タクマ学校


 

 



その9


中古車ディーラー勤務 柿本隆夫


 本来なら、こんなに早起きした朝は、凄く気持ちがいいはずだ。親父が定年になってからというもの、しょっちゅう両親は旅に出てる。俺はその隙に恋人の恵理を家に連れ込んで、新婚生活みたいなノリで毎日楽しむはずだった。ただ一人、弟のミツオの邪魔さえなけりゃ、恵理と二人っきりの生活のはずだったんだ。そして俺は、実にムカムカしながら恵理の作る朝食をミツオと食べていた。

「まだ機嫌悪いの? 兄貴の勘違いだってば。何となく健康的にエクササイズでもしたくなったんじゃないの?」

 ミツオがとぼけてやがる。絶対にアイツがまた、俺たちを催眠術でおちょくろうとしたに違いない。でなきゃ、俺たちいい大人が、ラジオの音楽で跳ね起きてベランダでラジオ体操なんてやっちまう訳がねえ。あの時はやりたくてしょうがなかったからやったつもりだったけど、絶対にミツオがそうさせたに違いねえ。

「それにラジオ体操してた時の二人の格好だって、誰にも強制された訳でもないでしょ? オフクロたちがいない間に、楽しんでたんだから、別にいいじゃん。」

 それは、・・・はっきり言って反論出来ねえ。俺がブリーフ一丁だったのも、恵理が裸に俺のTシャツ一枚だったのも、二人で夜遅くまでハリキッてたからだ。それでもあのラジオの曲にのって、二人して真顔で体操してたなんて、どうにもありえねえ。俺たちが寝惚けてたんじゃなくて、絶対にミツオが何かしょうもない暗示をかけたに違いないんだ。その証拠に、朝の6時にしっかりミツオは起きてて、ガラス越しに俺たちのみっともない姿をビデオカメラで写してたじゃねえか。

「今朝のことはもういいよ。それよりお前、何度も言うけど、恵理が今日泊まりに来てたこと、オフクロたちにチクッたら、・・・わかってんだろうな?」

「わかってるってば、俺は尊敬するお兄様と、可愛い恵理さんの仲を応援してるんだからさ。俺だってもう大人だぜ?」

 調子のいいミツオがいつものおどけた感じで、ポケットから俺がやったジッポーを取り出して大人ぶる。ミツオが俺の禁煙に協力してくれたんで、ちょっと前にやったジッポーだ。

「おい、ガキが調子にのって火遊びなんかしてると・・・」

 シュボッ!

 乾いた金属音と、ガスに火がつく音がした気がした。なのにライターを見ると火はついてなくて、それどころかジッポーの蓋も閉じていた。

「・・・火遊びしねえなら、いいけど。」

 俺が拍子抜けして皿を見て、俺の目が点になった。今から食べようとしてた、ベーコンエッグ・・・。卵が二つ入ってたはずのベーコンエッグが、きれいになくなってる。一瞬目を離した隙に、どこ行きやがったんだ。

「モグモグ、兄貴、どうかしたの? ベーコンエッグおいしかった?」

 ミツオが口一杯に何かを頬張りながら、俺に聞いてくるんだが、俺は弟の相手をしてる余裕なんかない。皿を持ち上げて下を見たり、テーブルの下を覗き込んだりして、さっきソースまでかけたはずのベーコンエッグを必死で探した。・・・ない。食ってもいないのに、俺のベーコンエッグが消えちまった。

「どう? おいしい? ミツオ君の口にもあうかな?」

 恵理が湯気のたつ弁当箱を持って、キッチンから出てきた。エプロン姿が、そのまま抱きしめたくなるぐらい可愛い、俺の自慢の彼女だ。俺の系列の新車ディーラーでは評判の、綺麗で明るくて性格のいい看板娘だ。

「お? ・・・おう。旨かった・・・よ。ミツオも旨かったよな?」

「うん。さすがは恵理さん。僕なんか一皿食べておなかが膨れた感じだよ。二皿食べたかと思うぐらい、ボリュームたっぷりだったよ。兄さんへの愛情たっぷりだったからかな?」

「モー、やだ、ミツオ君。アハハ。」

 ミツオと恵理がふざけてる間も、俺はキョロキョロと周りの床を探す。恵理の手作り料理を、まさか一口も食べずに失くしちまったとは言えないだろ。

「恵理さん、これ兄貴からもらったジッポー。ほら格好いいでしょ?」

 カチン、シュボッ!

