聖天さん


 

 

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 繁華街とオフィス街の隙間、ぽっかりと空いたエアポケットのような場所に残る、昭和の味わいを漂わせた通り、新楽地通り商店街のはずれで、クラブ『ヘイジーハット』は営業している。以前は閑散とした、流行らない店だったが、最近、夜毎の激しいフィーバーで新しい客を集めている。それほど有名どころのDJが来るわけでもなく、かけている曲もとがっているわけではないが、店の雰囲気なのか客層のせいなのか、この店でかけると、B級の懐メロでさえ大盛り上がりとなる。

「オッケー。14番は今の暗示を全部盛り込んでおこうか。」

「ずいぶん増えたんで、ちゃんとメモっとかないとわかんないっすね。」

 開店前の店で、店長の奥住大樹と、友人の川野辺翔平が音楽のチェックや加工をしている。ショーデンさんという不思議なオカマに力を与えられたこの店の音響設備は、暗示を書き込んだディスクを再生すると、店内の人たちがその影響を受けるようになっている。大樹は機材をさらに新調して、CDラジカセだけでなく、デジタル音源を保存、編集出来る様にしたのだった。それによって、1種類の暗示だけでなくて、いくつもの指示を重ね合わせて、無音でかけておくことも出来るし、その上に音楽を乗せることも出来るようになった。今の『14番』にメモリーされた指示は8つも重ねあわされている。指示を書き込んだCDを一枚一枚、デジタルミュージックサーバーでリッピングしては、重ねていくことで、複数の指示をかける曲が出来上がるのだ。

 ・ 『ここはとても楽しくてリラックスできる店。この店が好きになる』

 ・ 『この店で起きていることには心配しすぎない。周りの様子を気にして騒ぎ立てるのも無粋』

 ・ 『店員の言うことは聞く。感じの良い客と思われたいので店員の薦めには従う』

 ・ 『いつもよりも話が面白い、何を聞いてもおかしくて良く笑う。とても楽しい一時』

 ここまでは、基本セット。多くのナンバーにはこの暗示が標準形として重ねられている。

 ・ 『こんなリラックス出来る店で、堅苦しい格好はしたくない。普段よりぐっと大胆で開放的な姿になりたい。特に若い女性は露出を増やして肌を空気に晒したい。セクシーな気持ちになる。』

 ・ 『普段考えられないくらい、ハイな気分。誰とでもハグしたい。ボディータッチは拒まない』

 ・ 『若い女性は音楽にノッて、体でリズムを取る。出来るだけセクシーに見られたい』

 ・ 『一緒にお店に来た男性の提案は凄く説得力がある。断りたくない』

 これらの暗示は、若い女性に限定して暗示が影響を及ぼすようにされている。『14番』は開店後1時間ほどたってから、徐々にムードを盛り上げる時間帯でかけることを想定して準備されているナンバーだ。この他にも、とにかくドンチャン騒ぎを起こすためのナンバー(21番)や、若くて綺麗な子がバンダナを付けた男性に群がってオッパイを押しつけたくなるナンバー(37番)、チラリ、ポロリを連発して、男の目を引きたくなるナンバー(9番)など、バリエーションは豊富だ。

 この豊富なバリエーションを、リモコン操作一つで自在にコントロールすることが出来る。店内の空気も客の行動も、当然のようにそれに従ってくれる。大樹と翔平の気分次第、構想次第で、その日のクラブの出来事が決まるのだ。例えば静かで、ゆったりとした大人の雰囲気で開店しておいて、突然ド派手なパーティータイムを初め、すました顔のお客さんたちを狂ったように踊りまくらせる。下半身だけ素っ裸になって、なぜかまた、クールにご歓談。その後、急に初々しい気分にさせて、輪になって仲良くフォークダンスを踊らせる、などという構成も可能だ。お客さんたちは散々弾けまくった後でお金も散財。最後は屈託無くフォークダンスを踊って、笑顔で床の雑巾がけまでしてくれて行儀良く帰宅する。店を出る前には、ちゃんと服を着てもらう訳だが。。。

 ショーデンさんの説明によると、神通力を発揮する場に立ち会った大樹と翔平だけはこのオーディオの影響から免れるらしいが、それ以外は、音楽を聴いた人、全てに効果が及びうるので、相手を如何に限定するかが難しいようだ。

 確かに、慣れない間の大樹は、店内全体のギャルたちを全員ダンススペースで踊らせ続けた結果、トイレに行きたがっていた女性客が何度も、曲がなるたびに苦しそうに踊り場に戻ってきて、最後はお漏らししながら踊っているというような、トラブルを作ってしまって、大いに反省した。範囲や対象を上手に限定したナンバーを揃えることで、大樹や翔平は、お客さんや店員の可愛い子ちゃんたちを安全に、そして自由自在に操ることが出来るようになっていた。


。。。



「この通りに、気のきいた飲み屋さんなんてあったかしら?」

 沢井玲香が少し心配そうな声を出す。隙の無い美貌のせいか、彼女が右の眉を上げて、疑問を投げかけると、それはまるで鋭い詰問のように響いてしまう。同行する同僚たちも微妙にピリッとした空気になってしまったのが、肌で感じられた。

(またやっちゃったかな?)

 怜悧な玲香は、そうした微妙な空気を充分感じ取っているのだが、ついつい険のある話し方をしてしまう。彼女は秘かに舌打ちする。

 今日は年上や同世代の部下たちと、打ち解けるために飲み会まで付き合うことにしたのに・・・。7月に異動したばかりのチームで大掛かりなプロジェクトが続いていたため、止むを得ず、新しいチームメンバーである男性の部下たちを、叱咤激励してここ数ヶ月を乗り切ってきた。やっと一息ついたところで、彼らの慰労もこめて、ささやかな食事会を趣味の良いレストランで開いた。今はその帰り。「一杯だけどうですか?」という、北島の呼びかけを受け入れて、ついてきたのだ。

 ビルが立ち並ぶオフィス街と若者で賑わう繁華街。その隙間の、ぽっかりとエアポケットのように取り残された、寂れた商店街。「新楽地通り商店街」という道をこの時間帯に歩いた経験はほとんどない。早朝から深夜まで「サイボーグのように」働くと噂される彼女が稀にこの道を通る時は、ほとんどのお店はシャッターが閉まっていた。今もまだ、夜は浅いというのに、多くの商店は「準備中」の札を掲げているか、スプレーで落書きされたシャッターを閉めている。地元に密着した商店街なのか、あるいは実際に寂れてしまっているのだろう。

「いやー、見た目とかはチーフのセンスには合わないかもしれないけど、しばらく居ると妙に落ち着く、居心地のいいお店なんですよ。たまにはそういう飲み屋さんにも行って、メンバーの交流を深めましょうよ。」

 調子のいい北島の言葉を受け流しながらも、沢井はしぶしぶ着いていく。「交流を深める」などと大義名分を出されると新任チーフとしては断りづらいが、仕事上必要な場でもないのに、男3人と女1人でアルコールの入る席に行くというのは、やはり少々気が引けた。その、モデルのような美貌と日本人離れしたプロポーションに惹かれて、沢井玲香にちょっかいをかけたがる男は多い。自然とそうした悪い虫への警戒心が、28歳の玲香の、同僚たちへの態度を一層硬化させているのかもしれない。先ほどからの北島の調子のいい誘い文句、黙って玲香の体をチラチラ見てくる水谷の無作法な視線。何かの期待を噛み殺すような金井の気持ち悪いニヤニヤ笑い。全てが玲香の癇に障った。

 古臭い商店街の端にあるレンガ造りのクラブは、『ヘイジーハット』という看板を掲げていた。重い木のドアを開けると、店内は意外と賑わっている。しょぼくれた立地の割りには店員の女の子は超が付くほどの美少女で、可愛らしい笑顔で沢井たち一行を予約席のブースまで案内してくれる。もう一人、給仕をしている店員もスラっとした美人。屈託無く、客とハグをしている。

「なんだか、音楽も大きいし、意外と人も多くて、あんまり落ち着いてお話とか出来なさそうなお店じゃない? これだったら、私、もう少し雰囲気のいいバルとか知ってるから、今日は早めに切り上げて、また今度そっちのお店で飲みなおすのはどうかしら?」

 妙に落ち着かない気分になった玲香が切り出すと、北島、水谷、金井の猛烈な引止めに会う。「1、2杯だけ、付き合ってください。せっかく予約したんだから」と頼み込まれて、しぶしぶ玲香はビールの小瓶を頼む。2杯目はペリエにしておくつもりだ。会社では切れ者で通っている沢井玲香は、何かこの店の妙な雰囲気が気になっていた。どこか、嫌な予感がする店なのだ。

