生徒会ゲーム


 

 

第1話



「清橋さん。い、いつも、ぼ、僕なんかの話を聞いてくれて、あ、ありがとうね。」

 可児田樹がつっかえながらも、言葉にすると、目の前の美少女は屈託のない、柔和な笑顔を見せる。

「気にしないで。可児田君、私たちのお友達じゃない。私で良かったら、どれだけでもお話してね。」

 清橋優奈とじっくりお喋りが出来る。これは学園の男子たちにとっては芸能人とのトークショーにお呼ばれしているっていうくらい、ある意味、恵まれた立場だと言える。樹の数少ない友人はみんな、床に転がって羨ましがるだろう。良家の子女が多く通っている私立秀泉学園高等部のなかでも、際立って由緒ある旧家のお嬢様として知られている清橋さんは、パステル調のピンクの肌にフランス人形のように整った顔立ちをしていた。ノーブルな目鼻立ちが、整い過ぎて冷たい印象にならないのは、少し垂れ目がちの目尻がさらにクニっと下がる、優しい笑顔のおかげだろう。けして気取った話し方などしないのに、言葉遣い、仕草の一つ一つから、彼女の育ちの良さと気品が漂っていた。

 こんな可憐なお嬢様と樹のような落ちこぼれ劣等生とが話を出来るのは、樹にとって今までの学園生活でも思い返せないくらいの幸運なシチュエーション。それでも、そのことをあまり誇れないのは、ここにいたる経緯だった。

 可児田樹は半年以上も不登校だった、学園一の問題児。そして清橋優奈は高等部の生徒会、書記を務めている。可児田の引きこもり癖を直させるために、生徒会が自主的に可児田と「お話の時間」を設けているのだ。学園内で特別な地位を持っている生徒会。メンバーにはクラブ活動やその他の委員会との掛け持ちをしている者もいて、みんな暇ではない。そんな生徒会が、「お話の時間」をセットして学校生活にもう一度慣れさせようとしなければならないほど、樹の不登校は名門学園のお荷物になっているということだろう。

「あ、あの・・・いつも通り、僕の生活の中では、は、話したくなるような、お、面白いことなんてお、お、お、起きないから、き、今日は、このあいだ、み、見直した、あ、アニメの話をするね。」

「うん・・・・うん・・・・。そうなんだぁ・・・・」

 両手を膝の上に重ねて、机を挟んで樹と向かい合っている優奈は、優しい笑顔で樹の話に耳を傾けてくれる。目を大きくさせたり、垂れ目に細めたりしながら、何度も樹の話に聞き入ってくれている。それでも樹の頭の中には、熱くなる部分と、妙に冷めていく部分との、両方がある。こんな可憐な、まばゆいばかりのお嬢様が、樹の語る、深夜アニメの再放送の話に興味があるなんて思えないからだ。それでも樹は話を止めることは出来ない。

 引きこもっていた間に心に地層が出来るほど溜め込んだ、思春期の色々な思い、鬱屈、趣味への情熱を、誰かに聞いてもらえるということが、純粋に楽しくて仕方がない。だからどれだけ自分の話の中身がつまらないってわかっていても、どれだけ自分に話術が無いってわかっていても、どれだけ自分の声がどもりがちで聞き取りづらい、低い声だってわかっていても、樹は生徒会メンバーに話を聞いてもらえることが嬉しくて、そのためだけに学校に来ているのだった。

「そ、それで、そのキャラと、最初は声優が、ぜ、全然、合っていないって、ネットでも評判だったんだけど、でも、それは、そ、そ、そのキャラの過去がわかってくると、ち、ちょっと影のある声とか、ち、ちゃんと意味があって、ど、どんだけ、みんな、わかってないんだ、っていう、ちょっと、腹が立って。で、その過去っていうのが、彼女が騎士団の副団長になるずっとまえ、まだ、見習いの頃のことなんだけど、そ、そ、その娘が、そのシーンだけ、ツインテールになってて、あ、その娘は今はもう、ボブの髪型なんだけどね・・・・」

「うん・・・、うん・・・・・、・・・・うん・・・・」

 猛烈に興味のない分野の話を聞かされて、それでも笑顔を絶やさずに頷いてくれる清橋さんは、お嬢様育ちなのに、躾の身に着いた辛抱強い子なんだと、よくわかった。それでも話が途切れまくると思うと同じ話が何度もループされる、どもりがちのオタクトーク。校舎に西日がかかる放課後の時間帯に、これは拷問のようでもあった。5分もたつと、清橋さんは頷いて頭を上げるたびに、頭がユラユラとなびくようになる。目から光が消えて虚ろになって、ピンク色の可愛らしい唇が、少しずつ緩み、開いてくる。最近の樹の目当ては、話を聞いてもらうことよりも、これから起きることへと変わりつつあった。

「き、清橋さん、つ、つまらない話で・・・ごめんね。で、でももうちょっと、で、面白くなるから、こ、ここからが、ど、ど、ど、どんどん、盛り上がって、くるから・・・」

「うん・・・・うん・・・・そうなんだぁ・・・・うん・・・、うん・・・・・・・うん・・・・・」

 書記の清橋優奈の表情は、眠気と懸命に闘う、徹夜明けの受験生のよう。目は虚ろで口は半開き、リズムで相槌を打ってくれているが、頷きは船漕ぎに変わっていた。

 お前の話は長くて要点が掴めなくて、聞いていて眠くなる。これまで何百回も言われてきたことだった。

 ずっと、切れ味鋭い、即意当妙な受け答え、女の子受けする軽妙なトークに憧れてきた。それでも可児田樹の話は、たまに始まると、たちまち聞き手に睡魔となって襲い掛かる、究極の子守唄だと言われてきた。それが今、樹にとって新しい世界への扉を開こうとしている。そんな予感を感じさせる。樹は、ロボットのように自動的に相槌を繰り返している清橋さんの様子を伺いながら、足元に置いていた学生鞄から、一冊の分厚い本を取り出した。「実践・催眠導入法」。樹は初めて、自分のコンプレックスだった「話のつまらなさ」に、効用を見出そうとしていた。

