この素晴らしくも理不尽な世界に


 

 



(……これは?)

「ぁっ……んっ……くっ……!」

 両手を後ろから左右につかまれ、必死に声を押し殺している見覚えある女性の後ろ姿。
 黒く長い髪にあちこち赤く腫れた痛々しい背中、何かにかかじられたような無数の切り傷、ぼろぼろに破かれお腹の回りを覆う以外の役目を果たしていない衣服、そしてその部屋から感じる独特の空気と異様な違和感。

「はっ……ぁ……ぁっ……」

(なんだ、これは……)

 聞き覚えある女性の悲鳴にも似た喘ぎ声、全身から発する汗と異常に高まった女性の体温、心とは裏腹に激しく求めてしまう下腹部と、それによってもたらされる至福の快感、微かに香る女性の甘美にしてやわらかな匂い、何処か既視感あるその光景。

「へっ、どうした? そろそろ限界か?」

 聞き覚えある、男の声、自らは動かず、両手を抑え相手の反応に身を委ね、楽しむさま。

(これは、まさか……)

「だれがっ……っつはぁっ……! アナタ、なんかっ!」

(シス!? となると相手は……)

「折角身体がこんなに悦んでいるのに、あまり我慢しすぎると身体に毒だぜ」

(間違いない! 俺だ!)

 目の前に浮かぶ光景、それはシスが何者かに押えつけられ、後ろから襲われている姿。そして今、おそらくはその男……いや、襲いかかっている俺の視点でシスを見下ろしている。肩や背中にある無数の傷痕と赤く腫れた痕、腹部以外一切剥ぎ取られ、必死に堪えているシスの悲壮なる後姿、接している腰と腰のぶつかりあう音とその快楽。

 そこはいつもの俺の部屋ではない。
 暗くて内装は見えないが、シスの足元は畳がひいてあり、同じアパート内の別の部屋かと思った。

 ぐちゅっ。

「ぁっ! あああああっっっ!!」

(ふぁっ!)

 シスは大きく背をのけぞらせた。足がつま先までぴぃんと伸びて、小刻みに震える。
 それは膣内を動く肉棒の音、敏感になった肉壁の接触で、くちゅくちゅと音を発しながら絡み合う。

(うわっ! なにこれっ!)

 先端をとてつもない快感が貫く。シスの膣内は大量の愛液と、俺が射精したと思われる大量の精液が混じり、ひくひくとまるで異物を歓迎するかのように絡みついてきた。

「っとに強情だなぁ。身体はとっくに陥落しているってのにさ」

「違う! 私はっ! っつはぁっ……!」

 シスの腰が本人の意思を離れて跳ね狂う。自ら腰を動かす。おねだりするように腰をくねらせ、強い力で膣内の奥へ、奥へと自ら誘導する。その動きはより深く、より激しく自ら強く求めているようにしか見えなかった。彰人のペニスが奥深くに当たると、シスの身体に快感電気が湧き上がり、全身に流れた。

「あああ………っぁ……」

 俺……、いやその場所にいる俺はほとんど動いていなかった。シスが自ら身を震わせ、身体を動かし、腰をくねらせ、激しく肉壁と肉壁をぶつけてくる。熱く滾る俺の一部を、彼女はより熱く、強く、深く、自らの膣内で激しく求め続ける。

 いつのまにか、俺の両手はシスの手を離していた。
 離されたシスの両腕は、畳を引き裂くほどに強く爪を、その指を畳の中に喰いこませていた。
 そして俺は、シスの胸に両手を回し、その胸を後ろからまさぐり始めた。

「っはうっ!!」

「さてと、覚悟は良いかい? シィ、スゥ、さん?」

(なんだ、いったい。これは……?)

「さあて、流石にこれで、墜ちるだろ」

「あっ……っ、はっ……ぁ……ぁ、ぁ、あ……これって……あ、あ、あっ……」

 シスの口から一言漏れる度に、その声は次第に恐怖と怯えの色が増していき、顔は後ろからでもわかるほどに引きつり、絶望が徐々に強まっているのを感じられた。

「これで隷奴完成っと。まあ、大事にしてやるから、安心しろ」

「ぁ、ぁ、ぁ、ゃ、ゃぁ……ぁ、ゃぁっ……」

 やがてシスは声が止まり静かになると、固まったかのように動かなくなる。

(シス!! やめろ俺! やめろっ!! シス? シス!!)

 そして突如、全身を激しく震わせ悲鳴にも似た絶叫を上げた。

「………………………………ひっ……ひゃあああっっっ!! ああっっ! やぁっ! やぁああああああっっっつ!!!」 

(シス!? どうした? シス!!!)

 ………………。

 ………………。

 ………………。

(…………んっ)

 薄っすらと目を明けると、そこには真横で無防備な顔をつくり安らかに眠っているシスの姿が見えた。
 そこは、彰人の部屋、彰人がいつも眠っている布団の中。
 いつもの部屋に、いつもどおり、彼は横たわっていた。

(…………ゆめ?)

―――この素晴らしくも理不尽な世界に=予兆―――


(夢……か)

 目の前のシスを見てそう感じると、彰人は心の中でほっと胸を撫で下ろした。

(それにしても、凄く生々しかったなぁ……)

 先ほどまで見ていたあまりにも現実感の強い夢のせいで、彰人の全身はぐっしょりと汗をかいていた。

(声や匂い、肌のぬくもりや独特の空気、何より――)

 そう思いながら、彰人はシスのワイシャツ一枚の身体をみつめた。

(はだかにワイシャツ一枚って凄い格好だな、今更だけど。……身体に痕ついてなければ良いけど…………シスの膣内(なか)って、あんなに凄いのか?)

