〜 桜月姫キルシェ・ブリューテの場合 〜


 一人の男が恋をした。
 相手は正義のヒロインだった。
 エッチとは無縁の究極美少女。その恋は絶望的に思われた。

 でも、男はあきらめなかった。
 彼女を手に入れる方法を模索し始めた。

 男の戦いが始まった……。


 初めての遭遇(であい)は春も終わりに近づいた頃だった。
 5月の初め。
 桜はすでに散り、葉桜が道を賑わしている。
 塾が終わり、少年はぶらぶらと帰宅の途につきはじめた。
 もはや緑色でいっぱいの桜並木を通り抜け、住宅街にさしかかる。
 その時だった。
 何かが少年の鼻の頭に舞い降りた。
 それはすでに散ったはずの桜の花弁だった。
 それを見た少年はいぶかしみながら空を見上げるとそこにいた。
 長い黒髪をなびかせ、真っ白いマントを翻し、周りに光の珠を従えて彼女はいた。
 いや、何かを追っているというのが正しい。
 彼女はアッという間に飛んでいってしまった。
 だが、その一瞬で充分だった。少年は彼女に恋をした。
 一目惚れだった。
 少年は急いで、彼女が行った方向へと走っていった。

「これまでです。観念しなさい」
 少女は異形のモノを前に静かに言った。
 白と桜色のマントをまとい、辺りに同じく桜色の光の珠を舞わせている彼女は月に照らされて神々しさを感じさせた。
 見る全てのモノを魅了しそうな彼女を前にしかし、異形のモノは魅了されることなく憎しみの目を向けている。
「この世界を去るなら良し、私も手伝いましょう。しかし、これ以上ここに留まるというのなら、あなたを送り還さねばなりません」
 少女は目を伏せて言った。
「うるせーよ、キルシェ・ブリューテ。お前だって俺と同類だろ。何でお前は良くて俺は駄目なんだよ!!」
 キルシェ・ブリューテと呼ばれた少女はその言葉に顔を背けた。
 その一瞬を狙い、異形のモノはキルシェへと向かっていく。その速度は速く、10メートルはあったであろう間合いを一瞬で詰めた。

 ようやく追いついた少年が見たのは目を伏せて、顔を背けている少女と少女に襲いかかる怪物の姿だった。
「危ない!!」
 少年は一にも二にも無く叫ぶと、少女を押し飛ばした。
 すると目の前に異形の怪物がいた。
 「良くも邪魔をしてくれたな、小僧〜〜!!」
 異形のモノは闇ですら震え上がらせてしまいそうな声を上げて少年の前に立ちはだかった。そして、一撃で少年を10メートルはすっ飛ばすとそのま ま少年を追っていった。
「ぐぅっ」
 少年はアスファルトにしたたかに身体を打ち付けられ、身動きがとれなくなっていた。異形のモノの力は強く、受け身なんて取れなかった。
 少年が痛みに耐え、起きあがろうとすると不意に少年は影に落ちた。
 見上げると、異形のモノが少年を見下ろしている。
「小僧、食料が少なくなるのは残念だが、お前はここで死ね」
 恐怖で動けない少年に向かい、異形のモノは腕を振り上げる。
「死ね」
 異形のモノがその腕を振り下ろそうとしたその時
 ボトッ
 異形のモノの腕が肘からもげて落ちた。
「どうして、こうなってしまうんですか?」
 キルシェ・ブリューテは哀しそうな声で言った。
 その双眸からは大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちている。
「知れたこと。我らは常に生きるために狩りを行っている。その為には貴様が邪魔なのだキルシェ・ブリューテ」
 異形のモノはちぎれた腕を拾い上げキルシェへと投げつけた。同時に自らもキルシェへと飛びかかっていく。
 キルシェは目を伏せ、顔を背けた。これから起こることを見たくないという風に・・・
 投げられた異形の腕の軌道上へとキルシェの周りを舞っている光の珠の一つが飛んできて、異形の腕と触れると一瞬にしてその腕を消滅させてしまった。
「なっ!!」
 異形のモノが驚いたときにはすでに遅かった。異形のモノの周りに光の珠が止まった。
 光の珠が線を結ぶと五紡星が紡がれた。
 キルシェが哀しそうな声で祝詞を紡ぐと異形のモノは五紡星の中へと消えていった。

