いつかみた、あの夏へ

原作:Panyan


 

 

第01話:夏の日の告白


−1−


「す、好きですっ!!」

 洋介はどもりながらも言い切った。
 季節は夏。真っ赤に染まりあがる夕暮れの公園には蝉の鳴き声や子供達の喧噪が響き渡っている。
 茫然と驚いた顔で洋介を眺めている夕菜。そんな夕菜の反応に気づいているのかいないのか、洋介は言葉を続けた。

「つきあってくださイッ!!」

 一息にそこまで言って、勢いよく頭を下げる。体は直角に折れ曲がり、会社のお得意様相手にもそこまでしないだろうというくらいに深々とお辞儀をした。
 そうして数秒、沈黙が続く。
 知り合ってから数ヶ月。何度か逢っていくうちに洋介はどんどん夕菜に惹かれていった。
 そして、今日。
 洋介は意を決して夕菜をここへと呼び出し、今に至る。

「・・・・・」

 沈黙が二人を支配する。辺りの喧噪から切り取られたように二人の間には静寂のみが横たわっていた。
 ジリジリと照りつける太陽。午後の六時を回ったとはいえ、真夏の陽はその熱を容赦なく伝えてくる。
 横から吹き付ける風に夕菜の長い黒髪がふわりとそよぐ。

「・・・・・」

 沈黙は続く。
 その沈黙に耐えきれず、恐る恐る顔を上げる洋介。その瞳に飛び込んできたモノに洋介は驚きを隠せなかった。

「ど、どうしたんですか、峰崎さんっ!?」
「え・・・・・あ・・・・・」

 つうと夕菜の頬に熱い液体が伝う。
 頬に手を当てて、夕菜は自分が泣いている事に気がついた。

「み、峰崎さんっ!? な、何か気に障る事を言いましたか!?」
「あ・・・・ち、違うんです。違っ・・・・」

 夕菜は否定をしようとして喉を詰まらせる。そんな事はないと言いたいのに、あまりの嬉しさに涙や嗚咽が込み上げて、それを口にする事ができなかった。
 あとからあとから涙が込み上げてきて夕菜の視界が滲んでいく。辛うじて見えるその先には何を勘違いしたのか、残念そうな顔をする洋介の姿があった。

「そ、そうですか・・・・・・すいません・・・・・突然こんな事を言って・・・・」

 段々と洋介の声が小さくなっていく。洋介は言葉を切ると、くるりと夕菜に背を向けた。

「すいません・・・・さようなら・・・・・」

 そう言って、洋介はとぼとぼと歩き始める。その姿は頼りなく、その歩みは覚束なかった。

「・・・・・ぁ・・・・ぅ・・・・」
(そんな・・・ちがう・・・・・・)

 夕菜はパクパクと口を動かす。想いが大きすぎて伝えたい事が口からでない。
 滲む視界の中、洋介は徐々に小さくなっていく。夕菜の心に後悔が拡がっていく。

「・・・・・っ・・・・っ・・・・」
(違うの・・・・待ってっ!・・・)

 湧き上がる嗚咽が喉を詰まらせる。
 じわりと夕菜の心の中に拡がる悲しみ。溢れ出る洋介への想いが一気に絶望へと変わっていく。

「・・・・・て・・・・・・てぇ・・・」
(いや・・・・いや・・・・いやぁ・・)

 心を押し流していく絶望。その絶望を愛しい人を失う恐怖が圧倒した。

「待ってえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 公園に響き渡る絶叫。その声と共に夕菜の体が動く。
 夕菜は愛しい人へと走り出す。そして、絶叫に振り向いた洋介に体当たりめいた勢いで抱きついた。

「えぇっ、み、み、峰崎さんっ!?」
「違う・・・・違うんです・・・・・」

 突然の事に戸惑う洋介。そんな洋介に顔を押しつけて、夕菜は泣きじゃくる。その様は子供にも似て、放したくない、離れたくないという想いが溢れ出ていた。
 今まで見た事もないそんな夕菜の姿に洋介は驚きを隠せない。

