・。ほら、私の言葉が貴方にとっての真実です。・・・7・・・。あなたの頭の中は真っ白になります・・・。6・・・。ゆっくりお湯の中から、右手が浮き上がっていきますよ。」

 チャプン・・・、チャプン・・・、ピチャ・・・・。

 3つの若い手が上がるのが、揺れるキャンドルの薄ら明かりで確認できました。

「今から、わたくしの言うことは、すべて貴方たちにとって、本当のことになります。わたくしの言うように貴方は感じて、行動をします。目が覚めた時には、私の言葉は思い出せませんが、必ず私のいう通りに考え、動くのです。よく聞いてくださいね・・・。」

 この洞窟風呂は、女の子たちを生まれ変わらせる、パワースポットのようなところです。綺麗に、美しく、瑞々しくて艶っぽく、生まれ変わらせる。例えそれが彼女たちの想像した以上の変化でも、決して抗うことの出来ない大きな力が押し寄せて、どうしようもなく変化を遂げていくのです。それが大地の裂け目から迸る、地球の激しく深遠な力なのでしょう。

「皆さん、私の今まで伝えた暗示が心の奥底まで十分に染み込んだと感じたら、ゆっくりと立ち上がりましょう。両手が紐で括られたように引っ張りあげられます。でも相変わらず心は、うっとりとするような気持ちの良いお湯の中にいますよ。」

 暗闇の洞窟のなかで、若い女性たちが両手を挙げて、フラフラと立ち上がります。女将であるわたくしは、満足してお客様たち一人ひとりの無防備で穢れのない体を、見つめながら今夜の割り振りを考えておりました。


。。。



 さきほどのOL3人組以外に、女性客様は2つのグループがいらっしゃいました。大学のゼミで親しくなった、専任講師の先生と女子大生3人。そして男性客と一緒に来られた、スノボ仲間の2人の女性。ゼミの4名様は名門お嬢様学校の方々で、仕草や受け答えにも品がございます。牧帆先生に若葉様、毬絵様、萌花様。そして2人のスノーボーダーは礼奈様と史音様。こちらは美容室で抽選に当たって、わたくしどもの宿の無料招待券を持って来られたのでした。先ほどのOLさんたちと合わせて、合計9人。全員に洞窟風呂で生まれ変わりの産湯に浸かって頂き、深い催眠状態に入って頂いた後には、わたくしの方も目の焦点が定まらないほど、湯あたりをしてしまいました。女将とは、楽な仕事ではございません。

 皆様、お風呂から上がった後は、ゆっくりとお部屋でくつろいで頂き、ご夕食の時間になると、大広間にご案内致しました。OLさん、先生と学生さん、自由な方々。皆さん、最初はお部屋での夕食を予約されていたのですが、お食事をグレードアップした上に無料にしますとお伝えすると、大広間でのお食事をご了承頂けました。仲居がお給仕する上でも、こちらの方が手間が省けます。大広間は今の女性客様9人を合わせると、総勢25人にもなる、盛況な状態です。男性客の団体様は、まだ仲居が鍋物に火を入れる前から、ビールを回して賑やかにしておられました。男性客様のほとんどが紺色の縞柄の浴衣。女性客様の多くは水色の縞柄の浴衣の上に、桜色の羽織を着ておられます。

 弁天洞温泉郷からは山を3つも超えると日本海です。新しい県道はトンネルで漁港までつながっていますから、昔ながらの深山の料理に加え、海の幸もふんだんにご提供させて頂いております。この季節は、ブリや身の引き締まったサバ。そして白海老にズワイガニも豪勢に振舞っております。そして山菜の天ぷらと猪鍋。雪の中で漬けた、歯ごたえの強いお漬物。締めには田舎風ですが風味たっぷりの蕎麦をお出ししております。元気を取り戻しに来られた年配のお客様は猪ではなく、スッポン鍋に変更される方もいらっしゃいます。山の麓は米どころで有名ですし、雪解け水は地質の滋味を含みつつも端麗ですから、お酒は自慢できるものが、地元の造り酒屋、そこかしこから、湧き出るようにして送られてきます。温泉と山海の珍味と、なみなみ注がれる名酒。殿方は、他に何か望まれますでしょうか? 他にもお望みのものがございましたら、これから、ご提供いたしましょうね。


「さてお客様、お食事中、失礼致します。本日は弁天洞温泉・望春閣へ、ようこそおいでくださいました。寒く不便なところまで足を運んでくださいましたお客様に、精一杯、日頃の都会生活からはかけ離れた、桃源郷のような楽しみをご提供させて頂きたいと思っております。」

 客室係の小松が、妙に玄人臭いトーンでマイクを使って話し始めます。伊達眼鏡に蝶ネクタイ。わかりやすい司会者です。昼はいつも、気が利かないと仲居から不評の不真面目スタッフなのに、小松さんはお酒が入ってステージで話し出すと、まるで漫談家のように滑らかに話してくれます。わたくしはいつも、感心するやら、呆れるやら・・・。

「まずは当旅館の名物、天女の舞でございます。お客様のなかにはこれを楽しみに通われている方もおられると聞きます。女将の小野坂詩乃が、地元伝統の舞踊を披露致します。」

 毎度のこととは言え、袖から舞台に出る瞬間は緊張致します。仲居が沢山いてくれる時は後ろを任せるので心強いのですが、今夜のような時は、一人で舞います。録音されている三味線と琴の音に乗せて、わたくしが深々とお辞儀をしまして、扇子を取り出し舞い始めます。若い方々には古典的な日本舞踊は少し退屈かもしれませんので、多少の演出が加わります。天女が温泉を見つけて、羽衣を脱いで湯に入る。その姿を模して、私が着物を一枚、はらりと下に落とします。今は白い肌襦袢姿。厚めで透けない生地にしておりますので、一応の品は保っていると思います。足からお湯に入る仕草を模して、襦袢の裾から右足を、膝の上くらいまで出したところで、「天女の舞」はおしまいです。お辞儀をすると、拍手をたくさん頂けました。艶と品のバランスを保つのが難しい舞ですが、女性も含めてお客様には、喜んで頂けたようです。

「当旅館、一同自慢の女将でございます。綺麗でしたでしょう。女将さん、毎度のことなのに、おみ足をチラっと出すとき、頬がポッと赤らむんです。そこがまた、色っぽいやら、可愛らしいやら。」

