生徒会ゲーム


 

 

第6話


「こ、これから色んなゲームをして、み、みんなと仲良くなるためにも、今日は楽しくパーティーでもしようか。」

 全員集合の指示がかかった放課後、可児田は嬉しそうにペットボトルを何本も生徒会室の机の上に用意していた。もっとも実際のところ、「全員集合の指示」がかけられたのかどうかは、高倉沙耶にはわからない。ただ、授業が終った直後に、他の予定は全部調整してでも生徒会室に駆け込みたくなった。10分もたたないうちに、他の生徒会役員たちも同じく、息せきって駆け込んできた(彼らは校則を守って、廊下を走らずに来ただろうか?)。そして最後に、ペットボトルを抱えた可児田樹がニヤニヤしながら入ってきた。そこで沙耶は、「きっと自分たちに、放課後に集合せよという暗示がかけられていたのだろう」と類推したまでだ。副会長の佐倉陸を見る。浮かない顔をしている陸も、きっと同じことを考えているのだろう。会計の栞に目をやると、栞は気まずそうに沙耶から目を逸らす。栞も・・・同意だろうか。

「ペットボトル3本と、紙コップ。足りなかったらどんどん継ぎ足して来るからね。すぐそこの3階手洗い場の、右から2番めの蛇口から出る水だから、タダだしね。」

 清橋優奈が少し眉をひそめて、隣にいる小峰駿斗にもう一歩近づいて寄り添う。お嬢様育ちの優奈は、滅多に水道水を直接飲むことはないのだろう。いつもは水筒にハーブティーや白湯を入れて持ち歩いている。

「水だけでパーティーしろって、しょぼいなぁ。何か他にないの?」

 軽いウェーブのかかった髪をかきあげながら、芹沢澪がボヤく。大人っぽい見た目、仕種の澪を放っておくと、「酒を出せ」などと言い出しそうで、沙耶は少し困った顔をする。そんな沙耶と、声を出さずに「こらっ」と口を動かした栞の様子を見て、澪は悪戯っぽく口を手で押さえた。

 樹が自信に満ちた顔で生徒会メンバーたちを見回す。

「た、多少の障害がないと、ゲームは盛り上がらないからね。今日のゲームはチーム戦じゃなくて、個人戦です。名づけて『羽目はずしパーティーゲーム』。あとから全員が正直に票を投じて、一番盛り下っていた、ノリの悪い人を選びます。その人が罰ゲームね。じゃ、みんなお水を配りますから、乾杯しましょー。」

 白い紙コップに、トクトクと水を注いで行く樹、仕方なく生徒会メンバーたちは机と椅子を移動させて、生徒会室の中央に出来たスペースに車座になった。右手に紙コップを持ったまま、直接床に腰を下す。あまり楽しそうなことが起こる気はしないので、空気は重かった。

「はい、み、みんなカンパーイッ」

 樹がコップを差し出す。みんな渋々、紙コップを少し上に掲げた。

「イエーイ」

 シレッとした顔で、沙耶の隣に座った倫太郎がコップを沙耶に突き出してくる。仕方がないので、沙耶も軽くコップを当てた。

「はい、そこで生徒会室のシエスタです。」

 樹が声を上げる。沙耶と倫太郎の動きが止まった。コップが当たった瞬間に波立った水が少しこぼれる。それを見つめる目が、生気を失って虚ろになる。すぐに重い瞼が閉じて、沙耶は乾杯のポーズのまま眠りに落ちた。きっとみんな同じようになったのだろう。


「ほ、ほら、気を取り直してカンパーイ。」

 再び樹の声がする。沙耶の視界が急に鮮やかに開けたような気がする。自分が生徒会室にいることを確かめ、今、樹のリードでパーティーが開催されようとしていることを思い出し、沙耶は倫太郎と、乾杯の続きをした。自分の右手の甲に水がかかっている。水の冷たさも気にならないほど、急に深く眠りこけてしまったのだろうか?

「ん・・・ん・・・・ん?」

 不思議そうな顔をして、沙耶が紙コップから口を離す。目の前の倫太郎も、キョトンとした顔をしている。信頼する陸を見ても、奇妙な表情で自分のコップを見ていた。澪は既に、左手を腰に当て、ゴクゴクとコップの水を飲み干している。

 一口目を口に含んだ時から、どこか普通の水とは違っていた。ココナッツジュースに近いだろうか? 芳醇な甘みを含んだ、まろやかな旨味が口に広がる。喉を通る時も、優しく濃厚に沙耶の喉を潤していってくれる。飲み込むと、胃から体を熱が巡り、ポカポカと温かい。不思議と味わい深い、とても美味しい水だった。思わず二口目は多めに口に含む。口の中が心地良い幸福感に満たされていく。飲み込む。また体が温かくなり、気分が良くなる。リラックス効果だろうか、沙耶は肩の力を抜いて、大きく溜息をついた。床に座っているはずなのに、浮遊感がある。

「み、みんな気がついた? 3階北の手洗い場、右から2番目の蛇口からは、不思議な水が出るんだ。美味しいでしょ? 後を引くでしょう。どんどん飲んでね。」

 可児田樹は沙耶の知らない、学校の不思議なことを知っている。沙耶は心なしか、嬉しくなって微笑んでしまう。引きこもり生徒だった樹が、沙耶よりも学校のことを知っているなんて、凄いことだ。今朝も嫌々キスやペッティングをさせられた、酷い男子なのに、少し気を許してしまうのは、いけないことだろうか? 沙耶は迷いながら、自分の気持ちを落ち着けるかのように、コップの水をゴクゴクと飲み干した。樹が嬉しそうに沙耶に二杯目を注ぎに来てくれる。空の紙コップを差し出す、沙耶の手が少しユラユラと揺れて、定まらなかった。

「学校の水が・・・ここだけ、こんなに美味しいなんて、・・・変ね。」

 沙耶が独り言のように呟くと、樹は返事をする代わりに、2杯目を注ぎきって、「どんどん空けて」と手で示した。あまりの水の美味しさと、心地良い浮遊感に、沙耶は勧められるままに2杯目をゴクゴクと飲んだ。

 ふーっと溜息をつく。自分の息が熱い。体も熱い。正座が苦しくなって、足を崩した。優奈は始めからお姉さん座り。今日はずっと、お尻が椅子や床に押し付けられないような体勢を取っている。授業中もずっとあんな体勢だったのだろうか? バランスが悪い姿勢なので、駿斗の逞しい体に寄りかかって、自分の体重を預けている。

(いいなぁ・・・優奈ちゃん、楽そうで・・・。)

 ボンヤリと遠い目で書記の優奈を見ながら、そんなことを考えていた沙耶。ふと、我にかえって、考え直す。

(楽そうって、何考えてるの? ・・・可児田君の怪しいゲームに巻き込まれてるんだから、油断しちゃ駄目っ。)

 沙耶が倫太郎の様子を伺う。広報部長の湯川倫太郎は、隣でグビグビと水を飲み続けていた。樹から委ねられた、ペットボトルを片手に持っている。

「あ・・・、沙耶ちゃん。も一杯飲む?」

「ん・・・・私、・・・やめておく・・・・・・。ちょっと・・・、気分が・・・、変で・・・。」

 沙耶が申し訳なさそうにはにかんだ笑みを浮かべて、左手で遠慮するジェスチャーを返す。それでも、倫太郎は少し気が大きくなったように絡んできた。

「でも沙耶ちゃん、そんな風にしてて、ノリが悪いってみんなに思われたら、罰ゲームだよ。」

 倫太郎に言われて、沙耶は生唾を飲みこむ。昨日の澪の受けた罰ゲーム。目の前にいる、倫太郎と陸の性奴隷に変身させられた澪が、いつもと別人になってかしずいて奉仕しようとしていた姿。自分があんな風に変貌させられたらと、想像しただけで背筋に冷たいものが走った。

