闇からの視線 〜黒と白外伝〜


 

 

3.国家権力陥落


「四宮課長ーっ、お電話でーす。外線4ばーん」

 朝の喧噪に紛れるものかと、部屋の向こう端から受話器を掲げた署員が大きく声を張り上げた。

 カチャッ

「はい、四宮ですが」

 強く耳に押し当てられた受話器から飛び込んできた声は、思いも寄りはしなかったが響子の不機嫌を払拭するには充分な物だった。

「あっ、響子先輩、ご無沙汰してます。堂島です」

 ごく久しぶりに聞いた彼女のソプラノは、瞬間、懐かしい学生時代へとトリップさせてくれる。

「あら!綾香?久しぶりじゃない。配属以来かしら?どうしたの、急に」

「すみません、職務中に...実はちょっと相談したい事があって。あの...部下じゃなく、後輩として...」

 その少し弱気を含んだ声に響子は若干の驚きを感じていた。
 響子の知る限り、綾香の弱気など見るのは初めてではないだろうか?
 家柄、育ち、知性、容姿、そして強さ....その全てに於いて彼女を越える者など知る限り居ない。
 それは彼女が学生時代より唯一慕っていた響子とて例外ではなく、確かに経験や知識は勝っているとはいえ響子がこれまで死ぬ思いで培って来た物を綾香は生まれついた時より持っていたのだ。
 正にサラブレッドとは彼女の事を言うのだろう。それ程に隙の無かった綾香が今、自分に救いを求めている。
 響子の中に僅かな優越感が芽生え、それはなんとか彼女の力になりたいという思いにも繋がった。

「なんかあったの?」

「え...ええ。ちょっと電話ではお話ししにくいんです...あの、先輩...今日はお忙しいですか?もし良かったらお昼か夜にお食事でもご一緒できたらと....」

 一層沈んでゆく綾香の声にただ事では無い色を感じ取った響子は、即答していた。

「ええ、いいわ。お昼なら行けるから。場所は.....」

「あ、なら先輩、表通りにウチのレストランがありますのでそこを予約しておきますから。申し訳有りません先輩、私的な事で呼び出したりして...」

「何言ってんの。私的にもあなたは後輩でしょ?たまには私にも先輩面させて頂戴」

「はい、ありがとうございます....」

 今までも可愛い後輩だった。なぜか自分の廻りに居たがる彼女に対し響子もよく面倒をみた物だったが、今の彼女の声には無性に守りたくなる童女のような愛らしさが滲み出ていた。





 ほんの昼食で入ったそこは響子にとっては思ってもみなかった豪華なイタリアンレストランで、大きなガラスの自動ドアが開くと支配人とおぼしき男が最敬礼を持って向かえ入れてくれた。

「四宮様ですね?お嬢様がお待ちでございます。こちらへどうぞ」

 最奥のVIPルームの扉がゆったりと開かれると、即座に立ち上がり満面の笑顔を向けている綾香が居た。

「あっ、せんぱい!どうもすみませんでした、お呼びだてして。どうぞこちらへ。まずはお食事にしましょう」

 その嬉しそうな顔を見ると、さっき迄の心配事はどうなったのか?などという疑問も浮かんでくるが、それは単純に自分との再会を喜んでくれているのだと思い直し、右手を軽く上げながら部屋へと入った。

 その時....

 ビクッ!

 響子の背筋が凍り付き、部屋の入口で開ききった眼と共に固まった。

(っっっ!!!?ななな、何?....なにこれ?...これは....!!そうだ!一度署の廊下で感じた気配.....でも、そんな...あの冷たい感触の持ち主が、綾香だというの?この、背筋に食らいつくような気配の持ち主が...まさか...そんな....)

「どうしました?先輩....」

 いまだに嬉しそうな顔でこちらに歩み寄る綾香の背中に、今ははっきりと見える黒い霧が纏わっている。

「あ、綾香....あなた.....いつから..?」

「え?なんですか?」

 よく見ればそのにこやかな笑顔はただ自分との再会を喜ぶだけの物では無い事に気付いた。とはいえ作られた笑顔というわけでもない。餓えのどん底で喘いでいた獣が餌を目の前にぶら下げられ、今にも食いつかんと涎を垂らしているような、そんな...狂気の喜色。

(まさか!綾香までもが...?)