「峰・・・・崎・・・・さん」
「違っんですっ・・・・・違うっんっですっ」
「峰崎さん・・・・」
「嬉しっ・・・かったっ・・・・平川っ・・・さんっ・・・・にっ・・・好きだって・・・・・言われてっ・・・・だって・・・・・わたっ・・・・しもっ・・・好き・・・・だから」

 喉を詰まらせながら、内に積み重なった感情を吐露していく夕菜。
 その言葉の内容を理解していく毎に、洋介の貌は驚きから喜びへと変わっていく。

「え・・・・・それ・・・じゃ・・・・ぁ」

 震える、掠れた声を出す洋介。その顔は期待と不安が入り交じった複雑なモノだった。




 コクン。




 夕菜の頭が動く。微かに首を縦に振った後、夕菜は洋介から体を離す。
 一歩、後ろへと下がり、俯いたまま眼に溜まった涙を拭う。
 そして―――

「はい・・・・よろしく・・・・・お願い・・・・します」

 持ち上がった夕菜の顔は満面の笑顔に彩られていた。
 涙を堪えながらも作る笑顔。涙の跡が残る顔で作る笑顔は綺麗な笑顔ではなかったが、そこには嬉しさや喜びが十分すぎる程溢れていて、夕菜が心から受け入れてくれた事が洋介にもわかった。
 その瞬間、洋介の心に満ちていった喜びが一気に溢れた。

「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 洋介の絶叫が夕焼けの公園に響き渡る。
 強く拳を握り、オーバーアクションで腕を体に引きつける。いわゆるガッツポーズをして、洋介は喜びを表現していた。
 そうして数秒、力の限りガッツポーズをとった洋介は夕菜を見る。
 その視線の先で、夕菜は目と口を閉じ、僅かに上をいや、洋介の顔を見るように顎を上げていた。
 いわゆる、キスを待つ女性のポーズ。
 そのポーズを見て洋介の思考は停止した。

「あ、う、あ、う・・・・・」

 ドクンドクンと洋介の心臓が高鳴る。
 ポーズの意味するところは直ぐにわかった。
 しかし、どうすればいいのか。洋介は硬直したまま、助けを求めるように夕菜を見る。
 そして、洋介は気づいた。よく見ると、夕菜の体が微かに震えている事に。

(・・・・俺だけじゃ・・・・ないんだ)

 その姿に洋介は覚悟を決め、正面から夕菜を見据えた。
 その顔は真っ赤に染まっている。それは夕焼けによるものか、それとも―――
 そこまで考えて、洋介は心に気合を入れ直す。ドクドクと耳障りな音を出す心臓を無視し、いつもより動きの悪い体を動かして夕菜の体を掴んだ。
 ビクンと夕菜の体が震える。フルフルと体を震わせながらもキスを待つ夕菜に、洋介も瞼を閉じて唇を近づけて―――

「キースッ、キースッ、キースッ、キースッ」
「ヒューヒューッ!!」
「おい、みんな見てみろよ! キスだぜチューッ!」
「っ!!!!!!」

 その声に洋介達は現実に引き戻された。
 辺りにはいつの間に集まってきたのか、小学生くらいの子供達。
 そのそれぞれが一様に洋介達を見て、無責任に歓声を上げていた。
 夕菜は真っ赤になって顔をうつむけている。洋介は周囲の子供達に煽り立てられて、すっかり気が動転していた。

「あ、あ、あ、う」
「ちゅーう、ちゅーう、ちゅーう、ちゅーうっ!!」

 二人を囃し立てる子供達の声。
 洋介はぐるぐると混乱する頭で夕菜の手を取った。

「こ、こっちっ」
「あっ」

 夕菜の手を退いて、洋介は子供達の薄いところを突き抜ける。
 わーわーと叫ぶ子供達の声を背中に、目的地も考えずに芝生の中へと入っていった。





 がさがさと草を掻き分けて進む。
 洋介は自分がどこを走っているかなんて、全く分かっていなかった。
 ただ進む。周りに誰もいないところ、二人きりになれるところを求めて。
 当惑した頭ではそんな事も考えられなかったのかもしれない。
 洋介は子供達を振り切ったところで木の根に躓いた。

