誤認逮捕


 

 



◆第一章.それは運命的な出会いでした。



 コーヒーチェーン店、カフェパウ駐車場。
 カーティス・グリーンは持ち前のツイストパーマを掻きながら、フレンチローストコーヒーが注がれたタンブラーに口をつける。
 寝覚めの悪いあたまにガツンと響きわたる苦味。もやが晴れるように惚けた意識が晴れてきた。
 彼はそのまま視線を下げ、自分が所有するユーコンデナリのフロントグリルに注目する。
「……あのう……よかったら助けてくれませんか……?」
「ぶほぁっ!」
 こらえ切れず、カーティスはコーヒーを吹きだした。
「ひどくないですか?」
「悪い。あまりにシュールだったから」
 咳こみながら、フロントグリルの隙間に引っかかった”彼女”を観察する。
 手のひらサイズに収まる肢体。背中に生えたモルフォ蝶のような青い羽。青いボブカットが少女のようなあどけない顔立ちを縁取り、つぶらな瞳には溢れんばかりの涙を溜めている。彼女の容姿は、例えるならそう、妖精だった。
「すげえ。やっぱり世界は広いんだな」
「感心する前に助けてもらえると嬉しいです」
「ああ。ごめんごめん」
 カーティスは彼女をつまみ上げる。
 彼女はぐったりしながらもカーティスに一礼した。
「ありがとうございます。おかげで命を救われました」
「そんなことよりも」
 カーティスはチタン製のサングラスを取り去り、つるをVネックシャツに引っかけた。
 彼はグリーンの目を凝らしながら、まじまじと彼女のことを見据える。
「君は何者なんだ」
「よくぞ聞いてくれました」
 彼女は胸を張った。
「わたしは洗脳を司る女神です」
「そうか」
 カーティスは端的に言った。
「おどろいた」
 この反応には彼女のほうがたまげたようだった。
「どうした。おれの反応が薄いのが気になる?」
「それもありますけど。風の噂で、あなたは慇懃無礼、失礼千万な態度で他人に接すると聞いたので」
「面と向かって言われるとは思わなかった」
 カーティスは苦笑する。
「ごめんなさい。怒っちゃいました?」
「かなり怒った――いや冗談だ。土下座するほど謝らなくてもいい」
「ホントですか。よかったあ」
 彼女はアスファルトに擦りつけて薄汚れた顔に、大輪の笑顔を咲かせた。
 カーティスはしゃがみこんで彼女に視線をあわせる。
「それより通りすがりの人間がおれたちを訝しんでいる。車のなかで話さない?」
「安心してください。わたしは限られた人間の視界にしか映らないんですよ」
「すると独り言をつぶやく危ない人間か。おれは」
「言われてみればそうですね」
 どおりで道行く人の視線が冷たいわけだ。
 カーティスはユーコンデナリの鍵をかざす。キーレス機能によって解錠される鍵。彼はサイドドアを開けて運転席に乗りこんだ。
 自分に続いて彼女が乗車したことを確認すると、キーシリンダーに鍵を挿し、ブレーキペダルを踏みながらエンジンを始動させる。
「車を動かすんですか?」
「実は用事があってさ。構わないかな」
「いいですよ。行きましょう」
「了解!」
 セレクトレバーをドライブに入れたカーティスは、ハンドブレーキを解除したあとアクセルペダルを踏みこんだ。
 カフェパウの駐車場から飛びだしたSUVは、猛スピードで国道に侵入する。
「ええ!? 意外と荒っぽい運転じゃないですか。警察に捕まっちゃいますよ」
 助手席にちょこんと座った彼女は、青い顔をしながら、目まぐるしく流れていく景色を追う。
「事故は起こさないから。それよりお互いの名前も知らなかったな。君の名前は?」
「名前はないんですけど。みんなからはおしゃべり好きな小悪魔って呼ばれてます。というか安全運転!」
「おれの名前はもう知っているかもしれないが。カーティス・グリーン。ハイチ系アメリカ人だ」
 カーティスは自身の褐色の肌を指しながら名乗った。
「それにしても。変なニックネームだね」
「ふう。なら好きなニックネームをつけてください」