「また、助けられなかった・・・・」
 キルシェは空を見上げて呟くと、まだ倒れている少年へと向かった。
 少年を抱き起こすとキルシェは少年の後ろへと座り、少年に膝枕をした。
 マントの中から手を出し、少年の傷へと手をかざす。そこへ先ほどの光の珠も集まってきて、その部分はホタルが集まったようなほのかな光を灯している。
 桜の香りが少年を包む。
「あ、あんたは・・・何者なんだ?」
 傷の痛みがやわらいできたので少年はキルシェへと聞いてみた。
 しかし、キルシェは哀しそうに目を伏せて、首を振るだけだった。
「あたたかい・・・・」
 少年は朦朧としてくる意識の中、目の前にある顔を覚えようと手を伸ばした。その手が少女の顔へと届いたときに少年の意識は闇へと落ちていった。
 そして力が抜けた手は地面に落ちた。偶然少女の涙をふき取って・・・・

「う・・・・何でこんな所で寝てんだ俺?」
 少年は公園のベンチの上で目を覚ました。
 しかし、その時には異形のモノもそれと戦っていた少女の姿も少年の記憶にはなかった。
 少年が起きあがったときに少年にかけられていた白いマントが落ちたが、少年はそれに気付くこともいや気が付くことすら出来ずに家へと帰っていった。
 それが、それしか今の少年の頭に無いかのように・・・
 少年が公園から出ていくとベンチの下に落ちているマントを拾い上げるキルシェの姿があった。
 キルシェはしばらく少年の消えた方向を見ていたが、やがてマントを羽織ると少年と逆の方向へと消えていった。



 二度目の遭遇は夏休みも終わった後だった。
 少年は三者面談で何処の高校へ行くのか聞かれていた。
 しかし、少年は自分が何をやりたいのか分からず、結局何も答えなかった。
 また今度、面談をやると言うことになりこの場は解散となった。
 その夜、少年は三者面談で溜まっていたストレスをはらそうと、外をぶらぶらと歩いていた。
 すると、少年は何か違和感に襲われた。いや、既知感―デジャヴと呼ばれるような感覚を少年は初めて感じた。
 なにかが、少年の頭で警鐘を鳴らしている。
 この場は危険になる。すぐに離れろ・・・と
 しかし、少年はこの感覚がなんなのか気になって、その辺りを探索し始めた。
 何か前にもこんな事があったような感覚・・・
 桜の香りと・・・・
 何かが少年の鼻の頭に乗った。
 桜の花弁!!
 瞬間、少年の頭の中では数ヶ月前の夜の記憶が蘇っていた。異形の怪物とそして・・・夜には目立つ白と桜色のマントを羽織った少女。
 確か、異形の怪物にキルシェと呼ばれていた。
 少年はキルシェを探して、夜の街を駆けていった。

 キルシェは異形のモノと対峙していた。
 数ヶ月前のモノとはまた別の形だった。
 少年は両者を見つけると、どちらからも見つからないように隠れた。
 前みたいに痛い思いをするのも嫌だったし、せっかく思い出したのにまた記憶を消されるのはまっぴらだった。
 キルシェは異形のモノに向かって何か話している。
 きっと前みたいに勧告なのであろう。
 言葉が受け入れられなかったのか、キルシェはまた哀しそうに目を伏せた。
 その隙を逃さず、異形のモノは攻撃を仕掛ける。
 一瞬で縮まる間合い。
 今回は少年も出る暇がなかった。少年とキルシェ達間での距離があったこともある。だが、それ以上に異形の速度が速かった。
 だが、異形の攻撃は当たらなかった。いや、避けられた。
 異形の動きは速かったが動いたのが見えないほどではない。しかし、キルシェの動きは全く見えなかった。
 いつの間に動いたのか遠くで見ていた少年にも見えなかった。
 異形の怪物は一度間合いを離す。両者の距離は50メートルくらいまで開いた。
 普通の人間はおろか、今の異形の怪物だって離れるのに1秒かかった。
 この距離なら攻撃するまで時間がかかる。異形の怪物はそう思ったのだろう。
 しかし、次の瞬間少年は信じられないものを見た。
 キルシェは一瞬でその距離を0にしてしまった。
 キルシェが顔をあげた瞬間、キルシェは異形のモノの目の前にいた。キルシェの周りを舞っている光の珠が五紡星を紡ぐ。異形のモノはまたその五紡 星の中へと消えていった。
 少女はそれを見届けた後、はあとため息をついて歩いてその場から離れていった。
 そしてその場には少年だけが残った。
 その後、何度かキルシェを見たが、声もかけられず見ているだけだった。



