見習い退魔師ユカリ


 

 



1.母の失踪


「あー、しんどー」
「長距離ヤバイわ」
「ホント、冬になったら、体育走ってばかりなのは勘弁してほしいわ」
「そだねー」

 私達の高校では、冬の体育が学校の周りを走る長距離走と決まっています。走り終わった子達は、道路にへたり込んで文句を言ってましたが、厳しい修行で体を鍛えてる私には楽なものでした。でも目立っちゃうので、疲れたフリをして同意します。女子は皆グッタリしてますが、残念ながらブルマじゃなくて色気もくそもないジャージズボン。くたびれ切ってウンコ座りになり、ぶーたれてる様子はとても花のジョシコーセーとは言い難く、百年の恋も冷めてしまいそうでした。

 うちの学校のセーラー服はカワイイと評判で、なかなか入る事の出来ない進学校なので、近隣では憧れの的になっているようです。私大伴ユカリもこの学校に通わせてもらうのが誇らしく、親に感謝していますが、素性を隠すため極力目立たぬようにしているので、校則を守ってマジメそのもの。生徒手帳に載ってる制服の着こなしモデルみたいで、没個性もいいところでしたが、人々の暮らしを目に見えぬ魔物から守る退魔師見習いである事は誰にも言えません。学校の目が届かぬ校外ではほとんどの子がスカートを短くしてますが、私に限ってはあり得ない事でした。中には黒いものもはかず、下着を見られても平気な子がいるようですが、嘆かわしい事です。人知れず命を懸けて魔物退治に励まねばならない退魔師を目指す私はしかし、そんな発情したメスみたいにエッチな子でも守ってあげるのが使命なんです。

「大伴、家から電話が掛かってるそうだ。すぐ事務室に行って来なさい」

 体育の若い先生に連絡を受けたのは、そんな時でした。すぐに返事をして、事務室に向かいましたが、彼の好色な視線がこんな色気のない体操着の私にも注がれてるのがわかり、正直うとましく感じました。これは自意識過剰なんかじゃありません。幼い頃から退魔師になるための訓練を受けている私は、他人の様子を観察するのに長けてしまい、普通の人より余計なものまで感じてしまうんです。男性が私の容姿に魅かれ、好色な 視線を送って来る事も高校二年生の今ではしょっちゅうでした。娘の私でも憧れる美形の母親譲りでしょう。私のルックスは困った事にとても男性にとって魅力的らしいんです。三つ編みお下げと言う小学生から続けてる地味な黒髪も意外と魅かれる男性が多いみたいですし、何と言っても胸とお尻が人並み以上に大きく育ってしまったのが悩みのタネで、スポーツブラできつく押さえ付けてなければ、ユサユサ揺れちゃってる事でしょう。こんな罪作りな体に早く慣れないといけません。

「大伴です。電話が掛かってると聞きましたが」
「お家からよ。おじいさんかしら?」

 家からの電話と聞き不穏な胸騒ぎを覚えながら、早速訪れた事務室。色気がないと言いましたが、体操着を着替える間を惜しんだ事を一寸後悔していました。男性の事務員がニヤニヤと私に注目してるのがわかっちゃうんです。全然露出してないのに、体にフィットした体操着と言うだけで彼らは興奮するみたいで、全く困ったものだと思いますが、電話口に出た祖父のいつになく固い口調に少し狼狽してしまいました。

「もしもし、ユカリか。困った事が起きた。すぐ帰りなさい」
「え? 困った事って?」
「詳しい事は会ってから話す」

 学校に電話を掛けてるのですから当然なのですが、祖父に「ユカリ」と呼び捨てにされただけで、ギクッとしました。母と三人で暮らすわが家で、とても優しいおじいちゃんはいつもなら「ユカリちゃん」と呼んでくれるのです。その後の命令口調もあってただ事じゃないとすぐに感じた私は、急用で早退するから担任の先生に伝えてくれるようクラスメイトに頼むと、大急ぎで制服に着替えて帰宅しました。誰にも明かせない事情だろうと思うので、仕方なかったと思います。

 私は自転車通学で家まで30分程度掛かります。自宅の広い庭に自転車を駐めて降りると、おじいちゃんは難しそうな顔をして腕組みし、私の帰りを待っていたようです。

「おじいちゃん、何かあったの? ……」
「香澄さんがいなくなったんじゃ」

 おじいちゃんが外出から帰って来ると母がおらず、携帯を掛けても繋がらないんだそうです。話をしているとドーベルマンのクロが私を見つけてじゃれついて来たので、ヨシヨシと頭を撫でてやりました。彼は放し飼いにしてるのですが、優秀な番犬です。わが家は日本家屋ですが、厳重な機械警備も施されてセキュリティは万全。もっとも一番警戒せねばならない魔物に対しては、違う対策が必要ですが、それも完璧な筈です。

