ビールス・パニック


 

 

第9話


 パンッ。

「あいてっ、・・・あ・・。」

 北峰巡査長は、ブースで葉書に書き込みをしている途中で後頭部をはたかれた。
 振り返ると、芹沢警部補が立っている。

「パニック情報の洪水で、忙殺されてるはずじゃないのか? サボってんじゃねえぞ。」

 北峰が握り締めた葉書には、「テレビ旭日 シャルロット!宛 京香の陰毛希望」とまで書かれていた。
 芹沢の後を追って、芳野渚が中継ブースに入ってくるのを見て、北峰は慌てて葉書を握り潰すと、ポケットに隠した。

「お疲れ様です。テレビ旭日は総務省、情報通信政策局の指示により、2週間、放送免許を停止されました。しかし、その他の民放各局でも、トラブルは頻発していますね。」

「知ってるよ。YBSの女子アナが、緊急ニュースだって言って、旭日の事件を全部一人で再現したんだろ。大和テレビの歌番組収録中の集団ストリーキングが誤って放送されたって話も、フジヤマTVの女子アナが次々にカメラの前で全裸で脱糞したって話も、カーラジオで聞いた。そのラジオ放送も、途中からただの猥談ラジオに変わっちまったから、そこから先は知らんが・・・な。」

「本当に・・・、信じられない。人前に出ることが仕事の、タレントの人たちを、こんな目に合わせるなんて・・・。犯人は、人でなしですっ。」

 芳野が憤りを隠せずに、ノートをブースのコンソールにバシッと叩きつけるように置いた。
 北峰は、コンソールの心配をしながら、咳払いをする。

「ウンッ。そうです。許せないですよね。」

 芹沢は冷ややかな目で、北峰を一瞥すると、本題に戻った。

「総務省は問題に蓋をすることばかり考えているはずだ。民放全局の無期限放送停止も視野に入れて、今頃、偉いさんらが、議論に明け暮れてるだろう。だがな、ウイルスのパニックのことを忘れてもらっちゃ困るんだ。社会不安が生じている時に重要なのは、情報インフラの安定が一刻も早く保たれること。処罰なんかはどうでもいい。どうせみんなウイルス感染の不可抗力だ。そんなことよりも、いち早く、通常の報道を復旧させることが大切なんだ。なんとか、板倉さんを動かして、総務省に圧力をかけろ。」

「そう・・・、今、ボヤボヤしてると、日本はひっくりかえるぞ。」

 広くはない、中継ブースに、もう一人、戻ってきた捜査員がいた。
 都筑巡査長だった。街角で配られていたらしい、号外をテーブルに叩きつけるように置く。

「『ドジでノロマなカメ、大発生。スチュワーデスが乗客の体に不時着』だとさ。成田から出た日航機が機内でパニックを起こして苫小牧に緊急着陸した。これは・・・、いよいよウイルスの感染が管理できない速度で拡大し始めているぞ。官邸が緊急事態宣言を出して、パニック鎮圧に自衛隊まで出動させるのも、もうすぐだろう。」

 都筑巡査長が老体をブースの椅子に沈めて語ると、中継ブースには、重苦しい空気が流れた。

「板倉管理官は・・・、今、御子柴警察庁長官と、三宅公安部長について、国家公安委員会の会議に出席中です。多分その後、統合対策本部の提言も持って官邸に向かうことになります。」

 北峰巡査長が告げると、ブースの中の空気はさらに重くなる。
 自ら提案し、緊急対策分室を立ち上げながらも、自衛隊の助けを仰がなければならない、板倉警視正の忸怩たる思いを考えると、分室メンバーは、劇的な進展の見えない捜査状況を、自分たちの責任のように思わざるを得ない。
 芹沢勇人が、乱暴に自分の後頭部を掻いていた。

「わからない。都筑さん、教えてくれ。犯人は・・・、おそらく諏訪を含む一味は、ここに来て、明らかに明確な計画に基づいて日本を混乱に陥れている。諏訪の尻尾は掴みかけた。逃げられはした。それでも奴は、かなり動きにくくなったはずだ。防犯カメラからは本人の映像も抑えられたし、例の、暴走族と乱交していて保護された婦警たちからの証言で、奴の関与は決定的になった。これまでよりも動きにくくなっているはずだ。なぜ、奴らの行動が未だに、こうも効果的に社会を揺るがす?」

 問われた都筑は、ブースのパイプ椅子に腰掛けて、腕組みをしたまま、天井を睨んだり、急に横を向いたり、舌打ちをしたりしながら、しばらく考える。

「んーん。なぜだろうなぁ。どうにかして、彼らは、的確に日本を、揺るがしている。教育機関、医療機関がパニックに陥って、今度は報道機関、交通機関が機能停止近くまで追い込まれている。きっとどこか主要な金融機関にも、とうに手は伸びているだろうな。ただのウイルスの無差別散布とは違う、明確で戦略的な社会攻撃だ。だがどうやって・・・。先生、そんなに短い時間で、戦略的な指示を出せるようなウイルスは、見つかっているんですかねぇ?」

「現時点で確認されているヒグチ・ウイルスの中で、もっとも最近活動が活発化しているように見えるのは、MC−A2とA5です。A2の場合は、患者が急激にニンフォマニアのような症状を見せているようですが、こちらは厚生省の特別医療チームが対策に当たっています。しかしここ数日で多くのトラブルを生んでいるのは、MC−A5のようです。それにしても・・・。そんな高度な作戦を指示するには、感染対象と長い接触時間が必要なはずです。こんなに有機的にテロリズム的な行動に繋がる原理は、解明できていません。」

「板倉さんは・・・、打つ手なしという、ワシらの状況を、国家公安委員会ではどう報告しておるのかな?」

 都筑巡査長が、椅子からのけぞって、北峰巡査長を見ながら尋ねる。

「一週間前から、本部の要請に基づき、西堀元厚生大臣を座長とした、ヒグチ・ウイルスの対症薬開発諮問委員会が立ち上がっていますが、そちらの研究開発状況の報告に力を入れて、ケムに巻こうとしているようです。」

 北峰がキーボードを叩きながら答えた。
 芹沢は、ボンヤリとした目を壁に向けながら、面倒臭そうに話す。

「ま・・・、そういう上への報告はあのタヌキに任せておいて、間違いはないはずですよ。俺たちは、とにかく急いで捜査して、犯人グループの、MC−A5展開方法、そしてそれを利用した指揮系統を掴むために動いていればいい。ここにいても、アイディアが浮かばないようだったら、もう少し動き回りますか? 諏訪は一度、網にかかりかけた。動きにくくなってるはずだ。これはチャンスでもある。」

