○○なあたし


 

 



番外編3 ほんの少し後の二人(後編)


 涼の気遣いに素直に従っておくべきだった。



 ファミレスで涼と誓いの言葉を交わした日。あそこまでは、頑張って意識から追い出せた。でも、その翌日が、一番きつかった。
 おなかの中は熱いというより、ジュクジュクとただれたような感覚になった。その日の夜は、指で熱いところを触りたいという欲求があふれそうになって、なかなか寝付けなかった。当然、あたしは濡れやすくなって、久しぶりに生理の用途以外でナプキンのお出ましになった。
 その次の日(つまり昨日)になると、その感覚にもある程度慣れてきたけれど、夜に、お母さんが今日忘年会だと聞いた時には、途端に今日のことで頭がいっぱいになった(お父さんと妹の帰りが遅いのはいつものことだから、お母さんがいないということが重要だった)。その段階で、「負けた」と思った。
 この感覚は……すごく表現しづらいけれど、何というか、「してほしい」とか、「エッチしたい」みたいな言葉より、



 ヤリてー。



 ……なんていう、下品でストレートな言葉が似合う感じだった。
 涼が来るのに備えてシャワーを浴びている今も、あそこの奥をゴリゴリして欲しくてたまらない。そして、そんなことを考えるだけでも、あたしの身体が反応して、理性が崩れそうになってしまう。

「だめだめ」

 あえて口に出して、自制する。ついさっき、そこを洗うために触って、性欲が一回引いたにもかかわらず、すぐにこんな感じになってしまう。自分でエッチなことはできないけれど、ここで泣き言を言ってしまうようでは、涼のモノとしての覚悟が問われるというものだ。
 お風呂場から出て身体を拭き、肌の乾燥を防ぐローションを塗る。ちょっとした手入れだけど、これも涼と付き合ってからやるようになった。

 まずは指輪を取り、左手の薬指にはめる。今は家に誰もいないから堂々と左手につけられる。次に、ペンダントを首にかける。
 鏡を見ると、お湯の熱で火照ったあたしの顔が映る。一瞬物欲しそうに見えたのは、決して見間違いではない。だって、欲しいから。
 何となく、どきどきしてしまう。……考えてみれば、あたしと涼がつきあい始めてから、涼があたしの家に来るのは初めてだ。
 初エッチをあたしの方から誘っていたら、こんな気持ちになったのかな、と少し思った。

 側に用意してあった洋服は、ロングスカート以外は、今日学校で着ていたものと同じだ。少し考え込んでしまったせいで、もう時間がない。あたしはそれを手早く身につけ、脱衣所を後にする。

 ピンポーン。

 ドンピシャのタイミングで、ドアホンが鳴る。下半身がスースーする感覚を我慢して、あたしは玄関に駆け寄り、――念のため、本当にドアの向こうにいるのが涼であることを確認して――扉を開ける。



 2階にある自分の部屋に入るまで涼に抱きつかずに済んだのは、その前に抱きついたら「本来の目的」にたどり着くまでに時間がかかってしまうからで、そんなことを考えているという時点で、あたしの頭はもう大丈夫じゃなかった。
 部屋の中に入ってからコートを脱いだ涼からは、かすかにシャンプーの匂いがした。学校のシャワー室を使ったのだろう。
「したい」
 涼に抱きついたあたしは、いきなり、それでも控えめに、欲求を告げる。
「やっぱり我慢できなかったんだ」
「うん、できなかった」
 正直に応える。
「淫乱」
「うん、あたし淫乱」
 涼がからかってくるけど、言い訳する気にならなかった。事実過ぎる。
 ちゅっ。
 唇を合わせる。そのまま涼の手が、あたしのお尻を撫ではじめる。すると、
「ん?」
 涼が気づいた。
「……穿いてない?」
「うん、ブラもつけてない」
 ……それは、今の自分が発情しておかしくなっていることを自白する、最も簡単な方法だった。
 どうせ、穿いたところですぐ汚れるし。かといって、そのためだけに新しいナプキン出すのも勿体ないし。そもそもすぐ脱がされるし。
 シャワーから出たばっかりなのに、そこはもうとっくに濡れているのが、感覚で分かる。その感覚が、自分の予測の正しさをよく表していた。

