魔女見習いは年相応!?


 

 



第2話 後編




 目を開けたら真っ暗な世界が目に入った。真っ暗だと思ったけど、よく見たらちょっとだけ明るい。でも、見慣れない。

(寝ちゃってたんだ?)

 起き抜けの頭で、私はぼんやりと考えた。すると、おなかの中に残っている独特の感覚に気づいて、私が何でこんなところで寝ていたのか、やっと思い出した。

(あ、そっか、疲れて)

 気づいてみると、私は掛け布団を半分くらい被っていて、だけどその下には、なにも身につけてなかった。つまり、裸だった。
 でも、当たり前だから、別に驚かない。おなかの中、そして背中の感覚がそれを教えてくれている。

 今の私の中にはなにも入っていない。でも、お兄ちゃんのはおっきいから、お兄ちゃんのが出ていった後も、朝になるくらいまでは変な感じが続く。お兄ちゃんとは、もう何回もえっちしてるけど、私の身体がまだ大きさに慣れてないのかなと思う。
 私はこの感じが嫌いじゃない。えっちしたんだ、って気持ちになる。

(……そういえば、美怜ちゃんどうなっただろ)
 美怜ちゃんは今日、思い人の先輩とデートだった。実はちょっと前から、美怜ちゃんの恋の相談に乗ってあげていた。最初は先輩を見ているだけだったという美怜ちゃんだけど、私が美怜ちゃんに積極的になるようアドバイスしたら、踏ん切りがついたのか美怜ちゃんは先輩にアプローチするようになったみたいだった。
 私は枕元にあるはずのスマホに手を伸ばした。けど、私はベッドの真ん中くらいで寝ていたようで、ぜんぜん届かない。私は寝息を立てているお兄ちゃんを起こさないように、そーっと上にずり上がって、スマホを手にした。
 画面を見る。あれ、まだこんな時間なんだ――と思いながら、美怜ちゃんからの通知を探す。けど、なにもなかった。



 私は昔から、どういうわけか、恋の相談を受けることが多かったのだけど、この学園に来てからは、私がお付き合いしていることをクラスメイトどころか大半の同級生の女の子が知っているので、まるで占い師のおばあちゃんのように、恋愛相談を持ちかけられるようになっていた。
 だけど、女の子はやっぱり、だいたい奥手だ。私は相談に来た女の子に、私自身の失敗談も交えてもっと積極的になるようにアドバイスをするのだけど、そう簡単にはいかないことが多かった。私自身も積極的じゃなかったせいで寂しい思いをしたのだから、他人のことは言えないけど。

 そんな中で、美怜ちゃんはいち早く、先輩を射止めるために、積極的にアプローチをした子だった。特に今日は、とても気合いが入っていた。私と一緒にアパレルショップで買った服は、首元を大きく開けて、結構露出のあるやつだったのを思い出す。
 連絡はまだ来ていないけど、ということはもしかしたら今も二人は、どこかで二人でいるのかもしれない。そうだったとしたら、もしかしたらキスをして、もしももしかしたらどこかの部屋で……。

(私達みたいに?)

 ……なーんてことも、あるかもしれない。
 私はスマホをそっと枕元に戻して、ゆっくりと、寝返りを打つ。



 静かな寝息を立てているお兄ちゃんの顔が、私の目の前にあった。向こう側には、もう月はいなくなっていた。昏い昏い空が、遥かに広がっている。ちょっと前なら恥ずかしくてたまらなかったに違いないのだけど、さっきあんなことしちゃったせいか、今はあんまり気にならない。

 さっきのえっち、ちょっと悔しかったな……。

 お兄ちゃんの顔を見ながら、そんなことを考える。そして、私はお兄ちゃんの胸板に、鼻を近づける。



 すんすん。すんすん。



 男の人のニオイ。でもお父さんとは違う。お兄ちゃんはまだオジサンじゃないし、それに、私と同じ、魔女――いや、お兄ちゃんは男だから、えーと、魔人? の血を引いてる。って、魔人って言うならインキュバスでいーじゃん。
 お兄ちゃんの胸板は、さっきのえっちのせいで、ちょっと汗臭い。だけどその中にほんのり、違うニオイがある。どくだみになんとなく近くて、でも甘い感じもするニオイ。それがインキュバスのニオイだってのは、私の本能が知っていた。
 だって私、このニオイを嗅ぐと、全身の毛が逆立つみたいに、ざわざわするんだ。
 皮膚がざわざわして、落ち着かなくなる。落ち着かなくなって、身体全部が何かに触りたくなる。
 だから、お兄ちゃんに抱きつくと、とっても落ち着く。だけど、今は我慢する。抱きついたら起こしちゃう。

