つい・すと

〜Twin Story〜


 

 



2日目・午後 変化


 泳いで海岸に戻ったときには、マコトは既に堂々とした振る舞いになっていた。上半身の状態を気にすることもなく(おそらくまだ強がってはいるだろうが)、四人でお昼を食べよう、とみんなに提案した。俺と叶が頼んで、さすがに首にタオルを掛けてもらったが。ちなみに、スマホには通知は入っていなかった。
 二枚のビニールシートをくっつけ、四人でクーラーボックスを囲った。クーラーボックスの中には、ミリアが用意してくれた軽食が入っていた。
 食べ終わった後、疲労がたまった俺とマコトは順番に昼寝した。起きている方は千晶と叶と一緒に海辺でじゃれついていた。



 マコトが木陰で寝ている間、千晶の近くで俺が座っていると、千晶が俺の隣に座った。
 何か話があるのかと思ったら、千晶は何も言わず、海の砂を集め始めた。かぶりっぱなしの麦わら帽子が揺れている。
「千晶さん、何やってるの?」
 叶も寄ってくるが、「ん……」とまともな返事も返さずに、千晶は砂を一カ所に集めていく。
「ああ」
 そこで気づいた。
「懐かしいな」
 その声を聞いた千晶は手を止め、俺を見てにっこりと笑った。
「え?」
 今の会話を理解できるはずがない叶が、怪訝な顔をする。
「いやな、俺達が幼稚園の頃、公園の砂場でこういう風にして遊んでたんだよ」
 しゃべりながら、千晶が作る山に正対する。そして、千晶の反対側から、ゆっくりとトンネルを掘り出した。
「へえ」
 叶は納得した後、砂を手で掬い、千晶の作る砂山の上にかけた。ほんの少し、砂山が成長する。
 それから、千晶と叶が協力して次第に大きい山になり、俺はトンネルを掘り進めていく。だが、
「あちゃっ」
「あー」
 砂浜の砂は、砂場の砂と違った。残念ながら耐久性が足らず、途中で潰れた。
 それでも、俺を含め三人ともニコニコしていた。山を完成させることが大事なのではなく、幼少の時間を思い起こしたことが何よりの収穫だった。もっとも、叶は関係ないはずだが。まあ楽しそうだからいいか。



 マコトが昼寝を終えた頃、まだ夕方というには早い時間だったので、四人でビーチバレーをすることにした。
 俺達がいる場所のすぐ近くに、ビーチバレー用のネットがある。それは自由に使ってよいものだ、とミリアが事前に教えてくれていた。ビーチボールもミリアが貸してくれた。
 パス回しを少し練習した後、俺と千晶、マコトと叶がペアになり、試合が始まった。とはいえ、千晶も叶もそんなに運動が得意なタイプではないので、本気でやるなら事実上、俺とマコトの一騎打ちだ。
 実際は四人で楽しむためにやっているわけで、千晶にも叶にもボールを回してやる。ボールが来るたびにあたふたして、時に明後日の方向にレシーブしたり、空振りしたりするのを見るのは微笑ましかった。マコトはタオルを外していたので、その上半身は正直とても気になったが、千晶や叶からの視線も気になるので、俺も極力自然に振る舞った。不幸中の幸い、と言うべきなのか、マコトのそれはそんなに大きくないので、運動には支障はないようだ。
「きゃっ」
「危なっ」
 俺の緩めのアタックがコントロールを誤り、叶の顔面に向かった。マコトが間一髪、目の前でレシーブする。
「大丈夫か」
「ああ」
「真琴さん、ありがとう」
 俺の心配をいなし、マコトはにっこりと笑った。イケメンだ。女だけど。

 そんな風にたまにはじゃれつつ、たまには本気でビーチバレーは進んでいった。上空に雲が増えて、ちょくちょく日光が遮られるようになり、熱中症の危険も低そうだ。十分に水分補給をしつつ(飲み物もミリアが用意してくれた)、俺達はビーチバレーを楽しんだ。



