枕営業マン


 

 

−2−


「・・・ちょっと、聞いてるの? 蓮太?」

 白塚絵美の声で、急に我に返る小林蓮太。喫茶店でアイスクリームを食べながら、すっかり回想に浸っていたのだ。

「思い出し笑いなんかしちゃってさ、気持ち悪い。こっちの苦労も知らないで。」

「こら、絵美ってば、蓮太さんに言いすぎよ。」

 絵美の横に座る、白塚聡江がたしなめる。38歳だがお色気ムンムンの人妻だ。16歳の娘がいるとは思えない体をしていることは、蓮太と絵美が充分熟知している。柔和でノーブルな顔立ちをした、いかにもお屋敷の貞淑な奥様といった見た目だが、行為の時には桜色に染まる、ムッチリとしたもち肌の持ち主だ。

「だって、お母さん。私たちがこいつのためにクレーム処理で体張ってた間も、もう新しい遊び相手見つけて、遊びほうけてるんだよ。イヤらしい顔して・・・。どうせ年上の綺麗なオネーサマとか、真面目な子犯してちょっとホロっときちゃったとか言うんでしょ? バッカバカしい。」

(スルドイ・・・。絵美もそろそろ、大人の事情がわかってきたのかな?)

 蓮太はまた、一昨日の、お昼の情事を思い出す。スタイル抜群、肌綺麗。顔は清楚で整っていて、性格は素直な若奥様。被暗示性もそうとう高くて、こっちの指示にいちいち丁寧に従ってくれてた、可愛い早紀さん。蓮太の顔は緩まないわけにはいかなかった。鉄道物語・第2章。ああいうシチュエーションをしてみたのは初めてではない。何人かの美女で行ってみたが、それぞれ反応は違っていて面白かった。相手の反応に合わせて、蓮太の暗示もアドリブで変わっていくので、皆クライマックスは違う。旧家のお嫁さん、新堂雅代さんの場合は「親戚、知人、みんなの面前で、犯される」というストーリーになってよがり狂って、新しい性癖を露呈してくれた。デザイナー、友澤樹理亜はパンツの中のジャム(あの時はピーナッツバターだったか)を自分の顔に塗りたくってまで、彼氏や同僚の目から逃れきるという、予想外の根性を見せた。目の前にいる白塚絵美は・・・、第2章までも届かずに、痴漢に触られてイキまくって、急に正気に戻されて大泣きしたんだった。そのあと蓮太にあやされながら処女を捧げるというしょうもない結末で、良家の不良お嬢様もこんなもんか、と蓮太を呆れさせたのだった。

「また、鼻の下伸ばしてっ・・。何考えてんのよ?」

「ん? ・・・今は、絵美のことだよ。」

「・・・・・・・・えっ。」

 蓮太が目を向けると、白塚絵美は真っ赤に硬直して、口をパクパクさせている。そうだ、あまりにありきたりな、お金持ちの生意気お嬢様だったので、これまたありきたりに、処女を奪った不良セールスマンへの熱い恋心を与えていたんだった。小さく溜息をつく。

 急にモジモジしはじめる彼女のルックスは、学校でもきっと群を抜いているだろう。性格に難ありだが、スレンダーなボディーにリンゴみたいな可愛い胸。クリッとした目に長い睫毛。有力者の父親のもとには、芸能界デビューのお誘いも沢山来たらしい。蓮太だって中学生か高校生だったら、きっと絵美に夢中になっていたかもしれない。公平に言って、それくらい絵美はキュートな容姿だった。しかし、予備校時代から大人の女性の味をとことん味わい尽くしてきている蓮太にとっては、単体では少し物足りない。操って面白いほどの、人生経験も深みも無いのだ。・・・まぁ最近蓮太のおかげで、経験だけは急速に積んでいるようだが。。。

「あ、それで・・・。クレーム処理はうまくいったの?」

「・・・えぇ。村山様とおっしゃいました。蓮太様から安眠枕を買ったものの、全然良くないと怒っておられましたので、私と絵美とでいつも通り、『正しい寝方、使い方』をレクチャーさせて頂きました。・・・もちろん、そのついでに絵美と私とで添い寝させて頂いて、溜まってらっしゃったご不満も、おシモの方のものも、すっきり出しきって頂きましたら、ずいぶんとご満足頂きまして、枕カバーの買い替えにも応じて頂けました。」

 いかにも品の良い喋り方をする聡江さんは、旧華族の家系の出身らしい。おっとりとした喋り方だが、今ではベッドの上ではパイズリと同時のバキュームフェラにいそしむ、舌使いの名手にまでなってくれた。娘の絵美とともに、一つ返事で蓮太の小間使いやクレーム処理係を務めてくれる、優しく有能な部下でもあり、パトロンでもあり、お得意様でもある。普段の本人は、そんなこと知る由も無いが。

「はい、カバー代の5千円。ほんっとにエロジジイでさ。汚いもの色々舐めさせられたり、お尻も結構痛かったし、写真もいっぱい撮られちゃったのに、笑顔で我慢したんだよ。ホントこれから、もっとまともなお客さんに売ってよね。」

 5千円札を突き出す絵美の口調は、さっきより少し柔らかくなっていた。

「クリームソーダです。・・・あの、ストロー3本でよろしかったですか?」

 少し戸惑いながら店員のお兄さんが、クリームソーダを1人分持ってくる。古風な美人妻と人目を引く美少女、そして平凡な見た目の若いサラリーマンが、1つのクリームソーダに3人同時にストローをさして吸い始める。顔を寄せ合う姿は、ヒソヒソ話をしているようだった。

「ま、でも私と絵美とでしっかり奉仕しまして、ご納得頂けましたので、ご心配いりません。絵美も傷つかないようにちゃんと私が親として見守っておりましたから。・・・それで蓮太様は今日のお客様、随分お気に入りのようですが、販売強化要員になって頂くのですか?」

 みつめあってストローを吸う3人。聡江が質問すると、絵美の目が機敏に反応した。

「どうなの?」

「・・・いや、一昨日の早紀さんは、当分僕が時々立ち寄るだけって予定だよ。別に今はそこまでノルマ厳しくないし、他のお姉さまたちも優秀だし・・・。」

「その早紀さんは、自分だけのものにして、旦那と自分以外には触れさせもしないってことね? やっぱり、凄い、気に入ってんじゃん。私とお母さんなんか、真昼間から変態ジジイにフルサービスしてきたっていうのに。。。キイーッ。」

 絵美が蓮太の手をツネる。心配そうにたしなめる聡江を、蓮太が別の手を上げてとめた。

「イテテッ、やめろよ。・・・ちゃんと今度、絵美ともデートするよ。埋め合わせはするからさ、今日は学校サボったんだろ。早く家帰って勉強でもしなさい。」

「・・・デート? ・・・ほんとに? ・・・絶対だからね。」

「本当だよ。僕が人を騙したことある? ・・・ちゃんとキスとか上達したか、チェックしてやるから。・・・またいつもみたいに連絡待ってて。」

 蓮太は左手でぞんざいに、聡江と絵美に帰って良しと合図する。聡江と絵美が、お会計を済ませて喫茶店を後にする。絵美が「イー」と歯を剥いて怒りを見せたが、聡江は深々とお辞儀して店を出て行った。白いベントレーに運転手付き。ずいぶん豪勢なクレーム処理係のペアだ。2人とも上着の下にはハイソな雰囲気や顔立ちに似合わない、ピチTを身につけていること以外は、いかにもリッチな親子という雰囲気だ。唯一ギャップのあるTシャツは、ヘソの上までしか隠せていない面積の上、ピッチリとした布地で、はちきれそうな両胸の部分に「安」、「眠」と大きな赤字が書かれていた。2人ともノーブラなので、乳首がしっかり浮き出ている。蓮太考案の、クレーム処理ガールズの作業着だ。オーダーメイドの費用は、聡江の持ち合わせからすると雀の涙のようなものだったが、絵美にはわざわざアルバイトをさせて購入させた。自分を辱めるためだけのような恥ずかしい服を一つ買うにも、労働して得ることの大切さを教えたつもりだ。白塚家の当主から運転手、住み込みのメイドさんまで含めて蓮太の催眠術の下僕にするには骨が折れたが、おかげで蓮太の仕事はずいぶん楽になりつつある。


