SAIMIN GOで遊ぼう!


 

 

最終話


「起立、礼。さよーならー」

 日直の言葉とともにばらばらと生徒達が散っていく中、光莉はぽつんと自分の机の前で立ち尽くしていた。(まつり……)

 光莉はちらりと茉理の席を見た。その席の主は、昼休みに入るやいなや男子生徒達と連れだってどこかへ行き、そのまま戻っては来なかった。

 男の腕に組み付くときの、なんともいえない媚びを含んだ茉理の顔。あんな顔は見たことがない。光莉はじっとうつむいて、机の表面の一点を見つめた。

 親友の豹変。思い当たることが。いや、思い当たりすぎることが一つだけある。

(――SAIMIN GOだ)

 光莉の喉がごくりとなった。考えたくなかった結論。だが、それ以外に思い当たることがない。

(まちがいない……茉理にSAIMIN GOを使った犯人がいる!)

 そう思ったとたんに、光莉の心の中に恐怖がこみ上げてきた。自分も操られるのではないか。今まさに誰かが自分にスマホを向けているのではないか? 背筋を嫌な汗が伝う。

 とっさに教室を見渡した。今は光莉以外に生徒はいない。みんな下校するか部活に行ってしまったようだ。

 一人きりの教室はいつも以上にがらんとした感じを与える。窓からランニングする陸上部のかけごえ。いつもと同じ放課後の教室。だがたしかに、恐ろしい悪意に満ちた人間が近くにいるのだ。光莉は胃のあたりにきりりとした痛みを感じた。

(ど……どうしよう、どうしよう!)

 とりあえず安全なところに行かねば。光莉は鞄を掴むと教室を飛び出し、小走りに廊下を駆けだした。

 そして駆け込んだのは――女子トイレ。誰も使用者はいないようだ。光莉は一番奥の個室に飛び込み、鍵をかけると胸をなでおろした。

「はぁ……ここならとりあえず大丈夫だよね」

 自分に言い聞かせるように呟く。

 茉理を狂わせた犯人は間違いなく男子だ。そういう意味では、女子トイレは最も安全な場所の一つであると言っていい。

 スマホをにぎりしめ、息をひそめて気配を伺う。五分ほど経ったが誰もトイレに入ってくる様子はない。

「はぁ……」

 光莉は息をつき、スマホを鞄にしまった。

(……安心したら、オナニーしたくなってきちゃったな……)

 頭にその考えが浮かぶと、もう体は止まらない。光莉はパンティーをずり下ろして、唾で濡らした指先を秘所に近づけた。

(ああ……濡れてる)

 光莉の股間はじっとりと湿り気を帯びていた。ゆっくりと指先を膣口に差し入れる。

「んっ……」

 思わず声を出してしまって、あわてて様子を伺ったが、やはり人の気配はない。

(声、出ないように……)

 そう言い聞かせつつ、指をゆっくりと動かす。光莉の肉壁が待っていましたとばかりに、その指を締め付ける。鈍い快感が下腹からせり上がってきて、光莉は息を吐いた。

 最後にオナニーをしたのはHRの前の空き時間なので、一時間もたっていない。それなのにずいぶん久しぶりなように感じるほど、光莉はオナニーにハマっていた。休み時間ごとはもちろん、最近は下手をすると授業中に手が無意識に股間に伸びそうになり、我に返っては手を止めることがあるほどだ。

(はあっ……ゆび、きもちっ……)

 光莉の女性器は指三本を軽々とくわえ込んでいる。指と膣口の隙間から泡だった愛液が伝い落ち、尻の谷間に消えていく。指を出し入れするごとにくちゅくちゅと卑猥な音が漏れるが、これくらいは構わないだろう。

 光莉はブラウスのボタンを外し、空いている手をブラジャーの下から差し込んで、胸を愛撫しながら腰を揺すった。激しく指をかき回す。十分の休み時間の中でイくことに慣れた光莉の体は、瞬く間に快感の階段を上っていく。

(イ……きそっ)

 光莉はポケットからハンカチを取り出して口にくわえた。そしてフィニッシュに向かう。指二本でクリトリスの根元と乳首を擦り上げる。ふっふっふと動物のような荒い息が口とハンカチの間から漏れた。そして二つの突起を両手それぞれの指で同時に押しつぶす。

「っーーーーーーッ」

 押し殺した絶頂の声が個室に響いた。光莉は顔が膝の間にくるほど体をかがめて、快感に身を震わせた。三十秒ほどもそうしていただろうか。ゆっくりと光莉は上体を起こし、髪をかき上げた。

「はぁ……」

 大きく息を吐いて股間をトイレットペーパーでぬぐう。オナニーが済むと頭がクリアになってきた。

(そうだ、茉理に聞いてみればいいのかな……SAIMIN GOで)

 自分にも犯人と同じ力があるのだ。茉理に催眠をかけて、彼女にアプリを使った相手を確かめればいいのではないか。そう思って茉理を探そうかと考えたが、光莉の脳裏に数人の男子とともに歩み去って行く茉理の姿が浮かんだ。

(だめだ……茉理はたぶん一人じゃないよね……)

 操られている茉理は、男子達とあんなことやこんなことをしているのだ。男子と手を握ったこともない光莉は、自分の想像に赤面した。

(とにかく、学校じゃ茉理にSAIMIN GOは使えない)

 一刻も早く茉理を解放してあげたい。しかし他の人間と一緒にいられると、ボールをうまく使えないかもしれないのだ。

(やっぱり予定通りにいくしかないか)

 葛西達と共に町田に会いに行く。そこから犯人のてがかりをひきださねばならない。

「……よしっ」

 光莉は自分を勇気づけるように呟くと、パンティーをはき直して校舎裏に向かった。



「面会謝絶?」

 看護師の言葉に、光莉と葛西の声が重なった。

 ここは鶯谷の近くの市民病院だ。病院特有の消毒液のにおいが鼻をくすぐる。大きな声に、近くを歩いていた老人がうろんげな目つきを向けてきた。おもわず光莉は身をすくめた。

「そうです。なんでお帰りくださいな」

「いつ面会できるようになるんですか?」

「一週間後には面会の許可が下りると思います」

 愛想の悪い看護師はにべもなく言い放った。光量の低い病院の蛍光灯が、やせた看護師の顔にどくろのような影を作っている。

「一週間後……」

 光莉は下唇を噛んだ。それでは――その間、犯人の手が自分に伸びるのを待つばかりだというのか。

「……わかりました。では一週間後にまた来ます。ありがとうございました」

 光莉達はなすすべもなく病院を後にした。三人でとぼとぼと、住宅街を駅に向かって歩く。

「……小笠原、なんかわりぃな無駄させちまって」

 葛西が罰が悪そうに頭をかいた。

「ううん、そんなことない。ありがとう二人とも」

 光莉はそう言って笑いかけたが、心の中は晴れなかった。

(どうすればいいの……)

 茉理と共に行っていた先回りのボール回収も限度がある――そう思った矢先、光莉ははっと顔を上げた。

「ん? どうした?」

 福田が不思議そうに光莉を見た。

「二人ともこっちに来て」

「あん? いいけど」

 葛西達を人から見えない小道に引っ張り込んだ光莉は、SAIMIN GOを立ち上げて、二人に向かってボールを投げた。すぐさま二人とも惚けて立ち尽くす。

(……見られながらオナニーしたいな)

 二人のうつろな顔を見て思わず浮かんできた考えを頭から振り払う。今はそんなことをしているときではない。

(命令は……こう、と)

 文面を打ち込んだ光莉は、送信ボタンを押す前にスマホを葛西のポケットに入れた。

「送信……っと」

 ポケットに指を差し入れて送信ボタンを押すと、光莉は路地を飛び出し、近くの自販機の影に身を潜ませた。そして二人のいる路地の入り口を伺う。

 ほどなく葛西達が路地から出てきた。顔つきはぼんやりとしているが、足取りは確かだ。駅に向かう二人の後を光莉はつけはじめた。

 葛西達と同じ車両に乗り、光莉は二人の様子を伺った。なにかおかしなことがあればすぐにスマホを取り戻さなくてはならない。

 二人は新宿で降りて歩き出した。アルタ前、大ガード下、TOHO映画館前……このルートは先日光莉が茉理と共に歩いたルートだ。

(そう……そこもボールの回収ポイントのはず)

 命令に打ち込んだとおり、二人はマインドボールの回収ポイントをなぞっていく。一時間ほどで新宿近辺のマインドボールを回収し終わった二人は、渋谷、そして池袋と場所を変えていく。さいごのフクロウ型のモニュメントの前に二人が来たとき、光莉の足は鈍い痛みを訴えていた。無理もない。革靴で三時間以上も歩き回ったのだ。

 しかし試みはうまくいった。光莉はフクロウ前でぼんやりと立っている二人のもとに歩いて行き、葛西のポケットからスマホを取り出した。

「逃がす、と」

 ボタンを押すと葛西達の目に光莉がともった。

「……あっレぇ? あれ?」

「ん? ここって……ブクロ? 小笠原?」

「二人とも、今日はありがとう。一緒に病院で待ってくれて」

 光莉はにっこりと二人にほほえみかけた。

「……あー、あー、そうだったわ」

 葛西が自分を納得させるように頷いた。

「気にすんなよ。親友じゃねえか」

「そうだな、うん」

 二人はしきりにうなずき合っている。

「わたしは帰るね。また明日」

「んじゃな。気をつけて帰れよ」

「うん、またね」

 雑踏の中に去って行く二人を見送った光莉は、SAIMIN GOを起動させてボールの個数表示を見た。ボールの表示は十近く増えている。

(いける!)