 今もって顔色は優れないものの、若干落ち着いてきたのか、彼女は明瞭な声で話しかけてきた。
「好きな名前か。ジェーン・ドウは? 安直だけど」
「ぜんぜんOKですよ。ジェーンか。素敵な名前ですね」
 カーティスがちらりと見ると、ジェーンはこちらに微笑みかけてきた。
「さてと。自己紹介も済んだことだし。どちらから質問をはじめる? 君はおれの反応を気にしていたけど」
「ああ、それなら見当がついてます。自分にもデタラメな右腕が備わってるからですよね」
「さすが洗脳の女神」
 やはりこの右腕と関係しているらしい。
 カーティスは右手でハンドルを握りながら、反対の手でレザージャケットの袖をまくりあげる。
「白人から移植された右腕だ」
 そこには肩から付け根のあたりまでが浅黒く、そこから先は抜けるように白い、総じて異様な右腕があった。
「当然この右腕の知識はあるんだろ」
「もちろん、ありますよ」
「ひとつ質問がある。そもそも洗脳の女神っていうのはどういう存在なんだ?」
「あちゃあ、そこを突いてきちゃいますか」
「洗脳を司る女神、洗脳を信仰する宗教なんて聞いたことない、悪魔教崇拝はべつにして、つまり君は女神の名を騙った悪魔なのか?」
 ジェーンは困ったように頬を掻いた。
「ノーコメントで」
 思いがけない返答だった。
「だったら質問を変えよっか。いますぐ自分が洗脳の女神だと証明できる?」
 カーティスはハンドルを右に切りながら、次に返ってくる言葉を予想した。きっと”不可能”だって答えるはず。
 しかしジェーンは微笑みをたたえながら、
「証明ですか。朝飯前ですよ」
 こうもあっさり返されるとは思わなかった。真偽を見極めてみよう。
「証明してくれ」
「ええっと。一口に証明すると言っても様々な方法があるんですが。他者を洗脳する力を得た人間の、あやつり方によるカテゴライズはどうです?」
「面白そうだな。聞かせてくれ」
「たとえば認識を歪める誤認暗示を好む人間は、いまの環境に不満を抱き、その現実を変形したい人間が多いです」
 カーティスはかつての自分を思い浮かべた。いくつか思い当たる節がある。
「続けて」
「はい。恋愛感情を植えつける場合は、クレランボー症候群か、相手をみずからの所有物と見なしている場合が多いですね。完全支配を好む人間は、相手の人格を貶めて隷属させることに興奮を覚える性的倒錯者です。ちなみにあなたはゾディアックキラーのような雑食系でしょうか。ターゲットのタイプをたびたび変えています。年齢、容姿、人種まで。どちらかといえば教養のある中産階級の女性が好みなのかな? こんな感じです」
 すらすらと洗脳に関わる人間のタイプを講釈されたカーティスは、気圧されて押し黙ってしまう。
 カーティスはたっぷり数分置いてから口を開いた。
「洗脳の女神がおれに何の用?」
 カーティスは彼女の話を信じることにした。
「用っていうか。あなたを助け――ぎゃんっ!?」
 いきなり急ブレーキをかけたから。ジェーンはダッシュボードに激突してしまった。
「痛いですぅ」
「大丈夫か」
 ジェーンのことを気遣いながらも、カーティスは窓ごしに向かいのガススタンドを見つめる。
 ガススタンドに停車しているのは警視庁のポリスカー。カーティスが仕入れた情報どおり、二人の婦警が車内にいてガソリンの給油を受けていた。
「ここだったんですか、目的地は。あれ? でもここに来るまで何回かスタンドを通りすぎたような」
「このガススタンドは警察の取引指定業者なんだ。あそこにいるのは若い婦警。おれは彼女たちに会いにきた」
「つまり?」
 カーティスは”愚問だろ”と言いたげな表情を浮かべる。
 ジェーンは手のひらをポンと叩いた。
「そっか。やることは一つしかないですよね」
「そう。やることは一つしかない」
 カーティスはドリンクホルダーからタンブラーを取ると、足りないカフェインを補給しながら、和気あいあいと会話する婦警たちに視線を送った。


