ツインズ!

〜おカタい彼とハチャメチャな彼女〜


 

 



第7話 禁断の女子更衣室







 あれから4日が過ぎても、空は妙にふて腐れたままで、あまり僕に絡んでこようとしなかった。

 その分、僕の日常は平和といえば平和なんだけど。
 だけど、胸の内でどんなことを企んでるかはわからないし、なにより、朝の恒例行事はそのままだし。

「お、来たな、ふたりとも」
「あっ、おはよっ、陸!空!」
「空ちゃん、陸くん、おはよ」

 朝、教室に入ると亜希たち3人があいさつしながら寄ってきた。
 そして、その後はもちろん3人からのキスが来る。

 僕の唇に、亜希、明日菜、羽実の唇が触れる柔らかい感触。
 それにはもうすっかり慣れたし、驚くこともないんだけど。

「り、陸くん……お、おはよ。ちゅ……ん……」

 でも、今はキスをされると妙にドキドキして、意識してしまう相手がひとりいた。

「ん……お、おはよう、羽実」

 もちろん、その相手は羽実だ。

 空にはああ言ったけど、自分の本当の気持ちはごまかせない。
 まあ、やってることは滅茶苦茶だし、言い方も悪いけど、冷静に考えたら空の言ってることはほぼ当たってるんだよな。
 ただ、あんなやりかたは絶対に認めないけど。

「……陸くん、ど、どうかしたの?」
「え?あ、い、いや、なんでもないよ」
「やだ、もう、陸も羽実もそんなに顔を赤くして」
「かわいいわね、ふたりとも。そんなんなら、本当につきあっちゃえばいいじゃないの」
「もう、明日菜ちゃんも亜希ちゃんもなに言ってるのよ!」
「そうだよ、まったく……」
「ふふふっ、ムキになっちゃって!」

 おはようのキスの後、ふたりでもじもじしているとさっそく明日菜と亜希がからかってくる。
 僕たちがムキになればなるほど、かえってそれが楽しいみたいでラチがあかない。

 本当に余計なことをしてくれたよな、空のやつ。
 それは、僕が羽実のことを好きなのは事実なんだけど……。

 ちらっと空の方を見ると、不機嫌そうにそっぽを向かれてしまった。

 まったく、あいつもいつまでふて腐れてるんだよ。

 だいたい、この間のはあいつが悪いんだろうが。
 明日菜が暴走したっていっても、そもそも空がそんな催眠術をかけなければあんなことにはならなかったわけだし。

 僕と羽実をつきあわせたいみたいだけど、そんなのは空が口出しすることじゃないし。
 ていうか、ここまで意識させられると恥ずかしさが増すだけだし、明日菜たちにこうもからかわれるとかえってやりにくくなるっての!

 でも……。
 いつまでもこのままっていうわけにも……。

 あ……だけど、羽実は自分からは告白できないだろうし。
 となると、ぼ、僕の方から?
 そ、そうしなきゃとは思うけど、いざとなるとやっぱり恥ずかしいよな……。

 それに、それはそれで結局は空の思惑にはまってしまったような気がして嫌なんだけど。






* * *







 で、その日の昼休みも終わりに近づいて。

「陸ー、そろそろ着替えに行こうよー」
「え?あ、うん……」

 明日菜が誘いに来て、僕は水泳道具の入った袋を持って立ち上がる。
 5時間目の体育の授業は水泳だから、プール横の更衣室で着替えなきゃいけないんだけど。
 当たり前だけど男子と女子は更衣室が別々だし、いつも体育の時は僕も男子と一緒に移動するから、今日みたいに明日菜が誘いに来るなんて珍しいよな。
 まあ、更衣室までは方向は一緒だし。





 で……。
 グラウンドを横切って更衣室が近づくと、僕はごく自然に男子の列の方に入ってく。

「おい、なにしてるんだ、陸?」
「へ?なにって、なにが?」

 男子更衣室に入ろうとしたら、男友達に引き留められた。

「おまえはあっちだろ」
「は?なに言ってんの?」

 女子更衣室の方を指さされてもなぁ……。
 いったいなんの冗談だよ?

「もう、冗談はやめろよな」
「なんだよ、男みたいなしゃべり方してさ。らしくないじゃんか」
「なに言ってんだよ?」

 いや、僕は男だっての!
 ふだんからこんな話し方してるだろ!