 彰人は夢の中で感じたシスの姿を思い出し、今目の前で眠っている彼女の姿に重ね、その肉体の奥に秘めた神秘と、夢の中で見た悲惨な姿と、そしてそんな彼女に襲い掛かっていた自分自身とで強い罪悪感と、複雑な気持ちにかられた。

(あれはもしかして、過去の現実? ならこのリアリティも納得がいく。もしこれらが事実だとしたらもしや……もしそうなら、シスが俺につくすのも説明がつく。でも――)

(でもそれは、絶対にありえないはず。だって俺は――)

「……アキト、少し痛い」

「あっ、シス。起きたのか」

 シスはうっすらと瞼(まぶた)をあけ、ぼうっとした顔でアキトを見つめていた。

「うん、さっき起きた」
「さっき?」
「お腹」
「えっ? ……あ」

 見ると、布団の中は、白濁液でべっとりと汚れていて、男性器が少しじんじんしていて痛かった。それは布団だけでなく、シスのワイシャツやボタンの間から、少し彼女のお腹のあたりにまで飛び散っていた。

(夢精したのか。そりゃあ勃ったまま眠ったけど……)

 彰人は先程の夢で夢精してしまった自分に罪悪感と、軽く後悔の念に包まれた。

「昨日、射精(だ)したけど消化不良に終わったからかな? 何度もしてたよ」

(まあ、シスの膣内(なか)半端なく凄かったからなぁ……)

 彰人はそう考えながら、夢の中の快感をもう一度体験したいと思っていた。

「それよりこっち、少し痛い」

(え、あ、あれ?)

 シスは、自分の胸を弄っている彰人の右手を抑えた。
 見ると、彰人はいつのまにか、ワイシャツの中に手を入れ、シスの両胸に触れていたのだった。

(いつ触れた? これも夢の反動か?)

 そう思いながらも、彰人はシスの乳房に手を触れたまま、離そうとしない。

「そんなに胸好きなの?」

(何だろう、胸が好きというより、シスの胸は気持ち良いというか、触っていると落ち着く……美穂さんの胸とは違う。いやかなり違うな。なんだ、この感じ)

「ねえ、どうしたの。ずっと無言だけど」

「あ、悪い。ちょっと考えていた。(シスが話してもあべこべに俺が話さなくなっちゃ意味無いよな)胸は好きだよ。大きさに関係なく」

「そう……」

「でもシスの胸って違うよな。何かこう、飽きないというか、いつまでも触っていたいというか、自然と手が動くというか。正直気持ち良い」

「え、そうなの?」

「というか、触られて恥ずかしくないのか? さっきからずっと触っているけど」

 そういいながら彰人は、むにっ、と少し力を入れてシスの乳房をおさえる。
 シスの乳房は、彰人の両手におさまる大きさで、しこりも無く柔らかく、胸越しに、シスの鼓動を彰人の右手に伝えた。

「少し恥ずかしいけど、今は疲れている上に、寝起きだから少し、反応薄いだけ」

「そんなに疲れているの? ひょっとしてあの能力ってかなり消耗する?」

「それもあるけど、ここ最近、あまり安心して眠れなかったから」

「え、何で?」

「…………秘密」

 シスはそういうと少し眠たそうに瞼を閉じた。

(確か前もこんな言い方していたなぁ)

 シスのその反応に、彰人は少しもやもやしたが、同時に、ふと夢の事を聞きたくなった。

「ねえ、そのままで良いから質問、良いかな?」

「何?」

 シスは目を閉じたまま、眠たげに彰人の問いに耳を傾ける。

「お前と暮らすようになって、どれくらいだっけ?」

 すると、目をパチリと大きく見開いた。

「思い出した?」

「あ、ああ、おぼろげだけどな(なにこの反応?)」

「……何を、思い出したの?」

 シスは顔を近づけ、彰人の顔を興味津々に覗き込んだ。

「(近いって!)えっとな、何となく、前からこうして肌合わせたり、眠ったりしていたなぁって(嘘は言ってない、と思う)そんな気がしたんだ。なんとなくね(これでいいか?)」

 彰人は罪悪感からか、後ろめたさか、夢の事をそのまま聞くことはできなかった。

「そう……、そうなの………………ねえ、アキト」

(どきっ)

 彰人の言葉に、シスは少し驚いたような表情をつくり視線を少し逸らすと、その後すぐ真剣な顔と眼を作り、そのまま彰人を見つめた。その顔に、彰人はどきんと一瞬胸が高鳴り、直後心臓の音が止まったような錯覚に見舞われた。

「ねえ、アキト」

「な、なに?」

「抱きついて、良い?」

「え?(いきなり? というか今更?)」

「ねえ、ダメ?」

「い、良いけど(何だ、いったい?」

「そっか………………にっ♪」

(っ!)

 ふわっ。
 少し嬉しそうに笑うと、ワイシャツの袖から一瞬で両手を抜き取りその手で彰人の両手を左右にはねのけ、両腕を彰人の背中に回した。そして一糸纏わぬその肉体を彰人に強くすりつけた。
 その突然の笑みと行動に彰人は驚愕し、思わず硬直したままそれを受け入れた。

(シス……全身柔らかっ……というか何だ、これ)

 彼女の両腕は力一杯彰人を抱き寄せ、まるで待ち焦がれていたかのようにぎゅっと強く、激しく彰人を包み込んでいた。

(話し変わるけどこいつは全身凶器だと思う。色々ヤバイ。微笑は昨日も見たけど、そのうち死人出すぞ。主に俺だが)

「良かった……やっと、やっと思い出した」

(やっと? あの夢は合っているのか?)