 ミツオがまたライターで遊んでやがっ・・・、やがらない。ミツオを見ると、ちゃんとライターは蓋が閉じている。今は本当に火がついた音がしたと思ったんだが、ミツオが右手でサラダをつつきながら、左手で持ってるジッポーは、銀色の蓋がしっかり閉じていて、火なんかついていなかった。首をかしげながら恵理の方を見ると、なんとおかしいのはミツオじゃなくて、恵理の方だった。テーブルに中腰になって弁当の準備をしてた恵理の鼻の穴に両方とも、緑のアスパラガスが突き刺さってるじゃないか。

「おい、恵理お前、鼻、鼻!」

「え・・・あれ? キャッ・・・。いつの間に・・。」

 恵理が赤くなって鼻を両手で覆い、モゾモゾとアスパラガスを抜き出した。

「食べ物でふざけるなよ、お前。」

「ゴメン。わざとじゃないんだけど、気がついたら入ってて・・・。ま、いいや。もう取れたよ。いつもの可愛い恵理になってる?」

 照れ隠しのつもりか、恵理が両手を腰に当てて首をちょっとかしげて、ブリッコみたいなポーズでごまかそうとする。その瞬間またライターで火がついたような音がした。・・・俺がミツオを振り返っても、やっぱり火はついていない。妙な顔をしながら恵理を見ると、恵理はさっきのポーズのままで、精一杯可愛い顔をしてたけれど、なぜか口の周りにドロボー髭みたいにケチャップがついてた。一体いつの間に塗りたくったんだ、コイツは。

「お、おい。可愛いも何も、顔拭けよ、恵理。何やってんの?」

「えー、もう。わかんない。なんでー?」

 自分の口周りにベッタリ付いたケチャップに気がついた恵理は、一転して情けない顔をする。ミツオがケラケラ笑いながらティッシュを手渡した。妙に用意のいい野郎だ。そして恵理が俺たちに背を向けて、ケチャップを拭き取ってた間に・・・

 カチン、シュボッ

 また火をつける音がした。俺は今度はミツオを振り返らなかった。振り返る暇もなく、恵理に目が釘付けになっていたんだ。何と火の音がした瞬間に恵理の後姿から、、ジーンズ地のスカートが消え去ったんだ。いや、スカートは恵理の足下に落ちている。だけど、それが瞬間移動したみたいに見えた。なんなんだ、こりゃ?

 恵理が黄色い声を上げて、スカートをズリ上げながらキッチンに逃げ込もうとした瞬間、またジッポーの音がして、恵理が床に転んじまった。今度はパンツが足首まで瞬間移動して、駆け出そうとした恵理の足を取ったみたいだ。

「やだやだ、何これー?」

 恵理が泣きそうな声を上げてジタバタしてるんで、俺も駆け寄って助けてやる。でも恵理がパンツをはきなおそうとした時、引っかかるモノがあった。パニクった恵理がまた情けない声を出す。俺も目玉が飛び出しそうになっちまった。恵理のアソコから、真っ直ぐに青い長ネギが生えてた。いや、一瞬の出来事だったからそう見えただけで、目にも止まらないスピードでアソコに長ネギが突っ込まれてたんだ。

「ミツオ、てめえあっち向いてろ! お、おい恵理。何だか知らないけど、食べ物を粗末にするなよ。あと、朝っぱらからこんなもの使って・・・、この後仕事だろ?」

 俺はパンツが足首に絡まってヨチヨチ歩きでキッチンに逃げ込む恵理を手助けしながら、狼狽したあまり恵理を叱りつけちまった。

「ゴメンなさい。でも信じてよう。私じゃないんだってばー。」

 恵理が足を開いて、かがみこんで長ネギを抜き取る。でも次の瞬間、長ネギを握っていたはずの恵理の手は、何も掴んでいない、グーの手になっていた。消え去ったネギは、やっぱり恵理のアソコに堂々と突き立ってる。恵理がもう一度長ネギを抜き取っても、一瞬にしてネギは恵理の手から消えて、アソコに収まっちまってる。恵理は空しくグーの形になっている右手を見ながら、ベソをかいてる。

「やだー。抜いても抜いても、入ってるー。タカオ助けてー。」

 恵理の100万ドルの美貌がグシャグシャになってる。ここは頼りがいのある彼氏の出番だ。恵理をキッチンの床に寝させて、足をしっかり開かせて、俺は長ネギを思いっきり抜き取ってやった。ここに入っていいのは俺のモノだけだ! 俺は必死で、抜いたネギを握り締める。このネギは油断すると一瞬で恵理のアソコに戻りやがる。絶対逃がさねえ。