 カウンターで忙しそうに働く店長らしき背の高い男。カウンター席に座ってビールを傾ける、常連らしい若い男。横で頬杖を付いているアフロの小太りな男はゲイっぽい雰囲気だ。店内の客を見回しても、あまりレベルの高い男性客は見当たらない。カッコいいかと聞かれれば、そうではない男が多い。身だしなみを見ても、高収入なわけでもなさそうだし、センスが感じられるわけでもない。それなのに・・・、妙に女性客のグレードが高いような気がするのだ。華やかな美女、お淑やかなお嬢様、ゴージャスなギャル、芸能人と見まがうような綺麗どころ。普通のお店だったら、一人で一身に男たちの情熱と女たちの羨望を集めそうな女性客が、店内にゾロゾロとひしめき合っている。そして、普通そんな美女だったら歯牙にもかけないような、どちらかと言うとモサッとした男たちと、妙に親しげに話しこんだり、しなだれかかって囁きあったりしている。そう、この店は、妙に雰囲気が親密すぎるような気がするのだ。

 先ほどの、アイドルのように可愛い店員、ハーフのようにスタイルの良い店員を見てみても、男性客から笑顔でオーダーを取りながら、ハグをしたり、フレンチキッスをしたり、ここが日本でないような情熱的な接客だ。あからさまにイヤラしい手つきで黒のTシャツの上から胸を触る客にも、ピチっとしたジーンズのお尻を撫でてくる客にも、2人の店員は笑って済ませながら、愛想を振りまいている。玲香が彼女たちの替わりにお客たちをビンタしたくなるような光景だった。

「チーフ。楽しんでるみたいですね。」

 頭で考えていることと正反対のことを間近で言われて、玲香はギョッとした。

「え・・・、全然・・・・、いえ、・・・どうしてそう思うの?」

 キツい反応をストレートに返さないように気をつけながら、玲香は水谷に聞き返した。

「いや・・・だって、指。リズムとってるから、音楽楽しんでるのかと思ったんですが・・・、僕、勘違いしてました?」

 指摘されてテーブルに置いている自分の人指し指が、BGMのビートに合わせて、コツコツとテーブルを叩いていたことに気がついた。大したことではないのだが、玲香は少し顔を赤らめる。体を強張らせた。実は自分の膝では、もっと強くリズムを刻んでいたのだ。テーブルの下が見られなくて良かった、と玲香は秘かに安堵していた。元々は腹を割って親睦を深めるために今夜の会食、飲み会があるだから、気を許してリラックスすることはいいことのはずだ。それなのに、この店で隙を見せることは、何か良くないことに結びつくような気がして、玲香は改めて警戒レベルを上げた。背筋を伸ばして、業務用の笑顔を取り繕う。

「ん? うんん。楽しんでるわよ。ありがとう。だけど、あまりこういう若い人向けのお店に慣れていないから、気疲れしちゃいそうね。明日も早いから、私はもう一杯頂いたら、失礼しようかな、って思って。」

 小瓶のビールを一本飲んだだけでこんなことを言うと、場が白けてしまうことは容易に想像出来た。それでも玲香は、自分の直感を信じてこの場から早めに退散させてもらうことにした。

 そもそも、流れでこの店にくることに、ついさっき決まったはずなのに、予約席が確保されていることからして、何か怪しい。玲香が有無を言わせない「上司の笑顔」で言い放つと、周りの様子を確認した。水谷、金井は目を合わせないように俯いている。いつもの仕事の出来ない、同年代の部下の様子だ。しかし隣に座っている北島は、妙に落ち着いて見えた。会社にいる時の北島よりも堂々としていて、自信に満ちているように見える。

「わかりました。次の一杯でお開きにしましょうか。もちろん、気が変わったら、いつでも仰って頂いて結構ですが。」

 自信満々の北島の引力に引き寄せられるように、玲香は一瞬体がよろめきそうになった。体に力が入らないような、妙な浮遊感。顔も熱っぽくなっている気がする。警戒して小瓶のビールしか飲んでいないのに、酔ったような、熱に浮かされたような。。。

 沢井玲香は急に、考えるのもダルくなって、ゆっくりと部下である北島の肩に寄りかかってみた。水谷と金井が息を飲む。つまらない誤解を与えるのも嫌なので、早く頭を起こして、シャキッとすべきだと思うのだが。・・・あれこれ考えるのも面倒臭い。いつの間にか切り替わっていたムードの良いBGMに身を任せて、玲香は自分の上半身の体重を、思ったよりも逞しい北島の二の腕に委ねた。

「・・・これ、効果が出てきてるってこと?」

「すげぇな。・・・キタの言ってた通りじゃん。」

 水谷と金井が、美形ではあるが厳しいボスである、沢井の存在を気にしていないようなカジュアルな口調で、北島に話しかける。北島は社内で評判の美人キャリアウーマンに寄りかかられながら、意味ありげに笑った。

「いつもの堅物の沢井チーフからは想像出来ないだろ? ・・・こんなことしちゃったら・・・、オフィスなら大目玉だよな?」

 北島の右手が、無遠慮に玲香の肩に回される。失礼な部下の行動に内心腹を立てて頭を起こした玲香だったが、右肩に乗せられた手の甲に、無意識のうちに頬をつけて感触を楽しんでいる。人のタッチが・・・肌と肌との触れ合いが、妙に体の芯まで染みこむ。良いムードなのだ。他の男たちの目など考えるのも面倒臭い。体を密着させたまま、北島の手に頬ずりする玲香。目がボンヤリと店内に彷徨わせる。まだほとんどお酒を飲んでいないにも関わらず、沢井玲香はすでに出来あがってしまった酔っ払いのように見えた。

「えっ・・・チーフ。大丈夫ですか?」

「チーフ・・・、チーフ・・・。早く帰りたいんじゃないんですか? ・・・まだいます?」

「・・・・ん・・・、まだ・・・いる・・・」

 向かいの席から、水谷と金井が手を伸ばして沢井玲香の肩に、腕に触れる。最初は遠慮がちに・・・、しかしすぐに大胆に、玲香の体を物色するように撫でまわす。玲香は始めのうち抵抗しようとするのだが、すぐにどうでもよくなって、目を薄く閉じたまま男たちの無遠慮な愛撫を受け入れ始める。体に異性の手が触れるのが、これほど気持ちいいなんて・・・。かつてのどんな恋人との素敵な夜にも感じたことがないほど、玲香は部下たちのボディータッチを楽しんでいた。ブラジャーの上から胸を撫でられると、思わず声を出してのけぞる。知らぬ間に、自分で胸を、男たちの手のひらに押しつけていた。

「お楽しみ中、失礼致します。・・・あの、もう間もなく店内、ハッスルアワーに切り替わりますので、皆様テーブルの上のグラスなど、倒さないようにお気をつけください。」

「あ・・・はい、・・・もう11時か。・・・わかりました。」

 超美少女の店員さんがトレイに空いたグラスを下げていく。沢井玲香の体を弄っていた水谷、金井は思わず腕をすくめるが、動じない店員の様子に、愛想笑いで返す。店の様子をよりよく知っていそうな北島が、手を伸ばして店員さんの尻をパチンと叩く。店員さんは営業スマイルを崩さずに受け入れていた。

「きゃっ・・、もう・・。お客様。あんまりハードなタッチは、特別料金頂いちゃいますよっ」

 ゲンコツを作るようなポーズを取って、笑顔で対応しながら、美少女店員さんは片付けを終えて去っていく。

「じゃ・・・お前ら、そろそろあんまり近くでごそごそしてると、手や足が当たって怪我するかもしれないから、ちょっと下がっておいた方が・・・ウガッ!」

 余裕の表情で同僚たちに上から説明をしていた北島が、玲香の裏拳に顎を直撃されてのけぞる。玲香は攻撃したいのではない。しばらくの静寂の後で、急に鳴り出した音楽が、彼女の体を操るように踊らせるのだ。急に体中に元気が漲ってきた玲香は、両手をブンブン振りながら、立ち上がって踊り出す。

 邪魔なビジネスジャケットを脱ぎ捨てると、店内のブラックライトに照らされた白い高級なシャツが、蛍光紫に光るようだった。身をくねらせて、セクシーに、大胆に。音楽はまるで玲香に囁きかけるように鳴り響く。慣れないダンスを精一杯、弾けるように踊って見せると、部下たちは喝采を返す。横の北島も、顎を押さえながら、上目遣いで拍手する。見ると、自分のタイトスカートが少し上まで上がっていて、ストッキングをはいた腿がずいぶん露出してしまっていることに気がつく。それでも玲香は、スカートの裾を直そうとはしなかった。視線を感じると、体が熱くなる。強烈な快感が玲香の体を突き抜けていくのだ。我慢できず、さらに視線を求めるようにホックを外してジッパーを下ろして、玲香は邪魔なスカートを脱ぎ捨てた。

