ビールス・パニック


 

 

第8話


 八木原潤也は何かしようと中腰になりながらも、どう対応していいのかわからなくて、うろたえるばかりだった。

「真弓ちゃん、そんなに・・・、そんなに何度も出来ないよ。どうしちゃったの?」

 真弓は裸のまま、絨毯の上でしがみついて、潤也を離そうとしなかった。

「ね、もう一回だけ、出来ない?私もっと頑張るから。もっと潤也君を気持ちよくさせられると思うから、もう一回だけしようよ。お願いっ。」

 至近距離から潤んだ赤い目で潤也を見上げる。
 甘えた声でオネダリする真弓の様子は、ここ数日の真弓よりもいっそう、性欲にとり憑かれてしまったような、迫力があった。

 真面目で男性関係には奥手だった真弓を、おかしな「風邪」を利用して操り、潤也の前でだけ性に対して積極的になる、エッチな彼女に仕立て上げてしまったのは彼自身だ。
 しかし、今朝からの真弓は、潤也が困惑してしまうほどの貪欲さを見せていた。

「そんなこと言ったって、5回も6回も、連続で出来ないよ。さっきだって僕、イってもほとんど出なかったし、もうしばらくは立たないと思う。」

「えーっ、もっとしたい〜っ。」

 眉をハの字にさせて、真弓が不満の声をあげる。
 ベッドから出ようとした潤也を絨毯の上に押し倒したまま、真弓は彼のペニスを指の長い綺麗な手でシゴき始めた。

「どうしよう・・・、私、すっごいエッチな子になっちゃった。もう・・・、セックスのことしか、考えられない・・・。潤也君、私のこと、嫌いになった?」

 首をかしげて潤也に問いかける真弓。
 激しい行為のあとでも、一晩中抱き合った後の朝でも、真弓の綺麗な顔は全く魅力を損なわない。
 誰もが振り返るような美少女に抱きしめられ、モノを愛撫されながらそんなことを聞かれて、「嫌いになった」と言えるような男はいないだろう。
 潤也は困りながらも、真弓のしたいようにさせてしまう。
 くたびれて、うなだれていたペニスが、しぶしぶ立ち上がろうとする様子がわかる。

「嫌いになんて・・・、ならないよ。ただ、真弓ちゃんが心配なんだ。」

「私の心配なら、大丈夫。今、とっても嬉しいもん。こんなことも出来ちゃう。ほらっ。」

 一瞬体を離したと思ったら、真弓は潤也の下半身に顔を近づける。
 まさか、と潤也が戸惑っているうちに、真弓は潤也のペニスにキスをして、半立ち状態のモノを大切そうに、小さな口の中に含んだ。
 まるで赤ん坊が哺乳瓶からミルクを飲むように、両手をペニスの根元に添えて、無邪気な表情でモノを口で愛撫する。

 数日前、調子にのった潤也は一度、真弓にフェラチオをさせようとした。
 従順な真弓が何の疑いも躊躇いも見せずに、フェラチオを始めようとしたその時に、彼の罪悪感が性欲に打ち勝って、潤也は真弓を止めた。
 その時のことをどう記憶していたのか、真弓は今、何も言われなくても自分からフェラを始めていた。
 まだ、どのようにすればいいのかもよくわかっていない、稚拙な舌使いだったが、ずっと憧れてきた天使が自分から、可愛らしい唇を潤也の体の、中でも取り分け清潔ではない一部分を口に含んで愛撫している。
 そう思うと、しなびたように横たわっていたはずのモノが、急にまた復活を遂げて、固く勃起しようとする。

「そんなに・・・、そんなにまでして、僕とセックスしたいの?真弓ちゃん。」

「フン。」

 口にモノを入れたまま、くぐもった声を漏らしながら、真弓が頷く。
 潤也の言葉への従順な反応を超えて、支倉真弓が変貌を見せ始めていた。


。。。



 『深夜の内には、関東地方全域にまで、梅雨前線が張り出してきます。
 いよいよ、本格的な梅雨入りですね。』

 カメラ目線で、お天気お姉さんが解説をしている。
 月見そばをすすり上げながら芹沢隼人が、見るとでもなく、画面を眺めている。
 カウンターの隣では、芳野が大学ノートを広げて、昨日までの調査結果を整理していた。
 最初は芳野にとって戸惑うことばかりだった芹沢との捜査も、6日目ともなるとだいぶん慣れ始めていた。
 立ち喰いそば屋での朝食も、既に堂々としたものだ。

「雨が多くなると、足を使った捜査はしんどいなー。」

「ボヤかないで下さい。雨ぐらいで・・・。私は、厳重なマスクも防護服もなしで、未解明のウイルス事件を捜査しているってことの方がよっぽど嫌なんですけど。」

「しょうがないだろ、公安警察はパニックを起こすために動くんじゃない。パニックを抑えるために動いてるんだ。派手な格好なんて出来るか。ハンカチで口を押さえて歩いてくれ。」

 芹沢警部補は行儀悪く、一旦割り箸の柄の部分で頭を掻いてから、また月見そばをすすり上げる。
 芳野分析官はそれを見ないようにしながら、ノートの確認を続けつつ話した。

「例の一昨日発見された、MC−A群の亜種。皮膚からの接触感染もあるみたいですよ。ハンカチだけじゃ、身を守れませんよ。ま、もっとも、芹沢さんを行儀良くしてくれる洗脳ウイルスが見つかったら、感染させたいところですけどね。」

 芹沢は肩をすくめながら、少しだけ芳野の様子に目をやる。
 塞ぎこんでいた土曜日の様子からすると、二日たって、ふっきれたように見える。
 しかしその、急に針が振れたような活発ぶりもまた、彼女の恩師、樋口博士の死への動揺の一部のようで、芹沢にとっては少し心配だった。


 金曜日の晩、芹沢は板倉を押し切って、泣きじゃくる芳野を連れ、警察病院へと足を運んだ。
 霊安室に横たわる樋口耕蔵の遺体は、思ったよりも若く見え、老博士というよりは、定年間際のサラリーマンのような顔つきをしていた。

 その脇で泣き崩れていた芳野渚は、そこで初めて芹沢に、ある告白をした。
 芳野は4ヶ月前に一度、科警研の研究室に、樋口から自分宛に留守電を受け取っていた。
 芳野に折り返し電話をするよう求めて切れていたその伝言を、芳野はしかし、無視した。
 元恩師の相次いだスキャンダルのせいで、キャリアの上でも随分と苦労をさせられた彼女は、忙しさも理由にしながら、樋口と会話することを拒否したのだ。

 そのことが今まで、芳野渚の心に引っかかっていた。もしもあの時、樋口と話していたら、彼はこのような暴挙に出ることはなかったのではないか・・・。
 生真面目な芳野は、そんな不毛な仮定を否定しようとする芹沢の慰めを振り切って、一人で警察病院を後にした。タクシーを拾って一人で帰ったらしい。


 次の日は1日中だんまり。その次の日も、心そこにあらず。
 そして月曜日はこの活発さだ。
 他人の心持ちには普段無神経な芹沢も、さすがに心配しながら、行き場のない視線を、再びテレビの画面に向けた。

 『今夜は湿度も高く、気温も高いままになるため、寝苦しい夜になりそうです。』

 月曜日のサラリーマンたちが、慌しく店内を行き来する。
 その働く男たちに活力を与えるように、テレビの中のお天気お姉さんは微笑んでいた。

 『どれぐらいジトジトするかと言いますと・・・。これぐらいですっ!』

 若いお天気キャスターが、清楚なキャラクターに似合わない大声を出すと、カメラの前で、突然スカートを捲り上げた。
 屋外で天気予報をしていたキャスターはなんと、スカートの下には、肌色のパンティストッキングしか身につけていなかった。
 パンストに張りつくように押し込められている陰毛が大写しになる。
 パンストの股の部分は若干濃い生地になっているのだが、それでも割れ目から顔を出す、ピンクのプラスチックらしき物体が振動しているのが朝のテレビ画面にしっかりと写し出された。