 そして出会いは日常だった。
 少年はその日ちょっとした資料を集めに街へと出た。
 その帰り、電車にゆられて街で買った本を読んでいた。
 その小説は死神の話だった。それを読んでいると、ある少女の顔が浮かんでくる。一目見ただけで好きになってしまった、謎の少女。
 ちょうど、この物語に出てくる死神の様な格好をしていた。ただし、これの死神は黒いマントで、彼女は白いマントだったが・・・
 電車が大きくゆれて、近くにいた女子高生とぶつかってしまった。
「あ、すみません・・・」
「いえ・・・」
 謝ってその女子高生の顔を見たとき
「キルシェ・ブリューテ・・・」
 少年は思わず、今思い浮かべていた少女の名前を口にしてしまった。
 それほどまでに女子高生は少女とそっくりだった。
「はい?なんですか、きるしぇ・ぶりゅーてって?」
 女子高生は小首を傾げて聞いてきた。
「いえ、何でもありません」
 少年はその場はそう答えた。

 そして、少年は夜に街をぶらついていた。
 なぜかはわからない・・・ただなんとなく、今夜は彼女に会えそうな気がしたから・・・
 空を見上げてみる。
 今日は月が大きく、月の力が見えるような気がした。
 桜の香りを感じて目を空から落としてみる。
 すると目の前にキルシェ・ブリューテがいた。
 キルシェはマントから腕を広げ、目を閉じて月の光と周りを舞っている光の珠からの光を浴びている。
 その姿は美しく、俺は何も言えず魅入ってしまった。
 空色の袖には着物のような袖下があり、それは翼を思わせた。また、桔梗色に染め上げられた服の胸には黄色の模様がある。
 キルシェが閉じていた目を開くと、光の珠は踊るのをやめて、再びキルシェの周りで安定している。
 手をマントの中に戻し、キルシェの口が何かを紡ぐと彼女を光の柱が包み込んだ。
 光の柱が消えると、そこにいたのはキルシェではなく、昼間、電車内でぶつかった女子高生だった。
 女子高生は時計を見ると急いでその場から離れていった。
 そして、少年の受験先も決まった。



 女子高生の着ていた制服から調べて、彼女はこの辺りで一番の公立校に通っていることを知った少年はそこを受験した。
 もともと少年はかなり頭が良く、幼い頃から成績は上位をキープしていた。なので、その学校には問題なく進学できた。
 少年が進学するとき彼女が卒業していたら意味がなかったが、その時はその時と少年は割り切っていた。
 あれだけの美人だし、聞けば少しは情報があるだろうと考えていた。
 そして、少年は彼女と同じ部活に入った。
 彼女―キルシェ・ブリューテの本名は染井 吉乃(そめい よしの)、文芸部の部長になった人で少年とは1つ違いだった。
 こうして、少年と吉乃の距離は徐々に縮まっていった。



 夏休みにもなると文化祭に向けて、文芸部も忙しくなってくる。
 今年は吉乃の提案で人形劇をすることになった。
 今日も夏休み返上で人形作りに精を出している。しかし、もともと部員の多い部活じゃない上にバイトをしてる者もいるので今日も活動してるのは少 年と吉乃だけだった。
「吉乃さん。これはどうするんですか?」
「うん、ここはね・・・」
 少年の質問に丁寧に答える吉乃。
 吉乃は今でも、キルシェ・ブリューテに変身して夜の街で異形のモノと戦っていて、少年はそれを吉乃にも見つからないように隠れてみている。
 いまはまだ、その程度の関係だ。
 だが、少年はその関係に満足していなかった。
 もっと、深い関係になりたい。
 それは欲望だった。
 だが、その為には少年にも力が必要だった。
 キルシェ・ブリューテ相手では普通の人間はおろか異形の怪物も歯が立たない。
 そして、吉乃の時も浮いた噂一つない。
 吉乃は言い寄ってくる男は全て断っていた。少年は告白していなかったのでかろうじてそばにいられるのだった。
 だから、吉乃を手に入れるのは至難の業だ。
 その為になんらかの力を手に入れなければならない。思い通りに出来るような力を・・・
 そして、少年は思い出していた。
 催眠術の存在に。
 少年は小さい頃から彼の叔父さんに催眠術を教えて貰っていた。すでに心理療養士としての資格も取れるくらいに催眠術に長けていた。
 少年は催眠術を使って、吉乃=キルシェを手に入れることに決めた。
 蝉が窓の外で勢いよく鳴いていた。



