○○な彼女


 

 



 ジリリリリリリリ。

 社内に電話の呼び鈴が響く。
 そして近くにいた青と白の社員服を着た女性がその受話器を取った。

 ガチャッ。

「はい、はい?……あ、ちょっと待ってください」
 女性は保留にして受話器をおくと俺の傍により、耳元で囁いた。

「先輩、パンモロってご存知ですか?」

 ざわっ。
 俺は思わず固まった……。

_____○○な彼女シリーズ=電話な彼女_____


 俺以外にも突然の言葉に思わず作業を止めた人が何人かいた。
 まあ当然だよな。
「知っているけど、とりあえず悪戯だから切りなさい」
 どこの誰だよ、こんな電話かけてくるなんて。

「え、あ、はい……」
 俺の言葉に従うと、彼女はぶつぶつ言いながら相手には何も答えずそのまま電話を切ってしまった。
 まあ、こういう電話はいちいち応対するのも馬鹿馬鹿しいのでこれでいいだろう……。

「あの、本当に良かったのですか?」
 すると、彼女は俺のそばに戻ってきて、不安そうに聞いてきた。
(まあ知らない人がいてもそこまで珍しくも無いか)

 彼女は俺の後輩、すらっと伸びる黒い長髪に背は俺より少し低いくらいで着痩せ(きやせ)するタイプらしいが青い着衣の上からも豊かな胸が存在を誇示している。
 彼女が歩くといつも柑橘系の香水の匂いがして、正直上の中くらいの美人だと思う。
 しかし、色々抜けているところがあり、入社してもう一年半が経過しているがよくミスをする。
 電話に出るのは彼女の役割ではないのだが……、何故か大概彼女が出ている。
 ほとんど定番化してしまっているのだ。

「とりあえず後で教えるから、今度ああいうのが来ても相手にしなくて良いからね」
「え、今は駄目ですか?」
 なんて教えれば良いのだ……。
 真面目なのは良いが、こういうときは反応に困る。
「とにかく、後で教えるから今は仕事に戻って、それとこういうときはもっと小さな声で聞いてくれ」
「あ、わかりました」

 ジリリリリリリリリ。

 などと話していたらまた電話が鳴った。
 それをうけて彼女が再び受話器をとる。
「ハイ○×株式会社です」
 まあ、おそらく同じ人からの悪戯だろう。
「はい、はい?……あの、すみません、少し待ってください」
 そういうと、彼女は再び保留にして受話器を置き、俺に近づいてきた。
(はあ、今度は何だ?)
 そして彼女は再び耳元で先ほどよりも小さな声で囁く。
「あの、フェラって何ですか?」
 俺は再び固まった……。

 俺の反応を見て大体察したのか、周囲から複雑な表情でこちらを見ている人の目線が気になる。
「なあ、本当に、知らないのか?」
 俺はそう、半ばあきれ気味に彼女に尋ねた。
「え、え、えっと……」
 おいおい、何て言えば教えれば良い?
「とりあえず、それも悪戯だから切りなさい」
「あ、はい、わかりました」
 そう言うと彼女は再び、何も答えずにそのまま電話を切った。
 そして再び俺の傍に戻ってきて耳元で囁く。
「あの、それでフェラって一体?」
(……答えろというのか……)
 とりあえず俺はできるだけオブラートに包んで教えてみた。
「後ろに『ち』と『お』をつけてみなさい」
「ちとお……ちとお……えっと…………あっ!」
(やっと気づいたか……)
 彼女の声とはっとした表情に、俺はようやく気づいたかと安心し、頭を抱えた。
 すると、彼女は自分が発していた言葉を理解したのか、どんどん顔が赤くなっていった。
 そして、もう一度さっきよりも更に小声で話しかけてきた。
「あの先輩、ひょっとしてさっきの言葉も……」
 と、彼女は恥ずかしげに聞いてきた。ようやく理解したか。
「そう、とりあえず同じ系統だと思っておけば良いよ」
 俺はそう、溜め息まじりに彼女に返した。
「___ッ!」
 すると、彼女の顔は更に赤く染まっていった。
 すると始終の光景を見ていた周りの同僚たちからくすくすと笑い声が聞こえてきた。

「おい加藤! ちょっと来たまえ」
 すると突然、部長から突然俺が呼ばれた。
「あ、はい何でしょうか」
(何となく予想はつくけど……)
 俺は席を立ち急ぎ部長の下へ向かった。
 すると部長はにこにこ笑いながら発した。
「後で彼女にこういう時の電話対応を教えてあげなさい、あとそういう言葉も」
 ……俺に教えろと!