 カウンターの男性客たちが、全員同時にそばのツユを噴いた。
 店員の白い制服に麺を飛ばすほど噴き出した者もいる。
 芹沢も、そばの麺が気管に入って、大きくムセた。
 フジヤマTV・朝の顔として売り出し中だった、お天気キャスター・石嶺こはるが起こした、大放送事故だった。

 芹沢警部補が、ノート整理を続けようとする芳野分析官の襟首を引っ張りながら、店を駆け出る。
 店内の壁高くに設置されているテレビの下に、客が殺到するが、画面には、「しばらくお待ち下さい」というロゴと、河口湖の爽やかな風景映像しか映っていなかった。


。。。



<報告書 ヒグチ・ウイルスMC−A群について (その5)>

 X.ウイルスMC−A群の分類

 RNAウイルスの中でも分裂速度と変異の発生率が高いMC−A群は、
 数種類の亜種をわずかな期間で生み出した。

 2008年6月6日に死亡した樋口耕蔵が、死の直前に生成、散布を認めたとされるMC−A2(通称:ドジッ娘ウイルス)が最も感染拡大が早い種だったが、特徴的な亜種の安定増殖もほぼ同時期に確認された。
 これら亜種はしかし、一部は人工的に遺伝情報が操作された形跡もあると言われ、樋口の助手であった諏訪岳人の生成の可能性を指摘する声もある。

 a) MC−A3

 通称・エロッ娘ウイルスと言われるこのウイルスは、MC−A2感染患者が感染期間末期に見せる、淫乱化の症状とよく似た症状を見せるが、時期が大きく異なる。

 A3は驚異的な即効性を見せ、数秒から数分で感染者の視床下部での性ホルモン過剰分泌を促す。体液感染の他に飛沫感染も確認されているが、空気中でこのウイルスが活動を続けられる時間(増殖機能を保持できる時間)は非常に短い。
 体液感染(特に性交渉の際の精液・愛液を感染経路とした感染)が、最も確度の高い感染経路である。

 この感染経路と、症状である淫乱化との関連性を指摘する声は多い。
 ウイルスにとって、種の拡大の確立がより高い、性交渉による新たな宿主との接触を作るには、現在の宿主の性的欲求を高め、暴走させることは理に適っていると言える。
 MC−A2の末期に置いても、これと同様の現象が起きているのではないかと主張する研究者もいる。1ヶ月を待たずに、同じ宿主の体内からは活動出来なくなってしまうMC−A2ウイルスも、死滅直前に新たな宿主との確実な接触を求めて、宿主の性欲を急激に高めるのではないかという見解である。

 一方で、このウイルスの塩基配列に見られる、やや単純な配列構造から、MC−A2を基に諏訪岳人が手を加え、即効性を人工的に高めた、道具としてのウイルスだったとする説も唱えられている。

 b) MC−A4

 通称・変態ッ娘ウイルス。MC−A3と同様に、感染者の性的欲求を加速させるこのウイルスはしかし、A3よりも長期的な潜伏期間、症状の進行を見せ、当初は症状もA3ほど劇的な変化を伴わない。
 しかしA4の危険性は、感染者の性欲増進とともに、嗜好性、信条的といった当人の性格を歪ませてしまうことにある。

 通常の健全な人間にも、嗜好や好みの傾向は多様に存在し、その個人の性格を形作っている。
 A4はこれを、1週間程度の潜伏期間を経て、じっくりと確実に、捻じ曲げてしまう。
 感染者がこれまでの成長過程で作り上げてきた、報酬体系を混乱させることで、宿主を倒錯的な異常行動に走らせる。
 日本で最も有名になった症例が、当時フジヤマTVの朝の番組に出演し、アイドル的人気を博していた気象予報士、石嶺こはるである。
 2008年6月9日に放送事故を起こし、政府のヒグチ・ウイルス統合対策本部の保護の下、緊急入院となった彼女の診断結果は、ヒグチ・ウイルス亜種の感染による、性格異常。
「恥かしい」という感情と「嬉しい・楽しい・大好き」という感情の逆転であった。
 彼女はテレビで不祥事を起こした前夜には、全裸の体にトレンチコートだけを羽織って、ラジカセを担いで、有名なJ−POPデュオ(元は3人編成)の曲をかけながら、街を徘徊していたことも、後に発覚した。


 MC−A4は他のMC−A群と異なり、他者の指示に盲従するような批判的判断力の低下といった症状はほとんど見せない。
 一般的に、感染者は第三者には予測出来ないような、性的に倒錯した行動をさせている。
 これらの現象と、遺伝情報の塩基配列構造の親和性から、MC−A2から自然発生した、純粋な亜種という見解が主流となっている。
 自立した女性が、急に年上の男性の庇護を求め、やがてタブーを犯そうとするという、「妹っ娘ウイルス(MC−A4c)」も、この亜種の一分類と見なされている。

 c) MC−A5

 最も認定が新しい亜種で、通称を持たない。
 A3同様に飛沫感染よりも接触感染、体液感染が最も確度の高い経路だが、一次感染者は揮発性の高い保存液が蒸発する際に、気道より飛沫感染している場合が多いとされる。
 つまり最も明確な目的を持って生成、散布されているウイルスという疑いが強い。
 その症状も、A3同様の急性発症を特徴とする一方で、A2の中期症状である批判的判断力の低下を、より極端に、そして発見しづらい形で発症させる。
 特に感染当初に感染者に対して下された指示、指示者に盲従するのだが、その指示の絶対的な遂行以外は、日常生活にはこれといった支障を見せない。

 感染当初の指示者の言葉に選択的に服従するという傾向も顕著である。
 指示によっては、日常生活が完全に変化してしまうが、そういった指示がない限り、感染者は普段どおりに振る舞い、与えられた指示だけは確実に遂行しようとする。
 発症期間も他の亜種に比べ、圧倒的に長いようであるが、まだ詳細は解明されていない。
(ウイルスの自己死が遺伝情報に組み込まれていない、癌細胞のような塩基配列構造から、上記の点が指摘されている。)

 一度に多数の感染者を出すことは少ないが、感染者の行動によって、より具体的な感染目標に接触し、ある明確な意志に基づいた感染拡大がされている形跡がある。
 遺伝情報の構造は、A3の基本配列を基に、人工的に手を加えられたものという分析がされている。


 これらの亜種は、感染経路、症状の違い以外にも、2008年6月に確認された感染拡大地域にも違いが見られた。MC−A3が樋口感染症予防センターの近隣から、練馬区、中野区、武蔵野市、西東京市、三鷹市と、東京都西部に感染を拡大させていったのに対して、A3、A4はスポット的に、港区、品川区、豊島区、新宿区といった、都心の中心部で感染が散発的に発見されている。MC−A5の感染は新宿区で数件確認されたが、外面的には発見が最も難しいため、感染状況の全容は把握できていないとされている。

(報告その6に続く)