「お、大丈夫だ。ネギは俺がしっかり掴んでふんじばったから、もう大丈夫だ。恵理、愛してるぞ!」

「はぁ〜ん。」

 俺が興奮して叫んでも、恵理は裏返った声でため息をついてる。見ると、恵理のカエルみたいに開いた足の間には、今度はキュウリが入っていた。

「ち、ちくしょうっ。いつの間に。この野郎―。」

 俺がキュウリを抜くと、突然そこにはニンジンが、ニンジンを抜くと次の瞬間には小ぶりのナスが入ってる。次々と抜いてるうちに、摩擦に耐えられずに恵理はキッチンの床でエクスタシーに達しちまった。俺という彼氏がありながら、愛しの恵理は野菜でイッちまったんだ。この怒りをどこに向ければいいって言うんだ。

「・・・ツオ君・・」

 エクスタシーの余韻でヒクヒク痙攣しながら、恵理が何かを呟いてる。

「何? どうかしたのか?」

「はぁー、もう・・・。ミツオ君の仕業だよ。こんなの、ありえないよ。絶対ミツオ君がまた催眠術でヘンなことしたんだよ。タカオ〜。」

 恵理が眉をハの字にして口を歪ませながら、真っ赤になって怒ってる。俺も、言われてようやく気がついた。なんで今まで思いつかなかったのか不思議だけど、さっきからジッポーがカチャカチャいうたびに、一瞬でものが消えたり現れたり移動してたり・・。こんなおかしなこと、ミツオの催眠術のせいに違いない。俺たちはまた遊ばれちまってるんだ。怒りで肩までブルブル震えてきた。ミツオの野郎、今日という今日は許さねえ。

「オイ、ミツオ。てめえわかってんだぞ。なんかまたしょうもない暗示かけて、俺たちで遊んでるんだろ。いっぺん思い知らせてやるからこっち来いよ。」

 俺は本気の顔をして、キッチンからミツオの席まで歩いていく。ミツオがジッポーに火をつける仕種をすると、やつは一瞬で消え去った。

「なあに?」

「うわっ。いつの間に。」

 ミツオはテーブルの向こう側に座っていたはずなのに、近くでした声に振り返ると、俺の真横にミツオがいた。

「テメエ、ふざけるのもいい加減にしろ!」

「兄貴、お説教も鉄拳制裁もいいけど、そろそろ出かけないと、遅刻するんじゃない?」

 ミツオが指差す時計を見ると、信じられないことに、俺が食卓についてから30分以上が経っていた。5分ぐらいしか経っていないはずなのに、気がついたらもうこんな時間・・・て、恵理を職場まで送ってから俺の店まで行くこと考えると、遅刻寸前じゃねえか。まずい!

「恵理。もう7時半過ぎてるよ。早く服着て準備しろよ。」

「えぇ? なんでもうこんな時間? やだ〜。林さんに怒られちゃうよ。」

 俺が慌てて外に出て車のエンジンをかけてると、恵理もエプロンを脱いで俺の弁当持って、上着を羽織ながら家を飛び出してきた。急いでアクセルを踏むと、ミラー越しに余裕のミツオがニコニコしながら手を振ってた。くそー。また今朝も、ミツオに遊ばれちまったみたいだ。



高校生 柿本光夫


 兄貴のアウディが大慌てで走ってく。まあこの時間ならなんとか間に合うでしょ。兄貴も恵理さんも、オヤジやオフクロがいないとなると、ここぞとばかりに夜通し楽しんじゃってるんだから、朝ぐらいは可愛い弟の楽しみにしつきあってくれたっていいよね? ベランダで恥ずかしい格好晒しながら、大真面目でラジオ体操したり、野菜を使ったプレイに目覚めてみたり。今日はなんかヘルシー志向の遊びになったな。夜帰ってきたら、この調子でエアロビクスビデオでも撮影させてもらおっかな? もちろん所々穴の開いたレオタード着て、きわどいポーズを連続させて、二人仲良く、笑顔で跳ね回ってもらわないとねえ・・・。俺が朝からご機嫌で玄関のドアを開けると、家の電話が鳴っていることに気がついた。兄貴には、みんな携帯にかけるはずだから、オフクロ宛の電話かな?