 そう、光莉のアイデアはボールの回収を二人に任せるというものだった。光莉だけではとうてい全部のポイントを毎日回りきることはできないが、葛西達なら可能なはずだ。昼休みに渡して放課後に返して貰う。

 今日は病院でスマホを渡して駅で回収したが、どちらもそれを学校で行えば周囲に怪しまれずにすむ。

(これで……犯人の好きにはさせずにすむかもしれない)

 他人にスマホを預ける行為には、正直に言うとリスクが伴う。それ以上に、午後の授業をサボらせるのだから、葛西達に負担を強いることにもなる。それでも光莉には実行をためらう余裕はなかった。

(誰なのかわからないけど……まつりをもてあそんだ犯人は許せない!)

 これは自分だけでなく、親友の身をかけた戦いなのだ。決意を胸に秘めて、光莉はスマホを握りしめた。



「あークソ……どうにかしなきゃなぁ」

 俺はそういって乱暴にスマホの画面を叩いた。

 どれだけアプリを起動しようと、SAIMIN GOに表示されるマインドボールの数は変わらない。ゼロだ。

 ここ最近は危険を侵して連日街に出向いているが、本当に一つのボールも出ないようになってしまった。

(もしかして……ボールをとりつくしたとかなの?)

 一つの場所からは一定の数のボールしかとれない。あまり考えたくはない話だがありえる。

(だとするともうちょい遠くに行くべきか)

 それを考えただけで俺は憂鬱な気分になった。あの山手線の人混み。少し動けば肘と肘をつきあわせることになるせまっくるしさが大嫌いだ。あんなものは人間のいる環境じゃない。

(とはいえ、今の状況では進行が遅すぎるしな……)

 顔を布団に埋めて、大きく息を吐いた。布団から洗剤だが香水だかの良いにおいが香る。

 と、尻穴にぬめっとしたものが差し入れられた。そしてうねうねと動いてなんともいえない快感を与えてくる。正確に言えばさっきからずっとその状況がくりかえし続いているのだが。

 俺は後ろを向くと言った。

「おい」

 俺の尻に顔をうずめていた光莉が顔を上げた。唾液が糸をひいており、なんともエロい。

「なに?」

「入り口だけじゃなく、もっと奥まで舌を入れろ」

「うん、わかった。豚田君のおしりの穴の奥まで舐めるね」

 そう言ってまた光莉は尻の割れ目に顔を押しつけた。そして命令通り、尻の穴に舌を根元までさしこんでくる。

「お、おおっ」

 直腸をえぐる舌の感触に思わず声が出た。

「じゅっ、ちゅむっ、ぴちゅっ」

 いやらしい音を立てて光莉が俺の肛門を舌でほじくりまわす。

(小笠原が俺の尻を舐めてるとは良い気分だ。しかもこの場所で)

 俺は顔を上げて部屋を見回した。

 今俺がいるのはいつもの俺の部屋ではない。薄紅色の壁紙に、かわいらしい小物が置かれた整頓された本棚。友人との写真が貼り付けられたコルクボード。なにをかくそう、ここは光莉の自室なのだ。

 俺はマインドボールが増えないうさを晴らすために、リスクを冒してわざわざ光莉の部屋でセックスすることを選んだのである。

 家に上がるときに光莉の母親と遭遇した。母親は娘が俺のような不細工を連れ込んだことに驚いたようだったが、『学校のアルバム制作委員の打ち合わせ』という適当なでっちあげで、納得したようだ。娘を信頼しているからだろう。

(まあ大事な娘さんは、こうやって俺のケツ穴を舐めてるんだけどな)

「どうだ、俺のケツ穴は美味いか?」

「うん、豚田君のおしりの穴おいしい……ちゅぱ、ちゅっ……!」

 下品な音を立てて光莉が俺のケツを舐める。

 ケツ掃除を堪能した俺は体を捻って仰向けになった。チンポがビンと天井を向く。すでに先走りが溢れており、準備万端だ。

「おい、上になれ」

「豚田君にまたがればいいんだよね。それじゃ失礼しますっ……と」

 光莉はにこやかにそういって、仰向けになった俺にまたがってきた。清楚な顔つきとは不釣り合いな、でかいオッパイがたゆんと揺れる。

「小笠原、俺のチンポをまんこに入れたいか?」

 俺の問いに光莉は一瞬きょとんとした後、くすりと笑った。天使のような笑顔だ。

「当たり前じゃない。変な質問するね豚田君は」

「なんで当たり前なんだ?」

「だって『同級生とセックスするのは常識』だもの」

 そうだ。光莉の言葉に、俺は満足して頷いた。もちろん光莉が俺の支配下にあるのはわかっている。それを本人の口から聞くのが快感なのだ。

「さすが成績優秀な小笠原だな。それじゃ秀才マンコで俺のチンポを楽しませてくれ」

「まかせて♪ じゃあはじめるね」

 光莉はゆっくりと腰を落とす。まんこの入り口とチンポの先がふれあい、くちゅと音が鳴る。

 光莉は挿入を見せつけるように、じわじわとマンコでチンポを飲み込んでいく。

「んっ……」

 小笠原がわずかに眉をしかめて声を上げる。汗が一筋、白い首をつたうのが見えた。

「おおっ……やっぱ小笠原のまんこはいいな」

 処女を奪ったときは、キツくてチンポが全部入りきらなかったが、今は根元までずっぽりとチンポをくわえ込んでいる。光莉のまんこはもう完全に俺のチンポの形に整形されていた。

「豚田君、どう、痛くない?」

「ああ、きっちりとまんこの肉が絡みついて気持ちいいぜ」

 常に相手を気遣う姿勢を忘れない。ああ、これが愛されて育った人間の美しさだ。そしてそれは、今この瞬間では滑稽でしかない。

「それじゃ、うごくね」

 そう宣言して、光莉は腰を上下に動かしはじめた。身体を揺らすたびに、下から見上げるオッパイがぶるんぶるん揺れるのはなんとも迫力がある。

 ぱんっぱんっぱんっ。俺の太ももと光莉の尻がぶつかり間抜けな音を立てる。

(おかあさーん、あなたの娘は同級生と生セックスの最中ですよ)

 俺はそう叫びたくなる衝動にかられながら、光莉のまんこ奉仕を堪能する。

 光莉の膣内は十分な湿り気をもって、俺のチンポをまんべんなく締め付けてくる。入り口はきつく、奥はゆるふわな感じだ。腰を上げるたびに、膣口がペニスにひっぱられるように伸び縮みするのが、まるで独立した生き物のようだ。

 ずちゅ、ずちゅっ!

 結合部から卑猥な音が漏れる。

「どうだ小笠原、俺のチンポの味は?」

「豚田くんのオチンチン、きも……ちいいっよっ」

 うっとりとしたように目をつぶりながら答える光莉。赤らんだ顔がなんとも色っぽい。毎日のオナニーの成果だろうか、光莉は急激にエロさを増しているような気がする。

 ちなみに今の光莉には、俺の言うことに疑いを持たないようにという催眠がかかっている。だいぶ捕獲レベルも上がっているので、こういうファジーな命令でも十分だ。

 どちゅどちゅどちゅっ!

