居候のさくらちゃん


 

 



最終話 さくら咲く、その場所で




 さくらがいなくなってから1ヶ月……。
 あれから、時間を見つけては俺と春奈とで人の集まる場所を探したけど、さくらは見つからなかった。



 その日も、学校の帰りに少し遠出してみたけど、さくらの姿はどこにも見当たらない。



 夕方近くに部屋に戻る。
 少し前までは、俺が帰るとさくらが元気よく迎えてくれてた。
 今は、あの明るい声も弾けるような笑顔もない。

 ……だけど。

「ただいま」
「……おかえりなさい」

 ファニスリャワの、沈んだ声が俺を出迎える。

 さくらがいなくなった代わりに、こいつが俺の部屋に居座っていた。
 とはいっても、俺たちの前に現れたときはあんなに威勢が良かったってのに、来る日も来る日も薄暗い部屋の中で蹲ったままだ。
 つうか、灯りも点けないでよくもまあ……。

「おまえさ、いつまでここにいるつもりなんだよ?」
「……だって、ここにいろって……あの子に手を出すなって言ったのはあなたじゃないの」
「ああもう、おまえなぁ……」

 たしかに、あのとき俺は姿を消したさくらを追おうとしたこいつにそう言った。
 だけどその後で、もうさくらのことには関わらないという条件付きで、好きにしていいって言ったのに。
 どのみち、俺たちからさくらの話を聞いてあれだけショックを受けてたこいつが、もうさくらに危害を加えるようなことをするとは思えなかったし。

「言っただろ。もう、おまえの好きなようにしていいって」
「だから、私はここにいるのよ……」

 はぁ、またこれだ……。
 もう、何度も同じことを言ってるのにいつもこの返事ときてる。

「……ねぇ」
「ん?なんだよ?」
「あなた……私になにをしたのよ?」
「なにって、なにが?」
「どうして私、こんなにあなたの側にいたいって思うのよ……?あなたを見てると、顔が熱くなってきて、胸がドキドキしてくる。そんなの変なのに……でも、あなたの言うことは聞かなきゃって思ってしまうの」

 上目遣いに俺を見上げたファニスリャワの表情に、思わずドキッとなる。
 切れ長の目に涙を浮かべ、やや細めのきれいな逆三角形の整った顔立ちは、さすがにハーフだと思う。

「なに言ってんだ、おまえ?」
「だって、こんなの絶対におかしいもの。初めて会った人にこんな気持ちになるなんて……。やっぱり、あなたが私になにかしたんでしょ?」

 俺がすっとぼけると、ファニスリャワは赤茶色のポニーテールを揺らして力なく首を振る。

 しかし、そんなこと言われても、さくらがそういう風にさせたって正直に言うわけにもいかないしな……。

 こいつは、さくらたちシュトリーガの力のことは知ってないみたいだから、自分がなにをされたのかははっきりとはわからないらしい。
 自分がされたことの内容がわかっていないのは、美弥子さんや春奈のときと同じだ。
 ただ、状況があまりに不自然だから自分がなにかおかしなことをされたっていうのは感じるらしい。
 で、それが俺に関わることだから俺を疑ってるんだろうけど。

 さくらがあのとき言ってたのは、自分の初めての相手である俺がこいつにとって大切な人間になって、俺の言うことには逆らえなくなるってことだけど。
 そもそもこいつ、俺とセックスしたことを覚えてんのか?
 あのときこいつは、ずっとさくらの眼の力を受けたままだったわけだし。

 さくらの力のことは俺も全部わかってるわけじゃないし、とりあえず今はとぼけておいた方がいいんだろうと思う。
 あのときさくらは、こいつのことは俺に任せるって言ってたけど、俺だってまだこいつのことをどうしようか決めかねている。





 と、俺が黙りこくっていると……。

「……ごめんなさい」
「へ?」

 ん?
 俺の聞き間違いか?
 今、こいつが謝ったような気がしたけど?

 俺の記憶がたしかなら、この1ヶ月で初めて謝罪の言葉を聞いたと思うんだが?

「あなたの沈んだ顔を見てると、胸の奥が痛くなってくるの。……それは、私のせいだから。でも、本当に知らなかったの。私はお祖母ちゃんから、シュトリーガは危険な吸血鬼で、見つけたら退治しなくちゃいけないって聞かされてたから、彼女もそうだって思い込んでた。あの子が、そんなに人間のことを気遣ってたなんて、なにも知らなかったの……」
「知らなかったら赦されると思ってるの?」
「……春奈?」

 いつの間に来ていたのか、部屋の入り口に春奈が立っていた。

「さくらお姉ちゃんがどんなに優しいか知りもしないであんなに苦しめて、慎介お兄ちゃんも悲しませて、知らなかったで赦されると本当に思ってるの?あなた、あのとき自分がしたこと覚えてる?あのときのあなた、傍か見てたらどう見ても悪者にしか見えなかったわよ」
「うう……」

 極力感情を抑えた、低い声。
 それだけに、春奈の怒りが伝わってくる。

 それにはなにも言い返せずに、ファニスリャワはただ俯いているだけだ

 そうだ……本当は俺もこいつに言いたいことは山ほどあったんだけど、全部春奈が言っちまった。
 それも、下手に嫌みなんか言わずに、ひたすら真っ直ぐはっきりと口にするから、言われる方はかなり堪えただろう。
 春奈のそういうところは好感が持てるし、改めてつくづくいい子だと思う。
 しかし、だからこそ、そのせいで俺はどうしても宥め役に回らざるを得ない。