「い・・・いただきます。」

 両手でコップを持って、倫太郎の注ぐ水を受ける。二人とも体がふらついていて、ペットボトルの口と紙コップが中々静止しない。ドボドボとコップの縁から水がこぼれた。それでも両手でコップを持つ沙耶が、両目を閉じて、思い切って水を飲む。また一段と、体が熱くなる。気分が高揚する。飲み干した後で大きな溜息をつくと、床に片手をついて、体を預けた。

「ふふふっ・・・・ただの・・・水なのに・・・・、こんなに、美味しいのって・・・、なんで? ・・・はははっ・・・変なの。」

 手を叩いて、お腹を押さえて笑ってしまう。笑いすぎかと思ってもう片方の手で口を押さえるのだが、倫太郎はさらにもう一杯勧めてくる。どうせならトコトン飲んでやろうか。沙耶の気も、ずいぶん大きくなっていた。

 一人、怪訝な顔つきで、コップの水を色んな角度から透かし見たり、手で仰いで、薬品の匂いを嗅ぐような仕種をしていたのは、会計の鶴見栞。周りの生徒会役員たちの、弛緩していく態度を見て、あからさまに怪しい水の正体を探ろうとしていた。その横に、樹が近づく。

「栞ちゃん。不思議な水を見て、やっぱり『学術的興味』が沸いてきたんじゃない? どんな味がするのか、飲み続けると味はどう変化するのか? たらふく飲むと、自分はどう変化するのか? 確かめてみたくて仕方ないよね?」

 樹を睨みつけた栞だったが、目をコップの水に戻すと、もう目が離せなくなっている。震える手でコップを顔に近づけると、少しだけ水をペロリと舐める。もう一度舐める。3度目にはコップを傾けて、ゴブゴブと飲み始めていた。

 男子たちの大きな笑い声。沙耶が顔を上げると、芹沢澪がペットボトルに直に口をつけて、イッキ飲みをしていた。手拍子する陸。負けじと自分もペットボトルを掴む、体育会系の駿斗。両手の拳をブンブン上下させて、駿斗の応援をする優奈。一気飲みを成し遂げた駿斗に、優奈は抱きついて頬にキスをする。今朝の自分の醜態を思い出さされて、沙耶は頭がカァッとなった。

「みんな・・・、しっかりして。この水・・・変だよ〜。」

 立ち上がってみんなに訴えかけようとした沙耶が、バランスを崩して倒れこむ。倫太郎が抱きかかえてくれた。力強い男子の腕・・・。軟派で女ったらしなところが玉に瑕だと思っていた仲間の、思いがけない頼り甲斐。不覚にも、沙耶は胸の奥がキュンと締めつけられるような気がした。昨日、生徒会男子全員の、裸を見てしまったのもいけないのだろうか? 沙耶はまだ自分を抱きかかえて、髪を撫でてくれている倫太郎のすっきりとした鎖骨を思い出す。陸の、昔よりもぐっと筋肉のついた、均整の取れた上半身も思い出す。下半身も少しだけ、思い出す。そして駿斗の逞しい、ボディビルダーのような体つき。優奈は駿斗と最後まで行ったのだろうか?

「キャー、もう、澪ちゃ〜ん。」

 優奈の悲鳴が聞こえる。笑いが止まらなくなった澪が、倒れこんで優奈に抱きついてキスをしようとした。駿斗の頬にキスした優奈の、真似をしてみようと思ったのだろうか? 澪に押し倒された優奈は、コップの水がこぼれて、スカートが濡れてしまった。

「優奈、それ乾かさないと・・・脱いだら?」

 沙耶が愕然として、声の主へ目を向ける。頭脳明晰、いつも冷静な秀才少女、鶴見栞はカパカパとコップの水を空けながら、すっかりすわった目で優奈を見つめていた。

「そうだー、優奈ちゃん、脱げ脱げーっ」

「うん。駿斗ばっかり、ズルイよな。」

 倫太郎が煽ると、頼みの陸までが同意して、駿斗に嫉妬までしている。男子はみんな、こんなものだろうか? 沙耶は仲間たちに幻滅したくなくて、両手で耳を覆った。みんな、樹に操られているだけ。これはみんなの本性なんかじゃない・・・。沙耶は小さく頭を左右に振った。自分は今、酔っている。たぶんみんなもそうだ。

「え・・・、どう・・・しよう・・・。」

 優奈は両手を頬に当て、困ったような顔を、隣の駿斗に向ける。駿斗が首を横に振ろうとした瞬間、樹が声をかけた。

「みんなの前で彼女が肌を晒しているのを喜ぶなんて『変態チック』なこと、小峰君はしないかな?」

 樹の言葉の途中で、駿斗と優奈は目を丸くしてパチパチと瞬きをする。目から鱗が落ちたとでも言うような、新たな発見に胸を高鳴らせる仕種。アグラをかいた両膝を両手でパチンと叩いた駿斗が、豪快に言い放った。

「優奈、脱げっ! 減るもんじゃないし、ノリが悪い奴は俺の彼女じゃないぞっ。」

「はっ、はいっ」

 優奈が慌ててスカートに手をかける。水をかぶった制服のプリーツスカート。ホックを外した瞬間に少しだけ手を止めた。

「・・でも・・・お母様が・・・。」

「優奈はさー。オカンと駿斗、どっちが大事なのらぁ?」

 澪が半開きの目で、優奈のスカートをズリ下ろそうと手をかける。優奈は両目をキツく閉じて、一回深呼吸したあとで、スカートを自ら下ろした。

 倫太郎が「ヒューヒュー」と指笛を吹く。陸もすわった目をして拍手。駿斗は腕組みをして頷いていた。優奈はフラフラと、倒れこむようにスカートを窓際に持っていって干そうとするのを澪が手伝った。パステルピンクの両足、太腿。フリルのショーツにはリボンがあしらわれている。そのパンツを出来るだけ隠そうと、制服のシャツの裾を下に引っ張る優奈。うじうじした女子の態度が好きではない澪が、パンツの上から優奈のお尻を叩いた。

「思い切りが悪いな〜。けちけちするなよ。愛しの駿ちゃんも言ってんだろ? よーし、もう、アタシらも、スカート無しらぁ〜。」

 優奈の浴びる拍手喝采を奪い取るような勢いで、澪がユラユラと立ってポーズを決める。スカートをスルスル下ろすと、右手で振り回してブン投げた。淡い藤色の、大人っぽいショーツが顔を出す。スラリと長い足は女子たちの憧れを集める美脚だった。

 澪の脚線美を、倫太郎が首を伸ばして凝視する。そこの間に入るように、栞もスカートを脱いで、淡いグレーのストライプ柄のショーツを見せる。

「優奈が一人でスカート脱いでるっていうのは、可哀想だしね。・・ねぇ、会長?」

 栞が自分に言い聞かせるかのように理屈を呟きながら、沙耶に話を振る。沙耶は半開きになった潤んだ目を彷徨わせながら、困惑しきっていた。体は倫太郎の肩に預けてしまっている。