 男たちの視線を貪るように、玲香はテーブルに足を上げて、ヒールを履いた足でテーブルに登ってしまう。視野が広がると、店内のいたるところで、同様な狂騒が繰り広げられているのがわかる。お淑やかなお嬢様や女子大生、美人OLやイケてるいいオンナたちが、ハジケまくって肌も露な姿で踊り狂っている。さっきまで比較的穏当な服装だったはずの店員さんたちは、いつのまにか黒のボディスーツを窮屈そうに身につけて、カウンターに立って踊っていた。

 DJが軽快にスクラッチを入れる。BPMの早いパーティーラップに合わせて電子音の洪水がやってくる。玲香が見下ろすと、水谷、金井、北島という部下3人も、店内の四方八方で肌を晒す美女たちを目で追っていた。玲香の胸に焼けつくような感情が溢れる。嫉妬。ジェラシーだ。この男たちは玲香の部下。仕事は出来ないが普段から玲香の容姿をチラチラと盗み見する、玲香の虜だったはずだ。その彼らが他のオンナに目をやるだなんて、屈辱だ。玲香は悔し紛れに、高かったシャツの胸元に両手をかける。頭の奥で自分の理性が悲鳴をあげているのを意識から引きちぎるように、思いっきりシャツを左右に引っ張ってやった。ボタンがいくつも飛び散る。黒とシャンパンゴールドの高級ブラジャーが誇らしげに突き出た。男たちの視線が再び玲香に集中する。他の席からも玲香を除く男がいる。視線を感じて陶酔する沢井玲香の頭の上で、天井がぐるぐると回っているようだった。

 ストッキングも腰から腿まで破いてしまい、残りは男たちに破かせる。ブラジャーとショーツの、下着姿になってしまった玲香は、日本人離れしたプロポーションを、嬉しそうに披露する。男たちの視線は、全身を嘗め回すように駆け巡る。それが巧みな愛撫のように玲香の肌に電気を走らせる。やがてその視線が数箇所に集まってくるのを感じる。もう止まることは出来なかった。玲香はさらに強い刺激を求めて、男たちが注目しているブラジャーを剥ぎ取り、立派なバストをブルブルと振るわせる。乳首がすでに、痛いほど突き立っている。乳輪まで盛り上がっているほどだった。汗で湿ったショーツも脱ぎ捨てて、放り投げる。金井が、普段からは信じられないような運動神経を見せて、ダイビングキャッチした。

 手を上げて、髪をかきあげながら、満足気に下々の男たちを見下ろす。勝ち誇った顔で周囲を見回した玲香だったが、カウンターではさらに大きな盛り上がりが起きていることに気がついて、思わず目を見開き、無意識のうちに下唇を突き出した。カウンターでは先ほどまで爽やかな営業スマイルで給仕をしていた美少女と美人の店員さんコンビが、窮屈なボディースーツを苦労しながら脱いで、肌を晒している。乳首の周りと内腿のあたりに、蛍光塗料で何か書かれている。よく目を凝らすと、お店の名前とロゴが書き込まれているようだ。蛍光ピンクの店名を、宣伝のために皆に見せるように指示されているのだろう。美少女の方はやや恥ずかしそうな笑顔で、美人さんの方は清々しい表情で、店名の書かれたオッパイを寄せ上げ、両足を大きく開いて宣伝活動に勤しんでいる。その姿が男性客たちの喝采を羨ましいくらい浴びまくっている。気がつくと、玲香自身も、まるで彼女たちと張り合うかのように、同じポーズを取っていた。他のテーブルでも女性客が真似をしている。みんな、一瞬でも、一人でも多くの、男たちの視線を奪うために、両足を開けっぴろげ、アンダーヘアーをかきわけ、大事な場所を左右に引っ張って曝け出していた。曲のフィナーレだ。ふと気がつくと、間近で部下たちが感涙に咽んでいた。

。。。


「次っ、次、俺な。」

「まだだよ。北島みたいに早くイかねえから、まだしばらく待ってろよ。」

「俺のことはどうだっていいだろうがっ」

 3人の可愛い部下たちが揉めている。沢井玲香にとっては、その揉め事すら、自分をめぐってのことだと思うと、一層玲香の快感を倍増させてくれる極上の調味料だ。玲香は水谷に駅弁ファックの体勢で犯されながらも、なお3人が揉めるのを煽るように、水谷の肩越しに金井に色目を使った。身につけていたものを全て脱ぎ捨てて、自分の体を隅々まで晒しつくした激しいダンスの後で、若い男女がすることといったらもう、より激しいセックスしかないだろう。ハードロックとクロスオーバーしたようなアシッドジャズの流れのままに、下半身を絡めあってぶつけ合う。北島とはちょっとしたヘビーペッティングとディープキス、そして騎乗位での結合だけで、彼が果ててしまった。

 次の水谷の駅弁ファックはなかなか豪快なスウィングだ。高校時代ラグビー部だったらしい、有り余る体力で、比較的長身な玲香を軽々と抱え、抱き合ったまま接合している。ズボズボと出し入れされる水谷のペニスに跨って上下する玲香は、剣玉の玉のように水谷に揺すられて、目を白黒させている。そんななかでも、辛うじて繋いでいる意識で、次の相手となる金井に色目を送る玲香は、一夜だけのセックスアニマルにすっかりなりきっている。今夜の玲香は誰にも止められない。自分の部下に精液の一滴でも残っている限り、色気たっぷりの肢体を駆使して、メスの喜びを味わい尽くすために暴れまわるのだ。

 子宮にも溢れんばかりの熱い精液を大量に放出して、水谷が果てた。玲香の下着や服を使って、溢れ出る精液を拭うと、我慢できない金井が飛び掛ってくる。体中を金井の涎で汚される。玲香も負けずに、金井の服を破って、体中を舌で愛撫し返してやる。理性のかけらもない、発情したオスとメスになりきって、お互いの肉体を貪りつくす。金井が玲香を四つん這いにさせて、動物そのものの体位で後ろから玲香を貫いた。口から涎を垂らしながら、あられもない嬌声をあげて玲香が尻を突き上げる。背を弓なりにして、声を裏返して喘いだ。金井のモノは水谷のと比べると多少物足りないが、四つん這いの姿勢だと腿を少し閉じて内股に力を入れると、より強力に膣を締め上げることが出来る。そのぶん、可愛い部下、金井の男性自身を膣全体でキツく愛撫することが出来る。金井の腰がピストンされると、タイミングをあわせて玲香も腰を振る。獣みたいな声が口から出た。頭の芯から融けるほどの熱い快感が、股間から脳天まで突きたてられる。金井は、それが当然の権利であるかのように、何の断りも無く、玲香の中で突然射精した。こちらも意外と量は多い。ダラダラと玲香を満たしていく。自分の拳が入るくらい大きく口を開けて、仰け反って喘いでいた玲香に、今度は北島が、またムクムクと置き出しているペニスを前から押しつけてきた。

「チーフ。しゃぶってくれる? ・・・っていっても、この曲がループで流れてる間は、一々お伺いたてなくたって、チーフはド淫乱なセックス狂なんだっけ? ・・・じゃ、しゃぶれよ。」

 横柄な口の利き方をする部下に、玲香はキツイ叱責の一つもしたいところだが、今の彼女は目の前におチンチンという大好物をぶら下げられたら、頬張るしかない。大事そうにしゃぶりつくと、亀頭が喉まで届けとばかりに、根元まで口に納める。こここそ、北島のチンポの帰る場所、スイートホームだ。そう心から念じながら、精一杯のお口での奉仕に励んだ。

「おうおう、どうどう・・。なかなかいいね、チーフ。・・・ディベートよりも英語のプレゼンよりも、チーフのお口はこっちに使ったほうが、仕事もプライベートもはかどるんじゃないですか?」

 調子に乗って、舐めきった口調で玲香の頭を撫でる北島。大して仕事も出来ない部下に、オフィスでそんな口をきかれたら、後ろから蹴り上げてやりたいところだが、今日の乱痴気騒ぎのなかでは、そんなことを気にしていても仕方がない。相手がSっぽく責めてきたら、こちらはどこまでもかしずいて、Mっぽく応じてあげるのが大人の礼儀ではないか。従順なペットのように上目遣いで北島の目を見上げ、小さなため息で同意すると、健気にモノをしゃぶりあげてみる。例え性の道具のような扱いでも、誉められるのは素直に嬉しい。本当は何も言わなくても、北島が玲香に対して勃起しているということだけで、今の彼女は嬉しくてたまらない。頬を一瞬緩ませると、より強力に、北島のモノを吸い上げてやる。舌で裏筋を蛇行するように舐め上げる。こうしているうちに、北島のモノは一度膨らんで、気を抜くように精を出す。何回目でも、この男は早い。喉の奥に直接当たるような精液を必死に呑み込んで、慰労するようにまだペニスを舐めてあげる。ニヤけきった気怠い笑顔の北島が、玲香の口から、やっとくたびれた自分のイチモツを離した。