「うわっ!!」
「きゃぁ!!」

 勢い余ってごろごろと転がっていく二人。ちょうど開けたところで回転は止まり、二人は仰向けに寝ころんでいた。ぱちくりと目を丸くして、視界の先にある木の枝を見る。そして、どちらともなく笑い出した。

「あはっあはははははははははっあははははははははっ!!!」
「ふふっふふふふふふふっあはははははははははっ」

 一頻り笑った後、二人は体を起こし、真正面から飛び込んでくる強烈な光に眼を細める。
 正面には水平線。そして、今まさに沈もうとしている真っ赤な太陽がそこにあった。

「わぁ・・・・・」

 洋介の隣で夕菜が声を上げる。声こそ上げなかったものの洋介もその光景に圧倒されていた。
 大きく、世界を赤く染める太陽。赤く染まっていく世界に洋介は一つ気合いを入れる。
 フルフルと震える手。その手を持ち上げて、背中越しに夕菜の肩へと回す。その手の感触に思わず顔を上げた夕菜を抱き寄せ、二人の間にあった僅かな隙間をゼロにする。

「み、峰崎さん・・・」

 震える声で夕菜を呼ぶ。言葉は続いていないが、その表情にはその先の言葉が混ざっていた。
 夕菜はそんな洋介の口を指で押さえる。そして、恥ずかしさで耳まで真っ赤にしながら、ぼそぼそと呟いた。

「あ、ゆ、夕菜って・・・夕菜って呼んで・・・ください」

 その言葉に、洋介も顔を真っ赤にする。同時に洋介の中に夕菜が受け入れてくれたんだという実感が湧いてきた。
 ごくんと、渇いた喉を湿らせて、洋介はその言葉を口にする。

「ゆ、夕・・・・菜・・・・・」
「はい、洋・・・介・・さん」

 夕菜は顔を赤くしたまま洋介へと笑顔を向ける。その、幸せいっぱいの笑顔は夕焼けに染まり、真っ赤になっていた。
 そして、夕菜は洋介の言外の意向を汲み取り、眼を瞑る。すっと顎を持ち上げて、先程と同じポーズをとった。
 どきんどきんと激しく高鳴る心音。その心音はどちらのではなく二人のもので、洋介はその心音を聞きながら夕菜の唇に自らの唇を重ねた。
 つうと夕菜の頬を伝う涙。幸せの絶頂にある二人を真っ赤な夕日、真っ赤な世界が祝福していた。



−2−



 夏の日の告白から四ヶ月が過ぎた。
 二人は仕事の、学業の合間に逢い、幸せを紡いでいた。
 今も二人は仲良く街を歩いていた。クリスマス一色の街はそれこそカップルで溢れかえっている。辺りのカップルが一様に腕を組む中、二人は手を握るに留まっている。そのかわり、一本の長いマフラーが二人を繋ぐようにその首に巻き付けられていた。
 夕菜は幸せいっぱいに体を擦り寄せ、マフラーの下から一筋の光を零す。そして洋介はこれからの予定を思い、緊張に固まっていた。
 バクンバクンと高鳴る心臓。その鼓動を感じながら、洋介はロボットのようにカクカクと体を動かす。
 二人はホテルへと向かっていた。

















 話は数十分前に遡る。













 洋介と夕菜は有名レストランチェーンでテーブルを挟み、向かい合っていた。
 目の前に並ぶ料理は云千円とするコース料理・・・・ではなく、クリスマスフェアと銘打たれた庶民向けのセット料理である。

「「乾杯」」

 その料理を前にして、二人はワイングラスを打ち合わせた。
 チンという澄んだ音がその場に響く。そして、二人はくいとグラスを傾け、その中身を喉に流し込んだ。
 ワイングラスを置くと、夕菜は「おいしい」と驚きの表情を浮かべる。
 それを見て、洋介は申し訳なさそうな顔をする。