 涼から離れて、自分のベッドの前に立ったあたしは、そのままロングスカートをまくり上げる。もうトロトロになっているおま○こを涼が見つめていた。
「今すぐ、おま○こにお○んちん、欲しい……」
「……都、おま○こに僕のお○んちんが入るところ、想像して」
「……んふぅっ!」
 そのイジワルな命令は、あたしをメスにたたき落とすには十分だった。
 ……このおま○こに、お○んちん、ぐさっ、って、きたら……!
「あ、ああぅっ……!」
 あたまが、それしか考えられなくなる。
 おま○この感覚が、とろける。
 あしが、がくがくする。
「都、上半身脱いで。スカートはそのままでいいや」
 手がかってに動くけど、あたまの中は、お○んちんで、いっぱい。
 お○んちん、ぜったい気持ちいい。
 はやくほしい。
 ヤリたい。
「すぐあげるけど……我慢できなかったんだから、お仕置きが必要だよね」
 涼を見たら、シャツをぜんぶ脱いで、上だけハダカだった。
「『ラストカードは私に』」
 すぅ――――っ。

「都ちゃん、おま○この感覚に集中して」
「…………はい……」
 ………………あつい…………
「その感覚が、どんどん大きくなっていきます。おま○この感覚が、全身を占領していく。ほら膝が、おま○こに乗っ取られた。足全部が。おなかが、おま○こに乗っ取られていくよ。ほら、都ちゃんの力では、もう動かせない」
 ……………………うごかせ、ない…………
「そのままおっぱい、首。そして――口が、乗っ取られました。もう都ちゃんはしゃべれない。しゃべっているのは、都ちゃんのおま○こです」
 …………………………しゃべ、れ、ない…………
「そのまま、鼻、目……おま○こに乗っ取られる……おま○こが、頭の中に入ってきた……じわじわ広がって……都ちゃんは、おま○こに乗っ取られてしまいました。都ちゃんは、おま○こです。はい、言ってみて」
「…………あたし、は、…………おま○こ…………」
 ……………………あたし……おま○こ……
「はい。都ちゃんは、おま○こです。おま○こになりました。
 でも、あなたの両腕は、元の都ちゃんのままです。都ちゃんの両腕は、普段は、自分で動かすことができません。ですが、都ちゃんのおま○こが余計なこと、都ちゃんが言ってほしくないことを言おうとしたときは、両手を口に当てて、言わせないようにすることができます。
 ただし、ただ単に『恥ずかしい』というだけでは手は動きません。それを言ったら、都ちゃん自身が傷ついてしまうというときだけ、両手が動きます。いいね?」
「…………はい……」
「うん。『ラストカードはあなたに』」



「欲しいっ! 欲しいっ! 欲しいのぉっ!」
 気がついたら、「あたし」は叫んでいた。
「欲しいのっ! お○んちん欲しいのっ! 『あたし』に欲しいのぉっ!」
「ちょっと……落ち着いて、都ちゃん」
「欲しい! 欲しい欲しい欲しい欲しいっ! 欲しいよぉっ!」
 カレが、何か言ってる。
 でも、きこえない。
 あたしに、欲しい。
 頭が、ぜんぶが、それでいっぱいになってる。
「都! 声落として!」
「……欲しい……お○んちん欲しいよぉ……っ」
 大きいこえが出なくなった。けど、欲しい。
「分かったから。今あげるから」
 そう言うとカレは、下もぬいで、

 あぁ、お○んちんだ……! おっきい……!

