友達以上、兄弟未満


 

 

『バカップル』万歳!



「つまんない。つま〜んない。つま〜んな〜い」
 さっきから、ダダっ子のように独り言を繰り返しているのは、私の大切なオモチャ・・・じゃなくって、大切な親友の「宮咲 茜(みやさき あかね)」ちゃん。
「茜チン、お勉強しなきゃダメだよぉ。高校落ちちゃったら、御子くんと一生離れ離れだよぉ」
 間延びした話し方をするのは、こっちも大切な愛玩動物・・・じゃなくって、大切な親友の「井上 霞(いのうえ かすみ)」ちゃん。天下ご免の天然少女。言ってる事は正しいけど、一生離れ離れになるってのはオーバーだよ。
「だってぇ、せっかくの夏休みなのに、今年、ほとんど遊んでないよ。お受験も良いけど遊びたかったぁ」
 しつこく、ごねる茜ちゃん。でも、茜ちゃんが遊びたい相手って言うのは・・・。
「仕方ないでしょ。御子くんバイトなんだから」
 そう、茜が遊びたいって言うのか、一緒に居たいのは私たち「友達」じゃなくて、「恋人の御子神君」だけ!

 今日は、夏休み残すところ一週間と押し迫った金曜日。茜の恋人「御子神 晃(みこがみ こう)」君・・・私と霞ちゃんは御子くんと呼んでる・・・の家。
 でも、御子くんはお留守。夏休みを利用して、親戚のコンビニへお手伝いと言う名目でアルバイトに行っている。
 御子神家には茜は出入り自由。だから、私たちも一緒にお邪魔して受験勉強しているわけ。夏休みの宿題なんて、とっくに終わってる。目指すは、高校受験のみ。御子くんが茜と同じく地元の「白馬(しらうま)高校」目指してると聞いて、私と霞ちゃんも志望校を白馬高校に変えたの。だって、この二人見てるだけで飽きないんだもん。

「晃、受験生なんだから、バイトなんかしなくて良いのに・・・」
 茜は、まだ、ぶつぶつ文句を言ってる。御子くんと付き合い出してから、茜は甘えん坊になったと言うのか、年齢退行したと言うのか・・・。もしかしたら、退行催眠かけて解いてないんじゃない?
 御子くんが居ない時は、ダダっ子になることも多くなった。まあ、私たちの前だけらしいけど。
「でもぉ、御子くんすごーい。受験勉強しなくてもぉ、合格間違いなしなんだぁ?」
「えへへ、晃、一年の時から勉強頑張ってたから・・・」
 霞ちゃん、それを言っちゃあいけないのよ。ほら、茜のお惚気モードがオンになった。こうなったら、誰かが止めるまでしゃべり続けるよ。
 茜曰く、御子くんは、ぜーーったい茜と同じ学校に通いたいから、茜がどんなトコ希望しても付いていけるよう・・・(小学生の時は、茜の方が勉強上だったらしい)・・・に、一生懸命勉強してたんだって。はいはい。ご馳走さま。

 でもお惚気を別にしても、御子くんはホントに凄いと思う。茜ちゃん一途ってのが全身からオーラになって溢れ出てる。茜も「御子くん命」だから、日本一の『バカップル』なんだけど。

・・・あれから、2年半かぁ・・・。


★★★★★★★★★★★★



「トッコぉ、あれ見てぇ、あの二人兄弟なのぉ?」
 中学に上がって初めてのお弁当の時間。小学校から親友、霞ちゃんの指差す方を見て驚いた。一人の女子が、皆の前で男子にお弁当を手渡してる。私たちだけじゃなく、教室にいる大部分の生徒が「興味津々」と言う具合に見守っている。
「えっと、宮咲さんと御子神君だったけ?」
 私たちの中学校の校区には、三つの小学校がある。あの二人と私たちは小学校での校区が違ったので、中学で初めて出会ったクラスメート。
 苗字が違うから、兄弟である可能性はかなり低い。両親が離婚してるから別姓で、四月と早生まれの三月の兄弟と言う可能性も、すっごく低いけどあり得る・・・のかな?
 ともかく、この二人を冷やかすような輩(やから)が居れば、「厳重注意」するつもりで回りを見渡した。私は学級委員長になってるから、クラス内でいじめなんかさせないつもりなの。