 その時にはもう変化が始まっていたはずだが、しばらく誰もそれに気づかなかった。



「ほいっ」
 マコトがレシーブし、ボールが俺達のコートに帰ってくる。そのボールは、俺と千晶の間を狙っていた。
 千晶も寄ってくるが、俺が受けるべきだ。
「オーライ、あっ」
 しかし、俺はバランスを崩した。いきおい、寄ってきた千晶とぶつかり、押し倒すようにして倒れた。
「きゃっ」
「あっ」
 マコトと叶も驚き、コートの横を通って俺達のところに駆け寄る。
「いってー」
「大丈夫か?」
「うん、あたしは大丈……夫……?」
 言いかけたところで、千晶の言葉が止まった。千晶は俺を見て、動きを止めている。
「どうした?」
「……俊ちゃん、何か雰囲気変わってない?」
「はい?」
「ん?」
 俺はその言葉の意味が分からず戸惑ったが、マコトが寄ってきて、顔をのぞき込む。
「……うん。シュン、顔が丸くなってる」
「あっ」
 そうだ、という感じで、千晶がうなずく。叶も俺の顔をのぞき込み、うなずいた。そして、
「……俊一君、胸が……」
 おそるおそる、叶が俺の胸を指さした。視線を落とすと、

「……なんじゃこりゃ……」

 自慢じゃないが、俺も身体はそれなりに鍛えている。さすがに筋肉が浮くほどではないが、たるんではいない。
 いや、そもそも、これは肉がたるんだ形ではない。

 俺の乳首が大きくなっていた。単に勃起したということではない。ほんの小さい豆粒でしかなかったはずの乳首が、小指の爪先くらいの幅になっていた。焦げ茶色の乳輪は少し色が薄くなり、範囲も広がっている。

 そして、乳輪の周りのごくごく狭い範囲だけ、肉が盛り上がってきていた。







 その形は、僕の記憶の中にあった。
 女の子の二次性徴の一つだ。男の子と全く変わらない平らな胸が、女の子らしい胸に成長していく、ごく初期の段階。僕の胸にも当然そういう時期があったから、よく覚えている。
「女の子になってる……?」
 そう思ってシュンを見ると、他にもおかしい点があった。全身の筋肉が目立たなくなって、肌が少し白く見える。
「…………」
 シュンは呆然としていた、というか、「どう言っていいか分からない」という様子だった。すると、シュンの腰から通知音が聞こえた。腰につけていたスマホが鳴ったのだ。
 スマホを取り出して、シュンは通知を読む。僕もスマホを一応気にしたけど、そちらには何もなかった。
 僕がスマホをしまったとき、同じくしまい終わっていたシュンは顔を上げて言った。

「実は、今朝起きたとき、チンコがなかったんだ」

 その声は、改めて聞いてみれば、午前中のシュンのものではなかった。明らかに声が高く、軽い。男というより、少年の声だった。







 さすがに股間を三人に見せるわけにはいかなかったので、トランクスの上から千晶に触ってもらった。おそるおそる触った千晶はしばらくそこをまさぐり、最後にぎゅっと掴んで、「ない」ことを納得したようだった。

「こんなアトラクションありかよ……」

 アトラクションとはいえこんなことがあるのか、と思ったが、逆に言えばこんな非常識なことは、アトラクションとしか説明がつかない。すっかり話題には上らなくなったけれど、俺達の頭上に咲く花も十分すぎるくらい非常識だ。
 自分では分からなかったが、マコトが言うには俺の声もおかしくなっているらしい。言われてみると、確かにしゃべるときに喉が軽い気がする。

「……コテージに戻ろう」
 沈黙を破って、マコトが提案した。マコトは空を指さしている。見ると、向こう側に黒い雲が立ち上って、こちらに向かってきていることに気づいた。
 スマホもあるから、降られるとまずい。荷物を片付けることにした。



 天気が悪くなる前に、コテージに戻ることができた。入口では、ミリアが出迎えてくれた。
「ミリア、これは……」
 自分の胸を指さしながら、ミリアに切り出すと、ミリアはにっこりと笑って、
「今回はそんなアトラクションなんですね」
 と言った。内容は今知った、と言わんばかりだったが、アトラクションの一つだったのは間違いないようだ。ミリアのその一言で、気持ちが不安から、状況を楽しもうと切り替わった。……まるで、アトラクションという言葉が魔法の力を発揮したかのようだった。



