自衛官の妻


 

 



1.理想的な妻


「タカ君、お帰りー」

 ただいま、と玄関をくぐるなりエプロン姿の妻千恵利が急いでやって来て俺を迎えてくれた。そしていつものようにハグしてキス。

「ママったら、もうー」

 娘の奈々も帰宅して間もないらしく、制服姿のまま口を尖らせて言う。幼い頃から慣れているとは言え、いい歳をして玄関先で抱き合う両親に呆れたような口ぶりだが、俺だって恥ずかしいのだ。だがもちろん千恵利はそんな事ではひるまない。

「あら、奈々ちゃんったら妬かないのよ。何だったら、あなたもパパとキスしてみる? いいのよ、昔みたいに……」

 千恵利がとんでもない事をけしかけると、奈々は色白でお人形さんみたいな顔を恥ずかしそうに染め、無言でプイッと自分の部屋がある2階へ上がった。

「ねえ、タカ君! どうして奈々ちゃんの事じっと見てるの?」
「いや、別にそんな事は」
「ダメだよお」

 ううむ、いかん。最近千恵利に似てめっきり女っぽくなって来た奈々の制服の後ろ姿につい見とれてしまっていた。奈々は血管が浮き出るくらいの色白で、子供っぽい三つ編みお下げのヘアスタイルだが、美少女と言って良い顔立ちだ。こんなかわいい愛娘に目を細めてしまうのも当然だと思うが、千恵利は俺の事は何でもお見通しだった。そう、俺は正しく好みの容姿に成長して来た奈々に、男として舐めるがごとき好色な視線を送ってしまっていたのだ。 何しろ奈々は高校のバレー部でエースアタッカーをやってるくらいで、スラリとした長身。スカートの下に伸びるシミ一つな真っ白な美脚だけでも悩殺ものなのに、中学までは痩せぎすだった身体が成長して、いつの間にか女性的な曲線美に変貌して来たのだ。白状すれば彼女の試合の応援に行った時も、ブルマみたいなユニフォームにひどく欲情してしまい、股間がカチカチになって戻らなかったけしからぬ父親である。わが娘を性的対象として見てしまう俺にも呆れたものだが、ツルペタだった奈々は今や胸もお尻も年相応に膨らんで来たようだ。

 だがそれは奈々が母親の千恵利ソックリに成長して来たと言う事実に他ならない。正直言って、色黒胴長短足の俺に似ないで良かったと思う。さて未だ俺に抱き着いたまま、奈々が2階へ上がった事を見届けた千恵利は、とんでもない行為を仕掛けて来た。俺の股間をズボンの上からまさぐったのだ。

「やっぱり、タカ君ったらおっきしてるう」
「やめろよ」
「コラ! 相変わらずロリコンなんだから」
「いや、それは違うよ」
「白状しなさい! 奈々ちゃんのアシ見て変な気持ちになったんでしょ」
「本当だよ。奈々がかわいいなと思って見てたのは確かだけど、それでこんなになっちゃったわけじゃない」

 ブルマならヤバかったわけだが、真面目っ娘の奈々はスカート丈も長いし、さすがの俺も制服姿で欲情したりはしない。

「じゃあ、どうしてこんなにおっきしちゃったのかな」
「千恵利が素敵だからに決まってるじゃないか」
「またまた」
「やっぱり仕事を始めたのが良かったのかな。とても綺麗だよ」
「ホント? 嬉しいな」

 口下手な俺がお世辞を言ってもすぐバレる。千恵利は再び俺の股間をギュッと掴むと、悪戯っぽく微笑んだ。

「ねえ、今晩エッチしない?」
「ああ……」

――千恵利、お前どうしてそんなに積極的なんだ?

 俺は全く本心のまま話していた。わが妻千恵利は俺にはもったいない程魅力的な女性だ。40台に入った今でも高校生の娘がいるとは思えない程若々しいし、こんな美女に抱き着かれてキスされたら奮い立たないわけがない。おまけにカフェで働き始めてからバッチリ化粧しているせいもあるんだろうけど、ますます若返って肌のツヤやら張りが蘇ったような気がする。人妻のフェロモンとでも言うのだろうか、千恵利の身体から匂い立つような色香が溢れており、自分の妻なのにクラクラして股間を逞しくしてしまったわけだ。

