つい・すと


 

 



3日目・午後3 誘惑




「……」
「……」
 僕とシュンは、ダイニングの椅子に座っていた。

 いつの間にか雨は止み、再びギラギラとした日光が窓から照りつけてきていた。ミリアちゃんが現れて、叶とちーを奥の部屋に連れて行った。体型が変わったので、お色直しが必要になったのだ。結果、僕達は二人で留守番をしているのだった。

 だけど、シュンの様子がおかしい。
「……」
「……」
 何度か話を振ったけど、シュンは心ここにあらずといった様子で、生返事を返すだけだった。結果、僕も一旦黙り込んで、今に至る。
 何かよく分からないけど、気落ちしているようだったので、どうやればシュンが戻ってくるかを考えていた。

 僕は、水着のショーツを着直していた。ミリアちゃんが戻ってきて、僕の裸を見られてしまったときは、とても恥ずかしかった。ダイニングを部屋と同じだと思ってくつろいでしまったのは、失敗だったかもしれない。ミリアちゃんはすぐに戻ってくるだろうから、再び裸になるのは自重した。上半身の方もさらけ出したままだけれど、こちらは隠すものがないので仕方がない。
 シュンも未だに、上半身裸のままだ。シュンの胸元にできた、大きくなった二つの塊は、今も露わなままで、シュンがそれを気にするそぶりはない。やっぱり、このあたりは男の子だ、と思う。
「……シュン、かわいくなったな」
「……ふざけんなよぅ……」
 シュンがさらにうなだれた。あれ、逆効果?
 でもまあ、シュンの落ち込みは深刻なものじゃないだろう……と、何となく軽く考えていた。無視もされなかったので、もう少しつついてやる。
 ……普段のからかいの仕返し、という思いも、もちろんあった。シュンからはいつも性に関してからかわれるのだ。久しぶりに、大きな反撃ができそうだ。
「僕より胸大きいじゃんか」
「…………男の尊厳ってものがあってな……」
「女の尊厳ってのもあってね」
 あ、自爆した。何やってんだ僕。
 ……そりゃあ、「ぽっと出の女の子」の胸が僕より大きくなったら、思うところもあるというものだ。
 この方向はまずいので、別のところから掘ってみることにした。
「女の子になったシュンなんて、やんちゃなオカマしか考えつかなかったよ」
「って、考えたことあったんかよ!」
 シュンが顔を上げて、やっと突っ込んできた。
 かかった。そういう反応こそ、普段のシュンだ。と、一瞬喜んだ。
 だから。
「ああ」
 愚かな僕は。
「シュンが僕に告白してきたとき、もしシュンが女の子だったらって……――っ!」



 その一言が、完全無欠な失言であることを、口に出す前に気づくことができなかった。







 俺が小学生の頃ならば、気づかなかったかもしれない。だけど、今の俺は、そこまでバカではなかった。

 マコトは、黙り込んだ。
 取り繕ってくれれば、まだごまかしようもあった。だけど、それすらできないあたり、マコトの動揺は計り知れない。



 俺自身も、自分が女なら、と考えたことがあった。
 男なら、邪な意味でそういうことを考えたことがある奴は多いかもしれない。しかし、俺の場合――マコトという初恋の相手がいた俺の場合、意味合いはそれとは全く異なるものだった。

 それを何度も考えたのは、マコトに振られてから、しばらくの間。



 ――俺が女だったら、マコトの彼女になれたかもしれないのに――



 それは、絵空事だった。実現可能性のない妄想だった。当然、マコトもそう思っていたはずだ。

 しかし、何の因果か、その絵空事は、今、実現している。俺が女体化に抵抗がなかったのも、きっと、その絵空事を何度も描いた経験があったからだ。
 その絵空事は、当時の俺にとっては本気の願望だったから。



 その危険性には、とっくに気づいていた。
 だから、考えないようにしていた。



 ――今の俺は、マコトにどう見えているのだろう?



 その禁断の考えが、俺の頭をよぎったところで、
「お待たせしました」
 奥の部屋から、人影が現れ――



「え?」
 考えが吹き飛ぶほど、あっけにとられた。



 メイドドレス姿のミリアに先導されて出てきた二人。

 千晶が身につけていた水着は――赤い布地が、肩からV字に股間に下りている。その生地は、千晶のおっぱいを縦に半分ほど隠しているが、へそや、深くなった胸の谷間は一切隠れていない。腰も、V字の布以外に隠すものはない。股間と乳首はちゃんと隠れているし、大きく動かない限りは中身が見えそうではないから、水着としてはギリギリ機能していると言えなくもない。
 それは、俗にスリングショットと呼ばれるものだった。

 一方、叶が身に着けている水着は、胸部分が一応カップのようになっていた。しかし、その膨らみを完全には覆えてはおらず、やはり胸の谷間とへそが丸見えになっている。生地は黒で、明るめの紫で縁取られている。下半身ではショーツの形状になっているが、ハイレグになっていて、股間が強調されている。こちらも、布幅からして、水着として機能するかギリギリのところ。
 それは、モノキニと呼ばれる水着だ。

