さよならポコチン先生


 

 



<2年6組ポコチン先生>



 高い声、低い声の交じり合う際限ないお喋り。椅子の足が床と擦れて立てる音。ひっきりなしに開かれては閉じられる扉の音。朝の透明な日差しが差し込む教室は、今日も音の洪水でごった返している。

 園山修一(そのやま・しゅういち)が後から数えて三番目の自分の席で、悪友の横尾奏真(よこお・そうま)と馬鹿話に笑い合っていたのも、ホームルーム前のそんな自由なひとときだった。忙しい中学生たちに与えられる、つかのまの貴重な自由時間。それは今朝も、廊下から聞こえてくる、女子生徒たちの悲鳴で破られた。

「キャー!」
「イヤーァ!!」

 重なり合って校舎に響き渡る、女子たちの悲鳴。修一たちの教室に、クラス担任が向かってくる合図だ。2年6組の生徒たちは、そのシグナルを察知して、みんな慌てて自分の席に駆け戻る。漫画雑誌を急いで机の中に隠す。お喋りを止めて背筋を伸ばし、行儀よく手を膝の上にのせる。廊下を逃げ惑う女子たちの声が近づいてくるのが、教室の中からもわかる。6組緊張の瞬間だ。

「コラー!廊下を走るなと言っとるだろうがぁ!」

 野太い怒号が響き渡る。開いている窓から、廊下の女子たちと6組担任の教師の姿が見えた。
 今日もポコチン先生は、黒光りするチンポをズボンから放り出したまま、廊下を闊歩していた。

 扉が開く。逃げ惑う女子たちの後姿に義憤の呟きを漏らしながら、色あせた青いジャージ姿のポコチン先生が、6組の教室に入る。スパルタ・熱血教育で鳴る、学校一無茶苦茶な先生。このポコチン先生こそが、修一たちのクラス担任なのだ。色の白い肌に、異常に濃い毛。口の周りはいつも青々としている。普段は無表情の先生だが、どこに立っていても、よく目立った。いつもチンポを出しているからだ。

「きりーつ」
「れいっ」
「ちゃくせーき」

 生徒たちが背筋をピンと伸ばしてお辞儀をするなか、ポコチン先生は教卓の前に立つと、号令に合わせて自分のチンポを手で立たせたり、お辞儀させたりしながら、満足そうに生徒たちを見回す。

「おーし。今日も全員出席だな。ポコチンも元気だ。今日も一日、頑張っていこうな!」

 生徒たちは皆、ホッと溜息をつく。心なしか、強張っていた肩の位置が下がった。今日のポコチン先生は、機嫌が良さそうだ。先生の機嫌が良い時は、校内のトラブルの数が、目に見えて減る。みんな、落ち着いて勉強が出来るのだ。


。。。


<ホームルーム>



「先生。」

 出したままのチンポを暇つぶしのようにイジりながら、教室の中を徘徊する先生。ダラダラとポコチン先生の無駄話が続く、いつものホームルーム。突然、堀木陽菜乃(ほりき・ひなの)が挙手をした。

 ポコチン先生の教育態度は厳しくも開放的。生徒たちが自分から発言することを、先生は歓迎しているようだ。活発で強気な陽菜乃は、よくホームルームで議論を提起する。

「おっ、堀木。どうした?」

「お話中、すみません。最近、うちのクラスの男子が一部、女子に嫌がらせをします。注意して下さい。」

 起立した陽菜乃が、奏真や修一、その他何人かの男子を睨みながら、先生に訴える。奏真が小さく舌打ちした。陽菜乃の奴、ちょっと可愛いからといって、調子にノリやがって・・。陽菜乃は自分が直接イタズラをされたわけでもないのに、他の女子を庇って糾弾の先頭に立つ。典型的なリーダー気取りの優等生だ。

「ほう、それはイカンなぁ。女は悲しませてはいかん。喜ばせるもんだ。・・・ま、もっとも、喜びでヒィヒィ泣かせるのはアリだがな。」

 太い眉毛を上下させながら、見得を切るポコチン先生。中学校の生徒たちにはよくわからないが、何か上手いことを言っているつもりらしい。スベっていることだけは、生徒たちにも伝わった。

「そういうお話はよくわからないんですが、とにかく男子が女子のスカートをめくってくるんです。なんとかして下さい。」

 言ってやったぞという顔をしているポコチン先生に、余韻に浸る間も与えず、陽菜乃が早口でまくしたてた。ポコチン先生はさらに両眼に力を入れる。

「堀木。先生を見なさい。」

「はい・・、あっ、しまっ・・・。」

 堀木陽菜乃がポコチン先生の顔を見た瞬間、先生の目がオレンジ色に光っていることに気がつく。
 彼女の悪い予感は的中する。陽菜乃は自分の目から全身の力がポコチン先生の目に吸い取られてしまうような脱力感に襲われるのだった。


 説明しよう。ポコチン先生の目が蛍光オレンジに光ると、彼の言うことには誰も逆らえなくなってしまう。先生は「半年前にレーザーで近視を矯正する手術を受けたら失敗して、その後に眼がオレンジに光るようになった」と言っているが、実のところ原理は一切謎である。とにかく2ヶ月前にポコチン先生が、県立三田村中学に突然姿を現して以来、彼の眼が光る時には、それを見た人全てが、必ず彼の教育方針に従った。

 わずか2ヶ月弱で、校長先生も教頭先生も、理事長も生徒会も、みんなポコチン先生には逆らえなくなってしまったのである。先生がひとたび、「俺の目を見ろ」と言ってオレンジの目を光らせると、みんな魂が吸い取られてしまったような気がしてしまう。そこで言われた言葉がどんなものでも、従いたくなるのだった。先生の言うことはどんなことでも正しい。その正しさを、自分の心身を投げ打ってでも証明したい。なぜかそう思わされるような目力を、ポコチン先生は持っていたのだ。


「堀木は、男子のスカートめくりが許せないんだな。」

「は・・・はい・・。わたしは・・、されてませんが・・・、友達が・・・。」

「有名な登山家が言った。なぜ山に登るか?そこに山があるからだ・・・と。登山家の名前は忘れた。とにかく、そこにスカートがあるから、男子はめくるのだと思うぞ。スカートがあればめくりたい。それは必然だ。ロマンだ。」

「登山家の名前は・・・、ジョージ・マロリー・・・です。・・必然は・・わかりますが・・。え?・・あれ?」

「しっかりポコチンの目をみなさい。それは必然なんだ。スカートがあるからめくる。無ければめくらない。スカートがなければいい。アルキメデスの三段論法だ。そうだろ?」

「三段論法は・・・アリストテレスですし、それは・・・三段論法とは少し違う・・・と思いますが、多分・・・、そうです。」

 目が虚ろになって、フラフラと体を揺らしながら、堀木陽菜乃がポコチン先生の目に魅入られている。トランス状態に入ってしまいそうだが、どうしても先生の言葉に時々ひっかかるらしく、時々顔をしかめて、訂正してしまう。宙ぶらりんの気持ち悪い精神状態のようだ。

「じゃあ、どうすればいいと思う?堀木の自分の考えで行動しなさい。」

「う・・・。ス・・、スカートを・・・脱ぎます。」

 何度も小さく首をかしげながらも、陽菜乃は震える手で、スカートのホックに指をかける。クラスメイトのみんなが見つめるなか、男勝りの性格とキリッとした美貌で男女に人気がある堀木陽菜乃は、ゆっくりとスカートのジッパーを下ろした。空気の抵抗を受けながら、ハラリと紺のプリーツスカートが床に落ちる。引き締まった脚線美と、清潔感のある白いパンツがクラス中の目にさらされた。

 ポコチン先生は生徒の、自分自身で考えて答えを探す姿勢に満足しながら、片手でイチモツを擦り始める。修一は生唾を飲み込みながら、スカッとした気分で陽菜乃のパンツ姿を視姦して楽しむ。マジメぶってポコチン先生にチクったりするから、パンツ丸見えにされちゃうんだ。そう思いながら陽菜乃の後姿を凝視する。