「お疲れ様〜」
 文化祭は吉乃の活躍で無事終えることが出来た。
 脚本はもちろん、劇で使う人形の作成、舞台の設置、音響もほとんど吉乃が取り仕切っていた。
 逆に言えばこの才女がいなければ、文芸部は文化祭にも参加できなかったのだろう。
 後夜祭へ行くという人達を見送ったら、部室には吉乃と少年だけが残った。
「お疲れ様でした。吉乃さんのおかげで今年は大成功ですね」
 少年はペットボトルのウーロン茶を紙コップに入れて、吉乃に手渡した。
「ありがとう。でもそんなこと無いわよ」
 照れているのか吉乃は顔を真っ赤にして、ウーロン茶を啜っている。
 ウーロン茶を机に置くと、吉乃は腕を伸ばして首を左右に振る。
 コキコキとなる音がかわいらしく、少年は吉乃に近づいた。
「吉乃さん、大丈夫ですか?」
「う〜ん、疲れたかな?肩こっちゃったかも・・・」
 吉乃は肩をぐるぐる回してみるがなにかしっくりこないようだ。
「俺で良かったら、肩を揉みましょうか?」
「え、でも・・・悪いよ」
「気にしないで下さいよ」
 そう言って、少年は吉乃の肩を揉み始める。それと一緒に校庭が騒がしくなっていった。
「後夜祭が始まったんですね・・・」
「行ってくれば良かったのに・・・私なんかほっといてさ」
「俺も騒がしいのはそんなに好きじゃないんですよ」
「そっか・・・・」
 後夜祭の明かりに浮かぶ、吉乃の顔はどことなくホッとしているような表情だった。
「あ〜、こりゃあかなりこってますね。肩揉むだけじゃ駄目です」
 不意に少年はそんなことを言いだした。
「とっておきの方法がありますので、そっちを試してみませんか?吉乃さん」
「え、えっと・・・うん、じゃあお願いするわ」
 不意の提案にちょっと戸惑ったようだったが、吉乃は快諾した。

 少年は吉乃が座っている椅子以外を端に寄せると、吉乃の横に立った。
「ねぇ、何をすればいいの?」
「じゃあ、こうやって手を組んで腕を伸ばして下さい」
 少年は手を組むと肘を伸ばして前に伸ばした。吉乃も少年の手本を見ながら同じようにやった。
「いいですか?このまま、右手の親指を見つめて下さい・・・今から3つ数えると手がくっついて離れなくなります。1、2、3!ほらもう離れない」
 少年は3つ数えると同時に椅子の背中を叩いた。
「あ、あれ?」
 吉乃は必死に手を離そうとするが、手はくっついてしまって全く離れなかった。
 何度も何度も離そうと挑戦したが何故か手は離れない。
「はい、もう離れますよ」
 吉乃が疲れ切ったところで少年は声をかけた。
 すると、さっきまではどんなに吉乃が力を込めても離れなかった手があっさりと離れた。
「あれ?なんで?」
 混乱している吉乃をよそに少年は吉乃の前へと回り、吉乃の額に指を当てた。
「今度は椅子から立てませんよ」
「え、嘘、なんで?」
 少年に言われたとおり、吉乃は椅子から立てず困り果ててきた。
 すっと吉乃の額から少年の指が離れる。
「もう立てますよ。吉乃さん」
 そう言われると何故か、立てた。
「では、もう一度座って下さい」
 少年は吉乃を椅子に座らせると胸ポケットからペンライトを取り出して明かりをつけた。
「さあ、この光をよーく見ていて下さい」
 吉乃の頭より高い位置に光をかざし、左右に動かしたり、ライトを点滅させたりする。
 だんだん、吉乃の目が瞬いてくる。
 少年はこれを見逃さずに言葉を続ける。
「ほーら、段々瞼が重くなってきました。重くて仕方ありません」
 言葉に合わせてライトを降ろす。
 吉乃もそれに合わせて視線が下がってくる。
「瞼が重い。閉じてしまいましょう。大丈夫、僕は一緒にいますので安心して結構です」
 そして、少年は吉乃の瞼を手で押さえた。
「ほらもう閉じてしまいました。瞼はとても重たくて、開こうとしても開きません。でも、僕がここにいるので大丈夫。安心して下さい」
 そう言って、少年が吉乃の瞼から手を離すと、瞼はぴくぴくと痙攣したようになっているが、決して開かず、吉乃の顔も安心したような表情だった。

