マインドダイバー

〜サトリの末裔と孤独な少女の物語〜


 

 



第3話

サトリの血と、優那の笑顔





 2週間後の朝、その異変は突然訪れた。

 ラッシュアワーの混雑した改札でスーツ姿の男と肩が触れた。
 いや、それ自体は別になんでもない。
 朝の通勤通学の時間帯に誰とも体が当たらないなんて普通あり得ないからだ。
 ただ、普通じゃなかったのは……。

(くそったれ……くそ眠い……今日も3時間しか寝てないってぇのに……)

 ……え? 今のは?

 なにか声が聞こえたというか、思考そのものが流れ込んできたような気がした。
 そして、また別な男と体が当たる。

(ああもう、安月給で毎日終電までこき使いやがって……辞めてやる、もうこんな会社辞めてやる……)

 これは……間違いない。
 他の誰かの体に触れると相手の考えてることが流れ込んでくるんだ。
 優那の心に潜ったときにその感情が流れ込んできたのを感じたけど、そのときの感覚に近い。

 でも、なんで?
 こんなこと今までなかったのに。
 ……って、まさかこれが瑞穂ねぇの言ってたことか!?
 あのとき瑞穂ねぇも2週間後って言ってたし。

 状況から考えて、そうに違いないと思う。

 だけど、だったらなんでこういうことがあるって言ってくれなかったんだ?
 この程度のこと言っても別にいいだろうに。
 あ、でも言ったらいけないって感じだったな。
 まあ、うちの一族にはいろいろと面倒な決まりがあるから……。

 そんなことを考えながら歩く間も、どんどん人と体が当たる。

(ああ、だりぃ……)
(さっきのハゲオヤジなんなの? もう、朝からサイテー)
(やべっ、朝練間に合わねえ! これ、絶対に怒られるよな……!?)
(ああもう、ホントにこの時間の電車乗るの憂鬱……)

 朝のラッシュ時だけあって、どれもこれも通勤通学の愚痴みたいなものばかり流れ込んでくる。

 だけど、こんなのは別に気にする程度のことでもない。
 ホームで電車を待つ間はそう思っていた。

 しかし、いつもと同じすし詰め状態の電車に乗り込んでから状況は少し変わってきた。

(ヒロキったら昨日のあの態度はなによ? しばらく口きいてあげないんだから……)

 たぶんこれはすぐ右側の女の子から流れ込んでくるやつだ。

(あー、1時間目はタグチの古典かよ……かったりぃな……)

 これは目の前の男子の考えてることだな。

(あのクソ課長め! 毎日毎日ネチネチと嫌味ばっかり言いやがって。それも俺にばっかり……いつまでこんなの我慢してりゃいいんだよ? あいつがいなくなりゃどんなにいいか……イッソノコトコロシテヤリタイ……コロシタイ……)

 ……うっ? なんだこれは?
 背筋が寒くなるような、暗くて凶暴な感情を伴った思考が流れ込んでくる。

 これって左側のサラリーマンか?
 さっきまでのと全然違う、強烈な負の感情が俺の中に流れ込んできてるじゃないか?

(まったく、期限までそんなにないっていうのにどうなってんだ? だいたい今度のプロジェクトチームはレベルが低すぎる! 同じようなミスを何度も繰り返しやがって……どいつもこいつも使えない……クソッタレガ!)

 ……まただ!
 これは、後ろの方から流れ込んできてるのか?

 はじめはさっきまでと同じような仕事の不満だったのが、どんどん暗く暴力的になっていく。
 ……これって、心の深い箇所の感情や思考が流れ込んでるのか!?
 普段は理性で抑え込んでいるような負の感情がどんどん俺の中に入ってきてる?
 さっきまではそんなに深い感情は入ってきてなかったのに?
 こうやって体を長時間密着させてるせいなのか?

 ……うわっ!?
 前と右の学生からも!?

(ああもう毎日学校に行くのもうぜぇ……ホントニウゼェ……ンナモンゼンブナクナッチマエバイイノニヨ……)
(だいたいヒロキったら昨日あんなにマヤと楽しそうに話してて……ヒロキは私だけのものなんだから……ソウヨ、ワタシダケノモノ……ゼッタイニワタサナイ……)

 こいつらもかよ?
 なんで、どいつもこいつもこんなにどす黒い感情ばかり?
 いくら不満やストレスを抱えてるっていっても、もう少し明るいことを考えてる奴はいないのかよ!?

 どんどん流れ込んでくる陰鬱で暴力的な感情に当てられて、吐き気がしてくる。
 いや、実際に入り込んできている負の思考や感情が澱のように俺の心の中に蓄積されていって、俺自身がおかしくなりそうだった。

 その限界が近づいてきたところでやっと駅に着いて満員の電車から吐き出される。
 その後は、極力他人と体が当たらないように意識しながらなんとか学校まで辿り着いた。






* * *







 とりあえず教室まで着くと、ぐったりと机に体を預ける。
 人に触れなければ新たな感情は流れ込んでこないけど、さっき電車で流れ込んできた暗い感情は一向に抜ける気配がない。

 うう、まだ気持ち悪いぜ……。

「おはよう、秀明くん」
「……ああ、おはよう、優那」
「どうしたの? なんか体調悪そうだけど?」
「ああ、ちょっと気分が悪くて……」
「大丈夫なの? 保健室行く?」
「ああ、大丈夫。ありがとう、優那」

 おはようのあいさつをしにきた優那が、心配そうに覗き込んでくる。
 俺としてもあんまり優那に不安な思いをさせたくないけど、こればっかりは話をしてもどうなるわけでもなさそうだし。

 まあ、このまま人と体が触れずになんとか放課後まで我慢して、瑞穂ねぇに連絡してみよう。

 そうやって今日1日やり過ごすほかにいいアイデアは浮かばなかった。






 だけど、そんな日に限って誰かと体が当たってしまう。

「わっ!?」

 休憩時間にトイレに行った帰りに、階段から降りてきた英語の浜崎先生に軽くぶつかってしまう。

「あ、すいません……」
「いいのよ。さあ、そろそろチャイムが鳴るから教室に入りなさい」
「はい」

 浜崎先生は見た目も大学生で通りそうなくらいに若いし、いつも笑顔の優しお姉さんみたいな雰囲気で男女問わず生徒に人気がある。
 そのときもいつもと変わらない笑顔だったけど、僕の心に流れ込んできたのは……。

(私、教師になるのに憧れていたはずなのに……。毎日すごい量の事務作業に、放課後と休みの日はバレー部の顧問……私、バレーボールの経験なんかないのに。教師としてもっと生徒のために力になりたいのに、それ以外にやらなくちゃいけないことが多すぎるわ……イツマデコンナコトシテタライイノ? コンナノガズットツヅイテイクノ……?)

「……えっ?」
「どうかしたの?」
「あ、いえ、なんでもないです」
「そう? さあ、授業を始めるから早く入りなさい」
「あ、はい……」

 いっつも笑顔で元気そうな浜崎先生がそんなに悩んでいたなんて……。
 心の奥深くから伝わってきた、思い詰めたような感情に胸が締めつけられそうになる。




 そして、その次の時間は体育。
 しかもやるのはサッカーだった。
 これで体が当たらないわけがない。

「覚内!」
「おうっ……うわぁっ!?」

 こっちに来たパスを受けようとしたら、無理矢理体を入れられて転んでしまう。

 こいつ……隣のクラスの、たしかサッカー部のレギュラーのやつだよな……。

「わりぃな」
「ああ、いいよ」

(……ったく、下手なくせにうろちょろすんじゃねーよ。うざいったらありゃしねぇ)

 相手は軽く手を挙げて謝るけど、体が当たったときに正反対の感情が流れ込んできていた。

 全部伝わってるよ……。
 そっちこそサッカー部のくせに体育の授業程度でなにマジになってんだよ?