 だがいつになく積極的に夜のお誘いを掛けて来た千恵利に、俺は生返事を返してしまう。若い頃ならいざ知らず、俺の股間をまさぐって自分からセックスを求める千恵利なんて、もう何年も記憶にない。そもそも奈々が大きくなった頃から、俺達の夜の生活はあまりない。せいぜい月に一度肌を合わせれば良いくらいだろうか。もちろん俺が千恵利に性的魅力を感じなくなったわけでは断じてない。帰国子女でさらに学生時代留学して海外での生活経験が豊富な彼女は、毎日俺が帰宅すると玄関先でハグしてキスをしてくれる。奈々の帰りが遅い時など、このまま押し倒してしまおうか、という衝動に駆られる事もしばしばだ。奈々にからかわれる、中年の日本人夫婦としてはやや大胆過ぎる愛情表現は、そのまま俺と千恵利の夫婦仲を示していると思う。だから彼女の求愛にためらう理由などこれっぽっちもない筈なのに、俺の気分は晴れなかった。それもこれも、全てはあの男のせいだ。


2.忘れていた男


 「あの男」佐々木から突然忌まわしい電話が掛かって来たのは一月程前だ。佐々木は以前俺や千恵利と同期で自衛隊に入隊した男だが、俺とは恋敵に当たるのだ。当時数人しかいない同期の女性自衛官の中で、いや周囲を見回しても匹敵する相手がいないくらい、千恵利は抜群の容姿を持つ女性だった。アイドルみたいな整って華やかなマスクと言い、女性としては高身長でスーパーモデル級のスタイルと言い、どうしてこんな女性が自衛官なのか誰もが目を疑ったと思う。おまけに英語はペラペラだし、何をやらせても有能な彼女はすぐに皆の憧れの的となり、同期の男連中は何とかして彼女とお近付きになろうと躍起になった。そしてその中でも、最も積極的にアプローチしていたと思われるのが佐々木だったのだ。

 佐々木は別の意味でやはり自衛官らしからぬ男で、ひょろっとした長身のイケ面で優男だった。そんな外見だがやはり優秀な男で、とりわけ語学と生化学系の知識に長けた頭脳派だった。こうしてやはりすぐに頭角を現した佐々木と千恵利は、客観的に見ればお似合いのカップルであり、佐々木が公然とアプローチしていた事もあって、他の男達の中には半ば諦めムードが漂っていた。

 ところが彼女の魅力にやられていた一人である俺が、それまでの生涯で最大の勇気を出し駄目もとで告白してみたら、アッサリ交際を承諾してくれたのだから驚きだった。何しろ俺は真面目なだけが取り柄の至極平凡な人間だ。170センチを超えている千恵利より背は低いしやや肥満体で、顔だってどちらかと言えば醜男の類だと思う。さらに生来の口下手も災いして、それまで彼女いない歴イコール年齢、と言うのを更新中だったのに、女心はわからないものだ。千恵利によれば、そんな俺の平凡さこそが好ましかったらしい。目を見張る美女で、恐らく幼い頃からステータスの高い男達にチヤホヤされて来たであろう千恵利は、なるべく平凡な男性と結婚しようと決めていたと言うのだから驚きだ。俺にとっては宝くじに当たったようなものかも知れない。「タカ君なら絶対浮気しそうにないでしょ」と冗談半分に千恵利は言うが、こんな素晴らしい女性をヨメに貰って浮気なんかするわけがない。さらに千恵利はまだペーペーだった俺と結婚し子供が出来ると、仕事の方でも将来有望だったのに職を辞して家庭に入ってくれた。彼女は華やかな外見の印象とは異なり、平凡な家庭の主婦になるのが夢だったそうだ。そして千恵利は意外なくらい家庭的な面を持っており、家事全般何でもテキパキとこなした。正に良妻賢母の鑑みたいな女性だったのである。

 こうして思ってもみなかった美形で何もかも理想的な妻を娶り、かわいい娘も生まれて幸福の絶頂を味わった俺は、脇目もふらず仕事に没頭し、休日は家族サービスに励んだ。何しろ家に帰れば映画女優みたいな美女が、海外ドラマのように熱烈な愛情表現で迎えてくれるのだ。これで奮い立たなければ男ではなかろう。十年くらいは転勤族だったが、順調に昇進して米軍基地に近い今の勤務地に落ち着く事となり、念願のマイホームを購入。正しく一点の曇りもない順風満帆な人生航路だったのだ。ところがそこへ突如現れた佐々木は、静かな海面に一石を投じ、その波紋はゆっくりと広がってしまってやがては取り返しの着かない事態に直面する運命だった。

「家を買ったそうじゃないか。随分羽振りがいいんだな」

 佐々木の話はそんな言葉で始まった。俺は初め名前を聞いても誰だったか思い出せず、それにしては馴れ馴れしい話ぶりで正直不愉快だった。記憶をたぐり寄せてようやく昔そんな男が同期にいた事を思い出したのだが、当時も有能だが自信家で押しの強い佐々木が俺は苦手だった。あまり口を利いた覚えもないのに、一体なぜ電話を掛けて来たのだろう。この男との接点は俺の妻の座に納まった千恵利だけだ。そう言えば、と佐々木が千恵利を狙っていた事まで思い出した俺は一抹の不安を覚えたが、それは佐々木の話が続くに連れてどんどん増大した。