「さて、早紀さんが手に入ったとなると・・・、気になるのは玲香さんち訪問のルーティンが減るかどうかなんだよね。」

 すでにお会計の終わっているアイスクリームとクリームソーダ(こちらのアイスは絵美が食べてしまった)を少し残して、蓮太も喫茶店を出る。ここ数ヶ月、蓮太のお気に入りランキング1位を欲しいままにしてきた藤村玲香の家に行って、果たして彼女のランキングが変動するかどうかを確かめたくなったのだ。

(藤村家もそんなに遠くないし・・・、行ってみよう。)

 蓮太は店を出ると、緩やかな坂道を登って「つつじが丘」から「躑躅台」を目指すことにした。高級住宅がたちならぶ、お金持ちのエリアだ。

「あ・・・、おんなじ方角だったんだから、白塚カーに乗せてもらえばよかったな・・・。」

 自分の計画性の無さを悔やみながら、蓮太は鞄を持っていない方の手をポケットに突っ込んで、フラフラと歩いていった。


。。。



 ピンポーン

「はい、藤村です。」

「まいどー。ナカハラ寝具の小林です。貴方の蓮太君ですよー。」

「・・・・れんた・・くん・。・・・・蓮太君っ! ・・・今すぐ開けるから、待っててね。どこにも行かないでねっ!」

 キーワードを聞いて、しばらくボンヤリと考えた藤村玲香が、最愛の恋人のことを思い出す様子が、インターホンからも伺えた。一応人目を気にしながら門を開けさせてもらい、玄関前まで足を進めると、乱暴にドアが開いて、とびきりゴージャスな美人が飛び出してきた。前に2回、この開くドアにオデコをぶつけたことがある。

「・・・蓮太君! いらっしゃいませっ。あとっ・・・おかえりなさい!」

 外の目を気にして、ドアの内側にスルリと入る蓮太にぶつかるように、藤村玲香は飛びついてきた。抱きついてお帰りなさいのキッス。もう2ヶ月近く、玲香の本当の旦那の保さんは味わわせてもらえていない、玲香の極上のキスだ。プルプルとした厚めの唇、ウェーブのかかった栗毛色の豪華な髪、ほのかに香るフローラルの香水。華奢な体に不似合いな隠れ巨乳が蓮太の体に密着した。

「チュパッ。どうぞ、入ってください。中で続きをしましょ? 私の蓮太君っ。」

 両手で抱きかかえるように蓮太の後頭部を持って、首をかしげて微笑みかける玲香。睫毛の長い大きな瞳が、クシュッとタレた。何の屈託も無い、満面の笑顔。結婚するまでファッション誌のモデルを勤めていた玲香の、笑顔を蓮太が独り占めしていた。

「あっ、スリッパッ・・・。ちょっと待っててね。」

 慌てて寝室に駆け込んだ玲香が、長い手足の優雅なプロポーションに似合わずドタドタと女の子走りで戻ってくると、スリッパを抱えていた。

「はい、どうぞ使ってください。ご主人様っ。」

 玄関先に正座をして、スリッパを揃えると、正座のまま玲香が背筋を伸ばした。元モデルだけあって、姿勢がいい。ビシッと背筋が伸びる。

「どうしてスリッパが、玄関になかったの?」

「・・・蓮太君の穿いてくれたスリッパ。時々、抱っこして寝てるの・・・。変ね? さっきまで、どうして自分がそんなことをしてたのかも、わからなくて不思議に思ってたんだけど、蓮太君が来てくれてから、急に全部思い出したわ。」

 パステル調の、きめのこまかい肌をピンクに染めて、玲香が照れ笑いをする。顔のつくりは隙がないと言えるほど完璧に整っている玲香だが、冷たい雰囲気がしないのは、この表情の豊かさがあるからだろう。見た目よりもフワフワと、女らしい性格の玲香は、男女誰からも憧れられた存在であり続けてきた。最愛の旦那との新婚生活も2年目に入り、幸せの絶頂だったはずの藤村玲香。それ以上の秘密の幸せを蓮太に教えられてから、妙に物忘れが激しくなってきた。

 アイランドタイプのリビングダイニングは白で統一されている。蓮太はバーのカウンターのような椅子をクルクルさせながら、腰かけて玲香と話す。

「それで玲香さんは最近、保さんとはどうなの?」

「・・・ん・・、ちょっと、ちっちゃな口喧嘩、増えちゃってるかも・・・。朝とかは仲良しなんだけどね・・・。」

 蓮太が悪戯っぽい笑みを浮かべる。隠そうとしても、どうしても顔がニヤけてしまう。蓮太は自分でも反省してはいた。いくらなんでも人妻相手にジェラシーに燃え上がるのは間男として大人気ない。それでも、蓮太は今の玲香には冷静ではいられなかったのだ。玲香が言葉を濁している
「夜の不仲」は、もちろん蓮太が仕組んだものだった。

「せ・・、せっかく蓮太君が来てくれてるんだし、もっと楽しいお話をしましょっ? お洋服、脱いじゃってもいいかな?」

 楽しいお話に服は邪魔。玲香は蓮太が思いつきのように与える指示の一つ一つを、よくおぼえて自分自身に染み込ませている。もちろん、この暗示は蓮太と2人でいる時だけ発動する。玲香のパーフェクトなヌードは、蓮太の目や触覚だけを楽しませるためにあるのだ。すくなくともここ数ヶ月は・・・。嬉しそうにノースリーブ・ワンピースのホックを外してチャックを下ろし、心せくようにスルスル裸になっていく玲香。刺繍の入ったシルクのブラジャーをまくり上げると、たわわなバストがブルンと顔を出す。相変わらず、サーモンピンクの乳首はツンと上を向いている。

「うふふっ。」

 悪戯っぽい笑顔を見せると、急にブラを戻して、肩をすくめ、胸を恥ずかしそうに隠す仕草。焦らしているつもりのようだ。それでも我慢できない様子で、すぐにブラのホックも外す。尻から足のラインを強調しながら、長い指をそらせてショーツを下ろしていく。昼下がりのリビングダイニングに、女神像のようなメリハリとクビレの女体が現れた。首や腕の細さと比べて胸の大きさ尻の丸みが際立っている。ターンを決めると、ポージングが始まる。本職のモデルが、蓮太のためだけに見せる、生まれたままの姿でのファッションショーだ。手を腰に当てたり、開けた口を隠すように手を広げたり、表情豊かに自分をアピールする。「蓮太の視線は、大好きな男性の優しい愛撫やキスよりも感じる」という暗示が効いているらしく、すでに玲香の乳首はビンビンに起立していて、目は潤み、肌は赤く上気している。もう「楽しいお話」どころではなさそうだ。