 思わず口に出しそうになるのをなんとかこらえる。

 ……くそ、俺もなにムキになってるんだよ?

 その時点で、自分が異常に苛立っているのを自覚していた。
 朝から俺の中に流れ込んでいる暗い負の感情が、消えることなくどんどん蓄積されていってる。
 溢れてくるその感情に流されそうになるのを必死に堪える。
 自分がいつもの状態じゃないのがわかっているのにどうにもできない。
 他人からマイナスの感情や思考が流れてくるのを止めることができない。

 くっ……この感情に流されちゃダメだ……。

 そう思っているのに。

「覚内、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫」
「そっか」

 うちのクラスの小林が手を出して立たせてくれた。
 小林はバスケ部だけどスポーツ万能で、こういう時は頼りになる。
 だけど……。

(覚内も悪いやつじゃないけど運動は全然ダメだよな。まあ、帰宅部だしこんなものかな。……トリアエズセンリョクニハナラナイナ)

 ……小林までそんな?
 いや、これって俺の方が敏感になってるのか?

 さっきの浜崎先生のときもそうだったけど、少し触れただけで心の奥の負の部分が伝わってくる。
 朝の満員の電車での密着した状態ならともかく、この程度でここまではっきりと深い箇所の感情が流れてくるなんてそうとしか考えられない。

 そんな……これ以上敏感になったら……。

 軽い接触だけで相手の心の奥に潜んでいる感情が伝わってくるようになってるだけじゃない。
 俺自身の心がものすごくナイーブになって過剰反応してしまってる。
 はじめは澱くらいだった暗い情念がヘドロのように積み重なって、俺を塗りつぶそうとしているのを感じる。

 こんな感情がさらに流れ込んできたら俺の心が保たない。
 そんな恐怖がこみ上げてくる。




 そして昼休み。

 自分の机で、優那としゃべっていた。
 なるべく、優那の体と触れ合わないように注意しながら。

 そのとき、隣でしゃべっていた女子の体が当たった。

「あ、ゴメンゴメン〜」

 その子は軽い調子で謝ってきたけど、伝わってきた心の声に思わず体が強ばる。

(……このふたり、クラスでいちばん地味なくせに最近やたらといちゃいちゃして。ナンカウザイノヨネ……)

 こいつ、そんな笑顔の裏でそんなことを考えてるなんて……。

「どうかしたの、秀明くん?」
「……っ!」

 優那が心配そうに伸ばしてきた手を、椅子から立ち上がって避ける。

「秀明くん?」
「いや、ごめん。なんでもない、なんでもないから」
「でも、朝からなんか変だよ?」
「うん、ありがとう。本当に大丈夫だから。ほら、もうすぐ予鈴が鳴るよ」
「うん……」

 気遣わしげな視線を残して、優那が自分の席に戻る。
 だけど、今は優那に触れられるのが怖かった。
 その心に潜ったことがある俺は、あいつが心にどれだけの闇を抱えてるのか知ってる。
 わかっていても、それが伝わってくるのが怖い。
 いや、そんなことはどうでもいいのかもしれない。
 今、優那から暗い感情が流れ込んできたら俺の心はどうにかなってしまいそうだった。
 それくらい精神的に追い込まれていた。






* * *







 放課後、俺は誰よりも早く教室を飛び出して階段を駆け上がる。
 今の精神状態で混み合う電車に乗る勇気はない。
 とにかく、しばらくひとりになりたかった。

「……ったく、なんなんだよ、これは?」

 誰もいない屋上でしゃがみ込み、頭を抱え込む。
 原因は一族の力のせいだとわかっていても自分ではそれをどうすることもできない。
 放っておくと心の中で渦巻く他人の情念に飲み込まれそうで怖かった。





「……秀明くん?」
「……えっ?」

 名前を呼ばれてハッと顔を上げると、優那の心配そうな顔があった。
 だけど、それよりも驚いたのは俺の肩に置いたその手から伝わってくる気持ち。

(秀明くんの様子、やっぱりおかしい。どうしたのかな? なにかあったの? 心配だよ……)

 そんな……心の底から俺のことを心配してくれてるのか?
 優那から伝わってくる感情は他の人間のそれのように暗くもどす黒くもない。
 ただひたすらに優しく、温かかった。

「優那……」
「やっぱり今の秀明くん大丈夫そうじゃないよ。ねえ、なにがあったの?」

(私、秀明くんの力になりたい。秀明くんは私を助けてくれたから、秀明くんが困ってるなら私が助けたい……)

「優那!」
「きゃっ!? 秀明くん?」

 優那から流れ込んでくる温かい想いに縋るように、その体を抱きしめていた。
 そのまま、その唇に吸いつく。

「ちゅっ、んっ……」
「んむむむっ? ん、んん……」

(いきなりどうしたの? でも、これで秀明くんの気が少しでも晴れるなら……。それに……ん、やっぱり秀明くんとのキス、気持ちいい……)

 抱きしめた腕に感じる優那の柔らかな感触。
 それと同時に、嬉しそうにキスを受け入れる優那の気持ちが伝わってくる。

 このまま優那とセックスしたい……優那は俺のものなんだからもっと滅茶苦茶にしてやりたい……。

 無意識のうちに制服の上から優那の胸を揉んで、そんなことを考えている自分に気がついて体が竦みそうになる。

 ……なに考えてるんだよ!?
 これは……俺の感情じゃない。
 俺の中に溜まった負の感情が膨れあがって暴発しそうになってるんだ!
 このままじゃいけない。
 このままじゃ本当に優那を無茶苦茶にしてしまう……。

 そう思ってるのに、こみ上げてくる暗い劣情を抑えきれない。

(ん……なんか今日の秀明くん激しいな……。でも、こういうのも悪くないかも。いいよ、秀明くんの好きなようにして……)

 ……優那! 優那ぁああっ!

 どこまでも俺を受け入れようとする優那の優しい気持ちが完全に引き金になった。

「……優那! 命令だ、俺のチンポをしゃぶれ」

 いったん体を離してズボンを脱ぐと、そう命令する。
 自分でも、どうしてそんな命令をしたのか……。

 俺……おかしくなりかけてる。
 そのことがわかっているのに自分で自分の心が抑えられなかった。

「……えっ? う、うん、わかったわ……ん、はむっ」

 一瞬驚いたように目を丸くしたけど、素直に俺の命令に従って優那はチンポにしゃぶりつく。

「ちゅぶ、んっ、ちゅる、えふ、えろ、れるっ、んっ……」

 相変わらずの絶妙なフェラテクに、チンポがすぐに反応して膨れあがっていく。
 それに、たとえフェラチオでも俺の体と優那が触れ合ってることになるので、当然優那が思っていることは伝わってくる。

(やっぱり今日の秀明くんなにか変……。でも私、そんな秀明くんでも受け入れるよ、だって、全然嫌じゃないし……)

「ほら、もっと喉の奥まで入れるんだ。そして感じろ。フェラチオで気持ちよくなれ!」
「んっく……ぐっ、んぐっ、ぐふっ、えぐっ、んっ……」

 後になって考えてみたら無茶苦茶な命令だが、そのときの俺はもうそれすらわからないくらいにおかしくなってしまっていた。

 優那は命令通りにぐっとチンポを深く咥え込む。
 弾みでチンポの先が優那の喉に当たる。
 その瞬間に苦しそうな顔をしたがそれもすぐに緩んだ。

(ふぇええ? なんで? こんなに喉の奥に入れてるのに苦しくない……それどころか、気持ちいい……)