「はい、もしもし柿本です。母だったら今旅行に行ってまして・・・。」

「もしもし、ミツオ君? 今日ってお昼前ぐらいから学校抜け出せる?」

「おぉっ、ひょっとしてタクマ? 朝からどうしたのよ。まー他ならない師匠のためだったら、午後の授業サボるぐらい余裕だけど、なんかあんの?」

「ミツオ君の前の学校。案内してほしくてね。」

「・・・。それってひょっとして、先週話してたこと、実行すんの? ・・・ん。わかった。11時ぐらいに待ち合わせしよっか。」

 ベタな表現で悪いけど、胸がドキドキするね。いや、催眠術をタクマに教えてもらって以来、ドキドキするようなことは一杯させてもらってきたけど・・・。かなり違うタイプのドキドキだ。どうもタクマは本気みたい。何考えてるのか、もともとわかりにくいガキんちょだけど、今日の電話の声はいつもともちょっと違ってた。俺が呼ばれたのは、必要とされてるからかな? それとも見せしめか何かのつもりかな? どっちにしろ、逃げるわけにはいかないな。



女子高生 藤堂陽子


「うぉっ、すげえ。浩美先生、ヤルじゃん。」

 リョウっていったかな。茶髪のヤンキーが、音楽の筒井浩美の舌使いに思わず低い声を出す。四つん這いになってリョウの黒ずんだチンポを嬉しそうにシャブッってる浩美は、バックからトオルに犯されて、体を揺さぶってる。前から後ろから、ヤンキーどもに責め立ててもらって、浩美ちゃんは幸せだね。

「おいヨーコ。筒井って、婚約者いるとか言ってなかった? なんか大学時代からのツレだとか聞いたことあるけど」

「こないだ私が先生の恋愛相談に乗ってあげたんだけどね、なぜかそこで急に、本当の自分に目覚めたとか言い出してさ。なんか、婚約は解消するつもりみたい。こんな綺麗な顔してるし、それに意外といい体してるでしょ。きっと一人の男じゃ我慢出来なくなったんじゃない? ねえ浩美。」

 浩美先生はパンパンと後ろから突き立てられて、前からはリョウのモノを喉まで苦しそうに入れながらも、潤みきった目で頷いてみせる。初めて催眠に落したときは、彼氏を裏切るぐらいなら死ぬほうがマシ、とか言ってた貞淑なイイ子ちゃんも、「大勢の知らない男たちに犯されることが浩美の最大の喜びなんだ」って刷り込み続けたら、十日でこんなに変わっちゃったね。あんだけキッパリ言い切っておいて、ホント馬鹿みたい。婚約話が広まったときには、みんなにあれだけ祝福されたり羨ましがられたり嫉妬されたりしていたのに。今じゃ夢中で知らない男たちの精液を貪って、中出しされて、ただの綺麗なお便所みたいな存在になっちゃって、・・・本当に脆いよね。つまんない。こんなんだったら、まだサキの方が抵抗したり、無駄な説教したり、泣き喚いたりして、堕ちる前に踏ん張ってたじゃん。大体こんな簡単に便器みたいな人間になっちゃうヤツが、偉そうに私たちにモノを教えようとかしてたわけ? ホント馬鹿みたい。

 私が音楽準備室から出て行こうとすると、トオルが呼び止めた。

「おい、ヨーコ。こっから筒井を、前の森下みたいに色んな体位でみんなで犯すんだろ? お前どこ行くんだよ。」

「興味なーい。アンタらで好きにやっていいよ。適当にバレないように後始末しといて。」

 男たちは文句の一つもあるのかと思ったら、浩美先生を輪姦すことで頭が一杯みたいで、部屋から出ていく私に何も言わない。私は髪を撫でつけながら、廊下を早足で歩いていく。ホントみんな馬鹿みたい。偉そうな顔してても、粋がってても、澄ましてても、簡単にヤワい玩具になっちゃう。身体を支配してやって、さんざん恥をかかしてやって、ボロボロに弱った理性の皮を引ん剥いてやって、容赦なくエゲツない妄想をぶち込んでやるだけ。それだけでみんな私の奴隷になる。ミジメなペットになる。これまで私みたいな落ちこぼれを、ゴミみたいな目で見てた奴らが、自分から私よりも低いところに堕ちていく。笑っちゃうぐらい簡単すぎ。

 私は予定を思い出して、応接室に向かう。そうだった。今日は学園祭の準備の続きがあったじゃない。サキには1年の中からもちょうどよさそうなタマをみつくろって来るように言ってある。カヨにもバレー部の中から面白そうなのを誘ってくるように言ってある。応接室でさらに何人か術をかけて調教を始めたら、学園祭には十分間に合うはずよ。