◆第二章.彼は意外とおっちょこちょいでした。



 カーティスはハンドルを切り、ショッピングモールの駐車場に愛車を侵入させる。
 この駐車場はスタンドのはす向かいに位置していて、彼女たちを観察するのにぴったりの場所だった。
 しばらく駐車場を走り回っていたカーティスは、絶好のビューポイントにユーコンデナリを停める。
「良い場所だ」
 ここならスタンドの風景がよく見える。
 彼はコーヒーを飲みながら、ゾッとするような冷たい視線をスタンドに送る。
「給油が終わったみたいですよ」
 言われるまでもなく、カーティスはガソリン代を支払う婦警のすがたを確認していた。
「行っちゃいますよ。どうやって接触する気ですか」
「大丈夫。彼女たちを釣るための餌は用意してきたから」
「餌?」
「まあ見てなって」
 カーティスはコーヒーを飲み終えると、握りつぶしたタンブラーを後部座席に放り投げる。
 そしてセンターコンソールの赤いスイッチに手をかける。
「一〇秒後をお楽しみに」
 カーティスはスイッチを押した。すると電気信号が車内を駆けめぐり、やがてフロントグリルに積まれた四角い装置に到達する。
 ジェーンは目を丸くした。
 フロントガラスの向こう側から、真っ白いスモークが立ちこめてきたのだ。
「何ですか、これ!」
「スモークディスチャージャー」
「どうしてそんなものが車に!」
「おびき寄せるための餌だよ。しかし煙たいな」
「サイドウインドウを閉じて使わないからですよ。馬鹿じゃないんですか」
 カーティスは噴射装置のスイッチを切り、団扇のように手のひらをあおいで車内の換気をする。
 だけど一向に換気されない。二人はあまりの煙たさにむせはじめる。しまいには涙目になってきた。
「やべっ、こいつには催涙効果もあるんだった」
 ジェーンは簡潔に今の気持ちを表す。
「アホ!」
 ――次第にスモークが晴れてきた。
 スモークが完全に晴れると、二人の婦警が車内をのぞきこんできた。結果オーライ。胸を撫でおろすカーティス。
 まずウェーブのかかったセミロングの婦警が、カーティスに話しかけてくる。
「いったい何があったんですか」
 年齢は三〇代前半ぐらい。都会の女っぽい洗練された雰囲気をまとっている。
「砂原さん。フロントグリルからスモークが噴射されていたようだけど。見つけた?」
「フロントグリルの奥に噴射装置を見つけました」
 砂原と呼ばれた二〇歳前後の婦警は、セミロングの婦警に自信の欠けた口調で答えた。
 こちらはたれ目で大人しそうな顔立ち。栗色の髪はハーフアップにまとめられている。制服が真新しいから配属されたばかりの新米警官かもしれない。
「砂原さん。こっちはもういいから。パトカーから書類を取ってきて」
「わかりました。御手洗主任」
 砂原婦警は指示に従ってパトカーのほうに駆けた。
「とりあえず事情を説明してください。わたしの日本語、わかりますよね」
 御手洗主任と呼ばれたセミロングの婦警は、柔らかい口調でカーティスに言った。
 物腰こそ丁寧だが意思は強そうだ。カーティスへの対応にも余裕が感じられる。
「実はスモークディスチャージャーが誤作動を」
「スモークディスチャージャー?」
 御手洗主任は車内をのぞきこみながら、胡散臭そうにカーティスを見る。どうやら助手席にちょこんと座り、こちらのやりとりを不安げに見守っているジェーンは見えないらしい。限られた人間の視界にしか映らないという本人の弁は正しかったようだ。
「返事をしないで黙って聞いてください。わたしの声は彼女に聞こえないですから」
 ジェーンが話しかけてきた。
 カーティスは返事のかわりにハンドルをコツコツと叩く。
「大丈夫ですか? ペースを乱されてますけど」
「それについては反省中」
 カーティスは婦警に聞こえないように小声を使う。
「とりあえず免許を見せてくれますか」
 婦警の問いに答えるカーティス。
「わかった。たしかダッシュボードの中に」
 カーティスは助手席側のダッシュボードに手をのばしつつ、ジェーンに声をかける。
「彼女の気を惹くことはできるか?」
「それこそ朝飯前です」
「よし。おれが”間違えた”と言ったら気を惹いてくれ」
「おまかせください」
「あったあった」
 カーティスはダッシュボードからカードを取りだし、御手洗主任に見せた。
「免許証? ポイントカードですよね、これ」
「あっ、間違えた」
 合図した瞬間、助手席からポンという軽い音が。
「えっ!?」
 相手が怯んだ隙を見逃さず、彼女のひたいに手を触れる。
 カーティスが他人を洗脳するプロセスには、自分の右腕を相手の素肌に触れさせることが絶対条件。
 果たしてカーティスの狙いどおり、御手洗主任の瞳から意思の輝きが消えていく。
「助かったよ、ジェーン。でもどうやって彼女の気を惹いたんだ」
 カーティスは手の甲で汗をぬぐいながら、助手席のジェーンに目を向ける。
「はあ?」
 素っとん狂な声を上げたカーティスに、助手席に座った少女は笑みを返した。
 見た目は中学生ぐらい。背中に羽はなかったが、顔立ちはジェーンそっくり。加えて彼女はシミひとつない肢体を涼しい顔でさらけ出している。
「ジェーンなのか?」
「ええ。わたし、人間に化けられるんです。常人の目に触れるようになるオマケ付きで。驚きました?」
「驚いただろうな、彼女は」
 御手洗主任を指さすカーティス。
 まだ彼女の瞳に意思があった時、何か理解しがたいものを目にしたかのようだった。
 無理もない。さぞかし驚いただろう。
 カーティスはため息をつけた。
 とにかく成功だ。あとはもう一人の後輩を堕とせば。
「ジェーン。とりあえず元に戻ってくれ。おれは彼女に暗示を仕込んでおくから」
 そう言ってカーティスは御手洗主任を前に、手際よく暗示を入れていった。
「御手洗主任。これから無線で後輩を呼んでくれ。それから一〇秒後にスッキリと目を覚ますんだ。でもさっきの暗示は心の奥底に刻まれて消えない」
「はい。わかりました……」
 彼女は抑揚のない声で返事をすると、肩の無線機に手をのばした。


