サイの血族


 

 



17


 品川には1時間とちょっとで着いた。

 海の方の出口と南川琴音に聞いていたので港南口にまわる。

 真新しいビルが建ち並ぶ無機質な街だった。

 チェーン展開をしているコーヒーショップに入りエスプレッソを頼んだ。

 席についてひとくちすする。味は梨花が淹れてくれたものとは比べものにならない。

 隼人は「品川駅にいる」と南川琴音にメールを送って昨日からの出来事を思い返していた。いや、一昨晩からの出来事だ。すべての出会いが宝物のように思える。

 何回セックスをして、何回出したのだろうと指を折って数え、意味がないと考え数えるのをやめた。

 そのとき返信が来た。

 早退してすぐに行くからいる場所を教えて欲しいという内容だった。隼人は店の名前を伝える。南川琴音は連絡を待ち望んでいたのだ。昨夜はどうやって自分を慰めていたのだろう。想像するだけで口の端が緩んだ。

 1時間もしないうちに南川琴音がやって来た。

 肩で息をしている。よほど急いで来たらしい。

「コーヒー飲む?」

「ううん。いい。うちに来て」

 隼人が笑顔で聞くと単刀直入な答えが返ってくる。

「こっちよ」

 隼人のシャツの裾を軽くつまんで店を出ようとうながす。

 南川琴音は「サイ」から覚めているはずだ。なのに暗示が強烈なのか、それとも隼人への想いが募っているのか、人目もかまわない感じで隼人に感情をぶつけてくる。

 キャメルのブレザー、エンジを基調にしたチェックのプリーツスカートと揃いのリボン、紺色のハイソックス、どちらかというと野暮ったいと感じる制服も南川琴音が着るとそれなりに見えるから不思議だ。磨き込まれて磨り減ったところのある黒いコインローファーさえお洒落に感じられる。キュッと締まった足首はカモシカを連想させた。