「はい、足開いて」
 言われなくても、あたしはあたしを広げる。
 あたしはもうグッチャグチャだ。
 ずぶぅっ!
「んふああああああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁっっ!!!!!!」
 あ……もう、イッてる……



「大丈夫? 落ち着いた?」
「うん……でも、もっと、してほしい……あっ……」
 カレはあたしにお○んちんを突き刺したまま、あたしの頭をなでる。
 んー、カノジョが悦びそうなしぐさだ。でも、あたしはもっとハゲシイのがいい。
「もっとして……」
「わかった」
 ずぅんっ
「あふぅぅっ!!」
 ぶふわっ、っとあたしがふくらんでいく。いっかいイッたから、やわらかくなる。
「んふああぁっ!」
 おくに、ぐりっ、と、こすれる。
 ぴかっ、と、する。
「大丈夫?」
「ちょっと、くるしい、けど、いい……」
「ごめん、都ちゃん」
 カレがカノジョのなまえをよんで、ほんのすこし、おそくなる。
「ねえ、ちがうの……」
「え?」
「そこ、きもちいいの……あたしの、いちばんおく、あんまりぐりぐりしちゃうと、くるしいんだけど……そこ、なれると、たぶん、すごく、きもち、いいから……」
「……んっ」
「おああああっ! うぁぁあああっ! うぉおおおおっ!」
 はげしく、こすれる。
 おく、おされる。
 ……くるしい。
「あっ、やっぱりダメ! ダメっ! きもち悪いっ!」
 ぴたっ、とカレが止まる。
「ごめん、やりすぎた」
「んーん、あたしこそ……そこ、やっぱりまだ慣れてなくて」
「ここ……気持ちよくなるんだね。これからゆっくり開発するよ」
「うん、おねがい」

「……まぁたアイツ、余計なこと教えてるな……」
 カレのその独り言は、意味が分からなかった。
 でもすぐ、どうでもよくなった。
「ところでさ……都ちゃん……というか、君のしてほしいところ、もっと教えてくれる?」
 それからは、すごくきもちいいとこ、はげしくされたから。

「ああっ! もうちょっと、うえのほう!」
「ここ!?」
「そこっ! ああっ! そこ!! ぞ、くぞくするよぉっ!!! あっ! いく! いく! いく! ………………ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああっっっ!!!」
 カレに、あたしのすきなとこ、どんどんおしえる。
 いりぐち。ひだりの、ぴったりはまるとこ。クリにちかいとこ。よこにしたときに、上になるとこ。
 あたしのしてほしいとこ、ぜんぶおしえる。
 あたし、なんかいもイッてる。
 イイとこばっかり、されてるから。
 でも、カレは、まだ出してない。
 だされたい。
「ねえ、さいご……」
「うん」
「うしろから、して……あぅっ」
 あたし、お○んちんをさしたまま、よつんばい、になる。
「そこ、いちばんしたに、こするみたいに……」
「ん……こうかな?」
「んっ……ちょっとちがう、ちょっとだけ右」
「こっち?」
「あっ、そこ! そこ!」
「ここか」
「そこを、はげしくパンパンすると、すごくいい! いちばんいい!」
「よしっ!」
「あっ! ああっ! うひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!」
 パンパンされる。バチバチする。
 うしろから、すき。
 いちばん、はげしい。あ。だめ。
 あ。あ。あ。
 あた、ま。まっ、し、し、
 ぴゅっ! どくんっ!
「おあああああああああああああああっっっ! いくいくいくいくううううううううっっっ!!!!!!!!」
 あ……