「え、あの、電話対応は良いですけど……後のほうはセクハラでは?」
 すると部長は変わらぬ笑顔でこう語った。
「君が適任なの。良いからやりなさい、あとこれ」
 そういって部長は四方に折り畳まれた一枚の紙を取り出した。
「これは?」
 そういって部長からその紙を受け取る。
 すると部長は小声で囁いた。
「彼女の書類だ、後できちんと読んでくれ、他言無用だぞ」
 彼女の……書類?
「はっ、あの、ところで本当に私が……?」
 納得が行かない俺はもう一度確認した。
「君しかいないの、頼むよ。ちゃんと残業ということにしておくから」
 残業決定!?
 まあ残業代出るなら良いか……。
「はあ、わかりました」
 俺は渋々承諾した。

 そして俺はそのままいそいそと自分の席に戻った。
 すると彼女は手を前で結び、きちんと立ち顔を真っ赤にしたまま俺を待っていた。
 そして俺が目の前に来ると彼女は、丁寧にお辞儀をした。
「えっと、そのっ、すみませんでした!」
 俺が怒られたと思ったのか、はたまた先ほどの一件のことか、彼女は丁寧に謝ってきた。
 そこで俺は彼女の肩を軽く叩き、顔を上げて貰った。
 そして俺の動向を伺っている彼女を見ながら言った。
「とりあえず、残業決定」
「え……」
 すると彼女もまた、固まった。

____そして夜____

「えっとそれで、どうしたら良いですか?」
 彼女は早速、何をしたら良いか聞いてくる。
「うーん、とりあえずもう少し待ってくれ」
 俺は部長から貰った紙を読んでいた、それには彼女のことが書いてあったのだが……、ところどころに少しおかしな記述があり、首を捻っていた。
「あのー、もう皆さん帰っちゃいましたけど」

 今、部屋には俺と彼女だけ、他の人たちは今日残業が無いようで、みな時間になり、仕事が終わると帰っていった。
「部長の指示でな、誰もいなくなってから始めろという話だ」
「えーっ!」
 と、俺の発言に彼女は嫌そうな声をあげた。
「そう嫌そうにするなよ、俺もだから……。あとで(一緒に)飲みに行くぞ、奢ってやる」
「それは嬉しいですけど……、なんでわざわざ、いえまあ、大体わかりますけどね」
 彼女も何となく察しているようだが、やはりそんな理由でと思っているのだろう。
「さてと、やるぞ」
「はあ〜い」
 彼女のやる気のなさそうな声が響く。

 まあ電話応対はともかく、隠語レッスンの残業なんて馬鹿馬鹿しいにも程がある。
 今更だが、仕事終了後に一緒に飲み行き、その席で一通り教え込めば解決な気がする。
 何故部長はわざわざ残業させたのだろう……。

「とりあえずパン……モロについて」
 まあ、やるしかないか。
「パンモロ……ああ、結局あれ何ですか?」
「本当に知らなかったのか……」
 まあ知らないなら仕方ないわな。
「何だろう……パンとモロッコ?」
「違う違う、良いか?」
 そして俺の隠語レッスンは始まったのだが……。
 正直何を教えて良いかわからず大変だった。
 幸い、いや当然というべきか、彼女もある程度の知識はあるようで割とスムーズに運んだ。途中何度も互いに言葉に詰まったり顔が赤くなったりあったが、すいすいと終わった。
「ま、まあ、これくらいだろう」
「で、ですね」
 一通り終えて声をかける、俺も彼女もかなり恥ずかしくなっていた。
「じゃあとりあえず、あとは俺が電話かけてみるから、応対してみて」
「は、はいわかりました」
 そういうと、俺は少し離れて携帯を取り出し、彼女は電話の傍へ歩いた。

