催淫師


 

 

始動編(1)


 割と格好良い一人の少年が市役所の建物を見上げていた。彼は昨日この雨桶市にやってきたばかりなのである。だからと言って、別に住民登録をしに来たという訳ではない。
「思ってたよりも・・・大きいな」
 その少年、啓人は誰ともなく呟いた。雨桶市は広く、人口も二百万人近い。それ故に、ある程度までは予想していたのだが、現実はそれを超えていた。どんなに低く見たとしても三十階はある。
(やれやれ・・・思ったよりも苦労しそうだ)
 そう思いながら、啓人は現実にメゲずに、中へ入っていく。

 扉を開けると、入り口付近で立ち止まり辺りをきょろきょろと見回した。建物の中をざっとチェックする。
(う〜ん・・・めぼしい女はいないなぁ・・・)
 それが啓人の感想であった。生憎と、女子職員の中には啓人のタイプの女性は皆無であった。それに職員以外はほとんど人はいない。
(それじゃ、さっさと済ませるか)
 此処に来た本当の目的を、である。彼は少しずつ妖気を開放し始める。此処でなら誰が妖気を発したかなど特定される恐れは無いのだが、それでも感知され難いようにゆっくりとする。それに伴い、建物の中だけでなく、その周辺にも霧が立ち込め始める。全体の半分まで覆い尽くすようになると、流石に他の者も霧に気がつき始める。
「あれ?霧だ・・・今頃・・・何で此処に」
 そんな声が所々でするようになると、一気に力を解放する。それにつれ、人々の動作が緩慢になっていく。そして霧は啓人が狙った地域全部を覆い尽くす。
「いつやっても疲れるんだよな・・・」
 誰も聞いている物が無い中、一人でぼやきつつも妖力をどんどん放出し、制御する。この作業には膨大な精神力が必要とされる。今、啓人が発生させた妖霧の中にいる人々は一種のトランス状態に陥っている。これは妖力を強制的に相手の体内(正確に言うとこの場合は頭)に送り込み、相手を洗脳して操る術である。数人相手でも同時に洗脳出来る代わりに、疲労が激しい上に割と簡単に打ち破ることが出来る。実はもう一つ、方法があるのだがそれはこの術とは逆で、強力な代わりに一人一人にしか施せない。啓人は精神疲労より、時間の消費を嫌ったのだ。
「にしても、今日はやけに人が多いな・・・て言うか、今日は土曜日だったな。何で此処は開いてるんだ?」
 普通、市役所は土日が休日だった事にやっと気付く啓人。実は、今日開く代わりに月曜日を振り替え休日にすると発表されていた。その事を千鶴に聞かされてやって来たの筈なのだが、その点をサッパリ忘れている啓人であった。ついでに言うと啓人は妖力を利用して人や物の数を正確に探知できる。一人の人間の位置を特定するだけならその必要は無いが。
「ま、何か虫の良すぎる展開だが俺には好都合である事は確かだ」
 またしても呟くが、次の瞬間雰囲気も表情もガラリと変えた。のほほ〜んとした雰囲気は微塵も見えない。
「我、この刻をもって汝等が主とならん。我が声を聞き、我が命に従え」
 厳かな声でそう命令した。口には出したが、この命令は聴覚を通さずに直接脳に働きかけられる。
「・・・いつ言っても格好悪いよ、この詠唱・・・」
 そうぼやく少年の雰囲気は入って来た時と同じものであった。取り敢えず、幾つかの指示を出した後啓人は市役所を後にした。
「次は高校か・・・どんな所かなって昨日も言ったか・・・」
 自分でツッコミを入れるのは癖である。側にいる者が決してツッコまない為だ。


「私が学年主任の種森だ。そして、こちらが君の担任になられる重谷先生だ」
「冴草啓人です。宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくな」
 そう言って握手する。表面上は穏やかに話は進められていくが、啓人はほとんど話を聞いていない。今の展開が不満だからだ。
(何で‘男’なんだよ?こういう時は美人の女教師っていうのが‘お約束’なのに)
 顔にこそ出さないが、かなり機嫌が悪い。
「・・・冴草君?」
「あ、はい何ですか?」
 目の前の男共の事を忘れかけていたけいと。いやいやながら目を向ける。
「だから、住所や連絡先を書いた書類はどうしたんだね?」
「すいません・・・忘れました」
 恥ずかしそうに、そして如何にも済まなそうな顔をする。
「家庭訪問や親御さんとの進路相談もある事だし・・・早く持ってきてくれ」
 この事を聞くと、書類の一部を忘れたように聞こえるが、実は啓人は‘手ぶら’であった。
「でも・・・両親はすでに他界しましたし・・・」
 今度は心底悲しそうな顔をして俯いた。 
「それは・・・済まなかった」
「知らなかったとはいえ済まない」
 バツが悪そうに謝る二人。
「気にしないで下さい。吹っ切れてますから」
 そう言って弱々しく微笑む。無論、これは啓人の演技である。多才な啓人は俳優も舌を巻く演技力を身に付けている。
「月曜日には必ず持ってきてくれよ」
「分かりました」
 こうして二人の教師と啓人は別れた。
(ふっ、楽勝♪)
 自分の演技力にご満悦の啓人であった。
 校門を出ると、携帯を取り出す。
「もしもし千鶴か?リストアップは出来たか?・・・そうか」
 千鶴が
「はい」
 と言うのを聞くとあっさりと電話を切る。
「ヒマだから散歩でもして帰ろ」