「ごめん。もっといいところへと連れて行ければ良かったんだけど・・・」
「いいえ、そんな事はないですよ。私、洋介さんと一緒ならいいんです。それに、お料理も美味しいし」

 そう付け加えて夕菜は微笑み、七面鳥の代わりのローストチキンをカプリと銜えた。
 そんな夕菜の姿に洋介の不安の一部が取り除かれる。そして、洋介も目の前のローストチキンを手に取り、大口を開けてかぶりついた。焼けた肉を引きちぎり、しっかりと咀嚼する。そして、溢れる肉汁、表面に塗られたソースに舌鼓を打った。

「本当だ。美味しい」

 そう言って、洋介も笑みを向けた。





 かちゃかちゃと食器が鳴る。
 雰囲気はいいものの、二人の間に会話は少ない。
 もともと、夕菜は物静かで自分から色々言う事はない。そして、洋介も何を言っていいのか、何を言ったらいけないのか、わかっていない。そのために洋介は何も言う事が出来なかった。
 結果、二人の間に沈黙が横たわるが、夕菜はむしろこの雰囲気を楽しんでいた。
 しかし、洋介はそうではない。早鐘を鳴らす心臓。緊張に震える心はいつもの通り。洋介は既に料理の味を感じていなかった。
 そんな洋介の様子を伺い、くすりと笑うと夕菜はごそごそと持ってきたバッグの中から大きめの紙袋をとりだした。

「洋介さん。これ。クリスマスプレゼント」

 その言葉、目の前の紙袋に洋介の体が止まる。
 がさりと言う音。渡された紙袋は軽く、中身が軽いが嵩張るものだと伝えてくる。

「開けてください」

 洋介の反応を見たいのか、夕菜が期待たっぷりの眼で促してくる。その言葉に従って、洋介は紙袋を開いた。
 がさり。
 洋介の目にまず入ってきたものははっきりとした橙色。紙袋の中で綺麗に折りたたまれているその橙色の物体を洋介は掴む。
 その手には毛糸の感触。暖かな感触に手を包まれながらもその物体を紙袋の中からとりだした。

「マフラー?」
「はい」

 それはマフラーだった。鮮やかな橙色。その色はあの夏の日を思い出させてくれる。しかし、洋介はその長さが気になった。出しても出しても、袋から出てくるマフラー。一人分には長すぎるその長さに戸惑いながら洋介は夕菜に聞いた。

「もしかして、これ・・・・?」
「はい。洋介さんを思って、私が編み上げました」

 花開くような夕菜の笑顔。手編みという事実に驚きつつも洋介はその長さが気になって仕方なかった。

「でも・・・・これ・・・・」

 長いんじゃ・・・・とは言う事が出来ない。それを言ったら夕菜が気を悪くするんじゃないか、と余計な事が頭をよぎる。
 その言外の言葉を読み取ったのか、夕菜はくすっと笑うと洋介の側へと席を移動する。

「それはですね・・・・こうして・・・」

 夕菜は洋介の手からマフラーを取り上げるとくるくると洋介の首に巻いていく。そして、半分が綺麗に巻き終わり、洋介にぴったりとマフラーが合うのを確認すると、夕菜は自分の首にもそのマフラーを巻く。
 くるくるとマフラーを巻き終わると、夕菜と洋介は密着していた。

「ほら、ぴったり」

 そう言って、夕菜は洋介を見る。密着している事、洋介の方が若干大きい事から、自然、その視線は上目遣いになる。
 その視線に洋介はぴしりと固まった。
 そんな洋介の反応に夕菜は自分がしている事に気がついたのか、顔を真っ赤にしていそいそとマフラーを取り外していく。そしてそのマフラーを洋介に押しつけて、元の席へと戻った。
 手に拡がる毛糸の暖かさ。眼に拡がる鮮やかな夕日の色。目の前で真っ赤になっている夕菜に今更ながら嬉しさが込み上げてくる。