「俺は自衛隊を辞めて、米軍を相手に民間で働いている」
「そうですか」
「フラれちゃったからな。ところでチェリーちゃんは元気かい?」

――チェリーちゃんだって? どこまで馴れ馴れしい奴なんだ

 それは「千恵利」をもじったニックネームで、男性隊員は彼女の事をそう呼んでいた気がする。もっとも俺は彼女に向かってそう呼んだ事は、当時も今も一度としてない。特に親しくもなくずっと音信不通だった昔の同僚に過ぎないくせに、人の妻をニックネームで呼ぶ佐々木の無礼さに腹が立った俺は、しばらく無言で応じた。佐々木が自衛隊を辞めた、と言うのも初耳だったが、俺には無関係ではないか。だが佐々木の話が続くと、とても無関心ではいられない事態が降りかかって来たのだった。

「実は俺、今はこの近くで働いている。もう一度チェリーちゃんに会いたくってな。おい、電話を切るんじゃねえぞ。お前、この前チェリーちゃんが事故った事、知ってるだろ?」
「……どうしてそんな事を……」
「知ってるかって? 言っただろ、米軍を相手に働いてるって。俺はここの基地の駐留米軍さんとも、結構通じてんだよな。お前、チェリーちゃんが誰の車とぶつかってどう事故処理したのか、知ってるか?」

 佐々木に見透かされたように、余りの不躾さに電話を切ろうと思った俺は、千恵利の交通事故の話を持ち出されてとても無視出来なくなった。事故と言ってもホンの軽い接触事故で互いの車体に傷が付いた程度。相手は基地のアメリカ兵だが、千恵利は英語が堪能だ。すぐに話し合って保険会社に入ってもらい、事故処理は済ませた、と聞いていたのだが。

「チェリーちゃんがぶつけたのは、何と米軍の司令官様だぞ。知ってたか?」
「いや、知らなかった」
「別にチェリーちゃんが悪いわけじゃない。事故処理も問題なく終わった。ところが、困った事にこの司令官無類の女好きで、チェリーちゃんに一目惚れしちまったらしいんだ」
 
 俺の中の不安がますます膨らんで来た。佐々木はそんな要人と親しい仲なのだろうか? 

「で、本題に入るが、チェリーちゃんを俺がやってるカフェで働かせて貰いたい。基地の敷地内にある米兵ご用達の店のウェイトレスとして。いきなりで面食らうだろうが、それが司令官の要請なんだ」
「それは勝手過ぎるだろう」
「悪いが調べさせて貰ったぜ。お前家を買ったばかりだし、娘の学費だってこれから掛かるだろう。なのにチェリーちゃんは専業主婦だそうじゃないか。俺の店で働いてくれりゃ報酬は弾むぜ」
「断らせて貰うよ。どうせそれ、まともな店じゃないんだろう」
 
 昔千恵利に袖にされた佐々木と、事故を起こして目にした千恵利に横恋慕したと言う米軍司令官。いくら鈍い俺でも、これが千恵利を狙ったヤバい話である事はピンと来た。そして俺の悪い予感は珍しく当たっていたのだが、その店が扇情的な服装で男を楽しませるメイド喫茶なのではないか、と言う予想は全く甘かった。そして俺のその甘さが取り返しの付かない事態を引き起こす事になる。佐々木はこの時、一旦は引き下がった。

「まあ、お前さんが考えてるであろう事はわかってる。チェリーちゃんを働かせたくないのも、それを心配してるんだろう? だけど、もう一度良く考えてみてくれ。俺もいろいろ……まあ、いい。又連絡するからな」

 佐々木が言い淀んだ言葉が気になっていたが、米軍の司令官と親しいらしいこの男、元自衛官と言うキャリアを悪用し米軍相手の、決して表には出せない、いかがわしい商売で暴利を貪る悪漢だったのである。やはり裏工作していたらしく、俺は何と上司に呼び出されて信じられない命令を下された。それは米軍基地内にあるカフェで千恵利を働かせろ、と言うあり得ない内容。英語が達者な日本人女性を急募しているから、と言うのだが、俺が難色を示すと、話を聞くだけでも良いから千恵利をそのカフェに面接に行かせろ、の一点張り。条件などを聞いて、嫌なら断れば良い、と言うのだ。俺がさらに渋ると、この上司も上から圧力が掛かっていたのか、千恵利に直接連絡を取り強引に話を進めてしまった。そしてこのキナ臭い裏事情を知らない千恵利は、とうとう問題のカフェに行ってしまう。どうして俺にも相談しなかったのか、と千恵利を責めても後の祭りだった。