 その声は優しく、落ち着いたペースでゆっくりと、少し嬉しそうに彰人に向けられた。

「早く、全部思い出してね」

「全部?(いったい俺に何があったんだ?)」

「大丈夫。ゆっくり思い出して平気、だから」

「あ、ああ、わかった(俺は、記憶を失っているのか?)」

「聞いて。もしこれから、あの時の記憶思い出したら、今の言葉を思い出して」

「あの時?(それって、もしや?)」

「【私は大丈夫。最初は辛かったけどもう後悔はしていない、今はこうして幸せだから、貴方もどうか後悔しないで。ほんとうにありがとう】これを、忘れないで」

 ずきっ。

(もしかして……)

 その言葉に、彰人はまた、胸の奥に罪悪感と絶望感がふつふつと湧き上がっていた。

(やっぱり……あれは現実なのか…………)

 心配になり、抱きついているシスの背中を覗き込み、両腕をそっと背中に回した。
 そこは傷ひとつ無くすべすべで、何処にも夢の痕は見られなかった。

「アキト、大丈夫?」

 すると、シスは彰人の少し生気の抜けた顔を心配そうに覗き込んだ。

「もしかして、いきなり(その記憶を)思い出した?」

「あ、ああ。多分な(お前を襲っているところだけだが)」

「なら尚更、忘れないで。私はアキトの傍にいたい。これからも、ずっと」

 そういうと、シスは真っ直ぐな瞳でじっと彼の瞳を見つめた。

「シス……(これは、どっちだ、本心か、それとも……)」

 シスの瞳に嘘の色は無かった。しかし彰人の夢の中での言葉が脳裏に強く焼きつき、それが彰人の判断を惑わせる。
 するとシスは、いつまでも曇った顔をしている彰人をじっと見据えた。

「不安?」

「……ああ、まあ、な」

「大丈夫。全部思い出したら、きっと納得すると思う。必要なことだったから、問題ない」

(それは、今の俺としてか、それとも、夢の中の俺か)

「ねえ、朝御飯にしよう。それと洗濯、布団このままだとまずいし」

「あ、そうだな」

「うん、じゃあ朝は私が作るね」

 バサッ。

 そういうと、シスは布団をめくるとワイシャツを片手につかみ立ち上がり、彰人を残しそのまま部屋を後にした。

(ほんとうに、大丈夫なのか?)

 彰人は不安になっていた。
 自分は記憶を失っている。それは間違いない、しかしその果てに夢の中の自分がいるとしたら、記憶を取り戻すことは、夢の中の俺を目覚めさせることになるのではないかと。
 それは同時に、シスにとっても辛いことになるのではないかと。

(夢の俺は言った。【隷奴の完成】と、シスはそのときから俺の隷奴になったのか? どうして? 大体俺は、確かに特別な能力は持っている。けどあんな能力じゃないはずだ。一体どうなっているんだ?)

 そう、彰人もまた異能な才に目覚めていた一人であった。
 しかしそれは、夢の中で感じたソレとは、明らかに異なる、別の能力(ちから)だった。

(……第一、今も使えない。いや、そのとき使えたのかも。でも、それでも……ええい、頭がこんがらがる。今のままで良いのか?)

 彰人は布団の上で苛立ちから、ぐしゃぐしゃと髪をかきまわした。

「アキト、できたよ」

 すると、台所のほうから、シスの声が聞こえてきた。

(はやいな、もうか)

「今行く、ちょっと待って」

(とりあえず考えるのは少し後にしよう。今悩んでもシスに心配させるだけだ)

 アキトは急いで立ち上がり、鏡台の上にあるティッシュ箱をとり、先に汚れた下半身の掃除を始めた。

(そういえば珍しくシスは何もしなかったけど、何か記憶と関係あるのか?)

 すると、半袖シャツとハーフパンツに着替えたシスが部屋に戻ってきた。

「アキト? あ、ごめん、忘れていた」

「いや平気、それよりおまえさ……」

「何?」

 そんなシスの姿を見て、ふつふつとある疑念が浮かんできた。

(そういえば昨日……、服渡したときにシスが違うって泣いていたのは、俺が以前と違うって意味か? 元の俺ならこんなことしないって、そういうことか?)

「そういえばお前の物全然無いけど。何で?(前の俺はそこまで酷いのか?)」

「あ、ほとんど預けてあるから」

「何で預けたの?(というか誰に?)」

「思い出したら、教える」

(思い出したら教わる意味無いと思うけど……)

「布団は?」

「元々一緒に眠ってたよ」

「え、そうなの?」

「うん」

「あと、何でそこまでつくしてくれるの?」

「ふぇ?」

「(ふぇってなんだ?)朝、えっちだの、フェラだのってさ、お風呂とか、いくらなんでもつくしすぎだろ。どうしてそこまでするの?(夢通りなら、わからなくもないけど)」

「それも……思い出したら……♪」

「うわっ!」

 すると、掃除していた彰人の下半身に素早く膝を曲げて回り込むと、手でつかみ、舌で先端部分に残っていた精液を一瞬で綺麗に舐めとった。

(相変わらず、上手いなあ)

 すると、すぐに彰人の肉棒から離れると、シスは口に含んだそれを、少し味わうように飲み込んだ。

(気のせいか、ほんとに美味しそうだな)

「布団洗うね。着替えていて」

「了解、わかった」

(勘違いじゃない、前もこんなことしていた気がする)

 その後、アキトは着替え、シスは先にシーツを洗濯機にいれ、布団は後でどうにかすると話した後、二人は仲良く朝食をとった。
 昨日の夜と同じ、昨日買ってきたものの残りを並べたものです。

「これ、意外と美味しいね」
「うん、こっちは冷めているほうが良かったかな」
「だな、味が変になっている」
「こっちパサパサ」

(こんなこともしていた気がする……)

 彰人は、シスと話しながら、軽い既視感に襲われていた。

「どうしたの? さっきのこと?」

 そんな事を思い、意味深な顔をしている彰人を心配してか、テーブル越しにシスが彰人に不思議そうに話しかけた。

「いや違う……そうそう。俺、今日友達と会う予定あるから、夕方頃までいないと思う」

「わかった。ならそれまでに荷物運び入れて良い?」

「(預けてあるやつか?)わかった、手伝うよ」

「いい、少しだから。あと、あとで買出しもしておくね」

「了解。金ある?」

「大丈夫。まだある」

「(まだ?)了解」

(これも、懐かしいような気がする)

