ソウルホッパー・ケン


 

 

第四話


「えぇっ、心美ちゃん、好きな人出来たの?」

 1年E組の丹羽ジュンキがびっくりした声を上げると、他の男子たちのピストン運動も、女子たちの喘ぎ声もいったん止まった。

 みんなの注目は桜井心美と、いまやE組の支配者としてみんなの忠義心を集めている土屋健人へと集まった。健人は今日のE組ホームルーム(公認乱交パーティー)のゲスト、3年生の穂波先輩と、中等部の琴葉ちゃんの体を交互にまさぐっていた。健人が琴葉ちゃんの幼い股間から顔を上げる。

「ホントに? 心美ちゃん。」

 筒井タケルにバックからハメられながら、ジュンキのモノを深々と咥え込んでいた桜井心美が、みんなの注目に少し顔を赤らめて、おずおずとフェラチオをやめる。しばし躊躇したあとで、コクリと首を縦に振る。

「たぶん・・・、初めて、好きになったかのかも・・・。」

「心美ちゃん、初恋? おめでとー!」

 筒井タケルが後ろから、心美の最近やっとAカップのブラジャーがキツくなったらしいオッパイを、思いっきり握りこんで腰を突き立てる。

「はあぁっ・・・、あ、ありが・・・とう。」

「心美ちゃん、こっちが休んでる。」

 ジュンキが催促すると、また頑張って心美が咥え込む。タケルのバックファックの振動も利用しながら、心美が必死のフェラチオでしごきたてると、ジュンキはすぐに果てた。心美の口の中から、少し粘液が溢れ出す。

「ムグッ、・・あ・・、ありがとう。でも、まだ、両思いって決まったわけじゃないし。」

「心美ちゃん、可愛いんだから、絶対上手くいくよ。みんなも応援するよね!」

 土屋健人の呼びかけに、みんながオーっと、快く返事する。景気づけに、まだイッテいない男子たちが心美を囲んだ。

「心美ちゃん、2ヶ月前まで処女だったのに、今ではフェラも上手いしアソコの締まりも抜群だから、絶対大丈夫だよ。」

「桜井可愛いし、今日も最後相手してもらおうと思ってたんだよ。また後でね。」

「心美ちゃんのパンツ、おれ連続で交換させてもらったよね。パンツの趣味も可愛いから、相手もきっと好きになるよ。」

「わぁっ・・! ・・キャッ・・・、み、みんな、ありがと・・・うっぷ」

 祝福の精液を四方八方からかけられて、桜井心美の強張った笑顔が見る間に白っぽい粘液でドロドロになった。誰一人悪気はないし、乱交パーティー中に、精液を拒絶するなんてマナー違反だとわかっているので、心美は笑顔を取り繕っているが複雑な心中だった。好きになった人のことを思うと、教室で裸になって複数のクラスメイトと見さかい無くまぐわっては精液まみれになっている自分のことを、少しだけ不安に感じる。

「よーし、みんなで心美の恋愛、応援しよー!」

 教卓で王様のようにゲストをまさぐる土屋健人が声をかけると、女子たちも揃って右手の拳を突き上げて応じた。土屋健人。以前は目立たない、暗い劣等性だったはずなのに、急に学級委員長の倉橋美冬を初めとした美少女たちをはべらせたかと思うと、2ヶ月前には心美のヴァージンを奪った、心美初めての男性だ。

 健人は満足そうに仁王立ちで腕を組んでいる。ゲストの二人と彼女の堂前楓が、仲良く顔を寄り添わせて、健人のアソコと2つのタマを懸命にしゃぶっていた。

(クラスのみんなで、奥手な女の子の初恋を応援。うーん、青春って感じだな。いいクラスになったね。ノドカ先生の指導の賜物かな?)

 健人が上園和佳先生を目で追ったけれど、桜色に上気する先生の大人な裸体は見つからない。多分掃除道具入れ近くの、あの男女がヘビ玉みたいに絡み合ってる山の中で色んな生徒と繋がってるんだと思った。


。。。



「こ・・・心美ちゃん・・・。」

「・・・なぁに? ・・・」

「い、・・・いや。ちょっと、今、寒くないかと思って・・・。」

「大丈夫・・・。」

 喫茶店で背筋を伸ばして、まるで面接みたいに向かい合ってる、ギコチないカップル。男の子は少しニキビのある、短い髪のスポーツ少年のようだった。桜井心美は喫茶店に来てそうそう、パーカーを脱いで肌着っぽいキャミソール1枚になる。下はダークブラウンの森ガールチックなフレアスカートだった。緊張気味に会話する二人。少年は、思ったより大胆に胸元が見えてしまうキャミ1枚になった心美を、凝視しないように気をつけながら、それでも視線を時々さまよわせていた。それを感じ取って、隣の椅子に置かれたパーカーに手を伸ばそうとする心美の右手は、ビリッと硬直したように止まったあとで、もとの膝の上に収まった。

「駄目駄目。心美は自分の殻を破らないと、いつまでたっても気持ちが伝わらないよ。」

「あの男の子・・・、まだ中3なんだって。」

「へー、1っこ下にしては背高いし、心美が童顔でお子ちゃま体型だからちょうどバランスとれてる感じじゃない?」

「お子ちゃま体型って、お前、最近あの子の胸もお尻も、みるみる膨らんでるんだぞ。華奢な二の腕とか足はそのまま。出るトコ出てきて・・・。あの野郎、羨ましいな。」

「アンタ、さっきまで散々舐め回してたんだから、我慢しなさいよ。」

「シーィィイッ。気づかれるってば」

 心美と直登君の席からは少しだけ離れているテーブルで、健人とジュンキ、加藤と楓、茉莉に倉橋委員長の6人がヒソヒソ話をしながら、不器用カップルの様子を伺っていた。心配で、デートのセコンドとして勝手についてきてしまったのだ。結構近くまで寄って二人の待ち合わせから取材してきたのだが、なぜか二人はまったく気がつかなかった。

「おっ、クリームソーダ、一人前到着・・・・。いや、ストロー2つだぞ。」

「偉いじゃん。彼氏、年下なのにリードしてる?」

(いや・・・、僕が心美ちゃんにオーダーさせたんだよ。ほら、二人ともあんなにガチガチになってソーダ吸ってる。顔が近づいてるだけであんなに赤くなってる。可愛いな。)

「心美・・・、一応クラブハウスできちんとシャワー浴びさせてあげたけど、うちの男子たちのエッチな液の匂い、全部取れてるといいね。」

「そこは一応、私もチェックしたつもりなんだけど・・・。もう、いくら乱交の時間だったからって、アンタ達が好き勝手かけるからいけないんだよ。デート前の女の子、あんなドロドロにして・・・。」

「桜井がフェラ上達してんだから、しょうがねえだろうが、お前の吸引力まかせのバキュームフェラと違って、桜井のには情緒があんの! オッパイだって最近膨らんできてるし。」

 倉橋委員長が冷静に観察する横で、小松茉莉と加藤がヒソヒソ声で小競り合いを始める。

(そう、オッパイ、もうちょっとアピールしてみよっか? せっかく僕の毎晩のパトロールの効果もあって、目下成長中なんだから・・・。ほらよっと)