・・・あれ? 誰も冷やかさない。

「ねぇねぇ、あの二人、どう言う関係?」
 そばにいるあの二人と同じ小学校だった(と思う)女子に、聞いてみた。
「あの二人ね。夫婦なの・・・」
 おい。もし親しい友達なら、空手チョップをプレゼントしていたところよ。
「冗談よ。なんかね、家がお隣の従兄弟らしいよ。御子神君のお母さん居ないから、宮咲さんのお母さんがお弁当作ってあげてるんじゃないかな」
「ふーん。ありがと」
 見れば教室のそこかしこで、同じように納得している顔が見える。なぜ御子神君のお母さんが居ないのか、少し気になるけど、新しいクラスメートもお母さんが居ないと言う事で、からかったり冷やかしたりするのを控えているみたい。良いクラスメートばかりで、委員長として、とっても嬉しいぞ。
 横を見るとお弁当を広げながら、「そっか夫婦かぁ、良いなぁ」と一人納得している霞ちゃんがいる。おいおい。

「霞ちゃん、あの子と一緒に食べようよ」
「うん、良いよぉ。花嫁さんとお友達だぁ」
 宮咲さんは御子神君と一緒に食べるのかと思っていたのに、お弁当を手渡すと自分の席に戻ってしまっていた。たまたまだと思うけど回りの女子は他の席に移って、既にお弁当を広げている。一人でお弁当を食べても美味しくないだろうから、私は一緒に食べる事に決めた。もちろん、霞ちゃんも一緒に。

「えっと、宮咲さんだっけ、一緒に食べて良い?」
「うん、どうぞ。えーっと・・・委員長・・・」
 名前を覚えてくれてないみたい。ちょっとショックぅ。委員長してるんだから覚えていて欲しかったなぁ。
「佐伯 塔子(さえき とうこ)。それで、こっちは井上 霞ちゃん」
「宮咲 茜です。名前覚えてなくてごめんなさい」
 宮咲さんは、素直に頭を下げる。
「いいよ、別に・・・。でさぁ、ちょっと聞きたいんだけど、御子神君とは従兄弟なの?」
「んー、ホントはお父さん同士が従兄弟なの。でも、家が隣同士だから、兄弟みたいなものなの」
 たぶん、今まで何回も聞かれたんだろうけど、別に嫌な顔もせず答えてくれた。
 私のルールブックには、私以外の人が根掘り葉掘りプライバシーを聞くのは許せないけど、私が聞く分には問題ないのよ。

「あっ、宮咲さんのお弁当美味しそう。お母さんが作ってるの?」
「へっへー、わ・た・し」
 うっそー。だって、うちのお母さんより絶対美味しそうだよ。彩りも良いし、どっかのシェフが作ったみたいよ。霞ちゃんも私と同じ意見みたいで、目を白黒させてる。
「小学四年生の時から、お兄ちゃんのお弁当作ってたし、お母さんとお姉ちゃんの二人から料理教わってるの」
「お兄さんとお姉さん居るの?」
 今時珍しい、三人兄弟?
「ううん、お姉ちゃんって呼んでるけど、お兄ちゃんの彼女。見掛け不良みたいだけど、優しいし、料理の腕も凄いの。お姉ちゃんたち、すっごいラブラブで、お兄ちゃんのお弁当、今日から、お姉ちゃんが毎日作る事になってるの」
「・・・へー・・・」
 って、驚いてる振りしてるけど、彼氏のお弁当作ってるのお姉さんだけじゃなくて、あなたもでしょ・・・。
 もし、ただの親戚だけの関係なら、お弁当を教室で渡さなくても、家出るときに渡してれば良いじゃない。教室で渡すってことは、彼氏彼女の関係でしょ。たぶん。

「タコさん、欲しい」
「えっ・・・良いよ。はい」
 すっかり影の薄かった霞ちゃんが口を開いたかと言えば、おかずの無心だ。ご丁寧に、先割れスプーンを口に咥えた「甘えっ子ポーズ」。さすがは天然少女。しかも、タコさんと言うのは、子供の憧れ「タコさんウインナー」。
「ありがと。トッコ、見てみてぇ、タコさん鉢巻きしてるよ、鉢巻きぃ」
「わっ、ホントだ。これって、海苔巻いてるの?」
 鉢巻きだけじゃないよ。目と口も小さな切りこみ入れて微妙に顔になってる。足も見事に反り返ってるし、すごく手間かけてるよ。
「うん。晃、こんなの好きだから」
「・・・コウ・・・?」
 宮咲さんの顔が、ボッと赤くなった。
「あっ、ごめん。『御子神君』がこんな子供っぽいの好きなの」
 ふーん、兄弟当然に育ったんなら名前で呼び合うの分かるけど、今の反応は・・・やっぱりだよね。