 啓人が帰宅にしたのは七時まえであった。
「お帰りなさいませ」
 まるで分かっていたかのようなタイミングで千鶴が出て来て声を掛ける。
「今日はスキヤキ」 
「かしこまりました。用意が出来るまで、リストの方を御覧下さい」
 何も言わず手渡された紙を持って部屋に向かう啓人を礼をして見送る。キッチンに向かうと黙って佇んでいた魅矢が話し掛けてきた。
「啓人様、何かご機嫌斜めじゃなかったか?」
 啓人が外出している間は、大抵二人きりだったので、言葉を交わすようになったのだが、別に仲良くは無い。
「多分、担任の教師が男性だったのでしょう」
「ハァ!?」
 あっさりと理由を指摘する千鶴とそれに思わず呆けた声を出してしまう魅矢。
「そ、そうなのか?」
「・・・恐らくは」
「そんな事も分かるのか・・・」
 それが精一杯の言葉。いくら付き合いが長いと言っても中々難しい事である。
(そんな、何を当たり前の事をって顔をされても・・・啓人様の心情は察し難いというのに)
 呆れるしかない魅矢。  
「そ、それよりスキヤキの材料はどうするんだ?」
 話を変わる魅矢。それに対して千鶴は答えず、冷蔵庫を開ける。それを見た魅矢は今度こそ絶句した。
(・・・よ、用意してある・・・・・・)
 魅矢の視線の先には一人分のスキヤキの材料がキチンと並んでいた。
(い、一体・・・何時の間に・・・・・・そ、そうか!)
 館の掃除がある程度済んだ時、買い物に行くと言って出て行ったのだ。きっとその時にでも買ったのだろう。
(この女・・・侮り難い・・・)
 千鶴の恐ろしさを再認識させられた魅矢であった。


 食事が終わると、啓人は再び外出した。リストの中から選んだ相手の所へ行く為に。
(えー柳浜理乃、現在二十六歳。この若さにして高級マンションのオーナー。かと言ってパトロンの影は無し。資産家の娘だが、中々優秀である、と)
 リストに書かれていた内容の復習中であった。
(にしても・・・いつもいつもどうやって調べてくるんだアイツ?)
 勿論千鶴の事である。頼んだ事は探偵顔負けの早さと正確さで調べてくるのだが、一体どうやって調べてくるのか啓人も知らない。
(まあいいか。今のトコ特に問題ないし)
 そう斬って捨てる啓人はかなりいい加減・・・もとい大物である。
「やっと見えてきたか」
 約四十分歩いた後、ようやく目的の建物が見えてきた。赤いレンガ造りで、趣味もよく、如何にも高級という感じであった。立地条件や広さを考えると二億くらいはするだろう。
「じゃあ不法侵入といくか」
 不敵な笑みを浮かべて大胆に宣言をした。・・・但し誰も聞いていないが。正面玄関の扉へと進む。当然内側からしか開かないようになっている。啓人は手で触れ扉全体に妖気を送り込む。扉はあっさりと開いたが、セキュリティは全く反応しなかった。真っ先に啓人は郵便受けの確認に行った。
(二十階、最上階か。・・・他に名前が入っていないって事は、一人でフロア全域を所有しているのか?)
 もしそういう事なら、再び力を使う必要がある。
(やれやれ・・・今日は意外と厄日か?)
 ぼやきつつもエレベーターに乗る。二十階のボタンを押すと目を閉じた。
 チン、という音がしてエレベーターが二十階で止まった。
「え〜と、一番奥の部屋だな」
 期待十分で向かう啓人。頭の中で写真で見た柳浜理乃の顔を浮かべる。
【黒く艶やかなボブヘア、知的で大人びた顔立ちは文字通り大和撫子だ。中々気が強そうだが端整な容貌だった】 
 啓人でなくても期待するだろう。何のためらいもなく、インターホンを押した。