 背筋をビクッと伸ばした心美が、ストローから口を離すと、上気した顔のまま、ゆっくり上体を下げて、胸の谷間アピールの姿勢になる。そのまま腰をずらして、ずるずると体を下げると、形の良さそうなオッパイをテーブルにのせる体勢になった。

(こ・・・こんな姿勢・・・。直登君に嫌われちゃうっ・・・、のに・・体が・・・)

 上目遣いでキョロキョロと直登の反応を伺いながら、挑発的なポージングを行っている心美。それでも顔を真っ赤にした女の子が、まだ小ぶりな胸をチョコンとテーブルにのせている姿は、精一杯背伸びしたアピールというようにしか見えなかった。

「ゴホンッ、・・・あの、心美ちゃん、飲まないの? アイスも溶けちゃうし。」

「心美、今だ。イケイケッ」

 委員長と茉莉、楓が応援する。みんな自分のこととなるとそこまで積極的ではない女子たちだが、仲間内の恋愛にたいしてのがっちりとスクラム組んだ応援はノリノリだ。健人の目から見ても、倉橋美冬のこうした「普通の女の子」っぽい一面は意外でフレッシュだった。せっかくだから、みんなのコーチングを具現化させてあげる。

「わっ・・・、わたしが食べさせてあげるから、直登君アイス食べて。ほらっ・・・アーン。」

(こっ・・・こんなことっ。・・・・・・し、しなきゃ! ・・・)

 勝手に口が動いたかと思うと、衝動的な気持ちがついてきて、強迫観念にまで固まる。瞬時に心美の内部が変貌を遂げたかと思うと、心美は行動に移っていた。柄が長いがすくえる部分の小さい銀色のスプーンで、緑色のメロンソーダの上に浮いている半球型のバニラアイスクリームをすくうと、直登君の口元に伸びる。直登君が思い切ってスプーンを口に含む。何度か、カップルらしいスプーンの行き来があると、最後は若干わざとらしい手つきで心美がスプーンとアイスを、直登の口から外して唇につけてしまった。溶けかけたアイスがあごを伝ってテーブルにまで垂れる。

「あっ・・・ゴメン!」

 直登君が手で拭おうとするのを両手で押さえつけてまでして、心美が口を寄せてきた。あごから唇へ、清純派ロリ系美少女が舌を伸ばしてベロリと舐め上げる。執拗に直登君の唇を舐めまわしたあとで、やっと口を離すと、今度はテーブルに垂れたアイスを人差し指で拭って、口に深く入れる。ゆっくりと口から指を出すと、チュパッという音が店内に響き渡った。

(・・・あ・・・あれ? ・・・私・・・何やって・・・。あ・・・・ヤダッ・・・)

 正気に返った桜井心美がまわりを見ると、呆然とする直登君の他、店内のお客さんや店員さんも、みんな心美の思ったより大胆な攻勢に目を見張っていた。

「やっ・・・、ゴメン。直登君。お会計して、出ましょっ・・・。」

 耳まで赤くなってレジまで飛んでいった心美は、直登君の手を引っ張って店の外に猛ダッシュ。健人も、あわてて幽体の手を伸ばしていくつか「お土産」を注入するのが精一杯だった。

(恥ずかしいよう・・・みんなの前で、あんなことーっ。・・・こうなったら・・・、そう。直登君には・・・、みんなが見てないところで、さっきのことを忘れちゃうぐらいのことしないといけない。)

 女の子走りの割には相当スピードが出ている心美に引っ張られて、直登君は喫茶店から商店街通りを抜ける。中央公園の茂みに引っ張りこまれることになるのは、まだわかっていない。

「心美スゴッ。・・・あの調子なら、大丈夫じゃない?」

「はぁぁ・・・、俺の心美ちゃんが・・・。なんだか自分の娘を送り出すような、複雑な感じだよ。」

「アンタ、いまも私のパンツはきながら、何言ってんのよ。」

 心美の意外なほど大胆な頑張りに少し気押されながらも、クラスメイトたちは、これなら安心と胸を撫で下ろす。喫茶店はすぐに心美初恋成就の祝賀パーティーへと移行した。なぜ心美が気がつかなかったのか、不思議と言えば不思議に思われたが、実は喫茶店の店内は心美と直登君以外のテーブル全て、清涼学園高校1年E組の生徒たちが埋め尽くしていた。心美は「お忍びデート」のつもりでも、クラスメイトと担任全員の目の前でラブラブしていたのだった。

「えー、みなさん。あの感じなら、2人はきっちり結ばれると思います。あと、僕が思うに、2人は近場で1戦終えたあと・・・、いや3戦ぐらいかな? ・・・またこのお店に戻ってくると思いますので、その時まで、こちらで祝賀パーティー、始めておきましょー。」

 テーブルに上がりこんだ健人が声をかけると、クラスメイトたちは「イエーイ」と歓声をあげながら拍手する。店長の特別な許可を頂いて、窓のブラインドを下ろした店内では、祝賀パーティーどころか、すでにキッスやペッティングが始まっていた。


 公園の草むらで告白を受けると、「こちらこ・・」までしか言っていない段階でキスされ、押し倒された直登君は、幼く見えても1歳年上の女性の凄みをみせつけられた。服も半分脱ぎで始まった2人の初エッチは心美の全身リップ責めから得意の(?)フェラ。そして騎乗位からの「心美高速ピストン」(ポーズつき)でフィニッシュとなった。行為のあとで改めて告白の言葉を交わした2人だったが、心美が「一度も男性とお付き合いしたことがないから、慣れないことばかりだけど、許してね。」と顔を赤らめた時には、少し直登君がポカンとした。気を取り直して2回戦、3回戦まで終えたところで2人が手をつないでさっきの喫茶店まで戻ってくると、店内は凄い熱気と匂いのたちこめる、パーティーの最中だった。

「おめでとー。心美。」

「キャー、心美! やるじゃんっ。」

 直登君の口が、あごが外れそうに開いていた。素っ裸の楓と茉莉に抱きつかれた心美は、戸惑いながら感謝しつつも、二人の体についた色々な粘液が、パーカーにつくのを少しだけ嫌がった。

「おめでとー。」

「お幸せにー!」

 クラッカーが鳴り響き、心美がまた何方向からか精液を浴びる。フワッとした不思議な気分とともに、直登君と心美もすぐに満面の笑顔になって、さっき着たばかりの服をまた脱ぎ始める。健人にとっては直登君も名誉クラスメイトだ。なんなら和佳先生、楓、美冬、茉莉、沙希の「E組トップ5コンボ」をふるまって歓迎してあげてもいいぐらいだ。それくらい気持ちがよかった。

(あー、なんか。こうやって、・・・仲間を持って、みんなで一喜一憂するって・・・、面白いものだったんだなぁ・・・・。みんな、ありがと・・・。)