「じゃあ、はじめるぞ」
 そういうと、俺は携帯のスイッチを押した。
 ジリリリリリリリリ。
「はい、○×株式会社です」

 さて、ここで部長から手渡された紙の内容が気になる……。
 更に部長からリクエストが三点あった。
 ……まあ、きっとただ比較的言いやすい言葉を選んでくれただけだろう……。

「ブラチラしてくれ」
 でもこれはどうだろう……。

「いやです」
 そうきっぱり言うと、彼女は電話を切った。

(よしよし)

「まあそれで良いだろう」
 と、俺は感想を述べる。

「はい、何回するのですか?」
 そう彼女は、落ち着いた表情で聞いてきた。もう大丈夫かな。
「あと三回くらいな、とりあえず部長からの指示があと二つあるから」
「はーい……、え、今の部長から何ですか?」
 そういうと、彼女は若干嫌そうな表情を作った。まあ気持ちはわかる。
「いいからやるぞ、次だ」

 そういって携帯のスイッチを入れた。

 ジリリリリリリリリ。

「はい、○×株式会社です」

「ブルセラにつ___」
「結構です」
 ガチャン!

 今度は俺が言い終わるより先に受話器を切った。
「そうそうそれで良い」
 俺が感心してみせると彼女は普段どおりの顔で笑った。もう問題ないだろう。
「とりあえずあと二回な」
「はい」
 そして俺は三度目の電話を鳴らす。
 しかし部長のこの指示は何なのだろう。
「大事な仕事だ、聞いてくれ」
「結構です」
 ガチャン!

