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第二章の11




「御主人さま、朝ですよ」
「あ、あぁ…」
 聞き馴れない声が俺の横でした。
 …誰だ?
 こらんとした頭がようやく回転しだすと状況を把握した。
 先にシャワーでも浴びたのだろう。ふわりと独特の整髪料の匂いがしてこの香りの持ち主が誰だか思い出す。

「―――待ってろ、いま戻す」
 そう言うと布団に包まった見慣れない裸の美女を見据え、指輪を起動する―――と見る間に目の前で表現するのも憚られる様な変形を伴って見慣れた美よぅ…少女に変身した。
 …今度、幻視能力を持っている指輪を持っていたら併用するようにしよう。小さいお友達と一部、大きなお友達の夢が壊れる。

「………」
 そう俺が独りごちていると千歳が黙って自分の体を見回していた。
「どうした?」 
「あ、いえ、ちょっともったいなかったかなぁって」
「―――…もし、サンドステージにあの姿で行きたいんだったら前もって言え、善処する」
「! は、はいっ!ぜひお願いします!」
「即答かい」

 そんなやりとりをしていると戸口の方からノックがあり、華南が入って来た。
「おはようございます、ご主人様」
「あぁ」
 申し訳なさそうに目を伏せて合わせようとしない。
 そのいつになく慇懃な様子に未だ昨日の醜態を恥じているのを垣間見た。
「華南、今はただオレが無事でいる。それが不満か?」
「い、いえ、そういう訳ではなくて…」
 どこか歯に物の挟まった物言い。
 俺のダンタリオンの指輪では絶対魔術防御をもつアスタロトの指輪を相手にこちらから干渉することは適わない。が、影を介して流れてくる思考は読み取れる。
「なら、次が在る。今回がダメでもその次が在る。
 …つーかオレは悪の組織のボスでも企業の幹部でもないんだ。一度や二度、失態を見せたところで捨てやしない。精進して尽くせ」
「…っ、はいっ」
 安堵の顔に涙を浮かべて返事をする。
 …まぁ、次があるとは言ったがピンチになるにしてもあんな分の悪い状況にはならないに限る。

「むー、御主人さま、私も頑張りますからねっ」
 置いてけぼりにされたと感じた千歳が自己主張してくる。
「…いや、オマエの魔神が出るような状況じゃマズいだろ」
 サレオスはピンチを通り越した絶体絶命にならないと現われないのだから。
 だが、そんな俺の切り返しに担任教師はぷぅっ、と頬を膨らませる。
 ったく、華南にしろ千歳にしろこれじゃどちらが年上かわからないな。

「さ、メシはもう出来てるのか?」
「はい、今日は腕によりをかけさせていただました」
「そりゃ楽しみだ。シャワーを浴びたらすぐに行く。ちとせも、先に食べ始めててくれ」
 後ろからお待ちしています。と返事が重なったが俺は取り合わずそのまま浴室に向かった。

 服を脱ぎ、改めて再生した腕を確認するとそのまま浴室に入り、シャワーのコックを回し、温度を少しぬるめに整えるとそのまま浴びだす―――

ズキンッ

「―――がっっ!?」

 っっっ!なんだ、今のはっ!
 何もしていないのにヴェパールの呪いにも匹敵する激痛が一瞬、俺の中を通過した!?
 何者かの攻撃か―――?
 警戒して周囲の気配を探る、が、どこにも怪しげな気配はない。

「………オロバス」
「ぷはぁっ、久しぶりさね、大将。おや、やけに色っぽいじゃないか」
 蹄を口元に当てて楽しげな口調で語りかけてくる騎馬公子。
「ここ一連の状況は認識出来ていたと思うが」
 後ろの言葉を聞かなかったことにしてそのまま問い質す。
「あぁ、あのサレオスが力を貸すとは大将の先生は大したモンさね」
「でだ、今、オレに激痛が走ったんだが。それに関連して心当たりはあるか?」
 最悪、ヴェパールの呪いがなんらかの形で残っている場合も考えられる。場合によっては一刻も早く契約をしなければならない。

「んー…、ここ一連に関して、は無いなぁ。あぁ、もちろん呪いが残ってるとかそういうのもないぜ? ただ…」
「ただ?」
「どっちかってーと大将の身体自体が変調してるのかもしれんね」
「…変調?」
「あぁ、指輪を使い続けることによって魔術回路が刺激され活性化している。
 もしくはヴェパールの姉ちゃんの呪いによる防衛本能が働いたかってトコだぁね。
 どちらにしろそれがちっと強すぎて長すぎたようさな。回路そのものが魔術師同様、表に出てきちまってる」
「それと何が関係がある」
「本来、ヒトにはない、ヒトがヒトの力以上の力を使うことに特化した神経回路だ。
 それを他の神経同様、恒常的に使用出来るほどに活性化させればどうなるかは…自明の理だろ?」
 …成る程な。体内に入り組み、敏感な触覚、というよりも触覚そのものを司る神経そのものを圧迫し、刺激を与えるようになってしまったというのならばこの痛みも頷ける。

 …そして、それ故に、その状況に適応する為にお前はその姿になったんだろう。
「指輪を使用するのを控えろって事か?」
「んにゃ、ニンゲンの魔術師として限界を突破したいならいざ知らず、大将のそれは身体が順応してないだけなのさ。
 さっきも言ったがオレっち達じゃあなく、魔術師に近付いている、ってトコさ。身体に馴染めば自然と収まるさね」
 なるほど、な。

「ところで大将」
「なんだ?」
「妹ちゃんや担任の先生ちゃんなんだが戦力にはしないのかい?
 フェニックスやサレオスだけなら戦力にはならないが他の指環を持たせれば―――」
「必要ない」
 オロバスの言葉を遮る。あの二人はいわばイレギュラーだ。
「せっかは貴重な回復系だが前線に出すつもりもない。後方支援はしてもらうがな。
 戦いに対して覚悟をもてれば別だがあの二人じゃ無理だろ」
 そうかい、そう言ってオロバスは嘆息するとそのまま姿を消した。

 だが、こうなってしまった以上、全員をガードするのは不可能だ。
 一般人から狙われるなら佐乃一人で十分どうにかなる。だが、指輪を持っていれば指輪使いからも狙われれる。こうなった以上、常に相手や味方の位置を把握するレーダー的な、それもそれ専門のスタッフを造る必要性が出てくる。

 雪花は貴重な回復手段の持ち主、戦場には出さずフェニックスのみを使わせた方が良い、ストラスを預けている千鳥は魔力を持っているようだがアイツとあの家には借りがある。というかこの二人には情報処理をこなせるだけの感性、というより生々しい現実を直視出来るだけの神経か、が備わっていない。

 簡単に言えばそこまで汚れていない。

 千歳も同様な上に教師である以上、俺達と活動時間にズレが生じる。
 残る候補者はくいな、みなぎ、そして―――ひかり。
 あの3人の誰かが適性を持っていなければ俺が索敵係になるしかないが、あいにく俺は攻勢専門。でなければ現状を打破するのは厳しい。最悪、適性のある人間を探して―――
 そんなことを考えながら鏡に映った自分の色違いの髪を横目で見てそこで一旦、思考を打ち切る。
 これ以上、考えた所で仕方ない。あとは出たとこ勝負だ。

 浴室から出るとバスタオルを纏い大窓から外を見渡す。
「………」
 再び見られたこの世界だが、特に感慨も沸いてこない。
 実感が湧かないのか、それともそもそもこの程度の生への価値観なのか。
 いや…まだ、戦いの中にいるのだ。そこまで感情が弛緩していないだけか。

 口を歪ませる。
 ならばいい。意識があり、手足が動く。となればすべきはただ一つ―――この狂った戦いを迅速に終結させる。
 その先に何があるのかは分からない。だから今はそれだけを遂行する―――



10分後。

「みんなーきいてきいてー、明日、サンドステージのオープニングセレモニーがあるのは知ってる?」
 食卓に座った一同、一瞬だまって千歳に注目した。
「………まぁ、その程度は」
「うん、でもああいうのって招待状ないとダメなんだよね?」

 手の届かないテレビの中のことを話すように言う面々を見て千歳がにんまりと得意そうな顔になる。
「んふふー、人数分の招待状がここにあります!」
 じゃーんと言って取り出す。…俺が貰ったんだけどな。

 一瞬、視線が一斉に千歳の手元のチケットに集まり、沈黙が場を支配した。
「え…?せんせい、じゃあ…」
「ということで明日、みんなで行きたいと思います!」
 わぁっ、とただでさえやかましい食卓がけたたましくなる。

「あっ、先生、わたし今日、ちょっと急用が…」
 白々しい声でそう言ったのはくいなだった。大方、明日用の服でも調達するつもりなのだろう。
 今さら間に合うのかという疑問も在ったが、それを皮切りに他の面子もくいなに続こうとする。
「うん。いいよー。ウチのクラスは今日、お休みにしてあるし、他の子は担任の先生に相談してみて。
あ、あと、入る時は男女ペアの格好で入らなきゃいけないからペアを決めてタキシードを着る人は華南さんにあらかじめ申し出てねー。
 先生は一応、学校に常駐してるから」
 パートナーが決まっている安心感からか、のんきな声がリビングに響く。