「でも先生。スカートがなくても、パンツがあれば、ずらしたくなると思います。さっきの登山家でも、多分そうすると思います。」

 お調子者の奏真が手を挙げて発言する。追い討ちをかけるような言葉を聞いて、頭が少しハッキリしたのか。陽菜乃が奏真の方を振り返って、口をパクパクさせる。口の動きからすると、「バカなこといわないでよ」と言いたいようだった。

「そうだな。ジョージ・マラリーも、パンツがあったらずらしていただろうな。ポコチンもそう思う。」

「ちょ・・・、ちょっと待って下さい。そんなのって・・・。」

「堀木。ちゃんとポコチンの目を見て話しなさい。堀木は一体どう思うんだ?」

「あとマラリーじゃなくて・・・・、あ・・・、あぁ・・・。あの、私は、パンツを脱げば、ずらされる・・・こともないと・・思います。」

 男子生徒の低いどよめきと拍手の中、堀木陽菜乃がゆっくりと純白のパンツを下ろしていく。スカートと一緒に机の上に置いた。右手で股間の前の部分を、左手でお尻の谷間を隠そうとしている。それでも、キュッとつりあがった若くて固そうなお尻。そして子供から大人になりかけの、おヘソから股間に至る少しぎこちない曲線は、朝の男子たちの目を充分楽しませる。

「これは、もしかしたら、正解ではないかもしれない。でも堀木が自分で悩み、自分で導き出した、立派な答えだ。ポコチンは応援するぞ。みんなも堀木に拍手だ。」

 女子も拍手の波に加わって、教室中を拍手の音が響き渡る。喝采の中、顔を真っ赤にした陽菜乃は、両手で無防備な下半身を隠したまま、教室の全方向にペコペコお辞儀をした。

「キャッ。」

 拍手の嵐の中、小さな悲鳴が上がった。修一がそれに気がついて様子を伺う。どうやら、陽菜乃の姿を見ながら自分のモノを擦っていたポコチン先生が、うっかりそのまま射精してしまったようだった。悲鳴を上げたのは、彼の前に座っていて精子を顔にかけられてしまった、川端かの子だ。

 ちょっと可哀想・・・。修一は、大人しい性格の、かの子に少しだけ同情した。ポコチン先生の精液は、3時間は拭き取ってはいけない決まりになっている。髪から顔にかけてベットリついた先生の精子を、そのまま放置して授業を受け続けるのは、なかなかシンドイ。先生はたまに、誤って男子もかけられてしまったりするから、その辛い気持ちは修一にもよくわかるのだ。


。。。


<1時限目>



 ポコチン先生の授業は、特に教科が限定されていない。その時の思いつきで、適当に授業を進めていく奔放なスタイルだ。昨日突然みんなが受けさせられた、抜き打ちテストの結果が返ってきた。

 色んな科目が混ざっている総合テスト。始めの方は手の込んだ問題もあったが、最後の方はほぼ全て保健体育の問題。後半になるに従って、明らかに設問も雑になっているテストだった。

「ポコチン先生、やっぱり『抜き打ち』って言葉が言いたかっただけじゃねぇの?」

 前の席に座る、横尾奏真が小声で修一に耳打ちする。修一もそう思う。それでも修一は、
 うんざりしている奏真と違って機嫌がいい。テストの結果が82点と、大台に乗っていたからだ。

「わっ、修一。『ご褒美券』付いてるじゃん。80点超えたのかよ。すげーっ。」

 修一の解答用紙の左上に、ホチキスで留められているピンクのチケットが目に入って、奏真が驚く。修一はニンマリと笑顔を見せて、無言のまま親指を立てて見せた。

 『エロそうに聞こえる日本の地名を書け』という地理の問題、奏真は『オマーン』と書いてサンカクになっていた。『エロいが、日本の地名ではない』と、ポコチン先生の細やかな指摘が書き込まれている。修一の解答は『女体山』。ちゃんとマルがついていた。ちなみにポコチン先生が黒板に書き示した模範解答例は『奥飛騨温泉郷』。文学的官能性を感じるという先生の解説は、中学生たちにはあまり理解されていなかったが、みんな大人しくノートに書き写した。

 55点の奏真と82点の修一。解答用紙を見せ合うと、実はマルの数はそれほど違わなかった。今回修一が大きく得点アップした要因は国語の問題。『エロそうに聞こえる作家・文学者の名前を書け』という問題で、修一の書いた『横溝正史』という解答に、ハナマルが付いていたのだ。下に『+20点!』と大きく書かれている。どうやら、先生のツボに入ったらしい。ポコチン先生の出すテストが、優等生以外の生徒の間でも意外と評判がいいのは、こういう逆転ホームランがあるからだろう。

 期待に胸を膨らませながら、修一はピンクの『ご褒美券』を大事に両手で持つ。このご褒美券こそが、最近修一たちを少しずつ、真面目に授業に取り組ませるようになった理由なのだ。一枚につき一回だけ、クラスメイトの中から指名された者が『ご褒美』として、チケット獲得者の言うことを聞かなければならない。性に目覚めた中学生男子の使い道は、90%以上の確率で、同級生の可愛い女子とのセックスだった。

 3週間ぶりのチケット・ゲットだ。誰に使おうか・・・。修一は幸福な悩みに浸って、1時限目の授業を妄想しながらやり過ごす。下半身スッポンポンになってノートを取っている堀木もいいが、せっかくの券なんだから、もっと普段なかなか裸が見られないクラスメイトの方がいいか・・・。学級委員の邦越柚葉は、おしとやかでスレンダーな美少女。スポーツ少女の門馬ななえは、よく日に焼けている、引き締まった健康美が魅力。図書委員の仁村里緒は、本の虫だけど隠れ巨乳。幼馴染の才木翠も、しばらく裸を見ていないな・・・。

 クラスの女子たちのエッチな姿を、アレコレ想像していると、時間が矢のように過ぎていく。ふと修一が気がつくと、真っ白なノートに自分の涎が垂れてしまっていた。



「先生っ。千紗ちゃんが・・・。」

 授業を遮って、最前列の香田真由子が手を挙げる。面倒見のいい、優しい女の子だ。

「千紗ちゃんがオシメ、換えて欲しいみたいですっ。」

「バブバブ〜。」

 みんなの注目が集まるなか、恥かしそうに、申し訳なさそうに、赤くなって縮こまっているのは、元6組のクラス担任、麻賀千紗ちゃんだった。美人で、知的で、デキる女っぽい麻賀先生は、校内でも有数の人気教師だった。それなのに彼女は、ポコチン先生が『三田中』を訪れて以来、6組の生徒の一人になってしまったのだ。

 先月はお下げ髪にして黄色い帽子と赤い吊りスカートという、小学生のような格好で登校していた千紗ちゃん。今月に入ってからは、赤ちゃん用のフリルの入った頭巾に涎掛け、おしゃぶりとオムツだけを身につけて登校してくるようになってしまった。最近の千紗ちゃんは、生徒たちが話しかけても、「バブバブ」としか返してくれない。それでも頭の中は27歳の大人の女性の理性が残っているようで、授業中にオムツの中を濡らしたり汚したりするといつも、恥かしそうに下を向いて、両手で顔を隠している。

 今ではすっかり赤ちゃんになってしまったけれど、元先生だった千紗ちゃんには、みんなお世話になってきたと思っている。それなので、だから日替わりで『千紗ちゃんのオムツ換え当番』をすることにしたのだった。

 修一も当番になった日は、千紗ちゃんのオムツを交換してあげる。特に彼女が、大きい方でオムツを汚しているような時は、顔をしかめながらも、ちゃんとお尻を拭いてあげなければならない。それは楽な仕事ではない。それでも、目鼻立ちのくっきりと整った大人の美女の、裸の下半身を色々と調べたり出来る機会と思えば、そこまで嫌なものでもない。当番の日のことを、ふいに思い出す。

 きれいにしてあげた後で、特に念入りにヴァギナやクリトリスをマッサージしてあげた時には、麻賀千紗ちゃんは顔を左右に振りながら、「バブバブ」と抗議した。それでも修一が強い口調で「メッ!」と言うと、シュンと大人しくなって、股間を自由に弄らせてくれるようになる。やがて漏らす声が高くなっていって、最後に「ブバ〜ッ」と悲鳴のような声を出すと、直後に、千紗ちゃんのアソコから熱い液が噴き出てくるのだ。それを丁寧に拭き取って、ベビーパウダーをポンポンとつけてあげる頃には、麻賀千紗元先生はすっかりご機嫌になって、キャッキャと笑い転げている。無邪気な27歳の千紗ちゃんの笑顔を見ているうちに、修一は、男ももっと育児に参加した方がいいな、と考えたりしたものだった。


