雌伏の日々


 

 

居候


「失礼いたします。園江でございます」

 わたくしは離れの障子の前で膝を突き、抑揚のない声で言いました。旦那様から離れの住民の世話を頼まれてはいますが、愛想良く振る舞ってやる筋合いはありません。

「あぁ、はいはい」

 と気の抜けた返事が返ってきました。

 障子を開けると、

「朝食か。忝い」

 離れの住民は万年床に寝転んだまま、目も合せずに礼を述べました。感謝の気持ちは毛筋ほども感じられません。

 旦那様の従兄であり、名を深町庄兵衛という男です。快活な旦那様とは似ても似つかず、陰鬱な雰囲気を漂わせています。

「新しいお仕事は、お決まりになりまして?」

 雑穀の混じった米に味噌汁、夕飯の残りの鮎、それにわずかばかりの漬け物を乗せた膳を置いて、私は皮肉たっぷりに問いかけます。答えなど聞かなくても分かっています。

「園江殿には、今しばらく迷惑をかけると思う」

 と、庄兵衛は面倒くさそうに答えました。

「庄兵衛様もまだお若いのですから、毎日、部屋でごろごろなさっていては、お暇でございましょう?」

 庄兵衛が陸軍を逐われて、当家で預かることになったばかりの頃には、わたくしも、それなりに気を遣っておりました。けれど、新しい住まいや仕事を探しもせず、家で骨董品や機械を弄ってばかりなのです。とうに愛想が尽きてしまいました。効果がないと分かっていても、口を開けば皮肉や説教が溢れ出てしまいます。

「いえ、お住まいいただくのは結構なのです。でも、健信殿ももうじき大学予備門へ進学します。健信殿の東京暮らしが始まると、ますます家計が逼迫するのです。毎月、いくらか生活費くらいは入れていただきませんと……」

 健信殿というのは旦那様の弟であり、一族で一番の秀才です。旦那様は藩校を母体とする静川英学校の教授を務めております。その旦那様が舌を巻くほど、健信殿は学問の才に恵まれていました。

「健信は必ず東京大学へ進ませる。なに、金の心配はするな」

 と、旦那様は口癖のように言っています。東京大学は数年前にできたばかりの、洋学を教える国立の学校だそうです。と申しましても、大学などという呼び名も、すぐに廃れてしまうのではないかしら。この国は未だ改革の最中で、開成学校や医学校のような国立の学校が現れては、すぐに改称されたり、統廃合されたりが繰り返されているのです。

 いつもの庄兵衛は、わたくしが一通り説教を終えるまで黙って待っているのですけれど、この日はいくぶん様子が違いました。年下の女から説教されていると言うのに、目の前の庄兵衛はにこにこと笑っています。いつもの仏頂面に慣れているわたくしは、いささかの違和感を覚えました。

「まあ、園江殿。今日はご覧いただきたいものがあるのだ。うむ、園江殿に似合いの道具は、と」

 わたくしの言葉を遮って、旦那様の従兄は骨董と機械の山を漁ります。

「やはり新しい機械の方が良かろう」

 そう言って庄兵衛が手に取ったのは、小型の銃のような機械でした。

「一二式催眠銃だ。我ら静川県出身の軍人有志が集まって開発した。だがな、近代的な陸軍に前近代的なカラクリなど必要ないそうだ」

「し、庄兵衛様、何を……」

 わたくしに後ずさる間も与えず、庄兵衛は引き金を引きました。銃声は聞こえませんでしたが、左肩に針で刺されたような痛みが走りました。

「これからという時に陸軍を放逐されるとはな。明治十年の蹶起に加わっておけばよかったよ……いや、今からでも遅くはないか。忍術と西洋の機械技術を折衷した兵器の開発は進んだ。金はないが、組織に縛られないというのも悪くはないものだな。さて、園江殿で実験させていただくとするか」

