Ring of Marionette


 

 




 その瞳は真剣そのものであった。
 ただ一途に一つの存在を愛し続けた人間だけが持ちうる瞳……あたしはその想いに答えることが出来るのだろうか……
 あたしは左手の指輪……リング・オブ・マリオネットに目をやる。それは何も言わず、ただ鈍く光っていた……


 
第四話 『告白は黄昏の中で』



 ディアナ王国王都にして、最大の都市……ディアナシティ。しばらくぶりに戻った町は、変わらぬにぎわいを見せていた。
 その中心街からほど近いところにあるやや大きめの木造建築、それが冒険者の宿『虹の広場亭』である。
 宿ということにはなっているが、冒険者向けの賄い付き貸部屋、という方が表現としては正しい。ある程度のお金を払えば部屋を貸してもらえ、そこで食事をすることもできる。
 もっとも、忙しい冒険者ほど留守がちになるものだから、半ば荷物置き場と化している部屋も少なからずある。かくいうあたしの部屋もその『荷物置き場』の一つだ。

「いらっしゃ……おおシーナ、久しぶりだな」
「お久しぶりね、おっちゃん……元気してた?」

 おっちゃん……この虹の広場亭を取り仕切る店主と軽く声をかわす。本名は……忘れてしまった。あまりにみんながおっちゃんおっちゃん呼ぶものだから、それがすっかり定着してしまっているのだ。
 その昔、ディアナ王国でその名を馳せた冒険者だったそうで、その経験を生かして現在この宿を切り盛りしている。

「ところで……隣は? 見かけない顔だが」
「ああ、フェルミーナで会った、マリアって言うの。冒険者志望だそうだから、ここまで連れてきたってわけ」
「マリア=ミスティーナと申します。以降よろしくお願いします」

 かねてからの打ち合わせ通りにマリアを紹介するあたし。これから行動を共にするなら、これが一番無難な選択であろう。

「ああ、こちらこそ……最近の若者にしちゃあ、礼儀がしっかり出来ているなあ」
「それ、どういう意味よ、おっちゃん」

 たわいない会話を交わしているが、こうしていると心が休まる……このあたりの気配りこそ、この『虹の広場亭』の特徴であり、あたしがここを定宿としている理由でもある。

「ところで、部屋はどうする? 今適当な個室が空いてないんだよ……女性だし、大部屋に雑魚寝というわけには行かないだろ?」
「仕方ないわね。当面はあたしの部屋に入って、個室が空いたらそっちに移るってことで……それでいいわよね、マリア?」
「はい、それで構いません」
「お姉さま〜!!」

 ばふっ!

 突如として後ろから抱きつかれるあたし。強引に首を回して後ろを確認すると、そこには見慣れた顔があった。

「お姉さま、いつお帰りになられてたんですか? 帰ってきたならミーシャにも連絡してほしかったですぅ」
「ここに着いたのはたった今よ。全く……相変わらず元気ねえ、あんたも」

 言って彼女……ミーシャ=ヴァレンティーナに微笑みかける。
 ミーシャ=ヴァレンティーナ……この虹の広場亭でも数少ない女性冒険者の一人で、あたしの妹分と言っていい存在だ。ミーシャの初仕事の際、そのお手伝いをしたことが縁で、それ以降あたしを『お姉さま』と呼んで慕ってくれている。
 もっとも、最近は一緒に仕事をする機会がなかった上、互いが引き受けた仕事の都合で入れ違いになることも多く、こうやって虹の広場亭で会話を交わすのはほぼ半年ぶりになる。