「清橋さん・・・・寝てる?」

「うんん・・・寝てないよ・・・、聞いてる、聞いてる」

 清橋優奈は慌てて笑顔を取り繕う。

「じゃあ、・・・そ、その後の王国レディー騎士団の話なんだけど、さ、三代目の団長選挙のところで、も、揉め事があってね。」

 可児田の話が続くとわかると、優奈の顔からまた光が消える。溺れかけている人が水面に顔を上げる。一度戻ると、もう一度顔を上げるのが、さらに辛くなる。そんな眠気の海底で懸命に優奈は闘っている様子だった。

「清橋さん、眠かったらそのまま深―く、沈み込んでもいいんだよ。眠りながらも聞けるからね。僕の声はどんどん清橋さんを深くまで連れて行くよ。どんどん体が重くなる。でしょ?」

「うん・・・・うん・・・そうだね・・・・うん・・・・」

「無理に起きていようとしなくていいよ。椅子に深―く身を預けて、体の力をすーっと抜いて。ほら、どんどん楽に僕の言葉が入ってくる。すっごく楽。」

「うん・・・・うん・・・・・・うん・・・・・」

「この状態は何だろう? ・・・ゆっくり思い出してきたかな? ・・・つい最近も入ったことがあるでしょ? 僕の言葉が響く以外に、何も頭に浮かばない、深くて気持ちのいい、とってもリラックス出来る場所・・・。思い出してきた?」

「さ・・・催眠・・・・。可児田君の・・・催眠術・・・の世界・・・か、な・・・・」

 トロンとした目のまま、清橋優奈が最後の力を振り絞るように声を出す。

「入った? 清橋さん。」

「・・・・・・・・・・うん・・・」

 頷くと同時に頭がガクンと前に落ちる。自分のオヘソを見るような姿勢で、清橋優奈は昏倒してしまったようだった。華奢な両肩に手を添えて、ゆっくりと起こしてあげる。今度は天井を向くような姿勢で、優奈は体を椅子に預けた。目は半開きのままだった。

「清橋さんはこのまま僕の言葉に従って、どんどん深い催眠状態へと落ちていきます。ここはいつもは思い出すことが出来ない、貴方だけの深―い、深層意識の世界。ストレスも何もない、イメージだけが弾ける、夢の中みたいな世界ですよね。20から0まで、逆に数えていこうか、そのたびに、清橋さんは、一歩ずつ、階段を降りていきますよ。大丈夫、僕が手を持ってあげていますからね、一人では上がることの出来ない階段。一段ずつ降りようか。」

「・・・はい・・・。20・・・・、・・・・19・・・・18・・・・」

 椅子に座ったまま、優奈が足を交互に動かす。仰け反るように椅子に身を預けているので、少しスカートの裾が上がった。優奈の手を握る、樹の手は汗ばんで、微妙に震えていた。柔らかくて華奢でスベスベな清橋優奈の手。女子と手を握った経験自体数えるほどしかない。そんな樹にとっては、これだけのことでも生唾を飲み込んでいた。

「一歩降りるごとに、いつもの世界とは変わっていくよ。校則もない段に来たね、次は法律もなくなっちゃった。この段では常識をおろしていくよ。次の段は道徳も無くしちゃおう。」

「12・・・・、・・・・11・・・・、・・・・10・・・・」

「こんなに荷物が重かったんだ。おろしてみて初めて気がつくね。毎回びっくりするほど楽になる。とっても軽くなる。今度は物理の法則も、時間の法則もおろしていこうか、自分の体のコントロール。こんなものも催眠の世界ではいらないよね。自分の心、記憶のコントロール、これもおいていこう。とーっても楽になった。」

「・・・・4・・・・・・・・・3・・・・・・・・・・・・・・・・2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1・・・・・・・・・・・・・・」

「僕の言葉だけが支配する、君は何も決めなくていい、最高の自由。究極にリラックス出来る場所に、はい、降りるよ。」

「・・・ゼロ」

 交互に動かしていた膝が、最後の一歩、床についた時に、清橋優奈は頭を起こした。両目の瞼が開く。見えた黒目はガラス玉のように無機質だった。夢をみているようなトロンとした表情のまま、前を見据えた。

「清橋さん、今から僕の言うことをよく聞きましょう。これから僕が言うことが全て本当になります。貴方の見ているもの、貴方の感じていること、貴方の外の世界、そして貴方の中の世界が全て、僕の言う通りになります。わかりますね?」

「はい」

 さっきまでの懸命に取り繕った「うん、うん」という返事が、いつのまにか樹に身を委ねきったような従順な「はい」という返事に変化していた。臆病な樹が、何度も反応を確認しながら、開かれた優奈の深層意識に、一つずつ暗示を刷り込んでいく。樹の低い声が、優奈の心の奥深くに、消え入るように染み込んでいく。樹はこの瞬間に、言葉に出来ないような背徳的な興奮と、安らぐ気持ちとを抱えていた。


