サイの血族


 

 





「休学?」

「はい。父の手紙も持って来ました」

 職員室の一角。長谷川恭子の机の前で隼人は手紙を差し出した。

「いつから?」

「今日からです。家庭の事情があって」

「ずいぶん急なのね。事情って・・・」

 長谷川恭子は手紙を開きながら言った。しかし雄大が書いた手紙には「よんどころない事情」としか書いていなかった。

「あまり人には言えないこと?」

 長谷川恭子は小声で言った。

「そうですねぇ・・・」

 隼人は口ごもる振りをする。どうやったら長谷川恭子と二人きりになれるのか考えていた。

「だったら進路指導室で話を聞かせてくれない?」

 チャンスは向こうからやって来た。隼人は心の中でガッツポーズを決める。

「はい」

 隼人が答えると長谷川恭子が立ち上がった。

 ダークグレーのスーツ姿からもスタイルのよさがわかる。ブラウスの衿を出し第一ボタンを外した胸元から蠱惑的な肌が見える。その下にあるバストの膨らみがスーツの生地を持ち上げている。

「行きましょう」

 靴音を響かせて長谷川恭子が歩き出す。

 スカートに包まれた丸いヒップが歩みに合わせてプリプリと揺れた。

「差し支えのない範囲で聞かせてくれる?」

 進路指導室の机で向かい合って座ると長谷川恭子はそう切り出した。

 隼人はものも言わずに手を差し出す。手のひらを見せるようにした。

 長谷川恭子が怪訝な顔をするのにかまわず隼人は「サイ」と唱えた。

 手のひらから力がほとばしっていく。

 長谷川恭子の瞳から光が消えた。トランス状態に陥ったことは明らかだった。

 隼人は立ち上がり進路指導室の鍵をかける。

 生徒たちの話し声や笑い声が渾然一体となってワーンと反響していた。

 ホームルームがはじまるまで30分しかない。

 隼人が振り向く。

 長谷川恭子は座ったまま微動だにしなかった。

 その顔を見て、隼人はあらためて美人だと思った。

 たしか26才。英語教師。ニューヨークに語学留学をしていた才媛。その美貌から男子生徒だけでなく、女子からも憧れのお姉様的存在でファンが多い。性格も明るく生徒たちにも親切だ。女子剣道部の顧問をやっていて、朝練で早く登校しているのを隼人は知っていた。

「先生」

 隼人が呼びかけると長谷川恭子は無表情に「はい」と返事をした。

 その姿を見て隼人はスーツを着させたまま犯したいと思った。

 時間もないし、ちょうどいい。

「僕はこれから先生を抱きます。僕が触ると先生はいままでにないくらい感じてしまいます。そして、入れられただけで絶頂を迎えます。いいですね」

「はい・・・」

 あいかわらず表情からは感情が読み取れない。

「カーテンを閉めて、こっちへ来て」

 長谷川恭子が座っている窓際では校庭から見えてしまう可能性があった。念のためにカーテンを閉めさせる。

 長谷川恭子は言うとおりにして隼人の前に立った。

「先生は処女?」

「・・・いいえ・・・」

「彼氏がいるんだ」

「いまは・・・いません・・・」

「じゃあ、最近はセックスしてないの?」

「はい」

「最後にしたのはいつ?」

「去年のクリスマスでした・・・」

「そのあと別れちゃったんだ」

「はい・・・海外へ転勤して・・・疎遠になってしまいました・・・」

「じゃあさみしいね」

「はい・・・」

「セックスは好き?」

「愛されているのが感じられて・・・好きです・・・」

 普段は上の立場にいる教師からこういう言葉を聞くとゾクゾクした。

「じゃあ、これから僕が先生を愛してあげる。ブラウスのボタンを外しておっぱいを見せて」

 言われると同時に長谷川恭子はスーツとブラウスのボタンを外しはじめる。

 スカートの中に入れられていたブラウスの裾を引っ張り出してボタンを全て外すと、淡い紫色をしたブラジャーのフロントホックを外した。「ふるんっ」という感じで豊かなバストがこぼれ落ちた。薄茶の乳首は小ぶりで愛らしい。