 様々なポージングを披露しながら、蓮太に精一杯媚を売る玲香。少し欲求不満気味の彼女には、旦那の藤村保と小さなわだかまりが定期的に出来てしまうという悩みがあった。普段の彼女には説明も理解も出来ないことなのだが、夫である保に、自分の体を指一本触れて欲しくない気がしてならないのだ。かといって彼女自身に性欲が無いわけではない。むしろ、玲香の性欲はこれまでの人生の中で今最高に高まっていて、夫にもしどけない姿や扇情的な服装などを見せることもある、しかし、いざ保が盛り上がってくると、玲香は急に、保に触れられたくなくなるのだ。

 若くて健康な男女である2人は話し合って、「足コキ」で玲香が保の男性自身を刺激して射精に導くという夜の営みを始めていた。保にとっては屈辱的とも思えたが、目に入れても痛くないと思うほど大切にしている新妻の頼みなので、シブシブ受け入れることにした。玲香も一生懸命、足での愛撫の技能を磨いている。しかし「足コキ」の時間だけは、彼女が普段は口にしないチューイング・ガムをクチャクチャと噛んでいることも、保が納得いかないことの一つだった。

 混乱しているのは玲香もそうだ、保と結ばれることのない、若く元気な女の体を、毎晩持て余してしまっている。時々一人で慰めるのだが、イきそうになった直前で、体が、逆らうようにイかせてくれなくなる。「オアズケッ」と大きな独り言を言うと、両手をバンザイさせて、高まった気持ちが冷めるまで体が動かなくなる。その後は、悶々とした、やり場の無い切ない発情を抱えて、玲香は枕(最近買った)に顔を突っ伏して足をバタバタさせることしか出来なかった。

 それでも、玲香が保よりラッキーなのは、彼女には蓮太という性欲の非常口があることだった。蓮太が藤村家を訪れた時だけ、そのことを思い出す。玲香はこの時とばかりに、溜まりに溜まったエッチな気持ちを噴き出させ、蓮太とのマグマのように熱いセックスに身も心も狂わせるのだった。蓮太が来てくれなくなったら、玲香はおかしくなってしまう。そんな思いからか、それとも純粋な彼への愛と忠誠心からか、玲香は彼からのどんな変態的なプレイでも、リクエストにでも、笑顔で張り切って応じる。

 新婚生活を妻からの「足コキ」のみで我慢している最愛の夫が必死に働いている日中、玲香は蓮太の精で体中の穴を埋めてもらい、歓喜の潮を家中いたるところに撒き散らすのだった。

「玲香さん。こっちにおいで、アソコの毛を触らせて。」

「えぇ〜? いや〜ん。」

 両手で頬を覆いながらも、モンローウォークでリズミカルに近づいてくる玲香。足を肩幅に開いて股間を前に突き出した。

「どうぞ、召し上がれ。」

 期待に胸を弾ませてアンダーヘアを恥ずかしげもなく差し出す玲香。召し上がるつもりのなかった蓮太は、すでにジットリと湿っている柔らかいヘアの1本を指で摘んだ。

「こんどはお尻突き出す感じで、自分の腰の力でこの毛を抜いてみてよ。」

「あ・・・はいっ。」

 甘いラブラブカップル・プレイではなくて、意外と冷静な蓮太の指示が来た。そのことに少し驚きながらも、指示である以上はすぐに従う。蓮太からもらえるものなら、命令でも痛みでも、全て玲香の快感であり幸福である。もうすでに、彼女自身の血肉になっている真実だった。

「見てください。・・・ほっ・・・あんっ、痛いです、ご主人様。」

 両手を頭の上で組んで、陰毛を摘まれたまま、腰を後ろに弧を描くように引いてハート型のヒップを突き出した玲香。命令通り、蓮太の手に、抜けた毛を1本残すことが出来た。

「はい、良く出来ました。ほら、君が召し上がれ。ご褒美だよ。」

「いただきますっ。・・・んふふっ。ご馳走様。ちょっとしょっぱいです。」

 愛液がたれそうな陰毛を、顔の前に出されて、一度両手を拝むように合わせて目を閉じて「いただきます」の仕草をした玲香は、一口で自分の陰毛を食べると、まるでスイーツを楽しむように、大きな瞳を斜め上にあげて味を確かめた。これが変態的なプレイだと理解するほどに、熱い股間から愛液が垂れる。細いあごを動かして噛み締めるたびに、ヴァギナからドプッ、ドプッと音を立てて愛液が出てくるような気がした。

「じゃ、もう1本いっとく? 今度は鼻の穴からすすり上げて食べてみよう。」

 先ほどの「毛抜きポーズ」をもう一度繰り返す。一瞬の指すような股間の痛みも、マゾヒスティックな快感と蓮太への愛の深さの実感として玲香を祝福しているように思える。顔の前に突き出された自分の抜け毛を、少し戸惑いながら鼻の穴から吸い上げてみた。くしゃみが出そうなのをこらえて、喉を通った感触を確認すると、蓮太が頭を撫でてくれる。すでにそれだけで玲香は、天国に一気に釣り上げられたかのようなエクスタシーに達していた。

(日頃密かに発情させながらも性欲溜め込ませてたからか、ちょっと感じすぎなぐらいだな。また前みたいにブッ飛ばせ過ぎて、口から泡吹かせちゃったりしないように気をつけないと、玲香さんの体がもたないな・・・)

 多幸感の与えすぎ、快楽中枢の刺激しすぎは、ドラッグのように、体に悪影響があるような気がする。蓮太は全裸でふらつきながら、「もっと褒めて、・・・もっと・・・。」と涎の垂れる口でうわごとのように漏らしている玲香を、少しクールダウンさせることにした。

「じゃ、玲香さん。僕の声がスーゥゥッと貴方の奥まで染み渡って、貴方はもう深―い催眠状態に入ります。頭の中も落ち着いてきますよ・・・。そして僕が肩をポンポンポンと叩いていくと、・・・自分の肩から下の感覚が首から上には伝わらなくなる。貴方は自分の肩から下がどうなっていても、まーったく気にならない。そして首から上は、大好きな音楽が聞こえてくるので、それを楽しんでいましょうね。」

 呆けていた玲香の表情が、少し冷静になる。口元は微笑んでいるが、遠くを見ながら小さく首を横に振って、リズムを取り始めた。食卓テーブルに裸のお尻をペタッと座らせて、膝を立てた後で足を開かせる。M字開脚のポーズになると、バランスを取るために両手もテーブルに着いたが、玲香の表情は変わらない。お気に入りの音楽に集中していて、裸でM字開脚をしていようとも、蓮太が胸をももうとも、もう反応しなくなった。

 蓮太が自分で指を舐めたりする必要もなく、玲香の大切な割れ目はヌルリと彼の指を受け入れる。温かく柔らかな内壁がゆっくりと収縮している。少し指を入れただけで、下半身はグッと緊張した。また小さくイッたようだ。下半身も無反応になったわけではない。首から上とは個別の反応をしているだけ。玲香の体は体できちんと蓮太の指を求め、喜んでいる。平和な顔で音楽を楽しんでいる玲香の、頭と反応が分断されているだけだ。クリトリスと膣内を同時に刺激してやると、すぐにビュッ、ビュッと潮をテーブルから床まで飛ばし始めた。下腹部が、わななくように痙攣して、ずいぶん液体が撒かれた。