 綾香は...この美しき獣は、確かに飢えていた。正に死の直前で足掻く肉食獣のように、餌を得る為にはどんな事でもするだろうその眼差しは、ギラギラと輝いている。
 それは、白鳥や篠村の物とも違う。彼女達にはまだ余裕があった。大事な獲物を愛でるような、だが圧倒的上位から見下ろすような...ハンターのそれだった。
 
 だが響子とてこのまま怖じ気づいて帰るワケにはいかない。まさか綾香も今ここで狂気を解き放つ事まではないだろう。
 それに上手くいけば捜査の糸口もつかめるかもしれない。
 そんな甘い思いをもってさり気なく椅子に腰掛けた響子だったが、それはたかがヒト風情が考え及ぶ精一杯の所でしかなかった。

「あ、いえ、なんでもないわ...案外元気そうね?」

「そうですか?でも無いんですよ。私本当に困ってしまって....もし今日、先輩に断られたらどうしようって思ってたんですから。だって先輩にはどうしても会って頂かなくちゃいけないんですもの。私の....ご主人様に」

 綾香の頬が妖しく吊り上がる。隠していた本性が、捕食者の笑みが、満面に浮かび上がった。

 ガチャッ...キィィィィ....

 響子の背後のドアがゆっくりと開けられた。

 毛足の長い絨毯に靴が沈んでいる。
 一つ....二つ....少しずつ近づくその気配に響子の肌が総毛立つ。

(誰だ?...綾香の主人?....やはり...天野か?.....くっ!!う、うぁっ!...?)

「ぐ、ぐわっ!!く、ぐぅぅ....かはっ...はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ...な、なんだこいつはぁっ!!何者だっ!人かぁっ!?」

 こんな感触に触れた事は今までに無かった。響子の心にズカズカと土足で入り込む、普通の人間ではとても形容すら出来ないような恐怖の象徴が、今少しずつ触手を伸ばしている。

 響子の脳が身体に『振り返って構える』よう命令を下した。
 その直後、響子の本能がそれを否定した。いや安全弁が働いた、というべきか。
『見てはいけない!振り返ってはいけない!』その理由になど全く関心も寄せず、響子はその警鐘にただ従った。

 ガタガタガタガタガタ.....

 あれ程気の強かった響子の全身が大きく震え出し、焦点の合わない瞳はテーブルの上を彷徨っている。

「どうされました?先輩?」

 それらの反応に思いもよらず驚いた綾香は、響子の背後に視線を投げ掛けている。
 おそらくはその視線に答えたのだろう。背後から響子の心を鷲掴んでいたモノがほんの少し緩んだ。

 その瞬間を逃さず、目の前の皿の束を掴んだ響子は目を伏せたまま背後に投げつけ、振り返りもせず脱兎の如く駈け出した。

 虚をつかれた二人の捕食者達は特に追う素振りも見せず、視界から走り去る響子の背中を眺めながらそのままテーブルに着いた。

「どういう事でしょう、ご主人様?」

「ふん、ちっとばかし勘がいいようだな。ま、それだけだ、問題無い。だが俺とした事が迂闊だったぜ。まさか”殺人を犯して死刑になる”なんて死に方があるとはな....」

「ではやはりあの関連の犯人はご主人様の...?」

「ああ、知らなかったのか?俺が闇に食らわせた豚共だ。
 おいそんな事よりお前、この仕事にいつまで掛かってるつもりだ。これ以上もたつくなら他の者に代わらせるぞ」

 綾香の血の気が失せ、座っていた椅子を跳ね飛ばしながら立ち上がった。

「そ、そんなっ、申しわけ有りませんご主人様っ!もう少しです。もう少しだけお待ち下さい!」

「後3日だ。それ以上は待たん...この程度の分署を墜とすのに時間と手間を掛けすぎだ。お前もそろそろ餌が欲しいんじゃねぇのか?」

「はいっ!必ずっ!!」

 ”餌”、その言葉に敏感に反応した綾香の頬が嬉しそうに上気する。

「それと間違ってもあいつらを”死刑”になんぞさせるんじゃねぇぞ。あいつらが一人でも死んだらお前も廃棄だ」

「はははいっ...今日中に全ての証拠を処分しておきますっ!」

 またしても綾感の血の気は一気に失せる。今や彼女の細胞は影一の一言一句に小気味よく揺さぶられ、惑わされる良くできたおもちゃのようだった。

「ったく、もうちっと使えるのかと思ったがな.......ところで綾香。ここのメシはなんでこんなに時間が掛かるんだ?まさか他の客の分を先に作ってるなんて事は....ねぇよな?お嬢さん」

