マインドダイバー

〜サトリの末裔と孤独な少女の物語〜


 

 



最終話

本物の気持ち





 結局そのまま時は流れて、すっかり冬の気配の色濃くなった12月の半ば。

「秀ちゃん、ちょっといいかな?」

 放課後、俺の机に来て優那が誘ってきた。

 ……この数ヶ月の間に、少しだけ変わったことがいくつかある。
 まず、優那が俺を呼ぶ呼び方が秀明くんから秀ちゃんになったこと。
 優那もすっかり明るくなって、最近じゃクラスの女子ともよくおしゃべりをしていること。
 それと、優那とお母さんとの関係もよくなったらしい。
 いちどゆっくりと話し合ってみたら、やっぱりちょっとした勘違いやすれ違いで誤解していたことがあったって言っていた。
 優那は俺のおかげだって言ってるけど、あいつが自分で一歩踏み出しただけで俺は特になにもしてないんだけどな。
 でもまあ、どれもこれも俺にとっては喜ばしいことではある。

 それと、俺も瑞穂ねぇの行ってる道場で合気道を習い始めた。
 まあ、まだまだ下手くそだけど。
 ただ、師範代の瑞穂ねぇの権限で許可をもらった優那が毎回見学に来てるのはちょっとだけ恥ずかしい。





 その日、優那に連れられていったのは校舎の屋上だった。

「ひゃっ、寒いねっ!」

 冷たい風にブルッと身震いしている優那の髪が靡く。

 最近になって優那は髪を伸ばし始めて、今じゃ肩の下くらいまでになった。
 本人いわく、瑞穂ねぇのポニーテールに憧れて伸ばしはじめたらしい。
 ていうか、丸顔で目の大きな優那と細面で切れ長の目をしてる瑞穂ねぇじゃ全然雰囲気が違うんだけどな。
 それはともかく、この前試しに結んでみてたけどまだ全然長さが足りなくてポニーじゃなくて柴犬の尻尾みたいになってた。
 という感想を正直に言ったら半日口をきいてくれなくなったけど。
 ……なんでだよ? かわいいじゃんか、柴犬の尻尾。


「わぁ! もうお日様が沈みかけてるよ!」

 そう言って優那が西の方を指さした。

「あのときはもっと明るかったのにね」
「ああ、そうだったな」

 ここから飛び降り自殺しようとした優那を止めたあの日は、あの後初めてのセックスをしたから今日よりもずっと遅い時間だったけどまだ全然明るかった。

「これって、それだけの時間をふたりで過ごしてきたって事だよね?」
「うん。……なあ、優那、なんで俺を屋上に連れてきたんだ?」

 俺がそう声をかけると、優那はくるりと向きを変えて真っ直ぐこっちを向いた。

「……優那?」
「あのね、私の心にかけた秀ちゃんの力を解いてくれないかな?」

 ああ、ついにそのときが来たのか。

 それが、優那の言葉を聞いたときの率直な思いだった。
 だけど、すぐに返事をすることができない自分もいた。
 優那の心に仕込んだ力を解いたらどうなるのか俺にもわからない。
 もしかしたら、優那との関係が終わってしまうかもしれない。
 そんな思いが頭をよぎる。
 だけど……。

「秀ちゃん……」

 優那の瞳が、じっと俺を見つめる。

 そう、それは俺自身も望んでたことじゃないか。
 こんな力を使って自分のことを好きにさせるなんて、本当はやっちゃいけないことなんだってずっと思ってた。
 だいいち、これはとりあえず優那に自殺をさせないためにやったことで、それで優那の彼氏になろうって目的でやったんじゃない。
 そのことは、ずっと俺の心に棘のように引っかかってた。
 だから迷うことなんかない。
 そうすることが優那のためになるんだから。
 力を解いた後にどうなるかは、そのとき考えたらいい。

「うん、わかったよ」

 俺が頷くと、優那も小さく頷いた。

「じゃあ、ちょっとこっち来てくれるか?」
「うん」

 優那の肩に手をかけると、ドアの脇の壁に寄りかかるように座らせる。

「そうやって座ってて。心に潜るとふたりとも気を失ってしまうから、倒れて怪我をしないように」
「うん」
「それじゃ、行くよ」
「うん、お願い」

 その額に手を当てて声を掛けると、優那は少し緊張したように目を閉じる。
 手のひらの感覚に集中すると、俺は優那の心の中にダイブしていった。




◇◇◇





 ……えっ?
 これはっ!?

