○○なあたし

第3話 澄んだヒトミに映るもの


 

 

3の2 思わぬ相談


 ※エロはありませんのでご注意ください。

「小田島さん……」
「わっ!」
 突然話しかけられて、思わず大きな声を上げてしまうあたし。
「あ……ごめんなさい」
「あ、いや、気にしないで」
 振り向くと、そこには、
 ……
 あ、なんだ、おじぎしてるだけか。一瞬誰もいないかと思った。
 顔を上げると、
「小田島さん、あの、ちょっと、いい?」
 「どうしたの」とあたしが聞く前に、仁美が口を開いた。
 この女の子は、斎藤 仁美(さいとう・ひとみ)という。同じクラスで、あたしの友達。
「え?」
「あの……その、ちょっと、うちに来て欲しいんだけど」
「あ……いいけど、どしたの?」
「ちょっと、相談したいことがあって」
「え、別にいいけど……ここじゃ言えないようなこと? というか何であたし? 流じゃなくて」
 流は、相談相手としても相当の腕を持つスペシャリストと言っていい。実際、仁美もとある事情で、流には相当世話になってるのだ。
「あ、うん……その、できれば、小田島さんの方が……」
「ふーん……、わかった。今から?」
「うん、できれば」
「わーった。じゃ、行こ」
 掃除は、ついさっき終わったばっかりだ。



「ごめんなさい、こんなものしかなくて」
「あ、いや、そんな」
 ことん、と目の前に緑茶が置かれる。丸いテーブルの真ん中にはお茶菓子が少々。

 仁美の家におじゃますると、仁美のお母さんが驚きながらもあたしを迎えてくれた。そのまま仁美の部屋に通されて、あたしは仁美にすすめられるままに座っていた。
 仁美とは何回か遊んでるけど、仁美の家に来たのは2年ぶりくらいだ。ちょっと懐かしい。

 ……そんな思い出はともかく、
「で、相談って?」
「あ……」
 そうだった、というような顔をして、仁美はテーブルの向こう側に座る。
「あの……小田島さん、最近、ちょっと気になったんだけど……」
「ん?」
「その……小田島さん、大沢君と……その……」
「?」
 仁美はそう言うとうつむいて、3秒経って顔を上げ、
「………………エッチした?」
「うぇっ!?」
 な、な、なっ!
「あ、違ったらごめんなさい……
 でも小田島さん、大沢君と話してるときの雰囲気が最近違うような気がしたから……もしかしたら、と思って」
「えっ……マジ?」
「あ、私がそう思っただけなんだけど……
 掃除する前に、大沢君と話してたでしょ?
 大沢君になんか耳打ちされてたとき、うれしそうな顔してたのが、色っぽく見えたから……」
「げ……み、みっ!」
 しまった……見られてたっ!!
「あ、あのその、ごめんなさいっ、見るつもりなかったんだけど、どうしても目がいっちゃって……」
 慌てるあたしを見て、ぺこっと頭を下げる仁美。
「あ、いやその、そうじゃなくて……」
 うつむいたあたしの顔は、当然のように真っ赤だ。間違いない。
「あたし……涼と話してるとき、よろこんでた?」
「え……ん、そう、見えた、けど」
「……」



「僕のモノのくせに、ずいぶん生意気だね?」



 あ、あたし……やっぱり、あんなこと言われるだけで、悦んじゃってたんだ……
 ……あたし、本当にダメかも。
「あ、えと、あ、その……あ、いや、だからっその、そのことで……」
「……えっ?」
 何か相談が始まるような気がして、あたしの熱暴走がストップする。
 だけど、仁美は完全にうつむいてしまって、一向にしゃべり出さない。
 ……こういうとき、流ならうまくしゃべらせるんだろうけどなあ。あたしには……
「桜井君と、ね」
 と思ったら仁美が、肺から空気を絞り出すような声で男の子の名前を告げた。
 あ……
 なんか、仁美が何を言おうとしてるか、わかったような気がする。
「…………その」
「え、と、『次のステップに進みたい』ってこと?」
「……」
 こく。と、仁美がうなずく。
「決心、ついたの?」
「あ……あの……」
「迷ってる?」
「……うん」
 なるほど。だからあたし達のことを聞いたわけか。やっとわかった。



