○○なあたし

第3話 澄んだヒトミに映るもの


 

 

3の4 アヤシイ・パジャマ・パーティー(中編)


※今回もエロはありませんのでご注意ください。
 エロは次回からです。


 カラカラ……
 折りたたみ式の扉を左に引っ張ると、そこに広がるのは、
「……相変わらず大きいなあ」
 大きい家だけあって、4人くらいは無理なく入れそうなお風呂場。
 でも、お風呂場に入っていったのは、
「うん……」
 と答えた仁美と、あたしの二人だけだった。



 結局、仁美は流の提案にすぐには答えなかった。
 ……まあ、当然っちゃ当然だよね。
 催眠術はよく分かんなくて怖いだろうけど、それだけじゃなくて桜井君とする「初めて」を、催眠術という邪道な手を使ってすることが引っかかってるんじゃないかと思う。もちろん、そういうこと……あ、その、エッチな意味の方ね、そういうことするのが怖いっていうのもあるだろうし。
 そこで、流はあたし達二人でお風呂に入るように誘った。
 最初の「打ち合わせ」の時に言われていたことだけど、「経験者の都ちゃんと話した方がー、仁美ちゃんも決心しやすいでしょー」だって。
 確かにその通りだと思うし……第一、仁美のお願いを引き受けたのはあたしなのだ。
 やっぱり、あたしがなんとかしないとね。

「仁美、どう思う?」
「え……どうって、さっきの……?」
「うん」
 そう思いながら、あたしは仁美に話しかける。仁美が、シャワーの前で長めの髪をトリートメントしつつ、こっちを向く。
 ちなみに、と言っちゃなんだけど、あたしも仁美も身体にはバスタオルとかを巻いていない。
 本当は巻こうかどうか迷ったんだけど、流が「ごめんー、バスタオルまだ用意してなかったからー、後で持ってくるねー」と、白々しい言い訳をしてタオルを用意しなかったからだ。
 ……まあ、結果的にはそっちの方がよかった。よく考えたら2年くらい前に一緒にお風呂入ったときもタオル巻かなかったし、変に気を遣う必要がなくなったから。
「うーん……やっぱり……」
 そう仁美は答える。ついでに頭にタオルを巻く。これはもちろんハンドタイプ。
「小田島さん……」
 頭を洗うのを終えて、湯船に帰ってきた仁美は、あたしの隣に座る(湯船は二人が横に並んでちょうどくらいの幅なのだ)。
「ん?」
「……小田島さんは、この前……大沢君としたの、ちょっと、怖かったって言ってたよね」
「うん」
「その……それでも、してよかった、って……思った?」
「えっ」
 ……かああぁぁぁぁぁ
 え、えっと……
「う、うん、よかったと思うよ、」
 うわ、声裏返ったっ!
「そりゃ、したときは怖かったけど、その後は涼ともっと近くなれたし、あ、あと涼がその後あたしのことを『都ちゃん』って呼んでくれるようになったし、あ、前は『都さん』だったんだけど」
「あ……そうなんだ……いや、でも……その、そういうことじゃなくて……いや、それも大事なんだけど……」
「あれ?」
 違った?
「あの、聞きたいのはね……」
「うん」
「……そ、その……そういうことって……き……?」
「?」
「きもち、いいのっ……!?」
 ……
 ……かあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!
 ちょ、ちょ、ちょ、ちょっ!!
「えぇっ!?」
「あ……あの、その」
 うっわ、仁美も顔真っ赤だ……と、同じく真っ赤になりながら、あたしは考える。あれ、何か冷静だな、あたし。
 そうか、確かにそれは気になることなんだろう。特に、仁美にとっては……
「あ、あのさ」
 あたしは聞く。
「仁美って……その、一人でしたこととかも、ないの?」
「え……うん」
 と、仁美はうなずく。
「ほら……やっぱり、ほら、あんなことになっちゃったから……やっぱり、その、ちょっと怖くて……」
 そうだろうなあ、とあたしも思う。
 あたしは現場を見た訳じゃないんだけど、仁美から事情聴取したと思われる流が言うところによると、まあ相当強引にされたみたいで、仁美も痛いだけだったそうだ(最後まで行かなかったのはよかったけど)。
 そんなことがあったのに、自分でしようとはなかなか思えないだろう。
 ……ってことは……