「い、いえっ、滅相もない。しょ、少々お待ち下さい」

 駈け出ていった綾香のヒステリックな声が店中にこだまし、その日その店の従業員全てが入替となった事を、今はまだ誰も知らない。






 午後3時、響子は署内の自分の席に腰掛け、今も尚全身を苛む恐怖に包まれていた。
 華奢な肩は小刻みに震え、虚ろな眼は目の前で歩き回る部下達を捉える事すら出来ていない。

(あんな、あんな化け物が...この街に居たなんて。私は一体今まで何を....)

 か細い手で顔面を覆い、指先でぬめる額の感触を感じながら必死で頭の中を整理しようと集中する。

 トンッ...

 自らの指の間から卓上に置かれた白い紙コップを見つけると、そこから漂うコーヒーの香りが何故かとても懐かしく思える。

「課長、なんだかひどくお疲れみたいですね。よかったらコレ、飲んで下さい」

 いつもは苛立たせるばかりの勝本の声が彷徨っていた響子の心を日常に引き戻し、安らいだ。

「ああ、ありがとうね、勝本クン....助かる」

 嬉しそうに目を細めながらそのカップを手に取り、両手でその温かさを感じながらいつもの勝本に対する自分の態度を若干反省する響子。

 目を閉じ、そこから立ちこめる香りを一杯に吸い込んだ後、少し紅の乱れた唇をそっと着けた。

(!!っ!え!えっ!!)

 バチャーーッ

 その黒い液体が響子の口に触れた瞬間、先程までも散々彼女を苛んでいた警鐘がガンガンと鳴り響き、手に持ったカップは床に叩きつけられ、床一面に広がっていた。

「ああっ、ひっどいなぁ....せっかく課長の為に買って来たのに。いくら僕の事が嫌いだからって、そこまでしなくても....」

「勝本君、あっ...あなた.....」

 響子が臨戦の構えで振り返ったそこには、唇を尖らせ、すねた面持ちでジトッと自分を見つめる、いつもと”ほぼ”同じ勝本がいた。
 そう、いつもと一つだけ違うのは...背中に纏わる、黒い霧。






「ねぇ、いいでしょ?私ってそんなに魅力ないかしら....クスン」

「あ、いや...君、そういう事では無くてだね、えー、今は職務中なんだから、その....」

 タジタジと額に汗をかきながらも股間に割り込んでいる女の膝の感触をしっかりと堪能し、建前を並べ続ける男。
 署内の資料室で繰り広げられるその風景は傍目には極平凡?なオフィスラブのそれだった。

「ダメ!ダメなのよ、私。もう疼いて仕方がないの。今すぐ私のココ、あなたの物にして欲しいの。あなたの物で一杯にして欲しいの、おねがい.....部長」

 綾香や響子には及びはしないがそれでも彼女達よりも溢れる愛らしさで根強い人気を誇る署内のアイドル、君嶋みどりにせまられて刑事部長笹岡は陥落寸前だった。

「きっ、君嶋君...でっ、出来れば、終業後に、してくれると、あ、ありがたいんだが....」

「いやよ、今すぐしてくれないんなら、諦めます。ホントは部長の事、ずっと好きだったんですけど、もう部長の事想いながら一人で慰めるのは嫌なの。私のここにいつでもどこでも入れてくれる人、探すわ」

 俯き、大粒の涙を流しながらしゃくり上げるみどりに対し、僅かな憐憫と大きな性欲が湧き起こる。

「君嶋君、そんなに私の事を...ありがとう。分かったよ、まさか君がそんなにいやらしい娘だったなんて知らなかったけど...そんなに言うなら君の望みを叶えてあげよう。そのかわりこれからは私の言う事も聞いてもらうよ。私のしたい時にも付き合って貰わんとね」