「なんだぁ?変なもんでも食ったのか、陸?……おーい、空ー!おまえの相方がなんか変だぞー!」

 と、男友達が女子更衣室の方に向かっている空を大声で呼んだ。
 すると、空と一緒に歩いていた羽実が慌ててこっちの方に駆けてくる。

「ちょっと!なにしてるの、陸ちゃん!」
「へ……?」

 ……て?陸ちゃん!?

「ああ、風間でもいいや。陸のやつが男子更衣室に入ろうとしてるんだよ。おまえ、陸をあっちに連れてってくれないか?」
「ちょっと待てって!」
「どうした、陸?まあ、俺たちはおまえがこっちで着替えても別に困らないんだけどな」
「だから!」
「大きな声出してどうしたのよ、陸ちゃん?さあ、女子更衣室の方に行こうよ」
「ちょっ……羽実!」

 これは……みんな僕のことを女だと思ってるってことか!?

 ……空のやつだな!!
 ていうか、いつの間に!?
 朝は、みんないつも通りだったのに!?
 しかも、体育の授業は学年全体でやるんだぞ!?
 あいつ、うちの学年の全員に催眠術をかけたってのか!?

「ちょっと待てってば、羽実!」
「もうっ、陸ちゃんったら!」
「なにしてるのー、ふたりともー?」
「ちょっと、どうしたのよ?」

 僕と羽実がもめていると、明日菜と亜希も駆け寄ってきた。

「あのね、陸ちゃんが男子更衣室に入ろうとするのよ」
「へえぇ、陸にしちゃ積極的ねぇ」
「いや、これはだな!」
「ほらほら、男子に興味があるのはいいけどさ。陸はあっちだからね」
「だから、僕は男だって!」
「なに言ってるの、陸ちゃん!?」
「きっと、変な夢でも見たのねー」
「どうでもいいけどさ、もう5時間目なんだから寝ぼけるのはなしにしてね、陸」
「うわーっ!だからっ……」

 男だっていくら言っても、誰も取り合ってくれない。

 ……そうだっ!空は!?空はどこだよ!?

 見回して空を探すと、女子更衣室の入り口で僕たちの方をムスッとした顔で見ている姿が目に入った。
 だけど、僕と目が合うと、ぷいっと更衣室の中に入っていく。

「おいーっ!」
「はいはい、早く更衣室行って着替えようね、陸」
「だからぁ!」

 抵抗もむなしく、そのまま僕は3人がかりで女子更衣室に連れ込まれてしまったのだった。











「う…………」

 そして、そこは別世界だった。
 いや、更衣室の造り自体は男子更衣室と変わらないんだけど、そこには女の子しかいなかった。
 それは、女子更衣室なんだから当然なんだけど。

 もう水着に着替え終えてる子、まだ服を脱いでる途中の子、下着姿の子、そして、裸になってこれから水着を着ようとしてる子……。
 どっちを見ても女の子ばかり、それも大半がほとんど服を着てないか、裸の子だった。
 しかも、うちの学年の女子が全員いるから、その人数もハンパない。
 もともとが女子校だったうちの学校は、今でも女子の方が男子よりも人数が多いから、全部で100人はいるだろうか。
 とにかく、あの調理実習の時とは比べものにならない人数の女の子が僕の目の前で平然と着替えをしていた。

 ていうか、なんで誰もおかしいと思わないんだよ!?
 ひとりだけ、白のシャツに学生ズボンのやつがいるんだぞ!
 着てるものを見たら、誰だって男だって思うだろうが!



「どうしたの?陸ちゃんも早く着替えないと」
「いや、だから……」

 制服のブラウスを脱いだ羽実が、スカートに手をかけながら首を傾げる。

 へえぇ、今日の羽実のブラはラベンダー色とクリームの縞々かぁ……。
 て、いやいやいや!そうじゃなくて!