 ファニスリャワも反省してるみたいだし、こんなに悄気返っているのを見るとそれ以上責めるのも酷だと思うし。

「まあ、春奈、それくらいにしといてやれよ」
「でも……」

 俺が宥めると、項垂れたままのファニスリャワを見下ろしながらまだ何か言いたそうにしている。

「で、どうしたんだ?」
「うん。お母さんが、晩ご飯の準備ができたから慎介お兄ちゃんを呼んできてって」
「ああ、そっか」

 このところ、暇さえあればさくらを探しに出かけているから、晩ご飯はずっと美弥子さんのところで食べさせて貰っていた。
 で、ファニスリャワはどこかで食べてくるのか、この時間になるとひとりでどっか行ってしまう。
 まあ、春奈があの調子じゃとても一緒に飯なんか食えないだろうけど。

 だけどその日は、上がり込んできた春奈がファニスリャワの正面に立った。

「お母さんが、あなたも呼んできなさいって」
「……え?」

 驚いたように顔を上げたファニスリャワを、春奈が真っ直ぐに見つめる。

「あなた、あれからずっと、私や慎介お兄ちゃんが留守の間にお母さんの手伝いをしてるんでしょ?」
「え?……そうなのか、おまえ?」

 春奈の言葉に、今度は俺が驚く番だった。

 もしかしたら、こいつなりの贖罪のつもりなんだろうか?
 だけど、ファニスリャワは黙ったまま、うんとも違うとも言わない。

「言っとくけど、私はあなたを赦したわけじゃないんだからね。あなたがいくらさくらお姉ちゃんの代わりをしようとしても、そもそもさくらお姉ちゃんが出て行っちゃったのはあなたのせいなんだから。さくらお姉ちゃんが戻ってくるまで、私はあなたを赦さないから」
「……うん」

 春奈の言葉に、ファニスリャワは力なく頷くしかできないみたいだった。






* * *







 しかし、春奈の怒りは相変わらず解けた様子はないものの、一緒に晩飯を食べたその日から、少しずつ変化が起き始めた。

 まず、それは次の週末のこと。

「……ねえ、私にも……なにか手伝えることはない?」
「へ?」
「……あなた?」

 その日、俺と春奈が朝からさくら探しに出かけようとしていたら、ファニスリャワが躊躇いがちにそう言い出した。

「……おまえ?」
「本気で言ってるの?」
「ええ。……あの子がいなくなったのは私のせいだから、せめて私もなにか手伝いたいの」

 そう言ったファニスリャワの表情には、真剣さを通り越してどこか思い詰めたものがあった。
 たぶん、こいつなりに考えて出した結論なんだろう。
 俺たちに断られるのが怖いのか、どこか張り詰めた、脆そうな雰囲気を漂わせている。

 まあ、俺としては、その時点で申し出を受けいれるつもりではあった。
 特になにをするわけでもなかったけど、こうやって一緒に過ごしてみて、最初に思っていたほど悪いやつじゃないってわかってたし。

「ああ、俺はOKだけど、春奈は?」
「うん……慎介お兄ちゃんがいいんだったら、あたしもそれでいいよ……」

 思ったよりもあっさりと春奈の許可が下りた。
 というか、さくらが戻ってくるまで赦さないって口では言ってるけど、ファニスリャワが十分反省してるってことは春奈もわかってるに違いない。

「よし、決まりだな。じゃ、手伝ってもらうとするか」
「ありがとう……」

 ホッとした顔を浮かべて、素直に頭を下げるファニスリャワ。
 と、その姿を見ていて思い出した。

「そういえば!ファニスリャワのペンダント!……春奈!あれ、どこにやった?」
「えっ?……私の机に置いてあるけど」
「そうか!ちょっと持ってきてくれ!」
「うん、わかった!」

 春奈が急いで自分の家に戻っていく。



 そして、数分後。



「たしか、このペンダントってシュトリーガが近づくと光るんだったよな!?」

 久しぶりに目にしたあのペンダントを、ファニスリャワに渡す。

「ええ……そうだけど」
「じゃあ、これを使ってさくらを探すことはできないのか?」
「難しいと思うわよ。たしかにあの子が近づいたときにこのペンダントが輝いたけど、これが感知する範囲って、せいぜい半径10mくらいなのよね。だから、よっぽど近づかないと無理よ」
「は、半径10mくらい……?」

 ……て、10歩くらいの距離にさくらがいないとわからないってことか?
 それは、たしかに思ったより使えないな。
 無いよりはましだけど。

 あ、でもっ!

「おまえたしか、これ使ってさくらを見つけたんだよな?」
「ええ……。偶然この家の前を通ったときにペンダントが光って……あのときは、まだこれが本物かどうかわかってなかったから驚いたわ」
「偶然って…………たまたま?」
「そうよ」
「ええっと……さくらがいるのがわかってたわけじゃないのか?吸血鬼を探知する魔法みたいなのを使ったとか……?」
「あたりまえじゃないの。私はお祖母ちゃんからもらった道具を持ってただけで、別にクルスニックの修行をしたわけじゃないし。それはたしかに、小さい頃にお祖母ちゃんからおまじないをいくつか教えてもらったことがあるけど、あれ、スロベニア語じゃなかったし、覚えられなかったのよ」

 使えねぇ!
 大口叩いて登場したわりにこいつ本当に使えねぇ!

 ……いや、まあそんなこったろうとは思ってたけどよ。

「しかたないな。じゃあ、これまでどおり人の集まりそうなところを地道に探していくとするか。あ、もちろんそのペンダントは持ってこいよ」
「わかったわ」
「じゃあ、行くとするか」

 そういうわけで、その日からファニスリャワもさくら探しに加わったのだった。






* * *







 しかし、それでもさくらが見つからないまま、さらに3週間が過ぎたある日。

「ちょっと!これを見てよ!」
「……って、なんだなんだ?」
「なによ?どうしたっていうの?」

 このところ、家にいるときはずっとパソコンの前に齧り付いていたファニスリャワが大声で俺たちを呼んだ。

「前に私、日本にシュトリーガがいるかもしれないって思ったのは、ネットの掲示板でそういう書き込みを見たからって言ったわよね」
「……へ?ああ、そういえばそんなこと言ってたような……」
「私、もしかしたらって思って、その手のスレッドのこの2ヶ月以内のログを手当たり次第に調べてみたのよ。そうしたら、これっ!」