「ね、御子神君とは、ホントに親戚の関係だけなの。それ以上の関係に見えるけど・・・」
「・・・ち、違うよ。こ・・御子神君とは兄弟みたいなもんよ。公園デビューの時からの幼馴染よ・・・」
 また「コウ」って呼びかけたわね。ま、今日のところは、コレくらいで勘弁してあげるよ。
 好きでもない相手に、こんなに手の込んだの作らないよ。絶対。他のオカズだって、手がかかってるし。ホント素直じゃないんだから。
「ふーん。ま、いっか。でも兄弟みたいなもんなら、苗字じゃなくて名前で呼んでてもおかしくないよ」
「・・・うん・・・」
 まだ、顔が赤いけど、落ち着きを取り戻したみたい。ふふ、宮咲さん可愛い。これからずっと『遊んで』あげるね。

 あとで、宮咲さんと同じ小学校だった子たちに聞いたら、あの二人は両思いなんだって。でも、どちらからも決定的な告白がなくて、ずるずる付き合ってるんだって。

 やっぱり『オモチャ』だね。どちらが告るかトトカルチョしとかなくっちゃ。もちろん、胴元は私よ、わ・た・し。


★★★★★★★★★★★★



「でね、こないだの日曜、珍しくジュエリーショップ連れてってくれたから、てっきり指輪くれるんだと思ったら、ただ見るだけだったのよ。失礼しちゃう」
 さっきまで、機嫌良く惚気ていたのに、なんだかご機嫌斜めモードに入っちゃった。
「ひゃー、下着売り場に御子くん入ったのぉ。勇気凛々だねぇ。下着買うって事は、脱がす時の楽しみ考えてたんだねぇ、御子くん」
 下着はランジェリー。ジュエリーは宝石だよ。下着売り場に指輪なんてないでしょ。ほら、後半のセリフ聞いて茜が固まってるよ。それに「勇気凛々」って何よ。ま、確かにランジェリーショップに男の子が入るのは勇気が要るだろうけど。
 茜はハイテンションになって自分から話すときは、すーっごい事までしゃべっちゃうけど、普段は逆に、すっごいウブになちゃうのよね。この落差が面白いんだけど。

「ジュエリーよ、ジュエリー。宝石屋さんよ・・・」
 仕方ないから、助け舟を出してあげた。
「でも、ウインドーショッピングでなんで怒ってるのよ。喜ぶべきじゃない」
「だってぇ・・・、ペアリング、どれが良いか選べって言ったんだよ、予算まで言って。それに店員さんまで呼んでサイズ測るから、てっきり買ってくれると思ったんだもん」
 そりゃ怒るのは仕方ないね。ただ見てるだけならまだしも、サイズまで測って、はい、さよならじゃあ、茜だけでなく店員さんだって怒るわよ。
 バカね、御子くん。サイズ分からないんだったら、私に聞いてくれれば、それとなく調べてあげたのに・・・。好みだって調べてあげたよ。感づかれちゃったら困るの御子くんでしょう。
 茜も茜ね、そう言うことなら、御子くんが何考えてるか察しが付くでしょ。もうニブチン・カップルなんだから。

「それでね、ネックレスとか見てたら、晃、さっさと帰ろうなんて言っちゃうし」
 つくづく、御子くん、その類の裏工作が下手ね。そう言う時は、安物のアクセサリー買って誤魔化せば良かったのに。
「ふーん、でもぉ、いつか買ってくれるよぉ。御子くん、茜チンにベタボレだもんねぇ。茜チン以外にプレゼントする御子くんなんて想像できないよォ。全校生徒の憧れの的だよォ、茜チンほど旦那さんに愛されてる人いないって」
 よし、今のはナイスフォローだぞ。天然少女よ。茜は照れて真っ赤になって、俯いてしまった。
 でもしつこく「結婚式には呼んでね」「赤ちゃんは何人欲しいの」とか『羞恥責め』攻撃するのは行き過ぎてるぞ。愛すべき天然少女よ。茜ちゃん、顔から火を吹いて倒れそうになってるよ。