 。。。


「清橋さん・・・、清橋さん、き、聞いてるかな?」

「・・・ん・・・うん・・・もちろん。聞いてるよ!」

 跳ね起きたように、清橋優奈が照れ笑いを浮かべて目を大きく開く。いつの間にかあたりは薄暗く、生徒会室にはカーテンが閉められていた。

(眠りかけちゃってたこと、・・・可児田君に気づかれちゃったかな? ・・・でも、アニメの話、面白くないよ〜。)

 照れ隠しに前髪をかき上げながら、優奈は樹の様子を伺っていた。

「は、話ばっかり聞いててもらうのも、や、や、やっぱり退屈だと思うから、・・・れ、例のスケッチに移ろうか。」

「う・・うんっ。そうだねっ。そうしましょっ。」

 優奈は笑顔で立ち上がって、丁寧に制服の皺を伸ばして身だしなみを整える。

「ごめんね。モデルをお願いしちゃって。」

「うんん。・・・全然いいの。可児田君に、早く遅れた分のカリキュラムを取り戻してもらいたいし・・・。ほんとはでも、モデルなんてちょっと、恥ずかしいけどね。うふふ」

 優奈は照れ屋の自分を奮い立たせるように自分自身に語りかける。これは学校の勉強から遅れてしまった可児田君が修了科目を増やすための特別課題。美術の落第を取り戻すためには必須なのだ。それに、デッサンのモデルに指名されるのは、女性としてとても名誉なこと。断ったりしたら、可児田君をとても傷つけてしまうのだから、意欲的に手伝ってあげなければ・・・。

「じゃあ、こうやって、普通に立っていれば、いいかしら?」

 椅子から立ち上がった優奈が、生徒会室の真ん中まで歩いて、樹の方を向く。両手を前で重ねて、気持ち体を斜めにして、顔は樹に向けて微笑む。もともとの素材が良いせいか、恥ずかしそうにとった、簡単な姿勢でも、十分、様になっていた。

「す、すごく、・・・い、いいんだけど、その、そ、それだけだと・・・」

 優奈は申し訳ない気持ちでいっぱいになって、俯いた。一つ溜息をつくと、胸元のリボンに手をかけた。

「ごめんね・・・、やっぱり、服の上からじゃ、ちゃんとした人物デッサンにならないよね・・・。わかってるんだけど、やっぱり恥ずかしかったの。ごめんなさい、可児田君。」

 特別課題が裸婦デッサンだということはわかっていたのに、誤魔化そうとしていた優奈は罪悪感で胸がいっぱいになった。せっかく、学校に来るようになってくれている可児田君が、このままではまた、美術嫌い、勉強嫌いになってしまう。これではこれまでの優奈の努力、いや、生徒会の仲間たち皆の努力と辛抱が水の泡ではないか。優奈はオデコまで真っ赤になるほどの恥ずかしい思いを懸命に押し殺して、男子生徒の前で、シャツのボタンを一つ一つ外し、袖から手を抜いた。白桃のような色合いの肌と、清純そうなクリーム色のブラジャーが可児田樹の目に晒される。可児田の、生唾を飲む音が聞こえたような気がして、優奈は思わず両手を胸元で交差させた。意中の人の前でも見せたことがない、清橋優奈の清く、美しい体だった。

「可児田君・・、その、ちょっとだけ、目を逸らしていてもらえるかな? ・・・ごめんね。すぐ脱ぐから。」

 優奈が可児田に背中を向ける。綺麗でなめらかな背中。もぞもぞとスカートのファスナーを下して、ボタンを外すと紺のプリーツスカートが床に落ちる。ブラジャーのストラップだけでなく、クリーム色のショーツが顔を出した。少女の面影にうっすら柔らかいお肉が乗ったような、お尻を薄布一枚で包みこむショーツ。可児田はスケッチブックを左手に構えながら、右手には鉛筆を、痛いほど強く握りしめていた。

 自分はヌードデッサンのモデルなんだ。裸をじっくり見られるのが当たり前なんだと、何度自分に言い聞かせる。それでも、服を脱ぐところを凝視されているという恥ずかしさは強烈で、奥手な優奈を困らせた。後ろを向いているのに、可児田樹の熱い視線は背中やお尻を舐めまわすように刺さってくる。熱い視線。優奈の体温まで上げていくようだった。

 意を決して背中に手をまわして、ブラジャーのホックを外す。手で胸を抱えるようにして、ブラを外した。柔らかい胸に、少しブラの後が赤く残っている。それを指で確認するようにしながら、ブラを手から離す。両腕を胸の前で交差させたままで、優奈はゆっくりと可児田樹のいる方へと体を向けた。

「どう・・・かな? ・・・・描く価値のない体だったら、ごめんね。私、澪ちゃんとかと違って、スタイル良くないから。」

 言い訳しながら、謝りながら、清橋優奈は両手をゆっくりと下していく。小ぶりの丸いオッパイと、パステルピンクの乳首が空気に触れた。優奈は色素の薄い体質らしくて、乳輪も乳首も白人のように淡いピンクだった。

 学園一のお嬢様のオッパイが目の前に出された瞬間、可児田樹は鼻の中に甘いミルクの匂いが入ってきたような気すらした。樹が優奈に催眠術をかけたのはこれが初めてではない。この一週間、周到に彼女のトランスを深くして、暗示を馴染ませてきた。しかし彼女の裸を間近で見せてもらう時は、いつも初めての時のように興奮した。そしてそれは、次の瞬間への期待からでもある。

