闇の脱走者


 

 

第四話 渡ってきた者


 ザワザワと生徒達が喧噪を作り出す。だが、生徒達は机から離れず、近くの席の相手とこそこそと話をしていた。

「ほーら、静かにしろー」

 担任が一喝する。だが、そんなものは全く効果がなかった。転入生が来るという情報は既に教室中に広まっている。
 見ると、どこから仕入れてきたのか朝休みに大声で叫んでいた馬鹿が偉そうにふんぞり返っていた。
 はあ、と一つため息ついて、担任は騒ぎの沈静化をあきらめると、扉に向かって呼びかける。

「イヴ、ぷ、ぷりーず、かむひあ」

 担任が奇妙な発音で廊下へと声をかける。
 次の瞬間、がらりと音を立てて、ドアが引かれた。おおっと一際大きな歓声が教室に響く。長い金色の髪。きめ細やかな白い陶器のような肌。彫りが深い顔。引くところは引いて、出るところは出るスタイル。そこにはフランス人形のような少女が立っていた。
 少女はてくてくと無駄のない動きで進み、教壇の横へと立つ。それを見届けると担任が黒板に「Eve Arcs」と書いた。

「彼女がこれから君たちと一緒に勉強をするイヴ・アークスさんだ。みんな、仲良くやってくれ。ぷりーず、せるふ、いんとろだくしょん」

 調べたのだろう、カンペを見ながら担任はイヴと呼ばれた少女に声をかける。
 少女は担任に手で合図をするとすっと教室中を見渡した。

「初めまして。イヴ・アークスと申します。初めての日本の学校なので、至らぬ所が沢山あると思いますが、皆様のご教授をお願いします」

 流暢な日本語で喋り、丁寧にお辞儀をする。その姿に誰もが、担任さえも呆気にとられていた。

「先生。私の席はどこなのでしょうか?」
「・・・・・」
「先生?」
「あ、ああ。君の席はあそこだ。あそこの唯咲の隣だ」

 担任は呆気にとられたまま俺を指さす。少女はそれを確認するとてくてくとこっちへと歩いてくる。
 鞄を机のフックにかけると俺へ向かってフッと笑った。

「どうも、これからよろしくお願いしますね。唯咲さん」
「ああ」

 にこやかに笑いかける少女にぞんざいな返事を返し、昨日のことを思い返していた。







「転入? こんな時期に?」
「はい。名前はイヴ・アークス。アメリカからこの学校へと転入してきます。転入理由は父親の転勤ということですが、前にいた学校が判然としません」

 放課後の保健室。長椅子に座り、羽沢の報告を受ける。渡された資料には転入生―――イヴ・アークスの略歴と顔写真、それと保健室へ先んじて渡されているであろう健康状態の資料があった。

「学校名はあるじゃないか」
「はい。ですが、そこに在籍していたという記録はありませんでした」
「ふん・・・・」

 確かに怪しい。だが、俺の生み出された組織は日本という国の裏側にある組織のはずだ。そこから考えればこいつは組織の刺客ではないかもしれない。

「気をつけるに越したことはないか・・・・」

 そう結論づけると資料を机の上へと放った。








「どこから来たの?」
「ワシントンです」
「イヴちゃんの趣味は?」
「読書と・・・・あとは観察・・・かな?」
「この中で誰が好み?」
「んと・・・・それは秘密です」
「イヴちゃんって、呼んでいい?」
「はい、どうぞ」

 休み時間。転入生の常なのか、俺の隣の席では押しくらまんじゅうが行われていた。
 大勢押しかける隣の席。その中心で少女は笑顔で対応していた。

「イヴちゃんって凄い日本語上手だね。誰に習ったの?」
「お母さんに教えてもらいました」
「へえ。お母さんってなにやってるの? そんなに日本語が上手なんだ」
「母は研究者です。何を研究しているかは教えてくれませんが」
「すごい!! 博士なんだ」
「たしかに博士号は持っていたと思いますが、母は父の助手です」