 小松がまた、余計なことを・・・。あとでお小言を言わせて頂きますから・・・。

「さてさてすっかり、浮世も忘れて美人女将の華麗な舞を堪能頂きましたが、温泉なんてものは実際のところ、そんな格式高いものではございません。地面掘ったらお湯が出てきたから、裸になって入ったら気持ちよかった、なんてもんで、堅苦しいものではないので、ここからはぐっとリラックスして、楽しいショータイムと参りましょう。お次の演目はこちら。・・・ジャン。『摩訶不思議、催眠術ショー』でございます。」

 勝手を知っている常連の男性客は、先ほどの拍手よりもさらに熱のこもった拍手を送ります。女性客様は・・、多少戸惑っているように、顔を見合わせながら、形だけ拍手をしておられるようです。

「温泉であったまって、体のコリをほぐしたら、今度は心もしっかり解きほぐして御覧に入れます。改めまして私、催眠術師の小松です。さあ、椅子の準備も出来たようです。今日、初めてこの旅館に来られたというお客様は是非、こちらの舞台にお上がりください。心のデトックスと美容に効きますから、出来れば女性優先。レディーファーストでお願いしますね。」

 拍手が続きます。困惑しながらも、女性客がゆっくりと、お互いの顔を見合わせながら、舞台に上がってきてくれます。特にお嬢様女子大生と若い先生のグループなどは、怪訝な顔、心配な顔で、迷いつつ一歩ずつ進んでくるので時間がかかります。お風呂上りの薄化粧で浴衣姿の若い女性が、躊躇いがちにステージに上がっていくのを、男性客たちが拍手で迎えています。

 少し可哀想にも思いますが、抵抗しても無駄なんです。さっき洞窟湯でわたくしが、じっくりと深層意識に暗示を刷り込んでいますから、意識の表面では、お酒の席で人前に立つことに躊躇っていても、ステージに招かれたら、誘導通りに上がらずにはいられません。彼女たちの表層意識の中では、わたくしの言葉は一言一句思い出せません。しかし心の底で、後催眠暗示が発動したら、必ず言われた通りになってしまうのです。当旅館洞窟湯での催眠施術は、普通の催眠療法とは桁が違うほど強力に働きますから、女性客の皆様は9人。気がつけば全員が、舞台上のパイプ椅子に腰をかけてしまっています。隣同士、囁いて何かを相談している方々も、小松に促されると、言われるがままに両手を体の前で伸ばして組んで、小松の顔を見上げます。その目を見ると、皆さん、もうすでに深い催眠状態にあるようです。実際のところ、小松の催眠誘導は、演出上のお飾りのようなものでございます。

「はい皆さんそのまま腕をピンッと伸ばしてその両手をギューッと強く組んでください。そして私の目を見てくださいね。今から私が言葉にすることは、皆さんにとって必ず本当になります。」

 小松がここで伊達眼鏡を外します。声のトーンもぐっと低く深く、力強い喋り方に変えます。別に眼鏡を外すことで、目からビームが出るわけでも、眼力が増すわけでもございませんが、ギャップを作ると、なかなか効果的な演出になるようです。

「私が数を3つ逆に数えると、貴方の両手はピッタリくっついて、離れなくなります。3、2、1。ハイッ。もう貴方の手はくっついた。どれだけ力を入れても、絶対に離れないっ。」

「えっ。ウソー。なんで?」

「すごーい。・・・ほんとじゃんっ。」

 美容院で当旅館の招待券を当てた、スノボに来られたお客様が、大きなリアクションをしてくださいます。アクティブな方々は反応も鮮明で、ステージパフォーマンスをする上ではとても助かります。軽いノリを見込んで、彼女たちも洞窟湯にご案内して正解でした。

「ほら、全然離れない。・・・私が解かないと、一生このままかもしれない。」

 困った顔で両手を組んでいた女子大生が、小松に脅されて、泣きそうな顔になります。あの子は確か、毬絵ちゃん。横でまだ真剣に自分の腕と格闘しているのは真面目な若葉ちゃん。お隣の萌花ちゃんは甘えん坊さんでしょうか、早くもへの字口で小松が助けに来るのを視線で求めています。3人を守るように話しかけている牧帆先生は責任感が強そうですが、自分自身の腕もピンッと伸ばしたまま、1ミリも離せずにいます。この学生さんグループはいつ見ても、可愛らしい様子です。

「私が一人ずつ、肩をポーンと叩くと腕の力が少し緩みます。その隙に私が貴方の手を包み込んで。『外れる』と言います。するとやっと、両手は離れて力が完全に抜けますよ。ダラーンと腕を楽にしましょう。はい、外れる。はい、貴方も外れる。」

 一言「全員外れる」と言うだけでも良いのですが、ここは丁寧に小松が催眠術師であるということを皆さんの心に印象深く刻み込んでもらうためのステップを踏みます。小松の言う通りに自分の体は操られるということを、個人の体験としてはっきり体感してもらうことが、この次のステップにも役立ちます。女性は男性と比べると、知らない人からのボディタッチを警戒します。しかしその警戒をうまくかいくぐると、逆にボディタッチを許した自分自身を自己肯定するために、相手への信頼感を無意識の内にも高めてしまいます。「固まってしまった腕を、戻してあげる」という口実のもとに、肩や手の甲を触って、一人ずつ解いていくのは、そのためです。全員、腕が外れて楽になったことに安堵の表情を浮かべています。先ほどまでの、不本意に舞台に上げられた不安感は、あっけなく消えてしまっています。

『ショーに参加しながら楽しみます』という、わたくしの暗示のおかげもありますでしょうか?

「さぁて皆さん、腕の力が抜けてダラーンと楽になりましたね。このまま皆さんの全身も脱力しちゃいましょう。瞼なんか頑張って開いている必要もないですよ。目も閉じてラクーに寝ちゃっていいんです。必ずそうなりますよ。3、2、1。ほら眠ってー。」

 頭がガクン、ガクンと前や横に落ちそうになります。女の子たちは全員、小松の言葉通り、いとも簡単にステージ上で眠りに落ちてしまいました。

「はい私が1人ずつ、背中を揺らして円を描くように貴方の上半身を動かすと、動きはひとりでに続いていきますよ。ホラ、ホラ、ホラ、ホーラ。そして、貴方の上半身が1回転するたびに、貴方はもっとふかーい、催眠状態に入っていく。頭の中は空っぽになる。私の言う言葉を頭に響かせ、心で受け入れていく。他のことはもう、何にも気にならない。気持ちいーぃ状態。私の話すことをその通り、鮮やかに思い浮かべましょう。するとそれは現実になります。貴方にとって、完全な真実になるのです。わかりましたね。」

