MC三都物語


 

 



神戸編:後編 赤い靴はいてた女の子 



「んふうっ……はうんっ、んっ……んんんっ……」
「あんっ、あっ、あんっ、んっ、あんっ、はんっ!」
「あむ……ぴちゃ、ちゅる……ん、んふう、ちゅぽ……」

 薄暗い広間のあちこちで、女の喘ぎ声と粘液質の湿った音をはじめ、およそ想像しうる限りの卑猥な音が響いている。



「いかがですか、ドクター?」
「うむ、上々だな」

 私の部下たちと淫らな宴に興じている女たちを見回して仕上がり具合を確かめる。
 いずれも皆、嬉々として男に跨がり、あるいは腰を突きだし、あるいは肉棒にしゃぶりつき、充分に淫らな性奴隷に仕上がっていた。

「さっきボスから連絡があった。2週間後に船が来るとのことだ。向こうへ出航するのは20日後。その時に最後の仕込みをする」
「20日後ですか。了解です」

 ジャンが頭を下げて部屋から出て行く。
 輸送の手続きに関しては彼に全て任せておけば問題は無い。



 1ヶ月後に、香港で闇のオークションが開かれる。
 今、ここにいる女たちは、そこに出品される大切な商品なのだから。

 私、魔法博士ことクロード・コンスタンは、そのオークションを開催する組織のこの国における責任者だ。
 我がコンスタン家に伝わる魔術を駆使して若くて顔立ちの整った娘を集め、淫らで主に従順な女に調教してオークションまでに送り届けるのが私の任務である。
 大和撫子のイメージがあるのか、日本の娘はオークションのメインになるほど人気があるので私も仕事に手を抜くことはできない。



 もう一度、目の前で痴態をさらしている女たちを見回す。



「んっ、あんっ……気持ちいいですかぁ?もっと激しく動きますね……んんっ!ああっ、奥に当たってっ!あうんっ!」

 男に跨がって大きく腰をくねらせているのは、ポニーテールに髪をまとめた細身の少女。
 目尻を下げていやらしい笑みを浮かべ、アップに髪を結って丸見えのうなじまで真っ赤に染めてすっかり発情しているのがわかる。

「んむ……んふ、ぴちゃ……んふう、おちんちん、おいしい……」

 その脇では、くりっとした目をトロンと蕩けさせて、丸顔の少女が一心不乱に肉棒をしゃぶっている。

 概して、スレンダーなタイプの美人は洋の東西を問わず普遍的な人気がある。
 一方で、ふっくらとした丸顔は意外とヨーロッパでの人気が高い。
 そういう可愛らしいタイプは、日本人独特の雰囲気があって欧米人からするとすごくチャーミングに見えるらしい。

 そして、そういう異なったタイプの組み合わせがこっちにももう一組。

「はんっ、あっ、おちんちんがっ、中っ、擦って!……んふうっ、ちっ、乳首っ、感じるやんかっ、恋ちゃん!」
「んっ、ちゅ……だって詩穂ちゃん可愛いんだもん。……れろろろっ」
「あふぅんっ、あっ、やあああんっ!」

 背後から男に抱えられて肉棒を挿入されて喘いでいる丸顔にショートヘアの少女。
 その少女の乳首を、切れ長の目をうっとりと細めて吸っているのは、色白で長い真っ黒な髪のいかにもアジアンビューティーといった雰囲気の少女。
 いずれも、オークションではいい値がつくに違いない。

「ちゅう……うふ、詩穂ちゃん、乳首、カチンコチンだよ」
「だってえええぇっ!ああんっ、おちんちんっ、熱いようっ!」

 稀に、オークションでは女性客が落札することもある。
 レズビアンの大金持ちが若くていやらしい性奴隷を求めてオークションに参加しているのだ。
 そういう客のために、同性を相手に奉仕するやり方もこの娘たちには仕込んである。






「んくうううっ!はうっ、お尻の穴っ、ペニスで突かれてっ、気持ちいいですううううっ!」

 四つん這いになってバックからアナルを犯されてよがっているのは、私の所に行方不明の少女の聞き込みに来た女刑事だった。
 その、獣を思わせるしなやかで筋肉質の肢体はさすが元刑事といったところか。