 そう言ってファニスリャワが画面を指さす。

 そこには……。




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 46 :名無し:11/4 01:08:16.38 ID:××××××××
    昨日アキバで逆ナンされてさ。それがツインテールでロリ系のすっげえかわいい子だったんだけど、やってるときにものすごく長くて鋭い牙が見えてさ、あの子、もしかしたら吸血鬼じゃないかと思うんだよな。
 47 :名無し:11/4 01:16:22.80 ID:〇〇〇〇〇〇〇〇
    なんだ、変なやつが出てきたな?モテ男自慢か?
 48 :名無し:11/4 01:22:32.24 ID:△△△△△△△△
    >>46
    吸血鬼って、おまえ血吸われたのかよ?
 49 :名無し:11/4 01:26:08.94 ID:◇◇◇◇◇◇◇◇
    つうか、血吸われてたらこいつも今頃吸血鬼だろがwwwwwww
 50 :名無し:11/4 01:36:21.06 ID:××××××××
    いや、血は吸われてない。でも、その後の記憶がないんだよ。気を失ってたみたいでさ、目が覚めたらもうその子の姿はなかったんだ。
 51 :名無し:11/4 01:42:14.73 ID:△△△△△△△△
    なんだよ、吸われてねーのかよ。
 52 :名無し:11/4 01:50:53.60 ID:×××〇〇〇△△
    夢でも見たんじゃねーか?そもそも、吸血鬼なんかいねえっつうの。
 53 :名無し:11/4 01:54:27.34 ID:〇〇△△□□□□
    だな。
 54 :名無し:11/4 02:02.08.55 ID:□□□□◇◇◇◇
    いや、俺も一週間前にアキバで逆ナンされたんだって!茶髪のツインテールで、真っ赤なでかいリボンつけたロリロリの子。で、俺もその子とやって意識がなくなった!気がついたらもうそいつの姿はなくってさ。何とか家に帰ったけど、それから2日寝込んだんだよ!
 55 :名無し:11/4 02:10:52.16 ID:◇◇◇◇××××
    マジかよ!?
 56 :名無し:11/4 02:14:56.71 ID:〇〇〇〇〇〇〇〇
    おいおい、また変なのが出てきたぞ。
 57 :名無し:11/4 02:20:11.61 ID:××××××××
    >>54
    それそれ!たぶん同じ子だって!ロリっぽくて無茶苦茶かわいいんだけど、あの子絶対にヤバいよな?
 58 :名無し:11/4 02:32:26.44 ID:△△△△△△△△
    だからおまえら、血を吸われたのか?
 59 :名無し:11/4 02:41.30.55 ID:□□□□◇◇◇◇
    いや、血は吸われてない。だけど、あの子はなんかヤバいと俺も思う。
 60 :名無し:11/4 02:51:33.05 ID:×××〇〇〇△△
    じゃ、結局吸血鬼じゃないんじゃねーかよ。
 61 :名無し:11/4 02:55:18.10 ID:××××××××
    でも、絶対あの子ヤバいやつだって!あれから俺も、もう一度あいつに会ったときのために十字架持ち歩いてるんだぜ。
 62 :名無し:11/4 02:59.21.34 ID:□□□□◇◇◇◇
    そうだよな。ヴァンパイアハンターとかに相談した方がいいよな!?
 63 :名無し:11/4 03:04:17.42 ID:×××〇〇〇△△
    >>61
    >>62
    おいおい、おまえら正気か?そもそもどこにいるんだよヴァンパイアハンターって?
 64 :名無し:11/4 03:08:53.60 ID:〇〇△△□□××
    つうか
    >>54
    >>57
    どうでもいいけどおまえら淫行条例違反で捕まってしまえ。
 65 :名無し:11/4 03:12:17.42 ID:〇〇△△□□□□
    >>64
    クソワロタwwwwwwww
 66 :名無し:11/4 03:15.08.55 ID:□□××◇◇◇◇
    でも、最近アキバの路地裏でロリっぽい子が逆ナンしてるって噂、俺も聞いたことあるぜ。
 67 :名無し:11/4 03:20.17.69 ID:××◇◇◇△△△
    あ、俺もその噂聞いた。
 68 :名無し:11/4 03:24:25.11 ID:◇◇◇◇××××
    ホントか!?今度行ってみようかな?そんなかわいい子とやれるんなら吸血鬼でもいいからよ。
 69 :名無し:11/4 03:30:41.82 ID:〇〇△△□□××
    俺は吸血鬼じゃなくていいからやってみたい。
 70 :名無し:11/4 03:34:17.42 ID:〇〇△△□□□□
    >>69
    それってただの逆ナンじゃねーかwwwwwww


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「……たしかに、これは間違いなくさくらだな」

 掲示板の過去ログの、ファニスリャワが指さした箇所を読んで俺はそう確信した。

「それなりに賑わってるようだけど……て、おい!だいぶ噂になってるじゃねーか!」
「当然じゃないの。情報化の進んだ現代社会では、シュトリーガが活動してると噂にならない方がおかしいわ」
「なに利いた風なこと言ってんだよ!こいつら、ヴァンパイアハンター呼ぶとか言ってるぞ!?」
「それならきっと大丈夫よ。シュトリーガには十字架は効かないもの。シュトリーガを退治できるのは、私がお祖母ちゃんからもらったあの呪具だけなんだから。あんなもの、そうそう日本で手に入るものじゃないし、そこらへんのヴァンパイアハンターじゃ退治できないわよ」
「とは言ってもよ!さくらがいくら人間じゃないっていっても、大勢の男に囲まれたら逃げられないだろうし、怪我させられたりしたら……」
「そっか、それもそうよね……」
「おまえ、なんかいい方法を知らないのかよ?」
「そんなこと言っても、私はお祖母ちゃんからもらった道具でできる以上のことはできないし、後はこうやってネットで情報を集めるしか……」
「……つうか、ネット掲示板で集めた情報で退魔師もどきのことをやってたのか、おまえは?」
「しかし、そのおかげでこの情報を見つけることができたじゃないの。実際、東京に吸血鬼がいるって書き込みを見て私は東京に来て、実際にシュトリーガがいたんだし」
「でも、俺たちのところに来たのは偶然だって言ってたよな?」
「う……」

