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第2章の16


※以降、大変申し訳無いのですが諸事情によりHシーンを割愛した状態で掲載して頂いております。
 完成し次第、修正稿を掲載させて頂く予定です。





「せっか、指輪を渡してくれ」
「―――え?」
「さっき、夜鷹から呼ばれたんだ。必要になるかもしれない」
「あ、うん」

 素直に納得し、雪花は指輪を差し出す。

「―――さんきゅ」
「え?」
「どうした?」
「うぅん、なんでも」

 そう言うと俺は雪花の部屋をでて、廊下に出ると後ろから声をかけられた。

「あ、お兄ちゃん―――」
「なんだ?」
「なんで?」
「―――?」

 意味がわからない。

「なんでさんきゅって―――」
「? 何か変だったか?」
「だって、指輪を手に入れてからそんなことなかったのに」
「俺が言うのはそんなにヘンか?」
「だってお兄ちゃんが何でもないことにお礼を言うのって何かを隠している時―――」
「―――…」

 驚いた。 そうだったのか。
 きっと雪花にこれを言うのは指で数えられるほどしかないの言うのに。
 そう言って何か自分でも気付いたらしい、不安げな瞳が俺を捉える。

「お兄ちゃん、まさか―――」

 …その推測は当たってる。
 だから俺は雪花を抱きしめ―――指輪を、ダンタリオンの力を妹に使った。






「ひぃ、はぁ、ふぅ」
「あれ、ジュージ、どうしたん?」

 久しぶりに神社の階段を昇りきってバテていた俺に千鳥の心配そうな声が耳に入ってきた。
 境内でも掃除していたんだろう。久しぶりに巫女服姿だった。

「…っ、はぁっ、はぁっ、よくこんな階段を毎日上り下りしてたな、オマエ…」
「慣れればたいしたことないわよ。
 それにアタシも最近昇降してなかったもんだから、ほら、筋肉痛」

 そう言って袴をまくってあられもなく美脚を俺に見せてくる。

「足、色っぽい?」
「阿呆、そんなコト言ってないでもうちょっと巫女らしくしろ」
「はぁい」

 不承不承、分かりましたと言わんばかりに社務所に戻ろうとする千鳥に俺は後ろから声をかけた。

「あ、ちどり」
「…なに? もしかして欲情した? お相手してくれるとか?」
「ホントに巫女かオマエ…そんな元気、今の俺には、ない」

 そもそも境内でそんなことしてたらシャレにならない御仁が出てくる。
 場合によってはそのまま神前婚させられかねない。

「そんなことより、指輪貸してくれ、ちょっと試してみたいことがあるんだ」
「必要って、戦いが―――?」
「違う、違う。戦いは2日後、それが白鷺との協約だ。
 そもそも、お前の指輪より強い指輪を持ってるんだ。ただの実験だよ、実験」
「そっか、それもそうよね…
 それじゃ実験が終わったら結果教えてね、アタシもご・しゅ・じ・ん・さ・まのお役に立ちたいし」
「あぁ」

 そう言ってお守りの中に入った指輪を渡してきた千鳥の影に指輪の力を開放し―――思考にブランクを作り、ぼぅっとしたその隙に肉体能力向上を使ってそのまま階段を飛び降りた。






「おはようございます」
「よ。いつも通り早いな、オマエは」
「そんなことないです」

 2人だけの教室の中、澄み切った空気はそれ以外を必要としていないかのように2人を受け入れていた。
 みなぎは一緒じゃない。
 さっき連絡を入れたら実家の方にひかりの用事を請け負って行ったらしい。

