銀河刑事ウェイカー


 

 

最終回 『囚われた心……虚ろなる罠』(後編)


−3−



「ウェイカーブレードッ!!」

 大きな声と共に斜めの筋が入る鉄のドア。それを蹴破って入ってきたのは……ウェイカー。
 今日は作戦決行の日。
 今回わたしに与えられた任務は、『妹尾椎菜』になりすましウェイカーを殺害すること。そのための段取りとして、まずはウェイカーを基地へ招きいれ、妹尾椎菜になりすましたわたしを救出させる手はずになっている。

「え……ウェイカー!?」

 驚きの表情を持ってウェイカーを迎え入れるわたし……当然演技だ。

「さあシーナ、早くこの基地を脱出しよう!」
「脱出しよう……って、どうやってここが分かったの?」
「ちょうど連中が逃げ帰るところを目撃したんだ、それでチャンスだと思って一気に飛び込んだ」
「飛び込んだ……って、無茶もいいところよ、返り討ちにあったらどうするつもりだったの!?」
「とにかくこうやってうまくいったんだ、連中の増援が来る前にここを出るぞ」
「え……ええ!」

 ウェイカーに手を引かれ、基地を出るわたし。どうやらウェイカーは何も気づいていないようだ。


 こうして、何の苦もなくウェイカーの秘密基地へと潜入することに成功したわたし。だが、ここで気を抜くわけには行かない。ウェイカーを殺害してこそはじめて任務が完了するのだから。

「何はなくとも無事でよかったよ」
「向こうさんも下手にウェイカーを刺激したくなかったんだって。だから結構待遇はよかったわよ。誰かさんに料理作らなくて済む分楽だったしね〜」
「じゃあ何か、そのまま人質で暮らしていたかったのか?」
「まさか、そんなわけないでしょ?」

 正直こんなブ男、会話をするのも勘弁したいところだが、これもウェイカーの油断を誘うために必要なこと。ガルシア様との『訓練』で、妹尾椎菜に関するあらゆる情報をたたき込まれた成果がちゃんと出ていることに満足するわたし。


 こうして妹尾椎菜になりすまして、ウェイカーの隙をうかがいつつしばしの時が過ぎ……運命の日が訪れる。

 その日、ウェイカーは『救出祝い』と称して、わたしをデートに誘ったのだ。
 無論、わたしは快諾した。こういうところにこそ油断というのが生まれるのだから。
 昼間は遊園地、夕方になれば港が見えるホテル上階のレストラン……ある意味お約束なデートコースをたどり、夜も遅くなった頃……わたしは酔ったふりをしてウェイカーに寄りかかる。

「椎菜、どうした?」
「ごめん、ちょっとはしゃいで飲み過ぎたみたい……」
「家まで歩けるか?」

 そう言われて二、三歩歩いて……またよろける。あわててウェイカーが肩を支える。

「ダメじゃないか……とりあえずおまえの家まで俺が送っていくよ」

 言って背中を差し出すウェイカー。その言葉に甘えて背負われるわたし。
 たどり着いたわたし……妹尾椎菜のマンション。ウェイカーはわたしを背負ったまま部屋まで入り、わたしをソファーの上にそっと降ろす。
 その足でウェイカーは寝室へ行き、そうたいした時間をかけずに戻ってくると、わたしを胸の前で抱える。反射的にわたしはウェイカーの首に手を回す。
 寝室に入ると、ベッドの掛け布団がしっかりと整えられていた。ベッドの上にわたしを横たえると、その上から布団を掛けてくる。

「さて、これでしっかり休めば明日には酔いも覚めてるだろ。ひょっとしたら二日酔いになるかもしれないけど……明日きちんと見に来るからさ、安心しろよ」

 そう言って部屋を出て行こうとするウェイカー。
 ……しばらく顔を合わせて、奥手だなと思ってはいたが、ここまでとは……
 このままは千載一遇のチャンスを逃してしまう。そう思ったわたしは、少し色っぽい声でウェイカーを誘う。