「最後・・・パンツも、脱いじゃうね? ・・・フルヌード・デッサンだもんね?」

 優奈は自分に言い聞かせるように、いちいち樹にお伺いを立てる。まるで、違う答えを期待しているかのように。それでも樹は震える声を振り絞って頷く。

「うん。ぜ、全裸の女の子を隅々まで描かないといけないっていう課題なんだ。い、色んなポーズのバージョンがいるから、あんまり時間がないんだけどね。」

「ご、ごめん。急ぐね。」

 両目を固くつむって、唇をかんで決心をした優奈が、両手をショーツのゴムに添えて、腰から下へとおろしていく。お尻のところで抵抗するように引っかかったショーツは、反動でスルリと腿まで降りた。白い肌の上に、淡く生えそろったヘアーが現れる。その奥には膨らんだ股間がすぼまるように切れ込みに皮膚が入っている。その近くの皮膚は粘膜に近づくほどに、色調が変わっていた。

「ふむ、まずはモチーフを良くこの目で見るね。」

「は・・・はい。」

 鉛筆を構えて片目を閉じたりしながら、可児田樹が、裸の優奈の周りを歩き回る。顔を近づけたり遠ざけたり。そのたびに優奈の体は、恥ずかしさで沸騰しそうになった。日が暮れた生徒会室には電気がつけられて十分明るい。その真ん中で、生まれたままの姿の美少女が劣等生の目で弄ばれていた。樹に凝視されている部分が熱い。視線が熱い。

「じゃあまずは、バンザイのポーズかな? 両足も肩幅まで開いて、元気いっぱいの笑顔になってね。」

「はい」

 脇のお手入れも欠かしていなくて良かった。優奈は恥ずかしさで爆発しそうな頭の片隅で、妙な安堵を覚えていた。両手を目一杯高く挙げて、両足も大きく開く。ヘアーが隠し切れずに、少し開いた、股間の恥ずかしい部分を見せてしまっていた。微笑んでいた優奈は、細かい指示を受けて口を大きく開け、満面の笑顔を作らさせられる。

(これも可児田君の勉強のため・・・。私の生徒会のお仕事のため・・・・。)

 少しぎこちない笑顔で、両手両足をピンっと伸ばした優奈は、可児田がせめて早くデッサンを描き上げてくれることを祈った。そんな優奈の思いが通じたのか、樹は優奈の予想を遥かに超えるスピードでデッサンを描き上げてくれた。

「ほらっ、出来上がり。」

「えっ・・・もう? ・・・・すっ。すっごい。可児田君。天才かも?」

 裸のまま、両手を口に当てて優奈が感動していた。どう考えても、適当に単線と丸とで棒人間を描くくらいの時間しかなかったはずなのに、樹が見せたスケッチ画には写実的な絵が描かれている。裸で元気いっぱい両手両足を伸ばす美少女。自分自身のヌード画であることの照れくささが吹き飛ぶほどの名画だった。

「どう? 清橋さん。」

「どうって、凄いよ。秀泉学園のレンブラントだよ。びっくり。これ、美大に行けるよ。可児田君。学校毎日おいでよ。」

 両手で口を隠したままのポーズの清橋さん。樹は何だかそれが面白く、可愛らしく感じられた。彼女は口を開けているところを手で隠そうという、レディーのマナーが自然に出てしまっているのだろうが、オッパイもお尻も丸出しの状態だ。それでも思わず口を隠しているところに育ちの良さと、優奈の天然っぷりが滲み出ている。そう思うと、樹は優奈の心が近くに感じられたような気がした。何より、こんなに可愛い女の子に本心から褒められるなんて、滅多なことではありえない。例えシンプルな棒人間の絵を暗示で超絶写実画に見せているだけだとわかっていても、樹は鼻が高かった。人に認められる喜びがこれほどのものだとは、しばらく忘れていたような気がした。

「この絵。我ながら、良く描けてるな。・・・優奈ちゃんもよく見て。まるで本物みたいでしょ・・・。こっちも本物の優奈ちゃんみたい。どっちがモデルで、どっちが絵なのか分からなくなるくらい。」

 樹の言葉に誘われて、清橋優奈の両目が吸い込まれるようにスケッチブックに釘付けになる。魂が吸い取られてしまったかのように、口をポカンと開けていた。さっきまでお口を隠していた上品な両手は、ダランと腰のあたりで揺れている。

「この絵とおんなじポーズに戻るね。」

「・・・・あ・・・ほんとだ・・・また。」

 操り人形のように、優奈の両手が上へと吊り上げられていく。両足がズズッ、ズズッと開いていく、優奈の意志とは関係なく、絵の通りの体勢になってしまう。

「ほら、本物そっくり。この腕の質感なんかも・・・ね?」

「あっ・・・どうして?」

 二の腕をプニプニと触られる感触。樹が絵の優奈の二の腕をつつくたびに、優奈本人に感覚が伝わってくるようだった。

「どうして? って、何が?」

「触られてる気がするの。」

「触られてるって、・・・僕は絵を触ってるだけだよ。ほら、ツンツン、ツンツンって。自分で描いた絵なんだし、いいでしょ? 何したって。」

「あっ・・・やっ・・・・何っ? ・・・・もうっ」

 太腿、胸、おへそ、わき腹、色んなところを指が、しかも相当大きな指がつついてくる感触。優奈は嫌がって体をくねらせるけれど、両手両足が大きく開いた今の体勢は変えられない。