「カラス君?」
「ん、あ、あぁ」

 なにを言ったらいいものやら。
 そもそも、ひかりには指輪は預けていない。

「…別に。言いたくないことを言う必要なんてありませんよ」
「―――何も聞かないのか?」
「聞いて、欲しいんですか?」

 真逆、察しがよくて助かる。
 俺は苦笑して

「いや、聞かないでくれた方が助かる」

 そんな俺の言葉に

「どうせ聞いても本当のことなんて話してくれないじゃありませんか」

 そう言って不満そうに口を尖らせる。

「分かってるじゃねぇか」

 だけど、それは当たり前だということも分っていた。

「どうか―――」
「ん」
「どうかご無事で―――んっ」
「ぷぁっ…あぁ」

 唇を離しながらそう言うと学園は少しずつ日々の喧騒を取り戻していった―――






 図書館も閉めて佐乃のいる武道場に行こうとした矢先、いきなり千歳に出くわして生徒指導室に連れ込まれた。

「どうしたんだ、ちとせ」
「ご主人さま…」

 小さい身体が俺に飛び込んできた。

「お―――おい」
「どこにも行かないでっ!」
「…なんのことだ?」
「どこにも行かないでくれるって約束してくれるまでは指輪は返しませんっ!」
「!オマエ―――」

 素早くダンタリオンで読んだ。

「わたしはみんな程、聞き分けよくありません!」
「ちとせ―――」
「約束してください!」

 気付くと腕の中の小さい身体が震えていた。
 俺は千歳の望む言葉を口に出すことなく、命令した。

「ちとせ、指輪をよこせ」
「…約束してくれるまで、嫌です!」
「ちとせ」

 俺は素早く千歳を抱きかかえると口付けをし、喘ぐその身体を捕らえ、その指から指輪を抜いた。

「ふぅっはっんんぅはぁっ!」

 思わず息をするのを忘れていたのだろう。口を放すと大きく呼吸する。

「それじゃあ、な」
「あ、ご主人様…」

 約束はできない。
 ただ努力するしかないから。

「ご主人様」
「立場をわきまえろ」
「だって!だって!」

 守れない約束はしない。
 そのまま泣き崩れる千歳を残して俺は部屋から出て行った。






 剣道場に行くと佐乃がいた。
 ここまで来るのに言い訳をするのに疲れたこともあってか俺はストレートに要求を口にした。

「佐乃、指輪を渡してくれ」
「はっ」

 そう元気よく答えると佐乃は俺に指輪を差し出した。
 普段は堅苦しいと思う従順さもこんな時は助かる。

「さんきゅ」
「あ……っ」
「なんだ?
 まさかオマエまでオレが礼を言うのが珍しいだなんて言うんじゃないだろうな?」
「あ、は―――それもありますが、今後、どの様なことがあろうとも姫様達は私ができる限り守ります故、安心してご出陣くださいませ」
「お前……」
「もしよろしければですが…こちらをお持ちください」

 そう言って佐乃が渡してきたのは先日、雁屋戦で木刀の代わりに代用していた日本刀だった。

「おいおい、これは―――」

 大事なヒトの形見だろう、

「私は、遼燕寺 佐乃はいつまでもお館様にお仕えいたします」

 笑顔で、どこまでも真っ直ぐな笑顔で、これ以上、何か言葉にしてしまえば泣き出してしまうんじゃないかと思うほど危惧するほどの笑顔で俺を送り出そうとする。
 俺はそれに何も言わず、差し出された真剣を受け取り、道場を後にした。