「あんっ、イイッ、お尻イイのっ!はあぁんっ、もっと突いてくださいいいいっ!」

 少し長めの髪を激しく振り乱して、自分から腰を振っている姿はさかりのついた牝の獣のようだ。
 かつては気の強そうな表情を見せていたその顔も、私の手に堕ちてからはすっかり可愛らしいものになっている。
 27才と、他の少女たちよりもずっと年上なのに、時に一番幼く見える時すらある。

 この外見に、このいやらしい体だ、警察もなかなかいいものをプレゼントしてくれたものだ。
 この国の警察のレベルはたかがしれているだろうが、鍛え直せばボディーガード兼性奴隷として重宝されるかもしれない。

 いずれも皆、調教は順調に進んでいる。
 もちろん、大事な商品を妊娠させるわけにはいかないので、魔術で避妊させている。
 オークションへの出品の準備は万全と言っていい。





 私のもとに集まった5人はいずれも劣らず、オークションに相応しい美人揃いだ。
 こんないい娘が揃いも揃って、自分からここにやってきた。

 それもそのはずで、この館自体が女を誘い込む罠になっているのだ。
 この館の敷地は、私の魔術によって外界とは遮断された特殊なテリトリーになっている。
 私の部下を除く通常の人間には、この館を認識することすらできない。
 この館に気づき、興味を示して入ってくることができるのは若くて美しい女だけだ。
 私はこの館で待ち構えていさえすれば、女の方から網に掛かりにやってくるという仕組みだ。



 ……だが。



 たしかに、ここにいる5人はいずれもいい値がつくだろう事は間違いない。
 しかし、オークションのメインを張るには少し物足りない気がした。
 いくら粒が揃っていてもそれだけでは成功とは言えない、他の追随を許さないずば抜けた花があってこそオークションも盛り上がるというものだ。

 しかし、オークション会場へと女たちを運ぶ船が来るまで2週間。
 残された時間は、あまりにも短い。





 そんなことを考えていた時のことだった。





 この館のテリトリーに人が入ってくるのを感じた。

 ……獲物か?
 このタイミングに来て、オークションに間に合うかどうか……。

 とにかく、相手を見てからにするか。
 そう決めて、1階へと上っていく。



 ちょうど、隠し扉を出たところで呼び鈴が鳴るのが聞こえた。

 

 少し間を置いてから玄関の戸を開くと、そこに若い女がひとり立っていた。

 その姿を見て、内心目を見張る。

 すらっとした長身で、ほっそりとした長い手足にくびれた腰、まるでモデルのような見事なプロポーションだ。
 胸元の開いた白いプルオーバーにデニムのホットパンツ、真っ赤な厚底スニーカーがやけに眩しく見える。
 年は25歳前後だろうか、軽くカールしたショートボブの髪、小さくて少し丸みのある顔。
 長い睫毛と黒くて大きな瞳がぱっちりとした印象を与え、小ぶりで高い鼻といい、その整った顔立ちも際立っていた。

「おや、お客さんですか?」

 外国人が出てきたことに驚いているのか、目を丸くしてこちらを見ている女に日本語で話しかける。

「あ、い、いえ。このおうち、すごくきれいだと思ったんで……あの、ここって中は見れるんですか?」

 彼女は、まだ驚いた様子で聞き返してくる。
 まあ、ここに入ってくる女はほとんどがこういう反応をする。

「これはこれは、まあ、私の家は特に観光客の方にお見せするようにはできてませんので中は片付いてはいませんが」
「あ、ごめんなさい!人が住んでるとは思わなかったんです」
「いえいえ、いいんです。でも、せっかくおいでになったんですから私がこの館を案内してあげましょう」
「えっ、いいんですか!?」
「もちろんですとも。さあ、中へどうぞ」
「はい!」

 私が招き入れると、彼女は嬉しそうな表情を浮かべて中に入ってくる。
 この館に興味を持った時点で、相手はすでに私の魔術の手の内にある。
 誘われて断れるはずがない。

「それでは、どこからお見せしましょうか……」

 うん、この女ならオークションの目玉になるな。

 思わぬ獲物に、私は館の中を案内しながら彼女に気づかれないようにほくそ笑んでいた。






* * *







「そうですか、ナオミさんは旅行で神戸にいらっしゃったんですか」
「はい。昨日の夜にこっちに着いて、今日は異人館通りを見て回ってたんです」

 館の中を一通り案内した後でバルコニーでのお茶に招待すると、彼女、ナオミは喜んで誘いに乗ってきた。

「まあ、この辺りには私の家なんかとても及ばないくらい立派な異人館がたくさんありますからね」
「そんなことないです!わたし、このおうち好きですよ。すごいきれいだし」
「ありがとうございます。さあ、紅茶が入りましたよ」