「話し変わるけど、御子くんのお母さんの命日、来週だっけ?」
 ホントは覚えてるけど、話題を変えるためトボケテ聞いてみた。御子くんのお母さんの命日は九月一日。一昨年と去年、私たちも始業式の後、一緒にお墓参りしてるから覚えてる。


★★★★★★★★★★★★



「ふーん、御子くんのお母さん、小三の時に亡くなっちゃってたんだ。可哀想」
 茜と御子くんと出会って四ヶ月と少し、夏休みに茜の家に遊びに来ている。もう茜とは親友と呼べるほど親しく付き合っている。
「私もギョウから聞いただけだけど、あの時、晃ちゃんより茜ちゃんの方がわんわん泣いてたらしいよ」
 赤い髪の魔女こと、茜のお兄さんの恋人「御陵 京子(みささぎ きょうこ)」さんが言う。膝の上には、霞ちゃんを抱きかかえている。
 「ギョウ」と言うのは、茜のお兄さん「暁(さとる)」さんのこと。京子さんと暁さんも茜たちほどでないけど、十分バカップルだと思う。
 今は、茜がオヤツを買いに行ってる隙に、京子さんから御子くん家の事情を聞いているところ。京子さんと私は、性格が似てると言うのか妙にウマが合う。茜たちをオモチャと思ってるのも同じ。
「お母さん同士が仲が良くってね、小さな頃からお互いの家で『泊まりっこ』してたんだって。二人にとっては、どっちも本当のお母さん・・・お母さんが二人いるみたいな関係だったんだって」
「可哀想ですぅ」
 霞ちゃんは涙目になって、今にも泣き出しそう。京子さんは霞ちゃんの頭を「イイ子イイ子」して慰めてる。京子さんも、霞ちゃんが出す「年上の女性に効くフェロモン」の中毒患者なのよ。

「でも、間違っちゃダメよ。お母さんが亡くなったのは可哀想だけど、お母さんがいないのは可哀想じゃなくて苦労しているだけなの」
「「?」」
 京子さんの言う事が良く分からない。
「ちょっと難しかったかな。母子家庭とか父子家庭ってね、たまに『可哀想な家庭』って言っちゃうことあるけど間違いなの。母子家庭や父子家庭でも、『幸せな家庭』はたくさんあるの。晃ちゃん家も同じ。私から見てもとっても幸せな家庭と思う・・・」
「「(こくん)」」
 京子さんの言いたい事が分かった気がする。よその母子家庭父子家庭は知らないけれど、少なくても御子くん家はとっても幸せ。この夏休みでも、御子神家主催で海に行ったり、宮咲家主催で山にキャンプしに行ったりしてる。
 春の校外学習・・・遠足の事ね・・・には、御子くんのお父さんが作ったおにぎりを二人が美味しそうに食べてたの覚えている。形はちょっと悪いけど、愛がこもっていたのは傍目から見ても分かった。聞けば小学生の時から遠足や運動会には、必ず御子くんのお父さんが二人におにぎりを作っていてくれて、授業参観にも必ず出席してたらしい。そんじょそこらの家庭より、親子の関係は良いと思う。

「分かってくれたご褒美に、二人だけに取っておきの秘密、教えて・あ・げ・る。絶対誰にも言っちゃダメよ。茜ちゃんや晃ちゃんに知られちゃ絶対ダメ、ギョウにも話しちゃダメだからね・・・耳貸して」
「「・・・」」
 ここには三人しかいないから、誰にも聞かれる心配はない。だけど、秘密の内緒話は小声でしゃべるのが鉄則なのよね。
「・・・(ごしょごしょ)・・・」
「「えぇーー!!」」
「・・・(ごしょごしょ)・・・」
「「ひゃーー!!」」
「いい、絶対、秘密は守る事! もししゃべったら、どうなるか分かってるわね。しゃべっても良いけど、腕の一本や二本骨折するつもりでいてね」
「「(こくこく)」」
 にっこり微笑む赤い髪の魔女。京子さんが合気道の段持ちで空手も得意なのは知ってる。
 話しの内容から、しゃべったらホントに折檻(せっかん)されるのも分かる。骨折と言うのは冗談だとしても。
 もちろん、折檻されると聞かされれなくても、秘密を漏らすつもりはない。こんな重要な秘密は誰にも言えない。