―――そして食後数分後―――


「じゃあ、行ってくるね」

 彰人は半袖ジーンズに、紺色のシャツの上から一枚羽織ると、靴を履きながらシスに挨拶ながら手を振った。

「うん、行ってらっしゃい」

 するとシスは少し楽しげにそんな彰人を見送った。

 ガチャッ。
 
 部屋を出て、目の前の階段を降り、アパートの前の道路を歩きながら、彰人は考えていた。シスのこと、これからのこと、自分のこと、そして、能力のこと。

(思い出したことがある)

 シスとの会話を経て、彰人はおぼろげに、自分の記憶の中にあるシスを思い出した。
 それは朝の夢がきっかけだったのか、今までと違いその記憶の数々は、少しずつだが確実に、彰人の頭に戻りつつあったのである。

(シスって、元々そんなに笑ってない)

 そして彰人は、記憶の中のシスを思い出し、再び不安にかられた。

(笑わないのは、元々? それとも俺が何かしていたからか?)

 しかし玄関前の俺を見送るとき、シスは確かに楽しそうに微笑を浮かべていた。
 わずかだけど、俺に笑みを見せてくれた。

(何故、今までの俺はシスと一体どんな生活を送ってきた……、本当に、このまま記憶が戻っていいのか? 元の俺に戻るのか? あの夢の中の俺に、それで良いのか? 大体何故シスを選んだ? 髪の毛は何故切った? そもそもあの肌、そうだシスの身体……) 

 そうこうして考えているうちに、今朝のシスの肌の感触を思い出した。

 少し不謹慎だと思った。
 でも、思い出したものは仕方ない。
 温く、でも少しひんやりした人肌、それがまた気持ちよかった。
 すべすべ、ぷにっ、としていて柔らかくて、ふんわりしていて、人肌の心地よさだろうか、ずっと触っていたかった。ずっと触れていたかった。そう、シスの肌は乳房とか関係なく凄いのだ。天使、または女神の身体だろうか。俺にとって最高の肌だった。

 そして、俺はまた、不安になった。
 もしかして、そういう身体に俺が書き換えたのかもしれないと。
 従順で優しくて、ここまで見事に揃っていると逆に疑いたくなる。
 俺はもしかすると、能力の新しい使い方に気がついて、それをシスに実行したのかもしれない。それならそこまでありえなくも無いはず。
 でもどうやって、そんな方法あるのか? 大体そもそも何故シスを選んだ?
 どうしてシス一人? シス一人で満足した? どうして?
 そこまでの能力があるなら、誰だってハーレムを望む。俺は違った? 何故?
 昔の俺は何を考えていた? 一体過去に何があった? 何が――?

 苦悩し、悩み続けるその時の俺は、完全に忘れていた。
 そう、確かに忘れていたのだ。

 自分の能力の、本当の姿を___。

―――同刻、アパートにて―――


 こんこんこんこんこんこんこんこん。

 がちゃっ。

「おや、シスか、いらっしゃい」

「おはようございます。仙波さん」

「おはよう。彰人の容態はどうだい?」

「はい、今朝少しだけど思い出したみたいです」

「おお、それは良かった。シスも嬉しいだろう?」

「はい、ありがとうございました。それで、荷物運ぼうと思って。それと昨夜、引っ越してきた浅野美穂さんのことで、少し相談が」

「ん? 何かあったのかい? 話を聞こう。荷物はもう纏めてあるから手伝おうか。とりあえずあがって」

「はい、おじゃまします」

―――同刻、浅野美穂の部屋―――


「…………えっと」

(なんでこんな格好なの。だいたい、この服は何?)

 美穂は困惑していた。
 気づけばソファーの上に眠っていた。しかも全裸で。
 服は周囲に派手に散乱しており、それが美穂を更に悩ませた。
 しかし悩んでいても仕方ないので冷静に一つ一つ思い出していた。

(えっと、冷静に私。昨日お風呂に入ろうとして……、その後……そう、胸を触ったらおかしくなったのよ……そしてどんどん気持ちよくなって……それで……あっ!)

 美穂は思い出した記憶に、思わず心の中で声をあげた。

(私、裸でアキトくんの部屋に行った。えっと確か……そう犯して欲しいって! え、え、え? え、ぇえーっ! ちょ、え、それ、あれ?)

 昨夜の事を思い出し、次第に顔が赤くなっていく。

(え、ちょっとまって、何でそんな、いくら我慢できなかったからって、犯してって馬鹿私! 何それ、あー、そうだアキトくん凄く困った顔していた。何言っているのよ、私! ばかばかぁ〜〜っつ!!)

 美穂は昨夜を思い出し、悶絶したくなるほど恥ずかしくなり、頭を抱えてその場で転がりまわった。

(ていうか何それ、犯して? 我慢できないから? 何その発想。というか何裸で飛び出しているの? 見られたらどうする? って見られたいって思っていた? 馬鹿私、最悪、何それ、ああもう、そうだそうだ、それでその後、あのこ、あのこ、誰だっけ?)

 そして、興奮しながらアキトの部屋で見かけた一人の少女を思い出した。

(何か話した気がするけど、思い出せない……なんだろう、凄く恥ずかしいこと言っていた気がする。ああっもう馬鹿! ほんとありえない! もう最悪!)

 美穂は昨夜の事を黒歴史にしたいほど後悔し、恥ずかしさのあまりすぐそこのベランダから飛び降りようかと思うほどに混乱していた。

(ああもう、待って待って、ならどうしてここにいるの? ええい落ち着け私。恥ずかしさは後だ。確かあのとき、アキトくんに抱いてもらったはず、それがどうして?)