 光莉が跳ねるようにピストンを激しくしていく。膣肉もうねるような動きで、俺のペニスを締め上げてくる。

「あんっ、はっ、あっ」

 一心不乱に腰を振る光莉。完全な雌犬といった様子だ。その顔を見ながら、俺は快感が高まってくるのを感じる。

「よし、そろそろ出そうだ。どこに出してほしい?」

「おまんこに、ひかりのおまんこに豚田くんのザーメンどぴゅどぴゅおねがいしますっ」

 完璧な答えだ。俺は頷いて光莉の腰を掴むと、ペニスを奥までねじ込んだ。光莉が細い嬌声を上げる。

「出すぞっ!」

 その瞬間、俺のペニスからザーメンが吹き出す。

「ッ──いくうぅっーーー」

 光莉がひきつるような声を上げてのけぞった。びくびくと身体を震わせている。膣肉は貪欲にうねって、俺のザーメンを搾り取ろうとする。

「ふ……ううっ!」

 俺はザーメンを最後の一滴まで、光莉の子宮に流し込んだ。身体を押しやると、あっけなく光莉はベッドに倒れ込んだ。半ば白目をむいたひどい顔だ。学校一の美少女の面影はどこにもない。

「ふぅ……とりあえずすっきりはしたな」

 布団でペニスを拭くと、俺はスマホを手に取った。

(うさは晴れたが、結局なにも解決してねーな)

 SAIMIN GOの表示は、未だに光莉のマインドが完全に屈服していないことを示している。明日以降も我慢の日々が続くのだろう。

「とりあえず、今日のこのことは何も疑問を持たないようにしておいて……。んで明日は昼休みにまたマインドを捕まえるか……ああくそ、めんどくさくなってきたな」

 幸せそうに失神している光莉の顔を見ていると、俺は無性に腹が立ってきた。考えてみれば、別にこいつを完全な奴隷にする必要はないのだ。身体は味わい尽くしたし、ケツまでなめさせたのだから、もう十分楽しんだ。あとは光莉が破滅するところを、はたから眺めるだけでいいかもしれない。俺は決心してスマホに命令を打ち込みはじめた。

「‘宿題’はやめだ。かわりに明日からは全オナニーをライブ配信」

 今までは顔に画像加工して配信していたが、それをやめて生配信に切り替える。学校側に気づかれるのも時間の問題だろう。

(永久所有マインドになるのが早いか、オナニー配信が大人にばれて破滅するのが早いか。さて、どうなるかな)

 どちらにしろ光莉の人生はもう終わりだ。俺は暗い悦びを覚えつつ、光莉に命令を送り込んだ。



「それじゃあ、小笠原さん。また明日」

「うん、豚田くんまた明日」

 豚田が出て行ってドアが閉まるのを見届けた光莉は、きびすを返した。廊下を歩く光莉に、台所から瞳が声をかけてきた。

「お友達帰ったの?」

「うん。帰った」

「そう。ひかりが男子を連れてくるなんて思わなかったわ。彼氏かと思っちゃった」

 その言葉に光莉はおもわずむせてしまった。

「か、彼氏なわけないじゃないっ。ママ変なこと言わないで」

「冗談よぉ。でも男子を部屋に入れれるなんて、ひかりもずいぶん成長したのね」

 台所から聞こえてくる笑い声に光莉は少しむっとした。あまりにも子供扱いしすぎではないだろうか。母の頭の中では、自分は男子相手だと恥ずかしがって一言も喋られない子供のままで止まっているのだ。

「ひかりくらいの年頃の男の子は飢えたオオカミなんだから、気を許しちゃだめよ」

「大丈夫だよ。豚田くんはそんな人じゃないし」

 今日だってただ、おしりの穴を丹念になめて、そのあと子宮いっぱいにザーメンを出されただけである。なにも不純なことはしていない。

 光莉は階段を上がって部屋に戻ると、スマホで茉理とのラインをチェックした。

「……やっぱり未読スルーされてる」

 今日茉理の自宅にいっても会えないだろう。ずっと茉理の家の前で張っていればいつかはチャンスが巡ってくるだろうが、もはやそんな猶予はない。敵の手はすぐそこまで迫っているのだ。

(もしわたしがSAIMIN GOを使われたらどうなっちゃうんだろう)

 男にしなだれかかる茉理の姿。自分が疑うこともできずにあのようなことをさせられたら。

 光莉は軽く首を振って、その想像を追い払った。

(犯人の思い通りにはさせない。絶対まつりを助けるんだから)

 すると力んだ拍子に、ぶちゅっと光莉の股間から間抜けな音が響いた。

「あ、豚田くんのザーメンあふれてる」

 膣内に出されて、そのままパンティーを履いていたのだが、豚田の射精量は異常と思えるほどで、パンティーが吸い取れる限界を超えて膣から精液がこぼれだしている。光莉の脳内に豚田の言葉が思い浮かんだ。

『小笠原、俺のザーメン大事に腹にためとけよ』

「たいへんたいへんっ」

 光莉は慌ててクローゼットへ走り寄ると、中に入っている救急箱から大きめの傷テープを取り出して股間に貼り付けた。

「これでよし、と」

 パンティーを重ね履きして厚手のパジャマに着替えてしまえば、精液が溢れてくることもないだろう。

「明日の予習さっさとすませて寝ちゃおう」

 光莉は一人頷いて、デスクに向かった。

 
「回収、っと」

 そう呟くと、光莉はアプリを閉じた。

(楽しようと思ったバツかなぁ)

 今日も昼休みに校舎裏に言った後、葛西達にボール回収をさせようと思ったのだが。

『補講とかだりーよなあ』

 という言葉を聞いてしまったのだ。

 光莉はほとと困った。ここで二人にボール回収をさせては、おそらく彼らは補講に出られず──留年が決定的になる。

 悩みに悩んだ結果、とりあえず今日は放課後に自分でボールを回収することにしたのである。 ひたすら歩いて回収、ひたすら歩いて回収。あまり長時間歩くことのない光莉にはそこそこの重労働である。

「今日はこれくらいにしとこうかな」

 そういってスマホをしまった光莉は、下腹に疼きを感じた。

(……疲れちゃったしオナニーしよ)

 今や光莉にとってオナニーは水を飲むのと同じように自然な行為になっていた。朝起きれば、オナニー。昼休みは、オナニー。寝る前にも。

(どこかいい場所ないかなあ)

 光莉は“オナニーポイント”をさがして歩き出した。飛び抜けた美少女である光莉がすれ違うだけで、男達の視線が投げかけられて光莉にストレスを与える。

(うう〜やっぱり人の多いところは苦手だなぁ。はやくオナニーできる場所見つけなきゃ……あれ?)

 人混みの中に一瞬見知っている姿を見つけたような気がして目で追おうとしたが、その視線はナンパ男に遮られた。

「ねえ彼女、カラオケいかない?」

「──あ、あの、急いでるんでっ」

 男が苦手な光莉は慌てて逃げ出した。

(もう、本当にやだ!)

 声をかけられないようにしかめっ面で歩いていると、こじゃれたカフェが視界に入った。道に面しいるカウンター席は前面ガラス張りになっていて、通行人から丸見えだ。

 光莉はごくりと唾を飲んだ。そして平静を装ってカフェに入り、アイスココアを注文した後、それを持って一番奥側のカウンター席に座った。

 スマホを取り出して、配信用アプリを立ち上げると、またたくまに視聴者のカウントが増えていく。

 しかし光莉にとっては重要ではない。『配信すること』が大事なのだ。

 光莉は周りの客にバレないように、小声でスマホに話しかけた。

「えと……これで映ってるかな。……いまからオナニー配信しまーす」

 画面にワイプで映り具合をチェックするウインドウが出ている。それを見る限りちゃんと自分の顔は映っているはずだ。光莉はぎこちない笑顔をつくって見せた。

「今回はお外でオナニーしちゃいます。……じゃあ、はじめますね」

 スマホをカウンターテーブルの下にやって、自分の股間が映るようにする。スカートの下はすでにノーパンだ。つねに湿っていて気持ち悪いので、学校を出るときに脱いでしまった。

スマホの画面に、充血してぷっくりとふくれている光莉の大陰唇が大写しになる。

(うわ……ものすごくドキドキする)

 光莉はそろそろと足を開いた。スマホ画面のおまんこは、生きもののようにゆっくり収縮している。

(歩いてる人が今こっち見たら、わたしのおまんこ見えちゃうんだ)

 そう考えただけで口から心臓が飛び出しそうになる。

 慎重に指をおまんこに差し入れる。ニチュッと音がして、光莉は慌てて周りに目をやった。誰もこちらに気づいていないようだ。光莉はほっと胸をなで下ろし、股間に意識を戻した。

人差し指と中指で膣口を割り開くと、鮮やかな朱色の粘膜がスマホ画面を彩った。膣壁は愛液でてらてらと濡れている。光莉は一番大事な部分をネット越しの無数の目に晒しながら、静かに指を膣穴に差し入れた。

「……ぅっ」

 光莉は喉の奥でうめき声を上げた。

(すごく敏感になってる)

 今回のオナニーは片手しか使えないうえに声を上げられない。しかし通行人が前を通るたびに極度の緊張が奔り、それがスパイスとなって快感を押し上げる。指で膣の内側を擦り、クリトリスの周りを軽くなぞり、叩く。そして息を軽く吐いて周りを伺う。これを繰り返すうちに、指が二本三本と増えていく。

 愛液が椅子をよごし、息が荒くなる。首から上はなるべく平静を装いつつも、光莉はカフェの中で達しようとしていた。

 クリトリスを柔らかくなぶって絶頂するギリギリ手前を保ちつつ、目で店内をおってイっても大丈夫な状況を待つ。近くに客はいない。店員が一人レジカウンターにいる。新たな客が入ってきた。店内の集中がそちらに集まる。

(よし、いまなら──)

 視線を前に戻した光莉は息を呑んだ。数人の通行人がこちらを見て目を丸くしている。店内に気を取られすぎて気づかなかったのだ。

 中年のサラリーマンの視線。スマホに大写しになっている、自分のおまんこ。光莉の思考は停止し、次の瞬間快感がはじけた。

「──ッ!」

 イキを吸うような声を上げて、光莉はイった。おまんこが指を締め付ける。声を上げまいと、涙をにじませて歯を食いしばる。しかしそんな状況でもスマホで自分の股間を配信するのはやめることができない。

「ぅ――!」

 つま先をぴんとそらして、見知らぬ通行人に自分がイくところをたっぷりと見せつける光莉。

「はぁ、はぁー」

 絶頂の余韻から回復した光莉は、股間から手とスマホを離し、「配信終わり、ありがとうございましたっ」と言って配信アプリを切ると、逃げるようにカフェから出た。通行人達に顔を見られないよう逆方向に走る。

(み、見られちゃった! 見られちゃった!)