 上半身をゆっくりと、柔軟体操をするように回していく9人の女性客。若葉ちゃんは揺れながらも小松に問いかけられると頷いてみせます。とても素直なお嬢様。隣の萌花ちゃんは完全に深いトランス状態のようで、頭が大きく揺れるたびに、ゆるフワにウェーブのかかった髪が振り乱れるのも、一切気にならないようです。OLさんたちを見ると、ヒカルちゃんと紗季ちゃんが口を開けて眠っています。やはりお勤めの方は疲れが溜まっているのでしょう。美貌が少し緩んでしまっていますが、この、心底リラックスしているという表情は、見ていてこちらも癒される気持ちです。こう言うと変に思われるかもしれませんが、わたくしはこの、女の子たちが深い催眠状態に陥って脱力しきって眠っている時の様子を見るのが、好きです。口を開けて寝ている子、眉をひそめ、困ったような顔で眠る子、体の回転が止まると、巴ちゃんは隣の紗季ちゃんの腕にしがみつくように眠ります。クールな美人に見えて、意外と本質は甘えん坊なのでしょうか。牧帆先生は俯くように眠るかと思いきや、顔を上げて椅子の背もたれに体を預けています。もっとも自然体で、もっとも無防備な瞬間。彼女たち自身もよくわかっていない、一番自然体で無防備な姿を見せてくれているのです。



 小松の催眠術ショーは初めは舞台上が暑くなったり、寒くなったりという基礎的な暗示から、悲しくなったり、おかしくて仕方がなくなったりという、感情の操作へ移ります。

「ほらほら皆さん、もう笑えて笑えて仕方がない。私が何を言っても、どんな動きをしても、抱腹絶倒の大爆笑だ。」

 スノボのお客さんたちは、手を叩き、足をドタドタしながら笑っています。両手で口を隠してクスクスしていたお嬢様女子大生たちだって、小松が「ガチョーン」とおどけたポーズを取って滑稽な声を出すと、世代のギャップさえも乗り越えて、顔を赤くして大笑いに変わります。ヒカルちゃんと紗季ちゃんはさっきより大きく口を開けて、目を「ハの字」にして笑い転げています。その間にいる巴ちゃん。クールビューティーな雰囲気だったのですが、涙を零して爆笑しています。笑いすぎて、少し苦しそうな皆さんですが、とにかく笑顔が一番、ですよね。

 小松は若い女の子たちにウケているのが嬉しいのか、いつもここでやりすぎるので、気を揉んでいました。けれど今回は牧帆先生が酸欠になりそうな状態だったのを見て、小松も懐かしの一発ギャグシリーズを早めに打ち切りました。

「今度は皆さんの目の前に、綺麗な綺麗な蝶々が飛んできますよ。ほら・・・、あ、もう少しで、捕まえられそう。あらっ、逃げちゃう。ここは暖かくて景色のいい、野原。皆さんはピクニックに来ていますよ。」

 目を開けているけれど、そこにないものを見ている。いつも催眠術にかかっている人の目は、不思議な感じです。でもそれぞれが思い描いた綺麗な蝶々を手を伸ばして追う様子は、みんな少女に帰ったように牧歌的です。

「野原で遊びたいところですが、急に動き出して体がびっくりしないように、皆でラジオ体操をしましょう。」

 宴会場に快活なピアノの音が響きます。昔は大衆演劇の巡業なども入れていましたので、音響設備はしっかりとしたものを使っております。小松に促されて、女性陣がユラユラと立ち上がって、隣同士の距離を開けます。

「腕を前から上にあげて、大きく背伸びの運動から・・・1、2、3、4・・・」

 聞きなれたアナウンスとピアノの伴奏を聞きながら、女の子たちが真面目な顔でラジオ体操を始めます。さすがに若葉ちゃん、萌花ちゃん、毬絵ちゃんの、女子大生トリオは、最近まで女子高校生としてラジオ体操をしていたのか、動きに迷いがありません。逆にスノボギャルの礼奈ちゃん史音ちゃんは、動きがうろ覚え。学校で真面目に体操していなかったのでしょうか?

「あれ? ・・・この曲、こんなに早かったっけ?」

 小松の声に合わせるように、体操の伴奏とアナウンスの音源が倍速で再生され始めます。

「みんな、頑張って曲に置いて行かれないように体操してっ。」

 小松の言葉通り、女の子たちが速いテンポで体操をしていきます。曲は3倍速、4倍速になると、音の高さが上がったように感じられます。昔のビデオを早送りにした時のように、チャカチャカと体を必死に動かして体操する女の子たち。OLの紗季ちゃんは運動が得意でないのか、すでに泣きそうな顔で手足をブンブン動かしています。汗が飛び散るほど、激しい動きになってきました。そろそろ、みんな辛そうです・・・。当旅館の催眠術の虜になってはいても、お客様には違いありませんので、私はいつも心配をしてしまうのです。

「はい、体操終了―。・・・準備体操のつもりが、もうグッタリ、疲れちゃいましたね〜。でも、そんな皆さんに朗報です。疲れを癒す、温泉がこのすぐ近くにあるんです。ほら、脱衣所まで来ました。ここは景色もいい露天風呂。タオルを付けたまま入ってもいいところみたいですよ。ホラ、羽織と浴衣を脱いじゃって、このバスタオル使ってお風呂入っちゃいましょう。」

 脱衣所にいると思っている女の子たちが、羽織の結び紐に手をかけて解いていきます。羽織を脱ぐと、浴衣にも手が伸びる。大広間の男性客様がたの息をのむ音が聞こえてきそうです。会場の気温が少し上がったような気すらします。これまで美味しいお料理やお酒に手をつけながらご覧になっていらっしゃったお客様も、思わず手が止まり、ステージ上に釘付けになっておられます。

 浴衣の裾を捲って脱いでいった女の子から、椅子に置かれたバスタオルを体に巻いていきます。その間、10秒ほど、女の子のプライベートな下着姿が大広間に晒されます。テキパキとした社会人。OL3人はもう、バスタオルを体に巻いて、短時間見えた高級そうなランジェリーも、今は肩にかかるブラジャーのストラップしか見えません。牧帆先生の下着は大人だけど意外と素っ気ない、実用重視のブラとショーツ。マイペースに浴衣を脱いでいく礼奈ちゃんと史音ちゃんは、ちょっと派手な色遣いの柄付きブラとショーツ。史音ちゃんはTバックに近い、ショーツです。礼奈ちゃんはふざけて、バスタオルを巻いた後で、また史音ちゃんに見せるようにして御開帳。女友達同士のふざけ合いのようですが、ここにはいないはずの20名近い男性客にはサービスショットの追加になってしまいました。少しもたもたしているのが、お嬢様女子大生トリオ。沢山の見知らぬ人の前で肌を晒すのは、同性であっても慣れていないのでしょうか。