「これまでここの結界を破った魔物はおらんのじゃが」。

 仇敵である魔物の侵入を防ぐため、わが家には強力な結界が張られています。目に見えない魔物には効果覿面で、私も幼い頃広い庭で安心して、雑魚の魔物を討伐する魔物退治ごっこで、ママやおじいちゃんに遊んでもらったものです。外に出る時は護符などで身を護った上、スキを見せないよう細心の注意が必要ですが、この屋敷の中にいる限り魔物に狙われる危険はない筈なのですが。

「ママも急用で外出してるだけなんじゃないの?」
「わしもそうである事を願いたいのじゃが…裏庭に付いて来てくれ」

 裏庭もかなり広いのですが、裏の通用門の所に置いてある壊れた納屋まで歩くと、ただならぬ気配が漂って来ました。一緒に付いて来たクロも何か感じているのでしょう。シッポをピンと立ててグルルル…と低く唸り声を上げ、不審者を発見したら飛び掛かろうかと言う構えです。

「ユカリも感じるじゃろう。この納屋から魔物の瘴気が出とるんじゃ」
「そ、そうね」

 不自然なほど慄える声を上擦らせ、腰を微妙にモジ付かせてしまった私。クロと同じように臨戦態勢の武者慄いと言いたいところですが、実は……

 ――アン、出ちゃったかも。困った子だわ、私って。おじいちゃんにバレてなきゃいいんだけど

 いつになく緊張感を漲らせているおじいちゃんとクロの隣で、濃厚な魔物の気配を感知した私は、あろう事か股間をジュンと潤わせると言う失態を演じてしまいました。体操着を慌てて着替えたため、いつも必ずはいてるパンチラ防止の黒いスパッツを学校に置いたまま帰って来てしまったのが悔やまれます。オシッコを軽くお洩らししちゃった感じで、白パンツが冷たく感じられていたたまれませんでした。

 実は、オシッコをチビってしまうのは幼い頃の私の悪癖でした。それも困った事に、魔物退治の時決まって出てしまうのです。幼い頃ですからさして害のない雑魚を遊び半分でやっつけるのですが、退治するのは簡単でもパンツを汚してしまうのが情けなく、べそをかいてしまう事もありました。でもママもおじいちゃんも決して私を責める事はなく、魔物を感知して集中力が高まる体なんだと、むしろホメてくれたんです。だから、小学校までは平気でチビってました。

 でもその悪癖も高学年では治まり、中学に上がって本物のヤバイ魔物との実戦に挑むようになると、もう大丈夫だと思っていたんです。魔物を祓う正義の味方がオシッコちびってるようではシャレになりませんからね。ところが、高校に上がり男性の視線が気になり始めた頃から、時々ウッカリ出してしまう事が又始まってしまいました。お察しの通り、小さな少女のオシッコおもらしとは違う、エッチな濡らし方です。それが男性を受け入れるための体の反応である事もわかってます。私、もちろんまだ処女なのに、アソコが魔物に反応してしまうのは恥ずかしい限りでした。

「今から倉庫を開ける。ユカリを呼んだのもこのためじゃ。わしも十分戦闘態勢で臨むが、援護を頼んだぞ」

 楽隠居して今は面影もないおじいちゃん大伴守ですが、かつては大伴家の大黒柱で、魔物退治では日本有数の腕前を誇ったと聞いています。今でも魔物に対峙して引けを取る心配はないでしょう。私も魔物退治の実戦をこなして、まだ取り逃がした事はありません。今も魔物の気配が濃厚な倉庫の前で、怖気づくどころか、戦いの予感にワクワクしてるんです。その証拠が、ますます冷たくなって来たパンツと言うのがアレですけど。困った事に、私は魔物退治に興奮して股間を潤わせちゃうアブない子なのでした。

 ――あーん、すっごく興奮してヤバイよ。エッチなお汁が垂れて来ちゃってる…

 こんな事、絶対言えません。さび付いた倉庫の鍵をガチャガチャやってたおじいちゃんは、とうとうギーッと扉を開けてしまいました。

 
 


 

 

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