。。。



「あの烏丸って男の言ってたこと・・・。本当だったんだ。」

 番組制作会社のAD、木部昭次が独り言を呟いた。
 昨夜突然、TV局に泊り込んで収録の準備に走り回っていた木部に、突然近づいた男が囁いた計画。木部は半信半疑ながらも、なぜか黒いスーツ姿の男の言葉に、従いたくなった。
 言われてみれば、普段煮詰まってくると彼に怒鳴り散らす先輩ディレクターも、今日は妙に大人しい。
 カメリハが淡々と進んで、客入れの段階になっても、いつもならばもっと神経質にサブから指示を出すはずの三上プロデューサーも、殺気立って入念に角度を確認しているはずのカメラチームも、妙に木部に対して優しかった。
 しかし、その不気味な静けさも、台本を持ってMCの稲崎理央アナと山本一平太アナが現場に入ると、観客たちの熱気が上がって、すぐにかき消される。
 本当に、例の男の言うとおり、サブも含めてスタジオ全体が、木部の支配下にあるのだろうか。

「ではよろしければ、本番始まりまーす。5秒前、4、3、・・・・。」

 木部の掛け声とともに、スタジオ全員が、セット中央の稲崎と山本に注目する。
 途中から指でカウントダウンをして、収録開始をジェスチャーで見せた木部。
 軽快なスカ・オーケストラのオープニングテーマが流れる中、クレーンの4カメが右上からセットをなめながら稲崎アナのバストショットに入った。

「皆さん今晩はー。今週も始まりました、『シャルロット!』。今週も話題のビッグゲストが次々登場。そして特集は夏先取りっ。今年流行る水着を、一足早く紹介しちゃいまーす。」

 カメラが左に流れると、坊主頭にファッショングラスの山本が画面に割り込む。

「そして11:30からは男性諸君も見逃せない。今話題になり始めている、ブレイク直前のフレッシュアイドルたちを大特集です。そして何より、今週のメインゲスト、飛鳥井京香ちゃんの本音トークも見逃すなっ。」

「『シャルロット!』始まりまーす。」

 伸びのある、稲崎理央アナのタイトルコールまでを撮って、クレーンカメラの赤いランプが消灯する。
 別撮りの録画映像が番組の目玉を紹介する。
 1カメがセット右後方に寄っていって、セット脇で待機しているゲスト。
 飛鳥井京香をアップで写す。彼女が両手を顔の横で小さく振って、カメラに微笑んだところで一旦テープを止めた。
 ここからはCMという編集になる。

 稲崎アナが数分だけスタッフと話しこんでから、収録が再開された。
 週替わりに若い男子向け、女子向けの企画を交代で放送するこの番組は、木曜22:54分からの深い時間帯に放送される番組としては高い視聴率を誇っていた。

「では、今週も素敵なゲストの登場です。今年の夏はミュージカルに挑戦、柚子原みちるさん。新曲、「アンビバレント」がオリコン・チャート上昇中、宮島カノンさん。
 雑誌で大活躍のモデル、NANAMIさん。」

 セットの左後方から、今を時めく女性タレントたちが次々と登場する。
 コールのたびに、木部はカメラの脇で、両手を高く上げて拍手をし、観客席からの拍手を煽った。
 フリルのワンピースを着て、髪を頭の上でお団子にしている、女の子らしい美少女が柚子原。
 茶髪のウルフカットで、ドレープのかかった白い服に穴あきジーンズ、右肩を出しているセクシーな女の子が宮島カノン。
 そして最後の、黒い服とタイトミニに、美脚を強調するようなブーツで登場したのが長身のNANAMIだった。

「そしてお待ちかね。本日のメインゲスト、飛鳥井京香さんです!」

 稲崎アナが紹介すると、右後方から、多少遠慮がちに、飛鳥井がお辞儀をしながら現れた。
 先の3人との別格扱いも止むを得ない。
 現在売り出し中の3人のタレントと比べて、飛鳥井は21歳にして既に、日本を代表する若手女優の1人としてのポジションを確立している。
 クオリア化粧品のイメージガールとしてデビューした彼女は、数年で国民的アイドルの座についた。ドラマ、映画での露出が増えるに従って、情報・バラエティ番組への出演は少なくなってきている。
 映画やテレビドラマで見せる、圧倒的な演技力とは違って、京香本人の性格は、大人しくて人見知りなところがあるらしいと聞いていた。
 デビュー当時は「ボーイッシュ」とも表現された切れ長の眼と透明感漂う、整った顔立ちは、20歳を過ぎて、ぐっと女性らしさも醸し出しつつある。
「隠れ巨乳」と囁かれる抜群のプロポーションもあって、今日の衣装もバッチリ決まっていた。

「飛鳥井さん、ようこそいらっしゃいました。この番組には2回目の出演ですね。」

「はい、お久しぶりです。前回は確か初めて映画に出演した時なので・・・、もう、2年半ぶりぐらいですかね?」

 稲崎アナの方を向きながら会釈をすると、光沢のある肩まで程の黒髪が、サラサラと揺れる。
 今日の観客席にいる男性客も、実は半数ぐらいが飛鳥井京香のファンクラブのメンバーだ。
 全員大いに盛り上がっている。
 根が真面目な飛鳥井は、長時間観覧を待っていたファンたちがいると聞いて、楽屋から足を運んで、みんなに挨拶をしたらしい。
 なかなか週刊誌などでは語られない、スターの素顔だが、木部は密かに感動した。
 その場は、スタッフも含めた飛鳥井京香ファンたちのための、即席握手会のような状態になったようだが、京香は嫌な顔一つせず、ファンに笑顔で接したという。
 デビュー当時、「人見知り」という部分から、素顔は気難しい女優というイメージがスタッフの間では浸透したが、大作映画でも主役を張るようになった今の彼女は、すっかりスターとしてのプロ意識と、気取らない気さくな性格とがバランスされた、素晴らしい役者に成長しているようだ。

 局の看板を背負う、美人アナとして評判の稲崎理央は、仕切りの腕も確かだ。
 ゲスト全員を、セット内の赤い革ソファーに誘導して、スムーズにトークに入った。

 メインの京香から話を引き出しながらも、上手く他のゲストにも会話のボールを振っていく。
 和やかで楽しい雰囲気のまま、番組の序盤が過ぎていこうとしていた。

「さて、続いてのテーマなんですが・・・、『京香ちゃん。お風呂で連日のぼせる!?』ですね。お風呂が大好きという女の子は多いと思うんですが、京香さん、これはどうなさったんですか?」

 山本が出したフリップにある2番目の項目のシールを稲崎が剥がすと、次のトークテーマが現れた。稲崎が台本どおりに、しかし自然なトーンで話を振る。

「あ・・・はい。あの、私、半身浴に今、ハマッていまして。よく長い時間お風呂から出てこなかったりするんですが・・・。その、最近また映画の撮影が始まりまして、結構台詞が長い役なんです。それで、お風呂で台本を読んでいると、ホントに途中で上がれなくって、いつも、のぼせるまで出て来れないんです。」

「ウフンッ、そうなんですね。そう言えば、京香さんは、秋に公開予定の新作映画で、これまでにない役柄に挑戦するんでしたよね〜。」

 マイクが、少しトーンの変わった、稲崎理央の声をしっかりと拾った。
 稲崎がソファーに座ったまま、右足を上げて、ゆっくりと左足の上に組む。
 形のいい締まった足が、太腿までカメラに写った。

 木部は、震える手でスケッチブックを掲げていた。
 スケッチブックには赤いペンで、『稲崎 もっと色っぽく』と書いてあった。
 トークは台本どおり、飛鳥井の新しい映画の話題になっている。
 共演者とのちょっとした裏話も含めて、彼女の人間的魅力を押し出すための設定にきちんと沿って進められている。
 しかし進行役の稲崎は、妙に艶かしい声になって、ソファーにしなだれかかるようにして体をゆっくりとひねっては、しなをつくっている。
 まるでクラブのホステスが社長の話を聞くような仕草だ。
 笑顔を崩さない京香だが、一瞬違和感を見せるように目を大きくしたのが見てとれた。