 でも我慢すると、身体がざわざわして、体中の全部が、だんだんビンカンになってくるのが分かる。

(ん……)
 ちょっと胸が張る感じがする。生理の時にもあるけど、ちょっと違う。お兄ちゃんに肉体改造してもらってるときとも、ちょっと違う。
 カンタンに言えば、えっちしたくなってきてる感覚。



 信じてもらえないかもしれないけど、私は、「えっちなこと」自体はそんな興味がある方じゃなかった。私が前からずっと考えていたのは、「お兄ちゃんに頭を『ぐちゅっ』てしてもらうこと」、そして「お兄ちゃんに大人の女として認めてもらうこと」で、それ以上、というかそれ以外のことを頭に浮かべることは、実はほとんどなかった。
 代わりに私が好きだったのは、もっとメルヘンチックな妄想や想像をすることで。例えば、カッコイイ男の子と一日デートした最後に夕日を二人で見つめてたと思ったら、いつの間にか二人の唇が近づいて……とか、そんな感じのことだった。そんな想像は、実はお兄ちゃんだけじゃなくて、いろんな男の人、あるいは男の子としていた。私に告白してくれた男の子「達」の中にも一人、私の想像の相手になっていた子がいた。だから私は、あの子の告白を受けるか、凄く悩んだのだ。もちろんそんなこと、お兄ちゃんには言えないけど。



 でも、実際にお兄ちゃんとえっちをするようになると、いつの間にか、私はえっちの魅力に取り込まれているのだった。
 えっちをするっていうのは、身体を繋げる以上に、心を繋げることなんだ、ってわかった。お兄ちゃんと心が繋がるのはとっても気持ちよくて、いつまでもえっちしていたい、って思っちゃう。お兄ちゃんが私を大事にしてくれるのは、えっちしてくれるときも同じで――



「はぁ」
 今度は思いっきり溜息が出る。



 お兄ちゃんとの関係にのめり込んでいってるのは、心の半分。
 だけど、私の中には、そんな私を冷めた目で見つめて、もやもやを感じている部分もある。

 えっち「してくれる」。それが、お兄ちゃん。えっちしてくれるのは嬉しい。えっちはきもちいいし、楽しい。だけどそれは、私がお兄ちゃんの彼女で、「妹」だから。私の魅力のおかげではない。



 そういえば最近、思うことがある。

 最近、不意にクラスメイトの男の子から、熱い視線を向けられることが増えてきた。
 それはきっと、男の子がえっちなことを考えているときの目。男の子からの「えっちな目」は、お兄ちゃんがえっちの時に時々見せる目と少し似ていて、それでいて全然違う。お兄ちゃんと違って遠慮や戸惑いや愛がなくて、ただえっちなことを考えている、目。
 私がそんな視線に気付くと、どの男の子も目を逸らして、なんでもないようなフリをする。でも、どんなに誤魔化そうとしても、一瞬でもその目を見れば――ましては、見知った相手からなら、私は忘れたりなんかしない。
 私の友達は、好きでもない男の子からそんな目で見られることを嫌がる子が多いけど、私はそうじゃなかった。男の子からの「えっちな目」は、えっちしたくなるくらい私が魅力的だと言われているみたいで、むしろ好きだった。自尊心をくすぐられる、っていうのかな。それも、女の子としてというより、魔女としての。
 だけど、クラスメイトの男の子はそんな「えっちな目」をくれるのに、肝心のお兄ちゃんがベッドの上以外で、それに近い目を向けてくるようになったのは、それこそつい最近なのだった。しかもその目はまだまだ、ホンモノには遠くて。