 それを知らない他の一同の獲物を狙う熱視線がぎんっ、と一斉にこちらに向く。
 そこで俺は疲れたように手を振って口を開く。
「…今回は千歳とだ」
 不満の声が上がる前に理由を述べた方が良さそうだ。
「今回の一件で千歳に世話になったし、そもそもチケットを持っているのは千歳だ。行きたきゃおとなしく従え。
 つーかエントランス通るだけで会場入っちまえば関係ないだろ。いちいち反応すんな」

 すると今度は女心が分かってねーよコイツ的な視線が一斉に向けられる。指輪を使わなくても分かるって、超スゲー。

 この場に唯一、味方になってくれそうな夜鷹がいない以上、とっとと撤退した方がそさそうだ。
「あー…まぁ、そういうことだ。
 あ、あと、くいな、これが終わったらオレの書斎に来い」
「えっ?あっ!はいっ」
 時間が時間だが―――これからの空き時間、伽の相手に選ばれたと思ったくいなが元気よく返事をしてくる。
 なんか他の連中からも非難の視線が向けられたが…ま、いちいち訂正するのも疲れた。
 俺は嘆息するとそのまま自分の部屋へは戻らず、書斎部屋へ向かった。


「ご主人様、よろしいでしょうか―――ご主人様?
 っ! ご主人さまっ!?」
 ノックが鳴らされ、いつもの要領でくいな…ではなく、華南が入ってくると大きな声を上げた。
 無理もない。俺が机に力無く突っ伏していたからだ。
「んんっ、あぁ…華南か。どうした?」
「ご主人様…っ、大丈夫なんですか!?」
「あぁ、魔神達と契約していただけだ。それも今、ちょうど終わった。で、用件は?」

「あ、はい。ご主人様の洗濯物と、あと今日のご予定は…」
「これからくいなに指輪を渡すこと以外、まだ決めてない…が、何か面白いことでもあるのか?」
「あ、はい。今日、昼過ぎに先日の親子と下見に2、3組来客があるんですが…」
 あわよくば自分も、というワケか。
「あぁ、わかった。昼からの予定は空けておく。その前にちょっと外を歩いてくる」
「あ…お供します」
「いや、一人でいい。ここしばらくオレのことで仕事を滞らせただろうからな」
「そ…そうですか、そういうことでしたら…」

 思い当たる節があったのだろう、やんわりと拒絶するとおとなしく引き下がる。そんな中、
「ご主人様っ、くいなですっ」
 元気な声がドアの向こうから響いてくる。
「入れ」
 その声と共に、では私は失礼致します、と華南が扉を開け、そのまま入って来たくいなとすれ違って出て行く。

「えへへー」
 心なしか目尻が下がっている。
 だけどな、華南に話した通り、悪いがそんな色気のある話じゃあないんだ。
「くいな、それをつけてみろ」
「へ?」
 部屋の入り口と対面式のように設置された俺の机の上には小箱に納められた、2環の指輪があった。
「これって―――」
 思わず息を呑む。

「オマエの推測通りだ。オレの力の源でもある指輪だよ」
「あ、あの…っ、いいんですか?」
 おそるおそる聞いてくる。おそらく予め処方しておいた指環に対する抵抗感が働いているのだろう。
[漆黒の王の命令](ブラック=オーダー)オレから与えられるモノに関しては構わない、付けてみろ」
「…! はいっ」
 そう言うと嬉々として2環の指環に左手の人差し指と薬指に指を通す。
「えへへっ、ご主人様、これ似合ぃ―――」
 そう言って糸が切れたように倒れたくいなを抱き抱えるとそのまま簡易ベッド代わりのソファに寝かせる。

「…どうやらコイツにも適性が在ったらしいな」
 くいなの顔にかかった前髪を払いながら口にした。
「―――ヒドいねぇ、大将。なんの前説明も無しに付けさせるなんて」
「コイツの場合、これくらいのサプライズじゃないと驚かねーからな。オマエにも聞いたがバシンは安全なんだろ?」
 方便なのは俺もオロバスも知っている。ていのいい人体実験のなにものでもない。
 その証拠にコイツに適性がなければ次はみなぎに指輪を渡すつもりでいた。

「まぁ、その2柱なら問題もないと思うがね…」
 そう言うオロバスの幻影の視線の先、くいなの指先にはNo.08バルバドスとNo.62ヴォラクの指環が嵌っていた。
 2環ともこの契約のために俺との契約を解約した。
「まぁ、バルバドスとヴォラクなら問題もないだろ」
 オロバスは口端を上げて同調するように笑いかけてきた。

「だぁね、あの2柱なら問題ないだろうさ。にしてももったいないねぇ」
「なにがだ?」
「バルバドスの旦那を渡すならレラィエの指環も渡しゃ良かったのに」
 No.14射手の侯爵レラィエ、ついさっき奏出から入手した指輪に含まれていた。
 あぁ、確かにあの外見は―――」
 2柱とも自身の身長より馬鹿デカい弓矢を所持していた。
 横文字にするとアーチャーって感じだ。
 それ以上は言わない。沈黙って美徳だと思う。
「そういやレラィエもバルバドスと一緒に使えって言ってたな。
 確かに2柱とも似ていたが…なんかいい事でもあるのか?」
 そもそも魔王達の外見は自由に変えることが出来るのであまり当てにはならない、が、彼らは真面目な意味で自分たちのイメージを大事にしているのでたいてい文献などに記されている外見で出てくる。

「レラィエの能力はなんだか聞いたかい?」
「いや、向こうが色々めんどくさがって何も言ってないな。代償無しで契約すると言われてお仕舞いだった」
「………どんだけー…
 うん、アイツがそんなら俺っちが説明しても問題ない、か。
 大将、レラィエの能力は敵の射傷操作。つまりは、だ。あのヴェパールの姉さんと似たようなモンだと思ってくれていい。
 ま、こっちは絶命まではさせないが癒したり治癒を停止させたり出来る。
 だから大将と同じようにあの嬢ちゃんがあの2柱の武器を召喚するなり、なにかしらの飛び道具を扱えるようになれば1大戦力になるぜ」

「そうつぁ…」
 確かにあれば心強い。だが―――
「んー、考えておくかってトコか」
「保留かい。珍しい、あの嬢ちゃんなら戦力にしてもいいんじゃないのかい?」
「あぁ、その点に関してはまったく問題ないんだが…」

 いかんせん、使い手があのくいなだ。
 ギャルゲフラグビルダーならまだしもコイツの場合、どっちかというとサスペンスフラグビルダー。しかも二者択一の選択肢に一個選択肢が増えてもそれもバッドエンド直通という結構難易度高い方向性のヤツ。
 最初に関西系の社長さんについていけば何も起こらないだろうに、それが出来ない。
 人間本来の好奇心が強いといってしまえばそれまでなんだが…
 ここだけのハナシ、アイツだけはいつも別れるたびに見るのが最後になる気がしてならない。

「なんでぇ、なんだかんだいってかわいいんじゃないかい」
「ま、一番最初の従僕だからな。なんだかんだいって使い勝手いいし」
 確かに、くいなに戦力を与えれば迎撃用の1戦力になるだろう。
 だが、それは同時に過信につながる。自制できりゃいいんだが。
「いまいち危機管理方面で安心できないんだよなー…
そだな、もう少し大人になってからかな」
「わはは、なんでぇ大将、まるでオカンじゃねぇか」
「うっせ。っと…」
 そろそろ時間だ。

 とりあえず万が一に備えて自分の方もいくつか指輪を嵌めておく。
 そして、残りは普段使っていない指輪と同様に自分で用意したアタッシュケースに入れてそのまま仕舞い込む。

「ん、うんん…」
「ほら、気分はどうだ?」
 そう言ってコップに入った水を渡しながら聞いてみる。
 手が触れた際に思考が入って来た。一応、問題はないらしい、が少し思考にノイズが入っている。魔術抵抗が上がったか。

「うー…、ご主人様、イジワルですよぅ」
 拗ねたような視線でこちらを見上げてくる。
「首尾は?」
 くいなが眼をニッと細めて指先をこちらにかざす。
(久しいな、元・主人)
 狩人の姿で現れた魔人、コイツこそ俺が魔女から入手した6環が内1環、72柱が8位、力天使の公爵・バルバドスだった。

 やたら高圧的なのが鼻に付くが言うことは正論で年上の忠告じみている。正直、このタイプを相手にするのは面倒くさい。
「…あぁ、悪いな。ソイツの面倒を見てくれ」
(フン、そうだな、ポケットの中に入れられているよりもこちらの方がいい。
 それに今度の主人の方が面倒の見甲斐がありそうだ。…で、元・主人、レラィエを手に入れたな?)
「…その件についてはオロバスから聞いてる。レラィエも契約する際に言っていた。
 だが、モノには順序がある。もうしばらく待て」
(あぁ、一向に構わないが。出来ることなら違う主人になる前に引き合わせて欲しいものだな)
 にっと笑ってそのまま姿を消す。…暗に脅してきやがった。
 だが、正論による説得が成功した以上、しばらく問題はないだろう。