 どちらも、裸と同じくらい――いや、見方によっては裸より、エロかった。

 思わず一瞬、叶の方に目が行った。何より、そのおっぱいに釘付けになる。
 ……さっき、叶のおっぱいが膨らむ一部始終を見てしまった。このおっぱいのでかさは、ヤバい。Fカップくらいになってる千晶より、さらに二、三周り大きい。……Hカップ、という、あり得ない目測がはじき出された。そしてそのHカップは、千晶のそれと同様、ロケットのように前に突き出して、垂れる気配が全くなかった。

 二人が、こっちに寄ってきた。俺は慌てて立ち上がり、千晶に視線を戻した。千晶は羞恥からか下を向いていて、俺の視線には気づいていなかった。
 大きな三つ編みを揺らしながら、千晶は俺に近づいて、目の前で止まる。両手は後ろに組まれ、もじもじしていた。その仕草は、確かに千晶のものだ。
「……ミリアさんが、せっかくだから大胆なのにしましょう、って……」
 声は、恥ずかしがっているが、嫌がってはいない。
 その水着が、似合っているか否かと二択を問われるならば、
「……すっげえ、似合ってる」
 百パーセントの本音だった。
 千晶はカップ三つ分もおっぱいが大きくなったが、その身体はアンバランスにならないギリギリで、ちゃんとバランスが取れている。もしかしたら、おっぱい以外にも、全体的に体型が少し変わっているかもしれない。その、バランスが崩れるかどうかギリギリな肢体に、不安定な布のスリングショットはまさにピッタリだった。
 千晶が顔を上げる。ほっとしてにっこりと笑う、その瞳は潤んでいた。千晶の乳首が固く、大きくなり、スリングショットの布地を押し上げている。その部分を見ただけで、さっきのビキニと同じくらい、いや、それ以上に生地が薄いのがわかる。
 と、千晶が俺の右手を取っていたのに気づいた。俺が何かを思う前に、千晶はそれを――千晶の胸に押しつけた。
「っ!」
 スリングショットの布のちょうど中間、素肌が露出したところに、俺の手のひらが当てられる。
「……あたし、ドキドキしちゃってる」
 千晶の言葉で、確かに千晶の鼓動が早くなっているのを感じる。しかし、それと同時に、劇的に大きくなった千晶のおっぱいが、俺の右手にしっかりとした感触を伝えてきた。
 戸惑った俺は思わず、千晶の顔を見つめ――そこには、恥じらいの中に、いたずらを実行したと言いたげな、挑発的な笑みが潜んでいた。







 私達四人は、再び浜辺に向かっていた。

 コテージでいろんなことがありすぎた気がするけれど、まだ日が傾く時間ではない。真夏の太陽は、先ほどの雷雲に妨害された時間を取り返すかのように、激しい日差しを注いでいる。
 私は左手を真琴さんと繋いでいた。真琴さんは、再びクーラーボックスを担いでいる。昼食は食べ終わったけれど、改めて飲み物が入っているらしい。

 私の目の前では、千晶さんと俊一君が手を繋いで歩いていた。正面にいる千晶さんの水着は、後ろから見てもV字を描いている。俊一君は、上半身は真琴さんと同じく裸のままで、トランクスとスマホケース(何故か、さっきミリアさんが太ももにつけるものと交換していた。確かに、これでお揃いだけど)だけを身につけ、左腕にはビニールシートとかを抱えていた。後ろから見える体型は間違いなく女性――しかも、かなりグラマラスな――になっているけど、歩き方に男らしさを感じる。……堂々としてる、って言うのかな? 千晶さんとはもちろん、真琴さんの歩き方とかとも全然違った。よく見たら、二人の頭にある花の跳ね方が違う。千晶さんの方はぴょこぴょこと動いていたけど、俊一君のはゆったりしてる。
 二人とも、肉体が大きく変化している――俊一君に至っては、性別まで変わって、面影くらいしか残っていない――割に、そんなことを気にする様子はほとんどない。いかにも恋人、と言いたくなる目配せすらしている。

 私は、自分の乳房を見下ろした。元々大きかったけど、今の私の胸にあるサイズは度を超していた。ミリアさんに測ってもらったら、Hカップって言われた。しかも、なぜか乳房が乳腺質型になっていて、前に突き出すようになっている。おかげで、ものすごく目立つし、このくらい大胆な水着じゃないと似合わない。……こんな乳房、牛みたいだ。せめて背を高くして欲しかった。体重は増えてなかった(体重計に乗って確かめた)からまだいいけれど。ちなみに、体重についてはあたしより千晶さんの方がしきりに気にしていた。
 私にとって、乳房は元々コンプレックスであると同時に、同性からの嫉妬の対象でもあった。大抵の女の子には、大なり小なり嫉妬心というものが奥深くに根付いていて、仮に同性の交際相手に対してであっても例外ではない。もちろん、真琴さんも。
 私は左にいる真琴さんをちらりと見る。真琴さんは乳房は出しっ放しだけど、大きめのサングラスをかけ、今はビキニショーツを穿いていた。真琴さんは、自分の乳房の小ささがコンプレックスなのだ(こんなにスタイルがいいのに!)。それを表に出すことは滅多にないけれど、気にしているのは間違いない。真琴さんが私のおっぱいを好きなのも、コンプレックスと嫉妬の裏返しだと少し疑ってる――もっと言えば、真琴さんの男装趣味にも、多少なりとも影響しているはずだ。まあ、真琴さん、嫉妬心自体はきっと弱い方だとは思うけど。少なくとも、私よりは。
 ……そういえば来週は高校時代の同級生(もちろん女性)と旅行の予定なんだけど、そっちはもっと嫉妬深い。大丈夫かなあ、なんて思う。