(私、そういうのが好きな女の子なんだよ?)
 目を閉じて、ツタ経由で、お兄ちゃんに伝えるフリをする。今はお兄ちゃんのツタが頭に刺さってないから、もちろんなにも伝わらない。
 反応しないお兄ちゃんの寝顔を、じいっと見つめる。カッコイイ? うーん、どうだろ。私が赤ちゃんの時から見慣れちゃってるから、よくわかんないな。でも、見てると心があったかくなるよ。



 だけど。

 やっぱり、もやもやする。



 きっと、お兄ちゃんにとって、私はまだ「大人じゃない」んだと思う。
 いつでも私を大事にしてくれるお兄ちゃんは好きだ。
 だけど、私は、お兄ちゃんが他の男の子と同じように、私を――お兄ちゃんにとって大事なはずの私を、大事にしていられないくらいに、熱くなったところが見たい。
 私がお兄ちゃんの恋人や、「妹」じゃなかったとしても、そして、ニオイで「魔女の誘惑」をしなくても、えっちしたいと思ってくれるような、魅力的な「大人の女」になりたい。
 私に見とれて、私とえっちすることしか考えられなくなった、お兄ちゃんの顔を見られれば。



 そうすれば、私はきっと満足する――










 ――ほんと?



 冷静な私の横で、お兄ちゃんに向けて好き好き光線を放っていたもう一人の「私」が、不意に振り向いた。

 声は聞こえない。
 でも、唇の動きだけで、分かる。



『ほんとに、それでいいの?』










 はっと、目を開ける。

「はぁ」

 いつの間にかうとうとしてたんだ、と気づいたときには、再び私は溜息をついていた。



 わかってるよ。って、心の中で「私」に答える。

 お兄ちゃんに一人の大人としてみてほしい私の横に、お兄ちゃんの「妹」であり続ける「私」がいる。



 私は、ランジェリーショップの前で、お兄ちゃんの友達と話したときのことを思い出す。

 私はあのとき、とっさに、私とお兄ちゃんとの関係をごまかした。お兄ちゃんの彼女ではなく、「妹」を演じた。
 ごまかしておいて言うのもなんだけど、何でごまかしたか私にも分からなかった。



 メンドいから?
 お兄ちゃんにごまかされるのが嫌だったから?
 私に、彼女としての自信がなかったから?

 今でもたまに思い返すけど、今でも答えは分からない。

 だけど、一つ確かなことがある。



 お兄ちゃんの目の前では、お兄ちゃんを「お兄ちゃん」って呼ぶのが、一番ラクだということ。



 生まれていたときから続けている「お兄ちゃんと妹」の関係。血はつながっていなくても、両親が違っても、お兄ちゃんと私は「兄妹」だと、今でも思ってる。
 この学園に来て、私はお兄ちゃんの恋人になった。だから私は、お兄ちゃんの「妹」で、恋人。
 「兄妹」で、恋人。恋人で、「兄妹」。
 どっちが大事、とかはない。
 私にとってはどっちも大事だ。



 心の中のモヤモヤが、深くなっていく。



 恋人で、「兄妹」。「兄妹」で、恋人。
 「兄妹」と恋人って、両立できるのかな。

 今は、両立してると思う。
 だけど、私の友達には、お兄ちゃんが私の「お兄ちゃん」だってことを、隠している。何となく、言いづらい。
 そして、お兄ちゃんの友達には、お兄ちゃんが私の恋人だってことを、ごまかした。何となく、言いづらかった。

 何がヘンかは私も分からない。でも、何かがヘンなんだと思う。



 そして、私の思考が、もやもやの真ん中、暗いところに近づいていく。

 やっぱり、両方とも、って、できないのかなあ。


 私は、どっちかを選ばなくちゃいけないのかな――



(やだ)
 これ以上考えると、私の心はすぐ回復できないくらいに落ち込んでしまう。私はちょっとヤケになって、お兄ちゃんのニオイを思いっきり吸い込んだ。





 お兄ちゃんの胸板をすーはーすーはーしてると、心の中にあった灰色のもやもやは段々晴れてきて、代わりにピンク色のもやもやがただよってきた。
 もやもやが灰色からピンク色に変わるにつれて私の心が軽くなっていく。今考えてもどうにもならない将来のことを、今考えてもしょうがない。今は、今できることを考えなきゃ。うん、お兄ちゃんのニオイ、優秀。