「待って、覚……身体が熱いの……」
「風邪か?」

 ……鈍感。

「そうじゃないの……覚の背中に背負われてたら……なんだか身体がうずいて……」

 そう言ってベッドの上で身体をくねらせる。それを呆然と見つめるウェイカー。のど元を見れば、つばを飲み込んでいる様子がよく分かる。
 それでも動かないウェイカー。そこへとどめの一言が入る。

「お願い、覚……今夜は一緒に……」

 そうまで言われて何もしない男はいない。ウェイカーは服を脱ぎ、全裸でベッドに上ってきた。


「椎菜……」

 まずは唇を合わせる。二度、三度唇を触れ合わせると、ウェイカーから舌を差し入れてくる。いきなり来るとは大胆なヤツである。一応相手に合わせて舌を絡ませ合う。
 唇を離し、わたしの服を脱がしにかかるウェイカー。まずはスカートをはずし、続いて羽織っていたカーディガン、ブラウスの順で上を脱がす。上はもうブラだけだ。フロントホックを外すと、弾力ある胸がブラを押しのけて現れる。

「おまえ……案外胸あるんだな」
「どーゆー目で見てたのよ!」

 思わず怒鳴ってしまう。ウェイカーは返事の代わりにわたしの胸を揉みはじめる。

「う、ん……」
「どうだ、椎菜?」
「さ、覚の手、暖かい……」

 ウェイカーがわたしの胸の突起を触ってくる。思わず反応してしまうわたし。

「きゃん!」
「結構敏感だなあ……」
「んもう、覚のいぢわる〜!」

 奥手なくせにやり方を結構知っている……いや、ひょっとして奥手だからいろいろ妄想していたのか?
 左手で胸を揉み続けながら、右手だけで器用にストッキングを下ろしにかかる。だが、今ひとつうまくいかないようだ。

「もう、これぐらいなら自分でやるわよ」

 そう言ってわたしは自分のストッキングをゆっくりと脱いでいく。
 続いてパンティーも取り去り、わたしもまた生まれたままの姿へと。
 脱ぎ捨てた瞬間、ウェイカーの右手がわたしのヴァギナへ伸びる。

「結構濡れてるな……」
「ちょっ、恥ずかしいよ、覚……」

 ヴァギナに入った指を出し入れする覚。負けじとわたしはウェイカーのペニスを握る。

「あうっ!?」
「覚だってこんなになってるじゃない……お互い様よ」

 器用に指を動かしてウェイカーのペニスを刺激する。だんだんペニスが大きく、熱くなるのが分かる。

「し、椎菜……」
「ねえ、覚……ちょっとしてみたいことあるの。だからちょっとベッド降りて」

 言われてベッドを降りるウェイカー。続いてわたしもベッドから降りると、ウェイカーにベッドに座るよう促す。
 促されるまま座るウェイカーの股間に顔を近づけるわたし。

「な……椎菜!?」

 その声に答える代わり、ゆっくりとウェイカーのペニスを舐め上げる。

「ぅわう!?」
「ふふ……驚いた?」

 蠱惑的な笑みでウェイカーを見つめるわたし。すっかりどぎまぎしている様子だ。
 その反応に満足したわたしは、続いてウェイカーのペニスを舐め続ける。一気に膨らむペニス。そして一気に精液を発射する。えらい早漏かもしれない。

「あっ!?」
「きゃん!」
「……だ、大丈夫か、椎菜!?」
「ん、これぐらい平気よ」

 そう言ってまたペニスを舐めはじめる。精液のにおいが鼻につくが、あと少しのところだ、我慢である。
 しばらくすると、また先ほどと同じぐらいまで大きくなるペニス。今度は出させないようにしないと。