 それどころか、面接を受けた千恵利は上機嫌で帰って来て大いに乗り気だった。平日に毎日5時までウェイトレスとして働くだけだが、英語で米兵の相手をするため、給料が破格なのだと言う。変な制服なんじゃないか、と聞いてみても、私みたいなおばあちゃんにメイド服着せてもしょうがないでしょ、と笑って否定された。結局俺も反対する理由が見出せず、出産してから初めて千恵利が仕事に出る事を承諾するよりなかったのだが、実はもうこの時点で手遅れだった事に後から気付く事になる。千恵利が受けた面接自体が、悪魔の面接だったのである。


3.千恵利の変化


 仕事を始めてからも千恵利は外で働く事が嬉しいらしく、毎日が充実している様子だった。家に帰って来るのも規則正しい時刻で、それから家事をこなしても有能な彼女にはさほど問題がなかった。共働きになったからと言って俺が家事を分担させられる事もなく、あの心配は杞憂だったのかと思われる一月が過ぎた。俺の稼ぎとあまり遜色のない給料もすぐに振り込まれ、千恵利の変化はむしろ好ましい方向に現れた。専業主婦時代より明らかに若々しくより魅力的になると言う変化だ。そしてそんな彼女に積極性を発揮されて、久しぶりに夜の生活を迎える事になったのだが、この時初めて俺は旨過ぎる話に猜疑心を抱かざるを得なくなった。

「エヘ、久しぶりだね、タカ君とのエッチ」
「そうだね」
 
 その日の夜、風呂から上がってすぐに寝室に入ると、既に待ち構えていた千恵利に押し倒され唇を奪われた。そしてすぐさま互いに服を脱ぎ捨て、さあ、と言う所で千恵利が意外な事を言った。

「ねえ、立ってくれない」
「どうして?」
「千恵利にご奉仕させて」

 すると床に立った俺の前でひざまづいた千恵利は、まだ半勃ちで柔らかいペニスに燃えるような視線を送りつつ、何と両手を胸と正座の股間にやって自分を慰め始めた。もちろんこんな振る舞いを彼女が見せるのは初めてであり、妻の痴態に興奮すると言うより驚いてしまった俺に千恵利は言う。

「千恵利、今日はとってもエッチな気分なの。ね、ねえ、タカ君、乱暴にしてくれない? 紙の毛引っ張って、無理矢理、とか」

 ううむ。これはいわゆる「イラマチオ」と言うプレイではないか。何を隠そう俺はアダルトビデオの鑑賞が好きで、それもSM・陵辱的な内容が趣味である事は、千恵利も知っている。だが、そんなAVみたいなプレイを彼女に要求した事など一度もなかったのに。

 ますます猜疑心が芽生えて来た俺だが、乳首を転がしながら巨乳を揉みしだき、女性器にも卑猥な指使いで息を弾ませる千恵利を見ていると、しだいにムラムラと欲情が込み上げて来た。そして見る見る硬度を増し膨らんで来た肉棒を千恵利が口に含んで来ると、彼女の要求に応えて後頭部のポニーテールを掴んで揺さぶる。自慰行為に耽っている淫らな女に無理矢理口唇奉仕を強要している筈のプレイだが、まもなく俺の方が情けない声を出してしまった。

「ち、千恵利! もうやめてくれ、出ちゃうよ」

――いつの間にそんな上手になったんだ? 俺は千恵利にこんな気持ち良いフェラなんてやって貰った覚えはないぞ

 「イラマチオ」自体初めてだったが、いつになく深く咽奥に当たるまで勃起ペニスをくわえ込んだ千恵利が、驚く程巧みな口使いで俺を押し上げて来たのだ。舌を敏感な亀頭の縫い目や裏筋に這わせたかと思うと、チューッと強く吸い上げ、ジュバジュバッと卑猥な水音まで響かせながら高速ディープスロート。これではとても長くは保たない。だが俺の情けない懇願を聞いた千恵利はペニスを吐き出して言った。

「いいんだよ、タカ君、オクチに出しちゃって。そうだ、命令してよ、一緒にイケって」
「……千恵利、一緒にイキなさい」
「うんっ!」

 こうして美しい妻の自慰行為と同時のディープスロートが再開され、長くは保たない俺に合わせて指の動きを一層激しくした千恵利は、俺が劣情のクリームをぶしゃっと口内にしぶかせた瞬間、ウッと背筋を弓なりに反らして昇天したようだった。俺の方は放出してテンションが下がりポニーテールを離してしまったが、千恵利は射精したペニスをなおも離そうとせず、出されたザーメンをゴクリと飲み下した。そしてそのままペロペロングングと精液の残滓を一滴残らず舐め取り始める、やや冷静になった俺はますます増大する疑念を拭えなかった。

――おかしい。千恵利がこんなにエッチな女だったなんて……誰かに仕込まれたのか?