 海岸近くにもシャワーはあったが、天気のせいで使えなかったので、部屋のシャワーを使うことになった。俺に気を遣ったのか、千晶は俺に先に入るよう言った。外はもう雨が降り出しており、ギリギリセーフだったようだ。ただ、外は明るいのできっと通り雨だろう。
 俺は洗面所に入る。そこには大きめの鏡があり、俺の上半身が映った。
 頭上にピンクのカーネーションが咲いている。俺の顔は、確かにいつも見る顔とは違った。確かに顔が丸く、というか、幼くなっているように見えた。ヒゲの跡も全くない。少年のようだ、と言われたら、確かにそうかもしれない。
 そして、胸も確かに少し膨らんでいた。さっきより、ほんの少しだが膨らみの範囲が広がっている気もする。
 鏡の最下部には、水着のトランクスを穿いたままの俺の股間が見える。それに気づき、俺はトランクスの紐を解いた。トランクスが足下に落ち、股間があらわになる。
 鏡に映しても、確かにそこにチンコはなかった。チン毛の範囲も少し狭くなっているかもしれない。足をしっかり閉じても、その部分には僅かな隙間ができてしまう。

 ぞく……っ、と、背中を寒気のようなものが襲った。俺のそこがどうなっているのか、興味があった。
 行儀が悪いと思いながら、俺は右足を大きく上げ、洗面台に足をかけ――

 がちゃっ

 ようとして、びくん! と気を付けをする。入口では千晶が面食らっていた。
「ごめんなさい!」
 慌てて千晶が扉を閉めた。



 ――見られた?



 俺の背中を、冷や汗が伝った。







 てっきり、もうお風呂に入っていると思ってたから、ノックをしなかったのが失敗だった。
 あたしが扉を開けたとき、シュンちゃんは何か不審な動きをしていたけれど、コンマ数秒も経たずに棒立ちになっていた。急いで扉を閉めた。

 思わずひるんじゃったけど、扉越しにあたしは言った。
「ねえ、一緒に入っていい? ……俊ちゃんの身体、大丈夫かなって思って」



 あたしだけ水着を着ているのも変なので、水着を脱いだ。昨日も俊ちゃんに見られた身体だけど、明るいところで俊ちゃんに見せるのは、やっぱりちょっと恥ずかしい。かといってタオルを巻くほどには初々しくないので、我慢する。
 お風呂は広くて、二人で入っても大丈夫だった。



「見ていい?」
 あたしが言うと、お風呂用の椅子に座った俊ちゃんはうなずいた。あたしは俊ちゃんの正面に座り、俊ちゃんに足を開いてもらう。
 そこには、確かに俊ちゃんのおちんちんはなくて、女の子のアソコがあった。ほのかに俊ちゃんの匂いがしたけれど、そこには「女の子の匂い」が混ざっている気がした。
「確かに、女の子になってるみたい……」
「そうか」
 参った、という様子で俊ちゃんはつぶやく。そこは一本の筋が、少しだけ開いていた。自分のアソコを直接見たことはほとんど無いけれど、「子どもからちょっとだけ大人になった感じ」という印象だ。
 そして、もう一つ異変があった。あたしが触っている俊ちゃんの脚からは、すね毛が抜け始めていた。あたしがちょっと触るだけで、ごっそりと落ちていく。うらやましい――いや、おかしい。そして、その脚もなんとなく、少し細くなっている気がした。
「アソコの洗い方、分かる?」
 一応聞くけど、俊ちゃんは当然首を横に振った。あたしは手に石鹸を乗せて泡を作り、そこをそっと触った。







 千晶に、俺のマンコを洗ってもらった。くすぐったいというか、とても変な感覚があったが、無事に洗い終わった。体毛からの抜け毛が多くて、身体を洗うと思った以上にさっぱりした。だが頭髪は抜けていないようなので、とりあえず気にするのは止めた。
 シャワーから上がって自前の部屋着に着替える。背の高さが変わっていないので、何も問題はなかった。今は大丈夫でもこれからはどうなるんだろう、と一瞬考えたが、今考えてもどうしようもないことだ、と諦めた。アトラクションの成り行きに任せるしかない。
 身支度を調えた頃に、ルームコールが鳴った。電話はミリアからで、別のちょっとしたアトラクションと共に、夕食の時間の繰り上げを提案された。千晶と相談して、OKした。マコト側に確認をとるため、と言って一旦通話を切られ、折り返しの電話で正式に繰り上げが決まった。夕食までに、モニターフォームの入力をお願いします、と言い残して、通話は終わった。