「さっき体操のピッチが速すぎて、もう汗で体中ベトベトだ。早くお風呂に入りたい。そうじゃないと不潔でしょうがない。」

 小松が一言つけくわえるだけで、お嬢様たちは大慌てで浴衣を脱ぎ捨てる。女の子は男性以上に綺麗好きなので、この感覚に触れるような暗示は大きな強制力を持ちます。小松は不真面目なようでいて、わたくしの教えをしっかり覚えていたようです。脱ぎ捨てる、といった表現が正しいくらい、急いで浴衣を払いのけた女子大生3人組は、3人とも白を基調にした、清純なインナーを着ています。萌花ちゃんだけが、淡いパステル調の変化のあるデザインですが、みんな清楚な印象そのままの、育ちの良さそうな下着姿でした。観客の皆さんはもっと先の露出を期待していると思うのですが、ここは一旦焦らすように、みんなにタオルで身を隠してもらいます。でもこのバスタオル姿だって、9人の美女、美少女が並ぶと圧巻でございます。

「さて、待ちに待った温泉です。目の前に気持ち良さそーぅな露天風呂が、たっぷりとお湯をためて貴方を待っています。ちょうどいいお湯加減ですよ。さぁ、入ってみましょう。」

 手でお湯をすくうような仕草をする子、片足を上げて、早速入っていく子。そして先にかけ湯をして、腰回りを洗うような動きをする子。それぞれです。今回はバスタオルを巻いたままで別嬪揃いがお湯に入っている動きをしているので、まるでテレビの温泉番組を見ているようです。

「みんな気持ちいいですねぇー。最高に開放的なお風呂。汗も洗い流せて、体もあったまって、気分はスーパーリラックス。親しい友達同士だけですから、安心して記念写真をとりましょう。ハイ、チーズ。」

 パシャリと記念撮影。みんなVサインや可愛らしいポーズと、楽しそうな笑顔でデジカメのメモリーの中に納まります。

「みんないい気分ですねー。湯加減はどうですか?」

「あ・・、丁度いいです。」

 マイクを向けられた巴ちゃんが、小松に笑顔で答えます。ステージ上、パイプ椅子の前に寝そべったり座り込んだり、しゃがんだりしている9人の若い女性は、小松がマイクを向けると笑顔で答えます。この状況、よくよく考えると現実ではありえないのですが、彼女たちが各自、勝手な解釈でこの状況を普通と認識しているようです。催眠状態にある人たちの考えの柔軟性には、いつもこちらが驚かされてしまいます。今のところ皆さんの催眠レベルはとても深いところまで行っているように見えますが、小松はもう一つ、テストをするようです。

「え・・・本当に皆さん、湯加減、丁度いいですか? ・・・おかしいな。だってよく確かめてください。これ、お湯じゃなくて水です。貴方が入っているのは水風呂ですよ。」

「ヒャッ、なんでっ。」

「冷たーーーーーいっ。何これっ。」

「あーーんっ。」

 女の子たちが一斉に悲鳴を上げながら、慌ててその場を離れます。椅子に上ってしゃがんで震える子もいます。半分くらいの女の子は、バスタオルもはだけて、水風呂から慌てて上がる。タオルがハラりと落ちて下着姿が晒される瞬間は、オジサマたちにとっては眼福だと思います。

「はいはいはい、大丈夫。水風呂かと思ったのは気のせいです。ちゃんとあったかいお湯ですよ。もう一度入って大丈夫です。はい、戻ってー。今あなたは露天のお風呂に一人っきり。ここの温泉は珍しくって、水着着用可なんです。だから皆さんも、ちょっと下着っぽいデザインのビキニを着て入っていますよね。そのビキニとお肌が擦れる部分が、なんだかちょっとムズムズしてきます。・・・どうしてだろう・・・。ちょっとなんだか、変な気分。ムラムラ、ムラムラしてきちゃった。」

 女の子たちの表情が変わります。舞台の上で、少し体を縮こめるようにして体操座りになる子、逆にしゃがんでいた状態から少し腰を浮かして、周りをキョロキョロと確認する子。みんな、少し困ったような顔で、息遣いだけを荒くしています。

「あっ・・・そっか。ここの立て札が倒れてたんだ。・・・どれどれ・・。なるほど。ここは『オナニの湯』だそうです。効能は血流が促進されて、体がエッチな刺激に敏感になって、とても感じやすくなります。そして精神的にも溜まっていた欲求が解放されて、自分を慰めたくなります。誰でも我慢できないほどオナニーしたくなるお湯ですので、気兼ねなく、自分を触って頂いて大丈夫です。って、ずいぶんおおらかな温泉なんですね。」

「んっ・・・んんっ・・・。」

 最初に声を漏らしたのは、なんと真面目な雰囲気の牧帆先生でした。ブラジャーの上から、胸を左手で掴んでいます。右手は・・・もうショーツの中でゴソゴソ動き始めています。

「あれっ。あなた先生でしたよね。・・・生徒さんが近くに・・・。」

 小松が弄ぶと、牧帆先生は目にも止まらないほどの勢いで両手を下着から離すと、周りを慌てて見回します。

「生徒さんが近くに・・・、いませんでしたね。貴方は一人っきりでオナニの湯にいるんです。今、焦らされた分、エッチな気分も倍になって返ってきました。どうぞ、遠慮なく、はじめちゃってください。他の皆さんも・・・皆さんじゃないか、一人っきりの貴方。いつもやってる感じでオナニーしちゃいましょうか。気持ち良さはいつも以上ですよ。声もいつもより大きく出しちゃっていいですから。なんってったって、オナニの湯なんですから、これが当たり前なんです。」

 一人、また一人と、ショーツに手を入れてモゾモゾし始めます。四つん這いになって弄っていく子。しゃがんで両足を「Mの字」に開いて両手を股間に持っていく子。みんな、様々です。誰にも見せない、一番プライベートな瞬間を、見知らぬ殿方たちに曝け出してしまっています。可哀想なのですが、後から綺麗さっぱり忘れてもらいますので、許してくださいね・・・。

 毬絵ちゃんも萌花ちゃんも、遠慮がちだけど可愛らしいオナニーを見せてくれているなか、若葉ちゃんだけは泣きべそをかくような顔で、俯いています。時々、手が体に伸びるのだけど、すぐに引っ込めています。