「このあたり、ちょっと描き直してみようか、・・・ほら、可愛い乳首が、ピンって。」

「う・・・嘘。」

 両手を高々と挙げたままの優奈が自分の体の変化に唖然となる。右胸、左胸の順番に、絵が描き換えられるのと同じように自分の胸の先端がプクッと起きてしまう。恥ずかしくて隠したいのに、どうすることも出来ない。乳首は描かれている様に合わせるように、懸命に固く赤くなって上を向いていく。樹はそれを満足気に確認したあと、また体のあちこちを触り始める。

「ひゃあっ!」

 わき腹をなぞられた時にはビクンッと爪先立つほど反応をみせてしまった。

「あれ、もしかして、優奈ちゃんって、くすぐったがり? ・・・絵の優奈ちゃんを触ってるだけなんだけどね。ほら、コチチョコチョコチョ」

 机に立てかけたスケッチブックに描かれた棒人間の絵。それを両側から脇の下の部分をくすぐってみせる。

「駄目――――っ、ヤッハッハッハッハッハッハッハッハッハ、やーん、アハハハハッ」

 バンザイのまま、足を小刻みにバタバタさせたり、首を左右に振ったりしながら、優奈が笑い続ける。清楚な普段のお嬢様姿からは想像出来ないような、屈託のない女の子の笑い声。笑いが止まらなくなった時の、年頃の女の子の嬌声だ。涙を流して、身をよじりながら、それでもバンザイのポーズを維持して、優奈は笑い続けた。

「今度はこっちだっ。」

「ヒエーェッヘッヘッヘッヘッヘ、駄目。許してぇー。」

 涙をポロポロこぼして笑い続ける清橋優奈。髪も乱れて、楚々とした乙女の嗜みはどこかへ飛んでいってしまったようだった。呼吸も苦しそうなまでになっている優奈が可愛そうになるけれど、樹は何だか楽しくて止められない。たまに外に出るとカップルが見せるイチャつき。ソフトな悪戯の応酬。いつもは目を逸らしていたけれど、こんな美少女を手のひらの上に転がして、こんなに自由に悪戯が出来るようになると、樹自身、止められなくなっていた。

「・・・さて、そろそろ次の絵に移ろっと。」

 樹がスケッチブックを手に取って、ページを捲り、また勢いよく、何かを書き込み始めて、ようやく優奈はバンザイポーズから解放された。

「ふうっ、ふっ、はー・・・、はぁー・・・・・・」

 両手を床につき、土下座のような形で呼吸を整える優奈。笑い過ぎて、お腹も、背中も、肺までも痛かった。これまでの人生の中でここまで大笑いさせられたことは無かったが、別に面白いとは思えない状況だった。

 やっと人心地がついて、顔を上げた優奈の前にはすでに、もう一枚の絵が描き上げられたスケッチブックが突き出されていた。優奈の顔が曇る。

「可児田君・・・。その・・・、これって、まさか・・・・。違うよね?」

 許しを乞うように、上目遣いで見上げる清橋優奈。名画を仕上げた後の巨匠のような笑みを浮かべて、樹が満足げに頷く。

「オナニーしてる清橋優奈さん。作・可児田樹です。」

 下品な絵を描かれて、抗議のために拳を上げようとした優奈は、自分の手が勝手に別の作業に入りつつあることに気がついた。左手は小ぶりな自分の胸。そして右手はあろうことか、アンダーヘアーを押し分けて、股間の恥ずかしい部分をモゾモゾと弄り始めている。人前で晒すことなど、絶対に絶対に許されない、清橋優奈にありえない姿だ。

「こんなことっ。絶対駄目。もう美術でも何でもないよっ。怒られちゃうっ。やめましょ、可児田君。お願い。」

 優奈の必死の懇願を受けて、樹が悩む。

「うーん。悩ましいなぁ。・・・だって、この絵の中の優奈ちゃん。とっても気持ち良さそうだよ。ほらっ・・・オナニーに完全に没頭しきっていて、他のことはもう、何も考えていないって感じじゃない?」

「そんなことっ・・・ほ・・・・ほんとうだ・・・。」

 樹が一筆、二筆入れただけのはずなのに、絵の中の自分は現実の自分よりも生き生きと、嬉しそうな表情をしていた。その表情の屈託のなさ、穢れのなさ。思わず見とれてしまう。気がつくと、優奈は声を漏らしていた。

「んっ・・・はぁ・・・・絵の・・・せいで・・・こっちまで・・・・こっちまで・・・ああんっ・・・もうっ・・・」

「あ、両足全開になってた」

「キャッ、イタいっ・・・・んもうっ・・・はんっ・・・ふうっ」

 急に自分の両足が左右にガバッと開き切ったせいで、優奈はドスンと尻もちをついて、床に座り込んでしまった。それでもオナニーは止まらない。樹を叱るように眉をひそめても、それでも顔はあふれる快感で緩みきっている。両足はピンッと開いたまま、座り込んでクチュクチュと股間からいやらしい音を立てる。人前で見せるなど考えられないような、はしたない姿だったが、そんなことにも構っていられない。優奈は、絵に描かれていた通りの、オナニーに没頭して快感を貪る少女そのものになっていた。

 優奈が自分で自分を貶めて慰めて、絶頂に導いている間も、樹のペンは止まらなかった。ページを何枚も捲って、絵を描き続けている。その絵の中身を不安に感じる余裕もなく、優奈は天国に近づきつつあった。足の腱がキュっとすぼまる、その間隔がだんだん短くなっていく。近づいていく。

