変わらない日常


 

 

第2話


「ねえねえ、健輔!」

 昼休み。一人わびしく食事を終えた僕は、それを見計らっていたかのように声を掛けられた。声の主はもちろん、美帆子の奴だ。

「ん?何だ?」

 美帆子は先日の留美の一件があっても、僕との接し方を変えはしなかった。それが好ましいのかどうか、よくは分からない。面倒がなくってありがたいとも思うし、逆に少しは妬いて欲しいなんて気持ちがないわけじゃない。今の僕は美帆子とはそんな接し方をしていた。

「実はね。ちょっと相談に乗ってもらいたいんだけど」

 少し、距離をおいたような話し方をする美帆子に、僕はらしさがないと感じていた。そんなにきわどい事についての相談なんだろうか。

「相談?何か悩み事でもあるのか?珍しいな」

「うーん、それが私じゃないのよ、相談があるのは。放課後、私んちにきてくれない?そこで紹介するから」

 えらく秘密主義なんだな。本当に誰にも聞かれたくないような内容のようだな。ちなみに、美帆子の家に行くというのは、幼馴染の僕にとっては全然おかしくはない話だ。最近はちょっと遠のいたとはいえ(美帆子の奴が意識しだしたって事らしい)、隣なのだからたまには行く事もある。醤油の貸し借り程度なら日常茶飯事なのだ。

「分かった。美帆子の方は部活はいいのか?」

「うん。今日はこの話もあるから休むよ。だから健輔もまっすぐにうちへきてちょうだいよ!」

「ふ〜ん。分かったよ。じゃあ4時にお前んちに行くからな」

「ありがと。じゃあ待ってるから」

 そう言うと、美帆子は自分の席に帰っていった。ふうむ。一体誰がどんな相談があると言うのだろう。恋の相談ってわけでもなさそうだ、第一、それだったら男の僕になんか相談しないに違いない。

 ――ま、あいつの家に行けば分かるか。僕はあまり深くは考えない事にした。



 放課後。僕は約束通り、まっすぐ家に帰り、手早く着替えた。隣で女同士が話している声が聞こえてくる。どうやら美帆子が帰ってきたようだ。話し相手が「相談相手」なのだろう。僕は軽く息を吐くと、部屋を後にした。

「いらっしゃい。さ、こっちにきて」

「ああ、おじゃまします」

 そう声を掛けたが返事はなかった。どうやら、美帆子ともう一人の二人しか家の中にはいないらしい。まあ、あまりこの時間帯に両親がいた事はないけどね。とにかく僕は、美帆子の部屋に案内された。

「さ、入って」

 部屋に入った僕は、既に座って待っている人物に目をやった。当然のように女子だったが、僕の知らない娘だ。制服はうちのものなので、うちの生徒なのだろう。ああ、そう言えばリボンが緑色だな。って事は一つ後輩になるのか。美帆子とはどういう関係なのだろうか、それと相談とは何なのだろう。

「えっと、この娘は加藤文香ちゃん。私と同じ演劇部で、一年生」

「始めまして、加藤文香です。よろしくお願いします」

「あ、ああ。こちらこそよろしく。至らない先輩だと思うけどよろしく頼むよ」

「こら〜!何が至らない先輩よ。これでも部では頼りがいがあるって言われてるんだからね、って、そんな話をしにきたんじゃないのよ。相談があるって言うのはこの娘なの。ちょっと聞いてやってくれる?」

 頼りがいがあると言うよりは世話好きなだけだろう、そう言いかけた言葉を僕は飲み込んだ。恐らくこの娘も無理やりに美帆子に引っ張ってこられたに違いない。まあ、行動力があるのは認めるけど、頼れるかどうかとは正直別問題だな。

「あ、ああ。聞くのは構わないけど、どうして僕なんかに?」

 腑に落ちないのはそこだった。見たところ、確かに陰の気を漂わせている少女ではあるけれど、ルックスは悪くないし、頭もよさそうだ。それが僕に何の悩みを打ち明けようと言うのだろう。