 極上の獲物を獲得した支配者の素振りで笹岡はみどりの顎をクイと摘み上げた。

「はいっ、もちろんです!いつでもお願いします。私、ホントは一日中挿れていて貰いたい位なんですから、部長さんのおちんぽ」

 心底嬉しそうな顔で笹岡の首にしがみつき唇を合わせると、精一杯伸ばした舌で歯の裏をまさぐる。
 その間もみどりの膝はグリグリと股間を刺激し続け、やがて廻された右手がそれに加わると風俗嬢顔負けの手管で追い上げてゆく。
 口内が蹂躙されている今の状況では歯を食いしばる事も出来ず。目を堅く閉じて笹岡はその責めに耐えている。
 ようやく解放された口からツーッと糸を引き延ばすみどりの舌が首筋に移り、瞬く間に外されたネクタイとワイシャツがハラリと床に落ちた。
 男の限界がすぐそこに近づくのを察知したかのように、股間を蠢いていた指先が離れ、胸元にてら光る唾液の跡をそっとなぞってみる。

「うっ、くぅぅっ...君、が、これほど、上手い...とは....も、もう....」

「うふふっ、ダメよ部長さん...まだまだこれからなんだから」

 ベルトが片手で手早く外されズボンが床にストンと纏まると、目一杯突っ張ったブリーフの先が微かに濡れているのが見えた。

「部長さんったら、すっごく溜まってるんじゃない?待っててね、す〜ぐに空っぽにしてあげるわ。うふっ」

 妖しく見上げる彼女の視線だけで、ブリーフの上からツーッとなぞった指先の感触だけで、笹岡の肉棒はビクンビクンと痙攣し、縦縞のその布をドロドロに湿らせた。

「ああっ、嬉しいわ、部長さん。こんなに私の事感じてくれて。好きよ....」

 気恥ずかしそうに目を背ける男のプライドを傷つけぬよう、みどりはもう一度そっと唇を合わせた後、股間に張り付いた布をヌルッと剥がし、降ろしていった。
 堅く縮れた陰毛に絡みついた白い液体をさもおいしそうにその可憐な唇でこそげ取った後、まだピクピクと動きながら垂れ下がるその肉塊にそっと舌を這わせ、くわえこんだ。

 ニュルッ、クチュクチュクチュ、ジュッポジュッポジュッポ、レロレロレロレロ....

「ああっ...君嶋君....」

 程なく復活したその肉を文字通り舌なめずりながら食していくみどり。

「ほっへほおいひいれふわ、むひょうはんろおひんほ」

 ニュルンッと喉奥まで吸い込まれ、チュパチュパッと亀頭を吸い上げられ、レロレロとカリ裏を舐め回され、ツーッと裏筋を舌が走る。10本の指先は陰嚢へ、アナルへ、腿裏へと這い回る。
 どこまでも男を魅了するその熟練された手管と資料室に充満する臭い、そして何より彼女の目の奥で光る男を捉えて離さない妖しい光。それらは人が作り出せたとは思えない程の卑猥な空気を漂わせ、またも笹岡を追い上げる。

「きっ、君嶋君....すっ、すまない....」

 そう言い残して為す術もなく忍耐を放棄した男の股間からはまたしても大量の白濁液がみどりの口内に放出された。
 恍惚の表情でそれを飲み下し、未だぬめる舌で真っ赤な唇をなめずりながら、男を際限なく高ぶらせる視線が絡みつく。

「うふ、部長さん?気にしてらっしゃるの?いいのよ、気にする事ないの、時間は幾らでもありますわ。イってしまわれたのは私が魅力的だから...そう思って構わないかしら?」

「も、もちろん...それに...とても...上手だ。う、うますぎる」

「うふふ、ありがとうございます。でも部長さん?当然私にも下さるんでしょ?部長さんの立派なモノ、私がずっと欲しがってたモノ。ほら、こんなに欲しがってますわよ、私のコ、コ....」

 そう言いながら傍らの机に頭を預け、勢いよく捲り上げられた制服のスカートの中は笹岡の予想を裏切り、いやらしい内蔵の奥までをチラつかせる肉の裂け目が直接視界に飛び込んできた。
 その高く突きだした尻の間でグチャグチャと自らこね回しているそこから飛び散る程に湧きだした愛液が手首までをも濡らしている。
 普段一部の隙も無いほどに着こなされている制服の下から覗くその淫靡な風景は、日常と非日常の狭間から延びる悪魔の誘ないを思わせる。

「ゴクッ.....そ、そうしたいのは山々、なんだが....そんなに急には....」

 申しわけなさそうに、恥ずかしそうに頭を掻く笹岡の眼を卑猥な股間の向こうから睨め付ける妖女の視線が直撃する。
 バックの姿勢のままよろめくように近寄り、毛むくじゃらの太腿にあてがわれた柔肉がズリズリと上下に粘つく液をなすりつけていく。