「……陸ちゃん?」
「えっと!あのっ、そのっ……!」

 ていうか、着替えられるわけがない。
 男子の制服を着ている僕を、全員が女の子だと思っているくらいだから、それだけ完璧に空の催眠術にかかっているとは思うけど。
 それでも、この中で服を脱ぐ勇気は僕にはない。
 いや……それ以前にズボンの下でムスコがモゾモゾと起き上がりかけてるんだけど……。

「陸ー、早く着替えないと間に合わないよー!?」
「う、うわっ!」

 今度は、淡いピンクのパンティーだけになった明日菜がこっちに寄ってくる。
 いやっ、それ、胸が丸見えだって!
 そんな格好でうろちょろすんなよな、おまえはっ!
 だいたい、この前もそうやって……。

「……うっ!」

 この間の、明日菜のおっぱい丸出しのオナニーを思い出したせいで急に股間の辺りがきつくなって、思わず前屈みになる。

 こんなに簡単に興奮してしまう自分が、本当に情けない。
 だけど、目の前にほぼ真っ裸同然の明日菜がいるんだもん、しかたないよ。
 それに、視線を逸らすと、それはそれで別な子の裸が飛び込んでくるし。

「うううっ……!」
「どうしたの、陸ちゃん!?お腹でも痛いの!?」

 前屈みになって呻いている僕を心配して、羽実が駆け寄ってくる。
 ……いや、お腹というか、もうちょっと下の方なんだけど。
 それに、痛いんじゃなくて……って!?

「うわっ!?」

 僕の体を支えようとする羽実。
 すぐ目の前に、形のいい、柔らかそうなおっぱいが飛び込んできた。

 心配してくれるのはいいんだけど、なんてタイミングで来るんだよ、おまえは?
 着替えの途中だったとはいえ、ブラを外して、パンティーだけという格好で僕を抱きかかえようとする羽実。
 それは、今の羽実にとっては、僕は女の子ってことになってるみたいだし、ここは女子更衣室で女子しかいないんだから本人は気にしてないんだろうけど、その格好はあまりに無防備すぎるじゃないか!

「大丈夫、陸ちゃん!?」
「いや、大丈夫、だ、大丈夫だから!」

 そう言って安心させようとするけど、羽実が僕の体を揺するもんだから、目の前でそのおっぱいがプルプルと揺れて、ますます股間に血が集まっていくのがわかる。

「ううっ!」
「本当に大丈夫なの、陸ちゃん!?」
「なに?どうしたの、陸?」
「うん、陸ちゃんがね、お腹痛いみたいなのよ」
「ええっ?大丈夫?」
「どしたの、陸?」
「なんか、陸ったらお腹痛いんだってー」
「え?じゃあ無理せず休んだ方がいいじゃないの?」

 心配した羽実が大げさに騒ぐから、亜希や明日菜をはじめ、主にうちのクラスの子を中心に女の子たちが集まって僕を取り囲む。
 そのほとんどが、ほぼ裸だった。

「うっ、あっ、うううっ!」
「つらそうだよ、陸ちゃん。本当に大丈夫?」

 みんながわいわいガヤガヤ言うたびにぷるんぷるんと揺れるたくさんのおっぱいに取り囲まれて、股間のムスコがはち切れそうになってくる。
 それだけじゃない、なんか、顔がものすごく熱くなってきてるし……。

「ねぇ、陸ちゃん顔赤くない?」
「だよね。ひょっとして、熱でもあるんじゃないの?」
「うん、すごく真っ赤だしね」
「陸、保健室行った方がいいんじゃない?」
「ね、そうする?陸ちゃん?」
「う……あ、ううっ」

 いや、熱はないし、お腹も痛くないんだけど。
 ただ、男として大事なところがものすごく元気になってて、興奮を抑えられないというかなんというか……。
 なにより、僕を一番興奮させてるのが……。

「ね、保健室行く?陸ちゃん?」

 僕を支えようとする羽実が、結果的に裸で抱きついてきてるような格好になってることだった。

 なんかもう、顔が熱くなりすぎて、ドクドクと心臓の音が頭に響く。
 耳がツーンと鳴るような感じがして、眉間の辺りがズキズキと痛くなってくるみたいだし……。

「きゃっ!?」
「陸っ!」
「陸ちゃん!鼻血!」
「……へ?ふぁああああ!?」

 取り囲んでいたみんなと、僕に抱きついてきた羽実が悲鳴を上げて思わず下を見ると、シャツに赤い染みができていた。
 しかも、そこにボタボタとさらに血の滴が落ちていく。