「くいな、[闇の王の命令](ダーク=オーダー)くれぐれも学園で人目につく形で身につけるな。最悪、殺される。
 それと、その2柱は比較的温厚で契約もし易い方だが悪魔だってことを絶対に忘れるな」
 ごくり、とくいなが息を飲む。
「言葉が通じるといって人間と同じように扱ったり、ましてや心に隙間を作ったりなんかしたらそこを付入られる。そしたらその先に待っているのは破滅だ。
 中には指輪を嵌めた途端、殺しにかかってくる魔王もいる。くれぐれも指輪と力の使い方には注意しろ。
 これを身に付けて強さはお前モノになるがあくまでその強さは魔王達に拠るモノだ。勘違いするな」
「…っ、はい」
 それを聞いて慌てて指輪を擦るようにして慄く。

「…でもっ、これでご主人様の近くに立てるんですよね…っ!?」
 えへへー、と怪しい笑いにふけっているくいなに釘をさす。
「言っておくが、その2柱は戦闘用じゃない、あくまでオマエの情報収集能力に探知能力を付加させて特化させる為のモノだ。
 くれぐれも戦おうだなんて思うな。学園で敵を発見した場合、オレか佐乃に伝えて全力で逃げろ」
「あ、はぃ…」
 自分も戦いたいのかくいなが不満そうな声を上げてくる。
 まぁ、格好良く戦いたい、というよりもそうすることで俺の気を引きたい、という感情の方が大きいらしい。まぁ、いい変化だ。

 だが、情報を知る事と分析する事は似て異なる。
 戦力をもつことと同様に情報を知る事によって生むのは過信、そして過信は身を滅ぼす。
 元から死亡フラグが立ちやすそうな立場にいるのだ。
 ので、ここは力を与える代わりに出来る限り自重させる為の餌をまく。

「あー…2環渡したのはオマエだけだ。その上、バルバドスは奪ったものじゃない、最初から俺が持っていた指輪だ。
 それじゃ不満か?」
「い、いえっ!そうなんだ… わたしだけ、しかもご主人様のなんだ…」
 今度は俯いてはにかむ。特別扱いされたことに幸せに包まれた感情が流れ込んでくる。
 …正直、むず痒い。

「あとは―――」
 指輪の使い方を教える。夜鷹の城でも使ったが探知系の指輪は縦に嵌めると段違いに精度が上がる。
 指輪使い同士は探知系の指輪を付けていなくても感知するのだ。探知系の指輪を使えば絶対的なステルス性のプロテクト―――即ち、存在透化や絶対防御さえされていなければ広い範囲でほぼ位置を特定できる。
「以上だ。あとは実際使って覚えろ…と言いたいがそういうワケにもいかないからな。少しレクチャーしてやる。散歩に行くぞ」
「散歩、ですか」
 デート、じゃない所に少し不満そうな声を上げる。
 俺は口端を釣り上げてダメ押しに言う。
「あぁ、散歩だ」



―――
―――――――――
――――――――――――――――――
「どうした?もうへばったのか?」
(そ、そういうワケじゃ…っ)
「じゃあ、早くしろ。時間がもったいないだろ」
(そ、そうはいってもぉっ、んんっ!)
 悶える。
 まぁ、無理もない。何故なら―――
(ご主人様っ、せめてお尻のコレっ、抜いてくださいぃ…っ!)
 くいなが辛そうにこっちに懇願してくる。

 上はボタンの付けていない大きめのシャツだけで下はローライズのショーツ、それに厚手のニーソックス姿で四つん這いになり、下着からはみ出た尻の割れ目からは根元が振動する尻尾を生やしていた。
 何をしているのかと問われれば、もちろん散歩だ。首輪に付いたリードは俺の手の内に在る。

(オシリっ、オシリだめェ…っ!感じすぎひゃうぅッ!)

 そう言ってよがりながら体をビクつかせる。
 シッポはくいなは俺とする際、よく自分をメス犬と連呼するので実際にやってみた。
 尻穴に入ったバイブの振動は最弱。が、俺とする際、くいなのアナルはどこよりも感じる性器になる。その証拠にここに来るまでにくいなのショーツは濡れていない面積のほうが少なくなっていた。

「あぁ、首輪を外さずにそれを抜いたらオマエにかけた術が解けるぞ。
 そしたら、その姿のまま街まで瞬間移動して置き去りにする。
 そうなったら、オマエ一人、見ず知らずの男共のなぐざみものにでもなるしかないなぁ?」

(っ! そ、そんなっ、ふあぁっ!)

 泣きそうな、だけど心なしか喜んでいるような声を上げる。

「ほら、どうした。自分の首輪のカギがまだ見つからないのか?
 ふん…そうだな。あんまり遅くても術を解くか」

(やっ、そんなのイヤですっ!)

 そう言われて四つん這いのくいなが地面を必死に見渡そうとする。
 俺の前ではあられもない格好を平気でするのにそれ以外の連中に対しては意外に貞操観が強い。

「あんな小さなモン、見渡したって見つからない。自分の中に在るスイッチをONにするイメージをして指輪を、魔神の力を起動させろ」

(はっはいっ!)

 くいなが意識を集中する…が、

「ふぅんっ、んくぅんっ!」

 俺の手の内に在るリモコンがくいなの尻尾に連動して尻穴を蹂躙していく。

「ほら、あした着て行く服の調達があるんだろ?早くしないと間に合わなくなるぞ」

 そう言いながらローターのリモコンをイタズラするように弱と中の間を移動させる。

「ふぅぅっ、んむくぅっ!ふぁあ…っ!」
 すっかり牝に目覚めた肢体は微妙な刺激にも耐えられず、立て続けに絶頂しそうになり、くいなも自分から腰を振ってしまう。

(ダメ…っ、気持ちいい…っ!
 でも…気持ちいいのにイケない…くうぅっ…んっ…!イキたい…ご主人様のおチンポ…欲しいぃ…っ!
 オマンコとケツマンコ…っ、いっぱい犯してほしいっ!掻きまわして欲しいのぉっ!)

 もどかしい感覚に頭がどうにかなりそうになる。
 いや、なっているのかもしれない。何かしなきゃいけない。発情した頭がその何か、を忘れてしまっている。
 今のわたしに出来ることといえば―――

「くうぅぅん…っ」
「おい、主人に尻を擦りつけるペットがどこにいる。
 湿ったパンティで擦り付けてきてズボンが濡れるだろう、止めてとっととカギを探せ」

(そうだ…鍵、カギを探さなくちゃ…)

「ひぁっ! おおぉぉぉぅんっ!」
「そんなはしたない声を上げていいのか?
 周囲にはオマエが犬に見えちゃいるが声はそのまま聞こえてんだぞ」
「ひぅっ、ひぅんんん… っっ!」

 犬のように聞こえなくもない同情を誘うような情けない声を上げる。

「―――こんにちは、烏さん。そちらのワンちゃんはペットですか?」

 声がかけられる。くいなもビクッとして声のした方を見る。
 そこには5Fの住人となった春名がダンボールを持って立っていた。
 すっ、とポケットの中のリモコンを操作してくいなのアナルから振動が取り除く。

「ふぁっ…!」
「あぁ、草壁さん。こんにちは、引越しの作業中ですか?」
「はい、先程からワンちゃんの声がしていたものですから覗いてみたんですが烏さんのワンちゃんだったんですね」

 そう、先程からの俺とくいなの会話はダンタリオンの指輪を通して行われている。
 他の人間にはくいなの声は犬が吠えているようにしか聞こえていない。
 とはいえ、これはダンタリオンの能力ではない。

「わんっ!わぅっ、わぅんっ!」

 散歩が始まる前、[漆黒の王の命令]によってくいな自身に犬が発するような声以外、出せなくした上で首輪を外すまで決してイケなくさせた。
 そして、.46のビフロンスの幻影能力で周囲に犬にしか見えないようにすれば現状の出来上がりだったりする。
 ちなみにアニマルゾンビとかバリィドドッグって素敵だよな、とか言ったら泣かれた。むぅ。
 
「かわいらしいワンちゃんですね。それに人前では鳴かないし、お利口そう」

 そう言って春名に合わせるようにマンションのエントランスまで入る。と、春名が近場のベンチにダンボールを置いてそのまま犬の幻影を纏ったくいなを覗き込んできた。
 俺と親しそうにする部外者を前にうなろうとするが事前に察してリードを引いて抑えつける。

「くぅんっ!」
「ここまで躾けるのは少々骨が折れましたけどね」
 そう言ってくいなにうすら笑いかけると叱られたのかと思ったのか、うぅっ、とくいなが涙目になる。
 ホント、骨が折れる。

「ほら、お座り」
「ゎんっ!」
「お手」
「わぅんっ!」
「ちんちん」
「っ!わふぅ…っ♪」
 恥ずかしがってこちらにワレメのスジに沿って濡れたショーツが露になるように仰向けになる。
 だが、そんな風に見えていない春名は微笑ましいものを見るかのように笑顔になる。

「あらあら、こんなに可愛いのに賢いワンちゃんですね」
「えぇ、ホント可愛いですよ」
「くぅんっ…♪」
 今度は可愛い、という部分に喜んでじゃれつくように俺にしなだれかかって俺の耳を中心に顔のいたる所をなめてくる。

 はっはっは、調子に乗るな。

「烏さんのこと大好きなんですね、こんなにシッポを振って」
「あぅんっ!」
 言われた言葉を肯定するように腰を振って顔を俺の股間に擦りついてくる。

 それを無視して俺はそのまま春名と会話を始める。
 内容は特に無い。
 今日は引越し費用がないので業者に頼まず、自分の車を使って軽いものを運んでいることや快癒傾向にある妹のこと、最近の研究、それに学園の春名が世話になった学園の教師達の様子等、なんの変哲のない内容だ。

 ただ、そんな会話のそばで若干一匹、落ち着きが無くなってくる。
 無理もない。
 初夏の陽気の中とはいえ、過ごし易さを演出するため、エントランスに敷き詰められた冷風がほぼハダカ同然の身体に当たって冷えてきたのだろう。
 ほぼ全体が湿ったショーツを履いていればなおさらだ。

「く…くぅぅん…っ(ご…ご主人さまぁ…っ)」
 くいなが情けない声を上げてくるがそれに気づかないフリをしてそのまま会話を続ける。
 顔の方もだんだんと落ち着きをなくして終いには半べそ状態になっている。
「くうぅ…ひぁんっ!!」
 更に情けない声を上げてすがりつこうとした瞬間に尻穴に入ったシッポのスイッチを最大にする!

