ツインズ!

〜おカタい彼とハチャメチャな彼女〜


 

 



第4話 妹交換日記 2日目




「なにしてるの、陸?早く行くよ」
「わかってるよ」

 少し前を行く亜希に急かされながら、学校に向かう。
 僕だって、早く学校に行きたいのは山々なんだけど、亜希と僕じゃ歩幅が違うから、そうやってすたすた歩かれるとついて行くだけでもけっこう大変だ。
 当の亜希自身は、全然そんなことには気づいてないみたいだけど。

 とにかく、さっさと学校に行って空を捕まえないと。




 そんなことを考えながら学校に到着し、僕たちの教室に入る。




「あ!おはよう、陸くん!」
「陸くん、元気!?」
「おはよ!」
「陸くん、私も!」
「次、私ね!」

「わっ!?わわわ!?」

 いきなり、女の子たちが僕を取り囲んでキスしてくる。
 ていうか、昨日までより人数が多いじゃないか!?

「陸くん、おはよう!」
「私も!おはよ!」

 もう、空を捕まえるどころじゃなかった。
 女子たちにもみくちゃにされて、キスの嵐に見舞われる。
 いったいどうしたんだ、これは?

「おう、今日はまた一段とすごいな〜」
「ホント、モテる男はつらいよな〜」

 ようやく女の子たちの輪から解放されて、男子から冷やかしの言葉をスルーしつつ教室の中を見回す。

 だけど、空の姿はない。
 いや、空だけじゃなくて、亜希も明日菜も羽実もいない。



 ……どこに行ったんだろう?



「うわっ!?」
「きゃっ!?」

 空たちを探して廊下に出ようとしたら、入ってきた空とぶつかりそうになった。

「あっ!おい、空!」
「へ?私がどうかしたの?」
「えっ???」

 空を問い詰めようとしたら、返事を返してきたのは空じゃなかった。
 でも、亜希でもない。

「ねえ、私がどうしたの、陸?」

 そう言って首を傾げたのは、明日菜だった。

「あ、明日菜!?」
「へ?陸ったらなに言ってるの?明日菜はこっちじゃない」

 そう言って、明日菜は空を指さす。

 なんだって!?
 今度はそっちか!

 どうやら、今度は明日菜と空が入れ替わっているみたいだった。
 なるほど……そのために女の子たちに僕を囲ませて、その隙に明日菜たちを連れ出して催眠術をかけたんだな。

 ……て、感心してる場合じゃないだろ!!

 まったく、なんでこんなことをするのか全然わからないけど、とにかくこんなことは早く止めさせなくちゃ。

「ちょっとこっち来いよ!」
「きゃあっ!?」

 腕をぐいっと掴んで教室の外に連れ出そうとすると、空はわざとらしく悲鳴をあげる。
 でも、そんな演技に騙されないからな! 

「ちょっと!陸ったらなにしてるの!?」

 と、脇から明日菜が僕の腕を掴んだ。

「ちょっと、やめなさいよ。明日菜は嫌がってるでしょ!」

 だから、おまえが明日菜じゃないか!

 ああもう、面倒くさい。
 ホントに、どういうつもりなんだよ、空は?

「どうしたの、陸くん?らしくないよ」
「そうだよ、陸。明日菜がなにかやったんなら、ここで言えばいいじゃないの」

 明日菜に続いて、羽実と亜希が僕と空の間に割って入ってくる。
 亜希が元に戻ってるのはいいんだけど、ふたりとも今度はすっかり空のことを明日菜だと思ってるみたいだった。

 ていうか、ここで話をするのは憚りがあるから外に行こうとしてるんじゃないか!

「あーーーっ!」

 と、いきなり明日菜が大声をあげた。

「なに?どうしたの、空ちゃん?」

 いや……そっちは空じゃなくて明日菜だからね、羽実……。
 それにしても、明日菜も大声をあげたりしてなんなんだ、いったい?

「もしかして、陸ってばこれから明日菜に告白でもするの!?」

 誰が双子の妹に告白なんかするんだよーーーーっ!

 ていうか、自分のことを空だと思っていても、こういうところは明日菜のままじゃないか!

「ええっ!そうなのっ、陸!?」
「そんなわけないだろ!」

 尻馬に乗って、大げさに驚いてみせる空。
 まったく、調子に乗るなよな。
 ……て、なに顔を真っ赤にしてるんだよ!?