(これだけ溜まってて、発情してる体に高い性感与えてるんだから、直に脳に刺激を繋いじゃうと、玲香さんが戻ってきてくれるまでに時間がかかるからな・・・。それにしても・・・)

 蓮太が耳を玲香の口元に近づけてみる。玲香はかすかに聞こえる声で、好きなJ−Popsの旋律をハミングしていた。下半身はビタビタになるまでイッているのに、呑気に鼻歌を歌っている。

(実際は、肩から下が見せてるオルガスムの反応だって、脳が指示してるはずなのに・・・、これってホント、どうなってるんだろうな? ・・・こういうのって突き詰めていくと、いつか凄い技術が世間のためにもなるかもしれない。・・というような期待もあるので、もう少し好き勝手に遊ばせておいてください。)

 蓮太は誰にというわけでもなく言い訳をすると、自分も食卓テーブルに上がって、少しずつ落ち着いてきた玲香の体に覆いかぶさった。スレンダーな手足や肩と、迫力のあるオッパイにお尻。日本人離れしたナイスバディを押し倒して、好き勝手に弄くり始める。ズボンとボクサーパンツを同時に膝まで下ろして、我慢できずにそのままズブッと挿入したところで、ミュージックライフを楽しんでいる玲香の目の前で指を鳴らした。

「・・・えっ・・・蓮太君・・・何っ・・あっ・・・気持ちいいっ! ・・・いつの間に・・・っあっ・・幸せっ・・・。」

 色んな驚きが玲香の頭の中をよぎったようだが、最終的にニンマリ笑って蓮太の背中に手を回した。尻や太腿の下が妙にビチャビチャするので、テーブルの上にグラスかカップでも倒れていないか心配になったが、旦那を拒んでは待ちわびてきた、熱くて固い、キュンキュンする感触に、全てがどうでも良くなった。

「蓮太君好きーーーーぃぃっ・・・、玲香を、ムチャクチャにしてぇーーーっ。」

 うわづった声で叫んでは、首を左右に振りながら女の喜びを噛み締め、浸り、溺れる玲香。ウェーブのかかった綺麗な髪が食卓テーブルに広がっている。充血した目の美貌の若妻は、ムワッと匂い立つような女のフェロモンを醸し出しながら、性の交わりを味わいつくそうとしていた。蓮太が腰を振りたてると、次第に眉をひそめて高まる性感に打ち震える玲香。痙攣しながらイったときには、自分の肩を噛んで、快感に悶えるのだった。


。。。



「玲香ちゃん、目を覚まして。」

 優しくて低い、大人の人の声がする。玲香が目をゆっくり開いて、グーの手二つで瞼をこすると、大きなお兄ちゃんが玲香の目覚めを見守っていてくれた。

「あぁっ・・・蓮太おにーたん。きてたの?」

 いつも玲香と遊んでくれる、優しい近所のお兄さんがいてくれたことで、玲香はうれしくなって眠気もすっかり覚めてしまった。蓮太お兄さんは、いつも玲香に新しくて楽しい遊びを教えてくれるのだ。

「おにーたん。遊んでっ・・・れいかとお遊びしてっ。」

 蓮太お兄さんに飛びついておねだりすると、お兄さんはいつも優しく頷いてくれる。

「いいよー。じゃ、なにしよっか? ・・・あ、玲香ちゃん、あやとりって知ってる?」



 蓮太の目の前では、24歳の若妻が、舌ったらずな喋り方をしながら、右手をピンっと挙げる。

「しってゆよーっ。でもほいくえんで、おねーちゃんたちと先生がやってるの、見てるだけ。」

「じゃ、教えてあげよっか? 両手出してみて?」

 蓮太が、一歳年上の女性をあやすように言うと、嬉しそうに玲香が両手を「前へならえ」するみたいに前に伸ばす。さっき玲香が放り投げたショーツを拾ってきた蓮太が、玲香の差し出された両手の指にシルクのショーツをかけてあげると、玲香は何の疑いも持たずに両手の指を交差させたり布地を広げてみたり、真剣な表情であやとりに熱中する仕草を始めた。途中で蓮太も指を絡めて、手伝ってあげる。

「ほーら完成。チョウチョ。」

「ぅわーい。ホントだ、チョウチョ、チョウチョ。」

 嬉しそうに頭の上にショーツを掲げてパタパタさせる玲香。あやとりを教えてもらっている嬉しさを、真っ直ぐに見せてくれている。蓮太は面白くなって、どんどんあり得ない技を繰り出す振りをしてみる。

「じゃ、貸してね。チョウチョから・・・、はなよめさん。」

「はなよめしゃん! ・・・きれー。おひめさまみたい・・・。」

 目を大きくして、食い入るようにさっきまで自分で穿いていたパンツに見いる玲香。両手を祈るように体の前で握りながら、ウットリしている。

「花嫁さんから・・ゴーギャン。」

「ごーぎゃんっ! ・・・すごい。ごーぎゃんっ。」

 わからないまま、はしゃいでいるようだ。蓮太は単に、パンツをクシャクシャしては、引っ張っているだけだが、玲香が大喜びしてくれるので効率がいい。

「ゴーギャンから・・・、ほら、三菱東京UFG銀行。」

「すごいーっ。おかねたくさん! ・・・なかでおねーさんもはたらいてるっ。ぎんこーっ!」

 玲香が両手をパチパチしてくれる。あんまりキラキラした瞳で見入っているので、蓮太は自分で適当に言っておきながら、彼女の目に映ってるものを、一緒に見てみたくなる。毛糸の線で立体的に作られた、メガバンク。凄いものを想像していそうだ。テーブルに両手をついて、手の甲の上にほっぺたをペッタリのっけ、ウットリしながら、蓮太の指でデタラメな方向に引っ張られて伸びきった、自分のパンツをみつめている。溜息とともに蓮太を尊敬の眼差しでみつめる玲香。すっかり近所の、可愛い幼児になりきっているようだった。



「はい、あやとりはちょっと難しくなりすぎちゃったかな? 今度は、もっと簡単な遊びをしようね。紙風船、知ってる?」

「それぐあい、しってゆよ! れいか、もうおっきくなったんだから」

 ちょっとふくれっ面になって、両手を腰に当てる玲香。裸の胸がブルンと揺れる。本当のところは今、玲香が思っているよりもずいぶん大きくタワワに育っているのだが、全くそのことには気がついていない。

「ただの紙風船遊びじゃないよ。玲香ちゃんが、風船になっちゃうんだ。ほら、空気入れるよ。プーーゥゥゥッ。」

 玲香の後頭部の髪の毛をかきわけて、うなじに思いっきり息を吹きかけてあげる。呼応するように、彼女が両手で自分の頭を囲うように大きな輪を作った。うなじから口を離して、蓮太が玲香の正面に回ると、玲香はさっきのふくれっ面どころではなく、ほっぺたがはちきれそうなぐらい顔を膨らませていた。上がりきった眉毛の下で、大きく見開かれた目だけが、キョロキョロと周りを伺っている。