 瑞穂ねぇとの修行の成果か、初めてのときよりもはるかにスムーズに優那の心に潜ることができた。
 そこで俺が見たのは、前回とは見違えるような光景だった。

 あのときはあんなに暗くて重苦しかった空間が、眩しいくらいの光で満ちていた。
 それに、柔らかくて明るいパステルカラーの帯があちこちに漂ってる。
 前に潜ったときにあんなにたくさんあった絶望や孤独を示す暗い色の帯はひとつも見当たらない。

 半年でこんなに変わるものなのか?

 自分でも驚きながら潜っていくと、ピンクやオレンジ、明るい黄緑色の帯が体にぶつかる。
 俺のことを好きだっていう気持ち、幸せだっていう気持ちが伝わってきてちょっと恥ずかしい。

 記憶のパネルのあるエリアまで降りてくると、そのほとんどに俺の姿が映ってるのが見えてますます恥ずかしくなってくる。

 たしかこの辺りに……ん? なんだ、あれ?

 記憶パネルの浮かぶ中を潜っていた俺は、目の前を巨大なピンクの膜が漂っているのに気づく。
 優那の心の中で、さざ波が立つようにゆらゆらと揺れているそれが行く手を塞いでいる。

 えっと……あれを作ったのってここら辺なんだけどな……って、なんじゃこりゃあっ!?

 目の前をいっぱいに塞ぐピンクの膜の真ん中くらいに、淡い桃色と銀色の2本の杭が刺さった俺の姿があった。

 これはどういうことだ?
 ……いや、待てよ、そう言えばあのとき桃色の杭を打ったら取り囲むように襞ができてたっけ。
 それがこんなに大きくなったってのか?
 しかも、色も濃くなってるし。

 と、とにかく、これを消しに来たんだよな……。

 桃色の襞がここまで巨大になってることには驚いたけど、中心にあるこいつを消したらいいはずなんだ。
 そのために俺はここまで来たんだから。

 だから、手を伸ばすとそこにある俺の姿に触れる。
 そして消えろと念じると刺さった2本の杭ごと俺の姿が消えた。

 うわぁああ……。

 次の瞬間、ピンクの膜が小さな破片になって散り散りに舞う。

 ……こいつら、このまま消えてしまうのかな?

 桜吹雪が舞うような光景に、一抹の寂しさを覚える。
 もしこれが消えてなくなったら、優那の俺への想いはどうなるんだろうか?

 でも、これでよかったんだよな……。

 そう自分に言い聞かせて、上へと浮上していく。




◇◇◇





「ふう……優那、おい、優那ったら……」

 優那の心へのダイブを終えると、意識を失っている優那の体を揺する。

「……んっ……秀ちゃん」

 優那の目がゆっくりと開いて俺を見た。

「私の心に掛けた力、解いてくれたの?」
「うん…………命令だ、立ち上がるんだ、優那」

 これがわかりやすいだろうと思って、先に立ち上がると優那に命令する。

 だけど、優那はその場に座ったまま俺を見上げていた。
 そして、一度クスって笑ってからゆっくりと立ち上がる。

「今、自分の意志で立ち上がったよな?」
「うん。前は秀ちゃんに命令されたら勝手に体が動いてたのに、今は動かなかった。そっか、本当に解いたんだね……」

 俺の言葉に頷くと、優那は感慨深げに呟く。
 と思ったら、真っ直ぐ俺の前に立ってじっと見つめてきた。

「今までありがとう、秀ちゃん。そして、改めてこれからもよろしくね」
「……えっ? ……優那?」

 その言葉の意味がすぐにはわからなくて、驚いて優那の顔をまじまじと見つめてしまう。
 優那も俺を見つめたまま、優しい微笑みを浮かべていた。

「やっぱり瑞穂さんの言ったとおりだ」
「瑞穂ねぇが? ……なんて?」
「私ね、ずっと怖かったの。秀ちゃんが私の心にかけた力を解いてしまったらこの気持ちがなくなるんじゃないかって。もしかしたら秀ちゃんのことを嫌いになってしまうんじゃないかって。そのことがホントに怖かった。だけど、私の心に力を使ったことを秀ちゃんが気にしてたこともわかってた。そのことで秀ちゃんが苦しんでるんじゃないかって思うと、なんとかしたいって気持ちになってたの」

