この素晴らしくも理不尽な世界に


 

 



___異能者、世界中に数多存在している常識を超えた力の持ち主の総称___

 彼らの誕生する経緯は不明であり、解明されていない謎も多い。
 昨今の調査と研究の結果、彼らの多くは不幸を背負っていることが明らかとなった。

「先生、質問です」
「なんだい」
「異能者が不幸なのって元からですか? それとも能力に目覚めたから?」

「良い質問だね、答えは後者だ。元々不幸だったという事例もあるが、今のところ関連性は無いらしい。だが能力に目覚めれば不幸になる。悲しいがこれは事実だ。データによると能力者の6割以上が開眼半年以内に不幸になっているとのことだ」
「それがいつも不思議なのですけど、能力ってそんなに悪いものだらけなのですか?」
「それは違う、持ち主次第だが、扱いきれていないようだね。例えば人を操る能力を得たとして、それを理解するまでにどれだけの実験を重ねる? その過程で何が起きるかわからない、つまりその時の出来事が原因で不幸を背負ってしまう場合もあるということだ」

「なるほど、でも普通、よくわからない力を手に入れたら適当……というか、比較的安全な実験をしませんか?」
「そのとおり。あくまで一例だ。だが仮に安全な実験をしたからと言って、必ずしも安全とは限らないだろう。それに、使い方がわかってからも大変だ。別の機会に説明するが、皆種々様々、複雑な問題を抱えてしまい一筋縄にはいかないのさ」

「もう一つ質問です、世間から隠されているって仰ってましたけど、規則だけで個人までは縛れませんよね? 何故異能者は誰も世間に名乗り上げないのですか? 世界中の人間に予め暗示が施されているのですか? それとも、異能者は引っ込み思案なのですか?」
「あはは、引っ込み思案か、それは違う、全員に暗示が施されているわけでもない、それもいくつかあるが……ひとつは『理解されないから』だな」
「理解されない?」

「例を出そう。昔あるところに一人の能力者がいた。ある日彼は誤って人を殺してしまった、とても惨い方法でね。その惨状に絶望した彼は失意のまま出頭し、自らの行いを正直に打ち明けた。そして彼は表彰されてしまったのだ」
「え? 自白したから?」
「それは違う……。そうそう、彼のしたことは完全な殺人、更にとても残虐なものだった、当時の刑なら何らかの重い罪に科せられていてもなんら不思議ではなかったのだ。歴史に残る様々な重い刑罰を知っているだろう、彼自身もその刑を執行されてやむなしと思っていたくらいだ。しかし結果は、それらとは裏腹に、賞賛されたのだ」
「え、それは何故ですか?」

「わからないか、それは彼が『異能者』だったからだ」
「え?」

____この素晴らしくも理不尽な世界に=隣人____


「ふあっ」

 アキトはうっすらと目を明ける。
 時計と見ると十一時三十七分を射していた。

(昼まで寝ちゃったか」
 のそのそと起き上がろうとすると、身体の半分に重さを感じた。

(あ、そっか、シスだ)
 布団をめくると、何も着ずにアキトの胸あたりに手と顔を乗せ、素肌にぴったりと張り付いていた。
 すると、シスもうっすらと目を開けた。

「あ、わるい、起こしちゃったか」
 そういってシスの頭を優しく撫でるアキト。

「おは……よう……」
 シスは、半目開きのままアキトの顔を向いて挨拶した。

「おはよう、といいたいところだけどどうする? もう少し寝とくか?」
 シスは布団の中でアキトに抱きついたまま、ぼぅっとしている
「……いい、それより、する?」
 そして、上目に寝ぼけ眼でアキトを見ながら質問した。

「ん? なにを?」
 突然の質問に質問で返すアキト。

「朝エッチ」
「へ……」

 起きてすぐということもあり、突然の言葉に思考が追いつかないアキト。

「しよう」
「えっと、朝エッチ?」
「そう、朝」
「今、昼だよ」
「なら……昼エッチ」
「……したいの?」
「したい」
「……何するの?」
「するね」
 そう言うとシスはアキトの胸にそっと唇をあてた。
「あっ……」
 そして舌でアキトの乳首を舐め、軽く吸って、また転がす。
(ふぁっ……気持ちいい……)
「ンッ……」
「気持ち良い?」
 シスは舌を這わせながら聞いた。
「ぁ……って待った!」
 気持ちよさを振り切りなんとかアキトは右手でシスの頭を撫でる。
「なに?」
 シスはトロンとした眠たげな表情でアキトを見つめた。