◆第三章.わたしは身体を透明にして見ていました。



「事情を聞きたいので。パトカーに乗っていただけますか」
 車から降りたカーティスは、御手洗主任と向かい合った。
「任意? 強制?」
「もちろん任意です」
「悪かったよ。そんなにツンツンしないで」
 彼女のけんもほろろな態度に萎縮する。
 どうやら彼女の意識は完璧に覚醒したようだ。勤務中に意識が飛んだことを訝しんでいたが、まさか自分の心が弄られたなんて夢にも思わないだろう。
「お待たせしました、御手洗主任」
 しばらくすると砂原婦警の声が聞こえてきた。
「あの、書類を持ってきたんですけど。車種とかナンバーの記録はどうしたら」
「それは後でいいから。まずは目の前にいる困った人の聴取を取っておきましょう」
「困った人か」
 苦笑するカーティス。
 彼はSUVのドアを閉めると、砂原婦警に連れられ、近くのパトカーまで案内される。
 御手洗主任がまっ先に運転席へ乗りこみ、次いでカーティスが後部座席、最後に砂原婦警が助手席へと乗りこんだ。
「免許証を見せてください」
 砂原婦警はカーティスから免許証を預かると、ボードのクリップにそれを差し入れる。
「ではまず職業から」
「その前に一つだけ」
 御手洗主任が口を開いた刹那、手のひらをかかげて”待った”をかける。
「どこでもいい。今すぐ人目のつかない場所まで車を移動させるんだ。ここじゃ少々目立つから」
 カーティスは車外の野次馬たちに視線を送る。
「はあ? 寝ぼけてるんですか」
「野次馬がいると緊張して上手く喋れないんだ。それに市民の希望を叶えるのが警察官の義務だろ」
「いったい何の話をして――痛ぅっ!」
 彼女は唐突に襲ってきた頭痛に思考を掻き乱され、咄嗟にこめかみを押さえる。
「どうしたんですか。主任」
「いえ、大丈夫。そうよね。市民の希望を叶えるのが警察官の義務よね」
 彼女はパトカーを急発進させる。
「主任!?」
 上司の奇行に虚を突かれた砂原婦警。絶好のチャンスと見るや、カーティスは彼女の顔面を手で覆う。
「安心するんだ。ほら、おれの言葉に身を任せて。君の心はスッと落ちつく」
「あっ……」
 砂原婦警は魂が抜けたように茫然となる。
 カーティスは砂原婦警が開眼失神したことを確認すると、彼女の手からボードとボールペンを奪う。
「わたしの部下に何を!」
 行動を諌められたカーティスは、ルームミラー越しに御手洗主任へ視線を送った。
「運転する時は余計な情報をシャットアウトしないと。警察官の矜持に反するんじゃないか」
 こう言われると、
「そんな言葉で煙に巻こうとしても」
 暗示が発動するはず。
「巻こうとしても。いえ。そうでしたね」
 彼の目論見通り、主任は車の運転に全神経を集中させる。
「さてと、砂原さん。だっけ? 今から起きることはすべて君の勤務査定だ。おれは直属の上司。だから何が起きても疑問に思わないし、抵抗しようとも思わない」
「はい……」
「じゃあおれが手を叩いたら覚醒して。三、二、一。はい」
 彼が手を叩いた瞬間、砂原婦警の瞳に魂が戻った。
「あれ?」
 きょとんとする砂原婦警の眼前に右手をかかげた。
「起きたね。砂原さん。今から君の勤務査定をするから」
 カーティスは砂原婦警に後部座席へ座るよう命じる。
 その言葉に従ってカーティスのもとに現われた砂原婦警は、初めてカーティスと顔を突きあわせた。
「えっと。はい。でもあれ? あなたの名前が」
 彼女はあたまを抱えこんでしまう。
「やばっ!」
 カーティスは急いで言葉を付け足す。
「おいおい。上司の名前を忘れたのか。おれの名前はカーティスだろ」
「ごめんなさい! 上司の名前を度忘れするなんて」
 砂原婦警は本当に申し訳なさそうに顔を伏せる。
「そんなに気に病まなくてもいいから。じゃあ。そろそろ査定を始めようか」
「あの、査定といっても、どんなことをするんですか」
「大したことじゃないよ。君の豊かなバストから安産型のヒップにいたるまで。身体の隅々を評価するだけだから」
「そんな。だけど」
「上司の命令には絶対服従なのが君たち警察官の掟だろ」
「……ああ……はい……わかりました……」
 婦警は栗色の髪を揺らしながら小さくうなずく。
 カーティスは自分の膝へ座るよう彼女に命じると、制服の上から柔らかそうなおっぱいに指を沈める。
