Shadow Twins


 

 

第2話 『日常』


 翌朝……

「影美せんぱ〜い☆」

 そう言って双子のそばに駆け寄ってきたのは風間由紀。
 その声に振り返る学園生も少なからずいた。
 無理もない。この学園で『影美』と言えば、学園一の有名人姉妹の片割れを指す言葉に相違ないのだから。

「おはよう」
「お……おはよう」

 すました顔で返す美影と少しどもる影美。
 三人に集中する視線。
 好奇のまなざし、羨望のまなざし、熱愛のまなざし、そして嫉妬のまなざし……
 双子にとってこんな視線を浴びるのは慣れているはずのなのだが……今日に限っては何か気になる。
 いつもと質の違う視線の行き先は……由紀だった。
 しかし、由紀は自分に向けられているはずのその視線を感じることは全くなかった。彼女にとって、影美と一緒にいることが今の全て。それ以外の存在は無いに等しいのだから。

「先輩、一緒に行きましょ☆」
「え、ええ……」

 影美の腕にしっかりと自分の腕を絡ませ、心底幸せそうな表情を浮かべる由紀。
 由紀のそんな態度が気に入らないのか、視線はさらに強くなる。
 美影は何も言わないが、いつものすました顔の中に見え隠れするわずかな表情の変化が、何を考えているのかを如実に物語っていた。
 影美は困ったような顔を浮かべて、由紀と共に校門をくぐる。


 女子校という環境にあって、真田姉妹の人気は飛び抜けていた。
 その人気はまさに二分。どっちも嫌いだという人間は皆無だし、どっちも好き、選べない……という人間も相当数に上るだろう。

 片や学園一の才女にして学園執行部の会長を務める真田美影……氷を思い起こさせるクールビューティーでありながら、同時にとても優しく、人を穏やかにさせる雰囲気を作り出す彼女に酔いしれるファンは少なくない。
 片や陸上部の長距離エースにして学園一の運動能力を誇る真田影美……明るく気さくでお茶目でボーイッシュなさっぱりとした性格なのに、その中に何物をも寄せ付けぬ気高く強き信念を感じさせる彼女に心惹かれる人間も多い。

 話を聞くだけでは赤の他人とも思える二人。しかし、女性でさえあこがれるほどの美貌と、何者にも負けない確固たるアイデンティティー、そして圧倒的なまでのカリスマ性……二人に共通するそれらの『存在感』が周囲に双子であることを認識させる。
 まさに人間離れしている真田姉妹の存在は、人気者というレベルを超え、すでに崇拝の対象でさえある。

 しかしその一方で、真田姉妹の周囲には、女子校にありがちな『百合話』が不思議と上がってこないのだ。
 二人がそういうことに乗り気でないというのも理由のひとつだが、それ以上に、半ば神格化されたこの双子と付き合うなんて恐れ多い、という学園全体の雰囲気が大きく影響している。
 双子のファンにとっては、ただ外から眺めているだけでも幸せな気分になれる……真田姉妹と学園生との間柄は、人気アイドルと追っかけファンのそれとよく似ているのかもしれない。

 それだけに、今日の出来事……つまり、由紀が影美の腕にしがみついて一緒に登校するという光景は、その場にいた学園生たちに少なからぬショックを与えた。このスクープはそれこそ人気アイドルのゴシップ記事のごとく、話に尾ひれが付いて、あっという間に学園内を駆け巡る。
 当然のことながら、当事者たちのいるクラスでは半ば詰問のような質問が飛び交うことになる。

「ええ、昨夜影美があの子を家に入れたらしいわ」

 こう語ったのは美影。ほとんど人事のようである。もっとも、美影とて二人が具体的にどういうことをしたのかは見ていないのだから、人事なのは当然と言える。

 影美のほうはというと、内心あたふたとしながら過ごしていた。
 普段ならこんなネタなど軽く受け流すところなのだが、今回は事実が事実だけに出来るだけボロが出ないよう慎重に言葉を選びながら会話している。
 とはいえ、隠し事なんかしないたちの影美だから、会話の節々に不自然さが出てしまう。クラスメートもそれに気付いてはいたが、あえて深く立ち入ろうとはしなかった。