「ぐっ、んぐっ、ぐむっ、んくっ、んぐぐっ……」

(やだ……すっごく気持ちいい。おちんちんしゃぶるのって、相手を気持ちよくさせてセックスさせるための準備だって思ってて今まで気持ちいいなんて思ったことないのに、今はすごく感じてる。……やぁああん……口と喉におちんちん擦れて、すごく気持ちいいよう……)

「んっぐ、ぐぅ、ぐっ、んぐっ、ぐぼっ、んぐっ……」

 口いっぱいに頬張って、喉の奥までチンポを受け入れている優那の表情がどんどん蕩けていく。
 緩んだ瞳で俺を見上げながら、自分から激しく頭を振っている。
 その刺激に、こっちもすぐに限界が来た。

「よしっ、イケッ、優那! 精液を飲んでイケッ!」
「んぐっ……!? ぐぐぐぐぐっ!」

(ふああああっ! 出てるっ! 秀明くんの熱い精液がいっぱい出てるっ! すごいっ、こんなの私イッちゃうっ! イクぅうううううううっ!)

「んぐっ、んぐぐぐぐぐっ! んぐ、んふぁああ……」

 チンポを咥えたまま目を見開いた優那が、体をブルブルと震わせる。
 飲みきれなかった精液が少し溢れてその顔を汚していた。
 そのいやらしい姿がさらに劣情を誘って、勃起が全然収まらない。

「ほら、俺のチンポはまだでかいままだぞ。これが欲しいか、優那?」
「ふああぁ……あ、おちんぽぉ……ん、ぺろ……」

 トロンとした優那の瞳が俺のチンポを捉える。
 そして、もう一度顔を近づけてくるとチンポの先に残った精液を舌先で舐めとった。

「こいつが欲しかったら自分からねだれよ」
「はい……」

 恍惚とした表情の優那が夢遊病者のようにふらつく動きでショーツを脱ぎ捨てる。
 そして、仰向けの姿勢で大きく足を開いた。

「このおまんこに秀明くんのおちんぽを挿れてください……」

 優那が両手をつかって足を開き、アソコを丸見えにさせる。
 そして、緩んだ顔をこっちに向けてねだってきた。
 もしかしたら、その時点で優那も少しおかしくなっていたのかもしれない。

 だけど、それ以上におかしくなっていたのは俺の方だった。
 腰を屈めると、優那の足を抱えてアソコにチンポを宛がう。

「そんなに欲しいなら挿れてやるよっ」
「はんっ! ああっ、おちんぽきたぁあああああっ!」

 すっかりトロトロになっていたその中にチンポをねじ込むと、嬌声を上げて優那が体を反らせた。

「なんだ? また挿れただけでイッたのか?」
「うんっ、イッたの。私、イッちゃったぁ……」
「そんなにチンポが気持ちいいのか?」
「うんっ、いいのっ、秀明くんのおちんぽ気持ちいいのぉ……」
「そうか。だったらもっと気持ちよくなれっ! 俺のチンポをいっぱいに感じてもっともっと気持ちよくなれっ!」
「はいっ……ひゃうっ! はんっ! ああっ、すごいっ、すごいのぉっ!」

 俺が腰を動かしはじめると、優那はたちまち身をよじって派手に喘ぐ。
 もちろん、もろに体が繋がっているから優那の心の声もどんどん流れ込んでくる。

(すごいいいっ! 秀明くんのおちんぽすごく感じるっ! なにこれぇっ、いつよりもずっと気持ちいいっ!)

「そんなに気持ちいいか? 気持ちよかったら気持ちいいって言えっ!」
「はひぃっ……気持ちいいっ! 秀明くんのおちんちんでズボズボされて気持ちいいですっ! ……んひいっ! はうっ、気持ちいいようっ!」

(ふあああっ! だめっ! こんなのすごすぎるのっ……気持ちよすぎてっ、またイッちゃうっ!)

「いいぞっ、優那! さあイクんだっ!」
「ひゃいっ! ああっ、イクイクイクッ、イクぅううううううっ!」

 俺が命令すると、優那の体がキュッと反り返る。

「んふぅううううっ! 秀明くんに命令されてイッちゃったぁあああ……んっ!? ひゃうううっ!」
「ほらほら、俺はまだイッてないぞ。おまえももっと頑張るんだ」
「はひっ……んっ、ふぁあああああっ、気持ちいいっ! 気持ちよすきてっ、またイキそうっ!」
「そうか、ならイケぇっ!」
「ひゃっ! イックぅうううううううっ!」

 俺が命令するたびに、優那が体をビクビクと震わせて絶頂する。
 アソコはずっとチンポを締めつけっぱなしだ。

「はふぅううううっ……まだおちんぽ固いのっ! はゅうぅんっ! そっ、そんなにズボズボされたらっ……!」
「いいぞっ、イケッ! イキまくれっ!」
「ひゃいいいっ、イキますっ、イカせてもらいますっ! ふぁああっ! イクぅうううううっ! ……やぁっ!? イッてるのにまたっ!? ……イクイクイックぅうううううううううっ!」

(ああ……秀明くんに命令されてイクの止まらないよぉ……。こんなすごいの初めて……。すごいよぉ……命令絶頂気持ちよくて、すごすぎぃ……)

 体をガクガクさせながら、優那は何度も何度も絶頂する。
 意識が飛びそうなのか、伝わってくる気持ちもすこし弱々しくなっていた。
 それに、言葉遣いもなんだかいつもの優那と違ってきてる。
 まるで、僕のことをご主人様とでも言いそうな感じだった。

 しかも、優那の中はものすごく熱くなってチンポを締めつけっぱなしだ。
 さっきからギチギチに締めつけられているところにピストンを繰り返してるからもう限界が近かった。

「くううっ! 俺ももうイキそうだ!」
「イッって! イッてください! 熱い精液いっぱい出してくださいぃいいいっ!」
「よしっ! じゃあ射精されてイケぇっ!」
「はひぃいいいっ! 精液どぴゅどぴゅされてっ、はしたなくイッちゃいますっ! ……ふあああっ! イクイクイクイクぅううううううううっ!」

 こみ上げてくる射精感に任せて思いきりぶちまけると、優那の体が持ち上がるくらいに反って固まる。
 そのままふたりして体をひくつかせて最後の一滴まで精液を絞り出し、その場に体を投げ出す。






「……はっ!? 俺、なんてことしちまったんだ!?」

 狂気に支配されたようなセックスの余韻から醒めてやっと我に返った。

「優那っ、大丈夫か!? ごめん! 俺は……俺はなんてことを……? 本当にごめん!」
「……えっ? 秀明くん?」

 俺がその場に両手をついて謝ると、優那が体を起こしてきょとんとした表情を浮かべる。
 どうやら優那も正気に戻ってるみたいなのに少しだけ安心する。

「俺、ひどいことをおまえにしてしまって……命令して無理矢理あんなことさせて、そのうえ……」
「そんな……謝らないで」
「……っ!」
「秀明くん?」

 こっちに手を伸ばしてくるのをのけ反るようにして避けると、優那は怪訝そうに首を傾げた。

「ごめん……本当にごめん……」
「いったいなにがあったの? 今朝から様子が変だったし、謝るだけじゃなにもわからないよ。ねえ、なにが起きてるの? お願いだから私に話して」
「うん……実は……」