 真っ直ぐに俺を見つめたまま、優那はゆっくりと話しはじめる。

「それに私、自分の中の秀ちゃんを好きだって気持ちがどんどん大きくなってるようにも感じてた。あの日ここで、秀ちゃんが私の心に力を使って生まれたのよりもずっと大きな好きっていう気持ち。それが本当にどんどん膨れあがってるような気がしてて、だから瑞穂さんに相談したんだ」
「それで、瑞穂ねぇはなんて言ったの?」
「それは私が秀ちゃんといろんな経験をして、私の中で生まれた気持ちだって。最初のきっかけは秀ちゃんの力によるものだったとしても、その後ふたりで過ごした間の気持ちは私のものだから心にかけた力を解いても消えないと思うって、そう言われたの」

 そこまで言って優那はいったん口をつぐむ。
 その、俺を見つめる瞳に嬉しそうな、それでいて羞じらうような輝きが揺らめいた。

「本当に瑞穂さんの言ったとおりだった。力を解いた後でも私の中は秀ちゃんを好きっていう気持ちでいっぱいになってる」
「……優那」

 慈しむような視線を俺に向けたまま自分の胸に手を当てると、優那は一度大きく深呼吸する。
 そして、背筋を真っ直ぐに伸ばした。

「今なら胸を張って言えるよ。私は秀ちゃんのことが好きだって。これが、本当に本物の私の気持ちだって」

 俺から視線を逸らすことなく、優那は誇らしげにそう宣言する。
 その言葉を聞いた瞬間からじぃんと胸が熱くなって、俺は優那を固く抱きしめていた。

「俺も……俺も優那のことが好きだ!」

 嬉しすぎてわけがわからなくなるなってことが本当にあるんだって思った。
 とにかく感情が爆発したみたいに、優那を抱く腕に力を込める。
 すると、優那も腕を伸ばしてぎゅっと抱き返してきた。

「私も秀ちゃんのことが大好き。……ねえ、私の心の中、どうだった?」
「見違えるようだった。初めて潜ったときは暗くて絶望や孤独に塗りつぶされてた。だけど、さっき見た優那の心の中はすごく明るくて、幸せな気持ちに満たされてた」
「秀ちゃんがそうしてくれたんだよ。秀ちゃんのおかげで、私はこんなに幸せになることができた。本当にありがとう、秀ちゃん」

 俺の胸に顔を埋める優那の言葉がくすぐったく感じる。
 あのときの絶望と孤独で埋め尽くされた優那の心を知ってるからこそ、それを変えることができたんだと思うと改めて嬉しさがこみ上げてくる。




 そうやって俺たちはけっこう長い間抱き合っていた。




「秀ちゃん……ひとつだけお願いがあるんだけど聞いてくれる?」
「ん? なに?」
「もう一度、私の心に力を使って欲しいの。今度は、秀ちゃんの命令になんでも従うっていうのだけ」
「……へっ!?」

 俺を見上げながら優那がそう言った瞬間、きっとものすごく間の抜けた顔をしていたと思う。

「おまえ……今、なんて?」
「だから、また私を秀ちゃんの命令に従うようにして欲しいの」

 そう言った優那は少し真剣な顔をして、だけど楽しそうに瞳を輝かせていた。

「おまえ、なに言ってんだよ!?」
「でも、私は知ってるもの。秀ちゃんは私を悲しませたり苦しめたりするような命令は絶対にしないって知ってるから。だから、お願い」
「いや……いったいなんでそんな?」

 俺には、どうして優那がそんなことをせがんでくるのか全然わからない。
 すると、優那はクスクスッと悪戯っぽく笑った。

「だって、力を全部解いちゃったらもう秀ちゃんに命令エッチしてもらえないから」
「……はい?」
「もう一度私の心に力を使わないと、セックスのときに命令して気持ちよくしてもらえないでしょ」
「いや、おまえなぁ……」
「だって私、命令セックス気に入っちゃったんだもの。あんなに気持ちいいこと知っちゃったらやめられないよ」
「もう……優那ったらエッチすぎだよ」
「私をこんなにエッチにしたのも秀ちゃんなんだから。ちゃんと責任とってよね」

 優那が背伸びをすると指先で俺の鼻をぷいっと押さえる。
 少し口をへの字にして、真っ直ぐにこっちを見つめる瞳を見たら本気だってのはすぐにわかった。

 だけどそのとき、俺をじっと見つめる優那の顔に不安の色が浮かんだ。

「……もしかして、エッチな私のこと嫌い?」
「そんなわけないじゃんか! 俺はエッチなのも含めて優那の全部が好きなんだから。ただ……」
「ただ……なに?」
「そんなに嬉しそうな顔ではっきり言うからちょっと呆れただけ」
「もうっ! なによ、それ!」