 庭を真正面に眺める席について会話を交わしながら、カップに紅茶を注いでナオミに差し出す。
 彼女のカップにはあらかじめ薬が塗ってあった。
 無味無臭だが、口にした人間を1時間ほど意識不明にさせてしまう秘伝の毒薬だ。

「ありがとうございます。……おいしい!この紅茶すごくおいしいです!」
「それはよかったです。この紅茶は日本では手に入らないんでわざわざフランスから取り寄せているんです」
「へえ、そうなんですか。……ふう、本当においしいです」
「そう言ってもらえると私も嬉しいですね」

 紅茶をひとくち啜って、ナオミは、ふぅ、と一息つく。
 その素振りには、警戒している様子は全く見られない。

「でも、クロードさんが日本語が上手でよかったです。私、英語とか全然できないから、最初は言葉が通じなかったらどうしようって思っちゃいました」
「まあ、日本での生活が長いですから。それに私はフランス人ですから英語はあまり得意ではないんですけどね」
「ええ?フランスの人って英語を話してるんじゃないんですか?」

 ナオミは、紅茶を啜りながら無邪気に笑っている。

 それにしても、よく喋る娘だ。
 だが、こうやって会話をしていてもあまり知性は感じられない。
 自分を美しく見せることには長けているようだが、きっとそれで要領よく生きてきたんだろう。 

「さあ、おかわりでもどうですか?」
「あっ、いただきます……あ……れ?」

 私がポットを持ち上げると、カップを差し出してきたナオミの体が大きく揺らめいた。

「なんで……だろう?……急に……ねむ……く……」






 テーブルに突っ伏してナオミが気を失ったのを見届けると、私は立ち上がった。
 そして、その体を抱き上げると館の中に入っていく。
 スリムな体格のナオミは身長のわりに軽く、抱きかかえて歩くのも苦にならない。

 そのまま、隠し扉を開けて階段を降りると、儀式の間に入る。
 儀式の間とはいっても、女に魔術をかけるための台がいくつかあるだけの簡単なものだ。



 台の上にナオミの体を寝かせると、まずその真っ赤な靴を脱がし、ホットパンツに手をかけて脱がせていく。
 そして、次にショーツを脱がせて下半身を剥き出しにさせる。
 その間も、ナオミはピクリとも動かない。

 服を着ていてもそのスタイルの良さは際立っていたが、こうして直に見ると腰は細くくびれているのにヒップの肉好きはよく、申し分のないプロポーションだ。
 だが、確かめたかったのはそれではない。

 私は、懐から真っ白な石を取り出す。
 これは、曾祖父が作ったもので、これを使うと女がそれまでに男と体を交えた数をある程度知ることができる。
 この石を女の陰部に置くと、その女が処女の場合は白いままだが、男と交わった回数が多ければ多いほど濃い赤に染まる。

 隣の部屋にいる4人の少女たちは、この石を使っても真っ白なままだった。
 あの女刑事の場合は、石はほのかにピンク色に染まった。男性経験はせいぜい2、3人といったところか。

 私はナオミの秘部にそっと石を置く。
 すると、瞬く間に石は真紅に染まった。

 ……これはこれは、20人ではきかないかもしれないな。
 まったく、そのいやらしい体を使ってどれだけの男をたらし込んできたのか。

 濃い赤に染まった石を見て、思わず苦笑が漏れる。

 だが、それならそれで堕とし方はある。
 むしろ、そのくらい淫乱な方がその後の調教が省けてちょうどいいくらいだ。
 オークションまで、あまり時間もないことではあるし。



 石をしまうと、ナオミの手足を台の上の金具に固定していく。
 両手を真っ直ぐ横に伸ばし、両足を大きく広げた格好は、この国の漢字に似ていることから、大の字、と言うのだそうだ。

 だが、人が両手を伸ばして足を広げた姿に似ているものがもうひとつある。
 五芒星だ。

 私は、ナオミの両手と両足、そして頭の先から10cmほどの場所に蝋燭を置いていき、火を点ける。
 そして最後に、開いた股間のずっと先、頭と対角線になる位置にもうひとつ蝋燭を置く。