「若葉ちゃんでしたよね・・・。えっと女子大生の・・。貴方、どうかしましたか? いつものように、オナニーしちゃって良いんですよ。」

「あ・・・の・・・、私・・・。いつも・・・は、・・・しないから・・。」

 珍しい回答に、どよめくオジサマもいます。

「若葉ちゃん、全然オナニーしたことないの?」

 小松のデリカシーゼロの質問。若葉ちゃんは生真面目に、向けられたマイクに顔を向けて答えてくれます。

「一度、お熱がある時に、しちゃったことがあって、凄く後悔しました。神様にも、いっぱい謝りました。」

 神様・・という言葉で気がつきました。若葉ちゃんたちが通うお嬢様女子大は、小、中、高も一貫教育のシステムがある、ミッション系の私大だったはずです。もしかしたら若葉ちゃんは厳格なカソリックの教えを、ご家庭でも受けてきて、自分を慰める行為を、罪だと思っているのでしょうか?

 小松も同じことを想像したようで、若葉ちゃんに優しく話しかけます。

「お嬢ちゃん、とっても真面目な子なんだね。でも、ここの立て札見てよ。ここはオナニの湯。入ったら、オナニーするのが当たり前。ここでするのは、神様だって許してくれるんだよ。」

 小松が手に木の板を持っているような演技をして、若葉ちゃんに差し出すと、可愛らしいお嬢様は、目を丸くして立札に顔を近づけます。

「ここでオナニーすることは神様も認めています。っていうかむしろ喜んでくれます。ジャスト・ドゥー・イット、by神様・・・。ちゃんと書いてあるでしょ。サインまである。これ、神様直筆じゃない?」

「本当・・・。凄い・・・こんなこと・・・。」

 真剣に受け止めているお嬢様は、ありがたそうに顔の前で十字を切って、両手を組んで拝んでいます。小松のワルノリまでも、催眠状態のせいで全部受け入れてしまっているのです。

 小松は若葉ちゃんの耳元で何か囁きます。若葉ちゃんは真剣な顔つきで頷いて背中に両手を回します。その間、オナニー中の女の子たちの間を抜けて、小松がステージの前にパイプ椅子を一脚持って、歩いていきます。

「今日来たお客さんたちはラッキーですよ。これから、可憐な美少女が初めて最後までするオナニーを、間近ではっきりご覧頂きましょう。若葉ちゃん、ビキニを脱いじゃったら、オナニ湯の中を通ってこちらにおいで。ここに座りやすい岩があって、ちょうどいいよ。」

「・・・はい・・・。」

 拍手の嵐の中で、清楚で真面目な令嬢が、おそらく初めて生まれたままの姿を人前に晒して、出てきます。小ぶりなオッパイとスレンダーな体。まだ少女のようなスタイル。肌が若さを物語っています。スースーする下半身や無防備な胸を気にしながら、赤面した若葉ちゃんが前に出ます。小松が妙に優しくなれなれしく、美少女をパイプ椅子の座面にしゃがませて、背中を支えるようにしながら耳元で色々と囁きます。エッチな衝動と欲求不満。そこに神様への罪だという意識の重しが取れた若葉ちゃんは、言われるがままに膝を割って大きく開いて、可憐な股間のすぼまりを両手でゆっくりと開いていきます。しゃぶしゃぶ用のお肉にサシが入ったような色合いの、薄く赤い粘膜を、若葉ちゃんは呼吸を荒げてあごを上に向けながら左右に伸ばします。そして指で、押しつけるように捏ねくるように、クリトリスの半分露出した頭を、弄り始めました。

「あっ・・・、はぁ・・・・っ・・・・ふぁあっ・・・。」

 解き放たれたかのように、オナニーに没頭し始める深窓のご令嬢。背中をのけぞって、快感に喘いでいます。

「若葉ちゃんも、他の女の子も、みんなイキそうになっても我慢しながらオナニーを続けましょう。イキそうでイキそうでつらい時は、激しい喘ぎ声を出しちゃって良いんですよ。この湯の効能のせいで、私の合図があるまで、みんなイケません。イク寸前の状態で、さらにオナニーをエスカレートさせるだけです。」

 そろそろ感極まってきそうだったスノボギャルズも、OLさんたちも声を裏返らせて喘いでいます。・・・若い男性スタッフは「アヘ声」と呼んでいました。今はそのように表現するのが普通なのでしょうか? みんながそれぞれの音程で、喘いで悶えてひっくり返っています。すでにほとんどの女性のショーツはベットリ濡れそぼってしまっていました。

「くっ・・・あぁああはぁあ、ふぁあああんっ。」

 赤ちゃんが泣くように、自由になんの気兼ねもなく、清楚な若葉ちゃんが感じ入っています。手は親指でクリトリスを責めるだけではなくて、人差し指と中指が女の子の割れ目の内側をさするように動かされています。左手は小ぶりのオッパイを手のひらで揉みまわしながら乳首を摘まんでいます。小松はこうしたコーチングは抜群に上手なのに、どうして普段の仕事は飽きっぽくて詰めが甘いのでしょうか?

 ショーツが伸びてしまうほど手を激しく動かして、悶え狂う美女たち。その姿を、カメラ担当の藤木が一枚ずつ、撮影していきます。

「みんな、もうすぐイキそうな様子ですね。・・・それではお客様、彼女たちを解放する、掛け声をお願いします。女の子たちは、どこかから男の人たちの声で『ドーン』と聞こえると、やっと行くことが出来ますよ。脳味噌が吹き飛ぶほど激しいエクスタシーで、身も心も天国です。アソコからはラブジュース、ドッパーです。ではお客さん、わかりましたね。大きな声でみんなをイカせてあげてください。せーーーーーのっ。」

「ドーーーーン」

「あっ・・・・イッッッックーーーーーーゥウウウウッ。」

「ヤァアアアアアアアンッ。」

 多少前後にズレはありましたが、男性客様がたの掛け声が、一応揃って大広間に響き渡りました。女の子たちはのけぞってみんな、甲高い歓喜の声を断続的にあげます。ショーツの生地越しに、潮をジュブジュブと噴き出している子もいます。気持ちが良すぎて、泣いている子、放心している子、みんなそれぞれが、女に生まれた喜びを噛みしめているのです。センターの若葉ちゃんは、ブリッジするほど背中を弓なりにさせて、潮をステージ下まで飛ばしています。多分、人生初の潮噴き、そしてオルガスムスです。