 南川琴音は足早に歩く。案内されたのは大きなタワーマンションだった。

「すごいマンションだね」

 エレベーターに乗った隼人が言う。

「両親が離婚したとき、財産分与でお父さんがくれたの。お父さんの実家は資産家だったから」

 言いにくいことをサラリと言ってしまうのは「気」のせいかもしれない。昨日の梨花もそうだった。

 扉が開くと30階だった。

「どうぞ」

 事務的な口調で南川琴音は一番奥にあるドアの鍵を開けた。隼人をリビングに案内して隣接したキッチンへ入っていく。

「斎部君、コーヒー好きみたいだけど、うちにはインスタントしかないの。それでいい?」

「あ、ぜんぜんいいよ。南川が作ってくれるならおいしいはずだもん」

 隼人は東京湾が一望できる窓からの眺めに見惚れながら答える。

 意識して言ったわけでもお世辞でもない。自然と口から出た言葉を聞いて南川琴音の頬が赤くなった。

「こっちへ座って」

 南川琴音はソファーの前のテーブルに半磁器の白いカップを置く。

「私着替えてくるから・・・」

「あっ、ちょっと待って」

「なに?」

「できれば、もうちょっとそのままでいてくれないかなぁって思って」

「どうして?」

「しばらく会えないから、制服姿の南川を見ておきたいんだ」

「あ・・・うん。だったらいいよ・・・」

 南川琴音は反対側のソファーに座った。

 脚の曲面に密着するプリーツスカートを履いているから、ふとももの奥は覗けないが白いひざ小僧がかわいらしかった。

 南川琴音の制服を自分の手で脱がせてみたかった。

「うん、おいしいよ」

 隼人が微笑む。

「お世辞言っちゃって・・・でも、斎部君に言われるとうれしいかも・・・」

「ねえ、ちょっと頼みがあるんだけど」

「なに?」

「南川の写メ撮りたいんだ。そしたら旅に出ている間も見れるから」

「う・・・うん・・・」

 南川琴音の返事は煮え切らない。

「だめ?」

 隼人はギリギリまで「サイ」を使わないでいようと思った。時間はたっぷりある。いままで、できなかった女子との会話を楽しみたい。その相手が南川琴音ならなおさらだ。

「いいけど・・・」

「けど?」

「それ、斎部君だけが見るんだよね」

「あたりまえじゃないか。他の誰に見せるの?」

「そうじゃなくて・・・どんなときに見るのかなって思って」

「そりゃ、南川の顔が見たいときだよ」

「それって・・・?」

 南川琴音は先を読むタイプだ。隼人に告白されるのではないかと期待しているらしい。

「迷惑?」

「そんなことないけど・・・」

「旅に出ている途中でも南川の顔が見たいんだ。頼むよ」

 隼人は手を合わせて頼んだ。

「わかった。いいよ・・・」

 そう言う南川琴音はどことなくうれしそうだ。

「よかった」

 隼人は最高の笑顔で携帯を取りだした。

 まずはソファーに座ったまま撮る。そして携帯を近づけてアップで撮る。

「なんか・・・恥ずかしいよ・・・」

「もう一枚。全身も撮りたいんだ。そこに立ってくれる」

「わかった・・・一枚だけだよ。なんか暑くなってきちゃった」

 南川琴音の顔は恥じらいで赤かった。

「わかった。もう、一枚だけにするから笑ってよ。南川の笑顔が携帯の中に入っていたら百人力だからさ」

「こう?」

 南川琴音ははにかんだように笑う。

 疑似シャッター音が響く。

「すごい。最高だ」

 隼人が画面を覗きながら言う。

「やだ、もう、暑い」

「そんなこと言わないで見てごらんよ」

「いいよ。自分の写真なんか見てもうれしくないもん」

「いいから、こっちに来て」

「う・・・うん・・・」

 根負けした感じで南川琴音は隼人の隣に来た。嫌々ではない。ただ恥ずかしいだけ、そして、隼人のそばに行くのがちょっとだけ怖かった。

 南川琴音は隼人の隣に座る。

「ほら」

「うん・・・」

 答えようがないのは当たり前のことだ。そんなことは隼人だってわかっている。ちょっと青春ごっこみたいなものを楽しみたい。

 隣に座る南川琴音からは学校の匂いに混じって花とか果実を思わせる甘い香りがする。葉月の香りとも似ているがちょっと違う。

「南川・・・」

「な・・・に・・・?」

 南川琴音から緊張が伝わってくる。そうとう意識しているようだ。

「南川って、すごくいい匂いがする。コロンとかつけてるの?」

「ううん・・・そんなの、つけてないよ・・・」

 そう言う顔は恥じらいと緊張のせいか真っ赤だ。

「うそ・・・ちょっと嗅いでみてもいい?」

 隼人が首筋あたりに顔を近づける。

「やだ・・・恥ずかしいよ・・・」

 そう言いながら南川琴音は逃げようとしない。

 それに気をよくした隼人は5センチくらいまで近づいてクンクンと鼻を鳴らした。

 このまま抱きしめてしまおうかと隼人は思った。

 それも悪くない。拒否られても「サイ」を使えばいいのだ。

「南川・・・」

 隼人は南川琴音の肩に手を置いた。

 ビクンとからだが震える。

「今日は泊めてくれるんだろ?」

 どうしてだか理由がわからなくても、南川琴音は隼人が泊まっていくことを知っている。だからコクンとうなずいた。

「うれしいよ。東京を出る前に、ずっと南川といられるなんて」

 そう言って隼人は南川琴音の肩を抱き寄せて、唇を軽く首筋に触れるくらいまで顔を近づける。

「やんっ・・・」

 南川琴音は身体を硬くして吐息とも聞こえる声を漏らした。

 このまま押し倒してしまっても大丈夫かもしれない。

 しかし、もうちょっと遊んでみたい。隼人の心には余裕すらあった。

「昨日は楽しかった。あれからずっと南川のことばかり考えてた」

「ほんと・・・に・・・?」

「そうだよ。ずっと・・・」

「わたしも・・・だよ・・・」

 これを言わせたかったのだ。「サイ」を使って聞き出したら面白味は半減する。

「南川も僕のこと・・・考えてたの?」

「う・・・ん・・・」

「僕のどんなこと?」

「あ・・・や・・・」

「なに?」

「やだ・・・恥ずかしい・・・」

「なんで? 僕のことを考えると恥ずかしいの?」

「いんべくん・・・きかないで・・・」

 南川琴音は両手で顔を覆った。

 昨日、家に帰ったら何度も隼人のことを思ってオナニーするように指示してある。トランス状態でなければ、そんなことを話せるわけがない。でも、南川琴音がそのことを思い出しているのは確実だ。