「ねえ、そろそろいい?」
「あ、ああ……」
「ベッドに寝て。上に乗るから」

 そのまま身体を倒し、ベッドに寝るウェイカー。そしてその上に乗ると、ペニスをアヌスの中へ入れはじめる。

「えっ……そっちは……」

 その言葉を無視してゆっくりと埋めていく。
 ガルシア様ほどではないが、かなり感じてしまう。アヌスを締め付け、ペニスを刺激しつつ腰を上下に動かす。

「お、おう、おう!」

 感じたこともない刺激のためか、だんだん言葉にならない声を上げはじめるウェイカー。
 そして、大きな奇声と共にアヌスの中に熱いものが注ぎ込まれる。どうやらもう一度達したらしい。


 そろそろ頃合いね……
 ウェイカーが呆然としているその隙に、ベッドそばの棚に手を伸ばす。
 棚の上にあるナイフを掴む。この日のためにあらかじめ置いてあったものだ。
 刃の向きをきちんと確認し、大きく振り上げ、そして心臓に突き刺す!

「がはっ!?」

 突然の出来事に辺りを見回すウェイカー。そして、わたしを見る。わたしはすでにもう一度ナイフを振りかざしている。
 もう一度心臓にナイフを突き刺す。目の前の事態をようやく理解できたのか、かすれた声をわたしにかける。

「な……しい……な……どう……して……」

 その言葉に答えることなくさらにナイフを突き刺していくわたし。勢いよく噴き出す血液。返り血が体中にかかる。手がわたしの身体にかかるが、気にすることなく作業を続ける。
 やがて、ウェイカーから声が聞こえなくなり、しばらく痙攣したあと身体もぐったりとなる。臀部の付近から伝わる体温も心持ち冷たくなってきたようだ。
 ウェイカーが完全に息絶えたことを確認するわたし。これでヒュプノ帝国の野望を阻止する存在はいなくなる。

「任務……完了……」

 そうつぶやくと、ふっと意識が遠のいていく……


−4−



 ……ここはどこ……私はいったい……
 なぜだか夢見心地な感覚が抜けきれなく。まわりを見渡す私。
 ふと、手に何かが握られている感覚を覚えて視線をそこに移すと……そこには血まみれの死体が。
 あまりに現実感のない光景にしばらく思考が停止する。
 そっと手を離し、自分の手のひらを確認する……血にまみれている。
 もう一度、死体を見る。顔に視線を移すと……

「覚……」

 そこには覚の顔があった。そして、心臓にはナイフが突き立てられていた。
 私は呆然としたまま死体から降りる。

 呆然とした頭で事態を整理する。
 私は、確かヒュプノ帝国に連れ去られて、ガルシアという奴に軟禁されていた。
 それで、何度か寝て起きて……気が付いたら覚の上にまたがって、手に心臓に突き刺さったナイフを持っていて……

 ……ちょっと待って。
 それって……もしかして……覚の心臓にナイフを突き刺したのは私?
 ということは……私が覚を殺した!?

「あ……あ……」

 覚の死体から二、三歩後ずさりする。改めて手を確認する。その手は間違いなく血にまみれていた。

「あああああぁぁぁぁぁっ!!」

 あらん限りの声を上げ、頭を抱える。
 殺した……私が、覚を殺した……
 誰とも付かぬ声が私の心の中でリフレインしていた。


 気が付けば、私は外に飛び出していた。
 深夜の街を彷徨う私。
 今の格好は、コートを一枚羽織っただけ。深夜の底冷えが身体に堪える。
 でも、そのおかげで頭も冷やされ、冷静に状況を考えられるようになった。

 あの場面……状況的にはどう考えても自分が覚を殺したのだろう。
 しかし、私にはその記憶がない。そもそもヒュプノ帝国の基地で軟禁されてからの記憶が全くないのだ。
 様々な可能性を考え、そして一つの結論に至る。そして、それが誘拐の主目的だと気付いた。
 すなわち、私を洗脳して、覚を……ウェイカーを殺すよう命じた、ということ。
 確かに覚は私を全面的に信頼している。しかも搦手にはてんで疎い。私が言えばころりと騙されることだろう。そう言う意味で、ウェイカーを倒すためにもっとも適した人材だ、といっても過言ではない。
 標的にもっとも近しい人物を暗殺者に仕立て上げる……連中の立てた作戦の卑劣さと、それを見抜けなかった自分のふがいなさに歯ぎしりする。