「なんだ〜」
「どうしたの?なんかあったの?」

 そうこうしているうちに、騒ぎを聞きつけてクラスのみんなが集まってきた。

「あのねっ、陸がこれから明日菜に告白するんだって!」
「ええっ!そうなのっ!?」
「いやっ、違うから!」
「ほほぉ〜、陸の本命は土井だったのか〜」
「だからっ、違うって言ってるだろ!」
「ほらほら、正直に言っちゃいなさいよ、陸。だって、そんなにしっかりと明日菜の腕を掴んでるじゃないの」
「ああ〜、ホントだぁ〜!」
「いや……だから……」

 明日菜が無駄に煽りたてるもんだから、たちまち僕たちの周りに人垣ができる。

 で、空はというと、もじもじと恥ずかしそうにしてる……演技だろうけど。

「ねえ、陸……あたしならここで告られてもオッケーだよ」
「あのなぁ、空!あんまり調子に乗ると本気で怒るぞ!…………て、ん?」

 僕の言葉に、ざわついていたみんなが一瞬黙り込んだ。
 ていうか、なに?この微妙な空気は?

「……あのさ、陸。空はこっちでしょ?」

 そう言って、亜希が明日菜の方を指さすと、全員がうんうんという感じで一斉に頷く。

 ……て、まさか?

「陸〜、熱でもあるのか〜?おまえが腕掴んでるのは土井だろ」
「そうよね。そっちが明日菜よね?」
「どうして陸くんったら明日菜に向かって空って呼んだのかしら?」

 みんなが、こっちを見て首を傾げている。
 なんか、昨日と同じ展開になってきたな……。

 ていうか、まさか全員が空を明日菜だって思ってるってこと!?
 いや……ありうるよな。
 だって、調理実習の時にはクラスの全員が空の催眠術にかかってたんだし、そのくらいできるはずだよな。
 それに、明日菜たちにだけ催眠術をかけても、みんなに変に思われるだけだろうし……。

「おい、陸。保健室行くか?なんならつきあってやるぜ」
「い、いやっ、大丈夫!全然なんともないから!」

 て、おいおい……このままじゃ僕の方が変だと思われちゃうよ……。

 とにかく、その場をごまかすために空の腕を掴んでいた手を離す。

「あれ?あたしに話があるんじゃなかったの、陸?みんなの前で告白するのが嫌だったら、後でふたりっきりで……きゃっ♪」
「きゃーっ!明日菜ったら、もうっ!」
「おいおい、マジかよ?俺、見物していいか?」
「だから!そんなんじゃないって言ってるだろ!」

 くそう……空のやつ、すっかり調子に乗ってるな……。

 僕がじろりと睨みつけても、空は頬に手を当ててわざとらしく恥ずかしがる振りなんかしている。
 まったく、小憎たらしいったらありゃしない。

「それにしても、陸にこんな大胆なところがあるなんて知らなかったよな〜」
「本当よね。なんか、男らしいって思っちゃった」
「だから、違うってば!」

 ていうか、そんなので男らしいって言われても嬉しくないし。

「照れないでいいから!私は応援してるからね、陸!」
「あのなぁ〜〜〜」

 ……話がややこしくなるから明日菜は黙っててくれないかな。



 がやがやと好き勝手なことを言っているみんなに囲まれて僕が頭を抱えていると、チャイムが鳴って先生が入ってきた。

「ん?みんななにしてるんだ?ほら、ホームルーム始めるぞ」

 先生のその言葉で、ようやくみんな自分の席に戻っていったのだった。






* * *







 で、結局そのままなし崩しに授業に突入して……。
 なんだかんだで5時間目の英語の授業。

「じゃあ土井さん、ここを読んで訳してちょうだい」
「はい」

 指名されたのは明日菜だけど、返事をして立ち上がったのは空だった。

「I became aware of my feelings,which was quite unexpected.I certainly felt tenderness for him……」

 教科書の英文を朗読する空の声が教室に響く。
 もちろん、先生はそのことに対してなにも言わない。
 この授業だけじゃなくて、現国の時も数Uの授業でも、明日菜の席に空が、空の席に明日菜が座っていても先生は全然気にしなかった。
 先生たちも、すっかり空のことを明日菜だと思ってる思っているらしかった。

 まあ、もうそのくらいのことでいちいち驚いていられないけど。
 空のことだからそこまで徹底的にやってるだろうっていうのは、昨日のことでよくわかったし。

 あの後、休憩時間に空と話をしようと思っても、近づいただけでみんなに囃し立てられる始末で、とてもじゃないけど静かに話ができる状況じゃない。

 ……それにしても、空のやつはなんでこんなことをするんだろう?
 いつものことといえばいつものことなんだけど、さっぱりわけがわからない。





「……陸くん……ちょっと、陸くん?……こほん……日向陸くん!」
「えっ?あっ、は、はいっ!」

 いきなり、先生に大声で名前を呼ばれた。
 双子の僕らが同じクラスのせいで(うちの学校は成績でクラスを決めるから、同じ文系でテストの点もほぼ一緒の僕と空はずっと同じクラスだった)、先生たちも僕たちだけは名字じゃなくて名前で呼ぶのが普通なんだけど、怒られるときはフルネームで呼ばれることが多い。