 それは、目覚めたら夢として扱ってもらおうと期待したシスとアキト二人による行為の結果だった。それが美穂は、昨日の事は不完全ながらも覚えていて、それがために、美穂は返って混乱していた。

(えっとえっとえっと……。そっか、あれだ。あの二人がきっと運び込んだ。そして多分服も一緒に畳んでくれていたんだ。だけど多分私が寝返りか何かで散らかしちゃって。ああもう人様に何迷惑かけているのよっ! 引っ越して早々最悪っ! もう最低っ!)

 美穂は恥ずかしさのあまり気が動転して、眩暈するほどに混乱し、そして。

(胸触ってとか言っていたような……! 胸触れ? 何それ、私痴女ですか?! 幻滅されるって思ったならやめなさいよ! ばっかじゃないの、犯されたい?! 襲われたい? ちょっともう、アンタレイプ願望あるの? なわけないでしょう! 相手がアキトくんじゃなかったらどうなっていたか……、ちょともうわた、ああ、もう、やっ、恥ずかしっ、抱いっ? え、触っ? え? 私が? アキトくんに? 自ら? 部屋行って? 裸で押し入って? 襲って? 嫌がっているのに? 心配していたのに? 気遣ってくれたのに? 優しいのに? 触って? キスして?……脱がせて…………ぁ……ぁ……ぁ……)

 バタンッ!

 恥ずかしさと後悔が臨界点を突破したのか、美穂はそのまま気を失った。
 そして薄れいく意識の中、美穂はこう考えていた。

(……相手がアキトさんで……よかったぁ…………)

 美穂は腹部に、わずかに昨日の余韻を感じとり、少し幸せそうな顔を浮かべていた。

―――そして、新垣雄一郎の部屋にて―――


「おそいなぁ……」

 男は薄暗闇の中、裸で壁の方にへたり込んだ姿勢のまま座っていた。

 ぐちゅぐちゅっ。

「はっ、はひっ?」

「遅いと思わないか?」

 朝になっても来ないことを不思議に思い、目の前の二人の女性に声をかけた。一人は髪が肩まで伸びていて、一糸纏わぬまま一心不乱に自慰に耽っていて、もう一人はそれより長い髪をしていて、膣内にバイブを震わせながら、その男のペニスを丹念に奉仕していた。

 女性二人の膣内からは膝がふやける程に大量の愛液が零れ落ちており、それは長時間、彼女達自身が男に放置され続けてきた結果だった。

「な、何の話ですか?」

「ひぁっ! み、みほさんの、ことで……ふぁっ!」

「そうそう、もう朝だぜ。なのに、ここまで来ないとは……」

「あ、あの……ふぁっ……あの人、あき、あきひとさん? でしたっけ」

「あー、かなぁ? それかやっぱり、途中で邪魔入ったから不完全だったかな?」

「ふぁっ、れ、れしたら。ごふひんひゃ……、ひぇむいてふぁ?」

 彼女は、男のモノを頬張りながら話すため上手く呂律が回っていなかった。
 そんな彼女の頭を、男は優しく撫でており、それに彼女は少し嬉しくなった。

「喋るときは聞き取り辛いから放してもいいぞ。俺から出向くか? それもありだなぁ。自分で来た事実が欲しかったけど、まあいいか」

「ふぇ、れしたら……。ふぁっ……今から、行きますか?」

「うーん、いやその前にお前らだな。夜の間ずっと弄っていたから流石に限界だろ。来たらやる予定だったけど俺も待てねえ。だからさきにしてから行こう。朝早く出かけていたら意味無いし、もしまだ部屋にいるなら、昼頃行っても大丈夫だろう」

「ぁ、で、でしたら、やっと?」
「ふぉ、ふぉえ?」

 その言葉に、自慰に耽っていた二人は、歓喜に満ちた顔をあげた。

「ああ、どっち先にする?」

「わたしとっ!」
「わたひゃっ!」

―――そして昼頃、とあるレストランの前で―――


(もうひとつ、思い出したことがある)

「どうしたアキト?」

 食後、友達の一人が、あるレストランでてすぐの扉の前で立ち止まった彰人を見て、不思議そうにたずねた。

(俺元々、据え膳は喰らうタイプだった)

「悪い、用事できたから、ここで別れるね」

「え、そうなの? 何、仕事でもできた?」

「違う。ただの用事、だから先行った二人にもよろしく言っといて」

「ん、まあわかったけど、それじゃあまたな」

「ああ、ショウ、またね」

 そして俺は、三人が行く方向とは反対に足早に退散し、物陰に隠れた。
 その後三人の姿が見えなくなると、急いで先程のレストランへ戻った。

 カランッ。

「いらっしゃいませ……あ、何か忘れ物ですか?」

「いや、一人、また来たの」

「えっ? あ、一人ですか。あの、でしたら空いている席へどうぞ」

 俺が入ると、店員の一人が応対した。俺の答えに一瞬キョトンとしたが、若干戸惑いながら俺を席へと案内した。
 まあ戸惑うのは当然だよな。こんな客珍しい。
 だが、俺はこのレストランで出会ったある一人の女性のことで、戻ってきたのだ。
 そしてレストランの隅、椅子が壁になって周囲から比較的隠れている場所を選んで座った。
 その後、少ししてその彼女のがメニューを持ってやってきた。