 俺のつっこみに、ファニスリャワは傷ついたような表情を浮かべる。
 つうか、今までネットの情報をそのまま鵜呑みにしてたのかよ、おまえは。

 まあでも、たしかにネット掲示板での噂なんてそんなにあてにはできないけど、現実問題として手がかりはこれしかないんだよな。

 と、俺達のやりとりを黙って聞いていた春奈がもどかしそうに口を挟む。

「もうっ、そんなこと言い合ってる場合じゃないでしょ!これ、きっとさくらお姉ちゃんだけど、でも、この書き込みって1ヶ月も前のじゃないの!」
「たしかに……これから後はたいしたことは書いてないわね……」
「つうことは、あまりに噂になりすぎたから場所を変えたってことか?」
「しかし、それなら他で噂になって、どこかの掲示板に書き込みがあってもおかしくないわ。しかし、今のところこれよりも新しい書き込みにはそんな噂は見当たらないわね」
「じゃあ、いったいどういうことなのよ!?」
「俺のところみたいに落ち着ける場所を見つけたのか、それとも、反対にヤバいやつの精気を吸おうとして捕まったとか……」
「そんなっ!さくらお姉ちゃん……」

 俺の言葉に、春奈の顔からさっと血の気が引いていく。

 いかんいかん……。
 無駄に不安を煽るようなことは春奈には禁句だ。

「そんな顔するなよ、春奈。とにかく、明日秋葉原に行ってさくらを探してみよう」
「私は見つかる可能性は低いと思うけど」

 て、俺がせっかく前向きな意見(希望的観測とも言うが)を言ってるのに、どうして水を差すようなことを言うんだ、ファニスリャワ?

「そうだよね……これ、1ヶ月も前の話しだし、さくらお姉ちゃんがまだいるって可能性は低いよね……」
「しかし、他に手がかりはないんだし、やれることはやってみるしかないだろ」
「うん……わかった……」



 心配そうに表情を曇らせている春奈をなんとか宥めて、次の日、3人で秋葉原をくまなく探してみる。



 だけど、そこでもさくらは見つからなかった。
 もちろんファニスリャワのペンダントにも、なんの反応もなかった。






* * *







 しかし、それから1週間後……。

「慎介お兄ちゃん慎介お兄ちゃん!大変大変大変だよ!」

 早朝、まだ寝てたら鍵を開けて飛び込んできた春奈にたたき起こされた。

 まあ、美弥子さんが家主だからしかたないっちゃしかたないけど、毎度毎度、俺のプライバシーは無いに等しいな。

「なんだよ、春奈……?」
「早く早く!さくらお姉ちゃんが!」
「なんだって!?」

 春奈の言葉に慌てて飛び起きる。




 そのまま春奈に手を引かれて外に出ると、俺の家の前に行き倒れがいた。




「さくらちゃん!さくらちゃん!……しっかりしてっ、さくらちゃん!」

 美弥子さんの腕に抱きかかえられている、淡い茶色の髪をツインテールにして大きな赤いリボンを結んだ童顔の女の子。

「……さくらっ!」

 急いで駆け寄り、名前を呼ぶ。
 だけど、さくらはぐったりと目を瞑ったまま、なんの反応もない。

「さくらっ!おいっ、さくらっ!」
「さっきから呼びかけてるけど全然目を覚まさないのよ。どうしましょう?救急車を呼んだ方がいいのかしら?」
「いや、さくらは吸血鬼だから人間の医者じゃどうにもならないんじゃないか?つうか、そんなことしたらさくらの正体がばれるかもしれないし」
「じゃあ、妖怪病院は?」

 いや、春奈……妖怪病院って……。

「妖怪病院って、それ、どこにあるの?春奈?」
「うーん……わからないけど……」

 いやいやいやいやっ!
 美弥子さんも真面目に受け取らないでくれって!

 と、とにかく俺たちだけでなんとかしないと……。

「とりあえず、俺の部屋に運ぼう。美弥子さんも手伝ってくれますか?」
「ええ、いいわよ」
「慎介お兄ちゃん、私も手伝うよ!」

 美弥子さんと春奈の手を借りて、3人がかりでさくらを抱え上げると、俺の部屋の中に担ぎ込む。

「さくら!おいっ、さくら!」

 さくらの体を壁に凭れさせて、何度も名前を呼びながら頬を叩いても、なんの反応もない。

 初めてさくらと会ったときもこうやって行き倒れてたけど、あのときはまだ呼びかけたら反応があった。
 今度のは、あのときよりもかなりヤバそうだ。

「ファニスリャワ!おまえ、こいつの治療のしかたとか知らないのかよ!?」
「いや……私が知ってるのはシュトリーガの退治法だけよ」
「って、退治もまともにできてねえだろうが!」
「そっ、それはあなたたちが邪魔をしたからっ!」

 ああもう、わかってたことだけどこいつに聞くだけ無駄だった。

「さくら……」

 もしかして、もう息をしてないんじゃないかという不安が頭をよぎって、さくらの胸に耳を当てる。
 すると、トクン、トクン……と心臓の音が聞こえた。

 ……よかった、まだ生きてる。

 それを聞いて、俺はホッと安堵していた。
 決して力強くはないけれど、規則正しく鳴っている鼓動の音が、微かな希望を持たせてくれるように思えた。

 でも、いったいどうしたらいいんだ?