「もう、どうしたの、陸くん?真面目なきみらしくないわよ。授業中にぼんやりしないの」
「す、すみません……」

 先生にそう注意されて、素直に頭を下げる。
 どうやら、すっかり考え込んでしまってたみたいだ。
 気がつくと、空はもう席に座っていた。

「しっかりしなさいよ。じゃあ、陸くん、次、読んで」
「はい……あの、どこですか?」
「もうっ!48ページの6行目から!」
「はいっ」

 教科書を手に席を立ちながら、空の方をちらっと見る。
 すると、僕と目が合った空がペロッと舌を出した。

 くそ〜!空のやつ!

「どうしたの、陸くん?早く読んでちょうだい」
「あっ、はい!」

 また注意されて、慌てて教科書に視線を落とす。

 空ったら、覚えてろよ……。

 そんなことを考えつつ、教科書を読み始める。






 だけど、そんな僕の思いもむなしく。

 ――放課後

「おい!」
「あら〜?どうしたの、陸?」

 ショートホームルームが終わるなり、僕は空の席に行く。

「どうしたのじゃないだろ!」
「あっ、ひょっとしてやっと告白する決心がついたの?」
「なわけないだろ!」
「そう〜?あたしならいつでもオッケーよ〜」
「あのなぁ!」

「ちょっと、落ち着いて、陸くん」
「そうだよ、陸。それに、明日菜もあんまり陸をからかったらかわいそうだよ」

 僕と空がやり合っていると、羽実と亜希が割り込んできた。

「え〜、あたしは別にからかってないけど〜。だって、陸の方からあたしに絡んでくるんだもん。絶対に告白するつもりなんだって」
「まあまあ、明日菜もそのくらいにしときなよー。だって、陸が明日菜に告白するわけないじゃん」

 と、今度は明日菜が入ってくる。
 ……て、おまえが言うか?
 そもそも、言い出しっぺは明日菜じゃないか。

「え〜、なんでよ〜、空?」
「それは、双子の兄妹だから陸のことくらいわかるわよー。朝は、面白そうだからちょっとからかってみただけだってば」

 いや、そう言うおまえは明日菜だから。
 僕の双子の妹じゃないから。

 明日菜が空で、空が明日菜で……。
 ああもう、本当にややこしい。

 頭の痛くなりそうな状況にこめかみを押さえる僕。
 だけど、続けての明日菜の言葉に、心臓が飛び出そうになった。

「でもね、陸が好きなのはね、明日菜じゃなくて羽実だと思うのよねー」
「なっ!?」

 それを聞いた瞬間、顔がカァッと熱くなってくるのを感じる。
 思わず、羽実の方を見ると、やっぱり耳の先まで赤くしてあたふたとしていた。

「ちょっ、ちょっと!空ちゃんったらなに言ってるのよ!」
「そ、そうだよ。お、おかしなこと言うなよな!」
「どうしたの?ふたりとも顔が真っ赤だよ。もしかして……」
「もっ、もうっ、からかわないでよね……」
「そっ、そうだよ……」

 興味津々の明日菜に、羽実がもじもじしながら抗議する。
 僕も文句を言おうとしたけど、内心では明日菜にまで図星を突かれて、まだ心臓がドキドキと鳴っていた。
 顔が火照ってるのが自分でもわかる。

 本当に見透かされたのか、適当に言ったのかはわからないけど……そんなに見てわかるくらいに態度に出てたのかな、僕?



 ……と、次の瞬間。



「痛いてててててっ!……なにするんだよっ、もう!?」

 空に思いっきり腕をつねられた痛みに、思わず悲鳴を上げた。

「ちょと〜、あたしの立場はどうなるのよ〜!」
「はぁ!?」
「だってぇ、せっかく陸に告白してもらえると思ってドキドキしてたのに〜」

 そう言って、ふて腐れたように唇を尖らせる空。

 ていうか、わかっててわざと状況を引っかき回すんじゃない。

 そんな、ぷくっと頬を膨らませている空の頭を亜希がポンポンと叩く。

「陸をからかうのもほどほどにね、明日菜。あんまりしつこいと陸に嫌われちゃうよ」
「……はーい」

 て、素直に返事を返してるけど、なんなんだ、その不満そうな顔は。
 そもそも、おまえが余計なことをしなけりゃ僕の生活は平和そのものなんだよ。

「じゃ、あたしは部活行くから。また明日ね」
「うん、またね」
「またね、亜希ちゃん」
「バイバイ、亜希ー。……じゃ、私たちも帰ろっか?」
「うん、そうだね」
「あたしも!」