 ちょっとだけ不満そうに唇を尖らせると、優那はまた悪戯っぽい笑みを浮かべて俺を見つめてきた。

「……ね、お願い」
「もう、しかたないな」
「じゃあ、してくれるの?」

 ぱあっと表情を輝かせた優那を見ると、もう頷くしかなかった。

「ありがとう、秀ちゃん!」
「ホントにもう……優那ったらときどき無茶なこと言うよな」
「そう? だって、秀ちゃんに力を解いてって言おうって決めたときに、これだけは残してもらおうって思ったんだもん」
「もう、本当にしかたがないなぁ……ほら、もう一度そこに座って」
「うん!」

 期待に満ちた顔で座り込む優那に、俺は苦笑いしか出てこない。

「じゃあ、行くぞ」
「うん、早くきて!」

 まるで、これからセックスでもするような会話を交わして優那の心にダイブする。




◇◇◇





 ……えっと……これは?

 もう一度潜ってみると、さっき散り散りになったピンクの破片は消えずに優那の心に残っていた。
 しかも、入ってきた俺に反応したのかどんどん集まってくる。

(好き……大好き……好き……秀ちゃんのことが好き……)

 ピンクの破片がぶつかってくるたびに伝わってくる優那の気持ちに、顔が熱くなってくるどころじゃない。
 愛の告白の大合唱の中を、顔が真っ赤になるのを感じながら潜っていく。
 どうやら、ピンクの破片の全部が全部集まってきてるんじゃなくて、かなりの数が俺との記憶のパネルに集まっているのが見える。
 いや、それはそれでかなり恥ずかしいんだけど。

 こ、このあたりでいいよな?

 前と同じくらいの深さまで潜ると、両手をかざして強く念じる。
 すると、そこに俺自身の像が生みだされた。
 それも、前回はペラペラの写真みたいなものだったのに今度のはちゃんと立体的になってる。

 これって、うまく力をコントロールできてるってことだよな……。

 目の前の自分の姿に瑞穂ねぇとの修行の成果を実感する。
 するといいものを見つけたといわんばかりに、できあがったばかりの俺の像にピンクの破片がまとわりつき始めた。

 もう……優那の心ったら反応が早すぎるよ……。

 さっきまでと同じように俺の像の周りに破片が集まってきては互いに繋がり、大きな襞を作っていく。
 こんなにはっきり俺を好きだってことを見せつけられるのは嬉しくもあるけど、やっぱり恥ずかしい。

 本当にやっていいのかな?
 でも、優那の希望だし……しかたないよな。

 いざとなるとやっぱり躊躇いはあるけど、優那のたっての願いだから聞いてあげたい。

 優那は俺の命令に従ってしまう。
 俺に言われたら、どんなことでも体がそうなってしまう。

 そう念じると、手の中に銀色の杭が現れる。
 この前はつららみたいに表面がでこぼこしてたけど、滑らかで見るからに鋭そうな形をしていた。

 やっぱり、力の扱いに慣れるとこういうものの形も緻密になるんだな。

 そんなことを考えながら、その杭を目の前の俺の姿に突き立てる。

 これでよしと……。

 やることを全部終えたのを確認して、俺は上へと浮上していった。




◇◇◇





「ふぅ……おーい、優那、起きろー」

 ダイブから戻ると、気を失ってる優那の体を揺さぶって起こす。

「ん……秀ちゃん……終わったの?」
「ああ、ちゃんと優那が言ったとおりにしてきたよ」

 そう言うと、優那が弾けるような笑みを浮かべる。

「よかった。ありがとう、秀ちゃん」
「いや、本当によかったのかよ……って、嬉しそうだな」
「うん、すっごく嬉しいもん。だからよかったんだよ」

 力強く頷いて、優那がこっちに体を預けてくる。

「……ねえ、本当に秀ちゃんの命令通りになるかどうか確かめてみたいの」
「ん? だったらなにか命令しようか?」
「それよりも、セックスしたいな」
「って、おい!?」
「だって、その方が気持ちいいもの」
「もう……優那ったらエッチすぎ」
「でもね、ちょっと思い出しちゃったんだ。初めて秀ちゃんとセックスしたのもここだったなって」
「いや、あのときは暑かったからいいけど、ここでやるにはもう寒すぎだろ?」
「だったら中でしようよ」
「中で?」
「うん、そこの階段の踊り場で」
「他のみんなにバレないかな?」
「大丈夫だよ。この時間ならもうみんな帰ってるか部活行ってるかだし。ここまで上がってくる人なんていないから、この階段の一番上だったら気づかれないと思う」
「おまえ、単純にセックスしたいだけだろ?」
「うん!」
「もう……優那がそう言うんならしかたがないなぁ……」
「そう言ってる秀ちゃんだって嬉しそうじゃない」