「わ・・・私は・・・・。ちょっと・・・・その・・・。」

 歯切れの悪い沙耶の様子に少し苛立ったのか、栞がすわった目でさらに過激なことを言い始める。

「じゃ、さ。みんな、どうせなんだから、ランジェリー・パーティーにしちゃようよ。お水も美味しいし、いい気分なんだから、男子も女子も、下着だけになればいいじゃない。男女平等。パンツだけ見えちゃうから、恥ずかしいんだよ。上も下も下着だけになれば、きっと大丈夫。」

「おー。栞が珍しく、不真面目なこと言ってるぞー。いいぞ、いいぞー。やっちゃうのらぁ〜。」

 舌がもつれたような喋り方をしながら、千鳥足の澪が栞に賛意を示す。多少乱暴な手つきで、シャツを脱ぎ始めてしまう。栞もベストから腕を抜いていく。優奈は両膝を床について、脱いだ制服を丁寧に折り畳んでいく。その作業が終った優奈は、駿斗が制服を脱ぐのを手伝い始めた。倫太郎も陸も、不思議な水を飲んで熱くなった体を冷やすように、黙々と服を脱いでいく。沙耶だけが、モジモジと取り残されていた。

「みんな裸なら、恥ずかしくないのらぁ〜。ほら、パリ・コレみたい。」

 ぐでんぐでんに酔っ払っている澪が、モデルのようなポーズを取り始める。片手を腰に当てて、もう片方の手で髪をかきあげる仕種。体を傾けて、観衆を煽るような仕種。メリハリのあるダイナミックなスタイルも相まって、本場のモデルさんのように、様になっている。藤色のショーツと揃いになっている大きなブラジャーは、オトナっぽい胸の谷間をしっかり強調している。

「ヒュー。澪ちゃん、格好いい!」

「優奈も負けるなっ!」

「はいっ。」

 優奈が、昨日から付き合い始めたばかりの彼氏の言葉に従って、慌ててぎこちないポージング。若干の幼児体型っぽさが残る清橋優奈のボディ・アピールはたどたどしいが、その初々しさも彼女の可愛らしさを強調する。胸元にもワンポイントの小さなリボン。お嬢様の可憐な下着姿だ。

「じゃー、ここがランウェイね。」

 栞が仕切り始めて、3人のランジェリーモデルが、列を作ってウォーキング。澪が長い手足、長身を生かした鮮やかなターンを決めてポーズ。後ろの優奈は小首をかしげてキュートなポーズ。駿斗一人がいる方向に向けて両手で投げキッスをした。最後の栞が立ち止まると、両足を開いて腰を下ろして、大胆に腰をグラインド。モデルを超えた、セックスアピールをする。目のすわっている栞。グレイの縁取りがされた小ぶりのブラジャーが少し揺れる。シレッとした顔で冷静そうに喋るので伝わりにくいのだが、彼女が一番酔っ払ってしまっているようだった。

「み、みんなぁ〜。しっかりして。樹君が写真撮ってるよ・・・。やめようよ〜。」

 沙耶が余りにも恥ずかしい光景に両手で顔を覆いながら、必死で生徒会メンバーたちの正気を取り戻そうとする。自分の口調も締りが無くなっており、ロレツが回らなくなって来ていることを意識する。それにしても・・・、黒いブリーフの駿斗、英字のロゴが色々とプリントされている陸のトランクス。白地にハートマークが沢山並ぶ、冗談のような倫太郎のトランクス。生徒会の男女が全員下着姿になってはしゃいでいるのを見ているうちに、沙耶の呼吸が随分荒くなっている。みんな、どうしてこれほど楽しそうなのか。

「沙耶ちゃん、特別な水の匂いには、特別な虫さんが引き寄せられるんですよ。」

 低い声。沙耶がボンヤリとした顔を上げると、可児田樹が近づいて来ていた。

「黒くて大きな羽虫。水を飲んだ沙耶ちゃんの皮膚から出る匂いに引き寄せられて、虫が沙耶ちゃんのスカートから、服の中に入ってきちゃいました。早く取らないと、沙耶ちゃんのエッチな部分が刺されちゃいますよ。」

「あぁんっ! やだっ」

 沙耶が泣きそうな顔になって、スカートをバタバタをはたく。裾を両手で持って、パサパサと扇いで、虫を追い出そうとする。

「チクッ。沙耶ちゃんの感じやすい、エッチな部分を、虫が刺しちゃう。刺されるとジンジンと熱くなるよ。ほらまた、チクッ。」

「痛いっ・・・・助けてぇー。あんっ・・・・許してっ。」

 沙耶が起き上がって生徒会室を駆け回る。樹が虫の刺す音を口にするたびに、沙耶は股間を押さえて腰をひくつかせたり、胸の先をシャツの上から押さえて肩をすくめたりして飛び跳ねる。スカートをはだけ、シャツの襟元から手を入れて、虫を追い払おうとするのだが、虫は驚くほど的確に、沙耶の性感帯を順番に刺していくようだ。

「沙耶ちゃん、虫は男の人の手でしか、追い払えないんですよ。誰かに手伝ってもらわないと・・・。」

 樹に教えてもらって、沙耶は涙目になりながらスカートを下ろす。ベストを、シャツを剥ぎ取る。先ほどまで親友たちが下着姿になって沙耶を誘っても、強い精神力で自制してきた沙耶が、悲鳴を上げながら自分の制服を、ボタンが飛ぶほど乱暴にひっぺがしていく。

「誰か、とってー。虫が、虫がいるの〜。」

 陸に、倫太郎に、沙耶が駆け寄って、胸を突き出す。お尻を差し出す。みんな、生徒会長を助けるために、必死で沙耶の肌をはたいて、虫を追い出そうとする。非常事態なので仕方なく、陸も沙耶の白いショーツの中に肘まで手を突っ込んで、虫がいないかとまさぐる。温かく柔らかい感触の肌だった。心なしか湿っている。倫太郎も、ブラのカップに手を入れて、内側とオッパイとを指で開いて隙間を作る。乳首がプックリと立っているのが隙間から見えた。昨日もフルヌードを拝ませてもらっているが、こうしたラッキーエッチなチラリズムもまた、格別なものがある。

「チクッ、チク、チクッ。虫さんは沙耶ちゃんの感じやすい部分、沢山刺して、行っちゃいました。刺された場所。ジンジン、ジンジンと腫れてきます。このまま放っておくと、どんどん痛みがましますよ。男子たちに協力してもらって、フーフーと、息を吹きかけてもらいましょう。ちょっと痛みや痒みが引きます。」

「お願いっ・・・フーフーしてっ。・・・・痛いの・・・。」

 涙目の沙耶の懇願を受けて、断れる生徒会メンバーはいない。沙耶を助けるために、駿斗も参加して男子3人が連携する。沙耶が求める、体の色々な場所に、顔を近づけて息を吹きかける。

「はぁ・・・・。あ・・・ありがとう、みんな。」

 ショーツは足首に、ブラジャーは肩に申し訳程度に引っかかっている、ほぼ裸の状態で、やっと沙耶のパニックが収まる気配。両足は大きく開いて、割れ目がはっきり曝け出された状態で陸にフーフーと息を吹きかけてもらっている。駿斗は左右のオッパイを交互に、倫太郎は耳元から首筋、脇の下から脇腹にかけて、沙耶の求めに従って、忙しく息を吹きかける。沙耶の「感じやすい部分」が、虫さんのせいで全て生徒会の男子たちに伝わってしまう。それでも沙耶はジンジンと襲い来る痛みと痒みに耐えかねて、恥ずかしい部分を全部突き出していく。自分の理解している性感帯を、全て自己申告で説明してしまう。燃え上がるような恥ずかしさと、不思議な水の与える強烈な酩酊感。そして男子たちの吐息にくすぐられ、沙耶の頭は爆発寸前だった。目は天井を彷徨い、口は半開きのまま端から涎を垂らしている。そんな沙耶に、樹はまだ言葉を投げかける。