 鞄を持って教室を出て行く亜希を見送ると、明日菜と羽実、それに空も帰り支度を始める。

 まずい、このままじゃまた空のペースじゃないか。
 どうにかしてこの状況を元に戻さないといけないっていうのに。

「どうしたの、陸くん?一緒に帰らないの?」
「あ、いや……」

 しかたない。
 帰りながらどうするか考えるか……。

 羽実に促されて、しかたなく僕も自分の席に戻る。
 そして、鞄を手にしてスマホを見ると、メール着信のライトに気づいた。

 なんだ?誰からだろ?
 ……ん?空から!?

 届いていたメールは、空からだった。
 ちらっと空の方を見てからメールを開くと……。

”今日のところは諦めなよ〜。今この状況で明日菜と羽実だけ暗示を解いてもしょうがないでしょ。放課後になってみんな解散した時点で陸の負けだからね♪”

 そこには、そんな文字が躍っていた。

 ……って、をいっ!

 思わず顔を上げると、あの、勝ち誇ったような笑みを浮かべている空と目が合った。

 くっそぉー!
 空のやつったら、ホントに憎たらしい!

 ……でも、たしかに空の言うとおりなんだよな。

 もう、クラスのみんなは亜希みたいに部活に行ったり、さっさと帰ったりしてる中で、明日菜と羽実だけ元に戻しても意味がない。
 それはその通りなんだけど……。

 結局は全部空の思惑通りになってるのが悔しい。
 ていうか、だからってこのままにしておくのもどうなんだよ?



「なにしてるの、陸?ほら、早く帰ろうよー」
「えっ、あっ、うん……」

 明日菜に急かされながら、僕たちは教室を後にする。

 空はさっきから黙ってるけど、ニヤニヤとやけに楽しそうだった。






* * *







 そして、帰り道。

「じゃ、また明日ね!」

 明日菜の家の方への分かれ道で、空が手を振った。

「あっ、おいっ!」

 やっぱり、このまま放っておくわけにもいかなくて、空を追いかけて腕を掴んだ。

「やんっ!?なによっ、陸ったら?」
「なにって、このままにしておくわけにはいかないだろ!?」
「もう〜、なに言ってんのよ?みんなが揃ってないとややこしくなるだけでしょ」
「だからって!」
「ホントに陸ったら頭が固いんだから〜。昨日、亜希と一緒に過ごしてみて、ドキドキしなかったの?」
「あのなぁ!」

 いや、頭が固いとか柔らかいとか、そーいう問題じゃないだろが!
 そ、それはたしかにドキドキしたけど……僕は別にそんな……。

 ……て、んん?



 明日菜と羽実に聞かれないように小声でやり合っていると、反対側にぐいっと手を引かれた。

「もうー、陸ったらあんまり明日菜にちょっかい出さないの!」
「……お、おい!」
「はいはい。今日のところはそれくらいにして、おうち帰るわよ」
「ちょっ、ちょっと待てってば!」
「じゃあね明日菜ー、また明日ー!」

 だからおまえが明日菜じゃないか!!

「うん、バイバイ〜!」
「あっ、ちょっ!おーい!」
「だから!陸ももうやめなってば!」

 空がこっちに手を振って、小走りに駆けていく。
 明日菜に腕を引っ張られている僕は、空の背中が小さくなっていくのを見送るしかなかった。

「どうしたの、陸くん?」
「もうっ、今日の陸ったら本当に変だよ?」

 羽実と明日菜にそう言われても、説明のしようがない。
 本当に変なのは周りのみんなの方なのに、それがわかってるのは僕だけなんだから。

「さあ、早く帰るわよ、陸」
「ちぇっ、わかったよ……」

 思わず舌打ちすると、渋々ながら明日菜について行く。
 結局、空の思惑通りになってしまった。
 いや、そもそも空にどんな思惑があるのかはわからないんだけど。






「じゃあ、陸くん、空ちゃん、また明日ね」
「うんっ、また明日」
「また明日……」



 いつもの角で羽実と別れて、ふたりっきりになる。
 昨日は相手が亜希だったけど、今日は明日菜だ。

 ホント、なんでこんなことになってるんだか……。
 て、このまま家に帰ったら!?