 だんだん自分の気分がよくなっていくのが実感できる。階段を下りて、応接室へ。最近の私にとって、学園祭の計画を立てている時が一番楽しい時かもしれない。学園祭を期に、この学校は事実上崩壊するの。学級崩壊じゃなくて学校崩壊。それぐらいの出し物を先生や生徒たちには準備してもらわないといけない。出店として売春宿を作って他校の生徒を相手に、うちの高校ご自慢の女子バレー部の子たちに乱交パーティーをやってもらう。生徒指導の先生が先頭になって、人気のある女の子たちに街中までストリーキングをやって、全裸で走り回ってもらう。演劇って名目で舞台上で10Pぐらいやらせて、校長と教頭も参加させれば、翌日にはこの学校、なくなったっておかしくないよね? 笑える。みんなが、出来れば私を追い出してまで守ろうとしてた、楽しい学校。誇り高いみんなの学校。学園祭の次の日からは一生、在籍したことも隠しておきたいような、みんなの恥部にしてあげるからね。

 私が自分でもわかるぐらい、引きつった笑みを浮かべながら応接室の扉を開けると、意外にも、そこには来てるはずの新たな洗脳対象たちが、一人もいなかった。代わりにいたのは、肘掛け椅子で眠ってるサキ先生と、何人かの男子たち・・・。4人のうちの3人がまだ子供だった。

「タクマ? どうしたの? どうしてここにいるの?」

 タクマは前に会った時みたいに、気の弱そうな笑みを浮かべるけれど、何も言わない。タクマの隣にいた子供、たしかツトムとか言ってた子が口を開いた。

「もうそろそろ復讐は終わったんじゃないかと思ってさ。」

「復讐? まだよ、これからだってば。それより何でアンタたちここに・・・、え? ミツオじゃない。アンタ転校したんじゃなかったの? 何なのこれ? みんなでアタシをおちょくってるんだったら、怒るよ。」

「復讐のために催眠を覚えたいって言ってたよね? いつもタバコ吸ったり悪いことやってたのは本当だけど、一回だけ本当に自分は吸ってないのに、自分のせいにされてみんなに悪者にされたことがあるって。その時に自分の言うことを一切聞いてくれずに自分を悪者と決めつけた先生やクラスのイイ子ちゃんたちに仕返しをして、恥かかせられたらそれだけでいいって、言ってたよね?」

 隣にいるツトムだけに話をさせて、タクマは全然私と会話をしようとしてくれないのが腹が立つ。

「タクマ! ちゃんとアタシと喋ってよ。何でここにいるの? 何がしたいわけ?」

 私は近くの椅子を蹴って、長机を叩いて怒鳴った。みんなが私を見る目がムカつく。私の縄張りに来ているのに、まるで私をつるし上げようとしているような空気がムカつく。ホントみんな馬鹿みたいだよ。

「昼休みは応接室で今日も術をかける。学園祭の準備を進めるために、今日はもう6人ぐらい落して人格改造・・・、って書いてあったから、ここだってわかったんだよ。ヨーコが知らせてくれたんじゃない。」

 タクマは肘掛け椅子に座ったまま、長机の上に、大学ノートを出した。私が催眠術で人を堕としたり、弄んだりする時、必ずネチネチと事前に計画を練るための計画書だ。いつも手放さずに持ってるはずなのに、何でタクマが?

「あれ、何でこれを僕が持ってるか不思議? これまでヨーコは、催眠を使う時に必ず計画や結果や感想を書きとめてる自分のことは、全然不思議に思わなかった? ヨーコって、そんなに計画的でマメな性格だった?」

 さっきまで黙っていたタクマが一度喋り始めると、この子の話は誰も止められないという空気がここにはある。みんなタクマの催眠術の凄さを一番わかっている奴らだから? それより、私・・そう言えばなんでいつも計画書なんか作って、こまめに結果とか書きとめてたんだっけ?

「やっぱり気づかなかった? さっきユウタとかミツオ君とかに言った時も、ビックリしてたよ。ユウタが日記つけたり、ミツオ君が出来るだけ色々ビデオに収めようとしてたのも、可能な限り自分たちの施術と結果を記録に残して、無意識のうちに僕に知らせるようにって暗示が効いてたからなんだ。ヨーコも気づいてなかったみたいだけど、いつも週に1回はこのノート、マサトを通じて僕に見せてくれてたよ。」

 タクマが言うと、横の男の子は恥ずかしそうに顔を赤くして、ミツオも気まずそうに鼻をポリポリと掻いた。私は指先がブルブル震えるぐらいムカついてる。同時にヤバイって気分にもなってる。私が今までやってきたこと、全部このガキは知ってるんだ。

「それがどうしたのよ。別にアンタに知られたって都合の悪いことしてないわ。私はタクマの弟子として、存分に催眠術を使いこなしてるじゃないの。この学校のムカつくヤツ、片っ端から堕としてやってるのよ。みんな私の玩具、私の奴隷。私のモノってことは、先生のタクマのモノでもあるのよ。ねえ、タクマの好きにしてもいいのよ。ほら、そこのサキだってそう。アンタたち子供はビックリするぐらいの、エッチなお姉さんよ。」