「他に腰の抜けちゃった子はいませんか? みんな、大丈夫だったらゆっくり椅子に戻りましょう。」

 小松の言葉に誘導されて、やっとみんなヨロヨロと立ち上がって椅子に戻っていきます。ショーツがグショグショに濡れている子は、膝の内側を擦り合わせるように、内股で歩いています。

「皆さん、浴衣をもう一度受け取ってくださいね。適当に体に引っ掛けておいてもらえれば、大丈夫と思いますよ。これから皆さんはとっても楽しくてスッキリとした気持ちで、目が覚めます。お尻は椅子にガッチリと貼りついたままですが、皆さんはそれを意識することはありません。座ったままで、意識が元に戻ってきますよ。楽しい宴会の再開です。」

 ステージの後ろに上からゆっくりと、白いスクリーンが降りてきます。プロジェクターの準備も若い男の子のスタッフがしてくれます。デジカメとつないだPCをプロジェクターですぐ写すというのは、とてもわたくしなどには出来ない、デジタル世代ならではの早業演出です。

「はい、皆さん。お目覚めの時間ですよー。スッキリとしたいい気持ち。ね、心になんのわだかまりも引っかかりもない、爽やかな感じでしょ? ・・・どうしてでしょうかねぇ? 何か、気持ちいいことでも、あったのでしょうか?」

 女の子たちは素直に同意して頷いている子や、何が起きたのか不思議そうに首を傾げている子。その様子を見て、全てを見守ってきた観客たちはクスクスと笑っています。

「あれ? ・・・皆さん、楽しかったピクニックと温泉巡り、覚えていませんか? ・・・ほら、記念写真も撮ったでしょ?」

 女の子はますます不思議そうに、首を傾げています。友達同士、顔を見合わせながらよくわからないという顔をする美女たち。その後ろのスクリーンには、全員がステージ上に寝そべって、バスタオルを体に巻いてピースサインや可愛いポーズを決める、楽し気な記念写真が大写しになっています。観客の笑い声は含み笑いから、大笑いに転じていました。

「覚えてるでしょ? ほら、後ろ見てみてよ。・・ほら、みんな、楽しそうじゃない。」

「えぇーーっ。ナニこれっ。」

「やだーっ、なんで?」

 女の子たちが恥ずかしそうに悲鳴を上げます。それでもまだこれは照れ笑いのような、若干の余裕を感じさせる慌てっぷりです。ここから写真がさらに1枚1枚、スライドしていきます。全員写真の次は、向かって左端に座るヒカルちゃんが大写しになっています。しかも、今度はバスタオルに包まれてはいません。水色の高そうな下着姿になって、手をそのランジェリーの中に突っ込んでいます。明らかに1人でエッチをしている様子です。

「ヒーーッ。止めてください。・・・・消してっ。私、こんなこと、してないっ。」

 次の写真に写ると、ヒカルちゃんは紅潮した顔をしかめて、上を向いて胸を突き出しています。エクスタシーの瞬間の表情を、はっきり撮られてしまっていました。

「ヤダーーーーッ。やめてーーーー。」

 ヒカルちゃんは頭を抱えて足をドタバタさせながら、身を捩ります。

「わっ・・・。やめなさいっ。見るなっ。」

 勝ち気で落ち着いた雰囲気の巴ちゃんも、自分のあられもないオナニー姿が映し出されると、すましてはいられません。両腕を伸ばして、まるで飛行機の誘導でもしているように大きく手を振っています。とっさに、スクリーンに映る画を、? き消そうとでもしているのでしょうか?

「ムリムリ無理っ。ゴメンなさいっ。消してくださいっ。」

 紗季ちゃんも、自分のオナニー姿が映し出されると、懇願するように謝っています。写真の紗季ちゃんは、気持ちいいからか、うっすら笑っています。両手をショーツに入れてニタニタしている自分の姿を見せられると、何かに対して謝りたくなってしまったようです。

「ウソーォォオオッ。これは・・・嘘ですっ。見ないでくださいっ。」

 真面目な牧帆先生が一番乱れていました。ショーツの上から指で弄っているのですが、大切な部分のシルエットが、くっきりとショーツ越しに浮かび上がるほど、下着は濡れてしまっています。ブラジャーは乱暴に引っ張られて、下から乳首が顔を出してしまっていました。手の部分がブレてしまっているところからも、動きの激しさが見てとれます。歯を食いしばって自慰行為に励む先生の姿は、獣のようですらあります。

「じゃー、時間の都合もありますから、ここからはパパパッと行きましょうか。ホレ、ホレ、ホイ、ホイ、ホイ、ホイッ。」

 ここは小松の好判断だったと思います。お嬢様女子大生たちには、自分の恥ずかしい姿を大写しにされるのは刺激が強すぎたと思いますし。なにより若葉ちゃんの全裸オルガスム姿は、本人にじっくり見せていたら、失神されてしまっていたことでしょう。

 ギャー、ヒー、ダメー、イヤー・・・。一瞬だけ自分の姿が映し出されても、本人はハッキリとわかるようで、みんな次々と自分の顔を手で覆ったり、泣きそうな顔になったり、縮こまるように身を隠したり。全員、体に浴衣を辛うじて引っかけたような下着姿なので、スクリーンに映る自分の姿とはそれほど今の格好も変わらないのですが、そのことにすら気が付いていません。

「はい、皆さん落ち着いてー。椅子に座ったまま、深ーい眠りにつきましょう。3、2、1、はい眠ってー。・・・落ち着いたら、浴衣をきちんと来ましょうか。」

 まだショーツのクロッチ部分にシミを作ったままで、一度女の子たちが目を閉じて椅子に体を預けます。そのあと、小松の言葉のままに、うっすらと目を開けて浴衣を着なおし始めました。帯をシュルシュルと締めていく子、ゆっくり丁寧に結んでいる子。わたくしなぞは、こうした女の子たちの何気ない服の着用シーンも、脱衣シーンに負けず劣らず無防備で色っぽいと思うのですが、殿方はどう思われますでしょうか?