 今朝まで、母さんは亜希のことを空だって思ってた。
 てことは、このまま明日菜と帰ったら変に思われるんじゃないのかな?
 しかも、明日菜は自分が空のつもりでいるし。

 どうしてくれるんだよ、空〜!

 ……どうやったら母さんをごまかせるかな?

 頭をフル回転させて家に帰ったときの対策を考えるけど、いい考えが全然思い浮かばない。



 しかし、そんな僕の心配をよそに。



「ただいま〜!」
「あら?お帰りなさい、空」
「ええっ!?」

 元気よく家に入っていった明日菜を、当たり前のように母さんが空って呼んだ。

 ……いったいどうなってるんだよ、あいつの催眠術は?

 きっと空の仕業なんだろうけど、いつの間に何をしたのか皆目見当がつかない。

「おかえりなさい。どうしたの、陸?」
「い、いや、なんでもないよ。はは……はははは……」

 もう何が何だかわからなくて、僕はただ苦笑いするしかなかった。






* * *







「はあ……空のやつ、本当になんのつもりなんだよ……」

 自分の部屋に入って鞄を放り出すと、そのままベッドの上に寝転んだ。

 昨日からずっと空に振り回されっぱなしで、なんかぐったりする。

 空はいったいなにを考えてこんなことをしてるんだか……。
 まさか、あいつがいつも言ってるように、僕を女の子に慣れさせるため?
 いやいやっ、それ、間違ってるから!
 別に、僕は女の子に慣れてないわけじゃないし、だいいち、亜希たちとは小さい頃から仲はいいし。

 それとも、ふたりで一晩過ごしたら何かあるとでも思ってるのか?
 いーや、そんなことあるわけないし。
 そもそも、自分のことを空だと思っている相手になにをどうしろというんだよ?



「陸っ!あーそーぼー!」
「うわっ!?」



 ベッドの上で考え込んでいたら、明日菜が勢いよく部屋に飛び込んできて、思わず飛び上がってしまった。
 だけど、僕が驚いたのはいきなり明日菜が飛び込んできたからじゃなくて、その格好が白いスポーツタイプのハーフトップに短パンだったからだ。

「なに?どうしたの、陸?」
「おまえっ?なんて格好してるんだよ!?」
「えー?だって、なんか変なんだよねー。部屋着に着替えようと思ったら、Tシャツはなんかきついし、ブラも全部小さくなってるし、これが一番楽そうだったのよー」
「てことは、その下にブラ着てないの!?」
「ええーっ?だって、こういうのは下着代わりみたいなもんだから、下にブラ着るとブラの形がついてかえって格好悪いんだよー」
「知らないよっ、そんなの!」

 ていうか、空がそんな格好してるの見たことないし、そもそもそんな服を空が持ってたこと自体が驚きだし。
 まあ、空のブラはきっと明日菜には入らないだろうなとは思ったけど、その格好だって、おへそ丸出しだし。おっぱいがはみ出そうなくらいにピチピチだし。
 いやいや、よく見たら、胸のふくらみの先っぽにある、ポチッとした乳首の形が丸わかりじゃないか!

「だいいち下着代わりって、おまえは下着のままで遊ぶつもりなのかよ!?」
「だって、下着代わりだから下着じゃないもん」
「また適当なことを言って!」

 くそぅ、あー言えばこー言う……。
 そうだよな、明日菜は昔からこういうやつだよな。
 どこか空と似ているところがあるけど、確信犯でそう振る舞ってる空とは違って、本気でこんな感じなんだから。

「もう、いいじゃないの、双子の兄妹なんだからこれくらい。別に減るもんじゃないし」
「おまえが言うな!」

 ていうか、そもそもおまえは僕の双子の妹じゃないから。

「もうー、いいから遊ぼうよー、陸ー」
「こらっ、やめろって!」

 明日菜が、ベッドに上がってきてしがみついてくる。

「ねぇー、そんなに邪険にしなくてもいいじゃないのー」
「だから!」

 僕に腕に絡んだ明日菜の腕を振りほどくと、適当にあしらおうと背中を向ける僕。

 明日菜はブツブツ文句を言ってるけど、本物の空が相手ならもっと邪険に扱ってるところだ。

「ね、遊ぼうよー、陸ー」

 と、今度は後ろから抱きついてきた。

「こ、こらっ……」

 やめろよ、と言いかけた僕は、思わず途中で言葉を飲み込んでしまった。
 僕の背中に当たってる、この、たぷたぷとしたもの。

 これって、アレだよね?