「それでね、二人にお願いなんだけど、もし茜ちゃん達に・・・『何か』・・・あったら全部教えてね」
 そう言って、京子さんのケータイ番号と、メールアドレスを教えてもらった。


★★★★★★★★★★★★



「うん、九月一日だけど、今年、七回忌だから明後日、日曜日に法要するの」
「七回忌って、あれ? 今年で「丸六年」じゃなかった?」
 法要とかは曜日に合わせて、少し前倒しで執り行うのは私も知っている。お葬式の日、お骨上げの後、一緒に初七日の法要を済ませる家庭だって多いらしい。でも、丸六年なのに、七回目の法要をするの?
「あ、七回忌って言うのは、丸七年、満七年じゃなくって数えで七年、七年目になる時にするの。だから、満六年で七回忌で、満二年のときは三回忌なの。満一年の時だけ一周忌って呼ぶの」
「へぇ知らなかった」
「私もぉ。一つ賢くなっちったぁ」
 まあ、十代でそんな習慣知ってる方が珍しいわよね。
 ついでに、四十九日の法要が三ヶ月にまたがるとき三十五日とかで切り上げるのは、「三月(みつき)」=「身に付く」と語路合せで嫌っているだけだって。別に縁起が悪いとか宗教的な理由があるんじゃないよって教えてくれた。「友引」の日の葬式だって同じ。友引には「お友達を引っ張っていく」ような宗教的な意味付けはないんだって。単なる語路合せ。日本人って語路合せで縁起がどうのって言う人多いのよねぇ。

「明後日だったら、お墓のお掃除はもうしたの?」
「うん、明日行くの。なんか、晃が今年は二人だけで行きたいって」
 ぴーん。御子くんが何を企んでるか、想像ついちゃった。お掃除は毎年、法要の何日か前におじさん達と行くのに、今年に限って二人だけってのは怪しいわよ。

・・・トッコちゃんアンテナが反応してる。『絶対見に行くべし警報』発令よ!!

「二人だけじゃ大変でしょ。私たちもついて行ってあげる。私たちもお掃除手伝ってあげる。ううん、手伝わせて!」
「えっ、良いよォ。二人でやっても十分もかからないから」
 ダメよ、ダメダメ、絶対『見に』行くんだから。京子さんとの約束だってあるのよ。こんな面白い・・・じゃなかった、素晴らしいこと見逃すなんてできないわよ。


★★★★★★★★★★★★



「えーっと、どうして佐伯さんと霞ちゃんがいるのかな?」
 ちょっと不満顔というより、戸惑っている、迷っているというのが正しいかな。お墓に供えるお花を持ってきた御子くん。私の感が正しければ、ポケットには隠し持っている『物』があるはず。
「えー、去年も一昨年も一緒だったじゃない。今年に限って、仲間外れにしないでよ。お掃除も二人でするより、四人でする方が早くきれいにできるでしょ」
 正確には、去年一昨年は法要の前のお掃除じゃなくて、命日のお参りだったんだけどね。
 御子くんの返事を待たず茜を拉致するように腕を組み、さっさと霊園の方に歩き出す。後ろで御子くんのため息が聞こえた気がするけど、こっちも無視する。

「あれ、晃、あんまり汚れてないよ」
「・・・そだね・・・」
 御子くんから預かったお花を手にして茜がまず気付いた。それに手桶に水を汲んできた、御子くんが答える。
 この霊園、自然が豊かだから、小鳥達が多いのよね。だから、お盆にお参りしても半月経つとどうしても汚れちゃう事が多いらしいの。だから清めるのに、何度も手桶の水を汲みに行かなきゃいけないの。
 でも御子神家のお墓はつい昨日、清めたようにきれいにされてる。今朝、清めたのかもね。お墓の回りの草もきれいに抜き取られている。隣近所のお墓も心なしかお掃除されているような感じもする。

「あっと言う間に終わっちゃったね」
「・・・うん・・・」
 手桶の水は、最初の一杯だけでお清めは終わった。花をお供えして、お線香をあげて・・・いよいよかな?
 茜ちゃんはちょっと仕事が少なかったのが不満そう。元々働き者だから、働き足らないと不満になるみたい。御子くんは、落ち着きなくこちらをちらちら見ている。
「私たち、桶返してくるね。行こ、霞ちゃん」
「うん!」
 霞ちゃんと一緒に手桶を返しに行く・・・・・・・・・振りをする。