 庄兵衛がそんなことを言っているのを、意識が途切れる直前に聞いたような気がしました。




「今日も馳走になってしまったな、園江殿」

 笑いを含んだ庄兵衛の声が聞こえました。私は薄く目を開きます。膳の上の茶碗は、すでに空になっていました。

「わたくし、どうして……?」

 庄兵衛が銃のようなものを取り出して、それから……。

「園江殿はお疲れなのではないか。膳を運んで来るなり、こんな場所で寝入っておったぞ」

「さ、左様でしたかしら? 庄兵衛様には失礼をいたしました」

 庄兵衛が銃口を向けてきたような気がしていましたが、わたくしの記憶違いだったようです。

「ところで、片付けもお願いできますかな?」

「あら、申し訳ございません」

 わたくしは慌てて膝を進めます。こんな男でも、旦那様の従兄であり、客人です。生活の世話をするように旦那様から頼まれてもいますから、食事の後片付けをしないわけにも参りません。

 膳を障子の前まで下げてから、布団の上に座ったままの庄兵衛の帯を解きました。庄兵衛は褌も着けておらず、半勃ちのまがまがしい肉棒が露わになりました。

「失礼いたします」

 小便の臭いを漂わせた肉棒を手に取り、先端を口に含みました。

 ――臭い。

 旦那様に『世話』を任されているとはいえ、異臭に耐えながら『食事の後片付け』をするのは本意ではありません。肉棒を口に含んだまま見上げると、あきれ顔の庄兵衛と目が合いました。

「どうしたのだ、園江殿? 男の肉棒の臭いと味が大好きだと、以前から申していたではないか。しっかり音を立ててしゃぶられよ」

 言われるままに、じゅぶじゅぶと下品な音を立てて、肉棒を舌と唇で刺激しました。

「おほっ。これはこれは……」

「なっ、何をなさるのですか!?」

 思わず『後片付け』を中断して、わたくしはキッと庄兵衛を睨み付けました。庄兵衛がわたくしの頭を撫でてきたからです。

「わたくしはあなたの従弟の妻でございますよ! 髪に触れるとは何事ですか!」

「いや、これは失敬」

「お片付けに必要なら、わたくしの方から庄兵衛様の手をお借りします。むやみに手出ししないでくださいませ」

 びしゃりと言ってから、わたくしは再び庄兵衛の股間に顔を埋めます。

「お、お、おっ! そろそろ出そうだ!」

 肉棒に唾液を塗りつけ、舌と唇、さらには喉まで使って、『後片付け』を続けていると、庄兵衛がわたくしの頭上で切羽詰まった声を上げました。

「こぼさずに飲み干せ! 出すぞ!」

 庄兵衛に指図されるまでもありません。『後片付け』をしているというのに、精液を畳にこぼしてしまうわけには参りません。いくぶん堅さを増し、痙攣しはじめた肉棒を、わたくしはしっかりとくわえ込み、動きを止めます。