「落ち着いた?」
「割と」
 軽い睡眠から意識を取り戻したあたしを、カレが心配そうにのぞき込んでいた。そして、
「でも、やっぱり君の顔見ると、また犯して欲しくなる」
「え、もう!?」
「うん」
「……ホントに淫乱なんだね」
「うん。多分、君が思ってるよりずっと」
 カノジョの頭の中がエッチなことで一杯なのは、あたしが一番よく知っている。友達と遊んでいても、結局はカレとのエッチなこと考えているんだから。
「どのくらいやれば満足するの?」
「大体、1日に3回ナカダシしてもらえたら、いいくらいかな。それでも、次の日には欲しいけど。おかげでオナニーの多いこと多いこと」
「オナニー多いのは知ってる」
「本当、一途って辛いよね。オナニーしないだなんて、どの口で言うんだか」
「……無理だと思った?」
「当然。案の定、エッチなことが今まで以上に頭につきまとっちゃって、あたし濡れっぱなしだったんだから。まあカノジョ的には何か考えたからなんだろうけど」
「何を?」
 ぴくん、とあたしの両腕が動く。
 両腕はあたしの口を塞がなかったけれど、カレもその動きに気づいたようだった。
「……あたしからは答えない。カノジョに直接聞いて。多分、聞いて欲しいハズだから」
「そう」
「うん。だから、あたしともう一回ヤろう」
「えっ無理」
 さっき出したばっかだよ、と困ったように言う。
「なーんだ、つまんないなあ。じゃあほか……」
 ぱっ。
 今度は、あたしの両腕が素早く動いた。あたしの口を塞ぐ。
 誰か他の男を誘って――とは、言わせてもらえなかった。もちろん冗談だったけど、それでも今のカノジョにはちょっとキツかったかな。
「……」
 あたしがカノジョに制止されたのを見て、カレまで黙り込んでしまう。あーあ、何か誤解したかもね。ちゃんと弁解しておけよ? と、自分の腕に無言で忠告する。
「じゃ、そろそろカノジョに交代させて? 誤解のタネ作りたくないし。直接カノジョに聞いてよ、今のうちに」
「わかった、ありがとう」
「あ、最後にちょっとだけ」
「ん? わっ」
 あたしは、カレに飛びかかり、ベッドの上に押し倒す。
 そのまま、カレを抱きしめる。
 そして、告げる。
「あたしをいつもキモチヨクしてくれてありがとう。何だかんだで、あたし『も』幸せだよ。……あと、いつか、子どもが欲しい」
「……うん、こちらこそ。……子どもも、養えるようになったら、必ず」
 そう言ってカレは、あたしに絶対服従のキーワードをささやいた。



「……ごめんなさい」
「いや、いきなり謝られても……」
 あたしは、ロングスカートにシャツ1枚だけ羽織った状態で、ベッドに座っていた。涼が隣に座って、あたしの肩を抱いてくれている。
 「深刻な話じゃない」と、頭では理解している。しかし、いざ話すとなると、感情が追いついてこない。すごくモヤモヤしてしまう。ああ、イヤだこの感覚。
 結局、話し出すまでに、何分かかかった。
「正直に言います」
「はい」
 一気に言うことにした。

「あたし、オナニーの時、涼以外の男と『する』こと考えてます」

 しばらくの沈黙の後。
「……都ちゃん」
「……はい」
「僕も正直に言います。……感づいてました。あと、僕も同じです」
「ええっ!?」
 ショック。涼に気づかれてたのか!
「流さんが言ってた。都ちゃんが、オナニーに何を使ってるか」
「………………流……あんのやろう……」
 言っていいことと悪いことの区別がつかんのかあいつはっ!
「正直、その部分まで僕が独占できれば、いいとは思う。でも、無理なんだよね? 僕とのことだけじゃ、お腹いっぱいになっちゃうのかな」
「……うん……」
「それに、そういうのは僕たちにとっても悪いことじゃないと思うんだ。自分達の知らないやり方とか知れたりするんだよね。僕も、催眠系のやつ見て、都ちゃんに使えるのがないか考えたりするし」
「………………」
 その通りだ。その通りだけど、すごく灰色な気分になる。
「だから、『他の人』とのことを考えるのは、考えるだけなら、悪いことじゃないと思う。やったらダメだけど。
 ……なんであんなに都ちゃんがオナニーしないように頑張ったのか、やっと分かったよ。都ちゃんは、頭の中だけでも僕から浮気するのが気になってたんだ。嬉しいけど、潔癖すぎるよ? っていうか、なんでこういう話で僕がフォローしてるのかな? 普通逆じゃないかこれ」
 うるさい。
 涼が他の人のことを考えるのは、別にいい。いや、良くはないけど、割と気にしてない。
 涼はあたしと二人で道を歩いている時にも、道を歩く他の女の人を構わずに見る「ムッツリ」なのだけれど……でも、その後にあたしをいくらでも見てくれるので、別に気にならないのだ。
 あたしにとってはやっぱり、「涼を独占する」ことより、「涼に独占される」ことの方が大事なんだと思う。つくづく思う。
 もちろん、涼が実際に他の人に手を出したら泣くけど。というか、間違いなく関係が壊れる。

