ビールス・パニック


 

 

第6話


「ハッ、ハッ、ハッ、」

 四つん這いになった真弓が、舌を突き出して熱い息を吐く。

「お手。」

「ワフッ。」

 ほとんど同時に、潤也の差し出した左手に、動物の前足のように丸めた右手を置く。
 瑞々しい裸身を潤也の前で何のてらいもなく晒している真弓は、すっかり犬になりきっていた。

「3回まわって、ワン。」

 ドタドタと音を立てて、真弓がその場で回る。
 引き締まった小さなお尻も、小刻みに揺れる若々しいオッパイも、無防備に、全て潤也に披露されている。

「ワンッ!」

 真弓の嬉しそうな鳴き声が、彼女の部屋に響く。
 ご主人様の言うことがちゃんと聞けた、ペットの喜びに満ちている。

「チンチン。」

 瞬時に、犬の「チンチン」のポーズをとり、しゃがんで体を上下させる真弓。
 運動神経抜群の彼女の俊敏さはこの動きからも見てとれるが、舌を突き出して嬉しそうに潤也を見上げる彼女の表情からは、普段の鋭い知性はまったく感じられなくなっていた。

「はい、お利口さん。」

 潤也が、若干無表情な声で、真弓を褒め、ご褒美に引き締まったお腹をさすってあげる。
 床に寝そべった真弓は、両手を胸の前で丸めたまま、お腹を突き出して潤也にさすられるのを喜んだ。腰につけるように膝を曲げて開脚している足の付け根には、ピンク色の大事な部分がすっかり曝け出されている。
 こんもりと盛り上がった恥丘と陰毛に守られている粘膜の割れ目が、開脚のせいで少し口を開いている。

「ワフ、ワアーフ、アァァフ。」

 お腹をさすってもらいながら、左右に転げて、喜ぶ真弓。
 涎が床に垂れるのも構わず、ご主人様に可愛がってもらうのを嬉しがっている。

 潤也の心の中では、健気な真弓を抱きしめたくなる気持ちと、憂鬱な気持ちとがぶつかりあっていた。
 圭吾が昨日言ったとおりだ。真弓たちは、恋人になって体も心も許してくれるだけではない。
 感覚も、行動も、性格も・・・。なんでも言われたとおりになってしまうのだ。

 近寄りがたいぐらいの眩しいオーラをまとっていた、真弓ほどのスポーツ万能の秀才美少女が、潤也に「犬になるよ」と言われただけで、ここまで自分が犬だと信じて疑いもしなくなる。
 一切の躊躇いもなく、全裸で従順なペットの素振りを見せる。
 この風邪に既にかかっていたら、学校の他の女子たちもきっと、圭吾や潤也たちの、思うがままになってしまうのだろう。
 そして今日、潤也は圭吾の悪巧みに加担しなければならない・・・。
 潤也は悲しい気持ちに耐えられなくなって、真弓を抱きしめた。
 真弓は目をまん丸にして、潤也の二の腕を甘噛みする。

「真弓ちゃん、元に戻って。」

「ハグハグ・・・、あれ?私、犬じゃ・・・・、ない・・・よね。・・ん?・・・変なの。」

 支倉真弓が目をパチクリさせて首をかしげる。
 彼氏の潤也に抱きしめられていることに気がついて、そのまま身を寄せた。

「真弓ちゃん、学校行ってくるね。家でおとなしくしててね。」

「あ・・・、うん。わかった。」



 潤也は、真弓の家を見上げる。
 早朝に出社する彼女の両親をやり過ごした後で、つかのまの、恋人同士の触れ合いをする。
 彼女が高校を休むのは、早退した木曜以来、今日で二日連続になっていた。
 授業に、部活に、塾に励んできた彼女を自宅で静養させたままというのは気が引けるが、今日から潤也たちの学校が、圭吾や大樹、彼自身の手で好き放題荒らされるのかと思うと、真弓には家でおとなしくしていてもらった方が、よほどマシに思えた。

 臼杵坂の駅から地下鉄で、高校に向かう。
 少し遅刻気味に電車に乗り込んだ潤也は、時計を気にしながら彼女のことを想った。
 しかしその朝は、大量の女子生徒が遅刻していたため、潤也の10分の遅刻はまったく問題にされなかった。


。。。



 圭吾からの誘いのままに、1時限目の授業の後は音楽準備室に行った。
 1時限目、2時限目と、この部屋と音楽室は使われていないようだ。

 潤也が周りを気にしながら扉をノックすると、なかから大樹が、潤也の顔を確認しながら扉を開けた。
 潤也が入ると、すぐに鍵をかう。
 部屋の中にはすでに、大樹と圭吾の他に、8人も女子生徒がいた。
 何人かは潤也も知っている、同学年の女子生徒・・・。
 みんな、可愛い子ばかりだが、制服をはだけてしまって、ボンヤリと立ち尽くしている。

「おう、潤也遅かったじゃん。来ないのかと思った。やっぱりあの変な風邪、学校中で流行してるみたいだぜ。ちょっと廊下歩いてるだけでも、こんだけ、カワイ子チャンが鼻赤くしてフラフラ歩いてた。な、大樹?」

「お・・おう。今な、潤也、みんなを、オッパイのデカい順に整列してもらおうと思って、並び替えてるんだ。」

 大樹は、少しバツが悪そうに話す。
 どうやら、圭吾にのせられて、すでにこの悪巧みを楽しみ始めてしまっているようだ。
 潤也はいっそう気が重くなったが、女子生徒たちのはだけている制服には、思わず目をやってしまう。

「最初にさ、服着た上からの感じと、全体の雰囲気みたいなものから、オッパイ大きそうな順番に並んでもらったわけよ。その後、こうやって一人一人、実際にブラジャーも外させてるんだけど、結構最初の印象と違ってたりして、面白いぜ。」

「おう、今のところ、俺の方が予想が当たってるけどな。えっと、5組の篠原秋穂だよね?上を全部脱いじゃって、ブラも取りましょう。」

「はいっ。」

 潤也と大樹の隣のクラスの女子、篠原があっさり快諾して、制服のシャツを、ボタンをまだほとんど外していない状態で捲り上げる。
 首を抜いて両手からシャツを落とすと、スレンダーな体と、うらはらにしっかりと厚みのある胸が、男子3人の前で露わになる。
 両手を背中に回すと、プチッと音がして、黒の縁取りのある、白いブラジャーがズレる。
 柔らかそうな女性の象徴が二つ、プルプルと揺れる。
 乳房の色とほとんど変わらない色の、小さな乳輪と乳首を、潤也も嫌でも見てしまう。