 一度、二度……庄兵衛の生暖かい精液が、繰り返し喉奥を叩きます。

「んぶっ、ごぼっ!」

 殿方の肉棒を口に含むのは初めてですが、庄兵衛のような居候に『後片付け』もできぬ女だと思われては心外です。

 ――これも、深町家と、わたくしたち夫婦の名誉のためだわ。

 わたくしは心の中で自分に言い聞かせ、必死で唇を肉棒に密着させました。

 粘り気の強い汚液を、時間をかけてようやく飲み干し、わたくしは唇を離しました。

 顎に幾筋かの精液と唾液が伝っていましたが、両手ですくって、一滴残さず舐め取りました。

 終わった、と思ったのは束の間のことでした。

「まだだ。もう一度頼む」

 庄兵衛は肉棒をわたくしの唇に押しつけました。

 精液混じりの唾液を塗しながら、再び肉棒を刺激します。もう一度射精させなければならないのでしょうか。

「ああ、放っておいても出すから、咥えているだけでいいぞ。すぐに園江殿の好物を馳走して進ぜよう」

 庄兵衛の腰が、達してもいないはずなのに、ぶるりと震えました。わたくしの口の中に、生暖かい液体が注ぎ込まれます。今度は粘性がなく、さらさらとしていました。

 わたくしの『好物』である、殿方の尿でした。

 ――いい香り。それに、とても美味しいわ。

 わたくしは喉を鳴らして飲み下します。

「んっ、ごくっ、ぷはっ」

 一滴残さず飲み干して、わたくしは笑顔になっていました。

「わたくしの方がごちそうになってしまいましたわね」

 不愉快な居候ではありますが、美味しい飲み物を振る舞われては、礼を述べないわけにも参りませんでした。

「た、たまには親切にしてくださることもあるのですね」

 庄兵衛にはなかなか律儀なところもあるようです。

「喜んでもらえて何よりだ。ところで……」

 庄兵衛が視線を落としました。

 肉棒が硬さを取り戻していました。まるで射精などしなかったかのようです。

「園江殿の手際が良すぎてな、かえって催してしまった」

 庄兵衛は頭をかきながら、下卑た笑いを浮かべていました。

「ああそうだ。わしだけがイくというのは不公平だな。園江殿もイかなければ、『後片付け』は終わらぬのであったな。そうじゃ。園江殿もイかねばならぬに違いない」

 庄兵衛に指摘されて、わたくしも気づきます。『後片付け』は庄兵衛の肉棒を満足させるだけでなく、わたくし自身も性欲を満たさねばならないのです。

 ――困ったわ。肉棒をしゃぶりながら、自分を慰めればいいのかしら? でも、肉棒を口で含んだのも初めてなのに、そんな器用なことができるかしら?

「困ったものだな。園江殿は男の肉棒を挿入されねばイけぬ身体だったではないか。それにわしも、口で二度も射精するのは難しいぞ」

 わたくしの心を読んだように、庄兵衛は追い打ちをかけてきます。そうでした。わたくしは肉棒を挿れてもらわなければイくこともできない、不器用な女だったのでした。

「園江殿はいつまでも『後片付け』ばかりしているわけにもいくまい。お急ぎになっては如何かな?」

「言われなくても、そうさせていただきます! 『後片付け』はわたくしの仕事でございますから、庄兵衛様に指図していただかなくて結構です!」

 頭にきて、つい声を荒げてしまいました。今日の庄兵衛はいつになく口数が多く、いつにも増して不快でした。

 わたくしは素早く帯を解き、一気に襦袢まで脱ぎ捨てました。障子越しに朝の日の光が入り、わたくしの裸身を照らし出します。恥ずかしくて、普段ならば人前でできることではありません。旦那様と身体を重ねるのは燭台の光も消した暗がりの中ですから、旦那様でさえ、わたくしの裸形をはっきり見たことがないのです。でも『後片付け』のためですから、庄兵衛に見られてしまうのはやむを得ません。

「園江殿は肉付きがよいのだな。それでいて腰や足首は引き締まっている。これは、亭主がうらやましいな。おっと、怒ることはないぞ。『後片付け』にぴったりの、よい体つきだと褒めているのだ」

 庄兵衛は口だけは滑らかに動かしていますが、布団の上にあぐらをかいたまま、動く気配は見せません。

「すぐに終わらせますわ。邪魔をなさらないでくださいましね」

 わたくしは庄兵衛の膝上に腰を落とします。豊かな乳房の先端が庄兵衛の鼻先をかすめたようですが、気にしているほど暇ではありません。慣れていないことを気取られぬように、なるべく手際良く、肉棒を下の口に挿入しました。

「うっ」

 膣や子宮に圧迫感を覚えました。庄兵衛の肉棒は旦那様のそれよりもいくぶん長い上に、一回りほども太いようでした。

「んっ、あんっ」

 膝と腰とを使って胴体を上下左右に揺すり、庄兵衛の肉棒を刺激します。庄兵衛は気持ちよさそうにしていますが、肉棒はなかなか射精の気配を見せません。

 座った殿方と対面の姿勢で、自ら腰を振るなど初めての経験です。愛してもいない男を一方的に刺激するだけでは、さほど興奮できるものでもありません。『後片付け』を滞りなく終わらせるには、庄兵衛に協力を求めるほかなさそうです。

「もっ、申し訳、ございません、けれどっ」

 膣が拡張されるような圧迫感に耐えながら、私は口を開きました。

「ちっ、乳房を、吸っていただいても、よろしいのですよ? 乳房だけではなくて、お好きなところを、愛撫っ、して、くださっても……」

「『後片付け』は園江殿の仕事だと申しておられたではないか」

 庄兵衛が不満げに応じてきました。

 そうでした。わたくしは庄兵衛と性交しているのではありません。ただ、『食事の後片付け』をしているだけです。いくら穀潰しの居候とはいえ、わたくしの仕事を手伝わせるのですから、それなりに礼を尽くすのが筋というものです。わたくしはいったん腰の動きを止めました。