 健人が嬉しそうに頷きながら、店内を見回す。全員笑顔で腰を振って、誰かと繋がっていた。何人かと繋がりあっている器用な子たちも少なくない。ボーイッシュな店員さんも大学生らしいけれど、クラスメイトたちと一緒になって絡み合っている。今日2回目の乱交パーティーなのに、いつまでも続きそう。みんな若いのだ。いつまでも・・・。

 それでもあとから振り返ると、健人の一番楽しい時期は、このくらいまでだったのかもしれない。この晩をピークにして、少しずつ事態は変わっていく。研究の進捗が滞ったのではない。むしろ、健人の研究は着実に推し進められ、経験を増した健人の幽体はグングンと成長していた。


。。。



 老舗デパートの1Fは、化粧品と香水売り場となっていた。各ブランドの美容部員が、それぞれの制服に身を包み、女性の憧れる美を競っている。身だしなみに気を抜けない職場にあって、選りすぐりの素敵な女性たちが優雅にお仕事をしていた。

「いらっしゃいませ・・・、ごゆっくりご覧下さいませ。御用がございましたらお申しつけください。」

 営業スマイルでそつなくお辞儀する、少し派手な顔立ちとメイクのお姉さん。問題はそのお辞儀の瞬間に起きた。

「ブーゥゥッ!」

 かなり豪快に音が響いた。

(き・・・、聞かれちゃった・・よね?)

「なにかありまして?」と、素知らぬ顔で目を伏せたまま体を起こしたお姉さんは、それでもファンデーションの下、カッカと熱くなっている表情は隠しきれないでいた。横に立っていた後輩も、営業スマイルのままで肩だけが小刻みに震えている。

「ブーッ。」

「やだっ。またっ。どうして?」

(思わず、「また」と言ってしまった・・)そんな、今となってはあまり大きな問題では無いように思われることを、お姉さんは気にしていた。それでもみんな少しずつ、異変に気がついていく。口紅コーナーのお姉さんは、「ブッ、ブッ」とオナラが小刻みに出るたびに、お尻を押さえながらも前へ前へと、ピョコピョコ押し出されていく。まるで、オナラで進む玩具か何かのようだった。

「いっ、嫌だ。ごめんなさい。あの、体調が悪いので・・・、お手洗いへ。」

「せ、先輩。お手洗いは、そちらじゃないですっ。」

「プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ」

 お客様にペコペコ謝りながらも、壊れた玩具のようにピョコピョコ跳び進むお姉さん。オナラは何回か高低音のチューニングを経たあとで、「カエルのうた」の旋律で鳴り始めた。

「えっ・・・ヤッ・・・私も? ・・・なんで・・・。」

 後輩の女の子も、自分の粗相に気がついて、両手で頬を押さえる。オナラに突き出されて、両足を閉じた「気をつけ」の姿勢のまま、ピョコピョコと腰を押されるように跳ね始める。各ブランド、各売り場で、「カエルのうた」がオナラの輪唱となって響き始めた。澄ましたお金持ちそうなマダムも、若い店員も中堅のフロアリーダーも、みんな自分自身の止まらなくなったオナラに困惑しながら、跳ね回ったり、互いに正面から何度もぶつかったり。試供品コーナーにダイブしてしまったりして騒動を起こしている。

(わ・・・、笑いすぎて、お、オナカ痛い。腸をオーバードライブ気味に稼動させて、括約筋操作すると、こんな演奏も出来るんだね。・・・みなさん、健康な腸も美容の基本だから、我慢してね。)

 もし幽体を見ることが出来る特殊な能力者がいたら、フロアの真ん中で笑い転げては、時々両腕を伸ばして新たな標的の体で演奏させる、高校生の幽体を発見しただろう。健人は今、調子に乗っていた。生理現象も操ることが出来るということで、いつものようなクラスメイト相手の実験ではなく、いきなりデパートの大人たちを操ってみたのだった。


。。。



(ピチピチした学生もいいけど、じっくり時間をかけて変えていくんなら、立場も人望もある、大人のオンナの人だよね。コトコト煮込むみたいにして、日にちをかけて変貌させちゃう。・・・今日は、設計会社の冴子さんあたり、チェックに行こうかな?)



 御堂冴子は、社内に敵も多かったが、有能さは誰もが認める、エリート社員。アメリカの大学を優秀な成績で卒業して、上からの信頼も厚かったけれど、早い出世と周囲の評価が、彼女を少し慢心させていたかもしれない。冴子を含めてオフィス全員の体をホップして、記憶や感情を視察するのは健人の最近の大人な趣味だ。人間観察・・・。観察だけではなくて、加工もしっかりしているが、健人にとってはそのこまごました作業が、RPGゲームのレベル上げのようなルーティンの楽しみにもなっていた。

 道ですれ違えば、誰もが振り返るような美貌と抜群のプロポーション。そして怜悧で妥協のない性格で、上司にも部下にも、自分にも厳しく望む。そんな係長の墜落を、オフィスのみんなと一緒に高校生が見守っていた。

 会議に集中出来ない・・・・。いや、会議だけではない。ほぼ全ての仕事に、彼女の集中力が持たなくなってきている。気がつくと、ボンヤリと口を開けて、放心してしまっている。それどころか、あろうことか人前で、鼻クソをホジッてポカンとしている自分や、涎を垂らして薄ら笑いを浮かべている自分に気がついたりする。部下や同僚たちの前で恥をかくことが急に増えてしまった。身を引き締め、睡眠時間を増やし、会議前にストレッチやコーヒー休憩を入れても、彼女の気の散りやすさはどんどん悪化していくようだった。発言を求められて、慌てて取り繕おうとするのだが、自分の口調まで変化しつつあることに気がついて愕然とする。

「サエコはぁ〜。あんまりムズカシイことはわかりません。ごめんなさい。」

 たどたどしく喋る彼女を、上司が心配そうに見つめる。部下の女子社員何人かが、笑いを堪えて震えていた。全力で気を張って喋らない限り、冴子は自分のことを「サエコはぁ〜」と頭の悪い子供のように名前で呼ぶことが癖になってしまった。そしてもちろん、集中力の持たない彼女はすぐに気を抜いて、たどたどしく、あどけなく話してしまう。プレゼンターや商談の進行役等は控えるようにと上司にやんわりと指示されてしまった。悔しい思いを、御堂冴子は更に困ったかたちで発散するのが習慣になってしまう。会社のトイレで、自分の体を慰めるのだ。初めのうちは自分の指で・・・、そして今ではすっかり手放せなくなった、肌色のディルドーでだ。時にはオフィスの自分の席でも、こっそり自分を慰める。誰にも気づかれないようにやっているつもりなのだが、時々女子社員たちがクスクス笑っているのが気がかりではある。

 これまで人の倍もしていた仕事が、すっかり手につかなくなってきている。冴子は勤務時間中もオナニーに忙しいし、他の時間は爪を研いだり、手鏡の前でキス顔の練習をしたりするのに忙殺されてしまっているからだ。彼女の仕事はいまや、後輩や部下、同僚たちがカバーしてくれている。そんな彼らに申し訳ないという思いは非常に強いのだが、冴子自身、どうしていいのかわからず、ずいぶん悩んだ。仕事を手伝おうにも、オナニーやキス顔練習から手が離せない。そこで彼女は、今の自分にも出来ることで、同僚たちに罪滅ぼしをしようと考えた。