 そういえば、あのとき……。

 初めてさくらと会ったときのことを思い出してみる。
 あのとき、さくらは腹を空かせて行き倒れになってて……。

「…………そうだ!」
「慎介くん?」
「慎介お兄ちゃん!?」

 俺は、自分から唇をさくらの唇に押し当てる。

 あのときは、目を覚ましたさくらが力を使って俺を金縛りにして、押し倒してからキスしてきたんだけど。
 今回は目を覚ます気配もない。
 だから、これでうまくいくかどうかわからないけど。

「………………ちゅ」
「……っ!?」

 今、さくらの方から吸ってきたよな!?
 すごく弱々しくて、ほとんどわからなかったけど。

「……ちゅ……ちゅむ」

 間違いない!
 さくらの唇が、俺の唇を吸ってる!

「ちゅむ……ちゅ……ちゅ……ちゅう、ちゅっ……」

 少しずつ、さくらが唇に吸いつく力が強くなってくる。

「んふっ……ちゅうっ、ちゅっ、ちゅむっ、ちゅう、んちゅっ……」
「んぐ?ん、んむむぅ……」

 ああ……頭がクラクラしてくる。
 すげえ、キスだけでこんなに吸われるなんて……。

 目を閉じたまま俺の唇に吸いついて、ちゅうちゅうと精気を吸っているさくらはほとんど無意識にそうしているようだった。

「ちゅうっ、んちゅ、ちゅううぅ……ふぅ……ふぁ?……あ、慎介?」

 かなり長い時間、俺の唇を吸っていたさくらの目がゆっくりと開く。
 そして、驚いたように目を丸くして俺の名前を呼んだ。

「あたし……どうして……?」
「俺んちの前で行き倒れてたんだよ!まったく、心配させやがってよ。名前を呼んでも体を揺すっても目を覚まさないから、今回はもうだめかもしれないって……」
「そっか……あたし、ここを出てからあっちこっち行ってたんだけど、どこに行ってもすぐに噂になっちゃって……。それに、最近は警察とか補導員があっちこっちうろうろしてたから迂闊なことできなくて、またご飯を全然食べられなくて。……たぶん、お腹空きすぎてほとんど意識がなくなっちゃって、無意識のうちに戻ってきちゃったんだね……」
「……そんなになってまで、このバカがっ!なんでっ、なんで黙って出て行くなんて真似したんだよ!?」
「だって、あたしがいると慎介に迷惑がかかるし……。それに……それに、やっぱりあたしはシュトリーガだから。あたしは……慎介の命を吸って生きてるみたいなものだから……だから、あたし……」

 まるで、叱られている小さな子供が言い訳するみたいに言葉を詰まらせながら、さくらが弁解する。
 その顔は、今にも泣きそうだった。

「馬鹿野郎……迷惑なんて、そんなの気にすんなよな!たとえ何があっても、俺はおまえがいてくれたらそれでいいんだよ!それなのに……勝手に出て行っておまえがこんなことになって、それで俺が嬉しいと思うのかよ!?」
「慎介……」

 ハッとしたように俺の顔を見つめたさくらが、すぐにシュンと悄気返る。
 と、そんなさくらの頭を、脇から美弥子さんが抱きしめた。

「慎介くんの言う通りよ、さくらちゃん。さくらちゃんが慎介くんのことを心配してるのと同じように、慎介くんも私たちもさくらちゃんのことが心配なのよ。もし、慎介くんの体のことがどうしても心配だったら、私の精気も分けてあげるから。だから、なんの心配もせずにここにいたらいいのよ」
「うん、そうだよ!だったら、私の精気も分けてあげるから!ね、さくらお姉ちゃん?」
「……美弥子さん?……春奈ちゃんも?」

 驚いて、さくらが美弥子さんと春奈の顔を交互に見る。

「あ、みんなにはおまえの正体のことは話したから」
「え?……えええっ!?慎介!?」

 思わず大きな声をあげたさくらに、俺はちょっとむかついていた。

「おまえなぁ、みんなのことをもっと信頼しろよ。みんな、こんなにおまえのことを心配してくれてるのに、どうして自分だけで背負い込もうとするんだよ?」
「だって、あたしは吸血鬼なんだよ……」
「そんなの関係ねぇよ。たとえおまえが吸血鬼でも、さくらはさくらだろ?みんな、そんなさくらと一緒にいたいんだよ」
「そうよ、さくらちゃん。もう……さくらちゃんもそうならそうと、はじめに言ってくれてたらよかったのに」
「そうだよ、家族の間で隠し事なんて、さくらお姉ちゃんったら水くさいじゃないの」
「えと……そ、それはね……へへへ……うん、ありがとう……」

 咎めるようなふたりの言葉に気まずそうな表情を浮かべ、さくらは照れ笑いでごまかそうとする。

 まあ、そら言えるわけないよな、そんなこと。
 そもそも、さくらがあの眼を使わなけりゃこうはなれなかったんだし。
 それはさくら本人もわかってるだろうし。

 でも、さくらのためにはこれで良かったと思う。
 今の状況は、さくらが生きていくためにさくらの力を使って始まった関係だけど。
 それは、やっぱりさくらの力でそう思わせてることに後ろめたさはあるけど、それ以上に美弥子さんと春奈は俺にとっても大切な人になってるし。
 さくらが吸血鬼だってことを明かしたことでふたりが納得してくれたなら、今の関係が続くのは悪くないかもしれない。

 それに、美弥子さんにも春奈にもちゃんとさくらの優しさは伝わってる。
 美弥子さんと春奈がこんなに暖かくさくらを迎えてくれてるのは、さくらの能力のせいじゃない。
 さくら自身の優しさがみんなにそうさせてるんだ。