「大きなおっぱいだね。これは良い査定ができそうだ。ちなみにおっぱいの詳細なデータを教えてくれない?」
「詳細なデータって」
「サイズ、感度、特徴、コンプレックス。その他いろいろ」
「バストはFカップです。感度はいまいちだけど。乳首が敏感なのと乳輪が大きいのがコンプレックスです」
 彼女は卑猥な告白をしながら、両胸を揉みしだかれる感触に身をよじらせた。羞恥心のためか。熟したトマトのように真っ赤な顔をしている。
「このFカップおっぱいを使って色んな男たちを虜に?」
「わたし自身は嫌いです。胸なんて重たいだけだから」
「巨乳の人は巨乳の人で大変なんだ」
 カーティスは虚空を眺めながらうそぶいた。そのくせ胸を揉む手が止まる気配はない。
「今度は口許の評価だ。キスぐらい知ってるよね」
「はい」
「最初は君のやり方でキスするんだ」
「……はい」
 砂原婦警は気恥かしそうに顔をそらし、意を決したようにカーティスへ顔を向けた。
「失礼します」
 彼女はゆっくりとキスを仕掛ける。
 ディープキスとは程遠い柔らかなキスだったが、それがかえって瑞々しい感覚をカーティスにもたらした。
「十代のキスっぽい」
 苦笑しながらも、カーティスは彼女の顎に片手を添え、ソフトなキスを与える。
「キスはもういい。次は下の口の具合を評価しよう」
 彼女の警戒心がゆるんだ瞬間を見計らい、カーティスはキスを止めた。
「ショーツをおろして。相手を焦らすようにしながら」
 彼女はスカートの中に両手を差しいれると、少女のような恥じらいと熟練の娼婦のような色気を織り交ぜながら、ゆるやかにショーツをおろす。
 彼は相手のスカートをめくると、外気にさらされた秘唇を穴が開くほど観察した。
 色素沈着の薄い大陰唇。だらしなく垂れた小陰唇。女性器の周りに慎ましく生えた陰毛。やや内股気味の彼女のクレバスはぴったり閉じている。
「少し下腋臭がするけど。とても綺麗なマ○コだね」
「ああ、言わないでください」
 砂原婦警は今にも消え入りそうな、か細い声をあげた。
「恥じることないよ。君のマ○コは匂い立つようなフェロモンを発してるんだから。ほら、開脚してみな」
 カーティスは砂原婦警の股を広げさせ、女性器がよく見えるようにする。
「濡れてないから指を入れにくいな。ちょっとこの人差し指を濡らして。フェラチオの要領で」
 婦警の口に人差し指を寄せ、命令する。
 彼女はカーティスの人差し指を捧げ持つと、舌をのばしておずおずと舐めはじめた。
 十分に指が濡れたことを確認したカーティスは、奉仕を止めさせると、彼女の唾液でコーティングした指を膣口に挿入する。
「清楚な見かけのわりに生意気なマ○コを持ってるな」
 彼女の肉壁は人差し指をきゅうきゅう締めつけた。
「この淫らな穴で何人の男を咥えこんできたんだ?」
「ひ、一人です」
「そいつはもったいないな。こんなに具合がいいのに」
 感じてきたのか。それとも異物に反応したのか。彼女の蜜壺から愛液が分泌されてきた。
 カーティスは彼女の蜜壺から指を引きぬき、今度は、まだ男を知らないアヌスへ指を突きいれようとする。
「人目のつかない場所だけど。ここならどう?」
 御手洗主任が唐突に訪ねてきた。
 現実に引き戻されるカーティス。彼女を味わうことにすっかり夢中になっていた。
 カーティスは咳払いして気を取り直すと、手元のボードにボールペンで何やら書きこんでいく。
「おっぱいとマ○コは優秀。キスは改善の余地ありかな。アヌスは評価保留ってことで」
「本当ですか! ありがとうございます」
 砂原婦警は目を輝かせてお礼を告げた。実際問題、彼女の性的魅力が勤務査定に影響を与えることはないが。
「それにしてもタイミング悪いな」
 愚痴りながら車外に意識を向ける。ガス灯のデザインを見るかぎり中心市街地みたいだ。
 ここは余裕で人目につく場所じゃないか? カーティスは御手洗主任を見る。暗示の利きが悪いのか、それとも単なる天然なのか読めない。
 頬を掻いてカーティスはどうしたもんかと考える。何気なく周りを見渡していると、本屋の横に建ったペットショップを発見する。
 カーティスの脳裏に雷光のようなアイディアが奔った。
「あのさ。主任さん。このカーナビに場所を入力してくれない? 今度こそ人目につかない場所を」