 毎朝みんなよりも少し早く出勤した御堂冴子は、みんなの机を丁寧に雑巾がけする。部下や同僚一人一人の電話の受話器をウェットティッシュで拭いて、花をいけて、お茶の準備をする。最近の彼女に批判的な目を向けていた同僚たちも、少し雰囲気が和らいだ。嬉しくなった冴子は、率先してお茶汲み、コピー取り、FAX当番を申し出るようになる。これならばオナニーや爪磨きの邪魔にもならずに出来る、会社への貢献だ。少しずつ、冴子は悩みのトンネルから抜け出ることが出来た。仕事をほったらかしにしてしまっている罪悪感は、彼女を次のステージへと進ませる。男性社員たちが彼女の魅力的な体をチラチラと見ては目の保養としていることに前々から気づいていた冴子は、思い切って大きくイメチェンをはかることにした。これまでのシックなビジネススーツ・ファッションから、少しずつ露出を増やし、女性的な曲線美を強調し、セックスアピールを強めていく。もともとモデル系のスラリとしたプロポーションと豊満な胸や尻を持っている彼女のセックスアピールは強烈なまでに際立った。スカートはどんどんタイトに、短く、その分スリットの切れ目は長く。胸元は大胆に谷間を強調。シャツのボタンは三つ目まで開いてブラもはっきり見えるように。パンストは網タイツになり、見事な美脚をちょっと淫らに締めつける。そんな姿で雑巾がけやお茶汲みをして屈む彼女は胸の谷間を同僚たち一人一人に晒してしまう。床に紙が落ちていると、彼女が足をピンと伸ばしたままそれを拾う。足を組みかえるときは、まるで上段回し蹴りでもするように大きなモーションで足を突き上げ振り回す。毎回レース柄のTバックが丸見えになってしまうが、冴子は嫌がったりしない。サービスショットの提供で少しでも同僚や部下たちが喜んでくれるなら、どんどん披露すればいいではないか。

 徐々に御堂冴子は、部署での雑用に生き甲斐を見い出すようになってきた。人が嫌がるような雑用を嬉々としてかいがいしくこなす彼女は、以前とは違った尊敬を集めるようになってきた。セクシーショットを惜しげもなく晒す、美人雑用係。机に向かえば仕事をサボってばかりだが、同僚や部下たちが頼めば、まるで召使いのように従順に雑用に励んでくれた。

 そんな彼女に想いを寄せていた一人の男性社員は、ある夜、彼女にアプローチをかけてきた。冴子は恋人は作らない主義だと、申し訳なさそうに断る。実際はそんな主義だった自分を始めて認識したのだが、なぜかそう答えるべきだと思った。しかし自分は、セックスフレンドは沢山持ちたい主義だ。言った自分が一番驚いたのだが、そう応えた冴子は、まるで何かの力に導かれるように、その部下の胸に飛び込むと、熱い口づけを交わした。御堂冴子の中で、何かが完全に弾ける。そこにいたのはかつての怜悧なエリート社員ではなくて、性欲を爆発させる、淫靡でゴージャスなセックスアニマルだった。

 もはや誰も御堂冴子を止められない。上司とも同僚とも部下とも出入りの清掃業者とも、警備員ともセックスをした。全員にオネダリして精液を飲ませてもらい、顔に掛けてもらい、ハメているところを写真やビデオに撮ってもらった。アダルトビデオを大量に借りてきて、次の日には学習内容を披露して見せた。最高に美しく、イヤらしく、大胆で従順でサービス精神旺盛なヤリマンの出現に、部内は沸きに沸いた。

 当然、女性社員たちからの評価は最低になる。冴子はそれを埋め合わせるため、必死に女性部下たちにも尽くした。使いっパシリや財布がわりは日常茶飯事だったが、それでも女子社員たちは冴子のことを許してくれない。やがて冴子は、奴隷のような生活の中から、やっと彼女たちに取り入る方法を見い出した。芸人となり、彼女たちを笑わせ続ければ、彼女たちからの当たりは柔らかくなる。そのことに御堂冴子は気がついたのだった。

 親睦会がくれば、宴会芸の練習に精を出す。腹に顔を書いて踊ったり、ヘンなオジサンや横綱土俵入りなどを大真面目に演じきると、さすがの女子社員たちも笑い出す。冴子にとっての至福の一時だった。女子会にも、「体張りボケ要員」として混ぜてもらえるようになった。

 しばらく営業や商談から遠ざかり、社内の雑用をまめまめしくこなしていた冴子は、女を捨てたような宴会芸の噂が広まると、一部のお得意先の接待にお声がかかるようになってきた。会社のためにとことん体を張るのが今の信条になっている冴子は、体育会系も仰天のお座敷接待を繰り広げる。サポーターもつけずに白いピチピチのレオタードでエアロビクスを披露すると、にこやかにお辞儀して「着替えさせていただきます」とだけ言うと、そそくさと個室の隅に寄っただけで元の服に着替え始める。レオタードを脱いで、ゆっくりと畳んでいる間、全裸の美女が目の前にいる。お得意先だけでなく、冴子の上司や同僚も釘付けになって視姦する。バニーガールの衣裳で現れては、全員にしなだれかかってお酌をし、胸の谷間に名刺を入れるようにお願いするなど、過激なコンパニオンぶりを見せる。興の乗った得意先相手にはそのままお持ち帰り頂く、お土産に変身だ。枕営業も彼女ほどの美女があそこまで徹底的に勤めれば清々しいほどだと、唸った得意先もいるらしい。

 こうして御堂冴子の職場に、完全に活気が戻った。朝早く出社して、拭き掃除をやりつくすと、恭しくオフィスの入り口のカーペットに正座して、出社してくる部下たちを三つ指ついてお出迎えすることで、冴子の一日が始まる。服装は今日も犯罪スレスレのエロスーツだ。「お茶」と一声上がれば喜び勇んでお茶を汲みに給湯室へ。「これコピー。4セットね。」と声がかかれば正座でお辞儀しながら紙を受け取ってコピー室へ走る。途中ですれ違った上司がふざけてケツを叩いてくれば、笑顔で挨拶しながらもっとお尻を突き出す。新入社員に無遠慮にオッパイを鷲掴みにされれば、「お触りは1日5回までですよ。」と困った笑顔で対応する。

 机に戻っても、冴子は忙しい。オナニーにキス顔練習に、下の毛のお手入れ。冬なのに極端な暑がり屋さんの彼女は、10分に1回は服をめくり上げたりスカートの中に手で風を送ったりと落ち着かない。そして周りの女子社員がふざけてBGMをかけ始めると、もう彼女の体は止まらない。机に上って踊りまくってしまう。手拍子などもらった日は、踊りながら服も下着も脱ぎ捨てて、放り投げて全裸で身をクネらせる。あとで課長に怒られるのだが、見るも哀れなほど縮こまった彼女は、怒られるのが怖くてオシッコを漏らしてしまうこともたびたびなので、最近は課長も見てみぬ振りをせざるを得ないようだ。