「うん、しっかり膨らんで、可愛い紙風船になったよ。玲香ちゃん。この風船は、上にじゃなくて、あっちに向かって飛んで、戻ってくるんだよ。ほら、こっちおいで。」

 お尻と背中をかかえて、テーブルからおろしてあげる。感触を惜しむように玲香の尻の肉を揉みながらも蓮太は話し続ける。

「ほら、とばすよ、ポーン。・・・ゆっくり戻っておいで。いい紙風船だね。」

 背中を軽く叩くと、ヒョコヒョコと壁まで駆け寄っては、フワフワ戻ってくる玲香。何往復かさせたあとで、戻ってきた玲香を捕まえる。

「はい、上手でした。空気抜くよー。」

「ぷしゅーぅぅぅ・・・」

 蓮太が玲香のお腹と背中に当てた、両手に力を入れると、玲香が自分から声を出して息を抜いていく。大きなわっかを頭の上に作っていた手がダラリと下がって、体を蓮太に預ける。口を突き出したまま、なぜか寂しそうな顔をしながらしおれていく玲香。ズルズルと蓮太に覆いかぶさりながら床にズリ落ちた。

「そのまま深い眠りに落ちよう。歳も今の玲香さんに戻ってくるよー。そのまま一緒に、ベッドまで歩いていこうか。」

 玲香の体を好き勝手触りながら、ゆっくりと助け起こして寝室まで連れて行く。クイーンサイズの大きめのベッドが並べられた広い寝室の、スベスベしたシーツの上に、彼女ごと転がった。さっきはテーブルの上でちょっとハメただけで何度もイッてしまった玲香だけれど、そろそろ色んな体位でのセックスを楽しみ、なおかつ蓮太を楽しませる余裕も出来ているはずだ。派手に動き回るんだったら、やっぱり布団やベッドの上に限る。蓮太はカーテンをしめていない明るい寝室の中で、玲香の体を隅々までまさぐってキスをする。

 玲香も、蓮太が一言囁くと、頷いてネットリとした愛撫を始めた。上になったり下になったり、体勢を変えてつながった腰を振り合う2人。玲香の柔らかい体内に挿入している、心地良さを大事に維持しながら、両手と舌で彼女の肌を捏ね繰り回した。なんの気兼ねも気遣いもいらない、ただ蓮太を開放する自由なセックス。玲香が嬉しそうに、なんでも受け入れてくれるのが、また心地いい。

 きちんとステップを踏んで、極限まで深めた催眠状態で一度セックスをすると、その後は体の相性までピッタリあってくるという実感がある。こちらの求めるものを敏感に感じ取って、融通無碍に変化を見せながら蓮太を受け入れようとしてくれる。そんな状態まで導いた、若くて健康的な美女と、昼下がりに思う存分睦み合う。豪華なリゾートクルージングなんかよりも、もっと羽を伸ばせる、至福のひと時だ。

(1回1回の放出を大切にしようと、腰の動きも穏やかにおさえてたけど・・・、もう、そんな縛りもいらないか。)

 思い直した蓮太が腰の振りを激しくして、合わせようと頑張る玲香の動きもあまり気にせずに、あくまでも自分勝手なタイミングで射精する。射精が終わったあとでも、直後何回かのピストンは気持ちいい。中出しされても、目が合うとニッコリ微笑んだ玲香が、両手で蓮太の頬を包んだ。


。。。



「私ね・・・むかしモデルしてた時、カメラマンさんに、玲香ちゃんの胸、右と左とでちょっと形違うねって言われたの。・・・あの、水着特集の撮影の時だし、女のカメラマンさんだよ。」

 裸のままシーツに包まって、寝入りばなのようなダラダラした時間を過ごしていると、玲香が体を寄せてくる。

「蓮太君は、玲香の右のオッパイと左のオッパイ、どっちが好き?」

「・・・あんまり、違わないような気がするんだけどなぁ・・・プロの目だとわかることもあるのかなぁ?」

 一応差し出されたオッパイを片手で次々に揉みながらも、ボンヤリ話す蓮太。1日に4度も出したあとは、さすがに色んなことが面倒くさい。この気だるい気分は嫌いではないのだが、玲香はセックスの後も、蓮太といちゃつきたがる。

「そっかぁ・・・、じゃっ・・・」

 シーツにもぐりこんで、中でモゾモゾする玲香。彼女が近くで動くと、波打つ髪の毛が蓮太の肌に当たって、くすぐったい。ぴょこんと、大きなお尻がシーツから、さっき顔のあったところに出てきた。

「玲香のお尻は・・・、右と、左だったら、どっちが好き?」

 クイッ、クイッとお尻が可愛く左右に振られる。

「どっちも同じだよ。・・・胸ならまだしも、尻のこっち側が・・とか、思わないよ。」

 ちょっと笑いながら、ぺチンと尻肉を叩いてやった。叩かれた尻がシーツの中に引っ込む。まだシーツがモコモコ動く。玲香の体が蓮太の下半身にまとわりついてくる感覚がある。

「玲香はねぇ・・・蓮太君の右のタマと左のタマだと・・・。」

 シーツの中からくぐもった声。蓮太の睾丸が温かくベットリしたものに触れられて、包まれる。

「れいはも、ほっひも、ふひー。」

 舌が両方のタマを交互に弾いてくる感触。痛気持ちいい感覚に思わず膝が上がる。

「わっ、ちょっとやめ・・。ばっか。」

 シーツの上から、頭があると思われるあたりをボカンと叩く。悪戯っぽい笑い声が漏れると、今度は真剣なフェラチオが始まった。

「もう無理っす。玲香さん。オネムの時間ですよー。」

 ギブアップした蓮太が声をかけると、濃厚なフェラチオが途中で止まって、蓮太の下腹部にフニャッと玲香のほっぺたが落ちた。蓮太のモノもほとんど柔らかいままだったので、ショックもない。

「元気だね、玲香さん。でもあんまりハッスルしちゃうと明日がきついから、ゆっくり寝ましょう。」

 自分の体をシーツから出して、玲香を引っ張り挙げる。ベッドの真ん中に寝かすと、いくつか暗示を与えて退散することにした。玲香の、まだ夫と会う前の子供ころの記憶にもお邪魔しはじめたことで、夫へのジェラシーも少し薄れたような気がしている。

「玲香さん、ちょっとここのところ、欲求不満を溜め込みすぎみたいだし、そろそろ旦那さんも足コキだけじゃ可哀想なんで・・・そうだな、これからは足コキだけじゃなくて、手でイかせてあげるぐらいは、してあげよっか? あとオナニーも、手を使うんならまだイクのはお預けだけど、ベッドにうつぶせになって擦りつけながらのソフトオナニーだったら、最後までイってもいいよ。足コキ、手コキ、ベッドへの擦りつけオナニー。これは解禁だからね。」

 ベッドで無防備な寝顔のまま、コクリ、コクリと頷く玲香。

「それじゃ催眠状態から、普通の快適な安眠に移行するよ。あと、また僕が出て行くドアの音が聞こえたら、次ぎ合う時まで大切な恋人でご主人様の僕のこと、僕との記憶は、心の奥底に封印しておいてね。じゃっ、おっと。」

 最後にポンッと玲香の頭を叩こうとしたのだが、同じタイミングで玲香が寝返りを打ったので、空振りしてしまった。玲香はベッドの真ん中から、さっきまで蓮太が寝ていたあたりに寝返ると、うつ伏せのまま顔をシーツに深く埋めて、深呼吸する。

「んっ・・・蓮太君の匂い・・・。」

 安眠状態に移行した途端、寝ぼけて寝言を言っているようだ。繰り返して刷り込んだ暗示による愛情とは言え、ここまでズッポリと全身全霊で愛されると、さすがに気恥ずかしい。蓮太は一人で頭を掻いた。



「やっぱり、玲香さんのランキング1位、もうしばらくは揺るがないかもなぁ?」

 帰り道、少し緩んだネクタイと、収まりの悪い髪形を撫でつけながら、蓮太は思案していた。早紀という、新しくフレッシュな遊び相手の登場で、ここ半年近く圧倒的1位の座を独占していた玲香の地位が揺らぐのかと思って確かめに来た。このところ、週に2度はセックスに通っていた玲香に、食傷気味になっていなかったというと嘘になる。そこに早紀を見つけたので、一気に政権交代かとも思ったのだ。しかし、今日改めて玲香を味わってみると、華やかなルックスと、全身全霊で尽くしてくる恋愛体質は、まだランキングダウンにはもったいない。・・・ここは、早紀と同率1位くらいになるのだろうか?