「―――千歳にオレのことを教えたのはオマエだな?」
「―――…あはー、バレちゃってましたか」

 と、武道場との連絡通路、その柱の影から姿を現したのはくいなだった。
 なんで、かは聞かない。自分の望み通りに千歳を動かしたのだから、そういうことなのだろう。

「じゃあ、わかってるな?」
「…はいっ」

 そう言ってポケットから指輪を取り出し、一度薬指に通してから抜いて俺に渡してくる。

「…10年前」

―――また、それか。

 止めさせようと声を荒げようとする、が、目の前のそれ、は今までのつきあいの中で初めて見るほどに穏やかで、真摯な瞳で。


「ご主人様を初めて見たときから―――好きでした」


「……え?」

 思わず間抜けな声が出る。

 相良くいなは俺が好みだった。
 俺はそれがこの学園で出会ってからのことだと思っていた。

 それ以前、俺は相良くいな、という少女に会った記憶はない。
 学園が創設されたのは大神隠しの一年後の9年前、それはこの地の誰もが知っている。

―――いや、なにより10年前の関係者だと知っていたのも。

 そこで思考を切る。
 あの時、俺の知己に相良くいなはいなかった。それで十分。
 そう結論付けるとあの頃のあやふやなで拒絶しかできない記憶を触れるのを止める。

 …くいな、オマエにとっては綺麗な思い出かもしれないが俺にとっては刹那も触れたくない記憶だと、
 俺は苛つきながら指輪の力を使い、その場を後にした。






「あら、御主人様、お早いお帰りですね。それにそれ、佐乃さんの…」

 マンションに戻るとエプロンをつけ、入り口を箒で掃いていた華南が俺を出迎えた。

「…そういうことだ。華南、悪いがしばらく指輪を渡しておいてくれ」
「はい」

 そう言うと華南は翠の指輪入れをエプロンのポケットから取り出してそのまま俺に差し出してきた。

「お預かりしていたものを還させて頂きます、マイマスター」
「たしかに」

 それだけ言って俺がマンションの中に入ろうとすると後ろから声がかかってきた。

「あら、今日は遊んでらしてくれないんですか?」
「あぁ、あと、二、三件回ったらな」
「お待ちしています」

 そんな言葉が聞こえるか聞こえないかの所でエレベーターのドアが閉まった。






「よ」
「あぁ、ようこそ」
「とりあえずこれが最後のチャンスになるかもしれないけど答えは出たか?」
「―――いや、まだだよ」

 そう夜鷹は言いながら俺に微笑んできた。

「大分、顔から険が取れてきたな」
「そうかな、まぁ、君ほど波乱万丈に満ちた生き方はしていないし、僕に在るのは二択だけだからかもしれないね」

 そう言うと、夜鷹は俺に指輪を差し出してきた。

「いいのか?」
「あぁ、君が還ってくれば再び悩んで、来なければ…そうだね、生まれ変わったアイツを探すことにするよ」

 …それが彼女の望みではないことは夜鷹もわかってる。
 だけどそれは俺がどうこういって解決することじゃないから何も言うつもりはなかった。

「それよりもカラス君はどうするんだい?」
「おれ?」
「あぁ、彼女達は君がいなければ僕のようになるかもれいないよ?」

 即答する。

「ならないね」
「君は…なんて意地っ張りな―――まさか…」

 それだけで夜鷹はオレが今日一日中何をしてきたか気付いたらしかった。

「俺を3日と見なければ俺に関する記録類を少しずつ削除し、記憶が曖昧になるように。
 3ヶ月、俺が姿を顕さなければ俺に関する記憶を改ざんするような時限爆弾のスイッチを入れてきた」
「…果たしてちゃんと忘れられるかな?」
「俺の力を信じてないのか?」
「…いや、信じているのさ、彼女達の想いを。
 最愛の人間が姿消したところで彼女達は君が死んだとは思わない。
 僕は目の前で果ててしまっても認められなかった」
「…それでもだ。
 指輪の力が具体的にどのようなものか知ればこそ信じられるんだよ」
「―――」

 具体的な指輪の力。
 それは魔術という名の力を使った究極のエネルギーコントロールに在る。

 たとえば人を生き返らせるという、フェニックスとビフロンスの指輪の使用手順はこうなる。
 まずビフロンスの力を使い、人の魂魄。それを構成している幽子を集合、結合させ、魂魄の再構成する。
 これに呼応してフェニックスの甦生は世界に散らばっているありとあらゆる元素を収集し、魂魄に呼応したヒトゲノム通りに甦らせ、ビフロンスの創り上げた魂を定着させる。
 これが人を甦らせる方法―――どちらかというと魔術ではなく、魔法と呼ばれる神の領域の作業だ。

 そして、ダンタリオンの精神操作。
 これは対象の内に走暗性の量子状の糸を展開し、脳内物質の分泌を制御する神経接続をし、それらを掌握できるようにしたもの。
 そしてその擬似神経たる糸を肉体に常駐させ、恒常化させることによって肉体に習慣づける。
 これが精神操作の正体。

 それが絶対だと俺は言い、夜鷹はこの支配にすら抗えると言ってのけた。
 たしか量子力学の学説で、ヒトは思念によって目には見えないレベルでモノを動かせる、というモノもある。
 その実、どうなのかは俺にはわからないし、知るつもりもない。
 
 ただ、その結果は数日後に現れるかもしれない。それだけで十分だった。

「…華南と夜鷹さん、あんた達二人はどこでもやっていけるだろうが―――とりあえずここをこれからも使えるようにしとく。俺が帰ってこなかった場合は自由にしてくれ」
「…あぁ、わかったよ」