 隼人は肩にまわした手を二の腕の方までゆっくりと移動させていく。

 そして静かに力を入れて引き寄せた。緊張で硬くなった身体からは鼓動が伝わってくるように思えた。

「南川・・・」

 ほとんど耳たぶに唇を触れさせながら隼人がささやく。

「あん・・・」

 また南川琴音の口から甘い吐息が漏れる。

「キスしたい」

 隼人は素早く身体の位置を変えて両手で南川琴音の肩をつかんで目を見る。

 一瞬、「サイ」を使いたい欲求に駆られたが思いとどまった。

 南川琴音は潤んだ瞳を隼人に向けていた。

 隼人はさらに顔を近づけて軽く唇を重ねた。

 南川琴音はそのまま動かない。

 達成感があった。いくら「気」が発散されているとはいえ、「サイ」を使わずにキスできたよろこびは大きかった。

 慎重に、静かに隼人は舌を差し込んで南川琴音の唇を開けようとした。

 最初のうちは固く閉じられていた唇の力が抜けていくのがわかった。

 身体の力も抜けてきているようだ。でも息は荒くなっている。

 やがて隼人の長い舌が南川琴音の口の中へ侵入していく。

 歯茎をなぞり、舌を絡めると南川琴音はたどたどしく応えた。

 しばらく、そんなシチュエーションを楽しむ。

 踊り出したいくらいうれしかった。

 しかし、もう隼人はそれくらいのことで満足できない。

 手の位置をバストの方へ移動させる。

「だめっ・・・」

 ブレザーの上からかわいい膨らみを感じ取ったとき南川琴音は両手を突っ張って隼人と身体を離した。

「いやなの?」

 隼人は冷静だ。これくらいの反応は想定内だからだ。

 真っ直ぐ南川琴音の瞳を見つめながら言う。

 南川琴音はうつむいてしまう。

「こわいの・・・」

「大丈夫だよ。僕に任せてくれれば・・・もう一度、僕の目を見て」

「うん」

 南川琴音はふたたび顔を上げる。

 しかし、ここでも隼人は「サイ」を唱えなかった。

「嫌なことはしない・・・でも、僕は南川が欲しい・・・いや?」

「いや・・・じゃないけど・・・」

 南川琴音の声は震えている。

「だったら、もう一度キスさせて」

 返事を聞かずに隼人は南川琴音を引き寄せ、そして唇を重ねた。

 こんどは舌を差し込んでも抵抗はなかった。

 あの甘い体臭が強くなったような気がした。緊張で汗をかいたのか、体温が上がったのか、その両方かもしれなかった。

 隼人はブレザーの下に手を滑らせるように入れた。そして、位置を上へと移動させる。ブラジャーの硬い感触の下に柔らかい肉があるのがわかった。

 やさしく乳首のあたりを撫でる。梨花が長谷川恭子にしていたやり方を思い出していた。

 ときおり南川琴音の身体がヒクンと震える。

 隼人は次の段階に進む。まずは左手で背中をホールドしてから右手を首の方へ移動させた。そしてリボンのストラップについている樹脂製の留め具を外した。首元が緩んだのを確認してブラウスのボタンを外していく。

 任せてと言ったのが効いたのか南川琴音は抵抗しない。

 それどころか、欲しいと言っても受け入れているのだから覚悟を決めてしまったのかもしれない。

 ボタンをすべて外して隼人は少し身体を離した。

 ブラウスの下に手を入れて肩へやると、二の腕の方へ滑らせるようにしてブラウスとブレザーを一緒に脱がしてしまう。わりと地味めのパステルイエローのブラジャーが南川琴音っぽいと思った。

 隼人はここが山場だと思った。ブラジャーさえ取ってしまえば、そして乳首にキスできれば、あとはうまく行くように思えた。だから慎重に、しかも素早く事を運ぶことにした。脱がせたブラウスとブレザーは手首から抜かず、手を背中にまわしてホックに指をかける。そしてバストを剥き出しにしてしまった。