 少年はさらに催眠深度をさらに深くしていった。
「吉乃さん、聞きたいことがあります。あなたは私の質問に出来る限り答えなければなりません。どんなことでも答えてしまいます。どうしても答えてしまいます。いいですね」
 吉乃は少年に問われるがまま答えた。
 身長、体重、3サイズ、生年月日、そして・・・
「吉乃さん、あなたはキルシェ・ブリューテって知ってますか?」
「はい、知ってます」
「キルシェ・ブリューテはあなたですか?」
「はい、そうです。私が魔法の力で変身した姿がキルシェ・ブリューテです」
 少年は期待した答えが聞けて満足だった。
 そろそろ、後夜祭も終わる頃だし、切り上げることにした。
「吉乃さん、聞こえますか?これから言うことばはあなたは普段は覚えていませんが、絶対にその通りになります。いいですね。あなたはいつ、どんなときでも私にキルシェ・ブリューテと言われて額に手を当てられたら今の状態になります。いいですね、では、これから3つ数えるとあなたは元の状態に戻ります。ですが、僕に言われたことは全てほんとになります。1、2、3、はい、気持ちよく目覚めましょう」
「あ、あれ?」
 吉乃は目をぱちぱちとさせていた。
「もしかして、わたし眠っちゃった?」
 自分を指さして焦る吉乃。
 そんな吉乃の姿を見下ろして、少年は吉乃の額に手を当てた。
「え、な、な・・・」
「キルシェ・ブリューテ」
 その言葉を聞くと、吉乃の身体から力が抜けて頭がかくっと倒れた。
「吉乃さん、いいですか。きょう、後夜祭の時間はここで僕と楽しく会話をしていた。いいですね。きょうの後夜祭の時間は僕とここで楽しく会話をしていました。これから3つ数えるとあなたは目を覚ましますが、今あった出来事は覚えていません。でも、僕にキルシェ・ブリューテと言われて、額に手を当てられたらいつでもどこでも今と同じ状態になります。いいですね。1、2、3、はい気持ちよくめがさめました」
「へ、あ、あれ?」
 吉乃は目をぱちぱちとさせている。
「どうかしましたか?吉乃さん」
 少年が何事もなかったかのように声をかける。
「え、いえ、なんでもないわ」



 そして、少年は今日も深夜徘徊をしている。
 しかし、今日はいつものように隠れてみてるわけではない。
 もはやおなじみとなった桜の香りをかぎつけると、少年はキルシェの元へといった。

 少年が辿り着いたときにはもう終わっていた。
 異形のモノはちょうど光の五紡星に飲み込まれて行くところだった。
 異形のモノが消えて五紡星をかたどっていた光の珠はキルシェの元へと戻る。
 少年は拍手をしながら出ていった。
 突然現れた少年に、キルシェは戸惑いを感じた。
「な、何故あなたが・・・・記憶だって消したはずなのに・・・」
「ああ、そう言えばそんなこともありましたねぇ・・・初めてあったときに・・・あの時あなたは俺に二度とここへよらせないようにしようとしたんでしょうけど、偶然また辿り着いてしまったんですよ。その時に前の記憶も取り戻しました」
 近づいてくる少年にキルシェは身構えて臨戦態勢を整える。
「そう、初めてあなたとお会いしたのは俺が中3の5月でした。もう1年と半年近く前です。偶然、あなたを見ました。そう、ほんの偶然でした。塾帰りにぶらぶらと歩いていて、桜の花弁が俺の鼻にふってきたんですよ。そして見上げたらあなたがいました。あなたの姿を一目見て・・・・一目惚れでした。あなたを好きになって、何度も何度もあなたを見ていました。また、記憶を消されるのはいやですからね・・・ずっと想ってました・・・キルシェ・ブリューテ・・いや染井 吉乃さん」
 いつの間にかキルシェの臨戦態勢は解けていた。
「そう、ですか・・・・そんなに私のことを・・・・でも、すみません。私はあなたをそう言う目では見たことがありませんでした・・・これからもないと思います・・・ですから・・・ごめんなさい・・・今は誰ともそう言う気持ちにはなれません」
 キルシェいや吉乃はきっぱりとそう言いきり頭を下げた。
「やっぱり、そうですか・・・いや、何となくそうなるんじゃないかなぁって気はしてたんですよ。吉乃さんならそう答えるんじゃないかと・・・・残念です・・・・キルシェ・ブリューテ」
 いつの間にか少年はキルシェの目の前にいてキルシェの額へと手をあてがった。
 瞬間、キルシェの身体から一切の力が抜けて、崩れ落ちる。
 地面にぶつかる前に少年はキルシェを抱き留め、公園のベンチへと座らせた。