 これが、曾祖父の編み出した性魔術の陣だ。
 人体の象る五芒星に、陰部を象徴する頂点をもうひとつ追加することで六芒星の魔法陣ができる。
 この魔法陣を介してかける魔術が我が家系には多数伝わっている。
 曾祖父は、通常の人体の形にセックスを司るポイントをひとつ加えて強調することで、性的な魔術を効果的にかける方法を発見したのだった。



 儀式の準備が終わると、黒のローブに着替えて曾祖父の残した魔術書を手に取る。

 この本には、女たちを堕とすための魔術の数々が記載されている。
 例えば、処女だったあの4人の少女たちに使ったのは、”エデン”と名付けられた術。
 魔術の蛇を使って、純真な乙女の性質を淫乱な牝へと変化させる術だ。
 この魔法で現れる蛇が象徴しているのは、イブを唆してアダムもろともエデンの園を追われるきっかけとなった蛇に他ならない。
 純真無垢な少女を性の虜にしてしまうこの術の効果は絶大なのだが、エデンの園にいた時のイブと同じく無垢な存在、つまり処女にしか効果がないので使う相手は限られている。

 あの女刑事に使った術は、曾祖父がゴーレムの研究をしている時に副産物として生まれたものだ。
 人形であるゴーレムは、術者の血を使った契約を行うことではじめて術者の命令通りに動くようになる。
 ただ、ゴーレムはあくまで人形に過ぎず、見た目も醜いし複雑な作業はできない。
 それならいっそ、生きた人間の体の自由を奪い、人形のようにしてしまってから血の契約を行うことを曾祖父は考えついた。
 大きく分けるとこの術は3つの段階に分かれていて、まずは相手の体の自由を奪って人形化し、術者による血の契約をもってその体を手に入れる。そして、最終的には術者の精液をもって相手の心を手に入れることで術は完成する。
 あの女刑事の場合、捜査中に行方不明になるのはさすがにまずいので、捜査攪乱のために体の自由だけを奪っていったん返してやろうと思ったのだが、結果的にはあの女の心を粉々に砕くのにも効果があったようだ。
 なにしろ、ここに戻ってきた時点ですでに堕ちたも同然の状態だったからだ。






「……ん……やん?どこ、ここは?」

 私が魔術書のページをめくっていると、短い呻き声を上げてナオミが目を覚ました気配がした。

「やっ、なにっ?手が……足も!?……なによ、これ!?……ええ?クロード…さん?」

 ガチャガチャと金具を鳴らしてもがいていたナオミが私の存在に気づく。

「ちょっと!これってどうことなの!?ねえ、クロードさんったら!」

 怯えた目をしてこっちを見上げるナオミには答えず、ページをめくって目的の術にたどり着く。

「ちょっと、離してよ!もうっ!」
「汝、ルシフェルを誘惑せしリリスの申し子よ、堕落と退廃の大淫婦の眷属よ、我が呼びかけに応えるべし。汝の淫らな欲望を解放しその肉を染め上げよ……」
「やっ、な、なにっ?……あっ、はううんっ!」

 呪文を唱え始めて、まずナオミの右足の先に置いた蝋燭の火を消すと、その体がビクッと震えた。

「……さすれば堕淫と性愛の女神来たりて汝を祝福するであろう。その祝福、汝の体を燃え上がらせん」
「ああっ、んふぅん!あん……んっ……ああんっ……」

 呪文の詠唱に合わせて、ナオミの体が小さく震えている。

 とはいえ、彼女がこの呪文を理解しているわけではない。
 ラテン語をベースに、ギリシャ語やヘブライ語を組み合わせた特殊な言葉で構成されているこの呪文は、魔術の蘊奥を極めた者でなければ理解することはできないだろう。
 彼女自身の体が形どる魔法陣を介して発動した術が彼女の体に作用しているのだ。

「受け止めよ、淫欲の雷汝を貫きてその身を駆け巡るのを」
「んんっ!はううううううっ!」

 次いで、ナオミの右手の先にある蝋燭を消すと、大きく呻いてその体がビクンと跳ねた。

 今、私が行っている術は、我が家系に伝わる魔法の中では特別な名前が付いていないほどに初歩的なものだ。
 淫乱な女の淫らな性質を充分に引き出して固定し、その性愛と忠誠の対象をひとりの主人に向かわせる。
 今やっているのは、その前半の部分、女を快楽に染め上げる段階だ。