「皆さん、浴衣を綺麗に来てもらったばかりで申し訳ないのですが、これから皆さんが目を覚ました後でも、ある合図があると、皆さんは変わってしまいます。それを今から説明しますね。・・・音楽お願いします。・・・いいですか? 皆さん。この曲をよーく聞いておいてください。皆さんは目が覚めた後でこの曲、この同じ曲を聴くと、いつでも、どんな状況でも、皆さんはストリッパーに変身してしまいます。セクシーなダンスを披露しながら、来ているものを一枚、一枚、脱いでいきましょう。そして皆さんの自慢の裸を、お客様たちに存分に見せつけて、魅了しちゃいましょう。貴方たちは目が覚めた時に、さっきスクリーンに何が映っていたかも、私に何を言われたかも覚えていません。しかし、さっきの音楽を聴くと、必ず私の言った通りになりますよ。」

 官能的なトランペットが奏でるラテンミュージック。陽気で大人っぽい、ムードたっぷりのBGMが流れる間、女の子たちは目を閉じて座りながら俯いています。聞いているのか、聞いていないのかわからないようなこの表情。この時が、一番、催眠術師の言葉がスムーズに彼女たちの心に染み込んでいる時なのではないでしょうか。

「では皆さん、私が3つ数えると、スッキリと目を覚ましますよ。3、2、1。・・・どうですか? ・・・催眠術、かかりましたでしょうか?」

 ステージ上の照明が大広間と同じ光量まで明るくなって、女の子たちは一人ずつ、顔を上げていきます。質の良い睡眠をとった後のような、爽やかな表情になっています。

「さて、どうでしょう、先生。・・・催眠術って、・・・貴方には、かかりましたか?」

 小松が近寄ってマイクを向けると、牧帆先生は少し戸惑いながら、丁寧に答えてくれます。

「あの、催眠術にかかったかどうかは、ちょっとわかりません。今はすっきりしているんですが、かかったかどうかは、自分では・・・。私、かかってましたか?」

 逆に聞かれて、小松はニヤッと大広間の観客の方を見ます。男性客様がたはまた、クスクス笑わずにはいられません。牧帆先生がテキパキと知的に答えれば答えるほど、先ほどの過激なオナニー姿を思い出さずにはいられません。高学歴で知的な美女が、真面目な口調で喋っていますが、今は殿方の方が圧倒的に優位な立場に立って、彼女のわかっていない状況を俯瞰している。その快感は、殿方にとって、ちょっとした鬱憤晴らしにもなっているようです。

「ちなみに先生は、学校で何を教えておられるんですか?」

「あ・・・私は現代日本文学を・・・。」

 牧帆先生が喋り始めたところで、先ほどのミッドテンポのラテンミュージックがかかります。照明も赤とピンクに変わったところで、先生の表情がスッとと変わっていく気配。真面目そうな楚々とした美人の顔に、ムワッと艶と色気が回ります。押し出されるように椅子から立ち上がった牧帆先生は、左足を体と交差させるように前に出したと同時に、遠い目をしながら浴衣の帯に手をかけます。

 女ながら、不思議なものだと思います。たぶん自分自身では本物のストリップなど見たこともないはずの女性たちが、後催眠暗示とBGMを与えられると、自分なりに想像する、ストリッパーになりきって殿方を魅了します。まるで女はみんな女優。みんなストリッパーの資質があるのだと言わんばかりに、真面目で清楚な女子大講師が、プロの踊り子さんを見事に演じてしまうのです。

 音楽に合わせて体をくねらせながら、ゆっくりと、焦らすようにして浴衣を脱いでいく牧帆先生。彼女の後ろでも、OLさんたち、スノボギャルたちが思い思いのダンスを披露しながら、さっき着直したばかりの浴衣をはだけていってしまいます。少し、お嬢様女子大生たちの動きが悪いでしょうか?

 ムードたっぷりに体をくねらせて、上半身から浴衣を抜き取った牧帆先生が、大きな動きでアピールするように、手を翼のようにはばたかせ、天を仰いだ瞬間、小松が裏方に合図をします。すると照明が元に戻り、BGMがピタッと止まります。女の子たちが一人ずつ、我に返っていきます。青ざめた牧帆先生の豹変ぶりといったら、可哀そうやら可愛らしいやら。身を縮めて床に伏せって体を隠そうとしています。

「やだっ・・・もう。どうして?」

「えっと、先生。急に踊りだしちゃったから、話が途切れちゃいましたけど、大学で何を教えてらっしゃるんでしたっけ? ・・・裸踊りでしたか?」

「・・・ちっ・・違いますっ。現代日本文学・・・あ・・・もう・・・また・・・。」

 牧帆先生が真面目に答えようとしていると、また中断していた音楽が再開されます。照明も赤とピンクと紫のミックスに戻ってしまいました。正気を取り戻したはずの牧帆先生が、またセクシーな踊り子さんに変身してしまいます。答え終わることも出来ないまま、また媚びるような笑顔を観客に向けて、投げキッス。空いている片方の手はスルスルと自分の浴衣を開いていきます。水色の浴衣が舞台上に落ちると、今度は体を反転させて、逆方向に歩きながら大人のボディラインをアピールしつつ、ブラジャーのホックを外します。ストラップから腕を抜いて、ゆっくり、じっくり焦らすようにして、ブラジャーのカップを外してしまいました。丸いオッパイが下着からこぼれ出て、フルフルっと震えます。もう少し若い、他の女の子たちとは違って、柔らかそうな釣り鐘型のオッパイ。乳首だけはツンと固そうに上を向いています。

 他の女の子たちも、音楽に合わせて、みんな思い思いのダンスを披露しながら、服を脱いでいきます。ただやはり、女子大生トリオはまだ、反応が良くありません。浴衣をチラッとめくったり、迷いながら戻したり。私は舞台袖から、小物を持ってスッとステージへ足を進めました。

(こちらはお任せなさい。大丈夫よ。)

 小松に目で合図を送りながら、若葉ちゃん、毬絵ちゃん、萌花ちゃんの3人が、困りながらクネクネしている後ろにたちます。

「わたくしの言うことをよく聞きましょう。必ず本当になります。今から貴方たちに秘密のアクセサリーをつけてあげますよ。これは貴方を経験豊富で大胆な、プロのストリッパーに変身させてくれる、スイッチになるワンポイント・アクセサリーです。ほら、これを身に着けると、恥ずかしさなんて消え去って、自分の裸を見せびらかしたい、エッチな気持ちで胸いっぱいです。ほら。そうでしょう?」

 若葉ちゃんにネックレス。毬絵ちゃんにカチューシャ。萌花ちゃんにお花の髪飾りを付けてあげます。するとわたくしが手に力を入れた瞬間、彼女たちは一人ひとり、覚醒したように目をパッチリと開けて、自信たっぷりのオンナの表情を見せてくれるようになります。指先まで力の入った、大きな動き。踊りのキレも段違い。そして何より若い体の全身から、色気がムッと滲み出てまいりました。