「まあ、質問は話を聞いてからにしてよ。さ、文香、話して」

「で、でも…」

「ダイジョウブよ。こいつは見た目からしてナンパっぽいけど、口は堅い奴だから。安心していいよ」

 う…僕ってそんなにナンパっぽいか?まあそれはともかく、僕は確かに秘密をベラベラとしゃべる方じゃないのは確かだ。学校とかでも話の輪に入っていくタイプではないし。それに僕自身が後ろめたい秘密を持っているって事もあるしね。

「せ、先輩がそう言うのなら…分かりました。実は…」

 文香はおずおずと話し始めた。気弱そうに見えた顔つきに真剣味が宿る。どうやら彼女の悩みと言うのは、結構底が深いようだ。

「藤原先輩は私を見てどう思いますか?」

「どうって…かわいいと思うよ。その髪形も似合ってるし」

 僕としては当り障りのない受け答えをしたつもりだったが、当の文香の方はどうしてだかショックを受けたようだった。――そうか、もしかするとアレか。僕は一つの結論に達したが、まずは本人の口から聞いてみようと思い、口には出さなかった。

「やっぱりそうなんですね…男の人から見ても、子供っぽく見られているんだ…」

 やっぱりそんな話か。女ってのは、若いうちは年上に見られたいと思いながら、年を取ると若く見られたいと言い出す。男としてはどう答えていいのか、いつも悩んでしまうのだ。

 僕は美帆子に顔を向けた。美帆子は既に話を聞いているようで、真剣な顔つきで僕の返事を待っている。

 ――美帆子のやつはどっちなのだろう。かわいいって言われるのがいいのか、美人だって言われるのがいいのか。僕の視線に気付いた美帆子が不審げな顔をした。おっと、今は文香ちゃんの方の話だったな。僕は慌てて美帆子から視線を逸らした。

「で、悩みって言うのはその話なのかい?もっと年上に見られたいと言う事なの?」

「は、はい。それもあるんですけど…実はそうじゃないんです」

「え?違うのか?じゃあ何なんだろう?」

「…先輩は、藤原先輩は私のここ、どう思います?」

 文香は自分の胸元を指差しながらそう言った。リボンの下にあるその部分は、あまり女性らしさを感じさせないと言うか、スレンダーと言うか…ハッキリと言ってしまうと小さかった。なるほど、一番の悩みはそこか。確かに胸が大きいと色気は出てくるかもしれないよな。

「確かに大きいとは言えないけど、文香ちゃんはまだ若いんだし、これからじゃないのかな」

「でも、でも。志田さんなんて85センチもあるし、相川さんだって…」

 僕の知らない名前が次々に出てくるが、美帆子の反応からすると、演劇部の部員か何かなのだろう。

「でもさあ、文香。そんなあなただから、舞台でも必ず出番があるんでしょ。志田さんなんて、先輩とキャラが被ってるから、出番がもらえないって言うのに」

「それはそうですけど、それとこれとは別じゃないですか。私が三年になった時には、そんなキャラで出られるかどうか…」

「まったく、この娘は贅沢言って。ねえ健輔、どう思う?」

「どうって言われてもね…女の子ってみんなそうじゃないのかな。少しでも美しく見られたいとか、よく見られたいと思うんじゃないの?」

「そ、そりゃそうかもしれないけどさ。でも、かわいいってのも一つの個性だと思うのよね。大人っぽいだけが魅力じゃないって思わない?」

「でも、私はやっぱり『かわいい』なんて言われるよりも、『きれいだ』って言われたいんです。でも、この胸じゃあ…みんな年下にしか見てくれないんです」

 なるほど。でも僕が思うに、胸だけじゃなくって顔も子供っぽいし、年齢よりも下に見られるのは仕方ないんじゃないかと思う。でもそれを口にしてしまったら話が進まない。

「まあ大体の話は分かったけど、僕に何をしろって言うんだ?当たり前だけど、僕には胸を大きくする事なんてできないぜ?」

「え?でも、先輩が藤原先輩なら悩みを解決してくれるかもしれないって…違うんですか?」

 僕は美帆子の方を見た。――なるほど、そう言う事か。だったらやってやろうじゃないか。僕流のやり方で、だけどな。

「まあ、僕には変わった力があるのは確かなんだよな。それを使えば君の悩みを和らげてあげる事は可能かも知れない」

「ホントですか!?だったらぜひお願いします!」

「…ま、わざわざ打ち明けてくれたんだから、やってみるよ」

「ありがとうございます!そ、それで何をするんですか?」

「それはね」

 答えようとした僕よりも先に、美帆子がしゃしゃり出てきた。まあ、こちらの手間が省けていいけどさ。

「健輔は『催眠術』が得意なんだよ。それで文香の悩みを解決しようってワケ」

「ええ?催眠術?そんなの本当にできるんですか?」

「これがすごいんだから。私も何度か見た事があるけど、できないと思っていた事ができるようになったり、その逆もあったりで。あなたの悩みなんて、一発で吹き飛ばしてくれるわよ」