 不意に、真琴さんが私の乳房を触ったら、って思った。どんなに気分が乗っていても、普段ならそんなことは頭に浮かばないのに。
 その瞬間に、真琴さんの顔がこっちを向いて、目が合った。途端に真琴さんの口角が上がる。真琴さんの表情がほんの少し熱を帯びていたような感じがして、私の気分が伝わってしまったと直感する。
 私は恥ずかしくなって目を逸らした。そんなに、顔に出ていたかな。いつもなら絶対に気づかれないのに。
 ……全身が、変な感じになっているのは、分かっている。昨日の夜に感じたものより、もっと切ない。っていうか、飢えている。身体が、心が、とても愛を求めていた。
 旅行に来てから、こんなことがずっと続いている気がする。今みたいな飢えを感じることなんかこれまでなかったのに、その感覚にいつの間にか慣れてきてしまっている自分がいた。







 右手からは千晶の、上昇した体温が伝わってくる。その感覚に、俺の滾りが静かに呼応している。
 交際五年目の俺達が、外で手を繋ぐ機会は少なくなっていた。それなのに今の千晶は、コテージを出る前から俺の手を離そうとしない。
 その理由は、わかりきっていた。千晶の中に「女の欲求」が溜まっているのだ。

 千晶に目配せする。千晶は少しだけうつむいて、静かに歩いている。その仕草自体は、これまでの千晶と何も変わったところがない。積極的になったのはエロ限定なんだろうか。千晶の顔は紅潮して、表情から欲求が隠しきれていない。これほどわかりやすいのも、これまでにはそうそうなかったことだ。

 ――やっと、思考能力が戻ってきた、と思う。これまでなら絶対あり得ない行動を、一度ならず二度も三度も千晶に取られて、自分の中で消化するのに時間がかかった。積極的な言葉。積極的な水着。そして積極的な態度。……それがエロ「だけ」で良かった、と身勝手なことを思う。普段の千晶がそんなだったら、それはもはや、千晶に似た別人のような気がしてしまう。

 スリングショットのV字布にはカップがないので、赤い布と千晶の下乳の間には隙間がある。それだけでもメチャクチャにエロいのに、千晶が歩いているので、おっぱいが揺れている。極めつけに、千晶の乳首は勃起しっぱなしだった。布に擦れて痛くないのか、と思ったが、そんなそぶりは全く見せていないので、大丈夫なんだろう。……そこが長く慣れ親しんだ膨らみではなくなって、寂しい思いは、確かにある。でも、その一方で、俺の中の滾りが、一段と大きくなっていた。後ろの二人がいなければ、今すぐ木陰に引っ張り込んで女の声を上げさせてやりたい。思わずその欲求が口から出そうになって、さすがに堪えた。どうもさっきから、エロいことについて、やけに口が軽くなっている気がする。



 その滾りは、今の俺の拠り所だった。

 さっき感じたショックは、まだしっかりと残っている。でも、俺はそれを表に出さないように努めていた。俺の、男としての矜持がそうさせた。特に、彼女である千晶の前で弱音を吐くことは、男としての自分を、自分自身でさらに傷つけることになってしまう。
 ただ、俺の心を傷つけているのは、決してそれだけではなかった。
 コテージで頭上に赤い光を感じた後、俺に何が起きたかは、ほとんど覚えていない。だが、その快楽が「男に与えられうる快楽」でない、ということは、本能が覚えていた。
 俺の身体は、確実に女の快楽に染まりつつある。それに気づくにつれ、俺の心には男としての焦燥感が襲っていた。

 男の身体に戻る方法はないのか――というのは、当然考えなければいけないことだった。だけど、その一方で、「深く考えるな」とブレーキをかける自分が存在している気がする。
 確かに、男の身体に戻ろうにも、とっかかりがない。頭の花など、切ったらむしろ今の身体で固定されてしまう気がする。
 それに、唯一手がかりを知っていそうなミリアも、俺達の変化を推進する側なのがわかりきっている。教えてもらうのは難しいだろう。
 ふと、太ももにあるスマホに意識が向いた。さっきミリアから、新しいスマホケースを渡された。それで、俺のスマホケースが今朝まで腰巻き型だった理由が、やっと分かった。俺の身体の形が変わることを見越していたのだ。太ももに巻いていたのでは、太ももが細くなったときにスマホが落ちてしまうから。
 ――俺はもしかして、もう元に戻れないんじゃないだろうか――そんな思考が頭をよぎる。いやそんなはずはない、と思うものの、それ以上思考は進まない。それは本能からの警告のせいなのか、別の力によるものなのか、自分では分からない。

 思わず、千晶の手を少し強く握った。千晶は一瞬の後、それに答えるように握り返してくる。
 今の俺にとって、千晶を見て身体が滾り、心が弾む感覚は、数少ない男としての輪郭だった。その感覚があるうちは、俺は男として、そして千晶の彼氏として、きっと大丈夫だと思えた。