「そ、そんな....初めてだ。これほどに....」

 久しく女性と身体を合わせていなかった。それどころか性欲すら昔程には感じなくなっていた男が、僅か数分の間に三度目の準備を万端に整わせていた。

「どう?私の身体、お気に召して?」

「ああ、もう、離れられない、離さない...君嶋君、どうか私と....」

「あら、嬉しいわ....でも私とずぅーっと一緒に居るにはこの身体、満足させてくれなくっちゃ」

「よ、よーし、いくぞ、今度こそ君を満足させてやる」

「あんっ、うれしいっ!来て、早く早く、ずーーっと奥までブチこんでね、ぶ、ちょ、お..」

 ズチュゥゥゥッ...ニュルッ、ニュチャッ

「お、おおおおおぅ.....す、すごい....」

 その瞬間に突き抜けた電気のような快感は笹岡の頭までをも犯し、思考と理性を一瞬で吹き飛ばした。

 後の笹岡は只々本能のままに獣のように腰を打ち付け、股間から頭までを痺れさせる感覚だけを貪っていた。

「ああん、部長さぁん、き、きもちいいですぅぅっん。もっと、もっと、はやく、いっぱい、おくまでぇっ!」

「くっ、こうか?それとも、こうか?ううぅっ、く、ぐ、あっ、あっ、ああああっ...」

 またしてもみどりの中に放出されたそれはもうそれ程濁ってはいなかった。

 連結を放ち、ドンッと後ろの壁にもたれ、ズルズルと背中を擦り付けながら頽れるようにへたりこんだ笹岡に、不満そうなみどりが上から覆い被さっていく。

「ダメよっ!部長さん、私まだまだ満足してないんだから。こんなくらいで倒れたりしたら許さないわよ!」

「う、す、すまん....だが、もう...」

 足首を掴み、立てていた膝を無理矢理伸ばすとズルズルッと尻を引きずり、笹岡を仰向けに寝転がらせるみどり。
 そのまま69の態勢でもう一度肉棒をくわえ込むと、さっきよりもずっと激しいフェラチオで見る見る内にそこへ血液を集めていく。
 目の前でうねる腰、パクパクと男の精液を咀嚼するような淫裂の動きは視覚から男の本能を直接刺激するかのようだ。
 だが今までよりも若干柔らかいままのそれは少しでも気を抜くと倒れてしまいそうで、ムッとした表情のみどりがアナルに中指をズボッと埋め込むと、男のウッという呻きと共に硬度を取り戻した。

 それで少しだけ機嫌を直したみどりは、素早く向きを変え、笹岡のザーメンが未だ滴る裂け目にそれを取り込んでゆく。

 ズチャッ、ニュルッ、ジュボッ、ズチャッ、ニュルッ、ジュボッ...

「うっ、うううううううぅっ」

 目の前で大きく上下する乳房を嬉しそうに眺めながらも、股間に延々と与えられる感覚は快楽とは程遠いものだった。
 だが、牡の生理反応を知り尽くしたかのようなその淫虐な奉仕に、意思とは無関係の所で反応が引きずり出される。

「あっ、ああっ!いいわ、とっても気持ちイイわよ、部長さんのおちんぽ。ねぇ、私のおっぱい舐めて、レロレロしてぇん.....ホラ見て、乳首もこんなにおっきくなってるの。部長さんのおちんぽ見たいにいやらしい事して欲しくて堅くなってるの。ね、舐めて、噛んでもいいわ。いっぱいいっぱいいじめてほしいの...ねぇ、ねぇ、おねがいよぉ.....」

 ドピュッ、ドクドクッ...

 またしてもイってしまった男のそれが萎える前に、みどりの膣が吸い上げ、襞を擦りつけ、まとわり、指先や舌の愛撫と相俟って決して硬度を失わせない。
 視覚で、聴覚で、触覚で、嗅覚で、味覚で、男を刺激し続ける淫らな性具はうねうねと終わる事なく腹の上を踊り狂う。

 ズチャッ、ニュルッ、ジュボッ、ズチャッ、ニュルッ、ジュボッ...
「うっ、うううううううぅっ」
 ドピュッ、ドクドクッ...

 ズチャッ、ニュルッ、ジュボッ、ズチャッ、ニュルッ、ジュボッ...
「うっ、うううううううぅっ」
 ドピュッ、ドクドクッ...