* * *



「人権侵害じゃないのか。人間をこんな風に扱うなんて」
 助手席に腰かけたカーティスは、自身の右腕と車のアシストグリップを繋ぐ冷たい手錠を見ながら文句を垂れた。
 彼の言葉にハンドルを握った御手洗主任――ではなく砂原婦警が答える。
「あなたなんかに人権はありません」
「そいつはひどいな」
 カーティスは四方に目を配りながらつぶやいた。
 ほどなくすると、カーナビの音声案内に導かれ、パトカーは朽ち果てた倉庫に到着する。
 砂原婦警は鉄製の扉を開けて、薄暗い倉庫の中に車を滑りこませる。
「使われなくなった倉庫みたいだな」
「寝ぼけているんですか。ここは警察署ですよ」
「……今の発言は記憶から消しといて」
 カーティスは砂原婦警の記憶に手を加えた。
「ちょっと暗いか」
 砂原婦警はパトカーを倉庫の中央に停車させると、天井に付いたカーライトのスイッチを入れた。
 途端に明るくなる車内。やや幼い顔立ちの砂原婦警と、彫りの深い容貌の御手洗主任がぼんやりと照らしだされる。
 カーティスは振り返って御手洗主任に話しかける。
「やっぱり似合うね。主任さんには赤い首輪が」
「本当ですか。ありがとうございます」
 後部座席の御手洗主任は、笑顔をたたえながら自身に装着された大型犬用の赤い首輪を撫でる。
「うちの犬にちょっかい出さないでください。自分の立場を弁えてます? 今から警察の取り調べを受けるのに」
 砂原婦警に咎められて苦笑する。
「ごめんごめん。で? おれはどういう罪に問われてる」
「スモークを炊いて公序良俗を乱した罪です」
 彼女は自信に満ちたまなざしをカーティスに送る。カーティスはやれやれと首を振った。
「おれも運が悪いな。たまたま給油していた婦警さんと出くわすなんて。でも起訴に持ちこむだけの証拠は……」
「ご心配なく。うちの警察犬が証拠を見つけたんです。あなたが犯人だというDNA証拠を」
 砂原婦警は主任の赤い首輪に繋がれたリードを握る。
「DNA証拠か。OK。降参するよ」
 カーティスは下手な芝居を打ちながらもろ手を挙げた。
「罪を認めるんですか?」
 カーティスは悲壮な表情でうなずいた。
「しかし憂鬱だな。たしか男が婦警に逮捕された時は、婦警の口内に射精する必要があるんだろ」
「ええ。DNAを登録・照合する必要がありますから」
「日本の法律は面倒だ」
「市民の義務です。諦めてください」
 彼は観念したように助手席のシートをスライドさせる。砂原婦警はスライドで生まれた空間に身を置いた。
「歯を使っておれのジッパーを開けてくれ」
 婦警は歯のあいだにジッパーのスライダーをはさんで器用に下げる。すると黒光りする巨根がまろび出た。
 彼女はそそり立った肉棒を見てごくりと喉を鳴らし、覚悟を決めると、可憐なおちょぼ口に肉棒を咥えこむ。
 時にゆったりとした動きで肉棒を刺激したかと思えば、頬を凹ませながら勢いよく顔を上下させる、緩急のついた素晴らしいフェラチオだ。
「意外とテクニシャンだな……!」
 もう少しで彼が射精しそうだと察した彼女は、口から肉棒を離すと、裏筋を舌で丁寧に舐めはじめる。
「そろそろ出すぞ。受けとめろ!」
 砂原婦警は口を大きく開きながら肉棒を擦りあげた。カーティスは身震いして彼女の口内にザーメンを吹きだす。
 これで警察犬が見つけたDNA証拠と、ザーメンから検出したDNAが照合可能になった。
 砂原婦警は口の中で濃厚な白濁液を転がしながら視線を泳がす。やがて喉を鳴らしながらザーメンを胃袋に流しこんだ砂原婦警は、静かにカーティスへ視線を戻した。
「――マッチしませんでした……二つのDNAが……」
 カーティスはわざとらしく驚いて見せる。
「おいおい。それって誤認逮捕だったってこと?」
「そのようです。申しわけありません!」
 砂原婦警はカーティスに向かって勢いよく頭を下げる。彼はふうとため息をつけた。
「たしか誤認逮捕された市民は、誤認逮捕した警察官に対する命令権を得られるんだっけ」