 木部は信じられない思いで、昨夜の黒いスーツの男の言葉を思い出す。

 【スケッチブックに赤いペンで書いて見せた言葉には、出演者は気がつかないまま、無意識のうちに従う。
 黒いペンで書いて見せた言葉は、出演者は意識しながらも絶対服従する。
 そして青いペンで書かれた言葉は出演者の考えそのものを支配する。
 邪魔するものはスタジオには誰もいない。
 番組を好き勝手に荒らして、そのまま収録してくれればいい。後のことは我々が処理をする。】

 もしも、彼の言っていたことが本当だったとしたら、番組制作の下請け会社の下っ端ADとしてコキ使われてきた木部が、突然スタジオの支配者になってしまったということになる。

 まだ半信半疑のまま、木部は他の出演者にも赤いペンで指示を振ってみる。

 『稲 もっともっと色っぽく。
 山、飛 周りの異常に気がついても、会話を止めたり、そのことに触れては駄目。
 柚、宮、NA、 視聴者にバレないように気を使いながら、オナニーをする。』

 変化はすぐに現れた。
 ロールアップされていた髪から、ピンを抜いてほどいた稲崎理央は、突然シャンプーのCMか何かのように、頭を左右に振り、髪をバサバサと振り回す。
 山本と飛鳥井が唖然として見守る中、ソファーに完全に寄りかかり、頬までソファーの背もたれに埋めて、微笑みながら京香の話を聞こうとする。
 左足の上に組まれていた右足を、また高く上げ、空中に綺麗な弧を描くように組み替える。
 カメラには、完全にストッキングを通して稲崎の水色の下着が収められてしまった。
 左足を右足の上に組んでいたかと思うと、また足を組み替え、今度は右足を横に座る山本アナの左膝の上に乗せる。
 足の位置を変えるたびに、ベージュのタイトスカートが捲れ上がって、下着がバックリと見えてしまう。
 カメラの前で、才色兼備と謳われる稲崎理央のパンチラが、大放出されている。
 カメラマンや立っていたスタッフたちは、体を「くの字」に曲げてかがみ込んでしまった。

 飛鳥井は一瞬、両手を口にあてて、トークを止めそうになるが、固い笑顔で話しきった。

「な、なるほど。演技派女優と言われる京香さんに、そんな特訓方法があるとは、意外でしたね。とても意外です。」

 後輩アナウンサーの山本も、硬直した笑顔のまま、左膝に大胆に絡められた稲崎の足に、気がついていない振りをしながら、小声で何度も「意外です」と繰り返す。

「お風呂で色んなことをするっていう、女性は多いですよね・・・。うふっ。NANAMIさんも、お風呂でリラクゼーションとか、気を使ってるんですか?わたし、とーっても、知りたいですわぁ。」

 シャツの胸もとのボタンを3つも外してしまった稲崎が、気だるそうに、NANAMIに話題を振る。
 ソファーに完全に寝転がって痴態を晒しながらMCをしている稲崎を、京香が信じられないという表情で口を開けたまま見つめている。
 しかしこんな姿勢で、こんな口調でも、稲崎本人は真面目に番組を仕切っているつもりのようだ。

「あっ、わ、私ですか?はい。私もお風呂は長い方ですね。モデルをしていると、自分の体型とか色々とチェックしたり、あとはバスタブで出来る筋トレとかもあるんですよ。汗流しても気にしないでいいので、一石二鳥ですね。」

 話題を急に振られて、慌てたNANAMIは、ずいぶん早口で答えた。
 顔が赤くなっている。NANAMIは、ソファーの脇に置かれていた小さ目のクッションを、抱きかかえるようにして、両足の間に挟んでいた。
 それだけであれば、今女性の間で人気が高まっている、『カッコいいオンナ』としての自然体の姿勢にも見えるが、カメラが彼女から離れると、彼女の腰がゆっくりと上下、前後し始める。
 収録中にもかかわらず、彼女は今、無意識のうちに自分の性感を刺激しているのだ。

 木部が柚子原みちるに目をやると、彼女は可愛らしく両手を口もとに当てたり、ジェスチャーを織り交ぜたりしながら、話をしたり、他のタレントの話を聞いたりしている。
 しかしよく見ると、自分の両肘や両腕を、左右の胸の膨らみに押しつけていることがわかる。
 巧みにごまかそうとしながら、衆人環視のなかで自分の乳首を刺激しているのだ。

 3人の真ん中に座っている、宮島カノンは、フレンチロック・リバイバルの旗手らしく、お洒落ながらも一本気で大胆な性格のようだ。
 カメラの目を盗んでは、上着の裾から右手を突っ込んで、左手はジーンズの上から、コブシを股間に押しつけてさすりあげるように、はっきりと自分を慰める。
 カメラが彼女の方を向くと、何事もなかったかのように両手を膝の上に戻す。
 しかし全ては観客と木部らスタッフたち、そして山本アナの角度からは丸わかりである。
 山本は、平然と続けられるトークの端々で、汗まみれの顔で「意外ですね」と呟いていた。

 一旦CMに入るための、編集点を作る。
 トークの合間に小さなファッション・グルメ情報を入れるのが、この番組の特徴だ。
 山本アナが、気を取り直して、新しく港区に誕生した、大型ショッピングモールの紹介原稿を読む。
 モールの映像が流れる中、出演者たちは、ワイプに写ることになる。
 しかしその間も、木部は新たなメッセージを、スケッチブックに書きなぐって出演者たちに確認させていた。

「オープン初日、ご覧下さい。お客さんたちが長蛇の列。みんな開店セールを期待して、ずっと待っていたんですね。朝10時ちょうどに全店がオープン。どこのショップも大盛況だったようです。」

 赤いペンで指示を出されているので、出演者は誰も異変に気づかないが、観覧席の若い男たちは、みんな大きな声をあげて、囃し立てる。

 山本アナが『オープン』と言うたびに、女性タレントたちが立ち上がってスカートを捲りあげているのだ。
 ジーンズを穿いている宮島カノンは、かわりに肩を出している白いブラウスを引っ張り下ろして、黒のストラップレス・ブラジャーを露出してしまう。
 稲崎アナは、色っぽく体をくねらせながら、タイトスカートを腰までズリ上げる。
 柚子原みちるがロングワンピースの裾を持って上にあげると、バタバタと風が起きる。
 なかからフリフリの、赤いリボンのついたパンツが顔を出す。
 NANAMIがミニスカートをめくると、すぐにココアカラーの大人っぽいパンツが晒される。

 そして、飛鳥井京香までも、みんなの動きに合わせるように、山本が『オープン』という言葉を使うたびに、あわただしく立ち上がって、白地に白色で花の刺繍の入ったフレアスカートを、ためらいなく捲り上げて、クリーム色のパンツをファンたちの目に晒してしまっていた。
 スカートの裾が持ち上げられるたびに、悲鳴の混じったような歓声があがる。
 まるで京香は、ファンの合唱団を率いる指揮者のようだった。

「オープン初日ということで、ショップ側も大張り切り。オープニングセールの混雑の中、どこも売れ行きは好調のようです。そしてこの噴水のある広場。ご覧下さい。欧州車のショールームと合体しているんですね。オープンカーの横でちょっと一息、休憩なんていうのも、大変お洒落ですよね。」

 女子アナと女性タレントたちが、山本アナウンサーの言葉に踊らされるように、せわしなく立ち上がっては下着を曝け出し、スカートを戻すとソファーに座る。
 座ったかと思うとまた立ち上がってパンツの披露。
 全員、息を切らしてその動作を繰り返している。
 カノンに至っては、乱暴に服を下ろしたり上げたりしているうちにブラジャーがずれてしまって、左の胸は乳首まで見えそうな状態になってしまっている。