 そりゃ嬉しいよ。
 好きな相手とこういうことするのが嬉しくないわけがない。
 しかも、さっき優那の心の中で俺を好きだって気持ちをさんざん見せつけられたから俺もけっこうその気になってるし。



 俺たちは立ち上がって服についた埃をパンパンと払うと、ドアを開けて建物の中に入る。



「……思ったよりも声が響くね」
「だから言っただろ」

 ドアのすぐ向こう、屋上に上がる階段の一番上の踊り場で向かい合う。

「いざとなったらお願いね、秀ちゃん」
「お願いって、なにを?」
「いろいろと命令でなんとかしてってこと。じゃあ、さっそく……んー、ちゅっ!」

 クスリと笑うと優那が抱きついてきてキスをした。
 俺も優那の背中に腕を回して積極的に舌を絡める。

「んっ……」
「ちゅっ……んふ……」

 互いの気持ちを確かめ合うように舌を絡め合う。

 実は、優那ははじめそんなにキスが上手くなかった。
 というか、ほとんどキスなんかしたことなかったらしい。
 そのことだけでも、あの野郎がただただ優那とやるのだけが目当てだったことがわかってものすごく腹が立った。
 今となってはあんな奴のことなんか考えないようにしてるけど。

 まあ、今じゃ優那もキスが大好きだし、なんか上手になったように思える。
 優那が言うには、セックスとは違うドキドキ感がいいらしい。
 まあ、それは俺もわかる気がする。
 こうやって大好きな相手とキスするのって……うん、すごくいいよな。

「ん、んふ……秀ちゃん、私、もう我慢できないよ。さっきから胸がきゅんきゅんして、アソコがじぃんってなってるの……」

 瞳を潤ませ、期待でいっぱいの表情で優那が見つめてくる。

「じゃあ上着を脱ごうか。ついでにショーツも脱いじゃう?」
「……うん」

 モコモコしたコートを着たままでセックスするのもなんだし、やり始めたらすぐに暑くなると思って俺も優那も上着を脱ぐ。
 それに続いて、優那はスカートの中に手を入れると片足を上げてショーツを脱いだ。

「じゃあ、次は秀ちゃんの準備だね」

 そう言うと、優那はその場に膝をつくと俺のズボンのファスナーを降ろしてチンポを引っ張り出した。
 そして、こっちを見上げてくる。

「秀ちゃん、お願い」
「ああ。俺のチンポをしゃぶって感じろ、優那」

 命令すると優那ははむっとチンポを咥え込んだ。
 そして、相変わらずの舌使いでしゃぶり始める。

 あのとき以来、優那は命令されてフフェラチオをするのが大のお気に入りになっていた。

「ん、ちゅむ、れろ……んふ、やっはり、ほれいいの……」

 器用に舌を絡めながら上目遣いに俺を見つめる優那の目がすぐに緩んでくる。

「ひでひゃんのおひんひんしゃぶるのすきひゃけど、やっはりめいれいされひゃほうがきもひいいろ……ん、ちゅぷ……んくっ!」

 膨らんだチンポを喉の奥まで咥え込んで優那がビクって体を震わせる。
 ていうか、よくもまあフェラチオしながら器用にしゃべれるもんだよな。

「んぐっ……おひんひん、もうほんなにおおひくなっれ……んんんんっ! らめぇ……ほれ、きもひよすぎりゅぅ……ひでひゃぁあん……」

 トロンと蕩けた瞳をこっちに向けて優那が視線で訴えてきた。

「じゃあ、立ち上がってこっちにお尻を突き出すんだ」
「ん、ふぁああぃ……」

 咥えていたチンポを離して立ち上がると、命令通りに優那がくるっと向きを変えてお尻を突き出す。
 そのスカートを捲って股間に手を潜り込ませると優那がビクンと体を震わせる。
 そこはもう溢れてきた蜜でぐっしょりと濡れていた。