(おいおい、まさかこれ無意識の行動か)
「まてまて、なんだ、この状況」
「奉仕」
「いや、そうだけど」
「こっちのほうが良い?」
 そういうと、シスはアキトのペニスに手を伸ばした。
「あっ……」
「ちゅっ」
 再びシスはアキトの乳首を舌で転がした。
「気持ち良い?」
「あ、ああ」
 シスの奉仕に、アキトは脳が蕩けてきた。
「すぐ、終わるから」
 そういうと片方の乳首を指先でくりくりと弄りだした。
「じっと、していて」

「……(ふあ、なんか気持ちいい……)」
 アキトは無言で、その優しく、心地よい攻めを受けて感じていた。
 そしてもう片方の乳首を舐める、舌先で転がし、そして唇で吸い上げる。
 次第に、何度か両方の乳首に電撃のような快感が走り、そのつど身体を悶えさせる。
 
 その反応に満足したのか、アキトの胸を愛撫していたシスは、しばらくして残りの手で熱くなったペニスに触れると、そのまましごきだした。
「はふっ」
 ひんやりしたそれは、優しく柔く包み込み、アキトの腰を悶えさせた。

「どのへんが気持ちいい?」
「……ふぁ……ぁっ……先端かな……」
 すっかり気持ちよさの虜になっていたアキトは正直に答えた。

 するとシスは、アキトの両乳首とペニスの先端部分を同時に手と舌で愛撫しだした。
(あっ……そこっ……)
 3箇所同時に強烈な快感が走り、腰が脈動する。

「あ、待って……」
 それに気づくと、シスは急いでアキトの下半身に潜り込み、そして口に含んだ。
「ふあっ」
 その暖かさに思わず声を上げるアキト、と同時に。

 ビクッ! ビクビクッ!

 アキトの腰が激しく脈動する。
 そして猛烈な勢いで精液がシスの口膣に発射される。
「あっ、ああっ……はふっ……」
 思わず情けない声をあげてしまうアキト。
「ゴクッ!ズリュズリュゴクンッ! ゴクゴクッ」
 そしてシスは喉を鳴らして、アキトの精液を飲み込んでいく。
「ゴクッ、ちゅるる、ジュルル……ゴクンッ!」
 そして全てを飲み込み、射精が終わるとアキトのペニスから離れた。

「……ふぅ……」
 アキトは射精した余韻に一息つくとシスの顔を見つめた。
「んむ……ちゅっ」
 するとシスは、ぼうっとした表情で、口から少し垂れた精液を指ですくうと、そのまま口に含んだ。
「ありがとう」
 指の精液を舐めながら答えた。

「はぁ……え? ありがとう?」
 突然の感謝に困惑してしまうアキト。

 するとシスは、そのままアキトの隣で横になった。
「……シス?」
 シスは、アキトの横で目を閉じて、心地よさそうに眠っている。
「気持ち良かった?」
 そして、そのままの姿勢でアキトに話しかける。

「あ、ああ気持ち良かった……けどなんでありがとうなんだ?」
 そう聞くと、シスは和やかな表情で答えた。
「お願い、聞いてくれたから」
「お願い……って朝エッチ?」
「そう」
「なんで、したかったの?」
「しないと……私……生き……て……ない」
「え、しないと?」
「わた…………を……だに…………ない……と、……け……い」
「ちょっとまって、どういう意味?」

「……すぅ」

 そのまま、シスは眠りについた。
「すぅ……すぅ……」
 見ると無防備な表情を作っている。

「眠っちゃったか……」
(聞きたいこといっぱいあったのだけど……、まあいいか)
 そう思い、アキトはシスを起こさないようにそっとシスを引き離して起き上がった。
(そうそう、忘れていた)
 ふいに、アキトは寝ているシスの頭を優しく撫でた。
「まあ、気持ちよかったぜ」
(頬とか頭を撫でられるのも好きみたいだな、まあこれくらいならいくらでもやるけど)
 するとシスは、嬉しいのか身体を少し震わせた。

 シスを布団で寝かせたまま畳の上、立ち上がると、木製のタンスを開けて、静かに着替え始めた。
(あれ、射精したのに綺麗になっている……、シスがしたのかな? にしても、何でここまでするのだろう? そもそもシスは何処の誰で、どうしてここにいる? それにどうしてここまでして……いや、そもそもシスは何故俺を頼った? たまたまそこにいたからか? それとも何か理由が?)
 