。。。


<大人の放課時間>



「ちょっと、横尾!アンタ何てこと言ってくれるのよ。私、こんな格好で、下校出来ないじゃない!アンタからポコチン先生に言って、私のコレ、直してもらってよ!」

 凄い剣幕で、堀木陽菜乃が修一の悪友、横尾奏真にまくし立てている。上半身は怒れる6組女子のリーダーそのものだが、下半身はシャツから下から紺のスクールソックスまでの間に何も身につけていない。両手で股間を前と後ろから隠しながらの抗議は、奏真をやり込めるだけの迫力には欠けるようだ。

「え?でも、これでもう、スカートめくりなんて心配する必要ないじゃん。パンツだってずらされない。嬉しくないの?」

「そういう問題じゃないの!・・・アンタ、私を本気で怒らせたら、どうなるかわかってんの?馬鹿なアンタと違って、私は今、3枚も『ご褒美券』持ってんのよ。それを使ってお願いをしちゃったら、アンタはこんな格好じゃ済まないんだからね・・・。」

 やっぱり、頭のいい女子にはかなわない。修一も予想していなかった陽菜乃の反撃に、明らかに奏真が怯んだ。

「な・・・、お前、それ、卑怯だぞ。俺なんかこれまで、1枚しかご褒美券もらったことないし・・・。」

 奏真がチケットをもらったのは、体育での跳び箱の授業、1回のみ。しかも、直後の放課時間にはそれを使って体育館倉庫で、スポーツ美少女の門馬ななえと後背位でセックスをしてしまった。石灰の匂いが立ち込める体育館倉庫。奏真のリクエスト通りにブルマを膝まで下ろした門馬ななえは、バレーボールのレシーブの構えをしたままで、後ろから激しくファックされてしまった。

 しかし、みんな奏真のことは笑えない。男子生徒のほとんどは、ご褒美券をもらうと、その日のうちに使ってしまうのだ。それを何枚も貯めておいて、用意周到にこんな機会で脅しに使うとは、女子ってなんて恐ろしい生き物だろう。修一は、股間を両手で隠しながらも不敵に微笑む陽菜乃を見て、女の怖さを少しだけ知った気持ちになった。

「どうするの?私と一緒にポコチン先生のところに行って、この状況を直してもらうようにお願いするか、それとも私の10倍も恥かしいようなことさせられるか・・・。早く決めないと、もうチケットを・・・。」

 強い態度で奏真を責めていた陽菜乃だったが、教室の中で突然、ムードたっぷりの音楽が流れ出すと、言葉を失う。修一もはっと気がついて、黒板の隣に貼られている、時間割表に目をやった。1限目と2限目の間の放課時間の中に、小さな書き込みがある。

 『4分頃からチークタイム』

 なぜかいつも、放課時間中のスケジュールのことを、生徒たちはつい度忘れしてしまう。おぼえていたのは、音楽当番の男子一人だけだった。埃のついた黒の直方体。古いタイプのダブルラジカセから再生され始めたのは、学校には思いっきり場違いな、ディスコナンバーの前奏だった。

「Mary Jane, On My Mind〜」

 野太い、ソウルフルな男の声が教室中に響き渡る。陽菜乃は奏真を懲らしめることも、下半身を隠すことも忘れてしまったかのように、奏真の胸元に跳び込むと、二人ヒッシと抱き合った。

「もっ・・・、もう・・。一時休戦よ。チークタイムの間だけね。」

「お・・おう。」

 修一も、奏真と陽菜乃の変貌振りを笑っている場合ではない。この曲が聴こえたら、大人ムードたっぷりのチークダンスを、近くにいる女子と踊らなければならない。ポコチン先生の決めたルールは、6組の生徒たちには絶対の掟なのだ。慌てて周囲を見回すと、図書委員の仁村里緒と目が合った。二人とも当然のように駆け寄って体を密着させる。

 当番の男子は急いで教室のカーテンと暗幕を閉める。教卓に登った千紗ちゃんが、大量のアルミ箔を丸めて作られた、6組専用手作りミラーボールを高々と掲げた。小さな涎掛けの下から立派なオッパイがすっかり露出してしまっているのも気にせずに、胸を張った麻賀千紗ちゃんは、ミラーボールの台となって直立したまま、ゆっくりと教卓の上で回転する。大型懐中電灯の光がミラーボールに当てられて乱反射すると、教室の雰囲気は様変わりした。

 教室中の男女が、近くにいる異性と慌ててカップルを作って、抱き合い、頬擦りしながらチークダンスを踊る。みんなうっとりとした表情で、ムードに酔っているようだ。

「ずっと・・・この曲が永遠に続いてくれたらいいのに。」

 修一の耳もとで、仁村里緒が溜息混じりに甘い言葉を囁く。普段は大人しい彼女の温かい息が耳にかかると、修一はもっと強く里緒の体を抱きしめた。隠れ巨乳の仁村が体を押しつけると、柔らかい抵抗がハッキリと修一の胸もとに返ってきた。

「不思議なもんだな。こうやってると、ずっと昔から恋人同士だったような気がするぜ。」

 修一は低い声で小さく呟くと、里緒のきれいに分けられた黒髪の中に鼻を埋めた。シャンプーの匂いに混じって、里緒の体の放つ香りが彼の鼻腔をくすぐる。喉が、ブランデーの味を求めていた。

 曲にノッて体を揺らしながら回転する修一と里緒の隣で、奏真と陽菜乃はさらに激しく抱き合っていた。

「陽菜乃の尻、ちょっと固めだよな。」

「コ・・・、コラ、ひ、開いちゃ駄目。じかにそんな・・・。もう・・・。おぼえておきなさいよ。チークタイムさえ終わったら・・・。あんっ・・・。」

 後ろから手を伸ばしてアソコに触れようとする奏真。陽菜乃は抵抗せず、頬を奏真の横顔に擦り付けたままじっと耐えた。やがて、少しずつ、もっと強い刺激を求めるように、自分から腰を押しつけ始める。

「もう・・・、奏真の馬鹿・・・。」

 諦めるように一言囁いた後、陽菜乃は大胆に、奏真の耳の穴に舌を入れた。

 ダビングを途中で止めたかのように、突然ブツリとバラードが途切れる。生徒たちは全員、即座に我に返って、顔を赤くする。上気した顔を手で仰ぎながら、おずおずと即席パートナーから体を離した。乱れた髪型や服装を慌てて直す女子たち。男子たちはたいがい、手や胸もとに残っている感触を頭の中で反芻しながら、余韻を楽しんでいた。

 どうしても、この放課時間中のイベントタイムのことを、6組の皆は次の授業が始まるたびに忘れてしまう。そして次の放課時間にBGMに流れるたびに、また体が反応してしまうのだ。手足が勝手に動き出すのを見守るしかない時もあれば、身も心もポコチン先生の気まぐれな設定に、なりきって没頭してしまう時もある。いつでも6組の生徒たちは、ポコチン先生の玩具になってしまうのだった。

「Mary Jane」という曲がかかればチークタイムを情熱的に楽しんでみせ、「マンボNo.5」という曲がかかれば、制服や下着を下ろしたり戻したりという動作を滑稽に何度も繰り返す。『吉本新喜劇のテーマ』が聞こえると、机に上って裸になった上半身をパチパチ叩いたり、体を張ったギャグで身を捨てる。阿波踊りの演奏が流れれば、全員『踊りやすい』パンツ一丁の姿になって陽気に踊り狂ってしまう。

 曲が終わると、いつも全員、素面に戻って、恥かしそうにお互いの顔を見合わせてしまう。なんだか恥かしさ、悔しさと気まずさが混じったこのおかしな気持ちを共有することで、6組の生徒たちは、みんな特別な連帯感を持ち始めていた。