「失礼いたしました。庄兵衛様、わたくしの身体を触ってください。庄兵衛様に気持ちよくなっていただいて、わたくしも気持ちよくしていただきたいのです」

「ふん、淫乱女めが」

「痛いっ! なっ、何をなさるのですか!」

 庄兵衛の左手が無遠慮に右乳房を掴み、指先で乳首を捻ったのです。

「何って、園江殿は痛い方が感じるはずだろう」

 痛い方が感じる。そのことを『思い出して』、膣がきゅっと肉棒を締め付けたのが、わたくし自身にもわかりました。痛みという強い快感を与えられて、わたくしの腰は、意識しなくとも滑らかな律動をはじめました。

「もっと、痛くして、くださいましっ」

 興が乗ってきたわたくしは腰の回転を加速して、庄兵衛にさらなる愛撫をねだりました。

 庄兵衛は左手でわたくしの乳房を押しつぶすように弄りながら、右手では肉芽を爪先で弾きました。

「ひっ!」

 強すぎる刺激に、わたくしは一瞬、目の前が真っ白になりました。達してしまったのでした。

 わたくしが視力を取り戻すと、大きく反らした背中が庄兵衛に抱き寄せられ、かろうじて転倒を免れていました。

「一人でイってしまうのは関心せぬ」

 庄兵衛がわたくしの尻をわしづかみにして、膣を突き上げてきました。座ったままだというのに、器用なものです。もっともわたくしには、庄兵衛の手管に感心している余裕はありませんでした。

「そ、そんなこと、おっしゃっても……いぎっ、今はいけません。園江は、い、イった、ばかり、でっ」

「園江殿とわしが共に絶頂してこその『後片付け』だぞ」

「わかっていますっ! そ、そう思っていらっしゃるなら、庄兵衛様も早く……」

 精一杯の憎まれ口に、庄兵衛が楽しげに聞き返してきます。

「早く、何だ?」

「早くお×んこに、精液を出してくださいませ」

「よかろう」

 庄兵衛はわたくしの身体を裏返し、四つん這いにさせました。わたくしと庄兵衛は息を合わせて下半身をぶつけ合いました。パンパンと小気味よい音が響きます。庄兵衛はこなれた動きで、淡々とわたくしの膣内の弱点を見つけ出しては、刺激して参ります。

 男にしては『後片付け』にも熟達しているのか、庄兵衛は腰を使いながら、わたくしの豊かな臀部に繰り返し平手を打ち付けます。

 身体をぶつけ合うたびに、子宮を押し上げられるような強い圧迫感を覚えました。庄兵衛も感じてくれているのか、いくぶん肉棒が長さと太さとを増したようでした。わたくしの臀部が熱を帯びてきました。庄兵衛に繰り返し打たれ、腫れ上がってしまったようでした。

「園江は、園江はっ、またイってしまいますっ!」

「イくぞ、園江! 居候の精液で妊娠しろ!」

「イきますっ、居候のお×んぽで、イってしまいますっ!」

 熱い、と感じました。庄兵衛の精液が、子宮にたたきつけられたのでした。

 庄兵衛は、痙攣を続けるわたくしの身体を気遣うこともなく、肉棒を引き抜きました。わたくしは庄兵衛の支えを失って、畳の上に崩れました。快感の荒波がなおもわたくしを責め立てます。わたくしは低く呻き声を漏らしながら、畳の上で震え、のたうち回りました。

 旦那様以外の男を受け入れたことがなかった膣内から、軽蔑していた男の体液が流れ出しました。いえ、流れ出したというよりは、噴き出したと言う方が正確でしょう。よほど溜まっていたのでしょうか。呆れるほどに大量の精液が、二度、三度と粘性を帯びた噴水のように飛び散り、畳や布団を濡らしました。

「ふむ、もう効果が切れそうだな。即効性はあるが、弾丸の原材料の調達が難しく、しかも効果が持続しない。やはり一二式は軍用ならばともかく、革命には使えぬか。薬でも使うか、昔ながらの忍具を改良する方が現実的かもしれぬな」