 だが、洗脳されたのであれなんであれ、私が自らの手で覚を殺した事実に変わりはない。それはとりもなおさず、自分が殺人犯として警察から追われる身となることを意味していた。
 覚はいない、社会は自分を人殺しと非難する、もうここに自分の居場所はない……
 私はあてもなく街を彷徨い続けた。


 どれぐらい彷徨っただろうか……
 まだ夜は明けてないから、長く見積もってもあれから6時間程度しか経っていないのだろう。
 だが、それが遠い昔のようにも感じられる。
 警察に自首しようとした。死んで詫びようともした。でもできなかった。おそらくこれも洗脳の効果なのだろう。その呪縛を解けない自分が情けなかった。腹立たしかった。いっそ狂ってしまえばいい、そう思えるようにもなった。
 そんなことを考えているとき、私の前に人影が立つ。

「任務を終えたのに、こんなところをうろつくとは……」
「あんたは……ガルシア……」
「洗脳が一部解けたのか。なかなか気丈な奴だ」
「ウェイカーを倒す、という目的は果たせたのでしょ? だったら洗脳を完全に解いてよ」

 解いてもらったところで、覚が戻ってくるわけではない。だからせめて死んで詫びたかった。そのために洗脳を解いてほしかった。
 だが……

「ダメだ。まだお前を解放するわけにはいかない」
「どうして?」

 ガルシアは答える代わりに手を挙げる。いきなり両腕が捕まえられる。

「な……離せ!」

 必死に手足で空気を掻いてふりほどこうとするが……

「おとなしくしろ、お前をこれから基地へ連れて帰る」

 ガルシアにそう言われて、手足が動かなくなった。

「離してよ! 殺してよ! お願いだから殺してよ!」

 そんな抵抗もむなしく、私は連中の基地へと連れて行かれる。


 そして再び入れられたモノトーンの部屋。
 舌をかみ切ろうとしたが、そう言うときに限って口が動かなくなる。食事を取らずに餓死しようとしたが、身体が勝手に食事を取ってしまう。無論、この部屋から逃げることもかなわない。
 身体は自分の意のままに動くのに、どう動いても自分が望んだ結末へと行くことができない。
 何もしないと、頭は自然と覚を殺したことについて考えるようになる。その度に気分が鬱になる。心が引き裂かれそうになるぐらい痛くなる。気が狂いそうになる。でも狂う寸前で正気に戻る。
 死にたいのに、死ぬことに不自由する……そんな自分が恨めしかった。

 日が過ぎていく……死ぬことも、狂うこともできず、ただひたすら心の苦痛を味わい続ける。
 もう死ぬことも、狂うことも考えられなくなってきた。この苦痛を何とかしたい、そう思うようになった。
 そんなとき、どこからともなく声が聞こえてくる。

(苦しいか……)

 苦しいわよ。

(苦しみから逃れたいか……)

 逃れたい。

(そのためならどんなことでもするか?)

 ……する。

(なら、俺に全てを捧げろ)

 捧げる……

(そうだ、身も、心も……全てを捧げるんだ……)

 身も、心も……

(だから、こちらに来るんだ)

 そっちに行く……

 誰かが私の手を引っ張る。
 ぼうっとしていた目が焦点を結ぶ。
 そこには……ガルシア……がいた。

「この俺に、全てを捧げるんだ……いいな?」

 私は、素直に頷いた。


 私はガルシア……様の愛撫を身体に受ける。
 懐かしい興奮が身体を襲う。

「あっ……あっ……」

 ガルシア様は私のヴァギナを重点的に責めはじめる。ゆっくりと丁寧に壁面をこすっていく指。その度に身体が燃え上がるように熱くなっていく。
 クリトリスを思いっきりつねられる。それだけでもイッてしまいそうな気分になる。
 そのうちヴァギナから愛液があふれ出してくる。ちゅくちゅくと嫌らしい音があたりに響き渡る。