 帰り道にカッコいい外車とすれ違う。高級住宅地に近いこのあたりは、ヨーロッパ車を見る確率が増えるのだ。なんとなく、藤村玲香と広幡早紀を、車に例えて考えてみる。誰もが羨む美貌とダイナマイトなプロポーションを誇る玲香は往年のグラマラスなスーパーカーだ。エンジンもいきなり高回転に吹き上がる。一方で早紀はもう少しハイセンスなプレミアムカー。育ちの良さそうな清楚な雰囲気と、上品で理知的な顔立ち。ギアが多くて、低回転から高回転まで、状況に合わせて様々な顔を見せる。もちろんどちらも、街を行けば皆が乗りたがる、名車には違いない。

「これ、やっぱり、好みと方向性の問題だな。どっちも乗りこなして、潜在能力いっぱいまで遊ばせてもらわないと、バチが当たるよ。」

 ニヤニヤと考えごとをしながら歩道を外れてフラフラ歩く蓮太は、後ろから別の車に、クラクションを鳴らされた。


。。。



 ふとホットケーキが食べたくなって、昔ながらの喫茶店に入る。コーヒーにミルクだけ入れて、ホットケーキが出てくるのを待つ。注文してから焼き始めるから少し時間がかかる。ボーっとしていた蓮太だったが、暇つぶしにスマートフォンを弄り始めた。

 蓮太のチート技である催眠術を駆使すれば、本当だったらもっと営業成績を上げることも出来る。それどころか寝具を扱う中小企業の外回りよりも、もっと収入の良い仕事も望めるかもしれない。それでも蓮太はこの、まったりとした生活を今のところ気に入っている。本社の女の子にメールを送って、売り上げ成績のチャートをチェックしてもらう。毎月、地区でトップ10からトップ5あたりの成績を維持するように心がけているのだ。トップ10に入っておけば、勤務態度とかデスクワークとか、支店長もうるさいことを言わずに放し飼いにしてくれる。ただ、トップ5に入ると、「本店で事務仕事も覚えて、支店長候補に」とか、「君のセールステクニックを新人研修で教えてやってくれ」とか、うるさい声がかかりやすくなる。自由気ままにやり続けるには、いまのあたりの成績が、ちょうど心地よい。

 セールスマンをやって奥さんとじゃれあっているのも、蓮太の性によく合っていると思う。他人を催眠術で弄り倒すのは好きだが、人生狂わせるようなことは、後味が重くなるのであまり気が進まない。ピチピチした学生さんもいいけれど、あまり長い時間束縛すると受験がうまくいかなかったり、家族まるごと支配しなければいけなかったり、気を使うことが多いのだ。独身のOLさんも、恋に仕事に、なかなか忙しい。蓮太のお遊びにガッツリ付き合ってもらっても、後腐れがないのは、安定した生活と将来が約束されている、幸せな若奥様たちだ。予備校時代にそうしたことに気がついてから、大学を結局中退して今の仕事にいたるまで、蓮太は綺麗な人妻たちが出産や育児に専念するまでの数年間を、一方的に遊ばせてもらって、渡り歩いている。

 将来は、また違うことをするのかもしれないが、こうしてマダムたちとネットワークを作っているのもまた、何か新しいことを始める時には、助けになってくれるだろう。有力者の奥様、玉の輿に乗ったヤングミセス、コミュニティのオピニオンリーダーみたいなお姉様、若いのに家計をがっちり握っているしっかり者。日本の主婦は強いのだ。

「あっ・・・そういえば最近、悠梨さんとか、ケアしてあげてないけど、・・元気にしてるかな?」

 送ってもらった営業成績情報を一旦閉じて、蓮太はメールの連絡先をスクロールする。

「く、く・・・楠木悠梨・・っと。あった。・・・『悠梨さん、蓮太ですよ。楽しくしてる? ストレス溜まってたら、ロックナンバーかけてね』っと・・・。」

 メールを打った蓮太が、しばらく、暇つぶしに欧州サッカーリーグの試合結果を確認していると、着信が入る。

『悠梨です。ミュージック、スタートします』

 蓮太が催眠術をかけている奥様たちの多くは、蓮太のメールを深層意識だけで読み込んで、本人は自分がメールを受け取ったことも返信したことも、そして履歴消去したことまでも、自分では気がつかないようにしてある。2枚重ねの美味しそうなホットケーキがやってきたので、蓮太はスマートフォンから目を離した。


。。。



 楠木悠梨は、リビングを少し片付けてから、夫のオーディオセットに手をかけている自分に気がつく。普段夫が大事にしているオーディオセットは掃除の時にしか触れないので、自分でびっくりしてしまった。さっきまでのリビングの片付けもなんだったのだろう? ・・歳の離れた夫はなかなか神経質なので、悠梨はいつでも家の中をピカピカにしている。朝には掃除はすべて終わっていたはずなのだ。

(えっと・・・私いま、何をしてたのかしら? ・・・壊れそうな、大事なものだけお座敷に移して・・・、CDを入れた? ・・・なんでかしら・・・。)

 大音量で男性の声とエレキギターがステレオから鳴り響く。大人しい性格の悠梨が「きゃっ」と悲鳴をあげて、曲を停止しようとしたのだが、伸ばした手が勝手な行動を始めた。手がブンブンと上下に交互に振られる。手だけではない、いつの間にか腰がリズムに合わせて、お尻を左右にプリプリと振り始めている。

(え・・、何かしら? ・・・踊ってる? ・・・どうして?)

 誰も見ていない家の中だとわかっていても、ロックンロールの音楽にあわせて、慣れない踊りを見せている自分の姿に、悠梨は人知れず赤面した。落ち着いたセンスのブラウスと長いスカート。真面目な服装を振り乱して、体がツイストを、両手を縦にブンブン振ってのモンキーダンスを、必死に踊る悠梨。飛び跳ねたり、回転したりするたびにスカートの裾が太腿まで上がった。

(やだ・・恥ずかしいのに・・・止まらないの・・・)

 オールドスタイルのロックンロールが終わると、やっと一息ついたと思った悠梨が、2曲目のイントロと同時に体が走り出す。ホウキを持って駆け戻ってくると、足を大胆に開いて、エアギターが始まった。流れているギターの旋律を、自分がかきならしているみたいに、床に転がったり腕をブン回したりして暴れる悠梨。だんだん音楽に身を任せて、踊り狂うしかないような気がしてきた。

(部屋が散らかっちゃう・・けど・・・、ど、・・・どうでもいいの! ・・・)

 体を支配する激しいドラムとベース音に身を委ねてしまうと、どんどん気持ちが良くなってくる、すこし自棄っぱちだが、体が鎮まるまで踊るに任せることにすると、気分が晴れやかになってきた。