 数時間にも及ぶ痴虐の果て、窓から差す陽の光が薄くなりかけた頃、資料室のドアがゆっくりと開かれた。
 その薄暗い部屋の中でみどりが今も激しく振りたくる尻の下では口から白い泡を吹き、干涸らびたように意識を無くした笹岡部長が転がっていた。


「あんたまだヤってんの?しつっこいわね」

「あ、ああっ、綾香さまぁぁん。ほら、見て下さい、こぉ〜んなに搾れたんですよぉ。どうですか?私のおまんこ、こんなに使えますっ。見て下さい、ほらっ!」

 みどりが嬉しそうにその結合を抜き去ると、パックリと開いたままになっている淫裂からゴブッと大量の精液が溢れ出した。
 笹岡の腹の上になみなみと注がれ、溜まったそれを”どうだ”とばかりに両手ですくって見せるみどり。

「ふ〜ん、それであんた、まさかそのきったない道具をご主人様に使って貰おうなんて思ってんじゃないでしょうね?」

「えっ、そ、そっ、そんな事....ごっ、ごめんなさいっ!」

 綾香が恐々と見上げるみどりの頭に靴の裏を乗せると、グイッと押さえ付け、その可愛い頬を笹岡の精液で一杯の腹の上にニュルニュルと捻り込みながら踏みつけた。

「あんたみたいな腐れまんこをご主人様のお目に晒したりしたらご迷惑だって判んないの?こんなオヤジ一人墜とすのに何時間も掛かるようなガバガバまんこでご主人様にご満足頂けるとでも思ってんの?ったく、バカ犬はすぐ調子に乗るんだから。あんた私の餌じゃぁ不足だってのね?そう、じゃもういいわ。あんた明日から野良犬だから。せいぜいそのオヤジに飼って貰えるようにがんばんなさいよ」

 そう言ってさっさと部屋を出ていく綾香に追いすがろうとするみどりだったが、腰から下は疲労でもう感覚が無くなっており、全く動かない。それでも肘で這いながらようやく廊下に出ても、既にそこには綾香の靴音すらも響いてはいなかった。





 午後8時、機嫌良く机の上を整理している勝本を目の端で監視しながら、響子はまた掌で顔を覆っていた。

(勝本君にまで天野の手が...いつの間に?一体どこで?...いや、そんな事よりも、署内が安心していられる所では無くなった、という事か...?)

「部長は?」

 いつの間にか誰も居なくなった部屋で、一人コンピューターの端末をカタカタと叩いているシステム担当の婦警、吉崎敬子に苛つく口調で尋ねた。

「あ、4階だと思います。さっき署長に呼ばれたっておっしゃってました」

 こちらを振り向きもせずに答える婦警に、若干はムッとしながらも響子は意を決したように立ち上がるとツカツカと歩き出し、部屋を出て行った。



 署内4階。ここには『署長室』『幹部用会議室』『資料室』『応接室』などが並び、普段あまり用のない響子が上がってくるのは久しぶりの事だった。

 コツコツと軽快に靴を鳴らしながら階段をようやく上がりきった響子はその廊下に立ちこめる異様な雰囲気に思わず立ち竦んだ。

(ま、まさかここまで?)

 辺りを警戒しながら足を引きずるように廊下を進むと、何か生臭い、鳥肌を誘う匂いが漂って来た。

(何?....狂気は、感じない。でもこの匂いは....男の?...でも、これほどの....)

 充分に用心しながら一番手近な『資料室』のドアをそっと開いた。

 キィィッ..という古臭い音を鳴らしながら開いたその奥から、ツンと立ちこめる精液の匂いが響子の鼻一杯に注ぎ込まれる。
 チカチカと点滅した後ようやく照明が点灯した部屋の床には、精気の無い眼を開ききり、白い泡を吹きながら、ごろりと転がる、笹岡。

「ぶっ、部長?部長っ!どうされました?部長っ!」

 思わず駆け寄り抱き起こした響子の手に、べっとりと粘つく男の精液が張り付く。

「ひっ!」

 一瞬その感触におぞましさを感じた響子だったが、その非常事態に意識を戻し再び声を張り上げた。

「部長!部長っ!」

 散々揺さぶり動かしてもびくともしない笹岡をそっと床に下ろし、呼吸と鼓動だけを確認すると部屋を飛び出した。
 そしてすぐさま開いた隣の会議室のドアの向こうに広がっていた光景は、断片たりとも響子には予想しえないものだった。