「へえ、そうなんですか。でも何だか怖いな…そんな事したら自分が自分でなくなっちゃわないですか?」

「それは…」

 おいおい、ここで返答に詰まったら彼女が不安がるだろうが。僕は仕方なく美帆子に割って入った。

「それはないよ。催眠術って言っても動機付けみたいなもので、最初からその気のない人間をどうにかする事なんかできないし、嫌だって思っている事を無理にさせる事はできないんだ。ま、アドバイス程度のものだって思ってくれればいいよ」

「そ、そうなんですか?信じますよ、藤原先輩」

「任せておけって。悪いようにはしないから」

「はい、ではよろしくお願いします、先輩」

 文香は僕に深々と頭を下げた。僕も思わず頭を下げてしまう。

「よし、それじゃあ早速始めようか」

「はい」

「何だか久しぶりよね。私までドキドキしてきちゃった」

「外野は黙ってろ。じゃあ文香ちゃん、このシャーペンを見て」

 僕はテーブルの上に置いてあったシャーペンを手に取り、彼女に示した。もちろん、このシャーペンは彼女の目をひきつけるためのただの道具に過ぎない。真剣に悩みを解決しようと思っている文香は、シャーペンの芯を通して、僕の目をじっと見詰めた。

「さ、これからこの芯が1回出るごとに君の頭から考えている事が一つ一つ取り除かれていくよ。そして最後には何も考えられなくなるんだ。さあ、じっと見ててよ」

 カチカチと音がするごとに、シャーペンの芯が少しずつ飛び出してくる。それに比例するように、文香の目の力が弱まってくるのが分かる。あたかもシャーペンの芯に彼女の意識が吸い込まれていっているようだ。

(あれ?)

 と、後ろの美帆子を見ると、美帆子の目も焦点が合わなくなってきているじゃないか。おいおい、お前は関係ないだろうが。

 ――ああそうか。さっき「君」って言っちゃったんだ。それで僕以外の人間にかかっちゃったんだな。ちょっと馴れ馴れしいと思って遠慮して名前を呼ばなかったのがいけなかったんだな。ま、文香も堕ちたようだし、これからは文香と呼ばせてもらおうか。

 そんな事を考えている間にも僕の指は規則正しく芯を送り出していく。文香の意思は殆ど感じられないほどになっている。そしてついにスイッチを押す手応えがなくなる。どうやら芯は出きってしまったようだ。文香の(ついでに言うと美帆子もだけど)意思は完全に感じられなくなった。

 さりとて眠っているのとは違い、目は開いており、体も座ったままの状態を維持している。僕はそんな彼女に対してやんわりと話し掛けた。

「さあ、今、文香の意識は深くて温かいところにあって、とても気持ちがいいんだ。そうだろ?」

「…はい。とっても気持ち、いいです」

 ワンテンポ遅れてから返事が返ってくる。僕の声が文香のいる『深いところ』まで届いた証拠だ。

「よし、と、その前に…美帆子。お前はしばらく眠っていてもらおうか。後ろのソファにでも横になって寝るといいよ」

「うん…」

 虚ろな目をしたまま、美帆子はソファに横になり、あっという間に目を閉じてしまった。ま、これであまり気を遣う必要もなくなった。遠慮なく文香を操作する事ができる。

「じゃあ文香。君は胸が小さい事にコンプレックスを抱いているようだけど、どうしてなのかな?本当の理由を聞かせてくれないか?」

「……」

 文香の口は動かない。彼女の方で何かガードがかかっているようだ。まあ、何の暗示も施していない状態だから、それも当然かな。よし、じゃあしゃべりやすいようにしてあげようか。