 都筑は少し遠くを見つめて、考える。

「ワシはしばらく、ここにいようかな。芹沢、芳野先生。諏訪の保冷車はまだ見つかっていない。業務用の宅配車が停めてあっても、不審がられない場所に、奴は潜んでるはずだ。頑張って下さい。」

 芹沢警部補が、ブースを立ち去ろうとする。
 わざわざ遠回りをして北峰巡査長に近づくと、密かに耳打ちをした。

「お前、録画してるだろ。捜査の一環として、一応俺も、もう一度確認する。後で、石嶺こはるの天気予報のところだけ、動画ファイルを回せ。重野と芳野には言わなくていい。」

 北峰が、何か言いたそうに口をパクパクさせるが、芹沢は構わずブースを出た。
 芳野も芹沢の後を追う。

「霞ヶ関の主要官庁の出入り口にある、防犯カメラの映像を、全部表示できるかい?」

 パイプ椅子に深く腰掛けたまま、都筑が北峰に訊く。
 北峰がキーボードに打ち込むと、巨大モニターが48分割される。
 無機質な建物の玄関口の映像が、白黒で写される。
 腕組みして画面を見据えながら、都筑は動かなくなった。


。。。



「大樹。今、電話大丈夫?」

「うーん、ゴメン。正直、ちょっと急いでるんだよな。なんかね、圭吾がすぐ来てくれって。姉貴と今林が、発情した牝ゴリラみたいに、ひっきりなしに襲ってくるんだってさ。また自慢してんのかと思ったら、ホントにヤバいみたい。干からびそうだってさ。」

「2分だけでいいから、聞いてくれるかな?こっちもけっこう、深刻な話。」

 携帯電話のスピーカーから、妙に淡々としゃべる潤也の声が聞こえる。
 普段は少し、自信なさげに話す彼の、落ち着いたトーンを聞いて、大樹は自転車を止めた。
 潤也がこういう口調の時はいつも、すでに何か、重大な決心をしている時だった。

「どうしたの?」

「俺ね・・・。真弓と・・・、あの、支倉と一緒に、しばらく家出する。昔、西中の仲間で、奥多摩のペンションに泊まったよね?お金が持つ間はあの辺りで二人で過ごす。それから先は、どっかで働こうかな。・・・それでさ、ちょっと悪いんだけど、圭吾の家からの帰りでいいから、買い物をして、うちに寄ってもらえないかな?」

「あーぁぁあああ、もおっ!」

 大樹が大きな声を出す。煮詰まったときの、彼の癖だった。
 脇に止めた、大事なマウンテンバイクを、軽く蹴っ飛ばしてしまう。

「あのさ、お前っていっつも唐突な。頭悪いけど、俺だって相談に乗るんだぜ。なんでそうやって、全部決めちゃう前に、俺に何にも話してくれないんだよ。」

「・・・ごめん。つい、今日決めて・・・。うん。」

 喉もとに湧き上がってくる、何か熱くてモアモアしたものを、大樹は大きな溜息にして口から出した。
 コンクリートの壁に寄りかかる。数秒置いて、倒れたマウンテンバイクを立たせる。
 そして、思わず蹴ってしまった部分を、心配そうにチェックする。

「・・・いいよ。それより、何買ってくればいいの?」

 数秒の沈黙のあと、潤也が言いにくそうに、小声でお願いを伝えた。

「はーぁあ? 何それ?」

 マウンテンバイクを押しながら歩き始めた大樹が、また人目を憚らずに、大きな声をあげる。
 学校が閉鎖になっても、彼一人だけは元気だった。


。。。



「都筑さん、そこでモニター睨んで、もう半日になりますけど・・・、いい加減、飽きません?そろそろ都筑さんの得意な、足で稼ぐネタヌキに移らなくてもいいんですか?」

 北峰が、腕組みをしたまま動かない都筑に、声をかける。
 大先輩に対して、少し言い方に棘が入ってしまうのは、北峰が、自分の個人スペースのように駆使する中継ブースに、他人が長時間居座るのをあまり好まないからだ。
 警視庁公安部きっての腕利き電子情報捜査官は、実は中学生時代にはハッカーとして鳴らしていた。
 緊急対策分室での彼の任務は捜査情報整備と各員の連携、バックオフィス的な役割だが、本来の彼は、あくまで個人作業による専門家的な任務を好んだ。

「気にせんでくれ。ワシらの若い頃は、現場近くで何日も張り込んだもんだ。ワシに言わせると、24時間、パソコンの前でカチャカチャやっとれるお前さんらの方が、わからんよ。」

 北峰は、少し微笑んで、首を小さく横に振る。
 この世代の人たちには、どんなPC作業も「カチャカチャやっとる」。
 どんな電子音楽も「ピコピコ鳴っとる」、だ。

「ここでの仕事は、いくつもの作業を並行して出来ますから、実は楽ですよ。捜査が停滞していて暇な時には、ここからチャットだって出来ますし、ショートメールだって交換できます。世の中には、僕と同じようなシフトで、作業してるSEとかプログラマとか、いっぱいいますからね。ほら・・・、あ、アシモフは今、退席中か。もう夕方だから、寝てんのかな? C・クラークぐらいしか、入室してる奴、いないな。」

 都筑は返事をしなかった。
 北峰が一体何の話をしているのか、3割もわからなかったからだ。
 こういう世界の犯罪が増えると、捜査官もパソコンのことを勉強しなければならないだろう・・・。
 都筑は、半年後に定年を迎える自分の身を、少しだけ幸運だと思った。


。。。



 キンコーンという、妙に明るいベルの音が画面から鳴る。
 笹沼が「任務」の合間に暇つぶしに利用する、チャットのウィンドウがデスクトップ上に開いて、「ハインラインさんが入室しました。」という文字が表示されている。
 ハインラインとは、笹沼と同じような、24時間体勢でネットワーク管理でもしているらしい、ネット上の友人のハンドルネームだ。
 彼がどういう人間かは詳しくは知らないが、情報管理やセキュリティについて、かなり詳しい専門家であることは間違いない。
 しかもアイドルに詳しい。おそらく同年代のギークだろう。

「ゴメンねー、ハインライン君。アシモフ君は、今、取り込み中だよ。・・・もしここのルームの人たちが、僕のしてること知ったら、どう思うかな?」

 笹沼は笑いを噛み殺す。
 チャット用アプリケーションの音声を消音にして、ウィンドウを最小化する。
 暗めの部屋のなかでは、19インチのモニターがやけに光って見える。

「烏丸さんも、ゴールデンタイムまで待って放送すればいいのに、昼過ぎにオンエアしちゃうなんて、せっかちだよな。普通に働いてる人、みんな見逃しちゃってるんじゃない?ネットじゃ、アップと削除のモグラ叩きで大騒ぎだよ。それに僕も・・・、あんなの見せられたら、芸能人を味見したくなっちゃうよね、やっぱり。」