「メニューでござっ……あれ、どうして?」

「また来たの。良いかな?」

「いえっ、ならあの、ひょっとして?」

 少し期待するような眼差しで俺を見つめるショートヘアのウェイトレス。彼女の名前は永瀬成美(ながせなるみ)、白と黒の制服とヒラヒラつきの黒いスカートはいていてさ、この間、帰り際に『いつもおつかれさま』と話しかけてきた人だよ。
 正直驚いたね。
 さっき友達と四人でここに入ったら、彼女が働いていて、それだけなら何も無かったさ。
 でもね、彼女は不自然だった。
 スカートを、わざと俺だけに見えるようにちらちらと捲って見せたり、俺を見ると嬉しそうに笑ったり、照れて見せたり、これが営業スマイルなら話は別だけど、そうじゃない。
 あきらかに変だった。俺も男だから、まさか俺に気があるのか、何て思ったりもしたさ。
 でも違った。
 俺が一人トイレに立ったとき、斜め上の回答が返ってきた。

 そこで用を足してから手を洗っていたらさ、突然彼女は入ってきた。
 正直驚いた。
 だってここは共有トイレじゃない、男女別々何だよ。
 にも関わらず、入ってきたんだよ。そりゃあ驚くって。

 しかも、彼女は扉を閉めると開口一番こういったんだ。

「お久しぶりです。ご主人様♪」

 聞いた? ご主人様だよ、ご主人様。
 ここはメイド喫茶じゃないよ、イメクラでも無いよ。ただのレストラン。
 何処にでもあるような、中規模のレストラン、それも男子トイレだよ。
 そこで働くウェイトレスの一人が突然俺に向かってご主人様ってどういう事?

 もう軽くパニックになったよ。
 と、まあ少し動揺したふりはこの位にして、それで彼女は、そのままこう続けた。

「ご主人様、もしかして覚えてないですか?」

 そのときの俺は、彼女も俺の被害者であり、俺の記憶に関して何か知っているのかと思ったのさ。
 それで少し、彼女にたずねてみたらさ、彼女は自分の名前と、トイレで今俺一人なのを見越して入ってきたらしいんだ。
 
 ここからが驚きどころ。
 で、彼女、誰か来たらまずいからって半ば強引にトイレの個室に俺を引っ張り込むのね。
 そして、洋式トイレの上に俺を座らせると、突然スカートの裾を捲りだしてさ、下着を見せようとするのよ。更に中から見えた彼女の黒い扇情的な下着の中で何かが動いていた。
 それは太いバイブ。彼女の膣内でバイブが激しく揺れ動いていたんだ。それでよく見ると彼女の太腿(ふともも)を光る透明な液体が少し流れていて、少し綺麗だと思った。

 でもびっくりしたよ、彼女の話によると俺がレストランに入ってきたからずっとつけていたんだって。もし俺がそのまま何もせずに帰ったらどうするつもりだったのか、気になって聞いてみたさ。
 そしたら彼女は、『それも有りです』ってにっこりと笑った。
 正直可愛かった。どきっとしたね。彼女スタイルも良いし、可愛いよ。
 でも同時に軽い罪悪感に襲われたんだ。
 この娘、やっぱり永瀬さんもシスと同じ俺の被害者なのかなって。心配になった。彼女の人生までも狂わせちゃったのかなって。すると彼女はさ、不安が顔に出ていたのかな、恥ずかしげに笑ったままこう続けたんだ。

「勘違いしないでください。私はご主人様に助けられた側です。あの時は凄く感謝していますし、今はとても満足しています。だから、もし思い出せなくても悪く思わないでください。それに私、ご主人様で良かったってほんとうに思っています。本当ですから、って何度も念押しすると少し不自然ですね、でもほんとに本当ですから、信じてください」

 その言葉を言うときの彼女は、恥ずかしげで、どこか嬉しそうで、幸せそうで、とても可愛かった。
 しかし俺は、今朝の夢の俺を思い出して、いまひとつ割り切れなかった。
 そんな俺をよそに、彼女はこう続けた。

「ですから、用があれば何でも仰ってください。どんな事でもしますから、本当ですよ」

(それって、やっぱり何かされたからか?)

 俺は、後ろめたくなり、その場で少し俯いた。
 すると、彼女はそんな俺の頭をぎゅっとやさしく胸に抱きしめた。
 やわらかな乳房の感触が、俺の後頭部に触れる。

「不安ですか? 心配ですか? それとも、怖いですか? 大丈夫ですよ。そんなご主人様だからこそ、好きになったんです。覚えていないみたいですが、ご主人様になら良いって言ったのは私ですよ。だから気にしないでください。どうぞ遠慮なくどんなことでも言ってきてください。どうかご主人様のお好きに、それが私の喜びですから」

(また、都合良いなぁ……)

 都合良い、そう思った。
 シスも、この娘も、俺に都合が良い。
 どうしてここまでするのかわからない。そう思ったよ、でも永瀬成美、彼女ね、彼女は少し違った。このあと彼女は俺から離れて、個室から出ようとするとね、後ろ向きのままスカート捲って、彼女のきゅっと締まったお尻にもバイブが刺さっている事を見せたんだ。そしたらさ、その体勢のまま、後ろ向きのまま彼女は話始めた。

「これ、ご主人様にだから見せられるんです。誰かに見られるとまずいですよね? もし見られたらまずいですよね? そしたらこれをネタに脅されて他の男に襲われたり、色んな事やらされたり、一生肉奴隷とか、そんな事になっても良いですか?」

 いいわけないと思ったよ。そりゃあ当然だ、いいわけがない。

「私、がっかりするほど魅力無いですか? 自分では結構ルックスに自信あるんですけど、そんなふうにされると不安になっちゃいます」

「いや、そんなことはないさ。凄く魅力的だよ。可愛いしその感じ、普段から男が放っておかなそうなくらいだって事はわかるよ」

「ならもっと喜んでください。覚えていないなら、『得した。こんな娘を好きにできるなんてラッキー』って。そう思ってください。『本当に何でも良いのかな? なら好き勝手に遊んで飽きたら捨てよう』とか、そういう風に考えてくださって結構です。それで私も満足します」
 