 隼人は手を伸ばしてその乳首にそっと触れる。

「はぁん・・・」

 甘い吐息を漏らして長谷川恭子は身体を震わせた。

「感じる?」

「はい・・・すごく・・・」

「じゃあこれは?」

 隼人は乳首を口にふくむ。

「はうっ・・・」

 それだけで長谷川恭子はビクンと震えて身体を硬くした。

 隼人はバストを持ち上げるように揉み、その感触を楽しむ。葉月よりも量感があってマシュマロのように柔らかい。喘ぎとも吐息ともつかぬ声が連続して聞こえる。

 隼人は長谷川恭子の後ろへと立ち位置を変え、両手を前にまわしてバストを揉みしだいた。男子たちの妄想を実現したかたちだ。

 長い髪に顔を埋めるとコロンの香りに混ざってメスの匂いがした。

「先生、気持ちいい?」

 耳元でささやく。

「ああっ・・・すごく・・・気持ちいい・・・です・・・はぁんっ・・・」

 長谷川恭子は息を荒げ身体をくねらせながら答える。

 隼人は乳首をつまんで軽くねじってみる。そこは最初に触ったときより明らかに硬くなっていた。

「はぅぅぅっ・・・」

 長谷川恭子は身体を「く」の字に曲げ、ヒップを隼人のあそこへ押しつけるようにして喘いだ。

「先生、僕が欲しいんだね」

「はい・・・おねがい・・・欲しいの・・・あそこが熱くて・・・たまらないの・・・」

 授業をしているときには想像がつかないほどの甘い声で長谷川恭子が懇願する。

「もちろん、あげますよ。パンティを脱いで。スカートはそのままでいいから」

「はい・・・」

 長谷川恭子はセミタイトのスカートをたくし上げてストッキングと一緒にショーツを下ろした。

「靴を脱いで、そのパンティを僕にわたして」

 隼人は身体を離して言う。

 長谷川恭子は言うとおりにして、足を交互に持ち上げてストッキングとショーツを引き抜く。そして隼人にシルクのショーツを差し出した。純白の布地、そのクロッチの部分は蜜で濡れてテラテラと光っていた。