 ピンポーン。

 もう一度ベルがなる。今度は部屋のインターホンだった。
 マンション1Fの正面玄関から、彼の家のベルを鳴らした来客がいるということだ。
 笹沼がオートロックの鍵を開錠する。
 女性が4人もゾロゾロと、彼の部屋を目指してエレベーターの前に並ぶのが見える。
 彼はもう一度、笑いを噛み殺した。

 民間企業から発注を受けていた、システムインターフェース構築の仕事が終わると、しばらく休みを取ることにしていた笹沼。
 その彼に、この「組織」、リヴァイアサンへの参加を求めたのは、友人を通じて知り合った、常に黒いスーツを着ている姿勢のいい男、烏丸だった。

 初めは半ば冗談話のようなつもりで引き受けた「任務」だったが、とんでもない役得が隠れていた。

 簡単なホームページを作成し、そこに閲覧者が次々と個人情報を送ってくるのを整理する。
 烏丸や諏訪、そして「先生」と言った、秘密組織のメンバーが電話で伝えてきた情報を、そのサイトに逐一アップしたり、登録アドレスに一括転送したりする。
 日本転覆を企む組織の活動にしては、やけにシンプルな任務だったが、笹沼は淡々とこなした。
 しかし烏丸は、彼がサイトの管理中に外出することを禁じた。
 身の回りのことは全て、烏丸の手の者が手配してくれる。
 笹沼はただ、サイトの安全な管理とメンテ、指示を受けての改変を、ここ数週間、粛々と行なってきた。

 そんな笹沼だが、さすがに最近は退屈を烏丸に訴えた。
 そこで烏丸が秘密裏に笹沼に許した、「余暇時間での遊び」が、今の彼の毎日の楽しみになった。
 サイトに送られてくる閲覧者の個人情報は、日々飛躍的に増えている。
 顔写真、氏名、職業、詳しい勤務内容、個人的な連絡先等々。笹沼はそれらをリストにする。
 時々、芸能人やモデル、スチュワーデスやナースなど、素敵な女性の情報も送られてくる。
 任務に差し支えのない範囲で、彼は目についた女性を、「味見」させてもらっているのだ。

 日々、真面目に生活している女性たちが、彼からの電話一本で、まるでデリバリーヘルス嬢のように、忠実に彼の部屋を訪れる。
 そして彼の部屋で、要求に応じてどんなプレイも行なってくれる。

 いや、プレイだけではない。
 彼女たちは、笹沼が言葉にすれば、どんな荒唐無稽な言葉でも信じてそのように考え、感じ取り、行動した。
 何も言わなければ、普段通りの素振り。
 一声暗示をかければ、マンガの催眠術のように、どんな暗示にもかかる。
 完全な、そして極めて優秀な操り人形たちだった。

 笹沼はそれらお人形ちゃんたちを踊らせて戯れるたびに、諏訪岳人という学者が師匠と作り出したという、洗脳ウイルスの凄さに舌を巻く。
 情報産業は1年で、普通の産業の7年分進歩すると考えていたが、生物工学の世界はその先をいっていたのかもしれない。

「さてと、昨日の人妻デーもなかなか濃厚で楽しかったけど、今日は女優デー。さらに期待しちゃうよな・・・。」

 ふと笹沼は、昨日の狂態を思い出す。
 白金台の高級住宅地に住む、上品な美貌を持った若妻6人をリストから選んで呼び出し、澄ました顔に似合わない、ド変態プレイに全員で勤しんだ。
 通いのお手伝いさんを使っているという奥様にはフレンチメイドの衣装を着させて、ノーパンでフロアリングの部屋を雑巾がけさせた。
 料理教室に通っているという奥様は裸の上にエプロンだけ着させて、パイズリをさせた。
 高慢そうなセレブミセスも多かったので、真性マゾヒストに豹変させると、嬉々として笹沼の靴を舐めた。
 最後には全員、ドMのバイセクシュアルにして、7Pの最中に順番に職場の旦那や家族に電話をかけさせた。
 電話の相手はきっと、普通を装い、通話をする彼女たちの真の状況を、想像もしなかっただろう。
 腹を浣腸液で満たし、両乳首を洗濯バサミで留められ、首輪と鼻フックを装着した彼女たちの姿。
 そして、何人もの女同士が絡み合い、性器をまさぐりあいながらの、家族との心温まる通話。
 即席の性的倒錯者に変身させられてしまった彼女たちにも笹沼にとっても、腹にガツンと残るような、納得の濃厚プレイだった。
 全て忘れさせて帰宅させたのだが、彼のデスクトップ横に並ぶ、外付けHDDには、動画ファイルとして全容が保管されている。

 ピンポーン。

 ここ10分で3回目に聞く、ベルの音。
 笹沼は、喜び勇んで、部屋のドアを開けた。

「お邪魔しても、よろしいでしょうか?」

 快哉を上げたくなった。
 テレビでも、滅多に見られないような、豪華な4ショット。
 彼の前には、高科凛、安城まどか、初瀬美緒、赤星琴音の四大美人女優が競艶していた。
 彼女らのマネージャーごとMC−A5の毒牙に落ちていたのが幸い、うまくスケジュールを調整させることが出来た。
 そうでなければ、これほどのスターたちが揃い踏みすることは、滅多にないだろう。
 ここにあと一人、国民的アイドル、飛鳥井京香が来ていれば、ここが日本アカデミー賞の授賞式会場だと言っても、人は信じたかもしれない。

「はいはい、待ってたよ。入って、入って。」

 セキュリティ万全の高級マンションとは言え、笹沼は思わず人目を気にしてしまう。
 彼女たちはメガネや帽子で目立たないようにしているようだが、それでも全身から発散される、輝き、オーラは隠し切れない。特に長身の琴音は8頭身のプロポーションを隠せずにいる。
 そそくさと4人を部屋に入れた笹沼は、通路をキョロキョロと確認してから、ドアを閉めた。

「ビデオカメラは2台用意してるんだ。ホワイト調整がまだ終わってないから、ちょっと待っててね。デジカメは一眼レフ。これでも、こだわってるんだよ。」

 お茶も出さずに、いきなりメカの話を始める。
 これまでまともに女性と交際したことがない笹沼は、最近の「操り人形遊び」からの癖か、いっそう女性に対してデリカシーのない対応をするようになっていた。

「こないだね、歌手デーっていうのをやってさ、柊桃香ちゃんのハメハメ写真を何枚も、ネットのアイコラサイトにアップロードしたんだよね。そうしたら、『首のつながりのところは自然な処理になってるが、桃香にしては貧乳すぎ。ちと体にリアリティがない』っていう評価が書き込まれてたんだ。笑っちゃったよ。それ以来、やみつきになっちゃってさ。芸能人で遊ぶ日は、いっぱい写真とって、アイコラサイトにばら撒くことにしてるんだ。もちろん、バレて烏丸さんに怒られたりしないように、如何にもアイコラです、っていうような、不自然なコスチューム着せたり、ポーズとらせるんだけどね。みんな、本物のタレントの裸を見ていながら、気づきもせずに『コラも飽きたな』とか言ってるのかなって思うと、笑っちゃうんだよね。」

 高階や初瀬は、怪訝そうにお互いを見合わせる。
 この男は、家に招き入れるなり、突然彼女らをほったらかして、独り言のように話し続けている。
 こんなところにいて、一体、大丈夫だろうか?
 そもそも、今日は急遽、稽古や撮影のスケジュールがとんで、オフになったはずなのだが、突然、凄く大事な要があるように感じて、ここまで飛んできた。
 はたして一体、何の要だっただろうか?