 間違いなく、明日菜のおっぱいが背中に当たってるのを感じていた。
 服の上からでもそれとわかる、ぷにっと柔らかい感触。
 ブラとかパットとか、クッションになるものがないから、その弾力のある感触がダイレクトに当たってる。

 すごい……なに、このボリューム感?

 そういえば、調理実習の時に亜希に頭を抱えられたときもこんな感触がしたけど。
 あれよりももっとたっぷりと当たってる感触がする。
 きっと、貧乳の空じゃ味わえない感触かもしれないな。

「ん?どうしたの、陸?」

 僕が黙ってると、明日菜は少し体を持ち上げて肩越しに腕を絡めてくると、耳許に口を近づけてそう訊いてきた。
 ていうか、その体勢、さっきよりも余計におっぱいが当たってる感じがするんだけど!?

「やっ、なんでもない!なんでもないよ!」
「うそだぁ〜!絶対なんかあったでしょ?」
「ホントになんでもないから!」
「そんな風に見えないよー。ねぇ、ねぇ、どうしたのよ?」

 僕の背中に体を押しつけながら、体をゆさゆさと揺すぶる明日菜。
 それに合わせて、背中に当たってるムニュッと柔らかい感触も揺れる。

 柔らかい柔らかい、僕の、背中いっぱいのおっぱい。

「……うっ!」

 思わず、僕は前屈みになって呻く。

 明日菜のおっぱいの感触に、僕の男の部分が目覚めてしまった。

 ズボンの下で、膨らんで突っ張ってる僕のムスコ。
 いや、それは僕だって男だから自分でやったりすることはあるけど。
 こんな、後ろから女の子に抱きつかれておっぱいを押しつけられたらアソコだって元気になるに決まってるじゃないか。
 絶対反則だよ、こんなの……。

「ん?どしたの、陸?」
「なっ、なんでもないって……!」

 不思議そうに聞いてくる明日菜の質問を、前屈みになったまま軽くかわそうとするけど、股間の辺りは全身の血が集まってるみたいにドクンドクンってなってるし、顔が熱くなってるのが自分でもわかる。

「ねっ、ねっ、もしかして、陸ったら興奮してるの?」
「そんなことないってば!」
「だって、耳が真っ赤だよ。ひょっとして、これのせい?」
「……あっ、こらっ!」

 明日菜が、ぎゅううぅっておっぱいを押しつけてくる。
 僕の背中で柔らかいおっぱいがむにっと押しつぶされてるのがわかって、股間がまたドクンと熱くなった。

「やっぱり興奮してるでしょ?くすっ、もう、陸のエッチ〜!」
「いやっ、違うってば!」

 必死にごまかそうとするけど、本当は違わない。
 ていうか、それが普通じゃないか。
 日頃、男らしくないとか言われてる僕だけど、女の子にこんなことされて興奮しない男がいたら見てみたいよ。

 そんなことを考えていると、耳許で明日菜がクスクスと楽しそうに笑う声が聞こえた。

「でも、ちょっと安心したかも」
「……へ?」
「陸も、ちゃんと男の子だったんだってね」
「あ、あのなぁ……」
「だって、陸ったら男らしくないっていうか、少し頼りない感じだったから」

 まったく、空みたいなこと言うなよな。
 まあでも、自分でも男らしいっていうのとはほど遠いっていう自覚はあるんだけど。

「でも、陸もこうやって女の子に興奮するんだぁ、て思ったら安心して、なんか嬉しくなっちゃった」

 そう言うと、また明日菜はぎゅって胸を押しつけてくる。

「でもね、私には興奮してもいいけど、亜希や明日菜や羽実にはだめだよ。そんなことしたら、きっと嫌われちゃうから。私は陸の妹だからこういうことしてあげるんだよ」
「お、おい……」

 なんかもう、つっこみどころが多くてどう言ったもんだか。
 そもそも、おまえが明日菜だし。
 ていうか、妹だからこういうことしてもいいっていうのが間違ってると思うんだけど。

 でも、明日菜の考えることって普通とは違うところあるからな。

 とかいってるうちに、僕の背中に押しつけられたおっぱいがゆさゆさと揺れ始める。
 明日菜が、僕に抱きついたまま、また体を上下に揺すっていた。

「私は妹だからこういうことしてあげるけど、他のみんなにこんなとさせちゃだめだよ、陸」

 ……させないよ!
 ていうか、今だって僕がさせてるんじゃなくておまえが勝手にやってるんじゃないか!