「フォーォォッ! シェケナベイベーッ!」

 大声を出すと、体に力がみなぎってくる。普段抑えていることさえ意識しなかったような熱い怒りや憤りが、悠梨を激しいダンスに駆り立てる。3曲目のブリティッシュパンクが流れるころには、いつもの悠梨の可憐な顔は、破壊衝動に燃えるパンクロッカーの表情に変わっていた。

「おりゃーっ」

 ホウキを投げ捨てて、リビングのカーテンに飛びつく。薄手のカーテンはキングコングのようにしがみついた悠梨を支えきれずにビリビリと上から破れた。上等なカーテンでブーッと鼻を噛んでやる。キッチンにダッシュして冷蔵庫から牛乳パックを持ってくると、いきなりパックから直接牛乳を飲む。口いっぱいに頬張ると、両手で中指を突きたてた悠梨は、思いっきり部屋に牛乳を撒き散らした。火を噴いたロッカーがライブハウスのファンたちにアピールするように、悠梨がポーズを取る。髪を振り乱してヘッドバンギングをして、何度も牛乳を床に吐きかけた。保守的な服を、躊躇なく破り捨てて振り回して放り投げる。下着もファッキン・ナンセンスだ。小ぶりのオッパイが上下左右に暴れまわるぐらい、全てを忘れて踊る。ロックフェスにはオッパイ全開のビッチが不可欠ではないか。


。。。



 外側はカリッとしていてすぐにフカフカ。中心近くはモチモチとしたホットケーキを、ナイフを入れる感触も楽しみながら堪能している蓮太の横で、スマホが何度も震えて、着信をお知らせしている。開くと、オッパイ丸出しで右手の中指を突き立てながら、限界までベロを出している悠梨の写真が送られてきていた。次の写真は真っ白。垂れている隙間があるところを見ると、白い液体をカメラにぶっかけているみたいだ。

「ありゃ、いい感じに暴れちゃってるね。スマホずぶ濡れで、壊れなきゃいいけど・・・。」

 モグモグとホットケーキを食べながら、次々と送られてくる、可愛らしい楠木悠梨のご乱行の写真を確認し、何枚かを保存させてもらっていった。



 悠梨の家に初めて蓮太が伺ったのは半年くらい前だろうか。優しくて控えめな性格が過ぎて、押しにとても弱い彼女のパーソナリティを見透かした蓮太が、かなり強引に家に入れてもらい、普通に枕を買ってもらった。夫に叱られるかもと、購入の直後から心配して、ウジウジしている悠梨が気になって、糸に五円玉をぶら下げて左右に揺らすというオールドスクールな催眠術で悠梨を深いトランス状態に導いて彼女の本音を全部引き出した。

 親の口利きで大手の証券会社に入社したお嬢様の悠梨は、ヤリ手の部長に見初められて、強引なプロポーズを断りきれずに結婚した。バツ1の夫と住むことになった家は、夫が最初の結婚の時に建てたままの家。なかなか社交的だった最初の奥さんに同情的な近所からは、悠梨は白い目でみられているようだった。

 高圧的な夫の世話も、近所からの有形無形の意地悪な対応も、自分が妻として至らないからだと、全部溜め込んでいる悠梨は頭痛と便秘に悩んでいた。可愛い悠梨と一通りのセックスを楽しんだ蓮太は、御礼に彼女のストレスのはけ口を(強引に、一方的にではあるが)作ってあげて、運動不足解消もかねて時々大暴れをさせてあげている。財政的には随分と余裕のある家庭みたいだし、お金で買い直せるものだったら、ぶっ壊してスッとすればいいと思う。もともと本人も綺麗好きで片付け上手だから、後始末もテキパキ出来る。踊りまわって暴れまくると多少の擦り傷、打ち身なんかは出来るみたいだけれど、スポーツに熱中するのと、あまり違いはないと思っている。それに、いつもは大人しい悠梨さんがパンクな大暴れをするのは、写真で見ていても可愛らしいし・・・。蓮太はよくよく考えると、最後の理由が一番大きいことに気がついた。


。。。



「はっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・ど、・・・どうしようっ・・・・ふぅっ・・・」

 裸のまま、汗だくで床にへたりこんでいる楠木悠梨。呼吸を整えるのに時間がかかっている。目の前には、朝キチンと掃除をしたのに、竜巻が通過した後のように、とっちらかってしまったリビング。CDの最後まで踊りきった悠梨は、腰がたたないくらいヘトヘトになっていた。

「お・・・かた・・づけしないと・・・、主人が・・・、は、・・・・はぁぁ〜。」

 すぐに行動を起こそうとするが、腰が抜けているのでゴロンと床にダウンした。寝返りを打って仰向けになり、大の字に寝て、荒い呼吸を整える。

(ひ・・・・ひどいことに・・・なっちゃったけど・・・でも・・。気持ちよかったぁ〜ぁぁ・・・)

 半年ほど前に購入したお気に入りの枕がここにあれば、すぐに頭を載せたいところだ。しかし起き上がるのも大変なほど疲れ切っているので、このまま一眠りしようかと思う。・・・ふと、サイドボードに置いた携帯が着信を知らせているのに気がついて、そこまで這っていく。本当なら枕も取りに帰れないくらい疲労困憊の体だが、携帯にはすぐ応えなければ。夫や・・・大切な人を待たせるわけにはいかない・・・。悠梨は這ってまでして手に取った携帯のメール着信を、本文がよく頭に入らないうちにも返信してしまう。

(どなたからだったかしら?)

 よくわからないまま、『かしこまりました。すぐ撮ってお送りします。』とだけ打ち込むと、元のメールを消去してしまった。

 誰とやり取りしているのかも良くわからないのに、自分の送信履歴も消してしまうと、そんなことは気にならなくなった。それどころではない、悠梨は今、「すっきりしたら御礼に、エッチな写真を送る」ということに集中しなければならないのだ。どうしていいのかわからないが、都合の良いことに今ちょうど裸なので、もう一度床に寝転がって、両足の裏を耳元まで近づけて、「まんぐり返し」のポーズになってみる。1枚目は恥ずかしさに耐え切れず、つい紅潮した顔をカメラから少しそむけて、目をギュッと閉じてしまったので、もう1枚撮ることにする。今度はカメラに(少し困り顔は残ったものの)微笑むことが出来たし、女性の恥ずかしい部分も、お尻の穴までも顔の真下に大きく写っている。安心して2枚の写真を送信した。送信履歴を消すと、自分が今したことまで消去されたような気がして、もう何も気にならなくなる。

 どうせ今日も主人の帰りは遅い。悠梨は片付けよりもカーテンの新調よりも服を着ることよりも前に、生まれ変わったようなこの爽やかな気分のままで、一眠りすることにした。


。。。



『蓮太です。ヒトミさんは今、何してるの? お仕置きは回避できそう?』

 メールを開いた瞬間、ヒトミは悪い予感がした。この送信者の名前を良く覚えているようで、なぜか思い出せないが、ヒトミにこれから何が起こるかは想像出来る気がした。

『お仕置き、発動します。』

 それだけ打つと、須藤ヒトミはショッピングモールから出るべく足を早めた。誰だったのか、いまいち思い出せない。それでも彼が言った言葉はヒトミの心の奥底に刻み込まれているのがわかる。どうしてさっきレジに行く前に思い出せなかったんだろう。

<ヒトミさんは、いくら優しい旦那さんに恵まれたからって、旦那さんの収入に見合わない買い物趣味は止めた方がいいよ。受付嬢とかやってきて、美人だからチヤホヤされてきたのはわかるけど、ちゃんと身の丈にあった生活で旦那さんを支えられるように、僕が買い物中毒治すのを手伝ってあげる。貴方が今後、罪悪感感じるような無駄遣いをしたら、僕のメールを合図にして、お仕置きが始まるようにするからね・・・>