(今頃誰かしら?)
 理乃は怪訝に思いながら出ると、見たことの無い少年が立っていた。
「貴方は?」
「初めまして。冴草啓人っていいます」
「・・・引っ越してきたの?私は何も聞いてないけど」
 当たり前の事だが、思いっきり疑わしそうな顔をしている。だが、流石に不法侵入してきたとは思わない。
「・・・ええ、‘悪霊の館’に引っ越してきたんですから」
 当り障りの無い答えを言う啓人だが、内心では動揺していた。
(何で・・・“浴衣”なんだ?)
 そう、彼女は浴衣を着たまま出てきたのである。啓人もこれには驚いた。普通のものよりも厚着だったが、そこは問題じゃなかった。
(この格好で出て来るって事は寝間着じゃないんだよな)
 ガラにもなく考え込む啓人だったが、
(まぁ本人に聞くのが早いな)
 と切り替えた。
「何ですって!?本当なの?」
 理乃は絶句してしまう。が、
「冗談ですよ」
 そう言って笑う。
(からかわれたのね・・・)
 安堵感の方がからかわれた怒りを勝った。
「それに、頼みがありまして」
「頼み?」
 初対面の人間にするとはどういう神経をしているのか?という顔をした。
「初対面の人間に対して図々しいと思っているでしょう?」
 まるで心を見透かしているかのような言葉。にこやかではあるが、どこか人を馬鹿にした様な顔をしている。
「少なくても俺は知っているんです。ウチのメイドが写真を手に入れたのでね」
「一体どうやって!?」
 啓人の予想通り理乃は驚いた。まあ、自分の写真が見知らぬ人間の手に渡ったと知れば、誰でもそうなるのだが。
「さあ、俺にも分からん」
 いきなり口調が変わる。雰囲気も微妙に変わってきている。
(そろそろ実力行使と行こうか) 
 啓人はようやく強硬手段に出る事にした。そこで取った行動は、
「あ!ゴキブリ!」
 とまあ随分古い手段であったが、
「えっ!?どこ?」
 女性には有効であった。理乃がゴキブリを探している間、啓人はチェーンに妖気を送り込んであっさりとこれを外す。理乃に気付かれないように、部屋の中に侵入した。
「どこにいるのよ?」
 と理乃が振り向くと、啓人が中に入ってきておりドアは完全にロックされていた。        
「なっ・・・!貴方、どうやって入ったの?警察を呼ぶわよ?」
「別に構いませんよ。疚しい事は無いですから」
 冷静さを欠いた理乃と、どこまでも冷静な啓人。人を食った態度に最早呆れさえ感じる理乃。啓人はツカツカと歩みより、いきなりキスをした。
「んんっっーー」
 突然キスされて咄嗟に振り解く。案外、簡単に振り解けたのに理乃は体から力が抜けていき、膝から崩れ落ちた。しかも、体中が火照っている。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
 反論を口にする事も出来ず、理乃はただ啓人を睨みつけるだけだった。
「睨むなよ。今から気持ち良くしてやるんだからな」
 そう言うと啓人は理乃を肩に担ぎ、寝室へと進んでいく。理乃を担いでいるのをものともせず、あっさりと見つけるとベットに下ろした。
「さあ、楽しい夜の始まり始まり〜ってさむ・・・」
 またしても自分でツッコミを入れる啓人。最早これはクセとなっている。理乃にとっては、試練の夜とも言えるが、彼女の意思に関係なく快楽の夜と化すだろう・・・・・・






 結局書いた第二弾・・・また色々やってしまいましたが・・・(汗)
 今回は都合によりこれで終わりです。
 タイトルを御覧になればおわかりかと思いますが、次回も多分『導入部』です・・・
 話は進まないし・・・千鶴さんの名字さえ出てこないし・・・考えてあるんですけどね。
 おまけに理乃は性格変わってるし(汗)今回も反省点が多いなって実感してます。
 思い付いたのでキャラ紹介でもやります(↓)


  No.1<冴草 啓人>

  身長178cm体重67kg 血液型 B型  四月生まれの18歳。
  好きな食べ物:千鶴の手料理  嫌いな食べ物:おひたし
  備考:良いのは外見と頭のみ。あらゆる意味での問題児。
  性格は気まぐれで飽きっぽく、基本的に冷淡。計画的な面と無鉄砲な面がある。
  興味の無い事には無関心で、例え記憶の片隅にあったとしても、「知識」として存在しない。
  分かり難いであろうが、一応作者の頭の中に存在するキャラの中でもトップレベルの強さを誇る。
  千鶴に対する感情は微妙である。


 ・・・とまあ、こんな感じです。次々回あたり、稚拙なバトルシーンでも、と予定してます。
 あくまで予定です、それに次は何時書くか分かりませんし。
 少しずつ、面白い作品が作れるようになりたいなぁと思っています・・・
 リクエストが(万が一)もしあれば他のキャラの紹介も書きます(やられ役等除く)。

 


 

 

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