「文香。僕の言葉に対して、何も考える必要なんかない。僕は口が堅いんだからね。何をしゃべっても他の人に知られる事はないんだ。それに、話してくれないと、悩みを解決する事なんてできないよ。だから、正直に答えてくれよ」

「…分かりました。藤原先輩の質問には何でも正直に答えます」

「よし、じゃあもう1回聞くけど、どうして胸が小さいのが嫌なんだい?」

「こんな胸じゃあ、あまり露出度の高い服は着れないし、特に水着なんて恥ずかしくて着れないですよ。それに、彼氏ができた時に、嫌われるんじゃないかと思って…」

 なるほどね。一般的には胸はないよりもあった方がいいのだろうけど。でも巨乳よりはいいって奴も多いと思うぞ、実際。

「ふむ。ところで参考のために聞いておくけど、バストのサイズはどれくらいなのかな?」

「ええっと…Aの65…」

「なるほど。確かに大きいとは言えないなあ。ちょっと痩せすぎじゃないのかな。もうちょっと全体に肉をつけたほうがいいのかも」

「そんなの…アンダーが大きくなるだけで、カップは大きくなりませんよ。太ったらもっと胸の小ささが目立っちゃうじゃないですか」

 いっちょ前に口答えしてくる。術に掛かっているから、先輩後輩と言う頭がやや薄れているのかも知れないな。まあ僕は体育会系でもないし、礼儀がどうとか言うつもりはさらさらないけどな。

「ところで文香、さっき彼氏ができたら恥ずかしくて見せられないってな事を言ってたけど、今までに彼氏ができた事はあるのかい?」

「は、はい。あります。二人ほど」

「ほほう。で?二人には体は見せられたのかい?」

「い、いえいえ、とんでもないですよ!最初の彼氏の頃はまだみんなと変わらない頃だったから、水着程度は見せられましたけど、二人目は最近まで付き合ってましたし、さすがに恥ずかしくて…」

 なるほど。自分の胸が小さい事自体が問題なのではなく、周りと比較しての相対的な悩みのようだな。胸を大きくする事なんてできるはずないけど、それならやりようがある。

「じゃあ文香。念のために聞くけど、君は胸が小さいのが悩みなんだったね?」

「は、はい。毎日鏡を見ると情けない気分になってしまいます」

「どうしてなのかな?胸が小さい事がそんなに問題になるとは思えないけど」

「え?」

「だってそうじゃないか。女の子はみんな脂肪を落とそうと常に躍起になっているじゃないか。それなのに、どうして胸に脂肪をつける必要があるんだい?矛盾していると思わないか?」

「え…え…え?」

 今の彼女は僕の言葉が素直に心の中に浸透しやすくなっている。僕の言葉自体にもある程度の論理性が含まれているから、なおさら彼女には受け入れられやすくなっているに違いない。しかし、彼女の価値観を根底から覆すにはまだまだ足りないはずだ。

「脂肪は女性の敵だ。そうだろ?だったら、そんなものを欲しがっちゃいけない。君はむしろ、胸に脂肪が集まらない事を親に感謝するべきだよ」

「そうなの…かな」

「そうさ。胸だけで体重が1キロは違うと思うよ。それだけじゃない。君はさっき服の事を言っていたけど、胸が大きい娘は服の選択肢は全然ないんだぜ。小さいなら小さいでパットを入れるなりして調整できるけど、大きいのは誤魔化しようがない。こと胸に関しては『大は小を兼ねる』なんて事は言えなくて、むしろ『小は大を兼ねる』んだ。――どうだい?胸が大きい奴がかわいそうに思えてきただろ?」

「え…そ、そう言われてみれば…」

 かなり効果が出てきたようだ。後一押しと言ったところかな。よし、ダメを押しておくか。

「いいかい。胸の小ささは健康の証。若さの証なんだ。周りの人は悔しいから口にしないけど、本当は君に嫉妬の目を向けているんだぜ。君のその理想的なカラダにさ」

「で、でも…男の人は大きな胸の娘が好きなんじゃないんですか?グラビアアイドルなんか、みんな胸が大きいような…」

「あんなのは一部のマニアのためにあるだけじゃないか。君だって写真集なんかを集めている奴とは付き合いたくないだろ?胸が大きい女が珍しいって言うだけさ。結局、そいつらも彼女にするのは胸の小さな娘さ」