 と、そんなことを俺が考えていたら……。



「だったら、私も手伝うわよ」
「……へ?」

 それまで黙っていたファニスリャワがそう言ったのには、さすがに俺も目が点になった。

「おまえ、今なんて……?」
「だから、私の精気を分けてあげてもいいって言ったのよ」
「ファニスリャワ……おまえ……」
「あなた……」

 これにはさくらも驚いているみたいだった。
 まあ、自分を退治しに来たやつが精気を分けてやるって言ってきたんだからそりゃ驚くだろう。

 すると、さくらと俺に見つめられて、ファニスリャワは急に顔を真っ赤にしてあたふたし始める。

「かっ、勘違いしないでよね!わっ、私はっ、それで彼が精気を吸い尽くされなくて済むならその方がいいし、そうやって私が側にいたらあんたのことを監視できるからっ……」
「……ありがとう」
「だっ、だからそんなつもりで言ったんじゃないんだってば!」

 ……ホントに素直じゃないよな、こいつ。
 まったく、そんなこと言ってると……。

「もうっ!じれったいわね!さくらお姉ちゃんにお詫びがしたいんだったら正直にそう言えばいいじゃないの!」

 ほら見ろ、春奈が怒るじゃないか。

「わっ、私は別にこの子に詫びたいんじゃなくてっ……ただ、この子が彼の精気ばっかり吸ってると彼の身に危険があるからっ……」

 あー、それもまあ本音なんだろうなぁ……。
 でも、ホント素直じゃないよな。
 さくらにすまないっていう気持ちも絶対あるはずなのに。
 ていうか、俺としてはさくらの方が心配だし。

「なあ、さくら……さっきのじゃ全然足りないだろ?ちゃんと俺の精気吸えよ……」
「えっ?……でっ、でもっ」
「なに恥ずかしそうにしてるんだ、おまえは?」
「だっ、だって……」

 そう言って、さくらは顔を赤くして周りのみんなを気にしてる様子だ。
 ていうか、今さらなにを気にしてんだ?
 今までだって、散々みんなでいやらしいことしてきたじゃないか。

「もちろん、セックスしてるときにおまえが精気を吸ってたんだってのもみんなには話してあるから」
「ちょっと、慎介……!」
「今さら恥ずかしがるなよな」
「やだっ、恥ずかしがってるさくらお姉ちゃん、なんかかわいいー!」
「もうっ、春奈ちゃんったら!」
「でも、慎介くんの言う通りよ。なにも恥ずかしがることないじゃない」
「美弥子さん……」
「ほら、みんなもああ言ってるし」
「でも……」

 と、まだ恥ずかしそうにもじもじしてるさくらの腹が、ぐうぅううう〜と鳴った。

「おい……やっぱり腹減ってんじゃねーか」
「そっ、それはっ……」
「いいのよ、さくらちゃん。今日は私たちの精気をいっぱい食べさせてあげるから」
「うんうん!じゃあ、すぐに始めちゃおうよ!」
「そうね」

 美弥子さんと春奈はすっかりその気になって、その場で服を脱ぎ始める。
 で、それを見てビックリしているやつが約1名。

「ちょっと!なにしてるのよ!?」
「なにって……あなただって、さくらお姉ちゃんはセックスで精気を吸うんだって聞いたでしょ!」
「やっ……だけど、これから?」
「当たり前じゃないの!さくらお姉ちゃんは倒れるくらいお腹が空いてるんだから、ほらほら、あなたも服脱いで」
「で、でもっ……」
「さくらお姉ちゃんに精気を分けてあげてもいいって言ったのはあなたでしょ!」

 と、先に裸になった春奈がファニスリャワの服を脱がせにかかる。

 ていうか、ファニスリャワの方が春奈よりも年上のはずなんだけどな……。
 このメンツの中じゃ完全に春奈の方が立場が上になってるよな。

「うんっ、これでいいわね!さくらお姉ちゃん!慎介お兄ちゃん!準備はいい?」

 春奈と美弥子さん、そして、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしたファニスリャワが裸で俺とさくらを取り囲む。




 そして……。




「ふぁあああっ……慎介っ、いいよっ、慎介ぇえええっ!」

 相変わらずきつくて、でも、熱くて気持ちいいアソコをズンズン突くとさくらはイヤイヤをするみたいに頭を振って喘ぐ。
 すっかり吸精モードに入ってるさくらの牙の先が唇から顔を出していた。

「さくら、腹減ってるんなら俺に眼を使ってさっさと射精させてもいいんだぞ?」
「うっ、うんっ……でもっ、お腹も空いてるけどっ、もう少し慎介とこうしてたいのっ!……あんっ、んふぅうううっ、気持ちいいよっ、慎介っ!」
「やだぁ……さくらお姉ちゃんと慎介お兄ちゃん、すっごいラブラブじゃない。ふたりのエッチ見てると、私もエッチな気持ちになっちゃうよぉ……あふ、ぺろ、んちゅ……」
「あふぅううんっ、やんっ、春奈ちゃぁあんっ!あっ、ふぁあああああああっ!」

 俺たちのセックスを見て発情してきたのか、トロンと目を潤ませた春奈がさくらのおっぱいを舐めはじめる。
 春奈もさくらが乳首が弱いのを知っててそこを重点的に舐めるもんだから、さくらがヒクヒクと体を痙攣させてイッてしまう。

「さくらお姉ちゃん、イッちゃったの?」
「う、うん……んふぅううん……んっ、はぁんっ!」
「……あれ?さくらお姉ちゃんの歯ってこんなに尖ってたっけ?」

 さくらに顔を近づけた春奈が、はじめて気がついたみたいに首を傾げる。

「春奈、おまえ気づいてなかったのか?さくらは精気を吸うときは牙が伸びてくるんだ。だからこうしてるときにはいつも牙が出てたんだけどな」
「そうだったの!?でも、私いっつもさくらお姉ちゃんにしてもらうか慎介お兄ちゃんにしてもらうかで、ふたりがこうやってセックスしてるのを見るの初めてだし、いっつも気持ちよすぎてすぐにわけわかんなくなっちゃうから」
「そっか、まあ、よく考えたらそうだな」
「……さくらお姉ちゃん、ホントに吸血鬼みたいだね。でも、その牙もすっごくキュートだよ。ん……んむ、んふっ、んちゅっ……」
「んっ、んちゅっ、ちゅむうううっ!」

 春奈が、さくらの唇を吸う。
 そのまま俺が腰を打ちつけると、さくらのおっぱいがピクピクッて震える。

 ……て、ん?
 なんか、耳許ではぁはぁ聞こえるんだけど?