「こらこら切ってどうする」
 俺はたまらずストップをかける。
「え……あそっか、今のは大事ですね」
「しっかりしてくれ、もう一回やるぞ」
「はい」

 ピッ。

 ジリリリリリリリリ。

 ガチャッ。

「はい、○×株式会社です」

「大事な仕事だ、聞いてくれ」

「何でしょうか?」
 さてこの質問、どう考えてもセクハラにしか見えないのだが……。

「仕事だ、下着の色を教えなさい」
「今は黒です」
「ちょっと待った!」
「はい?」
 たまらず俺は電話からではなく直接彼女にツッコミを入れる。

「教えるなよ」
「え……、あ……」
 俺の言葉に彼女は呆気にとられて、その後少し恥ずかしそうな表情を作った。
「はあ、とりあえず、もう一回な」

 ピッ。

 ジリリリリリリリリ。

 ガチャッ。

「はい、○×株式会社です」

「大事な仕事だ、聞いてくれ」

「はい?」
 さて、部長の指示だが……。

「仕事だ、パンチラしてくれ」
「あ、はい? こうですか?」
 そういうと、彼女は突然電話を肩と頬で抑えると青いスカートをめくりだした。

「ちょ、ちょっと待った!」
 たまらず俺は声をかけた。
「え?……あっ!」
 気づいたのか彼女はばっとスカートを元に戻した。

「しっかりしてくれ」
「す、すみません」
 たまらず溜め息をつく俺に、彼女は恥ずかしそうにお辞儀した。

(……あれ、そういえば部長の紙のこれ……)
 俺は部長から貰った紙の違和感を覚えた部分をもう一度眺めた。

【彼女は集中力が欠けていたため、どんな仕事にも熱心に集中するよう指導をうけているが、所々やりすぎている部分があるので注意が必要である】

 また別の箇所には以下のように書かれていた。

【彼女は元々消極的な性格であったため、どんな仕事でも積極的に行えるように指導してある。そのため直属の上司、または先輩にあたる者は十分注意するように】

 正直どちらも少し意味がわからなかったのだが、今の彼女の行動を見て、ある可能性が浮かんだ。

「よし、もう一回だ」
 そこで、ある指令を彼女にぶつけてみることにした。
「あ、はい、わかりました」
 そして俺は携帯のスイッチを入れた。

 ピッ。

 ジリリリリリリリリ。

 ガチャッ。

「はい、○×株式会社です」

「大事な仕事だ、聞いてくれ」

「はい?」
 これでわかるはずだ。

「仕事だ、今すぐ服を全て脱いでくれ。服だけで良い」
「あ、はい、少々待ってください」
 すると、彼女は再び電話を肩と頬で抑えていそいそと脱ぎだした。
(やっぱり……)
「仕事変更だ、脱ぐのはスカートだけで良い」
「あ、わかりました」
 彼女は、何の疑問も浮かべずに青いスカートのジッパーに手を触れ、そのまま脱ぎ捨てた。
 すると中から黒い扇情的な下着が姿をあらわした。
「脱ぎました」
 すると彼女は、電話越しに次の指示を聞いてきた。
(間違いない……、これは暗示レベルの何かを施されている)
「ああ、次の仕事だ…………えっと」
 何も考えてなかった……。
(というか何している俺、もっと色々あっただろうに)
「先輩? 次の仕事は?」
 すると彼女は不思議そうに電話越しに聞いてきた。
「よし仕事だ、今日教えた言葉や覚えた言葉をそれぞれ十回ずつ言ってみてくれ」
「はい、わかりました」
 しかし、暗示をかけた誰か、一言だけ言わせてくれ。

「パンモロパンモロパンモロ………」

(何故こんな馬鹿馬鹿しい暗示をかけた!!!)

「フェラチオフェラチオっと、えっとあとは……」
「もういいもういい!」
 俺は必死に笑いを堪えた。目の前で何のためらいも無く隠語をかたっぱしから言いまくる彼女を見ていると気の毒だが正直おかしくてたまらない。
 俺がやらせた事とはいえ、正直笑いを堪えるのが精一杯だった。

 どうやら彼女は『電話越しに来た言葉はそれがどんなことでも仕事なら受ける』よう指導、いや暗示を施されているようだ。もしも誰の言葉でも聞くとしたら色々恐ろしいことになる。部長の指示はこういうことだったのか。

「あの先輩、次どうしたら良いですか?」
(どんなことでも聞くのかな?)
「ああ、そうだな、次の仕事だが……、今度は下着を脱いでくれないか」
「え、えっと、下着……下だけですよね?」
 流石に抵抗があるのか、電話越しに聞き返してきた。
「ああ、下だけで良い」
 ほんの好奇心だったのだが……、折角だからこのままやらせよう。
「は、はいわかりました」
 そういうと、彼女は恥ずかしそうに笑いながら、こちらを見つめながら脱ぎだした。
 気のせいか、心なしか少し嬉しそうだ。
「脱ぎながら聞いてくれ」
 そして俺は、次の仕事を伝えようと彼女に電話越しに語りかけた。
「な、何ですか?」
 話しづらいのか彼女は片手に受話器を握りなおし、前かがみになって残った手だけで下着を脱ぎ始めた。
「仕事の一環として聞きたい事がある。以前集中力や仕事の積極性について指導を受けたことはあるか?」
「はいあります」
(やはりそうなのか)
「それは何処で、どういった内容だったか言えるか?」
「はい、あれは確か入社して一ヶ月経たない頃でした。先輩に何度も迷惑かけていた時期です」
 そういえば入ってすぐの彼女は口数少なく消極的で失敗が多かったな。
「そのとき、部長さんから金髪の女性を紹介されて、彼女から指導を受けました」
「どんな人でどのような内容だった?」
「はい、その人は金髪に黒い服を着ていて女の私が見てもとても綺麗な人でした。目はサングラスをしていてわかりませんでしたが、リラックス療法と言われて、ベッドで横になるよう言われました。そしていくつか質問をうけ答えたら眠たくなって、そして気がついたら指導は終わっていました」
 なるほどね、そのとき暗示を受けたのか。
 にしてもその結果が電話越しの仕事は全て受け入れるとは……。