 私はもう一度お兄ちゃんの顔を見る。今したいことっていったら、このお兄ちゃんに、どうやって勝つかってことに決まってる。

 将来の目標はともかく、今でも私のニオイを嗅いでさえもらえば、お兄ちゃんの心を捕まえることはできる。私に心を掴まれたお兄ちゃんは、目つきが全然違う。ギラギラして、「俺にはハルカしかいない!」みたいな目になっちゃうんだよ。きゃー。

 ……それなのに、気づいたらいつの間にか私の頭の方が「ぐちゅっ」てされてて、「気持ちいいしあわせお兄ちゃんすきすき」になっちゃうんだよねぇ……。「ぐちゅっ」てされるのは超気持ちいーんだけど、それはそれとして、私のイタズラがいつも負けちゃうのは、やっぱり悔しい。きっと、私の魔女としての力がまだ足りてなくて、途中でお兄ちゃんの心が逃げちゃうんだと思うんだけど。
 私はやっぱり見習いなんだよなー、って思っちゃう。魔女の力は自分の魅力がないとあんまり役に立たないって、お母さんは言ってた。魔女としての力を使ってもお兄ちゃんに逃げられちゃうんじゃあ、私の魅力なんか、やっぱりまだ全然足りてないんだ。

 それでも、もうちょっとうまくできれば、ニオイ使いながらならなんとかなりそうな気もするけど……。



(あれ?)
 そのとき。
 私の頭に、ちょっとしたヒラメキが生まれた。











(よし)
 意を決した私は、自分の胸の谷間を、お兄ちゃんの鼻に押しつけた。
「……んぐっ」
 息が苦しくなったお兄ちゃんはすぐに目を覚ます。でもそれより早く、私のニオイがお兄ちゃんの身体に吸い込まれていく。
 いつの間にか、お兄ちゃんの方から胸の谷間に鼻を押しつけてきていた。
 ぎゅっ、てお兄ちゃんが、私の身体を抱きしめる。
「お兄ちゃん、起きた」
 薄く目を開けたお兄ちゃんをからかうみたいに私は言った。だけどお兄ちゃんは私の言葉には構わず、私の胸に顔を押しつけていた。お兄ちゃんの心が、がっちり私のニオイに捕まってるんだって感じる。
「あんっ」
 そうしたらお兄ちゃんが、私の乳首を咥えてきた。その感じが嬉しくて、私はえっちな声を上げてしまった。コリコリと優しくかまれて、ちくちくと気持ちいい。だんだん、あたまがとろとろになってくる。
「お兄ちゃん、かわいい」
 意味もなく、素直な感想をしゃべってた。
 するとお兄ちゃんは、可愛いって言われたのが恥ずかしかったのか、はるかの胸から顔を離して、顔を合わせた。その様子がやっぱり可愛くて、お兄ちゃんをじっと見ちゃってた。
 お兄ちゃんの目が、キラキラしてる。はるかをまるで、崇める? みたいな目。

 すると、お兄ちゃんははるかの唇を奪おうとした。もちろん、奪われてあげた。
 物音しない部屋の中で、何度も何度も、キスの水音だけが聞こえる。キスしては離れて、キスしては離れてを繰り返して、はるかはいつの間にか幸せの海に旅立っていた。だってキス気持ちいいんだもん。

「ねえ、お兄ちゃん」
「何だ」
 はるかがお兄ちゃんに呼びかけると、お兄ちゃんはかすれ声で答えた。
「お兄ちゃん、はるかのこと好き?」
「ああ、もちろん」
 すぐに答えてくれて、でも、何か違うなーと思った。
「ちゃんと言って」
 だから、お兄ちゃんに催促する。
 すると、
「愛してる。世界で一番」
 今度はちゃんと言ってくれて、はるかの心がじーんとした。