「んっ・・・・あ、あああああぁあああぁぁんっ」

 絵に描かれていた通り、優奈は快感に呆けた笑顔のまま、開き切った足の間からビュッ、ビュッと何かの液を噴き出してしまった。

「はぁ・・・・私・・・なんてこと・・・。樹君、・・・あの、今日のことは、絶対に誰にも・・・え? もう、新しい絵、描いちゃったの?」

 絵心が芽生えてきたのか、樹は嬉しそうに作品を次々と披露してくる。

「うん。どう? これも優奈ちゃんに似てる?」

「わ・・たしが・・・この人・・・樹君? ・・・に、胸を・・・・揉ませちゃってる。・・・こ、こんな絵を描いちゃったら・・・もうっ」

 優奈は憤慨したように可児田樹に駆け寄ってきて、両手を掴む。捩じり上げるかと思いきや、自分の胸に押しつけた。顔は困った顔のままだ。樹は全身の神経を両手のひらと指先に集中させて、柔らかい弾力を楽しんだ。少女の固さをまだ僅かに残した膨らみかけの胸。樹の指と指の間からムニュっと顔を出してはゆっくりと押し返してくる、優しい弾力。

「最高だよ。優奈ちゃんのオッパイ。直にこんなに遠慮なく揉ましてもらえて、しかもそれを優奈ちゃんに手伝ってもらえるなんて。学校で指折りの可愛いお嬢様なんだから、もっと嫌がられるかと思ってた。」

「い、・・・嫌だけど、絵が・・・。こんなに嬉しそうにしてるから・・・・・・。あぁんっ」

 小ぶりだが形のいいオッパイ。それらを大きく変形させて揉みまくる可児田樹の手、その手の甲を包み込むようにして、揉むのを手伝う清橋優奈の手。2人とも嬉しさでニッコニコ。まさに優奈が今見せられた、絵の通りになっている。現実の世界が絵の通りに支配される。樹の絵が上手すぎるからなのだろうか? 固くなった乳首を摘ままれても引っ張られても、優奈は笑顔で手伝うことしか出来ない。もはやこの異常な状況と襲いくる快感とに、すっかり酔わされてしまっていた。

「そろそろ・・・僕の現時点での、最高傑作、見てもらおうかな? ・・・ほら、ジャジャーン。」

 仰け反って、胸を揉みつぶされる快感によがっていた優奈が、焦点の合わない目で、突き出されたスケッチブックを見る。中身がわかってくると、優奈の上気しきった顔から、スーッと血が抜けていった。

「駄目なのっ。これだけは許して。お願いっ。私っ好きな人がいるの。」

 目に涙を浮かべて、ぶんぶん首を左右に振りながら、清橋優奈がさらに体を近づけてくる。両手をしたに伸ばして、可児田樹のベルトに手をかけた。

「可児田君、私、これだけは好きな人に最初にって・・・、決めてるの。止めさせて、私を止めて。お願い。」

 拝みこむようにお願いする優奈。そのお願いのさなかにも、自分の両手は可児田のズボンをスルスルと下していた。あの絵の通りになったら、優奈の夢に描いた大切な瞬間は奪われてしまう。綺麗な体で、気になるあの人の前に立てなくなってしまう。

「それって小峰君のこと?」

 可児田樹が軽く声をかけると、優奈は両肩をすくめてビクッと反応してしまう。信じられない表情で樹を見上げる。

「スポーツ万能の小峰駿斗君だよね? 生徒会庶務も務める人気者なんだし、可愛い優奈ちゃんとお似合いなんじゃない? 秀泉学園のベストカップルにもなれるかも」

「そ・・・そんな・・・恥ずかしい。」

 全裸の優奈は跪いて可児田樹のブリーフを右手でズルズル下しながら、左手を頬に当てて恥ずかしそうに俯いた。その顔の10センチ前には仮性包茎の樹のおチンチンがそそり立っている。やはり清橋優奈は、時々恥ずかしがるポイントがズレているようで、そこもまた愛おしく感じられた。

「だったら、ちょうどいいじゃん。ほら、この絵の端っこ見てよ。ほら、小峰君。君を応援してるよ。」

 その名字を呼ばれるだけで、少しまたキュンッとしてしまう。優奈が絵をもう一度見てみると、確かに。男女の睦み合いが激しく行われている中央から目を下すと、生徒会室の窓から、愛おしい小峰君が顔を出して、優奈のことを応援していた。

「ハートまで飛んでる・・・っていうことは、小峰君も優奈ちゃんにこうしていて欲しいんだ。これはまさに、二重の意味で愛の交合なんだね。優奈ちゃんが僕とセックスすることで、優奈ちゃんと小峰君もまた、結ばれるってことじゃない?」

 宗教画の絵解きのような説明を受けると、優奈の悲しい気持ちも見る間に氷解した。確かに絵を見ていると、愛しの小峰君は優奈と樹のセックスを嬉しそうに応援している。そして小峰君と優奈との間には、ハートマークが飛び交い、・・・・そしてよくよく見ると、優奈の小指と小峰君の小指の間に、赤い糸が結ばれているではないか。糸はクネクネと曲がりながら、可児田君の股間に絡まったあとで、優奈まで繋がっていた。悲痛な思いが癒され、期待で膨らんでいく。

(これってやっぱり、可児田君の言う通り、私は可児田君とエッチすると、小峰君と両想いになれちゃうのかな?)