 もうこうなっては、明日のために、今の楽しみを犠牲にするのは勿体ない。今は、この旅行を楽しみきろう、と開き直るしかなかった。

 「アトラクション」という言葉が、脳内に響いた気がした。







 一度シャワーとボディソープを使ってしまったため、念のため日焼止めクリームを塗り直すことにした。浜辺にたどり着いた俺達は、木陰にシートを敷き直す。

 そこで、四人のスマホが鳴った。取り出して、通知を開く。



『お連れ様が悶々としておられるので、日焼止めクリームをお塗りの際には愛撫を交えて下さい。ただし、今後の遊戯に差し支えないよう、絶頂を迎えることのないようご注意下さい。』



 まずは千晶を寝かせ、背中からクリームを塗る。少し離れた隣には、叶が寝っ転がった。千晶のスリングショットは布が浮きがちになりそうなので、股間以外は全面に塗ってやる必要がありそうだ。
 背中と腕を手早く終え、俺は足にクリームを塗り始めた。
「ん……ふぅっ……」
 クリームで足を撫でているだけで、千晶からは妖しい吐息が漏れている。触っていると、千晶の筋肉がピクピク反応しているのが分かった。
 千晶の股間をのぞいてみる。
(あっ)
 そこは、色が変わっていた。水着を着替えたときに、一旦そこをぬぐっているはずだが、既に、マンコがかなりの涎を垂らしている。相当興奮しているらしい。
(……)
 もしやと思って、俺は自分の股間に手を伸ばす。そういえば、俺の方は絶頂してから何もしていない。自分のマン汁をぬぐっていないのは、まずい気がした……が、今はもうそれどころではない。
「ぅ……っ」
 トランクスの上から触っただけなのに、俺の声も漏れそうになった。再び濡れているのはもちろん、敏感になっていた。昨夜に千晶が言っていたところの「身体のスイッチ」が、もうオンになっている。



 俺は、千晶を仰向けにせず、起き上がらせた。そちらの方が塗りやすいと思ったからだ。
 足を伸ばして座る千晶に、後ろから抱きつく格好になる。俺のおっぱいが千晶に押しつけられて、ぴくん、とした。乳首がほんの少し背中に擦れるだけで、俺の身体が反応してしまう。
 でも、これから快楽に悶えるのは、千晶の方だ。

 俺は千晶の目の前に両手を出し、日焼止めクリームを右手に取った。両手のひらで擦り、手のひら一杯に広げる。
 そこからの眺めは、昨夜とは違った。千晶のおっぱいは確かにとても大きくなっていて、肩越しには千晶の股間が見えない。それでも、長年の経験で、最初の目的地の場所は分かった。
 俺は自分の両手をスリングショットの下に通し、お腹をなで始めた。
「んっ!」
 それだけで千晶はうめき声を上げる。そのままお腹をなで回すと、すぐに千晶の口が開いて、再び熱い吐息が漏れ始めた。千晶の「身体のスイッチ」も、完全にオンだ。
 そのまま、お腹から脇にかけて、満遍なくクリームを伸ばす。そして、もう一度クリームを容器から手に取った。ゆっくりと、千晶の目の前で両手を擦る。
「…………」
 じっと、千晶が俺の両手を見つめていた。その両手が次にどこに行くか、千晶は完全に察している。だから、
「んん……」
 その裏をかくように、おっぱいと同じ高さの脇に触れた。そこから、おっぱいの輪郭に沿うように、両手で一周する。
「むぅ……」
 千晶の、不満を含んだ吐息。そして、
「あんっ!」
 布の下、下乳から一気に山腹を撫で上がり、千晶の両胸を掴んだ。
「あっ! 感じるっ!」
 わずかなごまかしもなく、千晶は快楽を叫ぶ。両手の人差し指と中指の付け根で、千晶の両乳首を挟んだ。
「んああああっ」
 おとがいを逸らし、千晶は震えた。
 千晶のおっぱいは、手からあふれていた。俺の指は細くはなっているけど、手の大きさは多分ほとんど変わってない。それで掴みきれないというのは、相当な大きさだ。
 最初から勃起していた乳首も、以前の千晶のものより一回りほど大きくなっていて、挟み応えがあった。

 千晶のおっぱいを数秒もみほぐしたあと、今度は周りから中心に向かって、回るようにおっぱいを撫でていった。そうしないと、クリームが満遍なく塗れない。
「んっ! あぅっ! ……あっ!」
 それだけで、千晶の震えが止まらない。おっぱいへの刺激が何倍にも増幅されて、千晶の全身を揺さぶっているのが手を取るように分かる。

「はぁぁっ」
 横からも艶めかしい声が上がって、俺は思わず目を向けてしまった。そこでは、マコトが叶にのしかかって……もとい馬乗りになって、叶のおっぱいを撫でていた。
 ……いろんな意味で見てはいけないので、すぐに目を離した。

 俺は、再び頂点に近づいた両手で、乳輪まで丁寧にクリームを塗り込んだ。
 そして最後に、両手指で千晶の乳首を摘んだ。ぐりぐりっ、と押し潰す。
「んあああああああっあっあっあっあっ!!!」
 壊れたラジオのような調子で千晶が悶えて、じきに身体の力が抜けていった。……イッてはないはず。さすがに、この時間でそこまでは無理だ。
「終わったぞ」
 声をかけてやる。千晶は数秒経ってから、ゆっくりと身体の向きを入れ替えて、俺をゆっくり押し倒した。