。。。


<いじめ、カッコ悪い>



 6組の木藤奈美(きとう・なみ)がポコチン先生に呼ばれて、教卓の隣に立たされる。目立たない容姿と暗めの性格で、時々男子にからかわれたり、イジメられたりする、気の弱い女子だ。こういう時だけ勘のいい奏真は、顔をしかめながら、後ろの席の園山修一に振り返ると、「ヤバいぞ」という視線を送った。修一も重い気持ちで下を向く。先週、陰で男子生徒の間で木藤の悪口を言って盛り上がっていたことが、ポコチン先生にバレてしまったのではないだろうか。

「遠藤、横尾、園山、宮口、蒲田。こっちに来い。」

 ポコチン先生が青筋を立てている。怒っているポコチン先生は、何をするのかわからない。修一も奏真も震える足で教卓の前に並んだ。

「ポコチンな、悲しいぞ。もうグッタリしちゃうよ。頑張ってお前たちを指導してきたつもりなのに、なんとイジメがうちのクラスであったって聞いてな。もうポコチン、ションボリだ。下向いちゃうよ。・・・この木藤さんの悪口を陰で言ってたっていうのは、本当か?」

「は・・・、はい。」

 6組の悪ガキが揃って頷いた。ポコチン先生の前では、嘘をついても何の意味もない。怒った彼のオレンジ色の眼で見つめられると、どうせ本当のことを喋らされてしまうのだ。

「遠藤。お前が木藤さんに、『お前、亀頭ナメって呼ばれてるんだろ?』とか話しかけたらしいな?本当か?」

「は、はい・・・。あの・・、本当です。」

 茶髪の遠藤猛(えんどう・たける)が馬鹿みたいに答えるのを聞いて、奏真と修一はこっそり遠藤を睨みつけた。陰で笑って盛り上がってるうちは何の問題もなかったはずなのに、不良ぶってる馬鹿の遠藤が、わざわざ木藤奈美本人の目の前でそんなことを言うから、バレてしまうのだ。

「何で木藤奈美さんを、『亀頭ナメ』なんて呼ぶんだ?」

「あ・・、あの、それは、最初に言い出したのは、僕じゃなくて、横尾君なので、僕はわかりません。」

 遠藤猛の最悪の回答に、思わず奏真が舌打ちをする。遠藤は不良ぶっているが、馬鹿だった。

「横尾。・・・お前か。木藤さんが、1年の頃、不登校だったって、知ってるよな?ポコチンがこのクラスの担任になって、やっとイジメも撲滅できて、木藤さんも、みんなと馴染めるようになったって思ってたら・・・。なんでお前、木藤奈美さんのことを『亀頭ナメ』なんて呼ぶんだ?」

「は・・はい。あの、響きが似てたからです。その時は、冗談のつもりで言っていました。今は、反省してます。」

 奏真の緊張が隣の修一にまで伝わってくる。叱られモードという意味では、まあまあの答えだったと思う。

「木藤奈美・・・、亀頭ナメ・・・。ブフッ。・・・下らん!」

 一瞬、ポコチン先生が吹き出したことを、生徒全員が理解したが、聞かなかった振りをした。

「人の心の痛みをわからんバカチンにはな、ポコチンが体の痛みで教えてやるしかないようだな。お前たち、響きさえ似てれば同じものか?何でもいいのか、コラ。」

 ポコチン先生がパイプ椅子から立ち上がる。ジャージのチャックから出したままのチンポが揺れた。

「響きが似てれば同じか。だったらキテレツ大百科と近鉄百貨店は同じか!ペンタゴンとパンタロンは同じか!ウーピー・ゴールドバーグとキューピー・コーワゴールドは同じか!鳩サブレーと鳩サブローは同じか!」

 ポコチン先生は、一声かけるたびに、一人ずつ、ビンタしていった。修一もキツいビンタを左頬に浴びせられた。ひっぱたかれた後から、ビリビリと顔の左半分が熱く痺れてくる。強烈な大人の一撃だった。

 一人ずつ、木藤さんに謝らせられた後で、残りの2時限目の間、修一たちは廊下に立たされていた。水を張ったバケツを持って立たされる、古典的な『反省』スタイル。修一たちは時折舌打ちしては、遠藤に冷たい視線を送った。

「イテテ・・・。あんだけテストで『エロく聞こえる名前を書け』とか言っといて、あれはねぇよなぁ・・・。なぁ、シュウ。鳩サブローって一体誰だよ?」

 奏真がブツブツと、釈然としない思いをこぼす。

「知らないよ・・・。ただの勢いじゃね?」

 修一は、体罰がキツいとは思いつつも、木藤に配慮が足りなかったところは、素直に反省しようと思っていた。別に彼女を特別にイジメてやろうとか思っていたわけではない。ただ男子の内輪の馬鹿話での盛り上がりのつもりだった。それでも結果として、一時期不登校になっていたりしていたデリケートな女子を傷つけたんだったら、スパッと謝って、スパッとビンタされた方が、いっそ気持ちがいい。そう思おうとした。

 実は修一が一番怖いのは、ポコチン先生の感性なのだ。先生は怒りながら、目に涙を溜めながら、修一たちをビンタした。しかし、もう片方の手はいつも通り、自分のチンポをしごいていた。なんで、泣くほど怒りながら、悪ガキの男子たちの顔を真っ直ぐ見据えながら、いきり立ったチンポをしごけるのだろう・・・?ビンタされることよりも、そんなことが出来る先生の感覚の方が、修一にとっては怖いものだった。

 教室に戻ることが許された修一たちは、いつの間にかポコチン先生が木藤さんを呼ぶ時に、当たり前のように「亀ちゃん」と呼ぶようになっていることに気がついた。木藤さんも、まんざらでもなさそうな顔をして返事をしている。修一は、やはり何か怖いと思ったのだった。

。。。


<学級委員からのご褒美>



 気分を切り替えようと、修一は次の放課時間の間に、『ご褒美券』を使ってしまうことに決めた。いざあれこれ考え出すと色々な女子に目移りしてしまうが、ここは王道を行って、クラスで1、2を争う美少女にして学級委員長である、邦越柚葉にご褒美をリクエストすることにする。修一は2限目の終了を告げるチャイムと同時に、邦越の席に駆け寄る。柚葉は少し驚いた様子で、修一を迎えた。

「ど・・、どうしたの?園山君。何か、あった?」

 猛ダッシュのせいで荒れた呼吸を整えながら、修一は、握り締めたピンクのチケットを邦越に見せる。

「いや・・・ま、どうってことないんだけどね・・。その、これで、委員長にご褒美もらえるかなって思ってさ。」

 修一が突き出したご褒美券を見ると、邦越柚葉の聡明そうな顔が表情を無くした。目はチケットを透かしてどこか遠くを見ているような彷徨い方をして、口が半開きになってしまう。少し驚いたように眉を上げたまま、柚葉の整った清楚な顔から生気がゆっくりと抜けていく。

「は・・い。ご褒美。なんでもします。・・・柚葉は、何をしたら・・、いいですか?」

 拳で小さくガッツポーズをとった修一は、遠慮なくずけずけとリクエストをする。ご褒美をもらうに値することをしたんだ。気兼ねする必要なんてないはず・・・。

「委員長。俺と熱烈なセックスをしてくれよ。どっか、空いてる部屋を探して、二人でエロエロなこと楽しんじゃおうぜ。」

「は・・・い。喜んで。」

 頭の重さに耐えられないように、コックリと深く頷いた柚葉は、修一に手を引かれるままについていく。社会科準備室に誰もいないのを確認した修一が、柚葉を連れ込んで準備室の鍵をかけた。

「ほら、委員長。ここなら誰もいないぜ。人目を気にせず、激しくヤッちゃおうか。」

「うん・・・。しょうがないんだけど・・。でも、園山君。私、ホントはもっと大人になって、大切な人が出来るまで、大事にしておくつもりだったのに・・、この2ヶ月で、8人もの男の人とこんなことしちゃってるの。このままだと、クラスのみんなと、そういう関係になっちゃうよ・・・。どうしよう。」

 睫毛の長い目を伏せて、真面目な委員長が少し困った声を出す。早足で移動している間に、だいぶん理性が戻ってきたようだ。

「うーん。委員長は可愛いし、人気が高いからしょうがないんじゃない?委員長も、最初の男はポコチン先生だったんでしょ?最初に委員長を女にしたのも、こういうシステム考えたのも、先生なんだから、どうしようもなくね?」