 だがそんな疑念もあって、美しい妻の熱心な「お掃除フェラ」を受けてもイマイチ回復の鈍い夫に、千恵利が仕掛けて来た手管は俺の理性を打ち砕いた。

「千恵利! 駄目だよ、そんな汚い所」
「ダーメ! ほら、気持ちいいでしょ?」

 千恵利は俺の尻穴を指で開いて舌を器用に侵入させ、スルスルと滑らかに舐めながら出入りさせて来たのだ。もちろん男女共そんな排泄器官に性感帯が存在すると言う知識はあったが、初めて経験するアナル舐めはビックリするくらい気持ちが良く、下半身がジーンと痺れて力が入らなくなる気がした。これも千恵利のテクニックが優秀なために違いなく、当分抱いた事もなかった妻なのにどうして突然性戯が上達するのか? どうしても嫌な方に疑惑が膨らんでしまうが、俺の身体の方は初めて経験するアナル責めの心地良さで腰が砕け立っていられなくなった。すると千恵利が俺の身体をベッドの上に誘導する。

「ねえ、今度は舐めっこしよ。千恵利のオシリノアナも舐めてね」

 こうして彼女の方が上になってのシックスナインが始まり、そんな行為自体も彼女のアナルを舐めたのも始めてだったが、千恵利は羞じらいながら素晴らしい反応を見せる。彼女もやはり尻穴は優秀な快楽源だったのだ。こうして愛する妻が初めてのアナルも加えた多所責めの快感に慎みを失ってよがり狂う痴態は俺を否応なく興奮の坩堝に叩き込み、邪念が頭から消えた。大興奮のまま身体を合わせてからも、いろいろと体位を変えて濃密なセックスを楽しみ、安全日だと言う千恵利の中に都合三発も精子を放出した俺は、そのまま泥のような深い眠りに落ちたのだった。


4.悪魔からの連絡


 再び佐々木からの電話が掛かって来たのは、大胆にも翌日の夕食時だった。やつはあえて家族団らんの時間を狙って来たのだろう。全く忌々しい。電話に出たのは奈々だ。

「パパ、佐々木さんからだって」
「もしもし」

 今のは娘か、娘もチェリーちゃんに似てスゲえ別嬪さんらしいじゃねえか、と最早下劣な品性を隠しもしない馴れ馴れしい口調で始まった佐々木の話は、とても千恵利達の前で応答など出来ないと思い、俺は携帯の番号を教えて時間を指定し、明日掛け直してくれと言った。佐々木はそれを予測していたのだろう、アッサリ承諾したのだが、切り際にやつが呟いた衝撃的な言葉で俺は眠れない一夜を過ごす事になってしまった。

「チェリーちゃんとのエッチは良かったかい? 明日感想を聞かせてくれよ。じゃあな」

――何でそんな事をコイツが知ってるんだ?

 千恵利が佐々木にしゃべったとしか考えられないではないか。だが、電話を切った直後、どちら様? と真顔で尋ねる千恵利の様子に、俺の頭は混乱する。もししゃあしゃあと知らないフリをしてるのならとんでもない性悪女と言う事になるが、とてもそんな風には見えない。いかなる事情があったにしても、千恵利が夫婦の秘め事について他人に口外するわけはないし、佐々木が口から出任せであんな事を言い俺をからかっているのではないかと思った。

 電話で話しただけの俺は佐々木の事をすっかり忘れていたわけだが、千恵利はやつにしつこくアプローチされていたのだ。もし佐々木に再会していればわかる筈だし、むしろやつの方が黙っちゃいないだろう。だがカフェの仕事について尋ね、昔の知り合いに会わなかったか、と聞いても、千恵利からは一言もそんな事を聞かされていない。では奴に何かの弱みでも握られて、俺に隠してるのか? 本当に楽しそうに職場に通い、生き生きと若返ったような千恵利に、そんな暗い影など微塵も感じられないのだが。

 俺はその日も千恵利に、仕事中何か困った事はなかったか、俺に隠してる事はないか、としつこく迫ったのだが、何の収穫もなし。どうしても彼女がとぼけているようには見えないのだ。そして情けないが、俺の方から昔彼女にフラれた佐々木について切り出す勇気もなかった。もし真実がわかったら、千恵利との幸福な生活が壊れてしまうかも知れない。そんな予感が俺を怯えさせ、行動を縛っていたのである。そしてその予感は残念ながら的中していたのだが、この時点で早くも俺は狡猾な佐々木のペースにはまり、身動きの取れない蟻地獄に足を踏み入れてしまっていたようだ。

 翌日佐々木に告げられた話は、予想だにしない意外なものであった。

「チェリーちゃんが教えてくれたんだよ。お前とセックスした内容の一部始終をな」
「嘘を吐くな」
「すぐには信じられねえだろうが、彼女はそんなプライベートな話を俺に話した事はまるで覚えちゃいない。それどころか俺と会った事すら記憶にねえんだからな」
「どういう事だ」
「自白剤ってのを知ってるだろう……」

