○○なあたし

第3話 澄んだヒトミに映るもの


 

 

3の3 アヤシイ・パジャマ・パーティー(前編)


※エロはありませんのでご注意ください。

「こんちはー」
 という、かるーい挨拶をするあたしと、
「お……おじゃましまーす……」
 と、何度も来たことあるのにやっぱりどこかおどおどしてる仁美。
 そして、
「いらっしゃいー」
 と、家の中から出迎えてくれたのは、流。

 金曜日。
 あたし達は、流の家に押しかけていた。



 月曜日にあたしと涼の話を聞いた流は、木曜日(祝日だったけどね)になってあたしと涼、そして桜井君を流の家に招待した。その4人で、いろんな計画を考えた(もちろん中心になったのは流だけど)結果、まずは仁美を流の家に招待することになった、と言うわけ。
 一言で言えばパジャマ・パーティーだ。



「どうも、おじゃましまーす……」
「仁美ちゃん、そんなにかしこまんなくたっていーよー。
 どーせ、あたしたちしかいないんだしー」
 リビングに入るときにも律儀に挨拶した仁美は、シックなロングスカートがとてもよく似合っている。一方の流は、ピンクのミドルスカートと長袖で、こっちも流らしい服装だ。
 ちなみにあたしは学校に行ったときの格好のまんまなのでジーンズと長袖のシャツ。
 涼とデートするときはスカートを履くことが多くなったけど、学校に行くときは今までと同じ、ジーンズとシャツの格好がほとんどだ。やっぱり恥ずかしいってのもあるし、……こうした方が、涼といるときに「女の子」になれるような気がするし。
 まあ、休日もスカート履くんだけどね。
 で、
「そ、りゅーの家くらいでカタくなっちゃうようじゃ、この先大変よ」
 と言ってる美智は、赤いミニスカートに黒のキャミソール。
 ……美智、相変わらず露出度高い。


 そんなこんなで、流の家のリビング。
「はい、できましたー」
「わーい」
 そんな仁美もすぐに場の雰囲気に慣れて、そのまま夕飯に突入。
 夕飯作りのリーダーは仁美になった。なんと言っても、あたし達4人の中では仁美の料理の腕は別格だから。
 あたしと美智は全然ダメだし、流も夕飯は普段自分で作っているはずなのに上手くない。消去法で仁美が料理をするのは当然の結論だった。
「いただきまーす」
 と声が上がった瞬間、一斉に食べ始める。

