ツインズ!

〜おカタい彼とハチャメチャな彼女〜


 

 



プロローグ モテ期の裏には……








「うううっ!えぐっ、ひっく……!」
「もうっ!りくったら、もうなかないの!」
「うん……んっく、ひぐっ!」
「もう〜、ほんとうにりくってばなきむしなんだから!」











「まあっ!また喧嘩してきたのっ!?」
「だって!さきにてをだしたのはあっちだもん!あいつらがりくをたたくからわるいんだよ!」
「だからって……ああ、もう、こんなところ怪我して。空、あなたは女の子なんだから、もう少しおとなしくしなさい」
「でもっ!あたしがりくをまもってあげないと!」
「もう、この子は……。ほら、陸ももう泣かないの、男の子でしょ」
「うんっ、こめんなさい……ひぐっ!」
「まったく、この子たちは双子なのになんでこんなに性格が違うのかしら……」










 ……ああ、でもそれは仕方ないよ。
 僕と空は、双子でも二卵性なんだから。
 性格が似てなくても、仕方がないんだよ……。





「……なんだ、夢か」

 朝、起きると自分のベッドの中にいた。

 久しぶりに、子供の頃の夢を見た。
 本当に久しぶりに。
 そうか……思い出した。
 あの頃、空は僕にとっては正義の味方だったんだ。






* * *







「……私、日向先輩のことが好きです」

 そして今、僕、日向陸(ひなた りく)は校舎裏で女の子から告白を受けていた。

 ……またか。
 これで、今月に入って10回目だよ。

 このところ、僕は立て続けに女の子から告白を受けていた。
 とは言っても、別に人生最大のモテ期が来たわけじゃない……と思う。
 その理由は、僕にもわかっていた。

 今、僕の前に立っている女の子。
 ひとつ下の学年の、倉本ミサってさっき自己紹介してたけど……。
 たしかに、丸顔で目のぱっちりした、かわいらしい子だな。
 ふんわりした髪に大きな赤いリボンをつけて、お人形さんみたいだ。

 なるほど……こういう子も好みだったのか……。

「あのさ、倉本さんは僕のどういう所が好きなの?」
「はい……日向先輩の男らしくて、頼もしそうなところが……」

 またそれかよ……。

 この間から告白してきてる子に僕のどこが好きなのか聞くと、全員が判で押したように同じ答えを返してくる。

 言っておくけど、僕はお世辞にも男らしく見えないという自信はある。
 そんなに活発な方じゃないし、体育会系の部活に所属してるわけじゃない。
 身長だって165cmで男子の中じゃ低い方だし、どちらかと言えば華奢な方だ。
 下手をすると女の子に間違われることもある。
 というか、女子から「かわいいー!」と言われることがあるし、そのせいで男子からからかわれることもある。
 それを、どう見たら男らしくて頼もしそうって言えるんだか……。

 まあ、その理由もわかってるんだけど。
 だけど、わかっているだけに、この子の告白には応えてあげることはできない。

「あのね、倉本さん。悪いけど、きみの気持ちには応えられないんだ、僕は」
「……えっ?」
「ごめん。きみのこと、かわいい子だとは思うけど、僕には心に決めた相手がいるから」
「あっ!……そうですか。ごめんなさい、私、先輩のことも考えずに……失礼します」

 本当は、心に決めた相手が相手がいるわけじゃない。
 でも、このところの経験で、こう言ってさらに食い下がってくる子はほとんどいないことは学習していた。










 肩を落として去って行く彼女の姿が見えなくなるのを待ってから、僕は口を開いた。

「見てるんだろ、空。出てきたらどうなんだよ」



「もう〜、陸ったら、また振っちゃったの〜?せっかくあの子かわいかったのに〜」

 ぶつぶつ言いながら、植え込みの陰から出てきたのは日向空(ひなた そら)。
 僕と同じ顔に、同じくらいの背格好。
 違うのは、背中まで届く長い髪。
 そして、カッターシャツに学生ズボンの僕と違って、セーラー服を着ている。

 いちおう空は、僕の双子の妹、ということになっている。
 男と女、二卵性双生児なのに、僕たちは下手な一卵性双生児よりもよく似ていた。
 そんな、そっくりな僕たちの、全然似ていないところは互いの性格。
 昔から、活発で面倒見のいい空が、おとなしい僕の世話を焼いていた。
 特に、小さい頃は泣き虫だった僕をいつも空が庇ってくれたりして、実のところ兄と妹の立場なんかあってないようなものだ。
 そもそも、双子の僕らにとっては、どっちが上か下かなんてどうでもいいことだし。

「空こそどういうつもりだよ。これで今月になって10回目だろ?」
「でも〜、みんな良さそうな子だったでしょ?誰かひとりくらいこれはっていう子いなかったの?つきあっちゃえば良かったのに」
「そんなことできるわけないじゃないか!」
「ええ〜、なんで〜?」
「だって、本当は僕のこと好きじゃないのに、催眠術かけられて告白してきてるのなんかに応えられるわけないだろ!」

 そう……。
 今までの告白は全部、空が女の子に催眠術をかけて僕のところによこしたものだった。

 何を考えているんだか、中学の頃から空は催眠術に興味を持ち始め、今では自称”かなりの腕前”らしい。
 いや、実際にこうやって何人もの女の子が催眠術にかかってしまってるんだから、本当に相当の腕前なんだろうと思う。
 で、最近彼女がはまっているのが、自分の気に入った女の子に催眠術をかけて僕に告白させるっていうもの。