 咎めるでもなく、本当に俺のことを気遣うような優那の口調に、これ以上黙っておくような不誠実なことはできなかった。
 俺は、今朝から自分の身に起きている異変のことを全部話した。
 体の触れた他人の感情や思いが、それも暗くて重いものばかりがどんどん流れ込んでくること。
 しかも、それが自分の心の中にどんどん溜まっていって、俺の心をおかしくさせていったこと。
 自分の心の中がそんな負の感情でいっぱいになっていたところに、優那の柔らかくて温かい気持ちが流れ込んできた瞬間にわけがわからなくなってしまったこと。

「ごめん……俺の心がもっと強かったらこんなことにならなかったのに……。俺に触れたときの優那の優しい気持ちに縋ってしまった。そして、そのまま俺の心が暴発して……本当にごめん……」
「そんなに謝らないで、秀明くん。こんなことで私は怒ったり嫌ったりしないから」

 すっ、と本当に優しい動きで優那が抱きしめてきた。

「……優那?」
「私こそごめんね。秀明くんがそんなに苦しい思いをしてたのに気づいてあげられなくて……」

 俺の頭をそっと抱きながら、優那が耳許で囁く。
 同時に、優那の想いがいっぱいに伝わってきた。

(私がもっと早く気づいていたら……秀明くんの心が限界に来る前に私の想いを伝えることができていたら……)

「そんな……優那のせいじゃないよ。全部俺が悪いんだ。俺が……俺がこんな力なんか持って生まれてきたから……俺の心が弱かったからこんな……」
「そんなに自分を責めないで。本当に辛かったんだよね? 私は、自分の心が孤独とか不安とか絶望とか、そんな重くて暗い思いでいっぱいになる辛さをわかってるから。自分の気持ちでも辛いのに、他人の嫌な思いで自分の心がいっぱいになっていくなんて、そんなの誰にも耐えられないよ。だから、秀明くんのせいじゃないの」
「優那……」

(絶望で心がいっぱいになって、完全に心が折れてしまっていた私を秀明くんが救ってくれた。だから今度は私の番。秀明くんが苦しんでるなら少しでも私が楽にしてあげたい。秀明くんの支えになりたい)

 優那の言葉と、伝わってくる想いが俺の中に染み込んでいくように感じた。
 そのせいか、さっきまであんなに俺の中に澱んでいた暗い情念が少し晴れたように思える。

「それに、本当に怒らなくていいんだよ。私は全然嫌じゃなかったし」
「そんなはず…………え?」

 不意に俺の中に飛び込んできた優那の気持ちに、思わず戸惑ってしまう。

(はじめは驚いたけど、すっごく気持ちよかった。秀明くんとのセックスはいっつも気持ちいいけど、さっきのは今までで一番すごかった)

「今の秀明くんは、私の思ってることがわかるんでしょ?」
「え、でも……そんな……」
「さっきのセックス、本当に気持ちよかった。フェラチオでイッちゃったのも初めてだし。……すごいね、秀明くんの力ってあんなこともできるんだ」
「本当にそう思ってるの?」
「本当かどうか、秀明くんにはわかってるでしょ」

(秀明くんに命令されてあんなに気持ちよくなって、命令されて何度もイッて、あんなすごいのクセになっちゃうかも。もっともっと命令セックスして欲しいな……)

「そんな……エッチすぎるよ、優那」
「でも、それぐらいすごかったの。ああいうのだったら何度されても大歓迎だよ。だから、本当に謝らないで」

(そんなに謝られたら私からお願いしにくいじゃない。もっともっとエッチな命令をして欲しいのに……)

 優那から伝わってくるいやらしくて積極的な想いを感じると、なんだか体が熱くなって興奮してくる。

「あ、秀明くんのおちんちんまた大きくなってるよ」
「や……それは優那があんまりエッチなこと考えてるから俺も当てられて……」
「ねえ、せっかくだからもう一度セックスしよ。ほら、こんなにおちんちんガチガチになってるし、またいっぱい命令して私を気持ちよくさせて」
「やっぱり、命令しないとダメなの?」
「うん、お願い」

 俺のチンポを愛おしそうに擦りながら優那がねだってくる。
 もちろん、その伝わってくるその思いは命令されたいという期待でいっぱいだった。

 結局、優那の気持ちに押されて俺たちはその後2回もセックスしたのだった。





* * *







 その後、俺の状態がだいぶ落ち着いてから一緒に学校を出る。

 電車の中ではドアの脇に立ち、他の人と体が触れないように優那が俺の体を抱いてくれていた。

(大丈夫……秀明くんは私が守るから。だから安心して……)

 黙っていても、俺を守ろうとする優那の想いが痛いほどに伝わってくる。
 まだ俺の心の中には澱のようなものが残ってはいるけど、もう暴発しそうな気配はない。
 それほどまでに、優那への感謝の思いと愛しさが大きくなっていた。








「お、やっと帰ってきたか」
「瑞穂ねぇ……来てたんだ」

 優那とふたりで俺の家に戻ると、瑞穂ねぇが出迎えた。

「そりゃそうさ。あんたに聞いた日が正しかったら今日のはずだからな。……うん、ひでぇ面してんな。やっぱり来たか?」
「ひどいよ。知ってたんならどうして教えてくれなかったんだよ?」
「ああ、それは無理なんだ。一族のしきたりでね、封印が解けて28日後に来るこれはいわば力を手にする者の最初の試練だから、なにが起きるのか事前に教えたらいけないことになってるんだ」
「そんなぁ……」
「まあ、あたしもちょっと心配だったんだけどね。こいつは能力が強ければ強いほど反動も大きくなるんだ。あたしのときもだいぶ酷かったし、あんたが貴明叔父さんの封印を自力で解いたってぇのが本当だったらかなりキツかったはずだからね。……うん、でもそれほどじゃなかったみたいだな」
「……優那が守ってくれたんだ」
「へぇ……」

 なんとも言えない笑みを浮かべて、瑞穂ねぇが俺と優那の顔を見比べる。

「優那ちゃん」
「あ、はい……」
「こいつになにがあったのかは聞いてるんだよね?」
「はい、聞きました」
「じゃあ、悪いけどちょっとこいつ借りるね。まずはこいつに起こってることを片付けないといけないから。お礼はその後でね」
「いや、あの、お礼なんて……」
「いいのいいの。あたしからね、ちょっと優那ちゃんに話しておきたいこともあるからリビングで待っててね」
「あ、はい……」
「それじゃあ秀明、こっちに来て。とりあえずその力を抑えないと日常生活に困るだろ」
「うん。お願いするよ、瑞穂ねぇ」
「バーカ、秀明が自分で自分の力を抑えるんだよ。あたしはやり方を教えるだけだからね」
「わかったよ」
「じゃあさっさとこっち来な」

 俺の手を引いて、瑞穂ねぇは俺の部屋に入っていく。






* * *







 部屋に入ると瑞穂ねぇは俺をベッドに座らせた。

「さてと、本題の前にまず、あんたはうちの一族の力とその由来についてどれだけ聞いてる?」
「なんか、サトリっていう妖怪の血を引いてるんだろ。そのせいで一族の人間は多かれ少なかれこの能力を持ってるってくらいは聞いてるけど」
「うん。でもな、例えばあんたが優那ちゃんに使った力は純粋なサトリの能力じゃないんだ」
「どういうこと?」
「言ってみれば、あたしたちが受け継いでるのはサトリと人の力のハイブリッドってことかな。そもそも、伝わってる話じゃサトリと、それを調伏に来た巫女が恋に落ちて生まれた子供がうちの祖先になるらしいんだ。……ちょっと、この字を見てみ」