「はい、女優さんたち、みんな注目。今日は皆さんに、僕の性のオモチャとして、遊ばせてもらうためにここに来てもらいました。僕に身も心も捧げきって、僕の性欲の吐け口になってくださいね。」

「はい、わかりました。よろしくお願いします。」

 まるでヴォイストレーニングのように、3人の女優の声が揃う。
 初瀬美緒たちは、ようやく思い出すことが出来た。
 今日はこの方のオモチャになるのだった。この方の性欲をぶちまけてもらうために、全身全霊を捧げて奉仕するのが、今日の大事な予定だったのだ。

 一人、高階凛だけが、呆気にとられて周りを見回しながら反論する。

「ちょ・・・、ちょっと何、言ってるんですか? そんなの・・」

「まずは、眠ろうか。」

 立ち上がりかけた凛も、安城まどかたち3人も、笹沼が一言口に出して指を鳴らしただけで、リビングの長椅子に倒れこむように眠りこける。4人の美女の体が、互いに寄りかかるようにして右に傾いた。

「そう言えば、凛ちゃんに電話した時は、興奮しすぎて、細かい設定をし忘れてたかも・・・。ま、いいや。これでみんな仲良く、僕のマリオネット。カメラの前でどんなことでもするんだ。そうだよね?」

「・・・はい・・。」

 目を閉じて、深い眠りにあるように見えた4人が、寝言を発して頷いた。
 今度は高階凛も他の3人と同じように深く頷く。

「さてと、さっきの番組はなかなか強烈だったからな。目指せ、『シャルロット!』越え。みんなでハッスルしちゃおうね。」

 部屋の隅の仕事机に据え付けられたデスクトップPCの19インチモニターには、チャットのウィンドウがまたしても開いていた。

「今日も仕事長引きそう。寮には自動録画されてる番組が山ほど溜まってるのに、帰れないよー (xx) 早くこのヤマ、終わんないかな? どっかにヒントでも落ちてないものかねぇ。」

 と、ハンドルネーム、ハインラインが打ち込んでいる。
 それに対して、ハンドルネーム、ウェルズが返信していた。

「ハインライン君、オツカレです。バグのデバックでもしてるのかな?うまく進まないとかなり欝だよね。しかも、そういう時って、意外といつも目にしてる部分に、バグが潜んでたりするんだよね。あの時、何でこれに気がつかなかったんだよ、俺・・・ orz って感じで(笑)。でもハマってる時ってさ。誰でも、身近なトラブル要因ほど、見落としちゃうもんだよね。」


。。。



 大樹のマウンテンバイクが、キーッと高い音を立てて停まる。
 玄関のベルを鳴らすと、潤也はすぐに出てきた。日も暮れかけた頃だった。

「圭吾の方は、大丈夫だった?」

「駄目。かなりグロッキーみたい。俺が着いた時は、なんかホントに何歳か老けて見えたよ。アイツは普段、オンナ関係には自信があるみたいなこと言ってたから、ギリギリまで助けを呼べなかったんだな。ありゃ、トラウマになるかも・・・。」

 潤也は暗い顔で、大樹の話を聞く。
 色々と頼りになる親友に、別れを告げなければいけないのは、とても辛かった。

「それで、大樹は、ツカサさんと今林の相手してきたの?」

「まぁ、4回戦ぐらいはね。でも、途中でしんどくなったから、お前のアドバイス通り、野菜使った。」

 大樹も、泣きそうな、笑いそうな、色んな感情が入り混じった、変な顔をしている。
 このままシンミリしていると、潤也は本当に泣き出しそうな自分を感じた。
 あ・・・、俺、泣くかも・・・。感情が高まってくると潤也はいつも、不思議とそんな自分を少し離れた距離から冷静に見つめている自分を意識する。

「一応、ツカサも今林も野菜で落ち着いたみたいだったけど、きゅうりとか、硬いしな。あれ、アソコを痛めたりしないといいけど・・・。」

「ん・・・。ま・・・、野菜は、体にいいって言うし・・、大丈夫じゃない?」

 珍しい潤也の冗談に、真剣な顔をしていた大樹が吹き出した。
 お互いの顔を見つめると、妙に笑いがこみ上げてきた。
 潤也も、泣くのではなく、笑うことにした。

「バカじゃねぇの、お前・・・。クックック。」

「ハハッ・・、大樹だって・・・。」

 いつの間にか、玄関先の二人の笑い声が大きくなる。
 本当におかしくて笑っているけれど、笑うのを止めると、すぐに涙が出そうだった。

「お前・・、これっ・・・、餞別のリクエスト・・・おかしくねぇ? これ・・・、西中トリオの別れの・・品? これが?・・腹いてぇ・・。」

 茶色い紙袋を、大樹が腹を押さえて笑いながら手渡す。
 中身は二人とも知っている。ローターという大人の玩具だった。
 大樹が紙袋の外に持っていたリモコンを押すと、中から低い振動が断続的に聞こえ始める。

「ははははっ、お腹痛い。・・・要るんだもん、しょうがないじゃん。」

 二人でしゃがみこんで、笑い転げた。
 しばらく地面に手をついて、爆笑する。西中学校の放課後が帰ってきたようだった。
 ようやく落ち着くと、大樹が立ち上がって、膝の土を払った。

「じゃっ、俺、行くわ。なんかさ、昨夜オヤジが言ってたぞ。危険なウイルスが出回ってるせいで、東京が封鎖されるかもしれないらしいってよ。お前んち、両親が先週末から明後日まで広島だろ? 家出するにしても、どっかで連絡入れた方がいいぜ。」

「大ちゃん・・・。ありがとね。」

 中学1年生の時は、八木原潤也は上里大樹を「大ちゃん」と呼んでいた。
 なぜ今、またその呼び方がしたくなったのかはわからない。
 大樹はまるで潤也に顔を見せないように、クルリと背を向けた。