 私は負けてない。弱味を握られてキレたりしたら負ける。一回開き直っておいて、今度は急にエサを出しつつ、こっちのペースに引き釣り込んでやる。むこうもタクマ以外にも催眠術師が何人かいるみたいだけど、喧嘩慣れしているのは私のはず。

「弟子? ・・・アハハハ。そっか、ヨーコはまだ僕の弟子の気分でいたんだね。そっか。」

 タクマは椅子から立ち上がって、ゆっくりと私の方に近づいてきた。他の3人も用心深く、別方向から私に近づいてくる。

「・・・違うよヨーコ。君もユウタもミツオ君も、僕の弟子だったのは本当に最初のうちだけ。すぐに僕から教わるだけじゃなくて、自分たちで勉強や実験を始めたでしょ? 教わっていたのは、僕の方だよ。こんな暗示を思いついた。こんな風にこんな人にかけてみたら、こんな反応をした。みんながそれぞれ催眠術を試して、その様子を僕に教えてくれるおかげで、僕は一人きりじゃ経験しきれない、色んな勉強が出来るんだ。ヨーコのこのノートも、ユウタの日記もミツオ君のビデオライブラリーも、みんな僕の教科書なんだ。みんなが僕の先生。ここが催眠術師としての僕を育ててくれる学校、僕の学校なんだよ。」

 タクマってこんなに迫力のあるヤツだったっけ? 顔は微笑んだままなのに、一歩一歩近づいてくるこの幼い子供に、私は明らかに押され始めていた。何の暗示もなしに、足が勝手に後ずさってしまう。

「同じ台詞で同じ暗示をかけたとしても、声質が違ったり、トーンが違ったり、相手との関係が違うと、反応が違ったりする。小学生の僕が一人で勉強するよりも、みんなの経験を教科書にしながら勉強を進めた方が、よっぽど色んなことがわかって、役に立つよ。それにみんな凄いんだ。ユウタは最初、お母さんにしか催眠かけないだろうと思ってたら、違う女の人にもかけ始めて・・・、こないだなんて外でうっかり後催眠暗示を発動させちゃったのに、パニック状態のその人をとっさに深い催眠状態に落して、その場をなんとか乗り切ったんだってさ。僕だったら同じこと出来たかどうか・・・。」

 一番小柄で弱そうな子供が、勇気をふりしぼるみたいに唇を噛み締めながら、一歩私に近づく。

「ミツオ君も、最初はショー催眠みたいなことばっかりやってたはずなのに、油断してると、セラピーみたいなことまでやってるんだよ。人のトラウマを癒したり、お兄ちゃんの禁煙手伝ったり。僕一人で全部体験しようとしても、ツテがなかったり、手が足りなかったり、リスクがあったり、なかなか試せないことを、みんなが術師として成長することで僕にも追体験させてくれるんだ。」

 タクマが本当に嬉しそうに、無邪気に言う。ツトムが私の背後に、一歩近づいた音がする。ヤバイ。囲みかけられる。一発逆転で切り抜けるチャンスを伺うしかない。

「それに比べると、ちょっとこの教科書は進みが遅いなあ。肉体支配でしょ。行動支配。人格変換。洗脳。人格変換。洗脳、洗脳。こればっかり。暗示の強さも方向性も一緒。拡大しているのは催眠術が外に漏れて問題を起こすリスクだけ。・・・ねえ。ヨーコって人に興味を持ってる? 違うタイプの被術者には違うタイプの暗示とかかけたいとか思ったことない? ユウタは、僕の先生としてのヨーコをどう思う?」

 みんなの目が、小柄なガキを見る。ユウタと呼ばれる子供は、視線を感じて顔を赤くして俯いた。そのまま黙りこくるのかと思ったら、意外にも私を見つめて言い放った。

「ぼ・・僕は、あんまりわからないけど、ヨーコさんは悪いと思う。その・・催眠術って、かかっちゃった人はみんな、本当に疑いなく、かけた人の言うことを聞いてくれて、信じてくれて、頼ってくれるのに、そういう風にかかってる人のこと、ぜんっぜん大事に思えないのは、なんか変だと思う。・・・そりゃ僕も、変なことしたり、その、させたりするけど・・・でもなんか、何かヨーコさんは違うと思う。」