「それは、でも本当に心からそう思っているのか?」

「捨てられるのは正直いやですから、きっと泣いてすがりつくと思いますよ。でも、ご主人様は絶対ですから、もし捨てられそうになったら、全力でご主人様を喜ばせて、ご主人様に満足してもらって、そしてまた必ず拾って貰います」

 後ろを向いたまま、スカートをたくし上げ、黒い下着の中で暴れるお尻のバイブを見せ付けたままの姿勢、されど彼女は冷静に、淡々と言葉を綴っていた。
 そしてその一言一言は、俺の心に一つ一つはっきりと響きわたり、俺に浸透していった。

「後悔、しないのか?」

「どんなに悔やんでも過去は変わりません。どんなに辛くてもそれが現実です。どうしようもありません。それは仕方ありません。それより現在(いま)を見て下さい。現在を楽しんでください。私は貴方の奴隷です。今、私のご主人様は彰人さんだけ、ご主人様の辛そうな姿は見たくありません。作り笑いも嫌いです。演技してもすぐにわかります。だから、だから早く元気になってください。私でよければ何でもやります。私はいつでも待っています。どうぞご主人様の望むままにしてください。それが私の喜びになります。私はご主人様が大好きです。心の底から好きでした。それは今もこの先も、きっと変わりません。それだけです。奴隷が失礼言いました」

「永瀬さん……」

「奴隷で良いです。以前は好きに呼んで良いと言ったのにナルミさんって呼ばれていました。昔から優しかったですよ、ご主人様は。だから、安心してください」

「そっか……愛美さん、ありがとう。少し楽になった」

「いえ、ご主人様が辛そうでしたから、少しおせっかいしました」

 そういうと、愛美さんはスカートを元に戻してきちんと立つと、くるりと俺に向きかえった。そして少し和やかになっていた俺の顔を見ると、にこやかに笑った。

「スカートの中、また見たかったらいつでも言って下さいね。それと――」

 少し言葉につまると、彼女は両手で股の辺りを抑え、もじもじと照れくさそうに続けた。

「その、ご主人様が何も仰らないから最近正直、うず、うずいて……しまって、なので、ご主人様が良ければ、その……またしてください」

「な、なにを?」

「せ……せっくす、です」

 それを言うと同時に、顔を真っ赤にしたまま彼女は慌ててドアを開け、逃げるように去っていった。

 その後、しばし俺は呆然としていて、次第に恥ずかしくなり、少しにやけていた。
 そしてなんとかそのにやけ顔を戻そうとトイレの鏡の前で必死に格闘したあと、いそいそと席に戻った。

 しかし彼女の言った言葉が、俺の不安な心を大分落ち着かせていた。

 そうだ。過去の俺がどんなに酷くても、今の俺がそれに戻るとは限らない、寧ろ彼女の言葉通り、折角の機会なので、この事態を存分に楽しむ事にした。

 ここは俺が既に暴れてしまった世界。
 その世界にある日突然迷い込んでしまった、そう思おう。それなら夢の中の俺になる心配も無いし、何より存分に楽しめる。わからない事もこれからきっと思い出す。何も問題は無い。それより現在に集中しよう。俺はそう心に決めた。

 そして席に戻り、長かったことを軽く笑われたあと、食事が終わり近くの本屋に行く流れになったのだが、何もせずに帰ろうとする俺に少し落胆の色を見せる彼女の姿を見て、急遽その場で別れることにした。
 折角、何でもしてくれる可愛い奴隷さんがいるのだから、何もしないのは良くない。彼女もたまっていると言っていたし、実は俺も昨夜の一件の消化不良な終わり方、今朝の夢とシスの抱擁に一瞬で終わった掃除フェラと正直欲求不満が溜まりまくっていた。
 シスには悪いが、ここで抜いてもらおう。

「あの、ご主人様? どうしました?」

 というわけで少し長かった回想も終わり現在。
 レストランの隅のテーブル席。
 今彼女は、何も言わない俺を心配して、顔を覗き込むように心配そうに近づけて、ひそひそと小声で囁いていた。
 
(さっきも言ったが俺は、元々据え膳は喰らうタイプだった。過去の俺の事かもしれないが、この場はそれを参考にしよう)

そんな彼女に、俺は少し緊張しながらも、こっそりと耳元で囁いた。

「実は俺も溜まっているのだけど、抜いてもらっても良い?」

「っつ!!!」

 すると彼女の顔は、一瞬で湯気が出そうなくらい赤くなった。
 しかしその顔は何処か嬉しそうで、口元が少し震えていた。
 そしてそのまま彼女は俺の耳元で震えた声で囁いた。

「何処で、しますか?」

「ここで、バレないように、できないかな?」

「あ、はいっ!! かしこまりましたっ!!」

 そういうと、彼女は真っ赤で嬉々とした表情を見せた。
 そして彼女は手に持っているお盆をテーブルに置くと目を瞑り、両手の指先を合わせて、丸い円みたいなものを作った。何事かと思い、不思議そうに見つめていると、ちらっと彼女がこちらを見て、楽しげに話し出した。

「これも覚えていませんか? これがわたしの【空間支配】ですよ。バレるとまずいし、恥ずかしいから、それにご主人様以外に見られたくないです」

(覚えてない? 空間支配?)