 自衛隊を除隊していかがわしい商売に手を染めた佐々木は海外の人脈にモノを言わせて裏社会と通じ、一般には流通していない危険な麻薬類も手に入るのだと言う。その一つが外国でスパイの尋問などに使われる事があると言われる自白剤で、俺も耳にした事はあるが、そんな薬物が本当に存在するのか半信半疑であった。

「そんな薬物を使うなんて犯罪じゃないか」
「マジでヤバい自白剤なら麻薬だからそうだな。注射して意識を混濁させ、本人もわかんねえ内に真実を聞き出す、ってやつだ。下手すりゃ命にも関わるらしい。だが、最近じゃもっと手軽な飲み薬タイプの自白剤っつうんがあるんだよ。チェリーちゃんを危険な目に遭わせたりしやしないさ」

 佐々木の話によれば、効果の薄い自白剤でも効果的な尋問方法と組み合わせれば、完璧に本音を聞き出す事が可能なのだと言う。その「効果的な尋問方法」こそ、佐々木の編み出した真に危険な手段だったのだが、この時点では何の事やらサッパリだった。

「日本じゃ流通してないってだけだからな」
「それでも勝手に他人のプライベートを聞き出すなんて犯罪だろう。それに、千恵利の記憶にないって……俺は許さんぞ、そんな酷い仕打ちを彼女にしたんだったら」
「別にいいんだぜ、警察に訴えたって。だけどチェリーちゃんは本当に何も覚えちゃいない。無駄だと思うがな。それに今だって、コソコソしてるのはお前の方じゃねえか」
「それは……知らなかったからだ」
「ハハハ、この一ヶ月お前はカワイイ嫁さんが何をやってたか、とんと気付かなかったんだろ? チェリーちゃんを問い詰めたっていいんだぜ。お前は佐々木に薬を使われて、夫婦の夜の生活についてベラベラしゃべりやがったんだ、このバイタッ、とでもな」
「ああ、言ってやるさ。そして千恵利の記憶を取り戻して、貴様を訴えてやる」
「そうか。じゃチェリーちゃんと別れてもいい覚悟なんだな」
「おい、一体何を言ってるんだ!」
「実はこれまでにあった事は全て録画してある」
「何だって?」
「チェリーちゃんを抱いて、何も気付かなかったか? 俺に教えられた気持ち良くなる方法、いろいろタカ君とのセックスで試してみます、って嬉しそうに言ってたぜ。かわいそうにな、お前AVばっか見ててチェリーちゃんを抱いてやらないそうじゃねえか」
「やめろっ!」
「今晩、チェリーちゃんに教えて貰ったお前のメルアドに、一番いい場面を音声付きで送ってやるから、よく見て考えるんだな。彼女を問い詰めるなり、警察に訴えるなりは、その後にした方がいいと思うぜ。じゃあな」

 佐々木の話しぶりは自信タップリで、嘘を吐いているようには思えない。佐々木の言葉が本当なら、千恵利はやつに抱かれて、しかも俺との性生活について語る程の仲になっていたと言うのか。今日も千恵利は佐々木の待ち受けるカフェへと通っているのである。彼女の事ばかり考えて俺は何一つ仕事も手に付かない状態だった。今すぐ佐々木の店に駆け付けて、千恵利を救い出すべきではないのか。だが、佐々木が言い捨てた脅しに、俺はどうしても勇気が持てないでいた。何も細かい事情を知らないまま、軽率に動くべきではない、と自分を正当化したが、その実俺は最愛の妻を守ってやれない弱虫に過ぎなかったのである。この悪漢に見透かされているようで悔しかったが、結局俺はその夜問題の動画が届くまで怖くて何も出来なかった。

 先に帰宅していた千恵利はいつもと何ら変わりなく、玄関先で熱烈に出迎えてくれたし、彼女の得意な手料理で奈々も一緒に家族三人食卓を囲む、一見平和で幸福な家族団らんの時が過ぎる。だが俺の心の中だけはどす黒い雨雲が広がっているようで、何を食べても味がしなかった。そして「仕事があるから」と言い訳をして、俺は早々に夕食を切り上げ自分専用の書斎にこもる。