「吉乃さん、聞こえますか?僕がこれから言うことはあなたは覚えていないが、だけど、絶対にあなたはそう行動してしまいます。まず、あなたは僕に対しての一切の攻撃と記憶を奪ったり、操ったりすることは出来ません。いいですね。これから3つ数えるとあなたは自分で考えて行動できますが、術にはかかったままです。いいですね。1、2、3、はい」
 吉乃は目を覚ますとベンチから立ち上がって、少年から飛びひいた。
「なにをしたの・・・」
 臨戦体勢を作りながら少年に問う。吉乃の周囲には光の珠が舞っている。
「なにもしてないですよ。ただ、僕に危ないことをさせないようにしただけです。なにかは・・・これからするのですから・・・」
 少年が近づくと吉乃は一気に後ろへ下がった。
 瞬間、少年の声が届く。
「あなたは俺の声の届くところまでしか逃げられない」
 その言葉を聞いた途端、吉乃は後ろへと退けなくなった。
「な、なんで・・・」
 吉乃が戸惑っている間にも次の少年の声が届く。
「吉乃は耳を塞ぐことは出来ない。僕の声は聞かなければならない。僕が良いと言うまでこの公園から出ることもできない」
 次々と少年の言葉が吉乃を縛っていく。
「吉乃は僕より速く動けない」
 そう言って、少年は走り出した。
 吉乃も身の危険を感じ走ったがその差はぐんぐんと縮まり、少年に押さえつけられてしまった。
「くっ」
「いいね、もっと楽しませてよ吉乃さん。今から3つ数えると吉乃さんはオナニーをしたくてたまらなくなる。一度イケばそれも収まるよ」
 少年の声を聞きながら吉乃はその綺麗な顔を恐怖に歪ませた。吉乃は耳を押さえたかったが押さえることは禁じられている。
「1、2、3!!」
「いやぁぁぁっ!!」
 少年と吉乃の声がこだますると、吉乃は顔を上気させていた。
 少年が吉乃の上からどくと、吉乃はマントとその下の服を脱ぐのももどかしく、ロングスカートの裾から手を突っ込んだ。
「ああっああぁ・・・なんで、なんでこんな・・・」
 その顔に悦びと嫌悪、羞恥までも入り交じった不思議な表情を作り、吉乃は涙を流している。その涙が悦楽故なのかそれとも悔しさ故なのかは吉乃にもわからなかった。
 吉乃の身体はすぐに反応してあそこからクチュクチュと言う水気のする音が聞こえてきた。
「ああ、ああっ・・・・」
「吉乃、見ていてあげるからイッちゃっていいよ」
「ああ、ありがとうございます・・・・・あああああっ!!」
 吉乃はすぐに絶頂を迎えぐったりとした。
 少年は吉乃が気が付くのを待って、声をかける。
「さあ、吉乃・・・。3つ数えると吉乃は俺のものにフェラしなければならない。どうしてもフェラをしなければならない。1、2、3」
 吉乃の身体がびくんとはねた。
 少年は立ち上がり、吉乃の反応を見ている。
 吉乃は無言で少年のズボンのファスナーを開き始めた。
「吉乃さん何してるんです?」
 少年はわざとらしく聞いてみる。
「あ、あなたの・・に・・・したいの・・」
 吉乃は真っ赤になって俯いてしまい、何を言っているのか聞き取れない。
「吉乃さん、聞き取れませんよ。もっとはっきり言ってください」
「あなたの・・・・に・・らしたいの・・・」
「もっとちゃんと行ってくれないとわからないですよ?」
「あなたのモノを舐めたいの!!あなたにフェラチオをしてあげたいの!」
 吉乃はそう言いきるともう我慢できないと言うほどに少年のズボンから少年のモノを取り出し舐め始めた。
 初めてであろうそのテクニックは稚拙で少年もただ舐められているという感覚しか感じられない。
 だが、それとは別に憧れの人にフェラさせていると言うだけで倒錯した感覚が高まってくる。
 辺りには光の珠が舞い、吉乃と少年を照らしあげている
 吉乃の目からは涙がボロボロ零れ、吉乃の感情を物語っている。
 段々、高ぶってきた少年は自分の絶頂が近いことを知ると、吉乃にも暗示をかける。
「よしの!!おれがイクとお前もイッてしまう!!イクぞ、!!!!」
「〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
 少年が吉乃の口の中に白濁液を流し込むと、吉乃も絶頂を味あわされて口から少年の白濁液を垂らしながら再び気絶した。