(くぅっ!ひぁ!ひぁぁぁぁぁっ!らめぇっ!こへ、もれちゃうよぉ…っ!)

 頑張って口をつぐんで踏ん張ろうとするものの、体を支配する快楽が高鳴る動悸に応じて酸素を貪ろうとだらしなく、犬のように舌を垂らして口を開けてしまう。

「はぉあ…うぅっ…あん…んっ、あはぁっ…っ!おぉぉぉぉんっ!」

(ふぅっ!オシリッらめっ、クるっ!熱いのっ!おしっこ…オシッコ漏れちゃうっ!)

 ちょろっじょろろ…じょおぉぉぉっ

 絶頂寸前の快感から身体を大きく仰け反らせて失禁し、ぶるぶるっと奮えながら出される液体から独特のアンモニア臭が広がっていく。

「ふぅんっ!ふわあぁぁぁぁっっ!」

 黄色い液体をアスファルトに迸らせ、身体をビクつかせるとそのまま勢いの弱まった尿がワレメから太ももを伝うのも構わずにそのまま地面に突っ伏してしまう。

「あ…ワンちゃん、オシッコが…それに今、女の子の声が…って、きゃあぁっ!」
 
 春名が悲鳴を上げる。
 無理もない。何故なら―――

「なんで…えぇ? なんでワンちゃんが女の子に―――!?」
「!!!」
 それまで幻術で護られ、愉悦に浸っていたくいなの顔が紅潮し信じられないものを見るようにこちらを見てくる。

「ダメじゃないか。こんな所で粗相をしては、お仕置きが必要だろう?」
 俺が口端を上げて微笑みかける。

「あ…っ!」
 突然、与えられたお仕置きにぶるぶるっ、と体を震わせて被虐の喜びに顔がニヤけてしまう。

「からすさんっ…!」
 抗議するような視線を向けてくる。が、俺は気にかける素振りもなく口を開く。

「あぁ、[騒がないでじっくり見てください]」

 途端、春名が表情を変え、信じられないものを見るようにくいなを見た。
 俺と華南の言うことを聞く、という5、6Fの住人に仕掛けているのダンタリオンの魔術が効いている証拠だ。
「[同じ女としてどう思いますか?]」
「信じられません…こんな場所でこんな格好で…下着を履いたままオシッコまでして…不潔ですっ」

 眉をひそめて答える。
 感情自体に何の操作も加えていないのでこの反応は至極当然といえる。
 だが、同性からの嫌悪の視線もくいなを昂ぶらせるためのファクターにしかならない。

(ふあぁ…っ、見られてる…見られながらオシッコして止まらない…っ、止まらなくて気持ちイイ…オシッコ気持ちイイよぅ…っ!)
 くいなが恥ずかしそうに目を瞑って放尿を終わらせようとするがなかなか終わらない、というよりこみ上げてくる快感に抗えず、終わらせられない。
「こんなことして…私、烏さんのこと見損ないました…」

「[それは勘違いです。ここではこんなこともごく当たり前のことなんですよ]」
「―――…そう、そうなんですか。すいません、私てっきり…」
 今度は春名が顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしてくる。
「いえ、構わないですよ。こちらに来る方は一度は戸惑ってしまいますから。
[それではもう一度見ていただけますか?]」
 今度はだいぶ許容したように微笑ましいものを見るかのようにくいなを見る。
「こんないやらしい格好でオシッコして…ヘンタイさんですね」

「ふぁぁぁぁぁっっ…っ」
 ヘンタイ、といわれたくいなが再びビクンッと体を振るわせる。
「オマンコが見えるくらいショーツをオシッコで濡らして…おっぱい…乳首もここからでも分かるくらい硬くして…そんなに気持ちいいんですか?」

 こくん!こくん!言葉のしゃべれないくいなが恥ずかしそうに首を縦に振る。
 そろそろ尿意も下がってきたのか次第に弱くなり、止まると荒い息でそのまま尿の水溜りに足が付くのもかかわらず、前のめりに倒れる。

 さて、と。ここまできたら春名の役割ももう終わりだ。
「あぁ、そうだ。草壁さん[そろそろ、しなければならないことがある]のでは?」
「あ、そうでした。それじゃ、荷物運ばなければならないのでこれで失礼しますね」
「えぇ、それでは、なにかあったらお手伝いしますんで気軽に声をかけてください」
 ありがとうございます。
 そう言って春名が段ボールを抱えてマンションに入って行く。

 再び俺たちだけになったエントランスでくいなに語りかける。

「ふぅ…堪え性がないな。そこかしこで排泄をするようなペット、躾が必要だな」
「わぅんぅ…っ!」

 待ってましたとばかりに甘えた声で鳴いてくる。
 絶頂の余韻を残した声で甘ったるい声を出してこちらにしっぽの生えた淫部を突き出してくる。

 まったく…これじゃ仕置きにもならない。
 股間から漏れる愛液と尿で秘唇がヒクついているのが透けて見える。
「………」
 だが、俺は動かない。ただ、ため息をついて目で語る。
 勘違いするな。鍵はどこだ、と。

「わぅ…っ!?んぁぁぁああああっ!」

 それまで犬になっていたくいなが人間らしい声で苦悶の声で喘ぎ出す。
 なんの事はない。バイブのリモコンを最大値まで上げただけだ。

「ぁふぁっ!ふぉぁぁぁあっ!」

(ひあぁぁぁっ!くるっくるくるくるっ!くるのにイケないぃ…っ!!!
 だめコレェっ!こんなのっこんなのつづいたらくるぅっちゃうぅぅっ!!!)

 無機質な物体に感度が最高に上げられたアナルをかき回され、絶頂寸前で蹂躙される感覚に慄く。
 だが、俺に責められる事によってそれと相反する感覚が前の淫裂からぷしゅっと透明な液体がパンティに出来たしみを拡げ、股間部から溢れ、太ももを伝いだす。

「ほら、早くしろ。このまま狂っても治さないぞ」
 その言葉を最大限のヒントにしてくいなは舌を出して涎をたらしながらなんとか俺に触れて答えを提示する。
「………分かってたならとっとと言えっての」
 ………そう言うと俺は袖口から硬質の金属片を出して尻尾のスイッチを小にする。
 そう、鍵は投げたフリをしてそのまま袖口に潜ませていただけだった。

 くいなもかなり早い段階、おそらく春名と会話している段階で気づいていたのだろう。
 俺とのコミュニケーションを楽しんで、我慢できなくなったのか、それとも俺の機嫌を損なったと見たのか答えてきた。
「……あとはその応用だ。少なくともほかの指輪使いの位置だけは把握できるようにしておけ。
 ハナが効くようになれば上々だ。それと―――」
 そこで区切ってから。

「いや、ご褒美だ。前と後ろ、どちらがいい?」
 不安げにこちらを見上げていたくいながそう言った途端、目を輝かせる。
 少し考えて前のめりに両手足を折ってこちらに甘えた声で
(ご主人さまっ、サカったメス犬に種付けをぉっ、ご主人様おチンポお願いしますぅっっ♪)
「了解」
 俺は微笑してそのまま発情したメス奴隷に覆いかぶさると同時に暗示の解除キーである首輪を外す!

「はっ、はぁぁっ…っ!あぁうっ、ひぃああああぁぁぁっっ!」
(んぅぅっ!あっ、ああぁぁ!?いっ、イクっ、イクイク、…イっちゃいますぅぅっ…っ!!!)

 挿れた途端、既に熱く出来上がったくいなの膣がびくびくびくっ、と締め上げてくる!