 着替えながら色々考えると、干し竿にかけてあるシスが昨日着たがっていた服を見た。
(そうだ。何日いるつもりかわからないけど、色々必要だよな、女物を買いに……いや蓮華さんにお願いするかな、……いや着る物困るなんておかしいか、なんて説明すれば良いのか……)
 いそいそと着替えながら、これからのことを考える。

(しばらく置いてってことだから、少なく見積もっても数週間くらいはいるつもりだろうし、なんにせよこのままってわけにはいかないな、駄目もとで蓮華さんに相談するか)
 
 色々怪しまれそうだが、背に腹は変えられない、何よりシスの身辺の事が最優先だと思い、着替えが終わり身だしなみを整えると、部屋の戸を開けて早速玄関に向かった。

(まだ昼間だし部屋にいるはず、今のうちに行こう)

 そう思い、靴を履いて外に出た。



「こんにちは」

 突然声をかけられ、見ると同じ階の左端の部屋の前に、薄着の女の人が立っていた。
 
「あ、こんにちは」
(綺麗な人だなぁ……てかデカッ!)
 長くて黒髪に潤んだ瞳と綺麗な顔をしていて、優しそうな人だ。
 そして白くて薄い上着が、その豊満な胸の存在を強調していた。
 アキトは初対面で失礼と思いつつも、ついつい胸をみてしまう。
 しかもどうやらブラをつけてないようで、うっすらと胸が透けていた。
(これ、汗かいたらまずくないか?)

 という一つの不安と期待がアキトの脳裏をかすめた。

「はじめまして、ここに越してきた、浅野美穂(あさのみほ)です」
「あ、こちらこそはじめまして、五十嵐彰人(いがらしあきと)です」
 下は短パンジーンズで、すらっと細く長い足が伸びていた。
「ごめんね、こんな格好で、熱くてね」
 そういってミホは額の汗を拭った。

「あ、いえ寧ろ見られて嬉しいです」
「あら、そう? 胸好きなの?」
 ミホは不思議そうにアキトに質問した。
「大好きですっ!」
「あらっ」
 その返答にミホは思わず表情を崩した。
「あ、こういうの、嫌なら言ってください、それより胸透けそうですけど……」
「嫌ではないわ、寧ろそれくらいのほうが返って接しやすい。……そんなに透けている?」
 と言いながら左手で両胸を隠した。
「はい、うっすらと」
「ほんとに正直ね、ごめんね、みっともない姿みせて、それとありがとう、教えてくれて」
 そういうと少し恥ずかしそうに笑った。
「いえ、見られて嬉しかったです。それに他人にこんな綺麗な人の胸を見せたくないので」
(あ、これセクハラかな?)
「ぷっ」
 アキトの心配をよそにミホは思わず吹いてしまった。
「良かった、引っ越してきて少し不安だったのだけど、貴方みたいな人で助かったわ」
「いえっ、俺もミホさんみたいな美人さんに出会えて、光栄です」
 そう、アキトはキリッとした表情で親指をグッと立てて言った。
「くすっ、そうそうベランダ共有でしょう、上手く使って行きましょうね。あと、部屋の中覗いたりしたら駄目よ、私もなるべく覗かないよう気をつけるから」
「ご安心を、こうしてお話できるだけでも幸せですから!」
「ふっ、あははっ、ごめん、少し待ってね」
 そういうと、笑いながら扉を開けて入っていった。
 
 そしてしばらくして、上着を一枚羽織って出てきた。
「これならどう、透けている?」
「あ、大丈夫です。でも鏡とか無いのですか?」
「ああ、まだ越して来たばかりで出してないの、それに何処に入れたかわからなくて、ずぼらでごめんね」
 そういうとミホは頭をかきながら片目をつぶり笑った。
「いえいえ、気さくな人でとっても親しみやすいです」
「あはは、ありがとね」
 と、言いながら近づいてきた。
「あ、今から下の人にも挨拶に回ろうと思って」
「そうですか、俺も下の階の人に用事あって」
「あら、なら一緒に行きましょう」
 そういって、アキトとミホは一緒に階段を降りた。

 そして、右から2番目、蓮華さんの部屋を指差す。
「そこです」

 コンコンコンコン。

「蓮華さん、いますか?」
「インターホン押さないの?」
「はい、大丈夫です」
 ノック4回ならアキトだ、という蓮華とアキトの間にある秘密のルールだった。

 …………。

 ……。

 ガチャッ。

「はい?」
「うわっ!」
「きゃっ!」

 おもわずアキトもミホも驚いた。
 中から年頃の女の人が髪もくしゃくしゃ、目をこすりながら下着姿ででてきた。
 上は白いシャツに肩紐がはずれ、透けてブラやパンツまで丸見えの格好だ。

「スミレ! そんな格好ででないの!」
 中からレンゲの声がした。

「あ、おねえちゃん……おはよー」
「もう、いいからあっち行って、っと……こんにちは、突然ごめんね」
 スミレを中に引きずり込むと、シャツとジーンズを着たレンゲがかわって応対した。