「よし、じゃあ、今日はこれでおしまいだから公園からも出れるし、いつもの運動能力で動ける。みみもふさげるし、俺の声の聞こえないところまでも行ける。だけど、それ以外はそのままだ。それと、普段は今までと同じ通りに俺と接しなければならない。わかりましたね。3つ数えるとあなたは眠ります。目が覚めたら。催眠は解けていますが、今行ったことは全部その通りになります。1、2、3、さあ、眠りましょう・・・」
 少年が数を数えると吉乃はすぐに目を閉じて寝息を立てた。



「ああっ!んぁぁっ!ひぐぅぅぅ!!!」
 吉乃は己の内に走る衝撃に声を漏らしてしまう。
 ここはいつもの公園。
 吉乃は全裸で少年に突かれていた。

 いつものように異形のモノを送り還した吉乃はそばにいた少年に催眠状態に落とされた。
「いいかい、吉乃。3つ数えると君には俺の姿が見えなくなる。そして、俺から与えられる刺激は全て快感に変わるよ。1、2、3」
 少年は吉乃の後ろに回り、その長い黒髪を梳いた。
「ひぁっ!!」
 吉乃は振り向くが、そこにいる少年の姿は吉乃の脳に認識されない。
「な、なんなの・・・?」
 少年は吉乃の唇に自らの唇をあわせて、舌をねじ込んだ。
「んむっ!!ああ・・・んぁっ」
 それだけで吉乃の脳には快感が送られ、吉乃のアソコが液体でまみれる。
 吉乃は足に力が入らなくなり、段々と崩れ落ちていく。
 少年がようやく吉乃の唇を解放すると吉乃はハアハアと荒い息をついていた。
「なに、どうして・・こんな・・・・」
 吉乃は何が起こっているのかわからず混乱していた。そして、自らのパンティがグチュグチュに濡れていることにまだ気付かなかった。
 吉乃が放心している間に少年は吉乃の服を脱がせ始めた。
 まずは、白と桜色をした夜にはかなり目立つマント。これを脱がすと、ファンタジー小説の住人かと思わせるような服が出てきた。桔梗色に染め上げられた狩衣のような一枚の布に穴を開けて、そこに首を通したような服のしたに着物のように袖下のある空色のワンピースのロングスカートを着て、桜色の帯で後ろで大きく蝶結びをしていた。
 帯をほどきさっととると桔梗色の服をとる。
「ああっ」
 少し髪とかに当たったらしく吉乃は悶えたが、少年は気にすることをせずそのままワンピースへと向かった。これも頭から抜くと吉乃はブラジャーとパンティをつけただけの姿になった。
 少年はブラジャーの上から吉乃の胸を揉む。
「ふぁぁぁ!!」
 大きいとは言い切れない吉乃の胸はしかし、形は良くしっかりと押し返してくる。
「ああ、あんっ!・・なにっ・・・なんで・・・ふぁ」
 ブラジャーをとると、マント同じ色の突起が自己主張をしている。
「ひぃっ!いやぁ」
 吉乃はブラジャーをとられると、恐怖に我を忘れその場から逃げ出そうとした。
 だが、今までの快感に力の入らない足がついていかず、そのまま倒れ込んでしまった。
「だめだよ。逃げちゃ・・・」
 吉乃は少年の声に辺りを見回すが、吉乃の脳には少年の姿が認識されない。
「どこ、どこにいるの!?」
 吉乃はその美貌を恐怖に染めて、四つん這いで辺りを見回していた。
「お仕置きだね。3つ数えると吉乃は俺が良いと言うまでその格好を変えられなくなる。1、2、3」
 パァンと少年が手を叩いた音に吉乃はびくっと身体を震わせた。
「あ、あ・・・」
 吉乃は四つん這いのまま動けず、恐怖に涙した。
 少年は吉乃のお尻を撫でてみる。
「ひぁぁっ!!」
 今までならすぐにイッてしまうような快感を味あわされた。
 そして、吉乃の愛液で濡れてしまったパンティを下ろす。パンティからは光る糸が吉乃のアソコへと繋がっていた。
「吉乃、こんなに濡らして・・・吉乃は淫乱だねぇ」
「はあぁっっ!やぁっ!・・言わないで」
 少年は吉乃のパンティを膝頭の辺りまで下げると吉乃の背中を打った。
「ひぁぁぁぁ!!」
 それだけで吉乃は軽い絶頂を迎えて、高らかに声を上げた。
 遠目から見た吉乃の姿は回りに舞っている光の珠も相まって妙に現実離れした姿に映った。
「いいかい吉乃、吉乃は俺とSEXするともの凄い快感を得ることが出来る。もう病みつきになってしまう。いいね。1、2、3」
 少年はそう暗示をかけると、自分も脱いで吉乃の中へとつっこんだ。
「ああああっ、あああああああ!!!」
 すぐに抵抗にあったがそれを無理矢理突破すると、吉乃は激しい声を上げた。
 それに気をよくした少年はどんどん腰を動かしていく。
 グチュグチュと吉乃の中で混じり合い、真っ赤な液体も結合部から出ていく。
 吉乃の中は締まりも良く、少年に素晴らしい快楽を与えた。
 すぐに少年は絶頂に向かっていく。
「でるっ!!でるっ!!」
 少年が中に出したのを感じ取った吉乃のアソコは一気に締まり、吉乃にも強制的に絶頂を与えた。
「ひぁぁぁぁ、ふぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」