「息をかけてもらうだけでは、イタ痒いのは一瞬落ち着くだけです。悪い虫さんに刺された所を本当に落ち着かせるには、男子の唾液が必要。強く吸い付いてもらって、ようやく落ち着きます。・・・っていうか、落ち着くどころか、すっごい快感になってくるんですけどね。」

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・、もう・・・・・駄目・・・・・・・。」

 沙耶が、眉をハの字にして、唇を噛んだ。

「みんなぁ。・・・助けて・・・・。お願い・・・・。」

 樹としては、どう助けて欲しいのか、はっきり沙耶の口で言わせたかったのだが、男子3人はそれを待たず、これまで3センチ離れて息を吹きかけていた部分に、舌を伸ばしてペロペロと舐め始めてしまった。

「あんっ・・・・あんあんっ・・・・・・・すごいっ・・・・・みんなっ・・・・・じょうずっ! ・・・はぁああんっ」

 沙耶が体をくねらせて喘ぐ。悶える。いつも颯爽としていて、上品さを失わない生徒会長が、今は自分からお願いをして、男子に性感帯を舐めてもらっている。口で強く吸ってもらっては、顎を上げて快感に溺れていく。

 陸が突き出されたクリトリスをチューチュー吸うと、沙耶の開かれた足はカエルのように膝で曲がって、陸の頭を挟み込むような動きをする。曝け出されたお尻の穴はシワが歪に腫れていて、昨日の苦闘の痕を見せていた。脇腹から脇の下、うなじに耳たぶと、倫太郎は強弱つけて、舐めまわしたり吸い上げたり。その手馴れた仕種が、傍で見守る栞の癇にわずかに障る。それでも倫太郎の愛撫に従順に反応する沙耶。チュパッと音を立てて倫太郎が吸うたびに、沙耶の顔が左右に揺れて、床に涎の糸を引かせる。倫太郎の変幻自在の愛撫とは対照的に、駿斗は無骨に愚直に、左右のオッパイを口に含んで吸い込む。バリエーションはせいぜいがオッパイを大きく口に含んで吸い上げるか、乳首の尖端だけを吸うかという程度。しかしその単調さと懸命さが、沙耶をまっすぐエクスタシーに向けて追い立てていく。生徒会長、高倉沙耶を、狂わせていく。

「もうっ・・・・駄目っ・・・・イッちゃうっ・・・・イッちゃうよ〜ぉおおおおっ。」

 沙耶の声が高まっていく。それにあわせて、倫太郎の舌技が「強」になる。陸がクリトリスを甘噛みする。駿斗が乳首の先を強烈に吸う。

「あっ・・・・・あぁああっ・・・・・ああああああぁあぁあああああっ・・・・ん・・・・。」

 男たちに押さえつけられながら、沙耶の体が床で海老反る、跳ねる。カエル足のようだった両足が何度かピンッと伸び上がって、爪先まで反りあがる。陸は眉間から顎まで、熱い液を噴きかけられた。倫太郎は舌先で、沙耶の全身の毛穴が広がったり閉じきったりするのを感じたような気がした。駿斗の口の中で、限界まで勃起しきった乳首が、鼓動を伝えるようにビクン、ビクンと脈動した。

「ふ・・・あ・・・・・ふぁあ・・・・・はぁ・・・・・」

 脱力しきって体を投げ出した沙耶は、ぼーっと天井を見上げたまま、呼吸に合わせて声を出している。時々、思い出したように小さく痙攣する。

「沙耶ちゃん、正直に答えましょう。イキましたか? 気持ちよかったですか?」

「はぁ・・・・・・・はい・・・・・・、イッちゃいました・・・・・。すっごく・・・・、気持ち良かったです・・・・。」

 呼吸を整えながら、沙耶が思ったことをそのまま垂れ流してしまう。もはや心のダムが、バカになってしまっていた。

 起き上がった男子たちは、その言葉を聞いて、頷きあって互いに握手、ハイタッチ。若干、清々しい光景にも見えた。

「虫・・・関係ないじゃん。」

 下着姿のまま、両手を腰に当てて、優奈がムクれていた。険しい視線は駿斗と沙耶に向けられている。樹も含めて、その場にいる全員が、意表を突かれて言葉を失う。清橋優奈が的確な突っ込みを入れたという、珍しい状況だった。


。。。


「罰ゲームはみんなの正直な多数決の結果。やっぱり虫が服に入ってきちゃうまでランジェリーパーティーへの参加を拒んでいた、高倉沙耶さんになりました。でも、腰が抜けるほどイキまくっちゃったみたいでクタクタになっちゃってるので、罰ゲームの実行は明日にしましょう。今日は解散かな?」

 樹の説明を受けながら、みんなが背中合わせに制服を着込む。いつもこの、祭りの後始末のような、素面で服を着ていく瞬間がなかなかキツい。恥ずかしさと気まずさが際立つ瞬間だった。

 この日の夜も生徒会役員たちの日課は変わらない。寝ようとした時から急に体がカッカと熱を帯び始めて、狂乱のオナニータイムが始まってしまう。どんなに忘れようと努力しても、今日のランジェリーパーティーと沙耶が受けた3人からの公開ペッティングをまざまざと思い出して、それをサカナに性器を弄くりまわしてしまう。海老反りになるほど腰を突き出して、激しいエクスタシーに達してから、やっと眠りにつくことが出来た。翌朝は意外にも、ラジオ体操に付き合わされることはなかった。非常にありがたい。朝の全校集会がある日は、生徒会役員は準備や段取り確認に忙しい。普通の生徒たちよりも早く登校しなければならないのだ。


 体育館の舞台前に集合して、生徒会からの報告内容、全体の進行を確認する生徒会メンバー。珍しく、会長の沙耶が少し遅れてやってきた。栞が振り返って、会長の仕種が不自然なことに気がつく。

「会長、どうしたの? 体調悪い?」

 右手を左肩に当て、左手を右の腰あたりに置いて、沙耶は俯きかげんに近寄ってくる。歩幅が異様に小さい。このペースで歩いていては、集合時間に間に合わないのも無理のない話だった。沙耶は栞に近づいて、赤い顔が栞にくっつくくらいまで接近すると、小声で問いかける。

「栞ちゃん・・・。変なこときくけど・・・・、私・・・・、今、服、着てるよね?」

 困りきった表情で質問する沙耶。栞は彼女の姿を上から下まで目で追って確認するが、何一つおかしなところはない。いつもの夏の制服を正しく着込んだ、清楚な生徒会長の姿だった。それなのに、赤面したままの沙耶は、潤んだ目をおびえたようにキョロキョロさせて、膝をモジモジと擦り合わせている。

「いつもの、校則通りの制服。スカート丈もソックスの色もルール通り。ちゃんと制服着てるよ。」

「朝までは私にもそう見えてたの・・・それがおうちを出たら、見えなくなっちゃったの。」

「・・・服が?」

 赤くなったままの沙耶が、栞の質問にコクリと頷く。

「制服も・・・下着も・・・全部。」

 栞が沙耶の置かれている状況に思いを至らせる。・・・樹の仕業に違いない。生徒会室の外でまで、沙耶を辱めるつもりか。

「駅まで歩いている間、なんか袖のあたりが透けてきちゃった気がして、困ったな・・・って思ってはいたの。クリーニングしすぎて、生地が薄くなってきてるのかなって・・・、それが電車を待ってる間にどんどん透けてきて、最後には制服全部が半透明になっちゃった。鞄で体を隠しながら電車を降りたんだけど、改札を通って、角とか木の間を隠れながら学校までくる頃には、下着も全部・・・。完全に透明になっちゃって、何も身につけてないみたい。・・・・今はもう、触ることも出来ないの。」

 沙耶が泣きそうな顔で、スカートの脇を手でサワサワと触る。それでも彼女の両手は、布の感触を感じられないでいるのだろうか?