 本当は仕事など持ち帰ったわけではないので、ノートパソコンを開き佐々木からのメールを待つ間、俺はエロビを見てしまった。佐々木にからかわれたように、俺はあんな美形の妻を抱きもせず、娘には絶対バレないようにコソコソとAVを鑑賞しながらシコシコとせんずって一発抜くのが常だ。男のクズみたいだが、彼女との性生活が乏しい代わりにこれが日課のようになっており、他に何の趣味も道楽もない俺なので、優しい千恵利は寛大に許してくれているのである。こんな時まで本当にどうしようもないやつだと自分を卑下しながら、始まった動画に目を凝らした俺はホームウェアとしてはいているジャージズボンの中に手を入れた。最近のAV女優はレベルが高く、テレビタレント並の美人であるのは当たり前だ。このビデオはハタチ前後と思われる、まだ幼い感じの美少女がセーラー服だのメイド服だのナース服だのに扮しては複数の男の相手をする、無修正のコスプレ物だったが、千恵利や奈々に一寸似た感じの外見だったので、つい重ねて見てしまう。幼児体型のいわゆるロリ系女優なので、千恵利はもちろんの事、奈々だってこの娘より乳も尻も大きそうだ、などと思っていると余裕がなくなってしまい、俺はビデオの視聴をやめる。するとようやく佐々木からのメールが届いたのだが、添付されていた音声付き動画の内容は、無修正エロビも顔負けの予想以上に酷く悪質なものであった。


5.お仕置きされる千恵利


 一言も聞き漏らさぬよう大音量にしてからイヤホンを耳に当てる。黒いソファーが置いてあるだけの殺風景な白い部屋が写り、失礼しまーす、と入って来たのは、長身の美女。見紛う筈もないわが妻千恵利だったが、いきなりその格好だけで、俺はアッと思った。

――メイド服じゃないか。そんなの聞いてないぞ……

 千恵利はごく普通のカフェで制服などないと言ってたのに、画面に現れた彼女はメイド喫茶のウエィトレスみたいなフリフリのゴスロリメイド服を着ていたのだ。おまけにスカートが異様に短くて、すぐにも下着が見えてしまいそうだ。まるでさっきまで鑑賞していたAVの撮影に使われるような恥ずかしい衣装である。そして千恵利はソファに座ったのだが、一瞬白いものがバッチリと見えてしまい、自分の妻なのにドキッとしてしまった俺は、あろう事か中断したせんずりの続きをやりたいと言う衝動に駆られてしまった。見た事のない破廉恥で扇情的なメイド服を着た千恵利はまるで別人のように淫らで、しかしとても魅力的だ。ハッキリ言って、さっきのガキっぽいAV女優など勝負にならないと思った。

「では始めましょう、奥さん。ハイッッ!!」

 ビデオカメラに向けて白パンツを見せてしまった事に気付いた千恵利が、必死で短か過ぎるスカートを伸ばそうとしていると、そこに現れたラフな格好の男が大きく手を叩いた。背中を見せているが、声の感じから佐々木に違いない。痩身長躯でイケ面風の所も昔の記憶と合致していた。そして佐々木が手を叩くと同時に、千恵利の様子がおかしくなる。スカートを気にして下を向いていた顔をゆっくりと上げると、目が泳ぎ始めて明らかに普通でない表情に変わったのだ。俺が知っている限りでは、それは薬物中毒患者が正気を失った時の危険な顔だ。そしてゆっくりと立ち上がった千恵利は、あり得ない言葉を口にする。

「はい、ご主人様」

 佐々木の前に進み出て立った千恵利は、自分の両手でミニスカートを持ち上げて、妙に小さく股間に喰い込んでいる純白のパンツを晒して見せる、恥辱的なポーズを取った。

――千恵利がこんな事を……バカな!

 それはまだホンの序の口に過ぎなかったのだが、貞淑で慎ましい妻の姿しか知らない俺にとっては十分な衝撃であった。俺の帰宅をハグとキスで出迎えてくれる千恵利だが、海外経験の長い彼女にとってそれはただの挨拶代わりであり、性に関して奔放なわけでは決してない。彼女が男を挑発するがごときエロポーズを取るだなんて絶対に信じられず、目を疑った俺はこう推測した。

――催眠術か。佐々木のやつ、そんな汚い手で……

 佐々木が大きく手を叩くと同時に、千恵利は変身したのだ。自白剤だけならともなく、催眠術だなんてうさん臭いにも程があるが、画面の中の信じ難い状況を説明するにはそう考えるよりなかったのだ。

 千恵利が術に掛かったのを確認したためか、佐々木の口調も変わっていた。

「よしよし、ようやく自分からご挨拶出来るようになったんだね。えらいよ、チェリー」
「ありがとうございます、ご主人様。あ、あの、チェリーのおパンツをお受け取り下さいませ」

 そう言った千恵利は、ヒモ状になって大事な箇所に喰い込んでいた白パンツをずり下ろし、長い足首から抜き取ると、両手で広げて恭しく佐々木に献上していた。愛する妻が操られて憎い男に痴態を晒す画面にしかし、俺は異様に昂ぶるものを感じてしまい、スクリーンを凝視する。そしてどうやらパンツを愛液で汚していたために、千恵利の長い美脚まで濡れて光っているのを認めた時、俺はもう我慢出来なくなってカチカチに固まったペニスを握り締めていた。