 次から次へとまくし立てられる質問。
 その質問は休み時間が終わるまで続けられた。






 放課後。慣れてきたのか、まだ続けられる質問を笑顔でかわし、イヴは教室を出て行く。
 どうするか・・・怪しいのは確かだが、このまま尾けるのは危ないかもしれない。
 どこで組織の連中が張っているかわからないし、罠かもしれない。それにイヴが組織と無関係だと決まったわけではない。やはりここは罠をはった方がいいだろう。
 結論づけた俺は窓からイヴの後ろ姿を見送ると教室から出て行った。







 翌日。イヴは保健室の前に立っていた。担任に放課後来るように言われたからだ。
 閉ざされた扉を前にイヴは一つ、呼吸をする。意を決して扉を叩く。

「どうぞ」

 中から言葉が届き、イヴは扉を開く。

「失礼します」

 イヴが中にはいると羽沢 舞子が見ていた書類から顔を上げる。

「アークスさん、いらっしゃい。急に呼んじゃってごめんなさいね。まだ仕事が残っているからちょっと待ってて。あ、そこに座って」
「いえ、別に大丈夫です」

 イヴは最初の謝罪にたいして断りをいれ、薦められた椅子へと座る。ふと見るとベッドの一つが使われているのかカーテンが閉じられていた。

「あ、そこ? ちょっと貧血で倒れちゃった子がいてね。静かにしてあげてね」
「はい」

 かりかりと紙の上をペンが走る。
 イヴは言われた通りに静かに舞子の仕事が終わるのを待つ。音を立てるどころか身じろぎ一つせず座るその姿はその美貌、可憐さと相まって本当に人形の様だった。

「?」

 すん、とイヴが鼻を鳴らす。なにか奇妙な感じを受けた。

「どうしたの?」
「いえ・・・・なんでもありません」

 その様子に気づいた舞子はイヴに訪ねる。その感じがなんなのかわからなかったイヴは言葉を濁した。
 トクン。

「??」

 イヴの胸が高鳴る。知らず、イヴの呼吸が速くなっていた。

「あれ?」

 つうとイヴの皮膚を汗が伝う。十月になって過ごしやすくなっている中で、普段からあまり汗をかかない少女が汗をかいた。それでイヴは自分の体が熱くなっているのを自覚した。

「Wh・・y・・・?」

 ハアハアとイヴの呼吸が速く、荒くなっていく。その吐息には熱く、甘いものが含まれていく。
 ドクンドクンと心音が速くなる。
 イヴの思考が濁っていく。先程感じた奇妙な感じが強くなっているのを感じたが、既にイヴは深く考えることができなくなっている。

「ummmmm・・・・hmmmm・・・・・」

 イヴの腕が胸へと伸びかけ、その手が止まる。
 朦朧とした意識の中で、イヴはそこにいるはずの舞子を見た。

「はぁ・・・・・んっ・・・・・くぅ・・・・・」

 イヴの視線の先では舞子が机に突っ伏していた。
 くちゃくちゃと音が響き、喘ぎ声が口から漏れる。先程まで見ていた書類はその下に潰されてくしゃくしゃに折れていた。
 その様子に安心したのか、イヴの手が改めて胸へと伸びる。

「・・hmmm・・・・」

 ふにとイヴの胸が変形する。それだけでも感じてしまうのか、イヴははあと大きなため息をつく。
 ビクンと痺れたように体を震わせ、熱く蕩けた息が漏れる。
 指が動き、それに併せて胸が変形していく。ビクンビクンと震えながらもう一方の手が股間へと進んでいく。
 指が股間へ触れた瞬間、イヴの体が一際大きく震える。大きく息を呑み、ほんの一瞬体が止まる。
 そして次の瞬間、その股間へと伸びた指は自らをこねくり回す。にちゃ、にちゃと水っぽい音がなったように思えた。

「Ah!」

 イヴの声が大きくなる。
 それを合図とばかりに唯一閉じられていたベッドのカーテンがシャッと開かれた。
 その中から現れたかずいにイヴは驚き、慌てて服を整える。しかし、その奥ではドクンドクンと体が疼き、イヴの頭を焦がしていく。