「優那ったらもうこんなになってるの?」
「だってぇ……命令されておちんちんしゃぶるの気持ちよすぎるんだもん……ひゃうんっ!」

 割れ目の中に指を潜り込ませると、優那が甘い声をあげた。
 しかも、そこはきゅっと指を咥えるように締めつけてくる。

「ホントに優那はエッチだよね」
「そうだよ、エッチだよぉ……だから、早くお願い……」
「だったら、そこの手すりを掴んでもっとお尻を突き出すんだ」
「うん……」

 優那は言われたとおりに両手で階段の手すりを掴んだ。
 そのまま、こっちに向けたお尻を押しつけるみたいに突き出す。

「じゃあ、行くよ」
「うん、早くきて……」

 その言葉を合図に、ぱっくりと物欲しそうに開いた裂け目にチンポを押し当てるとゆっくりと挿入していく。

「んふぅうううっ! 秀ちゃんのおちんちん、きたあっ……!」

 熱くて蕩けそうなアソコの肉を掻き分けて奥までチンポをねじ込むと、優那が背筋を反らせて心地よさそうに喘ぐ。
 手すりを掴んだその腕がプルプルと震えているのを見て、ちょっとした悪戯を思いついた。

「優那の手のひらが性感帯になって、ものすごく感じるようになる。だから絶対に手すりを離さずに気持ちよくなれ」
「……え? やっ!? ふぁああっ! なにこれぇ!?」

 僕の言葉に一瞬戸惑った様子だった優那が、すぐに驚きの声をあげる。

「実はね、さっき優那の心に潜ったときに、単に僕の命令に従うだけじゃなくて僕に言われたことはどんなことでも体がそうなるようにってしてみたんだ。それでもしかしたらって思ったんだけど……」
「うそぉ……こんなことまでできるなんて、素敵ぃ……」

 僕の説明を聞いて、優那は戸惑うどころか嬉しそうにしてる。
 ホントにエッチすぎるけど、そんな優那のことも大好きだし、喜んでくれてるんならいいか。

「じゃあ、動くよ」
「お願い……んっ、はううううっ! ああっ、すごいいいいっ!」

 腰を動かしてチンポを抜き挿しすると、すぐに優那が体を悶えさせはじめる。
 それも、いつもよりもちょっと激し目に。

「あぁんっ! これすごいのっ! アソコと手のひらと両方ビリビリしてっ……ふぁあああっ! やっ、だめっ、大きな声出ちゃう! 秀ちゃんお願いっ!」

 優那の切羽詰まった声にどうしてもらいたいのか悟ってすぐに命令する。

「命令だ、大声を出すな」
「うんっ! ……んんっ、あんっ、はぁあああんっ!」

 命令したとたんに優那の声のトーンが下がる。
 だけど、大きな声で喘ぎたいのに大声を出せないのって苦しくないのかな?

「大丈夫、優那? 苦しくない?」
「うん、大丈夫だよ。だから、もっと命令して……」

 俺の心配をよそに、優那は嬉しそうに緩んだ顔をこっちに向けてさらに命令をねだってくる。

 って言われてもなぁ……。
 あっ、そうだ。
 じゃあこんなのはどうだろう?

「今、自分がどうされてて、どう感じてるのか声に出して言うんだ、優那。そうやって自分のされてることを口にすると興奮してもっと感じやすくなるよ」
「……んっ、はんんんっ! 秀ちゃんのおちんちんが私のおまんこ出たり入ったりしてるぅうううっ! ジュボジュボされてっ……あふぅううううっ! おちんちんズボズボ擦れてっ、熱いっ、あついのぉおおおっ!」

 バックで俺に突かれながら、小さく抑えた声で優那がセックスの実況をはじめる。
 それでもこのスペースだとそこそこ声が響くけど。
 ……ていうかエロすぎるよ、優那。

「やだぁっ! 私、すごく恥ずかしいこと言ってる! ……でも、興奮するのっ! エッチなこと言いながらおちんちんでおまんこかき回されてゾクゾクするのっ! はぁああんっ、すごく入ってる! おちんちんっ、奥まできてっ……あっ、はきゅうううんっ!」