 そう言うと、瑞穂ねぇは机の上のメモに『覚』という字を書いた。

「……これがどうしたの?」
「サトリっていう妖怪には、この漢字を当てるんだってさ」
「え? ……ってことは?」
「そう、うちの家の覚内って名字はサトリを内に宿してるっていうのが由来になってるんだろうね」
「で、一族の由来と俺に起きたあれとどういう関係があるっていうのさ?」
「ああ、さっき言ったように、あたしたちの一族が使う能力っていうのはご先祖様の父親であるサトリの力と母親である巫女の霊力が合わさったハイブリッドな力なんだ。で、この能力は今の中学生くらいの年齢で発現してくるんだけど子供には制御が難しいんで、いったんその年齢になる前に封印を施して、18歳になったときに改めて封印を解いて能力を扱う修行を始めるっていうのがしきたりになってるわけだな」
「あっ、だから父さんは中学に上がる前に俺に封印をかけたのか」
「そういうこと。で、実はうちの一族に発現するのはそのハイブリッドな能力だけじゃなくてもうひとつあるんだ」
「もうひとつ?」
「そう。それが今日おまえの身に起きたことだよ」
「これが? これも一族の能力じゃないの?」
「まあ、一族の能力っちゃそうなんだけど、いわばこっちは妖怪サトリの本来の能力だな」
「サトリ本来の能力?」
「ああ、もともとサトリは近づいてくる相手の心を覚ることができる妖怪だからその名前で呼ばれてるんだけど、あたしたちにもその能力は現れる。もちろん、サトリみたいに近づいた者の心を読み取れるほど強くはなくて、体の触れた相手の心を感じ取るだけなんだけどね。そして、サトリの力は能力の封印が解けて月の周期が一巡りしたとき、つまり28日後に発現するのさ」
「あ、それで28日なのか……」
「そう。そして、こっからがちょっと重要な話になるけど、相手の心を感じ取るって言っても心の中で思ってること全部がわかるわけじゃないんだ」
「……どういうこと?」
「この力で感じ取ることができるのは人間の負の感情だけなんだよ。もともと、妖怪であるサトリ自身が相手の陰の気、つまりよくない心を読み取る存在だったらしい。理由はよくわからないけど、相手の敵意とか攻撃的な考えを読み取れたら自分の身を守る役には立つよな。で、サトリはその能力を使って、自分に害意や敵意を持った人間をからかったり痛めつけたりしていたらしい。そんな能力だから、相手の明るい気持ちや善良な心を読み取ることはできないんだよ」
「……あっ! それでっ!」
「ああ。あたしも経験したことだからわかるけど人間不信になるよな。こんなご時世だから誰だって心の中に闇のひとつやふたつ抱えてる。そうでなくても人間には誰にだっていい面と悪い面もある。それなのに、相手の顔は笑っているのに心の中のいいところは全く伝わらずに汚い面ばかりを見せつけられたら誰も信じられなくなるさ。そのうえ、さっきも言ったことだけど受け継いだ力が強い人間ほど相手の心の奥のより暗い感情を感じ取ってしまうし、それを自分の心に取り込んで共鳴してしまうんだ」
「ああ……それでか……」

 瑞穂ねぇの説明でようやく全てが理解できた。
 この力はもともと相手の負の感情だけが伝わるようになっていたからそれしか感じなかったし、俺の力がなまじ強かったせいでそれに引きずられてしまったんだ。
 あれ? だけど……?

「でも、瑞穂ねぇ……」
「ん? なんだい?」
「優那からは負の感情は全く感じなかった。ただただ俺のことを心配して気遣ってくれてる想いだけが伝わってきてたんだよ」
「うーん……実はね、サトリが相手のいい心を読み取る条件がひとつだけあるんだよ」
「条件って?」
「相手が負の感情を一切持ってないこと。つまり純真な心を持った相手からはその純真さしか伝わらないんだってさ。そもそも、サトリを調伏、つまり退治しに来た巫女とサトリがどうして恋に落ちたかっていうとね、その巫女は里の人間から山奥にサトリという悪い妖怪がいると聞いて退治に向かったんだ。彼女は純真な心を持っていて、それ故に里の人間の話を信じ込んでそんな悪い妖怪なら退治しようと思ったんだね。だから彼女の心には悪い妖怪を退治して里の人を救いたいという思いしかなかった。そして、山の中でサトリと相対したとき、巫女の純真な心を読み取ったサトリが涙を流したのを不審に思って涙の理由をサトリに尋ねたんだって。で、そうやってサトリの話を聞いているうちに相手が悪い妖怪じゃないってことに気がついて、そうやってお互いのことを語り合っているうちに恋に落ちてそのまま夫婦になったっていうのがうちの一族の始まりなのさ。まあ、あんまり野暮なことは言いたくないけど、つまりそういうことだね」
「ちょっ、それって……?」

 瑞穂ねぇの説明に、ちょっと驚いてしまった。
 俺は一度優那の心に潜ってるから、そこにあった闇を知ってる。
 だけど、瑞穂ねぇの説明じゃ今の優那の心にそういう負の感情は一切ないことになる。
 それってつまり……。

「なんだぁ? ホントに野暮だね。全部あたしに言わせるつもりかい?」
「あ、いや、うん……瑞穂ねぇがそう言うんだったらそうなんだろうな。……あのね、瑞穂ねぇ」
「なんだい?」
「本当はね、放課後の時点でとっくに限界を超えてたんだ。自分の中に溜まった他人の負の感情に、完全に押しつぶされそうになってた。そんな俺を優那が救ってくれたんだ。帰りの電車の中でも、俺の体が他の人と触れないように体を張って庇ってくれてた。そのときに優那から伝わってきたのは俺のことを守りたいって想いだけだったんだ」
「ふーん、それは惚気と受け取っていいのかい?」
「あのなぁっ!」
「はははっ、冗談だよ。あんまり秀明と優那ちゃんがラブラブだからからかってみたくなっただけだから」
「野暮なことは言いたくないって言った人間が一番野暮なこと言ってるじゃねぇか!」
「ごめんごめん。……秀明、あんた優那ちゃんに感謝するんだよ」

 たった今までニヤニヤとゲスな笑みを浮かべていた瑞穂ねぇが急に真顔になる。

「……わかってるよ」
「さてと、それじゃ今日あんたに起こったことと一族の能力の由来についてはこれくらいにして、封印が解けたからにはこれから能力をちゃんと扱うための修行をさせてもらうよ」
「修行って?」
「ああ、そんな心配そうな顔をすんなって。別に山に籠もるとかそんなことはしないから。ただこれから1年くらいの間、週に2、3回あたしの指導を受けて能力の扱い方を習得してもらうんだよ。さっきも言ったようにあたしたちが受け継いでいる能力は妖怪サトリの力と巫女の霊力の混じり合ったハイブリッドなものだからね。これからあたしが教えるのは、サトリと巫女の子供たちが母親から習った呪術をベースにして自分たちが持って生まれた能力をコントロールするために編み出した術なんだ。それをあたしたち覚内一族は代々受け継いできた。もちろん、封印が解けてすぐに使える力もあるけど、やり方を習わないと使えない呪術みたいなものもあるからね」
「そうなんだ。俺はてっきり封印が解けたら使えるようになる能力なんだって思ってた」
「あんたね、自分がやったことはかなり危険だってことをちゃんと理解しな。やり方も知らないでいきなり人に能力を使って。あたしたちが持ってるのは、一歩間違えたら優那ちゃんの心を壊してたかもしれない、そんな危険な能力なんだよ」
「う……ごめん……」
「まあ、優那ちゃんの命を助けるための緊急事態だったわけだし、結果的にうまくいったわけだから、あんたが反省してるならあたしはいいんだけどね」
「ホントにごめん。瑞穂ねぇにもいろいろ迷惑かけて。それに、俺の修行の面倒も見させて……」
「ああ、そのことはいいんだよ。どのみちあんたの封印を解いた後の指導はあたしがすることになってたんだから。それが少し早くなっただけさ。……本当はね、こんな力はなるべく使わないにこしたことはないんだ。人の心をどうにかしようなんて力は相手にとってもあたしたちにとっても危険すぎる。そう考えて、うちの一族はなるべく力を使わないようにして生きてきたんだ」
「うん、それはなんとなく俺にもわかるよ」