「あ、もしご主人様が望むならこのままでも構いませんけど、どうします?」

「待って、その前にさ、その能力(ちから)? をさ、俺に説明するのってこれで何度目?」

「えっと……三度目、ですね。どうかなさいました?」

―――同時刻、とある部屋にて―――


(なーんか、良い気持ち)

 そのころ美穂は、まだ余韻に浸っていた。
 美穂は目が覚めると散乱していた服を洗濯機に入れ、新しい部屋着に着替えると、そのまま大きな抱き枕を抱きしめながら、ソファーの上で横になっていた。
 そして、冷静に昨夜を思い出し、少し嬉しくなっていた。
 今でも恥ずかしいのだが、それ以上に、思っていた以上に優しかった彰人と、思っているほど悪いものでもなかったというその時の気持ちと、確かに感じた彼のぬくもりを思い出し、顔が緩むのを抑えられず、頬を染めたまま楽しそうに嬉しそうに、転がっていた。

 簡単に言えば、またしたいと思うようになっていたのだ。

(彰人くんが帰ってきたら誘ってみよう。そして今度は、私の部屋に来て貰って、いきなり襲っちゃえ)

 美穂は少しヤケになっていた。もう彰人に痴態を披露したのは明らかなので、いっそ思うままにやってしまえと考えるようになっていた。彼女は彰人や昨夜会った女性の意向なぞお構いなしに今後の事をあれこれ考えていた。

(酷い? 昨日会ったあの人。仙波さんだっけ? あの人だって言っていたじゃない。【自分の幸せを第一に考えろ、やりたい事はやっておけ】って。だから良いの。変な人と思われても良いの。どうせ私痴女だもん。アキト君には全部見られちゃってるもん。アキトくん優しいもん、喜んでくれるもん、大きい胸好きって言っていたもん、きっと許してくれるもん。アキトくんどんな顔するかなぁ、意外と肉食系かな? 寧ろ襲われちゃう? なぁんた、案外胸触るだけで緊張したりして、……はぁ、もうっ、早く帰ってこないかなぁ)

 そして、抱き枕をぎゅっと握り締めたまま、ソファーの上でごろごろと転がり、まるで愛しい人を待つかのようにアキトが帰ってくるのを待ち遠しく感じていた。

(あー、もう、なんか幸せ♪)

 美穂は、アキトを部屋に招いたときの事を考えて、一人楽しそうに妄想に耽っていた。

―――同時刻少し前、2階、彰人の部屋の前にて―――


 部屋の前で、鍵をしめるシス。
 首元まである長袖の黒い服の上から更に一枚上着を羽織っており、下は紺のジーンズに身を包み、肩から鞄をかけていた。

「あ〜、シスっち、やっほ〜」
 
 部屋から出てきたシスに、階段を登りながら元気の無い声をかけたのは菫だった。
 風にふわふわと流される少しウェーブのかかった肩まである柔らかな髪質、それとは裏腹に目は半開きで元気が無く、全体からやる気の無さそうな雰囲気を醸しだしている。
 上に着ている半そでの青い服は、首元が大きくひらいていて、そこから左肩とブラの肩紐が覗かせていた。

「あ、すみれさん、こんにちは……。その格好で来たのですか?」

 下に履いている赤くヒラヒラが何重にも重なったミニのスカートも、その短さでは階段の下から簡単に中身が見えてしまうような代物だった。

「あ〜、どうせ見せパンだから、見られても大丈夫〜」

「そ、そうですか(そういう問題かな?)」

「それよりシスっちの格好が凄いよ、何その熱そうな格好、ところであきといる〜?」

「あ、今は出掛けていますよ。これは肌を焼かないように、です。あの、今日も、ですか?」

「そうそう〜。昨日お姉ちゃんの承諾も得たし、相手してもらおうかなーって。そっか〜、いないのか〜」

「あ、中で待ちますか? お茶、出しますよ」

「あ〜、良いよ、帰ってきてからで、それに今からでかける予定でしょ〜。何処行くの〜?」

「あ、買出しです」

「そっかぁ〜……そうだ、シスっち、夏物あまり持ってないよね。一緒に買いに行かない? 私も一緒に選んであげるよ」

「あ、良いですね。ならお願いします」

「ほ〜い。じゃあこのままだとまずいから、着替えてくるね〜」

「はい、部屋の前で待っていますね(誰かに見られてまずい格好なら、アキトに見られてもまずいんじゃ?)」

 そして二人は、そのまま一階まで降りると、菫の部屋の前まで向かった。
 その数分後、白のタンクトップ、青い長袖を羽織、紺のミニスカートを着込んだ菫と一緒に、シスはそのままでかけた。

「蓮華さんはおでかけですか?」

「そうだよ〜。昨日新しく入ってきた美穂さんのことで嬉しそうだったね〜」

「美穂さんですか。大丈夫なのかな」

「あ〜、ね。あの人見るからに無能力者だったよね〜。アパート初じゃない?」

「ですね。それで、蓮華さんの承諾得たってほんとうですか?」

「うん、昨日アキトだけなら良いって言っていたよ〜。今度謝らなきゃ〜って言ってた。だから大丈夫」

「そうですか……」

「あれ、どうしたの? シスっち、顔色悪いけど何かあったの?」

「いえ、別に無いです……(どうしよう)」
「あ〜、ひょっとして、本妻の不安ってやつですか? シスっち嫉妬中?」

「なっ、違っ! 違いますよ!」

「あ〜っ、無理しちゃって〜、大丈夫だって。アキトのやつシスっちにべた惚れしていたじゃない。あのときは正直羨ましかったなぁ〜。なんかこう、相思相愛って感じで」

「う、あの、あのときの事は、もう、そのっ、やめてください」

「あれあれあれぇ? どうしたの? 耳まであかいよぉ? 何かありましたぁ?」

「ちょっともう、ああっ、もうっ、いわないでくださいっ!」

「いやぁ、あれは一生覚えているよ。忘れるのはアキトくらいだって。そういえばアキトって、今どれくらい思い出したの?」

「あ、まだぜんぜんです。今朝ようやく少し思い出したくらいで」

「そっか、まあ、すぐ思い出すでしょ。何せ、愛しの女神様の事だもの♪」

「ちょっ、スミレさんっ!!」

―――同刻、アパートの前―――


 雄一郎は一人、部屋の外に立り、両手を上げて大きく背伸びをした。そして___。
「さてと、行くか」

 
 
< 続く >


 

 

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