 そして、由紀の教室では……

「ねえ由紀、影美先輩と何があったのよ?」
「……」
「昨夜、先輩たちの家にいたことは美影先輩が証言したぞ〜」
「……」
「由紀……ねえったら!」
「……」

 クラスメートたちのいろんな質問に対しても、にっこりとした笑顔を浮かべるだけ。
 話が聞こえないわけではない。授業ではちゃんと先生と受け答えしているし、影美が関わらない話題にはきっちりと反応している。
 ただ、昨夜の件に関してだけは終始無言の笑顔で通している。
 その笑顔があまりに幸せそうなので、いいことがあったんだろうなあ、という想像は付くが、それ以上のことは分からない。
 午後にもなれば、ある意味無反応なその態度に飽きてきたのか、誰も質問してこなくなった。

 実は……これは影美の言いつけによるものだった。
 昨夜のことは決して他の人に喋っちゃダメ、喋ったら昨夜のことは全て無かったことにする……腕を組んで校門をくぐった際、影美に小声でそう深く言い聞かせられたのだ。
 影美に全てを捧げた由紀にとって、影美との関係が無くなることは死と同義である。だから必死になってその言いつけを守り続けた。その一方で、影美の言いつけを守ることは彼女にとっての至福となり、黙りを通すその顔からは自然と嬉しさがこぼれ出てくる……それが笑顔の正体である。


 そして放課後……いつものように部活に顔を出す影美と由紀。
 しかし、今日の部室は二人の関係を問いただす尋問室と化していた。
 部員総出で繰り出される、元某局アナウンサーも真っ青の質問のガトリング弾。それでもなんとかかわしてきた影美だったが、さすがにうんざりしたのか、ロードワークに出ると言って部室を飛び出す。それを素早く追いかける由紀。他の部員はあっという間に置いて行かれた。
 陸上部でも長距離走トップの座にいる影美と二番手に付ける由紀。その二人が本気で走れば、追いつける学園生など皆無である。

 二人が校門を出ようとしたとき、門の前に一人の少女が立っているのが見えた。
 女性としてはかなりの長身だ。白と青を基調としたセーラー服を身に纏い、やや青みがかった長髪をポニーテールにまとめているが、それでも髪先は腰に届くほど。

 転校生の下見かな……影美はそう思いながら少女とすれ違う。瞬間、かすかな違和感が脳裏に浮かぶ。

「?」
「どうしたんですか、影美先輩?」
「ううん、なんでもない……じゃ、今日は双葉大橋までの往復を40分で行くわよ!」
「はい!」

 由紀にはそう答えていたが、影美はその頭の中で先ほどの違和感の正体を考えていた。
 今の感触、『あやかし』に近いものがあったが、何か違う……確かめたいが、立ち止まれば不審がられる。
 結局、影美は何事も無かったかのように装い、そのまま双葉大橋まで駆け出していった。
 後ろから、先ほどの少女が追いかけているのにも気付かず……


 そのころ、学園執行部室では……

「ごめんなさいね、工藤さん。お付き合いさせてしまって」
「これも仕事ですから」

 美影は書記の工藤あゆみと一緒に執行部の仕事をこなしていた。
 ほかの執行部員はいない……婦女暴行騒ぎを受け、昨日から美影が早めに帰宅させているからだ。
 建前では美影自身もメンバーの退室を見届けてすぐに帰宅することになっているが、予算委員会の開催を遅らせるわけにはいかず、一人残って細々と作業を進めている。
 美影にすれば婦女暴行なんて怖くない。襲ってくれば昨日のように返り討ちにするだけだ。

 ところが、今日はその仕事中にあゆみが戻ってきたのだ。なんでも、執行部室に忘れ物を取りに来たらしい。
 忘れ物を見つけたあと、美影を手伝うと進言してきたあゆみ。
 その申し出をむげに断るわけにも行かず、こうやって手伝ってもらっている、というわけだ。

 黙々と予算委員会の資料を作成する二人。よけいな私語は一切挟まない。それぞれがこなすべき作業に没頭している証拠だ。
 あゆみの手伝いもあって、当初の予定よりもはるかに早く今日の仕事が上がる。

「ありがとう、工藤さん。おかげで助かりました」
「私はただ、やるべきことをしたまでです」

 美影のねぎらいの言葉にも、ほとんど表情を変えることなく答えるあゆみ。
 一見無愛想な返事に見えるが、それがあゆみらしさなのだ、ということを美影は知っている。
 ただ……一つだけ、腑に落ちない点があった。