 かああぁぁぁぁぁぁぁぁっ
「あ、小田島さん……ごめんなさい、こんなこと聞いちゃって」
「え、いや、いいんだよ、そんなことは」
 と仁美には言ったものの、
 ……そ、そうか……そういうことを、あたしが説明しなきゃいかんのか……
 内容が内容だけに、あの流にはなかなか聞きにくいだろうし、ちょっと冷たい……というかつっけんどんなイメージのある美智も相談相手としてはちょっとアレだ。
 で、あたしか……
 ……ものすごく恥ずかしいのに、何かちょっとしゃべってみたい気分になってたりはしない。絶対に。
 ……あれ、何でそんな気分に?
「ええっ……と……仁美、桜井君とさ、その、ぎゅっ、て抱き合ったことある?」
「え……あ、ある……けど……」
「どんな気分?」
「え……うーん……その、あったかくて……安心する……よ?」
 仁美も赤くなりながら答える。赤くなってるのは、長風呂してるからってだけじゃ絶対ない。
「ほら、それをお互いハダカでやるわけさ。
 そうすると……もっとあったかいんだけどさ、それだけじゃなくて、肌がこう、こすれあうでしょ、これがすごくきもちいいのさ」
 あ、あれ、あたし、顔がにやついてる。
「へぇ……」
「で、涼にぎゅっ、てしてもらうとさ二人がこう、一つになったみたいな感じで、すごくシアワセなのだ」
「ふーん……」
 あ、仁美、恥ずかしそうにしてるけど、やっぱり興味あるみたい。
 ってか、今想像してただろ。
「それで……?」
「あ、でさ……でも、それもきもちいいんだけど、そっから先はもっとスゴイのさ」
「ぇ……」
「ほら、エッチなことって、涼に、その、胸とか触られるわけ」
「うん」
「胸って、普段お風呂で洗ったりしてるときには触っても別に何ともないんだけど(ホントはたまーにびくっとしちゃうんだけど……黙っとこ)、涼に触られると、もうそれだけできもちいいの」
「へぇ……」
「こう、なんてーか、ビクっときてさ、だんだん頭がぽーっとしてくるんだわ」
 あれ、なんか、この話、楽しい……?
「んでさ、しばらくすると、その、恥ずかしいのに、だんだんもっとして欲しくなるの」
「そうなの……?」
「うん、最初はほら恥ずかしいから、ちょっと抵抗……ってか、まあちょっと嫌がったフリしたくなるんだけど、でも、だんだんもっとしてもらいたくなって、いつの間にかおねだりしたり……」
「……」
 仁美、顔真っ赤。
 途中、なんか一瞬だけ変な様子だったんだけど、すっかり興味津々だ。
 あはは、自分の胸見下ろしてる。
「……男の人って、胸、大きい方が好きなのかな……」
「え、あ……どうだろ……
 でも、あたしなんか涼とエッチするようになってから急にカップ一つ大きくなったし、それに桜井君が仁美を好きだったらあんまり関係ない……と、思う、多分。男の子のことはよく分からないけど……」
「小田島さん、胸大きくなってるよね……Dあるの?」
「ううん、C。Cの真ん中より少し大きい方だよ」
「私、やっとBになったくらいだから……桜井君も、大きい方がいいよね……」
「あ、でも、あたしだってちょっと前までBだったし……きっと大丈夫だよ」
「……うーん……」
「涼が言ってたんだけど、女の子が思ってるほど男の子は胸ばっかり見てないんだってさ」
「……そうなの……?」
「分かんないけど、大丈夫だよ。仁美、胸キレイだし」
「え……」
 そう言って仁美は自分の胸をもう一回見る。
 仁美の胸はそんなに大きくないけど、とってもキレイだ。
 着替えの時とかに見ると、女の子のあたしでも触ってみたくなることがたまにある。……いや別にそっちのケはないけど。
「だから大丈夫、桜井君も喜んでくれるって」
「そう、かな」
 よし、仁美の声がやっと明るくなった。とりあえずドツボは回避。
「でも、胸が気持ちよくなるとさ、だんだん身体がムズムズしてきて……その、女の子の恥ずかしいところが、だんだん熱くなってきて、そこからが本当のエッチなの」
「あ……うん、あの、性教育でやってた……」
「そう、それ。
 で、恥ずかしいところがすごく敏感になって、男の子の……その、恥ずかしいのを入れてほしくなるの」
「……恥ずかしく、ないの……?」
「もうね、そのときは頭がエッチになっちゃって、恥ずかしいとかそんなことよりきもちよくなることで頭がいっぱいになっちゃうんだこれが。
 後から考えるとものすごく恥ずかしかったりするんだけど、そのときはもう『はやく〜』って感じで」
「へ、へぇ……」
