○○なあたし


 

 



最終話?の0 その日は、知らないうちに


※エロは4節までありませんのでご注意下さい。


「……」
 かくん、と首を揺らす涼と、
「……」
 その顔をちらっと見るあたし。

 ガタンゴトン…………ガタンゴトン…………

 今日は、クリスマス・イブ……ではなくて、その一つ前の土曜日。
 あたし達は電車に揺られていた。

 目的は遊園地、一泊二日。

 残念ながら、クリスマスに予定が合わないのは分かっていた。涼が24日から予備校の講習だったから。涼は国立大志望で大学のレベルも高いから、こればかりは仕方がない。それに、クリスマスはどこもメチャクチャ混むし、涼によるとホテルがとんでもなく高いらしく、経済的な面からも無理があった。

 でも正直、あたしはクリスマスとかはどうでもよかった。
 いや、クリスマスがどうでもいいのではなくて、……涼といられることの方が大事だという意味。

 もう一度、涼の顔を見る。

 今日は朝早かったこともあって、涼は席に座った途端にウトウトしだした。勉強に部活にバイトに忙しいのは知っているので、何も言わずに寝かせてあげる。別に喋らなくても、涼の隣に座っていればあたしは満足だ。どうせ明日までベタベタするわけだし。

 涼の左腕にあたしの右腕を絡めた姿勢で、窓の外を眺める。ボックス席で、目は空席なので、ほんの少し、身を乗り出してみる。

 小さい雲が二つ、三つ。絵に描いたような冬の青空。12月中旬の割には今日は暖かくて、日が傾くまでは快適に過ごせそうだった。

 ――これなら、スカートでも何とかなるかな。

 今日初めて穿く、濃緑のロングスカートにストッキング。初めてではないけれど、同じく今年新調したダッフルコート。セーターに襟付きシャツ。下着は涼の買ってくれた純白のブラとショーツ。そして念のため、ポシェットの中にマフラーと、替えの下着を一組。両方とも新調したやつだ。明日の洋服は、バッグごと涼のスーツケースに入れてもらった。ついでに、もう一つの荷物も涼が持ってくれた。
 冬のスカートは下半身に冷たい空気を感じて、暖かい時期とは違う感覚で羞恥心を煽られる。やっぱりジーンズの方が慣れているし好きだけれど、涼のリクエストだから仕方がない。

 涼とつきあい始めて、私生活で一番変わったのは、ファッションだと思う。格好そのものもそうだけれど、意識が変わった。
 今になると分かるけれど、涼とつきあう前は、男の子に見られることなんて考えていなかった。あたしにとってまわりにいる男の子は、野球仲間、サッカー仲間やバスケ仲間ではあっても、性的な対象ではなく――ましてや、あたし自身を性的な対象にする存在だとは、(知識としては知っていたけれど)全く感じていなかった。「そういう」男の子は、せいぜいテレビかマンガの世界の存在だったのだ。
 今でも、他の男の子に対する意識は、そんなに変わってないと思う。仁美の彼氏である桜井君とは先週もサッカーやったし(ちなみに平日はジーンズを穿いているので、サッカーしてても大丈夫だ)。

 けれど、涼は違う。

 ――あたしは涼のモノだから、涼の言うことは聞かないと。

 流と一緒に、このスカートとかを買いに行った時。流に冷やかされたあたしは、顔を真っ赤にしてそう言い訳した。
 でも、分かっている。それはあくまで言い訳だ。

 涼にとってあたしは間違いなく性の対象だ。けれど、あたしにとっても涼はそういう存在で、涼の興奮に染まった目を、あたしの身体がどうしても求めてしまう。今日の襟付きシャツのボタンが、上から三つ外れたままなのは、セーターを脱いだ時、胸元に涼の目が行くと考えてしまったからだ。

 そして。それ以上に。
 涼はあたしの彼氏で、この世界の中で誰よりも、……一番の人なのだ。エッチな意味とはまた違って、そんな人の喜ぶ顔を見たいと思うのは、当たり前のことだった。
 ……そんなことは、流には死んでも言えない。というか、言ったら私が死ぬ。恥ずかしくて……。



「……ゃこちゃん、都ちゃん、もう着くよ」
 肩を揺すられて、あたしはゆっくりと意識を取り戻す。
「……んぁ?」
 あれ? どうやら、いつの間にかあたしの方が寝てしまっていたらしい。あたしだって、今日の朝は早かった。
「おはよ」
「……むぅ」
 お前も寝てたくせに。とちょっと思いながらも、窓の外に観覧車が映っているのに気づく。あの距離だと、あと数分で目的の駅だろう。
 と。
 涼の視線を感じて、あたしも目を合わせる。口元を動かす涼が何を求めているかが分かって、あたしも唇を少し尖らせる。
 ちゅぅっ。
 涼の顔が近づいて、あたしの唇を射止める。……数秒後、唇を離した涼は、
「ほれ、行くよ」
 とあたしを促した。
「うんっ」
 すっかり機嫌が良くなってしまったあたしは、思わずにこりと笑って、その呼びかけに応じる。



 寝起きだったせいか、涼の唇の感触は、いつもと少し違った気がした。

 
 


 

 

戻る