「夕菜・・・・ありがとう・・・・」

 洋介も顔を真っ赤にしたまま、込み上げる心をそのまま形にした。
 そして、緊張に震える心に一喝を入れて、洋介は用意していたものを取り出した。

「夕菜、これ・・・を」

 綺麗にラッピングされた小さな箱。その箱には桃色のリボンが結ばれていた。
 それを見て、夕菜の顔が驚きに染まる。

「洋介さん・・・これ・・・・」
「クリスマス・・・・プレゼント」

 ぼそぼそと消え入るような声で呟く。
 それだけで夕菜の驚きは喜びに変わっていった。
 震える手でその箱を受け取る。

「開け・・・ても・・・?」

 夕菜の問い。それに洋介は頷いて答えた。夕菜は喜びに震える手でリボンを解いていく。そして、その箱の蓋を開けると中に入っていたものを取り出した。
 シャラリ。
 金属が音を奏でる。箱の中から鎖状のものが取り出された。

「わぁ・・・・・」

 夕菜が感嘆の声を上げる。その手には銀のネックレスが広げられていた。

「つけて・・・・くれる?」
「はい・・・・」

 洋介の言葉に頷いて、夕菜はネックレスを着ける。そして髪の毛をかき上げて、髪の毛をネックレスにかぶせた。
 夕菜の胸元でネックレスが店の明かりを反射する。その光は夕菜を一層綺麗に見せた。

「どう・・・ですか?」
「似合う・・・・よ」

 再びの問い。その問いに洋介は正直に答えた。

「ありがとうございます・・・・大切にしますね」

 そんな洋介の答に夕菜は笑う。それは花の咲くような笑顔だった。
 その夕菜の笑顔を見て、洋介は良かったと思った。

「そろそろ・・・行こうか」
「はい」

 洋介は夕菜を促して席を立つ。言外に示したその意志に夕菜はこくりと頷いた。
 そして、支払いを済ませると、橙色のマフラーを二人でかけて店をでる。
 その姿を一人の男がじっと見ていた。



−3−



 パチンとスイッチを入れて明かりをつける。
 荷物を置き、防寒着を脱ぐと、二人の間に沈黙が走る。
 ドクンドクンという心音が二人の胸から聞こえてくるようだった。
 胸の鼓動をそのままに夕菜はベッドへと座る。
 それに追随するように洋介もベッドへと座った。
 ゴクリ。
 洋介は息を呑む。すぐ側に夕菜の姿があった。

「ゆ・・・うな・・・・・」

 喉の奥から音を絞り出す。そして、そっと手を取り、夕菜へと顔を近づけていく。
 夕菜はその動きから洋介の行動を察知する。そして、夕菜も洋介を迎え入れるようにそっと目を閉じた。
 重なり合う二人の唇。
 柔らかい唇を互いに感じ、互いの匂いに心を昂揚させていく。
 触れるだけのキス。しかし、数分も続いたそのキスで二人の気持ちは高まっていた。

「服・・・・脱いで・・・・・」

 既に熱の籠もった頭で片言のように洋介は言う。
 そんな洋介の言葉にコクンと頷き、夕菜はベッドから立ち上がった。
 夕菜は上着を脱ぎ、ぷつり、ぷつりとブラウスのボタンを外していく。そして、ブラウスを脱いで、その白い肌を露わにした。

「あ・・・・・・・」

 洋介の口から僅かに声が漏れる。
 まだ、上を脱いだだけだというのに洋介は茫然としていた。
 すとんと夕菜のスカートがおちる。ブラジャー、ショーツ、靴下と統一された下着の黒が雪のように真っ白な夕菜の肌を強調していた。
 初めて見る夕菜の裸体。その姿に改めて洋介は目を奪われていた。
 そのまま、どれだけの時間が過ぎただろうか。洋介にはかなりの時間に感じられたが、その実、一分と過ぎていない。しかし、夕菜はその間の洋介の視線に恥ずかしくなり、両手で胸と股間を隠した。