 その後、少年は動けるようにした吉乃と2回絶頂に行き会った。



 その日から、吉乃が変わった。
 吉乃は学校でも少年を見かけると飛びついてきたり、明らかに今までと違う行動を見せ始めた。
 少年が離れると吉乃は傍目にもわかるくらいにがっくりと落ち込み、周りを心配させた。
 キルシェ・ブリューテになって少年の暗示を受けているときはいつもと同じだった。
 少年は操るという行為に悦びを感じ始めていたのかも知れない。色々なことを吉乃にさせた。動けなくしたり、お手伝いさんにしてみたり、ある時は普段の先輩と後輩というシチュエーションもやった。しかし、それはすべてキルシェ・ブリューテになっている吉乃への行為で普段の吉乃には何もしていない。
 しかし、染井 吉乃は明らかに今までと違っている。
 少年はしばらく様子を見ようと、キルシェ・ブリューテにも会うことをやめた。
 すると、吉乃は学校で少年にすり寄ってきた。
 部室で2人きりの時、そうでないときも少年の横には吉乃がいた。

 ある時、少年と吉乃が2人っきりの時に吉乃が言った。
「ねぇ、SEXしよう」
 少年はその言葉を聞いたときに確信した。
 ああ、この人は壊れてしまったのだなぁ・・・と。
 そして少年は、文芸部を辞めて、オカルト研究会へと入った。
 もしかしたら、吉乃を直す方法があるんじゃないか?
 それを調べるために。
 しかし、もしかするともう吉乃に会いたくないんじゃないんだろうか?
 そんな考えもあったかも知れない。
 とにかく、キルシェ・ブリューテとの秘め事は続けつつ、色々と調べていた。

 そして、その日は来た。

 ある冬の日。
 少年が高校へ入っての初めての正月のある日。
 少年はぶらぶらと空を見上げながら歩いていた。
 まだ昼間なので桜の香りも桜の花弁もない。
 ただ、何となく空を見上げていた。
 道路には雪が積もり、さくさくと心地よい音を出している。
 交差点で信号待ちをしていると、反対側には吉乃の姿があった。
 吉乃はだいぶ窶れ、目は何かを追い求めている
 少年も吉乃も互いに気付かずに信号が変わるかと思われた。
 だが、吉乃が気付いてしまった。
 瞬間、吉乃の顔は華やぎ、少年へと向かっていった。
 しかし、信号は赤。
 パーーッ!!キキキィーーーーッ!!!!
 少年の目の前で吉乃ははねられた。
 相手は10tトラック。
 少年は何十メートルも吹っ飛ばされた吉乃の元へと行くと吉乃を抱き起こして力の限り叫んだ。
「吉乃、吉乃!!」
 救急車はすでに誰かが呼んである。
 吉乃は抱き起こされると吹っ飛んだ衝撃でボロボロの身体を動かして少年に触れた。
 口を動かすが声にならない。
「しゃべるな、いいから喋るなよ・・・」
 しかし、吉乃は口を動かすことをやめない。
「何だよ、吉乃・・・・何だってんだよ」
 少年は吉乃の口元へと耳を寄せる。

「・・・・ねぇ、SEXしよう」

 それが吉乃の最後の言葉だった。

 
 


 

 

戻る