「チーフ、すっげぇ。エロエロマシーンじゃないっすか。」

「こりゃあ、俺たち、チーフから離れられなくなりそうだな。」

「チーフも、・・・俺たちと、この店から当分、離れられないっすからね。」

 口からはみ出た北島の精を舌で舐めとりながら、女の子座りでしばらく呆然としていた玲香だったが、部下たちが近づいてくると、無垢な女の子のような笑顔を浮かべて、両手を突き出しておねだりする。音楽はまだ鳴り止まない。起こされた玲香は、今度は水谷に後ろから貫かれる。体を「くの字」に前屈させながら、金井のペニスを口で咥えさせてもらう。疲れた北島のペニスも右手で摩りあげる。金井と北島は玲香の豊満な胸を片方ずつ揉みしだく。ビートにのって、4人が一体となってセックスに励む。店内のいたるところで、同じような狂乱が繰り広げられていた。


。。。



 クラブ『ヘイジー・ハット』でのその夜は、『ハッスルアワー』、『フィーバータイム』の後にも、『アダルトアワー』、休憩タイムと続いて最後に『フリーパーティー』の時間となった。フリーパーティーの時間の間、沢井玲香は赤いリボンを首につけられて、北島、水谷、金井の3人の部下に順繰りにハメられ続けた。店内を見回すと、赤いリボンをつけた女性の他にも、青いリボンや黄色いリボンを身に着けた女性たちが全裸で男たちとまぐわっている。北島は得意げに水谷、金井に説明していた。

「この時間は、連れてきた女を店の客に提供して、自分たちも提供されてる女を好き勝手することも出来るんだ。赤いリボンはお手つき禁止。黄色はセックス1回二千円。青は完全フリー。女同士で店に来てる奴とかが、大抵青いリボンになってるみたいだな。」

「うわっ・・・どの娘も可愛いから迷うけど・・・。今日は俺たち、チーフに首ったけだな。」

「おう、日頃の恨みも憧れもあるから、やっぱり今夜はチーフだけでお腹一杯だよ。他の娘たち漁るのは、今度だな。」

 4人で床に転がりながら、絡み合う沢井チームの同僚たち。その夜、玲香は立って帰れないほどハメられまくってイキまくった。

 翌日珍しくフレックスタイムを活用して、朝遅くに出社してきた玲香は、明らかに寝不足で、目の下にクマを作ってフラフラとチーフ席に倒れこんだのだが、妙にお肌はツヤツヤ、テカテカしていて、女性スタッフたちの噂になった。しかし何を噂されようとも、玲香は答えようがない。昨夜のことはほとんど憶えていないのだ。部下に引っ張られて入った店が意外と楽しくて、柄にもなく弾けて踊ったことは憶えている。それからどうなったか、どう帰ったのかも思い出せない。随分ハメを外してしまったような気がするのだが、頭の中にモヤがかかったかのように、そこから先は見通せない。ただ、尋常でなく楽しかったような気がする。体がそれを憶えている。だから、北島たち部下に、三日後にまた飲みに誘われた時にも、あれこれ理屈をつけて、玲香はついていくことにしてしまった。

「この前はちょっと飲みすぎてたみたい。ほとんどこのお店のこと、憶えてないの。だから今日はリベンジ。最後まで大人しく飲んで見せるからね。」

 上司らしい余裕の笑顔を取り繕いながら、玲香は皆と乾杯する。

 しかしその1時間後には、彼女はコロナビールの小瓶を2本、自分のおマ○コと肛門に突っ込んで、全裸で店内を走り回っていた。豊満な胸がブルンブルンと上下左右に暴れる。走ると時折、オマ○コの小瓶と肛門の小瓶がぶつかりあって、カチンと音を立てる。その振動が玲香を身悶えさせる。周りの客たちが、喘ぎながら疾走する玲香を、指さして笑っている。玲香自身も、笑われたり、注目されたりすることが楽しくて仕方がなくて、爆笑している。店内を、所狭しと跳ね回るチーフを見て、部下たちが腹を抱えて床をのたうちまわっていた。

「チーフ、Aジャンプ!」

 呼びかけられると、沢井玲香は、ファミコンのアクションゲームの主人公のように、ダッシュのポーズで腕を振り上げながら、ジャンプしてみせる。

「Aジャンプ、Bダッシュから大ジャンプ!」

 つなぎのズボンを着て口髭を生やしたつもりでいる玲香は、自信満々の頼もしい笑顔で店内を跳ね回る。BGMには、懐かしのゲームミュージックがかかっていた。この曲は終わりが近づくと、曲のスピードが増す。玲香は元いた席の同僚たちに襲いかかって、彼らの股間のキノコを巨大化させ、最後にはファイアーボールのような射精まで導いて、花火を打ち上げさせるのだった。


 翌週再び、店に行く。またも飲んで記憶を無くしてしまった悔しさから、リベンジに燃えていたのだが、それ以上に、部下たちへの説教も目的だった。最近、玲香は職場の大勢の前で部下たちを叱責することは比較的控えるようにしている。お説教は酒の場などで改めてすることに趣旨替えしたのだ。もっとも、記憶にないだけで、趣旨替えは既に色々としてしまっている。その晩も、ゆっくりと北島や金井の業務態度を注意するつもりだったのだが、気がつくとカウンターに立って、ボンデージファッションに身を包んでいた。鼻フックにギャグボール。レザーのボディースーツからは乳房と陰部がしっかり露出していた。四つん這いになってくぐもった喘ぎ声を出す玲香は、ペニスバンドを付けた笑顔の美少女店員さんに激しく犯された。虫も殺さないような可愛い顔して、「ナナミ」と名札を付けた店員さんはなかなか容赦のないピストン攻撃をしかけてくる。玲香はこの年下の女の子に、責めたてられて、ヒイヒイ泣き喚いた。これも部下の教育のためだと耐えながら3度もエクスタシーに導かれてしまった。

「・・・ふう・・・ふぅ・・・わ、・・・わかったら、以後、気を付けるように!」

 乳首を洗濯バサミでつままれる痛みに耐えながらも、部下たちをみっちり叱責したつもりの玲香だったが、その声は、ギャグボールに押さえ付けられてほとんど、笑っている部下たちの耳には届かなかった。残念ながらというか幸いにというか、その晩のことも玲香の記憶には正しく残ってはいない。

 4回目の来店からは、玲香は店に入ると、確認もなしに店員さんから青いリボンを手渡されるようになった。毎回意味もわからずに青リボンを持たされてるが、夜が更けていくとお気に入りのナンバーとともに、そのリボンの意味を思い出す。青は海や空のように自由な存在。誰のものでもなくて、誰のものにでもなる。玲香に手を伸ばしてくる店内の男性客に・・・いや女性客にだって、玲香は喜んで自分の体を捧げて楽しませる。これこそがフリーなパーティーの醍醐味だ。拒否権なんていらない。全てを受け入れることこそが、海や空や沢井玲香の魅力であり、存在意義なのだ。

 ダイナミックで成熟した体を持つ玲香は、店で飲んでいたり働いていたりする女の子たちのなかでも目立つ方で、よく大人の玩具など、持ち込み品のお試しに使われる。大きなバストやムッチリしたヒップ、スラリと長い手足を駆使して、色々な玩具のレビューに酷使される玲香だが、誇り高い青いリボンに恥じぬよう、いつも笑顔で応じている。そして興奮した客が彼女を求めれば、どんなオヤジに対してだろうが、オタク君だろうがキモメンだろうが、構わず全てを投げ出してご奉仕してみせた。クラブクイーン、『フリー素材・レイカ様』の誕生だった。