「……ところで、一つ質問、いいですか?」
「なんでしょうか?」
「忘れ物した、と言いましたけど……あれ、わざとですね?」

 美影はあゆみの几帳面さをよく知っている。それだけに彼女が忘れ物という初歩的なミスを犯すとは思えなかった。

「……さすが会長、お見通しなんですね」
「どうしてですか? 夜になると危険だから早めに帰宅するように、と言ったはずですが……」
「会長の仕事をサポートするのが私の役目ですから……」

 表情を変えず答えるあゆみ。しかし美影はその言葉の節に含まれるわずかな感情の変化を聞き逃さなかった。

「本当に……それだけ?」

 さらに聞き返す……と同時に、眼鏡のズレを右手の中指で直す美影。

「あ……」

 思わず小さな声を上げてしまうあゆみ。そのまましばらく固まってしまう。
 やがて、振り絞るように、小さな声であゆみは答える。

「本当は、美影お姉さまが、ほしいです……」

 情欲で潤む瞳。紅潮する頬。そして扇情的な口元……
 その表情は、普段のあゆみを知る人間からすればまるで別人のように見えるだろう。


「ふう……あれだけ我慢しなさい、って言いつけておいたのに……」
「ごめんなさい……でも、由紀ちゃ……風間さんが影美先輩と一緒になった、って話を聞いたら……」
「そう言えば風間さんのクラスメートでしたわね……」

 言いつけを守れなかったという自責の念からか、怒られるかもしれないという緊張感からか、背筋を丸め、肩を落とすあゆみ。
 そんなあゆみをいたずらっぽく見つめる美影。それは姉が愛しい妹を見るかのような優しいまなざしであった。

「緊張しなくていいわよ。怒るつもりは無いから……むしろ、ここまで我慢できれば上等。よくがんばりました」
「あ……ありがとう、ございます……」

 その言葉に深々とお辞儀をするあゆみ。再び顔を上げたとき、その表情は晴れやかなものに変わっていた。
 美影の右手が眼鏡にかかる。あゆみの喉から、つばを飲み込む音が聞こえる。
 そこは二人だけの空間……耳を澄ませばあゆみの胸から心臓の音が聞こえそうなぐらいの静寂……

「がんばったご褒美に、今日はゆっくりと楽しみましょう……あゆみ」

 美影は名前であゆみを呼んだ。そして眼鏡が外される……二人の目線が合致する。
 あゆみの身体に、心に、慣れた感覚が襲う……あゆみを至福の境地へと導く感覚が。
 あゆみの視界がだんだんとぶれてくる……そして、何も見えなくなった。

「いらっしゃい、いつものようにおいしいお汁、飲ませてあげるから」
「ハイ……」

 あゆみはゆっくりと近づき……美影の前で跪く。
 そしてまず美影のスカートのホックを外し、ゆっくりと脱がせる。
 そこに見えるのは純白のパンティ。いつもの美影の身だしなみである。
 ゆっくりと手をかけ、するりと引き抜く。うっすらと茂った美影の秘部が外気にさらされる。
 あゆみは迷うことなく美影の股間に顔をうずめると、秘部を丹念に舐め始める。

 ゆっくりと、その味を確かめるかのように舐め続けるあゆみ。その心地よい刺激をじっくりと楽しむ美影。
 美影の秘部が湿りを帯び始める。美影から愛液がにじみ出てきたのだ。それこそあゆみが望んでいたもの。

 ペチョ……ピチャ……ペチャ……

 執行部室に卑猥な音が響く。だが、その音を聞く人間はこの付近にいない。
 執行部室は特別教室棟最上階の一番奥にあり、元から人が近づきにくい。その上、他の執行部員はすでに帰してあるし、教師や警備員が見回りに来るにはまだ日が高い。
 ここはそういう意味で、お楽しみをするには最適の場所と言えた。