 実際、モニターフォームを埋めると夕飯の時間だった(割と入力項目が多くて大変だった)。俺達はダイニングに集まる。
「大丈夫か、シュン」
 マコトが俺の身体を気にかけていたが、大丈夫だと答えた。マコトは色濃い目のカッターシャツと男物のスラックス、そして室内用のサングラスで「男装」していたが、化粧が薄めなせいで、若干ながら女性寄りの雰囲気だった。だが何よりも、マコトのおっぱいが隠れていることにほっとした(当たり前だが)。これで気を遣う必要ないな、と思っていたら、マコトの右手指が一本立って、俺を咎める仕草をした。しまった。安心したせいで、却ってマコトの胸を無駄に見つめすぎた。
「すまん、他意はない」
「わかってる」
 苦笑いしてマコトは応じた。
 ちなみに千晶は薄クリーム色のアウター用ブラウスと短めのスカート、叶は水色のワンピースを着ている。俺の今の失態は、二人には見られていないようだ。
 夕飯は昨日から一転し、刺身を中心とした和食だった。個人的には昨晩より食べ慣れたメニューで、とても美味しかったが、夕食の時間が早かったせいか、あまりお腹には入らなかった。マコトはミリアの薦めで、初めて日本酒を飲んだ。魚介類の味に合い、割と美味かったらしい。俺も旅行が終わったら……あ、何でもない。



 食事を終えると、俺達は外に出た。雨はすっかり上がり、星が輝いている。
 月はなかった。確かあと数日で新月のはずだから、もう沈んでいるのだろう。
 そこで待っていると、ミリアがメイドドレスの裾を揺らして、別棟の方からやってきた(ミリアはそこで寝泊まりしているらしい)。右手には花火セットがいくつか、左手には空のバケツがあった。その花火は「大きな声では言えませんが、前の方の余り物ですので」ということだった。来るときに買ったはいいが、使わずに、しかも忘れて帰ったらしい。一応忘れ物として連絡した上で、寄贈と使用者への経緯の説明を許可してもらったということなので、問題はないようだ。
「ミリアちゃんも一緒にやろう」
 マコトが誘う。もちろんミリアは固辞したが、マコトが話術で強引に押し切った。ミリアは確認のためか、一度別棟に戻ったが、帰ってきて「では、少しだけなら」ということになった。なるほど、マコトはこうやって女を口説くのか、と思った。真似する気はないが。



 先ほどの海辺に戻る。空っぽのバケツで海水をすくい、花火パックを開ける。五人で花火を選んだ。火元のろうそくを囲むようにして、思い思いに場所をとる。



 俺は千晶の側に寄った。千晶はぱちぱちと弾ける火花をじっと見つめている。相変わらず大人しい花火がお気に入りのようだ。俺の持っている花火は火花の色が変わる奴だ。
「楽しいか?」
「うん」
 花火を見つめながら、千晶はうなずく。千晶の横にしゃがむと、マコトと叶の姿が目に入った。マコトはススキ花火を二つもって、両手で交互に「8の字」を作っていた。叶はたった今燃え尽きた花火を持ってマコトを避けている。マコトは昔に比べれば随分と落ち着いたように思えるけれど、たまに見せる少年のようなやんちゃさを見るにつけ、根っこは大して変わってねえなあ、とも思ったりする。

「お楽しみですか」
 マコト達を気にしていると、横から声が聞こえた。見ると、スパーク花火を持ったミリアが立っていた。俺が促すと、俺の横にしゃがむ。俺は右側の千晶、左側のミリアに挟まれる形になる。
「旅行はお楽しみですか」
 重ねて聞かれた。
「うん、まあ。……あまりにもいろいろなことが起こって、ついて行くのが大変だけど」
 正直に答える。当然だが、頭に花が咲いたり、俺の身体が女性化したりするのは想像の範囲外だ。とりあえずは、みんなも「アトラクション」ということで、一応納得はしているようだが。
 千晶の花火が消え、取り替えに立ち上がった。そのタイミングで、ミリアはさらに声をかけた。
「俊一さんは、身体が女性になってきているんですね?」
「ああ、うん」
 うなずく。その事実に不安があったが、その不安と背中合わせで、好奇心のような気持ちがあった。旅行のシチュエーションにあてられているのか、状況を飲み込めてないだけなのか、分からないが。
「当ホテルは非日常を提供するホテルですので、今は是非アトラクションを楽しんで下さい。女の子は楽しいですよ」
 そう言って、ミリアは微笑んだ。その笑顔と――「アトラクション」という言葉で、気分が軽くなった。