「こんにちは、それより今のスミレさんですか? はじめまして」
「はじめまして〜」
 アキトの声に、部屋の中から眠たげに応答するスミレ。

「あはは、ごめんね、変な妹で」
 と、レンゲはかなり恥ずかしそうに答えた。

「いえいえ、会えて嬉しいです、でもあれは無防備ですよ、得したけど」
「そーなの? もっと見るー?」
「そんなこと言わないの! ごめん、ちょっと待って」
 そういうと、戸を閉めた。

「面白い姉妹ね」
 ミホはそういって少し苦笑いを浮かべた。
 ドタバタとした音が聞こえ、中でまだ何かしてそうだ。

「先に他に挨拶してくるわね」
 アキトにそういうと、ミホは左から2番目の部屋のインターホンを押した。
(あら、良い印象持たなかったかな)
「すみません、越して来た者です」

 ガチャッ。

 すると、中からシャツ一枚パンツ一丁の男がでてきた。

「仙波(せんば)だ」

「……あ、仙波さんこんにちは、昨日越して来たものです」
(ミホさん緊張しているな、まあ無理ないか)
 それでもミホ話しを続けると、男はそれを、無言で聞いている。
「___というわけで、これからよろしくお願いします」
 そういって、ミホは丁寧におじぎした。

「………アンタ、やりたいことあるか?」
「えっと、やりたいことですか?」
「今のうちにやっておきたいことは無いか?」
「え?」
「何があっても自分の幸せを第一に考えろ」
「え、あの……」
「最期の最期まで他人の言葉に耳を傾けられるか?」
「はい?」
 男は、次々に不可解な言葉をミホにぶつけた。

「やりたい事は全部やっておけ、じゃあな」
 
 バタン!

 戸を閉じる音と共に、男は戸の中に消えた。

「…………」

 予想外の言葉に、ミホは思わず呆然とその場に立ち尽くした。

 ガチャッ。

 レンゲが、木製の戸を開けて出てきた。

「お待たせ、どうしたの?」
 すると、呆然としている二人がいたので、とりあえず尋ねたのだ。

「レンゲさん、今の聞こえました?」
「ううん、何? あの人と部屋の人で、何かあったの?」
「ちょっと、ね」
 アキトとレンゲは一緒に呆然と立ちすくむミホを見つめていた。
 すると、ミホははっとした顔をした後、首を振り、息を吐くと隣の部屋の前まで歩き、ボタンを押した。

「あ、すみませんレンゲさん、挨拶が遅れて」
「あ、いいよ、引っ越してきた人だね、はじめまして」
 作り笑いで話すミホに笑顔で返すレンゲ。
「アキトくん、用事は済んだの?」
「あ、まだです」
「あ、私に用事、何?」
「実は今___」

 ガチャッ!
 そして、部屋から一人の男がでてきた。

「何?」
 ギロッと、睨むような視線でミホをみた。
 すると身の危険を感じたのか、咄嗟に両腕で胸を抑えた。

「えっと、引っ越してきた者ですけど……」
 ミホは、恐る恐る声をかけた。

 そのとき、アキトは越してきた頃を思い出し、言い知れぬ不安感を覚えた。
(そうだ、俺アイツにいきなり殴られた、でもミホさん女だし、大丈夫だよな)

「ん、お土産は?」
 男はじっとミホを見つめる。
「あ、その、すみません、何も用意して無くて」
「フーン、隣のおっさんとこ先に行ったよな」
 不満げにミホに言葉を投げかける。
「は、はい」
「うちじゃなくて先に、向こうに挨拶しようとしていたよな」
 そういって、表にまで出てきているレンゲを指差した。
「は、はい」
 ミホは震える声でなんとか返した。
(あの男、完全に威圧している)
「なんでうちを避けるように後回しにしたの?」
「えっと……すみません、挨拶遅れて」
 ミホはそういっておじぎする。

「ふーん、まだ何もされてないみたいだな、まあいいけどよぉ……」
 言葉とは裏腹に不満げな顔をミホに向ける。
「オラ、顔こっち見せろよ」
「あ、はい」
 びくびくと怯えながらミホは顔を上げる。
「びくびくするなよ、虐めているみたいだろが。それよりも、だ」
 男はじろじろと品定めするかのようにミホに視線を向ける。
 ミホはその視線が明らかに嫌そうで、アキトの隣に立って始終を見ているレンゲも、その表情から、目の前の出来事に怒りに似た感情を覚えているようだ。