 俺は部長から貰った紙をある一文をもう一度確認した。
【上司や先輩であれば、一度指導して貰えれば、彼女はできる子なので、きちんとした指導を望まれる】
 つまり部長は、今日の事で彼女の今後を心配し、俺にきちんと暗示をかけかえてくれということだな。
 誰もいなくなってからという指示も俺が適任の意味も大分わかってきた。
 だが、それでもいくつか気になることがまだあるのも事実だった。

「あの、先輩、次どうすれば良いですか?」
 すると、彼女が電話越しに聞いてきた。
 見ると彼女は既に下着を脱ぎ終わり、床に落ちていた。
 そしてやはり羞恥心はあるようで、右手で股間を抑え、顔はほんのり赤くなっていた。
「これからは全て仕事の一環としての質問だ、きちんと答えてくれ」
「はい」
 俺は彼女をきちんと指導しようと思ったが、この機会に最後になるかもしれないので、色々聞くことにした。
「今の一連の仕事、今この場に俺以外がいてもできたか?」
「はい、今以上に恥ずかしいし、抵抗はあると思いますけど、できます」
「では、仕事の指令が俺以外だったとしても、同じか?」
「いやです」
 あれ?
「他の人からの仕事では嫌か?部長や社長でも?」
「いやです、先輩ならまだ良いですけど」
 あれ……? 

「俺だからできたのか?」
「はい、そうです」
「パンチラはどうだ?」
「それくらい、なら、できます」
「服を脱ぐのは?」
「それは嫌です」
 彼女を見ると、少し恥ずかしそうにしている。
 なるほど、いくら仕事でも限度はあると、あれ?
「ではもし、俺がこの場で裸踊りをしろと言ったら、できるか?」
「ええっ!……先輩がそんなこと言うと思えないですけど、しろというなら、できます」
 少し驚いたが、彼女は恥ずかしそうにそのまま答えた。
「誰かがいたらどうだ?」
「それは……嫌です」
「おまえ、俺のことが好きか?」
「え……えっと」
 突然の質問に、彼女は戸惑った。
「仕事の一環だ、答えろ」
「は、はい……好き……です」
 彼女の声は若干おとなしくなっていた。
「それは、先輩としてか?」
「い……いえ、先輩としても好きですけど……その、一人の男性としても……」
 と、彼女は静かに答えた。
 みると彼女は、とても不安そうな表情を作っていた。
 一方でこの答えに、俺は色々確信した。
 いくら仕事だからと何でもするのはやりすぎだ。
 だが同時にまたいくつもの疑問が頭をよぎった。

「俺の、何処が良い?」
「それは、やさしいし、いつも真面目で、困っているときに守ってくださいますし、頼りになります。今日だってこんなに付き合ってくださって、それに今夜だって私が原因の残業なのに奢ってくれるって……それに……」
「もういい」
 正直、耳が赤くなるくらい恥ずかしい……。
「俺、この場で下半身裸にしたような奴だぞ」
「それは仕事ですし、先輩だからできました。それに……それに……」
 仕事でなかったらどうなるのだろう……。
 というか、俺に都合良すぎないか、この子。

「いつも世話になっていますから、これくらい問題ないです。私元々、えっちだし」
「そういうことをあっさり言うな」
「あ、すみません」
 そういうと、電話越しに彼女はお辞儀していた。
 世話に……ね……あれ?
「あれ、おまえ、そんなにえっちに見えないけど」
「いえ、知りませんか? 私会社にその……バイブとか……持ってきています」
 えっ?
(というか知りませんかって……誰か知っているのかよ)
「ちょっとまて、それ何処だ? 見せてみろ」
 思わず俺は携帯で話しかけながら彼女の席に近づいた。
「え、えっと、私の席の引き出しの中の……あ、先輩!」
 俺は彼女の制止も無視して彼女の引き出しを開けた。

 ガラッ。

「おいおい……」
 そこには彼女の言ったとおり、引き出しの中、奥のほうから小さなボール状のものとおそらく通常サイズのバイブが出てきた。他にも何かのローションやら色々……これはアナルパールか?