 仕事ぶりがすっかり変貌してしまった冴子だが、誰かに見守られているという不思議な安心感だけは感じている。今では何も悔やまない。前向きで際限なくポジティブな性格になれていた。


(ある程度までこっちが弄って変身させてあげると、あとはどんどん自分で突き進んでくれる。この、地道な掛け合いが、たまらなく大人な楽しみな気がするんだけどな・・・。ま、誰もわかってくれないかもしれないけど・・・。)

 観察のたびに、満足げに健人はオフィスを後にする。これはまるで、「育成ゲーム」の、癖になる感覚のようだった。


。。。



 生活の変貌に戸惑っているのは、専業主婦の稲尾恵美里も同じだった。主婦といっても、経済的に余裕のある生活に恵まれた恵美里の毎日の楽しみは高級喫茶のテラス席で奥様友達と楽しくお茶することだった。10歳以上年の離れた、設計事務所を経営する旦那の影響で、ゴルフやインテリアコーディネートに凝ってもいるが、一番の楽しみは友達とのお喋り。それもテラス席でのハイソサエティなアフタヌーンティを、時間を忘れて楽しむことだった。

 それが最近、少しずつ様子が変わってきている。周りの自分を見る目が、すこし羨望から違う視線へと変わってきている気がするのだ。恵美里がコートを脱いで喫茶店で腰を下ろすと、無意識のうちに両手を頭の上で組む。ゴージャスな白いノースリーブのニットから、彼女の細い腕が曝け出されるが、両方の脇の下から腋毛がコンモリと顔を出す。26歳、まだまだ若い恵美里の健康的な腋毛は、彼女の新しいチャームポイントだと自信を持っているのに、友人たちは気まずそうに目を反らすのだ。微妙な空気を打ち消すように、足を大きく組み替える。ショーツはここ2週間ほど、身に付けないようにしている。通行人がホクホク顔で視線を下げてくる。恵美里にとっては自分の体に男たちが釘付けになることは気持ち良いことであっても、決して嫌がることではないのだが、周りの友人たちは居心地悪そうに顔をしかめている。プライドの高い恵美里は自分が侮辱されているような気がして、友人たちとのお茶の回数は減らすことにした。変わりに増えてきたのが、ボランティアの回数だ。公園にある公衆便所や駅のお掃除をする。レースクイーンのようなパツパツのミニスカワンピースで、ノーパン、ノーブラの体を惜しげもなく見せびらかしながら朝からお掃除をしていると、殿方の視線を恵美里が独り占めできる。視線だけではない、積極的な殿方のタッチやハグだって頂戴することが出来る。嬉しくなった恵美里は、最近では主に、工事現場付近の簡易トイレの清掃ボランティアとして巡回している。肉体労働で鍛えられた、強く荒々しく、匂いも男らしいマッチョたちに求められながら、久しぶりに気持ちいい汗をかいている毎日だ。

 お肌の調子が上向いているのか、化粧のノリもいいし、旦那との時折の夜の営みもバリエーションに富みつつある。旦那にも好評で、言うこと無しだった。


。。。



「お邪魔しまーす。」

「あら、楓ちゃん。いらっしゃい。」

 土屋家を堂前楓が訪れると、土屋多香子が出迎える。楓の学校指折りの人気アイドルが、大き目のセーター1つで階段を降りてきた。

「多香子お姉ちゃん。あの、健人いますか? ・・・今日、学校来てなかったから・・・。」

 楓が聞くと、多香子は優しい目で、少し眉をひそめた。

「ゴメンね。健人、部屋にいるんだけど、ちょっと今日は忙しくしてるみたいなの・・・。私の部屋に来てくれる? ・・・クッキーあるからね。」


 あったかいココアとクッキーを出してもらって、優しい多香子お姉ちゃんの部屋に迎え入れられる。楓は今も、多香子お姉ちゃんが大好きだったが、今、健人の彼女になってみると、このパーフェクトな彼氏の姉の存在というものは、少しだけ楓の焦燥感をかきたてるものもあった。

「あの・・・お姉ちゃん、変なこと聞いていいかな? ・・・そろそろ・・・、健人とエッチしたこととかあるの?」

「え? ・・・、ないよ・・・。健人は弟だし、楓ちゃんの彼氏じゃない。」

 多香子はクッキーをココアに浸したあとで食べる。

「エッチは・・したことなくても。他のことは・・・あるでしょ? 前もちょっと聞いたし、見たし・・・。」

「んっと・・・。フェラとか、・・・パイずりとか、素股とか・・・、シックスナインとか全身舐めあっこしたりとかはあるけど・・・。ゴメンね。でも、・・・その、セックスそのものは、しないよ。姉弟だもの。当たり前でしょ? 楓ちゃんにも悪いし。」

「でも・・・絶対じゃないんじゃない? もし健人にさせてくれって言われたら、断れる? 正直に教えて。」

「ん・・・・、それは・・・無理だよ。健人にお願いされたら・・・。どんなことも・・・断れないもん。・・・だけどそれは、楓ちゃんだって・・・、楓ちゃんのクラスメイトのみんなだって、先生方だってそうでしょ?」

 膝をつけた女の子座りで、クッキーを咥えながらうつむく多香子お姉ちゃんは、か弱い女の子のようだった。楓の心が痛む。大好きなお姉ちゃんのことを困らせたかったわけではないのに。自分も健人のこととなると、ノドカ先生にも、多香子お姉ちゃんにも思わぬキツイ当たりかたをしてしまう。そんな自分が嫌だった。

「さてとっ。・・・そんなこといいやっ。健人に任せましょっ。お姉ちゃん。健人が部屋まで出てくるまで、前のビデオ、続きを作ろうよ。」

「・・・。そうね。ありがとう。楓ちゃん。・・・私、こんな可愛い彼女をほったらかしてる悪い弟のかわりに、なんだってするわ。」

 笑顔になった多香子が、いそいそとセーターを脱ぎ捨てると、ダイナマイトボディが放り出される。胸をユッサユッサ揺らしながら多香子が健人から借り出したデジタルビデオカメラと三脚を組み立てている間に、楓は多香子の机の引き出しを漁った。

「お姉ちゃん、また道具増えてる・・・。受験勉強、進んでるの?」

「全然大丈夫。なんだか、呼んだ覚えの無い参考書や問題集まで、どんどん記憶に甦ってちゃって・・・私、睡眠学習でもしてたかなぁ? ・・・過去問10年分ももう終わっちゃったんだよ。ついでに、そういう道具の使い方の知識や経験まで、浮かんできちゃうんだけどね・・・。楓ちゃんにも試してあげよっか?」

「う・・うぇえ・・・これはちょっと、遠慮しとく・・・。」

 ガチャガチャと、引き出しから大小のディルドーや、笑えない使い道が想像されそうな大人の玩具を物色して、楓が少し鳥肌をたてる。それでも彼女は、ちょっとだけ興味を引かれて、1つの棒を取り出した。Tの字になっている。