「お・・・、これ、滝本先輩よりも大きいんじゃない?どうよ?ほら・・・、揉み心地でも加点がありそう・・・。」

 大樹が興奮した声を出す。
 篠原秋穂はそれをまったく意に介さないように、ニコニコと自分の胸がじかに揉みし抱かれるままにさせている。
 同じように上半身裸で直立している、篠原の左隣の滝本先輩も、ボンヤリと鼻歌を歌っている。

「うーん、どうかな・・・。篠原、バストのサイズは?」

「んと・・、トップ81、アンダー69のBカップです。」

「お・・・、滝本先輩の方がトップは2センチ大きいけど、アンダーとの差だと篠原か・・。くそ、大樹、観察しすぎだよ。オッパイ星人か、お前は。」

 圭吾が無遠慮に、大樹が触っていない方、篠原の左側の乳房を鷲掴みにする。
 篠原はほとんど無反応で、二人の男子に胸を揉みまくられながら、ニッコリと正面を見据えていた。

「篠原、もうちょっと胸を張って。あと、体の感覚が戻ってくるよ。それどころか、いつもよりも敏感になる。」

「あっ・・・クッ・・・ウゥンッ。」

 途端に篠原秋穂が顎を上げて、苦しそうに体をくねらせる。
 それでも体は「気をつけ」の姿勢のまま、胸をもっと押し出して、男子に好き勝手揉ませてしまう。

「はぁっ、どうして・・・? こんなの、・・・変だよ〜。」

 篠原の顔が色づいて、恥かしそうな吐息を漏らす。
 圭吾と大樹が、抜群のコンビネーションで左右から篠原の胸を押して寄せて持ち上げるように揉む。二人とも親指はしっかりと篠原秋穂の乳首を弄んでいる。
 圭吾にいたっては、空いている手で、隣の滝本先輩の胸まで揉んでいる。
 篠原は小さく身をよじりながらも、二人の行為を直立のまま受け入れてしまっている。

「篠原は自分で何考えたって、間違っちゃうような馬鹿っ子になっちゃったんだから、全部俺たちのするがままに任せておけよ。ほら、どんどん気持ちよくなる。嬉しくなる。」

「え・・・、はぁあああっ、ホント・・・。イィッ。あんっ・・・、もっと。」

 圭吾が乳首を摘み上げると、篠原は背筋をビクッと伸ばす。
 眉はひそめているが、口もとは快感で少し緩んでいる。

「潤也もここの中から、好きな子の胸を確かめてみろよ。みんな形とか乳首の色とか揉み心地、感じ方とかそれぞれ違ってて、色々勉強になるぜ。」

 圭吾が笑いながら潤也に話しかける。
 距離を置いて立っているようでも、圭吾と大樹の行為と、喜び悶える篠原秋穂の様子をじっくりと凝視してしまっていた潤也は、そんな自分を圭吾に見透かされていることに気がついて俯いた。

「うわー・・・、篠原の乳首って、感じると結構大きくなるし、色も変わるのな。」

 大樹は完全に、篠原秋穂の胸いじりに没頭してしまっている。
 男気はあるけれど、能天気で単細胞・・・。
 大樹の助け舟に期待をしていた、潤也が楽観的すぎたのかもしれない。

「あ、言っとくけど、上は全部脱がしていっていいけど、パンツはまだ脱がせんなよ。あとで陰毛が濃そうな順番にも並べなおさせて遊ぶんだからな。ほら、早く潤也も協力してみんなのオッパイ確かめないと、2時限目が始まっちまうぜ。俺らはエスケープしてもいいけど、この子たちは早く教室に戻してやらないと、可哀相だろ?助けると思って、残りの3人も脱がせてやれよ。全員パイ揉みでイクまでは、次の遊びにいけないからな。」

 圭吾に言われて、潤也もしぶしぶ前に出る。
 男の手の感触に慣れていない、若い胸を好き放題されて喘ぐ秋穂の右側、直立してボンヤリと遠くを見ている3人の女子生徒の前に立った。

「じゃ・・・、あの、テキパキと、制服脱いで、上半身裸になってくれる?脱いだ服、シワがつかないように、気をつけて置いてね。」

「ハイッ。」

 潤也の苦悩などまるで問題にしないように、3人の女の子は笑顔で返事をして、スルスルと脱いでいく。
 一人は同学年の、足立昌代。ポニーテールがよく似合う、快活な美少女だ。
 あとの二人は1年生だろうか、二人とも肩まで届かないショートカットで、幼い印象のある、妹タイプだった。圭吾の趣味だろうか?

 おとなしめのブラジャーを外して、小ぶりの胸を空気に晒す3人。
 早く終わらせてあげよう、そう思った潤也は、精一杯、女子生徒たちを傷つけないように気を使いながら話しかけた。

「3人とも、胸が凄く、快感に対して敏感になるよ。僕に触られたら、すぐイッちゃう。嫌じゃないよ。気持ちがいいだけ。すぐ終わるからね。」

 潤也がスッと撫でただけで、昌代の腰がくだけそうになる。
 順番に、潤也が乳房を一揉みずつして回ると、足立昌代と1年生の二人が、内股気味の姿勢になって、喘ぎながら太腿を擦り合わせる。
 最初は撫でるだけだった潤也の手が、だんだん3人の乳をかわるがわる、強めに揉んでしまう。

 うわっ・・・、気持ちいい手触り。
 真弓ちゃんの胸を触ったときみたいな感動はないけど、やっぱりオッパイって、柔らかくてあったかくて、ムニュムニュしてて、気持ちがいい。
 マズい・・・。このままじゃ、圭吾の思い通りになっちゃうかもしれない。

 潤也の心配をよそに、彼の言葉どおり、3人の美少女はすぐに果ててしまった。
 少しホッとした潤也は、篠原秋穂と滝本美奈を同様にバストタッチだけでイカせて、満足げな圭吾と大樹を見た。
 部屋には女子の匂いがムッと充満している。

「圭吾・・・、3人ともイッちゃったよ。胸の大きさも、だいたいこの並びの通り。早く次の遊びっていうのを終わらせて、この子たちを教室に戻してあげろよ。」

「おっ、もう3人もやっつけたのか?潤也、テクニシャンじゃん〜。」

 すっかり上機嫌になってしまっている大樹が、無駄口を叩く。
 圭吾は大樹の気持ちをエロで釣って、すっかりモノにしてしまっているようだ。
 二人は、上半身裸になって、下はしっかりと制服のプリーツスカートを身にまとっている、女子生徒たちの列を一人ずつベタベタ触りながら、ちゃんと胸の大きい順の並びになっているか、満足げに確かめて歩いた。