「色々捨てるつもりで、家出するんだったら、支倉だけは守りきれよ。・・・ってうちの家族もそのうち都内を出て、お袋の実家にでも移っちゃうかもしれねぇけどな。また、どっかで会おうぜ。」

 大樹が足を高く上げて、マウンテンバイクに乗り込む。

「じゃあね、大ちゃん。」

 潤也が自転車で走り去ろうとする背中に声をかけると、大樹は振り返らないまま、手もとのベルを二回、チリンチリンと鳴らすと、手を上げて振って見せた。


 明日、この家を真弓ちゃんと二人で出よう。
 決心しながら、潤也が力強く握り締めた紙袋は、断続的に振動を繰り返していた。


。。。



 赤星琴音は冷静に、しかし真剣に怒っていた。
 こんな話になっているとは、事務所から聞いていない。
 いや、事務所がこんな仕事を取ってくるはずがない。
 絶対に、現場の週刊誌サイドの悪ノリだ。

 長身で切れ長の目、端正な顔立ちの彼女が怒ると、氷のように鋭利な冷徹さを見せた。

「私は、普通の写真の撮影だとしか聞いていません。こんなお話だと、予め分かっていたら、お受けしていなかったと思います。もしそういう写真を求めているんでしたら、申し訳ございませんが、他を当たってください。私は帰らせて頂きます。」

 小太りのカメラマンが、懸命に琴音を口説き落とそうとする。

「まーちょっと、そんなこと言わずに、辛抱してもらえませんか?こっちもスケジュールがあって、締め切りに追われてるんです。大体、そちらサイドのマネージャーが今この場にいれば、誤解だ、聞いていないだって、揉める必要もないじゃないですか。そちらもプロでしょ?お願いしますよ。」

 今の一言で、完全にカチンときた。赤星は何も言わずに撮影現場を立ち去ろうとする。
 こんな人と何を話しても、埒があかない。
 私はプロだからこそ、譲れない表現の一線があるのだ。
 かつて宝塚歌劇団の月組でカリスマ的人気を誇った赤星は、演技に対する人一倍の思い入れがあった。

 両手を広げて、赤星を返すまいとカメラマンが引き止める。
 琴音は、はっきりと拒絶の意思を明らかにした。

「おこがましいかもしれませんが、私は女優として、自分の表現に、演技に命をかけています。グラビアでセクシーな写真を撮るということであっても、ツムジまでは出せません。そんな安易なかたちで官能性を売りたくないんです。何度も申しますが、私は撮影ではパイオツとワレメちゃんとケツの穴までしか、出したくありません。それでご不満でしたら、どなたか他の・・・、簡単にツムジまで写させるような人とお仕事をして下さい。マネージャーや事務所サイドの人間が、一人もこの場に来ていないことは謝ります。でもしつこいようですが、私は、パイオツ・ワレメ・ケツの穴を出すまでの撮影しか出来ませんっ!」

 これだけ言い切ったら、だいぶんスッキリした。
 ひょっとしたらカメラマン(笹沼・・・さん?高名な人らしい)は、私を大女優気取りの高慢な女だと思っているかもしれない。
 しかし、舞台女優・赤星琴音にとっては、ツムジは譲れない大事な一線なのだ。

 勝気な彼女は、場の雰囲気が悪くなるのも恐れず、思うところを述べた。

 彼女が両手を腰に当てて見下ろすと、笹沼カメラマンは意外にも、黙って嬉しそうに、何度も頷いていた。

「ウン・・・。わかりました。そこまで仰る貴方の『表現』に、いっそう興味が沸いてきました。男性の欲望を安易に掻き立てるために、即物的にツムジを出すのでなく、パイオツとワレメとケツの穴だけで、セクシュアリティを表現する。難しいかもしれませんが、貴方にそこまで言われると、挑戦してみたくなりました。」

 急に赤星琴音の強張った気持ちが氷解する。
 先ほどまでの怒りとのギャップのせいもあるかもしれない。
 急激にこのカメラマンに対して、親近感が沸いてきた。

「わかって頂けたんですか?」

 至近距離に近づいて、笹沼カメラマンの両手を取って握り締めると、彼は一瞬照れて後ずさるような素振りを見せた。業界人らしくない反応だ。
 ニッコリと微笑んで頷いたカメラマン。もう、何の心配もいらない。
 後はプロの仕事をするだけだ。
 赤星は元の位置に駆け戻って、さっそく、濃い藤色のノースリーブ・ブラウスを脱ぎ始めた。
 黒のスカートを下ろすと、ツムジが見えないように髪を上で止め、シックなデザインのブラジャーとショーツを、抵抗もなく脱ぎ捨てた。

「よろしくお願いします。私もああ言った以上は、絶対に、このパイオツと、このワレメちゃん。そしてこのケツの穴だけで、ツムジを越えるエロティシズムを表現して見せますっ。」

 根が真面目で一本気な赤星琴音は、先ほどまでの怒りとは裏腹に、今度は「自分の女優道の強力な理解者」の前で、精一杯のセックスアピールを見せてやるという決意に燃え上がっていた。
 笹沼に宣言しながら、ツムジ以外を惜しげもなく曝け出す。
 順番に乳房と、股間の秘密の場所と、菊の門を、指差し、両手で持ち上げたり開いたりしながら、カメラのレンズの前に差し出す。

 カメラマンが、笑いを噛み殺すように、口の横を歪ませているが、琴音は気にしない。
 出会い頭の衝突から、急に一致団結した赤星と笹沼。
 今から二人の、安易なエロとは一味違う、品格のある官能性表現への二人三脚でのチャレンジが始まるのだ。
 カーペットに腰を下ろした赤星は、左足を横に、右足を高く上に突き出して、足を「Lの字」に開いた。よじれて開く股間には、黒々とした茂みの中に赤い粘膜が口を出していた。
 フラッシュの光を浴びながら、赤星琴音は自分の表現力をどんどん確信していく。

 舞台映えする、スレンダーな長身。日本人離れした、くびれと胸、この見事な凹凸。
 カメラマンが唾を飲み込みながら、激しくシャッター音を鳴らした。

 笹沼さん・・・読者の皆さん・・・見て。
 ツムジなんか出さなくたって、女はこんなに男を魅せることが出来るのよ。
 安っぽいポルノなんかには表現出来ない、一流の艶技がここにあるの。
 赤星は笹沼のリクエストするまま、Cカップの乳房を持ち上げて、乳首に舌を伸ばす。
 乳首を舐めながら上目遣いでカメラを見ながら、挑発する。
 また腰を下ろすと、両足を「Vの字」に上げ、笑顔で大陰唇を左右に大きく引っ張った。
 奥までアップで撮られる。琴音が得意気にウインクしてみせた。