 仁美は、単なる恥ずかしがり屋(と、一応言っとく)のあたしと違って、ちょっと複雑な事情を抱えている子だ。

 仁美は、中3の頃、つきあってる彼氏がいた。彼氏の名誉のために、名前は伏せとく。
 この彼氏、あたしのクラスメイトだったけど、なかなかいい男だった。清楚な雰囲気がある仁美に対して、言ってみれば「王子様」みたいな感じすらしたくらいだ。
 でも、ある日、仁美がその彼氏の家に遊びに行ったとき、……その、なんというか、本当に「不幸な事故」としか言えないようなことが起きてしまって、大騒ぎになった。
 特に、仁美のお母さんが相当に怒ってしまって、さらにいろいろな勘違いが重なって、学校に伝わったときには、その彼氏が仁美をレイプしようとした、ということになってしまっていた。もちろん、彼氏は職員会議にかけられ、退学の噂まで出た。
 それを救ったのは流だった。流は事情を察知して仁美のお母さんに掛け合い、また「事故」の原因を作った彼氏のアニキを引きずり出して謝らせた。ついでに、女子が彼氏を攻撃しないようにいろいろ裏工作もしたらしい(ちなみに、このときのちょっと強引な行動が1年後くらいに新しい問題を引き起こすんだけど、それは別の話)。
 そんな流の活躍で結局は誤解が解け、彼氏は厳重注意処分で終わったんだけど、仁美とはそれっきりになっちゃったし、彼氏も耐えられなくなったのか、進学の時に公立校へ転出してしまった。そして仁美にも、トラウマとまでは言えないけど、かなり大きな精神的ダメージが残ってしまったのだ。

 そんな仁美を救ったのが、
「桜井君か……」
「うん……」
 現在の仁美の彼氏、桜井 広毅(さくらい・ひろき)君。
 男の子に対して閉じこもりがちだった仁美を、もう一度前向きにしたのが彼だ。
 ずずず、と緑茶をすすって、あたしはしゃべり出す。
「その、ね、仁美の思ってるとおり、あたしは、涼と『した』よ」
 あたしの顔は赤くなってるけど、今は気にしないことにする。
「……どうだった?」
「……うれしかった、かな」
 そうなるまでの展開はややこしくなるから言わないことにするけど、これは本音。
「……怖くなかった?」
「……え、とね。
 なかった、ってことは、ないかな。やっぱ、ちょっとは。
 でも、涼と一緒だったから……最後は、決心ついたな」
「……」
「痛かったんだけどね。
 でも、痛いのが、うれしかった……なんか、ヘンな感じだけど」
「……そうなんだ」
 ……といって、仁美は黙り込んでしまう。

 ……
 うーむ。
 どうしよう。
 他の人の相談に乗ったことがあんまりないから、どうすればいいかわからない。
 えーと。
 仁美は、桜井君と、その、エッチしたくて。
 で、あたしが最近エッチしたと思って、あたしに相談して。
 あたしの初めての時の話聞いて。
 でも、怖くて。……って、ことなんだな、多分。
「怖いの……かな?」
「……」
 こく。と、仁美がうなずく。
 当たりだ。

 女の子はみんな、「初めて」は怖い。……と思う。多分。
 でも、仁美の場合はちょっと事情が違うから、簡単に「勇気を出して」って言うわけにもいかないし。
 うーん。
 どうしよう。
 うーーーん……

「……ごめんなさい」
「にぇ?」
「いきなり、こんなこと相談しちゃって……」
「ううん、んなこたぁいいよ……
 にしても、何であたしなんかに相談したのさ?
 流じゃなくて」
「あ……その、私、小田島さんからお話聞きたかったから……」
 あ、そうだった。
「あと……京橋さん、頼れるけど……
 なんか、こういうことは、小田島さんの方が相談しやすいかな、って思ったから……」
 えっ。
 ……あ、そうか。
 確かに、あの下ネタ魔神の流には、こんな相談はしづらいのかもしれない。
 昔は、仁美はあたしと一緒に、流の下ネタに赤くなっていた。「事故」のあと、流は仁美の前でそう言う話をしなくなったけど。
 でも……そうか、流よりもあたしの方を頼ってくれたのか。
 なんか、うれしいな。
「よし、わかった」
 あたしはちょっと大きな声を上げる。


「あたしが頑張って、解決してみせましょう!」



「結局流さん頼みだけどね」
「うるせぇっ!」

 一日考えたけど、あたしだけじゃあどうにもいい方法が思いつかなくて、今朝は涼に相談した(……ごめん仁美、仁美の相談内容はどうにかぼかそうと思ったけど、あたしにはできなかったよ……)。
 そうしたら、実は涼も同じような依頼を桜井君から受けていたことが判明。
 そして、出てきた答えは、
「結局、流さんの催眠術をうまく使うのがいいんじゃ?」
 という、ある意味いちばん安直なものだった。

 いや、いいんだけどさ……

「ただ、斎藤さんはわざわざ都ちゃんに相談したんだから、流さんに相談するなら斎藤さんに許可とった方がいいと思うよ。
 ……って、僕に相談してからそんなこと言っても、意味ないかもしれないけど」
「んむ……わかった」
 と話すあたし達は、実はもう駅前にいる。
 涼のご両親が帰ってくる前に、あたしはいつも「避難」している。もっとも、あたしはご両親に何回か会ったことあるから、別に鉢合わせしたってそんなにまずくはないはずだけど……やっぱり恥ずかしいし。

「じゃ、またあさってね」
「ん。……都ちゃん」
「ん?」
 ちゅっ
「!!!!」
「ばいばーい」
 かああぁぁぁぁぁぁっ
「くぉらぁっ!!! 涼っ!!!」
 怒鳴るあたしを後目に、とっとと走り去る涼。
 あんにゃろ、まったく……



 キスなら今日、涼の家で何十回もしたじゃん。

 ……あれ、百回以上したかな?

 
 


 

 

戻る