 光莉は路地にかけこみ、壁にもたれかかって息を落ち着けた。

「知らない人に、大事なところ見られちゃった」

 ぼそりと呟く。

(……大変なこと、だよね?)

 一番見せたくない場所を他人に見られたというのに、ほとんどショックを受けていない自分に、光莉自身が驚いていた。それどころか。

「すごく……ドキドキしたな」

 意識がない葛西達に見られたときの何倍もの快感。

(わたし、まるで変態みたい……)

 その考えを慌てて振り払う。そしてスマホの画面に目をやった。時刻は六時すぎ。

「あっ、夕ご飯のお買い物頼まれてたんだった」

 そう言って光莉は慌てて路地を後にしたのだった。



「ぬぐっ、やっぱダメか……」

 俺はSAIMIN GOのマップを見てうめいた。

 このままでは野望の達成が遅れすぎると判断した俺は、いつもよりちょっぴり遠くまでボールを探しに来ていたのだが。

(ねえ! ねえ!)

 やはりボールはない。

「ちくしょう!」

 俺は腹立ち紛れに手近な自販機を蹴りつけた。 道行くカップルがこちらに向けた顔をしかめて、ひそひそなにか言いながら立ち去っていく。
「くそがっ……! これだから人間の多いところは嫌なんだ。俺を見下しやがって! ボールさえ無限にありゃ、あんなリア充どうにでも──おおっ!」

 その時、マップに赤と白のマーク、久しぶりに見るマインドボールの表示が浮かび上がった。

(よっしゃ、やっぱ遠くに来て正解だったな!)

 俺は喜び勇んで──とは言っても、マスクをつけて背をかがめて──ポイントに向かった。

 ゴミ人……もとい人混みをかき分けて歩くこと二十分。普段の俺なら、こんな労力を払わされたらブチきれものだが、今は久しぶりのボールゲットでテンションが上がっているから問題ではない。

 だが、その時。

「あ……?」

 俺はぽかんとして立ち止まった。急に歩くのをやめた俺の背に、サラリーマンがぶつかって舌打ちして去って行く。しかし今の俺にはそれを気にする余裕もなかった。

「ボールが……消えただと?」

 頭が混乱する。アプリを一度落とし、もう一度立ち上げるがやはりボールはない。

 バグか? いや……そうじゃないとしたら?

 脳裏に稲妻が走ったように一つの考えが浮かび、一瞬で肌が粟立った。

(俺の他にも──SAIMIN GOのを使ってる奴がいやがる!?)

 そうだ、なんで今まで思い当たらなかったのか。オンラインでDLできるならば、ほかにアプリを使ってる奴がいるのはおかしくない。今までボールが全く見当たらなかったのは、そいつが先にマインドボールを回収していたということに違いない。

 俺は慌てて周囲を見回した。──が、当然アプリの使用者と見てわかる奴がいるはずもない。

 まずい。これは非常にまずい。相手はもうすでにボールのストックが数十はあるはずだ。それに対してマヌケな俺は毎日補充の分の数個だけ。もうすでに決定的な差がついている。

(この通行人全部がすでに‘敵’の操り人形じゃないのか!?)

 俺の心を恐怖が満たす。相手が俺のような平和主義者じゃなく、マジキチ野郎だったら俺の身がヤバい。このアプリを持ってることがバレたら最高にヤバい。

(と、とにかくこの場を離れよう……)

 俺はスマホを手に立ち上がった。もし相手が俺のことを知っていたら、勝つチャンスは相手より先にボールを投げてマインドを捕らえる、それしかない。スマホは常に構えてないといけないだろう。

 と、俺が入れている配信アプリから通知が入った。『小笠原光莉さんが配信を開始しました』。

 気楽なもんだぜ、オナニー猿が。

 光莉の家でセックスして以来、あいつは律儀に顔出しオナニー配信を毎日行っている。

(学校の便所でもやってやがるから、もう学年全員知ってんじゃねえか?)

 しかし光莉の行いは、大人達にまでは上がっていないらしい。配信を楽しんでるであろう男子はともかく、女子もだんまりというのは――

(学校一の美少女が人生終わらせにいってるのを楽しんでるってことかね)

 だから女ってのはクソだ。自分より上の人間が落ちるのを楽しむようなカスしかいないから、結局のところ肉便器以上の価値がない。

 俺はなんとなく配信アプリを開いた。

『今回はお外でオナニーしちゃいます。じゃ、はじめますね』

「ん?」

 画面を見ると、確かに外にいるようだ。どこだ。喫茶店か?

(めずらしいな)

 こいつは今時流行らないくそ真面目で、寄り道などしたことがない。少なくとも俺の知っている範囲では。オナニー配信も、この時間なら例外なくあいつの家からだった。

「……え?」

 何かが引っかかって、俺は配信画面をまじまじと見た。

(これ……この近くじゃねえのか?)

 俺は方向感覚に自信がない(世界に興味がないからともいえるが)が、この内装の喫茶店って駅からここにくるまでに見かけたような気がする。

 俺はあわてて来た道を引き返した。どの喫茶店だったか、どの道だったか覚えていなかった俺は、さんざん迷ってその間に配信は切れてしまう。しかしついにそれらしき店を発見した。

(ここだ!)

 道に面した壁がガラス張りの、気取った喫茶店。内装がたしかに光莉の配信と一致する。

 俺は外から、道に面した席の椅子をチェックした。すると。

(やっぱり!)

 一番壁側の椅子がぬらりとした液体で濡れている。間違いなく、ここで光莉がオナってやがった。

 俺の頭の中で、全てのピースが嵌まった音がした。学校の中でまでなくなっているボール。いつもならいない場所にいる光莉。

 思わず俺の顔から笑顔がこぼれる。

(俺より強い敵だと思ってたら、なんだカモがネギを背負ってたんじゃねえか……)



「ひかりー、お客さんよー」

 母の瞳の声に、机に向かっていた光莉は教科書から顔を上げた。

「えー、だれー?」

「クラスメートの豚田くんよー。委員の打ち合わせするって約束してたんでしょ」

「ええー、しらなーい」

 光莉は首をかしげた。豚田とそんな予定を立てた覚えはないからだ。

(委員会……なんの委員会だっけ?)

 光莉は首をかしげた。確かに『自分と豚田はなにかの委員会に入っていた』ような気がするが、それがなんなのかいまいちハッキリとしない。

 しかし彼が来てしまった以上、応対しないわけにはいかない。光莉は立ち上がった。

(どうしよう……まさか男子を部屋に上げるわけにもいかないし)

 そんなことを考えながら、光莉が玄関に行くと、そこには豚田と人形のように立ち尽くした瞳の姿があった。

「あれ? おかあさ──」

 母に目を取られた光莉は、豚田が自分にスマホを向けるのに気がつくのが遅れた。

「え──」

 次の瞬間光莉の意識は闇に落ちた。いや、自我だけが抜け落ちたと言った方がただしいだろうか。

「ご苦労、部屋に戻れ」

 誰かの声。ああ、これは‘マスター’の声だ。従わなくては。光莉は階段を上がって部屋に戻る。

 ほどなく‘マスター’も部屋に入ってきた。光莉は立ち尽くしている。追加の命令がない限り動く必要はない。なぜなら自分は今は‘マスター’の所有物だからだ。

「お前のスマホを渡せ」

 スマホを渡さなくては。わたしはポケットからスマホを取り出し、‘マスター’に渡した。

「どれどれ……ッビンゴォ! は、ははは、やっぱお前かよ! お前がもう一人のSAIMIN GO所有者か!」

 そう言うとマスターはわたしの頬をひっぱたいた。痛みもなにも感じない。今の私はただの人形だ。

「面倒かけさせやがって……。だけど、こうなったら俺の勝ちだ。アプリ消去……いや?」

‘マスター’はしばらく考え込んでいた。

「お前、普通に授業出てたよな? 夕方のオナニーは家だったし。ボールはどうやって回収した?」

 わたしは‘マスター’の命令の通り、ボールを回収した方法を説明した。そしてその後もSAIMIN GOを手に入れた顛末や、その後の行いも全て‘マスター’に喋った。

「なるほどな。他人にボール回収を代行させるのか。それはいいや。明日からはお前にボール回収させて、そのボールでお前を永久所有マインドにしてやるよ」 

 