 ナオミは額にうっすらと汗を浮かべ、半ば白目を剥いて体をひくつかせている。
 その口許には、微かに笑みすら浮かんでいた。

「そは汝の全て。快楽を求め、悦びに打ち震えるが汝の本性なり……」
「はううっ……あっ、あんっ……あううううんっ!」

 呪文を唱えながら、だらしなく緩んだ口から涎を垂らして体を痙攣させているナオミの頭の側に回る。

「さあ、快楽に身を委ねよ。さすれば汝の肉体は悦びに満ち溢れ、心は天にも昇るであろう!」
「はあああああっ!うあああああああああああああああっ!」

 詠唱の調子を強めて目の前の蝋燭を消すと、絶叫とともにナオミの体が弓なりに反り返った。

「ああううううぅ……はうっ、はあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……あうっ、うああああああ……」

 体を仰け反らせたまま体を大きく震わせているナオミの、持ち上がった腰から台の上にボタボタと溢れた愛液が滴り落ちる。

 これで、この術は折り返しに入る。

 その姿を横目に眺めながら左手の方に歩を進め、私は声のトーンを低くして再び呪文の詠唱を始めた。

「されど、汝に快楽を与える者、未だ現れず。汝の心身、満たされずに暗き闇に落ちる……」
「ああ……うあああ……」

 左手の先の蝋燭を消すと、弓なりになっていたナオミの体ががっくりと落ちる。
 さっきまで快楽に緩んでいた表情は強ばり、不安そうに瞳孔がせわしなく動き始めた。

「闇の中で汝、なす術なく深く沈み、己を見失い、その心を失うであろう……」
「あ……あああ……」

 呻き声を上げているナオミの反応が次第に鈍くなっていく。
 見開いた瞳から、次第に光が失われていくのがわかる。

 これが、この術の第二段階。
 新たな主人に全ての愛情を向かわせるためにそれまでの自意識を失わせ、白紙の状態にする。

「汝の精神、昏迷の淵に迷い、主なき闇の中で凍てつき果てん」
「あう……あ……」

 左足の先の蝋燭を消すと、さっきまで小さく震えていたナオミの動きが完全に止まる。
 その瞳孔は開ききり、完全に光を失っていた。

「汝の魂、主を求めて彷徨い苦しむなら、我、汝を主のもとへと導かん……」
「……」

 すでに、呻き声すら漏らさなくなったナオミの周囲を回り、その開いた股の先、はじめの位置に立つ。

「汝、我の言葉に従い精を受くるべし。汝に精を授ける者、汝の真の主なり。その者、汝に快楽を与え、汝、その者に己の全てを捧げるべし」

 呪文を唱え終えると、最後に残っていた蝋燭の炎を吹き消す。
 その瞬間、ナオミはピクッと体を震わせるが、それ以上の反応はない。

 これでいよいよ、この術の最終段階だ。

 まず、火の消えた6つの蝋燭を取り除くと、虚ろに目を見開いたまま真っ直ぐに上を見つめて動かないナオミの手足を固定している金具をひとつずつ外していく。

「さあ、起き上がるんだ、ナオミ」
「……はい」

 命令すると、ナオミはゆっくりとその身を起こした。
 だが、その顔は無表情なままで、死んだ魚のように濁った目でこちらをぼんやりと見上げている。

 私は、ローブの裾をめくって自分のペニスをナナミに向かって突きだした。

「ナオミ、これをしゃぶって精を搾り取るんだ」
「……はい。……ん…んふ…ん…ん」

 命じられるまま、ナオミはペニスを口に含む。
 そして、何の感情も浮かべていない虚ろな顔で舌を絡めてきた。

 今のナオミは、己の自我を完全に失った状態にある。
 自分が何者なのかも忘れ、封をされた意識の下で、その魂は主を捜し求めてもがき苦しんでいる。
 そこに、どのような形であれ精を注がれると、その魂は解放されてその相手を己の主人と認識するようになる。

 とりあえず、オークションに向かう船が来るまでは私が彼女の主人だ。

「ん…んむ…ん…ん…はう…はむ…」

 曇った視線でぼんやりとこちらを見上げながら、機械的にペニスをしゃぶるナオミ。
 片手だけそっと添えて、頭が規則正しく揺れている。
 舌を生暖かいものに包まれて柔らかく刺激される感触に、ペニスが次第に堅くなっていく。