「ゆ、唯咲・・・くん。唯咲君・・・・・だったのです・・・か?」

 弱々しくイヴが言う。俺はベッドから降りるとドアの鍵をかけ、窓のカーテンを全て閉じる。
 そうして、邪魔者が来ないようにしてからイヴへと向かう。
 イヴはその様を見ていたようだが、俺の意図を掴み負けているようだ。
 すっとイヴの前へと立ち、不安気に見上げるイヴを上から見下ろす。

「ゆい・・さき・・・くん、みて・・・・いた・・・・のです・・・か?」

 途切れ途切れの声でイヴは訪ねる。
 呼吸は乱れ、吐息に熱いものが混ざっている。その白磁のような白い肌はうっすらと桃色に染まっていた。瞳はウルウルと潤み、ふるふると睫毛が揺れる。
 イヴの問いに答えず、片手でイヴの顎を固定する。口にいっぱい唾液をためて、イヴへと顔を近づける。
 何をされるのかわかっていないのか、呆然とするイヴ。その唇を塞ぎ、微かに開かれた口から唾液を送り込む。
 舌を伸ばし、イヴの口の中を攪拌する。くちゃくちゃという音が保健室に響き渡る。

「あああ! はあぅ・・・うあぁ!!」

 ちらりと机を見ると羽沢があられもない姿で自慰に耽っていた。着衣は乱れ、胸も股間も開けっぴろげに見えている。口からは涎が垂れ、瞳はどこを見ているのかわからなかった。
 グジュグジュと指が動かされる股間は既に泡が立ち、胸は大きく変形していた。
 イヴから口を離した時、クラリと頭が眩む。
 なんだ? 貧血か?
 ふらりと揺れる体を支え、ぶんぶんと頭を振る。
 何とか意識を保つとイヴを見る。

「Ah!!」

 ビクンと大きく体を震わせるイヴ。胸や股間をいじくる手の動きが一章激しくなる。
 もう何も考えられないのか一心不乱に指を動かし、その快感に声を荒げる。

「たいしたことないな。気にするほどではなかったのか?」

 一人ごちて、イヴに近づく。激しく悶えるイヴの両手を押さえて、動くことを禁じる。
 ビクンビクンと震えるイヴの体はもじもじと足を摺り合わせ、少しでも快感を得ようとする。

「人が見ているのにこんな事やるなんてな。イヴは淫乱なんだな」
「ummmmmmm・・・・・hmmmmmmm・・・・・」

 呼吸を荒げ、ぶんぶんと頭を振る。瞳をぎゅっと閉じて、中からわき出てくるものに必死に耐える。
 だが、そんなものは時間の問題だ。
 ぎゅっとイヴを抱きしめる。ビクンと腕の中でイヴが震えた。

「m・・・」

 イヴの顎をくいと上げ、口吻をする。舌を伸ばし、イヴの舌と絡ませる。クチュクチュという音と共にイヴの熱い息づかいが耳に届く。
 イヴの唾液を飲み込み、DNAを解析する。
 その時、先程と同じような目眩に襲われる。
 なん・・・・だ・・・・?
 意識が朦朧として考えをまとめられない。頭を振ろうとしても、体が動かない。
 まさ・・・・か・・・・
 閉じていく意識の中、イヴを見る。
 わ・・・・な・・・・・
 目の前で悶えているイヴの姿。その姿を最後に意識は闇へと落ちていった。






 イヴが悶えている中、かずいは意識をなくす。がくっと体中の力が抜けてイヴへとしなだれかかった。
 イヴはハアハアと呼吸を荒げたまま、かずいを長椅子に横にする。かちゃかちゃと慌ただしくベルトを外し、かずいからズボンをおろす。
 中から出て来た男性器にイヴは喜悦の表情を浮かべた。その目は既に霞に染まり、つうと軽く開かれた口からは涎を垂らす。
 力無く垂れているその男性器をイヴはためらいなく口に含む。舌を伸ばし、転がすように刺激を送る。
 根本から亀頭まで一直線に舐め上げ、手でころころと睾丸を刺激する。
 その刺激にかずいの体は反応し、徐々に男性器がそそり立つ。
 力強く立ち上がった男性器をイヴは淫蕩に見下ろす。もう、少しも待てないのか、イヴはもどかしげに下着を中途半端に下ろし、かずいの上へと跨った。