 潤也の思いをよそに、圭吾と大樹は思いのほかこの遊びに熱中してしまっていた。
 女子生徒たちはこの後、陰毛の濃そうな順番に整列させられ、スカートとパンツを脱がされて実際のところを確かめられた。
 その後、アソコの臭いの強い順、アソコの締めつけのよい順、喘ぎ声とイッた時の表情がエロい順などに並び替えられ、一人一人確認された。

 その中で、足立昌代が2冠に輝いた。
 潤也は、正気の足立であったら、けしてその名誉を喜ばなかったはずだと思った。

 全ての順位が確定された後は、圭吾や大樹が「アソコ匂う順!」、「デカパイ順!」と号令をかけるたびに、大慌てで並び順を変わって整列し、「気をつけ」の姿勢になる。
 時々足もとがフラつく女子がいるが、みんな顔は真剣そのもので、いかにもキビキビと行動しているような顔をしている。
 全員が圭吾や大樹の号令するままに、一生懸命全裸で駆け回って整列する。

「並び順確認!」

 股間の匂いの強い順に並ばせた後、圭吾が号令すると、美少女たちは、躊躇わずに左右の女子生徒と体を触れ合い、かがみこんでお互いの股間の匂いをクンクンと嗅ぎあった。
 満足げに頷くと「気をつけ」の姿勢に戻る。
「一番アソコが匂う」という、女子高生として非常に不名誉なポジションに立っている滝本先輩ですら、自分の立ち位置が正しいことが確認された満足感で胸を張っている。
 圭吾と大樹は笑い転げ、床を叩いて腹筋の痙攣に耐えた。

「アソコの締めつけキツい順! その後、並び順確認!」

 再び大急ぎで並び替えに走り回る女の子たち。
 その後、隣同士で大切な部分に指を入れる。
 入れられた女子は唇を噛んで下半身に力を入れる。
 やがてお互い満足げに見つめ合って頷き合うと、直立不動の姿勢に戻る。

 放課時間中だけのはずの遊びが、結局は2時限目がほぼ終わるまで、続けられた。


。。。



 潤也と大樹の2組の3時限目は、世界史の授業だった。
 大樹も世界史はエスケープなんて考えずに、真面目に出席する。
 世界史担当の浅賀優理先生が、美人だからだ。
 しかし、今日の浅賀先生の授業は、少しだけ様子がおかしかった。
 17世紀ヨーロッパの歴史について、教科書を朗読して教室を回る先生の足どりがどこかおぼつかない。
 滑舌もいつもよりも悪く、言葉の語尾が少し濁る。
 時々、簡単な漢字を読み間違える。
 教卓に戻った時に、「ちょっとゴメンなさいね」と言って、ティッシュを取り出し、先生が鼻をかんだ瞬間、大樹が潤也の席を振り返り、意味ありげな目配せをした。

 少しでも、慎重に動けと潤也が願うが、気が大きくなっている大樹は、平気でリスクをおかす。
 再び朗読しながら教室を回る浅賀先生が自分の席に近づいてきた時に、大樹はスッと紙切れのメモを渡した。浅賀先生はそれを一瞥すると、そのまま朗読を続ける。
 しかし、こころなしか、先生の朗読に、独り言が混じり始めた。

「え・・・、こんな表現・・・、教科書に使っていいの?・・・ま、いいか。あの、失礼。この30年戦争の講和条約を、ゴホンッ、ウェストファリア条約と呼ぶ。この条約によって・・・、アッ・・・カトリックと・・、プ・・プロテスタントの、宗教戦争は・・・終止符が打たれた。この条約・・・ウゥンッ、条約締結国の関係を基礎に・・・ぁふぅっ、築かれた秩序を、ウェスト・・・ウェストファリア体制と・・・ウフン・・・呼ぶ。」

 何の変哲もない、世界史の教科書の文面だが、読んでいる浅賀先生は、顔を赤らめて、しぶしぶ朗読しているような口ぶりだ。時折、切ないような、満たされないような、空気の抜けた声を出す。
 自分の体を抱き寄せるように肩をしっかりと持って、目を潤ませながら、身を震わせて教科書を読む先生。
 何人かの男子が、生唾を飲む音が潤也の耳に入った。
 明らかに、教室の半分以上の男子生徒が、先生の艶かしい朗読と、乱れる吐息を聞きながら、何かよからぬ妄想に浸り、体を固くしているようだ。

 男子生徒ほぼ全員が、全身を耳のようにして、浅賀先生のさきほどまで教室のあちこちで起きていた女子生徒たちのクシャミの音も、それに協力するように、すっかり止んだような気がする。

 しかし、潤也は、変化が女子生徒たちにも起こっていることに、やがて気がついた。
 もう一枚、女子たちの間で、メモが回されている。
 潤也の隣に座る、日野美佳子の手に渡された時に、そのメモを覗き見た。
 やはり、大樹の字だった。

 『風邪気味の子は特に、これをちゃんと読んで下さい。
 教科書に書いてあることはエッチな言葉だらけ。
 授業だからちゃんと聞かないといけないけれど、すぐにエロエロな気分になって、我慢出来なくなりますよっ! 』

 大樹の筋肉バカなキャラクターだったら、あの風邪がうつっていない女子が見ても、いつものサムい下ネタだと思って無視するかもしれない。
 それでも、あの風邪を引いてる女子がこんなメモを読んだら・・・。
 今も浅賀先生の、色っぽい朗読は続いている。
 潤也は慌ててそのメモを奪い取ろうと、日野の持つ手に手を伸ばした。

「あんっ! ・・・駄目。」

 ただ手が触れただけなのに、日野美佳子がおかしな声を出す。
 みんなの注目が集まって、思わず潤也が俯く。
 その間に、メモは後ろの席へと回されていってしまった。
 潤也は自分の気の弱さを自分で責めた。

 始めは、艶っぽい先生の朗読に、男子生徒たちが興奮して、鼻息を荒くしているのだと思った。
 しかし、潤也はやがて、荒い呼吸をして体温を上げているのは、彼の周りの女子たちだと気がつく。

「この・・・、条約は・・・ウンッ、・・・1648年、ドイツの、ミュ、・・ミュンスターで締結された・・・。代表的な・・あうんっ・・・、合意内容は、以下のとおりである。」