「8Fのピッツェリアは、オーブンではなく、石焼釜でピザを焼く本格派。」

 立ち上がって途中までスカートを捲ろうとしていたタレントたちが、慌ててソファーに戻る。
 完全に山本に・・・、否、木部に翻弄されていた。

 『エッチで楽しい番組作りをみんなで盛り上げよう』と青いペンで書かれたスケッチブックを客席やスタッフに向けるだけで、女性スタッフや女性観覧客も楽しそうにアイドルたちのパンチラショーを楽しむようになる。
 烏丸が木部に伝えていたことには、一切嘘がなかったようだ。
 調子に乗った木部が、再びトークコーナーに移るよう、出演者たちに促す。

 本来であれば、『柚子原みちるがカナヅチを克服。17歳でやっと泳ぎを覚えた。』という微笑ましい話題から、夏、海という話題に移って、そこから新作水着取材特集に移るという台本になっていた。
 しかし木部には、台本どおりにお洒落な情報番組を進めていくつもりは毛頭ない。
 三色のペンを駆使して、スケッチブックに次々と悪巧みを書きなぐった。

「はい、それではトークに戻りましょう。次のお題は、『柚子原みちるちゃん、カナヅチ克服』ということなんですが、これは正直言いまして、どうでもいいですね。」

 笑顔の稲崎理央アナが、先ほどまでのお色気進行から、一転してキビキビとしたMCを始める。
 サラリとコメントされて、柚子原の目が皿のようにまん丸になった。

「え〜、みちる、一生懸命練習して、クロール出来るようになったんです〜。」

「はい。その話はもうオシマイ。それよりも、泳ぎと言ったら、これからの季節、海。そして水着ですよね?」

 『稲 テキパキと進めて、すぐに水着の話に移る。ただし水着取材の映像にはいかない』という、木部からの指示通り、稲崎は驚くほどあっさりと、柚子原みちるの可愛らしいトークをぶった切る。
 天然ボケの入ったお姫様キャラのはずの柚子原が一瞬、時代劇役者のような目ヂカラで稲崎を凝視した。

「水着になるっていうと、女性にとって気になるのは、無駄毛の処理ですよね?皆さんは、ちゃんと無駄毛の処理をしてますでしょうか。」

「は・・・、はぁ。」

 突然話題が下世話になってきた気がして、京香をはじめ、タレントたちは戸惑いながらも曖昧に頷く。
 『全員 番組の企画と進行には絶対協力する』と黒いペンで書かれていたのを、目で確認してしまったので、誰もこの筋立てに口を挟むことが出来ないようだ。

「では元気よく、いってみましょう。アイドル無駄毛チェックのコーナーですっ!」

 観客たちはそれでも盛り上がっているが、タレントたちは唖然として互いの顔を見合わせる。
 特に飛鳥井京香は、大切にしてきたファンが、自分のピンチにもかかわらず、拍手や指笛で企画を盛り立てていることが信じられない。

「それではこれから、抜き打ち無駄毛チェックを始めます。まずは皆さんの前にカーテンを引きますよ。ちゃんと仕切りのある、個人用のカーテンです。ちゃんとプライバシーは守られましたので、それでは音楽のなっているうちに、衣装を全部脱いで下着だけの姿になっちゃって下さーい。では、ミュージックスタートッ。」

 運動会の徒競走でかかるような、軽快な音楽が鳴ると、京香やカノンたちは、企画を拒否することが出来ない。
 慌てて衣装を一枚、一枚と脱いでいく。
 京香がエスニックな首飾りを外すと、ジャラジャラと音が鳴る。
 カノンは音楽にのせられたように、服をポンポンと脱ぎ去った。
 柚子原みちるは、ぐずぐずとしていたが、ロングワンピースを捲り上げて首と腕を抜き取ると、もうフリルの下着姿になっていた。
 NANAMIがピタッとした上着を脱ごうとすると、スレンダーな体が左右にセクシーによじれる。
 そして進行役のはずの稲崎理央アナまでなぜか、女性タレントたちの隣で水色の下着姿になっていた。
 全員が、カーテンがあるとはいえ、なぜこんな恥かしい企画に協力しなければならないのか疑問に思いながら、しぶしぶ従っていた。しかし残念なことに、そこにはただ、『カーテンで隠れているので、許せる』という青字がスケッチブックに書かれていただけだった。
 アイドルたちと美人アナは、自分たちの想像上のカーテンに囲われているだけで、実は全員がカメラと観覧客の目の前に、下着しか着ていない無防備な姿を晒していたのだ。

 そして今、国民的アイドル。人気ナンバーワン女優が、シフォンブラウスの裾に手をかけて、胸もとまで、そしてもっと上まで捲り上げようとしていた。
 観客もスタッフも、みんな息を飲んで見守ってしまう。
 贅肉一つない、しなやかなお腹と、少し縦長のおヘソが顔を出す。
 音楽に急かされながら、京香は思い切って上着を脱ぎ捨てて、クリームイエローのブラジャーを、スタジオ全員の眼に焼きつけさせてしまった。

 その腕で、フレアスカートのファスナーを下ろすと、ゆっくりスカートを下ろしていって、足を抜き取る。
 初めて白日の下に晒された、清純派スターのセミヌード姿であった。
 華奢で、色白なその体は、噂どおりに胸のボリュームはしっかりと持っている。
 恥かしそうに立ち尽くす彼女の裸体は、女性でもハッとするほど美しかった。

 木部のスケッチブックによる指示を受けていた山本アナが、小道具係から虫眼鏡を受け取って、下着姿の稲崎アナに手渡す。稲崎は木部の掲げるスケッチを読んで頷きながら、番組の進行を進める。
 自分はカーテンに囲われているはずなのに、なぜADのフリップが読めるのか、疑問にも思わないでいる。

「それでは皆さん。みんなの憧れ、アイドルたちが無駄毛処理をサボっちゃっていないか、チェックさせて頂きまーす。」

 虫眼鏡を通してカメラを覗き込みながら、稲崎アナが言うと、観覧客は拍手で歓迎する。
 小型カメラを持ったスタッフと稲崎アナが、一人一人の女性タレントの体を、文字通り舐めるように確認してまわる。

 バンザイのポーズで脇をチェックされ、腕、スネ、背中とカメラがアップで映し出すのを、顔を赤くしたタレントたちが、弱々しい照れ笑いをしながら耐えている。
 例えスタジオが一昔前の深夜番組のような低俗なノリになってしまっても、全員、番組の進行にあくまで協力する、見事なプロ意識だ。

「さすがに皆さん、今をときめく芸能人だけあって、無駄毛の処理は隙がないですねー。あ、カノンちゃん、ちょっとだけ脇の処理が甘いでしょうか?うーん、クォーターだから、もともと体毛が濃いめなのかもしれませんね。」

 アナウンサーに冷静に指摘されて、宮島が両手で顔を隠す。
 少年的な魅力で音楽シーンを引っ張る元気印の美少女も、体毛について言われてしまうと、どうしても女としての恥じらいが前に出てしまう。
 ADが掲げるスケッチブックを『カーテン越し』に見ると、また両手を上げてバンザイのポーズをとる。カメラがカノンの脇の下を大写しにした。

「うん。とりあえず皆さん。合格点です。それでは皆さん、カーテン越しのシルエットでもって、合格の喜びをセクシーポーズで表してください。せーの!」

 サクスフォンが悩ましく鳴り響く効果音。
 外国人女性らしい声優が「ワ〜ォ!」と艶かしく声を上げる音がスピーカーから流れる。
 如何に『カーテンで守られている』とは言え、4人は恥かしさが先に立って、小さく、申し訳程度にポーズをとった。
 そんな中でも、NANAMIのポーズは際立ってきまっている。