「すごく濡れてるね」

 隼人はそう言いながら濡れたクロッチの部分をペロリと舐めた。

 かすかに酸味を伴った匂いと味がした。

「ああっ・・・」

 隼人の行為を見て長谷川恭子が喘いだ。感情移入しているのか、それとも「サイ」の力なのか隼人にはわからなかった。

「見ているだけで感じるの?」

「ああっ・・・わかりません・・・まるで・・・じかに・・・舐められてるみたい・・・なんです・・・」

「ほんとに? こうすると・・・」

 隼人はまた蜜で濡れている部分を舐めた。こんどは舌先を何度も往復させる。

「ああっ! あんっ! どうして・・・ああんっ!」

 長谷川恭子は激しく喘いだ。

 隼人は、これも「サイ」の力なのだと思った。

「先生、イッてもいいよ」

 そう言って隼人は舌先を細かく震わせた。

「ああっ! どうして・・・もう・・・あんっ! イク・・・もう・・・イッちゃいます・・・あああんっ!」

 立ったまま長谷川恭子はビクンビクンと痙攣した。

 また胸の中のかたまりに変化があった。こんどは重みが増した感じだった。

 頭の中で声がした。ショーツを持っていれば長谷川恭子を操ることができると声は告げていた。ワラ人形のようなものなのだと隼人は納得してショーツをポケットに仕舞う。

「先生、机に手をついてお尻をこっちに向けて」

 隼人は命令を下す。もう時間がない。

 これからどうされるのか、なにもかもわかった様子で長谷川恭子は机に両手をついてヒップを突き出した。

 低いヒールの上にある締まった足首から徐々に太さを増していく脚は彫刻のように美しかった。

 隼人はスカートの裾を持ってまくり上げていく。

 白いボールを二つ並べたような見事な双丘が露わになった。

 隼人はしゃがんで秘部を覗き見る。

「よく見えるように、もっと脚を開いて」

 命令どおりに長谷川恭子は脚を開き、さらにヒップを突き出した。

 茂みが蜜で濡れて大陰唇にへばりついている。

 そこを指でひろげると蜜壺の入り口が開く。粘度の高い蜜が糸を引いていた。

「あうぅぅっ・・・」

 それだけで長谷川恭子は甘い声を漏らす。

 時間がないのはわかっていたが、隼人はどうしても直接舐めてみたかった。

 舌先を尖らせるようにしてクリトリスから蜜壺、そしてアヌスまで舐め上げていく。

「ああっ! ああんっ!」

 長谷川恭子はいままでにないくらいの高い声で喘いだ。

「すごいや。これが先生のオマンコなんだね。先生はこんなにエッチだったんだ」

 そう言いながら隼人は人差し指を蜜壺に挿入した。

 熱く濡れた内部の感触を楽しむ。指の腹で探っていくと少しザラついた場所があった。本能に導かれるままにそこをこする。

「ああっ! そこっ! あああっ!」

 激しい喘ぎと同時に隼人の手がびしょ濡れになった。

 長谷川恭子は痙攣を繰り返している。

 漏らしてしまったのかと思ったがそういう匂いではない。

「これ・・・なに・・・?」

 ひとりごとのつもりで隼人が言った。

「わたし・・・感じすぎると・・・潮を・・・吹いてしまう・・・んです」

 恥ずかしそうに長谷川恭子が答える。

 女体の神秘だと思った。

 隼人は立ち上がってズボンのベルトを外して屹立を取り出した。

 これ以上楽しんでいる時間はない。

 先端を蜜壺へあてがい一気に挿入した。

「ああぁぁぁんっ!」

 満たされたよろこびに長谷川恭子は高く喘いだ。

 腰を押しつけて結合を深くして挿送を開始する。

 すでに長谷川恭子が絶頂を迎えたことを胸の中の熱気が教えてくれていた。

 隼人は両手で長谷川恭子のバストを揉みながら挿送を続ける。

 屹立の付け根が熱くなり欲望が一気に放出された。

「はうぅぅぅっ!!」

 奔流を感じた長谷川恭子は高く叫んで硬直した。

 最後の一滴まで注ぎ込んだ隼人が身を離すと長谷川恭子は崩れ落ちるようにしゃがみこんだ。

 乱れたスーツからバストや秘部を露わにしたままで倒れている長谷川恭子。それはひどく淫らな光景だった。

 ホームルームの時間を告げる予鈴が鳴った。

「先生、身支度をして。はやく」

 長谷川恭子はよろよろと立ち上がり身なりを直しはじめる。

「そのまま聞いて。先生のパンティは僕がもらっておく。それから、僕の休学の理由は聞けないままだけどしかたないと納得した。いいね」

「はい」

 靴を履いてスカートの裾を引っ張って直している長谷川恭子は抑揚のない声で答えた。またトランス状態に戻っているらしい。

 ズボンを直した隼人は手をかざし「サイ」と唱えた。

 長谷川恭子がビクンと震えた。




「事情があって斎部隼人君はしばらく学校をお休みします。今日、来たのはみなさんに挨拶するためでホームルームが終わったら下校するそうです」

 隼人と長谷川恭子は滑り込みでホームルームの時間に間に合った。

 進路指導室での出来事など誰も気づかない。いや、想像できる生徒などいないだろう。それほど長谷川恭子の態度はいつもどおりだった。だいたい長谷川恭子自身が隼人に抱かれたことを覚えていないのだ。それが隼人にはちょっと悔しかった。

 いつものとおりホームルームは進行していく。

 クラスの誰かに長谷川恭子はノーパンだと教えたらどうなるだろう。しかし、隼人には猥談を交わすような友だちがいない。それどころか隼人の休学に関心を示すクラスメイトなどいなかった。