「双頭バイブね・・・。いいじゃない。2人で仲良く、気持ちよくなりましょう。」

 天使のような笑顔で、多香子が首をかしげるように勧める。楓も返事の変わりに、制服をスルスルと脱ぎ始めた。


「はいっ、録画スタートしてるよ。」

 ボタンを押した多香子が、バタバタと楓のもとへ駆け寄る。

「健人っ。見てる? ・・・アンタが今は忙しそうだけど、暇になった時に寂しいといけないから、多香子お姉ちゃんと私で、エッチなビデオ撮っておいてあげるから、寂しい時はこれ使いなさいよっ。この贅沢者!」

「健人。早くしないと楓ちゃん、私とのレズ繋がりの方が強くなっちゃうからね。」

 優しく微笑む多香子お姉ちゃんと、むくれてアヒル口になっている楓が、ゆっくりと向かい合って裸のお互いの体にキスを始める。抱き合いながらカーペットに寝転がると、比較的すぐに双頭バイブの作動音と2人の女子高生の嬌声が部屋に響き始めた。


。。。



 隣の部屋から喘ぎ声が大きくなったり小さくなったりしているが、机に向かう健人は一心不乱にノートに書き込んだかと思うと、椅子にもたれかかって瞑想しているように体の動きを止めてを繰り返していた。もう半日以上、これを繰り返している。

「記憶も、技術も・・・、部屋を見つけたけれど、・・・もっと下にも、階層がある。螺旋の階段みたいなところを降りると・・・最後何があるんだ? ・・・くそっ! ・・・幽体が持たない感じもするし、時々、凄くエネルギーが充填されるような感じもあって・・・。はっきり見えない。・・・ずっと降りると・・・・周りの壁もヌルヌルしてたような感じだけはあったんだよな・・・。もう一回、行ってみよう。今度は・・・。」

 ブツブツと大きめの声で独り言を言うと、また気絶したように椅子の背もたれに寄りかかって動かなくなる。少し気が立っていた。


。。。



「うぁあああああっ!」

 椅子の上で全身をブルブルッと大きく痙攣させた健人が。椅子ごと床に倒れた。一瞬白目をむいてビクビクと手足をバタつかせたが、数秒脱力すると、目をパッチリと開いた。

「あった・・・。井戸だっ! 井戸だった! ・・・初めて・・・。初めて井戸に入って・・・、別の井戸から出た!」

 立ち上がった健人は、机に向かってノートに書きなぐる。さっきの憔悴した感じはなく、力のみなぎっている健人だった。

『他の相手で色々試したけれど、深く掘り下げるには一番慣れた相手がいいと思って、多香子お姉ちゃんに潜った。螺旋階段のずっと下には、水があった。そこをずっと奥まで潜ると、光が見えて、それを目指して上がっていくと、楓の中にいた。楓の中から、多香子お姉ちゃんを見てた。あそこまで深く入れたら、もうホッピングもいらない。みんな井戸で繋がってたんだ!』

 書いていて、我慢できなくなって健人は部屋を本体で飛び出た。隣の部屋では多香子と楓が、裸で抱き合ったまま、胎児のように眠っていた。玩具の作動音だけが聞こえている。健人が2人を突き抜けた時に、意図せず特大オルガズムでも与えてしまったかもしれない。とにかく、地下の水系に凄いエネルギーがあったのだ。

「やったぞー! お姉ちゃん! 楓! ・・・多分、最強最後のブレークスルーだぁ!」

 健人が戦隊モノのヒーローのように拳を突き上げる。幽体は、巨大な竜のような形で空に突き抜けた。


。。。



 集合無意識。健人は色んな人の知識を取り込むきたが、井戸から繋がっていた多香子たちの地下水系に一番近いと思われるコンセプトはそれだと思った。

(この街の誰の精神の中も、一番深いところはそこに繋がっているみたいだ。そこを移動すると、これまでの何倍ものスピードで、何倍も強力なメッセージを送ることが出来る。一瞬で街中の人たちに、複雑な指示をいくつも出せる・・・。街じゃなくて、国中だって・・そうなのか?)

 そこを通るだけで、すさまじいパワーを健人の幽体が得たような気がする。健人は嬉しくなって・・・、いや、力の出しどころ、逃がしどころを求めて、街中を泳ぎ回った。


。。。



 翌朝7時半。土屋健人が学校に向かう途中、はす向かいの柏田さんの家を通り過ぎる。いつも庭を綺麗に整えている新婚さんの家だが、今日様子が違うのは、柏田真輝子さんが朝から全裸で庭に出て水撒きをしていることだった。

「おはようございます。真輝子さん。」

「あら、おはよう。健人君。早いのね。クラブ活動? 朝のお勉強かしら?」

 無邪気で優雅な微笑を浮かべる新妻の真輝子さん。ホースから出る水が、冬の朝に虹を作っていた。

「真輝子さんこそ、その格好。寒くないんですか?」

 健人が答えをわかっていながらも、一応聞いてみる。

「こんな格好・・・。あら、裸のこと? このほうが健康に良いらしいのよ。・・・駄目かしら?」

「いや・・・風邪引かないなら・・・、いいんじゃないですか? 僕らは目の保養になるし・・・。」

 ホースを下に落とすと、両手をパチンと叩いたまま、拝むような姿勢で笑う真輝子さん。笑顔も爽やかだった。

「そう? よかった! ・・・風邪なら心配ないわ。こうやって・・・、水撒きの前は乾布摩擦してたのよっ・・・。ほらっ、意外とあったかくなるの。っほら。」

 テラスから白いタオルを持ってきて、両端を握り締めると、背中をゴシゴシ擦りだす真輝子さん。豊満な胸が揺れるのも気にせずに、堂々と裸で乾布摩擦を再演してくれる。少しずつ通行人が立ち止まって庭先で裸になっている美人新妻を凝視しはじめたので、健人は先を急ぐことにした。



 健人がバス停に向かうと、そこにはしばらく停車していた様子の、バスがアイドリングを始めた。健人専用の貸し切りバス。といっても一人乗りではない。中は周辺のOL、ギャル、若奥様に美少女たちでギュウギュウだった。健人がバスに乗り込むのが合図のように、全員が深々とお辞儀をして挨拶をすると、いそいそと身につけているものを脱ぎ始める。順番にローションを回して健人に近づいてきた。今日は一丁目に住む、外見に自身のある女性たち30名。日替わりで健人を学校へ送る、朝のローションバスだった。

 バスが稜青学園高校へとノンストップで向かう中、徒歩で通学する集団を見かける。下着姿で長いロープの輪を持った列が、「機関車ごっこ」のような仕草で学校へ向かう。寒い中、ご苦労様の「通学快速、2−C」の皆さんだ。ちなみに隣の2−Dの先輩たちは放課後、教室で秘密裏に「本番有りのオッパイパブ」を今日から経営するつもりだ。ウルトラVIP会員の健人だけが知っている、先輩たち自身も知らない、パブの経営計画。本人たちが知っていようが知らなかろうが、健人が決めたのだから、確実に実行されるのだった。