「なんだ、挿れられただけでイったのか」

(だって…っ、ご主人様を独り占めするのって久しぶりだから…っ!)
 久しぶりも何も関係をもってまだ一ヶ月もたっていないのだが。
 まぁ、実際、くいなと一対一というのも数えるほどしかない、そのおかげか―――
「っ!」
 くいなの求愛が本当に獣のように激しい。
 苦笑しながらくいなのペースに合わせるように腰の動きを早くする。
 それとともに―――

(はやっ…っはげしっ、激しすぎ…ッ!んっ!んうぅっ!しっぽ…っ、シッポきた…っ!)
「はぁっ、んっ……!あぁっ!くふぅっ!」

 アナルに挿し込まれた尻尾がくいなの尻穴を凌辱しだす。
 犬のように舌を出して 恍惚に身を奮わせたくいなが 涎を垂らしながら快感を享受する。

(ご主人さまっ!ご主人様チンポ好きっ!好き好きっ!大好きぃっ!)
「はぁっ、んっ……!あぁっ!くふぅっ!」

 既に人の言葉がしゃべれるにも相変わらず、犬が鳴くような声しか聞こえない。
 だが、偽りない求愛が俺の中に浸透していき、それがこちらの快感を呼び込む。

じゅぼっ、ちゅぶっ、ぐちゅぅっ、ぬちゅんっ!

(くるっ!きひゃうぅっ!!こんなせっくすっ、せっくすしたらぜったひにんしんしひゃうぅっ!)

「すっかり発情しやがって、ほら言え、オマエはオレの何なんだ?」

(ぺっとれひゅうっ!ご主人様のご主人様のモノで愛玩どーぶっっ、もっとあいしてっ、もてあそんでくださいぃっ!)

 俺のモノであるという幸福感から。自分の愛するモノに所有されるという絶対的な事実の前にくいながこれ以上ないくらいにくいなの被虐指向が絶頂を導いていく。
 立て続けの絶頂に淫肉が射精を促すようにシゴき上げられていく。

ちゅぱんっ、ちゅぶっ、ぐにゅうぅっ!ぐちゅぅっ、ぬちゅんっ!

「そろそろイクぞっ、ほらどこに出してほしぃっ!?」
(なかぁっ、膣中に出してくださいぃっ!メス犬の絶頂オマンコにどろどろのザーメンで種付けしてくださいぃっ!!)

びゅ―――っ!びゅるっ!びゅくっびゅくんっ!びゅくんっ!

(はぁ…っ♪んっ、精子があふれちゃう…っ♪て…ッ!ひうぅっ!ふぁっ!?ああああああっ!?)
 くいなが驚嘆する。

ぬちっ…ちゅぬぅっ…びゅるっ!ぬりゅう…ちゅぱんっ、ちゅぶっ、ぐにゅうぅっ!びゅるびゅるびゅる!

「うっ、ううぉっ、あっ、くふううぅぁ〜〜〜っ!きゃふぅっ!やぁっ!らめぇえっ!これぇ、イキ過ぎひゃうぅぅぅッ!」

 無理もない。俺はくいなに射精している自分のチンポをそのままくいなの膣奥―――子宮口に打ち付けているからだ。

「ひぅっ、くあぁっ!くふっ!はぁっ、んっ……!あぁっ!くふぅっ!」

(出しながら突かれて…っ!? はぁあっ!気持ちいいっ!気持ちイイッ!!きもちいいぃっ!!!ひぁっ!イクのとまらにゃいぃぃっ!あああああっ!イキすぎちゃうぅっ!!)

 射精している肉棒のピストンに堪らずくいなの腰が逃げようとするがそれを許さず、腰を引き寄せるようにして子宮口に打ち付ける!

(んぁあああっ!種付けされるのきもちいぃぃっ!種付けチンポ気持ちいいいッ!うれしぃっ!うれしいけど壊れっ壊されちゃうぅっ!ひぅっ!
 一番奥にっ大事なところにっ!赤ちゃん創るところこじ開けて射精されちゃってる…っ!!
 ああああああぁぁっ!どろどろざーめん射精チンポっ、受精マンコ気持ちイすぎるぅぅッ!!)

「ほら、お望みどおり種付けしてやるっ!!」
 そう言ってくいなの尻尾を勢い良く抜き取る!
「ひっ!?あ、ふぁっ!ふぁっ!ひぃああああぁぁぁ〜〜〜っ!」

ビクンッ!ビクビクビクビクビクッビクンッ!!

 背筋を弓なりにそらしてそのまま糸が切れたように力尽きた―――




「はぁっ、ふぅ…っ、はぁ…っ、ご主人様すごすぎますぅ…っ」
 息も絶え絶えにくいなが熱い視線をこちらに向けてくる。
「いくら褒めてもアンコールは無しだ。あと、自分の粗相の後始末は自分でしておけよ」

 エントランスだってのに俺とくいなの淫液がそこら中に飛び散っていた。
「はいぃ…っ」
 腰が抜けて立てないのかくいなが前のめりのまま答えてくる。

 …まぁ、恐らく華南が掃除してしまうだろう。なんせここは華南のいる管理人室の目の前だ。
 華南がこなかったのは5,6階の準備で忙しかったのか、それとも自重したのか定かではないけどこの状態を放置しておくほど華南は仕事に疎くない。

「ほら、とっととおきろ。仮にもここはマンションのエントランスだぞ」
「すぐには…っ、無理ですよぅ。あんなの反則です…あんなびゅーって出されながらオマンコ突かれたら誰だってこうなっちゃいますよぅ…っ」

 反芻するかのように身体をぶるっと奮わせる。するとくいなの淫裂からどろり、と白濁液が垂れおちる。
「ご主人様…っ、また今度もしてくださいますか?」
「気が向けばな」
「あんなの忘れられませんっ♪あ、でも…」
「…でも?」
「犬ってぇ、数十分も射精し続けるそうですよ?」
「…却下だ」
 死ぬっつーの。
「それは残念ですねぇ。きっとそれだけシてもらえたら絶対孕んじゃえるのに」
 むふーと唇に指を当て、目を細めながらエロい格好でこちらを見る。
 
「…孕んでどーするつもりだ。
 それに意外だな。子供とか嫌いなんじゃないのか?」
「嫌いです」
 断言しやがった。
「でも、ご主人様との子供だったら愛せると思います。たぶん」
「…そういった内容で希望的観測でモノを語るな」
 …というか、今、コイツの言った嫌いです、には紛れもない憎悪が篭っていた。
 トラウマ…に近い何かがあるっポイな。
 まぁ、いちいちコイツの全部を管理するつもりもないし、背負うつもりもない。
「ま、子供が欲しいんだったら卒業してからだ」
 確かまだ手にしてはいないが妊娠を司る能力を待つ魔神の指輪もある。と、この前オロバスがいっていた気がする。
 それまでに出来たら、まぁ…なんとか誤魔化すか。

「分かりました。それまではメス奴隷状態なんですねっ!?」
 …なにも、わかってない。
「ね!?じゃねーよ。なんだそのあからさまな俺が悪者宣言は」
 …あきれた。本気であきれた。
「だって…これだけされたらもうご主人様が好きすぎて他の事なんて考えられませんよぅっ」
 ガラにもなく頬を手に当てて悩ましげにこちらを見てくる。

「はぁ… まぁ、いいや。これから予定あるんだろ?」
「はい、外行きのドレスはあるんですけど小物をちょっと…」
 あからさまに同行して欲しそうに見上げてくる。
「ばかたれ、前にも言ったろ。自分の立場をわきまえろ」
 はぁい、と気の抜けた返事が返ってくる。前まではいちいち反応していたんだが…最近は他の連中も含めてきりがないので放置している。
「よかったらご主人様も一緒に…っ」
 珍しく顔を赤くしてアピールしてくるが俺はすげなく背を向け手を振った。

 くいなの誘いは断ったが実の所、特に予定が埋まっているというわけでもない。
 とりあえず、昼以降に5、6階に下見に来るというのでそれまではヒマなのだが…
 なんか指輪取り合ってないとヤりあってばっかだよなー…
 そこまで好色だというつもりはないんだが…
 そんなことをエントランスから出たのは失敗だったかもしれない。日差しが強すぎて思わず閉口した。

 …暑すぎる。この分ならセミが鳴き出すのももう間もなくだろう。
 そう思いながら再びマンションに入ろうと振り返った際、目の端になにか見慣れたものが写った気がして目を向ける。

 見るとマンション前にある小さな公園で大きな麦藁帽子をかぶった雪花が少年と遊んでいた。
 ちなみに少年、といっても俺たちと同じくらいじゃない。小学校低学年といった所か。

「せっか」
「あ、お兄ちゃん」
 雪花が気付いて手を振ってくる。
 近づくと、雪花の向かい側の少年がこちらに挨拶してくる。
「こんにちは、お兄ちゃん」
「ん、どうかしたのか?見慣れねーが」
 昼から来る見学者の連れ子だろうか。そう思っていると少年が口を開いた。
「あ、そうだ!んとね、ボク、佐乃おねーちゃんにお使いできたの」
「佐乃?佐乃の知り合いか?」
「うん!」
「名前は?」
「りゅーや!」
「分かった。今、佐乃を連れてくる」
「あ、お兄ちゃん、私、この子と遊んでてあげるね」
「あぁ」
 そう言うと俺はマンションに向かっていった。

 19F、雪花の階層に間借りしている佐乃の部屋に行く。
 本来、佐乃は12Fを自分の住居にしているのだが、日中は雪花の護衛もかねて和室に改装したこの部屋に詰めていることが多い。