「ン……ンク……ンク……」
「ふふ……あゆみ、おいしい?」
「ンク……ハイ、オイシイデス……ンク……」

 喉を鳴らして愛液を飲み込むあゆみを、愛おしいまなざしで見つめる美影。
 その美影の心がだんだんと昂ぶってくる。

「い……イクわ……しっかりと『力』を受け取りなさい……」
「ハ……ハイ……」
「んあああああぁぁぁぁぁっ!!」
「ハアアアアアァァァァァッ!!」

 絶頂の声と共に、美影からあゆみに精気が流れ込む。精気を受け取ったあゆみもまた、美影の昂ぶりを感じ取る。


「はあ……はあ……」
「フウ……フウ……フウ……」

 互いに肩で息をする。先に立ち直ったのは美影の方だ。

「さて、私を気持ちよくしてくれたお礼をしなくちゃね……」

 言いながら服を脱ぐ美影。机の上に律儀にたたんで置いた。

「あゆみ……立ちなさい」

 まだ荒い息を吐きながら、なんとか立ち上がるあゆみ。

「さあ、この指を見なさい……」

 美影は右手の人差し指を自分の眼前50センチ程度の位置に置き、その指を通じてあゆみの瞳を見つめる。
 あゆみの視線もまた、美影の指に集中する。

「あなたはこの指がだんだんと愛しく思える。この指を自分の大事なところに入れたいと思うようになる……この指を入れてかき混ぜてもらったら気持ちよくなれそうだ……」

 ゆっくりと、はっきりした口調であゆみに言い聞かせる。
 あゆみの視界には、もはや美影の指以外何も見えていない。目はすでに情欲で満たされている。身体ももぞもぞと動かしはじめる。
 必死に身体をよじらせながら股間をすりあわせる。何かがそこにはいるのを待ち望んでいるかのようだ。
 指を微妙に左右に揺らしながら、美影はさらに言葉を紡ぐ。

「さあ、まずはお願いしましょう……お願いの言葉は分かっているわね」

 ゆっくりと頷くあゆみ。

「ミカゲオネエサマ……オネエサマノユビヲ、アユミノダイジナトコロニイレテクダサイ。ダイジナトコロニイレテ、タップリトカキマゼテクダサイ……オネガイシマス……」
「よろしい、じゃあこの指を入れてあげるから、まずは下準備……この指を丹念に舐めましょう。そうしないと後で痛い思いをしますからね」

 またもゆっくりと頷くあゆみ。端から見ればこっくりと小首を傾げて居眠りをしているようにも見える。

「大丈夫、この指はとってもいい味がするのよ……じゃあ、お願いね」

 言って美影は指をあゆみの前に突きつける。あゆみはゆっくりと口に含み、舌で丹念に舐め始める。

 チュプ……チャプ……

 まるで赤ん坊が自分の指をしゃぶるかのようにおいしそうに舐めるあゆみ。美影の指がだんだんと唾液で濡れてくる。
 頃合いを見計らい、指を引き抜きながら美影は促す。

「さあ、準備はできたわ。次はあゆみの準備をしなきゃね。下着を外して、スカートをめくり、私に大事なところを見せなさい」
「……ハイ……」

 あゆみは頷くと、なんの躊躇もなしに下着をずりおろす。続いてスカートの裾を持ち上げ、美影の前に秘部をさらけ出す。
 そこに見えるのは可愛くきれいなピンク色をしたまだ未成熟な秘部。とても柔らかそうだ。

「さあ、それじゃあ今からこの指をあなたの大事なところに入れてあげる。だからこちらに来なさい」

 そうあゆみを誘うと、自分は手近の椅子に座る。

「私の膝の上に座りなさいな。立っているより楽でしょ?」

 あゆみは言われるままに美影の膝の上に腰掛ける。左手であゆみの背中を支えるように抱える美影。
 そして右手はあゆみの秘部へと沈んでいく。

「ア……アア……」

 かすかな歓声を上げて瞬間身体を痙攣させるあゆみ。
 美影はまずゆっくりと側壁にすりつけるようにして指を動かす。

「キャウン!」
「あら、気持ちよすぎて驚かせちゃったかな?」

 ちょっと敏感すぎる反応を示したあゆみを見て、しばらく手を止めてみる。
 すると……

「オネエサマ……モット……」
「ごめんなさいね……ちょっと意地悪しちゃったかな? それにしてもおねだりなんて……そんなによかったの?」
「ハイ……キモチヨカッタデス……」
「はいはい、そんなウルウルした目で見つめなくてもちゃんとしてあげますからね」