「大丈夫。ちゃんと着てますよ。安心して。」

 栞は親友の両肩に手を添える。一瞬、素肌を触られたように、沙耶の肩がビクッと震えた。

「安心して。着てる。会長はどこからどう見ても、普段どおりだよ。堂々としていればいいと思う。後で可児田を見つけて、元通りに戻させようっ。自分が裸に見えるっていう暗示にだけかかってると思うんだ。だから、騒いだり、恥ずかしがってるところを見せたら、かえってアイツの思うツボだよ。平然としてたら、アイツもガッカリすると思うよ。」

「でも・・・今日・・。」

 いつもの凛とした沙耶らしくない、子犬が親や飼い主を覗き込むような目。

「全校生徒の前で、生徒会報告・・・・色々あるよね・・・。」

 沙耶は肩や腰に当てた手で自分の体をギュッと掴み、困ったように俯いた。長い全校集会になりそうだった。


 全校集会が始まる。従来は必ず毎週月曜日に行われていた集会。沙耶たちが高等部の生徒会を務めるようになってから、部活動の活動状況なども考慮しながら、隔週で金曜日に行うように変更した。週の始めに通常の登校時間より早く集合しなくても済むようになった生徒たちは喜んだ。上級生たちの心を掴んだ、一年生生徒会として上々の出だしだった。

 校長の訓示。それほど長いものではない。偏差値の高い学校ゆえの、自由で合理的な校風を良く現していた。そして生徒会からの報告。舞台脇に並んでいた生徒会役員の中から、会長が壇上に上がる。生徒会長、高倉沙耶。光沢ある黒髪と白い肌、整った顔立ち、スラリとした体型と形の良さそうな胸。上品さが滲み出るような良い姿勢と颯爽とした身のこなし。ダルそうにしている男子生徒も、ここだけは目の保養と壇上に注目する瞬間。それが今日の沙耶に限って、動作が若干ギコチない。「歩かされてる感」とでも言えばよいのか。一歩ずつの歩幅が小さく、膝を必死に閉じるような様子。ヨチヨチとステージ中央まで歩いてきたかと思うと、スタンドマイクの前に、少し身を捩るようにして立った。いつもは何も持たず、暗記した報告事項をスラスラと話す生徒会長。今日は珍しく、紙を両手に持って、読み始めた。

「生徒会からの報告です。今日は部活動報告、体育祭準備の場所決めについて、そして交通ルール遵守のお願い、の3点です。」

 両手で持った紙は、胸元を隠すように、全校生徒に対して裏を向けている。その紙を持つ手が少し震えているだろうか。声もうわずっているように聞こえた。

「男子バスケ部・・・、女子バレー部、女子陸上部が、県大会2回戦を突破しました。」

 ワッと拍手が上がる。スポーツに特化した学校ではないため、運動部が全国大会に出たことはない。ブラスバンド、吹奏楽、書道部は全国で優秀な成績を修めたことがあるものの、やはり部活動の花形といえる運動部の活躍は生徒たちを盛り上げた。大勢の生徒たちが拍手を送ると、舞台上にも風が届くようだ。報告中の生徒会長が、一瞬、紙をオヘソの下、下腹部まで下ろして、胸を腕で隠しながら、体を縮めるような仕種をした。妙に色っぽい。

「だ、男子バスケ部、女子バレー部、女子陸上部の皆さん。おめでとうございます。今回残念ながら負けてしまった部の皆さんも、部活動と学業との両立に本当に頑張りました。皆さん、お疲れ様でした。」

 カリスマ的な人気を誇る、一年生生徒会長に部名を呼ばれることは誇らしいようだ。男子バスケ部と呼ばれたところで、ヒューヒューと囃したてる声。そこでなぜか、生徒会長がビクッと肩をすくめて、また体を隠すような仕種をしていた。

「つ・・・続いては・・・、体育祭、準備を進めるさいの、場所の決め方についてです・・・・。各クラスの体育祭実行委員か、代理が必要な場合は級長が、来週18日の放課後、第2大会議室に集合してください。」

 いつものスムーズで口跡のはっきりとした読み方と違って、沙耶がつっかえながら、紙を読み上げる。その自信なさそうな様子、時々、屈みこもうとするのを必死で直立するような仕種。内股気味にモジモジと読み上げる姿に、少しずつ生徒たちがザワつき始める。沙耶の様子がおかしい? 体調でも悪いのだろうか? その様子を感じ取って、会長がいっそう動揺してしまう。いつのまにか、紙は顔の前。顔を隠すように両手で持って、読み上げていた。


「会長・・・。お水です。」

 紙で覆われるほどに限定された沙耶の視界の端に、グラスが突き出されている。気がつくと、生徒会会計の鶴見栞が、壇上に上がって沙耶の隣まで来てくれていた。

「し・・・・失礼します。」

 沙耶がマイクに頭をぶつけないようにお辞儀をして、会計からグラスの水を受け取る。栞はマイクに声を拾われないように気をつけながら、沙耶の耳元で囁いた。

「3階北・水飲み場の右から2番目の蛇口から出たお水。・・・もう少しだよ。頑張って、会長。」

 コップの水を飲み干しながら、頷く沙耶。口一杯にコクのある甘みが広がった。喉を通ると、お腹のあたりが熱くなる。勇気が、胃から沸いてきて全身を巡っていくようだった。

「失礼致しました。報告を続けます。」

 紙を下ろし、生徒たちを堂々と見下ろして、報告の続きを行う沙耶は、いつもの生徒会長が戻ってきたような毅然とした姿。それこそ水を打ったように生徒たちの私語も収まる。沙耶のその後の報告は、いつもよりも声が出ているほど、腹から出ていたが、注意深く聞いていると、若干、滑舌が悪くなっており、抑揚が効き過ぎている。まるでホロ酔いの賓客がスピーチをしているように聞こえなくもなかった。

 体育館を出て、逃げ込むように生徒会室に駆け込む沙耶。服が・・・。無くてあれほど心細かった、沙耶の服が、少しずつ輪郭を取り戻してきてくれている。透明のビニールのような下着と制服。ゆっくりと本来の色彩を取り戻す。触れると布の生地も感じられる。嬉しくなって、沙耶はスカートをフワッと靡かせるようにターンをしていた。服があるって素晴らしい。まだ少し、「不思議な水」の効果が残っているのか、沙耶は軽やかなステップを踏んで、服に身を包まれている喜びを表現していた。

 ガラガラガラ。

 扉が開くと、可児田樹がニヤニヤして立っている。

「沙耶ちゃん、お疲れ様。・・・生徒会長さんも大変だよね。朝っぱらから全裸でステージに立って、全校生徒の前で色々報告しないといけないんだから・・・。」

「今のが、罰ゲーム? ・・・栞ちゃんが助けてくれたし、あれぐらい、どうってことないわ。可児田君が思うより、友情の力は強いの。私たちの精神力だって、そう。一時的に支配されたって、絶対にいつか貴方の催眠術を跳ね除けて見せる。・・・だから、こんなこと、もう・・・。」