 やがてガルシア様は、体を起こして私にこう言った。

「いいか、これからお前のヴァギナを俺のペニスで貫く。そのときお前は痛みを感じるだろう。その痛みが引いたとき、お前は全てを俺に捧げたことになる。全ての苦しみから逃れられる。だから我慢しろよ」

 私は何も言わず首を縦に一つ振った。
 そして、ガルシア様のペニスが私のヴァギナへと侵入してくる。
 ゆっくりと、ゆっくりと……私は貫いてくれることを心待ちにしていた。
 そしてヴァギナの奥底で何かが当たった感触を感じる。
 それを確認すると、ガルシア様は一度腰を持ち上げ、そして一気に体重をかける。
 ぶちっ、と言う音と共に、わたしの身体を激痛が襲う。

「くうぅぅぅぅぅっ!!」

 痛い。凄く痛い……でも、我慢しなくちゃ。全てはあの苦しみから逃れるため。
 二度、三度と腰を動かすガルシア様。ヴァギナとペニスの結合部分から血がにじみ出ているのが見て分かる。
 そのうち痛みは薄れ、だんだんとヴァギナが熱くなってきた。むずがゆくなってきた。そして気持ちよくなってきた。
 不自由な体勢ながら、私も腰を動かしはじめる。ガルシア様と少しでも深くつながり、この感覚を味わいたかったからだ。
 体を動かすたび、身体が、心が、飛んでいきそうな感じになる。もう何も考えられなくなっていた。ひたすらに動いた。ひたすら声を上げた。

「あっ、あっ、あああああぁぁぁぁぁっ!!」

 そして私は、破瓜の痛みと、初めての絶頂を同時に味わった。


「お前の全ては俺のためにある……お前は俺に従えばいい……」

 その言葉が一言一句、ボロボロになった心に染み入っていく。
 もう苦しむことはない。ガルシア様に従えば、もうあの苦しみを味わわなくていい……

「これで、お前は俺のモノだ……もう、誰にも渡さない……」
「はい、私は……ガルシア様のモノです……もう、ガルシア様から離れません……」

 私の心はガルシア様によって満たされた。もう他に何もいらない。ガルシア様さえいればそれでいい……


− epilogue −



「通信兵から、第8地区の制圧を完了したとの報告が入りました。これにより、世界の95%が帝国の支配下に入りました」
「ご苦労……」
「それから、残りの地域に関して、本日付けでの進捗率と現状の問題点、その対策について報告をまとめました」
「その報告書をこちらに渡せ。お前はしばらくここで待機しろ、シーナ」
「かしこまりました」

 そう、それは、かつて妹尾椎菜と呼ばれていた女性。
 やや小柄な体に短めの青髪、そして大きめの眼鏡……その姿はここへ来た頃とほとんど変わらない。違いがあるとすれば、かつてのフリルいっぱいな服から、ボディラインがよく見えるピッチリとした服へと変化していることぐらいだろうか。心持ち色気もましたように感じる。
 だが、彼女の心は完全に変わった。この世界を守るために愛するものと共に戦う女性から、俺に絶対の忠誠と永遠の隷属を誓い、俺のために帝国の世界侵略を指揮する人形へと……


 はじめ俺は、ただウェイカーを倒すがためにデータを分析していた。しかしその過程において、俺は彼女……妹尾椎菜に興味を持ちはじめた。
 やや幼いながらもそれなりに発達した女の体に惹かれた、というのも否定はしない。だが、それ以上に彼女の持つ能力……情報分析能力に注目がいった。
 これだけの分析能力を持つ人間は帝国の中でも稀有である。もし、そんな彼女を自分の右腕にすることが出来れば……そう考えるようになったのである。

 だから俺は彼女を手に入れることにした。無論、その能力を俺のために役立ててもらうには、肉体的に隷属させるだけではダメだ。精神を壊すのも罷りならない。
 あれだけ回りくどい手を用いたのも、全ては彼女を手に入れるため。知識も、身体も、そして心も……全てを俺のために捧げる存在を作り出すためだった。


