職員室の補習


 

 




 みーんみんみんみんみんみん・・・・・
 蝉の大合唱が世界に響く。
 強い日差しが外を照りつける中、月野 硯(つきの すずり)は冷房の効いた職員室に一人いた。
 カァーンと乾いたいい音がつけっぱなしのラジオから響いてくる。

『打ったぁーっ!! 打球はセンターへと伸びていく! 捕った、バックホームッ!! クロスプレーッ!! セーフッ、セーフですっ!! 先制点は瑞雲学園がとりました!!』

 実況のやかましい声がラジオから響いてくる。それを聞きながら硯はぺらりぺらりと書類を捲る。

「はぁ・・・何で誰もいない学校にいなくちゃいけないのよぉ」

 目を通した書類の束をぽんと机の上に放り投げて硯はんーっと体を伸ばす。くきくきと首を動かし固まった筋肉を解きほぐす。首を動かした反動でウェーブのかかった髪の毛が宙で踊った。
 夏休みの一日。何の偶然かどこの部活も休みが重なったこの日、校舎内には当直である硯しかいない。否、いないはずだった。

「失礼します」

 ガラリと職員室のドアが開かれる。思わずその声の方へと向いた硯の瞳には一人の男子生徒が映っていた。

「? あれ? どうしたのこんな日に?」
「はい、今日がちょうどいいので遊びに来ました」

 ガラリと引き戸を戻し、男子生徒は歩いていく。

「私、仕事があるんだけど・・・・まぁいいか。ちょうど休憩したかったし。あ、そこに座って。金子先生の席だけど、今日は誰もいないしあなたと私が黙っていれば大丈夫よ」

 目の前に来た男子生徒を見上げて、着席を促す。
 男子生徒は促されるまま、引き出した椅子に座り、硯と対面した。

「それで? 今日はどうしたの?」

 ん? と促す形で問いかける硯。その笑顔を嘲笑うかのようにくすりと唇を歪ませて―――

 パン!

 大きく手を打ち付けた。

「っ!!」

 突然の音と行動に硯は体を仰け反らせて怯む。
 その瞬間。
 硯が呼吸も忘れたその一瞬に男子生徒は声を重ねる。

「先生はもう動けない!!」

 部屋中に響く大声。
 その声にビクンと体を震わせる。
 驚きと混乱が過ぎ去り、硯は男子生徒の奇行を叱りつけようとして―――

「え、あれ!? なんで!?」

 体が全く動かない事に気がついた。

「なに、何をしたの!?」

 動かない体に恐怖を覚え、上擦った声で硯は問いかける。

「っ!!」

 次の瞬間、硯は息を呑んだ。
 男子生徒の指が二本。チョキの形を作ったまま、真っ直ぐに硯の瞳へと進んでいく。
 恐怖に駆られ、反射的に瞳を閉じる。
 閉じた瞳の上に掌を重ねて男子生徒は硯の耳元で囁いた。

「先生は目を開ける事ができない」

 静かに断定し、手を放す。
 そのまま、ぶるぶると瞼を震わせる硯の側に立ち、その頭をぐるぐると回していく。

「さぁ、こうしていくと先生の中からいろいろなモノが抜け落ちていく。ここはどこなのか、今何をしているのか、誰と一緒にいるのか、何も思い出す事ができない。だけど、そんな事は気にならなくなっていく。どんどんどんどん、いろいろなモノが抜け落ちていき頭の中が真っ白になっていく」

 男子生徒はぐるぐると硯の頭を回していく。ウェーブのかかった髪の毛がその動きに併せて宙を舞い、男子生徒達の妄想の的になっている胸はぷるんぷるんと揺れていく。

「もう、僕の声しか聞こえない。そして、頭が真っ白に染まっていく。何も解らない。何も思い出せない。何も考えられない。だけど、頭が真っ白だから気持ちいい。何も考えない事が気持ちいい。まるでお風呂に入っている時のように、マッサージを受けている時のように、昼寝をしている時のように気持ちいい」
「きも・・・ち・・・・・いい」