「もう、陸ったらあたしの腕を舐めてない?ちゃんと陸のことを好きにさせてるってば」
「そーいう問題じゃない!」

 ……どう考えても嫌がらせとしか思えない。

 小さい頃はいつも僕を守ってくれていた正義の味方が、いつの間にか催眠術で他人を好きなようにする悪の道に墜ちてしまっていた。
 しかも、それを使って僕を守るどころか、僕の平穏な日常生活に波風を立てることしかしてこないときている。

「じゃあ、どういう問題なの?」
「初めて会う相手にいきなり告白されて、はいそうですか、って受けることなんてできないよ!」
「でも、告白ってそういうものなんじゃないの?いいじゃない、べつにOKしても」
「全然知らない相手に、そう簡単にOKできるわけないだろ!」
「ふーん。じゃあ、よく知ってる相手ならいいんだ……」

 空が、左手の親指と人差し指で顎の先をつまんで、少し下を向く。

 ……これは、また何か良からぬことを考えてるな。

「なに考え込んでいるんだよ!また余計なこと考えてるだろ!」
「ええっ!?あたしは、これまでの失敗と、陸の性格を考慮してより成功率の高いやりかたを……」
「だから!それが余計なことだって言うの!」
「もう〜、陸ってば本当に堅いんだから〜」
「空が無茶苦茶なんだよ!だいいち、なんだってこんなことするのさ!?」
「あたしは陸のことが心配なんだよ〜。陸ったら、女っ気が全然ないんだもん」
「そんなことないだろ。亜希とか、明日菜とか、羽実とか……」

 今名前を挙げた、水田亜希(みずた あき)、土井明日菜(どい あすな)、風間羽実(かざま うみ)は、幼稚園の頃からの幼馴染みで、今も同じクラスの腐れ縁だった。
 小さい頃から僕と空の遊び仲間で、今もよくうちに遊びに来るんだけど。

「じゃあ、陸は3人の誰かとつきあったことはあるって言うの?」
「う……いや、それは……」
「でしょ!だからあたしは心配なのよ!」
「じゃあ、そう言う空は誰かとつきあったことはあるのかよ?」
「あたし?あたしはそんなのいつだってできるもん!催眠術を使えば、タイプの男なんて選り取りみどりだもん!」
「また空はそんなこと言って!そんなことに催眠術なんか使っちゃだめだろ!」
「なに言ってんのよ。自分の好きな相手は、どんな手段を使っても自分のものにしなくちゃいけないのよ」
「……いや、その理屈、なんか間違ってると思う」
「ホントに陸は真面目なんだから〜。陸はそういうことができないだろうからって、せっかくあたしがお膳立てしてあげてるのに。据え膳食わぬは男の恥って言うでしょ」
「だから!それが余計なお節介なんだよ!結局はこの2週間の間で、無駄に女の子の告白を断るスキルが上がっただけじゃないか!」
「きゃ!陸ったら、なんかプレイボーイみたい!」
「空のせいだろ!真面目に話聞けよ!だいいち、なんだよあれは。僕の男らしくて頼もしいところが好きってのは!僕のどこが男らしいってんだよ!?」
「うーん、だからそこもあたしの心配なところなのよね〜。陸にはもうちょっと男らしくして欲しいっていうかね。ほら、陸って、小さい頃は泣き虫でよくいじめられてたでしょ」
「いやっ、別に今はいじめられてないし、友達ともうまくやってるじゃんか!」

 そう、たしかに小さいときは泣き虫で、そのせいでからかわれたりして僕も、今はそんなことは全くない。学校でも、男友達とはうまくやってるつもりだ。

「ん〜、まあ、それはそうなんだけどね〜。もう少し頼りがいがあってもいいと思うのよね。あたしだって、いつまでも陸のこと守ってあげられるわけじゃないし」
「だから、もうそんな年じゃないだろ!」

 なんか、空が本気で心配そうな顔してるのが妙にむかつく。
 僕がよく泣かされて空に守ってもらってたのはずっと小さいときの話で、高校に上がる頃までにはそんなことはなくなっていたはずだ。

「もうっ!本当に陸ったら頑固なんだから!陸にもう少し男としての自覚を持って欲しくて、こうやっていい子を探してるあたしの苦労も知らないで」
「だから、そんなの誰も頼んでないだろ!」
「まあいいわ。さっきので、ちょっとヒントは手に入れたし、また別な方法を考えることにするから」
「いや、だから余計なことは考えなくていいって!」
「もうっ、本当にうるさいんだから、陸は……」
「おい、待てって」
「もうあたし帰る!」
「だから!人の話聞けって!ていうか、さっきの子にかけた催眠術、ちゃんと解いてあげろよな!あのままじゃ可哀想だから!」
「わかってるわよ。もうっ、陸が告白受けてさえいればそんなこともしなくていいのに……」

 ぷいっと踵を返して、ぶつぶつぼやきながら歩き始める空の後を、慌てて僕も追いかけていく。










 ただ、僕の悪い予感が外れたのか、それから2週間ほどは何事もなかったのだった。

 
 


 

 

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