 先程の笹岡と同じく全身を自身の白濁液にまみれさせ、ビクビクと痙攣を繰り返しながら泡を吹いている警察幹部達。
 そして今も尚それ以上の物を搾り取ろうと、ヴァギナでアナルで口で男達を代わる代わる責め立てている数十人の婦警達。

 室内を満たしているのは、精液と愛液の混じり合う生臭い匂い、女達の喘ぎ声、そして微かに漏れ出る男達の呻き。
 床に散らばり、また何人かは未だ纏っている紺色の制服は、はだけ、破れ、そこかしこには真っ白な精液がこびり付いており、国家権力の陥落を象徴しているかのようだった。

 響子の存在など全く無いかの如く繰り広げられる淫靡な狂宴は、恐怖に立ち竦む彼女にさえも不埒な反応を呼び起こす。
 よろめき、踏み出した響子の足の下で何かがパキッと割れる音がした。
 思わず足を上げ、覗き込んだそこには、粉々に砕けた桜田門.....。


「くっ!」

 目を閉じ、まるで見なかった事に、とでも言いたげに部屋を飛び出すと、バタンッとドアを閉め背中で押さえつける。

「もう、もう...ここは....あいつの物か.....」

 ふと思い当たり再び駆け出すと、最奥に有る署長室のドアをノックもせずに開いた。


「いらっしゃい。お待ちしてましたわよ。せ、ん、ぱ、い」

 そこで妖しい微笑みを満面に浮かべ、響子を出迎えたのは、先程戦慄をもって逃げ出してきた”元”後輩。
 さっきのレストランで着ていた真っ赤なスーツを少しだけはだけ、机に乗せられた美しい足の先には真っ赤なハイヒールが片方だけ填ってた。
 残りの片方、綾香が投げ与えたそれは、豪華な執務机の傍らで仰向けに寝転がる君島みどりが自らの淫裂を必死でほじくるのに使っている。


「あ、あ、綾香..あなた....部長を...婦警達を、どうしたの?」

「別に。私はどうもしませんわよ。ただの職場恋愛でしょ?微笑ましいじゃないの。先輩もシたくなったのならご紹介いたしますわよ。男でも女でもね...でも、できれば先輩には私が直々に教えて差し上げたいわ。今までお世話になったお礼ですもの。うふふふっ」

「あ、やかぁっ!!」

 目に精一杯の怒りを込め睨み付ける響子だったがそんなものに惑うような綾香では無かった。
 いや、響子が気丈な所を見せれば見せる程に、綾香の嬉しそうな笑みが綻んでくる。

「ねぇ、先輩?もう私を困らせないで下さいな。これ以上時間が掛かったら私、ご主人様に見放されてしまいますの。そうなったらもう生きては行けませんし、ここの方達も可哀想な事になるんですから。ね、私の所にいらっしゃい、とっても素敵な所ですのよ....」

 席から一歩も動かない綾香に気圧されて、ジリジリと後退する響子の背中が、何かにドンと当たった。
 驚いて振り返ったそこには、いつから居たのか、本来のこの部屋の主、幕部署長が立っていた。

「四宮君、君もいつまでも自己主張ばかりしていては出世に響くんじゃないのかね?いいかい、これは私からの命令だ。”綾香様”と一緒に行きなさい。そして君も感じるんだ。この天にも昇る”幸福”を....あれは、いいものだ」

「くっ!」

 響子はうっとりとした表情で目を閉じる署長の襟首を掴み、足払いを掛けると勢いよく部屋の隅に転がし、駆けだした。
 未だに喘ぎと呻きの零れ出る廊下を駆け抜け階下に降りると、先程までは居なかった部下や上司までもがにやにやと笑いながらこちらを見つめている。
 臨戦態勢をとりつつも、全く手を出す様子のないその者達の中をゆっくりと抜けていく響子。
 Shiratoriのオフィスの比ではない、オブラートになど全く包まれていない敵意の中、全身から吹き出す汗の感触も感じない程に緊張を高めた響子がようやく玄関から飛び出すと、只一心にそこから駆け離れた。
 怒りを露わにした瞳から、涙の滴が横に伝うのも気付かないままに....。

(あ、天野...許さない...絶対に...)

 
 


 

 

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