「佐乃」
 そう言って佐乃の部屋のドアを開けるとそこには畳に正座し、こちらを向いて三つ指をついた佐乃がいた。
「お館さま、どうされましたか」
 足音で俺だと察したのだろう、それまで向かっていたと思われるテーブルには自習していた様子が伺えた。うん、こういうトコ妹に見習わせたい。

「オマエに使いが着てるぞ。こんくらいのガキなんだが」
 言われて佐乃が眉をしかめる。
「これくらいの…男の子、ですか?女の子ですか?」
「男の子だな」
「ちょっと身に覚えがありません…して名前は?」
「たしか…りゅうや、だったっけっかな。今、せっかが下で遊んでやってる」

「………っ!!」

 一瞬の間が空く。と、次の瞬間、佐乃が目を大きく見開き、壁にかけられていた日本刀のような物を手にとって入り口―――こちらに向かって駆けて来る!
「お、おい―――っ!?」
 俺が避けるように出口のスペースを空けるとそこをすり抜け、非常用階段をひとっ飛びに駆け降りだす!
「お館さま!ひめっ、姫が危険です!」
「…っ!どういうことだ!?」

「アイツは…柳也は某のもと、許婚です…っ!」

「―――!」
 そんなの初耳だ。
「10年前に破談になっていましたが…あやつが指輪を手に入れたとなると危険すぎる!」
「あんな小さいガキが―――?」
 10歳にも満ちていなかったように思えたが―――
「それは恐らくまやかしです!」
 ! あの姿は変身した姿だったってかっ!
 同じ能力なら俺も今朝、使用している!

「セェレ、せっかをここに!」
(マスター!できないよぅ!誰かが邪魔してあの子の近くまで行けないよぅ!)
 No.70 願いの貴公子セェレが鳴きそうな声を上げてくる。
 ジャミング!? 誰か―――!? っ!アイツ、間違いなく指輪使いだっ!
「ちっ、佐乃!オレの手を掴めっ!跳ぶぞっ。セェレ!」
 佐乃の手が触れるが早いか今度は自分の領土の最前線―――城の入り口、エントランスに転移する。
 そこから全力で走る。
 佐乃が俺の腰の半分にも満たない高さまで腰を落とし、疾走する!

 すると間もなくさっきと同じように飯事をしている雪花と幼児の姿をした指輪使いが―――!
「離れて下さいっ、姫ぇっ!」
「え、え?―――!?」
 いきなり、緊迫した声で言われ、困惑する雪花。

 次の瞬間、幼児の手が光ったかと思うと次の瞬間には肥満体―――醜男になり雪花を抱え込む!
「きゃあぁっ!?」
「柳也ぁっ!姫を離せぇっ!」
「ダメだよ、佐乃たんが約束を破ったのが悪いんだ。代わりにこの子を僕のお嫁さんにするよ」
 ぞっとするような下卑た笑みを浮かべてこれまたぞっとするようなことを言い出す。

 変化したのは精神年齢相応の姿になっていたかということか―――
「ふざけたことをぬかすなぁっ!」
 その言葉に佐乃がさらに激高し、手に持った得物で鞘ごと雁屋に切りかかる。
 が―――
「そんなの効かないよぅっ、ハルファス!」
 雁屋と雪花の姿が霞みだす。これは過去の戦いで何度も見ている。
 瞬間移動―――!

「おにいちゃんっ!」
「せっかぁっ!」
 延ばされた手にこちらの手を伸ばす。
「おにいちゃん!さのちゃ―――っ」
 だが、手はそれまでせっかの手の在った場所で空をきる。

 が、そんなことで俺は諦めない。
「セェレ!せっかをここへ!」
「ごめんなさい、マスター、さっきと同じ…あの子のいる所、ボク入れない…ハルファスが入れてくれないよぅっ!」
「ちっ、結界か…っ」
 いかな願いの貴公子とはいえ、同じ力で阻まれた進入禁止の場所には入れない。

(ハルファス、か。やべぇぜ、大将。ヤツは戦争の準備を司る38位。
 契約者に力を貸すのも闘った跡の惨状を愉しみたいが故という筋金入りの戦争狂だ。
 ヤツめ、戦争を起こす為だったら瞬間移動だろうが城塞を用意することだろうがなんだってやるぜ)
 いつもより緊張感の在るオロバスの念話が事態は深刻だと俺に告げてくる。

「…セェレ、その結界の前まで俺達を連れて行くことは可能か?」
「それならお易い御用だよっ!」
 言い終わるが早いか瞬く間に見たこともない建物の前に出現した。
 見た限りでは異常性は感じられない。どこにでもあるごく普通のマンションだ。
 周囲を見回して周辺位置を確認すると共に目撃者がいないか確認する間にも佐乃からあの男の話を聞くことにする。

「……佐乃、アイツは、雁屋ってのはどんな奴なんだ?」
「一言で言えば危険、です。
 某との婚約が解消されたのも夢と現の見境がつかなくなった為とも言われています」
「あの年になって夢見がちとは救いようがねえな」
「なんでも大神隠しで難を逃れたそうなんですがそれ以降、ああなってしまったと…」
「!」
 一瞬、同情がよぎる。が、それも束の間、俺のモノに手を出さなければの話。
 こうなった以上は敵と認識する。
 何よりアイツは俺達にとってかけがえのないモノを奪っていった。

「オロバス。状況をどう見る。時間稼ぎはできるのか?」
(ヤツが絡んでいる以上、どう見積もっても数時間…場合によってはそれ以下かもしれんけど、ヤバい事になりそうさな)
「時間を稼ぐ事はできるってワケか?」
(あぁ、妹ちゃんがフェニックスの魅了と浄化の炎を使えれば相手も警戒する。
 が、剣士ちゃんの言う通り、奴さんが現実との見境がつかない場合、ハルファスの力で異界化した部屋の中に放り込まれた場合、妹ちゃんが精神をどれだけ保てるのかと言えば保証できねぇ)
「………っ、このまま攻城するしかないってことか」
(大将、セェレに管理人ちゃん達を連れて来てもらうことはできないのかい?)
「―――それだ」
 焦ってそんなことも見失っていた。すかさず俺は携帯を取り出した。
「あぁ、華南か?悪いが昼からの予定はキャンセルだ。雪花が攫われた。
 一刻を争う短期決戦になるんで夜鷹と共に準備をして城の外に3分以内に出てくれ。あぁ、そうだったな、あぁ、分かった。よろしく頼む」

 華南への電話を切ると同時に携帯が鳴る。くいなからだ。
「くいなか?」
『ご主人様っ!今マンションの近くで指輪の反応が消えて…っ!アレってご主人様じゃ…っ!?』
 それまでは身内だとでも思っていたのだろう。
「あぁ、せっかが攫われた」
『ご主人様、私も今からそちらにっ!』
「ダメだ。オマエは城に戻って子細を…いや、今一人か?」
『あ、はい』
 なら都合がいい。俺はセェレに意志を伝えると次の瞬間、携帯を手にしたくいなが俺の前に現れ―――
「きゃんっ!」
 尻餅をついた。
「もう…っ、痕になったらセキニン―――……なんて言ってる場合じゃなさそうですね」
 軽口を叩いたくいなが瞬時に雰囲気を察して普段は見せない真剣な表情に変わる。
 そして、少しするとくいなの背後に大人が二人―――華南と夜鷹が対を成し屹立して現れていた。
 一息つく。これで戦力は揃った。

「おそらくここは南方の人形マンションだ。くいな、分かる範囲で良い。簡潔に情報をくれ」
「あ―――はい、分かりました!」
 いつも遠くから見えるテーマパークの中央城が海岸線と平行した位置に陣取っている事からここは南方に違いないだろう。
 少し慌てた風な声を上げて一呼吸空けるとくいなは語り出した。


南方の人形マンション

「昔、人形だけが友達の少女がいました。
 早い内から両親を失った少女は他者からのぬくもりを親からの愛情ではなく、友情を求めることにしました」
 だが、友達はいない、作り方がわからない。
「だから、彼女は意を決して親の遺産を使ってマンションを作り、自分と友達になれれば格安の家賃にする。という触れこみで住人を募集しました」
 そして、もくろみは大成功。友達で自分の家はいっぱいになりました。

 …ここで終われば多少の違和感は残るものの、ハッピーエンドでいいのだろう。

 だが、物語は急転直下する。
「最初はいっぱいだった住人たちの姿が少しずつ少なくなっていきます。
 引っ越したとかじゃないんです。ただ、外出していく数が少なくなっていきました」
 上の階から少しずつ、少しずつ静かになっていく。
「だけど、ほとんどの住人は自分の階層より上の階に行こうだなんてしません」
 エレベーターで間違えて下の階を押してしまって見ることはあっても、エレベーターに乗っていて上の階を見る事はない。上の階のボタンを押してしまってもその前に自分の階層で降りてしまえば済むからだ。