「そらっ!」
「きゃあっ!」
 男は突然、ミホの胸をわしづかみした。

「やめなさ___」
 バキャッ!
「ベッ!」

 すると、男の身体が宙を舞った。

「「え?」」

 どさっ。

 そしてそのまま、コンクリートに落下した。

(何が起きたの?)
 思わず混乱するミホ。

「ぐ……ずぁあああ!」
 すると、男は自分の頬に走る強烈な痛みに悶えだした。

「え、えっと」
 ミホは冷静に目の前の状況を確認した。
(えっと、突然胸をつかまれて、そしたら宙を舞って……、そして……)
 そして、気づけば、目の前に殺気立ったアキトが立っていた。

「やるぅ」
 すると、始終を見ていたレンゲがパチパチと手を合わせながら声をあげた。

「え……あ、そっか、そうよね、ありがとう、アキト君」
 ようやく状況が飲み込めたのか、ミホはアキトにお礼の言葉を述べた。

「いえ、こいつが最低なだけです」
 そういうと、アキトは頬を抑えて倒れ込んでいる男を見下ろした。

 すると、男は、ギラッした目をアキトに向けた。
「てめえ、よくも……」
「何言っているの、悪いのはアンタでしょうが」
 そうレンゲは、男に言葉を投げつけた。

「ケッ!」
 バタンッ。
 一言舌打ちすると、男は頬を抑えながら立ち上がり、ミホを睨んだ。

「待っているぜ」
 そうミホにつぶやくと、扉を開けて部屋に戻っていった。

 男がいなくなると、レンゲとアキトは慌ててミホに近寄った。
「大丈夫?」
「ミホさん! 大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だから、ちょっとショックだったけど、大丈夫」
 ミホは身体を両腕で抱きしめてその場でうずくまり、下を向いたまま、そう答えた。

「ほんとに大丈夫? ごめんね、あんな男で」
 ミホを心配し、前かがみにヒザに手をかけた姿勢で声をかけるレンゲ。

「大丈夫です、心配かけてすみません」
 そう言いつつも、身体を小刻みに震わせながら、下を向いたまま笑顔を作り、謝った。
「そういえば、名前聞いてない……」
 ミホは冷静に、結局挨拶らしい挨拶をしていない事に気づいた。
「ああ、アイツの名前は新垣雄一郎(にいがきゆういちろう)です」
 と、ミホに教えるアキト。そして言葉を続けた。
「アイツには今後近寄らない方が良いですよ」
「はは……、そうね、できるだけそうするわ……」
 アキトの言葉に素直に従うミホ。

「アキト君」
「はい?」
 ミホに呼ばれ、返事をするアキト。

「顔よく見せて」
 そういうと、ミホは顔を上げ、アキトの顔をじっと見つめた。

「は、はい、えっと……こうですか?」
 アキトは戸惑いながらも、じっとミホの顔を見つめ返した。

(にしても、ほんと綺麗な人だなぁ……、これすっぴんだよね)

「良かった」
 そう一言いうと、ミホは安心の一息をついた。

「な、なにがですか?」
「2階の人が、アナタでほんとうに良かった」
(ああ、そっちか)

「そうよね、ここ住んでいるのって、私たちを除けばあの男かその隣の人くらいだもの」
 と、レンゲが二人の会話に口を挟んだ。

「俺もお二人と話せて嬉しいですよ」
「にしても、迷わず動くとはね」
 と、レンゲが先ほどのアキトの行動を感心そうにつぶやく。

「あ、なんか身体が勝手に動いて」
 と、照れながら答えるアキト。

 先ほどアキトは、ミホが胸をわしづかみされるとほぼ同時に飛び上がり、そのまま男の頬を蹴り飛ばしていたのだ。

「へえ、勝手に動いたんだぁ」
 その言葉にレンゲは感心しながらアキトをみつめた。

「ところで、立てる? 部屋行かない?」
 ふと思いついたようにミホを見ると、レンゲは手をさしだし、部屋に誘った。

「あ、すみません何度も、ほんとに大丈夫ですから」
 そういうと、ミホはレンゲの手を取らず、笑顔で立ち上がった。

「そう、あ、改めて自己紹介するわね、沢渡蓮華(さわたりれんげ)、よろしく」
 そういって、レンゲは再び手を差し出した。
「浅野美穂です、よろしくお願いします」
 そういって、二人は握手を交わした。

「わからないことあったら遠慮なく聞いてね、私でよければ相談に乗るから」
「はい、こちらこそありがとうございます」
「良かった、ここ女の人少ないから、貴女が来てうれしいわ」
「私も、蓮華さんがいて安心しました」
「ふふ、仲良くしていきましょうね」
「はい」

(とりあえず、あいさつ回りは終わりかな?)
 アキトは、そんなことを考えながら、目の前の光景を眺めていた。

「あっ、そういえば蓮華さん、アキトくんが用事あるそうです」
「あら、そうなのアキトくん」
 そういって、二人はアキトの方を向いた。

「あ、はい、実は……」
 と、言いそうになって言葉に詰まるアキト。
(実際なんて言えばいい? 親戚の子って言っても無理あるよな、正直に話したほうがいいかな?)