 潤也は、隣に座る日野美佳子が、今まで蛍光イエローのマーカーを持っていたはずの手を、スカートの中に入れてモゾモゾしているのに驚く。

「フランスは・・・、あ・・、アルザスと、ロレーヌ地方に領土を獲得。」

「あぁんっ。」

 教室の右後方から、女子生徒の、感極まった声が響く。

「スイス・・・、お・・・オランダは、独立を承認。」

「はぁあああんっ。」

 今度は反対側から、嬌声が上がる。

「あ・・・、あうっ・・・。アウグスブルグの和議が再確認され、カルッ・・・、カルッ・・
 カルヴァン派の活動が承認される・・。」

「ふぁああんっ。」

 隣の日野美佳子も含めて、潤也の周囲の女子が切ない声をあげる。
 みんな、片手をスカートの中でモゾモゾと動かしている。
 浅賀先生を見ると、最前列の生徒の机の前に立ち止まって、股間を机の角にグリグリと押しつけながら、朗読していた。

「おい、日野さん、大丈夫?」

 潤也が堪らず、声をかけた。

「こんな・・・、こんなエッチな話を聞かされてたら・・・。私、もう、我慢できないよう・・・。」

 日野が潤也にしなだれかかってくる。
 熱病に冒されたような口ぶりは、完全に発情してしまったかのように、いつもの日野さんとは違う、昂ぶった牝牛のような荒々しい性欲を意識させる。

 潤也が朗読をストップしてもらおうと、手を上げて浅賀先生を見たが、すでに浅賀先生は、人目も憚らずに股間をいっそうグリグリと生徒の机の角に押しつけながら、すわった目で教科書を読み上げはじめていた。
 もはや、誰がなんと言っても、浅賀先生の腰つきと朗読は止められそうになかった。
 潤也は、股間をまさぐってこようとする日野の手を払いのけながら、逃げるように席を立って、教室を後にした。
 女生徒はみんな、先生の史実の朗読を貪るように聞いて、自分を慰め始めている。
 男子生徒も、ほとんどがそのクラスの状況に昂ぶって、食い入るように自分の周囲や、先生の見せる痴態にかぶりついて凝視している。
 潤也を遮ろうとするものは、何もなかった。

 堪えきれずに廊下を走って、4組の教室から離れる潤也。
 途中で目についたのは、6組の教室から手を振る、3年生の先輩だった。
 6組は確か、風邪が流行して学級閉鎖になっていたはず・・・。
 その、誰もいないはずの教室の中にいる、一つ上の学年の石見ヒロエ先輩。
 吹奏楽部で有名なヴァイオリニストである先輩の名前と顔は、世間のことに疎い潤也でもよく知っていた。
 その先輩が、すり硝子の窓を開けて、顔を出して、潤也に手を振っていた。

「おーい。後輩君。私、3年1組の石見っていうんだけど、今日、授業休みますって、伝えてくれない?ちょっと都合が悪くてね。」

 窓のレールに肘を乗せて、まったりと潤也に語りかける石見先輩。
 潤也はその、屈託のない笑みが、かえって気になって、石見ヒロエが顔を出す窓の、隣の窓を開けて、6組の教室を覗き込んだ。

 教室の中には、誰もいなかった。しかし潤也は、石見先輩の異常にはすぐに気がついた。
 窓から見えている上半身は、いつもと変わりない、普段通りの彼女。
 しかし教室の中を覗き込んだ時に見える彼女の下半身は、無防備に素っ裸になっていて、教材用の大きなコンパス。
 黒板に当てて使う棒とゴムの部分がしっかりと股間の割れ目に挿しこまれていた。
 上半身では何事もないように振舞いながら、下半身はズボズボと、授業の教材を使って自慰行為に浸る彼女。
 その捻るような妖しい腰使いと、際限なく垂れ流される愛液を見て、潤也はそれが、圭吾の与えた指示によるものだと理解した。

 圭吾が、潤也が教室を飛び出すことを予想して、嘲笑うかのように、石見先輩をただのサインとして利用している。
 そう気がついた潤也は、保健室に向けて駆け出した。

 もはや、西中トリオの友情も限界だ。
 保健の先生に何もかも打ち明けて、このおかしな病気について理解してもらおう。
 この風邪の秘密を説明して、病院にでも警察にでも連絡してもらおう。
 そう決心して、1階に駆け下りた潤也は、保健室に辿り着き、そして驚愕の光景を目にする。

 圭吾が、保健の桜井先生と、そして大勢の女子たちと、乱交パーティーにふけっていた。

「おう・・・。来たか、潤也。勘がいいね。保健室は朝から、『風邪気味』の女子で満員御礼だ。看護してるうちに桜井ちゃんにまで伝染っちゃってた。まさに、入れ食い状態だよ。お前も楽しむかい?」

 白いベッドの上、何人もの全裸の女子生徒たちの上で、座禅を組むように桜井先生と抱き合って結合している圭吾。
 その体にさらに何人もの女子がまとわりついて、可憐な乳房を押しつけたり、舌で奉仕したりしている。
 快楽を貪る顔つきで腰を振り続けている、惚けたような桜井美和子先生。
 先生だけが、裸の上に、申し訳程度に白衣を肩で羽織っている。
 その周りに何重にも連なっている、若く溌剌とした乙女の肉。
 まるで何かの宗教行事のように、十数人の人間が情熱的に肉の交わりを見せつけていた。

「おう・・・、なんかさ・・・。最初は他愛のない、お医者さんゴッコだったはずなんだけど、気がついたらこんな仰々しいことになっちゃったよ。これじゃ、男の先公が来た時点で終わりだな。一応、念のために見張りも用意してあるんだけどね。ホラ、潤也、桜井先生、32歳なんだってさ。ちょうどいい具合に熟してるぜ。ケツも腕も腹も、柔らかい肉がついててさ。なかなかイケるよ。」