「精神力・・・。沙耶ちゃんが報告をやりきったこと? ・・・・恥ずかしさにまけずに、会長の仕事を全うした・・・。本当に、苦難に打ち勝ったのかな? ・・・・沙耶ちゃん、全校生徒に全裸の自分を見られてるって感じて、どうだった?」

「い・・・嫌だったわ・・・。当たり前でしょ?」

「途中から・・・濡れてたんじゃない? ・・・・感じてたでしょう。」

「ば・・・、馬鹿なこと言わないで。」

「ほら、脚まで垂れてるのが丸見えなんだけど。」

「キャッ・・・やだっ・・・見ないでよっ。」

 樹に言われて、沙耶が両手を足の付け根に重ねて、慌ててしゃがみこむ。スカートが空気を受けてファサッと膨らむ感触。・・・自分が今、服を着ていることを思い出した。さっきまで全裸の自分を意識していたせいで、樹の「引っ掛け」にあっさりかかってしまったのだと気づかされた。

「・・・ふふっ。やっぱり沙耶ちゃん。濡れてるって図星だったんだね。・・・キャアとか言っちゃって、生徒会長も可愛らしいリアクションするよね。」

 樹がいやらしくニヤつく。沙耶は鼻先まで赤くなっていることを視界の隅で確認しながら、憎たらしい可児田樹を睨んだ。

「どうせこれも・・・、可児田君の暗示でしょ。私に、裸で皆の前に立つと、だんだん恥ずかしさが、変な気持ちに変わっていって、興奮して、恥ずかしいところが濡れちゃうように・・・。全部昨日指示して、私の体に刷り込んでいたんでしょっ。」

 絵に描いたようにキョトンとした顔をしてみせる樹。だんだん小芝居が上達してきたように自分でも感じていた。

「へっ? ・・・暗示? ・・・うんん。僕、何にもそんなこと言ってないよ。露出狂みたいに、皆の前で裸で立ってて、感じてたんだったら、それは沙耶ちゃんの素のリアクション。・・・隠されていた本性なんじゃないの? ・・・僕、知らないけど。」

 薄情に沙耶を突き放す樹。絶望の生徒会長はうなだれた。

「うっ・・・嘘よ・・・。」

 両手で顔を覆う。嘘でもいいから、これは全て樹の暗示が引き起こした、不自然な感情だと、言って欲しかった。

 嬉しそうな樹が生徒会室を出て行く。うなだれていた沙耶は、樹を追うように部屋を出ると、授業が始まる前に女子トイレに駆け込んだ。さっきまで喉から手が出るほど欲していた、下着や制服の感触。そのショーツのクロッチ部分が自分の肌にベッタリと貼りつく感触が、今は恨めしい。便座に腰掛け、ペーパーを手に巻き取ると、自分の股間を拭いて、屈辱とともに拭い去ろうとした。

「絶対に負けない・・・。」

 小声で呟いたが、声はまだ少し震えていた。


。。。



 日曜日、生徒会の役員たちと可児田樹は、書記の清橋優奈の自宅に集まった。優奈から各メンバーの携帯や自宅電話に、「樹君がゲームするって」と連絡が展開される。全員、もともとの予定を必死にやりくりして、急遽、清橋邸に駆けつける。どうしても、そうしなければならないという使命感と焦燥感が抑えられず、朝から息せきって集結してしまったのだった。

「み、みんなさすがに、私服もオシャレだよね。なんだか学校に、い、いる時と、雰囲気が違って、こういうのも楽しいよね。」

 朝から可児田樹が興奮気味。女友達の部屋に上げてもらう経験など、小学校2年生の時以来のものだった。豪奢な白壁の清橋家。優奈の部屋はピンクを基調に白い家具とフリルのクロスが使われる、如何にも女の子といった雰囲気の、ラブリーな部屋だった。朝っぱらからハイテンションで部屋を探る樹。優奈は困った顔をして、樹の後を追うのだが、何か気が咎めてしまって、樹の自由な探索を拒否することは出来なかった。

「お、女の子の部屋って、や、や、やっぱり、いい匂いだよね〜。」

 大きな熊のヌイグルミや、クッション。そしてベッドにまで顔を押しつけて深呼吸している樹。優奈と駿斗がチラチラとお互いに目を合わせながら、困った顔を見合わせる。その後の樹の悪ふざけに付き合わされることを想像して、生徒会メンバーたちの表情は曇った。

「クローゼットやタンスの中も開けていいかな?」

「え? ・・・あの、・・それはちょっとっ!」

「ゲストに自由に調べさせてあげるのが、『レディーの嗜み』かと思ってたんだけど、違ってたかな? 間違いだったら、教えてね。」

 樹がわざとらしく聞きなおすと、慌てた様子だった優奈が、納得いかないような表情のまま、視線を落す。「気をつけ」の姿勢で両手を前に重ねて立ち尽くしていた。

「・・・その・・・、ご自由に、どうぞ・・・。」

 クローゼットを開いて、鼻歌を歌いながら白タンスを順番に引き出したかと思うと、一番下の引き出しに両手を突っ込んで、ポイポイと中から布を引っ張り出して放り投げ始める樹。宙を舞っていくのは淡い色調の布。綺麗に畳まれてしまわれていた、優奈の下着が、順番に放り投げられて絨毯の上に散乱していく。フリルのショーツ。白いブラ。可愛らしいキャラクターが描かれた、少し子供っぽいパンツ。優奈が赤い顔をして「気をつけ」の姿勢のまま俯いた。

「おいっ・・・悪ふざけもいい加減にして、ゲームをするんだったら、さっさと始めろよっ。」

 小峰駿斗が苛立って抗議する。自分の彼女のプライベートな場所に、ズカズカ樹が踏み込んでくることへの怒りが含まれているようだった。

「ま、まぁまぁ、そんなに怒らないでよ、小峰君。・・・ほら・・。愛しい彼女の、おパンツ。こ、こ、こんな風にしてたら、変態チックじゃない?」

 樹が振り返って、小峰駿斗の前へと歩み寄る。手には優奈のショーツ。表彰状を渡す校長先生のような手つきで、駿斗の頭に、優奈の白いパンツをゆっくりと被せていく。途端に大人しくなる駿斗。対照的に、彼のズボンの股間が雄々しくテントを張る。彼女である優奈は、その股間に目が釘付けになり、生唾を飲み込んでいた。陸の観察では、どうやら「変態」という言葉に、この2人は特別な反応をしてしまうようだった。

「ハート柄に、ヒヨコ柄、ケイティちゃんに、マイメドレー。・・・優奈ちゃん、やっぱり可愛らしい柄のパンツが好きなんだね。良く似合ってると思うよ。」

「・・・は・・・。はぁ・・・、ありがとう・・・。」

 モヤモヤとしたものを抱えながら、自分を納得させるように清橋優奈がお辞儀する。

「だって、た、例えば澪ちゃんがこういうパンツ穿いてても、ちょっと似合わないもんね? 澪ちゃん、ちょっとチームワーク発揮して、試しにこのパンツに穿き替えてみてよ。」