「分かった、都ちゃん。……都ちゃんのオカズ、見せて」
「っはぁっ!!??」
 その一言は、衝撃だった。
 何だと?
 あたしに、アレを見せろと?
 それは、あたしの頭の中の、一番恥ずかしいところを見せろと言っているのに等しかった。どのくらい恥ずかしいかと言えば、「あたしは涼のモノ」とか、恥ずかしいコトバをシラフで言わされても、それに比べれば何でもないくらい。
「何で!?」
「まさか、オナニーこれ以上我慢するとか、できないでしょ? 催眠で抑えるにもきっと限界あるし」
「…………まあ……」
「でも、オナニーで僕のことばっかり考えてたら、本番も飽きちゃうだろうし。それなら、中身を僕が知ってた方が、罪悪感少ないでしょ?」
「……涼は、それでいいの?」
「良くなきゃ提案しない」
 その言葉とは違って、涼がまだ「すっきり」していないのは、表情で分かった。数秒の沈黙が、あたしの印象を肯定する。
 涼が、先に焦れた。
「……そりゃあ、都ちゃんの性欲を100%独占できれば、一番良いよ。でも」
 一呼吸置いて、涼はあたしの目をじっと見る。
「僕は、僕のモノに、……都ちゃんに無理をして我慢させる趣味はない。そんな関係続かない。……都ちゃんは、僕のモノだけど、僕の婚約者で、将来のパートナーなんだから」
 言葉を重ねるたびに、涼の表情が明るくなっていく。涼の中で、割り切れたのだろうか。
「あとさ、今思い出したんだけど。……流さんからもらった本、あったでしょ」
「うん」
「時間がないから、ちょっとだけ読んだんだけど」
 あたしはまだ読んでない。読んだら性欲で爆発しそうだったから。
「催眠は、被術者の想像力が大事なんだって。受け手の頭にないことはできないから。だから、僕達の今後のためにも、いっぱいそういうの読んで、いっぱい妄想して欲しい」
「…………」
 それは、無言の承諾。
「今日はもう時間がないから、オカズは今度見せてもらうことにする。とにかく、胸でのオナニーは解禁。ちゃんと性欲は発散すること」
「そう」
 ほっとした。いくら涼相手でも、オカズを見せることをすぐに決断するのは難しかったから。
「でも、さっきのことがあるから、聞くね。……他の男の人に対して、エッチしたい気分になったこと、ある?」
 あ、それは。
 その質問は。
 本当に一番、聞かれたくないことで。
 そして、一番、聞いて欲しいことだった。



 涙があふれる。
 それが、答えだった。



「おー、よしよし」
 涼が。涼が、あたしを抱きしめる。
「実際にしようと思ったことはないでしょ?」
 ぶんぶん。首を、横に振る。
「じゃあ、大丈夫。気にしなくて大丈夫だから」
「うぇぇ……」
「だからさっき、口止めしたんだね。誤解されると思った?」
「……」
 こくり。
「大丈夫。僕は都ちゃんがそんなことするなんて、思ってないから」
 指輪を触りながら、涼がきっぱり言う。
 ぐちゃぐちゃになったあたしの顔を持ち上げて、目と目を合わせる。
「前は『浮気してやる』とか僕を挑発したのに、すっかりヨワヨワになっちゃって」
「…………だってぇ……」
 もうあたしは、あなたのモノだから。
 そんなことは言わなくても、分かってもらえてたようだったけど。
「……浮気されないように、頑張らないとね、僕が」
 涼が浮かべたその表情は、今のあたしには、ほんの少しまぶしすぎて――涙が、またあふれてきた。



「「「明けまして、おめでとうございまーす!」」」
 あたし達3人の声に応じて、男性陣――涼、桜井君、木更津先輩――も口々におめでとう、と応えてくれた。
 元旦。1月1日の朝。あたし達は、県内の大きい神社に集合していた。あたし達は先に、流の知り合いの着付け屋に行って、晴れ着を着させてもらった。
 あたしに流、仁美、そして流が引きずってきた美智。ちなみに、さっき声を揃えなかったのはもちろん美智だ。兄である木更津先輩の顔を見て、横を向いていた。
「あれ、小田島だけ違うの?」
「そうだよー」
 声を上げたのは桜井君。仁美の彼氏。
 4人のうち――あたしを除く3人は、ほぼおそろいの振り袖を。しかしあたしだけ、柄は同じだけど、留袖だった。
 もちろん、流が企んだせい。流が言うには、振り袖は「相手の決まっていない」女の子が、異性を誘うことの象徴だ、ということだった(あとで必ずしも正しくないと知ったのだけれど)。ということで――「相手が完全に決まった」あたしは、振り袖ではなく留袖にされたのだった。