 ……次は俺が塗られる番だ。それはいい。問題は、千晶の目が座っていることだ。







 俊ちゃんに寝っころがってもらった。
 何となく、頭がぼうっとしてる。何で寝っ転がってもらったんだっけ。
 ああそうか、日焼止めクリーム。

 全身が熱かった。俊ちゃんの上に乗っかったせいで、アソコが水着越しに、俊ちゃんの腰にぶつかる。じわりと気持ちよくて、あたしは腰を押しつけた。

 頭が、おかしくなりそう。全身が、気持ちよくなりたがってる。
 でも、俊ちゃんにクリームを塗ってあげないといけないから、……そうだ。



 あたしは、スリングショットの布を、大きく外にずらした。おっぱいが丸出しになる。
「えっ」
 俊ちゃんがあっけにとられてる。気にしないで、俊ちゃん。あたしが気持ちよくなりたいだけなの。
 あたしはおっぱいに、べっとりとクリームを塗り込んだ。オナしちゃいそうになったけど、我慢した。布に手を添えてないと元に戻っちゃうので、慎重に。
 そして、布に指をかけたまま、そのまま俊ちゃんに覆い被さった。



 首元から。左右に身体を振りながら、俊ちゃんにクリームを塗っていく。
 クリームと言っても延ばしやすいから、意外に簡単に塗れた。
「はうぅぅぅ」
 乳首が擦れて、すごく気持ちいい。おっぱいが潰れるのも気持ちいい。アソコが熱くなって、蕩けていく。
「うおぉ……すげえ……」
 俊ちゃんは、何かとても感動している。喜んでもらえてるようだ。
 足りなくなったら起き上がって、クリームをおっぱいに補充する。
 今度は、俊ちゃんのおっぱいにアタックした。
「あぅっ」
「やんっ!」
 お互いの乳首がぶつかって、声が上がっちゃう。俊ちゃんの乳首も大きくなっていた。俊ちゃんの身体も熱くて、今にも蕩け出しそうだった。







 予想を遙か超えた展開に、俺はしばらくなすがままにされていた。千晶が自らおっぱいをさらけ出したことも、俺の身体におっぱいでクリームを塗ろうとしたことも、普段の千晶なら絶対あり得ないが、見るからに熱暴走を起こしていた今の千晶は、何の躊躇もなくやっているように見えた。
「はぅ!」
「んふぅっ!」
 興奮する。気持ちいい。……俺が。
 千晶のおっぱいが、俺のおっぱいに重ねられている。俺のおっぱいの方が柔らかいようで、少し潰されている。
 味わったことのない感触だった。今まで俺におっぱいなんてなかったから、当たり前だが。
 俺のおっぱいを、千晶の乳首が。俺の乳首が、千晶のおっぱいを。それぞれ擦っている。俺も千晶も乳首が完全に勃起していて、擦れるとすごく気持ちいい。千晶が両手をスリングショットに添えているので、却って不規則な動きになり、俺を翻弄していた。
「あぁ……っ」
 勝手に、熱い吐息が漏れた。おっぱいを起点に、全身の温度が上がっていく。特に、お腹の奥の方が灼熱を放っている。
(ヤバい……)
 腰がムズムズする。落ち着かなくて、左右に振ってしまう。
「あんっ!」
「あっ悪い」
 一瞬、千晶が飛び跳ねた。千晶の股間に、俺の動きが伝わったようだ。
 千晶も相当に発情している。
「……俊ちゃん、感じてる」
「お前もな」
「うん……」



「……いちゃいちゃが長過ぎだ、シュン、ちー」



 あっ、と横を見る。そこには、準備を終えたマコトと叶があきれ顔で立っていた。二人とも顔が赤いのは、……俺達のせいではないかもしれないが。

「……すまん」
「……あうぅ」

 二人揃って、顔が真っ赤になった。
 いたたまれなくなったので、残りのクリームは自分で塗った。
 背中を自分で塗って、少しだけ身体が柔らかくなっていることに気づいた。……どうでもいい。







「ちょっくら泳いでくるわ。すぐ戻る」
「あ、うん」
 準備運動もそこそこにスマホケースを置き、俺は泳ぎだした。気まずかったのもあるし、実際に泳ぎたかったのもあるが、下半身をトランクスごと海水で洗いたい、というのが一番の本心だった。ちょっと泳げば大丈夫だろう。
 すいすい、と平泳ぎで沖に向かう。今度は、岩場を目指したりしない。そこまで行ったら、帰ってきた頃には空が赤くなってしまいかねない。
 適当に数十メートル進んで、Uターンする。……そこで、マコトが追ってきていることに気づいた。思わず一瞬、立ち泳ぎになる。追いかけっこか、と思ったが、そういう様子ではなかった。実際、俺に近づいてきたマコトは、すぐに平泳ぎに切り替えた。

「よぉシュン」
「何だ」
 平泳ぎに戻った俺の横に、マコトはピッタリとつけた。
「さっきのことは忘れてくれ」
「さっき? ……ああ」
 日焼止め……いや、違う。コテージでの一言だ。
 ……わざわざ、言いに来たんか。超がつく失言の自覚があったんだな。
「わかった」
 短く答えた。俺も触れたくない。……怖すぎる。
「じゃ」
 本当にそれだけが目的だったんだろうか、マコトはそう告げて……