 瑞穂ねぇ言うことは、俺には実感として理解できた。
 俺は優那のことが好きだ。
 だからこそ、好きな相手に本当はこんな力を使ったらいけないって思うし。

「ただ、一族の人間に能力が発現するのは止められないし、能力が現れた以上はそれをきちんとコントロールできるようにならなきゃいけない。誤った使い方をしないようにね。だからそのための修行をこれから始めるの。で、今日することはまず、そのサトリの力で他人の感情が流れ込んでくるのを止めることだよ」
「そんなにすぐできるものなの?」
「いや、できなきゃ日常生活に困るだろ。他人の負の感情が流れ込んでくるっていうのはサトリが妖怪だからこそなんともなかったわけで、混血とはいえいちおう人間であるあたしたちその末裔の精神力じゃとても耐えられるもんじゃないからね」
「それもそうだよね。で、どうやるのさ?」
「自分の心の中に潜ってサトリの能力のもとになってる場所に栓をするんだよ」
「自分の心の中に? そんなことできるの?」
「だからそのやり方をこれから教えようってんだろ! ……秀明、あんた優那ちゃんの心に潜ったときどういう風にやった?」
「どうって……優那の頭に手を当てて、自分自身をその中に流し込むように念じたんだ」
「うん、まあ基本的な潜り方としては合ってるかな。じゃあ、それでいってみようか。自分で自分の頭に手を当てて、意識を中に流し込むようにしてみな。ただ、他人の心に潜るときと感覚が微妙に違うしかなり集中力が必要だからね」
「わかった。こんな感じ? ……あれっ?」

 自分の額に手を当てて、あのときのように強く念じてみる。
 優那やあの男の心に潜ったのと同じくらい集中してるのに、潜れる気配がない。

「自分の心に潜るって意識するとかえってうまくいかないぞ。むしろ自分の心のことは意識するな。額に当ててる手のひらの感覚だけに集中して、その向こう側に自分自身を流し込むよう意識してみるんだ」
「うん……」

 瑞穂ねぇに言われたとおり、自分の手のひらの感覚だけを意識する。
 そして、その向こう側に自分自身を流し込む……。

 ……うわぁっ!

 次の瞬間、周囲の世界が反転したような気がした。
 そして、ふわふわと宙を漂っているようなあの感覚の中にいた。




◆◆◆





「俺……うまく自分の心の中に入れたのか?」

 思わずそんなことを呟く。
 今、こうやって考えて呟いている俺の心があるのに、その俺がいるここも俺の心の中だなんてなんか不思議な感じだ。

 と、そのとき周囲に声が響いた。

『どうやらうまく潜れたみたいだね』
「えっ、瑞穂ねぇ? どこにいるの?」

 聞こえてきたその声は間違いなく瑞穂ねぇの声だった。

『今、あたしは力を使ってあんたの心の中にダイブしてるんだ。とはいえ、ひとりの心にふたり同時に潜るのは秀明の心に負担がかかりすぎるから、姿を形作れないくらい軽くにだけどね。そんなわけで、声だけで指示を出させてもらうよ』
「うん、わかった」
『じゃあ、真っ直ぐに潜って行っちゃって。あんたの心の底が見えるまで』
「うん」

 瑞穂ねぇに言われるままに、真っ直ぐ下に潜っていく。

 相手の心に潜る強さの微調整までできるなんて、ちゃんと修行したらそんなことまでできるようになるんだ……。
 それにしてもやっぱり瑞穂ねぇはすげえよな。
 ……ん? あれは?

 潜っていくと、心のあちこちに記憶のパネルが浮かび始める。

 やっぱり優那との記憶が多いな……。
 こういう関係になってまだ1ヶ月近くなのに。
 ていうか、エッチなことしてるのが多いな……。

 まさか、自分の心の中をこうやって客観的に見ることになるなんて想像もしたこともなかった。
 っていうか、優那との記憶のひとつひとつにキラキラと輝くような明るい暖色系の帯が絡まってるのを見るとさすがに自分でも恥ずかしくなってくる。
 ……嬉しがりかよ、俺。

 そんな記憶のパネルの浮かぶエリアを抜けて、心の最深部に近づいていく。
 それと同時に、絡みつくようなねっとりした感じと息苦しさを感じる。

『苦しいか、秀明?』
「うん、なんか重たくて息苦しい感じがする」
『それは、今日おまえが取り込んだ他人の負の感情の名残だな。おまえの心の深いところに溜まってたドロドロした澱がまだ残ってるんだよ。でも、思ってたほど酷くないね。本当に優那ちゃんに感謝だな、これは』
「うん、わかってるよ」
『でだ、もっと潜ってそのドロドロが一番濃くなってるところまで行くんだ』
「うん」

 瑞穂ねぇの指示に従ってさらに潜っていくと、ドンと床みたいなものに突き当たった。

 ……これが俺の心の底なのか?
 で、このドロドロの濃いところって……ん?

 なんとなく、このまとわりつくドロドロに流れがあるように感じた。
 それが流れていく先の方向に歩いて行く。
 すると……。

「……これは?」

 目の前に見えたのは、四角い井戸のような穴だった。
 その穴の中にドロドロが流れ込んでいってるのがわかる。

『着いたみたいだね。それがおまえの心に現れた、サトリの能力の発現した場所だよ』
「これが?」
『ああ。ドロドロした感情の澱がどんどん流れ込んでいってるだろ? それはサトリの力が人の陰の気を引き寄せてるんだよ』
「じゃあこれを放っておけばこのドロドロは全部流れて行っちゃうんじゃないの?」
『バカ。その穴が空いてたら際限なく他人の負の感情が流れ込んでくるから意味ねーよ』
「あ、そうか」
『そんじゃ、その穴を塞ぐ栓を作るぞ。やり方はだいたいわかるよな? そいつを塞ぐものを強くイメージするんだ』
「うん」

 優那の心の中に俺の姿を置いたときと要領は同じってことか。

 言われたとおりにその穴を塞ぐものをイメージすると、形も大きさも穴をぴったりと塞ぐ大きさの板が浮かび上がった。

「こうかな?」
『バカか。そんな板っ切れじゃ3日も保たねぇよ。もっと頑丈なのをイメージするんだ』
「頑丈なの? ……これくらい?」

 瑞穂ねぇに言われてもう一度強く念じると板が一回り大きくなって、厚みも50cmくらいになる。

『それで2、3週間ってくらいかな。できれば秀明の身長くらいの大きさは欲しいなぁ』
「そんなに!?」
『まあ、強度にもよるけど力の使い方にまだ慣れてない秀明が作った栓じゃそれでも2ヶ月保たないよ』
「そんなぁ……」
『言っただろ、修行が必要だって。力の扱いに慣れたら数十年は保つ強さの栓も作れるようになるさ。でも、とりあえず今はこいつに栓をするのが最優先だし、こうやって秀明が自分の力でやってみるのが大切なんだよ。一度やり方を覚えたら次からは栓が外れても自分で対処できるだろ』
「な、なるほど」
『じゃあそいつをもっとでかくしろ』
「わかったよ。……くっ! くうううううう……っと。……はぁはぁ……こ、これでどうかな?」