 バスを1台の大型バイクが追い越していく。ハーレー・ダビッドソン。乗っているのは星条旗柄のビキニに身を包んだ、久住沙希ちゃんだ。道すがら知らない人に譲られたハーレーとビキニを身に付け、いつの間にか覚えていたバイクの操作法を駆使して、爆音を響かせて学校へ向かっている。周りの注目を受けて真っ赤になって困り顔で進む沙希は、どうしてもこうやって登校しなければならないという衝動に負けての、反省文覚悟で堂々の通学姿だった。

 今日から1−Eは毎日がホームルーム。E組だけではない。朝礼の時間には学校全体でホームルームという名の乱交パーティーを行おう。可愛いヴァージンの女の子がいたら、昼食の時間に毎日1人ずつ犯しちゃって、それを放送室から全校に放送してあげよう。うちの高校で付き合ってるカップルは、みんな一度シャッフルしてみよう。抱きたい女子ランキングと抱かれたくない男子ランキングを全校版作って、女子の1位と男子の再会から順番にハメ撮りさせてみよう。

 何でも健人の思い通りになる生活。学校も、街全体が健人の思いつきを実現するためだけに存在した。それは夢のようでもあり、早々に飽きが来そうなものでもあった。その飽きの来そうな予感が、不思議と健人をイラつかせた。井戸から湧き上がるマグマのような力が、健人の幽体をどんどん沸騰させるのに、力のやりどころは、健人の思いつく支配の方法ではどんどん足りなくなってきている。3日もしないうちに、健人はシビレを切らしたかのように、力を発散し始めた。お昼休み直前。大きく舌打ちをした健人は、幽体をはるか数キロ先。街の駅前広場上空まで飛ばす。


『全員、裸になれ! 表を全裸で走り回るんだ。』

 街で暮らす住民、仕事で来ている大人たち、勉強に励む子供たち。全員、いっせいに雷に打たれたように背筋を伸ばした。頭に逆らいようの無い、命令の直撃を受けたような気がする。どんな意味なのか、どんな意図があるのか、考える間もなく街中の人々が衣服を破り捨て、通りを駆けはじめた。仕事途中のサラリーマンも、ランチに出かけようとしていたOLさんたちも、飲食店のお姉さんたちもみんな、頭の中が急に真っ白になり、それまでしていたこと、考えていたことを全て、着ていたものと一緒に放り出して街を裸足で全力疾走する。

 授業中だった学校でも、次々に裸の生徒たちが運動場に走り出していた。

(はっ・・・、はやく。裸になって、外を走らなきゃっ!)

 大事な制服も、急いで剥ぎ取ろうとしているうちにビリビリと破れていく。楓も、美冬も茉莉も沙希も心美も、そんなことを気にしている余裕もなく、とにかく身に着けていたものを全てむしりとって、廊下から階段へと急いだ。前には和佳先生と双葉先生の、競い合うように廊下を全力疾走する、裸の後姿が見える。全員、恥も外聞もかなぐり捨てて、天啓のように自分たちに下された命令の実行だけに必死になっていた。

『全員止まれ!』

 兵隊のように真剣な顔つきで、街中の大人たち子供たちが、全裸で「気をつけ」の姿勢で立ち尽くす。

『側転で10回転!』

 大股を開きながら、女子たちが綺麗に回転する。技術や経験を街中の人々に一瞬で塗りこむことさえ自由自在となっている健人の一言で、全員が運動選手のように俊敏に従った。駅前広場の上空から、健人の幽体が満足げに見下ろしている。

『こんどは楽しくスキップだ。みんなでグルグル回れ。そらっ、ランラランラランッ』

 兵士のように真顔で直立していた人々が、急に表情を和らげて、近くにいた人と腕を組み合い、スキップをしながらグルグル回り始める。前後たがい違いに腕を組んだ人たちの列が、時計のように運動場や公園で大きな円を描いている。上司と部下の2人で、ひっそりと裸で回っている男のカップルもいた。女同士のカップルやグループの方が微笑ましい光景だったが、誰もかも、満面の笑みを浮かべてスキップを続けていた。本当は目が回ってそろそろ倒れそうな人もいるらしく、強張った笑みと青ざめた顔をしているが、誰一人、次の命令が下るまで、止まろうとしない。この街の人間は全員が、健人が「止まれ」と言わなければ、死ぬまで笑いながらスキップを続けてしまうのかもしれなかった。

『じゃー、次は、みんな犬になるぞ。ワンワンだ!』

(はっ・・・。私、犬にならなきゃっ! 2本足で立ってちゃ、駄目じゃない!)

 滝脇双葉先生が、ふと自分が犬だったことに気がついて、急いで四つん這いになる。慌てて上園和佳先生も両手を道路について舌を出して這い回り始めた。

「ウォフッ、ウォフッ、」

「クーン・・・」

「ワオーーーーン!」

 表に出た美冬や楓たちも、思い思いの方向に吠え立てながら、徘徊する。尻尾を振っているかのように、お尻を小刻みに左右に振って、あたりを嗅ぎまわる。いたるところで野良犬たちの縄張り争いが始まるような、不穏な空気が流れ始めた。街はまるで、犬ばかりを大量に詰め込んだ、保健所のような様相だ。しかも全員、わずか前まで真面目に仕事や勉強、家事をしていた一般市民が全裸で舌を突き出して吠えているのだった。

『犬じゃないぞ。普通の人じゃないか。元に戻ろう。』

(・・・え? ・・・私・・・、なんでこんな・・・?)

 久住沙希が呆然として立ち上がった。そのまま両手で体を隠そうと小さく立ちすくむ。至近距離で吠えあっていた和佳先生と双葉先生も、キョトンと顔を見合わせる。道端で雑草を噛んで遊んでいた楓と茉莉は硬直し、電信柱に足をかけていた美冬は真っ赤な顔でおずおずと足を降ろした。見知らぬ中年男性とお尻の匂いを嗅ぎ合っていた心美は、消え入りそうな声でペコペコしながら失礼を詫びた。

『いや、やっぱり犬だ。犬でいいんだ。』

 全員の顔から文明の色が一瞬にして消える。再び街中がケンネルのような騒がしさになる。気まずそうに恥ずかしそうに事態を収拾しようとしていた美少女たちが大人たちが、また四つん這いになってさっきまでの喧騒に没頭しはじめた。

『犬はもういいや。・・・猿だ。猿になろう。』

(そうっ・・・私は、サルになるっ!)