 仕事のストレス、男社会で美人キャリアウーマンとして張り合っていくストレス、若い年齢で中間管理職を務めるストレス。こうしたものを全て、毎夜のように発散しまくっているからだろうか。日中の沢井玲香は、以前よりも穏やかなビジネスウーマンになりつつあった。取引先の評価もさらに高まっている。勤務時間中、時折北島、水谷、金井といった部下たちと長時間席を外すことがあるが、チームの成績自体は下がらないので、上司もその点だけは黙認している。もともとテキパキと仕事をする玲香なので、多少長時間の「トイレ休憩」を部下と持とうが、夜退社する時間が以前よりも早くなろうが、大した問題にはならない。それに目を瞑ってさえいれば、以前よりもずっと雰囲気の和らいだ職場で、引き続き彼女に高いパフォーマンスを発揮してもらうことの方が、よほどありがたい。予想外に上手くいっているチームの関係を見ても、沢井の上司は今のチームメンバーをしばらく変えないまま、新年にはまた、新しいプロジェクトに当たらせることを考えている。


。。。



 クラブ『ヘイジーハット』は昨夜も盛況だった。ふらりと立ち寄った女性客はついつい店に居つき、気がつけば肌も露わな際どい恰好で踊りまくっている。男性客たちはそれを目当てに長居をして、次々と酒をオーダーする。深夜になれば『フリーパーティー』と銘打って酒池肉林の狂乱が始まる。目当ての女子をあの手この手で何とか店に連れてきた男たちは、従順で淫乱で開放的なメスに変貌した女たちを心行くまで楽しみ、男一人で立ち寄った客は青いリボンを身に着けて店内を泳ぐピチピチの美女たちを好き勝手に漁る。寂れた商店街の片隅で、朝が来るまで狂乱が起きていた。

 夜遊びに目覚めたばかりの女子高生たちが仲良しグループ全員で横一列にならんで処女を失ってしまったこともあった。大学の新歓コンパで全員が穴兄弟、竿姉妹になってしまった夜もあった。仕事の息抜きで遊びに来た看護婦3人組は真面目に男性客たちの性感度チェックを夜通しやり遂げるという思わぬ夜勤をこなすこととなり、青少年の非行がないかチェックしにきた補導員も、その補導員の夜遊びの噂を聞きつけた婦人警官も、仲良く店内で数珠つなぎを披露することになった。

 受験の合格祝いにと、念願のクラブデビューを美人の家庭教師同伴で果たした男子高校生は、その夜のうちに童貞まで卒業させてもらい、家庭教師の性知識を全て実演してもらうことが出来た。翌週から2人は新たな性知識の探求のためにクラブに入り浸るようになってしまった。付き合いたての新カップル、カップルになれそうないい関係の2人。「どうしてもお付き合いは出来ない。お友達で」と言われた男が、最後の頼みで一杯だけ飲むために連れて行く場所。その店では一緒に入った男女は必ず夜明けまで一心同体と言えるほど下半身で繋がったまま愛の交歓に励む。カップル以外で入った客も、必ず誰かと繋がるチャンスを与えてもらえた。閉店時間になると皆、軽くなった財布と、記憶の薄れた頭、心地よい疲労感とともに店を出ていき、次の機会には、可能ならば魅力的な女性の知り合いを、何とかして引っ張って、また店に舞い戻ってくるのだった。

 散財してしまった女性客には労働の場も与えられる。店長の奥住大樹と、常連客であり、ブレーンでもある川野辺翔平のバイト面接は実技チェックもあるので、なかなか厳しい。それでも店に入り浸って散財してしまうほどの女性客だから、綺麗どころが揃っている。「本番さながらに」、と店長がオーディオのリモコンを弄ると、モジモジしていたバイト志望者も、見る間に恥じらいや躊躇いを捨て去って、大胆で卑猥なサービスを果敢に遂行する。店側の男性2人が替わるがわる6次面接まで務めるが、大抵の女の子は落とされはしなかった。30名も入れば満員になるはずの店で、今では常時、10名程度の女性の店員さんが給仕している。客も50名近く。毎晩ギュウギュウになって酒を飲んだり、踊ったり、はっちゃけたりしている。

「ほんと、連日の大繁盛だよね。大樹さんが羨ましいよ。」

「あら、アンタの銭湯、朝とか、なかなか賑わってるんじゃないの?」

 カウンターでビールをあおる川野辺翔平。横で小太りの中年オカマが話相手になっていた。

「いやー、昔馴染みのお爺ちゃんとかは何人か毎朝顔を出すけど、いつもそれっきりだよ。その何人かのお爺ちゃんが休憩室で将棋指したり囲碁打ったり、長く時間を潰してるから、割とお客さんが入ってるみたいに見られるけど、単価も低いし、毎日5、6人じゃ成り立たないよ。それでもって、その割に、お湯を沸かしたり入れ替えたり掃除したりっていう固定費は毎日結構なものだから、もうジリ貧かなって思ってるんだ。」

「ムフゥー。どこも大変ねぇ。」

 おでこにホクロのある中年のオカマは、暑苦しそうなため息をつく。

「これだけこっちのお店が流行ってるなら、いっそ『夢の湯』なんて閉めちゃって、僕もこのお店で働かせてもらおうかな? そしたら、七海ちゃんやバイトの女の子たちともずっと一緒にいられるし・・・。」

「あら、アンタねぇ、そんな無責任なこと言わないでよ。『夢の湯』は、ここの商店街が赤線の歓楽街だったころからの老舗でしょ? アーケードもない昔は、あの煙突が、目印だったりしたのよ。」

「あれ? ショーデンさん、そんな昔のことまで詳しいんだ。・・・確かにうちの婆ちゃんも、そんなようなこと言ってたかな?」

 ムフゥーッ

 オカマはしばしの沈黙のあと、肩をすくめて、ため息をついた。

「もうっ。しょうがないわね。アンタの銭湯も、ちょっとは梃子入れしてあげよっか? アタシも最近、だいぶ神通力が溜まってきたみたいだしね。ほらっ、ボウズ。行くわよ。」

 ビール腹の重い腰を上げて、アフロヘアーの中年オカマがカウンター席を立つ。酔った目でぼんやり話を聞いていた翔平も、事態を察してようやく元気を出す。

「えっ? 何々? なんか面白いこと始まるの? ・・・行きますっ。ショーデン大明神様!」

「だから、明神なんかじゃないってば。ショーデンって言ってるでしょ・・・。」

 ヘイジーハットを出て、小さな神社の脇を抜け、路地裏の大きな銭湯に向かう。ショーデンさんが翔平に案内されて作業場のボイラー室に入ってしばらくすると、古びた銭湯、瓦の屋根、そしてコンクリートの煙突までもが虹色の光に包まれた。

「ほいよっと。これでこの銭湯のボイラーにはアタシの神通力が宿ったわ。紙にお願いとか指示とか書いて、このボイラーで燃料と一緒に燃やしたら、あっためられたお湯や煙突の煙から、アタシの力で紙に書いたことが効果を出すわよ。あとは頑張って、アンタの力で銭湯盛り立てなさいよ。」

 若干さっきよりも痩せたように見えるショーデンさんが『夢の湯』を後にすると、銭湯には希望に胸を膨らませている翔平が1人残された。今まで大樹の不思議なオーディオ機器の力のおこぼれに預かってきた翔平だったが、これからは自分で銭湯を繁盛させられる。。。ウキウキしながら、翔平はさっそく紙とペンを探していた。


。。。



 新楽地通り商店街の一本隣、スミレ通り商店街はお隣さんと違い、上手く商店街復興の波に乗れていた。若者向けの古着屋さん、靴屋さん、アイドルショップやお洒落な雑貨屋がテナント料などを優遇されていて、上手く若返りに成功していた。そんなお店の並びの一角、若い女性向けのショップ店員のミチルと和佳が昼休みの休憩に入ろうとしていた。

「ノドカちゃん、一緒にランチする?」

「あっ、はい。ミチルさん。私、この前、新しいサンドイッチ屋さん見つけたんですよ〜。」

 財布だけ手にして、ミチルと和佳が楽しげにお喋りしながら店を出て、アーケードの下を歩いていく。ふと和佳が、鼻をクンクンと鳴らした。サンドイッチ屋さんを、匂いをもとに探そうとしているのだろうか? ミチルは不思議な顔で和佳を見ていたが、すぐに自分も目をキョロキョロとさせはじめる。

「・・・ん・・・なんだろう、ノドカちゃん。」

「・・・はい・・・、ミチルさん・・・なんか・・私・・・、お風呂・・入りたいです。」

 不安そうな顔を見合わせるミチルと和佳。目を合わせて頷き合うと、二人は新しいサンドイッチ屋さんで注文するつもりだったクラブサンドのこともツナマヨネーズのことも忘れ去って、すぐに近くの古びた銭湯へと駆け出した。