 ぐるぐると頭を回される硯。その唇から言葉が漏れる。
 男子生徒はにやりとした笑みを深め、言葉を更に重ねていく。

「そう、気持ちいい。だから、この気持ちよさに身を任せてしまいましょう。ほら、どんどん先生の体から力が抜けていく。右手、左手、右足、左足」

 言葉を重ねながらそれぞれの部位に触れていく。すうと軽く、男子生徒が撫でるとその部位から瞬く間に力が抜けていった。

「背中、首、頭。ほら、先生は全身の力が抜けきってしまった。もう体が動かない。だけど、それが気持ちいい」

 すっと背中、首、頭へと手を動かして、脱力させる。
 全身の力が抜けきった硯を座っていた椅子の背もたれへともたれかけさせる。
 まるで寝ているかのように安らかな呼吸をする硯を男子生徒はじっと見る。
 白くきめ細やかな肌。その肌は窓から入り込んでくる夏の強い日差しを照り返しその白さを強調させる。
 非常に大きな胸。男子生徒達の妄想によく使われるその胸は呼吸の度に上下し、その反動でぷるぷると震える。
 茶色がかった髪の毛。軽くウェーブのかかった髪の毛は頭と共に重力に引かれ、滑らかな喉筋を辺りに晒す。
 そして、力の抜けた全身。両手はだらんと下がり、僅かに開かれた両足はタイトスカートの奥、男子生徒達の妄想してやまないその場所への期待を喚起させる。
 ごくりと男子生徒は唾を飲む。そして、邪悪な笑みを深くさせた。
 軽く頭を固定するように指で触れる。そうする事に特に意味はないが男子生徒も硯も気にはしない。

「先生。そこは先生の中。とても気持ちのいい場所です。先生の中なんですから聞こえる声は全て先生の声。先生にとって絶対の真実になります。いいですね」
「はい・・・・・わたし・・・・なか・・・・・こえ・・・・・しんじつ」

 ぼそぼそと硯は呟く。その言葉ににやりと笑みを浮かべると、男子生徒は言葉を続ける。

「今から三つ数えると先生は意識が戻り、動く事も考える事もできる。だけど、先生の中にいるのはそのままで、聞こえる声が先生の真実なのは変わりません。そして、僕が職員室に入ってから今までの事を思い出す事はできません。解りましたね」
「・・・・はい・・・・・」

 上を向いた口が微かに動くのを確認すると、男子生徒は硯の正面へと戻り三つ数えた。

「う・・・・・」

 微かに呻き声を上げ、硯は意識を取り戻す。

「え・・・なんでうぇっきゃぁっ!!」

 視界に広がる光景に慌てた硯はバランスを崩し、勢いよく椅子ごと倒れる。
 どたんと言う激しい音を響かせ、倒れ込む硯。その瞬間、大きな胸がぶるんぶるんと揺れるのを男子生徒は確かに見た。

「いったたたたぁ・・・・・」

 強かに打ち付けたのか、硯は顔を顰めて背中をさする。そして硯は男子生徒の存在に気がついた。
 慌ててスカートの中を見えないように隠し、じっと男子生徒を見上げる。

「こほん」

 わざとらしく咳払いをして、椅子に座り直す硯。そして、改めて男子生徒を見つめた。

「で、今日はどうしたの?」

 その問いに男子生徒はにやりと笑みを浮かべて、声を出した。

「何言っているんですか、『今日は補習なんでしょう?』」
「え・・・・・」

 唐突な言葉が硯の耳へと滑り込む。
 そうだっけと頭の中に湧き上がってきた疑問はフィルターを通したその言葉にかき消されていった。
 そして、記憶が『正しい記憶』に都合のいいように書き換わっていく。

「あ、そ、そうね。そうだった。ごめんなさい。今日は君の補習だったわね。えっと、笛は持ってきた?」
「何言っているんですか先生。『先生の教科は音楽じゃなくてセックスでしょう?』」
「あ、そ、そうよ。なにいってるんだろ私。ごめんね。じゃあ、君の性器を見せてくれる?」

 そう言って、硯は男子生徒の前へとかがみ込む。手を伸ばし、かちゃかちゃと男子生徒のベルトを外すと、腰を浮かすように促して、男子生徒のズボンとパンツを引き下ろした。
 中から出てくる男子生徒の性器。まだ、力の入っていないその性器を見て、硯はうふと声を上げた。