「……んっ、あんっ!」
「へ?なに?どうしたの?」

 ……と、僕に抱きついて体を揺らせていた明日菜が、不意に変な声を上げた。

「ん……や、なんか、こうしてると、私も感じちゃうみたい……ん、んんっ!」
「ばばば、バカかっ、おまえはっ!?」
「だってぇ……んっ、やぁん!」

 いつもの明日菜とは違う、甘ったるい声が僕の耳許で弾ける。
 僕の背中で、むにゅにゅと揺れる柔らかい感触の中にポツッとちょっと固いものが当たってるのって、これ、乳首じゃないかな?

「あんっ、やっ、これ、ちょっといいかもっ!」

 コリコリと、乳首が擦れる感触がするたびに、鼻にかかったような甘い声が明日菜の口から洩れる。
 耳のすぐ近くでそんな声を上げられると、ますます僕のムスコに血が集まっていって、痛いくらいに膨らんでいく。

「ちょっ、ちょっと!それ以上は……!」
「うんっ……イケないって思うけど、私も、興奮してきちゃったぁ……ん!あぁん!」

 僕の背中に押しつけられたままで、むにむにと揺れるおっぱいの感触。
 耳許で聞こえる、甘い甘い明日菜の喘ぎ声。

 ……て、これ、ホントにヤバいって!
 それ以上されたら、僕のアソコ破裂しちゃうって!

「ちょっと!本当にもうだめだって!」
「ダメなのはわかってるよぉ、でも、でも、これ、気持ちいいよぉ…………きゃあっ!」

 いきなり、小さな悲鳴が上がったかと思うと、押しつけられていたおっぱいが離れた。

「ど、どうしたの……うわぁ!?」

 なにが起きたのかと思って振り向いたら、明日菜の着ているハーフトップが思いっきりずり上がって、おっぱいがすっかり丸見えになっていた。

「わわわ……なにしてんだよ、おまえ!?」
「きゃあっ、陸のエッチ!こっち見ないでよ、もうっ!」
「いでっ!?」

 いきなり、明日菜に頬をはたかれる僕。
 て、さっきまで男におっぱい押しつけていやらしい声出してたやつが人のことエッチって言えるのかよ!?

「やんっ、夢中になってやってたら、胸がはみ出ちゃったよ、もう……」

 急いで服を直そうとしてるけど、もともとが明日菜の大きなおっぱいには少しサイズの小さなハーフトップなうえに、慌ててるもんだからうまく収まってくれないみたいだ。
 ていうか、それってもうはみ出てるとかいう次元の話じゃないから。完全に見えてるから。

「もうっ、陸ったらいつまでこっち見てんのよ!あっち向いててよね!」
「痛てて!」

 慌てふためいている明日菜の様子を見ていたら、もう一発はたかれた。



 そして、5分後。



「……もう、やっぱり兄妹でこんなことしたらだめだよ。健全にゲームでもしようよ、陸」

 ようやく服を整えて、そう言い出す明日菜。
 だから……そもそもあんなことやり始めたのはおまえの方だから。

 で、結局ゲームをすることに落ち着いた。
 ものは、人気のカートレースの対戦プレイだ。

「じゃあ、このコースで対決ね!」
「わかったよ」
「ふふふ、負けないからね、陸」
「こっちだって」

 コントローラーを握って画面を見つめたまま、他愛もない会話をする。
 うん、さっきまでと比べて、なんて健全なんだ。

 さっきまで爆発寸前だった僕のムスコも、ようやく落ち着きを取り戻していた。



 とか思って油断してると……。



「ねぇ、陸?」
「ん?なに?」
「陸のこと、お兄ちゃん、って呼んでいい?」
「ぶっ……!」

 しまった、手元が狂ってクラッシュしちゃったじゃないか。

「なっ、なんなんだよ、いきなり?」
「私たちって、双子だからずっとお互いに名前で呼んでるでしょ。だけど私たち兄妹だし、いちおう陸がお兄ちゃんだから、ね?」

 なんだかなー。
 そもそも、双子以前におまえとは兄妹ですらないんだけどなー。

「それにね、なんか、すっごくお兄ちゃん、て呼びたい気分なの」

 ……あっ。
 そうか……明日菜って、ひとりっ子だったっけ……。

 普段は明るくてお調子者で、そんな感情は全然見せないけど、本当は明日菜って兄弟が欲しかったのかな?
 今は自分が空になったつもりでいるけど、そういう自分本来の思いっていうのは残ったままなのかもしれない。
 だから、今日はずっと僕にべったりひっついてるのか……。