 全力で、海岸に向けてクロールを始めた。やっぱりそうだろうと思った。即座にクロールで追いかけた。



 先に波打ち際にたどり着いたのは、マコトの方だった。
「やー、勝った勝った」
「うぅ……」
 マコトが割と本気で喜んでいる。そして、……俺は本気で凹んでいた。
 これまで、よほどハンデや油断がある場合、それとマコトの部活だった柔道を除けば、俺はマコトにサシで負けることはなかった。
 マコトは運動部で、俺は帰宅部だったけれど、俺はそれなりに身体を鍛えていた。「それなりに」というのは、つまり……マコトに負けることのないように。

 距離が短かったから。マコトが先にスタートしたから。言い訳しようと思えば、いくつか言えることはあった。だけど、それは無駄だった。
 泳いでいる途中で気づいていた。泳ぐスピード自体、マコトより俺の方が遅かったのだ。
 泳いでいる最中、俺の上乳が、水流にぶつかっていた。そのせいで、推進力が落ちたのが一つ。
 そしてもう一つ――水を掻く腕の力が、悲しいくらいに落ちていた。掻こうとした水の量に、腕が負けそうだった。これでは、スピードが上がるはずもない。

「俊ちゃん、大丈夫?」
「ん? ああ」
 異変を察知されたのか、千晶が俺のところに寄ってきた。取り繕うように、俺はひょいっと立ち上がり、何でもない、とアピールする。
 千晶はそれを見て、ほっとしたようににっこりと笑った。その純粋な笑顔は、扇情的な水着と正反対だが、何故か絶妙にマッチしていた。

 ……その代わりに。どうしてか、喜んでいたはずのマコトの表情が曇った。



 と――離れたところから、スマホの通知音が聞こえた。

 俺達はスマホを置いた場所に駆け寄り、スマホ入れからスマホを出し、通知を見た。



『これから、たくさんの男性がビーチにお越しになりますが、引き続き遊戯をお楽しみ下さい。なお、男性は皆様に近づいても、触れることは決してありませんので、ご安心下さい。』



 顔を上げた。目を疑った。

「……何だと?」
「うそ……」
 いつの間にか、海岸には人が詰めかけていた。
 見渡す限りの人、人、人。すし詰め、というほどではさすがにないが、あちこちに観光客がいる。海岸の端から端まで。
 そして。

 そこにいた観光客は、全て男だった。
 サーファーのグループから親子連れまで、属性は様々だったが、そこに女はいない。不自然なくらい、男だらけだった。

「……何か、急に混み出したな」
「うん……」
 何でだろう。そう思いつつも、次は何で遊ぼうか、と一瞬思って……はっと、隣を見た。



 案の定、マコトがうずくまっていた。
 両腕で、おっぱいを必死に隠していた。



「マコト、大丈夫か」
 ふるふる、と無言で首を振る。見たことのないような弱々しい様子だった。当然だ。マコトは女だから、不特定多数の男の前でおっぱい丸出しなんて無理だ。
「あっちに隠れよう。千晶、叶、ちょっと待ってろ」
 俺は側にいた千晶と叶に声をかけて、マコトを抱えるようにビニールシートの本拠地まで連れて行った。



「ここなら大丈夫だ」
 真琴を、元から敷いておいたビニールシートに座らせる。ちょっともたついて、思ったより時間がかかった。ここは木陰というより、周りがほとんど林になっていて、海岸にいる男からは、知っていてのぞかれなければまず見えない。
 マコトの首にタオルを掛けて、おっぱいを隠した。
「ありがとう……」
 マコトの声が震えている。よほど恥ずかしかったのだろう。サングラスをかけたままの顔が、ゆでだこになっていた。旅行に来て何度目だ、マコトの赤面。
「マコト、タイミングを見てコテージに戻れ。ミリアに事情を話して、新しい水着を出してもらわないと」
「うん。……シュンは大丈夫か?」
「俺? 大丈夫だ、男だし」
 確かに俺の身体は女だが、他の男に見られてもどうということはない。いやでも、長時間いるとまずいか。俺が良くても、周りが。
「…………そうだな、悪い」
「なぜ謝る」
 なぜか数秒言いよどんだマコトが気になったが、今はそれどころではないことに気づいた。
「……ってか、千晶も叶もあの水着じゃダメじゃん! あいつらも呼び戻さないと……マコト、水着頼むぞ、みんなのだ」
 俺はそれだけマコトに言い残し、波打ち際に引き返した。



 俺は千晶と叶がいた位置まで戻った。
「あれっ」
 しかし、そこに千晶達はいなかった。
「どこ行ったんだよ……」
 ここに来るまでにすれ違った……いやそれはないな。俺はここに来るまで、すれ違うなんて頭になかったが、もしすれ違っていたら、叶あたりに声をかけられてるはずだ。
 だとすれば、海岸のどこかにいるか。あるいは別のところに隠れたか。
 電話……はダメ、圏外だ。足で探すしかない。
(海の方は……無いな)
 雨の影響でまだ少し濁っている沖を一通り見渡して、すぐに結論づける。二人は泳ぎがうまいわけではないから、一人でも二人でもそっちに行く可能性はほとんど無い。
 向こうから何人かが俺を見ていたが、今は気にしていられない。俺は海岸線を早足で歩き出した。