 木部が急いでスケッチブックに書き込みをする。
 鉄火場のバラエティ番組でADをやってきた木部は、速記には自信がある。

 『女性出演者 ノリノリになって、番組の企画を盛り上げる。ためらいは全部振り切って、エッチな番組で大暴れしたい。』

 青字で書き示すと、アイドルたちは一人一人と、吹っ切れたように表情を変えていく。
 稲崎アナにもう一度セクシーポーズを促されて、NANAMIが客席に背を向けると、足を大きく開脚させて、両足の間から顔を出して客席にウインクする。
 もう一度流される、サクスフォンと女性の艶かしい声。
 宮島カノンが右手を後頭部に、左手を腰に当て、体をクネらせて舌を出す。
 柚子原みちるが両手を頭の後ろで組んで、伸びをしながら意外と立派な胸を突き出す。
 そして飛鳥井京香までもが、カメラの前で、パンツの両端を限界まで引っ張り上げて、笑顔で下着を股間の割れ目に食い込ませてしまった。
 摺り上げられた下着の両端から、アンダーヘアーが顔を覗かせる。
 肉の形がクッキリと、薄手の布地を通して伝わってしまう。
 神秘のベールに包まれているべき、清純派スターの股間の秘密が、カメラに、ファンたちの網膜に、木部たちスタッフの脳裏に、はっきりと焼きつけられた瞬間であった。


「はい、皆さんそのポーズのまま、カーテン越しにお客さんたちを挑発しましょうね。分厚いカーテンだから安心して大胆に誘惑しちゃいましょう。」

 観覧席から、携帯電話のカメラ機能が使われる、シャッター音が沢山聞こえる。
 収録中にデジカメのフラッシュをたく不届き者もいるが、木部は止めようとしない。
 木部が青いペンで『カーテンなんてないことに気がつく』と書いたスケッチブックを前に出した瞬間、美しい女性タレントたちの笑顔が凍りついた。
 4人とも、悲鳴を上げてうずくまり、体を丸める。
 スタジオ内に、ドッキリ企画の終わりのような能天気な効果音が流れた。

 ソファーの後ろに隠れこもうとするNANAMI。セットから駆け出そうとするカノン。
 みちると京香は、うずくまったまま、動けなかった。
 少し慌てた木部が、サブにキューを出して、BGMをかけさせる。
 ビートの効いたドラムから始まる、勢いのあるガレージロックだ。

「さぁ、ドッキリ企画も成功したところで、素敵な新曲を聴いていただきましょう。宮島カノンさんで『アンビバレント』です。」

 スタジオから走り去ろうとしていたカノンが、そのままくるりと回れ右をして、スタジオ中央に駆け戻る。
 稲崎に促されて木部のフリップを見ると、他のアイドル3人も、ジタバタするのを止めて、立ち上がってリズムに合わせて体を揺すり始めた。

 山本一平太からマイクを受け取ったカノンが、元気よく歌い始める。
 飛んだり跳ねたりしながら、セミヌード姿で熱唱する宮島カノン。
 後ろで同じようにセミヌードになってしまっているタレント3人が、ぎこちない仕草で必死にカノンの動きを真似る。
 『全員、楽しみながらノリノリになって、過激でセクシーなパフォーマンスを披露する』
 と、すでにかすれ気味の青字で書かれた画用紙が、次のページに捲られる。
 即席のランジェリー歌手とバックダンサーズの誕生に、観覧席が大きく沸く。
 スタジオは凄いグルーブ感に包まれる。

 木部が曲に置いていかれないように懸命にスケッチブックに書きなぐって見せると、カノンとそのバックダンサーたちは、新しい振り付けを受け入れる。
 右、右、左、左とリズムに合わせてステップを踏みながら、カノンが黒いブラを外した。
 後ろの3人も、同じようにブラジャーを外して、右手でそのブラを、円を描くように振り回す。
 NANAMIの小ぶりなオッパイが、みちるの意外と大きな釣鐘型の乳房が、そして、赤くて小さな乳首がツンと上を向いた、京香のボリュームある美乳が、スタジオの空気に触れる。
 肩を揺らして踊るたび、ステップを踏むたび、飛び跳ねるたびに、上下左右に柔らかそうに揺れる。
 カメラの端には、邪魔にならない場所で同様に露出された乳房を揺らして踊りまくる、稲崎アナの恥かしい姿もかろうじて映されていた。

 一度サビが終わったところで、全員が同時に、ブラジャーを観覧席に放り投げる。
 間奏が流れるあいだ、観覧席に駆け出したカノンは、すり鉢上に段々高くなる観覧席の中を、激しくヘッドバンギングしながら走り抜ける。
 男性客はみんな、プロレスラーの登場シーンのように、横から後ろからカノンの体に触れようとする。
 セットの中央では、パンツ一丁のバックダンサーたちが、陽気にエアギターを披露していた。
 一旦曲が変調して、再びサビが始まると、中央に戻ってきたカノンが、さらに激しく熱唱する。
 下着を振り回しながら踊るパートだったが、彼女たちにはもう、腰に穿いている最後の布しか残されていなかった。

 尻をプリプリと、振り子のように左右に突き上げながら、笑顔でショーツを下ろしていく京香を、カノンを、NANAMIとみちると理央を、4台のカメラが前から後ろから斜め下から一秒の漏れもなく写しとる。
 今をときめく女優が、タレントが、アーティストが、モデルが、女子アナが、足を抜き取ったパンツを左手に掲げて、グルグルと振り回しながら歌い、踊る。
 スタジオの熱狂は最高潮になりつつあった。

 サビのハイライトで、飛び上がった出演者たちがパンツも放り投げる。
 餅投げのように、あるいは結婚式のブーケ投げのように、観客たちは両手を伸ばして跳ねる。
 宙に舞う、アイドルたちの汗を吸ったショーツを、ファンたちが奪い合う。

 カノンは既に、マイクを通さずに、地声で歌っていた。
 激しく頭を揺らして、髪を振り乱しながら、歌う彼女のスタイルは、ライブでの熱狂ぶりを思わせる。普段と違っているのは、全裸で歌っているところと、マイクを股間に埋めてグリグリと押し上げているところだ。
 バックダンサーたちはソファーの背もたれ部分に跨って、ロデオのように激しく腰を動かしては、リズムにのって股間をソファーにこすりつけている。
 カメラ目線の京香が、満面の笑みで腰を前後させながら、快感に背中をそらし、のけぞって喘ぐ。
 全てがカメラに、余すことなく収められてしまっていた。

 破裂音と同時に、リプライズを繰り返していた曲が唐突に終わる。

 残念ながら、木部が抱えていた『全員 曲のラストで人生最高のエクスタシーを感じながら、イク』というフリップは、熱中しすぎている出演者によって見るタイミングが異なった。
 そのために、全員同時に綺麗に絶頂を迎えるということはなかった。
 むしろ五月雨式に一人ずつ、股間から愛液を噴出しながら、大きく口を開けてオルガズムに達していった。

 全員、そのまま失神するように、ぐったりとその場にへたり込む。
 カノンはまだ、股間にマイクを挿入したまま、横たわった。

 そろそろテープチェンジが必要なので、一旦カメラを止めさせて、木部が短い休憩を入れさせる。スタジオ全体が熱狂のあとで放心状態にあるなか、木部は予備のペンを用意させたり、その他の小道具の手配を指示したりと、すでにやり手のプロデューサーのように、全体に目を配り、仕切っていた。