 圭吾の目が、明らかにおかしい。
 異常な雰囲気にあてられたのか、すこし潤也は気分が悪くなって、保健室の内部から、目を逸らした。


。。。



 永友哲雄は、自分の力不足を痛感していた。
 よりによって、自分の担当クラスで、後輩の女教師が不祥事を起こすとは思わなかった。
 それだけではない、自分の教え子である女生徒たちが、同様に授業中に、男子生徒たちの目もはばかることなく、自慰行為に没頭していたというではないか。
 これは、浅賀優理一人の責任ではない。クラス担任の自分の責任でもある。
 そう自分を説得しようとしていた。それでも、どうしても、怒りの矛先が浅賀に向いてしまう。
 彼女が、教育大学の後輩ということは大きな理由ではない。
 こうして生徒指導室で彼女に説教をしている間も、彼女が永友の目の前で、机の角に自分の股間を押しつけて卑猥な嬌声を上げているのが、気に入らないのだ。
 どれだけ強く叱責しても、彼女はボンヤリとしたトーンで、のらりくらりと言い訳をしながら、その腰の動きを止めようとしない。
 机にコブシを叩きつけて説教した熱血教師の永友も、ついには脱力して椅子に寄りかかってしまう。
 生徒たちの生活態度に問題が目立ち始めてから1週間弱・・・。
 今日ほど自分のこれまでの信念、自信、自負を揺るがされたことはない。
 一体、優秀だった世界史教師、浅賀優理に何が起きてしまったというのだろうか。
 彼の可愛い教え子たちは、なぜ突然、授業中に自慰行為や激しいペッティング、はたまた本番行為にまで及ぼうとしてしまったのか・・・。
 職員室では今、破廉恥な行動が見つかった3年生の石見が、担任の教師にこってりと絞られている。
 彼女もこの浅賀たちと同じように、ヘラヘラと口ばかりの謝罪を述べながら、自慰行為を止めようとしないでいるのだろうか・・・。

「一体、何があったっていうんだ。浅賀はそんなことする奴じゃなかっただろう!」

 永友が、後輩教師の目を見て、話しかける。
 精一杯の誠意と根性でこれまでクラスをまとめてきた教師は、目をかけてきた後輩に対しても体当たりで話し合おうとする。
 しかしその声は、浅賀優理の心の底には響いてくれないらしい。
 まるで何か別のものが、彼女の心の底に陣取ってしまったかのように。

「だって、先輩。教科書が、すっごいエッチなんですもん。それをずっと生徒たちのまえで読まされたんですよ。私、もう、我慢しすぎて変になっちゃいました〜。」

「君が読んでいた教科書には、何にも変なことなんて載っておらん! ヨーロッパの近代史についての記述があるだけじゃないか。」

「あっ・・・・あぁぁんっ、・・・もう、先輩。ヨー○ッパだなんて、教師なのに、そんなこと言っちゃっていけないんだ〜。ウフフ。先輩がそんなエッチなこと言うから、私また・・・アッ・・・ああああぁ・。」

 浅賀がのけぞると、ブシュッと机の上に、彼女が股間を押しつけている角から、液体が下着を染み出して水溜りを作る。
 コミュニケーションの限界を感じた永友は、頭を抱えてその机に突っ伏した。
 少し酸味のある牝の匂いが机に、生徒指導室に充満してしまっていた。


。。。



 若い大樹と圭吾は、悪戯の手を緩めなかった。
 動きの悪い潤也を尻目に、ランチタイムは部活の部室があるクラブハウス棟に、「風邪気味」の女子たちを引き入れて楽しもうとする。
 彼らの毒牙に真っ先にかかったのは、バトン部だった。
 食事時間にもかかわらず、部の主だったメンバーが、先輩からの指示で部室に召集される。
 風邪気味で、今日の部活は休もうと思っていたメンバーばかりだったが、キャプテンや先輩の指示で仕方なく昼休みに集合すると、部室には見慣れない男子が3人もいた。

 彼からでも、指示をされると、何となく、風邪でボンヤリとした頭にとっては、絶対的なアドバイスのように聞こえる。
 これといった疑問も持たずに、部員たちは、男子がいるにもかかわらず、その場でユニフォームに着替え始めた。

 紺と黄色のビビッドなデザイン。バトン・トアリングとチアに使う、ユニフォームに着替えていくなか、彼女たちは下着は身につけない方が良いというアドバイスを送られた。
 頭が重く、あまりあれこれ考えたくないメンバーたちは、従順にそのアドバイスに従うことにした。

「はい、じゃあパフォーマンスを始めよう。僕らが個別に指示を与えた人は、演技から外れて、僕らの指示に従うんだよ。」

 大樹の性欲は底なし、圭吾の支配欲も底なしのようだった。
 ノーパン、ノーブラで跳ね回る、キュートな女子たちの胸もとは、動きづらいぐらいに、彼女たちの動きから一秒ほど遅れて二つの固まりが激しく前後左右している。
 足を蹴り上げると、スカートからは健康的な太腿だけではなく、足の付け根の黒々とした毛まで見えてしまう。

 狭い部室の中、目一杯展開したり集合したりしながら、軽やかにボックスやサイドステップを踏んで、バトンを回転させたり、ポンポンを振り回す部員たち。
 大樹と圭吾が一人一人を、じっくり物色していく。
 大樹がしゃがみこんで、一人の部員のスカートの中に顔を突っ込んでも、カチューシャをしているその子は演技中の笑顔をけして崩さない。
 圭吾も遠慮なく、一人一人のスカートを捲り上げて、中の様子を探っていく。
 テンションが上がってしまった大樹は、みんなのステップのリズムに合わせて、カチューシャの女の子の上着をペロンとめくったり下ろしたりする。
 そのたびに小ぶりの丸いオッパイが顔を出してしまうが、女の子は大樹の手を払うこともなく、圭吾に言われるままに、懸命に演技を続ける。

 早くも我慢できなくなった大樹が、カチューシャをしているチャーミングな女の子を床に押し倒して、股間に顔を埋める。
 女の子は喘ぎながらも、両手は必死でポンポンを振り、掛け声のタイミングも間違わない。
 しかし圭吾が新しいコーチングをすると、他のメンバーたちは、大樹とカチューシャの子を囲むように円を作って、さらに白熱した応援を始めた。

「ゴーゴー、ダイキ! イケイケ、ダイキ! ファック、ファック、サワコ! ヤーッ!」

 みんなの応援にこたえるかのように、大樹とカチューシャの美少女が抱き合って、互いの腰を擦りつけ始める。応援のリズムに合わせながら、いつの間にか結合して、みんなの掛け声と一緒にピストン運動を始める。
 今日すでに何度もイッている大樹だが、これだけの数の女の子たちに応援されると、頑張るしかない。
 その場で足踏みをしながらチアをしてくれるメンバーたちの熱気も手助けに、ピストンを激しくしていく。サワコと呼ばれているカチューシャの女の子も、鍛えているだけあって、なかなか腰のバネがいい。
 ギュッと締めつけたまま、ダイナミックに動き回る。
 キュッと上につりあがった尻の二つの山が、大樹の腰にうちつけられて、パンパンと軽快な音を立てる。