 アイコラサイトに掲載するネタはずいぶん集めることが出来た。
 満足した笹沼は、次々と女優たちを玩具にして弄ぶ。

 朝の連続TVドラマで主役を演じた安城まどかは、指示を与えられると、喜び勇んで、お盆二つを駆使して、裸踊りを披露してみせた。
 自分の出身県が誇る、伝統芸能だと信じて、嬉しそうに全裸で踊りに興じる。
 バラエティ番組での活躍も増えている初瀬美緒は、偽のCM撮影に取り組む。
 とっておきの「美緒スマイル」を見せつつアソコを弄くると、溢れ出る愛液をかぶった指を二本、口に入れて、カメラに微笑む。
「ラブジュース。ついに、出ました。濃厚な、大人の味です。」
 高い好感度を誇る、初瀬の笑顔は、下品な宣伝の撮影であっても、変わらず輝いていた。

 そして笹沼は、本日のメインディッシュを眠りから開放しようとする。

。。。



 高階凛は、まだ半分夢見心地のようなボンヤリとした頭で、ベッドの上に立っていた。
 さっきは、嫌な夢を見た。なんだか少し気味の悪い男のマンションに、何かの間違いで入っていく。そこには他にも、以前お仕事でご一緒した、琴音さんや美緒ちゃん。
 そして、「若手女優三人衆祭り」と題した特番で、京香ちゃんとの三人で美瑛にロケに行ったことがある、安城まどかさんがいたような気がする。
 何か、男の人が言ったところで、凛の目が覚めた。
 今はリラックス出来る安全な寝室に、一人でいる。

(嫌な夢を見ちゃったわーん。
 気晴らしに、スッポンポンになって、オナニーにでも励もうかしら。凛の大好きなオナニー。)

 高階凛は、自分の考えに、仰天して顎が落ちそうになる。
 彼女は自分のことを「凛」と下の名前で呼んだりしない。
 ましてや、オナニーなんて・・・、したことがないとは言わないが、別にそれほど好きでもない。
 しかし、自分の考えに逆らうことも出来ない。
 フワフワしたシルエットのチュニック・ワンピースを、すこし躊躇いがちに脱いでいく。

 白と淡いピンクの刺繍が入った、可愛らしいデザインのブラジャーが、露わになる。
 近くでなぜか男の人の激しい息遣いと、シャッター音が聞こえるような気がする。

 なんで急に私、裸になりたいだなんて思ったんだろう?
 眉をひそめ、疑問に首をかしげながら、膝下ほどまでの丈の、グレーのデニム・レギンズをゆっくり下ろしていくと、上下揃いの、下着姿になってしまった。

(さぁ、さぁ、オナニー、オナニー。ハッスル、ハッスル。)

 自分の考えが、止められない。
 こんなこと思いたくもないのに、高階凛の脳裏に、力強い考えが思い浮かぶと、高階は今、自分が思った通りに行動する。当たり前のことだ。
 たった今、オナニーにハッスルすると、自分で決心したのだ。
 一抹の不安と疑問をおぼえながらも、高階凛はブラジャーをズラして、胸を触り始めた。

 水を弾くような、20歳の溌剌とした肌が、ピンク色に染まり始める。
 凛の鼻息が深くなった。
 デジタルビデオカメラと一眼レフの前で、半裸のCMクイーンが自分の胸を揉んでいる。
 ハッスルしなくては、という自分の思いに押されて、ブラジャーを放り出すと、普段よりも大胆に胸を揉みしだいた。

 飛鳥井京香が幅広い年齢層の男女から人気を博しているのに対して、連続ドラマと恋愛映画で立て続けにヒットを飛ばした高階凛は、若者からの支持が圧倒的だ。
 現在CM契約は11社。主演ドラマは平均視聴率が20%にも届く。
 名実ともに、京香と肩を並べようとしている、いま、旬のアクトレスだ。
 その彼女がたった今、見知らぬ男の前で、パンツ一枚で自分の乳首をこねくり回していた。
 サーモンピンクだった乳首が、紅を塗ったように赤みを帯びて膨らむ。

「あら?今、私の頭の上に、女性のアソコみたいなものが浮かんでるわ。なんだろう?面白いわねー。」

 笹沼が、ゾッとするようなオンナ言葉で喋ると、高階は、それがまるで自分の考えのように振る舞い、反応する。
 彼女は今、自分の胸を弄くる手を休めないまま、上を見上げて怪訝な顔をしてみた。

「よーし、思い切って舐めてみよう。・・・あらーん。自分のマンコに、舐められる感触があるわ。これ、超便利。一人でクンニオナニーよ。」

 ベッドの上で、足を開いて膝立ちになった彼女は、両手は胸から話さずに、上を向いて、舌を出す。天井に向けて温かそうに湿った舌を、小さな口から突き出すと、その舌が、空中で前後、左右に曲がりくねり始めた。
 何にも触れられていないはずの腰骨が、彼女自身の舌の動きに合わせて、ヒクッ、ヒクッと反応する。

「楽しーい。気持ちいいー。クンニオナニー・パラダイスよー!」

 笹沼がおどけた声を出すと、舌を突き出したままの、高階の美貌が、少しだらしのない笑みで緩んだ。
 斜め上から撮影している彼女の表情は、目尻が下がって、少し鼻腔が膨らんで、口もとが笑いながらも舌を限界まで突き出す。その先端で何かを突いているような動き。
 股間にレンズを向けると、白とピンクの上品なショーツが、しっかり濡れて肌に張りつき、アンダーヘアーの黒さを透けさせてしまっていた。

「だけど、何か物足りないわねー。どうも何か、邪魔な膜越しに触れてるみたいな、この歯がゆさ。もっと気持ちよくなるには・・・。あ、わかっちゃったわん。」

 嬉しそうに頷いた高階は、笹沼からはまだ、直接そんな指示も暗示も与えられていないのに、納得の表情でソソクサとパンツを脱ぎ去った。
 日本を代表する若手女優の股間に、笹沼が近づいて匂いを嗅ぐ。
 手にしていた下着を、何者かに強引に奪われて、高階凛は一瞬、驚いたような表情になる。
 しかし、周りに誰もいないことを確認すると、再び上を向いて、舌を出す。
 もはや笹沼は何も言っていないのに、凛は勝手に股間を痙攣させ、切なそうに声を上げる。少しすると、真顔になってうつむいて、独り言をつぶやいた。

「すっごい・・。 パ・・・、パラダイス・・・。これって、本当に・・・、パラダイスだわん。」

 自分の考えだと思い込んでいるうちに、口調まで、笹沼の稚拙なオンナ言葉に影響され始めていた。

 今度は満面の笑みでさらに激しく舌先を前後させ始めた。
 口もとから、舌が振動する音がピタピタと聞こえてくる。
 腰骨が、特に恥骨の辺りが、弧を描くように前後している。
 両手はまだ、「オーケー」サインをするような形のまま、乳首を人差し指と親指で摘まんでいた。
 演技でも、濡れ場シーンなど考えられない、清楚なイメージのアクトレスが今、カメラの前で細かい指示も必要とせずに、自慰行為に耽溺していた。