 まず、彼女をモノトーンの部屋に入れた。そしてその状態で部屋に微量のガス……人の精神を一種のトランス状態へ導く催眠ガスを投入したのだ。
 肉体的な負担を最小限に抑えるため、使ったガスの量はさほど多くないが、単調な生活や変化のない環境がもたらす精神的疲弊との相乗効果により、一週間で彼女の精神をかなり深いトランス状態へ導くことに成功した。
 そして、そのトランス状態の彼女に、様々な暗示や暗殺技術を性的快感と共に刷り込んでいった。自分はヒュプノ帝国の戦闘員、ウェイカーこと真子覚を暗殺するため妹尾椎菜になりすまして潜入する工作員……そう繰り返し教え込み、洗脳する。

 その後、暗示が定着するころを見計らってわざと隙を作り、彼女をウェイカーに救出させる。
 洗脳状態の彼女は暗示のままに行動し、ウェイカーを殺害する。
 こうなればしめたもの。殺してなお洗脳状態にあれば、そのまま自分に隷属させる。
 たとえ洗脳状態から一部目覚めたにしろ、覚を殺したという事実は、彼女を社会的に、そして精神的に追いつめる材料となる。
 この世界での居場所を無くした彼女は居場所を求めて彷徨うことになる。そこで俺は彼女の居場所を用意する……すなわち、再度洗脳され、俺に隷属するという居場所を。
 彼女にはすでに帰るべき場所は存在しない。だからたとえ偽りであっても、自分を受け入れてくれる存在に対して本能的に身を任せるようになり、その場所にいるのに不都合な感情や記憶は消える。こうして彼女の洗脳は完璧となった。


 生まれ変わった彼女は、俺の思惑通り、俺の有能な部下として、かつて自らが守ろうとした世界を侵略するためにその辣腕を振るう。それがさも当然であるかのように。
 その手腕は俺の想像をはるかに超えたすばらしいものだった。彼女の活躍により、予想よりも速いペースでこの世界の侵略が進んでいる。すべてを掌握できるのも時間の問題だろう。

 戦闘員の中にはかつて敵だった相手の命令に従うのを拒むものもいたが、俺への忠誠心、帝国のために献身的に尽くす態度、きわめて優秀な情報分析・立案能力、そしてウェイカーを倒した女であること……それらの事実が彼女を拒む声を次第に小さくし、彼女の信奉者を名乗る者も出はじめた。
 今や彼女は戦闘員の人心を完全に掌握している。もう彼女が俺の右腕として作戦を指揮することに疑念を持つものはいない。

 目の前の結果報告を眺めながら、俺はこれからのことに思いを馳せる。彼女の力があれば、さらなる高みを目指せるだろう……あるいは帝国皇帝の座も夢ではないかもしれない。
 だが、焦ることはない。俺に全てを捧げた女とゆったりとした時を過ごすのも悪くないだろう。先はまだ長いのだから……

「シーナ、俺のそばに来い」
「はい、ガルシア様……」

 その名を聞き、素直に頷いて俺の傍らに寄り添うシーナ。
 その瞳は、すべてを俺に委ねきった虚ろな喜びに満ち溢れていた。
 瞳を見つめるうち、俺はシーナで遊びたくなった。

「シーナ、今回の褒美だ。あとでたっぷりと遊んでやるぞ」
「ありがとうございます、ガルシア様」

 微笑むシーナ。もっとも、褒美などやらなくともその微笑みは変わらない。なぜなら彼女にとって俺の役に立つことこそ至福なのだから。


『シーナ』……それはヒュプノ帝国で『人形』を意味する言葉。
『人形』という名を持つ人形……果たしてこれは偶然なのだろうか?
 俺にはこう思えてならない……この世界で生を受け、『椎菜』という名を授けられたときから、俺の人形『シーナ』となる運命にあったのだ、と……

 
 
< 終 >


 

 

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