「霞ちゃんは、ここからね。私、あっちから撮るから」
 少し行ったところで手桶を置いて、私は走り出した。霞ちゃんは、木の影から最新式のビデオカメラ(望遠機能付き)を構える。手振れしないように三脚まで用意してるし、望遠付きのデジカメまで持ってる。天然少女は、カメラマニアだと今日初めて知った。
 私も、御子くんに見付からないようにベストポジションへ急ぐ。昨日の夕方、どこから撮れば良いか下調べはしている。

・・・急がないと始まっちゃうよ。

『・・・あ、茜ちゃん。大事な話しがある』
 耳につけたイヤホンから御子くんの声が聞こえる。聞こえているのはお墓の横に隠してあるワイヤレスマイクが拾った音だ。ワイヤレスマイクと一緒に、MP3レコーダも録音状態で置いてある。気分は「女スパイ潜入」よ!
 始まった! ぎりぎりセーフ。こちらもビデオカメラ(もちろん望遠機能付き)を回しだしたトコ。うまい具合に、どっちのビデオにも二人の姿が撮れてるよ。二人ともカメラの存在知ってるんじゃないのって疑いたくなるほど、ベストな立ち位置。
『なに?』
 茜には、緊迫感はない。『バカップル』なのに、驚くほどニブチンなんだから・・・。
『これにサインして欲しい』
『これって?』
 ちくしょう! その手で来たか。メモに何が書いてあるのか分からんぞ!
 うわ、茜ちゃん、固まったかと思ったら、今度は泣き出しそうだよ。そこまで感動的な物なの? わたしゃてっきり指輪を渡して抱き合うだけだって思ってたよ。
『お父さんたちのサインは貰ってるんだ。あと、茜ちゃんのサインさえあれば・・・』
『・・・』
 サインって何? 親にも貰ってるって? お付き合い証明書? でも、もう両家とも公認なんだよね?

『見たことないよね。本物の婚姻届・・・。出せるのはまだまだ先だけど、正式に婚約して欲しい』
『・・・』
 プ、プ、プ、プ、プロポーズ!
『返事、聞かせて欲しい』
『・・・(ごしょごしょ)・・・』
 き、聞こえないよ〜。ちゃんとマイクに向かってしゃべってよ!
『えっ?』
 御子くんにも聞こえなかったらしい。不安な顔で、茜を見詰めている。
『・・・ば、ばか〜!・・・』
 茜ちゃんが突然叫んだ。あやうく、こっちがこけそうになったわよ。何で怒るの? こう言うときは泣いて御子くんの胸に飛び込むのがセオリーでしょ。
『ばか、ばか・・・こんなだったら、もっと着飾ってきたのに・・・お掃除だから、こんな服、着てたのに・・・ばか・・・』
 呟くように「ばか、ばか」と繰り替えす茜ちゃん。ダダっ子モード全開!
『ダメ? サインくれない?』
『ばか、何度だって書くわよ。ペン頂戴、ペン!』
 いや婚姻届なんて、何度も書く事のほうが少ないけど・・・。御子くんから文字通り婚姻届とペンを奪い取って、サインしてる。少し躊躇してお墓の上で書いてる。御子くんもきちんと下敷きを持ってきてるのは、拒否される可能性なんて考えてない証拠。
『はい。印鑑は家に帰ってから』
『あと、これ、小遣い足さずにバイト代だけで買ったから安物だけど・・・』
『これ、あの時の・・・』
『うん』
 望遠の映像見なくても分かる。先週、二人で選んだ『ペアリング』・・・ううん、『婚約指輪』と言うべきかな。
 小遣い足さずにって事は、自分の稼いだお金で幸せにしたいって言う男の子のプライドだろね。きっと。


★★★★★★★★★★★★



「こ、こんにちは」
「(ぺこり)」
 ここは、霊園の入り口近くの水汲み場。お墓参りにきた見ず知らずのご一家さまが、見てはならない物を見た顔で固まっている。叫び声をあげなかっただけでも、このご一家さまは肝(きも)が座っていると思う。
 私が代表して、この幸運なご一家さまに挨拶したわけ。挨拶でもしないと、このご一家さまは永遠に固まったままだと思う。