 最後に、五人でろうそくを囲み、線香花火に手を伸ばした。静かに火花を飛ばすそれは、イメージ通り、千晶が一番好きな花火だった。
 手元の火花をじぃっと見つめ、終わるとバケツに入れて、新しい線香花火を取り出す。機械のようなルーチンをこなす様子が、とても愛らしい。マコトも叶も微笑ましいといった様子で千晶を見つめていたが、千晶は全く気づいていなかった。
 俺が千晶の頭をぽん、と叩き、はっ、と千晶が顔を上げた。俺達の視線に気づいた千晶は、暗い中でも分かるくらい顔を真っ赤にした。我慢できずに、三人……いや、ミリアも含めた四人が吹き出した。



 花火を使い切った俺達は念入りに片付けを行い、ゴミをまとめてコテージに帰ってきた。ミリアはバケツとゴミを持って、別棟に下がっていった。俺達は正面入口からコテージに入る。
 そして、何気なく言った。
「楽しかったな」
 途端に。
 はっとした表情を浮かべ、マコトが振り向いた。アルコールのせいで顔が赤かったが、それに似つかわしくない深刻な表情だった。とっさに、俺は喉を押さえた。
 さっきよりも、さらに声が高くなっているのが、自分でも分かった。







 部屋に戻り、荷物を置いてすぐに、僕は奥の扉を叩いた。扉が開き、シュンが立っていた。
 叶と一緒に、シュン達の部屋に入る。誰も何も言わず、四人で暖炉の前に集まった。
 空気は深刻だった。さっきまでシュンの問題を後回しにしていたのが、自分でも不思議だった。
「シュン、悪い。上半身脱いでくれ」
 シュンは、すぐにシャツを脱ぎだした。なぜか、当事者のはずのシュンの表情が、四人の中では一番明るかった。

 あらわになったシュンの上半身。その様子は、午前中とはもちろん、夕方のものとも変わっていた。
 一目で違うのは、胸。高さはほとんど無いけど、膨らみは広範になり、その範囲だけなら僕のものとあまり変わらなくなっていた。胸毛の気配はかけらもなくなり、白く柔らかい外見になっている。だが、シュンの変化はそれだけではない。
「触るよ」
 僕はシュンに近づく。うなずくのを確認して、シュンの髪の毛を触る。細くしなやかな手触りだった。次に、肩に手をかけた。そこから、脇の下に手を入れ、ゆっくりと下に撫でていく。
 肩幅は僕と同じかほんの少し広いくらいで、二の腕の後ろには柔らかい肉がついていた。脇から触れた肋骨は、下に行くほどに幅が狭くなっており、お腹の部分にかけてわずかながら逆三角の形状になっている。そして腰に手をやると、腰の太さに比べて広い骨盤が手に当たった。そして、ヘソが腰のくびれの位置と骨盤のラインの間にある。それはヘソの位置が動いたのではなく、多分、くびれの位置が上がり、腰の位置が下がったから――女の子は、同身長の男の子より胴長だ。くびれの位置が高いから、服を着ると女の子の方が足が長く見えるだけで。

 僕は性自認で悩んだことはないけれど、成り行き上、性差について調べた経験は多いので、男女の性差には他の人より詳しい。僕の手に触れたシュンの骨格や、他の性質から思い当たるものは、間違いなく、法律上の成年を控えた、大人の男ではなかった。むしろ、変わっていない背の高さ「だけ」を除けば、思春期まっただ中の女の子だ。
 ふと思い立って、僕は言った。
「シュン、両腕から力を抜いて、だらんとしてくれ」
 両腕を「だらん」とするアクションを交えて、僕はシュンにお願いする。
 僕の言う通りシュンは両手を垂らす。
「あっ」
 と同時に、僕は決定的なことに気づく。
「そのまま後ろを向いてくれ」
 そう言うとシュンは素直に百八十度回った。後ろから見ると、くびれ始めた身体のラインにしっかり填るように、腕のラインが内側に凹んでいた。
「何か分かったか」
 シュンが言う。口調は変わっていないが、その声色は少年――いや、どちらかといえばもはや「少女」という表現が似合うものだった。
「垂れ下がったときに、腕のラインが内向きになってる。これは、『弓手』とか『猿腕』って言うんだけど」
 シュンの両肘に手をかけながら、僕は説明する。
「弓手は、ほぼ女の子特有のものなんだ。叶もこのタイプだ」
 そう言って叶を見る。「ああ、そういえば」という感じで、叶はうなずいた。
「間違いない。シュンの骨格が女の子になってる。今のシュンの身体は多分、完全に女の子だ」