「もっと舌を絡めて、唇も使うんだ」
「ん、ふぁい……ふん…あふ…んふ…んむ…じゅぼ…じゅむ…」

 口の中で膨れあがってきた肉棒を少し持て余し気味に、ナオミは湿った音を立てて淡々と唇で扱いていく。
 これはこれで悪くはないのだが、刺激が少し弱くてこのままでは時間がかかりすぎる。

「ん…んぐっ、ぐくっ…ぐぐっ、ぐむっ……」

 ナオミの頭を押さえつけて堅くいきり立った肉棒を喉の奥まで押し込むと、さすがに苦しげな呻き声を上げて眉間に小さく皺が寄る。
 だが、それでも顔色はほとんど変えず、依然として虚ろな表情のままだ。
 それどころか、精を搾り取れという命令を忠実に実行しようとでもいうかのように唇をすぼめてくる。

「ぐふっ……んっく…ちゅぼっ、じゅむっ……んぐっ、ぐっ……じゅるるっ」
「そうだ、いいぞ、ナオミ」
「ぐくっ……ちゅばっ、じゅううっ……くふぅ……じゅっ」

 ヴァギナを犯すように、ナオミの口にペニスを突っ込んで腰をグラインドさせる。
 すると、腰を引くタイミングに合わせてナオミが頬をすぼめてバキュームのようにペニスを吸うようになった。
 そのまま腰を突いて喉の奥まで挿入すると、まとわりつく舌と肉の感触がまるで膣の中かと錯覚するほどだ。
 かなりの快感に、ペニスが震えて一気に射精感がこみ上げてくる。

「出すぞ」
「ぐくっ!んぐぐぐぐぐっ!」

 ナオミの頭を抑えて喉の奥に射精すると、嗚咽するような呻き声が上がった。

「全部飲み込むんだ、ナオミ」
「んぐっ、ぐくっ……ごくっ、んっ……ごきゅ……」

 苦しげな呻きとは裏腹に、ナオミは命令された通りに精液を素直に飲み込んでいく。

「こくっ、んくっ……はぁ…はぁ…」

 喉を鳴らして注ぎ込まれた精液を全部飲み込むと、ようやくナオミはペニスから口を離した。

「はぁ……はぁっ……」

 肩で大きく息をしながら、こちらを見上げているナオミ。
 さっきまで顔色ひとつ変わらなかったその頬が、ほんのりと赤く染まってきた。
 そして、どろりと濁って、私の姿が見えているのかいないのかわからなかった瞳に光が戻り、焦点が定まってくる。
 そして、その視線がはっきりと私の姿を捉え、恥じらいとも淫靡ともとれる緩んだ笑みを浮かべた。

「ああ……ご主人様ぁ……はぁ、はぁ……」

 私を見つめて、ご主人様、と呼ぶと、ナオミは悩ましげな吐息を吐く。
 ペロリと舌が伸びて、口の端に付いた精液をすくい取る。

「んふぅ……おいしい、ご主人様の味がします……」

 そう言って蕩けた笑みを浮かべたナオミは、私のことを完全に自分の主と認識しているようだった。
 これで、この術は完成した。



 この魔法は、もともと淫乱な女の心をただひとりの主人に向けさせるもので、あくまでも初歩的なものだ。
 だが、私の祖父はこの術を使ってかなりの財をなした人であった。

 男なら誰でもそうだろうが、美人と結婚したがる。
 とりわけ、貴族や資産家などの大金持ちは、金にものをいわせて美人を手に入れることだってできる。
 あるいは、財産目当てで美人の方から近寄ってくることもある。
 だが、そんな女は得てして多情なことが多い。
 そこで、祖父はこの魔法を使って浮気性な美人を、ただひとりの主人を愛する淫乱な牝奴隷に変える仕事を請け負っていた。
 もちろんおおっぴらに言えるような性質のものではないが、祖父の仕事は多くの金持ちに喜ばれ、多額の謝礼を得たのだった。
 祖父は、偉大な魔術師だった曾祖父ほどの魔術の才能はなかったが、そうやって上流社会の闇で生きる術に長けていた。
 その活動で生まれた人脈を生かして祖父は裏社会で名前を知られるようになり、私が今、こうやって闇の世界で生きていけているのも祖父の残した様々な遺産のおかげと言っていい。