 お昼の銭湯は、2人にとって意外なほど繁盛していた。番台に座る若い男に300円払って、脱衣所に入るミチルと和佳。不思議と番台のスケベそうな男の子の目は気にならなかった。スルスルと服を脱いで籠に入れると、番台で渡された手ぬぐいを持って大浴場に入る。千本松原の絵が大きく描かれたタイルの大浴場。蛇口が並ぶ体を洗うスペースは既に多くの若い女性に占拠されていた。仕方なくシャワースペースで体を洗う2人。それほど広くない浴槽に入った時、店主の男の子が堂々と浴場に入ってきた。

「失礼しまーす。お湯とお風呂の様子チェックに来ましたー。気にしないでバスタイム楽しんでくださいねー。」

 頭にタオルをバンダナのように巻いた翔平が、デッキブラシを片手に浴場の中を、我が物顔で闊歩する。ジロジロと女性客たちの体を物色しながら嬉しそうに歩く翔平を見て、ミチルも和佳も思わず首まで湯船の中に浸かって体を固くした。

「ミ、ミチルさん。あんなの、失礼ですよねっ。いくらお店の人だからって・・・。」

「う・・ん。そうなんだけど・・・、銭湯って、こういうもんだったっけ? ・・・なんか私、久しぶりだから、これも当たり前のルールで、私たちが我慢しなきゃいけないんだったか、どうもよく思い出せなくて・・。」

「確かに・・・私も、銭湯なんてホンット久しぶりです。・・・言われてみれば、こういうもんだったかも・・・。恥ずかしがるの・・・、変かなぁ?」

 素直な和佳はすぐに真に受けて、浴槽からザブンと体を出してしまった。

「あっ、ノドカちゃん。ちょっと待って・・・、そこまでは・・・。」

 まだ少し首をかしげながらも、小さなタオルだけを持って、若い男性店主の目の前なのにプラスチックの椅子に腰かけ、体を洗い始める和佳。翔平は嬉しそうに申し出て、和佳の背中を洗ってやった。既に石鹸を泡立てて、撫でさするように丁寧に背中を洗ってやる翔平。和佳は少し顔を赤くして身をすくめ、「キャッ」と慣れない感触に声をあげながらも、少しずつ翔平に身を任せる。すぐにリラックスした表情になっていった。

「ミチルさんも、背中洗ってもらったらどうですか〜?」

 能天気な声をあげる和佳に、ミチルはドギマギする。和佳が裸で背中を知らない男性に触られている。それだけでも仕事先の先輩であるミチルは、自分のことのように恥ずかしがっているのに、自分もそれに参加するなんて、考えるだけでも顔から火が出そうだった。

「いやっ、私はいいから。ノドカちゃんも、早く戻っていらっしゃいよ・・・。」

 翔平が、何か和佳の耳元で囁く。和佳が笑顔でコクリと頷いた。

「ミチルさ〜ん。銭湯は裸のお付き合いなのに、何か薦められて断っちゃうとか、無粋なことはマナー違反ですよ〜。」

「そ・・・そうだった! ・・・きゃっ、ごめんなさい。私ったら・・・。」

 赤かったミチルの顔が青ざめる。慌てて浴槽を飛び出て、和佳と翔平の前に駆け寄る。若くて健康的なバストが上下に跳ねるのが恥ずかしいが、構っていられなかった。

「ごっ・・・ごめんなさい。私、銭湯久しぶりで、マナーとか、忘れちゃってました。」

 必死の笑顔でペコペコと取り繕うミチル。マナー違反で下町の社交場の雰囲気を悪くするなんて、最低の行為だ。恥ずかしい思いなんて押し殺して、笑顔で集団行動に従うべきだったのだ。店主の翔平は、ニッコリ笑って応じてくれた。

「二人は友達なのかな? ・・・仕事仲間? ・・・じゃあ、二人とも横に並んでよ。同時に背中を洗ってあげるよ。あと・・・前もちょいちょい・・ね。」

 プラスチックの椅子を横に並べて、2人を並ばせると、右手で和佳、左手でミチルの背中をゴシゴシ洗ってあげる翔平。5秒後には両手を回して、右手で和佳の、左手でミチルのオッパイを鷲掴みにしていた。

「ヒャッ」

 声をあげる2人に翔平が囁く。

「銭湯で体を洗うのは当たり前でしょ? 洗ってくれる人がいたらありがたく身を任せないと駄目だよ。マナー違反でしょ? それにすっごく気持ちがいいから、されるがままにしておこうよ。」

「う・・・はぁぁ・・・。」

「・・・ぁあんっ・・・。」

 ミチルと和佳の強張った体から、空気が抜けるように力が抜けていく。若くて張りのあるオッパイの弾力を楽しみながら、翔平が2人の体を好き勝手撫でまわし始めた。2人とも体をくねらせながら、時々仰け反るみたいにアゴを突き上げるけれど、翔平の手を押しのけたりはしない。いや、そんなことをしたらマナー違反にならないかと思うと、何をされても大人しく身を任せるしかなくなっているのだ。それに・・・なぜか翔平の無遠慮なタッチが、どうしようもなく気持ちよかった。まるで全身が性感帯になって、上手な彼氏に優しく激しく愛撫されているような、恥ずかしくて気持ちいい、ムズ痒い感じ。翔平の手に反応して痙攣するたびに、ミチルと和佳の肩同士がぶつかった。泡まみれで悶えている、2人の仕事仲間。下半身が泡で隠れているので、女の子の部分が恥ずかしい状態になっていることは露わにはなっていない。それでも、浴場に響く2人の喘ぎ声から、2人が感じまくっていることは誰の目にも明らかだった。

「も・・・もう・・・駄目。・・これ以上、触られたら・・、ノドカ・・・っもうっ・・・」

「お願い・・・ちょっと・・手を・・休めて・・・あっ・・そこはっ・・・はぁああああっ」

 2人まとめてエクスタシーに導いてあげる。天井に顔を向けて、一際大きな声を出して気をやったミチルと和佳の喘ぎ声を、誰かのタライの「カポーン」という音が追いかけた。

 。。

 いつの間にか女湯にひしめき合うように入浴していた近隣の若い女性たち、ミチルと和佳を含めて、全員が翔平の指示を疑いもせずに従うようになっていた。ミチルと和佳と、翔平がピックアップした好みの女性何人かで、今度は翔平の体を洗ってあげる。泡をまとった全員が、自分の体をマットやスポンジの代わりにして、協力して翔平を洗う。ソープランドさながらのサービスに店主の翔平もご満悦だ。リクエストされた通りに、翔平のモノをオッパイではさんだり、内股ではさんだり、優しく口に含んであげたり、おマ○コに咥えこんだりしながら、濃厚なサービスを繰り広げる。ヴァージンの女の子がいたので、最後には翔平は、その子を初貫通して、中で果てた。破瓜の血も、ぬるま湯でお姉様たちが優しく洗い流してくれる。裸の付き合いとは、まさにこのことだろう。

 大浴槽にひしめいたお姉さんたちの中に、翔平がダイブする。オッパイとお尻と柔肌と黄色い悲鳴の中を、思いっきり泳いで見せる。色んな肉の感触が両手や全身に返ってくる。今日の今日まで翔平は、自分が継いだ銭湯が、こんな素敵な場所だったなんて、想像もしなかった。このお湯に浸かっている美女たちは、みんな発情して、感度抜群になって、男大好きになっている。そんな湯あたりしたように上気したエロオンナたちの中を平泳ぎで、そしてバタフライで泳ぎ行く。女たちは一瞬でも翔平に自分の体を触ってもらいたくて、必死で媚を売る。端の方で翔平に触ってもらえない女はレズっ気を出して、女同士で乳繰り合ってる。古代ローマの皇帝が銭湯を作ったら、きっとこんな画になるんじゃないだろうか? そんなことを夢想しながら、翔平は女体をかきわけて女たちを順番にエクスタシーに導いてやっていった。

 浴槽を出ると、タイルの床に美女たちを並んで寝かせ、その上を全身泡まみれの翔平がヘッドスライディングで滑り抜けてみる。超敏感な体になっている女たちは、翔平が滑降していくだけで、順番に果てていった。これは・・・実は、見た目の面白さほどは、翔平にとって気持ち良くはなかった。見映えと実際の快感は、なかなか両立が難しいもののようだ。さっきのパイズリも、見た目のインパクトほどの快感はなかったように思う。翔平は、ヘイジーハットでの七海や香奈、玲香やその他大勢の美女軍団とのハードなセックスに慣れてしまって、体が贅沢になっているのだろうか?