 そう言って、再度指を動かしはじめる。
 二度、三度……軽くこすっただけのはずなのに、あゆみの蜜壺からは愛液が溢れはじめていた。

「あらら、あゆみったらHな子ねえ……ほら、こんなに濡れてる」

 あゆみの唾液と愛液が混ざり、しとどに濡れた指をあゆみの前に見せる。

「アア……」
「舐めてみる?」

 答えの代わりに指を口に含めるあゆみ。そのまま丹念に舐め回す。

「ふふ……おいしい?」
「ハイ、オイシイデス……」
「私のと、どっちがおいしい?」
「ソンナ……イジワルデス……」

 少しすねたような表情を見せるあゆみ。

「冗談よ。じゃあ本番、行くわよ……できるだけ我慢しなさい、そうすればとっても気持ちよくなれるから」

 指をあゆみの蜜壺に戻すと、再度動かしはじめる。
 指を出入りさせる往復運動を中心として、時々側壁をこするような円運動を混ぜ、縦横無尽にあゆみの蜜壺をかき混ぜ続ける美影。
 しばらくするとあゆみの息が荒くなってきた。身体も何かの行き場を求めて細かく震えはじめる。
 そろそろ限界だと判断した美影は、最後にあゆみの陰核を軽くつねる。

「アアアアアァァァァァッ!!」

 あゆみはつんざくような声を発し、そのまま美影の腕の中で気を失ってしまう。
 その表情は、全てが満たされたかのような穏やかで幸せそうなものだった。


 静かな寝息を立てるあゆみをゆっくりと執行部室備え付けの長椅子に横たわらせる。
 決して重くは無いはずなのだが、眠っている状態の人間を動かすのはなかなか苦労する。
 幸せそうな顔を浮かべるあゆみを見ながら美影は思う。
 果たして彼女は本当に幸せなのだろうか、と……

 知り合ったきっかけは、あゆみの自殺未遂だった。
 あゆみが身投げして溺れているところを、たまたま現場を通りがかった美影が発見、飛び込んで彼女を救出したのだ。
 しかし、引き上げたあゆみの命の火は尽きようとしていた。
 このままでは間に合わない……そう判断した美影は、人工呼吸の合間を縫って、自分の『力』をあゆみに送り込んだ。
 その甲斐もありあゆみは一命を取り留めたのだが、美影の『力』を取り込んだ代償として、あゆみは美影なしでは生きていけない身となってしまう。
 だから、今でも時々こうやってあゆみと交わり『力』を分け与えているのだ。

 あゆみが自殺しようとしていたことを知ったのは、彼女が一命を取り留めた後だ。
 意識を回復させたあゆみは、死ぬつもりだったけど美影先輩に助けてもらって嬉しかった、だから先輩にご恩返しをします、と言った。
 果たして、あゆみは美影の優秀な補佐役として活躍している。恩返し、という点では十分と言っていいだろう。
 しかし、それが本来の意味での彼女の本心でないことを美影は知っている。
 美影の『力』を取り込んだあゆみは、その影響ですべての判断基準を美影を中心にして考えるよう書き換えさせられてしまっている。
 つまり、あの時恩返しすることを望んだのも、今美影のそばにいる事に幸せを感じるのも、それはあくまで美影の『力』があゆみの思考に干渉した結果導き出されたものだ。

 もし、身投げする直前……精神的に追い詰められていた彼女が今の状況を見ているならば、この関係をどう思うのだろうか……あるいは自殺に思い至る以前の彼女ならば……
 だが、それを知る術はもはや失われてしまった。ならば美影に出来るのは、今のあゆみを幸せにすることだけだ。不可抗力にしろ、あゆみが美影なしに生きていられなくなった以上、それをなすことが美影の義務なのだから。


 夕暮れ時の双葉大橋……

「はあ、はあ、はあ……」

 セーラー服の少女は、大橋の欄干にもたれて、肩で息をしていた。

 少女は、先ほどすれ違った二人の中に、かすかだが『あやかし』らしき気配を感じ取った。
 その瞬間、反射的に気配を追って走り出していた。幼き頃より憎むべき敵、滅ぼすべき敵と教え込まされ、心に染み付いた彼女の本能が『あやかし』を見逃すことを許さなかったのである。
 だが、相手の足が予想以上に速かった上、不慣れな道を走ったせいで、あっという間に二人を見失ってしまう。

 二人の会話からかすかに聞こえた双葉大橋とやらまではなんとかたどり着けたが、もはや二人を捜す気力はない。大体これだけばててしまっては、たとえ『あやかし』が現れたにしろ、戦闘態勢などとれないだろう。今日は素直に引き返すことに決めた。
 いずれにしろ『あやかし』らしき人物があの学園の中にいるのならば、明日からゆっくりと探し出して倒せばいい。そのために自分はこの街へやって来たのだから。
 少女は大きく深呼吸すると、心の中で固く誓った。

(待っていろ、『あやかし』ども……この私が片っ端から成敗してくれる!)

 
 


 

 

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