「なに?」
 言葉に詰まったアキトに、首を傾けるレンゲ。

「いえ、なんでもないです、それより先、失礼しますね」
(シスに着ても違和感ない服を着させて、本人に選ばせた方がいいな、そうしよう)
 などと自分に言い訳させて、アキトはその場をそそくさと立ち去ろうとした。

「あ、アキトくん? またね」
「あれ、行ってらっしゃい」
 慌てて挨拶するミホとレンゲ。
 二人を後ろ手に手を振ると、アキトはアパート前の道路の方へそそくさと歩いていき、そのまま去っていった。

「行っちゃったね、何かあったのかな」
「ですね、何でしょうか」
 アキトの去り方に違和感を覚えた二人は不思議そうに去っていった方向を見つめていた。

「そういえば、レンゲさん」
 ミホは、ふと先ほどの発言で気になった事が浮かんだ。
「なに?」
「ここは女の人少ないって言っていましたけど、私達以外にもいるのですか?」
「ああ、うち姉妹なの知っているよね、私達とミホさん含めて四人いるの」
「あと一人は誰ですか?」
「仙波さんとこ」
「え、あそこいるのですか?」
 少し驚きぎみに、たずねるミホ。
「うん、ちょっと変わっているかな」
「あ、仙波さんの娘さんですか?」
「ううん、どうなのかな、聞いたことないけど、正直似てないから違うと思うよ」
「どんな子ですか」
「口数少なくてあまり笑ってくれないけどいい子だよ、ただね……」
「ただ?」
「いつもボロボロの服着ていてね、仙波さんは何考えているのだか」
「そうですか……」
 レンゲの言葉に、ミホもまだ見ぬその子の身を案じていた。



「ただいま」
 そして、衣服の入った買い物袋と片手に帰路に着いたアキト。
 空は黄金色に輝き、丸時計は6時半を射していた。

「おかえり……」
 すると、ふすまを開けてひょいっと顔だけ出したシスが挨拶した。

「ただいま、それとおはよう。よく眠れたか」
 と、靴を脱ぎながら聞くアキト。
 するとシスは、ふすまをつかんだまま顔だけだした姿勢で答えた。
「うん、眠れた……一人?」
「うん? 一人だけど」
 するとシスはじっとアキトを見つめる。
「そう」
「ん、どうした?」
 そういいながら、着替えるために、シスが顔を出している側の部屋に向かった。
「あ、その……」
「何かあったの……あぁ」

 部屋に入ると、シスは裸でべったりふすまにはりついており、出るに出られなかったのだとわかった。

(尻きれい……って待て、俺)
 アキトは思わずその小さなお尻に目がいってしまい、そしてすぐに目を逸らした。
「いや、だからあの服、着ていいって言ったでしょ」
「一応、確認いると思って……」
「これからは確認しないで着ていいからな、それと、一応買ってきたぞ」
 そういって、アキトは買い物袋をシスの前に出した。

「え……」
 思わず驚くシス。

「衣服……といっても男物だけどな、お前が着ても良さそうなのを買ってきた。下着は流石に恥ずかしくて買ってこられなかったけど、それだけは勘弁してくれ、それと歯ブラシとかタオルとかシャンプー、あと俺はいらないけどリンスーも必要かなと思って買ってきた、あと、必要なものあったら今度一緒に買いに行こう、下着もそのときにな」

「…………」
 ただ呆然と、目をぱちくりさせて驚くシス。

「ん、とりあえず着てみろよ。あ、やっぱり下着無いとまずいかな?」

「……」

「どうした? 大丈夫か?」

「……」
 シスはふすまにはりついたまま、呆然とアキトを見つめていた。

「とりあえず、ふすまから離れろよ」
「あ、うん」
 言われるとシスは、いそいそとふすまから離れた。

「あ、早く着ろ」
 シスふすまから離れて向き直ると、アキトはすぐ恥ずかしそうに顔を背けて、袋をシスにつきだした。
(やべえ、一瞬どきってした)
 向き直ったシスは、無防備に全身をさらけだしていたので、その姿に思わず赤面してしまったのだった。