「うん。そうなの。どうしようもないんだけどね・・・。」

 清純派の学級委員長、邦越柚葉には、ポコチン先生の作ったルールに逆らう気持ちは全く起きない。それでも、これからもチケットを手にしては押し寄せる男子生徒たちに、体を差し出して奉仕し続ける学園生活を思うと、少し気が重くなっているようだった。

「俺だって、委員長がガリ勉たちとヤリまくってるって知ってショックなのに、そこは我慢しようとしてるんだから、あんまりここで暗くなるの、やめてよ。それともセックス自体、やめにする?」

 ご褒美券の原理を理解している修一が、意地悪くキャンセルを口にすると、邦越柚葉は逆に慌てる。

「ちょ・・・、ちょっと待ってよ。ゴメン。今の嘘。今更やめるなんて言わないで。私は、園山君と『熱烈なセックス』をしなきゃいけないの。今になってキャンセルって言われても、二人でエロエロなことが出来なかったら・・・。私、おかしくなっちゃう!」

 清純派のはずの柚葉は、修一の体にしなだれかかって、懸命に彼を誘う。修一だって、ちゃんと知っている。ご褒美券を差し出されて、持ち主から宣言されたことには、ポコチン先生の生徒だったら皆、本人の意向に関わらず、体がスタンバイしてしまうのだ。それを途中でキャンセルだと口で言われたって、体の求めは止められない。柚葉の体だって、今は使命感に燃え上がって、疼きが止まらない状態のはずなのだ。

「え?ホントにいいの?2年生の中でもトップクラスのルックスで、育ちもいいお嬢様の委員長が、俺なんかとセックスしちゃっていいの?」

「したいの。園山君の頑張りのご褒美になるんだったら、柚葉の体を目茶苦茶にしちゃってほしいの。お願いします。セックスして下さい。」

 顔を至近距離まで近づけて、懇願する邦越柚葉。修一はその、魂ごと吸い込まれそうな少女の美貌に釘付けになった。牛乳石鹸のような、いい匂いがする。思わず唇に吸いついた。軽く目を閉じた柚葉が、全て受け入れようとする。彼に舌を入れれば、自らも口を開けてそっと舌をそわせ、唾液を流し込まれれば、喉を鳴らして飲み込んだ。

 ディープなキスを続けながら、柚葉は夏服のセーラーに手をかけてスカーフの結び目を解いていく。水色のカラーからスカーフがハラリと落ちる。息が苦しくなった修一が一度唇を離すと、チュパっといやらしい音が、二人の口の粘膜の間で鳴った。

「園山君。柚葉の・・・裸を見てください。」

 目を潤ませ、頬を紅く染めながら、熱にうかれたような口調で真面目な学級委員長が言う。二歩下がって立ち上がった彼女は、セーラーシャツの小さなホックを外すと、細い両手を鳩尾の前で交差させてシャツの裾を掴み、ゆっくりと上着をめくり上げて頭を抜いた。

 真ん中に小さなリボンがあしらわれた、清楚でかわいらしいブラジャーが修一の目に晒される。ほっそりとした二の腕と肩。思春期の頼りなさを繊細な筆で描いたような、華奢な体つき。透き通るように白い肌。修一が眠れない夜に何度となく妄想してきた柚葉の体は、間近で見ると彼の想像以上に可憐で壊れやすそうな美しさをまとっていた。

 プリーツの入った紺のスカートに手をかける美少女。小さな金属の部品が擦れあう音が聞こえると、空気の抵抗をたっぷりと受けながら、ファサっとスカートが着地する。白地の下着姿になった彼女の体を、隠そうとするように、あるいは確認するように、しばらく柚葉の両手が所在無さ気に彷徨った。

「全部脱いで・・・、生まれたまんまの姿になっちゃうね。」

 修一に逐一報告するように、または自分自身に言い聞かせるように、柚葉は口にして、ブラジャーの背中のホックに両手を回した。修一は、いつの間にか自分の口がカラカラに渇いていることに気がつく。布地のストラップを肩から外しても片手で胸もとを押さえて、しばらくブラを体から離そうとしない柚葉。焦らされているような、一番いい時間を共有しているような・・・。修一は呼吸すら忘れて柚葉の儚い下着姿に見入っていた。


 園山修一が、邦越柚葉の裸を見るのは、これが初めてではない。ポコチン先生が6組の担任になった5月下旬、彼が生徒たちに課した最初の課題は、『僕、私のオナニー生活』というタイトルの作文を皆に書かせて、順番に発表させることだった。教卓の上で実演しながら作文を読み上げさせられる生徒たちは、男子も女子も同じように一人ずつ、皆の前で、最も秘密にしたい部分を発表させられてしまった。

 そしてみんなの熱い注目が集まる邦越の番になると、彼女は「するのは本当にたまにですが」と前置きしてから、原稿用紙を片手に教卓に上がった。綺麗好きな彼女は、ベッドや部屋着、パジャマを汚すのが嫌なので、お風呂でしかシない、と読み上げる。それが災いして、彼女は実演を、全裸になって行ってしまった。自分の秘密の妄想、『格好よくて優しい、塾の先生(43歳)に個人指導の後で触られる』というストーリーを披露しながら、オナニー姿をクラス中の男子に見せつけ、果ててしまうまで発表をやり遂げたのだった。


 あの時の光景を、細かくノートを取りながらも修一は記憶のスクリーンに、しっかりと焼きつけていた。それ以来、いくつかのイベントの中で、修一は柚葉の裸を目に焼きつけてきている。しかし、間近で、二人きりになって見る邦越柚葉の裸は、教室の中で数メートル離れて見るそれとはまたどこか違っていた。彼女の体の呼吸が、躊躇いが、疼きが、1メートル以内のこの距離では、はっきりと見て取れる。そしてこの裸は、テストで思いがけず高得点を得た修一を祝福するために、彼だけに披露してくれる、まさに特別なものなのだ。

 潤んだ熱っぽい目を瞬かせて、柚葉が修一を見つめる。ビデオのスローモーションのように、あるいはコマ送りのように、音のない世界の中で彼女がブラジャーを下ろしていった。丸いリンゴのような若いオッパイと、肌の色とほとんど変わらない色合いの、小さな乳輪。乳首だけはその存在を主張するようにツンと上を向いていた。最後の抵抗のように胸を覆っていた左手も、おずおずと腰の辺りに下ろしていく。修一の前には憧れの学級委員の輝かしいバストショットがフルオープンビューで提供されていた。

 モジモジと恥かしそうに膝を擦りあわせながらも、柚葉は最後のバリアーであるべき白いパンツを、少しずつ下ろしていく。白い布が白い肌の上を滑って、足首のところで止まった。紺のスクールソックスと上履き以外は、全裸になってしまった彼女が、何か、修一の言葉を求めるかのようにその場に立ち尽くしている。修一は、干上がった口内を労わるように生唾を飲み込みながら、やっと口を開いた。

「委員長。綺麗だなー。マジでずっと見ていても、飽きなさそう。」

「恥かしいよ・・・。でも、今はこの体、園山君のものなんだよ。園山君に、捧げられちゃったご褒美なんだから、貴方の好きにしていいの。だけど、本当はあんまり痛いことはしないで欲しいな。柚葉、まだちょっと怖いの。」

 視線のまさぐりに晒されるのが我慢出来なくなったかのように、邦越柚葉が修一の前に歩み寄ってきて、彼の手を取り、自分の手と繋ぐ。どちらからともなく、また唇を寄せ合って、短いキスを数回続けた。

 修一の手が、白いリンゴのような丸いオッパイに触れ、じっくりと揉み始める。湿ったマシュマロのような柔らかさと、瑞々しい果実のような若々しい反発が、同時に彼の指に返ってきた。少しずつ触れる場所をずらしながら、柚葉のオッパイを揉みしだく。手のひらに乳首が硬い感触を与える。人差し指と中指の間に挟んで摩り上げると、柚葉が顎を上げて、のけぞった。