「まっ、良い悪いは俺も人のこと言えないっすけど、遊ぶんだったら、遊び場から出ないように遊ばないとね。ヨーコの遊びみたいにところ構わずヤリ散らかされると、俺らも迷惑するわなあ。あとさぁ、ヨーコ、本当に楽しんで遊んでる? なんか聞いててこっちが辛くなるような施術が多いみたいだけど、これってヨーコの無意識のタクマへのSOSか何か?」

 後ろからミツオの声がする。さっきよりも近いところからの声。もう一歩で手が届く? ツトムは無言でタクマの前に出て私に近づいてくる。私を囲む輪が縮まってくる。そろそろ私の反撃のラストチャンスかもしれない。

「まあ、僕にとってはヨーコの良い悪いとかリスクとかSOSとかよりも、ヨーコからあんまり学ぶことが無くなっちゃったことが生徒として・・・、ね。そろそろ・・」

「うるさいなーぁぁ! みんなして私のことわかってるみたいな言い方しないでよーーぉぉっ!」

 私は頭を抱えて絶叫して、膝を突いて泣き崩れた。

「何よーォォォォッッ! みんな一緒じゃない。結局私は落ちこぼれだって言いたいんでしょ。性格が悪くて人間づきあいが出来ないって言いたいんでしょ。そんなことアンタたちに言われなくったって、そこの森下とか梢とか、親とか、さんっざん言われてるわよぉぉっ。」

 思いっきり泣き喚く。ちょっとツトムやミツオが躊躇するのが、気配でわかる。もうちょっと、もうちょっとで誰かが引っかかるはず。

「何でそんなわかったような口を聞くのよ。私のことをさもわかったような口で諭そうとしてないで、ちゃんと言えばいいじゃない。私みたいなクズは死ねばいいって、言えばいいじゃない。そんなのわかってたから、そういう奴らに復讐だって言ってるのに、アンタたちまでなんで同じ扱いをしようとするの? 結局誰も、誰も私のことわかんないくせに、何でわかったような口きくの?」

 私が頭を床に打ちつけながら泣き叫んでいると、誰かが私の肩に手を置く。顔を上げると、ツトムだった。

「もう止めろよ。こんなの・・」

 私はその瞬間を逃さない。ツトムの手を掴んで起き上がる。ぶつかる寸前ぐらいまで顔を近づけてやる。チャンスはほんの一瞬で逃げていくけど、その一瞬さえ見逃さなければ、必ず負けないの。みんなよく覚えておきなさいね。

「お、お前・・」

「そのまま! この水晶玉からアンタの目は離れない。体もピクリとも動かない。アンタの心はこの水晶玉に吸い込まれるの。ほらどんどん吸い込まれていく、心が水晶に吸い込まれた後のツトムの体は、私の言う通りに動く。私の言う通りに戦い、暴れるの。」

 私が跪いてうつぶせになりながら、ヒステリックに泣き叫ぶ演技をしながら、卓球の球よりちょっと大きいぐらいの水晶玉を取り出していたことに最初に気がついたのは、私と接触していたツトム? でもそのツトムの目は今この水晶に釘付け。このツトムを落せば、勝機が見える。ユウタってガキは最初から腰が引けてる臆病者。ミツオは私が怖くて転校したんじゃないの? タクマの技術は私より優れてると思うけど、私には今ここでタクマを負かす必要はないの。ただここから逃げ切りさえすれば、私には失くすものはない。タクマの家も友人も知ってる私がここから逃げ切って所在不明になれば、私は最終的に彼に勝つ自信がある。一発逆転のチャンスは掴んだ。みんなが焦ってる間にツトムは私のロボットになって、彼らを相手に全力で大暴れするのよ。

『藤堂陽子先生』



 え?


 私は全く音のしない、外の世界からの一切の音が遮断された部屋で、その声を聞いたように感じた。まだ幼さの残る、男の子の高い声。タクマの声。

『藤堂陽子先生。僕、タクマは、あなたを卒業します。』

 タクマの言葉がエコーになって響き渡った時、私の体は硬直していた。ツトムの心を鷲? みにしていたはずの水晶玉が、私の指先からゆっくりと、とてもゆっくりとこぼれ落ちていく。全てがスローモーションになったみたいに感じる。何これ?

 パキンッ!