 それでも、全員を時計回りの向きに輪を作るように並ばせて、皆で背中を洗いあった時には何だかホンワカとした気分を楽しむことが出来た。商店街の銭湯には、意外とこうしたフンワリエロスの方が相性がいいのかもしれない・・・。

 翔平が散々女湯で極上の美女たちを独占している間、男湯にも女性たちが入ってサービスに励んでいた。実は、ボイラー室から煙突を通って出る煙は、翔平が紙に書いた通り、「自分のことを魅力的だと思っている若い女性」を銭湯に引き寄せている。どんなに謙遜して見せようと、内心「私は可愛い」、「実は結構イケてる」と思っている若い子は、夢の湯周辺を通ると、抵抗できずにご来店となってしまう。番台で翔平は、自意識通りの魅力的な女の子たちは女湯にご招待。そして自意識では魅力的だが、翔平の目で見るとそうではないという子は、男湯で他の男性客のお世話をさせることにした。

 夢の湯には、噂を聞きつけた男性客もどんどん押し寄せる。翔平がボイラーの火を強めると、煙はより高く広く拡散して、となりのスミレ通り商店街どころか、その一本向こうのオフィス街からも、容姿に自信を持った若い女性を引き寄せる。ボイラーを勢いよく回しすぎたのだろうか? オフィス街から仕事も放っぽりだして、真顔でスプリントしてくるOLたちは、待ちきれないかのように商店街を走りながら服を一枚一枚脱ぎ捨ててくる。始めにハイヒールを蹴り捨て、ビジネススーツや制服を剥ぎ取って、スカートもパンティストッキングも放り捨て、高そうなランジェリーまで廃棄して、夢の湯に突っ込んでくる。番台の翔平の「男湯行き」か「女湯行き」かの選別だけは気をつけの姿勢で大人しく受けるのだが、その後はまた矢のように脱衣所を突き抜けて、全裸で浴槽にジャンピングボディアタックをかけるように飛び込んでくる。都心のビジネス街一等地で働く、キャリアウーマンや華やかなOL、煌びやかな受付嬢たちが、大混雑の下町公衆浴場に次々と真顔で全裸ダイブしてくる様は、ちょっと怖いものがあった。

「わっ、ちょっとボイラー勢いよく焚きすぎたかな? みんな、怪我しないようにしてあげないと・・・。」

 翔平が慌てて調整し、念のためにボイラーに、「みんな、固いこと言わない」と書いた紙も放り込んでおいた。

 おかげで、通報を受けた警察官も、苦情を言いに来た近くの商店のおばちゃんも、みんなでヌードスプリンターたちのダイブを、街の名物のように笑顔で見守ってくれるようになった。翔平のジャッジを予想しては、やれ当たっただの、外れただの。やれショートカットに厳しいだのと、評価の評価をして楽しんでいる。商店街の組合長は、女湯に招いてもらい、禿げあがった頭を、石鹸で泡立った4人の美女たちのアンダーヘアに、スポンジのように磨き上げてもらって、ご満悦だ。4人の美女はそれぞれ、銀行員、証券会社勤務、商社の受付、パン屋さんの看板娘らしい。ふだんだったらあり得ないような顔合わせで、両手を繋いで輪のようになって、協力して腰をくねらせる。泡立った陰毛を四方向から、オジイチャンの禿げ頭に円を描くように擦りつけている。みんな、裸になってしまえば、一人の人間。お風呂はリラックスの場所。固いこと言わないで、裸の付き合いを楽しめばいいのだ。

 新しい美女が次から次へと女湯に登場すると、女湯のキャパシティも一杯になる。翔平もこうなると、若干見飽きた、長湯の美女の中から何人か見繕って、男湯に回すしかない。男湯では、思わぬオコボレでハイグレード美女が新たな奉仕に来てくれるので大喝采だ。その様子は壁を越えて、女湯にも伝わる。男湯への移動を命じられた女性たちも、この際、プライドをかなぐり捨てて、新たに自分を迎え入れてくれた男たちに丹念なサービスをする。さっきまでは付近で働いていただけの美女たちが、本番歓迎。NGプレイ無しの、銭湯コンパニオンに早変わり。全員のぼせてきたのか、理性もすっかり失って笑顔でハメ狂った。男湯の楽しそうな様子は、壁越しに女湯にも聞こえてくる。女湯の浴槽と、番台とを何往復もしてくたびれはてた翔平だったが、みんなの喜ぶ声を聞くと、湯船で疲れも忘れるような心持ちだった。


。。。



 こうして新楽地通り商店街の端にあるクラブ、「ヘイジーハット」と、路地裏にある「夢の湯」が、奇妙な繁盛を始める。夢の湯の営業時間は延長されて、クラブで踊りつかれ、汗だくになった若い男女が銭湯で汗を流すという、不思議な人の流れが完成した。夜明け近くまで若い男女が押し寄せる銭湯では、待ち構えていた商店街のオヤジたちが、薬湯やジェットバスで疲れを癒し、元気を回復した若い女性たちと背中を流しあい、和気あいあいと抱き合って湯船につかる。選び抜かれた美女、美少女は女湯で翔平と大樹とシッポリお風呂遊び。選から漏れたが十二分に魅力的な別嬪さんたちは、男湯でローカルコミュニティーと触れ合い、流しあい、まぐわりあう。閉店間際には、みんなで裸のまま、タイルを磨き上げ、ボイラーの煤を払って、数時間後の開店に備える。近所の銀行や美容院に勤めていたはずの女性たちの何人かは、ほとんど銭湯での掃除と裸接待が日常のルーティンに変わってしまっていた。それでも彼女たちは幸せだ。毎日の大部分がバスタイムなんて、働く女性にとっては夢のような生活ではないか。彼女たちの職場も、職場の華やマドンナを奪われてしまったものの、夢の湯の煙突から煙が出ている限りは、『固いことは言わない』ようになっていた。

 夢の湯が朝一番に開くと、常連のオジイチャンたちがゾロゾロと、競輪やプロ野球や、持病の話をしながら入ってくる。通勤アワーになると、「今日こそは真面目に仕事をしよう」と心に決めていたはずのOLさんたちが、やっぱり我慢できなくなって、服をポイポイ投げ捨てながら、女湯へ、そして男湯へと駆け込んでくる。ドポン、ドポンと湯船にダイブした「容姿に自信のある」女性たちは、お湯から顔を出して一通り体があったまったら、お爺ちゃんや翔平の体を洗う、「お風呂のマナー」の忠実な遂行に移る。自分の性感帯や、自信のあるパーツ。逆にコンプレックスを持っているパーツ。これまでにした過激なプレイ。密かに隠し持っているイケナイ妄想などなど事細かに説明しながら、マットの上で翔平や常連客たちを丁寧に、丹念に体を駆使して洗い上げる。今や本職の風俗嬢顔負けのマットプレイを披露しながら、オッパイで、お尻で、舌で、股で、そしてアソコで、男たちの体の垢をカスを、全て擦り取る。もちろん無駄に溜まった精液も、しっかり搾り取らせてもらう。そのために出来ることは、何でもする。それこそが、夢の湯専属・銭湯コンパニオンたちのプライドだ。

 8時半を回るころ、スミレ商店街の看板娘たちも、続々と夢の湯に集まってくる。今日もご近所さんのよしみで、銭湯のお客のためなら一肌も二肌も脱いでくれる。足の指の股から肛門の皺まで、綺麗に舐めとられたオジイチャン、オジチャンたちは、赤ちゃんみたいにピカピカになる。その様子を見て、美女たちが互いに顔を見合わせてはクスクス笑う。最高の満足感と高揚感、そして密かな性的興奮。素晴らしい朝の一仕事だと思える。何人かの別嬪さんは、口の端や大事な部分から精液を垂らしながら笑っているので、それをコンパニオン同士で洗いあう。全員でムカデ競争のように連結して繋がりあって昇天する頃には、昼休みが近づいている。

 昼休みには、ランチを食べにこようとした、少し離れた場所で働く人たちも、夢の湯の煙に触れる。新顔が次々と商店街の路地で服を宙に舞わせ、銭湯の中で喘ぎ声を響かせるようになる頃、朝のお勤めをしていた銭湯コンパニオンたちは、やっと本来の職場に向かうことが出来る。しかし全員、残業は出来ない。夕方からはクラブの開店準備の手伝いがあるからだ。毎晩、大パニック、大狂乱のフィーバーが巻き起こるクラブの開店準備は、昨晩の後片付けの続きから始めなければならない。人手が要るのだ。さらにはこのクラブの店長が精を貯め込んでていたりすれば、要るのは手だけではない。何にせよ、美女は多いに越したことはないのだった。