「そ、そうなんですか」

「そ。どうだい。自分の体に自信が出てきたんじゃないか?」

「は、はい。何だかとっても安心できました。もう大丈夫そうです」

「ふむ。じゃあ今から君を眠りから覚ますけど、これまで僕に教えられた事はきれいさっぱり頭の中から消えてしまう。だけど、君自身の価値観は今と同じものだ。いいね?」

「はい。私は胸の小さい事が自慢です」

 ふむ。これでよしと。しかし何か味付けが足りないような気もするな。時間はまだあるし、もう一つエッセンスを付け加えておくか。

「よし、それじゃあ目を覚ます前に――」



「おい、美帆子、起きろよ!」

「う、うーん…あ、あれ?私いつの間に寝てたの?」

「まったく、お前まで真剣に見やがって。一緒に術に掛かる奴があるか」

「あはは、ゴメン。で、もう終わったの?」

「ああ。もう彼女はその点に関しては悩みを抱いてはいないぜ。な?」

「は、はい。ご心配をおかけしましたが、私はもう大丈夫です。藤原先輩と話して、何だかとっても自分に自信がもてるようになりました」

 さっきまでとは打って変わって、ハキハキと美帆子に話し掛けている文香。彼女の周りをもやもやと渦巻いていたものが、すっかりと取り払われたように見える。うんうん。どう見ても解決しているように見える。美帆子の奴もすっかりそう思ってくれたようだ。

「えっと、も、もうこんな時間だし、私は帰りますね」

「え、ええ。そうね。それじゃあ、さよなら」

「は、はい。それではお二人とも、今日はありがとうございました」

 一通り挨拶をすると、文香はいそいそと退散していく。何か妙に慌ただしいが、僕はその理由を知っているのでむしろ微笑ましくさえ感じる。

「何だったのかな。えらく慌てて帰ったみたいだけど。――あ、もしかして私たちに気を遣ったとか?」

 おいおい。違うっちゅうねん。実は僕が最後に彼女に掛けた暗示に原因があるのだ。帰ったらすぐに鏡の前で汗で汚れたブラジャーの匂いを嗅ぎながらオナニーする、と言う性癖を植え付けたのだ。ただのヘンタイかと言われるかも知れないが、僕としては文香に自分自身への胸への愛着を高めてもらうと言う崇高な目的があるのだ。これで彼女は自分の胸の事が好きで好きでたまらなくなるだろう。

「さあてね。ま、あの娘の悩みも解消できたようだし、OKじゃないか?」

「うん。ありがと、健輔。これであの娘も演劇に打ち込めると思うわ」

「ああ、それじゃあおれは帰るよ」

 立ち上がろうとした僕を美帆子が手を出して制した。

「ん?何だよ」

「せっかくうちにきたんだし、晩御飯を一緒にと思って。いいでしょ?」

「ん?ああ。そりゃいいけど…」

 気のない返事をした僕だったが、心の中では弾むものがあった。この家は両親が帰ってくるのが遅いので、美帆子が料理の腕を奮う事が多いのだ。メニューの偏りはあれども、これがなかなかいける味なのだ。何よりも年頃の女子高生が作る料理が食えるのだから。よくよく考えたら贅沢な話だ。

「うん。じゃあ待っててね。着替えてすぐに用意するから」



 美帆子に聞いた話では、文香は妙に自信を持ち始めて、少し手を持て余すほどらしい。妙な色気も出てきたと言う事だが、男でもできたのだろう。あるいは、連夜の自慰行為の副作用なのかもしれない。

 文香は学校を離れると、周りが恥ずかしく思うほどに胸を強調したような服装をしているようだ。周りに冷やかされながらも、彼女の自信は少しも揺らがないだろう。彼女の一番の自慢がその貧乳なのだから。これからバストが大きくなったとしたら、嘆き悲しんでダイエットに精を出すに違いない。

 文香の悩みを解決してやった事で、美帆子の中での僕の評価はまた上がったようだ。それが僕への好意へと進展しないように祈りつつも、そうなった場合を楽しみにしている自分がいると言うのは複雑な気分だ。何となくこのままなし崩しで美帆子と、ってのも悪くないなって思わないでもない。でも、今はもっと楽しませてもらわなくっちゃ。

 
 


 

 

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