「そーいえば都ちゃん、最近涼くんとうまくやってるー?(むぐむぐ)」
 しばらくして、そんな話を始めたのは流。
 始まった……のかな?
 あたしはごっくんとご飯を飲み込んで、
「え、うん……まあ、うまくいってるよ」
 と、無難に答える。
「そういえば都ちゃん、普段着にスカート増えたしねー。
 しおらしくなったもんねー」
「げふっ……べ、別にしおらしくなんかっ!」
「え?」
 慌てるあたしと、きょとんとした目であたしを見る仁美。
「仁美は知らないかもしれないけど、最近みゃーこって休日に会うとスカート履いてきたりするのよ。
 最近ずいぶん変わったのよ」
 と、補足するのは美智。
「うぅ……」
 改めてそのことを指摘されると、やっぱり恥ずかしい。
 あんまり、「女の子らしい女の子」扱いされることにはまだ慣れてないから。
 そんなあたしを、興味深そうに見つめるのは仁美。
 何が言いたい。
「都ちゃん、涼くんの前では女の子女の子してるんでしょー?」
 流が、語尾を下げて聞いてくる。質問というよりは確認するような聞き方。「むぅ……」
 あたしは真っ赤になって下を向く。
 ……あたし、涼といるときは……女の子っていうより……
 とか思ったけど、もちろん口になんか出せなかった。
 そんなこと言ったらあたし、恥ずかしくて死んじゃう。
 でも、そんなあたしの態度を「はい」と受け取ったみたいで、
「……へぇ……」
 さらに興味深そうに、仁美はあたしを見る。
「やっぱり、カレシができると変わんのよねえ。
 特にみゃーこ、カレシに染まりそうなタイプだし」
「う、るせぇなぁっ!」
「あははー」
 からかわれてさらに真っ赤になるあたしに、
「小田島さん、そうなの?」
「知るかぁっ!」
 追い打ちをかける仁美。
 あたし、もう泣きそう。
「そーいえばー」
 と、話をややこしくした本人が勝手に話を納めて、
「都ちゃんー、私が教えた催眠術、まだ使ってるー?」
 あ。
 えーと……
「え、あ、うん、使ってるよ」
 できるだけ自然に答える。
「へぇー、あれやってんだ」
 と、微妙に白々しく応じたのは美智。
 美智は、あたしと涼が催眠を使っていることは、ここでは「知らないことになっている」。
「そーだよー、だって私が教えたんだもんー」
 それに答えるのは流。
「どうー? 催眠で涼くんとは順調ー?」
「え、……うん、そりゃあ、順調っちゃ順調だけど」
「あははー、照れちゃダメだよ都ちゃんー
 催眠であーんなことやーこーんなことしてるんでしょー」
「なっ……!! なにがっ!!」
「んー? みゃーこ何想像してんのよぉ?」
 くそっ……分かってるくせして言いたい放題……っ!
「あ、仁美ちゃんー、実はねー」
 と、あたしがもだえているうちに、
「涼くんに、催眠術を教えたんだー。
 涼くん、それを都ちゃんに使ってるんだよー」
 その言葉に、ふと横を見ると、仁美がぽかんとしてるような、疑っているような、訳が分からんといったような、つまりは何とも言えない表情をして固まっていた。
「………………え?」
「だからー、催眠術ー」
 仁美が話について行けなくなったのを見計らって、流が話を振ったようだ。
「さ、催眠術って……」
「んー、多分仁美ちゃんが考えてるその催眠術だよー」
「そそ。うちのバカアニキが得意で、りゅーまで術の使い手にしちゃったのよねえ」
「……へぇ……」
 流と美智の説明にも、今ひとつ信じられない様子の仁美。
「あー、信じてないでしょー」
 流も当然分かっていた。
「じゃー、見せてあげるー。
 『ラストカードは私に』」
 すぅ――――――っ

 かくん
「ひぇっ!?」
「あら、お見事」
「あははー。今、都ちゃんは催眠状態になってるんだー」
「へ……へぇ……!?」
「仁美ちゃんー、都ちゃん触ってみてー?」
「ぇ……うん……」
 さわさわ、
 ぽんぽん、
 ぱたぱた、
「えー……っと……」
 ぺちん。
「ねー? 反応しないでしょー?」
「う、うん……
 これ、小田島さん大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫ー。
 催眠にかかるのってねー、きもちいーんだよー」
「あ……いや、そういうことじゃ……」
「とにかく、身体がおかしくなったりはしないよー」
「あ、そうなんだ……」
「えーっとねー……
 んー……
 仁美ちゃん、見ててねー」
「え?」
「都ちゃん、目が覚めると都ちゃんは猫になるのー。
 とっても人なつっこい猫ちゃんになっちゃうよー。
 わたしがぱちんって手を叩くまで、ずっと猫ちゃんのまんまだからねー。
 いくよー」
「へ……??」
「仁美、あんた驚きすぎ」
「『ラストカードはあなたに』」

 ……あれ?
 気づいたら、あたしはリビングのいすの上に座って、ぼうっとしていた。

 ……何で、こんな姿勢?
 あたしは猫だから、四つんばいじゃないと……
 よいしょっと

 がたん

「わっ!」

 あれ? 人間の声。
 四つんばいになって見上げると、そこにはストレートヘアの女の子。
 ええっと……あ、仁美さまだ。
 うーん、やっぱり四つんばいがしっくり来るなあ。