 サイの力を使ってクラスを支配したい欲望に駆られた。しかしサイは男には働かない。

「くそっ」

 隼人は心の中でつぶやいた。

 椅子に浅く腰掛け足を投げ出しポケットに手を突っ込んだ。よくあるふてくされたポーズだ。指先に当たる柔らかい布を無意識につまんだ。

 次の瞬間、長谷川恭子の端正な顔が歪んだ。

「あん・・・」

 そう言ったように聞こえた。

 教壇の机の角をつかんでモジモジしている。

「みなさん、ごめんなさい。すこし早いけどホームルームは終わりにします。一時間目の授業がはじまるまで席を立たないように・・・」

 そう言い残すと、よろめくように教室を出て行った。

「おい、ハセキョーったらトイレに入っていったぞ」

 出入り口に近いところに座っている男子生徒が教室の外に顔を出して様子をうかがって言った。長谷川恭子は一部の男子生徒たちからハセキョーと呼ばれている。

「うんちかな?」

「ひえ〜っ、なんかエロくね?」

 男子たちが騒ぎ出す。

「ちょっと! やめなさいよ。あなたたち!」

 ひとりの女子生徒が立ち上がって言った。

 クラス委員の南川琴音だった。

 ぱっちりとした瞳に怒りが宿っているのが誰にでもわかった。

 衣替えを迎えたばかりのブレザー姿が凛々しく見える。

 クラスが静まりかえった。

「まったく、いやらしいんだから。場所をわきまえなさいよ」

 南川琴音はそのまま歩き出して隼人の机の横で立ち止まった。

「斎部君、ちょっといい?」

「なに?」

 南川琴音に話しかけられて隼人はうろたえた。自分のやった悪戯がバレてしまったのではないかと思ったからだ。

「どれくらい学校を休むの?」

 そうではないことがわかって隼人はホッとする。

「まだわからないんだ。当分・・・かな・・・なんで南川がそんなこと気にするの?」

「だってクラスメイトでしょ。勉強とか、どうするのかと思って」

 面と向かって南川琴音と話をするなんて初めてじゃないかと隼人は思った。

「テキトーにやるから大丈夫だよ」

 あまり、関わりたくなかったからそう答えた。

「だめよ。私が斎部君のノートを作ってあげる」

「そんな・・・いいよ・・・南川にそんなことしてもらう理由ないし」

 なんで南川琴音が自分のことをかまうのだろうと思いながら隼人は答える。

「クラスメイトが困っているなら助けて当然じゃない」

 どうやら、南川琴音はなにか誤解しているようだった。

 そのときチャイムが鳴った。

「斎部君、遠慮しないで。これ私の電話番号とメールアドレス。必ず連絡してね」

 南川琴音は持っていたメモ帳に番号とアドレスを書くとページを千切って隼人に渡した。

「わかった・・・」

 そう答えるしかなかった。

 隼人は立ち上がって教室を出て行く。荷物など持ってきていなかったから身軽だ。長谷川恭子のことがちょっとだけ気になったが、授業がはじまった学校では何もできない。

 これから旅に出る支度をしなくてはならない。

 力を得た翌日には家を出なくてはいけないと雄大から聞かされていた。




「どうだった。首尾は?」

 帰宅した隼人を見るなり雄大が質問してきた。

「あ・・・うん。ちゃんとかけられたよ」

「やったんだな?」

「そんな露骨な言い方しないでよ」

 隼人は恥ずかしくなって顔をしかめる。

「恥ずかしがることはない。斎部家の男なら当然のことだ。それに父としてではなく、師匠としては顛末を聞く必要がある。ちゃんとイかせたんだな?」

「うん。父さんに教わったとおり最初に暗示をかけたからね」

 学校へ出かけるとき雄大は隼人に術をかけた直後に暗示を与えるといいと教えていた。術者の暗示は催眠術などよりずっと強力でその後も消えることはないという。

「でも、すごかったよ。先生ったら潮を吹いちゃったんだ。知ってる、潮吹きって?」

「我らにとっては珍しいことではない。しかし、初めて他人に術をかけて潮を吹かせるとは優秀だな」

 雄大はニヤリと笑った。

「それに・・・」

「どうした?」

「先生のパンツもらったんだ。それを触ったらホームルームの時間なのに、先生がおかしくなっちゃたんだ」

「もう、そんなことができるようになったのか・・・」

 雄大は呆れたようにいった。

「おかしい?」

「いや、修行を積めばできるが・・・驚いたな・・・お前の素質は想像以上らしい。しかし、その術は滅多に使ってはならない。失敗すると『マ』を生じてしまう」

「マ?」

「そうだ。お前、どこまでやったんだ?」

「先生のパンツを脱がせて、エッチな汁がついたところを舐めたらじかに舐められているみたいだって言われて、そのまま舐め続けたらイッちゃったんだ。その後、先生のパンツをポケットに入れていて・・・ホームルームのときにちょっと触ったらおかしくなって・・・」