「はぁんっ、気持ちいい・・・。私、どんどん変になっちゃう。」

「俺の好きにするよ。コッチもグチョグチョにしてやりたい。指入れちゃうよ。いいね、委員長?」

「うん・・。グチョグチョに・・・、して。」

 遠い目で、柚葉が懇願する。緊張する指でアンダーヘアの奥を探ってみると、細くて淡いヘアの向こうで、粘りけのある彼女自身の液が、タラリと修一の指先にまとわりついた。周囲に指を這わせていくと、肉が少しだけ盛り上がった後で、彼女の内部に入っていってしまうような、穴のある感触。そこに至る割れ目をなぞると、肉の守りから体を起こしつつあるクリトリスに一瞬触れた。

「やっ・・ぁあん・・。」

 電気が走ったかのように、痙攣に近い震えを見せる柚葉。襲い来る羞恥心を振り払って、快感に身を任せるようとしているのか、修一の背中に両手を回して、しっかりとその身を彼に委ねた。

 彼がクリトリスを弄るたびに、学級委員長は修一の腕の中で跳ね上がって踊り狂う。敏感な彼女の反応を楽しみながら、やがて彼の指は、クリトリスからもっと下。再び膣口の付近をもてあそぶ。ヴァギナの中へ、人差し指と中指を押し込んでいく。プツプツとした柚葉の中の粘膜が、指を包み込むように収縮した。

 それ以上、我慢出来なくなって、急ぎ、ズボンとトランクスを同時に降ろす。硬く起立した修一のモノを、指を出し入れした邦越柚葉の穴に、侵入させようとする。始めに口許の抵抗があったが、角度を工夫して押していくと、咥え込むように結合出来た。

 柚葉が反射的に、小さく息を吸い込む。温かい彼女の内部の感触を、もう既に、すぐにでも中のものを放出して、果てそうになっている、修一のモノが堪能する。強めの抵抗を楽しみながら、彼が腰を使ってモノを往復させ始めた。

 背筋を弓なりにしてのけぞっては、彼女が快感に身を震わせる。粘液を強く混ぜ返す音を立てながら、ピストン運動が激しくなっていく。抱き合う修一と柚葉の両手が、汗でびっしょりとなっていく互いの背中や腰骨を何度も掴みなおす。柚葉の喘ぎ声が、周囲に遠慮をしていられなくなってきた。

「はぁあっ、ああんっ・・・、ち・・、中学生・・なのに・・・、まだ、中学生なのにぃいいっ!」

 激しさを増していく、お互いの腰の動き。修一が祈ったよりも随分と早く、彼のペニスの堰は決壊してしまう。スペルマの熱い濁流を断続的に流し込んで、修一はやっと脱力する。柚葉が放心状態のまま、腰から来る痙攣を何度か見せる。彼よりも4秒ほど先に、イッてしまったようだった。


「はぁ・・・。気持ちよかったよ。委員長。」

 粗い呼吸を整えながら、柚葉が頷いて何かを答えようとするのだが、まだ頭が正常に回らなくて、言葉が出てこないようだ。10秒ほどしてやっと、一音、一音噛み締めるように、彼女が言葉を発した。

「ちゃんと・・・ごほうびになったかな?私の体・・。」

 修一は言葉で答えるかわりに、床に寝そべる彼女の体をもう一度抱き寄せて、額にキスをした。


「どうしよう・・・、3時限目の授業、すっかり遅刻だよね・・・。」

「ん・・・。」

 散乱する服の上で抱き合ったままの二人が、少し心配そうに囁きあった。時間に厳しいポコチン先生の指導を思い浮かべると、教室に戻るのが怖くもある・・・。

「その心配はない。」

 突然、社会科準備室の上の方から、野太い男性の声がして、木の扉が勢いよく開かれる音がした。ビクッとした修一と柚葉が慌てて声のした方角を見ると、木の棚の最上段、ギリギリ人体が入り込めるような隙間に、ポコチン先生が寝そべってこちらを向いていた。

「キャッ・・・、先生!」

 柚葉が慌てて上体を起こして、制服で胸もとを隠す。

「な・・、何やってるんすか・・。」

 修一が呆れた声を出した。

「もちろん覗きだ。ポコチンはお前たちがエロいことをしている時、いつでも覗いている。いつでも見守っていると思え。」

 全部見られていたと知って、顔を赤らめながら柚葉がコクリと頷いた。

「はい・・。わかりました。ありがとうございます。」

 修一は、すぐに納得する柚葉を振り返って、首を小さく左右に振った。彼はまだ、少し釈然としない思いを抱いているのだ。先生はそんな二人の様子に構わず、自分の言いたいことを喋り続ける。

「そして3時限目だが、まだポコチンの授業は始まっていない。だから安心して服を着なさい。・・・あと、ここから出るのを手伝ってくれ。ポコチン、入ったはいいが、一人では出られなくなってしまったのだ。より狭そうなところに入りたがるのは、ポコチンの悪い癖だな。」


。。。


<魂の授業>



 14分遅れて3時限目の授業に入った2年6組。ポコチン先生はいつになく雄弁だった。黒板に激しく走り書きをして、唾を飛ばして講義をした。授業は日本史。今日の講義内容は『日本におけるエロ議論の闘争史』だった。

「いいか、男の体と女の体。服の上からでも、すぐ見分けがつくのはどの部分だ?」

「あっ・・・。」

「そう、この・・・胸だな。この、わかりやすい男女の差異をエロに結びつけるのを『胸派』と言う。思想学派としての胸派だ。」

 最前列の才木翠が、おもむろに先生に乳を鷲掴みにされて、ビクッと肩を震わせる。しかし先生のすることなので、それ以上抵抗はしない。

「この、わかりやすさからエロを導き出すという、胸派のエロティシズム論の最大の長所は、爽やかさだ。わかりやすくシンプルなエロは明るさを生む。そして男性だけでなく女性にとっても理解、共有しやすいものになるんだ。現代におけるグラビアアイドルの隆盛、『セクシー』という言葉が好意的に解釈されて浸透したこと・・・。これらは全て胸派の功績だ。」

 みんな頑張ってノートを取る。教室中にシャープペンや鉛筆の芯がノートに触れる音が溢れる。修一もいつにもまして、授業に入れ込んでいる。一度ご褒美券の味を堪能してしまうと、何がなんでも、次のテストでも高得点を狙いたくなるのだ。

「一方で、胸派全盛の弊害も出てきた。わかりやすさは追求しすぎると、記号や数字といったシンプルな基準だけで判断することにつながるんだな。女性の胸がやれ、DカップだEカップだというところでのみ、女体のエロを判断したり、スリーサイズだけで見たりするようになる。これに異を唱えたのが『尻派』だ。」

「ひっ・・。」

 手を引かれて起立させられた真坂が、スカートの上から尻を撫で回されて、小さく悲鳴を上げる。それでも授業の邪魔にならないように、「きをつけ」の姿勢でジッと耐えた。

「男と女の尻の違いはどうだ?服の上から、遠くからでは、簡単に見分けはつかない。しかし、よく見れば違いはわかる。この『よく見れば』という部分からエロスを導き出そうとするのが『尻派』なんだ。尻派は胸派がシンプルでわかりやすい基準でエロを選別する中、そこから零れ落ちる大事なエロスを拾い上げることで発言力を伸ばした。」

「ふぁぁ・・・。」

 円を描くように、ゆっくり真坂の尻を撫で回すポコチン先生。

「Aカップの胸にはAカップなりの。ポッチャリ体型にはポッチャリ体型なりの、『よく見れば、わかるやつにはわかる』エロを見いだそうとした。こうした尻派の長所は、木目の細かさと個性の尊重にあるといえる。短所は・・・マニアックさだろうな。日本のエロは、この胸派と尻派という二大思想潮流のせめぎあいの中で発展してきたと言える。98年に日本で開かれた、第54回・国際チンポジウムでも、議論の中心になったのは、この思想対立だった。ここはテストに出るから、よくおぼえておくようにな。・・・・さて、遠藤。あと鈴木。立ちなさい。」