「ねぇ、あなた一年生の椚さんだよね?」

「はい、そうですけど」

「ちょっと頼みたいことがあるんだけどこっちに来てくれる?」

 鹿木迪子が女子生徒を階段裏にいる光莉の前に連れてきた。

「あ、あの、なんで――」

 光莉の手がスマホ画面をスワイプし、女子生徒の目から輝きが失われる。

「どう、小笠原さん」

「うん……大丈夫、ちゃんと今ので完全に墜ちた」

 光莉はスマホの画面を見て頷いた。スマホには、今の女子生徒のマインドが光莉の永久所有になったという印が出ている。

「これで……114人目かぁ。全生徒コンプリートはまだ遠いね」

「でもこれはご主人様のためだから」

「うん、もちろんっ」

 迪子の言葉に、光莉は笑顔で頷いた。

 そう――これは光莉達の‘ご主人様’である、豚田総介の命令だった。

(この学校をご主人様の王国にしなきゃいけないんだから)

 光莉を永久所有マインドにした総介の選択は、光莉をフルに活用して自分は安全なところにいて操り人形を増やすというものだった。

 光莉が近隣のストップを毎日回ってボールを集め、迪子が組んだローテーション通りに生徒達にマインドボールを使い、じゅんぐりに永久所有マインドにしていく。そして永久所有した生徒達への命令権を総介にすべて譲るという形で、この学校を乗っ取ろうとしているのだ。

 完全に学校を掌握するまではできるだけ目立たないでおこうという総介の意思により、この作業はできるだけ人目を避ける形で日々行われている。どのみちボールには限りがあるのだから、無理してペースを上げる意味もない。今の状況でも数ヶ月後には、この学校は教員を含む全員が総介のものになるだろう。

「鹿木さん、次はだれ?」

「えーと、次は……」

 メモ帳をめくる迪子。光莉と迪子は豚田王国の幹部的なポジションである。SAIMIN GOを所有している光莉は当然として、迪子はご主人様にはじめて所有物にしていただいたという名誉によって、王国の人間から尊敬のまなざしで見られている。

 茉理と麗華はともに停学処分を受けている。二人ともインターネットでのアダルト動画配信が明るみになったためだ。それに加えて茉理は妊娠が発覚した。

 SAIMIN GOを使えばこの二人の処遇をどうにかすることはできたのだろうが、総介はそれを望まなかった。そして総介の意思は光莉の意思である。

 光莉に大人の追求が及ぶと面倒なので、光莉のオナニー動画は総介が消去している。もちろん個人個人のユーザーによって保存された動画は、未来永劫ネットに残るだろうがそれは今の光莉にとって特に重要な問題ではない。

(もっともっとご主人様の役に立ちたいっ)

 光莉は胸の前で拳を握りしめた。胸の奥底から、総介への愛情と、献身が満ちあふれてくる。

 永久所有マインドにされて自分の生きる意味を発見した気がする。総介の永久所有マインドにされた後のこの世界に比べれば、それ以前の生など石くれほどの価値もない。

(わたしの人生はご主人様のためにあるんだから)

 光莉と迪子は、今日のノルマをこなし終えて、生徒会室に向かってった。



「これで来週までに一年D組の生徒は全員ご主人様のものになる予定です」

 俺は生徒会室の椅子に深く背をもたせかけて、迪子の報告を聞いていた。股間では今日永久所有マインドになったばかりの一年の女子が、おれのチンポをしゃぶっている。

「ちゅっ、ちゅぱっ、んぷっ」

 しかたないとはいえ、その舌使いはつたない。顔は悪くないから、しつけてしばらくは側に置いてやるかな。

「おい、もっと頭を動かせ」

「はぁい▽ わかりまひたごひゅじんひゃまぁ。ちゅぷっ! じゅぷっ!」

 懸命に頭をピストン運動する一年。……まあ少しはよくなったか。俺は肘おきに頬杖をついて部屋の中を見渡した。

 生徒会室は、ファイルがきっちりと整頓され、すべてが整然と並んでいる。もとの主の性格がよくわかるというものだ。

 俺は最後にあった時の麗華の顔を思い出した。あいつは頭が切れるし、家も良家だったので利用するために置いてやってもよかったのだが……俺の中の嗜虐心がそれをさせなかった。

 停学になる前に、あいつを首から上だけ正気に戻した後、宣言してやったのだ。

 ――お前は俺の合図で今の人格はきれいさっぱり消え去って、セックスすることしか考えられない狂人になる。

 その時のあいつの顔は見物だった。俺にたいして怒り狂って、必ず復習してやると強がっていた。まあその途中で無慈悲にも合図を下して消してやったが。今頃家の中で家族によって監禁状態らしい。

 麗華や茉理のことは俺がSAIMIN GOに出会ったばっかりだったので、必要なコストだったと割り切ることにしたが、これからはもうちょっと慎重に──小笠原光莉を前面に立てて、いざなにかあってもこいつを切り捨てられるように──振る舞うとしよう。

「わかった、下がっていいぞ」

「はい」

 鹿木はあっさりとひき下がったが、光莉はその場でもじもじとしている。

「ん? どうした、もう言っていいぞ」

 すると、光莉は顔を赤らめながらも、以前のこいつなら死んでも口にしなかったであろうことを言った。

「あの……おまんこしていただけませんか」

「あん? 俺に指図すんのか?」

「ごめんなさい、そういうわけじゃ……」

「チンポほしかったらさっさと学校の奴全員永久所有マインドにしろカス」

 俺はじゃけんに手を振って光莉を追い出した。どう扱おうと裏切る心配はない。なんせあいつは俺の所有物なのだから。



「……はぁ」

 部屋を出た光莉は、ドアに背をもたれかけさせてため息をついた。

(ああ……ご主人様ぁ)

 胸の前で手を組む。それだけ見るとただの恋に悩む乙女だが、同時に股間から愛液がしたたって床に斑点をつくる。

(ああおっしゃったけど、ご主人様はそのうちハメてくださる……だってお優しいもの。でも、それだけじゃ……)

 総介の所有物になって、光莉は自分について新しく発見したことがあった。それは自分がおもいのほか嫉妬深いということであった。

(わたしも……ご主人様の赤ちゃんがほしいよっ)

 光莉の脳内に、総介の子を妊娠した親友のことが浮かんだ。

 総介は堕ろすという選択肢を持たなかったので、茉理は総介の子を早晩出産する。これは今の光莉にとってはたまらなく羨ましく、ねたましい事実だった。

(まつりは妊娠で停学になっちゃったけど、わたしにはSAIMIN GOがある)

 アプリの力があれば、妊娠しようが犯罪を犯そうが自分が停学になる心配はない。

 自分の欲望のためにマインドボールを使うこと、それによって総介の野望の達成が遅れることについては悩みに悩んだ。しかしそれでもこの欲望は抑えきれないのだ。あらゆる枷を越えた、生物としての本能に光莉は抗えなかった。

 しかし根本的な部分に問題があった。

(なんで妊娠しないんだろう)

 そう、総介の完全所有マインドになる以前から今まで、一切の避妊無しで無数に膣内出しされてきたが、いまだに光莉は妊娠していない。

 そもそも生殖機能に問題があるのではないかという懸念をおぼえ、一度産婦人科にも行ってみたが全く異常はなし。

 ならば何が問題なのだろうと、ネットでいろいろ調べていたところで見つけたのが心理療法というものであった。

 簡単に言うなら、精神的なケアで身体を妊娠可能な状態に持って行くという不妊治療の一つである。それを見つけたときの光莉の感想は、ごく単純なものだった。

 自分ならはるかに手軽に、心理療法を実行できるじゃないか。

「…………よしっ」

 光莉は意を決して、ドアから背を離して歩き出した。

 前々から考えていた方法を今日実行する。そう決心した光莉の足取りは力強い。

 二年の教室で、捕獲済みの女子生徒を一人呼び出す。人があまり来ない廊下の隅で、光莉はその生徒に自分のスマホを見せて手順を説明しはじめた。

「……このカーソルを小笠原さんに向けて、ボールをはじけばいいの?」

「うん、それで、その後に命令ってところタップして、『妊娠できるようになれ』って打ち込んで」

 一通り説明を終えると、光莉は女子生徒からわずかに離れた。

 自分にSAIMIN GOを使用する。

(これで、わたしは自分に妊娠できるという暗示をかける……!)