 1時間番組としては、すでに充分過ぎるほど見せ場を作った。
 しかし烏丸は、・・・あの黒いスーツの男は、時間のことは言っていなかった。
 こうなったら、2時間半の特番を作るつもりで、やりきってやろう。
 すでに痛み始めた右肘の腱を揉みほぐしながら、木部は次のコーナーの準備をする。

 木部のキュー出しで、番組収録が再開される。
 稲崎が、時々声を裏返らせながら、ヘロヘロの進行を始めるが、ゲストたちはなかなか反応できなかった。みんな、心そこにあらずといった状態で、言われるままにソファーに座り込む。
 彼女たちが肩を預けた背もたれは、ヌラヌラと光っていて、まだつい先ほどの狂態の跡を残している。
 誰にも全裸の自分の体を隠そうとする気力すら残っていないようだった。

 放心状態の出演者に構わずに、木部は次のコーナーを進めさせる。
 稲崎に、やっといつもの、カツゼツのよい語り口が戻ってきた。

「はい、それでは続いてのコーナーは、スタジオ観覧にみえたお客さん、そして視聴者の皆さんへの、プレゼントコーナーです。京香さん、今日は何か、身につけている私物をプレゼントしてもらえませんか?」

 京香が、困った表情で自分の体を見回す。
 通常このコーナーでは、アイドルが身につけていた腕時計やファッショングラス、ブローチなどを視聴者と観覧客に一つずつプレゼントする。
 当然、本当のところは、衣装の中に私物を身につけてくるアイドルなど稀で、予め人にあげてもよいものを仕込んである。本物の私物でない場合すらある。
 京香は今日、エスニックな首飾りと、アゲハチョウをかたどったブローチをプレゼントするつもりだった。
 しかし自分の体を見回すと、生まれたままの無防備な裸であることに気がつく。
 困った彼女がマネージャーやスタッフを探して顔を上げた時、カメラ脇のADが掲げるスケッチブックの黒字が目に飛び込んできた。

「じゃー、今日は、それ以外何にも身につけていないので、京香の・・・陰毛を、観覧のお客さん全員と、抽選で当たった視聴者の皆さんに一本ずつ差し上げます。」

 ニッコリと微笑んで、気前よくアンダーヘアーの提供を口にする京香だったが、笑顔は少し固かった。
 その他の出演者も、陰毛以外にプレゼント出来るものがないと言う。
 手際よく、用意されていたクリームと剃刀、タオルとお湯で満たされたボールが5つ、木部の先輩スタッフたちの手によって女性出演者たちの前に出される。
 なぜか稲崎アナも、幕を開けようとしている剃毛ショーに、当然のごとく参加させられていた。
 なんと観覧客の中から数名ずつ、それぞれのアイドルのアンダーヘアーを剃る役が選び出される。
 ジャンケンに勝ち抜いてガッツポーズをとるファンたちが、ソファーの上で足をM字型に開脚して待っている、憧れの芸能人の性器を間近で拝む。
 お洒落なジャズが流れる中、リラックスした雰囲気で、タレントたちが大人のしるしを剃り落とされていく。
 木部の指示のせいで、全員スパでセラピーを受けているような陶然とした表情をしている。
 客のなかから密かに選別されていたのは、全員、手先が器用で注意深い男性。
 商品価値の非常に高い、タレントたちの大事な体に、丁寧に、丹念に剃刀を当てていく。

 じっくり10分ほどかけて、女性出演者全員が、幼児のような下半身に変身した。
 クリームにまみれて剃り落とされたヘアーは、メイクさんに洗われて、乾いた後で一本ずつ赤いリボンに結ばれてプレゼントされる予定だ。
 カメラが近づくと、京香はすっきりしたような笑顔でメッセージを残す。

「テレビの前の皆さん、私、飛鳥井京香の陰毛をご希望の方は、こちらの宛先まで、住所・氏名・年齢をお書きの上、『京香の陰毛希望』と書いてお送り下さい。当選の発表は、発送を持って代えさせていただきます。」

 ソファーでM字に足を開きながら、割れ目とその中身を隠すものが一切なくなった、股間の辺りを両手の人差し指で指し示しながら、プレゼント応募の情報を発表する。

 しかしそれほど陰毛が多く生えていなかった京香の場合は、今日の観覧客全員にも行き渡らないかもしれない。
 天然キャラがお茶の間で愛されている柚子原みちるが、ミュージックシーンを引っ張る宮島カノンが、女性に人気のNANAMIが、順番に京香の台詞に倣って、剃り跡がかすかに赤くなっている股間を晒しながら、恥毛のプレゼント情報を詳細に伝える。

 そしてその姿勢のまま、プライベートに二歩も三歩も踏み込んだトークが開始される。
 全員が、交友暦や男性経験、オナニーの頻度、人には言えない秘密の性癖、自分でちょっと変態だと思う密かな妄想など、赤裸々に包み隠さず披瀝する。
 話しながら時々、快活に笑う彼女たち。笑い声と同時に、左右に開かれたヴァギナやアナルが、ヒクヒクと動くところを、ハンディカメラが接写している。
 ファンもスタッフも、全身が耳と目になってしまったように、彼女たちの恥かしい暴露を一言も漏らさないよう、聞き入った。

 ファンたちが悶え苦しむような、あけすけな猥談が盛り上がっていく。
 木部が次の指示を送ると、出演者たちは、そのままの勢いで、ラストのゲームコーナーに雪崩れ込んだ。

 女性タレントたちが、客席にいるファンたちの中から、『もっともクンニが巧そう』と思われる男性をそれぞれ自分で選んでステージに引っ張り上げる。
 山本一平太が笛を吹くと、男性ファンの顔に跨って股間の割れ目を押しつけた芸能人たちが、ファンにアソコを舐めまわされて喘ぐ。
 一番最初に絶頂に達したゲストのコンビが優勝だ。
 これは男性のクンニリングスの技だけではなく、女性ゲストとの相性、そしてクンニされる側のイキやすさも影響するゲームだ。
 勝敗には関係しないが稲崎アナは、山本アナのクンニを受けながら、各ゲストの様子を懸命に解説する。

 膝立ちになった京香が腰を少し浮かすと、卑猥にクリトリスを舐めるファンの舌使いと、完全に捲れ上がって硬く膨張した、飛鳥井京香のクリトリスがアップで撮られる。
 さらに下に向かったファンのベロが、彼女の聖なる割れ目の奥に、グリグリと入っていくと、京香が髪を振り乱して歓喜に身悶えした。

 そのままエクスタシーに達するかと思われた京香だったが、絶頂へのスピードでは、より経験が豊富らしい、カノンが勝った。
 さっきは半分ぐらいまでマイクがズッポリと入っていたヴァギナを、内部から舐めまわされて張りのある声でオルガズムに達する。

「カノンさん優勝ーっ!クンニ名人を見分ける目と、敏感で男好きなオ○ンコの持ち主です。おめでとうございますっ!」

 自身も股間を同僚に舐めさせたまま、稲崎アナがコールする。
 カノンは快感の中でガッツポーズをとりながらも、少しだけ微妙な表情をした。

 立ち上がって表彰を受けた宮島カノンと彼女のファンは、それぞれ『イキまくりマ○コ』、『クンニ馬鹿一代』と書かれたタスキをかけられて、記念撮影で勝利のポーズを取る。
 残りのゲストとファンたちには、罰ゲームが待っていた。