「…………」
 差し出された袋を無言で見つめるシス。

「どうした?」
 顔を背けたままシスに聞くアキト。

「…………」
「だから早く受け取れって……ど、どうした?」
(な、泣いている?)
 いつまでたっても受け取らないシスの方をチラっと観ると、目尻からぽろぽろと涙が零れだしていた。

「…………」
 シスは無言で涙を流しながら、じっと袋を見つめていた。

「ちょ、えっと、あれ? 悪い、何かまずいこと言ったか? ごめんな、傷つけちゃって」
(えっと、どうすれば……)

 放っておけない、されどシスは裸、色んなところに目が行ってしまう。けど泣いているからそのままにできない。けど胸に目がいってしまう、だがシスは泣いている……、色々な事を考えてしまい、アキトは軽くパニックになっていた。

「違う……」
 すると、シスが一言呟いた。

「えっと、とりあえず着てみないか? 違うってまあ、そりゃあ趣味合わないかもしれないけどさ、ほら折角買ってきたし……」
「違う」
「え?」
「違う……」
 そう言うと、シスは両手で目を抑えて泣きだした。

「ちょ……どうした、ほんとに大丈夫か? なあ」

___その頃、とある一室にて___

「ったく、あの野郎……」
 部屋の中で、男が昼間の事を思い出して怒りをぶつけていた。
「なあ、テメエも酷いと思わねぇか?」
 そう良いながら男は激しく腰を振る。

「起きろコラ!」
 男がいくら声をかけても一切反応しない。
 犯されている女は、男の激しいプレイの連続で完全に意識を失っていたのだった。

「ったく、元はといえば、おまえのせいだっていうのに……出すぞ」
 そういって、腰を脈動させ、そして___。

 ドビュッ!ドクドクッ! ドクッドクッ!

___同時刻また別の部屋にて___

「ねえ、昼間見た……あれが、アキトさんだよね」
「そうよ、あれで貴女と同い年」
「へぇ、そうなの」
「へぇってアンタ、顔も知らなかったの?」
「ありがとう。ううん、会ったことあるけど忘れているみたいだったから合わせたの」
「あら、そうだったの? そういえばアキト君もはじめましてって言っていたわね」
「そうそう前一緒にいてくれた事もあったのに……あ、醤油とって」
「はいっ……って、あれ? もしかして貴女またやったの?」
「だって……怖いし、寂しかったから……」
「それいつ頃?」
「えっと、一週間前に一回……」
「スミレ確か、半年前の二月頃にもしたって行っていたけどもしかして……」
「うん、アキトさんにいて貰った」
「……はぁ、もしかしてアキトくん、スミレを庇っていたとかじゃない? わざと初対面の振りしていたとか?」
「あ……かもしれない」
「いい? スミレ、貴女は一人じゃないのだからね、何度も言うけど見ず知らずの男に簡単に身を預けないで、お姉さんは必ず帰ってくるから」
「ごちそうさま、でもお姉さんだって男の人に身を預けているじゃない」
「それが私の仕事! とにかくスミレの事が心配なの、わかった?」
「でもアキトさん良い人だし、他の男に行くより良いでしょ?」
「まあ、隣や見ず知らずの男よりはずっと良いけど……」
「ならアキトさんだけでも、良いでしょ?」
「う〜〜ん……、但しアキトくんが良いって言ったらね、あくまでアキトくんだけよ」
「大丈夫、もう三回世話になっているから」
「そう言う事あっさりいわない! もう、今度アキトくんに謝っておかなくちゃ」
「身体で御礼?」
「ごちそうさま……そうね、それも良いかも……ってスミレ!」

___同時刻、また別の部屋にて___

 カタカタカタカタカタカタ。

 暗く静かな部屋に、PCのキーボードを叩く音が響く。

 カタカタカタカタカタカタ。

(あの女……まだ無事か……)