「……あなたたち、なんていやらしいのよ?はぁああ……んんっ、こんなの見せつけられたらっ、私もっ……はんんんっ……」

 火照ったように頬を染めたファニスリャワが俺にしなだれかかってきて、形のいいおっぱいを俺に押しつけてくる。

「……おい、ファニスリャワ?」
「ねえ……この子が終わったら次は私としてちょうだい……んっ、んんっ!」

 どさくさに紛れてなに言ってんだ、おまえは?
 それも、蕩けた表情で喘ぎながら……って、おまえ、オナニーしてんのかよ!?

 見たら、ファニスリャワは俺の体におっぱいを押しつけて揺らしながら、自分で自分のアソコを弄っていた。

 ていうか、そんなこと言うと……。

「ちょっと!あなたなに言ってんのよ!さくらお姉ちゃんの次は私が慎介お兄ちゃんにしてもらうんだからね!」

 ほら、また春奈が怒るだろ。
 つうか、春奈の中でのこいつの序列ってそうとう下だよな、ホントに。

「ほらほら、ふたりともケンカしないの。今は、さくらちゃんをお腹いっぱいにしてあげるのが先でしょ。慎介くんとセックスするのはその後よ」
「はーい」
「す、すみません」

 美弥子さんに言われてふたりは素直に頷いてるけど……。
 ていうか、美弥子さんは大人だからはっきり言わないけど、これって、さくらに精気を吸わせた後で3人ともしなきゃいけないんだろうな。
 俺の体が保つんだろうか……?

「さあ、さくらちゃん、私の精気も吸っていいのよ。ちゅっ……んっ、んふっ、んむ……」
「んちゅっ、ちゅむむむっ……んふっ!んんんんんんんんっ!」

 今度は美弥子さんがさくらのおっぱいを揉みながら、その唇にキスをする。

 またイッたのか、さくらの体がヒクヒクと震えた。
 その痙攣が伝わったみたいに、アソコがチンポを締めつけてビクビク震える。
 その刺激に、俺ももう堪えられなかった。

「くうっ、さっ、さくらっ!」
「んむむむむむっ!……あふっ、ああっ、しんすけぇええええっ!」

 射精するときの、頭の中が真っ白になるような開放感と同時に感じる、この、気が遠くなるような目眩に似た感覚。
 この、精気を吸われる脱力感……すごく久しぶりだけど、さくらとセックスしたんだって実感できる。

「んんっ、ふわぁああああ……あぁん、慎介の精気……おいしい……」

 ビクビク体を震わせて精液を搾り取ったさくらが、潤んだ涙目で見上げてくる。

「よかったな、さくら。……どうだ?まだ足りなかったらもう一度やるか?」
「そんなのダメだよ。慎介の体に負担がかかりすぎるもん……」
「そうよ、慎介くん。みんなの精気を、少しずつさくらちゃんに分けてあげればいいんだから。じゃあ、次は私としましょうね、さくらちゃん」
「……うん。……んふ、ちゅ」

 俺と場所を入れ替わると、美弥子さんがさくらの体に覆い被さってキスをする。



「じゃあ、私たちも楽しもうね、慎介お兄ちゃん!」
「あっ!私もっ!」

 春奈とファニスリャワが、競争するみたいに俺に抱きついてくる。

「もうっ!私の方が先なんだからね!」
「そんなっ、私だって彼とエッチしたいのよ!」
「でもっ、私はあなたがここにくるずっと前から慎介お兄ちゃんとエッチしてたんだから!私の方が優先順位が上なんだから!」
「そんなの、彼がどっちと先にしたいかが優先されるに決まってるじゃない!……ね、ほら、見て。私、けっこう胸大きいでしょ?」
「あーっ、そんなこと言うのっ!?それは、私のおっぱいはあなたやさくらお姉ちゃんに比べたら小さいわよ!でも、私とエッチした方が気持ちいいよね、慎介お兄ちゃん?」
「はは……はははは……」

 そりゃ、裸の美人に両側から抱きつかれて悪い気はしないけど、俺を挟んでケンカしないでくれるかな……。

「ねっ、慎介お兄ちゃん!私といっぱい気持ちよくなろうね!」
「やんっ!私だって気持ちよくして欲しいの!」
「……んっ、はぁんっ!どうっ?気持ちいい、さくらちゃん?」
「うんっ、気持ちいいよっ、美弥子さん!……あんっ、んんっ!」

 すぐに、みんなの喘ぐ甘い声が響きはじめる。

 結局その日は、みんなでわけがわからなくなるまでエッチをしまくって最後には全員ヘロヘロになって、みんなで抱き合ったまま布団をかぶると気を失うようにそのまま寝てしまったのだった。






* * *







 ……そして、さくらが戻ってきてから4ヶ月が過ぎた。
 新年度が始まって何かとバタバタしたけど、みんなでエッチ三昧の平和な生活は相変わらずだ。



「あっ、おかえり、慎介!そろそろ帰る頃だと思ってたんだよね!」

 朝、俺がバイトから戻ってくるのがわかっていたみたいに、さくらがドアを開けて出迎えてきた。

「ただいま、さくら」

 嬉しそうにしてるさくらを軽く抱いて、ただいまのキスをする。
 うーん……自分で言うのも恥ずかしいけど、本当にラブラブだよな、俺たち。

「……あっ、慎介お兄ちゃん!さくらお姉ちゃん!おはよ!」

 今度は、向かいからセーラー服姿の春奈が飛び出してくる。

「おう、おはよう」
「おはよう、春奈ちゃん!」
「さくらお姉ちゃん!慎介お兄ちゃん!今日も学校が終わったらいっぱいしようね!」

 見送る俺たちに手を振りながら、春奈は向こうへ駆けていく。

「春奈のやつ、この間もおまえに精気を吸わせてたっていうのに元気だよな」
「まあ、あれも若さよね」
「……いや、若さって……俺と春奈って3つしか年違わないんだけど」
「まあ、あたしが慎介から吸う精気の量は春奈ちゃんから吸うのよりも多いしね。春奈ちゃんの体にかかる負担は慎介のよりもずっと軽いもの。それに、春奈ちゃんってすごく精気の回復が早いみたいなのよね」
「へえぇ……」