「ファイト、ファイト、ダイキ! スタンダップ、ダイキ!」

 女子たちの声援に盛り立てられるかのように、大樹の腰使いが激しくなってくる。
 サワコの表情も険しくなってきて、のけぞるように天を仰いだ。

「ゴーゴー、サワコ! ヤーッ!」

 タイミングを合わせるかのように、大樹がサワコの中に、熱い精液を濁流のように流し込む。
 サワコも同じ拍子でエクスタシーに達したようで、バンザイのポーズで、大きく上に、両手のポンポンを放り投げた。

 部が一致団結した、感動的でスペクタクルなセックスだった。


。。。



 圭吾と大樹の悪戯は、際限なく加速していった。
 午後に体育の授業があるのに、体操服を忘れてきた女子がいると聞いて探し当てると、案の定、あまり困っていない様子でニコニコと鼻をすすっている。
 彼女は美術部まで連れて行かれて、全裸にされると、圭吾の友人である美術部員の男子生徒数人に、体操服をボディペインティングしてもらうことになった。

 全身に絵筆で白い絵の具を塗りたてられるくすぐったさ、生まれたままのウブな胸にゼッケンと名前を書き込まれる恥かしさを我慢した彼女は、圭吾や大樹の言葉を信じて、自信満々で運動場に集合した。
 しかしすぐに絵の具を塗った全裸であることが発見されて、生徒指導の永友先生のもとに送られた。
 永友先生としては女子生徒であり、デリケートな問題になりかねない話であるために、保健の桜井先生に指導を頼みたかった。
 しかし桜井先生は訳あって、朝から看護を必要としていた女性とたちと、保健室にこもりっきりになっているとのことだった。


。。。



 少しずつ、圭吾や大樹が起こしている騒動が、他の男子たちにも漏れ聞こえ始めていた。
 特に授業中の浅賀先生とクラスメイトたちの変貌ぶりを目の当たりにしていた2年4組の男子生徒たちは、自分たちでも何か出来ないかと、試し始めた。
 結果としてその日の午後には、校内のいたるところで、男女の不純異性交遊が同時多発しはじめた。

「ちょっとアンタたちっ。高校の敷地内でのキス厳禁っ! あっ・・・、舌入れてた?生徒指導室、行ってきなさい。」

 声を張り上げて、あちこちで指導をしているのは、数学教師の鍛冶綾乃先生。その美貌は誰しもが認めるが、気性の激しさでも知られていた。
 生徒からはカジという苗字から、「ファイアー・アヤノ」というアダ名を頂戴していたが、彼女の前でそのアダ名を出した生徒は、例外なく厳しい指導にあってきた。

 男性教師が走り回って生徒たちの問題行動に対処しようとするなか、彼女の同僚の女教師たちが、なぜか問題の張本人になっていることが多いのが、彼女の憤りのもととなっていた。
 不甲斐ない、同僚女教師の分まで頑張って、当校のタガを嵌めなおさなければ、そうした使命感のもと、彼女の張り上げる声は、いつもよりもさらに厳しいものとなっていた。

「ちょっと、アンタたち。もうすぐ6時限目の授業も始まるっていうのに、何を女子とイチャイチャしてるの?」

 彼女に呼び止められて、女子たちを連れた、3人の男子は、ビクリと背筋を緊張させた。
 振り返るとそこには、両手を腰に当てて仁王立ちになっている、「ファイアー・アヤノ」。
 圭吾と大樹、そして潤也の表情が凍りついた。

「さっさと教室に戻りなさい。それとも、ひょっとして次の授業をサボる気でいたの?だったらじっくりと話を聞かせてもらおうかしら。」

 冷徹な目で、3人の男子生徒を見回す。

「い、いえ。僕たち、今から急いで教室に戻るところだったんです。ねっ?」

 圭吾が調子よく促すと、首をかしげて目をパチクリさせていた女子たちが、嬉しそうに頷いた。

「はいっ。多分そうです。」

「だったら、ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと戻りなさいっ!」

「はっ、はいー!」

 大樹と潤也が駆け出そうとする。

「廊下は走るな。」

「はいっ。」

 全員が、競歩の選手のように早足で歩き始める。
 どうやら問題行動を起こそうという生徒ではなかったようだ。
 鍛冶綾乃が少し、張り詰めた気を緩める。とっさに、鼻がムズムズとした。

「ックシュンッ!」

 クシャミの音。早足に歩き去ろうとしていた圭吾が、ピタリと足を止める。

 恐る恐る振り返って、様子を伺った。
 朝から叫び通しだったからか、鍛冶先生は少し、体が熱っぽく、頭が重くなっていることに気がついて、思わず壁に手をついて寄りかかった。
 その様子を見た圭吾が、高校生とは思えない、邪な笑みを浮かべた。

「おい、大樹、潤也。予定変更だ。」

「わかってるよ。美術室で遊ぶって予定はキャンセルで、教室に直行だろ。ほら、早く行かないと、ファイアーにぶっとばされるぞ。」

 大樹が能天気に応じる。潤也はしかし、圭吾のトーンから、また嫌な予感を感じていた。

「違うよ、大樹。お前らに美術室に行ってもらうって予定は続行。俺の予定を変更だ。後から行くから、始めててくれ。いいな。」

 大人びた笑みを浮かべて、圭吾が鍛治先生に近づいてくる。
 鍛冶綾乃はその生意気な顔にビンタをしてやろうかと思ったが、手を上げるとさらに体のバランスを失って、壁に体全体を預けてしまった。

「先生、窓を舐めてみて。」

 圭吾が囁く。綾乃は一瞬、どうして良いかわからなくなったが、生徒の言うことをすぐに否定するのもよくないと思い、廊下の壁、寄りかかっているところから少し上にある、校舎の外が見えるガラス窓に舌を伸ばして舐めた。

「やっぱり・・・。ビックリさせるなよ、綾乃先生。これからは俺の言うことには、全部従ってね。」

 圭吾に言われて、判断に迷った綾乃は、数秒の間、首をかしげて瞬きをしていたが、最後には大きく首を縦に振って頷いた。

「・・・ええ。いいわよ。」


。。。



 もうすぐ放課時間が終わろうとしているが、男子便所で用を足していた1年生の生徒たちは、教室に戻っていたら絶対にお目にかかれなかったであろう、不思議な光景に立ち会うことになった。
 突然、男子便所の中に、鍛冶綾野先生が入ってきたのだ。