 歩き回って説明をしているポコチン先生が、ふと立ち止まったところで目の前にいた、遠藤猛と鈴木響生の二人を立ち上がらせた。

「お前たちは胸派か?尻派か?どっちだ?」

「えっと・・・、僕は胸派です。」

「僕は・・・、強いて言うなら、尻派です。」

「なるほど・・・うんうん。」

 ニコニコと頷いていたポコチン先生は、いきなり二人に思いっきり、ビンタをくらわせた。

「このドスケベがっ!」

 吐き捨てるように言って、床に唾をペッと飛ばした。
 突然、強烈なビンタを横っ面にくらって、呆然と頬を押さえる二人。
 やりきったという表情で、教室を後にするポコチン先生。3限目の授業はそれで終わりだった。全生徒の、「えぇ〜・・・」という心の声だけが、先生の歩き去った教室に残された。修一は、やっぱりこの先生は、何かが怖いと思ったのだった。


。。。


<さようなら、僕らのポコチン先生>



 4限目の授業は、急にホームルームに変更された。ポコチン先生がいつになく真面目な顔で、教卓に両手を置いて、何から話そうか迷っている。生徒たち全員の静かな注目の中で、ついにポコチン先生は重大な発表をした。

「実はな、今日でポコチン、お前たちとは、お別れなんだ。」

「エェーェエエッ!」

 2年6組の教室がどよめいた。何も言わずにジッと教卓を見つめる先生。

「どうして?なんで突然、私たちを置いて行っちゃうんですか?」

「そうだよ、先生。辞めんなよ。」

「先生っ。」

「先生っ。」

 6組の生徒たちが、教卓に駆け寄ってポコチン先生を囲んだ。みんなが口々に、先生に辞めないでくれと懇願する。修一も柚葉も陽菜乃も奏真も、実はポコチン先生のことが好きだった自分たちに気づかされる。麻賀千紗・元先生まで、おしゃぶりを飛ばして「バブバブ」と拳を振りながら主張している。みんな本当に、ポコチン先生のことが好きだったのだ。

「お前ら・・・。」

 ジーンとなった様子のポコチン先生は、涙がこぼれるのを防ぐように、上を向いて目を閉じている。生徒たちの輪の中で、天を仰ぎながら嬉しそうに目を瞑っている先生。この先生が今、露出したままのチンポを左手で擦ってさえいなければ、それはさぞかし感動的な光景だっただろう。

「ポコチンな、お前たちに謝らなければならないことがあるんだ。・・・本当の自分を曝け出せって、お前たちに教育してきたポコチンだ。今日は勇気を出して言うよ。実はポコチン。教員免許を持ってない。先生でも、なんでもないんだ。というか、高校もちゃんと卒業してない。」

「えぇーっ!」

 生徒たちが驚きの声を上げる。

「それだけじゃない。ポコチン、33歳の今まで、定職についたことは一度もない。バイト経験もない。このジャージも、いや服は全部、お母さんに買ってもらってるんだ。」

「えぇーっ!」

「この両目に不思議な力が宿るまで、ポコチンは童貞だった。いや、お母さん以外の大人の女性とは、10年ぐらい、ちゃんと話したことがなかった。」

「えぇーっ!」

 半歩だけ、女生徒の何人かが後ずさったのを、修一は見逃さなかった。

「ずっと人と目を合わせて会話することも出来ずに、学園モノのエロゲーばかりやり続けてきた16年間。何かを変えようと思って、近視矯正手術のレーザーを浴びた瞬間から、なぜか、これまで溜まり続け、発酵されていたポコチンの中のエネルギーが、目から溢れ出すようになったんだ。」

 誰も言葉を発しない。ポコチン先生は、一言、一言、言葉を選びながら、誠実に、正直に、生徒たちに語りかけていた。

「みんな、これまで騙していて、申し訳なかった。ポコチンの授業は、全部デタラメだ。教科書として配った『でらベッピン』も、資料集として配布した『BUBUKA』も、文部科学省の認可なんて受けてない。全部・・・嘘だったんだ。ポコチン、この通り謝る。どうか許してくれ。この通りだ。」

 ポコチン先生が直立したまま、自分のペニスを左手で下向かせる。皆は、何と言っていいのかわからず、ただ先生を囲んでいた。

「ちぇっ、何だよ。やっぱり全部嘘っぱちかよ。だけど、そんなのどうだってよかったんだよ。」

 教室の後ろ側の扉の傍で、遠藤の声がする。不良ぶった行動の多い遠藤猛は、いままで一番、ポコチン先生のビンタをくらってきた生徒だった。

「俺にとってはな、アンタだけじゃない。今までの学校生活、親の言うこと、大人たちの言うこと、全部が嘘っぱちに聞こえてたよ・・。だけど先生。アンタの授業はデタラメでも、アンタの性欲だけはホンモノだって思ったんだ。意味不明だけど、アンタのビンタだけは本当に痛かった。ハートまで響いた。それなのに・・、畜生っ。辞めんなら勝手に辞めろよ。どっか消えちまえ!」

 遠藤が教室から駆け出していく。ポコチン先生と生徒たちが見送る中、イジメられっ子だったはずの木藤奈美が一人、遠藤の後を追いかけて教室を出た。

「遠藤・・・、亀ちゃん・・・。あいつら・・・。」

 修一が、遠藤と木藤の勇気を無駄にしないように、思い切って先生に話しかけた。

「先生、俺・・・、遠藤や木藤の気持ち、少しわかるよ。先生が元、引き篭もりの無職童貞だって、授業が無茶苦茶だったって、そんなのどうだっていい。アンタの性欲だけは、本物だ。きっと・・・だからそんな、変な力が宿ったんだよ。アンタは俺たちの先生なんだ。辞めないでくれよっ!」

「そうよっ!辞めないで。ポコチン!」

「いかないで、ポコチン!」

「いかないでっ、ポコチン!!」

 女生徒たちも、修一の言葉に賛同する。そんな、みんなの顔をゆっくりと、一人一人、見回したあとで、ポコチン先生は寂しそうに笑った。

「ありがとう、皆。だけど・・・ポコチン。もう行かなきゃいけない。本当のことを言うと・・・、そろそろ子供は飽きたんだ。ギャアギャアうるさいし、マンコが小便臭いことが多い。特に君と、君・・・。気をつけてくれな。それに、もうそろそろ、熟女もチャレンジしたいと思っててな・・・。」

 全員、少しの間、本当に何と言っていいのかわからなくなった。

「だけどポコチン、お前らと過ごした日々のことは、一生忘れない。ビデオカメラでも沢山盗撮したから、何度でも見返してオナニーするよ。それだけは約束する。ポコチン、お前たちと一緒に学んで、自分も人間的に成長したような気がする。こないだもお母さんに言われたんだ。『ポコチン、最近、一皮剥けて、より男らしくなったように見えるわ』ってな」

 急に眉を上下させながら、見得を切るポコチン先生。得意げに生徒たちのリアクションを待ったが、みんなは、目を逸らしてやり過ごした。

「とにかく今日で、お別れだ。みんなありがとう。これからも、チンポやマンコを大切にな。」

「先生〜。」

 6組の生徒たちが、先生に抱きついてみんなで泣いた。先生も目に涙を溜めながら、チンポを擦っていた。ポコチン先生との、異常で特別な学校生活が、今日で終わろうとしていた。

 皆の脳裏を、2ヶ月間の出来事が走馬灯のように駆け巡る。楽しかった季節外れの運動会。リレーはバトンの代わりを女子が務めて、男子たちがかわるがわる、一人の女子と交わった。最後の方は、ただの輪姦にしか見えなかったことを、みんなよく覚えている。社会見学は秘宝館。学校に戻ってきて全員で見てきたオブジェの様子を再現させられた。教室の中で、全員の体のサイズを読み上げられ、生徒一人一人の体の情報を全部共有させられた身体測定。女子に目隠しさせて、二人の男子のタマを舐めさせてから、誰のものか当ててもらった、ドッチボール大会。全員で撮影した、全裸集合写真。みんなみんな、二度と経験することはないであろう、不思議で特別な思い出だった。いつの間にか、先生も生徒たちもオイオイと泣いていた。肩を組んで、涙声で合唱を始めていた。



 午後の授業をみんなでエスケープして、駅までポコチン先生を見送りに行った。遠藤や木藤を始めとした何人の生徒たちだけは、顔を出さなかった。先生はそれに気がついた時も、少し寂しそうに微笑んで頷いただけだった。ボストンバッグを片手に、電車を待つ先生。