「ご主人様、どうかしたんですか?」
「いや、なんでもない。それよりもナオミ。おまえのいやらしい姿を見てみたいんだがね」
「わかりました、ご主人様」

 ナオミは、にっと笑うとプルオーバーを脱ぎ捨ててブラを外す。

 裸になったナオミの姿を見て、思わず感嘆の声を上げそうになった。
 大きすぎず、かといってもちろん決して小さくはない乳房は、まるで砲弾のように形のいい円錐形を保って前に突きだし、乳首は早くもやや上向きに勃っていた。
 その、白く滑らかな肌もほんのりと紅潮している。
 それに加えてこの締まったプロポーションに長い手足、そして、モデルのように整った小ぶりな顔。
 この女が手に入るのならいくらでも払うという男がどれだけいることか。
 私は、ナオミを手に入れたことで今度のオークションの成功を確信した。

「ああ……私、ご主人様のおちんちんを汚したままにして。きれいにしますね。……んふ、ぴちゃ、れるっ……ああ、おいひいれす……んふ、じゅぽっ、しゅぽぉ……」

 再び私のペニスにしゃぶりついて舐め回すナオミ。
 さっきまでの機械的なフェラチオとは違い、熱っぽい視線で上目遣いに私を見上げながら熱心にしゃぶってる。
 舌先をチロチロと動かしながら、時に口に含んでは強く吸い込み、思わず声を上げそうになるくらいにペニスを刺激していく。
 そして、実に手際よくペニスをまた堅くそそり立たせた。

 言っておくが、こういうテクニックに関しては私はなにも手を加えていない。ナオミがもともと身につけていたものだ。
 きっと、かなりの数のペニスを咥えてきたに違いない。
 私に、そのテクニックに舌を巻くと同時にナオミの淫乱さに少し呆れてもいた。
 だが、ますます気に入った。これは、調教の必要はないくらいだ。



「れろ、ちゅぱ、んふ、ちゅむ、んむ、んふう……ご主人様、私、もうアソコが熱くてしかたないんです。ですから、このおちんちんを私に入れてくれませんか?」

 いったんペニスから口を離すと、ナオミはすがるようにねだってきた。
 そして、両手を突いて向こうを向き、腰をこちらに向けて突き上げる。
 その体勢で指先を使って秘部を広げてみせる。
 ただれたように真っ赤に充血した陰部が丸見えになり、そこから溢れた愛液がぽたりぽたりと滴り落ちていた。

「お願いします、ご主人様。ナオミのいやらしいマンコにご主人様の逞しいおちんちんを突き挿してください」

 潤んだ瞳でこちらを見つめてそうねだるナオミの姿に思わずにやついてしまう。

 命令してもいないのに、この満点のねだり方だ。
 ただ残念なのは、ナオミを落札する相手が日本語を話せるとは限らないので、せっかくのねだり方も生かせないかもしれないが。
 だが、彼女たちに求められているのはそのいやらしい体だ。
 肉体と性技で主人を満足させることができれば言葉は必要ない。
 必要な言葉は、新たな主人のもとでゆっくりと覚えていけばいいだけのことだ。



「おねがいします、ご主人様ぁ……」
「いいだろう」

 再度ねだってきたナオミの腰をつかむと、その、蜜を垂らし続けているヴァギナに、フェラチオで堅くなったペニスを突き入れる。

「あんっ、あふうううううんっ!」

 一気に奥まで貫かれて、ナオミが体をぐっと反らせる。
 だが、すぐに捻るように腰をくねらせ始めた。
 すると、こっちは腰を動かしてもいないのに、襞が熱くまとわりつく刺激がかなりの快感をもたらしてきた。

「あっ、あはんっ、あうっ!ああっ、イイですっ!ご主人様のおちんちん、熱くてっ、ああっ、おマンコ、燃えそうですっ!ああっ、そこっ、深いいいっ!」

 私が腰を動かし始めると、ナオミもすぐにその動きに合わせていく。

「あんっ、イイッ、すごく気持ちいいですっ、ご主人様ぁ!」

 ナオミは頭をバサバサ振って快感を口にするが、ナオミの中は熱く、突くたびに襞がきつく締まって、こっちが感じる快感も相当なものだ。

「ああっ、あんっ、ご主人様!あん、はっ、はん、はあっ、あっ、あん、あうんっ!」

 くねらせるような動きから、今度は前後への動きに切り替えて激しく喘ぐナオミ。
 ふたりの動きはぴったりと合って、ペニスの先がゴツゴツと子宮口に当たり、そのたびにナオミの首が跳ねるように反り返る。