「おぉーう、ベロを使わせると、いい感じにエロいねー。こりゃ、後で全員参加かな?」

 笹沼が色々な角度から、全裸の高階凛を激写しながら、笹沼が呟く。
 そろそろ、この豪華なキャストをフル活用したコラボレーションを見たくなってきた。


。。。



「はいはーい。いい感じだね。僕が今度、左って言ったら、四つん這いのまま、左の人のマ○コを舐め舐めしましょう。はい、左っ!」

 這いつくばった女優たちの列が、慌てて向きを変える。
 四つん這いの高階凛のプリプリとした尻の谷間に、同じく両手をカーペットについた安城まどかが、大胆に顔をネジこむ。
 高い鼻で肛門をグリグリと刺激しながら、舌を伸ばして、ヴァギナを舐めようとする。
 そのまどかの尻には初瀬美緒が、そして美緒の小さな尻には、赤星琴音が顔を埋める。
 全員で前の尻と秘部を舐め上げる。
 かすかに正常な意識の残っている凛は、心の中で悲鳴を上げた。

「はい、右!」

 今度は高階凛が、体を回転させた安城まどかの尻の谷間に顔を突っ込む。
 まどかは美緒の、美緒は琴音の尻に顔を押しつけて、鼻先でアナル攻撃、舌を伸ばしてヴァギナを責める。カメラの前でも全く躊躇せずに、四つん這いの女優たちは互いの性器と排泄器官に顔をつけて愛撫する。

「ほら、お尻を左右に振ってみようか、プリン、プリン、プリン、プリン。楽しくなってきたでしょ?」

 前の人がコミカルにヒップを振り振りすると、後ろの女優の顔も左右に振られてしまう。
 顔の動きと自分の尻の動きが連動して、おしとやかな美女たちはみんな、笑いを漏らしてしまう。
 肛門付近で笑う、後ろの人の息がかかると、快感にくすぐったさが加わってしまう。
 凛も、こんな姿をカメラに収められるのは死ぬほど嫌なはずなのに、なぜか楽しくて笑いを漏らしてしまう。
 全裸でクスクス笑いながら、自分の尻を躍動するように振って、他人の尻に顔を埋めて性器に舌を伸ばしている自分。
 こんなテープが外に流れたら、一生家から外に出られなくなってしまう。
 そう思いながらも、凛は、口の中に入ってくるまどかの陰毛に構わずに頑張る。
 チーズのような匂いが漂う、彼女のヴァギナに懸命に舌を伸ばした。
 連ドラの女王と名を馳せる人気女優のアナルからは、苦味と酸っぱ味の混ざったような匂いが、凛の清らかな鼻を突いた。

「よし、右手と左膝から、交互に前に進もう。それ、ワン、ツー、ワン、ツー。はいまたお尻振ってー。今度は左に向きを変えよう。そして顔をもっと下に入れて、ヴァギナをしっかり舐めましょー。お尻もっと突き上げて、クリトリスを吸ってもらいましょうね。」

 ダンスのレッスンのように、手を叩いて拍子を取りながら、笹沼が指示を出す。
 自分で言いながらノッてきたのか、体を揺すって、ステップを踏みながら指揮をする。

 まどかにクリトリスを吸われて、凛が背筋を弓なりにして喘ぐ。
 それでも膝を大きく開いて、高く突き上げた尻を引っ込めることが出来ない。
 凛は口を大きく広げたが、目がチカチカするような快感に、声も出ない。
 まどかも美緒も、自分のクリトリスを強く吸い上げられて、痙攣するような快感を感じている。
 それに耐えるための力みが、思わず前の女優を吸う、自分の口の力に繋がってしまうのだ。

「チューーーゥゥウウッ、ッパーッ!と、4拍目で吸い終える。」

 クリトリスを限界まで吸い上げられて、突然離される。
 全員がオッパイを揺すって悶える。凛と美緒は、もう小さくイってしまっていた。

「はい、振りは覚えたね。じゃー、本番。心の底から楽しんでいってみよう。3、2、1、スタートッ!」

 本番だと言われて、慌てて立ち上がる。
 軽くオルガズムの余韻に浸っている凛と美緒も、なんとか立ち上がって、4人の人気女優たちが横一線に並ぶ。
 初瀬美緒は、鼻の頭が黄土色に汚れてしまっていた。
 全員、隣同士でつなぎあった手を、ブンブンと前後に振りながら、笑顔で台詞を言う。

「私たち4人は、とても仲良しです。仲がいいので、こんなことも出来ちゃいます。」

 ちゃんと全員同時に叫ぶことが出来た。
 さすがはプロの役者揃い、即興の演出を全て覚えて正確に再現出来る。

 幼稚園のお遊戯で使うような、ホノボノとした明るい音楽が流れ始めると、女優たちは四つん這いで一列になって、連結する。
 先頭の凛は曲のリズムに合わせて左右に首をかしげながら、カメラに笑顔を振りまく。
 もはや凛も、楽しくてしょうがなくなっていた。誰にもこの時間を止めてもらいたくない。
 一生こうして仲良し4人組で、カメラの前で股間を舐めあっていたい、とすら思えた。
 カメラがゆっくりと右に流れると、その凛の尻に顔を埋めるまどか、残りの二人が撮られていく。
 曲に合わせて全員がターンして向きを変えたり、尻と首を振ったり、列を崩さないように部屋をグルリと回ったりする。
 またターンをした瞬間に、凛の後ろになったまどかが、コッソリと告げる。

「凛ちゃん、しょっぱいし、ドロドロ。さっきまた、イッちゃったでしょ。」

 口を開けて笑顔でカメラに媚を売りながらも、高階凛の顔は湯上りのように赤くなる。
 一言、言い訳をしようとしたのだが、まどかがまた、強く彼女のクリトリスを吸い始める。
 凛の、話をしようと開いた口が、タコの口のように前に突き出て、快感の突風を耐え凌ぐ。
 顔をクシャクシャにしてのけぞった彼女は、言い訳しようとした矢先にまた、まどかの顔に熱い粘液を噴きかけてしまった。


「お宝動画」の作成に満足した笹沼は、撮影を終えて、4人の女優とのお楽しみ本番に突入する。
 4人が舌を出して同時に行なう、合同フェラ。
 彼の股間にまとわりついた美女たちが、愛しそうにペニスに群がる。
 まるで彼のモノを介して、アクトレスたちがディープキスをし合っているような光景だった。
 全員の唾液が混じりあい、彼のいきりたったモノを満遍なく濡らす。
 凛、美緒、琴音、まどかの順に、笹沼の白濁した性を、100万ドルの美貌にかけられる。