 数ヶ月前、トイレで喫煙をした生徒がいたと報告があってから、週に一度か二度、男の先生が便所を巡回していた時期があった。
 しかし、女の先生が突然、なんの断りもなく、男子便所に入ってきたのは初めてだ。

「おーい、みんなゴメンね。先生がオシッコしたいっていうから、ちょっと手伝ってあげて欲しいんだ。」

 2年生らしき先輩が、その時便所にいた、5人の1年男子に呼びかける。
 言われた男子生徒たちはどう反応していいのかわからなかったが、厳しい口調で有名な鍛冶先生の前で、緊張を解けずにいた。

「いや、手伝いって言っても、大したことじゃないよ。ただ、先生すごく綺麗好きだから、服を着たまま用を足すのが嫌なんだってさ。だから、みんな、先生がオシッコしてる間だけでいいから、服を持っていてあげてよ。ねっ、先生。」

 鍛冶先生の表情はいつもと違い、妙に柔らかかった。
 ニッコリ笑って、圭吾の言葉に頷く。

「はいっ。そうです。みんな、お手伝いお願いします。」

 1年生たちがお互いの顔を見合わせて戸惑う中、綾乃先生はなんの躊躇いも見せずに、ブラウスのボタンを外し始めた。
 男子便所で遠慮なく脱衣をする美人教師。
 丁寧にアイロンのかけられた白いブラウスが、一人の生徒に手渡された。

 圭吾が掃除道具入れから、水色のプラスチック・バケツを取り出す。
 戸惑う1年生たち一人一人に、綾乃先生が身につけていた、衣類が手渡されていく。
 花の香りのような控えめの香水と、先生の体温が、まだしっかりと残っている服。
 男子生徒たちは、手渡されるタイトスカート、スリップ、ブラジャー、パンスト、パンツを凝視しながら少し前屈みの姿勢になってしまっていた。

「ほら、先生。狭いところでオシッコするよりも、ここの方がいいだろ?このバケツにオシッコしなよ。」

「はい。わかりました。」

 圭吾の言葉にニッコリと頷いた時にはもう、綾乃先生は素っ裸になってしまっていた。
 スレンダーな白い体。華奢で長い手足と、小さいがポッコリとおわん型の乳房。
 陰毛は意外と濃くて、生えている面積も広かった。

 先生が差し出されたバケツを跨いでしゃがみこむ。

「みんな、先生の放尿、手伝ってやってくれよ。『シーッ』ってみんなに掛け声かけてもらわないと、先生、気持ちよく小便出来ないよ。ね?先生。」

 男子の輪の中で、全裸で足を広げしゃがみこんでいる綾乃先生は、みんなにお願いするように、上目遣いで頷いた。

「そうなの、先生。とっても困ってるの。みんな協力して。」

 あまり本気で困っているようには見えなかったが、とりあえず男子たちは従うことにした。

「シーーーーーーーーーッ」

 男子生徒たちの低音が揃う中、円陣の中心でしゃがんでいる綾乃先生の眉間に、一瞬皴が寄った。

「タッ、タタタタ・・ジョーーー。」

 声に揃えるように、プラスチックのバケツの底が音を立てる。
 綾乃先生の表情が嬉しそうに緩んだ。高く筋の通った鼻から、安堵の溜息が漏れる。
 顔を近づけて見つめる男子たちの前で、先生は、尿道から弧を描いて水流の落ちるところを、全て晒してしまっていた。

「綺麗好き」の先生は、放尿後にはその場にいる1年生一人一人に、股間をペーパーで拭いてもらって、綺麗になっているかしっかりと確認してもらう。
 その後、バンザイのポーズで立っている先生に、みんなが服を着せてあげた。
 多少、雑に着せられて、服装は乱れている。
 よくよく考えると、パンツは穿かせてもらえていない。
 それでも先生は、協力してくれた生徒たちに心から感謝して、一人ずつ頬にお礼のキッスをして回った。

 すっきりとした気持ちで、鍛冶綾乃先生は次の授業へ向かう。
 確か圭吾の言うとおり、6限目は2年2組で、「実践・性教育」の授業だったはず。
 体を張った授業だが、やりがいは大きい。
 仕組みを理解できたときの生徒の喜ぶ顔が、目に浮かぶようだ。
 綾乃はスキップするような軽やかな足取りで、2年生の階へ向かった。
 途中、同僚の教師に、教師が廊下を走らないようにと注意されたので、ブリッコアイドル顔負けの、可愛い笑顔と投げキッスでごまかした。


。。。



 清水谷学園高校は既に、学び舎の体をなしていなかった。
 授業時間にもかかわらず、廊下のいたるところで、男女が身を絡ませ、愛を交歓している。
 服をはだけていたり、半裸の女子生徒たちが、焦点の定まらない目をしながら、フラフラと笑顔で徘徊している。
 彼女たちは通りがかりの男子に体をまさぐられても、嫌な顔一つ見せずに受け入れている。
 声を枯らして男性教諭が、熟年の女性教諭が注意して回っている。
 しかし圧倒的に数の多い生徒たち、そして若手の女教師たちが、次々にヘラヘラと問題行動を起こすので、とても手がまわらない状況だ。

 教室の中でも、教科書やノートを忘れてきた生徒。
 居眠りをして椅子ごと倒れこむ生徒。
 授業内容を忘れてしまって、好きな果物の話で1時間ごまかす先生と、授業が行なえる状況ではなくなっているようだ。

 大樹と圭吾は、動きの悪い潤也を見張りに立てて、美術室準備室を「揉みくちゃの部屋」に改装した。
 選りすぐりの可愛い女子生徒が集められて、全裸でギュウギュウ詰めにされてしまう。
 圭吾が何もしらない悪友たちを一人ずつその部屋に呼び込むと、部屋の中で彼らは、黄色い声をあげて絡みつく、美少女たちに揉みくちゃにされた。
 圭吾や大樹の友達の中からは、その一日で、童貞はほぼ絶滅してしまった。

 調子にノッて、圭吾が残りの悪友を呼び寄せようと廊下を走る。
 すれ違う女子のなかで、「これは」という子は、「揉みくちゃの部屋」に連れ帰ろうとする。
 楽しみの絶頂の中で、圭吾は突然上から、脳天に大きな衝撃を受けてうずくまった。
 生活指導の永友哲雄が、鬼瓦のような顔になって睨みつけていた。