「ところでお姉さま……こちらの人は誰ですか?」

 ちょっと上目遣いにマリアを見るミーシャ。

「初めましてですね、私マリア=ミスティーナと申します」

 年下であろう人間にもきちんとした礼儀を持って挨拶をするマリア。

「は……初めましてです、ミーシャって言います」
「よろしくお願いしますね、ミーシャさん」
「は、はい……」

 なんかミーシャの様子がおかしいような……

「あの……マリアさんでしたっけ……」
「はい、なんでしょうか?」
「マリアさんって、お姉さまとどういうご関係なのでしょうか!」

 ぶっ! げほっげほっ……
 唐突な物の言い様に、思わず吹き出しそうになるあたし。そのまませき込んでしまう。

「どういうご関係と言われましても……」
「ほ、ほら……あたしとマリアは……た、単なる仕事仲間よ、ねえ?」
「ええ……私とシーナさんは単なる仕事仲間ですよ」

 無理矢理口裏を合わせるあたしとマリア。

「本当ですかあ? なんか怪しい……」

 だが、ミーシャは徹底した疑いのまなざしをあたしたちに向ける。
 この子、妙なところで勘がいいからなあ……

「と、ところでさ、ミーシャは最近どういう仕事をしていたの?」
「最近ですか? んーと……」

 ふう、何とか話題をすり替えるのに成功したようね。
 その後、途中で夕食を取ったりしながら、互いの仕事のことなどで話が弾んだ。といっても、ミーシャが喋るのを二人で聞いている、という状態が多かったが。時たま思い出したようにマリアのことも聞いてくるのだが、そのあたりは二人して強引に会話をそらしたりして、なんとかごまかしに成功したようである。

「さて、そろそろ夜も更けてきたわね……マリア、そろそろ寝ることにしましょうか」
「ええ」
「あ〜ん、ミーシャも一緒に寝たいですぅ」

 席を立って部屋に戻ろうとするが、後ろからミーシャが抱きついてくる。

「駄目でしょ、マリアは寝るところがないからあたしのところで寝るのよ。ミーシャにはちゃんと自分の部屋があるでしょうが」
「ぶう……」

 頬を膨らませ、あからさまに不満の色を示すミーシャ。

「はいはい、そうやってふくれない……そんなんだから『まだ子供だ』って言われるのよ」
「はあい……」

 やっとあたしから離れるミーシャ。なんだか子守りをしている気分である。


 そして、あたしの部屋の中……

「『ご主人様がマリアに命令するわ』、服をすべて脱いでそこに横たわりなさいな」
「はい、ご主人様」

 あたしの命令に粛々と従うマリア。マリアが寝そべるのを確認して、あたしもすべての服を脱ぎ捨てる。そしてマリアのそばに寄り添い、その全身をなではじめた。

「うふふ……あたしのかわいいお人形さん……」
「はい、私はご主人様のかわいいお人形さんです」

 うつろな瞳をあたしに向け、抑揚のない声で答えるマリア。その刹那的な表情が何とも言えない雰囲気を醸し出す。

「さあ、互いに抱き合いましょう、そして身体を摺り合わせて気持ちよくなりましょう」
「はい、ご主人様」

 互いの身体をゆったりと抱き合い、艶めかしく身体を摺り合わせる。身体が摺れるたび、得も言われぬ程の快感があたしの身体を伝わっていく。

「気持ちいいでしょ、マリア?」
「はい、気持ちいいです、ご主人様」

 あたしの目の前にうつろな表情をしたマリアの顔が見える。その硝子のような瞳にあたしの顔が映し出される。それを見てあたしは面白い行為を思いついた。

「マリア、今からあなたはあたしの鏡……あたしがすることをそのまま真似しなさい」
「はい、ご主人様」

 そう命じた後、左手をマリアの右胸に当てる。するとマリアの右手があたしの左胸に当てられる。柔らかく胸を揉んだ瞬間、左胸が柔らかく揉まれる感触を感じ取る。
 まさしくそれは鏡。自らの姿を、そしてその行動を写し取る鏡。いくつか違いがあるとすれば、髪の長さと色、それにマリアのうつろな瞳ぐらいなものだろうか。

「ああ……いい……もっと……」
「ああ……いい……もっと……」

 二人の紡ぐ言葉が、見事な調和を持って響きあう。その声があたしの心を刺激する。
 どちらからともなく接吻を交わし、互いの唇をむさぼりあう。胸を揉む手はいつの間にか互いの秘部を撫であうようになり、行為は加速をはじめた。