「ならいい。しかし気をつけなくてはならない。その下着を使って女教師を欲情させて他の男に抱かせると女は『マ』に変わってしまうのだ。『マ』は『サイ』を滅ぼす。術を使って命令で他の男に抱かせるのは問題はないのだが、物を使うと「マ」が生じてしまうのだ」

「どういうこと?」

「女がお前を殺してしまうということだ。『マ』に対抗するには肉親の命が必要になる。たとえば私、そして葉月だ」

「そんなのまっぴらだ。どうすればいいの、これ?」

 隼人はポケットからショーツを取り出した。

「女教師に返すのが一番だ。執着はないんだろ?」

「うん、そうするよ。先生がノーパンで授業をするんだって思ったらおもしろくなっただけだから」

「他になにか変わったことはなかったか?」

「そうだなぁ・・・そういえばクラス委員の南川ってやつにノートを作っておくって言われた。いままで、まともに話をしたことなんてなかったのに」

「う〜む、かなり気が出ているようだな」

「気?」

「お前、これからモテるぞ。困るくらいにな」

「どういうこと?」

「『サイ』の正体は好意以上の感情を抱かせる気だ。そのエッセンスを手のひらから放出する術だと言っていいだろう。どんな女も自由になる。力を得ると、その気が少しだが発散されるようになる。もともとお前に好意を持っていた女は『サイ』を使わなくてもなびいてしまう」

「フェロモンみたいだね」

「それ以上だ。いや、次元が違うかな」

「でも、その南川ってやつはクラス委員で超優秀で僕に好意を持っていたなんて思えないんだけど」

「じゃあ、お前が好意を持っていたんじゃないか?」

「う〜ん・・・たしかにかわいいし、気にはなっていた。でも、すごくきつい性格でクラスの中で敵うやつなんていないくらいなんだよ」

「それっきりか?」

「いや、電話番号とメールアドレスを書いた紙をもらった」

「ならば確かめてみることだ。今夜の寝床だって力を使って確保しなければならん」

「もう、ここへは帰れないんだ」

「磐座に立って力を完全なものにするまではな。そして、ふたたび葉月を抱いたとき、お前は正統の跡継ぎになる」

「でもさ」

「なんだ?」

「誰かに術を使ってクルマで吉野まで連れて行ってもらうことだってできるんじゃない? そうじゃなかったら、お金をもらって新幹線で行くとか」

「だめだ」

「どうして?」

「乗り物で移動することはできないんだ。お前の足でたどり着かなきゃならない」

「時間がかかりそうだね」

「私のときには1ヶ月以上かかった。途中で、いろいろ寄り道をしたからな」

 雄大はちょっと下卑た笑みを浮かべた。

「楽しいって言ってたもんね」

「そうだ、ひとつ言い忘れていたことがある。力を使っても、必ずその女と身体を交えなくてもいい。頼み事をして相手をよろこばすだけでも力は増す。もちろん量的には劣るが」

「よろこばす?」

「頼み事をして、それがかなってお前がよろこべば、相手もよろこぶってことだ。その気持ちが力を育てる」

「気になっているんだけど、力ってどれくらい使えるものなの? たとえば一日に一回とか」

「精が続く限りは何回でも使える。逆に女を抱く気がしないときは頼み事をするにも使えなくなる」

「もうひとつだけ聞きたいことがあるんだ・・・」

「なんだ?」

「あの・・・姉さんは・・・」

 家の中には葉月の姿が見えなかった。旅へ出る前に顔だけでも見たかった。

「因果を含めて大学へ行かせた。お前が旅に出るまでは帰っては来ない。お前が必ずここへ帰ってくるためには必要なことだ。旅先に呼び出すこともできない」

 なるほど、そういうことかと隼人は思った。旅に出たまま帰らない「サイ」もいたのだろう。

 隼人は自分の部屋で旅支度をはじめた。

 
 


 

 

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