「どうしてこんなに濡らしちゃったんだい? チェリー」
「そ、それは……こんな格好が恥ずかしくて」
「チェリーは変態だから、小っちゃくてオマタに喰い込んだパンツをお客さんに見られて、興奮しちゃったんだね」
「……ああ、ご主人様、恥ずかしいですう」
「では今度からサービスタイムになったら、その格好でお店に出るのですよ」
「はい」
「パンツを汚しちゃったチェリーには、もっと恥ずかしいお仕置きしてあげようね。チェリーはお仕置きが、大好きなんだろう?」
「はい。チェリーは、恥ずかしいお仕置きが大好きです」

――うう、何をバカな事を言ってるんだ、千恵利。言葉まで操られてるのか?

 だが佐々木の次の言葉がますます俺を打ちのめす。何とやつは俺がこの動画を見るであろう事を想定して、千恵利との問答を続けたのだ。

「全くチェリーはどうしようもない淫乱だね。夫の孝志さんが知ったらビックリするだろう。それとも孝志さんもお前がこんな変態で嫌らしい女だって、知ってるのかい?」
「いいえ、彼は知らないと思います」
「そうか。でもチェリーは孝志さんを愛してるんだね」
「はい、もちろんです」
「チェリー、さっきクスリは飲んだね」
「はい、ちゃんと飲みました、ご主人様」

 するとここで佐々木はビデオカメラに大接近し、小声で言った。どうやらこの動画を見るであろう、俺だけに聞かせるつもりらしい。

「良かったな増田。チェリーちゃん、お前の事愛してるってよ。クスリは飲んでるから、絶対嘘じゃない筈だぞ」

 俺はもうギンギンに猛り狂うイチモツを握り締めながらその言葉を聞く。いつの間にか、これから最愛の妻千恵利に課せられる「恥ずかしいお仕置き」に期待してしまっている、自衛官にあるまじき品性下劣な俺が、それをオカズにせんずる体勢に入ったのだ。

「ではチェリー、愛する夫に隠れて嫌らしい事してるお前にふさわしいお仕置きだよ。孝志さんに見せてるつもりで、カメラに向かってオナニーするんだ」
「はい、ご主人様」
「さあ、大きくアシを開いて、指でおまんこを広げなさい。はい、くぱあ」

 無修正のAVではお馴染みのその行為も、どんな女優にも負けない美形のわが愛する妻千恵利の性器だと思うと、俺は脳の血管が切れそうな程に興奮して、せわしなく手を動かし始めていた。そして佐々木は、さらにとんでもない要求を千恵利に吹っ掛ける。

「いつも呼んでる言葉で旦那さんに呼び掛けてオナるんだよ。どんな気持ちなのかも、隠さず言いなさい」
「た、タカくう〜ん。見て見て、千恵利のオナニーだよ!」
「旦那が構ってくれねえから、いつも一人でオナってたんだってな」
「そ、そうなのっ! だってタカ君も一人でしてるんだもん。あ〜っ! 気持ちいい〜っっ!!」

 千恵利が張り上げる快楽の絶叫を塞ぐかのように、再びカメラに接近した佐々木は俺に囁いた。

「な、俺が言った通りだろ」

 画面の中で完全にトチ狂ったように性器を弄り回し淫語をわめき散らしている千恵利に合わせるように、俺もスパートを掛けていたので、佐々木が何を言いたいのかすぐにはわからなかった。

「あ〜っっ!! 千恵利、イっちゃうよおっっ!! 見て見て、タカくう〜ん!」
「おっと待った。チェリーの大好きな、お尻の穴にも指を入れるんだよ」
「オ、オシリい〜っ! 凄い! 凄いの、タカくう〜んっっ!!」
「ドバッと潮を吹かなきゃお仕置きは終わらないよ」

 AVでよく見る「潮吹き」はたいてい男優が協力して吹かせているもので、そうでなければただの小便だ。女が自力で潮を吹くなんてよほどの事で、アナルを弄れと言う佐々木のアドバイスが的確だったのだろう。千恵利は尻穴まで性感に恵まれた、感受性の強い女性だったのだ。連れ添って20年近くになろうかと言うのに知らなかった妻の肉体の秘密をこんな形で知らされるなんて屈辱以外の何物でもなかったが、そんな苦渋の思いすら俺を倒錯した興奮に駆り立てる。そしてアナルに指を入れた快感に、半狂乱で取り乱した千恵利が本当にクジラのように自ら快楽の潮を吹き上げた時、俺の股間も記憶にない程の大爆発を起こして書斎の床を汚してしまっていたのである。

 
 


 

 

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