「ええ。わたしたち警察官は市民を拘束して取り調べできる大きな権力を持っていますから。それに伴う責任も重大なんです」
「ふうん。じゃあSEXさせてもらおうかな」
「はい。あなたがそれを望むなら」
 制服の上着を脱ぎはじめた砂原婦警をカーティスは手で制した。彼女はキョトンとする。
「誰も君とSEXさせてくれなんて頼んでないよ。君が訓練士を務めている警察犬――おれの後ろにいる牝犬とSEXさせてほしいんだ」
「そんなことで本当に許していただけるんですか」
「もちろん」
 カーティスは親指を立ててサムズアップする。
「彼女とSEXするには君の協力が必要不可欠だ」
「そういうことなら。シロ。おいで」
「かしこまりました。ご主人様」
 砂原婦警の忠実な牝犬となった御手洗主任は、主の命に従って運転席に移動する。
「シロ。わたしのせいで彼は迷惑を被ったの。おわびにご奉仕して差し上げて」
 彼女と座席を入れ替えながら、砂原婦警はかつての上司に命令を送った。
「お任せください。ご主人様」
「ついでにこの鍵を届けて」
 手錠の鍵を渡された御手洗主任は、それを口に咥えると、急いでカーティスの手元に届けた。彼は手錠の鍵を外すと、アシストグリップに繋がれた右腕を解放する。
「やっと自由になった」
 彼は用済みになった手錠を窓から放り捨てると、お礼に御手洗主任の頭頂部を愛撫してあげた。
「サンキュ、シロ。じゃあ婦警さん。後ろから手をのばして運転席のリクライニングシートを倒せる? OK。次は彼女を仰向けにしてアヌスが見えるように」
 砂原婦警は手際よくカーティスの指示に応えていった。
 一方、御手洗主任は、四つん這いになりながらカーティスに不安そうな顔を向けている。ケツ穴もひくひくと収縮していた。
 カーティスは彼女の臀部に顔を寄せると、尻たぶに手をかけて左右に開く。
「婦警さん。このお尻の窄まりに指を入れて。ケツマ○コとして機能するようにしっかりほぐすんだ」
 砂原婦警はこくりとうなずくと、中指をちゅぷちゅぷ舐め、それから主任の肛門に突き刺した。
「……ひぅ……ご主人様ぁ……!」
「我慢しなさい。よし。こんなところかな」
 砂原婦警は満足げに指先を引きぬいた。彼女が付けた官給品の手袋は、褐色の腸液でぬめって湯気が立っていた。
「ご苦労様。婦警さん。あとはゆっくり休んで」
 砂原婦警にねぎらいの言葉をかけると、彼は肛門を広げながら切ない表情を浮かべる牝犬のほうに向き直る。
「お待たせ。シロ」
 カーティスはコンドームをまとった己の剛直を、御手洗主任のアヌスにあてがう。
「きゃう!?」
 御手洗主任は腸壁を抉る肉棒の感覚に悲鳴を上げた。彼はかまわず腰を振り、後背位でのアナルSEXを続ける。
 亀頭を肛門部分で前後させると、ペニスを奥まで押しこみ、膣圧よりも凄いアヌスの締まり具合を楽しんだ。
「犬の言葉を使うんだ、シロ!」
 カーティスは戯れに御手洗主任へ命じた。
「……くぅん……わふぅ……」
 主任は犬の鳴き声を使いながら腰を揺さぶる。
 次第に彼女の頬が主に染まり、だんだんアナルSEXに快感を見出している様子が手に取るようにわかった。
「いい感じだ。最後に、おれが腸内射精した瞬間、意識だけ正常に戻るんだ。でも首から下は動かせねえぞ」
 彼はアヌスの強烈な締めつけによって上り詰めていった。
 主任もウェーブのかかったセミロングを振り乱しながら嬌声を上げる。
 カーティスは腰を突きだし、遠慮なく主任の直腸内に熱い欲望を解き放った。
「……わふぅ……くぅん……わぅ……!?」
 カーティスは目を丸くする主任の表情を無邪気に楽しみながら、再び腰を突き動かす。
「おれをもっと楽しませろ!」
 彼の屹立した肉棒は、それから計二〇回の射精をこなし、ようやく萎えた。
 まぶたの裏で本当に火花が散ったかのような快楽が、カーティスの意識を揺さぶる。
 彼はいつの間にかそばに来ていたジェーンの、惜しみない拍手に包まれながら意識を閉ざすのだった。