「はっ……はっ……ふっ……はっ……」
「はっ……はっ……ふっ……はっ……」

 互いの荒い息づかいが重なって聞こえる。自らが与えた刺激が、そのまま自分に返ってくる。自慰と似た、でも少しだけ違う奇妙な感覚を楽しみながら、高みへと登り詰めていく。

「さあ、一緒にイクわよ……」
「さあ、一緒にイクわよ……」

 その台詞と同時にあたしとマリアは互いの陰核をつねり、その瞬間、互いに声を出し合い絶頂を迎えた。

「あああああぁぁぁぁぁっ!!」
「あああああぁぁぁぁぁっ!!」

 こうして、その日の夜は更けていった。


 翌日、あたしとマリアは冒険者管理局に赴いた。あたしの登録証再発行と登録更新、それにマリアの冒険者としての登録手続きをするためだ。
 もっとも、そんなややこしい手続きや難しい試験などがあるわけではなく、昼前には無事に終了する。これでとりあえずは一段落。
 その後あたしたちは、マリアへの地理案内をかねて、ディアナシティを散歩することにした。考えてみれば、マリアと出会ってからはどたばたしっぱなしで、こうやってのんびりするのは久しぶりのことだ。

「どう、マリア……ディアナシティの感想は?」
「にぎやかなところですね……人が多すぎてちょっと戸惑いますけど」
「マリアが暮らしていたところってどんな感じだったの?」
「そうですねえ……」

 こんな会話をしながら時はゆったりと過ぎていく。
 久々に見るディアナシティの町並みは、大まかなところではほとんど変わらないものの、よく見るとほんの少しずつ雰囲気が変化している……こうやって久方ぶりに戻ってみると、町はやっぱり生きているのだなあと実感する。


 空がほんのりと紅く染まった頃……
 すでに虹の広場亭に戻っていたあたしは、夕食までの時間を寝転がって過ごすことにした。隣ではマリアが同じように寝そべっている。
 天井を見上げながら、ふと考え事をしてみる……今までのこと、これからのこと……手に入れた指輪、そして横にいるマリア……とりとめもなくいろんなことを考えていると、扉を叩く音が聞こえてきた。来客だろうか。

「どちらさまですか?」
「あの、お姉さま……ミーシャです。お話ししたいことが……」

 話というのは何だろうか……それ以前に声の調子がやや低く感じられるのだが、どうしたのだろうか?

「鍵はかけてないから入ってきなさい」
「はい」

 返事をして静かに部屋に入ってくるミーシャ。しかし、あたしの前に歩み寄っても押し黙ったまま。やはり何か様子が変だ。
 口は真一文字に結ばれ、瞳は何かを決心したかのような輝きを見せる。おそらくあたしに何かを言いに来たのだろうが、この場に来てまだわずかにためらっている……そんな感じだ。

「どうしたの……言いたいことがあるなら言ってみなさい?」
「は、はい……」

 おずおずとした返事を返すミーシャ。まだためらいがあるようだ。

「ミーシャを……」

 そこでいったん口をつぐむ。息が詰まるような静寂が二人の周りを包む。そして、何かを決意したように再び口を開く。

「ミーシャを……ずっとお姉さまのおそばにいさせてください!」

 ずるっ!