 走ろうかと思ったが、全力で走れるほどには海岸が空いていないので、諦めて早足で動くことにした。周りを慎重に見回しながら、俺は進んでいく。
 だが。
(うわぁ……)
 周りを見回していたから、すぐにそのことに気づかされた。

 見られていた。

 行き交うほとんど全ての男が、俺の身体を凝視していた。砂浜に座っている男も、サーフボードを抱えている男も、あるいは思春期にも届かない男の子も、一瞬、あるいはそれより長く、俺の身体に視線をぶつけていた。
 その視線の意味は、さすがの俺でも一瞬で分かった。

(これは……っ)

 その視線の七割は、俺のむき出しのおっぱいに注がれていた。遠慮がちな視線もあれば、欲情を隠さない視線もある。
 最初は無視するようにしていたが、あまりにたくさんの視線を浴び、それも限界があった。
 今では、まるで視線が熱を持っているかのように、胸元がじりじりと焦げるような感じがする。
 最初は少しずつ、それに気づいたら加速度的に、恥ずかしくなった。思わず、さっきのマコトと同じように、両手でおっぱいを隠したくなった。だけど、男としてのプライドが、それを許さなかった。それに、男達の視線が向けられているのは、おっぱいだけではない。顔に、鎖骨に、腰に、尻に、股間に、足に、不躾な視線が絡みついていた。
(女って……こんなに視線を浴びてるのか)
 男の性欲を図らずも、それを受け止める側として実感してしまう。全身が羞恥心に包まれて、僅かながら、足下が浮つくような感覚まで覚え始めた。
(早く……千晶達を、見つけないと)
 俺は男達の視線を振り払うかのように、浜辺を進んだ。



(いた!)
 俺の目が、千晶の後ろ姿を捉えた。隣に叶も見つけ、ほっとする……のもつかの間。
 俺は千晶達の目の前に、男が群れていることに気づいた。トランクス姿で、サーフボードを抱えた四人組だった。
「……そうですね……」
 千晶の声が風に乗って、耳に届いた。心なしか声が固い。多分……いや間違いなく、嫌がっている。



 俺はほとんど何も考えずに千晶と男の間に飛び込んだ。
「済みません、こいつ、俺の彼女なんで」
「は?」
「あ……俊ちゃん」
 俺は、男の前に立ちはだかる。……当然のことながら、これは失敗だった。
「スゴイ格好だね、君」
 男四人の視線の全てが、俺のおっぱいに集まった。
「あっ……」
 思わず、俺の動きが固まってしまう。さっきから視線を浴び続けて、だがそれに慣れ切っていない俺は、条件反射のように強い羞恥に襲われた。
「何? 痴女? それともAVの撮影?」
 男の一人がキョロキョロとあたりを見回す。
「スッピンかな? でも、すっげー可愛いじゃん、こっちの二人と同じくらい」
 こいつは俺の顔をじろじろのぞき込んでいる。気分が悪い。
「ねえ君、オレ達と遊ばない? 向こうで」
 そう言って別の男は、林の中を指さした。その意味は明らかだ。……おぞましくて、鳥肌が立った。
「俺は男だ! ……あっ」
「……は?」
 これはさすがに通じない、とすぐに気づいた。言い張りたい気持ちもあったが、ここで意地を張っても効果がない。だから、言葉を変えた。
「お断りします!」
 全力で怒鳴るように言った。誰が遊ぶか、お前らなんかと! ……とは当然思ったが、口には出さない。逆上させたら大変だ。
「……よく分かんないけど、そんな格好でそんなこと言っても、説得力無いよ」
 男は全く意に介さない。四人はニヤニヤと、俺達を見つめていた。
「それに、後ろの二人も満更じゃないみたいだし?」
「はぁっ?」
 んなわけあるか、と俺は千晶達の方を見て……何かがおかしい、と気づいた。

 千晶も、隣の叶も、顔を真っ赤にしていた。一瞬、熱中症かと思ったが、そんな感じではない。二人とも溜息のように深い息をついている。
 そして、二人の乳首は完全に勃起していた。千晶は顔を伏せ、叶は逆に天を仰いでいる。
 千晶は腕を後ろに組み、意図せずして身体のラインを男達に見せつけていた。身体を横に揺すっているのは、モジモジしているのだろうか。一方の叶は、無意識だろうか、指を胸元の水着の境目に這わせていた。
 これは、どういう……と思ったところで、声がした。
「おーい!」
 声のした方を見ると、マコトがビーチサンダルのまま、こちらに駆け寄ってきていた。マコトの下半身は黒のビキニショーツに変わりなかったが、おっぱいは、黒のチューブトップで隠されていた。右手には紙袋を持っている。
「マコト、早かったな」
「ああ、クーラーボックスの中に入ってたんだ。……さあ、みんな向こうで待ってるよ、行こう。……お騒がせしましたー」
 有無を言わさず、マコトは俺達を男達から引き離して、道を引き返させた。