「なあ、ハルカ。肉体改造する前、お前がご飯をあんまり食べなくなったときがあっただろ」
 そしたら、お兄ちゃんにそんなことを言われて、キスされた。

 ……あんまり思い出したくないなあ、とキスしながら思う。
 今になってみれば、私はあの頃、お兄ちゃんのことも、私自身のことも、よく分かってなかった。
 大人になりたいと思っていたのに、成長するのが怖かった。
 体重計に乗るたびに数字が増えていって、それを見るたびに憂鬱になった。それが嫌で、成長しない方が良いのに、なんて思ったりもした。
 あべこべな私の気持ちは、お兄ちゃんに強く言われるまで、私の心を捕まえたままだった。

「あのとき、凄く怖かった。……もし、ハルカがサキュバスとして『覚醒』したら、どうしようって」
 だけどその時、お兄ちゃんは全く違うことを考えていたみたいだった。
 えっ、て思ったせいで、一瞬、完全にしーんとしてしまう。

 私は確かに、魔女――っていうかサキュバスとしての「覚醒」の時期は越えている。だけど、覚醒の時期は人によって違うのは知ってて、だから、私が本当に不顕性なのかは、ホントはまだわからない。
 そして、もし私が今、サキュバスとして覚醒したとしたら、私はお兄ちゃんとのえっちだけじゃ絶対足りなくなって、他の男の子とえっちすることになるに違いなくて……。

 お兄ちゃんがはるかの身体を強く強く抱きしめたとき、お兄ちゃんの言葉をちゃんと理解した。



 きっとそれは、お兄ちゃんの独占欲だ。



「お兄ちゃん」
 声が思ったよりくぐもって、お兄ちゃんは腕を緩めた。
 一旦押し込められていたはるかの頭を動かして、もう一回、はるかの顔をお兄ちゃんの顔にくっつける。

 めらめらと、奥底で火がつきそうなくらいに、身体が熱かった。
 はぁ、はぁ、といつの間にかはるかの息もものすごく上がって。
 興奮しちゃってる。
 どきどきばくばく、心臓が音を立てて、もう、気持ち、止まらないよ……っ!

「ハルカ?」
「こっちきて」
 どうしようもなくって、はるか、お兄ちゃんの両手をぐい、と引っ張ってた。お兄ちゃんは抵抗しなくて、何も言わなくても、なぜか、はるかの思った通り、ベッドの真ん中で正座してくれた。あれ?

 うーん…………まあいいや、今は。

 お兄ちゃんがちょっと股を開くと、大事なとこが、大きくなって斜めに立ち上がっている。はるかはお兄ちゃんの足をまたいで、そこに手を伸ばした。
「大丈夫か」
「だいじょうぶ」
 お兄ちゃんのはおっきくて、はるかの方から入れるのはちょっと気合いがいるんだけど、今はもう、ホントにがまんできない。身体の奥がもやもやもやもやしてて、どろどろのぼやぼやになってて、大きくて固くってはっきりしたこれを入れておかないと、はるかが溶けて消えちゃいそうになってて。
 お兄ちゃんのを、はるかのいりぐちにあてる。えいやっ、と、思い切って、腰を落とす。

 みちみちっ、と、お兄ちゃんがはるかの中に入ってきた。

(あ゛っ)
 頭がチカチカして、気持ちよくなっちゃっていた。お兄ちゃんが、はるかのナカをぐいぐい広げていって、少しずつ奥に入ってくる。
 おなかが苦しいような、気持ちいいような感じって、まだ全然慣れない。でも、きらいじゃない。だって、これをするたびに、はるかが大人に近づいてってる気がするから。
「はぁんっ!」
 お兄ちゃんのがすぶすぶって、はるかのなかを破裂させそうなくらい奥まで入ってきて、やっと、お兄ちゃんの太ももに座れた。
 ほう、って、一息つく。
 お腹が苦しいけど、なぜかとっても安心する、不思議な感じ。
「お兄ちゃんのせいで、我慢できなくなっちゃった」
 そして、お兄ちゃんの唇を奪った。ほんのり甘いお兄ちゃんのつばが、喉に流れ込んでくる。