 少し残念そうな含みを持った声を聞きながら俺は部屋を出た。






「みなぎ」
「ん?」
「ひかりは?一緒じゃないのか」
「ねぇ様がにぃ様と会ってきなさいって」
「…なるほどな」

 朝のあの件でみなぎに気を使ったか。

「にぃ様」
「ん?」
「ごほうび」

 あぁ、そういえばあと2つ残ってたな。

「…このタイミングでか?」
「ん」
「…イヤな予感しかしないな」
「ん、還って、きて」

 ……あぁ、やっぱりな。

「悪いな。約束はできない」
「でも、なんでもって…っ!」
「オレにできることならな。それはオレの範疇外だ」

 結果なんてどう転ぶかわからない。

「まぁ、オレも死にたくないしな。できる限りのことはするさ」

 千歳を泣かせておいてみなぎにはこう言うのもズルいな。
 自嘲しながらみなぎを抱きしめる。

「もし、万が一があったらみんなを頼む」
「ん、本妹…せっかも、みんなも、まもる」
「あぁ、さんきゅ」

 むしろ酷なお願いを俺からしている。
 みなぎも抱きしめる俺に顔を押し付けて体を震わせている。
 普段、無表情な妹を泣かせる。
 だから、俺はこれ以上泣かないよう、指輪の力を行使した。






「しろがね」
「ノックぐらいして」
「あぁ、悪い」

 しれっと言うと中を見回す。
 なんというか、普通の部屋だ。

「どうしたの?もう行くの?」
「いや、時間ができたんで会いに来た。入っていいか?」
「別にいいよ。入れば?」

 そう言ってそれまで座っていた椅子から立って脱ぎだそうとする。

「まて、まてまてまて」
「ん? わざわざ部屋に来たってことはしに来たんじゃないの?」
「どこの後宮だよ」
「だって今、下で準備させてるし」

 華南のことか。

「まぁ、な。だがここに来たのは話しに来ただけだ。

 シたけりゃあとで5Fに来いよ」

「さすがに初めては1対1でしたい」

 …どこまで見抜いているんだか。
 心を読んでもそれしか考えちゃいなかった。
 まぁ、あの魔女の知り合いってだけで怪しさ大爆発なので気にしない事にする。

「初めてだってのに気っ風よく脱ごうとすんのかよ」
「言ったでしょ。それだけの対価を貴方に求めてる。だから貴方の求める相応の対価でボクは応える」
「だったら教えろ。あの魔女は何を企んでる」
「さぁ?」
「うわー、役に立たねぇ」
「仕方ないよ。アレがどれだけ長生きしてると思ってるの」
「長生き?」
「そ、あの魔女の字である”厄災”は伊達じゃないよ」
「厄災?」
「銃を創った人間って知ってる?」
「いや、確か大陸のてつはうってのが起源だってのは授業で習ったが」

 結局、発明した国は隣国の英雄による大遠征の末、滅ぼされたけどな。

「っておい、まさか」
「銃祖。彼女はそう呼ばれてる」
「おい待て。それって何年前だと…」

 なにより、それは魔術や魔女術とは関係が…

「世界に彼女の改良した銃器が蔓延しきった時点で彼女はそれまでの名前は世界に奪われ秘匿された」
「………」

 中世から近代において貴族や騎士や武士階級が銃を持った平民に撃ち倒されたように、魔法使いや魔術師たちは銃によってその地位を奪われたものも数しれない。
 教会も同じ。
 そして同胞であるハズの魔女たちも同じ。彼女のせいで魔女狩りが起きたなんて説まで挙がるくらい恨まれてる」
「………」

 なんだろう、違和感を感じる。
 何時か、誰かが、やった、そんな責任を1人で背負わされた?違う。
 あぁ、そうか。
 誰もが何故、引き金を引いたのではなく、なぜ、銃があったのかを問うているからだ。
 そんなの宗教だろうと魔術だろうと何ら変わらない。
 すべてを負うべきは担い手だ。供給する側じゃ、ない。


 心が道具に負けたから、敗者の心が道具のせいにする。


「…あぁ、そうか。そう、だな」
「…なに?」
「…いや、礼を言う。 少し、ほんの少しだけ分かった気がする」
「そう?なんのことかわからないけど」
「それじゃあな」