「恥ずかしい・・・・あまり、見つめないで・・・ください」

 夕菜は頬を赤く染めて、洋介の視線から顔を背ける。
 その言葉に、洋介は自分のしていた事に思い至る。

「あっ、ごっ、ごめんっ!!」

 慌てて後ろを向き、ベッドの上に正座する。そして、数秒。洋介は背中に人のぬくもりを感じた。

「ゆ、夕菜っ!?」
「洋介さんも・・・・・洋介さんも脱いで・・・・ください」
「う、うんっ」

 慌てる洋介の耳に囁かれる夕菜の震えるような声。
 その声に洋介は弾かれるように立ち上がった。
 いそいそと服を脱ぎ捨てていく。上着、ズボン、そして下着。洋介はトランクスを下ろし、その下で先程から固くなっているものを取り出した。

「夕・・・菜」

 洋介は裸体を晒したまま、夕菜へと振り返る。そして、その姿に思考を停止させた。
 先程まで夕菜の体を彩っていた下着はベッドの下へと落ちており、夕菜はその雪のように白い体を全て晒していた。

「あ・・・・」

 ごくん。
 洋介は息を呑む。その彫刻のような夕菜の体に洋介は見惚れていた。

「ゆ・・・う・・・な・・・」

 そろそろと洋介はベッドへと上がっていく。震える手で夕菜の頬に触れる。
 頬に触れる手の暖かさを感じながら夕菜も洋介へと手を伸ばす。そして、軽くキスをして、二人でベッドへと倒れ込んだ。
 チュッチュッと何度もキスを繰り返す。洋介の手が頬から胸へ、胸から秘裂へと進んでいく。
 その度にビクッビクッと夕菜は体を震わせ、ぎゅっと目を瞑りながらも洋介の手を受け入れていく。
 クチュ。
 そして、洋介の手が秘裂へと進んだ時にそこから水っぽい音が響いた。

「「あ・・・・・・」」

 二人の声が重なる。一方は驚き、もう一方は恥じらいに包まれた声。
 洋介が夕菜を見ると、夕菜は顔を真っ赤にして俯いていた。

「もう・・・・・いい?」

 洋介の口から漏れる言葉。その言葉に夕菜は更に顔を赤くさせる。
 ギンギンに突き立っている肉棒にコンドームを着用すると、秘裂へとそっと宛う。

「いくよ?」

 洋介の問いに夕菜はコクンと頷く。それを合図に洋介は腰を進めていった。

「・・・・っ!!」

 ぴっちりと閉じられた肉。それを押し開こうと肉棒は進む。初めての膣をこじ開けられていくその痛みに夕菜はぎゅっと目を閉じ体を震わせる。
 僅かに漏れるその声に洋介の体が止まる。

「夕・・・菜?」

 恐る恐る声をかける。その問いに開かれた夕菜の瞳。その目の端にはきらりと光る液体があった。

「ゆっ・・・・うな・・・っ・・・・もしかして・・・・・処女・・・・・なの?」

 夕菜の涙に洋介は動揺し、思わず問いかける。
 その言葉に夕菜が顔を赤くして頷く。その時に洋介は自分の言葉に気がついた。

「あ、その、ごめん・・・・・催眠術で・・・・痛みを消そう・・・か?」

 洋介は夕菜に謝るように声を押し出す。その言葉に夕菜は首を横に振って答えた。
 その答に洋介は驚き、更に問いを重ねる。

「なんで・・・・初めてって痛いんじゃ・・・・?」

 言葉の零れるその口に夕菜は人差し指を触れさせる。
 口を噤まされ、驚いている洋介に夕菜は再び首を横に振った。

「いいえ・・・いいんです。初めてだから、初めてだからこそ、普通にしてください。痛くたって、失敗したって、それがきっと私の大切な・・・一生の思い出になるから」

 そう言って、夕菜は笑顔を見せる。
 その笑顔に洋介はうんと頷いた。

「わかった・・・・じゃあ、いくよ?」

 洋介は再び腰を進める。メリメリと肉を押し広げていく感覚。
 そして、肉棒の先に引っかかるそれを突き破り、洋介は最奥まで腰を進めた。

「っ!! 〜〜〜〜っ!!!」

 腰から伝わってくる激しい痛み。
 その痛みに耐えるように夕菜は洋介にぎゅっとしがみつく。
 ハアハアと呼吸を荒げて、痛みに顔を顰めていた。 

「夕菜・・・・入ったよ・・・・大丈・・・夫?」
「う・・・・・ん。だいっ・・・じょう・・・ぶっ・・・・・・ありが・・・・とう・・・洋介さんに・・・初めてを・・・あげられて・・・・嬉しい」