 樹の肩越しに、スケッチブックに釘付けになる。気がつくと優奈は、樹の体を抱きしめて、きつく密着していた。このまま2人が床に腰を下ろして、座位の体勢で一つになれば、絵の姿の通りになる。胸を押し付け、背中で腕を絡めながら、優奈と樹はゆっくりと腰を下ろしていった。

「えっと・・・こうかな? もうちょっと下? こんな感じ・・・・。」

 樹が固くなった自分のモノを優奈の大切なところに入れようとして、苦心している。明らかに2人とも、これが初体験だった。優奈はこれから来るであろう痛みと失うもののことを考えて、抱き合ったまま震えている。

「可児田君・・・私・・、やっぱり怖いよう。こんなこと、いけないんじゃないかって・・・。恋人同士でもないのに。」

 恋人同士でないどころではない。学園一の清楚なお嬢様と落ちこぼれの不細工劣等生とが結合してしまうなんて、なんだかおぞましい・・・。樹の耳には勝手にそのような解釈となって入ってくる。とことんネガティブな性格になってしまっていた。

「ほら、後ろを見てみて。小峰君が応援してるよ。」

 言われて振り返ると、生徒会室の窓から、色黒の大きな体。いつもの精悍な小峰君が笑顔で優奈を見守ってくれていた。

「こ・・・小峰君。」

 色々言いたいことがあるのに、その男っぽい顔を見ると、奥手な優奈は何も喋れなくなる。それでも、小峰君は優奈の背中を押してくれるように右手を出した。小指には赤い糸が見える。その糸を通じて、優奈に勇気と情熱を注いでくれているような気がした。

「可児田君。私、頑張るっ。・・・でも、お願い・・優しくしてね。」

「絵を見るとなかなか激しそうだけど。」

「・・・じゃあ、・・・途中から激しく・・・。」

 2人で顔を赤くしながら腰の位置を懸命に調整して、やっと樹がモノを入れる。ズプッと入りきった感触があって、今度は優奈が張り詰めるような突っ張りを感じる。痛がる優奈を労わりながら、樹が思い切って腰をグッと押すと、抵抗があえなく裂けた。樹の背中に爪を立てて、優奈が痛みに耐える。2人の交わりの途中でも、優奈は何回も後ろを振り返ってはにかむ。その様子が、樹のジェラシーを少し刺激した。窓は全部閉じて施錠されているのに、優奈は体で樹と繋がっていながらも、後ろに応援してくれる意中の男を見ているのだ。樹は少し乱暴めに腰を振ってみた。処女膜の血が潤滑剤のように、2人の性器の擦り合いを助ける。

「・・・ひっ・・可児田君、痛いよう。」

「でも、絵と同じくらい激しくしないと。ほら、優奈ちゃんも合わせて腰を動かして。」

「こ・・・こうかな・・・絵と同じ感じになってるかしら?」

「もっとだね・・・あと、絵の優奈ちゃんは快感で乱れまくってるよね。あれ、絵の僕の上半身が濡れてるのは何だろう? 優奈ちゃんの唾液か。」

 優奈の吐息がはっきりと荒く聞こえてくる。樹に圧しかかるように体を預けて、所構わず舌を這わせ始めた。お嬢様チックな可愛らしい舐め方じゃない。大きく出したベロで樹の腹から肩まで、ベロンベロンと舐め始めた。目は潤んで、飛んでしまっているようだ。処女の優奈が痛みを超えてこれほど乱れることが出来るのは、小峰への愛のためか、絵の通りになるという暗示のためか、いずれにしてもこれが催眠術の力だ。樹は生徒会書記の変貌ぶりに改めてその力を思い知らされていた。

 2人で腰を打ち合わせると、パンパンと軽快な破裂音がする。うまくタイミングが合わさると、良い音もするし交わっている性器もビンビンと快感を得る。共同作業から愛が生まれてくるような気がした。

「優奈ちゃん。頑張って締め付けてね。」

「はいっ。」

「も、もうすぐイキそうっ。ちょっと早くするよ。」

「は、はいっ。」

 緩みそうになる筋を締めて、樹は腰の動きを早く、小刻みにする。優奈も懸命にその動きに合わせた。樹の首筋からこめかみまで丁寧に舐め上げながら、股間の締め付けは緩めないようにする。2人の、腰を前後させるスピードが限界までいくと、樹は俯き気味に快感に耐えていた頭を一気に上にあげて、体を弓なりにして優奈の中に放出した。

「うぉおおおっ。うおっ、うっ。」

「はぁ、はぁああああああんっ・・・・くっ・・・・、ぁあんっ」

 同時にイッタらしい優奈も、首をガクンガクン振りながら、快感に咽び泣く。生徒会室からどれだけ外まで声が漏れているのか、少し樹が心配になるほどだった。

「はぁ・・・・、はぁ・・・・、小峰君・・・。可児田君・・・。ん・・・・。」

 優奈はエクスタシー後の茫然自失のような表情のまま、まだ舐め残していた樹のオデコや肩の後ろの部分に懸命に舌を這わせていた。樹の童貞、優奈の処女は、こうして失われた。2人の初体験は、樹が棒人間を描いて説明の言葉や記号を書き散らした、絵の通りの姿で実現したのだった。


 。。。


「可児田君、今日は・・・その・・・色々あったし、もう遅い時間になってきたから、そろそろ帰らない? 私の家、門限に厳しくて・・。」

「生徒会のお仕事って言えば、例外も許されるって言ってなかったっけ? 生徒会長以下、メンバーがお父様にも受けが良いからって。」

(うっ・・・その通りなんだけど・・・、こんな話、可児田君にしたかなぁ? ・・・足も腰も、辛いよ〜)