 庄兵衛の長すぎる独り言は、未だ震えの収まらないわたくしの理解の及ぶところではありませんでした。

 ようやく痙攣がおさまり、緊張していた手足を畳に投げ出したとき、庄兵衛がわたくしの耳に唇を寄せてきました。

「園江殿、聞こえておるか。身体を拭って、着物を着け直されよ」

 言われるままに、わたくしは機械的に動きます。酷く気だるく、意識も朦朧としているのに、白い指は脱ぎ捨てた着物に伸びて、懐紙を引き寄せました。

「園江殿には毎日面倒をかける。わしが陸軍を逐われ、深町の家に転がり込んだその日から、一日も欠かさず催眠道具の実験と性欲処理に貢献してくれておる。国のため、第二の維新のため、これからもその身体を利用させてもらうぞ」

 わたくしが着替える間、独り言のように話し続けました。

「さてと……園江殿の身体から今一度、力が抜けていく。次に目覚めるとき、園江殿はこの部屋で起きたことをすべて忘れている。園江殿はわしの食事の世話と片付けをしていた。不覚にも居眠りをしてしまったが、ここではそれ以外には何も起こらなかった。よろしいな?」

 なにも、なかった。わたくしは頷きます。

「わしが数を数え始めると、園江殿の身体に少しずつ力が戻ってくる。朦朧としていた意識がはっきりしてくる。健やかで気丈な園江殿が戻ってくる。そして、これまで以上にわしを軽蔑する。だが園江殿は自らわしの生活の世話をしなくては気が済まぬ」

 その後も、庄兵衛は呪文のように、低く抑揚のない声で暗示をささやき続けました。庄兵衛への軽蔑や憎悪が、これまで以上にわたくしの心の中に広がっていきます。

 微に入り細にわたる暗示を与え終えてから、庄兵衛はささやきました。

「悪いな、園江殿。お主は、底抜けに親切で、優しくて、働き者で、しかも嫁いで数年経っているとは思えぬほど純情さでな。凌辱するには気が引けていたのだ。わしのことを嫌ってくれている方が気兼ねなく性欲処理に利用できてよい」

 気を取り直すように庄兵衛は両手を突き出し、げんこつを作ります。

「さて、数を数えるぞ。わしが十数えると、園江殿は覚醒する。記憶だけは失ってな。だが、わしが与えた暗示は心の奥底で覚えているぞ。一、二。さあ、眠気や疲れがすっと抜けてゆくぞ。三。憎い男が目の前にいるぞ」

 庄兵衛は数を数えるごとに指を開き、十まで数え終えました。わたくしははっと目を醒ましました。

 わたくしはこんな男の眼前で、いったい何をしていたのでしょうか。頭はすっきりしているのに、膳を運んできた後の記憶に靄がかかったようでした。

「園江殿、こんな場所で二度も居眠りなどせずともよかろうに。余程お疲れと見える」

 庄兵衛が心配げにわたくしの顔を覗き込んでいました。わたくしは赤面し、怒声をあげそうになるのを必死で堪えました。穀潰しの居候の前で居眠りしてしまったのは、わたくしの落ち度です。

「……失礼、いたしました」

 低い声でそれだけ言うと、庄兵衛を一顧だにすることなく、足早に離れの居候部屋を去りました。



 わたくしが第一子を孕んだのは、それから間もなくのことでした。旦那様の仕事が忙しく、抱いていただいてはいませんでしたのに、不思議なこともあるものです。旦那様も最初は怪訝そうにわたくしの顔を覗き込んでおいででした。けれど、庄兵衛に勧められた茶を喫するようになってからは、わたくしの懐妊を心から喜んでくれるようになりました。

 わたくしのお腹が大きくなってくると、旦那様は以前にも増してわたくしを気にかけてくださるようになりました。そのころになると、離れの居候部屋だけではなく、母屋の居間で、わたくしたち夫婦の閨で、庭先で、わたくしは『後片付け』に明け暮れるようになっていました。

 今も穏やかな旦那様の眼差しを受けながら、わたくしは膨らんだお腹を揺さぶり、下品な嬌声を上げて『後片付け』をしています。こうして旦那様に見守られつつ、絶頂への階段を駈け上っている時、わたくしは心からの幸福を感じるのです。

 ――これで庄兵衛さえいなければもっと幸せなのに。

 と、わたくしは膣に力を加えて、憎い男の肉棒を締め上げました。食いちぎるような膣の締め付けに負けて、庄兵衛はまた精液を吐き出したようでした。

 
 
< 続く >


 

 

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