 南川琴音を見ると目を閉じて震えていた。

 この時点で隼人は「サイ」を使うのは最後の手段にしようと決めていた。自分の力でどこまで行き着きつけるのか試してみたかった。

 隼人はブラジャーを持ち上げて乳首にキスをした。

「ひゃん!」

 南川琴音はおかしな声をあげてビクンと震えた。

 隼人は行為をやめない。

 未発達でまだ硬さの残るバストをやさしく撫で乳首を舐めた。

「あっ・・・や・・・やんっ・・・」

 いつもはクールにリーダーシップを発揮する南川琴音からは想像できないかわいらしい喘ぎ声だ。

 すでに隼人はスカートのホックを外してジッパーを下ろしていた。

 そこまでやってからブラウスとブレザーの袖を手首から抜いた。

 隼人がここまで冷静に事を進められたのは、いざとなったら「サイ」を使えるという安心と、ここ2日間の経験が大きい。それに「気」を放っているのも一因かもしれない。

 逆に南川琴音は昨夜、初めてのオナニーを経験して心が蕩けてしまっている。

「南川・・・すごく・・・きれいだ」

 隼人は南川琴音の潤んだ瞳を見つめながら言う。

「いんべくん・・・はずかしい・・・から・・・」

「こんなに、きれいだったなんて・・・僕は幸せ者だね・・・」

 事実、南川琴音の裸体は美しかった。それだけに隼人の言葉は真実として伝わる。

 それに、隼人は大事な部分を省略して南川琴音がすべてを許したかのように言った。

 隼人はやさしく南川琴音をソファーに押し倒し、またキスをした。

 舌を絡ませながら、隼人の手はバストから下腹部へと移動していく。

 その指がショーツにかかった。指がショーツの中へ滑り込む。

 一瞬、南川琴音の身体が硬くなった。

 しかし、隼人が親指と人差し指の股でショーツを挟んで下ろしてしまうと、すべてを覚悟したかのように力が抜けた。

 ここから先は楽だった。

 隼人は素早くショーツとスカートを抜き取り、ハイソックスも脱がせてしまう。

 ついに南川琴音は生まれたままの姿になってソファーに横たわっていた。

 青い果実といった印象でまだ硬さは残っているが、バランスの取れた美しい身体つきだった。

 茂みも淡く初々しい。

「きれいだ・・・」

 隼人はつぶやくように言った。

「いや・・・」

 その言葉を聞いて南川琴音は両手で顔を覆ってしまう。

 恥ずかしさが先に立って胸や秘部を隠すということに考えがまわらないらしい。

 そんな南川琴音を隼人はかわいいと思った。そして、このタイミングを利用して急いで服を脱いだ。

 南川琴音が気がついたときには、裸になった隼人が乳首にキスをしていた。

「あっ・・・やぁ・・・」

 電気が走ったような衝撃に南川琴音はビクンと震えた。

 もう隼人の指先は股間に達していた。

「ああっ・・・そこは・・・だめぇ・・・」

 言葉で抗いながら身体をくねらせる姿はとても嫌がっているようには見えない。すでに隼人の指は敏感な部分をとらえている。

 隼人は、昨夜、南川琴音がどのように自分を慰めていたのかを想像しながら愛撫を続けた。

 もう屹立は痛いほど膨らんでいる。しかし、南川琴音の秘部はスムーズに挿入できるほど濡れてはいない気がした。舐めて潤すのも手だが、必死で恥ずかしさを堪えている様子から抵抗される可能性も高いと思った。

 試しに蜜壺へ指を入れてみる。第一関節の半分くらいだ。

「あぁぁんっ!」

 南川琴音はいままでにないほど激しく反応した。

 濡れてはいた。梨花や長谷川恭子と比べるのはいけないのかもしれなかった。隼人はできるだけスムーズに挿入できるよう秘肉へ蜜を塗りひろげた。

「いっ! いやぁっ!」

 南川琴音は叫びながら腰をバウンドさせた。

 頭の中のメーターは作動していない。どうやら「サイ」にかかっている女でないと反応しないようだ。隼人は南川琴音の反応が感じている結果なのか、それとも初めて男の指が触れたショックのせいなのか判じかねていた。前者ならもっと愛撫して潤わせればいいだろう。舐めても抵抗される可能性は低い。問題は後者だ。無理なことをすれば逃げられてしまうかもしれない。