 ……かなりの女だとは思ったが、まさかこれほどとはな。

 これ以上調教の必要はないが、2週間の間、このいやらしい体を楽しませてもらうのも役得というものだろう。
 それに、ナオミを手本にさせれば他の娘たちの調教もすすもかもしれない。
 そうすれば、ますます価値も上がるというものだ。

「はうんっ、あっ、あんっ、はううっ!ああっ、ご主人様!ごしゅじんさまあああぁ!」

 そんなことを考えながら、激しく乱れるナオミの体を心ゆくまで楽しんだのだった。






* * *







 2週間後。

 夜の闇の中、埠頭の片隅に着けた艀に女たちを乗せていく。
 6人の女たちは一様に虚ろな瞳をして、表情も意思も感じられない。

 彼女たちには、昼の間に私が魔術を施して私たちのことは全て忘れさせ、意識を封印させている。
 この状態で彼女たちはオークションに出品されることになる。

「これが、それぞれの女の合い言葉をメモしたものだ。ちゃんとフィリップに渡してくれよ」
「了解です」

 女たちを艀に乗せ終えると、ジャンは私の手渡した紙片を大切にしまう。
 彼女たちの意識にかけた封印は、ひとりひとりに決められた合い言葉によって解けることになっている。
 そして、その合い言葉を言った相手を自分の主人と認識し、己の全てをその相手に捧げるようになる。

 その合い言葉は、女を落札した者に直接教えられることになっているが、向こうに到着してからの彼女たちの扱いも含めて、オークション会場にいる倅のフィリップに任せれば問題はない。

「では、行ってくれ。くれぐれも頼んだぞ、ジャン」
「任して下さい、ドクター」

 港に停泊している、表向きは香港行きの貨物船に、これから女たちは積み荷として乗せられることになる。
 もちろんおおっぴらにできない作業だから、港湾施設の人間に気づかれないようにこうやって艀を使って裏側から船に乗せる。






「ふう……これで今回の仕事も終わりだな」

 埠頭から離れていく艀を見届けながら、今回の仕事の出来に軽い充足感を覚えていた。

 19世紀のヨーロッパで最も偉大な魔術師のひとりと言われたアルフォンス・ルイ・コンスタンの曾孫ともあろう者が、こんな東洋の島国で人身売買の片棒を担いでいると知ったら曾祖父はどう思うだろうか。
 だが、それもしかたのないことだ。
 科学の進んだ現代では魔術など信じられていないし、もてはやされもしない。
 それに、人を堕落させる黒魔術は、やはり闇の世界でしか生かすことはできない。
 私のように、代々伝わる魔術を使って組織のために働き、生活の糧を得るのも時代の流れというものだろう。
 なにより私自身、自分の魔術を駆使して女たちを淫らな人形に堕とすこの仕事にやりがいを感じてさえいるのだ。

 さてと……これでしばらくはこの街で仕事はできないな……。

 この、神戸という街はこの国の街の中でも私のお気に入りのひとつなのだが、これだけの仕事をした後は、ほとぼりが冷めるまでしばしの間離れていなければならないのは残念だった。

 次の仕事は……横浜にするか、それとも函館にでも行くか。長崎に行くのも悪くないな。

 次回のオークションまでの女を集める仕事をどこの街で行うか考えながら、私は夜の街へと踏み出していった。






* * *







 街には、その街それぞれの表情を持っている。歴史ある伝統の都、猥雑で無秩序だが、それだけに人々の熱気と活気に溢れた庶民の街、あるいは異国情緒溢れる港町。それぞれの街の持つ魅力は、訪れる人を惹きつけてやまない。
 だが、街にはその街ごとに闇の顔も持っている。他所者を拒み、陥れ、不用意に近づく者にはたとえ地元の人間であっても牙を剥く、暗く深い闇がどこの街にもある。
 それは、あなたの住む街にもきっと……。
 そう、もしかしたら、すぐ近くで闇が大きく口を開けてあなたが来るのを待ち受けているかもしれない。

 
 
< 神戸編 終 >


 

 

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