 男達は、追っては来なかった。



 道を戻る途中で、林に隠れた。この海岸は、コテージに繋がる道を除いて海岸を囲うように林があるので、どこからでも入れる。
「ほらこれ。叶とちーの分も」
 マコトが持っていた紙袋の中に、小さい紙袋があった。見ると、俺の名前が書いてある。多分、ミリアの字だ。
「ありがとう、助かった」
 マコトはどういたしまして、と俺達に軽く応じる。うーん、返す返すもイケメンだ。女だけど。



 で、だ。
 何とか着て、プラスチックサンダルを履き直したはいいが、これはどういうことだ。
「シュン、いいか」
「う、うーん……」
「なんだよその返事」
 俺達は散り散りになり、水着を着替えていた。唯一着替える必要の無かったマコトは、俺が寄りかかる木の反対側にいた。マコトは慎重に、こちらをのぞき込む。
「大丈夫じゃん」
 俺が新しい水着を着ていることを確認したマコトは、俺の目の前に出てきた。
 マコトの全身が、改めて目に入る。チューブトップには肩紐が無くて、マコトの身体に密着している。おかげで、マコトの慎ましやかなおっぱいの谷間や、スレンダーな身体のラインが強調されていた。上下合わせてバンドゥビキニと呼ばれるものだ。
 そのマコトが、俺を見て一瞬にやついた。
「随分と……だな」
 はっきりとは言わなかったが、何を言いたいかは丸わかりだった。
「うぅ……恥ずかしい」
 思わずうつむく。
 俺が着ている新しい水着は……ピンクのワンピースだった。しかも、腰にスカート風のフリフリがついているやつ。あまりに女らしすぎる。
「あっ……シュン、後ろ向いてくれ」
「ん? ……こうか?」
「ああ。ちょっと、後ろから手を入れるぞ、いいか?」
 俺が答えを返す前に、マコトは両肩口からワンピースに手を入れる。そのまま……俺のおっぱいを両手で包んだ。
「お、おい!」
「胸がずれてる。かっこ悪いぞ……よし」
 そう言いながら、マコトは俺のおっぱいを整え直した。マコトの手がおっぱいに触れる感触に、どきっとした。女乳首にも擦れて、身体が反応しそうになる。
「これも、カップがほとんど無いな。僕のもそうだけど」
 内側から水着を触ったマコトが言葉を漏らす。俺ももちろん気づいていた。というか、マコトのもそうなのか。
 そう思いつつ、俺がマコトの方に向き直ると――マコトは不意に、真剣な表情をしていた。

「大丈夫か?」

 俺はとっさに、さっきマコトの表情が曇ったことを思い出した。だから、マコトが俺が勝負に負けたことを気遣っているのだと思った。当然、俺がそうそうマコトに負けなかったことを、マコトも知っている。女の身体になって、俺が負けたことを気に病んでいないのか、気になったのだろう。

「大丈夫だ」

 だから俺は、しれっと答えた。それは嘘だったが、そう答えたのは男のプライド……というより、意地に近かった。

「そうか」

 そう言ってマコトは笑った。その笑顔にはなぜか、意外そうな――もっと言えば怪訝そうな表情が混ざっていた。しかし、俺がその疑問を口にする前に、
「あ、なんか可愛い『Aライン』ですね」
 叶が、続いて千晶が帰ってきた。
「Aラインって?」
「その水着のことだよ。ワンピースとフリルの形で、『A』の形に見えるから」
 俺の質問に、マコトが答えた。そして同時に気づく。……千晶と叶の水着が替わっていない。
「あれ? 水着は?」
「あ、その……」
「……サイズが」
 千晶の一言で、俺達は納得した。どこのサイズかは、聞かなくても分かった。……その時、スマホの通知音が鳴った。四人揃って、太もものケースからスマホを取り出す。



『ビーチの男性は全てお帰りになりましたので、ご安心下さい。』



「……はぁ?」
 思わず、声が出た。最初の一文も良く意味が分からなかったが、次の文の方が遙かに突拍子もなかった。
 そこには、



『これからコテージにお帰りになるまでに、一人一回ずつ、お連れ様の前で小便を漏らして下さい。』



 と書かれていた。
 顔を上げる。
「……?」
 何を読んだのかを思い出せない。だが、何となく不快な気分が残っている。千晶達も、一様に怪訝な表情を浮かべていた。

「あれ?」
 その空気は、マコトのある気づきで変わった。海岸に気が向いて、俺も気づいた。
「……静かになってるな」
「……うん」
 千晶がうなずく。俺達は林の道を戻り、海岸の側に戻った。





 俺が、マコトの問いを勘違いしていたことに気づいたのは、旅行が終わって、ずうっと後のことだった。とても小さい誤解だったが、そのズレは致命的だった。
 当時、俺だけではなくマコトも、千晶も叶も、状況を疑問に思わないように、無意識下のコントロールされていたはず。だから、マコトのそれは、いわば無意識の抵抗だったんだと思う。
 あるいは、俺の勘違いも仕組まれたものだったのかもしれないし、仮に、もし俺が勘違いしていなくても、どうにもならなかったかもしれない。けれど、もしどうにかなる可能性があったとすれば、この時がきっと最後のチャンスだった。

 あの時、俺がマコトの質問の意図を正しく――「女の身体のままで大丈夫なのか」という意味だと理解できていたら、そして、俺が女の身体でいることに反発し、マコト達と一緒に反抗を試みていたら――俺達の運命は、違うものになっていただろうか。

 
 


 

 

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