(おサルさんにならなきゃっ。)

 思い立ったと同時に、楓と沙希が校庭脇の街路樹に、競い合うように登る。裸のまま、怪我もせずに器用にスルスルと木登りをする2人の美少女。同じ枝の取り合いになると、歯を剥き出して威嚇しあった。枝の上でうずくまる心美の後ろから、茉莉が背中の毛繕いとノミ取りをしてあげていた。その横では片腕で枝を掴んだ美冬がブラブラと体を揺らしている。健人の眼下には電信柱やフェンス、壁にまで登る器用なサル人間たちが大量に見える。登るところにあぶれ、地面に残った店員さんや女子大生らしき人たちは、狂ったようにお尻を掻き毟ったり、八百屋や果物屋を襲撃してご馳走に齧りついていた。なかには自分の男性器や女性器を弄り回して、嬉しそうに跳ね回っている人たちもいる。健人の育った街が一瞬にして未開のジャングルになったような光景だった。

『高いところに登ったら、そのままそこから落ち・・・、ん? ・・いや、そこからゆっくり降りて、今度は牛になれ。』

『牛になったら、角合わせだ。お互いにぶつかり合って、戦え。怪我も気にせず・・・。違うっ。怪我するは駄目。もっと穏やかに・・・オッパイの小さな牛はオッパイのあるお母さん牛から乳をもらおう。オッパイがあるのはお母さん牛。惜しまず飲ませてあげよう。』

 再び道路や地面の上に四つん這いになった人々が女性の乳房に群がってまとわりつく。四方八方からオッパイを吸われている女性たちも、母性本能全快の幸せな表情でモウモウ唸っていた。少女同士でお互いの乳房を頬張っているカップルもいる。異常な光景ではあるけれど、どこか長閑な雰囲気が漂っているようでもあった。

(なんだか・・・少しおかしい・・・。胸がムカつくというか・・・。熱い・・・)

 健人はほんの少しずつだが、違和感を持ち始めていた。自分の心を突き上げてくるように、強くて熱い衝動が、マグマのように押しあがってくる。



(力が、・・・凄く強い力が・・・それ自身で・・・使われたがってる? どんどん、過激な方向に、自分自身で向かおうとしている? ・・・・)

(気づいた? ・・・察しが早いな。さすがこんな若さで、集合無意識にまで触れることが出来ただけはある。)

 自分の声そのものが、自分の幽体の中で響いたように感じた。

(君は・・・誰? ・・)

(俺? ・・・君さ。土屋健人。・・・でもあり、誰でもある。・・・・そんでもって、皆に抑圧されて、封印されている色んなものだよ。・・・まぁ、なんでもいいじゃねぇか? せっかく久しぶりに解放してもらったんだから、景気づけにこの街丸ごと無茶苦茶にして、次の遊び場を探そうぜ? 相棒。・・・そして俺自身。)

 健人の幽体の右手が、グッと拳を作って親指を立てた。自分がしたくないのに、自分が動いている。健人は心の芯から急速に冷え切っていくような気がした。この感情は・・・、恐怖だ。そう思ったのに健人の幽体は、健人の意志と反して微笑んでいた。

『さあみんな、こんな腐ったような街、ぶち壊してやろう。いや、その前にちょっとだけ、お楽しみをやり切るか? ・・・いいよ。全員、誰彼構わずにまわりの奴と交尾しろ。お前らはセックスマシーンだ。リミッターの切れた暴走セックスマシーンだ。』

「あーーっ、抱いてーぇっ!」

 周りが少しびっくりするような大声を出して、双葉先生が叫んだあとで、知らない男の人たちのところに、プロレスのボディアタックのような体勢で飛びかかった。後輩の和佳先生も、生徒たちも後に続く。駅前でも、獣のような乱交が始まっていて、人が山みたいに折り重なっていく。街中いたるところで好みも年齢も性別も人数も考えない、出会いがしらのハードセックスが始まっていた。男も女も喘ぎ声を隠そうともしない。それどころかみんなお互いに聞かせあうみたいに大声で悶え狂って目の前の体を貪った。

『よしよし・・・その調子で、足腰立たなくなるくらいハメ狂ったあとは、全員で隣町までランニングして全員力づくでハメてやろうぜ。まだ正気の奴らを強引に犯して、小便ぶっかけてやれ。抵抗したらぶん殴ったって・・・・やめろ・・・・。・・・・・やめろ・・・。・・・・・やめろぉおおおおおおおおおおっ!』

 頭を抱えた健人の幽体が、竜のように伸びながら、街の上空を何週も、何十週も、縦横無尽に回る。伸びていく幽体で空が覆い尽くされたように光に満ちた後で、光はシャンデリアが爆ぜるように砕け散って街に落ちてきた。


「や・・・めよっか・・・?」

 ゆっくりと立ち上がる人が、ポツポツと現れてきた。

「やめよう。・・・なんか・・・寒いし。帰ろ・・・。」

「ガッコ・・・。戻らなきゃ・・・。・・・なんで裸・・・なんでここにいるんだっけ?」

「・・・かんがえるの・・・やめない?」

 気力も体力も使い果たしたような人々が、トボトボと元いた場所に戻ろうとしている。みんな、自分が急にストリーキングをしたことや、犬だった記憶、サルでもあったような気がしてとにかく混乱していた。大半が、考える気力もほとんど無くして、家に帰ろうとしていた。


。。。



(ふぅっ・・・、これでやっと5丁目がメンテナンス完了か・・・。まだ半分も終わってない・・・。これは・・、夏までかかるかなぁ?)

 今日も土屋健人は、深夜の街を幽体でホッピングしている。あの日の後始末を、今となってはクラシックな幽体のホッピングで住民の内部に入り込んでは一人ずつ、行っているのだ。密かなトラウマになっている人、変な形で記憶が残っている人がいたら、健人なりのやり方で「癒し」を行っている。怪我をしている人がいたら、回復を早めるためにメタボリズムを加速させたりもした。

(カワイコちゃんだったら、何人でも苦にならないのに。老若男女いろいろいるとなると、全員制覇が結構大変なんだよな・・・。また、集合無意識の井戸を通って、あの力を使わせてもらえたら・・・、いや、駄目駄目。地道にいくしかないよ・・・。)

 あのことがあってから数日後、やっとベッドから起き上がれるほどに気力を回復した健人がまずやったことは、反省文のようにノートに書き込むことだった。

『集合意識の井戸にはもう入らない。僕にはまだとても使いこなせない。』

 健人が存分に使いこなせたつもりになっていたあの無限に溢れてくるような、大きくて熱いマグマは、あと少しのところで健人自身を取り込んでしまうところだったと思う。少なくとも、もう少し自分自身が鍛えられないと、あの井戸に近づくことすら危ないことだと、健人は学習した。

(でも一度、あの力の強さ、速さを味わっちゃうと、僕の幽体だけで街の人、一人ずつケアしてくのって、まどろっこしいなぁ。・・・と言っても、またあの力に頼っちゃうと、もう僕自身が無くなっちゃうかもしれないし・・・。もっと修行して、精神力を鍛えるまでは・・・、あの力は封印だね。少なくともしばらくの間は・・・。だけど、我慢できるかな?)

 健人が少し不安を感じて、自分の幽体の胸を触ってみる。はるか奥底で、井戸の淵がポコポコッと泡立ったような感触を覚えた。

(忘れようっ。そうだ、近くまで来たから、楓のところでも行って、ちょっとだけチョッカイかけてこよっかな? あの緑の屋根だよね。せーのっ、それっ! ・・・・おわっ、ちょっと跳びすぎた!)

 月が綺麗な冬の晩。半透明の健人の幽体は、目指した屋根をすっぽ抜けて、おかしな体勢でバタバタしながら、楓の隣の家へと入っていった。

 
 
< おしまい >


 

 

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