 結果、あたしと涼の婚約はグループの全員に知られることになった。

「お前思い切ったなあ」
「うん」
「小田島で良いのか? 他の女紹介するぞ?」
「何ですか先輩。僕は都ちゃんがいいんです」
「おお、言うねえ」
 桜井君と先輩に煽られる涼。
『すごーい! おめでとう!』
『うらやましい、みゃーこにはお似合いだと思うよ』
『ありがとう』
 と、直球で祝われたのはあたし。……いや、こっちはさっきの着付けでのことだけれど。
「大沢、正直最初は、よく付き合おうとしたなあ、と思ってたけど、イイ女になったよなあ、小田島」
「どうだ、僕の見る目あったろう」
「おう、お見逸れしたわ。今じゃすっかり色気が出て――あいたっ! 痛いって」
 桜井君のふくらはぎに、仁美がすまし顔で蹴りを入れていた。仁美は大人しい外見だけれど、最近は桜井君への当たりがキツい気がする。流は仁美のことを「デレツンだよー」と評している。つまり、「つきあい始めはデレデレだけど、だんだんツンツンになってくる」ということだった。
「りゅー、綺麗だな。あと、ついでにお前も」
「うるっさい!」
「まあまあー」
 こっちはこっちで、兄妹がじゃれついている。そっちの対応は流に任せることにする。
「都ちゃん、化粧決まってるね」
「あ、うん。着付けの人がやってくれたんだ。……いらないって言ったんだけど」
「いんや、化粧しても可愛いよ、都ちゃん」
「……ありがとう」
「あー、もうイチャイチャしてるー」
「うるせえよ流!!!」
 兄妹をとりなしながらあたし達を茶化す、器用な流だった。



「お前、おみくじ買った?」
「いや、僕は買わなかった」
 お参りを終えた後、おみくじを順番に買ったあたしたちだけど、例外が1人いた。涼だ。
「何でよ」
「去年、凶だったんですよ」
「今年は大吉かもしれねえじゃねえか」
「いや、そうじゃなくて、……凶だったけど、都ちゃんと婚約できたんで」
「てめえ、ノロケかよ!」
「ノロケだよ!」
「おいっ、何真正面からノロケてんだよ!」
 あたしの方が耐えられず、突っ込んでしまった。
 ちなみに、去年に涼と同じく凶を引いたあたしは、今年もおみくじを買った。小吉だった。……微妙。



「はい、チーズ! ……いいですかこれで」
「……大丈夫ー、ありがとうございますー」
 流が通行人の男の人からデジカメを受け取った。そのまま、画面に映った写真をあたし達に見せる。
 前列に左から、美智、流、あたし、仁美。後列に先輩、涼、桜井君。
 めでたいということで、婚約したあたしが真ん中に押し出された。ちなみに、家族に見られても大丈夫なように、念のため、指輪を左手から右手に付け替えた。留袖だけなら、「流のイタズラ」という言い訳ができる。――全部、流の提案だけど。
 美智は先輩の前を嫌がったけれど、さすがに写真には笑顔で写ってくれた(何となくぎこちないけど)。結果、……とっても良い写真だった。
「今度、みんなにも送るからねー」
 そう言って流は、デジカメをしまったのだった。



 あたし達7人の集合写真。それは、今のあたし達を象徴する姿。
 涼だけではない。みんながみんな、あたしにとってはかけがえのない友達で、仲間。
 こんな関係がずっと続けば良いな。あたしはそう思いながら、涼の腕に掴まる。
「大丈夫? 都ちゃん」
「ん」
 さりげなく声をかけてくれる涼は、今日も優しい。
 だから、足下は涼に任せて――あたしはあたし達の「将来」を、頑張って想像してみるのだった。

 
 
< おわり >


 

 

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