「身体は多分、完全に女の子だ」
 その声に、俺は振り向いた。マコトを始めとした三人の顔が、真剣なものになっている。
「そうか……」
 俺は下を向いてつぶやいた。「複雑な気持ち」としか表現できないものが、俺を襲う。しかしその中には、不思議と不安はなかった。なぜなら、これはあくまで「アトラクション」の一環だからだ。
「すげえな」
 俺はつぶやいた。その時、四人のスマホが鳴った。それぞれスマホを持ち、通知を開く。



『男性の身体が女性化することや、お客さまの身体の形が変化することは、当ホテルではままあることですので、あまりお気になさらないで下さい。』



 顔を上げると、途端に場の空気が軽くなった気がした。その証拠に、深刻な様子だった三人の表情が見るからに緩んでいる。
「もしかしたら、洋服の型が合わなくなるかもな、シュン」
 マコトはからかうような声で、そう言った。







 マコちゃん達は一旦自分の部屋に戻った。俊ちゃんはそこで、「そういえばピル飲んだか?」とあたしに言った。
「ううん……あ」
 そこで、気づいた。多分、俊ちゃんも。
 俊ちゃんがこれでは、スることができない。女の子として、あんまり気にしちゃいけないことかもしれないけど、空気が少し重くなったのは確かだった。
 代わりに、ってわけじゃないけど、あたしがピルを飲んだ後、もう一度二人でお風呂に入った。



 二人で身体を洗ってから、あたし達は一緒に、湯船に浸かった。俊ちゃんからは、さっきと同じくらいか、それ以上に毛が落ちて、すっかり綺麗な肌になっていた。
 あたしは俊ちゃんにもたれかかるようにして、湯船に浸かった。俊ちゃんは確かに細くなっているけど、なぜか、少し座高が上がったような気がする。おかげで、あたしの肩、というより首に近い部分に俊ちゃんの胸の部分が当たった。膨らみは感じなかったけれど、確かに柔らかい感触だった。
 あたしは身体を反らして、俊ちゃんの首元に顔を近づける。お風呂に入って匂いが薄くなったこともあるかもしれないけれど、それはあたしの知っている俊ちゃんの匂いではなかった。なんて言っていいか分からないけど、マコちゃんやカナちゃんに近い気がする。
 ふと、思った。気づいた。それは、一番大事なことだった。
「俊ちゃん」
「ん?」
「心は男の子のままなの?」
 一瞬、「あっ」と俊ちゃんから声が漏れた。それはとても高い声で、あたしより小さい女の子のような声だった。だけど、すぐに俊ちゃんはきっぱりと言った。
「ああ、男だな。その証拠に、……今、すごく千晶のおっぱい揉みたい」
「ん、もぅ!」
 あたしは強く反応する。だけど、それは確かに俊ちゃんが男の子である証明だったので、本当はちょっと嬉しかった。
「揉んでいい?」
「……ちょっとだけだよ。またマコちゃんの部屋行くんだから」
「わかってる」
 そう言って俊ちゃんは、あたしのおっぱいに手をかけた。ゆっくりと肌を撫でながら、まっすぐに乳首に向かっていく。
「っ」
 俊ちゃんの指がてっぺんにたどり着いた途端、あたしの身体がぴくん、とした。そのあとは、俊ちゃんはおっぱいを大きく揉んでくる。
 俊ちゃんの指は、昨日より細く、しなやかになった気がする。それでも、あたしのおっぱいをよく知っている手なのは間違いなかった。あたしの乳首がきゅっと勃ち上がって、おっぱいの刺激を吸収し始める。だんだん、おっぱいではなくて頭の中が揺さぶられるような感覚になってきた。
「ん、んっ」
 少しずつ、これからのことがどうでも良くなってくる。……そのことに気づいて、まずいと思った。このままだと本気になっちゃう。
「やめてっ………………だめっ!」
 あたしは俊ちゃんを制止した。二度目の強い制止で、俊ちゃんは手を止める。俊ちゃんはそのまま、両手をあたしのお腹に置いた。
 ぎゅっ、と力が入る。あたしは、抱きしめられていた。

「愛してるよ、千晶」

 その一言は、今の俊ちゃんから出てくる、一番低い声。そして、その言い方は、確かに俊ちゃんのもの。
 あたしは胸が熱くなって、大きく一回、うなずいた。

 
 


 

 

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