 うん。この体勢でしてれば、いつでもお兄ちゃんとキスできる。
 キスできたら、はるかのニオイをお兄ちゃんにあげられる。
 そしたらきっと、お兄ちゃんの心を、ずっと捕まえてられる。
 はるかの「最後までずっと正面抱きつき作戦」は、バッチリうまくいっていた。



「気持ちいい……」
 いつの間にか頭がぼうっとして、つぶやいてた。
 おなかの奥がきゅんってして、とろっ、と熱いのが溢れてくる。

 どんなにお兄ちゃんの心を捕まえても、はるかの身体は、お兄ちゃんのでがっちりと捕まってる。苦しくて、でも気持ちよくて、あったかい。ちょっと斜めで不安定だけど、だからこそ、お兄ちゃんに捕まってるって感じがする。

「あっ、あんっ」
 膝をついて、バネみたいにして身体を揺すった。ぐち、ぐちって、お兄ちゃんのがはるかのなかを出入りする。
 あ、気持ちいい。これ、きもちいい。
 お腹の奥がごりごりってして、頭がつんと痺れる。びくん、ってして、顔が歪んだ。今、凄くヘンな顔したかも。

 もっとしたくなって、はるかはお兄ちゃんの腕に掴まって、えっちな上下運動を繰り返した。

「あっ、あっ、あんっあんっ、あんっ、あんっ!」

 はるかの中の一番気持ちよくなるところをこすると、そこがじぃんとして、いっきにとろとろ液がでてきた。
 ごりごりしてた感じが、だんだんぬるぬるになってきて、音もぐちゅぐちゅになってくる。

 やっぱり、自分で動くのが気持ちいい。お兄ちゃんにされるのも気持ちいいけど、気持ちよさが違う。

 ふと、お兄ちゃんの目を見た。
 お兄ちゃんははるかのニオイにやられちゃったせいで、目をギラギラさせながら、自分からは動かないではるかを見つめている。
 はるかは腰を止めて、お兄ちゃんにキスをした。

「きゃうん」
 不意にお兄ちゃんに抱きしめられた。それだけで角度が変わって、思わず声が出ちゃった。
 お兄ちゃんに口の中を舐め回されて、頭がクラクラしながら、

 ――お兄ちゃん、かわいい。

 とか、見当違いなことを考える。
 そしたらお腹がムズムズして、はるかはちょっと強引に、腰を動かした。

「あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ、あ゛っ」
 バチバチと頭の中を火花が散る。ムリヤリですっごく気持ちよくて、お漏らししたみたいにとろとろが出てきちゃう。
 お兄ちゃんの手が少しだけ緩むと、はるかはぐぅっと背中を反らして、つながってるところに意識を集中させたくなった。

「最後までして、お兄ちゃん」

 一言で、お兄ちゃんにお願いを伝える。
 もうガマンできなかった。
 身体中がぴりぴりして、頭だけじゃなくて身体の全部にピンクのもやもやが溜まってて。
 すっきりしたかった。
 はるかだけで最後まで飛んでもいいけど、できるかわかんないし、それに最後はやっぱりお兄ちゃんにして欲しい。

「わかった」
 するとお兄ちゃんは、はるかを膝に乗せたまま、ベッドの端まで行った。ベッドの端に座った体勢。それはいつも、お兄ちゃんが肉体改造した後にする体勢。

 これだと、はるかの方からは動きづらい。
 でも、もう、最後だし、大丈夫でしょ。

「はんっ!」
 ぐん、と突き上げられて、声が勝手に出た。
 ぱんぱんぱん、って、さっきとは違う音がする。
「あん! あっ、あ、あ、あ、あ、あ、あっ!!」
 すぐに、頭の中が白くなっていく。
 急に逃げたくなって、でもお兄ちゃんに腰を掴まれて、逃げられない。
 お人形さんみたいにぴょんぴょん跳ねさせられて、でも、もうどうしようもない。
 でも、どうしようもなさが、いつもと違う。