 バッグの新調は仕方がない。後輩の結婚式に、何度も同じバッグを持っていくわけにはいかなかったし、旦那もわかってくれると思う。けれどその新しいバッグとよく合う靴までは・・・。お仕置き対象。パーティ用の靴一式、6万2千円。カード2回払い。お仕置きは2倍だから・・・、12万4千円。こっちは自分のヘソクリから12万4千円。須藤ヒトミはそんな計算を頭の中でしながら、ブランドの紙袋を2つ持ったまま、街を駆ける。駅裏の、少し怪しげな書店に駆け込むと、そこは書店というよりも、アダルトDVDばかり販売しているようなお店だった。

「あ・・あの、いやらしい、エロビデオ。ヒトミにエロビデオを沢山売ってください!」

 メガネのお爺さん店員がしばらく口を開けて、綺麗ないでたちの奥様を上から下まで見る。

「ビデオって、VHSは中古しかないですよ・・・。新品は全部ディスクですがそれでよければこちらで・・・」

 老人の話が終わらないうちに、ピンクの暖簾で仕切られたコーナーに飛び込んでいくヒトミ。自分で何をやっているのか、全部理解しているので、恥ずかしさでいたたまれない。しかし、『お仕置き』に逆らうわけにはいかない。顔がDVDの背にぶつかるぐらいの至近距離で、一つ一つのアダルトDVDのタイトルを読み上げていく。

「人妻緊縛折檻。・・・看護婦逆診察 白ナース服版。・・・スーケーベー48のヘビーローション・・・・。」

 タイトルを読み上げながら、手当たり次第腕に抱え込んでいく美人妻の様子に、コーナーを物色していた男性たちはおののいた。女性に興味が無ければここにいるはずもないのに、こういうコーナーで女性に合うと、殿方はまごつくのだ。

 両手に抱えて、DVDの山を購入する。最近のセルビデオは安いものも多くて、12万円以上購入しようとすると、相当な量になる。ヒトミはこれを持って町へ出て、帰りのバスの中でパッケージ裏の説明文を音読しなければならない。購入したDVDは全部見て、旦那の見つからない場所に保管しないといけないのだ。すでにヒトミの家の押入れやベッドの下、本棚の裏にはエゲツないDVDがビッシリ収まっていた。このままでは無駄遣いを叱られるどころの話ではない。

(はぁ〜、もう無駄遣いしません。許して〜)

 ヒトミは誰にともなく懇願しながら、紙バック2つにDVDの山を抱えてバス停まで歩くが、ポロポロとDVDが落ちてしまう。そのたびに拾ってくれる親切なサラリーマンや女子高生に、怪訝な顔や嫌悪の表情で見返される。

「す、すみません。ありがとうございます。」

 御礼とお詫びを言いながら受け取ったDVD。「スーケーベー48のヘビーローション」と書かれたパッケージには、何十人もの半裸の女の子たちに踏まれて喜んでいる、ローションまみれの醜いデブ・プロデューサーのあえぎ顔がアップになっていた。ヒトミが変態アダルトDVDを落としたということは、もう隠しようがなかった。その場から逃げようと足を早めると、振動でまた別のディスクを落としてしまう。バス停まで歩くヒトミの前途は多難だった。

(こんなことになるくらいだったら、お買い物したくなるような暇が出来ないように、パートにでも出た方がいいのかな?)

 外面を気にするプライドの高い奥様だったが、こんなお仕置きを受けている時だけは、殊勝なことをあれこれ考えるのだった。


。。。



「ほいっ。小腹すいてたのも、ホットケーキで収まったし、スーパー銭湯でも行って、すっきりしたら居酒屋でも行こっかな? 今日もよく働いた!」

 本当はセックスの疲労だけで、今日はほとんど働いていない蓮太だったが、多少の人助けをしたつもりになっている。仕事上がりのいい気分で、スーパー銭湯に向かった。風呂上り、まだ明るいうちに一杯やる。ポテトサラダとチャンジャでも摘んでいるあいだに、ワカサギのフライが出てきたら、ビールから日本酒に変えようか・・・。そんな親父臭い作戦をあれこれ吟味しながら、蓮太は一日の疲れを癒しに行く。「無事、家に帰るまでが遠足」というのが蓮太の口癖だが、今日も家に帰るまで、随分と道草をくうことになりそうだった。


。。。



「えっ? いえっ・・・アハハ、そのっ、冗談です。ごめんなさいっ。」

 赤い顔をして、広幡早紀が店を飛び出す。店員の少しだけ引いたような視線を思い出すと、身が縮む思いだった。インナーウェアをチェックしたくて、下着のお店に来たはいいのだが、いまひとつ、早紀の趣味に合わなかった。

 いや、前までの早紀の趣味とはピッタシあっていたはずのお店なのだ。付け心地が良くて、清潔感があって、女らしさも忘れていない、良い品揃えだと思っていた。でも今日見てみると、いまひとつ退屈だ。ゾクゾクするような、女の魅力を際立たせる・・・なんというか、魔力のようなものを感じられないランジェリーなんて、つまらないと思ったのだった。

「刺繍はこの感じでいいんですけど、もうちょっとあの、生地とか薄くていいので、透けてる感じで、その、サイズ小さいものはありませんか・・・その、それこそ・・パッツンパッツンみたいな・・・。」

 応対してくれた店員が優しい人だったので、思わずストレートに要望を言ってしまい、途中から気がついた早紀が、店員を見たら、相手はドン引きしているようだった。

「そういった商品ですと、ちょっ・・・・とうちでは、取り扱いしておりません・・・です。こちらでも、その、けっこう攻めたデザインだと思うんですけど・・・。」

 申し上げにくそうにいう店員を尻目に、空笑いして逃げてきた早紀は、肩を落として溜息をついた。

(なんか、三日ぐらい前から、調子狂っちゃうことが多いのよね・・・。しっかりしなきゃ・・。)

 昨日の朝食時は、パンかご飯かで少し夫と揉めてしまった。トーストを準備していた早紀だったのに、急にお米を炊くからご飯にしようなんて言い出したのがいけなかったのだ。朝の忙しい時間に、途中まで作った朝食をやり直すなんて、おかしな話だ。夫の雄斗は「トーストを捨てちゃうなんてもったいない。」と怒っていたので、早紀は素直に謝った。どういうわけかあの朝は、マーマレードのジャムをトーストに塗って食べるのが抵抗あったのだ。実のところ、あのジャムの瓶が食卓に置かれているだけでも違和感があった。

 すぐに仲直りをして夫を送り出した早紀だったが、不思議な違和感は残っていたので結局自分はご飯を食べた。今朝にはそんな違和感もなくなっており、2人仲良くトーストを食べたのだが、果たして一昨日、なにか思い出せないようなことでもあったのだろうか?

(なんっか、ひっかかるんだけど・・・思い出せないよ・・・。しょうがない。お店でなかなか見つからないんだったら、家に帰って、インターネットで探してみようかな?)

 広幡早紀はあきらめて家路を急ぐ。きっとネットで探せば、膨大なラインナップを、店員の目を気にせずに眺めることが出来るだろう。頭の中に、理想のセクシーランジェリーが沢山浮かんできて、早紀の足取りはずいぶん軽くなったのだった。

 
 


 

 

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