「はぁ? ・・・なんでアタシが・・・・。・・・・そりゃ、穿くけどさ・・・。」

 ムクれながら、澪が不満そうに溜息をつく。男子たちの目を少し気にして、背を向けながらビンテージ・ジーンズのボタンを外す。紺色のショーツを下ろして、樹から受け取ったヒヨコ柄パンツに履き替える。メリハリある澪のボディには優奈のショーツのサイズは小さいようで、じゃっかんヒヨコさんたちが斜めに横にと引き伸ばされていた。上はTシャツの重ね着。下はヒヨコ柄のパンツ一枚という姿になった澪は、男子たちの視線を集めながら、また溜息をつく。

「や、やっぱり、ちょっと澪ちゃんには、このヒヨコパンティーは似合わないよね。でも、今日はこの格好でゲームしよっか? ・・・せっかく余った、澪ちゃんのダークブルーパンツは、・・・栞ちゃんが被っておこうか? パンツ被った自分がどんな風に見えるのか、学術的興味沸くでしょ?」

「・・・・これでいいの?」

 如何にも、嫌々という素振りで、栞が澪のパンツを頭に被る。シレッとした表情は崩さないが、部屋にある優奈の姿見をチラチラ見ては、自分の様子を角度を変えて確認し始めた。

「沙耶ちゃんのパンツだったら、ジットリ濡れちゃってたかもね?」

 樹が生徒会長にウインクする。

「・・・なっ・・・・・。・・・・知らないっ・・・・。」

 生徒会メンバーたちはこのやり取りについては、理解できずに聞き流す。それでも高倉沙耶の顔は真っ赤。昨日のやり取りを思い出して黙りこくった。ベストワンピースの下で、小さく内膝を擦り合わせて、屈辱に耐える。そんな沙耶の様子を、樹は噛み締めるように観察して、楽しんでいた。


 その日に樹が指示したのは「背中文字当てゲーム」。生徒会メンバーが男女交互に一つの列を作って並ばされる。沙耶、駿斗、澪、倫太郎、栞、陸、優奈の順番に、次の異性の背中に、伝えられた単語を書いていく。途中で単語が変わったら、間違いの出所になった人が減点。最も減点の多かったメンバーが罰ゲームを受けることとなる。樹が説明を終えると、全員が互いの背中を見ながら、服をたくし上げる。女子はブラのホックを外して、自分の背中を腰から肩甲骨まで大きく晒す。まるで健康診断で背中に聴診器を当てられる前のような姿勢になった。

「それじゃ、最初は僕が沙耶ちゃんに課題の単語を書くね。」

「・・・・きゃっ・・・・。」

 背中の素肌に、樹の指が触れる。くすぐったくて、沙耶は思わず声をもらした。自分が見えない、背後から指で好き勝手に背中を触られるのは、気色が悪い。沙耶は捲り上げた服を掴む自分の指先まで、鳥肌が立っていくのを感じた。

「・・・ちょ、・・・ちょっと! ・・・も、もうっ・・・。」

 賢い沙耶が、自分の背中に指で書かれた文字を察知するも、樹のデリカシーの無さに腹を立てる。女子の自分から駿斗の背中に書くのは、ためらわれるような単語だった。・・・それでも、連続で罰ゲームに処されることを想像すると、ゲームの遂行に従うしかない。今度は指先まで赤くしながら、逞しい駿斗の背中に触れて、文字を書いていく。カタカナの「チ」という文字を書く。しなやかなな沙耶の指先に触れられて、駿斗が背中を踊らせる。女性の指先に触れたことが少ない、無骨な男の反応だった。

「う・・・うおっ・・・・。」

 くすぐったそうに声を漏らす駿斗を、列の先頭から優奈がジロジロと振り返る。沙耶は、駿斗にも優奈にも申し訳ない思いで一杯だったが、なんとか指定された3文字を書ききった。

 駿斗が澪に、澪が倫太郎にと、順番に背中に人差し指を触れて、文字を伝達していく。そのたびに、「ヒヤッ」、「ヒャアッ」と声が上がった。なかでも倫太郎に背中を触れられた栞は、指が素肌につくたびに、背中を反らして体をクネらす。漏らす声も上ずっていた。最後に陸が、優奈の背中に「コ」という字を書ききると、優奈は嬉しそうに声を上げた。

「わかったぁ〜」

 樹が優奈の前に行く。

「それでは3期連続で生徒会を務める不動のメンバーの、見事な連携を見せてもらいましょう。優奈ちゃん。答えは何ですか?」

「答えは・・・その・・・・・チ・・『チ○コ』です。」

 若干モジモジしながら、樹に答える優奈。

「あれ? ・・・すみません。聞こえませんでした。もっと元気良く答えてもらえますか?」

「答えは、『チ○コ』ですっ!」

 お母様に聞かれでもしたら、こっぴどく叱られる。心配しながらも優奈は元気良く声を張り上げた。幸いなことに、広々とした清橋家では1階にいるお母様に声が届くことはなかった。

「ブブーッ。残念。・・・どこで間違ったのでしょうか? 一人ずつ、自分の思った答えを聞いていきましょう。」

 堂々と間違いの回答を叫ばされたと気がついた優奈は、さらに紅潮する。会長の沙耶から順番に、一人ずつ、恥ずかしい単語を口にさせられていく生徒会メンバーたち。広報部長の湯川倫太郎が「チ○ポ」と答えた時、その前に立つ栞がガックリと肩を落とした。

「私は・・・チ○コって、陸の背中に書きました。」

 栞が間違えたことが明らかになる。いつも冷静な会計の鶴見栞が、意外にも先を急いでしまったようだった。それとも、最後まで集中力が保てなくなるほど、くすぐったかったのだろうか?

「では・・・第2問に移ります。そのまえに、・・・ちょっとだけ生徒会のシエスタを設けて、休憩しよっか?」

 樹がそう口にした瞬間、沙耶たちの意識が急に遠のいたような気がした。頭の中が空っぽになる、ひととき。沙耶たちが我にかえった時には、樹は栞の前から、沙耶の後ろまで移動を済ませていた。

「じゃ、第2問、いくね。」

 樹が悪戯っぽく顔を作って、舌を伸ばす。沙耶は一瞬、樹のおどけたようなベロ出し顔を振り返って怪訝な顔をするが、すぐに服の後ろをまくり上げ直してゲームに備える。思い出した。このゲームの第2問は、背中に指ではなく、舌で文字を書いてもらわなければならない。どうして自分がそのことを忘れていたのか、奇妙な話に思えるが、『これは秀泉学園に昔から伝わる、伝統的なゲーム』だった。どうして度忘れしていたのだろう? 沙耶は姿勢を正す。背中に伝わってくる、樹の舌の感触から、文字を読み取らなければならない。馬鹿馬鹿しいように見えるが、伝統である以上、経緯をもって取り組まなければならない。

「はああっ・・・・・いやんっ・・・・。」

 息を止めて樹の舌を背中に待っていた沙耶だったが、ピチョっと生温かく湿ったものが素肌に触れた瞬間に、背中を限界まで反らせて声を上げてしまった。そのあられもない、恥ずかしい声の漏れ方に赤面しつつも、自分が忘れていた、もう一つの事実を思い出す。・・・『沙耶は背中が超敏感な、性感帯』なのだった・・・。呑気にも、綺麗さっぱり忘れていた、厳然たる事実を、沙耶の体がまざまざと思い出させてくる。沙耶は背中を舐められるだけで、イキそうになるくらい、背中が弱い。最大の弱点・・・。思い出して唇を噛む。よりによってこんなゲームに、背中が性感帯である自分が参加するなんて、組み合わせの悪さに頭がクラクラとした。