 瑞穂ねぇに言われてもう一度集中すると、作り出した栓がちょっとした柱みたいになった。

『うん、上出来上出来。そんなもんでいいだろ』
「なんか、ここで作業するのすげー疲れるんだけど」
『当たり前だろ。そんな心の一番深い場所で、そんな澱に包まれて力を使ってるんだから消耗も激しいさ。……じゃあ、とっととそいつで穴に栓をして上がってこい』
「うん、わかった」

 俺は、作った栓で慎重に穴を塞ぐと上に向かって浮上をはじめる。




◆◆◆





「ぶはぁあああっ! あー、しんどかった!」
「お疲れさん」

 自分の心へのダイブを終えると、瑞穂ねぇがポンと肩に手を置いた。

「どうだい? あたしの感情が伝わるかい?」
「……ううん」
「よし、じゃあサトリの力に栓をするのは成功だな。さっきも言ったように扱い方を覚えたらもっと頑丈な栓を作ることもできるし、自由に栓を外してサトリの能力を解放できるようにもなるよ。それと、これは一族同士でないとあり得ないしそんな機会もたぶん一生ないけど、相手に自分の心を読みとられないようにガードする方法もあるから、これから時間をかけてみっちりと教えてやるよ」
「お手柔らかにね、瑞穂ねぇ」
「いや、あたしはスパルタでしごく主義だから」
「マジで!?」
「冗談だよ。……さてと、今日のところはこれだけにしとこうか。ああ、それと秀明」
「なに?」
「それとは別に、あたしのとこの道場で合気道を習わないか? あたしがしっかり鍛えてやるからさ」
「いきなりなんだよ?」
「いや、この前優那ちゃんに聞いた話じゃあんた、あの子を脅してた相手にボコボコにやられかけたらしいからな」
「いや、それは……」
「でもな、秀明。あたしたちはこんな能力を持った一族だ。まあ、この先何かあるかわからないから最低限でも身を守る術は身につけておいた方がいいし、なによりこの力ってけっこう体力も使うからその体力作りっていう意味もある。まあ、子供の頃からあんたがケンカしたしたとかいう話はほとんど聞かないし、そういう優しいところが秀明の良さだと思うけどあんまり無茶はして欲しくないんだよ。もし、この間の相手との力の差が大きすぎて力を使う前にやられてたらどうするつもりだったんだ?」
「う、それは……」
「今回あんたは優那ちゃんを守ることができたけど、やっぱり大切な人をちゃんと守れる力は必要だってあたしは思うんだ。だから、ちょっとうちの道場に通わないか?」
「……うん、考えておくよ」
「前向きに頼むよ。……さてと、それじゃ優那ちゃんを呼んできてくれる?」
「優那となんの話をするの?」
「んー、ガールズトーク」

 俺が訊いても、瑞穂ねぇはニヤッと笑ってそう答えただけだった。






* * *







 秀明くんに呼ばれて瑞穂さんとふたりっきりになったけど、話っていったいなんなんだろう?

 今回も待ってる間はずっと不安だったけど、出てきたときの秀明くんの顔を見てうまくいったんだって確信した。
 それに、秀明くんの部屋に入った私を瑞穂さんはあの優しい笑顔で迎えてくれた。

「ありがとう、優那ちゃん。秀明を守ってくれたんだってね」
「そんな……私はただ秀明くんの事が心配で、なにかしてあげたかっただけで……」
「その気持ちが嬉しいの。本当にありがとう」
「いえ、そんな、瑞穂さんにそんなお礼を言われると困っちゃいます……」

 いきなりお礼を言われて、どう答えていいのかわからない。
 だけど、瑞穂さんが秀明くんのことを大切に思ってることは伝わってきた。

「あの、それでね優那ちゃん……」
「はい?」
「えっと、あの……」

 急に瑞穂さんが話しにくそうにしはじめる。
 それも、言いにくいことを言うというよりも恥ずかしがってるみたいな感じ。

「どうしたんですか?」
「いや、あの、こんな話をするのはデリカシーがないんだけど、その……秀明とはセックスしてるんだよね?」
「はい」

 いきなりそんなことを訊かれてちょっと驚いたけど、前回のときに私と秀明くんのことは全部話してるから素直に頷く。

「それで、もちろんちゃんとゴムはしてるよね?」
「いいえ」

 私の返事に、瑞穂さんの顔色が変わった。

「あのバカ! なに考えなしに生でやってんだよ! ごめん、ちょっと行って締め上げてくるから」
「わっ、わっ! 待って! 待ってください!」

 立ち上がって出ていこうとした瑞穂さんを慌てて止める。

「でもあたしは後先のことも考えずに生でセックスするような子に育てた覚えはないから! ほんとに秀明ったらなに考えてんのよ!」
「それは私が悪いんです! 私が避妊とか全然考えてなくて……むしろ私が求めたんです! それに……私の体はとうの昔に汚れてますから……」
「あ……優那ちゃん……」

 私の言葉に、瑞穂さんがハッとした表情で座り込む。

「瑞穂さんにはこの前お話ししましたよね。私の体はあの男に汚されてるんです。もちろん避妊なんてしてなかった……。今まで私が妊娠しなかったのは運がよかっただけで、もしあの男の子供ができていたらって思うとゾッとします。でも……そんな私のことを秀明くんは好きだって言ってくれたんです。こんな汚れきった私のことを……。それに私も秀明くんのことが好きなんです。たとえそれが秀明くんの力でそう思わされたものでも、私は秀明くんのことが大好きなんです。だから秀明くんとの子供なら全然構わないっていうか……むしろ秀明くんとの子供なら欲しいっていうか……」

 やだ……私ものすごく恥ずかしいこと言ってる。
 でも、本当にそう。
 秀明くんとセックスするときに避妊なんて考えたこともなかった。
 それは、あの男のせいでそういう感覚が麻痺してたのもある。
 だけど、今ならはっきり言える。
 秀明くんとの子供ができたら、すごく嬉しいかもしれない。

 そんな私を見て、瑞穂さんは呆れたような、でもどこか優しい表情を浮かべた。

「うん、でもね優那ちゃん、あなたも秀明もまだまだ子供なんだから、そういうのは将来の見通しが立ってからにした方がいいと思うよ」
「はい、すみません……」

 それはそうだよね。
 この場合瑞穂さんの言ってることの方が絶対に正しい。
 だから素直に謝ると、瑞穂さんはクスッと小さく笑った。

「……瑞穂さん?」
「まあ、残念だけど優那ちゃんの願いはすぐには叶わないのよね」
「どういうことですか?」

 言ってることの意味がわからなくて尋ね返すと、瑞穂さんはなんとも言えない表情を浮かべて嘆息した。

「あーもう、本当は生で出されててそれを優那ちゃんが気にしてたら気休めになるかなって思ってたのに、そんな嬉しそうな顔して秀明との子供が欲しいなんて言われたら逆効果じゃない」
「えっ? ……えっ?」
「あのね、優那ちゃん。あたしたちの家系にサトリっていう妖怪の血が入ってることは知ってるわよね?」
「はい」
「その血のせいでね、普通の人とうちの一族の間ではすぐに子供はできないのよね」
「えっ? そうなんですか?」