 ドラマの、銀幕の、舞台のスターたちを3人、全裸のまま川の字に並んで寝かすと、その上で残りの一人と激しいセックスを始める。
 ヒロインたちの肉布団に遠慮なく体重をのせながら、笹沼が一人ずつ、交わっていく。
 この美人女優たち全員が、電話一本で飛んできて、俺の忠実なペットになるんだ。
 そう思うと、それほど精力が強いタイプではない笹沼も、余裕で4回のセックスをこなすことが出来た。
 シンプルな仕組みのサイトを管理する役得としては、あまりにも巨大なプレゼントだった。


。。。



「真弓ちゃん。大樹に頼んでおいたの、ちゃんと持ってきてくれたよ。これから真弓ちゃんの家に寄って、出発の準備をしよう。」

 潤也が階段を上りながら、話しかけると、支倉真弓が乱暴に潤也の部屋のドアを開けて、駆け下りてくる。

「ありがとー。でも多分、明日出発なんて、言ってられないよ。」

 帰宅の準備をするように言っておいたのに、真弓はTシャツを一枚羽織っているだけだった。
 潤也の手から紙袋をふんだくると、潤也の手を引いて、2階の彼の部屋へまた、駆け上がる。
 彼の部屋では、小型のTVが電源を点けてあった。
 周りには、映画のDVDが散乱している。

「ごめんなさい。でも・・・潤也君が戻ってくるのが遅いんだもん・・・。ひょっとして、エッチなDVDでもあったら見たいって思って、TVつけて、ディスクケースを勝手に引っくり返しちゃった。」

 真弓があっさりと言う。
 間違って、おかしな「指示」を真に受けたりしないよう、彼女には、「不要にTVは点けちゃ駄目」と言っていた。その数日前の彼の言葉を振り切るほどに、彼女の性欲は強まっているようだ。
 まるでトイレを我慢するように、その場でトントンと足踏みしながら、紙袋を破り捨てて、ローターを取り出す。
 最初は慣れない使い方に苦労しながら、自分で電源を入れてアソコに挿入しようとする。
 その作業の途中にも、平然と潤也と話す。

「そしたら、DVDどころじゃないの。ほら、このニュース。見て。」

 潤也が、真弓の指し示す画面に目を向けたが、はっきり言って、何も見えなかった。
 画面全体が、粗いモザイク処理をされていたからだ。


 『繰り返します。東京都練馬区から中野区にかけての各所で、路上での集団猥褻行為が多発しています。
 全裸の若い女性が大勢で、道を行く男性に襲いかかって、公序良俗に反する行為に及んでいます。
 現在、警官隊が出動して保護に当たっていますが、裸で走り回っている女性の数が、どんどん増えています。
 レイプされかかっている男性警察官もいます。
 非常に危険ですので、外出を控えてください。
 まもなく機動隊と放水車が出動するという情報が、先ほど現場に入ってきました。
 繰り返します。大規模な公然猥褻事件が、連鎖しています。
 場所は、中野区から練馬区にかけて、・・・先日新種のウイルス感染のニュースが流れた、練馬区光が丘、春日町、豊島園周辺、そして中野区鷲宮付近です。』

 潤也はテレビの前で愕然として立ち尽くした。

「あれっ?さっき、モザイクなしで、写ってたのに。もー。見えないよ。裸が見えない。おチンチンが見えない。見たいよー。」

 駄々っ子のようにピョンピョンと飛び跳ねて、真弓が角度を変えて画面を覗き込んだり、目を細めたりしている。しかし、ローターの電源が入ると、やっと彼女も落ち着いた。

「潤也君・・・。私も、さっき写ってた女の人たちみたいに、おかしくなっちゃう・・・。早く、人が少ないところに、逃げよう。機動隊が出るとか言ってるし、私の家、多分たどりつけないよ。」

「そんなこと言っても、真弓ちゃん、服とか、何の準備もまだ・・・。」

 真弓がギュッと、潤也の体を抱きしめた。Tシャツの下に、ブラをつけていないことがわかる。

「何にもいらない。潤也君と・・・・、あと、これがあれば、身一つで生きていける。私は大丈夫。潤也君が私なんかでいいのなら、東京を離れて、二人だけで生きていきましょ。」

 潤也は、真弓の頬に、自分の頬を合わせて、強く抱いた。
 目を閉じて、二人で不安を掻き消すように抱きしめ合った。

「行こうか・・・。真弓ちゃん。でも、身一つで生きていけても、服はちゃんと着ようね。」


 天体望遠鏡を買う予定だった、8万円が潤也の軍資金。
 梅雨のオフシーズンなら、3週間ぐらいは山のペンションに泊まれるはず。
 後は、どこかで働かせてもらおう。
 それと・・・、潤也は宝物の新型ゲーム機とソフトをリュックに詰める。
 これらも売れば、食費や移動費の足しにはなるかもしれない。

 電話でタクシーを呼ぶ。
 高い移動費は痛いが、少なくとも東京を出るまでは、公共交通機関で人ごみの中に真弓を晒す自信がなかった。

 真弓が、スカートはバッグにしまい、潤也のチノパンを借りて穿く。
 裾を折り返して、長さを調整すると、何度もズボンの上から股間を確認して、ローターの位置、角度を調整した。

 いよいよ家を出るという時になって、辺りを見回すと、急にまた、涙が出そうになる。
 リビングの食卓に、書き置きをした。

 【お母さん、お父さん。絶対に守りたいものがあるので、しばらくの間、家を空けます。これは誰のせいでもなくて、僕のせいです。突然ごめんなさい。絶対に帰ってくるので、心配しないで下さい。探さないで下さい。今まで本当にありがとうございました。】
 もう絶対に離さないつもりで、真弓の手を強く握り締める。
 家の外に、車が停車する音がした。


。。。



「かかったぞ!」

 中継ブースのなか、ずっと腕組みをして黙りこくっていた都筑が、突然大きな声をあげる。
 北峰が椅子から転げ落ちそうになった。

「ど・・・、どうしたんですか?都筑さん。」

「27番の画面。これまでの30秒の映像を保存してくれ。そのあと、拡大して、スローモーションで流せるか?」

「そりゃ・・・、それぐらい簡単ですが、何か写りました? えーっと、27番は、国土交通省の職員通用口ですね。」

「やっと、かかってきおった。これで・・・、奴らの動き方。作戦がわかるかも知れん・・・。」

 拡大された映像にはただ、自動ドアが開いて入ってきた官僚が、他の役人に親密そうに話しかけている映像が大写しになっているだけだったが、都筑巡査長は、立ち上がったまま、動こうとしなかった。

 
 


 

 

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