 隼人はなにを優先すべきか考えた。

 まずは処女を奪って既成事実を作ってしまうのが第一だと思った。

 悦びは「サイ」を使えば後からでも教えられる。

 この期におよんで南川琴音に同意を求めるのもかっこ悪い。

 隼人は手のひらに唾液を落として、それを屹立に塗りひろげた。

 そして腰を膝の間に割り込ませる。

 南川琴音の怯えたような目が隼人へ向けられる。それに微笑みで応えながら屹立に手を添えて先端を蜜壺へあてがった。

「あうぅぅぅっ!!」

 先端が挿入されたとき南川琴音は背中をのけ反らせて叫んだ。

 かなりきつい感じだった。

 隼人は慎重に結合を深めていく。

「いたっ・・・ああい・・・おかあさん・・・おかあさぁん・・・」

 喪失の痛みと葛藤を南川琴音は母を呼ぶことで堪えていた。

 いじらしいと思った。

 しかし、そのままじゃいけない。この機会に自分の存在を意識に刻み込むべきだと隼人は思った。

 隼人は腰に力を入れて一気に進んだ。

「あぁぁぁぁっ!!」

 南川琴音が高く叫ぶ。

「南川・・・やっと、ひとつになれた・・・大好きだよ」

 隼人は宣言するように言った。

「ああっ・・・いんべくん・・・ほんとに・・・」

「もちろんだよ」

「うれしい・・・わたしも・・・大好き・・・」

 南川琴音は隼人の背中に手をまわして引き寄せながら続けた。

「おねがい・・・離さないで・・・」

 いままでの気持ちに嘘はなかったが、その言葉を聞いて、隼人は本気で南川琴音のことが愛おしくなった。

「離すもんか。僕らはひとつだ」

 隼人も力を入れて抱きしめる。

 結ばれたという実感があった。

 胸の奥が妖しくざわめいた。「サイ」を使っていないのに、あの感覚があった。熱さの種類が違うようにも思えたが渦がはっきりと感じられた。

「いんべ・・・くん・・・ああっ・・・」

 律動する隼人にしがみついた南川琴音はすべてを委ねた。

 南川琴音は「ひとつになった」と言われたことがうれしかった。

 それに、痛みの中に妖しい疼きを感じていた。蜜壺を核にして下半身が溶けたようにも感じる。

「ああ・・・おかしく・・・おかしくなるぅ・・・」

 隼人になら何をされてもいいとさえ思った。

 隼人の動きがいたわりに満ちたものであるのを本能的に理解していた。

 事実、隼人は南川琴音のことを気遣って、できるだけ痛みを与えないよう慎重に動いていた。それなのに、あの渦を中心に全身が火のように熱い。大きなかたまりが下半身の中で膨れ上がっていく。そして臨界を迎えた。

 精液が大量の「気」とともに屹立から放出された。隼人は頭の中で轟と音がしたように感じた。それほど激しい放出だった。

「いやぁぁぁっ!!!」

 衝撃だった。蜜壺の中で火山が噴火したように南川琴音は感じていた。

 それは熱く満たされるメスの幸せだとも感じた。

 意識はしていなかったが身体が大きく痙攣していた。

 隼人は星空を見ていた。正確に言えば意識が飛んでいた。闇夜の空間をものすごい勢いで飛んでいるような気がした。なぜだかわからないが、自分自身が「サイ」にかかったのだと思った。

 しかし、それは一瞬の出来事だったようだ。

 目を開いたら隼人の下には南川琴音が震えていた。

「南川・・・」

 無意識に南川琴音の名を呼んでいた。

 自分の跡継ぎを生むのはこの女だという漠然とした予感があった。

 そう思うと余計に愛おしさが募る。

「いんべ・・・くん・・・」

 南川琴音は隼人の呼びかけに答える。

「すてきだった。ありがとう。南川は僕の大切な女性になったんだ」

「うん・・・」

 南川琴音は恥ずかしそうにうなずく。

 しかし、隼人の言葉が持つ真の意味はわかっていない。

「南川・・・」

「なに?」

 南川琴音の声は甘えるような響きがあった。

「僕は中で出しちゃった。でも安心して。なにがあっても僕は南川のことを守るから。約束する」

「斎部君・・・うれしい・・・ありがと・・・大好きだよ」

 隼人にしてみれば雄大が言ったことをそのまま伝えるわけに行かないから、嘘がない範囲で安心させるためにそう言ったに過ぎない。しかし、南川琴音の受け取り方は違うようだった。