 詳しい説明もないまま、木部がスケッチブックを掲げてキューを出すと、昭和のコメディ曲のような、おどけたBGMが流れ出す。
 黒字に書かれたスケッチブックの文字を読み取った京香たちは、全裸で男の顔の上に跨っていたその場所で膝立ちになって両手を頭の上に組むと、少しだけ腰を落として力み始めてしまう。
 隠すものの何もない、唾液まみれの股間がモニターに写されると、彼女たちの尿道口がヒクヒクしているのがわかった。

「あぁっ・・・。」

 最初に声を漏らしたのは、NANAMIだった。
 長い足を大きく開いて、左右に引っ張られていた股間から、透明な一本の水流が線を描く。
 ファンの顔に、スタイル抜群の美形モデルの尿がかけられて飛沫を上げた。

「やだっ・・・あぁ・・・もぅ・・・。ごめんなさい。」

 謝る京香の股間からも、少し黄色がかった尿が緩やかな弧を描くように放出される。
 下を向いて、彼女の尿を顔に浴びているファンに詫びるが、彼女もファンも、どこか恍惚の表情でうっとりとしてしまっているのが、モニターからも確認できる。

「ふぁぁあっ・・・。」

 柚子原みちるも、最初はポトポトと、やがて激しい勢いで収録現場で放尿を始めた。

 散々舌で奉仕を行なった上に、最後はオシッコを引っかけられるのだから、ファンにとっては大変な災難だが、中にはそれほど嫌そうではない表情の男性もいる。
 ファンの鑑と言えるかもしれない。それとも、ただの性癖の問題だろうか。

 途中から、陶然とした表情のまま、臼を回すようにゆっくりと大きく腰をグラインドさせながら放尿していた京香とNANAMI、みちる、そして理央。尿が止まりかけると、今度は腰をクイッ、クイッと前に突き出しながら、最後の一滴まで搾り出す。
 前代未聞の罰ゲームを、自分で行なってしまった彼女たちは、放心状態のまま、もう何も出ない股間を、いつまでも小刻みに振り続けていた。


 いよいよ大円団の乱交パーティーだ。
 観覧客もスタッフも、卑猥なタスキを誇らしくかけたアーティストも、公衆の面前で放尿ショーを終えたばかりのタレントたちも、みんなでステージで相手かまわず絡み合い、互いを舐めあい、結合する。
 4Pでも、5Pでも、アイドルたちは笑顔で受け入れて、男の手の波を泳いでいく。
 全身をザーメンに覆われつつある女子アナが、弾けるような笑顔で次々と男の睾丸を舐めて回る。
 女性の観覧客も、メイクや女性スタッフたちも、いつの間にか裸になって誰彼構わずペニスを上や下の口で銜え込む。
 山本アナもビショビショに濡れた上半身を気にせずに、番組の女性アシスタントとまぐわっていた。
 今日のメインゲスト、国民的スターにして清純派女優。
 飛鳥井京香は、ファンたちにサンドイッチにされて、ヴァギナとアナルに赤黒い肉棒を入れられながらも、順番にオッパイを揉もうとしてくるファンのグループや、この期に及んでまだ握手を求めてくる純情なファンに、天使のような笑顔で応じていた。

「それでは皆さん、また来週。この番組が続いていれば、次回は麻布に出現した、ロマンチックなデートスポットの特集です。」

 エンディングテーマが流れ始めると、クレーンカメラがゆっくりと上昇し、スタジオを見下ろすかたちで移動していく。
 全員がセックスを止めないまま、笑顔でカメラに手を振っていた。


 木部が編集から手にした、この衝撃的な内容の収録テープ。
 権力者のマニアが秘密裏に売買でもするのかという、木部の勝手な想像に反して、黒いスーツの男が受け取った数時間後には、ノーカットで公共の電波にのせられて、放送されてしまった。

 全国ネットのキー局であるテレビ旭日が放送したこの番組はしかし、系列の地方局では当然の如く放送を拒絶された。
 それでも、首都圏ではそのまま家庭のTV、携帯電話のポータブルTV、そして市街の大画面ビジョンに映し出される。
 抗議の電話が殺到する中、編成局も、苦情受付窓口も、企業上層部も、全く活動を停止していた。
 国民的アイドル、飛鳥井京香が挨拶に回ってきて、握手を求めてくれば、拒否するTV局職員など存在しない。局の中枢機能、放送の現場は既に、主要な機能を担う局員全員が、MC−A5に感染し、正常な判断力を失っていたのだ。


。。。



「お願いー。潤也君。もっとーぉ。」

 両手を出して、潤也にせがむ真弓を前に、潤也は頭を抱えていた。
 既に潤也のモノはもう疲労困憊の状態で垂れ下がっている。
 なぜ今、真弓がサカリのついた牝みたいに、貪欲にセックスを求めるのか、潤也にはわからない。
 そんなことは言葉にも出していない。

「真弓ちゃん。もう無理だよ。もうどんなに頑張っても駄目だって。ちょっと落ち着いてよ。本当に、どうしたの?」

 真弓は子供が駄々をこねるように、足をドタバタさせて、踵で床を打ち鳴らした。

「だったら・・・、だったら私、外に出て、道を歩いてる人、誰とでもいいから、セックスする。知らない人でも、誰でもいいから、思いっきりセックスしちゃうの。変態なことも、いっぱいするよっ。それでもいいの?」

 真弓が辛そうに眉をひそめながら、最愛の彼氏に、驚愕の言葉をぶつける。
 本当は真弓の体のうずきは、昨日から、潤也以外のオスに向かって体の中で暴れていた。
 真弓は彼氏との熱いセックスでそれを忘れようとしてきたのだが、愛しい潤也がギブアップしようとしているなか、ついに本音が出てしまった。

 目の前の潤也が、彼のペニス以上にしおれて小さくなっていく感じがする。
 真弓の泣き出したいような気持ちと、ケダモノのように性交を求める衝動とが、拮抗した。

「潤也君。私、もう駄目。完全に変になっちゃったの。こんな私のこと、もう忘れて。別れましょう。こんな変態女、捨てちゃって他の子を・・。」

 目に涙を溜めながら、真弓が離す。途中まで俯いていた潤也が強引に、真弓の体を抱き寄せた。
 こんなに力強く、乱暴に真弓を扱う潤也は、初めてだった。

「ゴメンね。真弓ちゃんを変にしちゃったのは、多分僕だよ。だから、ずっと僕のもので・・・、僕の前だけで、変な真弓ちゃんでいてよ。真弓ちゃんをおかしくしたのは、僕の責任。どんな罰でも受けるよ。だけど、真弓ちゃんを捨てることだけは、一生しないっ。」

 真弓の耳もとで、興奮気味に大声で叫んだ潤也は、耳がキンキン鳴っている彼女の頭を押さえると、唇を奪った。
 熱い舌を絡ませあいながら、唾液を交換する。
 ずいぶんと長い時間、二人はディープキスを続けたように感じた。
 口を離すと、真弓と潤也の唇の間を、一本の唾液の糸が下に垂れていく。

「潤也君。私、貴方しかいないところに行きたい。このままじゃ、絶対他の誰かにも私の体も心も捧げちゃう。たとえ私をこんな風にしたのが、潤也君だったとしても、全然恨まないから、一緒に逃げようよ。」

 二人は、もう一度、長いキスに入る。
 再び長い接吻が続く。しかし、しばらくすると真弓が自分の腰を潤也のモノに押しつけてきた。

「そろそろ・・・、復活しそう?」

 目をパチクリさせた真弓が、無邪気に首をかしげて尋ねる。
 純愛ムードが砕け散ったのを感じた潤也は、うなだれながら1階のキッチンへ走った。

 キュウリと人参、小ぶりのナス。野菜を入れてあげると、真弓はやっと少し落ち着いた。

 
 


 

 

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