 全員で、朝の銭湯でのお仕事を称えあうように、あるいは、自分の本来の仕事が停滞してしまっていることからくるストレスを打ち消すように、クラブで踊り狂う。朝からのぼせていたからだろうか? それぞれが職場や学校、友人関係の輪の中で頂点に立つようなマドンナ、アイドル、有名人として君臨する美人さんたちのはずなのに、クラブでの彼女たちは妙に惚れっぽくなる。毎回店員さんに手渡される青いリボンを首に巻くと、言い寄ってくる男性がどんなキモメンだろうと、コインパーキングのように笑顔でみんなを次から次へと体の中へと呼び込み、受け入れる。

 果たしてDJが絶妙なのか、音響設備が優れているのか、このクラブは、一瞬にして店内の雰囲気を一変させる。さっきまで素敵なムードで昭和なチークタイムを楽しんでいたはずの彼女たち、可愛い店員さんたち、そしてその他のお客さんたちが、曲が変わった瞬間に、一転して子供のお遊戯にようなダンスを手足振り振り、あどけない笑顔で始める。そうかと思うと、服を着ているのが急に鬱陶しくなって、店内全員で21世紀ヌーディスト宣言。肩を組んで全裸で快活な記念撮影。曲が止まると、突然恥ずかしさが帰ってきて正気に戻る。パニック状態の店内に、店長と常連の夢の湯店長の二人だけが笑い転げている。また音楽が流れだすと、パニックは嘘のように収束して、全員綺麗に列を作って順番にリンボーダンス。全裸のまま、オッパイを痛いくらいに揺すって、リンボーダンスを終えると、今度は勇壮な音楽に後押しされるままに、全員でコサックダンス。足腰が痙攣するほどつらいが、途中で床に崩れるような軟弱者は、誇り高きコサックの片隅にも置けないので、罰としてウォッカを一杯、飲み干さなければならない。見る間に、全裸の酔いどれ美女が山になって折り重なる。こんなだらしない女たちは、どんな犯され方をされても、文句一つ言えないだろう。

 音楽が変わると、ドニブロ川流域の、冷たくも豊かな大地から、店の客たちは現代に引き戻される。現代、といっても、まだ彼女たちの時代には辿り着かない。ここは70年代初頭のサイケなディスコ。ミラーボールが回る下で、彼女たちはサタデーナイトを満喫する。華麗なステップを披露してくれる男には、誰であっても足を開いて飛びついて、フィーバーさせてもらう。フリーセックス当たり前。LSDがガンガンに決まった、フラワーチルドレンの残党たちなのだ。曲調がさらに現代風に変化すると、店内にひしめく全裸の客たちは、ディスコダンスを止め、現代を飛び越えて、未来へ。全員サイボーグなる改造手術を受けたと思い込む。一糸乱れぬ見事なロボットダンス。張り付いたような笑顔で、素人とは思えない機械的な動きを表現する、全裸のサイボーグたち。ちなみにこの間、誰かにうなじのボタン(と思われる部分)を押されれば、直ちに「超高性能ダッチワイフ」にモード切替え。生身の人間には不可能と思えるほどの腰の動きと正確な愛撫で、ボタンを押してくれたオーナーに、未来のテクノロジーをプレゼンしてくれる。

 未来からようやく現代に戻ってくると、今度は世界各地のダンス展覧会。全員でブラジルの熱きサンバを披露して腰が外れるくらいに激しくカーニバルを祝ったかと思うと、見知らぬ男女同士、全裸のまま絡み合ってランバダを情熱的に舞い踊る。今では懐かしい、「マカレナ」がかかる時にはなぜか、女性たちの体の各所が異常なほど敏感な性感帯に変わっている。彼女たちは悶え狂いながら体のアチコチに手を当てて腰をくねらせなければならない。触るところ触れるところが性感帯。恥ずかしそうに喘ぎながらも、全員踊りはやめられないでいる。

 時々、大樹や翔平がわざと曲を止める。そのたびに、真面目なOLさんやお淑やかな女性、可憐なお嬢様が、急に我に返って、悲鳴を上げる。逃げ惑ってぶつかりあう女の子たちと、それを指さして興奮しながら、自分の股間は必死に押さえつけている間抜けな男たち。彼ら、彼女らは、音楽が再び流れると、途端に大真面目にタンゴやフラメンコに戻ったり、ゼンマイ仕掛けの玩具のように背筋をピンっと伸ばして隊列を組んでフレンチカンカンを始める。その様子が滑稽で、大樹や翔平は涙を流して笑う。日本に戻ってきて、「ヘイジーハット流ドジョウすくい」(腰の動きがより卑猥で、オモシロ顔が強化されているだけの、古典的ドジョウすくい)を美人さんたちに披露させる時には、ほとんど10秒ごとに曲を止めて、彼女たちを正気と、ドジョウすくい一筋30年の師匠顔との間で行ったり来たりさせる。寄り目で蛸口、鼻の穴を限界まで広げた「おどけ顔」は、笑えるというよりも立派な伝統を感じさせるほどの滑稽芸だ。それでもこの顔と、慌てふためく、うら若き乙女の素顔が10秒ごとにスイッチバックすると、大樹も、リモコンを握る翔平も、笑いを堪えきれない。

 そして最後に訪れるジャングルフィーバータイム。体にわずかに残った力を振り絞って、店内の男女がハイパージャングルテクノに合わせて踊り狂い、ハメ狂う。かかってくる飛沫が一体、誰の涎なのか誰の汗なのか、はたまた誰の愛液なのかもわからない。選りすぐられた一級の美女たちが、一匹の獣になって踊り狂い、悶えくるうのだ。

 もっとも、この時点でまだ翔平の悪戯心が残っていると、ジャングルテクノに割り込むように、時折「大きな栗の木の下で」や「セーラー服を脱がさないで」、あるいは「白鳥の湖」といった曲が急に流れ出す。叫ぶように喘ぎながらハメ狂っていたお姉さんたちが、慌てて優しい笑顔でお遊戯を始めたり、キュートなスマイルでアイドルソングを踊りだしたり、すまし顔でバレエを舞い始めることは言うまでもない。

 そしてもちろん、どんなダンスの途中、どんなパフォーマンスの途中でも、大樹や翔平に声をかけられれば、女性たちは全てをなげうって、彼らの指示に従って、口に出されたことを実行した。彼らがサカッている時はされるがままに貫かれ、彼らが疲れている時には自分から胸を手のひらに押し付けてモミモミさせたり、乳首を舌に押し付けてぐりぐりと体を回転させたりして、彼らが動かなくても自分たちから自らの体を舐めまわさせた。彼らのおチンチンなどは、萎びてしまうまで、常に誰かの股間の肉ポケットに突っ込まれ、愛撫されて続けていた。

 いよいよ閉店時間が近づくと、足腰立たないほどに踊りくたびれたお客さんたちを誘導して、みんなを夢の湯に連れて行く。翔平が紙に書いてボイラーに入れたとおり、この銭湯の薬湯に浸かれば、傷も癒え、疲れもとれる。望まぬ妊娠や、性病予防にも抜群の効能を発揮する。まさに夢のようなお湯なのだ。


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 大樹と翔平の、新楽地通り商店街での酒とバラとお湯と音楽とエロの日々は、最高の思い出を日々紡ぎながら、夢のように続いた。お店も繁盛。商店街も活気づきつつある。そして右に左に抱えきれないほどの美女、美女、美女。全員が2人の思うままに身を粉にして笑顔で尽くしてくれる。2人にもはや、悩みも心配事も思いつかないような幸せな日々だった。

 この間、唯一、翔平がたまに気に掛けたことと言えば、商店街で育つ、近所の悪ガキどものことだ。

「夢の湯の近くで待ってると、美人のネーチャンたちが、次々とオッパイ丸出しで走って来る。」

「夜更かししてヘイジーハットの近くで時間を潰してると、超美人な女の人がバスタオル一枚で夢の湯に向かって歩いて行ったりする。あと、うまく店に潜り込めると、最高に綺麗なネーチャンたちにエッチなことを色々してもらえる」

 下町のマセガキたちは横の結束も強い。噂はすぐに広まって、いつも夢の湯やヘイジーハットを覗き見しようとするガキがウロチョロするようになっていた。以前だったら近所の大人に叱られていたり、追い返されていたりしたはずなのだが、今ではこの辺りでは誰も『固いことを言わない』ようになっている。

 この少年たちを追い払うために、紙に指示を書いてボイラーに入れようかと思った翔平だったが、自分自身の、性に飢えたエロガキ時代を思い出して、しばらく放っておくことにした。大樹は押し寄せるクラブの上客を捌いて楽しむのに手一杯だったし、ショーデンさんも、商店街の猥雑な雰囲気が復活して、嬉しそうにしていたので、翔平も細かい心配をするのを止めた。こうして冬を迎えても、新楽地通り商店街の奇妙な盛り上がりは、悪い夢のように続いていった。

 
 


 

 

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