 いつもは、お兄ちゃんにされて、はるかが追い詰められるどうしようもなさだけど。
 今日は、はるかがお願いして、お兄ちゃんにどうしようもなくしてもらってる。

 だから、はるかの勝ち。
 白くなっていく頭の中で、ちょっと満足げな気持ちが広がっていく。
 誇らしくて、気持ちいい。
 ああ、飛びたい。あの真っ白になる世界に、いきたい。
 おなかの中が、いっきに、熱くなってくる。それが、もうすぐっていう合図。
 お兄ちゃんのが、はるかをイカせようって、はるかのなかをきもちよくして。
「あっあっあっあっあっ、あっあっあっあっあっあっ!」
 単調なお兄ちゃんの動きは、はるかを真っ白にするための動き。
 お兄ちゃんは、はるかの扱い、わかってる。

「ハルカ、好きだっ!」
「あっあっあっ、すき、すき、お兄ちゃんすきっ!」
 すき。
 はるか、おにいちゃんがすき。あいしてる。

 って思った瞬間、白い爆弾が、はるかの頭の中を埋め尽くしていく。

「あっ! あっ! ああっ! ああっ! ………………んんんぁぁぁあああああああああんっ!!!」
「くっ!」
 おなかの中で、お兄ちゃんが出したのに気づいたときには、ビリビリに痺れきったはるかの頭の中が、だんだんくらくなってきていた――。












 精力が底をついた身体を横たえていると、頭の中のもやが、ようやく晴れてきた。
 重い身体で寝返りを打つ。目の前には、ほんの少しだけ離れて、同じく体力が尽きた様子のハルカがこっちを向いて横たわっていた。
 息は落ち着いている。
「やった」
「……やられた」
 ハルカの満足そうな表情と声に、俺も応える。

 するとハルカは、僅かにあった幅を詰め、俺にすり寄った。
 俺の首元に、ハルカの顔が埋まる。
「後始末しないと」
「もうした」
 行為後のルーチンワークである、ハルカの股間から精液を拭う作業。いつも俺がやっているのだが、今回はいつの間にかハルカが自分でやったらしい。それに気づかなかったということは、俺の意識がその間飛んでいたということだ。

 良いように、してやられた。頭の中がハルカで一杯になって、ハルカの言うことを聞くしかできなくなっていた。最初から最後まで、ツタのことに思い至ることさえできなかった。分かってはいたが、ハルカの魅了は未熟ながら、完全に捕まってしまうと、本当に強力だということがわかる。これが「血の差」なんだろう。

「超楽しかった」
 何ら悪びれずに(悪いことはなにもない)、ハルカは端的な感想を言った。
「そうか」
 俺はなにも考えずに相づちを打つ。
「お兄ちゃんは?」
「うーん」
 もちろん、悔しい。俺はインキュバスとしての意識は低いが、一丁前の男としては、それが例え生まれの差によるものであっても、ベッドの上で彼女に主導権を握られていい気はしない。
 だけど。
「……お前が良いなら、いいんじゃないか」
 それもまた本音だった。
 ベッドの上で相手を御す能力、というのはサキュバスにとって根源的な能力である。それをハルカが手に入れることは、ハルカが魔女見習いから、一人前の魔女に近づくことを意味する。
 それを拒む理由は、俺には存在しない。
「ありがと」
 俺の言葉の意図をどう受け取ったかは分からないが、ハルカは俺の言葉を軽く受け流す。そして、
「あたし、やっぱり早く大人の身体になりたい」
 ハルカはそう言った。





「お兄ちゃん、えっち以外の時もちょっとずつえっちな目してくれるようになったでしょ。やっとだよ」
 俺の首元から、ねめつけるような表情のハルカに図星を突かれ、俺は思わず表情を引きつらせた。
 この学園に入学した頃――初めて身体を重ねた頃は、ハルカの身体は、魅力的ではあったものの、お世辞にも性的な意味でオンナの身体とは言えなかった。今までそのことには口に出していなかったが、ハルカは俺の目を、文字通り「お見通し」だったようだ。
「そんなにおっぱい好き?」
「違う。お前は全体的な問題だ。言っただろ」
 しどろもどろになりながら言い訳する。言っていることは本当だが。
「うん。女の子は肉付きなんだよね。わかってるよ。でも、お兄ちゃんの目、あたしのおっぱい見るの多くなったよ。私のおっぱい、エッチに見えてきた?」
「…………ああ」
 渋々答えた。ついハルカのその部分に目が行くようになってきたのは、本当だ。
 ふふ、とハルカが挑発的に笑う。
「クラスの男子も、結構見てくるようになったなー」
 はっとした。すっかり忘れていたが、ハルカのクラスは共学なので、サカり始めた男子がいる。そいつらが可愛いハルカに劣情を抱くのは、何ら不思議ではない。
「もし覚醒しちゃったら、クラスメイトにもおっぱい見せるかもね? ……ひぅっ」
 思わず、ハルカを抱きしめる手に力が入った。
「嫌だ」