◆第四章.また会えますように。



 倉庫をあとにしたカーティスとジェーンは、二人揃って裏手にある海岸線を歩いていた。
 水平線の彼方に沈んでいく夕日。オレンジ色の太陽がカーティスの黒髪とジェーンの青いボブカットを輝かせる。
 今のジェーンは最初に会った時の妖精スタイルではなく、白いワンピースを身に着けた人間スタイルだ。
「服を着ることもできるんだね。ジェーン」
 先に口火を切ったのはカーティスだった。
「裸のままだと寒いですから」
「そっか」
「そうです」
 カーティスとジェーンは互いに表情をゆるめる。
「そういえば彼女たちは」
「車の中で寝息を立てながら気持ちよさそうに眠ってるよ。記憶処理が終わったらすぐに帰ってもらうさ」
「そうですか」
 ジェーンは不意に立ち止まると、波打ち際にしゃがみこんで水平線を見つめた。
「やっぱりあなたは変わってしまったんですね」
「またその話か」
 カーティスは頬を掻きながら困ったように笑う。
「以前のあなたならもっと鬼畜な所業を行っていたはずです。でも今のあなたはすっかり毒気が抜けてしまって。洗脳の女神としては残念な気持ちでいっぱいです」
「おれはもうファンタジーから覚めたんだ」
「なるほど」
「幻滅した?」
「ちょっとだけ。でもファンタジーから覚めたなら、どうしてまだ洗脳を続けているんですか」
「カルマだよ」
 ジェーンの横にしゃがんだカーティスは、自分の右腕を彼女に見せる。
「元の右腕はアフガニスタンの戦火に奪われた。パープルハート勲章を受けとったおれは海兵隊を去り、故郷で新しい右腕を移植されたんだ。以来、おれは右腕の力を介さないと性的に満たされない体質になった」
「そういうことだったんですか」
 ジェーンは静かに顔を伏せた。
「まあ散々女の柔肉を楽しんできたんだし。自業自得だよ。おれもろくでなしの両親から生まれたサイコパスだし」
 カーティスはテトラポットの影に沈んでいく夕日を眺めながら両親のことを思い出す。
 ソシオパスの父親と世界最古の職業についた母親を。
「今度はおれから質問していい?」
「ええ。いいですよ」
「おれに何の用事があるのか。返事を聞くまえに会話が終わっただろ。あらためて聞かせてくれ」
「そういえばそうでしたね」
 ジェーンは顔を見上げ、カーティスと視線を交わらせた。
「あなたの苦しみを解き放ちたかったんです。あなたから以前のような暴力性が消えたと聞いて。きっと良心が芽生えたと思ったから」
「苦しみを解き放つ?」
 ジェーンはうなずいた。
「時々いるんです。自分の全能感が満たされた時、急にこれまでの行いを悔いる人が」
 ジェーンの言葉に耳を澄ませる。
「わたしは洗脳の女神。彼らの良心を封じ、気兼ねなく洗脳を楽しむようコントロールしてきました」
「じゃあ。おれにもそのコントロールを」
「いえ。今はもう気が変わりました。そもそもマインドコントローラーの意識を書きかえるのは、その人が秘める個性を失わせる結果になりますし。わたし自身、あなたの煩悩が生むクリエイティブな発想が好きになったんです」
 そう言ってジェーンは屈託のない笑顔を浮かべた。
「君はおれのファン第一号ってことか」
「そうですね。ではそろそろわたしは帰らないと」
 ジェーンはかかとを三回鳴らして元の妖精のようなすがたに戻った。
「今日は楽しかったよ。ジェーン」
「わたしもです。カーティスさん」
 その場から立ち去ろうとしたカーティスは、ふと立ち止まり、海岸線に向き直る。
「おれのことは呼び捨てにして。敬語も使わなくていいから。背中がむず痒くてさ」
「だけど」
 なおも渋るジェーン。
 カーティスは片手を差しだす。
「友達の気持ちを無下にするな。ほら、握手しようぜ」
「はい。じゃなかった。うん! カーティス」
 ジェーンはカーティスと固い握手を結び、そのまま空高く光の軌跡を残しながら飛び立っていった。
「バイバイ。また会える日を楽しみにしてるから!」
 カーティスは彼女に背を向けると、無言でサムズアップを送るのだった。

 
 
< 〜Fin >


 

 

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