 そう思うと、なんか明日菜のことをすごく可愛らしいとか思ってしまう。
 こういう、裏表のないところが空とは違うんだよな、こいつ。

「ね?いいでしょ、陸?亜希たちの前ではヒミツにしてるからさー」

 秘密にしてどうするんだ、そんなの?
 でも、甘えるような明日菜の表情がかわいくて、ついつい頬が緩みそうになる。

「しかたないな、もう」
「やった!まあ、陸って優しいけどなんか頼りないし、お兄ちゃんていうよりかは弟みたいな感じがあって守ってあげたくなるような感じだけど、お兄ちゃん、て呼んでたらちょっとは男らしくなるかなって思ったりもするのよねー」

 ……なんだよ、それ?
 ていうか、おまえに守ってもらうほど頼りなくはないとは思うんだけど。



「じゃあ、心おきなくお兄ちゃんに攻撃〜!」
「あっ、バカッ!」

 明日菜のカートがこっちに体当たりしてきて、僕のカートをコースアウトさせる。

「ほらほら、もう1回〜!」
「わっ!?おまえっ、もうそれゲーム関係ないだろ!?」

 今度は、カートじゃなくてコントローラーを握った明日菜が僕に体当たりしてくる。

 前言撤回。
 可愛らしいとか思ったけど、やっぱりこいつはただのお調子者だ。





 まあ、なんというかそんな感じでじゃれ合うみたいにゲームをしていると……。





「陸ー、空ー、そろそろご飯だから降りてきなさーい!」

 階段の下から、母さんの呼ぶ声が聞こえた。

「はーい!」

 元気よく返事をすると、明日菜はコントローラーを置く。

「じゃ、降りようか、お兄ちゃん!」
「ぶわっ!」

 いきなり、明日菜に頭を抱きかかえられて、僕の顔いっぱいに、明日菜の柔らかいおっぱいが押しつけられた。
 ぷにぷにと弾力のある感触に顔面を包まれて、一瞬息ができなくなる。

「んぶっ、んむむむむむっ!むむーっ!…………ぷはぁっ!」

 おっぱいに埋もれて窒息寸前のところで、ようやく明日菜が体を離した。

「おっ、おまえなぁ!」
「うふふふふっ!」

 僕が唇を尖らせると、明日菜は満面の笑みを浮かべる。

「今日はいっぱい遊んでくれたから、そのお礼だよ、お兄ちゃん!」

 そう言うと、くるっと振り向いて明日菜はスキップしながら部屋から出て行った。






* * *






 ――そして、翌朝。

(ああもう、昨日は大変だったよな……)

 洗面所で歯を磨きながら、眠い目をしばたたかせる。

 昨日は、夜になって明日菜がまた僕の部屋に来て、枕投げをやろうって大騒ぎだった。
 て、修学旅行じゃないんだから。
 まったく、世の兄弟姉妹はみんな家で枕投げしてるとでも思ってるのか、あいつは?

 で、結局少しだけならって約束で相手をしてやったら、母さんに怒られるくらいにはしゃぎ回ったのだった。

 はぁ……空とは違う意味で疲れる……。
 明日菜みたいなのが毎日家にいたら、純粋に僕の体力が持たないな、きっと。

 口をゆすいで顔を洗うと、朝だというのに大きなため息をつく。





「ああー、もうっ、なんでだろう?ブラは全然入らないし、制服も少しきつい感じがするし、もうー、なんなのよー、いったい?」

 廊下に出ると、ブツブツ言いながら明日菜が降りてきた。

 朝っぱらから元気だよな、もう……。

 朝早くから騒がしい明日菜に少し呆れながら声をかける。

「おはよ」
「あっ、おはよーっ、お兄ちゃん!……ちゅっ!」
「んむっ!?」

 僕を見て嬉しそうに飛びついてくると、明日菜はそのままキスしてきた。
 それも、けっこう強めに。

「んんっ……ふうっ、お兄ちゃんも、あんまりのんびりしてると遅刻しちゃうよ」
「う、うん……」

 唇を離してリビングの方に入っていく明日菜を、半ば呆然として見送る僕。

 昨日の亜希の時もそうだったけど、家の中でのキスは不意を突かれたような気がして、一瞬、頭の中が真っ白になって思考が停止する。

 ホントに、毎日毎日なんなんだよ、もう。

 ……え?毎日?

 最初が亜希で、次が明日菜っていうことは……。
 もしかして、今日は……羽実の番?

 ちょっ?なんで、こんなに胸がドキドキして、顔が熱くなってるんだよ?

 次は、羽実の番だって、今日は羽実と一緒に過ごせるんだって、そう考えただけで、胸が高鳴ってくるのを僕は抑えることができないでいた。

 
 


 

 

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