 精神的な部分で身体が変化するなら、この方法も有効なはずだ。光莉は唾を飲み込んだ。

「じゃあいくよー」

 女子生徒の言葉に光莉は頷いた。

(ご主人様の邪魔にならないように、卒業までに出産するには今のタイミングしかないの!)

 拳を握って立つ光莉と、指示されたとおりにスマホを操作する女子生徒。

「これで……ボールえいっ」

 光莉の説明通りにボールをスワイプした女子生徒は、画面を見て首をかしげた。光莉に向かって投げたはずのボールが消え、画面に新たなメッセージが現れたのだ。

【エラー。アプリ所有者のマインドが他のアプリ所有者の永久所有マインドになっています。フォーマットを実行しますか? YES/NO】

「? どうし──」

 光莉の言葉が終わるよりも早く、なんとはなしに画面に触れた女子生徒の指がYESをタップする。

 その瞬間。全ての催眠から解き放たれた光莉の脳裏に、今まで総介に行われた全ての行為が流れ込んできた。

「ッ──」

 あまりのおぞましさ。あまりの屈辱。記憶に身体が拒否反応を起こし、どっと脂汗が吹き出て内臓が痙攣する。光莉はひどい吐き気を感じて、壁によりかかるように座り込んだ。

「えっ、光莉さん大丈夫!?」

「だ、大丈夫だから、スマホかえしてっ」

 女子生徒からスマホをひったくるように受け取ると、光莉はよたよたとその場を立ち去った。そのままトイレへかけこみ、胃の中身を便器にぶちまける。

「げほっ! うえっ」

 全身がまるで泥の中につかっているように、冷たく思い。頭がガンガン痛み、世界が回転しているように感じる。

 昼食をすべてはき出してもしばらくえづきは止まらなかった。

「ううっ、こんな……こんなっ」

 あの男の身体の感触、におい、味、全てが鮮明に思い出されてしまう。喉を焼く胃液の苦みが逆にありがたかった。

 今すぐ家に帰ってシャワーを浴びて歯を磨きたい。なんなら身体の中身全てを取り替えてしまいたい。

 光莉が口をすすいでトイレから出ると、廊下にいた生徒が駆け寄ってきた。以前光莉が永久所有マインドにした生徒だ。

「小笠原さん、ご主人様がお呼びです」

 光莉の動悸が激しくなる。

 自分をおもちゃにしたあの男、豚田総介。心の底からおそろしい。

(でも、これはチャンス!)

 総介の隙をつけるのは今しかないかもしれない。少しでも間を置いてしまえば、あの卑劣な男には勝てないだろう。

 光莉は震える足で生徒会室に向かった。

「失礼します」

 自分の声が震えてないことを祈りながら、生徒会室に入る。総介に見えないようにスマホを後ろ手に握りしめている。SAIMIN GOはもう立ち上げ済みだ。

 総介は光莉が退室したときと同じ姿勢のままだ。足下には先ほど奉仕していた一年女子が横たわっている。彼女の女性器から白濁液が溢れているのを見て、光莉の心に闘争心がわき上がってきた。

「お呼びですか、ご主人様」

「やっぱコイツじゃ気持ちよくねえわ。お前がマンコで奉仕しろ」

 そう言って総介は椅子の背もたれにいっそう寄りかかった。肥満体の体重を預かったパイプ椅子が悲鳴を上げる。

(よし、バレてない──!)

 どのみち、催眠が解けたのを隠して抱かれるなど不可能だ。光莉は覚悟を決めた。

「あれ? ご主人様、あれはなんでしょう」

 そう言って光莉は総介の背後の窓を指さした。

「あ? どうした」

 総介が振り返って外を見る。しかし何もない。

(いまっ!)

 光莉はスマホを向けて、総介にカーソルを合わせる。

(くらえっ!)

 狙い定めてボールを投げつけた。ボールは完璧な軌道をえがいて総介に向かってとび──はじかれる。

「ええっ!?」

 思わず声を上げてしまう光莉。それを聞いた総介がこちらに目を戻した。光莉はあわててボールを二度、三度と投げつけるが全てはじかれる。

 ぽかんとそれを見ていた総介だったが、その顔が憤怒の形相に変わった。

「てめえ! 催眠が解けてんのか!? いったいなんで──」

 総介の言葉に構わず光莉は死にものぐるいでボールを投げる。四度、五度。

「くそっ! 俺のスマホどこだ……」

 総介が慌てて脱ぎ捨てたズボンを探るが取り出せない。しかし光莉が手間取っているとみるや、スマホを諦め直接光莉につかみかかってこようとする。

「このアマ! スマホよこしやがれッ」

「石川さん! 足おさえて!」

 光莉の言葉に倒れていた一年女子が反応する。総介の足を咄嗟に掴んだ。総介は光莉の目の前で無様に地面に転がる。

「うげっ! この……肉便器の分際でよぉ! 離せっ!」

 一年女子は総介の命令を聞かない。なぜなら彼女は光莉の所有マインドだからだ。

「このっ! このっ!」

 女子の顔を躊躇なく蹴りつける総介。三度目の蹴りをみまおうとしたところで、その身体がびくんと大きく痙攣する。そして目が光を失い、ぐったりと身体は動きを止めた。

 光莉のスマホには短いメッセージ。

『おめでとう、君はマインドをゲットしたぞ!』

 それをみながら光莉は半ば呆然と立ち尽くした。

「やっ、た、の……?」

 その言葉に応える者はいない。ただ、うつろな目で地面に横たわる総介が、光莉の勝利を示していた。

 ついに茉理や麗華、他大勢の人生をめちゃくちゃにした、この人の姿をした怪物を捕らえたのだ。

 

「おはようございます、会長!」

「うん、おはよう」

 下級生の挨拶に、光莉は笑顔で返した。

 SAIMIN GO事件から一年。光莉は三年になっていた。

 あの後、総介を支配した光莉は事態の収拾に追われることになった。このアプリの存在を知られず、できるだけ被害に遭った生徒に傷を負わせないようにしなければいけなかったのだ。

 光莉が選んだ方法は、総介がもくろんだように学校中の人間をSAIMIN GOの支配下におくというものだった。

 総介のアプリを消去し、さらに数ヶ月かけて全生徒達の記憶を一部書き換えて、SAIMIN GOの行わせた行為をなかったことにした。

 自分が配信してしまったオナニー画像も、生徒達が保存しているものは消させた。配信動画は世界中に出回ってしまったが、これはもうどうしようもないものと光莉は覚悟を決めた。

 さらに麗華の家の人間も支配下に置き、麗華を病気で退学したという、できるだけ影響の少ない形で社会復帰させた。生徒達と同じように記憶を操作された麗華は、大学受験資格を取り一年遅れで大学受験するそうだ。彼女なら一年のブランクを苦にはしないだろう。

「おーっす会長」

 挨拶と共に肩を叩かれる。

「まつり、会長はやめてって」

「にひひっ」

「晶ちゃん元気?」

「うん。見る見るー?」

 晶というのは、茉理の子供の名だ。

 茉理は早い段階で総介の子供を妊娠していた。SAIMIN GOの力でも、一度授かった命はどうにもならない。茉理が望んだ子ではないとはいえ、子供を堕ろさせるという判断は光莉にはできなかった。

 なので茉理と茉理の家族もアプリで支配し、やはり記憶を操作した。茉理が男とつきあったが、その男には逃げられたという設定だ。交際経験のない光莉には、それ以上の案は思いつかなかった。

「かわいいっしょー」

「わぁ、おおきくなったね」

 晶は茉理が学校に行ってる間は、茉理の両親が面倒を見ている。

「でしょでしょー。世界一のイケメン」

「親ばかだなぁ……」

「もうあたし、晶以外の男なんて一生いーらない!」

「あはは……」

 過去(植え付けられた偽の記憶だが)の辛さを引きずらない茉理の明るさが、ただ一人真実を知る光莉の心の痛みを和らげてくれる。

「じゃあわたしは生徒会室いくから」

「うん、またあとで」

 茉理と別れて、光莉は生徒会室へ向かった。新三年になった光莉は、生徒会選挙で二三年の絶対的指示の元、生徒会長に当選した。

 なぜ忌まわしい思い出のこもった生徒会室で仕事をすることを選んだのか。それには光莉の負った傷に理由があった。

 ガチャリ。生徒会室に光莉が入ると、すでに副会長と書記が書類作業をしていた。

「おはよう」

「おはようございます、会長」

 光莉は部屋の奥の席に行くと、スマホを取り出した。その頬はわずかに上気している。

「二人とも『私のしてることに違和感を覚えないで』ね」

「会長、なにか言いました?」

「ううん。構わず続けて」

 そう言いながら、光莉はスカートの裾に手を入れた。そしてパンティーを脱ぐ。その生地はすでにじっとりと濡れている。

光莉はスカートをまくり上げ、足を大きく開いて陰部を露わにした。光莉の女性器を目にしても、副会長も書記も目立った反応は見せない。そう命じられているからだ。

「ああっ、もうこんなにっ」

 光莉はそう言いながら指を膣口にゆっくりと潜り込ませる。ちゅくっといやらしい音がなった。

 総介の支配から解放された後も、光莉に残った傷跡がこれだった。

「うあっ、見てっ……わたしのおまんこっ!」

 そう言って足をできるだけ開いて、肛門まで見えるようにして指で女性器をかきまわす。

 SAIMIN GOの影響はなくなっても、身体に刻み込まれた快楽は消えることはない。光莉は他人の視線を感じながらオナニーをしないと生きていけない身体になっていた。

 オナニーだけではない。家に帰れば、光莉は弟の月浩とセックスをしている。月浩の肛門を舐め、ペニスをしゃぶり、そして交わる。そして行為が終われば記憶を消して、また姉弟にもどるのだ。総介が穢したなかでただ一人、光莉だけがその影響から逃れることができずに生きていた。