「そうだったわね。君はセックスの点数が悪かったのよね。今日の補習で満点を取れないと単位を上げられないわよ」

 つん、と硯は軽く男子生徒の性器をつつく。その刺激に男子生徒の性器がピクンと震えた。
 その動きにくすりと笑みを浮かべて硯は男子生徒を見つめる。

「さ、まずは先生が見本を見せてあげるね。いい? 最初は互いに痛くならないように十分に濡らせる事が肝要よ」

 そう言って、そっと男子生徒のモノに手を這わす。つうっと焦らすように滑っていく掌の感覚に男子生徒にぞくっとした感覚が走る。
 その感覚に男子生徒は体を震わせる。直ぐ近くに皆が妄想して止まない大きな胸がある。男子生徒は手を伸ばして胸へと触る。

 ふに。

 水風船のような感覚が手に拡がる。動かした指が大きな胸に沈み込む。その動きに快感を感じるのか、ぴくんと硯の体も震えた。

「ぁ・・・もう。だめよ。まずは先生の見本を見てからにしなさい」

 そっと、自らの胸に添えられた手をどかす硯。片手を性器に擦りつけたまま、胸を押しつけるように男子生徒を抱きしめた。
 その胸の感触を楽しみながらも男子生徒は硯の耳へと言葉を滑り込ませる。

「何言っているんですか、先生。『先生の見本はパイズリフェラでしょう?』その胸を活かさないでどうするんですか」

 その言葉にピタリと硯の動きが止まる。そして次の瞬間、男子生徒から離れるとてへと小さく舌を出した。

「ごめんごめん。すっかり忘れてたわ。見本はパイズリよね」

 そう言って、プチンプチンとブラウスのボタンを外し、ぐいとブラジャーを押し上げる。その中からポロンと押さえつけられていた胸が飛び出した。
 すっと、男子生徒の前に跪き、男子生徒達の憧れの胸で男子生徒の性器を挟み込む。
 ふにりという感覚。柔らかい圧迫感が男子生徒の性器を襲う。

「じゃあ、いくわよ」

 笑顔でそう宣言し、硯は体を動かす。
 滑らかな肌が男子生徒の性器を擦りつけ、谷間の間から飛び出してきた性器の先をぺろぺろと舐める。
 ぴくんと得も言われぬ感覚が男子生徒の背中を走り、たちまちに男子生徒のモノは固くなる。
 それに満足しているようににっこりと硯は微笑み、行為を続けていく。
 硯は舌を伸ばし、谷間からでては引っ込むモグラ叩きのような亀頭につうと唾液を垂らす。胸の温度、自らの体温、そして摩擦熱で熱くなっている肉棒は唾液により冷やされる。ちょっとだけ冷えた性器は直ぐに熱を取り戻す。
 じんわりと先走り液が染み出して、滑りのよくなった性器を擦りつけながら、ぱくりと亀頭をくわえ込んだ。

「ん、んっ」

 ジッと男子生徒を見上げ、その反応を見る硯。
 ペロリペロリと舌を動かしながら男子生徒が感じるように舌を動かす。
 と、硯は唐突に唇を放した。

「いい? こういう風に相手の反応を見ながら、ちゃんと感じるように動いていくのよ」

 そう言って、再び硯は男子生徒の亀頭をくわえなおした。
 ぴくんと再び男子生徒の背筋を走る感覚。
 その反応ににっこりと笑みを浮かべて、硯は体を動かした。
 ふんふんと鼻で呼吸をしながら、舌を動かしていく。
 頭と舌、そして体の動きを合わせていく。ペロリペロリと舌は動き、柔らかい感覚が棒を擦り上げていく。
 硯に包まれた中で男子生徒の性器がビクンと震えた。

「ぅ・・・」

 ギリと男子生徒は何かに耐えるように歯を噛みしめる。
 射精の兆候。それを見て取った硯は舌の動きを加速させる。
 胸を変形させて棒に押しつける。胸と棒は唾液にまみれ、てらてらと光っていた。
 ゾクッという感覚。腰の辺りから射精感が迸っていく。