 あまりに突拍子もない一言に、思わず身体を滑らせてしまうあたし。
 そのまましばし硬直……

「あの……お姉さま?」
「うわっ!?」

 ミーシャがあたしの顔をのぞき込みながら呼びかけてきて、ようやっと我に返ることが出来た。

「ちょっと待って……ずっとおそばにいるってどういう意味?」
「ミーシャ、昨夜見たんです……お姉さまとマリアさんが仲睦まじく秘め事をされているところを……」

 ……へ?
 唐突な話の振りに付いていけず、どう応対していいのか分からず混乱する。

「昨夜見たって……?」

 とりあえず、努めて冷静な口調で続きを促そうとするあたし。それでも出す声はかすかにうわずっているように思える。

「昨夜、もう一度お姉さまとマリアさんの関係を聞き直そうと思って、お姉さまの部屋に行ったんです。そうしたら聞こえたんです、お二人の会話が……」

 訥々と昨夜のことを語りはじめるミーシャ。押し黙って聞くあたし。

「お姉さまとマリアさんが妖しい会話をしているものだから、いけないと思いつつ覗いてみたら、お二人とも激しい行為に没頭されていて……」

 反応がないからなのか、だんだんと早口になりながら、とりとめもなく話し続ける
ミーシャ。その口調は、どことなくあたしを責めているようにさえ感じられた。

「それを見て思ったんです……ああ、ミーシャもマリアさんみたいに、ああやってお姉さまに愛してもらいたいなあって……」
「ちょっと待って、『愛してもらいたい』って……!?」
「本当のことを言うと、ミーシャ……お姉さまを一目見たときから、ずっと大好きだったんです……単なる仲間とか、先輩後輩とかという意味じゃなくて、一人の女性として、お姉さまのことを愛していたんです」

 ミーシャはその身体を真っ直ぐあたしに向けると、真剣な面持ちで自らの心情を打ち明けはじめた。

「でも、そういうのって、世間一般からすれば珍しいじゃないですか、女同士が愛し合うなんて。だから言い出せなかったんです、お姉さまに……言ったら嫌われそうで……」

 あたしに向けられた瞳がふと逸れる……その視線の先にあったのは静かな寝息を立てて眠るマリアの姿。

「そんなとき、お二人の秘め事を見てしまいました……正直うらやましかったです、お姉さまと堂々と愛し合っていたマリアさんが……ミーシャがなりたかったものになっているマリアさんが……」

 その口調がわずかに怒りの色を見せる……それはきっとミーシャのマリアに対する嫉妬なのだろう。
 無理もない、自分が愛する人間がどこぞの馬の骨とも知れない人間と仲睦まじくしているのだ。それを平然と受け入れられる人間は、よほどの聖人かさもなくばそれを許せる度量のある人間だけだろう。

「……だから決めたんです、嫌われてもいいからミーシャの想いをお姉さまに打ち明けるんだって……マリアさんがお姉さまにとっての一番でもいいから、ずっとお姉さまのそばにいたいんだって……」

 それはまさにミーシャの『愛の告白』であった。その想いは極めて一途……その一途さ故に、昨夜のあたしとマリアの行為はミーシャにとって大きな衝撃だったに違いない。その衝撃が彼女を激情に向かわせ、自らの秘めたる想いをぶつけることを決意させたのだろう。

 ミーシャの瞳が再びあたしを真っ直ぐに見つめる。

 とくん……

 その瞳に見つめられ、あたしの心の中でミーシャに対する感情が急速に変化しつつあった。
 恋愛対象として見ることなく、単なる仕事仲間、あるいはお友達感覚でしかなかったものの中に、確実に別の感情が交じりはじめていた。
 それはマリアとの情事を繰り返していた影響も多分にあるのかも知れない。ただ言えるのは、一途にあたしのことを想い続けてきたミーシャを愛しく思えるようになった自分がいる、ということだ。

 こういうとき、どう対処すればいいのだろうか……あたし自身、女性はおろか、男性からも告白を受けたことなどついぞなかった、言うなれば恋愛の素人。冒険者という荒くれ者の集団の中で暮らしていたから、冗談交じりで『好きだ』とか言われたことはあっても、真面目な顔をしてそう告げられるのはこれがはじめての経験である。
 その経験のなさ故に、ミーシャの真剣な気持ちを真っ直ぐに受け止めることが出来ず、あたしは思わずミーシャから目を逸らしてしまう。