 そう言って部屋から出ようとする。

「あれ?本当にして行かないの?」

 後ろで聞こえる声に背中を向けたまま答える。

「言ったろ、シたきゃ自分の意志で下まで来いよ」
「あっそ」

 興味無さそうな声がかけられ扉は閉まった。






「華南、いるかー?」
「あ、御主人様」

 どうされましたか?と聞いてくる。

「ん、用事が終わったから来てみたんだが…そっちはまだっポイな」

 あ。と呟いて冷や汗混じりにごまかそうとする。が、すぐに思い直して頭を下げてくる。

「すいません、こんなに早く御主人様の予定が空くと思っていなくて…」

 ついでに言うならここ最近、妨害や乱入が入ってお流れになるのがパターン化しつつあったので半ば諦めていたようだ。

「ん、問題ない。それじゃあ部屋にいるから用意ができたら呼んでくれ」
「…はいっ!」

 不安そうな顔を一転笑顔に変えて早足で管理人部屋を出ていく。
「さて、と」

 俺は嘆息すると目の前を見る。









 目の前のコタツの上には真鍮製の指輪が転がっていた。
 このまま力をいれて掌握する。
 先日手に入れた大鷲から得た分も含めて、これが最後だ。


「っと、と」

 蒼い世界に降り立つ。

「…久しぶり、というべきかしら。今更そんな事を言う間柄でもないと思うけど… 巧い言葉が見つからないわね」
「初めまして、でいいんじゃないか?」
「それもそうね…初めましてマイマスター。 アタシはアスタロス。72が内の29位」
「あぁ、初めまして、アスタロス。それに―――」

 次に狼顔の獣人と淡いオレンジの燐光を放つ鳥が片腕を曲げて会釈してくる。

「我が名はマルコシアス」
「ワタクシはフェニックス」

 それに―――

「ストラス、再び貴公に忠誠を」
「バルバドス、今更言うまでもない」

 そして、最期―――

「………っ」

 次々と従僕のしていた指輪が名乗りをあげた中、おっかなびっくりでアスタロスの後ろに隠れる魔王が一柱。
 消去法で行くとコイツは千歳のしていた―――?

「…こりゃなんの冗談だ?」
「冗談じゃないわよ、ほら、サレオス」
「…どう考えても小娘じゃねーか」

 オレが前に契約した魔神サレオスってのはどデカい甲冑を纏ったオッサンのハズなのだが。

「あぁ、鎧着てると性格変わるの」
「まさか…サレオスが非常時にしかやってこないのって…」
「普段は極度の人見知りなクセに鎧を着込めば安心して飲兵衛でだらしなくなるのよね」
「…で、中身はコレ、か」

 …なんつーか、詐欺だ。

「こんなのが中身だったとはねー…」

 千歳をマスターに選んだのもなんとなく頷ける。
 そんなことを考えながら千歳にするように頭を撫でようとする―――

「あ」

 アスタロスのその声に、悪寒を感じた。

 ぶぉんっ!

「うおぉっ!」

 サレオスが手を振り払うようにして出来た風圧で思わず仰け反る!
 なんだ今のは!
 そんな慌てふためく姿を見てアスタロスがニヤニヤしながら口を開いた。

「危なかったわね、たとえこの世界であってもこの子の一撃なら霊子体ごと粉々にされてたわよ」
「そう言うことは早く言えっての!」
 
 なんとなく分かってきた。このアーマーはサレオスの全身を護る為のモノじゃない、サレオスの力を制限し、動きを拘束する―――封神具だ。

「ご、ごめんなさい。あぶないよって、しようとしたの」
「いや、悪かったな」
「…これ、魔力を流すだけで誰でも力持ちになれるの」
「あぁ、アモンの時は世話になった。スゲーな」

 うん、スゴいの、といってそのままアスタロトの後ろに隠れる。

「よろしくな、サレオス」

 うん、よろしく、と照れて呟く。
 これで手持ちは全て面を通したことになる。

「―――で、一つ聞くが俺の手勢と向こう、どちらが強い?」
「こっち…って言いたいけど正直、向こうかもね。
 一度に使える指輪の数は限られるから数の優位性はあまり効かない」

 だとすると、質の問題。

「質、という点では向こうの方が王の数が多い。と言ってもわずかな差だけどね」
「そうか」
「でもまぁ…分かっているなら問題ないか」

 あぁ、分かってる。どんな力であれ、道具であれ、その真価は担い手によって発揮される。

「か、勝って」
「負けるつもりはないな」
「この子が言いたいのはそういうことじゃないわ。
 勝ってあの子達の元に戻してねって言ったの」
「―――気に入ってるのか?」
「だから貴方ともすんなり契約したんじゃない」

 さいで。

「では契約しよう―――この戦いの後、貴公らは元の担い手の元に戻れるように手配する」
「新たなる王よ、その意に謝意を、そしてその契約が為に尽力すると誓いましょう」


「………」

 静かにまぶたを上げる。
 馴れたものだ。最初の頃は気を失ってさえいたのに。

「っ」

 ただあの痛みだけは増している。


「さて、と」

 戦いは明後日、正午。
 華南の足音が聞こえる。準備ができたらしい。

 それじゃいくとするか―――

 
 


 

 

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