 落した水晶玉にひびが入った音がする。視線を下に落せないので、水晶玉を目で確認できないけど、多分割れちゃった。・・・え? 応接室って、分厚い絨毯ひいてなかった? 今割れたのって、水晶玉? わからない。考えがまとまらない。ゆっくりと私の体が、固まったまま、横に倒れていく。スローモーションみたいにゆっくり倒れていく。

(タ・・・クマ)

 声にならない。私は負けるの? まだ負けたくない。水晶玉がなくたって、ペンダントがなくたって、私は催眠術をかけられる。タクマ、私の目を見なさい。私の瞳から目が離せない・・・・タクマ、私の目を見てよ。誰か私の目を見てよ・・・誰か私の声を聞いてよ・・・。何よこれ・・・。ホント・・・、ホント馬鹿みたい。



友人 川口ツトム


「ふーん、そっか・・・。それで、姉貴は帰ってくんの?」

 マサトは、僕がおごったサイダーを飲み干しても、まだ名残惜しいみたいに空き缶を両手でペコペコと凹ましながら、僕の話を聞いていましたが。ちょっとしてからそんな質問をしてきました。

「ん・・・。何かユウタとかけっこう怒っててさ。ヨーコが周りの人にした酷いこと、一通りヨーコにも体験させて、懲らしめよう、とか言ってたなあ。タクマがその通りにしたら、ちょっと帰ってくるまでに時間がかかるかもな。」

「ユウタが。ふーん。あのユウタがそんなにハッキリ言うのとか、なんかすごい意外。そっか・・・。でもしょうがないよな。姉貴は相当陰湿なことしてたみたいだからな。タクマが、ヨーコのやらかしたこと、色々フォローしてくれるって聞いて、安心したよ。・・でも元はといえば、俺が姉貴にバラしたせいなんだよな。あーぁ、俺って最悪。」

 公園の鉄棒の上に腰掛けて、足をブラブラさせながら、僕も隣のマサトに何て言おうか考えました。いつもの能天気でいい加減で、いじめっ子タイプのマサトが、妙に寂しそうに笑いながら、さっきからずっと空き缶を凹まして遊んでいます。

「まあ何て言うか、しょうがないよ。そもそもユウタにしたってミツオ君って人にしたって、なんだかんだと悪戯はしてるはずだし、俺たちだってタクマの催眠術見て、色々悪ノリしてたじゃん。別に誰かを罰しようとか言えた立場じゃないんだよ。ただ・・・ヨーコの場合、もうちょっとでみんなのことがバレるようなことになるかもしれないぐらいの、大ごとを起こそうとしてたから、止めたっていうか・・・。多分そういうことだと思うんだけど。」

 マサトは僕の隣で鉄棒に腰掛けながら、まだ手で空き缶を鳴らしています。それでも僕の話はちゃんと聞いていて、マサトなりに色々と考えてるみたいです。

「それでさ、俺、頭ワリィから、おんなじことまた聞くけどさ、姉貴って帰ってくんのかな? つまりその・・・なんて言うか、俺の姉貴のままで、ちゃんと帰ってくんのかな? ヒデェ姉貴だけど、・・・一応俺の姉貴だからさ。」

 僕の目を見ないで、ずっと空き缶を見たまま、マサトが言います。ひょっとして、マサトはちょっと泣いてるんでしょうか。マサトは馬鹿な奴だとずっと思ってたけど、結構するどい質問でした。タクマは、ヨーコをヨーコのままでは返さないかもしれない。何となくそれは、僕も思っていたことでした。少なくとも、ヨーコから学ぶことがもうなくなった今、ヨーコがタクマのことや催眠術のことを知っているっていうのは、タクマが夢中になってる催眠術研究にとっては邪魔なことなんじゃないかと、僕も感じていました。でもそれを、マサトに何て伝えればいいのかな?

「あのさ・・・俺もあんまり頭のいい方じゃないから、うまいこと言えないけどさ・・・ま、お前よりはいい方だと思うけど・・・あのさ、もしヨーコが、ヨーコじゃないみたいになって帰ってきたら、マサトはどうすんの?」

 ペコペコペコ・・・ペコペコ。

 マサトが黙ったまま、空き缶を凹ませています。しばらく間があいて、マサトがこっちを向きました。

「どうって・・・どうもしねえよ。それでも一応、俺の姉貴だからさ。」

「・・・・・・。やっぱお前、頭ワリィよ。またおんなじこと言ってんじゃん。」

「うっせー!」

 マサトが急に背筋を伸ばして、いつもみたいに馬鹿デカイ声を張り上げて、鉄棒から飛び降ります。僕も笑いながら鉄棒から飛び降りました。マサトが空き缶を蹴ってドリブルを始めたから、僕はディフェンスになって、追い回します。こいつは色々抜けてるところがあるけれど、やっぱり悪い奴じゃないんで、ヨーコを任せてもきっと大丈夫だと思いました。今日はタクマもユウタもちょっと人が変わったみたいで、怖いことが色々ありました。でもマサトに会ったら、こいつはいつもの明るい馬鹿だったので、やっと僕は安心したのでした。

 
 


 

 

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