 だが、それは内部の人間に限る。そして、それで終わればこの物語は秘密に終わりを告げた。
 上方の階に住む住人の友人の女性が訪ねてきた。
 女性はごく普通にエントランスで友人に会いに来たと管理人に告げ、上の階層にたどり着く。
 何か違和感があるものの、人はちゃんといる。エントランスでは談笑をする人たちがいたから違和感も気のせいだと思いました。
 部屋にたどり着くとオーナーを名乗る少女が部屋を開けてきた。
 ここの入居条件は以前から聞いていたので特に疑問も持たずに部屋に入るとそこには友人が少女と対面式でお茶を飲んでいたのだろう、湯気の立つティーカップがテーブルに置かれていた。
 逆光でよく見えないけど友人に客人の出迎えを任せちゃダメでしょう、とたしなめようと近づいた途端、女性は固まった。

 いや、固まっていたのは友人だった。
 まばたき一つしないアクリル製の眼球、自慢の髪の毛は本物そっくりのウィッグに。

 なぜか、ゆびは かんせつが むきだしに なっていた。

 そして、その指には彼女がしていた婚約指輪が―――!
 これは何の冗談か、いや…ちがう。
 女性は今ここに至ってようやく違和感を思い出した。
 この階に入ってからというもの、動く人影を見ていない―――!
 談笑する人影、屈んで何かを探しているかのようなひとかげ

 かれらはまったくうごいていなかった。

 唯一、影ではなく、自分が見たヒトは 戸口をふさぐように立ち、言葉の出せないこちらをじっ、と覗き込んでいた。
 そして、手にはなにかを削りだしたのか 赤から茶に錆びついた彫刻刀を もって いた。
 にぃ、と半月状に口を開いた少女がにこやかに告げる。

「ようこそ、あたらしい おともだち」

「…結局、『友達が人形だけ、の少女』だったってワケ、か」
 どこかで聞いたことのある話だがそれ以上は言わない。沈黙って美徳だ。

 何よりそん気分じゃない。大神隠しによって友人にできる子供の数は激減した。
 それだけならまだいい。再発を恐れた親たちはこう思った。

 子供を家の中に閉じ込めておけ。そうすれば安心だ。

 かくして少女のお友達は人形だけになった。

「………」
「結局、この綻びが綻びを生んでどっと人が押しよせたり、下の階まで人形化した際、空き巣が入ってバレたとかオチが付くんです」

 そして、少女の凶行が明るみになり、警察が少女の部屋にたどり着くとそこには全室を盗撮と盗聴ができるようにした電子装置と人形を造る為に紅く染まった作業部屋があった。

「他にも人形が意思を持って少女に襲い掛かり、少女も人形になった。とか。今でも隠し通路と隠し部屋を造らせていた少女はこの建物の中に潜んでいるとか、派生系はいくらでもあります」

 …今回の首謀者はもう分かっている。ハズだ。


雁屋 柳也。

 かつて大神隠しから難を逃れ、心の平静を失った少年。
 だが、最後のくいなの説明が俺の心に引っかかる。
 隠し通路と隠し部屋。そして明確に語られていない少女の末路。
 …考えるな。やることは変わらない。雪花を取り戻す。それだけだ。

 こちらが思考している一方で華南と夜鷹が佐乃から事情を説明され、くいなからここの都市伝説を説明されながらも俺の前で臨戦体制に入っていく。

「ご主人様、準備が整いました」
「行くぞ」
 オレは一緒に来た配下達に号をかけるとロビーの中に入った。

「……これは―――」
 何か違和感に駆られる造りのロビーはなにか必要な物がない気がした。
 いや、ないのだ。
 高層マンションに必要な―――エレベーターがない?
 確か外見では俺の城と同じくらい―――20階近くあったはず。

ばたんっ

 突然、出入り口が勢いよく閉まる!
「!―――」
 閉じ込められた―――!?
(ようこそ、指環使い。ボクのお城へ)
 どこからともなく愉快そうな声が聞こえてくる。
(各階に一つだけ上階への階段のある部屋がある。見事、ボクのいる最上階まで来れるかな?)
「ふざけたマネを…とっとと妹を返せ」
(ん?最上階では妹たんとボクの結婚式の準備中だよ、お義兄ちゃん)
「お館さま―――」
「…行くしかねェだろ」

 俺は憤りを押し殺して1階の通路に出ると101と書かれた部屋の前に立つ。
「お館さま、お下がりください。中には何が在るか分かりません」
 そう言って佐乃がオレの前に出て扉を開けるとそこには―――

「―――…?」
 中にはごく普通の住居があった。
 入るとそこには当たり前だが住人が、いた。

「な、なんだ!君たちは!」
「オマエ…雁屋の仲間じゃないのか?」
「カリヤ―――?何を言っているんだ。警察を呼ぶぞ警察を!」
 男は恐れを含んだ眼で白昼堂々、入ってきた俺達を侵入者扱いしている。
 影を踏み、心を読んでもウソはついていなかった。
 そんな中、再び部屋に例の声が流れてきた。

(あぁ、そうそう。
 言い忘れていたけど実はこのマンション、ちゃんと住人が住んでいるんだ。今は僕のお城だけど、少し前までは別の女の人のだったから)
 にも関わらず噂だけで済んでいたのはこの場の変化を意識させないような場にしたからか。
 精神操作系か―――いや、噂になっていることからそこまで強いものではないだろう。
 おそらく、この建物自体が暗示効果のある設計になっているに違いない。

「ち」
 俺は舌打ちすると部屋を出ようとし、いつの間にか閉まったドアに手をかけるが―――
「な―――開かない!?」
(それはそうだよ。間違えたら罰ゲーム。これ常識)
 狂気を含んだ子供らしい声に思わずぞっとする。

「なっ!うわあぁぁぁぁっっ!!」
 突然、俺達を睨んでいた男が頭を抱えて悶え出す。
「お館さま!」
 佐乃が俺の前に立つ。

(さぁ、罰ゲーム開始だ。ボクのお人形さんと戦いなよォッ!!)
 狂喜に染まった雁屋の声が響くと同時に悶える男の身体には獣毛がひどい勢いで身に着いて、いや、生えていく―――!?
「うっうわおオォォォォッ!」
「―――!」
 男の声の後半は既にヒトのものではなく、百獣の王、ライオンのモノになっていた。
 そして知性を感じさせないその目が俺を捉えたかと思った次の瞬間には俺に飛び掛ってくる!
 だが―――
「はぁっ!」
 佐乃がとっさに俺を庇い、刃を振るう。
「―――!」
 驚愕に目を見開く。
 目の前の相手がライオンに変わったことに、ではない。
 佐乃の刃が―――銀色の輝きを放っている?
 間違いない。佐乃が持っているのは真剣―――ならば結果は必然、ライオンを斬り殺す。
「ヒギャアオゥッ!」
 断末魔をあげるとライオンはフローリングの床に倒れる。

そして   人間の姿に    戻った。

 一人の生きた人間ではなく―――一つの斬殺死体として。
(あーあ、殺しちゃった。佐乃たん、ヒトゴロシ―――!)
「………え?」
 佐乃が目の前で起きたことを把握できずに………いや、違う!
 今、思い返す。

 たしか、佐乃がヒトを殺したのはこれが―――

「うっ、あっ!? ああぁぁぁぁぁぁっ!」
 突然、佐乃が絶叫する!
「わたっ、わたしっ、ひと、ひとをっころっ!ころしてっ…っ」
 そうだ。雁屋、アイツの狙い、それは―――
(佐乃たんは強すぎるからね。戦力になってもらっちゃ困るんだ)
 やっぱり―――

 雁屋の狙い、それは佐乃の無力化。

 佐乃は普段、冷静そうにし、俺の為にならなんでも妥当すると言っているがただの剣豪少女でしかない。
 しかも、俺の命を奪いに来たあの時には殺傷を当然とする2柱の魔神がいた上に殺すには至らなかった。
 だが、今の佐乃は俺に絶対的な忠節を誓い、俺や雪花の為に剣を振るうと言ってはいるがその感性と常識は限りなく普通の人間に近い。
 つまり、今の佐乃は―――
「うっううっううう…うえぇぇぇぇ……」
 胃の中のものを全て吐き出し、さらに膝をついたまま嗚咽を吐き出している。

 ―――あまりにも脆い―――!

 佐乃の震えは止まらない。
 このままじゃ雪花の前に佐乃が壊れる。
 俺はすかさず付けていたNo.68 ベリアルの指輪を起動する。

「佐乃―――」
 俺に掴みかかられ、とっさに暴れようとする佐乃に口付けをする。
 佐乃はそれでも動ける範囲で暴れるのを止めずに俺の舌を噛み切る。が、返って都合がいい。
 俺は口付けをやめずにそのままの体制で佐乃の指に指環を嵌めた。

 ―――そう、ダンタリオンの指環を。

 ダンタリオンとの契約は一切絶っていない。この状態で行うのは仮契約。
 ベリアルの指輪の使用条件は自分の血液を使用対象に付着させることであり―――その作用を強くさせるには対象に摂取させる必要がある。
(ちぃっ! 勝手に俺が教えてねぇスキルを使ってんじゃねぇっ!)
 自分の内に焦ったような怒声が上がる。
 黙れ!オマエがこの能力を言っていなかった様にオマエは自分の言った以外の能力を使うなとは言っていないっ!