 目を逸らしたとき、その視界に映ったのは、自分の左手……そしてその薬指で鈍く光るリング・オブ・マリオネット。
 ……その指輪を見つめるうち、ミーシャに指輪の力を使ってみたいという衝動に駆られる。
 指輪に秘められたもう一つの力……それを使えばミーシャの願いを確実に叶えることが出来る。発動条件は十分に満たしているから、使えばほぼ間違いなく成功するだろう。
 だが、それでいいのだろうか……それは人一人の心を、人生を縛り付ける魔性の力。その力を使えば元の関係に戻ることは決して出来ない。ミーシャに、そしてあたしにそれを受け入れる覚悟はあるのだろうか……

「お姉さま……どうしたんですか?」

 小さな声で尋ねてくるミーシャ。一時の怒鳴らんばかりの激情からは抜け出したようで、静かにあたしの返答を待っている。

 ……あたしもミーシャにすべてを打ち明けてみよう。そして、彼女に決めてもらおう……

「ミーシャ……」

 あたしは静かに語りはじめた。マリアのこと、指輪のこと、そしてミーシャに対する気持ち……隠すことなく、すべてを打ち明ける。ミーシャはそれを真剣に聞き入っていた。

「あたしが話せることはこれだけ……後はミーシャがどうするのか決めて。ミーシャが決めたことなら、あたしはそれを受け入れてみせるから」

 そういって話を締める。最後の一言はあたし自身への決意表明でもあった。
 そして、ミーシャの答えを待った。
 再び訪れた静寂。その時間は客観的に見ればおそらくほんの数瞬のことであっただろう。だが、あたしとミーシャ……二人にとってそれは永遠とも思える瞬間であった。

「ミーシャは……ミーシャはお姉さまのものになりたいです。その指輪を使って、ミーシャをお姉さまのお人形にしてください」
「本当にそれでいいの? 後悔しない?」

 それはあたし自身への問いかけでもあった。

「はい、構いません。お姉さまに想いを打ち明けたときに、どんな結末になろうとも後悔しない、って決めましたから……お姉さまが望むのであれば、ミーシャは喜んでお姉さまのお人形になってみせます」

 静かに、そして力強く宣言するミーシャ。今度はしっかりとその視線を受け止める。そしてあたしも覚悟を決めた。ミーシャがあたしの人形になることを望むなら、あたしは命ある限り、そしてミーシャが望む限り彼女の主人であり続けよう……

「分かったわ……じゃあ、ミーシャをあたしだけのお人形にしてあげる。準備はいいわね?」

 そう告げて、左手をミーシャの前に差し出す。

「はい……お姉さま」

 ミーシャは静かに目を閉じた。


 指輪が持つもう一つの力……それは対象者の心を指輪と同化させること。それにより対象者は文字通りの『人形』と化し、人形は指輪の持ち主に隷属するのだ。
 その効力は指輪が存在する限り有効……持ち主が望むならば人形は永遠に生き続けることができ、持ち主が望まなければ何人たりとも人形を傷つけることさえかなわない……とはマリアからの受け売りである。

 ただし、その力を解き放つにはいくつかの条件が必要になる。
 一つは対象者と十分な信頼関係を結ぶこと……さらに言えば対象者が『人形』になることを双方が望まなければならない。力を発動させるには、持ち主と対象者が精神的に同調し、持ち主の心を通じて対象者の心を指輪に封じ込め、同化させる……という過程が必要になるから、というのがその理由らしい。
 二つ目は両者の心が平静状態にあること。まあ要するに、興奮した状態で勢いに任せて使っても駄目だ、ということだ。
 そして今ひとつはこれから唱える呪文……マリアが言うには、その呪文は古代の魔術言語とやらで構成されている。マリア自身もさっぱり意味は分からないそうだが、とりあえずちゃんと発音すれば発動するらしい。

「いいわねミーシャ、あたしのことをずっと心の中で思い描き続けるのよ」
「はい」

 風の音さえも消えゆく静寂の中で、厳かに呪文を唱えはじめる。

「イッヒエルクラールアルスデアインハーバーリングオブマリオネット。
 イッヒヴェルスプレッヒイーネンディーエネルギーデアウンベルグレンツァイトウントデアエファイカイトズーゲーベンフェンジーダウアーハフテロイヤリタートズーミアスウェア。
 ステーレンジージッヒマイネザッヘイムヘルツェンフォウヴェンエスエンシュイドダスジーダウアーハフテロイヤリタートズーミアスウェア」