「何でこんなに?」
 不思議に思い、彼女に聞いてみた。
「あ、それはですね。最初は恥ずかしさを紛らわすにはそれ以上の恥ずかしい事をすれば良いと聞いたので使っていました。そしたら……その気持ちよかったりして、それでどんどんエスカレートしていっちゃいまして……それで」
(ショック療法か……誰かに見られたらどうする……引き出しも見られたりしたら……ん、あれ?)
 ふと彼女の股のあたりを確認すると、手で隠されているが、少しだけ何かの液体が膝の間を垂れていた。
「お前、ひょっとして今も何かつけているのか?」
「は、はい」
 聞くと彼女は、元気の無い声で答えた。
「見せて、貰って良いか?」
「あ、あの、えっと」
(あ、いけない)
 慌てて俺は、携帯越しに、再び話しかけてみた。
「仕事の一環だ、今使っているものを見せてくれないか?」
「は……はい、わかりました」
 すると彼女は元気なく返事をして、くるりと後ろを向いた。
 すると、お尻の中で小型サイズと思われるバイブがぶるぶると震えていた。

「今、恥ずかしいか?」
「は、恥ずかしいです」
「なら、意味無いと思うぞ」
「あ、で、ですよね……」
「何で、そんなに元気無い?」
「そ、それは、先輩に、見られた……から」
「どうしてそんなに嫌なの?」
「そ、それは、怒りますよね、それに、きら……われ……」
 俺の目の前で、彼女はどんどん元気が無くなっていった。

「いや、嫌う男はそうそういないと思うぞ」
 そう携帯越しに語りかけながら、不安そうにしている彼女の傍に寄った。

「もう一度聞く、俺のこと好きか?」
「え、は、はい好きです」
「今日よりひどいことするかもしれないぞ」
「え……?」
 すると、彼女の青い顔は少し生気を取り戻した。
「まったく、こんな俺の何処が良いのか……」
「え、ひょっとして……」
 そういうと、後ろを向いて青くなっていた彼女は、くるりとこちらに向き直った。
 見ると彼女の瞳からは、うっすらと涙がこぼれ始めていた。
「本当に、俺で良いのか?」
「あ、あ、あ」
 彼女の顔はまだ信じられない、といった表情をしていた。
「答えろ、俺で良いのか?」
「はいっ!」
「本当か?」
「はいっ!」
 すると、彼女の顔はみるみるうちに元気になる。
「後悔しないな!」
「はいっ!」
「なら……、俺でよければ、付きあおうか」
「っ!……はいっ!」
 そして彼女は、満面の笑顔を俺に向けた。

 …………。

 ……。

「にしても、抜いて良いか?」
 そういって、俺は彼女のお尻に刺さっているモノに手をかける。

「あ、はい良いですけどちょっとまぁっ!」
 彼女の了承も待たず、俺はあっさりとバイブを引き抜いた。
 すると彼女は大きく反り返り、少ししてその場にへたり込んだ。

「ひ、ひどいですよ。いきなり……抜くなんて……ハァッ」
「ああ、ごめんごめん。どんなものが入っているか気になったもので」
 俺は、彼女の中から出てきたバイブをまじまじと見つめた。
 よくこんなものを入れて平常心保てたな……。

「でも、本当に私で良いのですか?」
 すると、彼女はへたりと座ったまま電話越しに聞いてきた。
 まだ電話越しでないと駄目なのか……。

「私、ドジでおっちょこちょいで、失敗多くて、いつも迷惑ばかりかけているのに」
「ん、まあ良いだろう細かいことは、それより聞きたいけど」
「な、何ですか?」
「たとえば、ハードなプレイを望んだら、お前はOKって言うか?」
「えっと、例えばどのような?」
 聞かれて、俺は電話越しではなく、直接彼女の耳元で囁いた。
 すると、彼女の顔はどんどん赤くなっていった。
「む、むりうり! 絶対無理です!」
 うりになっている……。
「なら」
 そういって、俺は携帯に口を近づける。
「なら恋人と二人きりで、仕事の一環としてなら、どうだ?」
 すると、今度は顔を赤らめながらも嬉しそうな表情を作った。
 そして、元気にいっぱいに答えた。
「は、はい、恥ずかしいですけど、そういうことなら喜んで!」