「ね、麻賀先生。ポコチン先生、どうしても行っちゃうのかな?もう、二度と会えないのかな?」

 学級委員長の邦越柚葉が、麻賀千紗先生に尋ねる。千紗先生は、優しく頷いた。

「ポコチン先生は、そろそろ熟女にいってみたいって仰っていたでしょ?みんなが立派な大人の女性になった頃、きっともう一度会えるわよ。」

 諭すように教える千紗先生。白いブラウスにチャコールブラウンのロングスカート。スカートはモッコリと盛り上がっていた。下に穿いているオムツのせいだ。ポコチン先生はお別れの際に、これまで皆に掛けて来た暗示から、皆を一部解放すると言った。千沙先生は、赤ちゃん言葉以外も喋れるようになって、元の先生のポジションに戻ったけれど、当分クラスのオムツ当番制度は維持する必要があるみたいだ。

「先生、俺、ずっと気になってたんだけど、鳩サブローって誰?そんな人いるの?」

 奏真の質問に、麻賀先生は黙ったまま、笑顔で首を左右に振る。

「もう何も訊かないで」と言っているように思えた。そして答えるかわりに、先生は奏真の耳もとで、恥かしそうに囁く。

「先生、またオムツ濡らしちゃった。あとで横尾君、換えてもらえるかしら。」


 遠くで警笛が鳴る。じっと線路の向こうを睨みつけていたポコチン先生。大地を揺るがすような、重厚な車輪の音が近づいてくる。蒸気で動かされるピストンの音。そしてなぜかホームにやってきたのは、『D−51』というプレートを掲げた、黒光りする蒸気機関車だった。ホームに黒煙が立ち込め、独特の蒸気音、重金属の擦れあう音が響き渡る。

「おう・・・、陸蒸気がやってきたな。時間だ。みんな、本当にありがとうな。」

「先生・・・、みんな、先生を胴上げだ。」

 修一が呼びかけると、男子たちをはじめとして、みんなでポコチン先生を囲い込んで、胴上げを始めた。

「ワーッショイッ、ワーッショイッ」

「ワーッショイッ、ワーッショイッ」

「ソーレソーレ、ソーレソーレェィッ!」

 掛け声が、どんどん大きくなる。野太い男たちの掛け声が、生徒たちの声を後押ししている。いつの間にか、町の若い衆も繰り出して来ていて、みんなでポコチン先生を胴上げした。シブキを上げる力水。風を送る大団扇。打ち鳴らされる大太鼓。男たちは褌一丁でぶつかり合う。女たちの中にも褌一つで跳ね回っている者がいる。老いも若きも、みんなでポコチン先生の前途を祝った。喧嘩っ早い町火消しの男たちも、勇壮に踊っている。大店の旦那衆も嬉しそうに茶屋の二階から見物だ。料亭のいなせな若女将まで、暖簾を捲って外の様子を伺っている。髷を結った人々が、嬉しそうに楽しそうに、踊りまわっていた。

「おい・・・、なんだこれ?・・・あと、鳩サブローって、ホント誰なんだよ。」

 修一の隣で、奏真が小さく呟く。しかしその声は、祭りの喧騒の中ですぐに掻き消された。


 一方、隣のホームは、怪訝そうに向かい側のホームを見つめる人々で騒然となっていた。なぜか1番ホームに蒸気機関車が停まっている。その手前は妙に江戸情緒溢れる、季節外れのお祭り騒ぎになっていて、そのなかから時折、下半身を露出した中年男性が宙を舞う。正気の沙汰とは思えなかった。


 笛が鳴り、カイゼル髭の機関手が出発の時を示す。チンポを出したまま、ボストンバッグ片手に汽車に乗り込んだポコチン先生。ホームでは紙吹雪が舞い、万歳三唱が繰り返されていた。モンペに割烹着姿の婦女や紅顔の子供たちは、日の丸の手旗を盛んに振っている。禿頭の市長も鉄工所の社長も、紋付袴にソフト帽を手にし、万歳を繰り返す。丸眼鏡をかけた尋常学校の校長はドジョウ髭を撫でつけながら手を振る。互助会の老会頭は、旧制の古びた軍服を着て、敬礼していた。堀木陽菜乃は股間を左手で隠しながら、右手で、ある婦人がみんなに振舞っていた、アンコロ餅を受け取って頭を下げている。楽隊は小太鼓と大小のラッパで、豪気な音楽を奏でていた。

 煙突から一塊の黒煙が玉のように吹き上げられ、ゆっくりとピストンが、重い動輪を回し始める。はじめは焦れるほどゆっくりと、やがて少しずつ早く、車輪が回転し始める。乗車口に立って敬礼するポコチン先生の姿が、ゆっくりと右へと動いていった。

「先生、ありがとう。忘れないよ。」

 ホームを併走するように走りながら、修一が声をかける。

「ポコチンも忘れないぞ。園山。みんな。ありがとうな!お前たちはポコチンの生徒だ。ポコチンの誇りだ。元気でな・・・。」

「先生ーーぇぇっ!!」

 ホームの先端まで走りついて、6組の生徒たちが立ち止まる。見送る機関車の窓からは、見慣れたチンポが突き出され、上下に振られているのが小さく見えた。陸蒸気が突然、生徒たちの耳をつんざくような、大きな汽笛を上げる。千頭の馬がいななくような、高く、力強い汽笛。モクモクと煙を噴き出して、ポコチン先生を乗せた蒸気機関車は、どんどん小さくなっていった。



 ポコチン先生は汽車の中で、やっと窓際の席に腰掛ける。窓の向こう側を走り去るのは、2ヶ月間通った、大切な景色。ついつい窓枠に手をかけて、子供のように見入ってしまう。そして汽車が河の上に架かる陸橋に差し掛かろうとする時、ポコチンはかすかに、聞き慣れた声を耳にした。

 思わず立ち上がって窓から上半身を出す。堤防から河川敷の川べりまでの緑の土手を、全裸の生徒たち数人が駆けていくのが見える。遠藤と木藤、そしてホームでの見送りに来ていなかったはずの生徒たち全て。6人の全裸の少年少女は、横長の大きな布をはためかせて、汽車と併走するように、必死に走っていた。

 『さよなら、ポコチン先生。ありがとう。目指せ日本一。』

 何人かの筆跡で、布に大きく書きなぐられている。一番ヘタクソな最後の字は、遠藤のものだ。全裸の少年少女たちが駆けていく後ろを、何人もの警官が追いかけていた。ポコチン先生は風で涙が吹き飛ばされていくのもそのままに、ちぎれんばかりに大きく手を振った。

「馬鹿ヤロー!」

 大声で叫んでみる。聞こえたのか、聞こえてないのか、先頭を走る遠藤は飛び上がって、負けずに激しく手を振っていた。

 堤防の草の上を駆け下りる中で、何人かの生徒が足をつまずかせて、転ぶ。追いついた警官たちに取り押さえられる。先頭を走っていた遠藤は、長く白い布をなびかせたまま、勢いよく河に落ちた。汽車が陸橋を走っていくなか、そんな彼らの姿も、見る間にゴマ粒のように小さくなっていく。黒いゴマ粒に囲まれていく裸の白いゴマ粒たち。大馬鹿で素っ裸の、かけがえのないゴマ粒たち。汽車が河の上を渡りきって向こう岸を走っていく頃には、全ては緑の景色に飲み込まれていた。

 窓から上半身を出したままの姿勢で、いつまでも向こう岸を眺めていたポコチン先生は、隣町を過ぎる頃、やっと堅い木の椅子に体を預ける。深い溜息をついて、肩を大きく上下させた。目を瞑ると、2ヶ月弱の学校生活が、今見たばかりの映画のように甦る。いつの間にか、車輪が線路と擦れあう音がしなくなっている。窓から見える景色は、地上から離れて、青空と入道雲のせめぎあいを見せていた。蒸気機関車は、さらにはるか上空に向かって、雲を、空を、真っ直ぐに突き抜けてゆく。

「ふぅ・・・。・・・就職しよっかな。」

 甘酸っぱく、そしてどこか少しだけ苦い、そんな熱い思いを、溜息とともに吐き出したポコチン先生。ふと真顔に戻ると、そう一言だけ呟いたのだった。

 
 
< 劇終 >


 

 

戻る