 呪文を唱え終わった瞬間、淡く紅い光が指輪より放たれる。その光はミーシャの首を一回りして輪のようなものを形成する。そしてゆっくりと縮んでいき、ミーシャの首の中に吸収される。
 マリアの言うことが正しいのであれば、おそらくこれで儀式が終了したはずだ。

「これで、ミーシャはあたしの『お人形さん』になったのよ」
「本当……ですか? 何かあまり変わらない気がするんですけど……」

 それはあたしも同感だ。本当に何も変わってない気がする。
 とりあえず、何かをやってみよう。

「じゃあ、実験してみるわね……ミーシャ、あなたは自分の意志と無関係に服を脱ぎだす」
「へっ!? お姉さま、いきなり何を……」

 と言いかけて、言葉が止まってしまう。身体が勝手に動いて服を脱ぎはじめたからだ。

「ちょ……お姉さま、いきなり裸なんて恥ずかしい……」
「へへ……だーめ、ミーシャはあたしのお人形さんなんだから、あたしの好きにして当然でしょ?」
「そ、それはそうなんですけど……」

 そう言いながらも身体の動きは止まらない。あっと言う間に裸になってしまう。
 慌てて大事なところを隠そうとするミーシャ。

「駄目よ、あたしの前で大事なところを隠しちゃ……ほら、ちゃんと気をつけしなさい。お姉さまがあなたの身体、じっくりと見てあげるんだから」
「そ、そんなあ……」

 あたしの命令に逆らえぬまま、気をつけの姿勢をとるミーシャ。

「そんな恥ずかしがらなくてもいいのよ、十分奇麗なんだからさ……」
「でも、お姉さまやマリアさんに比べたら、ミーシャの身体なんて……」

 そうミーシャが言うように、確かに彼女の身体は小さく、細身である。胸もほんのわずかな膨らみが女性であることを精一杯主張しているぐらいで、ミーシャにとってそう自慢できるものではないだろう。でも、それが逆に初々しさと清純さを醸し出している事に、ミーシャ自身は気付いていないようだ。
 ゆっくりとミーシャに近づき、まずは軽く唇を合わせる。ミーシャの頬がほんのりと紅く染まる。

「あ……お姉さま……」
「ふふ、かわいい……」

 ミーシャの瞳が潤んできた。それは愛する人間と結ばれたことで生まれた劣情の証か。
 続いてもう一度唇を合わせる……今度は舌を差し入れる深い口づけだ。

「あ……ふぅん……」
「うむ……んん……ぺちゃ……」

 積極的に舌を絡ませるあたし。それに驚きつつ、自らもぎこちないながら舌を絡ませはじめるミーシャ。淫猥な音があたりに響く。
 しばらくして唇を離すあたし。その間には互いの唾液が細長くつながっている。

「んふふ……じゃあ、今度はミーシャの乳首を見ちゃいましょう」
「やん、お姉さま……恥ずかしいよお……」

 ミーシャの乳首は奇麗な桃色であった。乳房がほんのり紅く染まっている影響か、その色は艶やかと言ってもいいぐらいである。

「ミーシャ……乳首っていじったことある?」
「あ……はい……お姉さまのことを考えながら、ちょっとだけ先をいじったりしたことぐらいは……」
「そう……それはこんな事されることを考えながら……なのかな?」