 しぶしぶ見張り役を務めながらも、学校の大混乱が気が気でならない潤也は、廊下の角から、担任の永友先生が、凄い歩幅で歩み寄ってくるのを見て、硬直した。
 圭吾の襟首を掴んで、引き釣りながら歩いてくる永友先生。
 苦しそうに引きずられる圭吾を見て、潤也は、自分の首も絞められているように感じた。
 死刑執行人の登場だ。
 いや、高校のこんな状況を考えると、正義の味方の登場と考えた方がいいのだろうか。
 立ち尽くす潤也は、虚ろな表情でそんなことを、妙に冷静に考えていた。

「八木原ーっ! お前もコイツらの一味かっ! 先生は悲しいぞーっ!!」

 縮こまる潤也は、頭を下げる。体は鉄拳制裁を予想して、あごを引いて首を守っていた。

 担任の絶叫を聞いて、美術準備室から、しおれた表情の大樹も顔を出した。
 こういう時に逃げ隠れしないのは大樹のいいところだが、今の潤也にとっては、あまり建設的な助けにはならなかった。
 引きずられながら、圭吾が携帯をいじっている。
 彼はすでにド叱られて、現実逃避をしてしまっているのだろうか。
 出来れば圭吾に、「嫌がる潤也を無理やり引っ張り込みました」と説明してもらいたい。
 潤也はそんな都合のよい考えを押し殺しながら、自分の情けなさに腹が立った。

 しかし、イカつい体格の永友先生が潤也の目の前まで迫った時、助けは意外なところから訪れた。

「キンコンカンコーン」

 授業時間中だというのに、校内アナウンスの音が流れる。
 意外なタイミングの意外な横槍に、永友先生も怪訝な顔で立ち止まった。

「全校生徒の皆さん、先生方にお伝えします。ただ今から、清水谷学園高校の全校イベント、校内・大・鬼ゴッコ大会を行います。」

 聞き覚えのある声・・・。
 八木原潤也はその声が、放送委員の今林果帆の声だと気がついた。
 永友先生が襟首を引きずっていた、圭吾の方を見ると、ニヤニヤしながらベロを出している。

「女子生徒、女性教諭の皆さんは、逃げやすいように衣服を全て脱ぎ捨てて、追いかけてくる人たちから逃げてください。追いかけてこないようでしたら、セックスアピール全開で、挑発しちゃいましょう。男の人に捕まったら、その人が精子を出すまでは捕虜です。処女の人は、出来るだけセックスしないでも精子を出せるように、口や手で頑張ってください。」

「お・・・、おいっ。何だこれは?止めさせろっ。こんなことさせたら・・・。」

 永友先生が、くるりと体と反転させて、放送室の方向に走り出す。
 しかし放送はまだ続けられる。
 今林果帆は滑らかに、予め用意されている原稿を読み上げるように、アナウンスを続けていた。

「学校の敷地内から出てはいけません。運動場や体育館は走りやすいので、存分に活用しましょう。みんなで思いっきり楽しんで、よい汗をかきましょう。それでは、大・鬼ゴッコ大会、スタートですっ!」

 明るい歓声が上がって、美術準備室から、各教室から、いたるところから、裸の女の子たちが駆け足で飛び出した。
 走りながら、制服を上に放り投げていく女子生徒たち、服を破り捨てるように剥ぎ取りながら、笑顔でダッシュしていく女の子たち。
 みんな歓声を上げながら、鬼ゴッコに興じ始めていた。
 運動場には、男性教諭たちに追いかけられて、笑い声を上げながら逃げる、素っ裸の女子高生たちが見え始めている。

 満面の笑みを浮かべながら、全裸で全力疾走していく、体育会の部活らしい女の子たちのグループもある。
 悲痛な声をあげて、裸で駆けまわる自分の彼女を追いかける、男子生徒。
 降って沸いたイベントにのっかって、クラスメイトたちの裸を目に焼きつけたり、追い回して楽しんでいる男子。
 赤面して、見ていないという素振りを見せながら、チラチラと見回しては前かがみに立ち尽くしている男子。
 男の子たちの反応は様々だった。

「コラー、待ちなさいっ! 嫁入り前の娘が、そんなことしちゃイカンッ! 嫁入り後でもイカンッ! 絶対イカンッ!」

 放送室まで辿りつけなかった永友先生は、太い声を張り上げて、運動場で生徒たちを追いかける。
 足の速さで言えば、簡単に女子生徒たちに追いつけるのだが、硬派で純情な永友哲雄にとっては、追いついた後、少女たちの生まれたままの素肌に直接触れるのが躊躇われる。
 一人を追いかけようとすると、違う方向の女子生徒が、胸を揺すったり尻を振ったり、足を広げて割れ目を見せたりしながら、自分を追いかけろと言わんばかりに挑発してくる。
 まったく、キリがなかった。

 運動場で同じように生徒を一人一人、服をかぶせて、連れ戻そうとしていた、学年主任の久保田先生は、捕まえた4、5人の生徒たちにズボンを下ろされ、股間を弄られて、不祥事を起こしそうになっている。

 こんな時こそ頼りにしたい、鍛冶綾乃先生だが、永友哲雄が見つけた時には、バンザイのポーズで肩と腰をくねらせて、何人もの男子生徒を挑発しながら、キャーキャーとはしゃいで逃げ回っていた。

 鍛冶先生の裸・・・。
 純情な永友先生の頭は、あまりの異常事態に、爆発しそうになっていた。
 追いかける振りをして、保護する振りをして、あの肌に一瞬でも触れられたら・・・。
 イカンっ、俺までおかしくなってどうする!

 奥手で一本気な永友先生は、自分の両頬を両手で同時にビンタしながら、正気を保とうと必死だった。

 その目の前を、バレリーナのように嬉しそうに跳ね回る、後輩、浅賀優理のしなやかな裸身が横切っていく。
 哲雄の鼻から、マンガのように、あるいは水芸のようにきれいに、二本の鼻血の水流が飛び出した。
 激闘に敗れたボクサーのように、背中から地面に倒れこむ永友哲雄。
 ダウンしながらも、どこか満足げな、安らかな表情を見せていた。


 清水谷学園高等学校が、「流行り風邪」で学校閉鎖になったこの日が5月20日。
 しかし学校側が、生徒の将来にこだわって、重要な情報のほとんどを隠そうとしたために、教育委員会にも病院にも警察にも、必要な詳細報告はされなかった。
 政府関係者の間で事態が明るみになったのはその後、一部の生徒たちが診察に訪れた、近くの慈光院総合病院が、血液検査の結果報告とともに一時閉鎖されてからであった。
 正確な事態の把握が、1週間も遅れてしまったことになる。

 
 


 

 

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