 部長の指示、そして紙に書いてある指導。
 俺はどうすれば彼女に指導できるのか、大よその予想は付いていた。そして。

「なら先輩としての仕事のアドバイス、そして俺からの指導だ。今後かかってくる電話だが、淫らな言葉、隠語、セクハラや、やらしい言葉も、よくわからない相手もそうだ。そういうのは今後一切相手にしなくていいからな。ただし……俺以外」

 悪いが部長、俺も欲望に生きる一人の男だ。

「はいっ! 先輩以外の人の変な電話は一切相手にしません」
 すると彼女は、再び元気な声で、そう、電話越しに答えた。
(とりあえずこれで、指導は終了かな)
「よし、じゃあ電話切るぞ」
「はい、では先輩」
 すると、彼女は受話器を置くと同時に、俺に近づいてきた。
 そして開口一番呟いた。
「それじゃ、下脱いでもらって良いですか?」
 俺は再び固まった。
「な、なんで脱ぐの?」
「え〜、だって先輩その、私を脱がせたって事はつまり……そういうことですよね?」
 彼女は恥ずかしそうに照れながらそう言うと、下を隠そうと着ている上着を引っ張り、内股でもじもじしだした。
(……おいおい、まさかここでやるつもりか)
「ちょっと待て、ここじゃなくても……良いだろう。ほら、家帰ってからとか」
「駄目です、待てません! それに先輩さっき抜いちゃいましたし。それに言ったじゃないですか。私、えっち大好きだから♪」
 いやえっちだとは言っていたけどそこまでは……。
「そうそう、私初めてだけど知識は豊富だから、きっと満足できますよ」
 ……とてもパンモロを知らなかった人の発言と思えない。
「じゃあどうします? 私が脱がせましょうか?」
 そういうと、彼女は俺のズボンのホックに手をかけた。
「ちょっ……ああ、まあ良いか……頼む」
 俺は最初こそ戸惑っていたが、すぐ落ち着き、彼女に任せることにした。
「はい、あそうだ。先輩、これからはちゃんと名前で呼んでくださいね♪」
 言いながら、すでに俺の一物はズボンの間から出されていた。
 そして彼女はそれを握り締め、恐る恐る舌を近づけだした。なんか積極的だな……。
「ああ良いぞ、ただし普段は今までどおりな、えっと……成美」
「あー、今一瞬名前わかりませんでしたね、翔太先輩」
「先輩はいらない」
「はい、翔太さん!」
 さんもいらないけど……まあいいか。

「じゃあ、いきますよ」
「あ、ちょっと待った」
 ふと思いつき、一物を舐めようとする成美を静止した。
「どうしました?」
「その前にこっち」
 そういって、俺は自分の口を指差す。
「あ、はい♪ 先輩♪」
 そういうと、彼女は俺に飛び込むように抱きついてきて、そのまま俺と、唇を交わした。

〜〜とある一室にて〜〜

「よし、なんとかうまくいった」
「どうした?」
「以前行った会社で仕事が上手く行かないって言っていた人いたでしょ? あの時の女の人に指導という名目で暗示をかけたことあるのね」
「あああったね。それで?」
「で、どうも社内に好きな人がいるみたいだから、少し後押ししておいたのだけど、どうやら上手くいったみたい」
「そうか、どんな風に?」
「うん、簡単に言うと、相手も男ならきっと乗ってくるだろうって思える形に暗示を少し調整しておいたの。そしたら大分遅くなったけど、きちんと上手くいったみたい」
「なるほど誰でもか……でもそれって大丈夫なのか? 後で問題起きたりはしないか?」
「うん、相手の男、結構真面目でしっかりした人だから大丈夫だと思うよ。彼女も相手があの人なら問題なさそうだったから。寧ろ若干乗り気かな?」
「そっか、まあユリアがそういうなら大丈夫だろうけど」
「でしょ。まあそれだけ、それじゃカズ、おやすみ」
「おう、おやすみ」