「ふぁ……」

 やっとこさ夜勤から解放された俺は、思いっきりあくびをした。すれ違ったサラリーマンが一瞬胸元に目をやったので、勤務先の名札を首にかけっぱなしなのに気づいた。

 無地の白紙に『豚田 総介』と、ただのゴシック体で書かれた安っぽい札を、首から外してポケットにねじ込む。そして朝飯を調達しにコンビニに入った。

「カップ麺でいいか……」

 自炊する元気などない。学校を退学になって以来、警備員のバイトに俺は疲れ切っていた。

 その時俺は自分のいる商品棚に、OLがやってきたのに気づいた。そのOLはやはりカップ麺を探しているようで、俺の方に歩いてくる。俺の心に言いようのない恐怖がわき上がった。

 慌てて俺は逆方向から商品棚を抜けて、雑誌コーナーに移動する。そして息を荒くして高まった動悸をなんとか鎮めることに努めた。

 ……いったいなんでこんなことになっちまったんだ?

 俺は一年前に盗撮がバレて、学校を退学になった。そしてそれと同時に、重度の女性恐怖症にかかってしまったのだ。そしてインポにもなった。心療内科にもかかってみたが、藪医者どもは心因性のものだとかどうとか、役にも立たないことしか言わなかった。

(女を脳内で犯すことが俺の生きがいだったのによ……)

 いまや女のことを考えるだけでも、胃がきゅっと締め付けられるようなストレスを感じる。

(帰って、メシくって寝るか……)

 性欲こそが俺の生きる活力だったのに、それがなくなった今、俺はただの生きる屍だ。

「637円になります」

「あ……こ、コレで」

 俺はレジでスマホの支払い機能で会計を済ます。今レジをうっている女を脳内で犯すために昔はわざと来てたものだが。今や顔を見ることもできない。釣りを手渡しされるのも怖いのでスマホで払えるのはありがたい限りだ。

 俺はそそくさとコンビニを出た。そしてチャージ金額の残りを確認しようとスマホ画面を見て──覚えのないアプリが入っているのに気づいた。

「あ? さいみん……ごー?」 

 どうやら寝ぼけて落としたらしい。新しいエロアプリだろうか。

「くそ、通信料厳しいってのによ」

 性欲の消えた俺には全く興味がわかない代物だったが、ドケチ根性がそのアプリを起動させた。単純に楽しめる部分があればいいんだが。

 少しのロード時間の後、ゲームが始まると思ったら、タイトル画面に被さる形でメッセージが現れた。

【以前のマインド状況を引き継ぎますか?】

「なんだこりゃ……以前なんてねーよ馬鹿」

 そう言って俺は【NO】を押した。すると【マインドを新規プレイ状態にフォーマットしています……】という新たなメッセージが出ると同時に、すさまじい不快感が俺を襲う。

「うげえっ!」

 頭の中をグルグルかき回されるような、強烈な気分の悪さ。俺はその場で四つん這いになって嘔吐した。

「おげっ……ぐえっ」

 えづきながらも、俺の脳みその中で劇的な変化が起こっていた。かつての俺──いや、本来の俺の復活。SAIMIN GO。そして小笠原光莉。

 コンビニ前で倒れている俺に、店員が声をかけてきた。

「だ、大丈夫ですか?」

 記憶の混乱が収まった俺は、なんとか立ち上がってその場を離れた。

「ハァ、ハァー」

(思い出したぜ……全てをなァ!)

 催眠から解き放たれた俺の心は怒りで埋め尽くされていた。

(小笠原光莉よぉ! 俺を、この俺を好き勝手にもてあそびやがって! 許さねえ!)

 今すぐに学校に突っ込んで、あの女を犯したい。しかしそれは無謀だろう。何故かというと、SAIMIN GOの所有者のマインドを捕獲するには彼我のレベル差が重要になるからだ。

 前に光莉に支配されたとき、あいつはなかなか俺を捕らえることができなかった。それは俺がアプリをよく使っていて、光莉よりレベルが高かったからだ。しかし今は俺のレベルは新規ユーザー扱いなので一。対するあいつは一年以上のプレイ経験がある。

(策を弄するしかねえ)

 俺は早速ボールを集めるために、その場を後にしたのだった。


「じゃあお先にー」

 生徒会室から出た光莉は、扉の横で立っている茉理に声をかけた。

「ごめん、お待たせ」

「おー。毎日ごくろーさんですのぅ」

「わざわざ待っててくれてなくていいのに。晶ちゃんの世話あるでしょ」

 ここ数日、二人は昔のように一緒に下校していた。

「大丈夫だよ。お母さんが見ててくれるもん」

 そう言って茉理はにかっと笑った。

「そっか。でも茉理と一緒に帰れてうれしいな。あれ? 茉理携帯変えた?」

「うん、ちょっとね」

 学校を出て歩く二人。前を歩く光莉と、後をついて歩く茉理。

(前はわたしがまつりの後をついて歩いてたんだけどな)

 茉理が母になって落ち着いたのだろうか。それとも自分が変わったのだろうか。光莉は一抹の寂しさを覚えた。

(大学生かあ……まつりも大学、行けるようにしてもらえるといいな)

「ねえ、まつ──」

 光莉が急に振り向いたので、反応できなかったのだろう。

 光莉は見た。茉理が、うつろな目でこちらにスマホを向けているのを。その瞬間光莉の心に完全な隙ができ──光莉の精神はボールに捕らわれた。

 どこかで見ていたのだろう。総介が現れて、茉理からスマホを受け取る。

「あぶねえところだったぜ……どうせ一度こいつに支配された身だから、一か八かにかけて桑原に捕まえる役をまかせたが正解だったな。紙一重だったが──今度こそ本当に俺の勝ちだ」

 総介はそう言って、スマホをいじった。

「命令はこうで解放、と」

 言葉と共に光莉は我に返った。

「ッ──! あなた──うっ!」

 総介を見たとたん、心に愛情があふれかえってくる。

「どうした? 小笠原、久しぶりじゃねぇか」

 豚田の、肉がたるんだ醜悪な顔。その分厚い唇に今すぐ吸い付きたい。

「やっ……ちが、ああっ」

 彼の胸に飛び込みたくてしょうがない。光莉の理性が警告している。これはSAIMIN GOに植え付けられた愛情だ。

(こいつは、豚田君はひどいやつなのッ! みんなを、まつりを、わたしをひどい目に遭わせたやつなのにっ!)

「どうした? なんか言いたいなら言ってみろよ」

(負けるなわたしっ! やっと全部終わらせたのにッ、いまさらこんな、アプリなんかにぃっ!)

「あ、あのっ!」

「なんだ?」

「だいすきですっ▽」

 理性は圧倒的な感情に押し流された。

「そうか、俺のことが好きか」

「ああっ、好き、大好き、愛してますっ」

 もう自分にはこの人しか見えない。これはアプリの力で、彼は自分を操って親友を傷つける人間だけど、それでも全てを彼に捧げたい。

「んじゃ、俺にしたことをここでわびろ。土下座しろ」

 次の瞬間光莉はまよわずアスファルトの上に土下座した。

「ごめんなさいっ! 豚田君、わたしが馬鹿だったのっ! ううっ、許してくださいっ!」

 光莉はアスファルトに額をこすりつけながら号泣した。彼に嫌われるくらいなら死んだ方がましだ。心からそう思った。

「靴を舐めろ」

「はいっ! ぺろっ、ちゅぱっ!」

 光莉は総介の汚い革靴を必死で舐めた。彼に身体の一部が触れられるというだけで、光莉の心は歓喜で満たされる。

「よし、もういいぞ。んじゃ立ってパンツを脱いでケツをこっちに向けろ」

「はい、ただいまっ!」

 光莉は住宅街の真ん中で迷わずにパンティーを脱ぎ捨てると、塀に手をついて尻を総介に突き出した。

「お前の気持ちはわかった。その心に免じて俺の子供を孕ませてやるよ。孕むだろ?」

「はいっ! 豚田君の赤ちゃん、孕みますっ! ありがとうございますっ!」

 光莉はあまりの歓喜で失神しないように自分を懸命に律しながらも、身体が完全に受精する体勢に入ったことを感じていた。

「そんじゃ……いく、ぜえっ!」

 膣口に亀頭が押し当てられたかと思うと、ペニスが一気に光莉を貫く。

「────▽▽▽」

 脳が焼き切れそうな快感。がくがくと身を震わせながら、光莉は確信した。

(わたしは豚田君におまんこしてもらうために産まれてきたんだ)

「おらっ、入れただけでイってんじゃねえっ! こちとら一年間射精無しで生かされてきたんだっ!)