「出すぞっ!!」

 短く叫び、男子生徒は精子を吐き出した。
 それに答えるように硯は喉の奥深くに性器をくわえ込んだ。

「んんんっ!!」

 硯の口内で暴れる性器。その先から吐き出される精子を喉で受けていく。
 やがて、射精が納まるのを確認すると硯はちゅぽんと性器から唇を放した。

「べぇ」

 くすりと妖艶な笑みを浮かべて、硯は舌を出す。その赤い舌の上に白いゲル状の液体が乗っていた。

「みへる? ふぉれふぁあななのへいふぃ」

 その痴態に男子生徒は苦笑を浮かべて頷く。それを確認すると硯は舌を戻し、こくんと精子を飲み込んだ。
 通と口の端から飲みきれなかった精子が零れる。それをぺろりと舐めとってにっこりと笑みを浮かべた。

「とまあ、こんな風に。相手を悦ばせなくては駄目よ。じゃあ、これを踏まえて、今度は君の番」

 私を悦ばせてよねと笑い、硯はスカートに手をやった。
 ぴっちりしたスカートを押し上げ、ショーツをスルリと脱いでいく。
 にちゃぁという音がして、ショーツと性器の間に銀色の糸が走った。

「見本の間にすっかり濡れちゃった」

 妖艶な笑みを見せて、そのショーツを自らの机の上へと放り投げる。そして、男子生徒の性器を自らの性器に宛うと、一息に差し込んだ。
 びくっと体を震わせながら男子生徒を受け入れていく硯は体に走る感覚にはぁーっはぁーっと熱い吐息を吐いた。

「先生、気持ちいいですか?」
「まだ、まだよ。もっと気持ちよくしないと。今日は満点を取らないと帰さないからね」
「解りました。先生。覚悟してくださいね」

 ズン。
 硯の体に激しい快感が走る。
 下から突き上げられる衝撃にビクンと硯の体が震えて、大きな胸がブルブルと揺れる。
 その胸を下から掬うように掴み、その柔らかい感触を楽しむ。
 男子生徒の手によって、硯の胸は形を変えていく。

「あっ、そっ、そっ、そんな感じ。もっと、もっと感じさせてっ!」

 硯の体を駆け上っていく快感。その快感に体を震わせながら硯は更に叫ぶ。
 それに答えるように男子生徒は腰の動きを速める。
 ズンズンと下から突き上げられる硯の体。
 跳ね上がる感覚。叩きつけられる快楽を貪ろうと硯の性器がキュッと締まる。

「先生っ! なんってんっですかっ!1」
「まだっ、まだっ八十点っ! もっと擦りつけるのっ!!」

 言いながら、硯は自分から腰を擦りつけていく。
 コンコンと子宮口をつつかれる感覚に体を震わせ、腰を動かしながら大きな胸を押しつけてくる。
 硯の動きに応えるように男子生徒は腰の動きを加速させる。
 勢いよく叩き込まれる快感。硯は体を振りながらもっともっとと腰を動かした。

「ああぅっ、いいっ、くあぁっ!!」

 硯はぶんぶんと頭を振る。その動きに併せ、汗が飛び散り、髪が舞う。
 男子生徒に抱きかかえられる形で腰を振る硯。自分からも男子生徒を抱きしめて必死に腰を動かしていく。
 ぎゅっと閉じられた瞳。体の中に響き渡る快楽を逃がすまいと硯は全身に力を込めて叫ぶ。

「きゅぅじゅってんんっ!! もうちょっと、あとちょっとぉ!!」
「せんせぃっ!! 先生の感度が二倍になる!」

 押しつけられた胸から顔を何とか離し、男子生徒が叫ぶ。
 反応は劇的だった。

「っっぁぁぁぁあああああああああっ!!!」

 ビクンッ
 硯の頭が跳ね上がる。
 体の中へと突き通った快感に硯の体がブルブルと震えていく。
 先程まで閉じられていた瞳、そして口は大きく開かれてそこから涙や涎が零れ出す。
 ぎゅっと硯の全身に力がこもる。
 突き上げられる快感に導き出された絶叫は職員室中に響き渡る。

「あああっ! ああああっ!! あああああっ!!!」

 男子生徒の腰の動きに併せて、硯の口から絶叫が零れる。
 その度に硯の体が震え、辺りに汗を飛び散らせる。
 押しつけられる胸。その先にある突起を軽く歯で噛む。そして、歯で挟んだその突起を弄ぶように舌を動かす。