「Ahwwwwwww!!!」

 イヴの絶叫が保健室中に響き渡る。閉じられたイヴの肉をめりめりと押し開き、男性器はイヴの中へと飲み込まれていく。
 イヴの中を快感が駆け巡り、イヴは狂おしく体を動かす。ビクビクと体を震わせ、何度も何度も腰を上下させる。その度に切羽詰まったような声が漏れる。
 イヴの中でかずいが震える。
 射精の前兆にイヴは喜ぶ。かずいの体に手をつき、体を支えて腰の動きに専念する。絶頂に耐えるような表情で何度も何度もかずいを受け入れる。

「Come! Come!」

 イヴの体もぶるぶると震え出す。刻一刻と迫ってくる絶頂にイヴは悦び、腰の動きを更に加速させる。

「Comecomecomecome・・・・・・・」

 ぎゅっぎゅっとかずいの男性器を締め付け、射精を促す。
 何度も何度も腰を動かし、ぎゅっぎゅっと男性器を刺激ずる。
 そして、大きくかずいを飲み込んだ瞬間、かずいの中から精子が放出された。

「Ahwwwwwwwwwww!!!!」

 精子はイヴの中へと注ぎ込まれる。その感触にイヴは絶叫し、体を大きく反らす。ビクンビクンとイヴの体が跳ね、意識を失う。そして、糸が切れた操り人形のようにかずいの上へと倒れ込んだ。

「あ、ああっ、あああああああっ!!!」

 イヴより数秒遅れて舞子が絶頂へと達する。ビクンビクンと机の上で陸に上がったばかりの魚のように跳ねていた。








 ん・・・・・・・
 目を開く。視界には保健室の天井が見えた。
 よこに・・・・なっているのか・・・・?
 どことなく意識がはっきりとしない。茫然とする頭に喝を入れる。
 起きあがろうとすると体に重さを感じる。見るとイヴが俺にしなだれかかっていた。
 そうか、イヴの体液を解析している時に・・・・・
 あれから何分経った??
 外は既に暗く、かなりの時間が経っているのはわかる。壁に掛かっている時計を見て、時間を確認する。イヴが来てから既に四時間は経っていた。
 ずるりとイヴの中から萎えた性器を引き抜く。その時、ごぽっと音がしてイヴの性器から精子が零れる。
 ズボンを戻し、換気のために窓を開く。そして、長椅子で横になっているイヴを見た。
 長椅子に横になりすうすうと寝息を立てるイヴ。その表情は安らかで誰もが見ほれるほどの美貌がそこにはある。
 しかし、そこから下へと目を向けると欲望の残滓があった。
 股間からとろとろと零れる精子。ドアに鍵がかかっている以上、これを出したのは俺なのだろう。
 ということは・・・・

「おい、起きろ」

 横になっているイヴを揺する。その長い睫毛が弱々しく震え、ゆっくりと瞼が開かれる。

「ん・・・・・」

 くぐもった声を上げ、イヴが起きる。虚ろな表情で茫然としていたが、やがて意識もはっきりとしていく。

「おい」
「はい」

 俺の声に応え、イヴは俺を見る。まっすぐな瞳。疑いも信頼もその瞳には何の感情も見られない。ただ声をかけられたから、それだけとその瞳は語っていた。
 これだけではイヴがどうなったかわからない。

「俺は誰だ?」
「唯咲かずい。My Master」

 先程と同じく、何の感情もこもらない瞳でイヴは答える。イヴにとって当然、常識だとその瞳は言っていた。
 その答えを得て俺はようやく安堵する。相手の体液を取り込んでから解析、合成は病原菌を攻撃する白血球のように細胞が自動で行う。イヴが何者であろうとこうなってしまえばこちらのものだ。

「答えろ。お前は何者だ」
「Eve Arcs.Statesで開発された合成人間です」

 
 


 

 

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