「陸ちゃん!本当に大丈夫なの!?」
「ふえ……あ……ら、らいりょーぶらから……」

 普通に答えたつもりだけど、鼻が詰まって変な感じになってしまった。
 どうやら、それがかえってみんなを心配させてしまったらしい。

「大丈夫そうじゃないよ、陸ちゃん!?」
「そうだよ、陸。あたしが付き添うから保健室行こうよ」
「そーだよ!陸ったら、顔が真っ赤だし、鼻血も止まらないし、絶対に変だって!」

 羽実だけじゃなくて、亜希や明日菜やクラスのみんなか僕に寄ってきて、羽実の反対側から体を支えようとしてくれたり、僕の様子を覗き込んだり、背中をさすってくれたりしてくれる。
 だけど、それはつまりみんなとの距離がますます近くなったというわけで……。

「らいりょーぶ、らいりょーぶらっれば!」
「全然大丈夫じゃないって、陸ちゃん!」

 裸の女の子たちに密着されるような形で取り囲まれる僕。
 僕の体に押しつけられてる、羽実と亜希のおっぱい……で、目の前で揺れてるこの大きいのは明日菜のだな……。
 あ、こっちのは山瀬さんで、こっちは……そうか、高崎さんだったのか……。

 さっきから、心臓の音がガンガンと頭に響いて、みんなの声がよく聞こえない。
 なんだか頭がくらくらして、視界が揺れてるのか、おっぱいが揺れてるのかも区別がつかない。

 ……あれ?みんなのおっぱいがぐにゃってなってる?

「きゃあっ!」
「陸ちゃん!陸ちゃん!」

 僕の名前を呼ぶ羽実の声が、遠くで聞こえるみたいだ……。
 なんか、ふわっとしてすごくいい気分……。

 足許がフワフワして、なんだか気持ちよくなってきたかと思うと、そのまま目の前がどんどん暗くなっていったのだった。






* * *







「……あれ?ここは?」

 気がつくと、ベッドに寝かされていて、白い天井が視界に飛び込んできた。

「保健室よ」
「……空?」

 声のした方を見ると、僕の寝かされているベッドの横の椅子に、付き添うように空が座っていた。
 それも、珍しく肩を落として悄気かえっている様子で。

「……ゴメンね。こんなことになるなんて思ってなかった。もう、みんな元に戻して、さっきの騒動のことは忘れてもらって、陸は軽い熱中症で倒れたってことになってるから」

 項垂れたままで、空がそう告げた。

「なんなんだよ、いったい……?」
「うん……。女子更衣室に潜り込むのって、男の子のロマンだって言うし、学年全体の女の子が集まってるから、そこからいい子が見つかるかな、って……」

 いつものように軽口を言おうとしてるのかもしれないけど、その口ぶりには全然元気がなかった。
 明らかに、いつもの空とは様子が違う。

「だから、なんでこんなことするんだよ?」
「それがね、自分でもわからないの……」
「はぁ?」
「この間ケンカした後からあたし、頭に血が上ったようになって、なんか、無性に陸に腹が立って、頭の中がぐちゃぐちゃって感じになって、それでこんなことしちゃって……」

 しょんぼりと下を向いたままで、空は言葉を続ける。
 ていうか、なんだよ、それ?
 なんでおまえがそんなに腹を立てることがあるんだよ?
 腹を立てたいのは僕の方じゃないか。

「でも、やっぱりこんなことしたらダメだよね。だって、陸は羽実のことが好きなんだもんね……」

 だから、なんでおまえがそんなに僕と羽実のことにこだわるんだよ?
 なんでそんなに肩を落としてるんだよ……?

 本当に、わけがわからないのはこっちの方だよ……。

「ゴメンね、ゴメンね、陸……」

 いつもと違って、項垂れたまま何度も何度も謝る空の姿にすっかり毒気を抜かれて、怒る気力も失せてしまった。

「おまえ、このところやってることが本当に無茶苦茶だぞ」
「うん、ゴメンね……」

 僕の言葉に、神妙な顔でただ謝るだけの空。

 もとからやってることが無茶苦茶なやつだったけど、最近は特にひどい。
 それに、この間は逆ギレしたかと思えば、今日は俯いたままひたすら謝ってるし。
 なんか、情緒不安定というか、どう見ても様子がおかしい。

 だけど、僕にはその理由がわからなかった。
 本当は、それにもっと早く気づいていればよかったんだけど、空がなんであんなことをしてきたのか、本当の理由なんかその時が来るまで僕にはわかるはずがなかったんだから……。

 
 


 

 

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