「はぁあっ!! だめっ! やめてっ! おかしくなるっ!!!」

 ビクビクと体を震わせ、そんな事を叫びながらも硯の体は快楽を貪っていく。
 もっともっとと体が動き、精子を出せとばかりに性器が蠢く。
 ぞくりという寒気に近い感覚。その感覚が背筋、そして腰を走るのを感じながら男子生徒は硯に問いかける。

「せんっせいっ!! 何点っですかっ!! でる!!」

 言いながら、ズンと子宮を突き上げて、深く深く差し入れる。
 限界まで性器を差し入れたその時、二度目の射精をした。
 硯の子宮に男子生徒の精液が拡がる。体中を突き抜ける鋭敏な感覚に硯の頭は白く染まり、男子生徒の問いに殆ど反射的に答えていた。

「ひゃぅっ、百点っ!! 満点んんんんんっ!! でてるっ でてるっ!! 拡がってぇっあああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 ビクンビクンと体を震わせて、硯は絶頂に持ち上げられる。
 呼吸すら忘れたように硯は硬直し、数瞬後に一気に脱力した。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・」

 熱い吐息が硯の口から漏れる。
 男子生徒はだらりと力の抜けた硯を元の椅子へと座らせると、ずるりと硯の中から自分の性器を引き抜いた。

「ぁぅ・・・・・・」

 硯の口から声が漏れる。僅かに開いた瞳は引き抜かれた男子生徒の性器を物欲しそうに見つめていた。

「先生。『後始末は女性の嗜み』ですよね?」
「ぁぅ、あ、ごめんなさぃ・・・・」

 よろよろと頼りなく硯は立ち上がり自らの服装を軽く整えると、直ぐに膝を折り、崩れ落ちるように男子生徒の性器へと口を寄せる。
 そして、頬をほのかに染めながら、そっと舌を伸ばした。
 ぺろりぺろりと舌を動かし、今までの残滓を舐めとっていく。
 硯は綺麗に男子生徒の性器を舐めとるとよっこらせっと椅子に座り直す。そして、じっと男子生徒を見つめてにっこりと笑った。

「とてもよかったわ。満点よ。こんなにできるならどうして試験の時にちゃんとやらないのよ」

 じっと見る硯、男子生徒はその視線にくすりと笑い――――

「さあ、先生は何も考えられなくなります」

 パンと手を叩いて、硯に言った。
 硯は瞳を閉じてカクンと脱力する。男子生徒は硯が崩れ落ちるのを支えると、再び椅子に座らせ、ズボンをはき直した。

「先生。先生はまた気持ちいいところに戻ってきました。ここは先生の心の中です。そうですね?」
「はい・・・・・ここは私の心の中です」
「僕がここからでていくと先生はいつもの先生に戻ります。でも、先生は僕が職員室に入ってから今までの事を全て忘れてしまいます。だけど、これから言う事だけは心の奥底に刻まれて、普段は思い出す事ができませんが、必ずそうなります」

 そこまで言って男子生徒はポケットから鍵を取り出す。

「さあ、先生。これを見てください。これは先生の心の鍵です。この鍵で先生の心を開くと先生はいつでもどこでも今の気持ちいい状態になる事ができます」
「かぎ・・・・いつでも・・・きもちいい・・・・・なる」

 男子生徒が見せた鍵。すうと目を開いて、それを見ると、抑揚のない声で硯は言葉を漏らす。
 それを聞き届けると男子生徒はポケットに鍵をしまう。

「では先生。先生は僕がでるといつもの先生に戻りますよ。先生は思わず昼寝をしてしまいました。それ以外に変な事はなにもありませんでした。わかりましたね?」
「はい・・・・・私はねてました・・・・」

 硯の言葉を聞き届けると、男子生徒は硯から離れる。
 そして、入ってきたドアへと歩いていった。

「それじゃ、先生。お休みなさい」

 そう言って、男子生徒は職員室から出て行った。




















 ウーーーーーーーーーーーーーーーーー。
 ラジオから試合開始を知らせる音が響いてくる。
 その音に弾かれるように硯は起きた。

「あぁっ! 終わっちゃってるっ!!」

 ラジオにかじりつくように聞き耳を立てて、がくりと項垂れる。

「瑞雲と涼風どっちが勝ったのよぅ・・・・・寝ちゃったよぉ」

 はあと、次の試合を放送しているラジオを聞きながら硯は大きくため息を吐いた。



 
 
< 了 >


 

 

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