 ぱんっぱんっぱんっ!

「ひィっ! ああっ▽ ひあうっ!」

 あまりに大量の愛液が結合部からこぼれ落ちて、アスファルトを濡らす。光莉の歯がガチガチと鳴る。

「おらおらっ! 何が生徒会長だっ! この豚がっ!」

 ぱんっ! ぱんぱんっ!

「あひいィッ▽ すみませんッ▽ 豚なのに会長なんて調子乗ってすみましぇんっ▽」

「お前なんざ死ねっ! 俺のガキひりだして死ねッ!」

 ぱんぱんぱんぱんぱんっ

「ひぃぃっ! 死にましゅっ! 豚田君の赤ちゃん、まんこからひり出して死にましゅうう▽」

 彼の赤ちゃんを産んだらそれこそ幸せすぎて死んでもおかしくない。光莉は息も絶え絶えになりながら、ぼんやりとそう思った。

「んじゃ出すぞっ! 路上で孕めやっ!」

 声と共に、光莉の子宮に一年分の特濃ザーメンが放たれる。

「ッッッッぐうぅーーーッ!」

 引きつるような声を上げて、背を力の限りそらせて、光莉は絶頂した。

(わたし……にん、しんしたぁ▽)

 そんな実感を覚えつつ、光莉の意識は混濁した澱みに沈んでいった。



わたしは気づくと、人混みの中を歩いていた。

 身体が火照っている。快感を感じているからだ。

 なぜなら、道行く人がみんな、わたしを見ているから。

 なんで見られてるの? だってわたしは今、完全なはだかで、渋谷のストリートを歩いているんだもの。

「うわ……なにあれ」

「マジ? 撮影?」

「やべー、めっちゃかわいいじゃん」

 そんな声と共に、スマホのカメラがわたしに向けられ、カシャカシャと音がする。その音を聞いてわたしは嬉しくなってしまった。

 だってわたし、小笠原光莉は『露出狂で、見られれば見られるほど興奮するど変態』だから。そういうことになってるから。

 お腹にはマジックで名前が書かれている。わたしのこの姿はすぐにSNSで拡散されるだろう。それを考えただけでイってしまいそうになる。

 危ない危ない。イっちゃうまえにやるべきことをやらなきゃ。

 わたしは立ち止まり、周りに人だかりができているのを確認すると、選手宣誓をするように手を上げた。

「はいっ☆ わたし、私立昭府学園三年A組、小笠原光莉は今からおしっこをしまーす☆ みなさん是非見てくださいね▽」

「え、昭府ってあの進学校の?」

「あ、あのこ前オナニー配信してたJKじゃね?」

「変態過ぎだろ」

 わたしはみんなの話し声にに構わず、がに股になって腰を突き出した。そして軽く力を込めた。

 最初にぴゅるっと少しだけおしっこが出て、その後すぐに黄色い放物線が道に飛んだ。じょぼじょぼと音が響く。

「うわぁ、マジで出してるよ」

「さいてー」

 いろいろな言葉が聞こえる。わたしのおしっこを見てもらってる。気持ちよすぎていっちゃいそう。でも、まだだめ。

「ふうっ……」

 おしっこを出し尽くしたわたしは、その場にしゃがみ込み、足を大きく開いた。わたしが次に何をするかわかった周りの人たちからどよめきが起きる。

「小笠原光莉、これからごくぶとウンコをケツ穴からひりだしますっ☆ どうぞご覧くださいっ!」

 間髪入れずわたしはおおきくいきんだ。

 ぷぅ〜っ

 あたりにおならの音が響く。普通の人ならたまらなく恥ずかしいのだろうけど。わたしにはおならの音を聞かれるのはご褒美だ。

「ん〜〜〜、んん〜〜〜〜」

 おしりの穴からウンコが出てきたのがわかる。わたしは動画を撮ってる人たちのために、できるだけ腰を浮かせて、ゆっくりとウンコをひりだしていく。

 ぶび、ぶぴっ

 ガスを漏らしながら、大勢の人の前でするウンコ。なんて気持ちいいの。わたしは自分の顔がだらしなく緩んでいるのがわかった。この顔もSNSに流れちゃうんだ。

 ぶりっ、ぶりりっ。

 一週間ため込んだウンコは、信じられないくらいたっぷり出た。ダイコンみたいな太さのウンコが二本。わたしは最後の一塊をだそうと、渾身の力をこめる。腸をウンコが押し出される感覚と、周りの人の視線で、わたしの我慢はついに限界を越えた。下腹で快感がスパークするのを感じて、わたしは声を上げる。

「ああっ、イく、イきますっ▽ 小笠原光莉、ウンコ見られながらイきますのでっ」

 そして最後の塊が、ぶびぃっという汚い音と共に排泄される。同時にわたしは絶頂に打ち上げられた。

「イくぅ────▽」

 快感に意識が遠くなる。人混みをかき分けながら、警察官の人たちが駆け寄ってくるのを見ながら、わたしは失神した。

 ──わたしの人生、終わったなぁ。





 俺、豚田総介は校舎の屋上でぼんやりしていた。

 光莉との戦いに勝利した今、この学園は俺の者だ。光莉は渋谷で公衆面前排泄させた後、正気を奪って家に幽閉させた。小笠原家は家族全員をSAIMIN GOで支配しているので、弟とひたすらセックスづけの毎日を送らせている。そういや出産すると同時に死ねと命令したが、実際死ぬのだろうか。まあ俺の知ったことではないが。光莉の携帯は俺の手元にあるし、あいつはもう二度とまともな人生を送ることはできない。

 安全な俺の王国の創造。すばらしい偉業を達成したはずだが、なぜか俺の心は虚無感に包まれていた。

 なぜだ。

 いや、理由はわかっている。なぜなら、今の俺の状況は、誰か見知らぬ人間の掌の上だということがわかっているからだ。

 SAIMIN GOはネットアプリである以上、これを開発した人間がいる。そしてそいつは、俺の動向を完璧に把握しているのだ。いつのまにか俺のスマホにSAIMIN GOを二回も仕込んでいたのがその証拠だ。

 どれだけ俺がSAIMIN GOで王国を拡げようが、そいつから逃げ出すことはできない。それどころか、俺はいつアプリがそいつによって消されるかに怯えながら生きていかなければいけないのだ。

「……くだんね」

 俺は、ゆっくりと屋上の端に歩いて行く。

 思えばつまらない人生だった。そこから脱却できたと思ったが、それすら他人のしいたレールの上とは。俺はもう疲れてしまったのだ。

 ゆっくりと転落防止策を越えた。

 目の前には。何もない。

 下を見て、俺はちょっと笑った。この学校は全員支配下だから、こんなことをしても騒ぐ人間もいない。

「最後まで一人とは俺らしくていいってもんだ」

 そう言った後、俺はスマホを取り出してSAIMIN GOを起動した。そして画面に向かって呟く。

「なんでもかんでも、思い通りにいくと考えてるのかもしんねえが、俺はそんな甘かねぇんだよ。──あばよ」

 

 そして俺は、宙に身を躍らせた。





「……あ?」

 完全に身体が支えを失った瞬間。俺は我にかえった。

 ──ちょっと待てよ! さっきまで俺は何を考えたんだ! そんなこと欠片も思ってねえ!

 慌ててなにかを掴もうとしたが、無情にも手は空を切る。そして身体が重力に引かれて落ち始める。

 ──やめてくれ、助けてくれ。まだ死にたくねえ、アプリで好き勝手やりたいんだ、誰か、誰か。

 地面がみるみる近づいてくる。

 ──ちくしょう、こんなの人間のやることじゃねえ、一体誰だ、顔も見せねえで人を殺そうってのか。

 もう地面は目の前だ。刹那。俺の脳裏にいくつかの言葉が浮かんだ。

 ──まさか。コンビニ。スマホで支払う機械。レジをうってた――――。

 
 
< 完 >


 

 

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