 あ……仁美さまの脚だぁ……
 身体がむずむずして、あたしは仁美さまの脚にすり寄る。
 すりすり
「なぁー」
「ひぇっ!? お、あ、おお小田島さんっ!!?」
 仁美さまの脚にほっぺたをこすりつける。
 すりすり。
 きもちいー。
「あー、仁美ちゃんー、今の都ちゃんは猫ちゃんになってるからー、行動も猫になってるんだよー」
 あ、この声は流さまだ。何言ってるか分かんないけど。
「仁美ちゃんー、都ちゃんの頭なでてあげてー。
 喜ぶよー」
「え……うん」
 なでなで
 あー、頭なでてくれてるー
「んーにゃーぁ」
 んー、気持ちいー……
「にゃー……」
「都ちゃんー、これー」
 ん?
 あれ、流さま。
 あっ!
「ほらほらー、猫じゃらしだよー」
 ぴょこ、ぴょこん
 うぁー、むずむずするー飛びつきたいー
「にゃぁっ」
 ていっ!
 前脚で触ってみる。
「ほらほらー」
 ていっ! ていっ!
 あはは、楽しー。
「ねー、猫ちゃんになってるでしょー」
「あ……うん……すごーい……」
「ほら仁美ちゃん、これ持ってー。
 都ちゃんの前で揺らしてごらんー」
「え、うん……どうかな?」
「にゃぁっ!」
 ていっ!
 猫じゃらしが、仁美さまの手にうつった。
 あ、流さまと動きが違ーう。おもしろーい
 ていっ! ほいっ! えいっ! あっ!
「に゛ゃっ!」
「きゃっ!」
 勢い余って、仁美さまとぶつかってしまった。
 どすん! と、仁美さまが尻餅をつく。
 ありゃ、やりすぎちゃった。
 あ、でも……
「や、いたーい……」
 あたしの目の前に、仁美さまのひざがある。
 ……あそこで寝たら、気持ちよさそう……
「にゃーごぉ……」
 すりっ
「うわっ!?」
「あははー。
 都ちゃん、仁美ちゃんのお膝が気に入ったみたいよー」
 あー……思った通り、気持ちいい……
 あたしは仁美さまの太ももに頭を乗せて、寝っ転がる。
「にゃぁー」
 と鳴きながら、ごろごろ。
 あったかーい。
「お、小田島さんっ」
「ありゃ、完全に懐いちゃったわ」
「ほんとーだねー。
 でももうそろそろいいよねー……都ちゃんー」

 ぱんっ!


 ……え?
 手を叩く音がしてから3秒くらいして、がばっ、と起き上がる。
 仁美を見る。口をぽかんと開けて、あっけにとられてる。
 流を見る。にっこり笑ってる。口の端をひくひくさせながら。
 もう一度仁美を見る。


 …………かあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ


「なななな、な、なななああああにさすんじゃーーーーーいっ!!!」
 や、や、や、やられたーーーーーっっ!!!
 さっきまでやっていたことを思い出して、あたしの頭の中が真っ赤に染まる。
 は、は、恥ずかしい!
 しかも、よりによって仁美の前で、仁美に、あんなことや、こんなことっ……!!
「まーまー、都ちゃん、落ち着いてー」
 そう言う流は、珍しく今にも大笑いしそうな感じだった。
 ……そりゃそうでしょーよ。あたしがこんなに恥ずかしいことすりゃあ満足でしょうともっ!

 錯乱したあたしが、流の説得もあってやっとの事で落ち着いたのは、それから2分くらい後のことだった。


「と、いうわけでー。
 催眠、分かったでしょー?」
「……うん」
 とは、さっきの通りに席に戻った、流と仁美の会話。
 どうやら、仁美はあたしの錯乱状態を見て、あたしが催眠にかかっていたことを納得したみたいだった。
 ……複雑。
「で、本題なんだけどー」
 流が続けて切り出す。
「実は都ちゃん、初めてえっちするときに、催眠使ったんだよねー」
「えっ?」
 …………かあぁぁぁ。
 声を出して驚いたのは仁美で、顔を真っ赤にしてうつむいたのがあたし。
「都ちゃん、仁美ちゃんと同じでー、涼くんとなかなかえっちできなかったのー。
 だから、催眠使って、できるようにしたんだよー。
 あー、もちろんさっきみたいな面白い催眠じゃなくってー、都ちゃんの背中をちょっと押しただけだけどねー」
「……そうなの?」
 流の言葉を聞いて、仁美はあたしを見る。
 ……こくん。
 あたしはうなずいた。
 ……うわぁ、聞かれるのは分かってたけど、改めて自分で認めると、すっごく恥ずかしい……
 ってか流、どさくさに紛れてさっきの催眠「面白い」とか言っただろ。
「もちろんー、さっきの催眠はねー、仁美ちゃんに催眠を信じてもらうためにー、ちょっと面白いことしたけどねー。
 えっちのときの催眠はあんな変なのじゃないからー」
 そういうと、流の言葉が止まる。
 そして一言。


「だから、仁美ちゃんも、やってみないー?」

 
 


 

 

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