 ちょっとだけ隼人は焦った。

 たぶん、南川琴音は自分の言葉をプロポーズだと思ったに違いない。

 もうひとつ気になることがある。

「サイ」を使っていないのに力が増した実感がある。雄大は「サイ」を使えば使うほど力は増すと言っていた。なのに今回は違う。それに長谷川恭子や梨花と交わったときに感じた増し方と比べると規模が桁外れに大きいし、渦の形や色が変わってしまった感じなのだ。頭の中ではまるで声がしない。

「どうしたの?」

 隼人が考え込んでいるのを見て南川琴音が心配そうな顔になる。

「あ・・・ごめん。明日になったら行かなきゃならないから・・・」

 隼人が誤魔化した。そして無理に笑った。

「どうして行かなきゃならないの?」

「うん・・・」

 説明するには「サイ」をかけなければならない。

 理解してもらうには、それしか方法がないことが隼人にはわかっていた。

「南川・・・僕を見て」

「うん・・・」

 隼人は「サイ」を唱えた。


18


 虚ろになった南川琴音の瞳を見ながら、隼人は何から説明していいか悩んだ。

 ありのままを話しても、まだ隼人自身も理解しきっていないことがある。

 それに南川琴音は隼人の心の中で葉月と同じくらい大きな存在になっていた。

 南川琴音は自分の子供を産む運命の女だという予感がある。

 そのことから話そうと思った。

「南川、よく聞いて欲しい。たぶん南川は僕の子供を産む。さっきの結果じゃなくて、いつかはわからない将来の話だ。僕は『サイ』という日本に古来から伝わる一族で修行の旅に出る途中だった。僕はたった一人の継承者なんだ。『サイ』は人を操るあやかしの術を使って影から社会に貢献してきた。僕の使命はこの旅で力を完成させること、そして、跡継ぎを産む女性を見つけることなんだ。南川はきっと僕と一緒になる運命だったんだ」

「サイ」にかかった南川琴音は無表情で話を聞いている。

 隼人は頭のいい南川琴音が話を理解してくれるよう祈りながら続ける。

「『サイ』の力は女性を惑わす。何でも言うことを聞いてしまうんだ。昔はこの力が政治に利用されていた。力を完成させるにはいろんな女性と関係しなきゃならない。でも南川にはわかって欲しい。南川が特別な存在だっていうことを。虫のいいお願いだと思われるかもしれないけど、サイの一族は世俗の常識とは無縁なんだ。父さんの受け売りなんだけどね。でも、力を手に入れてから僕にもそれがわかった。信じて欲しい。僕は『サイ』を使って南川を抱いたんじゃない。そうしたくなかったからだ。だから僕は南川と結ばれたことが本当にうれしいし大事にしたいと思っている。いまの南川は僕の言うことに従うしかない。僕の話を聞いて嫌だと思ったらそう言って欲しい。そしたら僕は出ていく。もう一生会うことはないかもしれない。でも、僕は南川を忘れない」

 隼人は一気にしゃべった。

 南川琴音は呆然と隼人の話を聞いていた。しばらく待っても反応はない。まるで人形のようだ。

 悲しみがこみ上げてきた。

 もう、ここにはいられないと隼人は思った。

 順調だと思っていた旅に意外な落とし穴があった。欲望は満たせても心は満たせなかった。

「南川・・・服を着て」

 隼人が命ずる。しかし南川琴音は虚ろな目を前に向けたまま動かない。

 歯車が狂ってしまったようだった。

 このまま南川琴音が人形のようになったままだったらどうしよう。隼人は恐怖を感じた。

「サイ」を解くしかないと思った。しかし、解いてしまえば、かかっているときの記憶はないはずだ。しばらく考えた後で隼人は言った。

「目が覚めても南川は僕が言ったことを忘れない。でも他人に教えることはできない。僕と南川の秘密だ」

 念のため手を額にかざして強く祈りながら隼人は「サイ」を唱える。

 南川琴音は目を閉じて脱力した。

 その姿は眠っているようにも見えた。

 
 


 

 

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