 その言葉を聞いた瞬間、頭をガツンと殴られたように感じた。
 うそ……私、そんなにショックだったの?
 秀明くんとの子供ができないって言われて、私たちの未来にぽっかりと穴が空いたような、そんな気持ちになった。
 私、それだけ本気で秀明くんとの子供が欲しいって思ってたんだ……。

 だけど、瑞穂さんの次の言葉が私をホッとさせる。

「だからそんなに残念そうな顔しないの。絶対にできないわけじゃなくて、あたしたちの一族が持ってるサトリの血に相手の体が馴染むまで……そう、4、5年は子供ができないのよね」
「そうなんですか? ……あっ! それなら4、5年は秀明くんといくらセックスしてもいいって事ですよね?」
「いや、そんなに嬉しそうにしないでよね。さっきも言ったけど、あなたたちはまだ子供なんだからほどほどにね。まあ、セックスするなとは言わないけど」
「はい! ほどほどにします!」
「へ? ……ぷっ……ぷぷぷっ! ああもう、優那ちゃんには敵わないわ」

 思わず口から出た言葉に、クスクスと瑞穂さんが楽しそうに笑う。
 私、やっぱりこの人が好きだ。
 優しくて頼りになるお姉さんみたい。

 だけど、瑞穂さんが急に真剣な顔になって姿勢を正した。

「優那ちゃん、本当にありがとう。そしてごめんなさい」
「え? え? どうしたっていうんですか? そんな感謝されることも謝られることもしてないですよね?」

 いきなりそんなに改まって言われても、私は戸惑うばかりだった。

「いや、秀明のことでは本当に感謝してるのよ。だけど、それとは別にあたしからもどうしてもありがとうとごめんなさいを言いたかったの」
「どうしてですか?」
「さっきも言ったけど、あたしたちの一族と他の人の間ではなかなか子供ができないの。だけど、一族同士ならすぐに子供ができる。だからうちの家系では一族の中で年の近い者同士が結婚することがよくあるんだよね。でも、あまり同族の結婚ばかりだと血が濃くなりすぎるからできる限り外の人間との結婚も混ぜながら今までやってきたんだけど、もしかしたらあたしと秀明が結婚する可能性があったの」
「えっ!? そうなんですか?」
「まあ、うちの家は特に一族の本家に当たるからね。一族の能力を維持して本家の血筋をって考えるとそうなる可能性はけっこうあるんだよ。……そりゃね、あたしは秀明のことは好きだよ。でも、その好きっていうのは小さい頃から秀明のことを見てて弟みたいに思ってるっていう意味で、結婚相手として好きになるとか、そんなことは考えられないのよ。それは私は今の当主の娘だし、自分自身の事については覚悟ができてるんだ。秀明じゃなくても一族の男子の誰かを婿に迎えなきゃいけないんだろうって。だけど秀明は違う。あたしたちは従姉弟同士だけど、あたしは秀明のことを本当に弟みたいに思ってるから、あの子には自分で好きなった相手と幸せになって欲しいって思ってた。そこに優那ちゃんが現れてくれて、うん、秀明にはもったいないくらいのいい子だと思うけど、だからこそ優那ちゃんには感謝してるの。だけど、それは同時にこの面倒くさい家系のことに優那ちゃんを巻き込むことにもなるから、それが申し訳なくてあたしから謝っておきたかったの。あたしの言ってることはもしかしたら身勝手なことかもしれない。だけど、優那ちゃんにそれだけは言っておきたかった」

 そう言って、瑞穂さんは深々と頭を下げる。

 ……なんだろう?
 瑞穂さんの姿を見てると目頭がじわじわと熱くなってくる。

「謝らないでください。感謝してるのは私の方なんですから。私は秀明くんに命を助けられたんです。それだけじゃなくて、ずっとひとりぼっちだった私のことを秀明くんは好きだって言ってくれた。そのうえ、秀明くんのおかげでこうやって瑞穂さんにも出会えたんです。私も一人っ子だったから、瑞穂さんと知り合えて本当に嬉しいんです。瑞穂さんは優しくて、まるで本当のお姉さんみたいで……瑞穂さんがお姉さんだったらなって思うくらい……。う、ひっく……だから……だから私は……えぐっ……本当に感謝してるんです……ひっぐ……秀明くんに出会えて……そして瑞穂さんに出会えて……」

 話しているうちに自分でも気持ちが抑えられなくなってしゃくり上げて泣いていた。

「優那ちゃん……」

 話し終えて子供のように泣いている私を、瑞穂さんが優しく抱きしめてくれた。

「優那ちゃんさえよければ、あたしがお姉さんになってあげる」
「えぐっ……うううっ……ありがとうございます……」

 そのまま瑞穂さんの胸に顔を埋めて泣き続ける。
 瑞穂さんの胸は温かくて、優しさがいっぱいに伝わってきて、本当にお姉ちゃんの胸で泣いてるみたいだった。
 こうしてると私の胸も温かくなってくる。

「ひくっ……あの、瑞穂さん……」
「なに?」
「こんな顔で秀明くんに会うのは恥ずかしいから……涙が止まるまでもう少しこうしてていいですか? 秀明くんの前では笑顔でいたいから……」
「いいわよ」
「ありがとうございます……ありがとうございます、瑞穂さん……」

 よかった。
 秀明くんと瑞穂さんに出会えて本当によかった……。

 このふたりに出会えて知ったことがある。
 それは、嬉しくて出る涙があるんだっていうこと……。

 瑞穂さんの優しさに甘えて、私はしばらくの間そのまま泣いていたのだった。






* * *







「なんか今日はえらく長いな……」

 瑞穂ねぇと優那の話が終わるのを、俺はひとりリビングで待っていた。
 それにしてもかなりの時間が経ってる。
 いったいふたりでなにを話してるのか。





「……おっ、やっと話が終わったの?」

 ようやく俺の部屋のドアが開いてふたりが出てくる。

「ああ、待たせたね」
「ずいぶん長かったけどいったいなんの話をしてたのさ?」
「だからガールズトークって言ったろ」
「もう……なぁ優那、なにを話してたんだ?」
「うふふっ! 女の子だけの話だからヒミツ!」

 そう言って嬉しそうに笑った優那の笑顔が眩しくて思わず見とれてしまった。
 こいつのこんな笑顔は初めて見るかもしれない。
 だけど、初めて優那を見たときからこんな風に笑ったらかわいいだろうなって思ってた、弾けるような笑顔。
 そして、想像通りというかそれ以上にかわいかった。

「どうしたの、秀明くん?」
「いや、そうやって笑った顔がすごくかわいいなって思って……」
「やだっ、秀明くんったら!」
「おのれは人前でなにを惚気とるんじゃあっ!」
「ぐへぇ!?」
「きゃっ!? ……ぷっ、ふふふっ!」

 瑞穂ねぇの、つっこみというにはあまりに強烈なはたきをくらう。
 それで頭を抱える俺を見て、また優那が声をあげて笑った。

 眩い優那の笑顔を見て、嬉しいのはたしかに嬉しい。
 だけど、なにか引っかかるものがある。
 いや、それがなんなのかは自分でもわかっている。
 優那はこうやって幸せそうにしてるけど、もともとそれは俺の力がきっかけだから。
 それが本当にいいことなのか悪いことなのか……いや、よくないに決まってる。
 だけど、それをどうしたらいいのかわからなくなっている自分がいたのだった。

 
 


 

 

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