 言ってあたしは左の乳首を口に含む。

「きゃうん!」
「あらら、敏感なのねえ……うむっ」

 再度乳首を口に含んで舌で転がしつつ、左手でミーシャの右乳首をいじりはじめる。

「あん、お姉さま、それは激し……ああっ!!」

 絶え間なく与えられる刺激を感じているのだろう、言葉を挟みながら嬌声を上げるミーシャ。
 しばらくした後、乳首から口を離す。

「はあ、はあ、はあ……お、お姉さま……」

 息も絶え絶えにあたしに問いかけるミーシャ。すでにその言葉に羞恥の色は見えない。

「じゃあ、今度はミーシャの大事なところを見てあげる。脚を開いて、自分の指で広げてみなさいな」

 促されるまま脚を開き、大事な部分を自分の指で広げてみせるミーシャ。

「お、お姉さま……ミーシャの大事なところ、見てください……」

 自発的にお願いをするミーシャ。こういう場では相手にお願いを促してばかりいたので、これがかえって新鮮に聞こえる。

「じゃあ、お望み通り見てあげるわ……」

 ミーシャの秘部はほんのわずかに茂った陰毛の中で、これまた奇麗な桃色をしていた。しかも、今までの行為に感じていたのか、愛液がしとどにあふれていた。

「あらら、お漏らしなんかしちゃって……いけない子ね」
「お姉さま、意地悪言わないでくださいよお……」
「もう、仕方ないわね……お姉さまが奇麗に舐めてふき取ってあげる」

 ミーシャの秘部に顔を近づけていく。

「あ、お姉さま……そこ、きたない……」
「大丈夫、ミーシャの身体にきたないところなんてないわよ」

 そして、愛液に濡れた秘部を舌で舐めあげる。

「ひゃうん!」
「んもう、相変わらず敏感なんだから……こういうのってはじめて?」
「は、はい……自分でお豆をいじったりしたことはありますけど、舐められるなんて思いもよりませんでした」
「じゃあ、これからたっぷりと舐めてあげる……とっても気持ちいいんだから」

 周りからゆっくりと、丹念に舐めあげていく。時たま思い出したように愛液を啜り上げる。その度に小さな悲鳴を上げるミーシャ。それでも愛液は後からあふれ出してくる。
 やがてミーシャの小さな突起に舌が触れる。するとミーシャの身体がぴくん、と跳ね上がる。

「ああうん!!」
「おっと、びっくりした……さすがにここへの刺激は強すぎたかしら?」
「あ、ごめんなさい、お姉さま……」
「謝らなくていいのよ、そういう反応見るのって、あたし大好きだから」
「ほ……本当に……?」

 おずおずと聞いてくるミーシャ。そういう仕草もまたかわいいものである。

「本当よ、だからお姉さまにもっと感じている姿を見せてね」
「は……はい、がんばります!」

 あらら、気合い入れちゃったよ……まあ、それはそれで楽しいんだけどね。
 再び顔を秘部へ付け、小さな突起を舌で転がしはじめる。ミーシャの華奢な身体が大きく、小さく揺れる。

「あん、あん、あん、あん、あん……きゃうん!」
「どう、イキたい?」
「は……はい、イキたいです!」
「じゃあ、あたしに遠慮せず、ちゃんとイッちゃいなさいな」
「は……はい!」

 突起をより激しく転がす。体の跳ねが次第に大きくなる。

「あ……お姉さま……イク、イク、イッちゃうっ!!」
「これで最後……さあ、イッてしまいなさい!」
「ああああああああああっ!!」

 最後は突起を軽く噛んで、ミーシャを高みへと上らせた。


「すう……すう……すう……」
「ふふっ……かわいい寝顔……」

 静かに寝息を立てるミーシャの隣で天井を見上げるあたし。

「ふう……しかしまあ、ほんと疲れたわ。まさかこんなことになるなんてねえ……なんだか怖いわ、この指輪」

 言いながら指輪を眺める。これでミーシャもあたしの人形、ということになる。ちょっとだけ罪悪感も湧くのだが……

「むにゃむにゃ……お姉さま……大好きですぅ……」
「まったく……のんきな寝言言っちゃって……少しはあたしの苦労も知りなさいっての」

 苦笑いしながら再び横を見遣るあたし。そこには一点の曇りもない、天使のような微笑みを見せるミーシャの寝顔があった。

 
 


 

 

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