 いきなり、優那の体がつっぱるようにビクンッて跳ねた。

「どうしたの、優那?」
「おちんちんが一番奥に当たって、きゅぅうんってなってぇ、体に力が入って手すりを握ったら手のひらがじんじんってなって……もう、わけわからないよぉ……おちんちんでおまんこズボズボされてっ。手のひらが擦れてっ……こんなの気持ちよすぎるよぉっ! あんっ、またおちんちんがズンってきたぁあああっ!」

 どうやら、さっき手のひらを性感帯にしたのと合わさってすごいことになってるらしい。
 優那の中を奥まで突くとその体が強ばって二の腕がプルプルしてるのがわかるけど、それで手すりを強く握ってまた感じてしまってるんだ。

「ふあああっ……こんなの初めてぇええっ! 秀ちゃんのおちんちんがズンズンきてぇっ、エッチなこと言いながら感じちゃうのぉっ! ……ひゃうううっ! また手のひらがビリビリって……ふぁあああっ! 私、もうイキそうだよぉおおっ!」
「そのままイクのと俺に命令されてイクのとどっちがいい?」
「してっ! 命令してっ! 秀ちゃんに命令されてイキたいの! ……早くっ! 本当にイキそうだから早く命令してぇええっ!」

 今にもイキそうなのを我慢してるのか、小刻みに震える体を悶えさせながら優那が感極まった声でせがんでくる。
 あの日、初めて命令セックスをしたときから毎回せがまれてやってることだけど、いつも優那からの答えは同じ
 本当はいけないプレイだとは思うけど、蕩けた涙目で訴えてくる優那はすごくエロくてかわいいと思う。

「わかった。じゃあ、イケ、優那」
「ふぁあああああっ! イクイクイクぅううううっ! 秀ちゃんに命令されてっ、私イッちゃうううううううっ!」

 命令したとたんに優那の頭がビクンと跳ね上がり、アソコがチンポをぎゅうぎゅうに締めつけてくる。

「くふぅっ……優那のがっ、ものすごくチンポ締め付けてっ……!」
「う、うんっ……私すごくイッてるの! おまんこぎゅーってなって、秀ちゃんのおちんちん抱きしめてるのぉおおおっ!」

 いやらしく喘ぎながらチンポを締めつけられて、こっちも一気に射精しそうになる。

「くうっ……いやらしすぎだよ、優那! そんなにされたら俺も……!」
「うんっ! いいよっ、秀ちゃんの精液っ、いっぱい出してっ!」
「じゃあ、もう一度命令するのが合図だっ!」
「うんっ、命令してっ! 秀ちゃんが命令したら私またイクからっ! 絶頂まんこにいっぱい熱いの出してぇええええっ!」
「よしイケっ! たっぷり出してしまうからイッてしまえっ!」
「はきゅんっ! ふあっ、イクッ! 秀ちゃんの命令でイクのぉおおおおおっ!」
「くううっ!」

 俺の命令で絶頂した優那がさらにチンポを締めつけてきて、もう我慢もできずにそのまま思いきりぶちまける。

「あふぅっ! きてるっ! 秀ちゃんの精液出てる! こんなに熱くていっぱいっ……ひゃうっ! またイクっ! 熱いのいっぱいでっ、イクのとまらなぃいいいいっ!」

 手すりをぎゅっと掴んだ優那が全身を震わせて、精液を残らず搾り取ろうとする。
 その刺激でチンポからピュッて迸り出ると、優那の体がビクッて跳ねる。
 ていうか、なんかいつもよりもいっぱい出てる気がするな。
 やっぱりあれかな、今日はあんな嬉しいことがあって、優那と本当に恋人同士になれたからかな?





「んっ……んんっ……ふぅうう……おなかの中、いっぱいになってる……なんか今日のセックスすごかったぁ……」
「俺もだよ。……もう手すりから手を離してもいいよ、優那」

 少しの間セックスの余韻に浸っていた後でそう言ってから、壁に凭れてへたり込んだ。
 なんていうか、出し切った後の心地いい気怠さに包まれてる。
 優那もやっと手すりから手を離して俺の隣に座る。

「前に優那が言ってたことがわかるな」
「えっ? なんのこと?」
「ほら、初めて優那の家でセックスしたときに、俺のことが好きだからセックスが気持ちいいんだって、好きな人とセックスしてるから気持ちいいんだって言ってただろ。俺も本当にそう思う。優那とのセックスはいつも気持ちいいけど、なんでだろうって考えたら、やっぱり優那のことが大好きだからだって、そう思うんだ」
「やだっ、秀ちゃんったら!」