 洋介の言葉に答える夕菜。
 その顔は痛みに歪んだままであったが、その声には喜びが滲み出ていた。
 うねうねと蠢く夕菜の中。その感覚は洋介にゾクッとする快感を与え続けている。
 その快感は背筋を上り脳へ。そして、脳から再び腰へと伝わっていく。

「ゆう・・・な・・・・」

 苦しげに声を絞り出す洋介。その洋介の言葉に夕菜は笑みを見せる。無理をしているのがすぐに分かる歪んだ笑顔。
 その歪んだ笑顔のまま、夕菜も声を絞り出した。

「いい・・・・ですよ・・・・・私・・・なら・・・だいじょ・・・ぶ・・・・洋介さんが・・・気持ち・・・・いいように・・・・・」

 夕菜の言葉、夕菜の気持ちに洋介の心が溢れていく。
 しかし、心が如何に夕菜の負担を減らそうと思っても、洋介の体は既に限界に達していた。

「あ、あ、あ、あ、あ、あっ!」

 ビクンッ!
 先程からずっと夕菜の膣に刺激を与えられてきた洋介の肉棒は、腰を引いた瞬間に爆ぜていた。
 コンドームへと拡がる洋介の白濁液。洋介は射精の快感に頭の中を真っ白に染めていた。
 ハアハアと響く呼吸。数秒、二人の間に沈黙が走る。
 その沈黙を夕菜が破った。

「イッたんですね・・・・私の中で・・・・」
「・・・・うん」

 夕菜の問いに答えて、洋介は腰を引く。ずるりと力の抜けた肉棒が夕菜の中から取り出された。その肉棒につけてあるコンドーム。そして、まとわりついている赤い液体。

「ごめん・・・・僕だけイッちゃって・・・」
「いいえ、大丈夫です。洋介さんに中でイッてもらえて、私、とても幸せです」

 洋介の言葉に夕菜は答えるが、その場には沈黙が現れる。

「シャワー、浴びてきますね」

 沈黙を破るように夕菜はそう言って、衣服をまとめると浴室へと入っていった。
 一人残された洋介はゴロンとベッドの上で仰向けに転がった。
 シャアアアアという水音が微かに聞こえてくる中、洋介は肉棒にくっついたままのゴムを剥ぎ取る。そして、近くに置いてあるティッシュを数枚とって、肉棒を拭う。
 そうして、洋介は簡単に後始末をすると服を着直して夕菜を待つ。
 それから数分。シャワーの音が止まった後、服を着た夕菜が脱衣場から出て来た。
 シャワーで暖まったのか、それとも、先程の羞恥が未だ残っているのか、夕菜の頬は仄かに赤く染まっていた。
 そんな夕菜に防寒着をかけ、洋介は言う。

「行こうか」
「はい」

 そうして、二人はマフラーをかけて、ホテルを出た。



−4−



 ガチャガチャ。
 鍵を開ける音が響く。
 駅で洋介と別れた夕菜は自分の部屋へと帰ってきた。

「ふぅ」

 夕菜は部屋にはいると防寒着をハンガーに掛けた。
 バッグをテーブルの上に置き、ゴロンとベッドに転がった。
 チャリ。
 微かな金属音を鳴らし、夕菜はネックレスを見る。さっきもらったプレゼント。大切な人の想いの形。
 そのネックレスを、込められた想いを右手で握り、抱きしめるように胸元へともっていく。