「ハルカは俺だけの魔女でいてくれ」



「えー、どうしよっかな」
 俺が恥ずかしい告白をしてしまったからか、ハルカはニンマリとした表情で茶化してきた。
「男子って見てると面白いんだよね。自分から見てるくせに、気づかれると恥ずかしそうにするの」
「そりゃお前が可愛いからだ、許してやれ」
「別に怒ってないよ。楽しいだけ」
 ハルカは本気かどうか分からない声色で言う。
 俺は溜息をついた。
「誘惑してみたらもっと楽しいのかな」
「やめろ」
「でも面白いかも」
「クラスメイトおちょくる気か」
「違うよ。お兄ちゃんが。他の男の子の話すると、お兄ちゃん面白いんだもん」
「…………」
 図星だったがゆえに、何も言えなくなった。俺の嫉妬心を完全に見抜かれている。
「とにかく、他の男を誘惑するのは止めろ。襲われたら大変だし、何より気がないのに失礼だろ」
「ふふ、そだね。だいじょーぶ。私は覚醒しないし、浮気もしないよ」
 俺を落ち着かせるためか、ハルカは俺の目を見上げて笑い、歯切れ良く宣言する。そして身体を少し離してベッドをずり上がり、俺を正面から見つめる。



「だからその代わり、お兄ちゃんに助けてもらわなくても、いつかお兄ちゃんを私の虜にしてあげるから」



 その言葉に、俺は思わず苦笑いを漏らした。
「…………気づいてたのか」
「わかるよ」

 ハルカの指摘した通りだった。
 俺が正座に近い形の対面座位の知識、そして、それをすれば俺を魅了し続けられるかもしれないというアイディアは、俺がツタでハルカに埋め込んだものだ。
 もちろんハルカの記憶にはツタによる埋め込みの形跡を残さないようにしたのだが、どこでバレたんだろうか。もしかしたら、俺がうっかりハルカの指示の前に正座の体勢を取ってしまったからかもしれない。
「それに今の私じゃ、まだまだだもん」
「そんなことないぞ」
 軽くだが、否定しておく。俺を魅了するように仕向けたのは俺自身だが、その魅了は完全にかかっていた。今のハルカにはもう、その力はある。
「そういうことじゃなくて、……ううん、そういうことでもあるけど、そういうことだけじゃないんだ」
 しかし、ハルカは否定して笑った。俺は内心で首をひねる。分かるようで、今ひとつ分からない。
 沈黙が訪れる。
「………………寝るか」
 俺は沈黙に耐えかねて、そう言った。
「うん」
 ハルカも特に不満を言うでなく、掛け布団代わりの毛布に手を伸ばした。
 俺は頭上のスマホに手を伸ばす。見ると、やはり日付が変わりかけていた。と同時に、通知があったので、何気なくアプリを起動する。



「…………はい!?」



 俺は思わず飛び起きた。ハルカがかけようとした毛布を思わずはじき飛ばす。
「どうしたのお兄ちゃん」
「………………ハルカ」
 俺は画面をハルカに見せる。
 ハルカは画面を見、メッセージを見、差出人を見、
「え?」
 と、俺の顔を見た。
「……イタズラじゃないよね」
「ああ」
 このメッセージの差出人――俺の母親は、そういうキャラではない。少なくともアプリを通しては。





「妊娠した。弟か妹ができるよ」





 そのメッセージが、俺達二人の夏、そして、俺達二人の関係の、大きな変化の始まりだった。

 
 


 

 

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