 タイプしながら、昼間会った女の人の事を思い出していた。

「まだ無事だ、まだ大丈夫、きっと大丈夫だ、きっと……」
 男はそう、部屋で一人呟いていた。

___そして数時間後___

「ふぅ……」
 風呂上りに一息。
 玄関入ってすぐにある台所と食卓のテーブル。
 アキトは、そのテーブルのイスに座り、熱いお茶を一服していた。

(……またしてしまった)
 先ほどの事を思い出して後悔するアキト。

 アキトは、とりあえず部屋に袋を置いて、泣いているシスを一人にして着替えてから来るように言うと、部屋を出てそのまま夕食の準備に取り掛かった。まだシスの分の食器は買っていなかったので、スーパーでお弁当と総裁を買ってきて、紙のお皿とパックに入れ、食卓に並べた。
 そして食事の準備が整いシスを呼ぶと、部屋から紺色のシャツと、同じく紺色のハーフパンツを着たシスが目を赤くして出てきた。なるべく中性的な物を選んだのだが、シスが着ると何処か違和感を覚える。更に下着は一切着用していないので、スースーしてそうだ。
 そして一緒に食事をしたあと風呂をわかすと、洗濯中のアキトにシスが一緒に入ろうと誘った。更に、今後も一緒に入りたいと述べ、アキトを困らせた。
 その後何度話しても聞かないシスに根負けし、今日だけと念押しして一緒にお風呂に入ったのだが、案の定今度はお風呂の外で三回、口と手で射精させられた。
 更に、口に射精された精液は全て飲み込み、手で放たれたものもシスが全て綺麗に舐めとってしまった。
 アキトが何故そこまでするのかを聞くと『それだけが取り柄だから』と返した。
 困惑するアキトをよそに、シスは無垢であどけない顔をアキトにむけて、そのまま抱きついた。
 そして一緒に湯船につかり、芯まで温まってから上がったのだが、できるだけシスの方を観ないようにしながら入っていた事もあり、のんびり浸かっていたためすっかりのぼせてしまったのだ。
 
 そしてお風呂から上がった後、今こうして一服していたところだった。
 
 ザーッ。
 ふすまの開く音がする。
 中から大人用、それも大型サイズのシャツ一枚に身を包んだシスが、まくらを片手に持ったまま出てきた。
「寝ないの?」
 アキトを誘いに来たのだ。

「ああ、まだ寝ない、というかちょっと待ってくれ」
「なに?」
 不思議そうに訪ねるシス。

「なあ、もしかして一緒に寝るつもりか?」
「そうだけど……嫌?」
「いや、そういうことではなくてだな、まあまだ布団は一つしかないけど、俺はソファーでも良いし……」
「アキトと一緒が良い」
「うーん、それはまだ良いとして……そうだ、その前に、だ」
「なに?」
 色々言いたいことがあったアキトだが、その前に別な疑問を投げかけてみた。

「俺の手を握っただけで全身を快感が貫いたり、今日も風呂場でシスに背中を触られたとき一気に力が抜けてその場にへたり込んだりしてしまった。あれは一体何だ?」

「私は触れた相手の全身を敏感にしたりリラックスさせて全身の力を奪ったりする能力を持っている。反対に一切感じない状態にすることも可能。効果期間は二十分から一週間、内容と対象によって個人差がある。能力を自分に使う事は不可能で、一度発情してしまった身体を鎮めることはできない」
「……え、いやちょっと待って」
 突然の回答の数々に思わず唖然としてしまうアキト。

「敏感とか、リラックスとか、感じさせないとか、他にもできるのか?」
「できる。一部分だけ、例えば人差し指に触られない限り全く感じない身体にしたり、身体の痛みを一時的に忘れさせたり」
「最後は麻酔に近いな……、それを俺に使っていたわけだ」
「そう、嫌だった?」
「いや、気持ちよかったから良いけど、不思議な能力持っているな……」
「信じる?」
「ああ信じるよ。というかもう何度も経験しているからな、疑いようも無いさ」
「そう」
 そういうと、シスは少し安堵の表情をみせた。
「それにしてもやけにあっさり教えたな、てっきりまた隠されるものとばかり」
「もう三度目だから」
「三度目?」
「…………なんでも無い」
「?」
 ドンドン! ドンドン!
 突然外からアキトの部屋の扉を激しくノックする音が響いた。

「あ、はーい(奥行っていて)」
 アキトはシスに部屋のほうを指差し促すとそれに従い、枕を持ったまま奥の部屋に入っていき、襖を閉めた。
(まだシスを万が一にも見られるわけにいかないよな)
 
 そう思いながらイスから立つと、扉の方に歩いた。
 
 ドンドンドンドン!
 来訪者は、延々と扉を激しく叩き続けていた。
「ハァ……あああアキトくん、アキトくん!」 
(この声は、ミホさん? こんな時間に何かあったのかな?)
 その声は激しく息切れしており、アキトにただ事ではないと感じさせた。

 ガチャッ!
「こんばんわ美穂さ……うわっ!」

 扉をあけると、ミホは裸足にパンツ一丁、全身汗だくで足をガクガクと震わせ、右手でその大きな両胸を隠しながら左胸を揉みしだいていた。

「ど、どうしたのですか? そんな格好で」
「おおおおお願いがあってきたの……」

 ミホは声もぶるぶると震わせながら次の言葉を発した。

「わわわわ私を犯して!」

 
 


 

 

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