 嬉しそうに頬を染めた優那が体をこっちに寄りかからせてくる。

「……私の体が早く秀ちゃんの血に馴染むようにこれからもいっぱいセックスしようね。そして、結婚したらいっぱい秀ちゃんとの子供が欲しいな」
「ははは……うん、まだまだ先の話だけど俺も頑張るよ」

 そうやって言われるとちょっぴり恥ずかしくて顔が熱くなってくる。

 だけど、うちの家系の人間と普通の人の間じゃなかなか子供ができないって話をされたときは大変だったんだから。
 あれは俺の中のサトリの力が目覚めた事件のすぐ後だったよな……。
 瑞穂ねぇに絞め技をかけられながら説教されたし。
 ていうか完全に頸動脈極められて失神寸前まで行ったし。

 でも、正直ホッとしたっていうのはある。
 優那とは最初から生でしてたけど、やっぱり気になってたから。
 でも、だからこれでいくらでも生でセックスできるとか、そんなことは思ってないって!

 ……すみません、嘘をつきました。
 これで安心して優那とセックスできるって思いました。

 でもまあ俺なんかよりも優那はよっぽどストレートで、いっぱいしても大丈夫だねって喜んでたけど。
 もともと優那はそういうのには積極的だったけど、あれからさらに積極的にセックスを求めるようになった気がする。
 優那ったらホントにエッチすぎるよ。
 でも、しかたないよな、そんなエッチなところも全部ひっくるめて俺は優那のことを好きなんだから。

「けっこう冷えてきたしそろそろ帰るか」
「うん」

 俺の言葉に優那が頷き、立ち上がって服を整える。
 そして鞄を拾い上げると互いに寄り添いながら階段を降り始めた。






* * *







「おっ、帰ったか」

 優那とふたりで俺の家に帰ってくるといい匂いが立ち込めていて、キッチンから瑞穂ねぇが顔を出した。

「ただいま、瑞穂さん!」
「うん、おかえり、優那ちゃん」

 すっかりうちの家族みたいにただいまの挨拶をする優那を瑞穂ねぇが笑顔で迎える。

「もうすぐご飯ができるからちょっと待っててね」
「あ、私手伝います!」
「いや、ホントにすぐだからそこで待ってて。……あ、そういや秀明」

 ニコニコと上機嫌で優那と話をしていた瑞穂ねぇがいきなりこっちに話を振ってきた。

「なに?」
「貴明叔父さんってもうすぐ帰ってくるんだよな?」
「うん。年末には帰ってくるから、あと2週間くらいかな」
「じゃああれだ、貴明叔父さんが帰ったらあんまりここで優那ちゃんとセックスできないだろうから、あたしのことは気にしないでどんどんやっていいぞ」

 そう言うと、瑞穂ねぇはニタァって最低な笑みを浮かべた。

「なっ……! あのなぁっ!」
「でも秀ちゃん、瑞穂さんもああ言ってるしもう一回する?」
「ちょっ! 優那! おまえも!」
「なんだぁ? もう一回ってことはもうしてきたのか?」
「あ、いや、それはあの……」
「うふふふふふっ!」

 ニヤニヤとゲスな顔をしてる瑞穂ねぇと、キャッキャと声を上げて笑う優那。

 ……本当によく笑うようになったよな。

 最近は優那も見違えるくらいに明るくなっていつも笑いが絶えないし、あんなに無表情だったのがものすごく昔のことのように思える。

 俺がやったんだよな?

 こいつの笑った顔が見たいってずっと思ってた。
 こいつだって小さいときには笑ったことがあるはずだって、それを取り戻してやりたいと思った。
 だけど、初めてその心に潜ったときのあまりの絶望の深さにどうしたらいいのかわからなくて途方にくれてしまった。

 だけど俺、取り戻してやれたんだよな。
 こいつの幸せな笑顔を……。

 あの日、自殺しようとした優那を救いたいと心から思った。
 それを自分の手でやり遂げたんだと思うと、改めて感慨がこみ上げてくる。

 そのことは本当に嬉しいけど、でも、次の目標ができてしまったな……。

「おーい、ご飯できたぞ、秀明」
「秀ちゃん、早く座って座って」
「うん」

 笑顔で俺を呼ぶ優那の声に応えながら、決意を新たにする。

 この笑顔を守りたい。
 この先もずっと。

 そう、俺と優那の人生の物語はまだまだ始まったばかりなんだから。

 
 
< 完 >


 

 

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