何気ない日常が


 

 

第三話「変えられたのは誰のせいなのか」


「それで、具体的にどういうことをするんだ?」

 二人で服を着替え終わって掃除もした後、俺は屶に尋ねてみた。

「あ、そっか。そうだよね。これからは薄も人事じゃなくなるもんね」
(だって私の能力分けちゃったし)

 ……あれ?今なんか別の声が聞こえたような。
 別の声というか、屶が同じときに別のことを言ってるというか。……駄目だ、形容できる言葉が見つからない。

「さて、と。それじゃぁ軽く説明始めるね」
 そんな俺の苦悩を他所に、屶が説明を始めた。



「えっとね、ハーレムを作るための講座!」

 なぜか俺は学校にあるような木造のいすに座らされてる。で、屶は眼鏡(だて)をかけて教師気取りである。

「重要なのは、操る女の情報はちゃんと覚えること。これは基本中の基本よ。相手が何が好きで何が嫌いか、性格はどうか、癖、男に関して、etc。
 これが分からないと操りようが無いから、この情報はちゃんと得ること。……どうやってえるかは分かるよね?」

 俺はコクンと頷く。大方、記憶を読み取ればいいのだろう。

「ん、その通り。今みたいにね」

 そういって屶のウインク。
 ……やばい、グラッと来る。結論、俺は屶のウインクに弱い。……だからなんだ、って言われても困るけど。

「で、得た情報を元にどういう風に堕としていくかを決める。ここが重要よ。
 あなたの場合まだそんなに上手く力を使えるわけじゃないから、男嫌いの女を無理やり男好きにさせる、なんて芸当はまだ出来ないわ。だから、まずは抵抗が少ないところをじわじわと責めていくのよ」

「ふんふん。つまり、難しいのよりも簡単なほうってことか?」
「まぁ、ぶっちゃけるとそうだけどね。何事もまずは簡単なものからはじめることがコツなのよ」

 なるほど。……そう考えるとわくわくしてきた。
 俺はまるで新しいおもちゃと手に入れた子供のような、そんな気分になってきた。
 と、まてよ……?

「薄、どうしたの?なんだか難しい顔しちゃって」
「……いや、なんでもない」

 なんでもない、といってみたが、実はひとつだけ気になることがある。まぁ、それは屶の話が終わってからでいいか。

「ん。わかった。じゃあ私は私で話を続けるわよ」
「おう。頼む」

 任せてよ。と言った後、屶は続きを話し始めた。

「因みに能力の使いすぎに注意して。じつは、この能力を使い続けると限界が来てしまうのよ。相手にも、自分にも。
 具体的に言うと、自分の頭が痛くなったら黄色信号。んで、それでもさらに使い続けて、目がバチバチしたら赤信号。すぐにやめないと、取り返しのつかないことになるわよ」

 ごくり、と唾を飲み込む。屶は回りくどく言ってるけど。それってつまり……。
 俺は其処で考えるのをやめる。つまりはそうならないように気をつけろってことだな。


「そ。そういうことよ。自分の限界は分かったわね?次は相手の限界について話すわよ。

 相手の限界。これは、一人の相手に連続して何度も、記憶や感情の変化を使い続けると、その人の脳が書き換えた内容についていけなくなって、破裂してしまうのよ。
 これも具体的に言うと、相手に何もしてないのに、勝手に涎や鼻水が出てくるようになったら黄色信号。それでも使い続けて、相手が激しく痙攣し始めたら赤信号。それでも使い続けた場合……どうなるかわかるわね?」

 俺は黙ってうなずいた。どうやらこの能力ってのは、引き際をわきまえないと大変なことになるらしい。いや、なんでもそうだが。



 さて、ここで話はひと段落のようだ。其処で俺は前々から気になってたことを屶に質問してみた。

「お前の能力は分かったけど、何でその注意点などを俺に話すんだ?」

 何故そのことを俺に話すのか、その必要性が良く分からない。屶の能力なら、屶が気をつければいいと思うのだが……。
 それとも何か?俺もその能力が使えるとか?

 そんな俺の考えを知ってか知らずか――多分知ってるのだろうが――屶はこっちを見て。

「簡単なことよ。薄も能力を使えるようになったからよ」

 と、なんでもないことを話すようにさらっと言ってきた。




「は?」
「だから、薄も能力が使えるようになったって事よ」

 屶は自分でかけた眼鏡をカチャリと上げて言った。

「使えるように……なった?」
「そ。……さっき、薄と私まぐわったでしょ?」
「まぐわうって……。まぁ、やりましたけど?」
「実はね、その時にね、私の能力を、貴方に上げちゃったのよ」
「ふんふん。屶の能力をね。……なんで?」

 まぐわうと能力を授かるって、どんな理屈だよ?と、心の中で自問してみる。

「私だって知らないわよ。まぁ、なっちゃったものは仕方ないじゃん」

 と、屶。仕方ないじゃんって……。何か、やりきれないものを感じるんだけど。
 まぁ仕方ないか。これが屶なんだって思えば。

「ん、素直でよろしい」

 いいこいいこ……とでも言うかのように、俺の頭をなでなでする屶。いい加減自分(と俺)の年齢を自負してほしい。
 と、そこで屶は眼鏡をはずして、トコトコと玄関に向けて足を進めていった。

「ちょ、屶、どこ行くんだよ」

 急に家から出ようとする屶を急に呼び止める。
 呼び止めると、屶がこちらをくるりと向いて。

「決まってるでしょう?手ごろな女性を一人連れ込んでくるのよ」
「……何のために?」
「もう、そんなのも分からないの?」

 ふぅ……と大げさにため息ついて屶は又してもとんでもない事を平気で言い出した。




「実験台にするに決まってるじゃない」

 
 
< 続く >


 

 

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