「どうしたの? 沙耶ちゃん。・・・またパンツが濡れちゃって困ってたりしたら、中断するから、教えてね。」

 親切な顔をして、樹がいらぬ気を回してくれる。

「・・・『また』とか言わないで・・・・。だ、大丈夫だから、はやく書いてよっ。」

 荒い呼吸を何とか整えながら、沙耶が悲鳴のような声で訴える。その言葉に従って、樹がまた沙耶の白い背中に顔を近づける。その決して整っているとは言い難い顔が、沙耶の背中に近づいてくる予感。わずかにかかる鼻息だけで、沙耶はまた喘いでしまいそうだった。

 ピチャ。

 また舌が、可児田樹の舌が沙耶の背中に貼りつく。沙耶の背筋に電流が走った。

「ひぃいいっ。」

 舌がズルズルと背中を這う。そのたびに、沙耶の髪が乱れ、腰がクネって体が反り返る。悔しいけれど、先ほどの樹の言葉通り、沙耶のショーツの中はすでにグショグショに濡れてしまっている。樹の舌が「ハネ」や「トメ」を記すたびに、ショーツの中には「ブシュッ」と音が出るほどに、熱くて恥ずかしい液が噴き出される。樹が単語をベロで書き終えたと同時に、沙耶はカーペットの上に膝と手をついて、ヘナヘナと倒れこんでしまった。

 気を取り直した沙耶が、まだ潤んだ目と赤い顔を駿斗の背中に近づけて、伸ばした舌をつける。少し塩味の駿斗の背中が、大きく痙攣した。

「ふひょっ・・・」

 駿斗には珍しい、気の抜けた声が上がる。・・・まさか小峰駿斗も、『背中が性感帯』なのだろうか? 沙耶は不思議に思う。・・・もし、そうだとしたら、今自分がしていることは、駿斗の性感帯を舌で刺激していることになる・・・。沙耶はよりいっそう、親友の優奈に対して申し訳ない気持ちになっていた。

 駿斗、澪、倫太郎と、背中を舐めての伝言が進んでいくが、偶然にも、ここにいる『全員、背中が特別敏感な性感帯』だったようだ。全員がはしたない声を漏らしながら、体をヒクつかせて悶える。なかでも倫太郎に背中を舐められた栞は、腰が抜けたように放心してしまっていた。最後に、熱に浮かされたような表情で優奈が答えた解答は『オマ○コ』。異常な雰囲気に呑まれて、清橋優奈はあっさりとエロ単語も口にしていた。

「あー。惜しいっ。残念だけど不正解です。ブッブー。」

 優奈がカーペットの上にペタンと座り込んで頭を抱える。

「正解はね・・・。『オマンフ』でした。最後のフの字をコと間違えちゃったのかな?」

「そっそんな〜。」

 優奈が不服そうな声を上げる。放心状態だった栞も、なんとか冷静さを取り戻しながら抗議する。

「そんな意味の無い単語なんて、伝言出来ないよ。引っ掛け問題じゃない。」

「そっ、そうよ。栞ちゃんの言うとおりっ。意味の無い単語は駄目だもん。」

 栞の援護を得て、優奈が勢いづく。それでも、樹の余裕ある態度は崩れなかった。

「意味の無い単語は駄目? ・・・じゃあ、さっき優奈ちゃんが答えた『オマ○コ』の意味を教えてよ。なんなら第三者の立会人を入れることにして、優奈ちゃんのママを呼んできて聞いてもらってもいいよ。」

 優奈は口をパクパクとさせたまま、絶句した。お母様の前で、そんな言葉を口に出して、意味まで説明するなんて、許されるはずがなかった。ガックリとうなだれる優奈。そもそも、湿気と妙な匂いが充満し始めた優奈の部屋に、清橋家の誰も入れるわけにはいかなくなっていた。

「ご・・・ごめんなさい。許して。」

 ベソをかきながらペコペコ謝る優奈。見ていて可哀想なくらいのショゲかえり方だった。


 可児田樹の出題は5問目まであったが、全てがエロ単語かそれに近い変な造語。生徒会メンバーは真面目な顔で自分の口から、答えと思われる単語を読み上げさせられた。ゲームに集中しやすいようにと、樹の提案のままに、上着もブラジャーもスカートもボトムも下ろした生徒会役員たち。5問目が終った頃には、ショーツやブリーフ、トランクス一枚だけをそれぞれ身につけて、体に力が入らないほどに疲れ果てていた。全員、パンツの前面がグッショリと濡れそぼっていて、女子はアンダーヘアーが透けて見えるほどになっている。5問中、3問の間違いの原因になっていたのは、鶴見栞だった。減点3の彼女が、今日の罰ゲームの実行者に決定。栞は恨めしそうに、倫太郎を睨みつけた。


。。。



「今日も暑いわね〜。クマオ。」

 ベンチに座って、大きな熊のヌイグルミに寄り添っている鶴見栞。清橋邸から程近い、高級住宅街の一角には、緑の木々で覆われた、市民憩いの自然公園があった。噴水の周りで遊ぶ子供たち。ペットの散歩や木陰に涼みにくる近所の人たち。その中で栞は、優奈から借りた熊のヌイグルミと、「デート」をしている最中だった。

「やだっ・・・クマオったら。どこ触ってるの? ・・・んもうっ・・・。ケダモノッ。」

 周囲の目も憚らず、ベンチに座って早々に、イチャつき始める栞とヌイグルミ。栞のいつもの優等生然としたクールビューティーはどこへやら。すっかり馬鹿ップルになりきって、ヌイグルミと戯れる。嫌がる素振りを見せながらも、ヌイグルミの手を取って襟付きシャツの胸元に入れさせたり、お尻を撫で回させたりしているのは、栞本人だった。


「栞ちゃん・・・。可哀想・・。」

「でも、ちょっとだけ嬉しそうじゃない? あんなに女の子の目をしてる栞、珍しいと思うんだけど。」

 木陰から見守る生徒会メンバーたち。優奈の同情に対して、倫太郎が栞のハシャギぶりを指摘していた。


「やんっ、アッ・・・。もう〜、クマオってば〜。みんな、こっちを見てるよ〜。・・・あんっ・・・上手・・・。」

 ヌイグルミ相手に、偽装ペッティングを始める鶴見栞。ジョギングや散歩中の大人たちは栞が喘いでいるベンチを避けて通っていたが、無邪気な子供たちの何人かはベンチの前で立ち止まって、栞の痴態を見物していた。

「あっ、凄いっ。クマタロウ・・・。来てっ・・・・クマタロウゥ・・・、私の、クマタロウッ。」

 後背位の姿勢で、ベンチに四つん這いになってお尻を振る栞。喘ぎ声もピッチが高くなると、クマオだったはずの仮想彼氏の名前は、いつのまにかクマタロウになっていた。

「・・・何だよ・・・。」

 湯川倫太郎が沙耶や澪の視線に耐えかねて、バツの悪そうな声を漏らす。木の幹に隠れながら、栞を除く生徒会メンバーたちは、無言で倫太郎をジーッと見つめていた。


「私もう、あの公園には、一生行かないからっ。」

 ゲームも終った帰り道。正気を取り戻した鶴見栞は、誰とも視線を合わせないまま、きっぱりと宣言した。服もはだけてベンチの上でエクスタシーまで達した栞は、「クマタロウ」と抱き合って『馬鹿ップルの公開ペッティングからの本番ショー』を披露した後で、我に返り、公園から逃げ出した。近所のオジサンから厳重注意を受ける、寸前の出来事だった。

 
 


 

 

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