「で、えーと、ほら、その、男の子のが入ってくると、もう身体がメチャクチャ悦んじゃって、ちょっと涼に動かれるだけでものすごくきもちいいの。頭真っ白になっちゃうくらい」
「……」
 ふふふ、仁美、想像しとります。
「でさあ、あまりにきもちよすぎて、あたしが身体バタバタさせると、たまに涼がぎゅって強く腕を押さえつけたり……
 あ、いや、その、それは涼がそういうことするの好きで、本当はそんなことするのは普通じゃないって言うか、桜井君はしないと思うけどっ」
 しまったっ!
 あたしが「ぎゅって強く」と言ったあたりで、明らかに仁美が硬直した。
「あの、その、あたし、そういうふうに強くされるの好きで、涼もそれ分かってやってるからやってるだけで、普通はそんなことしないからっ!」
 や、やっちゃった……
 気分良くしゃべってたら、話の目的をすっかり忘れてた……
「う……うん……わかってる……けど」
「大丈夫だって、桜井君は仁美のことちゃんと分かってるし、絶対にそんなことしないから! 間違いないっ!」
「あ……うん……そうだよね」
 そう言った仁美の表情が、やっと明るくなる。
 ほっ……危なかった……
「…………でも……うん……うん………………うん」
 しかし仁美は、そう言いながら、とっても悩んでいる様子。
「……やっぱり、怖いの?」
「え、うん…………うん」
 最後の「うん」で、うなずく。
「仁美の場合は」
 あたしは言う。
「あんなことがあったからね……普通じゃないから、だから流も催眠って話になるんだろうけど」
「あ……うん……それなんだけど」
「ん?」
「その……催眠術って、どんな感じなの?」
「え……あぁ」
 分かる範囲で答える。
「催眠状態ってのは、深いのから浅いのまでいろいろあるんだけど、一番深いやつだと……」
 ……えーと。
「……ごめん、正直よく覚えてないんだよね。
 でも、催眠で落ちていくときは、ものすごくふわぁっとしてて、催眠が終わって目が覚めたときには、『とってもきもちよかった』って気分だけがすごく残ってるの。
 ほら、よく寝られるとスカッと目が覚めるでしょ、あんな感じ」
「ふーん……」
「でさ、そのきもちいい間にキーワードとか命令とかが埋め込まれてさ、あたしは一番深い催眠の時はその内容全然覚えてないんだけど、そのキーワードとかを聞いちゃうと、身体とか心が勝手に動いちゃうんだ」
「へ、へぇ……それって、怖くないの?」
「え……んー、まあ、最初はびっくりしたかな。
 でも、操ってるのは流とか涼だし、よく知ってるから、まあそんな変なことはしないかなって。
 エッチの時の催眠なんか、結局涼にリードされてるってだけの話なんだよね。
 だから、そんなに怖くはなかったかも」
 ……ホントは、その後に催眠術でいろいろやられてあたしは「こんな風」になっちゃったんだけど。
 今はそれは関係ない。桜井君もいきなりそんなことしないでしょ、普通に考えて。
「……あの」
「ん?」
「本当に、初めての時、催眠使って、その……良かったって思う?」
 あ、やっぱりそう来たか。
 仁美の聞き方ははっきりしてなかったけど、意味はすぐに分かった。
「あたしはエッチできて良かったと思うよ」
 だから、さっきから用意してた答えをはっきり言う。
「確かに初めてって大事だったし、そこで催眠術とか使ったのはどうかな、って思わなくもなかったけど」
「うん」
「でも、催眠術って道具なんだよね……
 催眠術って、本人がやりたくないことをさせることはできないって流が言ってた。
 催眠術は、あたしの背中を押しただけなんだよね。
 催眠術使ったからって、あたしは自分で決心して涼に全部あげたわけだし、それは自信持って言えるよ。
 ええっと、その、恋人同士が愛し合ってエッチしてることには、変わりないと思うわけさ」
「うん」
「だから、催眠術使ったからどうってことは、もう特にないなあ、って、そろそろ出よう、あたしものぼせちゃいそうだ」
「そうだね……」
 じゃばぁっ
 あたしが立ち上がって、仁美もそれに続く。

「小田島さん」
 お風呂場を出て、脱衣所に出たところで、仁美はあたしに言う。
「ん?」
「話してくれて、ありがとう」
「……ん」
 そういった仁美の顔は、明るかった。

 ……うん、うまくいったのかな。
 そう思ったあたしの表情も、明るかった。多分。

 
 


 

 

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