 穏やかな日射しの下、駆けていく春奈に手を振りながら長閑に会話を交わす。

 美弥子さんの家の庭に1本だけ植えてある桜の木も、もう満開を通り越して花が散り始めていた。
 先週のうちにみんなで花見しといて良かったな、ホント。

 この間、みんなでやった花見のことを思い出す。
 日本での自分の名前にしただけあって、満開の桜の花の下で、さくらは本当に嬉しそうにしてたっけ。



 と、そのとき、隣の部屋のドアがバタンと開いた。

「ああもうっ!最初からいきなり遅刻だわ!」

 部屋から出てきたのは、赤毛のポニーテールのハーフ美人。
 ファニスリャワだ。

 あの後、ファニスリャワは空室だった俺の隣の部屋に引っ越してきた。
 さくらの失踪事件中、ほとんど俺の家にいて学校に行ってなかったせいで、かなり大量に単位を落として今年は大変らしい。
 まあ、こいつの場合、東京に出てきてから退魔師気取りで吸血鬼を探し歩いてたくらいだから、なにもなくてもけっこうな数の単位を落としてたんじゃないかと俺は思うんだが。
 つうか、あいつの通ってる大学ってこっからだとそこそこ遠いぞ。
 まったく、なにやってんだか。

「おまえも朝から騒がしいやつだな」
「なに?ファニーったら新学期早々寝坊なの?」
「もうっ、うるさいわね!昨日の晩あんたに精気を分けてあげたから疲れて寝過ごしたんじゃないの、感謝して欲しいくらいだわ!それと、私の名前はファニスリャワだから!勝手に省略しないでよね!」
「だって、あなたの名前長いんだもん」
「なに言ってんのよ!あんたもスロベニア語がわかるんだったらそのくらいちゃんと呼んでよね!」
「つうかおまえ、急がないといけないんじゃないのか?」
「はっ!そうだったわ!」

 もうおなじみになった、さくらとの漫才のようなやりとりを切り上げると、ファニスリャワは駅に向かって猛然とダッシュしていく。

「なあ、あれも若さなのか?」
「……違うと思う」

 猛スピードで去って行くファニスリャワの背中を眺めながら訊くと、さくらは呆れたように頭を振る。



 それは、本当に穏やかで平和な、いつもの生活。
 まあ、よく考えたら普通じゃないんだけど、みんな今では、俺にとってもさくらにとってもかけがえのない人になってしまったし。
 今、こうしているのがすごく幸せだし、みんなともっと幸せになりたいと思う。



「なあ、さくら……」
「なに?慎介?」
「俺さ、いつまでおまえと一緒にいられるかわからないけど、俺が生きてる間は、おまえが安心して生きていけるようにずっと側にいてやるからな」
「やだ……そんなこと言われると、甘えたくなっちゃうじゃない」
「甘えたっていいんだぜ?」
「そう?……だったらずっといちゃうよ。慎介の子供の代になっても。家付きの吸血鬼になって」
「俺はそれでもいいけどな。なんかいいじゃん、家付きの妖怪っていうのも座敷わらしみたいでさ」
「でも、あたしは座敷わらしじゃないから、家にいても幸運は運んでこないよ」
「そうか?さくらがいてくれたらみんな幸せになれそうな気がするけどな。だからずっといろよ。もし俺に子供ができたら、おまえのことを頼むって言って聞かせるし」
「もう……小さいときからあたしの相手してたら、エッチな子になっちゃうよ」
「おまえっ、そんな子供の精気も吸うつもりなのかよ!?」
「ふふふっ、冗談だってば!……でも、慎介と春奈ちゃんの子供、かわいいだろうなぁ……」
「ぶっ……!?こ、子供って……そ、それは、春奈の意見も聞いてみないと……」
「聞く必要ないとあたしは思うけどなぁ」
「つうか、ファニスリャワは?」
「うーん……慎介とファニーの子供は、かわいいだろうけどちょっと生意気そうよね」
「……子供ができるのは否定しないんだな」

 まあでも、誰かひとりを取れっていってもできないし、なにより、さくらが生きていくためにはみんなの精気が必要だし。
 だったら、みんなで幸せになるしかないじゃないか。
 俺が頑張ってみんなを幸せにするしか。



 そのとき、お向かいのドアが開いて美弥子さんが顔を出した。

「おはよう、慎介くん、さくらちゃん」
「おはようございます」
「おはよう、美弥子さん!」
「慎介くん、朝ご飯ができてるから食べにいらっしゃい。さくらちゃんも、お腹が空いてたら私の精気を分けてあげるわよ」
「うん!」
「いつもありがとうございます、美弥子さん」
「なに言ってるの、私たちは家族なんだから当然でしょ。さ、いらっしゃい」

 美弥子さんが、いつもと同じ優しい笑みを浮かべて手招きする。

 そうだよな、今じゃ本当に家族みたいなもんだよな……。
 美弥子さんも春奈も、そしてファニスリャワも……みんな、俺とさくらにとって大切な家族だ。

「じゃ、行こうか、さくら」
「うん」

 さくらの腰に手を回して抱き寄せると、俺たちは体を寄り添わせながら美弥子さんの方に歩きはじめた。

 
 
< 終 >


 

 

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