 スケッチブックにまだ樹が描きとめようとしているのは、バレリーナのように足を後ろに高くつき上げて、白鳥の姫のポーズを取る清橋優奈さんの姿。全裸でアクロバチックなポーズを取る美少女の姿は芸術的にも見えた。しかし樹が主に描きとめているのは、足を突き上げて捩じれた股間から垂れる、処女の血と精液、愛液の混合物だ。優奈の色素の薄い粘膜からアンダーヘアー、太腿と垂れていって、ふくらはぎ、くるぶしまでトロトロと下りてくる。爪先立ちで無理な体勢を維持しながら、プルプルと震えている優奈はそれでも、画家の指定する通り、笑顔でポージングを続けている。

 一通り描いてみたところで、樹は優奈をもとの椅子に座らせる。もともと絵心が全くない樹は、真面目に描いた自分の絵を見ると恥ずかしくなって、スケッチを止めてしまったのだ。

「清橋さん、お疲れ様。らくーにしてね。ほら、ぼくがオデコをつつくと、すぐに深―い催眠状態に戻るよ。ほら、もう何も考えられない。」

 オデコを人差し指で触れられたとたん、ヌードデッサンのモデルさんの視界は急に暗転した。優奈は完全な無意識になって、裸のまま椅子に深く体を預ける。苦しい体勢を続けたり、激しい初体験を終えたりしたことで、さっきよりもあっさりと深い眠りに落ちていくようだった。

「今日は色々あったね。清橋優奈さん。でも貴方が目を覚ますと、今日この生徒会室で起こったことはすべて心の奥深くに沈み込んで、思い出せなくなるんだよ。貴方はなんの異常も感じない。何かあっても気にしない。今日は家に帰って、ぐっすり眠るんだよ。わかりますね。」

「・・・はい。」

「だけど、今日起きたことを貴方の体は、深層意識はしっかり覚えている。貴方が初めてを捧げた相手は、僕、可児田樹です。セックスの後で振り返ると、小峰君はいなくなってしまいました。でも彼と優奈さんとの距離は、確実に近づきましたよ。貴方が僕を喜ばせるほど、僕に尽くすほど、大好きな小峰君との距離は縮まるんです。わかりましたか?」

「はい・・・。」

「今日は帰ったら、少しぬるめのシャワーでよくアソコを流して、ぐっすり眠りましょうね。それじゃあ、脱ぎ散らかしてある服を着たら、0から20まで、数えながら階段を上がっていきましょうか?」


 。。。


「うん・・・・うん・・・・、そうなんだ・・・・・・。うん・・・・・・・・・・・・・。ん? ・・・ごめん、私、今ちょっと可児田君の話、いい加減に聞いてた? ・・・ちょっとだけ、上の空になっちゃったの。」

「い、いいんだよ。ぼ、僕の話は、つ、つまらないから、・・・こ、こ、こんなに長く聞いてもらえただけでも、あ、ありがたいよ。」

 清橋優奈は、いつの間にか生徒会室の外が真っ暗になっていることに気がついて、時間の経過に驚いた。元ひきこもりの問題児、可児田樹の猛烈につまらないオタク話に付き合っていると、いつもこうしてタイムスリップしてしまう。それでも、彼に嫌な顔を見せるわけにはいかない。不登校児の問題解決は、今の生徒会の特命プロジェクト。会長の高倉沙耶以下、生徒会の面子にかけて懸命に取り組んでいる。他のメンバーが掛け持ち部の大会に向けた練習や委員会の業務で忙しい時には、優奈1人でも対応しなければならない。

「そんなこと、気にしないでいいと思うの。お話するだけで、気持ちが軽くなったりもするんだから。ん・・・あれ?」

 立ち上がった優奈が、内膝を若干擦り合わせて動きを止めた。樹の表情が固まる。

(何? ・・・この熱い感じ・・・・。・・・・ま、いっか・・・。)

「清橋さん、大丈夫。」

「ん? 平気。それより、可児田君。ちゃんと明日も学校来てね。私、待ってるから。また、お話して。ね?」

 清橋優奈が机の横を通り過ぎて、可児田の前まで来ると、さらに一歩進めて、可児田の手を取る。両手で可児田の汗ばんだ手を挟み込んだ。

「約束だよ。可児田君。」

 少し恥ずかしそうに手を離すと、優奈は樹の目を覗き込んで微笑む。顔が赤らんでいた。

「じゃあ、私、先に帰るね。門限を破っちゃうと、お母様に怒られちゃう。可児田君、ここの鍵、保安室に帰しておいてもらえるかな? よろしくお願いします。・・・じゃぁ、さようなら。可児田君。」

 丁寧にお辞儀をした後、手を振って、生徒会室を後にする清橋優奈。足取りは若干小刻みで、腰の引けた歩き方だった。それでも精一杯、平然とした顔で下校していく。

 可児田は優奈に両手で包み込まれた右手を、いつまでも眺めていた。育ちの良いお嬢様の、可憐な香りが移ったような右手。今日話をするまでは、こんな距離まで彼女から近づいてきたことはなかった。深層心理で、自分を初めてを捧げた相手と認めているから、無意識にこんな距離まで近づいてきてしまうのだろうか。・・・それとも、これも、樹に近づくほど、小峰駿斗と両想いになれると信じての行動だろうか? そう考えると、胸の奥がチクリといたんだ。

「・・・へっ。好きな男に近づくために、俺に密着してくるなんて、可愛い顔して、清橋優奈も、なかなかのビッチだな。・・・どうせなら、もっと堕としてやる。・・・・でもまずは、他のメンバーかな。」

 胸の痛みを誤魔化すかのように、可児田樹は精一杯毒づいてみせた。

 
 


 

 

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