 そう、契約時にベリアルはその虚偽と詐術の貴公子の名の示す通り、数多ある自身の能力の内、使えない能力の一つしか提示せず、全力で応援しようなどとフザけたことをぬかしていた。
 だが、俺は図書館で読んだ翻訳によってコイツは様々な攻撃能力を有していることを知っていた。

 そして、それ以上にコイツはダンタリオンと並んである希少能力を有していた。
 それが、地位代替能力。
 要は肩書を書き換えるこの能力、この能力を使用する事で魔王との正式な契約を行うことなく、限定された能力を使う事が出切る様になる。
 即ち、オロバスの能力の上位互換。

 今回の場合、限定解除―――使用できる能力は読心にまでとどめてある。
 瞬く間にオレの思考が佐乃の内に染み渡ると佐乃は目を見開き、途端に暴れるのをやめた。
 そして、落ち着くのを確認すると俺は佐乃の指から指環を抜き、自分の指に嵌め直した。
「落ち着いたか?」
 確認するように聞くと佐乃は頷いた。
 嗚咽はまだ止まっていない。が、さっきまでの状態に比べればはるかにマシだ。

「お館さま…今のは―――」
「オレの指輪の力だ。触れた相手の思考を読む事ができる。
 今回はお前の欲しがっていた答えを、ヒトを殺した時の心構えを一時的にお前に与えた。
 いいか?今のはあくまでオレの考えだ。お前は自分の答えを自分で見つけ出せ」

 俺が佐乃に与えたのはなにかを殺すことと心に傷を負うことに対する俺の考え。
 要は生の本質とヒトというケモノの生き方を諭しただけの話。
 ただそれを佐乃に伝えた。
 言葉で伝えるよりもこちらの方が誤解を招かれずに教えられる。

 これだけは間違って伝わるのがイヤだったので今の方法を使用した。
 ダンタリオンの指輪の力で思考を変えるという手もあったがこういったことは自分で答えを出させなければ意味がない領域の話。

 人はみな己の強さに見合った在り方の答えを出さねばならない。
 この場合も佐乃独自の答えを出さなければ、この場を乗り切れたとしてもいずれは自身の強さを支え切れなくなり、破綻させてしまう。

 後はそう、俺の為に犯した罪は俺の罪であって自分には関わりはないと少しウソを混ぜ込んでおいた。
 もちろんそんなハズはない。
 俺が命じて罪を犯してもその罪は俺のモノになるわけじゃ、ない。
 確かに命じた俺にまず罪は生まれる。だが、その返り血は誰にふりかかるのかは明白だ。
 それでも、そんなウソでも今のオマエには必要だ、佐乃。

「あの、お館さま―――」
「なんだ?」
「お館様のお気持ちはうれしいのですがお館さまのための罪だとしてもそれは私の犯した罪です」
「―――…あぁ、そうだな」
 ……少々、見くびっていた。
 佐乃は自分が犯した行為を過ちと言わずにはっきりと罪、といった。
 即ち、自分の行為を正当化するわけでなく否定するわけでなく、肯定してみせた証。
 ち。
 俺は内心、舌打ちした。
 だから、賢い連中に答えは与えたくないんだ。

「…だいじょうぶ…うん、だいじょうぶ…いけます」
 自分に言い聞かせるようにしてからこちらを見る。

無理だ。

 そんな状態で誰が信じる。
 落ち着いたとはいえ、今日はあと一度くらいしか剣を振るうことはできないだろう。
 ある程度、精神を強化したところで即席のもの、芯とも言える根拠がないままでは剣を振るうたびに心が壊れていくのは目に見えている。
 だから明確な答えを佐乃自身が出すまでは前線に出すことは控えた方がいい。
 それがどれだけ先になるのかは不明、だが。

(なぁんだ、もう立ち直っちゃったの? それとも居直っちゃったのかな?この―――ヒトゴロシ)
「―――っっ!
 なんとでも言え。その張本人が何を言ったところでむなしいだけだ」
 奥歯を噛み締め、佐乃が言い返すと雁屋は興味を失ったかのようにつまらなさそげな声をあげた。
(あっそ。じゃあ、ガンバって。運良くボクの所まで来れるといいね)
 そう言うと声も気配もなくなった。

「あぁ、行ってやるさ、運じゃなく実力でな。
 華南、夜鷹、相手を殺さない程度に無力化できるか?」
 面倒くさい。が、この場合、佐乃に人の死を見せるのもなるべく避けなければならない。
「えぇ、できます、ご主人さま。というか、この靴ではそれが限界です」
 そう言って苦笑した華南が履いているのはいつものダイヤの靴ではなく赤いハイヒールだった。
「まぁ、腕の一本や二本は覚悟してもらうが、な」

「お館さま、私も―――
「ダメだ、お前は自分が剣を振るう意味じゃなく自分が人を殺してもためらわない理由を見つけ出すまで戦うな」
 そもそも、佐乃の使用に耐え得る木刀は先日の奏出戦で華南のダイヤの靴同様、粉々に砕け散っている。だからこそこんな事態に陥ったのだが。
「そんな―――! お館様!」
 とりあわない。こればかりは聞けない。

 夜鷹も華南も自分の為に他人を傷つけ、場合によっては殺すのも躊躇わないだけの理由をもって戦っている。
 夜鷹は死んだ恋人のために、華南は元来、自分を害する一切のものを否定する為に他人を排除する事を一切いとわない。
 そして俺は罪を犯すことそのものをためらわない。

 罪は重ね続けるものだから
 …そして、重ねてしまったものだから―――

 改めて考える。
 うろ覚えの外観から見積もった階層は約20。
 部屋はその階層毎に約20。約400戸分の部屋をしらみつぶしにする必要は、ない。
 館内がこうなっている以上、必要な部屋だけを、通れば、いい。

 俺はそれまで背後に控えていた最初の従者に声をかける。
「くいな、サーチはできるな?」
「えぇと…はい。さっきの散歩でコツは掴んだんでいけます!」
 少し考える素振りをして試してみたのだろう、言葉の後半は自信に満ちていた。

「行くぞ、お前ら、最短距離で突っ切る」
 めいめいに返事をして各自駆け出す。
 廊下に出ると真っ先にくいなが叫ぶ。
「この先10戸目!」
 すると、手を触れずに夜鷹がドアを開―――壊し、その開いた穴を佐乃、俺、くいな、華南の順に駆け抜ける。
 中に住人がいる。が、華南が住人が顔を出した瞬間、鳩尾に蹴りを飛ばしてなにがあったかを認識させないまま昏倒させる。

 そしてその奥―――室内に在るハズのない階段を見つけ駆け上って行く。
 上がると同時に目の前にあったドアを再び夜鷹が手も触れずに破壊する。
 そして2階の回廊に出ると同時にこの階層の走査を瞬時に終わらせたくいなが上へと繋がる部屋の位置を特定し、叫ぶと同時に全員が部屋に向かう。
 部屋に入った瞬間、人形マンションの真骨頂だろう、メスやカッターナイフを持ち、けたたましく笑う人形たちが出迎えている。
「!!」

どすっ!どすどすどすっ!

 生々しい音を立てながら人形たちが一斉に先頭にいた夜鷹を串刺しにする!
 かのように見えたが―――
「…ふぅ、危ないな」
 力ない言葉。だが、その言葉の数瞬後、人形全てが弾かれるように全て吹き飛び、粉砕されていく!
 空中で体勢を立て直そうというモノもいるものの、弾丸のような遠当てによって立て直すそばから布切れに変わり、綿が宙に舞っていく。

 息を呑む。
 夜鷹は指輪の能力を使用していない。
 強いてあげるとするなら指輪をすることによって強制的に発生する身体能力の強化と魔術に対する防御能力のみ。
 にも関わらずこれだけの戦闘能力を有していることそのものが驚異。

 この男が本気で指環使いとして戦いに赴いていたら結末はどうなるのか。
 この男が自分の技に指輪の能力を付加させたらどうなるのか。
 興味は尽きない。が、今はそれよりも優先すべきことがある。
 部屋に動くものがなくなったのを確認すると更に上へと目指す。

 その上の階でも同様のパターンで今度はチェーンソーを持った人形や獰猛な動物が襲ってきた。
 ―――が、その一切が夜鷹と華南によって阻まれる。
 息をつく、と―――
「お館様ッ!」
 ちょうど死角からなにかがこちらに向かってくる!
 佐乃がこちらを身を挺して助けようとするが視線でいらない、と告げる。
 そんなことをしている間にも―――

 どんっ!

 なにかが俺に突き刺さろうとした瞬間、磁石のように向かってきた方向に弾かれる。
 住人だったようだ。とりあえず失神するレベルのショックは与えたが生命に異常はない。
「フン…っ」
 そう言った俺の周囲をぱりぱり…っと電弧(アーク)が舞う。
 このようにして背後から襲ってくるものに対しても俺のNo.34 雷と稲妻の公爵フールフールの雷でなす術もなく活動を停止する。

 いける!この調子なら制限時間までに雪花を助けられる。そんな淡い希望のような確信が頭をよぎる。
 が、そんな希望は粉々に打ち砕かれる事になる。

10F。

 ようやくこれで半分、だが―――

「どういう、ことだ?」

 こんなモノがある以上、この先に階段があるのは明白。
 だが、こんなモノがある以上、この先には進めない。

 そう、俺達の目の前には部屋一杯の鉄で封鎖された部屋があった―――



 
 


 

 

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