「・・・・洋介さん」

 夕菜の口から大切な人の名が零れる。想いの籠もった声。先程まで耳にあった彼の声、先程まで漂っていた彼の匂い、先程まで側にあった彼の姿を思い出す。
 そして、夕菜は右手をそのままに左手を秘裂へと持って行った。
 先程、処女を失った大切な場所。大切な人と繋がっていた場所。
 クチュリ。
 ショーツの上から触った秘裂は既に濡れ始めていた。

「んんっ・・・・」

 顔を顰めながらも夕菜の手は動く。ほんの数時間前に処女を失ったその場所は指の刺激に未だ痛みを発してくる。夕菜はその痛みに耐えながら、気持ちいいところを刺激していく。
 もぞりと体を動かす。ベッドの上で小さく丸まった夕菜の体がビクンビクンと震える。
 大きくないと気にする胸の上を指が走り、快感を逃がさないようにと挟み込んだ指の先が蠢き、ショーツの上から刺激を伝える。

「洋・・・介・・・・さん・・・・」

 さっきは満足出来なかった。
 イク事が出来なかった。そのために体の中に燻った官能は夕菜の脳を焦がし続ける。
 足らない。足らない。と脳が飢餓を訴える。
 もっと。もっと。と脳が欲求をはきだす。
 それに答えて、夕菜の体が動いていく。
 プチン。
 夕菜は背中に手を回し、ブラジャーのホックを外す。そして、締め付けの緩くなったブラジャーを胸の上へと押し上げて、素肌に指を這わせていく。
 直に触れていく感触。直に触れられていく感触。二つの感覚が夕菜の頭に溶け込んでいく。

「洋介・・・さん・・・・んんぅっ」

 ショーツの中へと手を滑り込ませていく。傷を刺激しないように外周部とクリトリスを撫でていった。
 たちまちに快感が夕菜を襲う。気持ちいいところを知り尽くしている自分の手により、夕菜は感覚を高ぶらせていく。

「洋介・・・さんっ・・・・そこっ・・・・・気持ちいいぃ」

 そして、それが自分の手によるものではなく、愛しい人の手によるものだと夢想し、夕菜は心を溶かしていく。
 丸まっていた体は仰け反っており、そこにいない誰か、目の前にいるとしている誰かに触ってもらえるように気持ちいい場所を押し出していく。

「洋っ・・介さんっ・・・・洋介っ・・・・さんぅ! ・・・・・はぁっ・・・・・ふぁぅっ・・・・・」

 夕菜は妄想の中で洋介に抱かれていく。妄想の中の洋介は的確に夕菜の気持ちいいところをついてくる。
 そんなのが自分の妄想、自分の手だというのを頭の隅で理解していながら、洋介の手に溺れていった。

「ぁっ・・・・そこぉ・・・・気持ちいぃ・・・」

 ビクッ、ビクッと体を震わせる。白雪のような肌はじっとりと汗にまみれ、その秘裂からとろとろと零れた愛液がショーツを突き抜け、スカートをも濡らしていく。
 ハァと熱い吐息を漏らし、熱暴走をする脳は真っ白なまま快楽を貪っていく。
 クリッと勃起したクリトリスを、乳首を弄る。鋭角の刺激が真っ白な脳をざくざくと刻んでいった。

「ひぅっ・・・イッ・・・クゥッ・・・・っっっっっ!!」

 千々に刻まれた思考は大きな快楽の波に流されていく。
 その波が過ぎていった後、夕菜はぷっつりと糸が切れたようにブルブルと震わせていた体をベッドの上で脱力させた。
 はあと漏れた吐息は熱く、甘いものが混じっている。
 茫然とした頭のまま、夕菜は自分の体を見る。
 そして、はあ、と先程の吐息とは違うため息を吐いて、苦笑を浮かべた。

「やっ・・・ちゃっ・・・たぁ・・・・・私の・・・・・バカ」

 夕菜はチャラリと胸元のネックレスを見る。
 体温で暖められたネックレスが部屋の明かりを反射させて、光り輝く。
 そのネックレスに夕菜は大切な人の笑顔を思い浮かべて目を閉じた。

 
 


 

 

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