 こういったところが、まだ小松がわかっていない、女の子の催眠術への反応です。男性経験の違いなどから、どうしても皆さん、同じ暗示に対して同じようには反応してくれません。ところが、女性の不思議なところは、一つ、ワンポイントのアイテムを身につけさせてあげるだけで、別のスイッチが入ったり、鮮やかに自分の殻を破ってくれたりすることがあるのです。メイクやお洋服の選び方、着こなし方、着崩し方一つで、無意識のうちに自分で様々な役柄を演じてきた蓄積からでしょうか? 女性は催眠術の掛かり方が浅いように思える方、体質的にかかりにくいように見える方でも、的確にツボを押せば、思うように変身してくれます。特に当旅館の洞窟湯での下地作りがあれば、これまでのところ、鉄板でございます。

 若葉ちゃんが浴衣を放り投げて白いブラジャーから瑞々しいオッパイをプルッと出したころ、毬絵ちゃんはお尻をプリプリ振りながらショーツを足首まで下していました。萌花ちゃんの体は肉付きが良くて、いかにも抱っこすると気持ちよさそうな体です。笑顔になると目が垂れ目に、顔が赤くなると二の腕や首までポワッと赤くなります。彼女もブラジャーを外してショーツから足首を抜いて、生まれたままの姿でステージ上で可愛いポーズ。この頃には、舞台上の女の子たちはみんな、一糸まとわぬ素っ裸。思い思いのセクシーポーズで、オジサマたちを喜ばせてくれています。まだ20代のわたくしにはあまりピンとこないのですが、温泉とストリップというのは、ある世代以上の方々には強い結びつきがあるようでございます。

「素晴らしいですねー。ストリッパーさんたち。今度私がこちらの笛をピーっと鳴らすと、皆さん最高に大胆でエッチな、セクシーポーズを取りましょう。そのまま音楽が止まって、皆さんは正気に戻りますが、体は決めポーズのまま、指一本動かなくなりますよ。ハイみんな、笑顔でスーパーセクシー、アッハン、ウッフンポーズだ。ピーィィィッ!」

 照明がピンクから通常のものに変わり、音楽が止まる。女の子たちはまたまた、黄色い悲鳴です。口々に助けを求めるのですが、顔は笑顔のまま固まってしまっています。お股全開になっている子が3人。グラビアアイドルのような挑発ポーズを全裸でとっている子が2人。お尻を突き上げて股の間から笑顔を見せているのはOLの紗季ちゃん1人。若葉ちゃんと毬絵ちゃんは2人仲良く抱き合って、オッパイを押し付けあい頬っぺたをくっつけあって、アイドルみたいな決めポーズ。牧帆先生はスラッと綺麗な足をピンっと高く伸ばして、「L字のポーズ」。本当に本職の踊り子さんになりきってしまったみたいですね。全員、硬い笑顔のまま、悲鳴を上げています。そして常連のお客様が彼女たちの窮地に拍車をかけるように、ポラロイドカメラを持ってステージ前に集まってきます。当旅館のショーはお客様個人のカメラでの撮影はお断りしておりますが、ポラロイドカメラの貸し出しは行っております。お写真の持ち帰りには料金が発生いたしますが、旧式の大型カメラを手にしたオジサマたちは、何やら嬉しそうなのです。カメラがゴツゴツした格好いいメカだった時代を思い出すのでございましょうか?

「みんな、キャーキャー言わないでいいですよ。ほら、私が触ると、貴方と貴方は、フラッシュを浴びる度に、嬉しくなってしまいます。貴方と貴方は、イヤらしく感じてしまいます。貴方と貴方は、その両方。君と君はフラッシュを浴びる度に、アソコの中でちっちゃなカエルが飛び跳ねるような感触を覚えるよ。先生は・・・。じゃ、フラッシュ浴びるたびに楽しくなって笑っちゃうけど、同時に潮を噴きそうになる、いや、そのうち本当に噴いてしまいますよ。はい、カメラマンの皆様、シャッターチャンスでーす。」

 カシャッ、カシャッ、カシャッ、カシャッ、カシャッ、カシャッ、
 電子音ではない、シャッターをきる機械音。ステージが白く光るたびに、女の子たちの黄色い悲鳴は、くぐもっていきます。・・・それにしても小松。前にもあれほど言ったのに、この段階から何度もイカせるなんて、女性の体に負担の大きいことを・・・。また後で、きついお灸を据えてあげなければなりません。

「うふっ・・ふふふふふっ。・・・からだ、動かない・・・変なの・・・。フフフッ。」

「あっ・・・ああああんっ・・・・やんっ・・・なんでっ・・・。」

「ひゃっ・・・中に・・・なにかいるぅ〜。・・ひゃんっ。」

「ちょっ・・・お・・・何か拭くものを・・・。おっ・・・お願いします・・・。やはははっ。」

 笑顔でセクシーポーズのままプルプルと体を震わせて、みんなフラッシュを浴びながらそれぞれ違った反応を見せていきます。

「あれ、お嬢さんたち、先生がお股から何か出していますよ。」

「うふふふふ、牧帆先生ったら・・・。オシッコかしら。」

「やだ・・・先生。・・・みんなの前で・・・。」

 若葉ちゃんと毬絵ちゃんは裸で抱き合って、片足を後ろにピョコンと跳ね上げたままの姿勢で、先生の様子を見ながらクスクス笑いあっています。もう一人の学生、萌花ちゃんは大股開きのポーズで喘いでいて、それどころではないようです。Y字バランスをしているヒカルちゃんは、間近で大切な部分を接写されるたびに、ピョコンと小さく片足でケンケンしてしまいます。アソコでカエルさんが飛び跳ねると、自分もジャンプするしかないのでしょうか。ヒカルさんにとっては、「カエルがナカで跳ねる」という暗示を強烈に受け取りすぎていて、「体が動かない」という暗示を少し超えた反応になっているから、こういう動きになります。胸を押し出すように強調したポーズをとっている礼奈ちゃんも「カエルが跳ねる」という暗示を与えられていますが、彼女の場合は内腿の腱がギュッと緊張する程度です。

 そろそろ、牧帆先生の体が限界のようです。わたくしがタオルと雑巾を持って駆け寄ろうとしたところで、小松も止めに入りました。

「はーい、ここまでー。皆さんリラックスしていいですよー。お席に戻って。」

 ホッとしたような表情で椅子に座って眠り込む女の子たち。わたくしは心の中で皆さんに謝りました。申し訳ないのですが、催眠術ショーはこれからが本番です。当旅館の夜は長いのです。まだ夜は、始まったばかりなのでございます。

 
 


 

 

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