〜〜そして、数日後〜〜

 俺はいつものように、仕事をしている。
 成美とは正式に付き合うことになった。
 後でわかったのだが、たとえプライベートでも自分の携帯への電話でも、電話越しに仕事もしくはその延長上の話として言えば大概の事は聞いてくれた。
 路上を裸で歩けと言った時は流石に拒絶されたが、人がいなければ良いと返してきた。羞恥心は無くなっていないようで安心したが、おかげで色々と楽しい毎日だ。
 なお彼女は本当にそういうことが好きのようで、どちらかというと俺のほうが振り回されている気がする。暗示が無くても自らとんでもない格好になる時もあるくらいだ。

 ジリリリリリリリリ。

 ガチャッ。

「はい、○×株式会社です……はい? そういうことは他の方に聞いてください」
 
 ガチャン。

 ご覧の通り、彼女も今は普通に電話対応もできている。

「大丈夫そうだね」
 そういって、傍を部長が通り過ぎた。
 後で聞いたが部長はあの暗示を知っていたらしく、興味本位でやってみたら若干嫌そうに下着の色を教えてくれたという。それでその一回以来やっていなかったらしい。
 どうやらある程度相手の好感度も関わっているとの事だ。そして、あの電話対応を見て、心配になり、俺に一任したとの話だ。俺が適任と言われた理由も大体わかった気がする。
 後驚いたのだが、俺と成美が電話でした会話だが、成美があの後社内の電話の通信記録から全て消してしまったのだ。
 正直驚いてしまったが、人間意外な技を身に着けているものだ。以後やりたい時は互いの携帯へかける事になっている。

 ジリリリリリリリリ。

 ガチャッ。

「はい、○×株式会社です……はい、はい?」

 また電話だ。まあ、もう大丈夫だろう。

「はい、少々お待ちください」

 そう言うと成美は保留にして受話器をおくと俺の傍により、小声で話しかけてきた。

(今度は何だ?)

「あの先輩、大事な話と言われたのですけど、最初は小さいけど段々熱くて太くて固くて大きくなるものって何ですか?」

(ぶっ)

 俺は思わず吹いてしまった。近くにいた部長も聞こえていたのか、その場でずるっと滑るようなリアクションをとっていた。

「とりあえず、アレだから切って」
「あ、イタズラですね、はい」
 俺の言葉に従うと、彼女すぐに電話を切った。

 すると傍にいた部長がにっこりと笑いながら俺に近づいてきた。

(え……まさか……)

 そして部長は俺の肩を優しく叩き、こう囁いた。

「残業」

 あ、やっぱり?

 ……とりあえず今夜は何してやろうか。
 俺は少しして席を立つと、部屋を離れ人気の無い廊下へと脚を運び、そして携帯のボタンを押した。

「はい、あ、先輩少し待ってください……ここなら誰も聞こえないと思います、何ですか?」

「さっきの電話、残業決定らしい」

「えーっ」
 電話越しに彼女の嫌そうな声が聞こえてくる。まあそうだよな。
「それで仕事の一環、今からバイブやら、前後ろ両胸で四つつけろ。夜までな」
 他意はない。なんとなくいじめたくなったのは内緒だ。

「えーっ四つ? わかりましたぁ。トイレでしてきますね……」
 流石に嫌そうだな、まあこういうのもありだろう。
「あの、ほんとに四つだけですか、全部でも良いのですけど」
 
 そっちかよ!!!
 
「なら全部だ、誰にもばれるなよ」
「あ、はいわかりました翔太さん♪ そして夜はお楽しみですね♪」
 そう嬉そうに言うと、成美は鞄を持って部屋から楽しそうに出てきた。

(ひょっとしてとんでもない彼女持っちゃったかな……)

 この後、少しして時々顔を赤くしながらいつも通りに仕事する成美の姿があった。
(服越しだと意外とわからないものだな)

 ちなみに3年後、僕らは入籍した。

 
 
< 終 >


 

 

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