 茜が毎日、御子くんから受けている羞恥責め・・・『お座りタイム』・・・の心境が少しだけ分かった。
 私が真っ赤な顔で歩いている後ろには「お姫さまダッコ」をした『バカップル』が、この世の幸せ全部を独り占めしたような顔で正々堂々と歩いている。怪我をして仕方なくダッコしているようには絶対に見えない。
 私の横には、いつもの平和な顔で霞ちゃんが歩いている。この子の天然振りが羨ましい。

「もう霊園出るから、茜ちゃん、自分で歩いたら?」
「やっ、まだ足が震えて歩けないの」
 羞恥責めに絶え切れず、茜にお願いをしたけど許してもらえなかった。ダダっ子モード継続中。
「でも、御子くんも重いでしょ?」
「ううん、ダッコし慣れてるから平気だよ」
 御子くんも許してくれない。ダッコし慣れているってのも、気になるけど。
 あんた達、いつ、どこでお姫さまダッコなんてしてるのよ。想像できちゃうから、余計に恥かしくなるじゃない!
「あの〜、私が恥ずかしいんだけど・・・」
「ううん、私たち恥ずかしくないし。ね、晃」
「うん」
 なんか、そのままキスでもしそうな雰囲気・・・。

・・・こ、この『バカップル』・・・!

 指輪を交換して長い長〜いキスの後。祝福しに私たちが戻ると、ダダっ子モードの茜が、足が震えて歩けないと言い出し、御子くんがお姫さまダッコをしたの。
 そして、私たちがビデオを回していたのを知った二人が、お姫さまダッコの二人の前を歩くと言う『露払い』を命じた。


★★★★★★★★★★★★



「・・・お、赤飯、お、赤飯・・・」
 妙な歌を歌いながら、私の横をスキップするように歩くのは、天然少女の霞ちゃん。『バカップル』は、霊園を出たところでお姫さまダッコはやめてくれたけど、茜は御子くんにべったりくっ付いてる。
 私はこの二人と、もう一人とも、離れて歩きたいんだけど、この後、宮咲家で婚約披露の前祝に招かれてしまった。
 茜たちのキスが終わるのを見計らうように、赤い髪の魔女、京子さんからケータイに着信があった。その音でビデオ回してるのがばれたんだけど。
 京子さんから事の顛末聞かれて見た通りのことを話すと、そのまま二人を連れて帰って来るように言われた。宮咲家も御子神家もお赤飯とかお祝いの準備できあがっているそうで、私と霞ちゃんの分も用意しているから、そのまま出席して欲しいと。
 明日は法要の後で、親戚一同の前で正式に、婚約のお披露目をするらしい。
 茜が婚約を断ったら、お赤飯とかをどうするつもりだったのか、万一、結婚する前に二人が別れたらどうするのか、聞いてみたい気がする。そんな状況、想像できないけど。

 二年前、京子さんから聞かされた秘密とは・・・、茜と御子くんは、お母さん同士の話し合いで、生まれてすぐに「許婚(いいなずけ)」になってる事だった。二人には秘密だったけど。
 二人が同い年なのも、お母さん同士が計画出産した成果らしい。
 御子くんのお母さんが亡くなられてからは、茜のお母さんが、御子くんの食事の世話を茜に押し付けたり・・・本人も望んでいた事だけど・・・いろいろ裏工作してたらしい。
 暁さんのお弁当作る名目で、小学生の時から料理仕込んだのも計画のうちだったらしい。
 一番怖かったのは・・・小さい頃、絵本を読んで聞かせる時には、主人公の名前を「晃ちゃん」「茜ちゃん」と代えていた・・・もちろん恋物語中心に・・・とか。友達数人でオママゴトする時には、絶対二人を夫婦役にしてたとか。
 これって、もしかしたらマインドコントロールじゃないの? 今回の事で、一番喜んでいるのは、茜のお母さんかも・・・。

 でもね、茜。今日受けた『羞恥責め』は、すぐにお返しするわよ。今日撮ったビデオは、みんなの目の前で公開してやる。

 私のルールブックには、『受けた恩は、その日に返せ。倍返ししろ』って書かれてるのよ!

・・・羞恥責めには、羞恥責めで倍返しよ!

 
 


 

 

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